説明

医療用材料

【課題】次世代の先端医療用具や人工臓器の開発のために、タンパク質や血球などの生体成分との相互作用がないなどの優れた生体適合性を有する生体適合性ポリマーを含有する医療用被膜形成樹脂組成物および前記生体適合性ポリマーからなる被膜を有する医療用材料を提供すること。
【解決手段】式(I):


で表されるN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン1〜100重量%および二重結合1個及び有機基を有するアルケン化合物で表される生体適合性を有する重合性モノマー0〜99重量%を含有するモノマー組成物を重合させてなる生体適合性ポリマーを含有する医療用被膜形成樹脂組成物、および前記生体適合性ポリマーからなる被膜を有する医療用材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用材料に関する。さらに詳しくは、生体適合性ポリマーからなる被膜を有する、カテーテル、ガイドワイヤー、人工血管、血液透析膜、内視鏡などの医療材料および前記被膜に好適に使用しうる医療用被膜形成樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、臨床で使用されているポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ナイロン、ポリ塩化ビニルなどの医療用材料は、単に工業用樹脂材料を医療用に転用したものである。したがって、これらの医療用材料は、血液適合性が十分であるとはいえず、血液との接触に伴うタンパク質の表面吸着が原因で血栓が発生するおそれがある。このように血栓が発生した場合、血流を停止させたり、生成した血栓が血流とともに移動し、肺血栓症、脳血栓症、心筋梗塞、静脈炎などの合併症を引き起こすおそれがある。
【0003】
したがって、これらの医療材料を実際に用いる場合には、一般に抗血液凝固剤が併用されているが、抗血液凝固剤を使用した場合には、肝臓障害、出血時間の延長、アレルギー反応などの様々な副作用を生じるおそれがある。
【0004】
そこで、これらの課題を解決するために、リン脂質の極性基であるホスホコリルコリンを高分子鎖の側鎖に有するポリ2−メタクリロリルオキシエチルホスホコリン(以下、MPCポリマーという)が用いられた医療材料が提案されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0005】
MPCポリマーは、生体膜と同じ両性型のリン脂質を有することから、生体適合性に優れ、その表面に血漿タンパク質が吸着せず、血小板の粘着や活性化などを誘発しないという利点があると解されている。
【0006】
しかし、MPCポリマーを構成している2−メタクリロリルオキシエチルホスホコリン(以下、MPCという)は、その調製のために煩雑な操作を有し、しかもその純度を高めることが困難であるとともに、生成した結晶が短時間で潮解するという欠点があるため、その取り扱いが不便であることなどが影響して、合成高分子化合物としては比較的高価である。
【0007】
これに対して、比較的安価でかつ容易に大量に調製することができる化合物として、グリシン型の両性基を持つN−(メタ)アクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン(以下、CMBという)が提案されている(例えば、特許文献3〜5参照)。しかし、両性型リン脂質系ポリマーの生体適合性は、広く知られているが、その他の両性型官能基を有する合成高分子化合物の生体適合性は、知られていない。
【0008】
【特許文献1】特開昭54−63025号公報
【特許文献2】特開2000−279512号公報
【特許文献3】特開平9−95474号公報
【特許文献4】特開平9−95586号公報
【特許文献5】特開平11−222470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、次世代の先端医療用具や人工臓器の開発のために、タンパク質や血球などの生体成分との相互作用がないなどの優れた生体適合性を有する生体適合性ポリマーを含有する医療用被膜形成樹脂組成物および前記生体適合性ポリマーからなる被膜を有する医療用材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
(1)式(I):
【0011】
【化1】

【0012】
で表されるN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン1〜100重量%および式(II):
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rは有機基を示す)
で表される生体適合性を有する重合性モノマー0〜99重量%を含有するモノマー組成物を重合させてなる生体適合性ポリマーを含有する医療用被膜形成樹脂組成物、および
(2)式(I):
【0015】
【化3】

【0016】
で表されるN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン1〜100重量%および式(II):
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rは有機基を示す)
