説明

医薬成分が長期安定化された経口投与医薬ゼリー製剤

【課題】味のマスキング効果や服用性(流動性)、携帯性などの一般的なゼリー製剤としての特徴に加え、あらかじめ含有する水の存在により不安定となる医薬成分及び/又は非晶質化された医薬成分の長期間安定化が可能であり、さらに、服薬時の用時調製といった煩雑な操作を必要としない経口投与医薬ゼリー製剤を提供する。
【解決手段】水の存在により不安定となる医薬成分及び/又は非晶質化された医薬成分を一旦油脂に溶解又は懸濁し、これをマイクロカプセル中に内包した後、このマイクロカプセルをゼリー剤中に混合して製剤化することで、該医薬成分のゼリー製剤中での長期安定性が確保できる、用時調製等を必要としない経口投与医薬ゼリー製剤を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品としての発明であり、水の存在により不安定となる医薬成分及び/又は非晶質化された医薬成分を長期間安定に含有する、用時調製等の特別な操作を必要としない経口投与医薬ゼリー製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゼリー状の医薬品(ゼリー製剤)は、医薬成分の持つ苦味や強い甘味をゲル中のマトリックスに包埋し、舌の味蕾細胞との接触を抑えることで味のマスキングをすることができ、また、ゼリーの持つ流動性から高齢者や嚥下障害者、あるいは小児にも非常に飲みやすい剤型であることが知られている。つまり、ゼリー製剤は、患者に対するメリットが非常に高い製剤であることが広く認知されている。
【0003】
しかし、ゼリー製剤は、その製造工程において医薬成分を水に溶解あるいは懸濁させるという必要性から、いくつかの問題点がある。例えば、水と接触することで短時間に分解したり水と反応して別の化学物質となってしまうような水に不安定な医薬成分は、ゼリー製剤調製工程において医薬成分が薬効を失ってしまう。また、水に難溶な医薬成分を非晶質化(有機溶媒等に溶解した後核粒子にコーティングするなど)して溶解度を高め、体内での利用率を向上させたような工夫をしている場合、ゼリー調製工程において水と接触後に再結晶化してしまい、意図している効能(体内での利用率等)が発揮できない。
【0004】
さらに、医薬品としての有効期限である3年間という長期間ゼリー製剤中で品質を安定に維持させることは、特に前述のような水に不安定、非晶質物等の特徴をもつ医薬成分については非常に困難であった。その上、医薬成分とゼリー剤(ゲル化剤)が混合し水などと反応することによりゼリーの物性に変化が現れる場合もあり、ゼリー製剤の流動性等の特徴を消してしまうこともある。これらの理由により、医薬品としての有効性や品質の安定性、ゼリー製剤の特徴等を確保する上で、ゼリー製剤とすることができる対象医薬成分は限定せざるを得ない状況にある。
【0005】
これらの問題点を解消する方法として、あらかじめゼリーを調製し、凍結乾燥させ、用時加水し復元させることにより服薬補助ゼリーとして使用する組成物(特許文献1)、あるいは、ゼリーが調製可能な原料を粉末状態で分包化し、用時熱湯を加え、冷却して調整するタイプの製剤やその技術(特許文献2)、さらには、使用時に温湯や加熱などの溶解操作を必要とせず、常温の加水のみで短時間にゼリー状となる製剤(特許文献3)などが開示されている。また、服薬直前に薬剤とゼリーを混合、又は、用時ゼリーを調製することによってゼリー製剤としての有用性を得ることは、投薬時において多く行われている。
【0006】
しかしながら、これらの方法は確かに水に不安定な医薬成分等をゼリー製剤として服用することが可能であるが、服用前にゼリーと混合する、あるいは用時調製するといった操作が必要となるため、多忙を極める医療従事者が作業をすることは非常に煩雑であり、困難と考えられる。また、ゼリー製剤の服用が必要となるのは主に高齢者であるため、患者自らが操作を行うことも煩わしいのと同時に、身体的な不自由さを抱えている患者にとっては特に苦痛であり、かえって服薬コンプライアンスを低下させる懸念すらある。さらに、非晶質化した医薬成分の場合、ゼリー調製時に再結晶化してしまうと、薬効が薄れるだけでなくかえって服薬しにくくなる場合もある。
【0007】
