説明

化学療法剤の経口製剤

本発明は、化学療法剤の新規な経口製剤、その製造方法及びその治療的使用に関し、さらに具体的には、本発明は、有効成分である少なくとも1種の化学療法剤と、少なくとも1種のポリマーと、前記化学療法剤と複合体を形成し得る少なくとも1種の環状オリゴ糖とを含む、治療のために経口投与されるナノ粒子に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な化学療法剤の経口製剤、その製造方法及びその治療的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、悪性挙動(浸潤及び転移)と関連する制御不能な細胞増殖によって特徴付けられる。癌は、大部分の先進国における主要な死亡原因である。癌の処置には、化学療法,放射線治療,外科手術,免疫療法,ホルモン療法等の様々な方法が使用されている。
【0003】
化学療法は、細胞毒性薬(「化学療法剤」とも呼ばれる)を使用した癌の治療と定義することができる。大部分の化学療法剤は、有糸分裂(細胞分裂)又はDNA合成を阻害する作用を有し、急速に分裂する細胞を効率的に標的とする。これらの薬剤は、細胞に対するダメージを引き起こすので、「細胞毒性」薬と呼ばれる。
【0004】
化学療法剤の送達は、通常、非経口投与、特に静脈内(i.v.)投与により行われる。カペシタビン,テガフール及びナベルビンは、経口投与される数少ない化学療法剤の例である。静脈内投与による化学療法は、投与薬物,処置される癌の種類等に応じて、様々な時間で達成され得る。例えば、化学療法の各課程において、患者への薬物は、
・数分にわたる静脈内注射,
・30分〜数時間程度にわたる点滴(静脈内注入),
・2日以上にわたる点滴又はポンプ注入,
・患者が数週間又は数ヶ月耐える必要のあるポンプ注入
等によって行われる。
【0005】
数週間又は数ヶ月にわたる化学療法は、「持続注入」と呼ばれる。また、PVI(protracted venous infusion)又は移動式注入(ambulant infusion)(この場合、患者はポンプを身につけて移動する必要がある)と呼ばれる場合もある。
【0006】
化学療法剤の処置が数時間しか行われない場合であっても、医師又は専門の看護師から適当な処置を受けるために、患者は、通常1日中病院に滞在しなければならない。処置が数時間よりも長い場合、患者の入院が必要となる場合もある。
【0007】
このように、化学療法剤の非経口投与には、幾つかの欠点及び問題点があり、それらには、患者の苦痛(例えば、注射針の痛み又は恐怖)等も含まれる。患者は自分で化学療法剤を投与することはできないので、薬物投与のために診療室に赴く必要があり、患者にとって明らかに不便である。
【0008】
したがって、化学療法剤の経口投与には、患者によって好ましい、便利である、病院に滞在する時間が減少する、医療従事者の細胞毒性曝露リスクが減少する等の幾つかの利点がある。
【0009】
WO99/43359には、少なくとも(i)1種のポリマー,(ii)1種の環状オリゴ糖,及び(iii)1種の有効成分を含むナノ粒子が開示されている。これらのナノ粒子によって薬物の持続放出(制御放出)が可能となること (Maincent P 等, "Preparation and in vivo studies of a new drug delivery system. Nanoparticles of alkylcyanoacrylate", Appl. Biochem. Biotechnol. 1984;10:263-5)、及び、これらのナノ粒子が生体接着特性、特に胃腸管における生体接着特性を有すること (Ponchel G 等, "Specific and non-specific bioadhesive particulate systems for oral delivery to the gastrointestinal tract", Adv Drug Deliv Rev. 1998 Dec 1;34(2-3):191-219) が報告されている。こうしたナノ粒子を、以下、「持続放出性ナノ粒子」(「SRN」)と呼ぶ。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、驚くべきことに、化学療法剤を含むSRNが経口投与に適していることを見出した(以下「本発明の経口製剤」という)。
【0011】
経口投与の幾つかの一般的な利点(例えば、患者によって好ましい、便利である、病院に滞在する時間が減少する、医療従事者の細胞毒性曝露リスクが減少する等)に加え、さらに特定の利点を見出すことができる。実際、本発明の経口製剤によって、化学療法剤の静脈内投与又は経口投与の制限を克服することが可能となる。
【0012】
化学療法は、非腫瘍細胞に対する細胞毒性ゆえ、患者を身体的に疲れさせる。静脈内投与又は経口投与による従来の化学療法処置は、化学療法剤に応じた様々な副作用を生じさせる。一般的な副作用としては、例えば、痛み,悪心,嘔吐,下痢,便秘,貧血,栄養不良,脱毛,記憶障害,免疫系の減退,それによる(致死的となり得る)感染症,敗血症,脱水症,目眩,血腫,口渇/口内乾燥,心理社会的苦難,体重減少又は増加,水貯留,出血,腎臓障害,二次腫瘍,心臓毒性,肝臓毒性,腎臓毒性,神経毒性,性交不能症,聴神経障害等が挙げられる。
【0013】
本発明者等は、驚くべきことに、本発明の経口製剤が化学療法剤の副作用を低減でき、これにより化学療法剤の忍容性を向上させることができることを見出した。
【0014】
さらに、経口投与による化学療法剤処置の開発は、そのバイオアベイラビリティが静脈内投与と比較して低いことで制限されている。バイオアベイラビリティは、全身性循環に至り、作用部位で利用可能な治療活性薬物の速度及び量の指標となる。本発明者等は、本発明の経口製剤が化学療法剤のバイオアベイラビリティを向上させることができることを見出した。
【0015】
本発明の経口製剤の利点に関し、幾つかの非限定的な例を以下に示す。
カンプトセシン(CPT)は、中国及びチベット原産の木である Camptotheca acuminata (Camptotheca, Happy tree) から単離される水溶性細胞毒性キノリンアルカロイドファミリーに属する。カンプトセシンは、DNA酵素であるトポイソメラーゼIを阻害する。トポイソメラーゼIは、ねじりひずみのある(torsionally strained)超らせん二本鎖DNAに非共有結合し、DNA分子中に一過性一本鎖切断(「クリーバブル複合体(cleavable complex)」と呼ばれる)を生じさせる核内酵素である。これによって、複製、転写、組換え及びその他のDNA機能発現時における無傷の(intact)相補DNA鎖の通過(passage)が可能となる。その後、酵素−架橋DNA切断(クリーバブル複合体としても知られている)は、トポイソメラーゼI酵素によって再封鎖(reseal)される。酵素の解離によって、無傷の新しい弛緩型(relaxed)DNA二重螺旋が回復する。
【0016】
CPTは、トポイソメラーゼI分子とDNAの遊離3'−リン酸エステルとの間のクリーバブル複合体を安定化する。生じる酵素−結合DNA切断は、細胞毒性を誘発する。これまで、CPTは、トポイソメラーゼI阻害剤であると言われてきた。しかしながら、古典的な酵素阻害剤ではなく、むしろトポイソメラーゼIの機能を直接変化させ、正常な内因性タンパク質を細胞毒に変換する。したがって、CPTの好ましい呼び名として、しばしば、トポイソメラーゼI毒という呼び名が用いられる (Bomgaars 等. (2001) Oncologist 6(6): 506-16)。
【0017】
CPTは、予備臨床試験で抗癌活性を示し、2つのCPTアナログである(i)イリノテカン(CPT−11)(UpJohn (now Pfizer) よりCampto 又は Camptosar として市販されている)及び(ii)トポテカン(Smith Kline and Beecham (現在 GSK) よりHymcamptamin, Hycamptin, 又は Thycantin として市販されている)が承認を受けて癌化学療法において使用されている (Ulukan 等, (2002) Drugs 62 (2): 2039-2057)。その他のCPTアナログとしては、例えば、ヘキサテカン(hexatecan),シラテカン(silatecan),ルトテカン(lutortecan),カレニテシン(BNP1350),ジャイマテカン(ST1481),ベロテカン(belotecan)(CKD602)又はそれらの薬学的に許容可能な塩が挙げられる。しかしながら、CPTアナログには、低溶解度及び副作用という重大な欠点が存在する。
【0018】
イリノテカン(「IRN」又は「CPT−11」又は「イリノテカン塩酸塩」)は、カンプトセシンの半合成アナログであり、主に転移性結腸直腸癌に適用される周知の抗癌化学療法剤である。また、肺癌,胃癌,膵臓癌,非ホジキンリンパ腫,子宮頸癌,頭頸部癌,脳腫瘍,卵巣癌等の治療に関しても研究されている。
【0019】
イリノテカンは、プロドラッグであり、肝臓、腸管,ある種の腫瘍等においてカルボキシルエステラーゼで変換されて活性代謝物SN−38(7−エチル10−ヒドロキシカンプトセシン)となる。SN−38は、イリノテカンの100倍〜1000倍以上の効能を有する。SN−38は、ウリジン二リン酸グルクロン酸転移酵素(UGT)によるグルクロン酸抱合で不活性化され、SN−38グルクロニドを形成する(SN−38G又は7−エチル−10−[3,4,5−トリヒドロキシ−ピラン−2−カルボン酸]カンプトセシン)(Kawato 等, 1991 Cancer Chemother Pharmacol 28(3): 192-8; Takasuna 等, Cancer Res (1996) 56(16): 3752-7; Slatter 等, 1997 Metab Dispos 25(10): 1157-64)。
【0020】
イリノテカンの欠点は、重度の下痢、強力な免疫系抑制等の重篤な副作用を有することである。イリノテカンが関連する下痢は臨床上の重要な問題であり、しばしば、入院又は集中治療が必要となる重篤な脱水症を引き起こす。イリノテカンが関連する免疫系抑制は、血中の白血球数、特に好中球数の劇的な減少を引き起こす。好中球が産生される場所である骨髄が補償的な産生を開始するものの、患者は、好中球減少症、すなわち血中好中球の臨床的減少に罹患する可能性がある。
【0021】
イリノテカンの効能は、用量依存的であることが知られており、スケジュール依存的であることも示されており、低用量の長期間の投与は、高用量の短期間の投与よりも効果が高く、毒性が低い (Houghton, P. J. 等, "Efficacy of Topoisomerase I Inhibitors Topotecan and Irinotecan administered at Low Dose Levels in Protracted Schedules to Mice Bearing Xenografts of Human Tumors" Cancer Chemother. Pharmacol. (1995), 36, 393-403; Thompson, J. 等, "Efficacy of Systemic Administration of Irinotecan Against Neuroblastoma Xenografts" Clin. Cancer Res. (1997), 3, 423-432; Furman WL 等, "Direct translation of a protracted irinotecan schedule from a xenograft model to a phase I trial in children" Journal of clinical oncology (1999), 17, 1815-1824)。
【0022】
長期曝露の効果的なアプローチは、経口経路の使用である。幾つかの一般的な経口投与の利点(例えば、患者によって好ましい、便利である、病院に滞在する時間が減少する、医療従事者の細胞毒性曝露リスクが減少する等)に加え、さらに特定の利点を見出すことができる。実際、経口投与後の総イリノテカンに対する総SN−38の代謝比率は、静脈内(i.v.)投与後のそれよりも高い (Gupta E 等, Pharmacokinetic and pharmacodynamic evaluation of the topoisomerase inhibitor irinotecan in cancer patients. J Clin Oncol 1997;15:1502-10)。
【0023】
したがって、バイオアベイラビリティが向上し、副作用が改善したカンプトセシン誘導体の経口製剤を開発する必要性が存在する。現在まで、遊離のカンプトセシン誘導体の経口投与及び経口IRN製剤の開発は、忍容性の欠如,重篤な下痢等のために制限されている。さらに、経口投与したイリノテカンのバイオアベイラビリティは、静脈内投与した場合のバイオアベイラビリティの約20%にすぎないことが報告されている。このように、イリノテカンには吸収性及び全身循環前の代謝という重大な問題があり、処置の選択肢として経口送達を利用可能にするためには、この問題を解決する必要がある。
【0024】
したがって、経口投与した場合に忍容可能であって生物学的に利用可能である、イリノテカンの新規な製剤を提供することが望まれる。