で表される生体適合性を有する重合性モノマー0〜99重量%を含有するモノマー組成物を重合させてなる生体適合性ポリマーからなる被膜を有する医療用材料
に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の生体適合性ポリマーを含有する医療用被膜形成樹脂組成物および前記生体適合性ポリマーからなる被膜を有する医療用材料は、タンパク質や血球などの生体成分との相互作用がないなどの優れた生体適合性を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の医療用被膜形成樹脂組成物は、式(I)で表されるN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン(以下、CMBという)1〜100重量%および式(II)で表される生体適合性を有する重合性モノマー0〜99重量%を含有するモノマー組成物を重合させることによって調製することができる。
【0021】
本発明の医療用被膜形成樹脂組成物には、CMBが用いられている。CMBからなるポリマーは、その表面に存在する水のクラスターが保持されており、タンパク質や血小板の吸着が極めて少ないという利点がある。したがって、本発明の医療用被膜形成樹脂組成物は、CMBが用いられていることから、生体適合に優れた被膜を素材に与えることができる。
【0022】
CMBは、例えば、特開平9−95474号公報、特開平9−95586号公報、特開平11−222470号公報などに記載されている方法により、容易に高純度で調製することができる。
【0023】
モノマー組成物におけるCMBの含有量は、1〜100重量%である。モノマー組成物におけるCMBの含有量は、生体適合性を高める観点から、1重量%以上、好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上である。また、式(II)で表される重合性モノマーを使用することにより、耐水性、生体成分吸着性、剛性、加工性、成形性などの所望の物性を十分に発現させる観点から、モノマー組成物におけるCMBの含有量は、好ましくは99重量%以下、より好ましくは95重量%以下、さらに好ましくは90重量%以下である。
【0024】
式(II)で表される生体適合性を有する生体適合性の高い重合性モノマーにおいて、Rは水素原子またはメチル基、Rは有機基を示す。Rが示す有機基の代表例としては、−COOR基(Rは炭素数1〜22のアルキル基を示す)、−COO−R−OH基(Rは炭素数1〜4のアルケニル基を示す)、−CONR基(RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)、−OCO−R基(Rはメチル基またはエチル基を示す)、式(III):
【0025】
【化5】

【0026】
(式中、Rは炭素数3〜5のアルキレン基を示す)で表される基、式(IV):
【0027】
【化6】

【0028】
(式中、Rは炭素数2〜9のアルキル基、R10は水素原子またはメチル基)で表される基などが挙げられる。
【0029】
の中では、−COO−R−OH基、−CONR基、−COOR基および式(III)で表される基は、生体適合性の観点から好ましい。
【0030】
式(II)で表される重合性モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸エチルカルビトール、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシブチル、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−オクチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、スチレン、イタコン酸メチル、イタコン酸エチル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等の単官能モノマー、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミド、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどの多官能モノマーなどが挙げられ、これらのモノマーは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0031】
式(II)で表される重合性モノマーの中では、生体適合性の観点から、ブチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどが好ましい。
【0032】
モノマー組成物における式(II)で表される重合性モノマーの含有量は、得られる医療用被膜形成組成物が使用される生体部位、使用目的などによって異なるので、一概には決定することができない。通常、得られる生体適合性ポリマーの親水性、耐水性、生体成分吸着性、剛性、加工性、成形性などに応じて適宜決定することが好ましい。
【0033】