したがって、当業界及び患者等において、あらかじめ水の存在により不安定となる医薬成分及び/又は非晶質化された医薬成分を含有し、かつその成分が長期間安定化され、用時調製等の操作を全く必要としないゼリー製剤の開発が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3257983号公報
【特許文献2】特開2001−226293号公報
【特許文献3】特開2008−037804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の当業界等の強い要望に鑑み、味のマスキング効果や服用性(流動性)、携帯性などの一般的なゼリー製剤としての特徴に加え、あらかじめ水の存在により不安定となる医薬成分及び/又は非晶質化された医薬成分を含有させることで服薬時の用時調製といった煩雑な操作を必要とせず、さらに含有されたこれらの医薬成分が、ゼリー基材成分と反応することなく、及びゼリー剤中の水分に影響を受けることなくゼリー剤中で長期間安定に品質を維持することが可能なゼリー製剤を提供する目的でなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を行い、医薬成分をあらかじめ溶解あるいは懸濁させたゼリー製剤の検討を行った。しかしながら、通常のゼリー製剤の製造工程において医薬成分を水に溶解あるいは懸濁すると、水に不安定な成分は分解等してしまい、非晶質状態で薬効を発揮する成分は結晶状態に移行してしまった。これにより効力が激減するなどの影響が出てしまい、調製工程での短時間、ましてや有効期限3年間を担保できるようなゼリー製剤を得ることは出来なかった。
【0011】
また、医薬成分をあらかじめ微粒子コーティングや乾式造粒法などの手法を用い防湿性のフィルムコーティングを行うことで、医薬成分と水とが接触できないように処理し、その後ゼリー製剤化を行った。その結果、数時間から数週間のレベルで医薬成分の安定性を維持させることは可能となったが、コーティング被膜の外側から水が徐々に浸入し、医薬成分が分解等され、長期間の安定性確保は出来なかった。
【0012】
これらから、さらに鋭意研究を重ねた結果、医薬成分を一旦油脂に溶解又は懸濁し、これを所定の剤皮を用いてマイクロカプセル(直径10mm未満の微小カプセル)中に内包した後、このマイクロカプセルをゼリー剤中に混合してゼリー製剤化することで、含有する医薬成分の長期安定性を確保することが可能な経口投与医薬ゼリー製剤を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)水の存在により不安定となる(分解され、又は水と反応して薬効を損ねる)医薬成分及び/又は非晶質化された医薬成分を溶解又は懸濁した油脂を内包したマイクロカプセルを含有することを特徴とする、該医薬成分が長期安定化された経口投与医薬ゼリー製剤。
(2)マイクロカプセルの剤皮成分として寒天、カラギーナン、アルギン酸ナトリウムから選ばれる1又は2以上が用いられていることを特徴とする、(1)に記載の製剤。
(3)マイクロカプセルに医薬成分放出制御処理(腸溶性、徐放性などの処理)がされていることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の製剤。
(4)マイクロカプセルの直径が0.1〜5.0mm、好ましくは0.5〜3mmであることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1つに記載の製剤。
(5)水の存在により不安定となる(分解され、又は水と反応して薬効を損ねる)医薬成分及び/又は非晶質化された医薬成分を油脂に溶解又は懸濁し、これをマイクロカプセル中に内包した後、このマイクロカプセルをゼリー剤中に混合して製剤化することを特徴とする、該医薬成分が長期安定化された経口投与医薬ゼリー製剤の製造方法。
(6)マイクロカプセルの剤皮成分に寒天、カラギーナン、アルギン酸ナトリウムから選ばれる1又は2以上を用いることを特徴とする、(5)に記載の方法。
(7)マイクロカプセルに医薬成分放出制御処理(腸溶性、徐放性などの処理)を行うことを特徴とする、(5)又は(6)に記載の方法。
(8)マイクロカプセルの直径を0.1〜5.0mm、好ましくは0.5〜3mmとすることを特徴とする、(5)〜(7)のいずれか1項に記載の方法。
