説明

区間旅行時間情報収集システム及び車載装置

【課題】車両が特定の道路区間を通過する際に要する時間である区間旅行時間を推定するための情報を効率的に収集する。
【解決手段】車載装置は区間旅行時間を推定するための標準旅行時間表と補正係数表群とを予め備える。車載装置は走行中の道路区間と走行方向を特定する走行区間特定手段と区間旅行時間報告手段とを更に備える。区間旅行時間報告手段は車両が特定の道路区間を通過した際に実際に要した区間旅行時間と、標準旅行時間表と補正係数表群とから予め決められた算出規則に従って算出した推定区間旅行時間とを比較する。その差が予め定められた許容差以内であった場合には許容差以内であった旨を、許容差を超えていた場合には実際の区間旅行時間を、道路区間、走行方向、その時の変動要因と共に情報収集センターに送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が特定の道路区間を通過する際に要する時間である区間旅行時間を推定するための情報を効率的に収集するシステム及びそれに使用する車載装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、普及したカーナビゲーション装置に対して交通情報センターから無線により旅行時間や渋滞情報を提供するサービスが行なわれるようになった。こうした旅行時間や渋滞情報を提供するためには、各道路区間の通過所要時間である区間旅行時間を正確に把握しておく必要がある。
【0003】
このような区間旅行時間を把握する従来の方法としては、例えば特許文献1には予め定める間隔で道路上に設置した車両検知手段により検出した速度情報と検知器間の距離とから平均速度を求めて当該区間の走行に要する旅行時間を推定する技術が開示されている。しかし、この方法の場合には推定する区間毎に検知器を設置しなければならないため設備コストが高くなる。
【0004】
これに代わる方法としてプローブカーを走行させ、プローブカーから無線で送られる走行情報を交通情報センターに集めて統計処理し、区間旅行時間、渋滞状況をはじめとする交通状況を把握するシステムがある(例えば、特許文献2、3、4参照)。こうしたシステムではプローブカーとしてタクシー、バス等の営業車両が使用されることが多く、これら車両に走行情報収集装置を搭載して時々刻々の車両位置や車速、走行時間、走行距離等の走行状態に関する情報が集められる。集めた情報は、リアルタイムあるいは一定時間置きにまとめて交通情報センターに無線送信される。
【0005】
しかし、プローブカーが集める走行状態の情報量は多いため、こうした情報収集方式ではプローブカーから交通情報センターへの送信頻度や送信時間が多くなり通信費用が多額になるという問題がある。
【0006】
渋滞や区間旅行時間は変動するものであるが、その変動は時間帯、曜日、天候等により一定の傾向を持つ。その傾向は、道路拡張のような直接的な要因、他の交通手段の出現、周辺地域の道路拡張、新設等の間接的要因が無い限りその傾向は変わらないものである。こうした点を考慮すると、プローブカーが集めた走行状態に関する情報は、必ずしもその全てを交通情報センターに集める必要はないように考えられる。
【特許文献1】特開平4−39800号公報
【特許文献2】特開平7−29098号公報
【特許文献3】特開2002−251698号公報
【特許文献4】特開2003−296891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、こうした従来技術の問題点を解決するためになされたもので、その課題は、プローブカーが集めた交通情報の内の必要情報のみを交通情報センターに送信することで送信頻度や送信データ量を減らすことができる区間旅行時間情報収集システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、車両が特定の道路区間の通過に要する時間である区間旅行時間を推定するための情報を収集する区間旅行時間情報収集システムであって、通信ネットワークを介して接続した車載装置と情報収集センターに設置したサーバとにより構成され、前記車載装置は、道路区間毎に走行方向別の標準旅行時間と後記補正係数表群中の補正係数表の番号とを記載した標準旅行時間表と、旅行時間に影響する変動要因を考慮した実際の区間旅行時間を推定するために標準旅行時間に加える補正係数を記載した補正係数表群と、自車が走行中の道路区間と走行方向とを特定する走行区間特定手段と、区間旅行時間報告手段とを備え、該区間旅行時間報告手段は車両が特定の道路区間を通過した際には実際に要した区間旅行時間と、前記標準旅行時間表と補正係数表群とから予め決められた算出規則に従って算出した該道路区間の推定区間旅行時間とを比較し、その差が予め定められた許容差以内であった場合には許容差以内であった旨を、許容差を超えていた場合には実際の区間旅行時間を、走行した道路区間、走行方向、走行時の前記変動要因と共に前記サーバに送信することを特徴とする区間旅行時間情報収集システムである。