【0025】
本発明者等は、驚くべきことに、カンプトセシン誘導体を含有するSRN(「カンプトセシン−SRN」)が、カンプトセシン誘導体の経口投与に適することを見出した。また、本発明者等は、驚くべきことに、カンプトセシン−SRNを経口投与した場合、遊離カンプトセシンを静脈内又は経口投与した場合よりも良好な忍容性を示し、しかも抗腫瘍活性は失われないことを見出した。さらに、本発明者等は、カンプトセシン−SRNを経口投与した場合、遊離カンプトセシン溶液を静脈内又は経口投与した場合よりも、バイオアベイラビリティが増加することを見出した。このように、SRNは、カンプトセシン誘導体との関連において、例えば、特に限定されるわけではないが、イリノテカンとの関連において(イリノテカン−SRN)、非常に有利である。
【0026】
実際、作用機序は明らかではないが、カンプトセシン−SRNは、有効成分の経口投与及び持続放出を可能し、これにより有効成分のバイオアベイラビリティの向上及び有効成分の副作用の低減に寄与する。腸粘膜に対するSRNの生物学的接着によって、残留時間が増加し、有効成分の持続放出が強化される。
【0027】
さらに、胃腸管におけるイリノテカンの残留時間の向上により、イリノテカンの活性代謝物SN38への変換を増加させることができる。特に、IRN−SRNは、胃腸環境等におけるpH依存的な分解から有効成分を効率的に保護できることが見出された。その結果、ラクトン型のイリノテカンは、IRN及びSN38が腸内pH(pH5.5〜7)において不安定であるために経口投与時に通常生じる不活性型(カルボキシレート)への変換から保護される。
【0028】
ナノ粒子の濃縮が不十分であると、患者は大きすぎる容積のSRNの服用を強要されることになる。したがって、本発明の経口製剤を、患者への経口投与に適した容積に濃縮することが望ましい。
【0029】
本発明者等は、フリーズ・ドライとも呼ばれる凍結乾燥が、この難点を克服する処理であることを見出した。特に、本発明者等は、凍結乾燥処理に適する化学療法剤−SRNの製剤を見出した。凍結乾燥処理及び製剤は、本発明のさらなる目的である。それらは工業化に特に適するものである。
【0030】
ドキソルビシン(ヒドロキシダウノルビシンとしても知られる)は、癌の化学療法に使用される水溶性薬物である。それは、アントラサイクリン系抗生物質であり、天然物であるダウノマイシンと緊密に関係する。ドキソルビシンは、数種の白血病,ホジキンリンパ腫,並びに、膀胱癌,乳癌,胃癌,肺癌,卵巣癌,甲状腺癌,軟部組織肉腫,多発性骨髄腫及びその他の癌を治療するために、一般的に使用される。
【0031】
ドキソルビシンは、インターカレーション及び高分子生合成阻害によって、DNAと相互作用することが知られている。ドキソルビシンは、転写のためにDNAをほどく酵素であるトポイソメラーゼIIの過程を阻害する。ドキソルビシンは、複製のためのDNA鎖を破壊した後、トポイソメラーゼII複合体を安定化させ、DNAの二重螺旋が再封鎖(reseal)されるのを防止し、これにより複製工程を停止させる。
【0032】
ドキソルビシンの急性副作用には、悪心,嘔吐及び不整脈が含まれ得る。ドキソルビシンはまた、好中球減少症(白血球の減少)及び全頭性脱毛(抜け毛)を引き起こす。ドキソルビシンの累積投与量が550mg/m2に達すると、心臓に対する副作用(鬱血性心不全,拡張型心筋症,死等)の進行するリスクが劇的に増加する。ドキソルビシンの心臓毒性は、ミトコンドリアの酸化的リン酸化の用量依存的な減少によって特徴づけられる。ドキソルビシンが鉄と相互作用して生じる活性酸素種は、筋細胞(心臓細胞)にダメージを与え、筋線維の減少及び細胞質空胞変性を引き起こし得る。さらに、患者によっては、掌蹠の皮膚発疹,腫れ、痛み及び紅斑によって特徴づけられる掌蹠の紅斑異感覚症候群、すなわち「手足症候群」が進行する。ドキソルビシンはまた、B型肝炎の再燃を引き起こし得る。
【0033】
ドキソルビシンの患者への投与は、静脈内投与のみによって行われている。したがって、ドキソルビシンの経口製剤の必要性が存在する。ドキソルビシンの経口製剤は、胃腸管に対するドキソルビシンの毒性作用(壊死作用)によって制限される。さらに、ドキソルビシンの経口有効性が、胃腸管における全身循環前(pre-systemic)の失活によって制限されるため、バイオアベイラビリティが不十分なものとなる。実際、経口投与されたドキソルビシンのバイオアベイラビリティは、静脈内投与されたドキソルビシンのバイオアベイラビリティの約5%にすぎない。本発明者等は、驚くべきことに、本発明のドキソルビシンの経口製剤が良好な忍容性を示し、ドキソルビシンのバイオアベイラビリティが本発明の経口製剤によって向上することを見出した。
【0034】
パクリタキセル及びドセタキセルは、癌の化学療法に使用される疎水性の分裂抑制剤である。それらはいずれも、タキサンのカテゴリーに属する。パクリタキセルは、依然として、天然源からの単離によって産生されており、一方、ドセタキセルは、パクリタキセルの半合成アナログとして、10−デアセチルバッカチンから合成されている。パクリタキセルは、10位におけるアセチル化ヒドロキシル基及びフェニルプロピオネート側鎖におけるtert-ブチルのベンゾイル基での置換の点で、ドセタキセルと異なる。したがって、パクリタキセル及びドセタキセルは、非常に類似した化学構造及び物理化学的性質を有する。タキサンの作用機序は、それらのチューブリンのβサブユニットに対する結合能に基づき、微小管の脱重合を阻害し、これにより、分裂細胞にダメージを与える。この作用の特異性は、腫瘍学の分野において、様々な固形腫瘍、特に、卵巣癌,肺癌,乳癌,膀胱癌,頭頸部癌を治療するために広く使用されている。
【0035】
一般的な副作用には、悪心及び嘔吐,食欲減退,味覚変化,脱毛又は脆弱毛,2〜3日続く腕又は足の関節の痛み,爪の色の変化,手又は足指のうずきが含まれる。さらに、重大な副作用として、注射部位における異常に激しい又は出血を伴う痛み/発赤/腫れ,2日以上の排便習慣の変化,発熱,悪寒,咳,咽頭痛,嚥下障害,目眩,息切れ,極度の疲労感,皮膚発疹,顔面紅潮及び胸痛も生じ得る。これらの副作用のうちの多数が、賦形剤として使用されるポリオキシエチル化ヒマシ油 Cremophor EL と関連する。シクロスポリン,テニポシド及びポリオキシエチル化ヒマシ油含有薬物に対するアレルギーは、パクリタキセルに対する有害反応のリスク増加を引き起こす可能性がある。
【0036】
パクリタキセル及びドセタキセルが経口投与される場合、そのバイオアベイラビリティは低い。また、その水溶性の低さにより、タキサン溶液の経口での使用は不可能である。実際、水への分散性は、パクリタキセル、ドセタキセル等の疎水性薬物の経口剤形を調製する上で解決すべき主要な問題である。したがって、静脈内(i.v.)注射は、唯一の投与経路である。現在、静脈内投与される3種類の医薬組成物が市販されている。
【0037】
・タキソール(登録商標)(有効成分:パクリタキセル)では、ポリオキシエチル化ヒマシ油であるCREMOPHOR(登録商標)の能力に基づき、パクリタキセルが重量−重量(w/w)比87:1で溶解されている。それは、年代順で最初に市販されたタキサン製剤であり、腫瘍学の分野でのタキサンの使用を切り開いた。しかしながら、後に、CREMOPHOR(登録商標)は、タキソール(登録商標)注入間の過敏性反応の原因であることが分かったため、この反応の発生率及び重症度を最小化するために、ヒスタミンブロッカー及びグルココルチコイドの前投薬並びに持続注入スケジュールが標準的な処置法となった。
【0038】
・タキソテール(登録商標)は、40mg/mLのドセタキセル及び1040mg/mLのポリソルベート80(Tween80)から製剤化され、ポリソルベート80(Tween80)は、炭化水素セグメントに結合した非イオン性極性基を含む、低分子量の表面活性剤であって、その主成分は、ポリエチレングリコールと類似の構造を有するポリオキシエチレンソルビタンオレイン酸モノエステルである。これにより、水溶性が非常に高くなる。最初の臨床試験では、この製剤の静脈内投与により、中程度の掻痒症からアナフィラキシーショックまでの重篤のより高い又はより低い過敏性反応、並びに、体重増加を反映する有意な体液鬱滞,末梢浮腫及び場合によっては胸水及び心外膜液が生じることが観察された。過敏性反応の発生率は5%〜60%であり、これには、賦形剤として使用されるポリソルベート80、より具体的には、ポリソルベート80中に存在する酸化生成物及びオレイン酸が関与し、ヒスタミン放出を引き起こすことにより、これらの過敏性反応を生じることが知られている。そういうわけで、副作用を回避するために、通常、コルチコステロイド及び抗ヒスタミン剤の前投薬が必要となる。さらに、製剤のエタノール希釈が該製剤の投与前に必要となり、これは、処置される患者にとって明らかに不利となる。
【0039】
・第3の送達系であるアブラキサン(登録商標)は、重量比(w/w)9:1でヒト血清アルブミンによって安定化されたパクリタキセルのナノ粒子からなり、ナノ粒子の平均直径は130nmである。非イオン性界面活性剤が存在しないため、処置が簡便化されて、前投薬の必要性はなく、注入時間も短縮される。一方、100nmを超える粒径を有するその他の粒子と同様、アブラキサン(登録商標)ナノ粒子は細網内皮系の基質となるので、アブラキサン(登録商標)製剤は、タキソール(登録商標)よりも有効性が低い。その他、薬物送達ビヒクルとして、ドナー血液から単離されたヒト血清アルブミンが使用されるため、常に小さいが明らかなウイルス性疾患の感染リスクがあるという点で不利である。
【0040】
したがって、バイオアベイラビリティがより高く、毒性がより低く、さらに、忍容性がより高く、溶解性であるパクリタキセル又はドセタキセル製剤の必要性が存在する。
【0041】
本発明者等は、驚くべきことに、タキサンがタキサン−SRNとして製剤化されると、経口投与されたタキサンのバイオアベイラビリティが有意に向上することを見出した。
【0042】
本発明の経口製剤はまた、タキサンの溶解性を高めることが可能である。実際、SRNに含まれるシクロデキストリンは、有効成分と複合体形成可能である。国際公開WO/9943359に記載されるように、SRNは、有効成分が、たとえそれが疎水性、両親媒性及び/又は不溶性であっても、1種又は2種以上のポリマーと1種又は2種以上のシクロデキストリンとの結合によって生じたポリマー構造中へ浸透することを可能とし、この構造内への封入収率は、従来技術と比較して有意に増加したものである。この収率は、有効成分と複合体形成可能な化合物(シクロデキストリン)の使用によって生じる可溶化と、新しいポリマー構造に対する有効成分のアフィニティーとの間の平衡に関係すると思われ、これにより、治療的及び工業的レベルでの実質的な進展がもたらされる。すなわち、SRNは、親水性有効成分だけではなく、疎水性、両親媒性及び/又は不溶性有効成分をナノ粒子に担持させることを可能とする。
【0043】
さらに具体的には、驚くべき可溶化効果が、相乗作用を示す特定のシクロデキストリン混合物によって得られる。実際、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HP−βCD)とメチル化−β−シクロデキストリン(Me−βCD)との混合物;HP−βCDとγCDとの混合物;又はMe−βCDとγCDとの混合物が、タキサン等の有効成分の溶解度を有意に向上させることができる。
【0044】
本発明には、その一部として、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HP−βCD)とメチル化−β−シクロデキストリン(Me−βCD)との混合物;又はHP−βCDとγCDとの混合物;又はMe−βCDとγCDとの混合物を含有するタキサン製剤が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、処置マウスにおける腫瘍の変化を示す図であり、腫瘍の変化は、本発明の製剤での処置開始時に記録した腫瘍容積に対する相対腫瘍容積(RTVm)で表される。
【図2】図2は、処置マウスにおける同所性腫瘍容積の変化を示す図であり、腫瘍容積の変化は本発明の製剤を投与した後の2つの時点で評価した。
【図3】図3は、処置マウスにおける体重の変化を示す図であり、体重の変化は、本発明の製剤を投与し、各群の試験開始時に記録した体重に対する相対体重(RBWm)で表される。
【図4】図4は、処置マウスにおける腫瘍の変化を示す図であり、腫瘍の変化は、本発明の製剤での処理開始時に記録した腫瘍容積に対する相対腫瘍容積(RTVm)で表される。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明は、有効成分である少なくとも1種の化学療法剤と、少なくとも1種のポリマーと、前記化学療法剤と複合体を形成し得る少なくとも1種の環状オリゴ糖とを含む、前記化学療法剤の誘導体の治療的経口投与のためのナノ粒子に関する。
【0047】
本明細書において、化学療法剤を含むナノ粒子は「化学療法剤−SRN」と呼ばれる。
【0048】
本発明はまた、癌の治療及び/又は予防のための化学療法剤−SRN,化学療法剤−SRNの経口投与を含む癌の治療及び/又は予防に関する。
【0049】
