説明

化粧料

【課題】本発明の課題は、広いpH域で高い安定性を有し、かつ肌に対して安全性が高く、しかも有効性が高い亜鉛化合物の開発、及びそれらを含有した化粧料の提供。
【解決手段】前述の課題を克服するべく鋭意研究の結果、亜鉛(II)イオンよりも毒性が低く、広いpH域で高い安定性を有し、効果の高い亜鉛(II)錯体として、生体物質であるアミノ酸類、オリゴペプチド類、及びそれらの誘導体である化合物からなる配位子と亜鉛源とを含んでなる亜鉛(II)錯体を開発し、化粧料に配合することを可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体物質であるアミノ酸類、オリゴペプチド類、及びそれらの誘導体からなる化合物を配位子として有する亜鉛(II)有機錯体からなる化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、亜鉛化合物である酸化亜鉛や、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、塩化亜鉛等の無機塩類が消炎効果を期待して化粧品に配合されてきた。しかし、亜鉛(II)イオンは生体膜の通過が難しいため、生体内へ取り込まれにくく、充分な効果が期待できなかった。
【0003】
また、特表平2002−516838号公報には亜鉛のアミノ酸錯体が真皮表皮接合部点、特に前記接合点のコラーゲンに対する表皮基底層にあるケラチン生成細胞の接着を促進する作用による皮膚の弾性を回復する化粧学的処置方法についての記載があるものの紫外線障害防御、シミ改善、肌荒れ改善に関する効果は期待できない状況にある。
【0004】
【特許文献1】特表平2002−516838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、広いpH域で高い安定性を有し、かつ肌に対して安全性が高く、しかも有効性が高い亜鉛化合物の開発である。一般に、分子内にアミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基を2個以上有する化合物は、簡単に亜鉛イオンと錯キレート化合物を形成する。しかし、これらのキレート化合物はpH8以上のアルカリ域になると沈澱が生じ、化粧料への配合に支障があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前述の課題を克服するべく鋭意研究の結果、亜鉛(II)イオンよりも毒性が低く、広いpH域で高い安定性を有し、美肌効果の高い亜鉛(II)錯体として、生体物質であるアミノ酸類、オリゴペプチド類、及びそれらの誘導体である化合物からなる配位子と亜鉛源とを含んでなる亜鉛(II)錯体を開発し、化粧料に配合することを可能とした。
【発明の効果】
【0007】
本発明の亜鉛(II)錯体は、細胞を紫外線傷害から守ると共に、強い抗炎症効果を示すことから、化粧品に配合することにより高いシワ改善、シミ改善、肌荒れ改善効果を持つ化粧品の開発が期待される。また、本発明の亜鉛錯体は、アミノ酸からなる生体構成成分を配位子として用いており、皮膚に塗布した場合に高い安全性を有するため、皮膚外用剤としても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の化粧料における亜鉛錯体の配合量は有効であれば特に制限はないが、0.0001〜5.0重量%が好ましく、0.01〜1.0重量%の範囲が更に好ましい。
【0009】
本発明で用いられる亜鉛源としては、ヒトへの投与に好適な亜鉛源であれば特に制限は無いが、例えば、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛等が挙げられる。尚、亜鉛源として亜鉛の鉱産塩を使用した場合には、pH調整剤として、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化バリウム等の塩基性水溶液を併用してもよい。また、亜鉛錯体を形成する配位子としてはスレオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、グリシン、プロリン、アルギニン、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン、アスパラギン酸、アラニン、ヒスチジン、リジン、セリン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、システイン、トリプトファン、ベタイン、テアニン、及びそれらアミド類などの誘導体や、ジペプチド類及びトリペプチド類などのオリゴペプチド類又はそれらの誘導体が挙げられる。
【0010】
本発明の化粧料は、上記必須成分のほかの化粧品、医薬部外品、医薬品に用いられる水性成分、油性成分、植物抽出物、動物抽出物、粉末、界面活性剤、油剤、アルコール、PH調整剤、防腐剤、酸化防止剤、増粘剤、色素、香料等を必要に応じて混合して適宜配合することにより調製される。 本発明の化粧料の剤形は特に限定されず、化粧水、乳液、クリーム、パック、パウダー、スプレー、軟膏、分散液、洗浄料等種々の剤形とすることができる。
【実施例】
【0011】
以下、本発明による亜鉛錯体の作製、細胞での効果試験、およびヒトでの効果試験の実施例を示す。更に、その素材を用いた化粧料への応用処方例等について述べるが、ここに記載された実施例に限定されないのは言うまでもない。
【0012】
〔プロリン-亜鉛錯体の作製〕
(溶液の調製1)
1)プロリン溶液:精製水50mlにプロリン8gを溶解させる。
2)硫酸亜鉛溶液:硫酸亜鉛7水和物10gを精製水30mlに溶解させる。
3)精製水50mlにグリシン15.0g、L−グルタミン酸14,7gを加え、100℃にて5時間撹拌後、溶解させる。これに、前もって調製しておいたプロリン溶液を加え良く撹拌する。更に、硫酸亜鉛溶液を添加し、良く撹拌する。冷却後、2N-NaOHでpH6.5に調整する。最後に精製水で255mlにする。この溶液中にプロリン-亜鉛錯体は4w/v%存在している。
上記溶液はpH13.0になっても沈澱を生じることなく、広いPH域で安定であった。
【0013】
〔グルタミン-亜鉛錯体の作製〕
(溶液の調製2)
1)L-グルタミン溶液:精製水50mlにL-グルタミン10.2gを溶解させる。
2)酸亜鉛溶液:硫酸亜鉛7水和物10gを精製水30mlに溶解させる。
3)精製水50mlにグリシン15.0g、L−グルタミン酸14,7gを加え、100℃にて5時間撹
拌後、溶解させる。これに、前もって調製しておいたプロリン溶液を加え良く撹拌する。更に、硫酸亜鉛溶液を添加し、良く撹拌する。冷却後、2N-NaOHでPH6.5にする。最後に精製水で250mlにする。この溶液中にL-グルタミン-亜鉛錯体は5w/v%存在している。
上記溶液はpH13.0になっても沈澱を生じることなく、広いPH域で安定であった。
【0014】
表1に調製した亜鉛錯体のpH変化による安定性を示す。硫酸亜鉛水溶液のpHは、5.3であるが、水酸化ナトリウムを添加すると直ちに沈澱を生じた。溶液の調整1,2で調整した亜鉛錯体、およびその他のアミノ酸錯体については、高いpH域で沈澱を生じず安定であった。
【0015】
【表1】