モノマー組成物における式(II)で表される重合性モノマーの含有量は、0〜99重量%である。モノマー組成物における式(II)で表される重合性モノマーの含有量は、生体適合性を高める観点から、99重量%以下、好ましくは95重量%以下、より好ましくは90重量%以下である。また、式(II)で表される重合性モノマーを使用することにより、耐水性、生体成分吸着性、剛性、加工性、成形性などの所望の物性を十分に発現させる観点から、モノマー組成物における式(II)で表される重合性モノマーの含有量は、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上である。
【0034】
なお、モノマー組成物がCMBのみで構成される場合には、得られる重合体は、CMBの単独重合体であり、モノマー組成物がCMBおよび式(II)で表される重合性モノマーで構成される場合には、得られる重合体は、CMBと式(II)で表される重合性モノマーとの共重合体となる。
【0035】
生体適合性ポリマーは、例えば、溶媒として水または有機溶媒を用いた溶液重合法により、モノマー組成物を重合させることによって調製することができる。より詳しくは、所定量のCMBおよび式(II)で表される重合性モノマーを含有するモノマー組成物を精製水または有機溶媒に溶解させ、得られた溶液を攪拌しながら、該溶液に重合開始剤を添加し、不活性ガス雰囲気中でモノマー組成物を重合させることによって得ることができる。
【0036】
前記有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのアルキルエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物、n−ヘキサンなどの脂肪族炭化水素化合物、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素化合物、酢酸メチル、酢酸エチルなどの酢酸エステルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0037】
溶液重合に用いられるモノマー組成物の溶液におけるモノマー組成物の濃度は、重合の操作性などを考慮して、10〜80重量%程度であることが好ましい。
【0038】
重合の際には、重合開始剤を用いることが好ましい。重合開始剤としては、特に限定がないが、例えば、アゾイソブチロニトリル、アゾイソ酪酸メチル、アゾビスジメチルバレロニトリル、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどのアゾ系重合開始剤や過酸化物系重合開始剤などをはじめ、ベンゾフェノン誘導体、ホスフィンオキサイド誘導体、ベンゾケトン誘導体、フェニルチオエーテル誘導体、アジド誘導体、ジアゾ誘導体、ジスルフィド誘導体などの光重合開始剤などが挙げられる。重合開始剤の量は、通常、モノマー組成物100重量部に対して0.01〜5重量部程度であることが好ましい。
【0039】
重合の際には、必要に応じて連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、例えば、ラウリルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリセロールなどのメルカプタン基を有する化合物や次亜リン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムなどの無機塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。連鎖移動剤の量は、通常、モノマー組成物100重量部に対して0.01〜10重量部程度であることが好ましい。
【0040】
モノマー組成物の重合温度は、用いられる重合開始剤の種類によって異なるので一概には決定することができないが、通常、重合開始剤の10時間半減期温度とすることが好ましい。重合時間は、未反応モノマーが残存するのを回避する観点から、2時間以上、好ましくは2〜24時間程度であることが望ましい。モノマー組成物の重合は、不活性ガスの雰囲気中で行うことができる。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどが挙げられる。
【0041】
なお、反応系内における未反応モノマーの有無は、ガスクロマトグラフィーなどの一般的な分析方法にて確認することができる。
【0042】
かくして、モノマー組成物を重合させることにより、生体適合性ポリマーを得ることができる。得られた生体適合性ポリマーは、限外濾過膜などを用いて分画し、必要により常法で洗浄することにより、回収することができる。
【0043】
得られた生体適合性ポリマーの重量平均分子量は、製造時の取扱い性および生成物の加工性の観点から、好ましくは500〜200万、より好ましくは1000〜100万である。
【0044】
本発明の医療用被膜形成樹脂組成物は、生体適合性ポリマーを含有する。医療用被膜形成樹脂組成物は、1種または2種以上の生体適合性ポリマーで構成されていてもよく、必要により、本発明の目的が阻害されない範囲内で、他のポリマーが含まれていてもよい。また、さらに、塗布を容易に行うことができるようにするために、前記有機溶媒が含まれていてもよい。
【0045】
本発明の生体適合性ポリマーを含有する医療用被膜形成樹脂組成物を用いて生体適合性ポリマーからなる被膜を形成する方法は、特に限定されず、例えば、医療用被膜形成樹脂組成物を基材に、塗布、スプレー、蒸着などの方法によって被膜を形成する方法、重合前のモノマー組成物と重合開始剤とを混合した液体を基材に塗布した後、熱や光でモノマー組成物を重合させ、被膜を形成する方法などが挙げられる。