好ましくは、ポリマーは、1〜12個の炭素原子を含む直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有するポリ(アルキルシアノアクリレート)から選択される。
【0050】
好ましくは、ポリマーは、ポリ(イソヘキシルシアノアクリレート)である。このポリマーは、Monorex(登録商標)(Bioalliance Pharma)の重合によって得ることができる。
【0051】
好ましくは、環状オリゴ糖は、シクロデキストリン、例えば、中性又は荷電シクロデキストリン,天然物(シクロデキストリンα,β,γ,δ,ε),分岐鎖状シクロデキストリン,重合化シクロデキストリン又は化学修飾シクロデキストリンである。好ましくは、化学修飾シクロデキストリンにおいて、1又は2以上のヒドロキシ基が、アルキル基,アリール基,アリールアルキル基又はグリコシド基で置換されているか、あるいは、アルコール又は脂肪酸でエーテル化又はエステル化されている。さらに好ましくは、シクロデキストリンは、特に限定されるわけではないが、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンすなわちHP−βCD(Roquetteから入手可能),ランダムにメチル化されたβ−シクロデキストリンすなわちRameb−CD(Cyclolabから入手可能),メチル化−β−シクロデキストリンすなわちMe−βCD,スルホブチルエーテル−β−シクロデキストリンすなわちCaptisol(Cydexから入手可能),又はγCDから選択され得る。
【0052】
本発明のナノ粒子は、当業界で一般的に使用される薬学的に許容可能な賦形剤をさらに含んでいてもよく、その具体例としては、界面活性剤,安定剤又は張力活性剤(tensioactive)、例えば、デキストラン、ポロキサマー又はその他の非イオン性界面活性剤(ポリソルベート,ソルビタンエステル等)が挙げられる。ポロキサマー188(pluronic F68とも呼ばれる)等のポロキサマーが好ましい。
【0053】
ナノ粒子のサイズは、一般的には、有効成分と複合体を形成し得る環状オリゴ糖の濃度、重合媒体のpH、攪拌速度等に依存する。ナノ粒子のサイズは、1μmよりも小さく、好ましくは20nm〜1000nmであり、さらに好ましくは50nm〜700nmである。
【0054】
特定の所望の効果に基づいて標準的な予備試験を実施し、ナノ粒子のサイズを調節することができる。
【0055】
本発明のナノ粒子は、好ましくは、下記重量%の成分を含む:
・化学療法剤 0.1〜30%;
・ポリマー 10〜85%;
・化学療法剤と複合体を形成し得る環状オリゴ糖 0.1〜70%。
【0056】
さらに、本発明のナノ粒子は、下記成分を含んでいてもよい:
・賦形剤(例えば1種又は2種以上のポロキサマー) 0〜60%;及び/又は
・1種又は2種以上の酸(例えばクエン酸) 0〜2%。
【0057】
本発明のナノ粒子は、好ましくは、下記成分を含む:
・イリノテカン、ドキソルビシン、パクリタキセル、ドセタキセル、エリプチシン又はそれらの薬学的に許容可能な塩から選択された、少なくとも1種の化学療法剤;
・ポリ(イソヘキシルシアノアクリレート);
・ポロキサマー188;及び
・ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン及び/又はランダムにメチル化されたβ−シクロデキストリン及び/又はメチル化−β−シクロデキストリン、及び/又はγ−シクロデキストリン。
【0058】
本発明において、化学療法剤は、(i)トポイソメラーゼ阻害剤、(ii)アントラサイクリン、(iii)紡錘体毒性植物アルカロイド、(iv)アルキル化剤、(v)代謝拮抗剤、又は(vi)その他の化学療法剤であり得る。
【0059】
(i)トポイソメラーゼ阻害剤
トポイソメラーゼは、DNAのトポロジーを維持するために必須の酵素である。I型又はII型トポイソメラーゼの阻害によって、正常のDNA超らせん形成を破壊され、DNAの転写及び複製の両方が阻害される。I型トポイソメラーゼ阻害剤には、カンプトセシン誘導体が含まれる。カンプトセシン誘導体には、カンプトセシンアナログ、例えば、イリノテカン,トポテカン,ヘキサテカン(hexatecan),シラテカン(silatecan),ルトテカン(lutortecan),カレニテシン(BNP1350),ジャイマテカン(ST1481),ベロテカン(belotecan)(CKD602),又はそれらの薬学的に許容可能な塩が含まれる。イリノテカン、その活性代謝物であるSN38及びトポテカンが好ましい。イリノテカンがさらに好ましい。
【0060】
II型トポイソメラーゼ阻害剤には、アムサクリン,エトポシド,エトポシドホスフェート,テニポシド等が含まれる。これらは、エピポドフィロトキシンや、American Mayapple (Podophyllum peltatum) の根に天然に存在するアルカロイドの半合成誘導体である。
【0061】
(ii)アントラサイクリン
アントラサイクリン(又はアントラサイクリン系抗生物質)は、ストレプトミセス細菌に由来する。これらの化合物は、白血病,リンパ腫,並びに乳癌,子宮癌,卵巣癌及び肺癌を含む広範な癌の治療に使用される。
【0062】
アントラサイクリンは、3種類の作用機序を有する:
・DNA/RNA鎖の塩基対間へのインターカレーションによってDNA及びRNA合成を阻害し、これにより、迅速に増殖する癌細胞の複製を防止する。
・トポイソメラーゼII酵素を阻害してスーパーコイル状DNAの緩和(relaxing)を防止し、DNAの転写及び複製を阻害する。
・DNA及び細胞膜にダメージを与える鉄媒介酸素フリーラジカルを産生する。
【0063】
非限定的なアントラサイクリンの具体例としては、ドキソルビシン,ダウノルビシン,エピルビシン,イダルビシン,バルルビシン又はそれらの薬学的に許容可能な塩が挙げられる。
【0064】
(iii)紡錘体毒性植物アルカロイド
これらのアルカロイドは植物に由来し、細胞分裂に必須の微小管機能を阻害することにより、細胞分裂をブロックする。
【0065】
具体例としては、ビンカアルカロイド(例えば、ビンブラスチン,ビンクリスチン,ビンデシン,酒石酸ビノレルビン,ビンポセチン等)及びタキサンが挙げられる。タキサンには、パクリタキセル及びドセタキセル並びにそれらの薬学的に許容可能な塩が含まれる。パクリタキセルは、元々は、タイヘイヨウイチイの木に由来する。ドセタキセルは、パクリタキセルの半合成アナログである。
【0066】
タキサンとは対照的に、ビンカアルカロイドは、有糸分裂紡錘体を破壊する。したがって、タキサン及びビンカアルカロイドの両方が紡錘体毒又は有糸分裂毒と呼ばれるが、両者の作用機序は異なる。
【0067】
(iv)アルキル化剤
アルキル化剤は、細胞内の条件下、様々電気陰性基に対してアルキル基を付加する能力ゆえに、そのように呼ばれる。アルキル化剤は、生物学的に重要な分子中のアミノ基,カルボキシル基,スルフヒドリル基又はリン酸基と共有結合を形成し、細胞機能を阻害する。特筆すべきは、それらの細胞毒性がDNA合成の阻害により生じると考えられている点である。
【0068】
アルキル化剤としては、例えば、オキサリプラチン(oxaliplatin),シスプラチン,カルボプラチン等の白金化合物が挙げられる。その他のアルキル化剤としては、例えば、メクロレタミン,シクロホスファミド,クロラムブシル,イホスファミド等が挙げられる。
【0069】
(v)代謝拮抗剤
代謝拮抗剤は、正常な代謝の一部を構成する代謝物の利用を阻害する化学物質である。そのような物質は、通常、阻害対象である代謝物の構造と類似している。代謝拮抗剤が存在すると、細胞増殖及び細胞分裂が阻害される。
【0070】
プリン又はピリミジンアナログは、ヌクレオチドのDNAへの取り込みを阻害し、DNA合成を停止させ、これにより細胞分裂を阻害する。また、それらは、RNA合成にも影響を与える。プリンアナログの具体例としては、アザチオプリン,メルカプトプリン,チオグアニン,フルダラビン,ペントスタチン及びクラドリビンが挙げられる。ピリミジンアナログの具体例としては、チミジル酸シンテターゼを阻害する5−フルオロウラシル(5FU),フロクスウリジン(FUDR)及びシトシンアラビノシド(Cytarabine)が挙げられる。
【0071】
葉酸拮抗薬は、葉酸の機能を阻害する薬物である。様々なものが癌の化学療法において使用されており、幾つかは、抗生物質又は抗原虫性物質として使用されている。周知の具体例に、メトトレキサートがある。これは、葉酸アナログであり、葉酸と類似する構造を有するため、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)に結合してこれを阻害し、テトラヒドロ葉酸の形成を阻害する。テトラヒドロ葉酸は、プリン及びピリミジン合成に必須であるため、これにより、DNA,RNA及びタンパク質の産生が阻害される(テトラヒドロ葉酸はまた、セリン及びメチオニンのアミノ酸合成にも関与する)。その他の葉酸拮抗剤としては、例えば、トリメトプリム,ラルチトレキセド,ピリメタミン及びペメトレキセドが挙げられる。
【0072】
(vi)その他の化学療法剤
化学療法剤は、上記した具体例に限定されるわけではなく、その他の化学療法剤であってもよい。
例えば、エリプチシン及びハルミンが挙げられる。
【0073】
エリプチシンは、天然植物アルカロイド産物であり、キョウチクトウ科の常緑樹から単離された。エリプチシンは、細胞毒性及び抗癌活性を有することが報告されている (Dalton 等, Aust. J. Chem., 1967. 20, 2715)。9位がヒドロキシル化されたエリプチシン誘導体である(9−ヒドロキシエリプチシニウム)は、様々な腫瘍に対して実験室レベルでエリプチシンよりも強力な抗腫瘍活性を有することが報告されている (Le Pecq 等, Proc. Natl. Acad, Sci., USA, 1974, 71, 5078-5082)。ヒトの治療に適するエリプチシン誘導体を同定するための研究が実施された結果、セリプチウム、すなわちN2−メチル−9−ヒドロキシエリプチシニウム(NMHE)が調製され、幾つかのヒトの癌の治療、特に乳癌の骨転移の治療に使用されている。その他の9−ヒドロキシエリプチシン誘導体、例えば、2−(ジエチルアミノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムアセテート,2−(ジイソプロピルアミノ−エチル)9−ヒドロキシ−エリプチシニウムアセテート及び2−(βピペリジノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウムは、例えば、米国特許第4,310,667号に記載されている。
【0074】
ハルミンは、天然植物アルカロイド産物であり、Peganum harmala 種子から単離された。Peganum harmala (Zygophyllaceae) は、中央アジア,北アフリカ,中東及びオーストラリアの半乾燥放牧地に広く分布する植物である。P. harmala の薬学的に活性な化合物として、特に種子及び根で見られる幾つかのアルカロイドが存在する。これらとしては、例えば、ハルミン,ハルマリン,ハルモール,ハルマロール,ハルマン等の3−カルボリン,及びバシシン,バシシノン(vasicinone)等のキナゾリン誘導体が挙げられる。
【0075】
Peganum harmala アルカロイドは、有意な抗腫瘍活性を有することが報告されている (Lamchouri 等, Therapie, 1999, 54(6):753-8)。腫瘍細胞株の増殖が有意に低減したことが報告されている。ハルミンは、様々なヒト腫瘍細胞株に対して強力な細胞毒性を示すことが報告されている (Ishida 等, Bioorg Mad Chem Lett, 1999, 9(23):3319-24)。ハルモール二量体の抗癌活性は、例えば、国際公開WO2009/047298に記載されている。
【0076】
本明細書において、癌とは、腫瘍,白血病,癌腫,肉腫,リンパ腫,幹細胞腫瘍,芽細胞腫等の任意の悪性増殖性細胞疾患を意味し、任意の種類のもの、例えば、結腸直腸癌,前立腺癌,肺癌,胃癌,膵臓癌,子宮頸癌,頭頸部癌,脳腫瘍,乳癌及び卵巣癌,非ホジキンリンパ腫,白血病等が含まれる。
【0077】
本明細書において、「患者」とは、本明細書に記載した1種又は2種以上の疾患又は症状に罹患している又は罹患する可能性がある動物、例えば、繁殖,愛玩,保存等の目的の点で価値のある動物を意味し、好ましくは、ヒト又はヒトの子供を意味する。
【0078】
本明細書において、「治療に有効な量」とは、本明細書に記載した疾患又は症状を予防、低減、除去、治療又はコントロールするのに有効な本発明の化合物の量を意味する。「コントロールする」とは、本明細書に記載した疾患又は症状の進行を遅延、阻害、阻止又は停止させ得る(但し、全ての疾患又は症状を完全に除去する必要はない)全てのプロセスを含む意味であり、予防的な処置を含む意味である。
【0079】
本明細書において、「薬学的に許容可能な」とは、過度の毒性,刺激,アレルギー反応又は合理的な利点/リスク比率に比例した他の問題を生じることなく、ヒト又は動物の組織への接触に適すると、適当な医学的観点から判断される化合物、材料、賦形剤、組成物又は剤形を意味する。
【0080】
