説明

半導体インゴットの製造方法

【課題】
溶融のタイミングが検知容易な種結晶を用いた半導体インゴットの製造方法を提供する。
【解決手段】
鋳型1の底部に半導体融液が結晶化する基となる種結晶10を配設し、該種結晶10上で鋳型1内壁全周に周縁部が当接するように熱緩衝部材9を配設する工程Aと、鋳型1内で熱緩衝部材9上に、前記半導体融液を供給する工程Bと、熱緩衝部材9全体及び種結晶10の少なくとも一部を溶融させ、該種結晶10の溶融部位に前記半導体融液を結晶化させて半導体インゴットを形成する工程Cとを有する半導体インゴットの製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は種結晶を用いた半導体インゴットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体インゴットの製造方法として、鋳型底面に種結晶を配置し、供給された半導体材料の融液を種結晶を基にして結晶化させる方法が提案されている(例えば特許文献1、2参照)。
【0003】
しかしながら、これらの方法は融液温度、鋳型温度又は種結晶の温度上昇をモニターしながら結晶化開始のタイミングを図る必要があるため、種結晶表面温度の非常に緻密な温度制御が要求され、温度が高すぎると種結晶が溶融してしまい、温度が低すぎると種結晶表面全面からの種付けが起こらないという問題がある。
【0004】
特に、半導体材料と種結晶とが同一成分からなる場合、鋳型温度を半導体材料の融点以上に保持すると、種結晶も含めた材料全てが完全溶融するまで鋳型内温度は溶融潜熱消費のために一定に保たれてしまい、これを温度上昇値でモニターする事は極めて困難である。
【0005】
これに対し、種結晶底部を冷却して固相を保ったままの状態で入熱量と抜熱量をバランスさせ、これ以上溶融しない環境にしておくことによって、種結晶の溶融を温度上昇値で検知する方法が提案されている。この方法を用いれば、低温に保たれた種結晶底部を除いた部分の溶融が完了した段階でそれまで使用されていた溶融潜熱の消費が無くなり融液温度が急激に上昇するため、融液温度、鋳型温度又は種結晶の温度上昇をモニターしながら結晶化開始のタイミングを図る事が可能になる(例えば特許文献3参照)。
【特許文献1】特開1997−2897号公報
【特許文献2】特開1998−194718号公報
【特許文献3】特開2000−1308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この方法では、鋳型底面に冷却手段を接触させても、半導体材料を溶融させるための熱が半導体材料から伝達してしまい、また、鋳型を通しての冷却となるために、種結晶内の温度勾配がつきにくく、常に種結晶を半導体材料の融点以下に保っておくと同時に、種結晶の上方に存在する半導体融液の温度も所定温度以下に保持しておく必要があるため、結晶化開始時の固液界面における温度及び温度勾配などの製造条件を著しく制限するという問題があった。
【0007】
また、上記方法では、融液温度の急激な温度上昇に伴い急速な結晶化がなされるため、多くの空孔を取り込み半導体格子内に大量の欠陥を導入してしまうという問題もあった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、種結晶溶解のタイミングの検知を容易にし、高品質な半導体インゴットを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の半導体インゴットの製造方法は、鋳型の底部に半導体融液が結晶化する基となる種結晶を配設し、該種結晶上で前記鋳型内壁全周に周縁部が当接するように熱緩衝部材を配設する工程Aと、前記鋳型内で前記熱緩衝部材上に、前記半導体融液を供給する工程Bと、前記熱緩衝部材全体及び前記種結晶の少なくとも一部を溶融させ、該種結晶の溶融部位に前記半導体融液を結晶化させて半導体インゴットを形成する工程Cとを有するものである。
【0010】
また、前記種結晶及び前記熱緩衝部材は、その間に所定の空間を有するように配設されることが好ましく、例えば、前記種結晶及び/又は前記熱緩衝部材は、その対向側表面に凹凸を有し、該凹凸によって前記空間が構成されるようにすれば良い。
【0011】
さらに、前記工程Cにおいて、前記熱緩衝部材の温度を測定する温度測定手段により、急上昇した後の収束開始温度を検知し、該収束開始温度で前記結晶化を開始させることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の半導体インゴットの製造方法は、鋳型の底部に半導体融液が結晶化する基となる種結晶を配設し、該種結晶上で前記鋳型内壁全周に周縁部が当接するように熱緩衝部材を配設する工程Aと、前記鋳型内で前記熱緩衝部材上に、前記半導体融液を供給する工程Bと、前記熱緩衝部材全体及び前記種結晶の少なくとも一部を溶融させ、該種結晶の溶融部位に前記半導体融液を結晶化させて半導体インゴットを形成する工程Cとを有することから、熱緩衝部材から種結晶への熱伝達を抑制することで、熱緩衝部材全体の溶融並びに種結晶と半導体融液との接触に伴う温度変化の検知が容易となり、種付けの制御精度を向上させることができる。