【0046】
前記基材を構成する素材の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリウレタン、ポリウレア、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリルアミド誘導体、ポリスルホン、ポリカーボネート、セルロース、セルロース誘導体、ポリシリコーン、ガラス、セラミック、金属などが挙げられる。これらの素材は、それぞれ単独でまたは2種以上を組合せて用いることができる。
【0047】
本発明の生体適合性ポリマーからなる被膜を有する医療用材料の例としては、医薬品、医薬部外品、医療用具としてはドラッグデリバリーシステム材、pH調整剤、成形補助材、包装材、人工血管、血液透析膜、カテーテル、コンタクトレンズ、血液フィルター、血液保存パック、人工臓器などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
次に本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0049】
実施例1
N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン234mgおよびビス[4−(N,N−ジエチルジチオカルバモイルメチル)ベンジルアミドエチルサルファイド]13.6mgからなるモノマー組成物に、光重合開始剤としてテトラエチルチラウムジスルフィド11.9mgを添加した後、メタノール2.5mLおよびテトラヒドロフラン1mLの混合溶媒に溶解させ、得られた溶液に窒素ガスを15分間通した後、25℃の温度で窒素ガス雰囲気中で4時間紫外線を照射することにより、モノマー組成物を光重合させた。
【0050】
次に、限外濾過膜(分画分子量3000〜10000)で分画し、凍結乾燥することにより、生成した重合体を回収した(収量45mg)。得られた重合体の重合度および重量平均分子量をH−NMRによって調べたところ、その重合度は23.1であり、重量平均分子量は5500であった。H−NMRの測定結果は以下の通りである。
【0051】
1H-NMR(400MHz, D2O):1.08(t, m, 3H, 2H, -CH3, -CH2-), 2.21(m, 2H, -CH2-), 3.38(t, 2H, 3H, N-CH2-, N-CH3), 3.70(m, 2H, 2H, N-CH2-, -CH2-COOH), 4.76(d, 2H,O-CH2-), 7.2-7.8(m, 4H, -Ph-)
【0052】
実施例2
CMB5.0gにエタノール25mLを加え、重合開始剤として2,2−アゾビスイソブチロニトリル70.8mgおよび連鎖移動剤として2−メルカプトエタノール0.15mLを加えて70℃で24時間重合させた後、濃縮し、さらに水に溶解させて透析により分画し(分画分子量1000)、凍結乾燥することにより、生成した重合体を回収した(収量3.6g)。得られた重合体の重量平均分子量をゲルパーミエイションクロマトグラフィー(移動相:0.5%臭化リチウム含有0.1M臭化ナトリウム水溶液)で調べたところ、11400であった。
【0053】
実施例3
実施例2において、CMB5.0gの代わりに、CMBとBMAとの混合物2.23mL(CMB/BMAの重合比:45/55)を用い、70℃で24時間重合させた後、n−ヘキサン中に投入し、さらに水に溶解させて透析により分画し(分画分子量3500)、凍結乾燥することにより、生成した重合体を回収した(収量1.6g)。得られた重合体の重量平均分子量をゲルパーミエイションクロマトグラフィー(移動相:臭化ナトリウム水溶液)で調べたところ、17800であった。
【0054】
実施例4
実施例2において、CMB2.60gの代わりに、CMBとBMAとの混合物2.69mL(CMB/BMAの重合比:34/66)を用い、70℃で24時間重合させた後、n−ヘキサン中に投入し、さらにメタノールに溶解させて透析により分画し(分画分子量3500)、メタノールを除去し、エタノールに溶解させた後、n−ヘキサンにて析出、沈殿させ、生成した重合体を回収した(収量2.7g)。
【0055】
実施例5
実施例2において、CMB5.0gの代わりに、CMB3.28gとBMA2.23mLを用い、70℃で24時間重合させた後、n−ヘキサン中に投入し、さらに水に溶解させて透析により分画し(分画分子量3500)、メタノールを除去し、エタノールに溶解させた後、n−ヘキサンにて析出、沈殿させ、生成した重合体を回収した(収量2.4g)。
【0056】
比較例1
実施例1において、CMB234mgの代わりに、メタクリル酸(以下、MAAという)234mgを用いた以外は、実施例1と同様にして重合体を得た。得られた重合体の重合度および重量平均分子量をH−NMRによって調べたところ、その重合体の重合度は16であり、重量平均分子量は2700であった。
【0057】
比較例2
実施例2との比較のために、ポリエチレンスルホン酸ナトリウム(重量平均分子量:2200)を用いた。
【0058】
比較例3
実施例2との比較のために、ポリ−L−リジン臭化水素(重量平均分子量:2700)を用いた。