本明細書において、「薬学的に許容可能な塩」とは、親化合物が修飾されてその酸又は塩基の塩となった化合物誘導体を意味する。薬学的に許容可能な塩としては、例えば、親化合物の慣用の無毒塩又は第4級アンモニウム塩、例えば、無毒の無機又は有機酸によって形成された塩が挙げられる。そのような慣用の無毒塩としては、例えば、無機酸、例えば、塩酸,臭化水素酸,硫酸,スルファミン酸,リン酸,硝酸等に由来する塩、及び有機酸、例えば、酢酸,プロピオン酸,コハク酸,酒石酸,クエン酸,メタンスルホン酸,ベンゼンスルホン酸,グルコロン酸(glutamic acid),安息香酸,サリチル酸,トルエンスルホン酸,シュウ酸,フマル酸,マレイン酸,乳酸等から調製された塩が挙げられる。さらに、付加塩として、例えば、トロメタミン,メグルミン,エポラミン(epolamine)等のアンモニウム塩や、ナトリウム,カリウム,カルシウム,亜鉛,マグネシウム等の金属塩が挙げられる。
【0081】
本発明の薬学的に許容可能な塩は、塩基又は酸部分を含む親化合物から慣用の化学的方法によって合成することができる。一般的には、そのような塩は、遊離の酸又は塩基の形態である化合物を化学量論量の適当な塩基又は酸と水中又は有機溶媒中で、あるいは両者の混合物中で反応させることにより調製することができる。一般的には、非水性溶媒、例えば、エーテル,酢酸エチル,エタノール,イソプロパノール又はアセトニトリルが好ましい。適当な塩の一覧が Remington's Pharmaceutical Sciences, 17th ed., Mack Publishing Company, Easton, PA, 1985, p. 1418 に記載されており、当該開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0082】
本明細書において、「薬学的に許容可能な賦形剤」には、任意の担体,希釈剤,助剤,ビヒクル等が含まれ、具体的には、保存剤,抗酸化剤,増量剤,崩壊剤,湿潤剤,乳化剤,懸濁剤,溶媒,分散溶媒,コーティング,抗菌剤,抗真菌剤,等張剤,吸収遅延化剤等が含まれる。そのような溶媒又は薬剤の薬学的に活性な物質に対する使用は、当業界で周知である。慣用の溶媒又は薬剤が有効成分と不適合である場合を除き、治療用組成物におけるそれらの使用も意図される。組成物には、治療の組み合わせとして適当であれば、追加の有効成分を含有させてもよい。
【0083】
本発明はまた、本発明のナノ粒子を薬学的に許容可能な賦形剤とともに、処置が必要な患者に経口投与することを含む処置方法に関する。
【0084】
本明細書に記載された疾患又は症状の処置が必要な対象の選定は、当業者の能力及び知識の範囲内にある。当業界の獣医又は医師は、臨床試験,身体検査,病歴/家族歴,生物学的又は診断的試験等によって、そのような処置が必要な対象を容易に選定することができる。
【0085】
治療に有効な量は、当業者の一人である診断医の協力を得て、慣用技術又は類似状況下で得られた観察結果に基づき、容易に決定することができる。治療に有効な量を決定する際、診断医の協力の下、多数の因子、例えば、特に限定されるわけではないが、対象の種,サイズ,年齢,一般的健康状態,罹患疾患の種類,疾患の程度又は重篤度,各対象の応答性,投与化合物の種類,投与経路,投与製剤のバイオアベイラビリティ特性,選択された投薬計画,併用薬の使用の有無,その他の関連事項等が考慮される。
【0086】
所望の生物学的効果を達成するために必要とされる化学療法剤の量は、多数の因子、例えば、使用される化合物の化学的特性(例えば、疎水性),化合物の効能,疾患の種類,対象が属する種,対象の疾患状態,投与経路,化合物が選択された経路で投与された場合のバイオアベイラビリティ,必要な投与量,送達,投薬計画を決定するその他の因子等に基づいて変化する。
【0087】
本明細書において、「処置する」又は「処置」とは、本発明との関連では、処置対象である1種又は2種以上の疾患又は症状の進行を逆転、改善又は阻害すること、あるいは処置対象である1種又は2種以上の疾患又は症状予防することを意味する。
【0088】
一般的には、本発明の化合物は水溶液又懸濁液の形態であり、0.05〜10%(w/v)の化合物が含まれる。典型的な用量の範囲は、1日あたり1μg/kg体重〜0.1g/kg体重であり、好ましい用量の範囲は、1日あたり0.01mg/kg体重〜10mg/kg体重であるか、又はヒト子供における等価用量である。投与薬物の好ましい用量は、疾患又は症状の種類又は進行度,対象の全身的健康状態,選択化合物の相対的な生物学的効能,化合物の製剤化,化合物が選択送達経路で投与された場合の薬物動態学的特性,投与スケジュール(所定期間に繰り返される投与回数),併用される処置等に応じて変化する。
【0089】
本発明の化合物はまた、単位用量剤形で投与することができる。「単位用量」という用語は、対象に投与可能な単回用量を意味し、それは取り扱い及びパッケージは容易であって、下記のように、活性化合物それ自体又は薬学的に許容可能な組成物を含む、物理的又は化学的に安定な単位用量として維持することができる。例えば、典型的な1日あたりの総投与量の範囲は、0.01〜100mg/kg体重である。一般的なガイダンスに基づき、ヒトにおける単位用量の範囲は、1日あたり1mg〜3000mgである。好ましくは、単位用量の範囲は、1〜1000mgであって1日あたり1〜6回投与され、さらに好ましくは、10mg〜1000mgであって1日に1回投与される。本発明の化合物は、1種又は2種以上の薬学的に許容可能な賦形剤と混合することにより、医薬組成物に製剤化することができる。そのような単位用量組成物は、経口投与用の剤形、特に、錠剤、カプセル剤、経口懸濁剤、再懸濁可能な粉末剤、シロップ剤等の剤形に製剤化することができる。
【0090】
組成物は、単位用量剤形として簡便に投与することができ、医薬界で周知の方法(例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th ed.; Gennaro, A. R., Ed.; Lippincott Williams & Wilkins: Philadelphia, PA, 2000)によって調製することができる。
【0091】
経口投与のために、錠剤,丸薬,粉末剤,カプセル剤,懸濁剤,シロップ剤等には、下記ビヒクルのうちの1種又は2種以上、あるいは、類似の性質の化合物を含有させることができる:微結晶性セルロース,トラガカント・ゴム等の結合剤;澱粉,ラクトース等の希釈剤;澱粉,セルロース誘導体等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム等の滑剤;コロイド状二酸化ケイ素等の流動促進剤;スクロース,サッカリン等の甘味剤;又は香味剤。カプセル剤は、硬カプセル剤又は軟カプセル剤の形態とすることができ、それらは一般的には、必要に応じて可塑剤,澱粉カプセル等を混合したゼラチンブレンドから製造することができる。さらに、単位用量剤形には、該剤形の物理的形態を修飾するその他の様々な物質、例えば、糖コーティング,セラック,腸溶化剤等を含有させることができる。その他の経口投与剤形であるシロップ剤又はエリキシル剤には、甘味剤,保存料,色素,着色剤,香味剤等を含有させることができる。
【0092】
別の目的において、本発明はまた、本発明のナノ粒子の製剤であって、
・0.5〜10mg/ml、好ましくは0.5〜2mg/ml、さらに好ましくは1〜1.5mg/mlの化学療法剤(例えばIRN)に相当する濃度の、水性溶液又は水性懸濁液中の前記ナノ粒子、及び
・0.5〜5%、好ましくは1%の凍結保護剤(例えば、グルコース,マンニトール,ラクトース)、さらに好ましくは1%のグルコースを含む前記溶液又は懸濁液
を含む前記製剤に関する。
【0093】
本発明はまた、本発明の化学療法剤を含む凍結乾燥ナノ粒子に関する。
凍結乾燥ナノ粒子は、癌の治療及び/又は予防のための経口投与に特に適している。
【0094】
本発明はまた、本発明のナノ粒子を凍結乾燥する方法に関する。該方法は下記工程を含む:
・工程1:本発明の製剤を凍結する:一般的には、適当な凍結温度は−80℃〜−30℃であり、好ましくは約−55℃である。凍結は10分〜10日の期間、通常は約5時間実施することができる。
・工程2:凍結製剤を一次乾燥する。一次乾燥温度は+5℃〜+50℃、例えば約20℃とすることができ、圧力は減圧、例えば50〜200μBar、好ましくは約120μBarとすることができる。一次乾燥は、数分〜数日、好ましくは約1日実施することができる。
・工程3:一次乾燥した凍結製剤を二次乾燥する。二次乾燥は、乾燥圧力を減少させる及び/又は乾燥温度を増加させる1又は2以上の段階によって達成することができる。好ましくは、二次乾燥条件は、温度が約+20℃であり、圧力が80μBarである第1の段階と、温度が+35℃であり、圧力が80μBarである第2の段階とを含む。1又は2以上の二次乾燥段階は、数分〜数日、好ましくは約5時間実施することができる。
【0095】
得られた凍結乾燥産物は、水中で攪拌することにより、均質な液体製剤へと直ちに再構成することができる。
【0096】
さらに別の目的において、本発明はまた、少なくとも1種の本発明のナノ粒子を、薬学的に許容可能なビヒクル中に含む医薬であって、経口投与用である前記医薬に関する。
【0097】
さらに別の目的において、本発明はまた、少なくとも1種の本発明のナノ粒子を、薬学的に許容可能なビヒクル中に含む、癌の治療及び/又は予防のための医薬であって、前記治療及び/又は予防が前記医薬を経口投与することを含む前記医薬に関する。
【0098】
さらに別の目的において、処置は、1種又は2種以上の追加の抗癌剤、例えば、特に限定されるわけではないが、5−フルオロウラシル、その他の代謝拮抗剤、例えば、カペシタビン等のフルオロピリミジン,テガフール−ウラシル(UFT)等の投与を含んでいてもよい。
【0099】
さらに別の目的において、本発明はまた、本発明のナノ粒子を製造する方法であって、下記工程を含む前記方法に関する:
・少なくとも1種の酸、環状オリゴ糖(例えばシクロデキストリン)及び必要に応じて張力活性剤(tensioactive)又は界面活性剤(例えばポロキサマー188)を含む重合媒体を調製する;
・化学療法剤を重合媒体と混合する;
・ポリマーのモノマーを混合する;
・重合を開始する。
【実施例】
【0100】
以下の実施例は、本発明を非限定的に説明するものである。
実施例1:原材料及び主要プロトコル
原材料:
・活性成分;
イリノテカン(Interchemical/Haoruiから入手),
エリプチシン誘導体(2−(βピペリジノ−2−エチル)9−ヒドロキシ−エリプチシニウム)(Novasepから入手),
ドキソルビシン,
パクリタキセル。
【0101】
・賦形剤;
入手先 サンプル番号
HP-βシクロデキストリン Roquette ND
Ramebシクロデキストリン Cyclolab CYL 22-47
クエン酸一水和物 Cooper P51825/1
ポロキサマー188 ND POL01-003
Monorex(登録商標) BioAlliance Pharma YGZ 004-02
【0102】
重合媒体の調製方法(pH2〜3.5)
・0.1Mクエン酸を調製する
・ポロキサマー188(濃度0.5〜15%)を添加し、完全に溶解するまで攪拌する。
・シクロデキストリン(濃度0.1〜70%)を添加する。
・所定pHに調整する。
・0.2μmフィルターでろ過する。
【0103】
イリノテカン,ドキソルビシン,パクリタキセル又はエリプチシン誘導体(2−(βピペリジノ−2−エチル)9−ヒドロキシエリプチシニウム)−SRN(5mlバッチ)の調製方法
・10mlフラスコに、イリノテカン,パクリタキセル又はエリプチシン誘導体(濃度0.5〜2mg/ml),あるいはドキソルビシン(濃度0.5〜10mg/ml)を含む重合媒体5mlを加える。
・マグネチックスターラーで攪拌する。
・50〜200μlのMonorex(登録商標)を攪拌下でゆっくりと加える。
・重合反応を、マグネチックスターラーによる攪拌下、室温で、最大24時間行う。
・2μmフィルターでろ過する。
【0104】
実施例2:カプセル化の検討及び最適化:IRN量を増加させたときのカプセル化率
プロトコル:
0.5,0.75,1,2及び5mg/mlのIRNを含む重合媒体(pH3.5)を調製し、10mlフラスコに入れた(各フラスコに溶液5mlずつ)。マグネチックスターラーによる攪拌下、50μlのMonorex(登録商標)を滴下して加えることにより、重合を開始した。24時間後、懸濁物を回収し、ろ過(2μmフィルター)の前後で、又は遠心(50000rpm,30分,20℃)の前後で、HPLCによって分析した。
【0105】
結果:
モノマーを一定量としたうえで、イリノテカン量を増加させると、カプセル化率が減少した(データは示さない)。最良の結果は、0.5〜1.5mg/mlのIRN溶液及び50μlのMonorex(登録商標)を用いたときに得られ、そのカプセル化率は>95%であった。
【0106】
実施例3:IRN−SRNのin vitro予備試験及びin vivo試験の結果
3.1.HT29細胞に対するIRN−SRNのin vitro細胞毒性の結果
イリノテカン−SRNの作用効果を試験した。SRN単独,イリノテカン−SRN(イリノテカン/ポリマーの重量比は1/20)及びイリノテカン単独を、増殖するHT29細胞と4日間接触させ、IC50を測定した。各系の試験を3回実施し、IC50(50%阻害濃度)を算出した。
測定された各作用効果を下記表に示す。
【0107】
【表1】