【0013】
ここで、前記種結晶及び前記熱緩衝部材を、その間に所定の空間を有するように配設させることが好ましく、これにより熱緩衝部材から種結晶への熱伝達をより効果的に抑制して種付けの制御精度を向上させることができる。
【0014】
また、前記種結晶及び/又は前記熱緩衝部材は、その対向側表面に凹凸を有し、該凹凸によって前記空間が構成されることが好ましい。
【0015】
さらに、前記工程Cにおいて、前記熱緩衝部材の温度を測定する温度測定手段により、急上昇した後の収束開始温度を検知し、該収束開始温度で前記結晶化を開始させることが好ましく、これにより種付けの制御精度をより向上させて種結晶の効果的な利用を図ることが可能となる。即ち、熱緩衝部材の溶融が完了することで溶解潜熱の消費が無くなって半導体融液の温度が急上昇し、その後、下方の種結晶上に流れ落ちた半導体融液が再度固液共存の状態になるため、急上昇した温度はすぐに一定の温度への収束を開始する。この収束開始温度で凝固に移行して結晶化を開始させることで、種付け制御が極めて精度良く行えることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0017】
図1(a)は、本発明の半導体インゴットの製造方法に用いる鋳造装置を示す概略断面図であり、1は鋳型、2は冷却手段、3は加熱手段、4は断熱壁、5はシリコン材料、8は温度測定手段、9は熱緩衝部材、10は種結晶を示し、これらの装置はすべて真空容器(不図示)内に配置される。
【0018】
図1(b)は、図1(a)の鋳型内で半導体材料を加熱した際の温度プロファイル、特に半導体材料が融解した後の温度状態を示す図である。
【0019】
図2は、本発明の半導体インゴットの製造方法に用いる鋳型を示す図であり、(a)は概略断面図、(b)は(a)に示すA−A切断線に沿って切断した断面図である。
【0020】
<工程A>
まず、図1(a)に示すように、シリコン材料(半導体材料)を溶融してなるシリコン融液(半導体融液)を保持することができる鋳型1の内底面全体に、シリコンからなる種結晶10を配置し、その上にシリコンからなる熱緩衝部材9を、その周縁部が鋳型1の内壁全周と当接するように配置する。ここで、内壁全周と当接とは、半導体融液が種結晶10上に流れ落ちないように設置されていることを言い、単に接している場合のみならず他部材を介して接している場合なども含む概念である。
【0021】
ここで鋳型1は、石英などの二酸化珪素、グラファイトなどのカーボン材、またはセラミック材などからなり、その内面には、シリコン融液と鋳型1との反応及び融着を防ぐための離型材(不図示)を塗布形成している。
【0022】
鋳型1の周りには、抜熱を抑制するため鋳型断熱材(不図示)が設置される。鋳型断熱材は耐熱性、断熱性などを考慮してカーボン系の材質が一般的に用いられる。また、鋳型1の下方にはシリコン融液を冷却・凝固するための冷却手段2を設置してもよい。
【0023】
種結晶10は、単結晶あるいは多結晶のシリコンが好適に用いられ、その厚みは、種付け制御の容易性およびコストの観点から3〜50mm程度の厚みにすることが好ましい。
【0024】
熱緩衝部材9は、種結晶の主成分と同一材料からなることが好ましく、多結晶や単結晶のいずれでも良く、複数枚で構成されていても構わない。
【0025】
ここで、種結晶10及び熱緩衝部材9は、後述の工程Cで述べるように、熱緩衝部材9から種結晶10への熱伝導を小さくするような構成・配置にすることが好ましく、これにより熱緩衝部材9が溶融したとしても種結晶10を固相に保ったままの状態で入熱量と抜熱量をバランスさせることが容易となり種付け制御を簡便にすることができる。
【0026】
熱伝導を小さくするためには、種結晶10及び熱緩衝部材9との間に空間を有するようにすればよく、例えば、図1(a)に示すように種結晶10(及び/又は熱緩衝部材9)の表面に凹凸を設けて両者の接触面積を小さくしたり、図2に示すように種結晶10と熱緩衝部材9との間に種結晶10の主成分と同一の半導体材料からなるリング状部材11を入れることによって、所定の空間を設ければ良い。
【0027】
なお、種結晶10及び/又は熱緩衝部材9の表面に凹凸を設ける場合、凹凸は微細なものであっても端部のみに形成されていても良いが、種結晶10と熱緩衝部材9との接触面積をできるだけ小さくするために、アスペクト比(凸部の高さ/隣接する凹部間の幅)を大きくすることが好ましい。
【0028】
なお、鋳型1の外底面には、製造過程における融液温度を管理するために熱電対(不図示)が鋳型1底面に接触するように配置されていてもよい。
【0029】
<工程B>
次に、鋳型1内で熱緩衝部材9上に、種結晶10の主成分と同一の半導体材料からなる融液を供給する。
【0030】