【0059】
比較例4
実施例2との比較のために、ポリエチレングリコール(重量平均分子量:2000)を用いた。
【0060】
比較例5
実施例2との比較のために、ポリ−N−ビニルピロリドン(重量平均分子量:2300)を用いた。
【0061】
比較例6
実施例2において、CMB5.0gの代わりに、2−メタクリロイルオキシエチルホスホコリルベタイン(以下、MPCという)2.68gとBMA3.34mL(MPC/BMAの重合比:34.1/65.9)を用い、70℃で24時間重合させた後、n−ヘキサン中に投入し、さらにメタノールに溶解させて透析により分画し(分画分子量3500)、メタノールを除去し、エタノールに溶解させた後、エーテルにて析出し、沈殿させ、生成した重合体を回収した(収量1.4g)。
【0062】
比較例7
実施例2において、CMB5.0gの代わりに、メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド(以下、MOETACという)1.92gとBMA3.34mL(MOETAC/BMAの重合比:28/72)を用い、70℃で24時間重合させた後、n−ヘキサン中に投入し、さらにメタノールに溶解させて透析により分画し(分画分子量3500)、メタノールを除去し、エタノールに溶解させた後、エーテルにて析出し、沈殿させ、生成した重合体を回収した(収量1.4g)。
【0063】
比較例8
実施例2において、CMB5.0gの代わりに、BMA2.23mLを用い、70℃で24時間重合させた後、n−ヘキサン中に投入し、さらに水に溶解させて透析により分画し(分画分子量3500)、凍結乾燥することにより、生成した重合体を回収した(収量1.4g)。
【0064】
比較例9
実施例2において、CMB5.0gの代わりに、メチルメタクリレート(以下、MMAという)2.23mLを用い、70℃で24時間重合させた後、n−ヘキサン中に投入し、さらに水に溶解させて透析により分画し(分画分子量3500)、凍結乾燥することにより、生成した重合体を回収した(収量1.4g)。
【0065】
比較例10
実施例2において、CMB5.0gの代わりに、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(以下、HEMAという)2.23mLを用い、70℃で24時間重合させた後、エーテル中に投入し、沈殿させ、生成した重合体を回収した(収量1.4g)。
【0066】
比較例11
実施例2において、CMB5.0gの代わりに、MAA1.0mLとBMA4.44mL(MAA/BMAの重合比:36/64)を用い、70℃で24時間重合させた後、n−ヘキサン中に投入し、さらに水に溶解させて透析により分画し(分画分子量3500)、凍結乾燥することにより、生成した重合体を回収した(収量1.8g)。
【0067】
実験例1
次に、実施例1および比較例1で得られた重合体からなる自己組織化単分子膜のサイクリック・ボルタモメトリーを調べた。
【0068】
より具体的には、電極として、金電極(AUE6.0×1.6mm;BAS)をアルミナ粉で磨いた後、この金電極に超音波洗浄器(Sine社製、品番:Sine Sonic 150)にて超音波を30秒間照射した。この操作を数回繰り返した後、サイクリック・ボルタモグラム[ポテンシオ・スタット:北斗電工(株)製、品番:HA−301]、ファンクショナル・ジェネレーター[北斗電工(株)製、品番:HA−104]、電流および交流−直流変換器[エプソン社製、品番:PC−486SE]を用い、0.1N硫酸水溶液または0.5N水酸化カリウム水溶液に電極を浸漬して電圧を印加した。なお、0.1N硫酸水溶液を用いた場合、−0.4〜1.5Vの電圧を印加し、0.5N水酸化カリウム水溶液を用いた場合、0〜−1.5Vの電圧を印加した。
【0069】
次に、金電極の表面を洗浄した後、その金電極を0.5M塩化カリウムおよび5mMヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムを含有する水溶液に浸漬し、掃引速度10mV/sおよび印加電圧0.6〜−0.3Vでサイクリック・ボルタモグラムを調べ、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムの酸化還元電位の差が65mV以下になっていることを確認した後、この金電極を用いた。
【0070】
実施例1および比較例1で得られた材料の水溶液1mg/mLに前記金電極を24時間浸漬した後、精製水で数回洗った。
【0071】
実施例1および比較例1で得られた材料を修飾した金電極を1mMヒドロキノン(以下、HQという)および0.1M硫酸ナトリウムを含み、pHが7.0の10mMリン酸緩衝液を用いて、タンパク質の非特異吸着を観察した。
【0072】
牛血清アルブミン(BSA、pI:4.8、66kD)またはリゾチーム(pI:10.9、1.4kD)をpH7.0の10mMリン酸緩衝液に溶かし、タンパク質溶液(1mg/mL)とした。タンパク質溶液浸漬前に、HQ溶液中でサイクリック・ボルタモグラムを調べ、HQの酸化還元電位の差(以下、ΔEpという)を計測した。その後、タンパク質溶液に浸漬し、一定時間ごとに引き上げて、精製水で数回濯いだ後、HQ溶液でサイクリック・ボルタモグラムを測定した。
【0073】