【0009】
ここで、実際の区間旅行時間とは、交通渋滞、信号待ち等の交通事情で車両が停止した時間は含み、バスの停留所における停車時間等の車両の業務上の理由による停車時間は含まない区間通過所要時間をいうものとする(以下、本明細書において同じ。)。
【0010】
本構成の区間旅行時間情報収集システムによれば、実際の区間旅行時間と推定区間旅行時間との差が許容差以内の場合にはその旨がサーバに報告される。そのような報告がされた場合には、標準旅行時間表と補正係数表群と算出規則とにより決まる区間旅行時間推定モデルは、その道路区間のその時の変動要因に対しては信頼できる推定モデルであると情報収集センターで判断することができる。反対に差が許容差を超えていた場合には、実際の区間旅行時間と走行した際の変動要因がサーバに報告される。そうした報告がされた場合には、その道路区間のその変動要因に対する区間旅行時間推定モデルは信頼できず、修正、改善を図る必要があると情報収集センターで判断することができる。
【0011】
本構成の場合、差が許容差以内の場合も許容差を超えた場合もその道路区間とその時の変動要因が報告され、許容差を終えた場合には実際の区間旅行時間も報告される。従って、情報収集センターでは同じ道路区間、同じ変動要因の場合について、区間旅行時間推定モデルが信頼できると判断された場合と改善が必要と判断された場合の双方の情報を多数集めることができ、集めた情報を統計処理することで区間旅行時間推定モデルの修正、改善を図ることができる。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の区間旅行時間情報収集システムにおいて、前記車載装置は走行軌跡と走行状態とを検出して時刻と共に走行履歴として記憶する走行履歴記憶手段を更に備え、前記区間旅行時間報告手段は前記許容差を超えていたと判定した場合には該走行履歴記憶手段に記憶した当該道路区間の走行履歴を前記サーバに追加送信することを特徴とする。
【0013】
実際の区間旅行時間と推定区間旅行時間との差が許容差を超えた場合には区間旅行時間推定モデルの修正、改善を行なう必要がある。本構成のようにその時の詳しい走行履歴が報告されれば修正、改善策を検討する上での参考資料として利用することができる。また、差が許容差以内で修正、改善の必要がないと判断される場合の詳しい走行履歴は、情報収集センター側にとっては価値が低い。詳しい走行履歴のデータ量は多い。本構成の場合には修正、改善が必要と判断される場合のみそうした量の多い走行履歴が送信される。従って、従来のように車載装置が区間旅行時間推定モデルを持たず、収集した大量の走行履歴を全て情報収集センターに送信する方式に比べると送信データ量が少なくなり、通信時間が短縮されて通信費用が少なくなる効果を奏する。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、前記変動要因には、走行した時間帯、走行した曜日、走行時の天候の何れか一つ以上を含むことを特徴とする。
【0015】
走行時の時間帯、曜日、天候は区間旅行時間に大きく影響を与える。従って、これらを変動要因として考慮に入れれば、信頼性の高い区間旅行時間推定モデルを作成することが可能となる。
【0016】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の区間旅行時間情報収集システムにおいて、前記区間旅行時間報告手段が前記サーバに送信する事項には、前記走行区間特定手段が走行中の道路区間を特定するために使用した地図データを特定する情報を含めることを特徴とする。
【0017】
車載装置が使用している地図データが、情報収集センターで作成した区間旅行時間推定モデルの想定する地図データと異なっていたのでは信頼性の高い情報を集めることはできない。本構成のようにすれば、地図データが一致しているか否かを情報収集センター側で確認することができる。