(9)水の存在により不安定となる医薬成分及び/又は非晶質化された医薬成分を油脂に溶解又は懸濁し、これを剤皮成分として寒天、カラギーナン、アルギン酸ナトリウムから選ばれる1又は2以上を用いたマイクロカプセル中に内包した後、このマイクロカプセルをゼリー剤中に混合してゼリー製剤とすることを特徴とする、経口投与医薬ゼリー製剤中での該医薬成分の長期安定化方法、又は該医薬成分長期安定化用経口投与医薬ゼリー製剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来のゼリー製剤、さらには用時混合、調製をする用時調製型ゼリー製剤では成し得なかった、水の存在により不安定となる医薬成分及び/又は非晶質化された医薬成分を、ゼリー基材成分と反応することなく、また、ゼリー剤中の水分に影響を受けることなくゼリー剤中で長期間(医薬品の有効期限である製造から3年間、あるいはそれ以上)安定に包埋し、しかも服用時に用時調製する手間を必要としない経口投与医薬ゼリー製剤を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】大豆油懸濁イトラコナゾール(非晶質物)を内包したマイクロカプセルを含有するゼリー製剤において、製剤調製後3箇月経過した時の油脂中のイトラコナゾールの状態を示す(図面代用写真)。イトラコナゾールは非晶質状態を安定に維持している。
【図2】オリーブ油懸濁イトラコナゾール(非晶質物)を内包したマイクロカプセルを含有するゼリー製剤において、製剤調製後3箇月経過した時の油脂中のイトラコナゾールの状態を示す(図面代用写真)。イトラコナゾールは非晶質状態を安定に維持している。
【図3】中鎖脂肪酸トリグリセリド懸濁イトラコナゾール(非晶質物)を内包したマイクロカプセルを含有するゼリー製剤において、製剤調製後3箇月経過した時の油脂中のイトラコナゾールの状態を示す(図面代用写真)。イトラコナゾールは非晶質状態を安定に維持している。
【図4】プロピレングリコール懸濁イトラコナゾール(非晶質物)を内包したマイクロカプセルを含有するゼリー製剤において、製剤調製11日後の懸濁剤中のイトラコナゾールの状態を示す(図面代用写真)。イトラコナゾールは非晶質状態を維持できず、結晶形に移行している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において使用される医薬成分は、従来のゼリー製剤技術では製剤化や製剤中の長期安定化が困難であった、水の存在により不安定となる医薬成分及び/又は非晶質化された状態で効果を発揮する医薬成分、例えば水に良く溶けるがすぐに分解してしまうような成分、水と反応して化学構造が変わり薬効を損ねるような成分、水に難溶な成分の非晶質物などについて幅広く使用でき、特に限定されるものではない。
【0017】
本発明において使用される医薬成分としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アメジニウムメチル硫酸塩、アロプリノール、イトラコナゾール、エタンブトール塩酸塩、エラスターゼ、塩酸ベンセラジド、エナラプリルマレイン酸塩、オキセサゼイン、カベルゴリン、カルベジロール、キナプリル塩酸塩、クラリスロマイシン、結合型エストロゲン、ザフィルルカスト、シクロスポリン、ジスチグミン臭化物、ジメトチアジンメシル酸塩、硝酸イソソルビド、セフジトレンピボキシル、セフロキシムアキセチル、セラペプターゼ、タルチレリン水和物、炭酸水素ナトリウム、チオプロニン、テトラサイクリン塩酸塩、トコフェロール酢酸エステル、ナブメトン、ニコランジル、ニルバジピン、ハロキサゾラム、ヒドロキソコバラミン酢酸塩、フィトナジオン、ブシラミン、プラバスタチンナトリウム、フラボキサート塩酸塩、プロカテロール塩酸塩水和物、フロセミド、プロパゲルマニウム、プロパンテリン臭化物、ブロモクリプチンメシル酸塩、ベラプロストナトリウム、ベンセラジド塩酸塩、ボグリボース、メチルドパ水和物、メチルメチオニンスルホニウムクロライド、メナテトレノン、メリロートエキス、リゾチーム塩酸塩、レボドパ、ロスバスタチンカルシウム、ロラゼパム、ニトレンジピン等が例示される。
【0018】
医薬成分をマイクロカプセル化するに際しては、ゼリー製剤中の水分の影響を長期間受けないようにするため、あらかじめ油脂に溶解あるいは懸濁することが必須である。単に医薬成分をそのまま内包したり、水溶性の懸濁剤を使用すると、ゼリー剤中の水分がカプセル剤皮から徐々に浸透し、医薬成分の分解や結晶化等を招いてしまうため長期安定化という観点から好ましくない。用いる油脂は、これに限定されるものではないが、大豆油、オリーブ油、ヒマシ油、ハッカ油、胡麻油、サフラワー油、ヒマワリ油、落花生油、綿実油、小麦胚芽油、中鎖脂肪酸トリグリセリド、オレイン酸トリグリセリドなどが好適である。また、合成油脂の使用も可能である。これらから、医薬添加物として使用実績があり、配合する医薬成分との相性等が良い1又は2以上の油脂を選択することが好ましい。