浸漬後のΔEpからタンパク質に浸漬する前のΔEpを差し引き、その値をdΔEpの値とした。自己組織化単分子膜の表面上にタンパク質などの吸着がない場合には、吸着質以外に酸化還元物質の移動を妨げるものがないため、dΔEpの値は、0mVとなる。また、自己組織化単分子膜上の環境が非特異吸着などにより変化したとき、酸化還元物質の移動が妨げられるので、dΔEpの値は増加する。このことを利用して、タンパク質の非特異吸着などを観測した。その結果を図1〜2に示す。
【0074】
図1は、実験例1における牛血清アルブミンの非特異的吸着の評価結果(dΔEp)を示す。図1に示された結果から、単分子膜が形成されていない金電極を用いた場合(図1中のBare Au)および比較例1では、dΔEpの値が増加したのに対し、実施例1のdΔEpの値は0に近く、ほとんど変化しないことがわかる。このことから、実施例1による生体適合材料からなる自己組織化単分子膜が形成された金電極は、その表面へのタンパク質の吸着量が少ないので、生体適合に優れていることがわかる。
【0075】
図2は、実験例1におけるリゾチームの非特異的吸着の評価結果(dΔEp)を示す。図2に示された結果から、単分子膜が形成されていない金電極を用いた場合(図2中のBare Au)および比較例1ではdΔEpの値が増加しているのに対し、実施例1による生体適合性材料からなる自己組織化単分子膜が形成された金電極はその表面へのタンパク質の吸着量が少ないので、dΔEpの値がほとんど増加せず、生体適合性に優れていることがわかる。
【0076】
実験例2
実施例2〜3および比較例2〜5で得られた材料のラマン分光法による水のO−H伸縮振動を測定した。より具体的には、実施例3〜4および比較例2〜5で得られた各材料の10重量%水溶液を用いてラマン分光法により、水のO−H伸縮振動を測定した。その結果を表1に示す。なおラマン分光法における測定条件ならびに表1中のN値およびNcorr値の測定方法は、以下のとおりである。
【0077】
[ラマン分光法における測定条件]
ラマン分光測定機:ジャスコ社製、品番:NR−1100
光源:Arレーザー
波長:488nm
光量:200mW
リソリューション:5cm−1
【0078】
[N値およびNcorr値の測定方法]
溶媒の相互作用による好ましくない位置および配向のため、水分子の水素結合の網目からO−H振動が排除される可能性をPdで示す。Pdは、式:
Pd=(Cw−Cx)÷Cw
(式中、Cwは水固有のO−H振動強度、Cxは溶液のO−H振動強度を示す)
によって求められる。
【0079】
N値は、ポリマーの1モノマー単位あたりの水の水素結合の網目構造に導入された水素結合の欠陥の数を示す。N値は、式:
N値=Pd÷Fx
(式中、Pdは前記と同じ。Fxは、O−H1個あたりのモノマーの数を示す)
によって求められる。
【0080】
C値は、集団的なO-H伸縮振動の相対強度を示す。純水に対するC値(Cw)は完全な氷に対するC値(Cice)よりも小さいので、N値は、このファクターによって補正され、N値の補正値であるNcorr値が与えられる。Ncorr値は、式:
Ncorr値=(Cw÷Cice)×N値
によって求められる。
【0081】
また、C値は、式:
C値=∫Ic(w)dw/∫I//(w)dw
(式中、Icはコレクティブ強度、I//は平行強度を示す)
および式:
Ic=I//-I
(式中、I//は前記と同じ。Iは垂直強度、ρは偏光解消度を示す)
に基づいて求められる。
【0082】
【表1】

【0083】
表1に示された結果から、実施例2〜3で得られた材料は、比較例2〜5で得られた材料と比較して、N値およびNcorr値が小さいことから、重合体近傍の水の水素結合の網目構造がほとんど壊れていないので、生体適合性に優れていることがわかる。
【0084】
実験例3
次に、実施例4〜5および比較例6〜11で得られた重合体の表面への細胞付着性を調べた。
【0085】
[高分子材料薄膜の作製]
カバーガラス(丸形、直径15 mm、厚さ0.12〜0.17 mm)を濃硫酸で洗浄した後、十分に乾燥させた。
【0086】
次に、実施例4〜5および比較例6〜11で得られた重合体1.0gをそれぞれ有機溶媒(メタノール)9gに溶かし、洗浄したカバーガラス上に滴下し、スピンコート法により製膜した。
【0087】
[培地の作製]
牛胎児血清を56℃で30分間加熱することにより、非働化を行った。次に、イーグルスの最小必須培地500mLに血清54mL(培地の10%)、抗生物質1mLを無菌的に加えた培地を作製した。
【0088】
[細胞懸濁液の調製]
細胞懸濁液50μLをトリパンブルー溶液50μLとよく混ぜ、血球計算板を用いて細胞数(細胞濃度)を求めた。そして継代具合により、培養液で希釈し、20万cell/mLまたは40万cell/mLの細胞懸濁液を調製した。
【0089】
[細胞増殖活性を測定する試薬の調製]
試薬〔タカラバイオ(株)製、商品名:Premix WST-1 Cell Proliferation Assay System〕を1.4mLずつチューブに分注し、使用直前まで−80℃のディープフリーザー内で保管した。そのチューブを1本解凍し、これを13.6mLの培地に無菌的に溶解させ、使用直前に37℃になるように恒温槽で暖めた。
【0090】
[高分子材料表面への細胞付着と付着細胞数の測定]