【0018】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の区間旅行時間情報収集システムにおいて、前記区間旅行時間報告手段は前記サーバへの報告事項を蓄積記憶しておく報告事項記憶手段を備え、該蓄積記憶した報告事項を所定時刻、又は所定時間間隔、又は報告事項の情報量が所定量を超えた時の何れかの時に前記サーバに送信することを特徴とする。
【0019】
道路区間を退出する度に報告をしたのでは通信頻度が多くなって通信費用が高くなる。本構成のように報告事項を蓄積しておいてまとめて報告すれば、通信頻度が少なくなって通信費用を少なくすることができる。
【0020】
また、請求項6に記載の発明は、車両が特定の道路区間の通過に要した時間である区間旅行時間を外部装置に報告する車載装置であって、道路区間毎に走行方向別の標準旅行時間と後記補正係数表群中の補正係数表の番号とを記載した標準旅行時間表と、旅行時間に影響する変動要因を考慮した実際の区間旅行時間を推定するために標準旅行時間に加える補正係数を記載した補正係数表群と、自車が走行中の道路区間と走行方向を特定する走行区間特定手段と、区間旅行時間報告手段とを備え、該区間旅行時間報告手段は車両が特定の道路区間を通過した際には実際に要した区間旅行時間と、前記標準旅行時間表と補正係数表群とから予め決められた算出規則に従って算出した該道路区間の推定区間旅行時間とを比較し、その差が予め定められた許容差以内であった場合には許容差以内であった旨を、許容差を超えていた場合には実際の区間旅行時間を、走行した道路区間、走行方向、走行時の前記変動要因と共に外部装置に送信することを特徴とする車載装置である。
【0021】
このような構成の車載装置は、情報の送信先である外部装置を情報収集センターのサーバとすることで請求項1に記載の発明と同様の効果を奏する。
【0022】
また、請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の車載装置において、前記車載装置は走行軌跡と走行状態とを検出して時刻と共に走行履歴として記憶する走行履歴記憶手段を更に備え、前記区間旅行時間報告手段は前記許容差を超えていたと判定した場合には該走行履歴記憶手段に記憶された当該道路区間の走行履歴を外部装置に追加送信することを特徴とする。
【0023】
このような構成の車載装置は、情報の送信先である外部装置を情報収集センターのサーバとすることで請求項2に記載の発明と同様の効果を奏する。
【0024】
また、請求項8に記載の発明は、前記変動要因には、走行した時間帯、走行した曜日、走行時の天候の何れか一つ以上を含むことを特徴とする。
【0025】
このような構成の車載装置は、請求項3に記載の発明と同様の効果を奏する。
また、請求項9に記載の発明は、請求項6に記載の車載装置において、前記区間旅行時間報告手段が外部装置に報告する事項には、前記走行区間特定手段が走行中の道路区間を特定するために使用した地図データを特定する情報を含めることを特徴とする。
【0026】
車載装置が使用している地図データが区間旅行時間推定モデルの想定する地図データと異なっていたのでは信頼性の高い情報を集めることはできない。本構成のようにすれば、地図データが一致しているか否かを送信先で確認することができる。
【0027】
また、請求項10に記載の発明は、請求項6に記載の車載装置において、前記区間旅行時間報告手段は外部装置への報告事項を蓄積記憶しておく報告事項記憶手段を備え、該蓄積記憶した報告事項を所定時刻、又は所定時間間隔、又は報告事項の容量が所定量を超えた時の何れかの時に外部装置に送信することを特徴とする。
このような構成の車載装置は、請求項5に記載の発明と同様の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る区間旅行時間情報収集システム及び車載装置の一実施形態につき図面を参照して説明する。図1は区間旅行時間情報収集システムの全体構成を示すブロック図である。
【0029】
本区間旅行時間情報収集システム1は、車両に搭載される車載装置2と情報収集センターに設置されるサーバ3とにより構成される。車載装置2は通常、複数存在し、通信ネットワーク3を介してサーバ3と情報交換可能に接続されている。通信ネットワーク4としては、例えば携帯電話網とインターネットとを接続したものを使用する。
【0030】