【0019】
マイクロカプセル化は、前述の医薬成分溶解液(あるいは懸濁液)を内容液とし、通常のマイクロカプセル化工程を経て製造する。すなわち、カプセル鋳型を持つ一対の回転ローラーに、2枚の薄膜状剤皮シートを送り、内容液を適量注入、充填して、連続的にカプセルを成型し打ち抜く、ロータリーダイ法と呼ばれる手法で製造する。もしくは、流動パラフィンなどの冷媒中にセットした二重ノズルの中心部側から内容液、外側からは剤皮溶液を連続的に供給して、球形カプセルを製造するシームレスカプセル法(二重ノズル法)により製造することもできる。
【0020】
マイクロカプセルの大きさは、通常は直径が10mm未満であるが、本発明においてはゼリー剤中に包埋しゼリー製剤を服用するにあたり、カプセルの粒状感が違和感として感じない程度、及び服薬時にカプセルを噛んでしまい内容液が口中に広がるのを防ぐため、小さいほうが好ましい。しかし、カプセルを小さくしすぎると1カプセル当たりの内容液を内包できる量、すなわち医薬成分含有量も減少するため、カプセル直径で0.1〜5.0mmの範囲が好ましく、0.5〜3mmの範囲がさらに好ましい。また、口中でのゼリー製剤の口当たりから、カプセルの形状はより真球に近い球形とすることが好ましい。
【0021】
マイクロカプセルの剤皮成分としては、一般的に使用されるゼラチンにグリセリンやソルビトールを配合したものを用いることはできるが、ゼリー製剤製造時の加熱に対する耐性を確保することを考慮すると、寒天、カラギーナン、アルギン酸ナトリウムから選ばれる1又は2以上を主成分として用いることが好ましい。なお、このカプセル剤皮成分に水を全く浸透させない成分を用いたり、このような成分で剤皮をさらにコーティングすることは、内包する医薬成分の長期安定化については可能であるが、医薬成分の体内でのカプセルからの放出及び薬効発揮を非常に困難とするため好ましくない。
【0022】
ゼリー製剤中の医薬成分について放出制御を行う場合には、上述のマイクロカプセル剤皮について放出制御処理を行う。この剤皮の放出制御処理は、溶解性がpH依存性のある物質によるコーティング処理、カプセル剤皮を通常より厚くする等の常法を用いることができる。使用する医薬成分の適用箇所等により、腸溶性、徐放性などの処理を適宜行うことが好ましい。
【0023】
マイクロカプセルを包埋するゼリー剤部分については、カプセルを包埋し嚥下時の流動性を確保する目的を達成できれば、用いるゲル化剤、増粘剤は特に限定されない。例えば、ゼラチン、ペクチン、ローカストビーンガム、キサンタンガム、グアガム、タラガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、コンニャクマンナン、寒天などの中から、1又は2以上を混合して使用することができる。その中でも、包埋するマイクロカプセルに与える熱負荷を出来る限り軽減するという観点から、ゲル化温度の低いゲル化剤(ゼラチン、寒天等)を使用することが好ましい。
【0024】
本発明のゼリー製剤は、通常のゼリー製剤の製造方法により製造することができる。具体的には、まず分散媒である適量の水にゲル化剤を添加して分散、懸濁又は溶解させる。この液を攪拌しながら加熱することにより、ゲル化剤を完全に溶解させた後、他の種々の添加剤を必要に応じて加える。その後、ゲル化温度より5〜10℃程度高い温度まで冷却した溶液に、別途製造した医薬成分内包マイクロカプセルを添加し、混合する。最後に、規定量を所定の容器等に充填し、冷却、ゲル化してゼリー製剤とする。
【0025】
マイクロカプセルのゼリー剤への混合割合は、医薬成分の有効量に応じて決めれば良く特に限定されるものではないが、目安としては、ゼリー剤に対して1〜20%程度が好ましく、5〜15%程度がさらに好ましい。混合割合があまり高すぎると、ゼリー製剤中にカプセル粒子の違和感を感じたり、ゼリー製剤の有用性(流動性等)を失う恐れがある。また、混合割合があまり低すぎると、必要な医薬成分の有効量を含有できない恐れがある。
【0026】