【0108】
in vitroにおいて、イリノテカン−SRNは、ヒト結腸癌細胞株HT−29に対して、イリノテカン単独と類似する抗癌活性を示した。このことは、イリノテカンのナノ粒子への封入によって、イリノテカンの活性が減少しなかったことを示す。但し、IRNの活性代謝物はSN38であり、活性を示すためにはイリノテカンがカルボキシルエステラーゼによって代謝される必要があることに留意すべきである。このことは、in vitroでの細胞試験の制限となり得る。
【0109】
空のナノ粒子(SRN単独)が、in vitro細胞毒性を示したことに留意すべきである。実際に、空のナノ粒子の分解によって、in vitroで細胞毒性を示すことが知られているポリシアノアクリレートが生じることが報告されている。
【0110】
今回実施されたヒト結腸癌細胞株HT−29に対するin vitro試験によって、ナノ粒子にカプセル化されたイリノテカンがその作用効果を維持しており、重合プロセスによって変化しなかったという事実が確認された。
【0111】
3.2.異種移植マウスを用いたIRN−SRNのin vivo試験
3.2.1.単回投与の最大耐用量(MTD)に関する試験:
IRN−SRNの経口投与
単回投与MTDの評価試験を最初に実施した。3種の段階的な用量を経口投与して試験した(50mg/kg,100mg/kg及び200mg/kg)。各用量について、3匹の動物からなる群で試験し、動物を2週間モニタリングして臨床毒性兆候を観察し、動物体重を2日おきに計測した。
【0112】
50mg/kg及び100mg/kgを経口投与した場合、毒性兆候も体重減少も観察されなかった。200mg/kgを経口投与した場合、4日後の体重は、2匹の動物で初期体重の94%であり、1匹の動物で初期体重の91.5%であったが、明らかな臨床毒性兆候は観察されなかった。対照群では、CAMPTO(登録商標)(IRN溶液)を経口投与したが、体重減少も臨床毒性兆候も観察されなかった。
この実験モデルにおいて、IRN−SRNの経口投与の最大耐用量は200mg/kgであった。
【0113】
3.2.2.IRN−SRN経口投与のMTTD(最大総耐用量(Maximum Total Tolerated Doses))試験
MTTD試験のスケジュールは、1週間に1回の投与を3週間とした。各用量について、3匹の動物からなる群で試験し、動物を最終処理の後2週間モニタリングし、臨床毒性兆候を観察し、動物体重を2日おきに計測した。
MTTD試験は、次のスケジュールで実施した。
【0114】
【表2】