車載装置2は、区間旅行時間や渋滞情報を集めて報告することを依頼されたプローブカーと呼ばれる車両に搭載される装置である。本実施形態における車載装置2としては、一般のカーナビゲーション装置にそれら情報収集のための機能を追加した装置を想定している。車載装置2は、制御回路5、GPS受信機6、車速センサ7、走行状態検出用スイッチ群8、操作スイッチ群9、表示装置10、音声出力装置11、通信装置12、磁気ディスク記憶装置(以下、HDDという。)13を備えて構成される。
【0031】
制御回路5は、車載装置2の動作全般を制御する機能を有するものでマイクロコンピュータを主体に構成されている。内部にはCPU、RAM、ROM、それらを接続するバス、I/Oインターフェース、電源装置などを備える。
【0032】
GPS受信機6は複数のGPS用人工衛星からの信号を受信して自車の緯度、経度を算出して制御回路5に伝達する。車速センサ7は車速を検出するためのもので、例えばトランスミッションの回転を電気信号に変換して車速を検出する。走行状態検出用スイッチ群8については後に説明する。操作スイッチ群9は制御回路5へのコマンドやデータの入力用で、例えばカラー液晶ディスプレイ上に形成されたタッチスイッチ、リモコンスイッチ、音声入力装置等で構成される。表示装置10は、操作スイッチ群9から入力された情報の確認や道路地図、車両の現在位置、走行経路等を表示するためのもので、例えばカラー液晶ディスプレイで構成される。
【0033】
通信装置12はサーバ3と情報交換するためのものであるが、本実施形態の車載装置2はカーナビゲーション装置としても機能するのでVICS(Vehicle Information & Communication System)からの道路交通情報を受信できるようにしておくことが好ましい。音声出力装置11は、制御回路5からの出力情報を人工音声に変えて運転者に伝えるためのもので、車載装置2がカーナビゲーション装置として機能する場合に使用される。
【0034】
HDD13内には、本区間旅行時間情報収集システム1に特有の機能を発揮させるために必要な後述する地図データベース、標準時間表、補正係数表群、報告事項と、それらの情報を使用して目的とする機能を実行するためのプログラムが格納される。
【0035】
この他にHDD13内には、本車載装置2をカーナビゲーション装置としても機能させるために必要な各種プログラムが格納されている。そのプログラムとしては、GPS受信機6が検出した位置情報を車速センサ7、その他のセンサからの情報により補正して自車の現在位置を算出する機能、算出した現在位置を地図上に位置付けるマップマッチング処理機能、目的地や経由地の指定を受けて現在位置から目的地までの経路を探索する経路探索機能、その経路探索結果に応じた走行経路を地図画面上に表示して案内する経路案内機能、VICSからの道路交通情報を受信して運転者に知らせる機能などを実行するためのプログラム等がある。
この他にも車体方位センサ、距離センサ等がカーナビゲーション装置としての必要性から取り付けられることがある。
【0036】
情報収集センターに設置されるサーバ3は、制御装置15とHDD16を備えて構成される。HDD16内には、本区間旅行時間情報収集システム1に特有の機能を発揮するために必要な後述する標準旅行時間表、補正係数表群、及びプログラムが予め格納されている。
【0037】
次に、車載装置2のHDD13、サーバ3のHDD16内に予め格納される地図データベース、標準旅行時間表、補正係数表群について順に説明する。地図データベースはカーナビゲーション機能を発揮する際に使用される地図データを格納したデータベースである。本発明特有の機能では、その地図データ中に記憶されている道路区間(以下、リンクという。)を特定する情報(以下、リンクIDという。)を使用する。
【0038】
地図データは、通常、地図背景データ、道路データ、施設データの3種類のデータにより構成される。地図背景データは道路地図を表示装置10に表示する際の背景を描くためのデータであり、施設データはガソリンスタンド、レストラン等の各種施設を地図上へ表示したり施設内容を紹介したりするためのデータである。
【0039】
本発明が関係する道路データは、目的地までの経路探索、経路案内、道路網の表示のためのデータである。この道路データは、各道路の交差点、曲がり点、行き止まり等をノード、それぞれのノード間の道路区間をリンクと定義し、そのリンクを接続することにより道路地図を構成したものである。各リンクには前後のリンクとの接続情報、道路規制等の情報が属性として記憶されている。
【0040】
