説明

医療機器用洗浄消毒剤

【課題】洗浄作用及び消毒作用に優れるとともに、環境負荷が小さく、且つ安全性が高い医療機器用洗浄消毒剤を提供する。
【解決手段】 過酸化水素0.1〜6.0重量%、有機過酸0.1〜2.0重量%、有機酸0.5〜40重量%を含有してなり、前記有機酸が酢酸と、酒石酸及び/又はマロン酸とからなことを特徴とする医療機器用洗浄消毒剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人工透析装置とそれに付随する配管、歯科用医療機器、及び内視鏡等を始めとするさまざまな医療機器用洗浄消毒剤に関し、更に詳しくは、洗浄及び消毒効果に優れ、環境負荷が少なく、安全性の高い医療機器用洗浄消毒剤に関する。
【背景技術】
【0002】
人工透析装置とそれに付随する配管には、透析治療を行うたびに患者体内より濾過されたタンパク質等の老廃物や透析治療に使用される透析液由来の炭酸カルシウムが付着し、それを放置すると装置の誤作動や細菌の増殖による感染症、細菌から生成されるエンドトキシン等の毒素による発熱などがおこり正常な透析治療ができなくなる。そのため、透析治療を安全に行うには、人工透析装置とその周辺機器等の洗浄(除去)と消毒を適宜行うことが不可欠である。
【0003】
人工透析装置及びその周辺機器の洗浄および消毒方法としては、患者体内より濾過されたタンパク質等の老廃物の洗浄と消毒を目的に次亜塩素酸ナトリウムを用いる方法と炭酸カルシウムの洗浄を目的に酢酸を用いる方法とを連続して行う方法、消毒と炭酸カルシウムの洗浄を目的に過酢酸水溶液を用いる方法と患者体内より濾過されたタンパク質等の老廃物の洗浄目的に次亜塩素酸ナトリウムを用いる方法を連続して行う方法(例えば、特許文献1参照)、過酢酸水溶液にリン酸等の無機酸を加えタンパク質等の洗浄能力を高めた水溶液を用い、消毒と炭酸カルシウムの洗浄と患者体内より濾過されたタンパク質等の老廃物の洗浄を一度に行う方法等がある。
【0004】
また、歯科用医療機器は口腔内で使用されることが多く、体液やさまざまな汚れが付着するためその洗浄はもちろん、細菌やウイルス等による二次的感染を防止するための消毒も適宜行う必要があり、一般的には、次亜塩素酸ナトリウムや塩化ベンザルコニウムに界面活性剤を加えた水溶液等により洗浄及び消毒を行う方法等がある。
【0005】
また、内視鏡は患者体内に挿入し使用するため、体液や老廃物等、使用部位によりさまざまな汚れが付着するため、その洗浄はもちろん、細菌やウイルス等による二次的感染を防止するための消毒も適宜行う必要があり、一般的には、界面活性剤やタンパク分解酵素等で汚れを洗浄し、その後グルタールアルデヒド等の殺菌剤で消毒を行う方法等がある。
【0006】
また、過酸化水素3.5〜6%、有機酸5〜30%、及び有機過酸0.4〜3.4%を含み、(有機酸+有機過酸)/過酸化水素の重量比が1以上である水溶液からなる医療機器用消毒洗浄剤が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
更に、過酢酸、酢酸、過酸化水素及び無機酸を含有する殺菌洗浄剤組成物が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平8−224299号公報
【特許文献2】特開平11−76380号公報
【特許文献3】特開2003−292996号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、次亜塩素酸ナトリウム洗浄と酢酸洗浄を連続して行う方法や、過酢酸水溶液洗浄と次亜塩素酸ナトリウム洗浄を連続して行う方法は、次亜塩素酸ナトリウムの特性である強い腐食性によって装置部品や配管等の劣化がおこるばかりでなく、2種類の洗浄方法を連続して行うことから作業上煩雑であり、多大な労力と時間を費やすという問題がある。また、実際の透析治療現場においては夜間遅い時間まで治療を行う場合もあり、2種類の洗浄方法を連続して行うことが出来ない場合もある。更に、塩素を未処理のまま廃液として排出し環境に悪影響を与えるという問題もある。
【0008】
また、過酢酸水溶液にリン酸等の無機酸を加えた水溶液を用いる洗浄方法の場合は、一般に多量のリンを使用することになるが、リンは環境負荷物質の代表的な物質であるため、この方法で洗浄を行うと自然環境に多大な影響を与えることが避けられない。
【0009】