【0115】
経口投与に関し、MTTDの決定に必要な用量が大きすぎるため、MTTDを決定することができなかった。そこで、この実験モデルでは、最大許容用量を200mg/kgと決定した。
【0116】
3.3.異種移植マウスにおける経口MTTD試験
結腸腫瘍のin vivoモデルを出来る限り再現するために、異種移植マウスにおける忍容性及び有効性試験を実施した。異種移植マウスは非常に感受性が高いため、ヒト結腸腫瘍細胞HT−29を皮下に移植したマウスに対して、MTTD及び有効性試験を行った。
スケジュールは次の通りとした。
【0117】
【表3】

【0118】
IRN−SRNを5日間毎日経口投与したが、毒性に関する臨床兆候は観察されなかった(表3)。一方、IRNは、有意な体重減少を誘発した。
1週間に1回、3週間投与した上記実験と同様、必要な用量が大きすぎるため、MTTDを決定できなかった。そこで、この実験モデルでは、最大許容用量を200mg/kgと決定した。
この実験において、腫瘍の進展についても検討した。IRN−SRN(50,100及び200mg/kg)の処置によって、腫瘍容積の有意な減少が生じた(図1参照)。
このように、IRN−SRNは興味深い特性を示した。実際、用量依存的な効能及びCAMPTO(登録商標)に匹敵する抗腫瘍作用を有するだけでなく、より良好な忍容性を示した。
【0119】
3.4.同所性異種移植したHT29腫瘍の増殖に対するIRN−SRNの有効性試験
目的は、HT−29結腸腫瘍の同所性増殖に対する、IRN−SRNの経口投与の有効性を試験することである。使用した用量及びスケジュールは、忍容性試験の結果に基づいて選択した。
【0120】
同所性移植:腫瘍フラグメント(約30mm3)を、上記と同様に、盲腸壁に縫合した。移植後2週間、15匹のマウスからなる各群に対して、ランダムに処置を施した。
動物体重が減少する場合(72時間継続して>10%)、処置を調節し、より低い用量とした。各群において、処置開始後19日目及び45日目に、7〜8匹のマウスを犠牲にした。腫瘍サンプルを10%ホルムアルデヒドで固定し、組織学的検査を行った。
【0121】
群 処置 用量とスケジュール マウス数
1 対照 ビヒクル, po, qdx5 15
2 IRN 100 mg/kg, po, qdx5 15
5 IRN-SRN 200 mg/kg, po, qdx5 15
【0122】
IRN−SRN(200mg/kg)の処置によって、腫瘍容積の有意な減少が生じた(図2参照)。
【0123】
実施例4:ヒト結腸腺癌のHT29異種移植モデルにおけるIRN−SRN及びイリノテカンのin vivo抗腫瘍作用
4.1.材料及び方法
各用量群における動物及び処方の識別
各実験の前に全ての動物の体重を計測し、異なる用量群に分類した。各ケージは、実験コード,ケージ番号,マウス番号,腫瘍コード,テスト項目名,用量及び投与経路を記載したタグで識別した。
【0124】
腫瘍誘発
HT29結腸腫瘍細胞株を、腫瘍異種移植片としてヌードマウスの皮下に異種移植して増殖させた。
腫瘍異種移植片は、免疫不全マウスへの連続移植によって維持した。マウスに皮下移植した腫瘍フラグメントの移植片は、以前継代したものに由来する。このアッセイのフラグメントは、以前継代した腫瘍を保有する5匹のドナーマウスに由来し、ドナーマウスは、腫瘍が12〜15mmの直径となったときに犠牲にした。同一実験の全てのマウスには、同日に移植した。各群に少なくとも10匹のマウスが含まれるようにした。
【0125】
腫瘍を保有するドナーマウスは、頸椎脱臼によって犠牲にした。腫瘍は無菌下で摘出した。培地を含有するペトリ皿に腫瘍を入れ、注意深く解離し、腫瘍周囲の線維性被膜を除去した。壊死した腫瘍は除去した。腫瘍組織は、移植過程において培地中に維持した。1つの腫瘍から最大8つの移植片が得られ、各フラグメントの大きさは約40mm3であった。
【0126】
皮下移植は無菌下で実施した。ケタミン/キシラジンで麻酔し、ベタジン溶液で皮膚を消毒した後、肩甲骨間部における皮膚を切開し、腫瘍フラグメントを皮下組織に移植した。皮膚はクリップで閉じた。
【0127】
組み入れ基準及びランダム化
健常マウス(7〜9週齢,体重20g以上)だけをこの実験に組み入れた。移植段階で、腫瘍フラグメントをランダムにヌードマウスに割り振り、個々に識別番号を付与して、腫瘍フラグメントに対してヌードマウスを配置した。ボックスに収容した3〜5匹のマウスに、ランダムに処置を施した。
【0128】
化学療法プロトコル
・薬物投与
IRN−SRN及びIRNを、所定の投薬計画に従って経口投与又は静脈内投与した。好ましい用量で投与できるように、マウスには様々な容量のIRN−SRNを投与した(約125〜750μL)。イリノテカンを希釈して500μLを経口投与した。
・ビヒクル
対照マウスには、IRN−SRN溶液の調製に使用したビヒクルを投与した(重合媒体)。
【0129】
実験プロトコル
・忍容性試験(ステップ1)
目的は、所定の用量及び投与経路に従ってHT29腫瘍を保有するヌードマウスに静脈内(iv)又は経口(per os)投与されたイリノテカン及びIRN−SRNの忍容性を試験することである。
【0130】
皮下HT29異種移植片が平均腫瘍容積150mm3に達して検出可能となったときに、各群のマウスに対してランダムに処置を施した。腫瘍を保有しないマウスは排除した。
動物体重が減少した場合(72時間継続して>15%)、処置を調整し、より低い用量とした。
対照群のマウスには、750μl容量のビヒクルを投与した。
【0131】
群 処置 用量, スケジュール マウス数
1 対照 Vmax ビヒクル, po, qdx5 5
2 IRN 20 mg/kg, iv, (qwk)x2 5
3 IRN 100 mg/kg, po, qdx5 5
4 IRN-SRN 50 mg/kg, po, qdx5 5
5 IRN-SRN 100 mg/kg, po, qdx5 5
6 IRN-SRN 200 mg/kg, po, qdx5 5
7 IRN-SRN 300 mg/kg, po, qdx5 5
【0132】
・皮下に異種移植したHT29腫瘍の増殖に対するIRN−SRNの有効性試験(ステップ2)
目的は、経口投与されたIRN−SRNの、皮下に移植されたHT−29結腸腫瘍の増殖に対する有効性を試験することである。使用した用量及びスケジュールは、忍容性試験の結果に基づいて選択した。
各群の10匹のマウスに対してランダムに処置を施し、処置群には群間で同一の平均腫瘍容積を投与した(腫瘍容積60〜150mm3)。群形成の翌日に処置を開始した(1日目)。
動物体重が減少する場合(72時間継続して>15%)、処置を調整し、より低い用量とした。
【0133】
群 処置 用量, スケジュール マウス数
1 対照 ビヒクル, po, qdx5 10
2 IRN 100 mg/kg, po, qdx5 10
3 IRN 20 mg/kg, iv, (qwk)x2 10
4 IRN-SRN 300 mg/kg, po, qdx5 10
5 IRN-SRN 100 mg/kg, po, qdx5 10
6 IRN-SRN 33 mg/kg, po, qdx5 10
7 SRN-対照 po, qdx5 6
【0134】
・IRN−SRNの生体内分布試験(ステップ3)
キシラミン−ケタミンで麻酔したマウスから、単回静脈内注射の5分後,10分後,15分後,30分後,60分後,2時間後,4時間後,8時間後,16時間後,30時間後及び48時間後に、又は、単回経口投与の15分後,30分後,60分後,2時間後,4時間後,8時間後,16時間後,30時間後及び48時間後に、血液を心穿刺によってサンプリングした。
単回静脈内又は経口投与の60分後,4時間後,8時間後,16時間後,30時間後及び48時間後に、腫瘍を解離して急速冷凍した。
各時点において3匹のマウスを用いた。対照群については1回だけサンプリングを実施した。
【0135】
群 処置 用量, スケジュール マウス数
1 対照 ビヒクル, po 3
2 IRN 100 mg/kg, po 27
3 IRN 20 mg/kg, iv 33
4 IRN-SRN 300 mg/kg, po 27
6 IRN-SRN 100 mg/kg po 27
【0136】
CPT11及びその活性代謝物SN38のアッセイのために、血漿サンプルを調製した。
【0137】
腫瘍増殖
ヒト異種移植片に対する薬物の抗腫瘍活性を評価するために、キャリパーを用いて腫瘍直径を隔週測定して、腫瘍容積を評価した。次式:TV(mm3)=[長さ(mm)×幅(mm)2]/2を用いた。なお、長さ及び幅は、それぞれ、各腫瘍の直径のうち最も長い及び最も短い直径とした。
相対腫瘍容積(RTV)を、時間tにおける容積を1日目の初期容量で割り、100を掛けた比率として計算した。処置群及び対照群における平均RTV曲線を、時間の関数として作成した。
【0138】
毒性パラメーター
様々な処置の毒性を、次式:体重減少率(% BWL max)=100−(平均BWx/平均BW1×100)[式中、BWxは、処置期間の最大減少日における平均BWであり、BW1は、処置1日目における平均BWである。]に基づいて決定した。
致死毒性は、処置群における全ての死である。
【0139】
臨床観察
・死
死に関し、動物を毎日検査した。
・臨床兆候
外見,行動及び臨床的変化に関し、マウスを毎日観察した。
臨床観察を行い、外皮組織,消化器,筋骨格,呼吸器,泌尿生殖器及び中枢神経系に関連する異常を検出した。
全ての異常の兆候を、全ての行動変化又は処置に対する応答とともに、動物ごとに記録した。各動物の全ての臨床兆候を、研究を通じて実験ノートに記録した。
・体重
処置期間を通じて、全ての動物の体重を計測し、投与薬物量を調整するとともに、各処置による体重減少率(%)を算出した。
【0140】
4.2.結果
・忍容性(ステップ1)
【0141】
【表4】