本発明に係る区間旅行時間情報収集システム1が収集しようとする情報は、この各リンクを車両が通過する際に要する時間である区間旅行時間を推定するための基礎情報である。この区間旅行時間は、通過時間帯、曜日、天候等の様々な走行時の要因(本明細書では、変動要因という。)による影響を受けて変動する。収集する基礎情報は、こうした変動要因を考慮に入れた実際の区間旅行時間を推定するためのものである。
【0041】
この区間旅行時間の推定値を算出するために使用されるのが標準旅行時間表と補正係数表群である。本実施形態では、補正係数表として通過時間帯/曜日補正係数表と天候補正係数表の2種類を使用しており、補正係数表群とはこの2種類の補正係数表を指している。通過時間帯/曜日補正係数表と天候補正係数表は、それぞれ同じ名称の下に複数の表が存在し、それらには表番号が付けられている。
【0042】
図2は、標準旅行時間表の例である。標準旅行時間表には、リンクIDに対応して走行方向別の標準旅行時間Tiと、その標準旅行時間の補正に使用する通過時間帯/曜日補正係数表の表番号Aiと天候補正係数表の表番号Biとが記載されている。
【0043】
図3は、通過時間帯/曜日補正係数表の構成を示したものである。この表は変動要因としてリンクを通過する際の通過時間帯と曜日とを考慮している。この2つの変動要因は独立してではなく相互に関連して旅行時間に影響を与えると考えられるために2次元のマトリクス状に補正係数が設定してある。m行n列に記載された記号amnは補正係数を表わす。
図4は、天候補正係数表の例である。天候は他の変動要因とは無関係に独立して旅行時間に影響を与えると考えて独立した補正係数bjが設定してある。
【0044】
これら3種類の表を用いることにより、ある曜日、時間帯、天候の下でリンクIDがiの道路区間を通過するのに要する推定区間旅行時間Tは、例えば次の式で計算される。
【0045】
T=Ti・amn・bj (1)式
この推定区間旅行時間Tを算出する式は(1)式に限られるものではない。本実施形態の区間旅行時間情報収集システム1が収集する情報は、この区間旅行時間を正確に推定するために推定区間旅行時間Tの計算式をどのようにするか、変動要因としてどのような要因を考慮する必要があるか、リンク毎の標準旅行時間Tiの値はどのような値にするか、補正係数表はどのように分類するか、補正係数値はどうするか等を決定する、即ち、区間旅行時間Tを推定する推定モデルを作成するための基礎となるデータである。収集した情報は情報収集センターにて統計的な解析がなされて、上記したような計算式、補正係数表、補正係数値等の決定/修正、即ち、推定モデルの決定/修正に使用される。
【0046】
次に、推定区間旅行時間Tが(1)式と図2の標準旅行時間表、図3の通過時間帯/曜日補正係数表、図4の天候補正係数表に基づいて計算されるものとして、本実施形態の区間旅行時間情報収集システム1による情報収集の手順を説明する。
運用に先立ち、サーバ3には図2の標準旅行時間表、図3の通過時間帯/曜日補正係数表、図4の天候補正係数表を記憶させる。前述したようにこれらの各表は、本システム1により収集された情報に基づいて順次、修正、改善されていくものであるため、最初から精度の高いものである必要はない。従って、最初は情報収集センターの担当者がリンク長や経験的な車速等に基づいて決めた暫定値でも構わない。
【0047】
これらの各表がサーバ3に記憶させたならば、今度は車載装置2からサーバ3にアクセスしてこれらの各表をダウンロードしてHDD13内に記憶させておく。勿論、ダウンロードによらないでCD等で渡すようにしてもよい。そのような状態で車載装置2を搭載する車両が走行すると、車載装置2が実際にかかった区間旅行時間や走行軌跡、走行状態に関する情報(走行履歴)を自動的にサーバ3に報告する。図5は、車載装置2の制御回路5が行なうその処理フローを表わしたものである。
【0048】
最初のステップS1では、自車位置の検出を行なう。自車位置はGPS受信機6が検出した緯度、経度情報を車速センサ7の検出信号やその信号を積分して得られる距離情報等を用いて補正することで求められる。このようにして得られた自車位置はなおも誤差を含んでいる。このためマップマッチング処理により地図の最寄りの道路上に位置付けられて最終的な自車位置が確定する。このような自車位置の検出は車両の走行中は一定周期で絶えず行なわれ、常に自車の位置が把握されている。
【0049】