また、歯科用医療機器において、従来の次亜塩素酸ナトリウムや塩化ベンザルコニウムに界面活性剤を加えた水溶液等により洗浄及び消毒を行う方法は、次亜塩素酸ナトリウムや塩化ベンザルコニウムの特性である強い腐食性によって機器の部品の劣化がおこる上、塩素を未処理のまま廃液として排出し環境を悪化させるという問題を含んでいる。
また、内視鏡において、従来のグルタールアルデヒドを使用する洗浄方法は、グルタールアルデヒド自体の毒性が強く作業者に対する安全確保に多大な注意が必要であり、かつ、タンパク質の凝固作用が強いため体液等の汚れが落としにくいという問題をはらんでいる。
【0010】
更に、過酸化水素、有機酸及び有機過酸を含有する医療機器用消毒洗浄剤は、リン酸等の環境負荷物質を含まないものの、タンパク質等の老廃物や炭酸カルシウムの洗浄力が十分でないという問題を有している。
【0011】
更にまた、過酢酸、酢酸、過酸化水素及び無機酸を含有する殺菌洗浄剤組成物は、例えば、実施例において、リン酸を20%又は40%含有する殺菌洗浄剤組成物が示されているが、このように多量のリン酸を使用すれば、前記した如く、環境への多大な影響は避けられない。
【0012】
本発明は、上記実情に鑑み、人工透析装置とそれに付随する配管、歯科用医療機器、及び内視鏡等を始めとするさまざまな医療機器の洗浄及び消毒において、一度の操作で効果の高い洗浄と消毒が可能で、環境負荷が少なく、取り扱いの安全性が高い洗浄消毒剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、過酸化水素0.1〜6.0重量%、有機過酸0.1〜2.0重量%、有機酸0.5〜40重量%を含有してなり、前記有機酸が酢酸と、酒石酸及び/又はマロン酸とからなことを特徴とする医療機器用洗浄消毒剤を内容とする。
【0014】
請求項2の発明は、過酸化水素0.1〜6.0重量%、有機過酸0.1〜2.0重量%、有機酸0.5〜40重量%、無機酸0.5〜2.0%を含有してなり、前記有機酸が酢酸と、酒石酸及び/又はマロン酸とからなことを特徴とする医療機器用洗浄消毒剤を内容とする。
【0015】
請求項3の発明は、酢酸と、酒石酸及び/又はマロン酸との割合が重量基準で前者が1に対して後者が1〜3であることを特徴とする請求項1又は2記載の医療機器用洗浄消毒剤を内容とする。
【0016】
請求項4の発明は、無機酸がリン酸、硝酸、硫酸から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2又は3記載の医療機器用洗浄消毒剤を内容とする。
【0017】
請求項5の発明は、無機酸がリン酸であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の医療機器用洗浄消毒剤を内容とする。
【0018】
請求項6の発明は、リン酸の含有量が1重量%未満であることを特徴とする請求項4又は5記載の医療機器用洗浄消毒剤を内容とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、環境負荷物質であるリン酸に代表される無機酸の量を使用しないか又は環境に悪影響がない程度の量に減少させ、これの不使用又は減少によるタンパク質等に対する溶解力の低下を、有機酸として、酢酸と、酒石酸及び/又はマロン酸とを併用することによる補完したことを特徴とし、従って、洗浄消毒効果に優れるとともに、環境負荷が無いか又は少なく、安全性の高い医療機器用洗浄消毒剤を提供することができる。
【0020】
酢酸と、酒石酸及び/又はマロン酸の割合が、重量基準で前者が1に対して後者が1〜3である場合に、上記した補完効果が最も効果的に発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の第1の医療機器用洗浄消毒剤は、過酸化水素0.1〜6.0重量%、有機過酸0.1〜2.0重量%、有機酸0.5〜40重量%を含有してなり、前記有機酸が酢酸と、酒石酸及び/又はマロン酸とからなことを特徴とする。
【0022】
本発明における過酸化水素は、酸化剤として微生物の細胞タンパク質を変性又は破壊して殺菌するとともに、微生物が生成した毒素を酸化分解するものである。
過酸化水素の含有量は0.1〜6.0重量%が好ましい。過酸化水素の含有量が0.1重量%未満では上記殺菌力、毒素の分解力が不十分となり、一方、6.0重量%を越えると皮膚に接すると強い炎症を生じるなど安全性、取り扱い性に問題を生じ、薬事法上劇物となるので好ましくない。