ゼリー製剤の包装形態は、特に限定はされないが、服薬のしやすさを考慮するとスティック状の包装形態、あるいはカップ容器型の包装形態が好ましい。なお、カップ容器を用いる場合には、先のマイクロカプセルとゼリー調製液を別々に容器に定量充填し、カップ内で混合する製造方法をとることも可能である。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
難水溶性のため生物学的利用率(BA)が極端に低く、結晶のままでは吸収されない薬物である抗真菌剤イトラコナゾールを医薬成分として使用した。イトラコナゾールは、単独あるいは添加剤との混合物として加熱溶融することで非晶質化し、吸収効率を高めることが可能となるが、ゼリー中の水分によって結晶に戻ってしまうことが知られている。本発明によってゼリー製剤化した際に、非晶質状態で安定に維持できるかどうかの評価を行った。
【0029】
下記表1に示した成分、配合比率に応じてカプセル内容液を調製し、寒天を剤皮とするカプセルを常法に従い製造し、直径3mmの球形マイクロカプセルを得た。そのマイクロカプセルをゼリー製剤1包あたりイトラコナゾール(非晶質物)が200mg含有するように、下記表2に示した成分、配合比率に従って調製したゼリー調製液(ゼリー剤)に添加、混合し、これをスティック型容器に充填、包装しゼリー製剤を得た。なお、ゼリー調製液中のリン酸水素ニナトリウム及びクエン酸の配合量は、ゼリー調製液のpHを所定の値に合わせるため適宜増減してもよく、その場合は、精製水で合計重量を調整すればよい。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
このゼリー製剤は、ゼリー基材がマイクロカプセルを包み込むことによりカプセル粒子の違和感を感じることなく服薬することができるものであった。また、カプセル内の薬物の結晶形を顕微鏡により観察した結果、製剤調製後3箇月を経過しても非晶質状態を安定に維持していることが確認できた(図1)。
【0033】
(実施例2)
下記表3に示した成分、配合比率に応じてカプセル内容液を調製し、カラギーナン剤皮のシームレスカプセルを常法に従い製造し、直径4mmの球形シームレスカプセルを得た。そのマイクロカプセルをゼリー製剤1包あたりイトラコナゾール(非晶質物)が200mg含有するように、下記表4に示した成分、配合比率に従って調製したゼリー調製液(ゼリー剤)に添加、混合し、これをカップ型容器に充填、包装しゼリー製剤を得た。なお、ゼリー調製液中のクエン酸ナトリウム及びクエン酸の配合量は、ゼリー調製液のpHを所定の値に合わせるため適宜増減してもよく、その場合は、精製水で合計重量を調整すればよい。
【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
カプセル粒子径がやや大きめでも、ゼリー剤成分として物性が柔らかめのゲル化剤を選択することでカプセル粒子の違和感を感じることなく服薬することが可能であった。また、カプセル内の薬物の結晶形を顕微鏡により観察した結果、実施例1と同様に製剤調製後3箇月を経過しても非晶質状態を安定に維持していることが確認できた(図2)。
【0037】
(実施例3)
下記表5に示した成分、配合比率に応じてカプセル内容液を調製し、寒天剤皮のシームレスカプセルを常法に従い製造し、直径1mmの球形シームレスカプセルを得た。そのマイクロカプセルをゼリー製剤1包あたりイトラコナゾール(非晶質物)が200mg含有するように、下記表6に示した成分、配合比率に従って調製したゼリー調製液(ゼリー剤)に添加、混合し、これをカップ型容器に充填、包装しゼリー製剤を得た。なお、ゼリー調製液中のクエン酸ナトリウム及びクエン酸の配合量は、ゼリー調製液のpHを所定の値に合わせるため適宜増減してもよく、その場合は、精製水で合計重量を調整すればよい。
【0038】
【表5】

【0039】
【表6】

【0040】
カプセル粒子径を小さくすると、ゼリー剤中に包埋するカプセル個数が増加するが、この場合でもゼリー基材がマイクロカプセルを包み込むことによりカプセル粒子の違和感を感じることなく服薬することができるものであった。また、カプセル内の薬物の結晶形を顕微鏡により観察した結果、実施例1及び2と同様に、製剤調製後3箇月を経過しても非晶質状態を安定に維持していることが確認できた(図3)。
【0041】
(比較例)