ステップS2では、車両が新たなリンク(道路区間)に入ったか否かを判定する。先に説明したようにHDD13内の地図データベースに格納されている地図データ中には道路データが含まれており、その道路データはリンクとノードで道路網を表わしている。そして、各リンクにはその両端の座標、リンク長、リンク形状等の情報が属性として記憶されている。従って、検出した自車位置をそれらのリンク情報と照らし合わせることにより車両が新たなリンクに入ったか否かを判定する。その際、リンク内での走行方向も把握できる。
【0050】
新たなリンクに入っていない場合には、再びステップS2に戻って同じチェックを繰り返す。新たなリンクに入ったと判定された場合にはステップS3に移り、新たなリンクのリンクIDとその時刻を記憶する。
【0051】
続くステップS4では、走行履歴(プローブ情報)の収集を開始する。この走行履歴とは、車両の走行軌跡と走行状態の時系列を意味する。この走行履歴は後で説明するように、退出したリンクの実際の区間旅行時間と推定モデルによる推定旅行時間との差が許容差を超えていた場合にサーバ3に報告される。そして(1)式のような推定区間旅行時間Tの算出式や、補正係数表、補正係数の修正、改善のために使用される。
【0052】
走行軌跡は、一定時間置きの車両の位置情報を集めた時系列データとして収集される。走行状態としては車速の時系列データが収集される。車速がゼロで停止している状態については、渋滞、信号待ち等の交通事情で停止している場合とそれ以外の理由で停止している場合の2つのケースがある。従って、その区別の情報も収集する。これは、走行履歴情報収集に使用する車両(プローブカー)としては、タクシー、バス、トラック等の業務用車両が使用されることが多く、それらの車両は業務上の都合で停止する場合が多い。そのため業務上の都合による停車時間をリンク通過に要した時間から差し引いて実際の(正味の)区間旅行時間を求めるためである。
【0053】
この業務上の都合による停車時間は、バスであればバス停停止を認識するドアの開閉センサの信号で計測できる。タクシーの場合には実車空車の表示状態を検出するセンサの信号で計測できる。トラックの場合には荷下ろし停車センサの信号で計測できる。図1中に記載した走行状態検出用スイッチ群8は、これらのワイパー状態センサ、ドア開閉センサ、実車空車センサ、荷卸しセンサ等のことをいう。この走行履歴には、更に平均車速、走行距離等を含めてもよい。
【0054】
次のステップS5では、新たなリンクに入ったか否かを判定する。入っていなければステップS4に戻って走行履歴の収集を継続する。新たなリンクに入った場合はステップS6に移る。
ステップS6では、実際に要した区間旅行時間を算出する。この実際に要した区間旅行時間は、そのリンクの通過に要した時間から前述した交通事情以外の業務上の理由で停止していた時間を差し引いた値である。
【0055】
続くステップS7では、通過し終えたリンクについての推定区間旅行時間Tを算出する。推定区間旅行時間Tの算出は、前述した(1)式と図2の標準旅行時間表、図3の通過時間帯/曜日補正係数表、図4の天候補正係数表に基づいて行なう。変動要因としての天候の状態は、例えば雨又は雪が降っている天候かそれ以外の天候かの区別であれはワイパーが作動しているか否かをセンサで検出して判定できる。更に詳しい分類で天候を把握する場合には、運転者が操作スイッチ群9を操作して入力する。天候はそれ程頻繁に変わるものではないので、運転者が入力するようにしてもそれ程の手間にはならない。図4の天候補正係数表における天候区分は、ワイパーの作動状態から認識することができるように2区分にしてある。通過時間帯、曜日の変動要因は、制御回路5の内蔵する時計とカレンダにより把握することができる。
【0056】
続くステップS8では、ステップS6で算出した実際の区間旅行時間とステップS7で算出した推定区間旅行時間Tとの差を算出し、その時間差が予め決められている許容差以内か否かを判定する。許容差は固定値として決めておいてもよいし、標準旅行時間に対する割合で決めておいてもよい。あるいは、標準旅行時間を区分して区分毎に固定値を定めてもよい。
【0057】
時間差が許容差以内であった場合にはステップS9に移る。実際の区間旅行時間と推定区間旅行時間Tとの差が許容差以内であることは、(1)式及びその(1)式の計算に使用した標準旅行時間、補正係数とからなるその区間の区間旅行時間推定モデルが、そのリンクをその変動要因の下で通過する場合については信頼できるものであることを意味する。信頼できるものであれば、そのケースについては推定モデルを修正する必要はない。そのような場合、ステップS4で収集された走行履歴のデータは情報収集センターにとっては価値が低い。従って、ステップS9では時間差が許容差以内であった旨と、そのリンクID、走行方向、変動要因のみを情報収集センターへ送信する準備としてHDD13内の報告事項エリアに記憶する。ステップS4で収集した走行履歴は消去して構わない。