(A)24穴マルチウェルプレート(細胞付着処理なし)のウェルに培地を50μLずつ垂らした。
【0091】
(B)あらかじめ作製しておいた、カバーガラスの片面に高分子材料薄膜を張ったものを、張った面を上にしてマルチウェルプレートに入れた。また、基準とするために硫酸洗浄のみを行ったカバーガラスも同様に入れた。
【0092】
通常、1枚の24穴マルチウェルプレートに硫酸で洗浄したカバーガラス4穴、高分子材料薄膜を張ったカバーガラス4穴×5種類の高分子材料薄膜20穴となるようにサンプルを入れた。
【0093】
(C)カバーガラスを押さえるようにして調製した細胞懸濁液を0.5mLずつ各ウェルに静かに入れた。
【0094】
(D)このマルチウェルプレートを少し揺すった後、COインキュベーターに入れた。
(E)4時間経過後、マルチウェルプレートをCOインキュベーターから取り出し、内部の細胞の様子を光学顕微鏡で観察し、素早く写真に撮った(倍率:100倍)。
【0095】
(E)各ウェルから付着していない細胞を培地ごと吸い出した。
(F)各ウェルにリン酸緩衝液PBS(−)を0.5mLずつ入れ、少し揺すった後、再びこれを吸い出した。
【0096】
(G)各ウェルに、あらかじめ調製しておいた試薬を0.5mLずつ入れ、また別のマルチウェルプレート(カバーガラスを入れていない)にも残りの試薬を分注した。
(H)前記(G)の操作後のウェルをCOインキュベーターに2時間入れた。
【0097】
(I)96穴マルチウェルプレートの各ウェルに純水100μLまたは200μLを入れ、波長450nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した[ウェル自体の吸収の測定]。
【0098】
(J)前記(I)でウェルに入っている純水を捨て、前記(I)で呈色した液100μLまたは200μLを96ウェルのプレートに移し、450nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した[ホルマザン色素の吸収+WST1自身の吸収+培地自身の吸収+ウェル自体の吸収の測定]。
【0099】
またこの際に、カバーガラスを入れていないウェルの液についても同様に吸光度を測定した[WST1自身の吸収+培地自身の吸収+ウェル自体の吸収の測定]。
(K)マルチウェルプレート内部の細胞の様子を光学顕微鏡で観察し、写真に撮った(倍率:100倍)。
【0100】
[得られた吸光度からの相対的な付着細胞数の評価]
濃硫酸で洗浄したカバーガラス上に付着した生細胞数を100%(基準)として、各高分子材料からなる薄膜上に付着した生細胞の割合(%)を、得られた吸光度の結果から以下のようにして求めた。その結果を図3に示す。
【0101】
なお、この評価は、Premix WST-1の波長450nmにおける吸光度(ホルマザン色素の吸光度)が生細胞数の数に直線的に比例することに基づく。
【0102】
〔生細胞の付着性(%)〕
=〔高分子材料表面上に付着していた生細胞に起因するPremix WST-1の吸光度の変化〕
÷〔硫酸洗浄したカバーガラス表面上に付着していた生細胞に起因するPremix WST-1の吸光度の変化〕
×100
【0103】
図3に示されるように、実施例4〜5の結果から、CMBを含有するモノマー組成物を重合させることによって得られた生体適合性ポリマーは、その被膜表面に生細胞が付着しにくく、生体適合性に優れていることから、人工臓器などに用いた場合、組織細胞の癒着などを抑制することを期待することができるものであることがわかる。
【0104】
実験例4
次に、実施例4〜5で得られた重合体の表面への水の接触角を以下の方法にしたがって調べた。
【0105】
[水の接触角]
(高分子薄膜の作製)
カバーガラス〔厚さ:0.15mm、松浪硝子(株)製〕を濃硫酸中に12時間浸した後、純水で十分に洗浄することにより、親水化ガラスを得た。得られた親水化ガラスを0.05 (v/v)%オクタデシルトリクロロシラン溶液に2時間浸した後、クロロホルムおよびアセトンで交互に2回リンスし、窒素ガスフローにより乾燥し、疎水化ガラスを得た。
【0106】
5mg/mLのN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタインとブチルメタクリレートとの共重合体(以下、CMB−BMAという)溶液0.3mLをガラス基板上に滴下し、1000rpmでスピンコートし、その後、これを減圧下、室温で乾燥させることにより、血小板付着の実験に用いる高分子薄膜を得た。
【0107】
(接触角の測定)
水液滴および気泡の接触角は、接触角計〔協和界面科学(株)製、品番:CA-D〕を用い、液滴法と水中気型法によって求めた。その結果を表2に示す。
【0108】
なお、液滴法では、室温下(相対湿度:約50%)で、10μLの水滴を高分子薄膜に接触させ、30秒間経過後の接触角を測定した。また、水中気型法では、高分子薄膜を水中に浸したまま、下方から10μLの空気を接触させ、室温下(相対湿度:約50%)で、30秒間経過後の接触角を測定した。測定は、いずれも10回行い、その平均値を採用した。
【0109】
【表2】

【0110】
表2に示された結果から、CMB−BMAの表面は、親水性に優れていることがわかる。
【0111】
実験例5
次に、実施例4〜5で得られた重合体の表面への血小板粘着数を以下の方法にしたがって調べた。