【0023】
有機過酸は、過酸化水素と同じく、酸化剤として上記した過酸化水素と同様の役割を果たすものである。有機過酸は過酸化水素と有機酸とが反応することにより生成するもので、その含有量は0.1〜2.0重量%が好ましい。有機過酸の含有量が0.1重量%未満では殺菌力、毒素の分解力が不十分となり、一方、2.0重量%を越えても余り効果に変化がなく、また、過酸化水素や有機酸の含有量を増大する必要が生じ、過酸化水素の場合は上記したように、安全性、取り扱い性に問題が生じ、有機酸の場合はコストアップとなる。
【0024】
有機酸は、上記した如く、過酸化水素と反応して有機過酸を生成する。有機酸の含有量は0.5〜40重量%が好ましい。有機酸の含有量が0.5重量%未満では過酸化水素と反応して生成する有機過酸が少なくなり、本発明の目的とする十分な効果が得られない傾向があり、一方、40重量%を越えても余り効果に変化がなく、かえって不経済となる。
このような有機酸としては、酢酸と、酒石酸及び/又はマロン酸とを併用する。これらの併用する割合は、重量基準で酢酸が1に対して酒石酸及び/又はマロン酸が1〜3である場合に、より好ましい併用効果を発揮する。
【0025】
上記過酸化水素、有機過酸、有機酸及び無機酸に通常水を加えて上記含有量の水溶液形態とされるが、必要に応じ、更に、安定剤、香料、その他の添加剤を含有することも可能である。また、本発明の医療機器用洗浄消毒剤は、そのまま又は必要に応じ5〜200倍程度に希釈して使用される。
【0026】
本発明の第2の医療機器用洗浄消毒剤は、過酸化水素0.1〜6.0重量%、有機過酸0.1〜2.0重量%、有機酸0.5〜40重量%、無機酸0.5〜2.0%を含有してなり、前記有機酸が酢酸と、酒石酸及び/又はマロン酸とからなことを特徴とする。
【0027】
即ち、上記第1の医療機器用洗浄消毒剤は、リン酸に代表される無機酸を使用することなく、特定の有機酸を併用することにより無機酸不使用によるタンパク質等の溶解力の低下を補完抑制したものであるが、第2の医療機器用洗浄消毒剤は、更に無機酸を含有させてタンパク質等の溶解力を高めると同時に、無機酸の含有量を環境に悪影響を与えない程度に減少させる一方、無機酸の減少によるタンパク質等の溶解力の低下を特定の有機酸の併用によって補完抑制したものである。
【0028】
本発明における無機酸は、リン酸、硝酸、硫酸が用いられる。これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられるが、タンパク質等の溶解力の大きさからはリン酸が好ましい。無機酸の含有量は0.5〜2.0重量%が好ましく、0.5重量%未満ではタンパク質等の溶解力が不十分となり、一方、2.0重量%を越えると、特にリン酸を用いる場合には、環境への影響が無視し得なくなる。リン酸を使用する場合は、環境への影響の観点から、1.0重量%未満が好ましく、更に好ましくは0.9重量%以下である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに制限されないことは云うまでもない。
尚、以下の記載において、特に断らない限り、%は重量%である。
【0030】
実施例1〜3、比較例1〜4
表1の配合・組成からなる医療機器用洗浄消毒剤を調製した。尚、残部は水(RO水)で、組成物全体を100%とした。
【0031】
(タンパク質溶解力、炭酸カルシウム溶解力試験)
得られた実施例1〜3及び比較例1〜4で得られた医療機器用洗浄消毒剤のタンパク質溶解力及び炭酸カルシウム溶解力を下記の方法でテストした。結果を表1に示す。
【0032】
「タンパク質溶解力試験」
ガラスプレートにアルブミン(卵製)と血漿グロブリンの混合物を水に溶解し、塗布して乾燥したものを準備し、医療機器用洗浄消毒剤を各々RO水で50倍に希釈した液に浸漬して、たんぱく質の溶解力を大きい方から小さい方へ◎+ 、◎、◎- 、○、○- 、△、×で示す。
【0033】
「炭酸カルシウム溶解力」
医療機器用洗浄消毒剤を各々20mL採りRO水で1000mLとして、これに炭酸カルシウムの粉末を加え、スターラーで撹拌しながら液の濁りが生じる直前の炭酸カルシウム添加量(g)を測定する。
【0034】
【表1】

【0035】