【0058】
ステップS8で時間差が許容差以上であった場合にはステップS10に移る。この場合は、(1)式及びその(1)式の計算に使用した標準旅行時間、補正係数とからなるその区間の区間旅行時間推定モデルが、そのリンクをその変動要因の下で通過する場合については信頼できるものでなく、修正の必要があることを意味する。従って、この場合にはステップS4で収集した走行履歴のデータを推定モデルの修正のための基礎情報として情報収集センターに送信する。その準備としてステップS10では、ステップS4で収集した走行履歴のデータをそのリンクID、走行方向、変動要因と共にHDD13内の報告事項エリアに記憶する。
【0059】
ステップS9、S10の処理後はステップS3に戻り、新たなリンクについて同様の処理を繰り返す。
HDD13内の報告事項エリアに蓄積記憶された報告事項は、通信頻度を減らすために所定時刻、又は所定時間間隔、又は報告事項の情報量が所定量を超えた時の何れかの時にまとめて情報収集センターのサーバに送信する。このようにして情報収集が行なわれる。
【0060】
このように本実施形態の区間旅行時間情報収集システム1では、情報収集センターで作成された区間旅行時間の推定モデルが車載装置にも記憶される。車載装置2は、リンクを退出する度に実際の走行に要した区間旅行時間と推定モデルにより計算した推定区間旅行時間とを比較する。その時間差が許容差以内であった場合にはデータ量の多い走行履歴は送信せず、許容差以内であった旨のみを情報収集センターのサーバ3に報告する。情報収集センター側としても推定モデルが正しければ修正作業を行なう必要がないため、集めた新たな走行履歴を送信してもらう必要はない。許容差以内であった旨の報告を受けるだけで十分である。従って、本システムによれば収集した走行履歴を全て情報収集センターに送信する従来の方式に比べて送信データ量を大幅に減らすことができる。その結果、通信費用が減少する効果がもたらされる。
【0061】
なお、車載装置2がサーバ3に報告する報告事項には、車載装置2が使用している地図データを特定する情報(地図データの名称、バージョン情報を含む)を含めるとよい。車載装置2が使用している地図データが、情報収集センターが想定している地図データと異なる場合があるからである。
【0062】
なお、特許請求の範囲に記載した次の各手段は、上記実施形態では次のような構成要素により構成されている。走行区間特定手段は、GPS受信機6、車速センサ7、地図データベース、制御回路5と自車位置算出プログラム、マップマッチング処理プログラムにより構成される。走行履歴記憶手段は前記走行区間特定手段、走行状態検出用スイッチ群8、HDD13、制御回路5と走行軌跡と走行状態とを検出し走行履歴としてHDD13内に記憶するプログラムにより構成される。区間旅行時間報告手段は、前記走行区間特定手段、通信装置12、標準旅行時間表、補正係数表群、制御回路5と図5のフローを処理するプログラム及び送信プログラムにより構成される。報告事項記憶手段はHDD13内の報告事項エリア、通信装置12、制御回路5と報告事項を報告事項エリアに記憶して特定時期にサーバに送信するプログラムにより構成される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】区間旅行時間情報収集システムの全体構成を示すブロック図である。
【図2】標準旅行時間表の例である。
【図3】通過時間帯/曜日補正係数表の構成例である。
【図4】天候補正係数表の例である。
【図5】車載装置2の処理フローである。
【符号の説明】
【0064】
図面中、1は区間旅行時間情報収集システム、2は車載装置、3はサーバ、4は通信ネットワーク、5は制御装置、12は通信装置を示す。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が特定の道路区間の通過に要する時間である区間旅行時間を推定するための情報を収集する区間旅行時間情報収集システムであって、
通信ネットワークを介して接続した車載装置と情報収集センターに設置したサーバとにより構成され、
前記車載装置は、道路区間毎に走行方向別の標準旅行時間と後記補正係数表群中の補正係数表の番号とを記載した標準旅行時間表と、旅行時間に影響する変動要因を考慮した実際の区間旅行時間を推定するために標準旅行時間に加える補正係数を記載した補正係数表群と、自車が走行中の道路区間と走行方向とを特定する走行区間特定手段と、区間旅行時間報告手段とを備え、