【0112】
〔血小板粘着数〕
(高分子薄膜の作製)
カバーガラス〔松浪硝子(株)製、厚さ:0.15mm〕を濃硫酸中に12時間浸した後、純水で十分に洗浄し、親水化ガラスを得た。得られた親水化ガラスを0.05 (v/v)%オクタデシルトリクロロシラン溶液に2時間浸した後、クロロホルムおよびアセトンで交互に2回リンスし、窒素ガスフローにより乾燥し、疎水化ガラスを得た。
【0113】
5mg/mLのCMB−BMA溶液0.3mLをガラス基板上に滴下し、1000rpmでスピンコートし、その後、減圧下、室温で乾燥させることにより、血小板付着の実験に用いる高分子薄膜を得た。
【0114】
(血小板の付着実験)
血液は、人より採取し、凝血防止のため、血液の全容量に対して1/9のクエン酸デキストロース溶液を加えた。
【0115】
遠心分離法により凝血防止処理を施した血液から、多血小板血漿(以下、PRPという)および乏血小板血漿(以下、PPPという)を得た。PRPおよびPPPは、いずれも、それぞれ1200rpmで5分間、3000rpmで10分間の遠心分離操作により得ることができた。
【0116】
PRPとPPPとを混合し、血小板数1.0×10 cells/mLに調製した血液(200μL)を前記で調製した高分子薄膜上に静かに滴下した。37℃で60分間インキュベートした後、リン酸緩衝液(以下、PBSという)で血液を洗い流し、更にPBSで2回リンスした。
【0117】
高分子薄膜に接着した細胞(血小板)を固定化するために、1%グルタルアルデヒド含有のPBS溶液中に4℃で60分間インキュベートし、サンプルを凍結乾燥した後、付着した血小板数を電子顕微鏡で目視により計測した。
【0118】
その結果、CMBを含有するモノマー組成物を重合させることによって得られた生体適合性ポリマーは、その被膜表面にヒト血液の血小板が付着しにくく、生体適合性に優れていることから、人工血管などに用いた場合、血栓などの症状を抑えることが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0119】
以上の実験例により、CMBを含有するモノマー組成物を重合させることによって得られた生体適合性ポリマーは、以下の点で、生体適合材料として医療分野で用いることができる。
【0120】
(1)サイクリックボルタモメトリー法による評価により、牛血清アルブミン、リゾチームなどのタンパク質が吸着しにくい。
(2)ラマン分光法による評価により、水の網目構造が壊されていない。
(3)チャイニーズハムスター肺繊維芽様細胞の吸着性評価により、生細胞付着数が極めて少ない。
(4)水の接触角評価により、水との親和性が高い。
(5)血小板粘着数評価により、血小板の付着が極めて少ない。
【0121】
以上の結果から、CMBを含有するモノマー組成物を重合させることによって得られた生体適合性ポリマーを含有する、本発明の医療用被膜形成樹脂組成物は、生体適合性に優れているので、例えば、各種カテーテル、ガイドワイヤー、人工血管、血液透析膜、内視鏡などの医療材料に適する長期間にわたって抗血栓性および生体適合性を発現する医療材料に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】実験例1における牛血清アルブミンの非特異的吸着の評価結果(dΔEp)を示す図である。
【図2】実験例1において、リゾチーム溶液中のタンパク質の非特異的吸着の評価結果(dΔEp)を示す図である。
【図3】実験例3において、ガラスを基準としたときの付着した生細胞の割合を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

で表されるN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン1〜100重量%および式(II):
【化2】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rは有機基を示す)
で表される生体適合性を有する重合性モノマー0〜99重量%を含有するモノマー組成物を重合させてなる生体適合性ポリマーを含有する医療用被膜形成樹脂組成物。
【請求項2】
式(I):
【化3】

で表されるN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン1〜100重量%および式(II):
【化4】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rは有機基を示す)
で表される生体適合性を有する重合性モノマー0〜99重量%を含有するモノマー組成物を重合させてなる生体適合性ポリマーからなる被膜を有する医療用材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−130194(P2007−130194A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325497(P2005−325497)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(000205638)大阪有機化学工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】