実施例1の処方において、カプセル内容液の薬物の懸濁を行う油脂を水溶性の懸濁剤として多用されるプロピレングリコールに変更し(表7)、他は実施例1と同様の処方でカプセル化、ゼリー製剤化を行った。
【0042】
【表7】

【0043】
このゼリー製剤も、ゼリー基材がマイクロカプセルを包み込むことによりカプセル粒子の違和感を感じることなく服薬することができるものであった。しかし、カプセル内の薬物の結晶形を顕微鏡により観察した結果、ゼリー製剤調製の数日後には、ゼリーの水分が拡散によりカプセル内に浸透し、水溶性であるプロピレングリコールと徐々に混和することにより、薬物が結晶化を示す針状、長方形状に変化したことから、非晶質状態を維持できず、結晶形に移行したことが確認された(図4)。
【0044】
本発明を要約すると以下の通りである。
味のマスキング効果や服用性(流動性)、携帯性などの一般的なゼリー製剤としての特徴に加え、あらかじめ含有する水の存在により不安定となる医薬成分及び/又は非晶質化された医薬成分の長期間安定化が可能であり、さらに、服薬時の用時調製といった煩雑な操作を必要としない経口投与医薬ゼリー製剤の提供を本発明の課題とする。そして本発明により、水の存在により不安定となる医薬成分及び/又は非晶質化された医薬成分を一旦油脂に溶解又は懸濁し、これをマイクロカプセル中に内包した後、このマイクロカプセルをゼリー剤中に混合して製剤化することで、該医薬成分のゼリー製剤中での長期(医薬品製造から3年間、あるいはそれ以上)安定性が確保できる、用時調製等を必要としない経口投与医薬ゼリー製剤を得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水の存在により不安定となる医薬成分及び/又は非晶質化された医薬成分を溶解又は懸濁した油脂を内包したマイクロカプセルを含有することを特徴とする、該医薬成分が長期安定化された経口投与医薬ゼリー製剤。
【請求項2】
マイクロカプセルの剤皮成分として寒天、カラギーナン、アルギン酸ナトリウムから選ばれる1又は2以上が用いられていることを特徴とする、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
マイクロカプセルに医薬成分放出制御処理がされていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の製剤。
【請求項4】
マイクロカプセルの直径が0.1〜5.0mmであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項5】
水の存在により不安定となる医薬成分及び/又は非晶質化された医薬成分を油脂に溶解又は懸濁し、これをマイクロカプセル中に内包した後、このマイクロカプセルをゼリー剤中に混合して製剤化することを特徴とする、該医薬成分が長期安定化された経口投与医薬ゼリー製剤の製造方法。
【請求項6】
マイクロカプセルの剤皮成分に寒天、カラギーナン、アルギン酸ナトリウムから選ばれる1又は2以上を用いることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
マイクロカプセルに医薬成分放出制御処理を行うことを特徴とする、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
マイクロカプセルの直径を0.1〜5.0mmとすることを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
水の存在により不安定となる医薬成分及び/又は非晶質化された医薬成分を油脂に溶解又は懸濁し、これを剤皮成分として寒天、カラギーナン、アルギン酸ナトリウムから選ばれる1又は2以上を用いたマイクロカプセル中に内包した後、このマイクロカプセルをゼリー剤中に混合してゼリー製剤とすることを特徴とする、経口投与医薬ゼリー製剤中での該医薬成分の長期安定化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−173993(P2010−173993A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21141(P2009−21141)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(597087804)大蔵製薬株式会社 (9)
【Fターム(参考)】