該区間旅行時間報告手段は車両が特定の道路区間を通過した際には実際に要した区間旅行時間と、前記標準旅行時間表と補正係数表群とから予め決められた算出規則に従って算出した該道路区間の推定区間旅行時間とを比較し、その差が予め定められた許容差以内であった場合には許容差以内であった旨を、許容差を超えていた場合には実際の区間旅行時間を、走行した道路区間、走行方向、走行時の前記変動要因と共に前記サーバに送信することを特徴とする区間旅行時間情報収集システム。
【請求項2】
請求項1に記載の区間旅行時間情報収集システムにおいて、前記車載装置は走行軌跡と走行状態とを検出して時刻と共に走行履歴として記憶する走行履歴記憶手段を更に備え、前記区間旅行時間報告手段は前記許容差を超えていたと判定した場合には該走行履歴記憶手段に記憶した当該道路区間の走行履歴を前記サーバに追加送信することを特徴とする区間旅行時間情報収集システム。
【請求項3】
前記変動要因には、走行した時間帯、走行した曜日、走行時の天候の何れか一つ以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の区間旅行時間情報収集システム。
【請求項4】
請求項1に記載の区間旅行時間情報収集システムにおいて、前記区間旅行時間報告手段が前記サーバに送信する事項には、前記走行区間特定手段が走行中の道路区間を特定するために使用した地図データを特定する情報を含めることを特徴とする区間旅行時間情報収集システム。
【請求項5】
請求項1に記載の区間旅行時間情報収集システムにおいて、前記区間旅行時間報告手段は前記サーバへの報告事項を蓄積記憶しておく報告事項記憶手段を備え、該蓄積記憶した報告事項を所定時刻、又は所定時間間隔、又は報告事項の情報量が所定量を超えた時の何れかの時に前記サーバに送信することを特徴とする区間旅行時間情報収集システム。
【請求項6】
車両が特定の道路区間の通過に要した時間である区間旅行時間を外部装置に報告する車載装置であって、
道路区間毎に走行方向別の標準旅行時間と後記補正係数表群中の補正係数表の番号とを記載した標準旅行時間表と、旅行時間に影響する変動要因を考慮した実際の区間旅行時間を推定するために標準旅行時間に加える補正係数を記載した補正係数表群と、自車が走行中の道路区間と走行方向を特定する走行区間特定手段と、区間旅行時間報告手段とを備え、
該区間旅行時間報告手段は車両が特定の道路区間を通過した際には実際に要した区間旅行時間と、前記標準旅行時間表と補正係数表群とから予め決められた算出規則に従って算出した該道路区間の推定区間旅行時間とを比較し、その差が予め定められた許容差以内であった場合には許容差以内であった旨を、許容差を超えていた場合には実際の区間旅行時間を、走行した道路区間、走行方向、走行時の前記変動要因と共に外部装置に送信することを特徴とする車載装置。
【請求項7】
請求項6に記載の車載装置において、前記車載装置は走行軌跡と走行状態とを検出して時刻と共に走行履歴として記憶する走行履歴記憶手段を更に備え、前記区間旅行時間報告手段は前記許容差を超えていたと判定した場合には該走行履歴記憶手段に記憶された当該道路区間の走行履歴を外部装置に追加送信することを特徴とする車載装置。
【請求項8】
前記変動要因には、走行した時間帯、走行した曜日、走行時の天候の何れか一つ以上を含むことを特徴とする請求項6に記載の車載装置。
【請求項9】
請求項6に記載の車載装置において、前記区間旅行時間報告手段が外部装置に報告する事項には、前記走行区間特定手段が走行中の道路区間を特定するために使用した地図データを特定する情報を含めることを特徴とする車載装置。
【請求項10】
請求項6に記載の車載装置において、前記区間旅行時間報告手段は外部装置への報告事項を蓄積記憶しておく報告事項記憶手段を備え、該蓄積記憶した報告事項を所定時刻、又は所定時間間隔、又は報告事項の情報量が所定量を超えた時の何れかの時に外部装置に送信することを特徴とする車載装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−134158(P2006−134158A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−323825(P2004−323825)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】