【0016】
〔効果の測定〕
(紫外線傷害防御効果の確認)
ヒト皮膚正常ケラチノサイトを12wellシャーレに1ウエルあたり5×104個植え付ける。各ウエルの培地に各試料を10μM添加し、24時間培養する。培地を除去してPBS(-)で洗浄後、20mJ/cm量のUV-Bを照射する。照射後、48時間培養したものの細胞数を計測する。
細胞数の計測は細胞を中性ホルマリンで固定後、0.05%アミドブラック(9%酢酸、0.1M酢酸Na)溶液1mlで30分間染色する。染色後、0.05N―NaOH 0.4mlで色素を抽出し、595nmの吸光度を測定して細胞数とした。なお、ケラチノサイトを培養する培地は下記の無血清培地を使用した。

培地 :ブレットキット EGM (改変 MCDB
131 培地)

添加物:牛脳抽出物(BBE) 12μg/ml, h-EGF 0.01μg/ml, ハイト゛ロコーチソ゛ン 1μg/ml, ケ゛ンタマイシン 50mg/ml, アンフォテリシン
50μg/ml
【0017】
表2には新たに作製した10種類のアミノ酸亜鉛錯体と、比較対照として硫酸亜鉛水溶液および、従来から化粧料に使用されていたグルコン酸亜鉛を用いて試験した結果を示した。紫外線を照射しない試験区の細胞増殖度を100とした場合、20mJ/cmの紫外線を照射した試験区は細胞増殖度が60%まで低下し、紫外線により細胞増殖に障害が出ていることがわかる。また、グルコン酸亜鉛を添加していた試験区では細胞増殖が70%となり、ある程度の紫外線傷害を予防する効果が認められた。これに対してアミノ酸亜鉛錯体を添加しておいた試験区は、セリン亜鉛錯体の77%を除いてすべて80%以上の細胞増殖を示し、紫外線による細胞への傷害が明らかに少なくなっていることが判った。
【0018】
【表2】

【0019】
〔抗炎症効果の確認〕
鳥居パッチバン(ミニサイズ)に試料15μlを塗布し、上腕内側皮膚に4時間貼付する。試料の種類は、起炎物質として10%SDS(ト゛テ゛シル硫酸ナトリウム)水溶液、有効成分としてプロリン亜鉛錯体5%水溶液、グルコン酸亜鉛5%水溶液、グリチルリチン酸ジカリウム5%水溶液を表3に示す割合で混合した試料を作り添付した。
【0020】
鳥居パッチバン剥離24時間後の皮膚状態を観察した結果を表−3に示した。また、皮膚反応の評価規準を表4に示した。表3に示したように、10%SDS水溶液塗布群は明らかな紅斑を示した。また、抗炎症剤として化粧品に広く使用されているグリチルリチン酸ジカリウム5%水溶液を10%添加した試料では、わずかな紅斑が認められ、充分な抗炎症効果は認められなかった。これに対して、プロリン亜鉛錯体5%水溶液を5%添加した試料では、紅斑は認められず、強い抗炎症作用を示すことがわかった。一方、硫酸亜鉛5%水溶液を10%添加した試験区、グルコン酸亜鉛5%水溶液を5%添加した試験区ではわずかな紅斑が認められ、プロリン亜鉛錯体と比較して抗炎症効果が低いことが明らかとなった。
【0021】
【表3】