上記表1の結果から明かなように、有機酸として酢酸と、酒石酸及び/又はマロン酸とを併用することにより、タンパク質溶解力及び炭酸カルシウム溶解力に優れた医療機器用洗浄消毒剤が得られることが分かる。これらの医療機器用洗浄消毒剤は、リン酸等の無機酸を含有していないので環境に悪影響を及ぼす恐れもない。
【0036】
実施例4〜9、比較例5〜6
表2の配合・組成に変更した他は実施例1〜3と同様にして医療機器用洗浄消毒剤を調製し、タンパク質溶解力、炭酸カルシウム溶解力試験を行った。結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
上記表2の結果から明かなように、リン酸を1%未満にまで減少させても、有機酸として、酢酸と、酒石酸及び/又はマロン酸とを併用することにより、リン酸を10%使用した比較例6と概ね同レベルのタンパク質溶解力及び炭酸カルシウム溶解力を示すことが分かる。しかも、リンの含有量は0.28%で、比較例6に比べて1/10以下であり、環境への悪影響が極めて小さいことが分かる。
【0039】
(殺菌力試験)
次に、得られた実施例1〜9及び比較例1〜6で得られた医療機器用洗浄消毒剤の各種微生物に対する殺菌力を下記の方法でテストした。結果を表3、表4に示す。尚、表3、表4中「+」は菌が死滅しなかったこと(殺菌力なし)を示し、「−」は菌が死滅した(殺菌力あり)ことを示す。
【0040】
「試験溶液の調製方法」
細菌:各試験菌株を0.2%肉エキス加普通ブイヨン[栄研化学]で35℃、18〜24時間培養したものを試験菌液とした。
酵母:試験菌株をブドウ糖ペプトン培地[日本製薬]で25℃、48時間培養したものを試験菌液とした。
「後培養培地及び培養条件」
細菌:SCDLP培地[日本製薬]、35℃、2日間
酵母:GPLP培地[日本製薬]、25℃、7日間
「試験操作」
精製水に各試験濃度に希釈した検体10mLに各試験菌液1mLを加え、混合後、20℃で一定時間作用させた。作用開始後、各試験時間後に作用試験管から後培養培地に1白金耳量移植し、培養後、試験菌の生育の有無を観察し、菌の生死を判定した。なお、対照例として精製水についても同様に試験した。
【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
上記表3及び表4の結果から明かなように、本発明の医療機器用洗浄消毒剤は十分な殺菌力を備えていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
叙上のとおり、本発明の医療機器用洗浄消毒剤は、洗浄作用及び消毒作用に優れるとともに、環境負荷が小さく、且つ安全性が高く、頗る有用性の高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素0.1〜6.0重量%、有機過酸0.1〜2.0重量%、有機酸0.5〜40重量%を含有してなり、前記有機酸が酢酸と、酒石酸及び/又はマロン酸とからなことを特徴とする医療機器用洗浄消毒剤。
【請求項2】
過酸化水素0.1〜6.0重量%、有機過酸0.1〜2.0重量%、有機酸0.5〜40重量%、無機酸0.5〜2.0%を含有してなり、前記有機酸が酢酸と、酒石酸及び/又はマロン酸とからなことを特徴とする医療機器用洗浄消毒剤。
【請求項3】
酢酸と、酒石酸及び/又はマロン酸との割合が重量基準で前者が1に対して後者が1〜3であることを特徴とする請求項1又は2記載の医療機器用洗浄消毒剤。
【請求項4】
無機酸がリン酸、硝酸、硫酸から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2又は3記載の医療機器用洗浄消毒剤。
【請求項5】
無機酸がリン酸であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の医療機器用洗浄消毒剤。
【請求項6】
リン酸の含有量が1重量%未満であることを特徴とする請求項4又は5記載の医療機器用洗浄消毒剤。

【公開番号】特開2006−206535(P2006−206535A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−22820(P2005−22820)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(598104300)大阪佐々木化学株式会社 (1)
【Fターム(参考)】