【0142】
IRN−SRN経口投与群(50,100,200及び300mg/kg)では、体重減少は観察されなかったが、IRN単独経口投与群では、15%を上回る体重減少が観察された(図3参照)。このことは、IRN−SRN経口投与後の忍容性が、IRN単独経口投与後の忍容性よりも良好であることを示す。IRN−SRNが、イリノテカン経口投与の副作用を低減できることが確認された。
【0143】
・皮下に移植されたHT29腫瘍異種移植片の増殖に対するIRN−SRNの有効性試験(ステップ2)
【0144】
【表5】

【0145】
IRN−SRN(50,100,200及び300mg/kg)の処置によって、腫瘍容積の有意な減少が生じた(図4参照)。さらに、異なる用量の投与によって、用量依存的なIRN−SRNの効果が示された。実際、IRN−SRNの投与量の増加とともに、処置の有効性も増加した。200及び300mg/kgのIRN−SRNの経口投与は、100mg/kgのIRN単独の経口投与と同様の有効性を示すとともに、それよりも良好な忍容性を示した。
【0146】
・IRN−SRNの生体内分布(ステップ3)
【0147】
【表6】

【0148】
AUCは、濃度曲線下面積であり、所定期間の血漿濃度の積分に相当する。
クリアランスは、体液から所定物質を排除する器官又は組織の能力を表す係数である。「腎クリアランス」という用語(すなわち、血漿濃度に対する尿流の比)が一般的に用いられる。クリアランスは、医薬がどの程度排除されるかを示す。
【0149】
T1/2は、薬物の血漿中半減期(T1/2)、すなわち、血漿濃度が半分に(例えば、100mg/Lから50mg/Lへ)減少するのに必要な時間である。半減期に関する知見によって、所望の血漿濃度が達成されるように、薬物投与頻度(1日あたりの投与回数)を計画することが可能となる。ほとんどの場合、半減期は投与薬物の用量から独立している。幾つかの例外的な場合、用量とともに変化し、例えば、メカニズム(排出,異化,血漿タンパク質への付着等)の飽和の発生に従って、増加又は減少する。
【0150】
Cmaxは、最大血漿濃度である。半数効果濃度(EC50)という用語は、一定の曝露時間後に、最小及び最大の中間の反応を引き起こす薬物,抗体又は毒物の濃度を意味する。薬物の有効性及び毒性の指標として一般的に用いられる。
Tmaxは、Cmaxに達するまでの時間(Cmax及び時間の相関)である。
【0151】
F%は、バイオアベイラビリティであり、中心コンパートメントに達した投与薬物の割合(%)を示す。一般的な測定は、同一薬物を静脈内及び他の経路(通常、経口)で投与した後に得られるAUC間の比較により行われる。静脈内投与後に得られるAUCは、定義上、100%のバイオアベイラビリティに相当し、経口投与後に得られるAUCは、理想的な場合には、それと同一のバイオアベイラビリティに相当するが、通常、それよりも低いバイオアベイラビリティに相当し、場合によってはゼロのバイオアベイラビリティに相当する。
【0152】
イリノテカン投与後の薬物動態の結果は、IRN−SRNを経口投与した場合(300mg/kg)及び遊離IRN溶液を静脈内投与した場合(20mg/kg)について、それぞれ、次の通りであった:AUCは、9698ng.時間/ml及び1284ng.時間/ml,クリアランスは、30.9L/時間及び15.6L/時間,T1/2は、4.68時間及び1.22時間。イリノテカンの相対バイオアベイラビリティは、IRN−SRN(300mg/kg)投与の場合、50%であった。
【0153】
【表7】

【0154】
IRN−SRNを経口投与した場合(300mg/kg)及び遊離IRN溶液を静脈内投与した場合(20mg/kg)、SN−38(イリノテカンの活性代謝物)に関するAUCは、それぞれ21056ng.時間/ml及び6403ng.時間/ml、T1/2は、それぞれ3.7時間及び1.52時間であった。SN−38の相対バイオアベイラビリティは、IRN−SRN(300mg/kg)投与の場合、22%であった。
【0155】
薬物動態試験によって、本発明のIRN−SRN経口用製剤は、静脈内投与用又は経口用遊離IRN溶液と比較して、向上したバイオアベイラビリティを有し、さらには、有意に延長した半減期を有することが示された。
【0156】
実施例5:IRN−SRN製剤の凍結乾燥及び再構成に関する試験
5.1.序論
本試験は、凍結乾燥プロセスにとって最適なIRN−SRN製剤を決定するために実施した。
再構成に関する試験は、各製剤に対する再構成条件を決定するために、凍結乾燥後に実施した。
最適な製剤を決定するために、各凍結乾燥産物に関する粒度分析を実施した。
【0157】
試験を実施した製剤は、次の通りである:
・1バイアル:IRN−SRNを含む水(1mg/mlのIRNに相当)(凍結保護剤(cryoprotector)不含)
・1バイアル:IRN−SRNを含む水(1mg/mlのIRNに相当)(1%グルコール含有)
・1バイアル:IRN−SRNを含む水(1mg/mlのIRNに相当)(1%マンニトール含有)
・1バイアル:IRN−SRNを含む水(1mg/mlのIRNに相当)(5%グルコース,0.5%ラクトース含有)
・1バイアル:IRN−SRNを含む水(1.5mg/mlのIRNに相当)(凍結保護剤不含)
・1バイアル:IRN−SRNを含む水(1.5mg/mlのIRNに相当)(1%グルコース含有)
・1バイアル:IRN−SRNを含む水(1.5mg/mlのIRNに相当)(1%マンニトール含有)
・1バイアル:IRN−SRNを含む水(1.5mg/mlのIRNに相当)(5%グルコース,0.5%ラクトース含有)
【0158】
5.2.凍結乾燥プロセス及び結果
凍結条件:
シェルフ(shelf)温度は−55℃、時間は4時間30分とした。
【0159】
一次乾燥条件:
シェルフ温度は+20℃、圧力(P)は120μBar、観察時間は19時間とした。
【0160】
二次乾燥条件:
i) シェルフ温度は+20℃、圧力(P)は80μBar、時間は5時間30分とした。
ii) シェルフ温度は+35℃、圧力(P)は80μBar、時間は4時間とした。
【0161】
凍結乾燥プロセスの総時間は約33時間とした。
凍結乾燥プロセス後、バイアルは様々な外観を呈した:
・凍結保護剤を含まない製剤:規格に適合(conform)する外観であった。
・1%グルコースを含む製剤:規格に適合する外観であった。
・1%マンニトールを含む製剤:規格に適合する外観であったが、産物がバイアルに付着した。
・5%グルコース及び0.5%ラクトースを含む製剤:凍結工程におけるグルコースのガラス化によって、規格に適合しない外観であった。凍結乾燥ケーキの収縮が観察された。
【0162】
5.3.再構成のプロトコル及び結果
・バイアルを冷凍庫から取り出し、室温で少なくとも30分間放置した。
・第1の針で栓を貫通し、水を添加する間、空気が進入できるようにした。
・各バイアルの凍結乾燥ケーキに、適当な量の水を添加した。
・5mlの水を用いた再構成試験では、バイアルに1mlの水を添加し、凍結乾燥ケーキが完全に溶解した後、さらに4mlの水を添加した。
・250μlの水を用いた再構成試験では、凍結乾燥ケーキに直接250μlの水を添加した。
・凍結乾燥ケーキに水を添加した後、バイアルを頻繁に手動で検査した。バイアル中に凝集物の存在が確認された場合には、「ボルテックス」を用いた。
【0163】
【表8】

【0164】
最も再構成が困難な製剤は、凍結保護剤を全く含まない製剤であった。その他の製剤では、再構成が満足のいくものであった。
【0165】
【表9】

【0166】
最も再構成が困難な製剤は、凍結保護剤を全く含まない製剤であった。ボルテックスを用いてサンプルを攪拌した後でさえ、多量の凝集物が残存した。
1%マンニトールを含む製剤では、産物がバイアルに付着した。その他の製剤では、再構成は満足のいくものであった。
結論として、凍結乾燥に適する製剤は、1%グルコースを含む製剤である。凍結乾燥産物を5ml又は250μlの水で容易に再構成することができ、粒度プロファイルは、いずれの製剤(1mg/ml及び1.5mg/ml)でも規格に適合する。
【0167】
実施例6:IRN−SRN中に封入されたシクロデキストリンの測定
6.1.原材料及び主要プロトコル
6.1.1.原材料
【0168】
【表10】

【0169】
アルカリ性溶液中で、フェノールフタレインはピンク色を呈する(アニオン型フェノールフタレイン)。このアニオン型は、554nmに特徴的な吸収ピークを有する。フェノールフタレインをHP−βCD含有溶液に添加すると、アニオン型PPがHP−βCDとの複合体に封入され、無色となる。そして、554nmの吸収ピーク強度の減少が生じる。
HP−βCDを0〜0.15%の濃度で含む様々な重合媒体を用いて検定を行った。
本試験では、1mg/mLのイリノテカン溶液(0.1%HP−βCD含有重合媒体を含む)を用いて検証した。
ナノ粒子中のシクロデキストリン量を間接的に定量した。すなわち、ナノ粒子懸濁液を50000rpm、20℃で30分間遠心した。上清を分析し、その差から、ナノ粒子中に封入されたHP−βCDの濃度を決定した。
【0170】
6.1.2.主要プロトコル
検定に用いる既知濃度HP−βCD含有重合媒体の調製方法(pH2〜3.5)
・0.1Mクエン酸を調製する。
・調製した溶液にポロキサマー188(濃度0.5〜1%)を添加し、攪拌下、完全に溶解する。
・シクロデキストリン(濃度0〜0.15%)を添加する。
・所定pHに調整する。
【0171】
分析に用いるサンプルの調製方法
次の溶液を調製した:
・サンプル(イリノテカンを含む重合媒体及び上清) 8%
・0.01%フェノールフタレインのエタノール溶液 10%
・0.04モル/L炭酸ナトリウム水溶液 10%
・水 72%
得られた混合物を平衡化するまで攪拌した(少なくとも48時間)。
【0172】
分析
200nm〜800nmにおける吸光度を測定し、封入複合体の形成を確認し、その特徴的な吸収波長を決定した。複合体の形成により無色となったので、特徴的な吸収波長(554nm)において吸光度を測定し、溶液中のPP量を決定した。
【0173】
6.2.結果
%HP−βCDに基づいて吸光度を算出した。
【0174】
【表11】