【0022】
【表4】

【0023】
次に、本発明の各種成分を配合した化粧料の処方例を示すが、本発明はこれに限定されるものでない。
【0024】
〔化粧用クリーム〕
(成分)
(重量%)
a)ミツロウ
2.0
b)ステアリルアルコール 5.0
c)ステアリン酸
8.0
d)スクワラン
10.0
e)自己乳化型グリセリルモノステアレート
3.0
f)ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.)
1.0
g)プロリン亜鉛錯体
0.01
h)1,3-ブチレングリコール
5.0
i)水酸化カリウム

0.3
j)防腐剤・酸化防止剤
適量
k)精製水
残部
製法:a)〜f)までを加熱溶解し、80℃に保つ。g)〜k)までを加熱溶解し、80℃に保ち、a)〜f)に加えて乳化する。40℃まで撹拌しながら冷却する。
【0025】
〔乳液〕
(成分)
(重量%)
a)ミツロウ
0.5
b)ワセリン
2.0
c)スクワラン
8.0
d)ソルビタンセスキオレエート
0.8
e)ポリオキシエチレンオレイルエーテル(20E.O.) 1.2
f)d-δ-トコフェロール

1.0
g)グルタミン亜鉛錯体
1.0
h)1,3-ブチレングリコール
7.0
i)カルボキシビニルポリマー

0.2
j)水酸化カリウム

0.1
k)精製水

残部
l)防腐剤・酸化防止剤

適量
m)エタノール

7.0
製法:a)〜f)までを加熱溶解し、80℃に保つ。g)〜l)までを加熱溶解し、80℃に保ち、a)〜e)に加えて乳化し、50℃まで撹拌しながら冷却する。50℃でm)を添加し、40℃まで攪拌冷却する。
【0026】
〔乳液〕
(成分)
(重量%)
a)ミツロウ
0.5
b)ワセリン
2.0
c)スクワラン
8.0
d)ソルビタンセスキオレエート
0.8
e)ポリオキシエチレンオレイルエーテル(20E.O.) 1.2
f)メチオニン亜鉛錯体
5.0
g)グリチルリチン酸ジカリウム 0.1
h)1,3-ブチレングリコール
7.0
i)カルボキシビニルポリマー
0.2
j)水酸化カリウム
0.1
k)精製水
残部
l)防腐剤・酸化防止剤
適量
m)エタノール
7.0
製法:a)〜e)までを加熱溶解し、80℃に保つ。f)〜l)までを加熱溶解し、80℃に保ち、a)〜e)に加えて乳化し、50℃まで撹拌しながら冷却する。50℃でm)を添加し、40℃まで攪拌冷却する。
【0027】
〔化粧水 〕
(成分)
(重量%)
a)バリン亜鉛錯体
0.001
b)グリセリン
5.0
c)ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(20E.O.) 1.0
d)エタノール
6.0
e)香料
適量
f)防腐剤・酸化防止剤
適量
g)精製水
残部
h)ヒアルロン酸 0.1
製法:a)、b)、g)、h)を均一に混合する。c)〜f)を均一に混合し、a)、b)、g)、h)混合物に加える。
【0028】
〔化粧水〕
(成分)
(重量%)
a)アラニン亜鉛錯体
0.0001
b)1,3−ブチレングリコール
8.0
c)ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(20E.O.) 1.0
d)エタノール
6.0
e)香料
適量
f)防腐剤・酸化防止剤
適量
g)精製水 残部
製法:a)、b)、g)を均一に混合する。c)〜f)を均一に混合し、a)、b)、g)混合物に加える。
【0029】
〔洗顔剤〕
(成分)
(重量%)
a)グリシン亜鉛錯体
0.1
b)タルク
残部
c)セルロース
20.0
d)ミリスチン酸カリウム
30.0
e)ラウリルリン酸ナトリウム
10.0
f)香料
適量
g)防腐剤
適量
製法:a)〜g)までを混合し、よく撹拌、分散させ均一にする。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上詳述したごとく、本発明のアミノ酸亜鉛錯体は紫外線傷害からの防御効果、抗炎効果が高く、これを配合した化粧料は抗シワ、抗シミ、肌荒れ抑制化粧料及び皮膚外用剤へ応用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛と錯体を形成し得る、アミノ酸類、オリゴペプチド類、及びそれらの誘導体である化合物からなる配位子と亜鉛源とを含んでなる化粧料。
【請求項2】
亜鉛源が亜鉛の鉱産塩である請求項1に記載の化粧料。
【請求項3】
アミノ酸類が、スレオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、グリシン、プロリン、アルギニン、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン、アスパラギン酸、アラニン、ヒスチジン、リジン、セリン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、システイン、トリプトファン、ベタイン、テアニン、及びそれらのアミノ酸の誘導体からなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物である請求項1と2に記載の化粧料。
【請求項4】
オリゴペプチド類が、ジペプチド類及びトリペプチド類、又はそれらの誘導体からなる群から選ばれた1種又は2種以上の化合物である請求項1と2に記載の化粧料。

【公開番号】特開2006−131522(P2006−131522A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−320982(P2004−320982)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(591230619)株式会社ナリス化粧品 (200)
【Fターム(参考)】