すなわち、図1(a)に示すように、鋳型1内にシリコン材料を投入し、鋳型1の上部に設けた加熱手段3によってシリコン材料を溶融して、シリコン融液を形成する。これらの加熱手段3としては、例えば、抵抗加熱式のヒーターや誘導加熱式のコイルなどを用いることができる。
【0031】
また、半導体融液を供給する他の方法として、別途設けた溶融装置によりシリコン融液5を形成し、溶融装置より鋳型1内に注ぎ込むようにしてもよい。この場合、供給されたシリコン融液は、熱緩衝部材9と接触することにより、冷やされて再度凝固するため、熱緩衝部材9と鋳型側面との当接の精度を低く設定しても、シリコン融液が種結晶10上に流れ落ちるおそれが少ない。
【0032】
<工程C>
そして、加熱手段3により熱緩衝部材9を溶融し、さらに熱緩衝部材9の下に配置された種結晶10の一部を溶融させ、種結晶10の溶融部位にシリコン融液を結晶化させてシリコンインゴットを形成する。
【0033】
結晶化のタイミングは、例えば図1(a)に示すように、熱緩衝部材9が配設された位置の鋳型1外側面に設けられた熱電対等の温度測定手段8でシリコン融液の温度を測定することによって制御すればよい。
【0034】
すなわち、シリコン融液の温度は、図1(b)に示すように、加熱手段3によって徐々に温度上昇し、熱緩衝部材9の溶融が完了した段階でそれまで使用されていた溶解潜熱の消費が無くなるため急激に上昇する(急上昇点)。その後、熱緩衝部材9の下部に位置する種結晶10の上に流れ落ちたシリコン融液は再度固液共存の状態になるため、急激に上昇したシリコン融液の温度は収束を開始して(収束開始点)すぐに一定の値になる。
【0035】
この温度収束のタイミングで凝固に移行することによって、種結晶10の上面全体に渡って凝固させることができる。凝固への移行は、水などの冷媒を内部循環させた冷却手段2で鋳型1底部から抜熱・凝固することによって行い、凝固層は種結晶10の溶融部位から引き継がれて結晶化することとなる。
【0036】
このように、種結晶10の上にシリコンからなる熱緩衝部材9を設けたことにより、シリコン融液の温度を高温にしても、種結晶10まで伝達する熱を少なくできるため、シリコン融液の温度を細かく制御する必要がなく種付けの制御を簡便にすることができる。
【0037】
なお、本発明の実施形態は上述の例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えることはできるのは言うまでも無い。
【0038】
例えば、種結晶10と熱緩衝部材9との間に空間を設ける他の方法として、鋳型1内面を底部から漸次広がる形状にし、種結晶10及び熱緩衝部材9の断面形状が台形で、種結晶10の上面を熱緩衝部材9の下面よりが小さくなるように設定しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(a)は本発明の半導体インゴットの製造方法に用いる鋳造装置を示す概略断面図であり、(b)は(a)の鋳型内で半導体材料を加熱した際の温度プロファイルを示す図である。
【図2】本発明の半導体インゴットの製造方法に用いる鋳型を示す図であり、(a)は概略断面図、(b)は(a)に示すA−A切断線に沿って切断した断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1:鋳型
2:冷却手段
3:加熱手段
4:断熱壁
8:温度測定手段
9:熱緩衝部材
10:種結晶
11:リング状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型の底部に半導体融液が結晶化する基となる種結晶を配設し、該種結晶上で前記鋳型内壁全周に周縁部が当接するように熱緩衝部材を配設する工程Aと、
前記鋳型内で前記熱緩衝部材上に、前記半導体融液を供給する工程Bと、
前記熱緩衝部材全体及び前記種結晶の少なくとも一部を溶融させ、該種結晶の溶融部位に前記半導体融液を結晶化させて半導体インゴットを形成する工程Cと、を有する半導体インゴットの製造方法。
【請求項2】
前記種結晶及び前記熱緩衝部材は、その間に所定の空間を有するように配設されることを特徴とする請求項1に記載の半導体インゴットの製造方法。
【請求項3】
前記種結晶及び/又は前記熱緩衝部材は、その対向側表面に凹凸を有し、該凹凸によって前記空間が構成されていることを特徴とする請求項2に記載の半導体インゴットの製造方法。
【請求項4】
前記工程Cにおいて、前記半導体融液の温度を測定する温度測定手段により、急上昇した後の収束開始温度を検知し、該収束開始温度で前記結晶化を開始させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の半導体インゴットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−63049(P2007−63049A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−249322(P2005−249322)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】