【0175】
【表12】

【0176】
【表13】

【0177】
実施例7:ドキソルビシン−SRNの経口投与
7.1.材料及び方法
・動物
C57BL/6Jマウス(雌,8週齢)を Harlan (Gannat, France) から入手した。経口投与前に、マウスを順化のために7日間維持した。
試験では、21匹の雌C57BL/6Jマウスを用いた。
・薬物投与
処置は次のように実施した。
【0178】
【表14】

【0179】
・毒性兆候のモニタリング
経口投与後、下記時間、毒性兆候をモニタリングした(死,作用効果の種類,作用効果の長さ)。次いで、マウスの行動及び毒性兆候を、3日間毎日モニタリングし、その後、一定の間隔で試験終了(マウスを犠牲にする)までモニタリングした。
・体重モニタリング
動物の体重を、処置直前、次いで、経口投与後3日間毎日、その後、一定の間隔で試験終了まで記録した。
【0180】
7.2.結果
時間の関数としての相対体重(RBW)は、ドキソルビシン−SRNが良好な忍容性を有することを示す(図5参照)。
さらに、ドキソルビシン Transdrug 処理により、マウスの尿がオレンジ色を呈した。オレンジ色はドキソルビシン−SRNの色であるので、このことは、ドキソルビシンが腸の障壁を通過することが示す。ドキソルビシン単独の経口投与ではバイオアベイラビリティが低かった(約5%)。このことは、ドキソルビシン−SRNとして製剤化されると、ドキソルビシンのバイオアベイラビリティの向上が期待されることを示す。
【0181】
実施例8:パクリタキセル−SRNの経口投与
パクリタキセル−SRNは、経口投与のためのパクリタキセルの新しい剤形である。
8.1.材料及び方法
各群のラットを、次のように、放射性標識パクリタキセルで処置した。
【0182】
【表15】

【0183】
動物の血液サンプルを、経口投与後10分,30分、1時間,2時間,3時間,4時間,6時間及び8時間に採取した。放射性標識パクリタキセルを液体シンチグラフィーで処理した。
【0184】
8.2.結果
本試験の主な結果として、パクリタキセル−SRN(パクリタキセル用量5mg/kg)は、2倍高い用量のタキソール様溶液(すなわちパクリタキセル−SRN溶液(Cremophor EL/エタノール))と同じAUC値を示すという結果が得られた。興味深いことに、このパクリタキセルの新しい製剤は、経口投与において、タキソールよりも2倍高い有効性を示し、さらに、バイオアベイラビリティを向上させるために、シクロデキストリン等の抗Pgp剤を必要としない。
【0185】
実施例9:ドセタキセルの可溶化
9.1.シクロデキストリンの使用による、ドセタキセルの見掛けの溶解度の増加
シクロデキストリンの使用は、水溶解度が低い活性物質の水溶解度を増加させるアプローチの1つとして現在広く採用されているが、様々なデキストロースを使用した場合のドセタキセルの溶解性に関するデータは、刊行物に十分に記載されていない。そこで、本発明者等は、HP−βCD,Me−βCD,SBE−βCD,αCD及びγCDという様々なシクロデキストリンを使用した場合のドセタキセルの溶解度のダイアグラムについて試験した。
【0186】
9.2.シクロデキストリンの混合物
分子モデリング試験によって示されるように、ドセタキセル分子は、少なくとも2つのシクロデキストリンと同時に相互作用することができると考えられる。さらに、βシクロデキストリン又はγシクロデキストリンのキャビティは、相互作用可能な分子群のうちの1つ分子又は別の分子に適している可能性がある。したがって、様々なシクロデキストリンの組み合わせは、興味深いストラテジーである。それにもかかわらず、これまで、そのような研究は報告されていない。
【0187】
本発明者等の仮説に基づき、様々な比率のシクロデキストリンを、一方では総シクロデキストリン濃度が40%(m/m)となるように、他方では、最大溶解度に基づき、選択した。その結果、Me−βCDの最適溶解度は10.2%(w/w)を示し、γCDのそれは10.2%〜16%(w/w)であった。
【0188】
下記表の結果は、可溶化という点から、これらの混合物の有効性を示す。実際に、HP−βCD/Me−βCDの混合物(比率30.6/10.2% w/w)では、リン酸緩衝液におけるドセタキセルの溶解度と比較して、ドセタキセルの溶解度が722倍に増加した。HP−βCD/γCDの混合物(30.6/10.2% w/w)では、ドセタキセルの溶解度を1.9±0.1μg/mLから1425±47μg/mLへと増加させることができる。同様に、Me−βCD/γCDの混合物(比率10.2/10.2% w/w)では、活性物質の溶解度を1.9±0.1μg/mLから1388±149μg/mLへ増加させることができる。3種類のシクロデキストリンの混合物では、ドセタキセル単独の場合と比較して、溶解度が有意に向上したが、2種類の混合物の場合よりも低かった。
【0189】
【表16】

【0190】
これらのシクロデキストリンを単独で使用した場合、ドセタキセルの見掛けの溶解度は向上した。混合物とした場合、相乗効果による向上を示し、シクロデキストリンが同時に作用して、2種類のシクロデキストリンのそれぞれの作用効果の総和よりも有意に大きな作用効果が生じた。
【0191】
9.3.結論
ドセタキセルの経口吸収に対する障壁の1つは、消化液における該物質の溶解度が低いことにある。本試験において、本発明者等は、ドセタキセルの溶解度を向上させる目的で、シクロデキストリンを用いたストラテジーを採用した。
この新規なアプローチにより、様々なタイプのシクロデキストリン、特に、γシクロデキストリン及びβシクロデキストリンが、ドセタキセルの溶解度を、最大750倍まで増加させることが示された。
本試験の結果に基づき、実用レベルにおいて、ドセタキセルの経口投与の有効性の重要な因子の1つである、ドセタキセルの見掛けの溶解度を有意に向上させることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分である少なくとも1種の化学療法剤と、少なくとも1種のポリマーと、前記化学療法剤と複合体を形成し得る少なくとも1種の環状オリゴ糖とを含むナノ粒子であって、治療のために経口投与される前記ナノ粒子。
【請求項2】
癌の治療及び/又は予防のための請求項1記載のナノ粒子。
【請求項3】
前記ポリマーが、1〜12個の炭素原子を含む直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有するポリ(アルキルシアノアクリレート)から選択される、請求項1又は2記載のナノ粒子。
【請求項4】
前記ポリマーがポリ(イソヘキシルシアノアクリレート)である、請求項1、2又は3記載のナノ粒子。
【請求項5】
前記有効成分と複合体を形成し得る前記環状オリゴ糖がシクロデキストリンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のナノ粒子。
【請求項6】
前記シクロデキストリンが、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン及び/又はランダムにメチル化されたβ−シクロデキストリン及び/又はメチル化−β−シクロデキストリン、及び/又はγ−シクロデキストリンである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のナノ粒子。
【請求項7】
前記ナノ粒子が、張力活性剤及び界面活性剤から選ばれた、少なくとも1種の薬学的に許容可能な安定剤をさらに含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のナノ粒子。
【請求項8】
前記張力活性剤又は前記界面活性剤がポロキサマーである、請求項7記載のナノ粒子。
【請求項9】
前記化学療法剤が、トポイソメラーゼ阻害剤、アントラサイクリン、紡錘体毒性植物アルカロイド、アルキル化剤、代謝拮抗剤若しくはその他の化学療法剤、又はそれらの薬学的に許容可能な塩である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のナノ粒子。
【請求項10】
前記トポイソメラーゼ阻害剤が、カンプトセシン誘導体、好ましくはイリノテカン、SN−38若しくはトポテカン、又はそれらの薬学的に許容可能な塩である、請求項9記載のナノ粒子。
【請求項11】
前記アントラサイクリンがドキソルビシン又はその薬学的に許容可能な塩である、請求項9記載のナノ粒子。
【請求項12】
前記紡錘体毒性植物アルカロイドが、パクリタキセル、ドセタキセル又はそれらの薬学的に許容可能な塩である、請求項9記載のナノ粒子。
【請求項13】
イリノテカン、ドキソルビシン、パクリタキセル若しくはドセタキセル又はそれらの薬学的に許容可能な塩から選択された、少なくとも1種の化学療法剤、
ポリ(イソヘキシルシアノアクリレート)、
ポロキサマー188、並びに
ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン及び/又はランダムにメチル化されたβ−シクロデキストリン及び/又はメチル化−β−シクロデキストリン、及び/又はγ−シクロデキストリン
を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載のナノ粒子。
【請求項14】
前記治療が1種又は2種以上の追加の抗癌剤の投与を含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載のナノ粒子。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の少なくとも1種のナノ粒子を、薬学的に許容可能なビヒクル中に含む医薬であって、前記医薬が経口投与用である、前記医薬。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の少なくとも1種のナノ粒子を、薬学的に許容可能なビヒクル中に含む、癌の治療及び/又は予防のための医薬であって、前記治療及び/又は前記予防が前記医薬の経口投与を含む、前記医薬。
【請求項17】
少なくとも1種の化学療法剤を含む請求項1〜14のいずれか1項に記載のナノ粒子の製剤であって、
水性溶液又は水性懸濁液中に含まれる、前記化学療法剤0.5〜10mg/mlに相当する濃度の前記ナノ粒子、及び
0.5〜5%の凍結保護剤
を含む前記製剤。
【請求項18】
水中に含まれる、IRN1〜1.5mg/mlに相当する濃度のIRN−SRN、及び
1%グルコース
を含む、請求項17記載の製剤。
【請求項19】
前記化学療法剤を含む、凍結乾燥された請求項1〜14のいずれか1項に記載のナノ粒子。
【請求項20】
癌の治療及び/又は予防のために経口投与される、凍結乾燥された請求項19記載のナノ粒子。
【請求項21】
請求項1〜14のいずれか1項に記載のナノ粒子を凍結乾燥する方法であって、
請求項17又は18記載の製剤を凍結する第1の工程、
凍結製剤を一次乾燥する第2の工程、及び
一次乾燥した凍結製剤を二次乾燥する第3の工程
を含む前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−529950(P2011−529950A)
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521589(P2011−521589)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際出願番号】PCT/EP2009/060233
【国際公開番号】WO2010/015688
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(508100217)
【氏名又は名称原語表記】BIOALLIANCE PHARMA
【住所又は居所原語表記】49, Boulevard du General Martial Valin Paris F−75015 FRANCE
【Fターム(参考)】