説明

半導体ウェハ加工用粘着テープ

【課題】ダイシング時に発生するチッピングの発生を低減できる半導体ウェハ加工用粘着テープを提供する。
【解決手段】基材フィルム上に粘着剤層を有してなる半導体ウェハ加工用粘着テープにおいて、前記基材フィルムが、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体未水添物またはスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体未水添物を含有する未水添樹脂層を有することを特徴とする半導体ウェハ加工用粘着テープである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体ウェハ加工用粘着テープに関し、さらに詳しくは、半導体ウェハを小片に切断分離する際に発生するチップの欠けもしくはヒビ(以後、チッピングと記載)を低減することができる半導体ウェハ加工用粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSIなどの半導体装置の製造工程においては、シリコン、ガリウムヒ素などの半導体ウェハを小片に切断分離(ダイシング)する工程の後、ピックアップ工程に供される。一般的な半導体ウェハのダイシング工程及びピックアップ工程について図3に示した断面図を参照しながら説明する。
【0003】
まず、両端がホルダー21に固定されている、基材フィルム上に粘着剤を塗布した粘着テープ23に、半導体ウェハ25を貼着し(図3(a))、ダイシングによりウェハを素子小片(チップ)27に分割する(図3(b))。次いで、素子小片27をピックアップするために、粘着テープ23を持ち上げる方向(図中A方向)にエキスパンダー29を突き上げ、ホルダー21の外側に向かう方向(図中B方向)に粘着テープ23をエキスパンドして素子小片27間の間隔を拡張し(図3(c))、真空チャック31により全ての素子小片27のピックアップもしくは一部の素子小片27のピックアップを行う(図3(d))。
【0004】
従来、半導体ウェハのダイシング工程からピックアップ工程に至る工程では、基材フィルムに粘着剤を塗布した粘着テープが用いられてきた。このような粘着テープにおいて、エキスパンド性を考慮して、比較的軟質な樹脂からなる基材が用いられており、たとえばポリ塩化ビニルフィルムやポリエチレン系フィルムが用いられることがある。
【0005】
ダイシング時には、チッピングと呼ばれるチップの欠け・ヒビが生じ、大きさは100μm以上となることは珍しくなく、回路面にチッピングが達すると回路そのものの性能に支障を来たすこともある。また、ピックアップ工程の際にチッピングにより生じたチップの破片が他のチップ表面に付着し、回路そのものを破壊することがある。
【0006】
チッピングはダイシング時のブレードと呼ばれる回転刃により、切削中のチップが振動してしまい、チップとブレードの接触により生じる。従って、粘着テープの代わりにワックスでウェハを完全に固定し、振動が起こらないようにする方法もある(特許文献1を参照)。しかし、製造工程のように繰り返しダイシングを行う場合はワックスによる固定・除去が手間となってしまい、現実的ではない。また、ワックスが完全に除去できない場合はウェハの汚染として残るため、汚染物質を極度に嫌う電子機器においては、適用が難しい。
【0007】
また、半導体ウェハのダイシング工程において、切断の際にチップの欠けが発生しにくいダイシングフィルムを提供するため、スチレン−イソプレン共重合体水素添加物100重量部に対して、スチレン−ブタジエン共重合体水素添加物、ポリプロピレン系樹脂、又はこれらの混合物を5〜100重量部混合した樹脂組成物を含む層を、少なくとも1層有するダイシング用基材フィルムなどが開示されている(特許文献2を参照)。しかし、チップ欠けの防止効果は十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−169718号公報
【特許文献2】特開2009−004568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであり、ダイシング時に発生するチッピングの発生を低減できる半導体ウェハ加工用粘着テープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、半導体ウェハ加工用粘着テープに未水添の熱可塑性エラストマー樹脂組成物を含有した基材フィルムを適用することで、上記課題を解決できることを見出した。本発明は上述の知見に基づきなされたものである。
【0011】
すなわち本発明は、以下の発明を提供するものである。
(1)基材フィルム上に粘着剤層を有してなる半導体ウェハ加工用粘着テープにおいて、前記基材フィルムが、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体未水添物またはスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体未水添物を含有する未水添樹脂層を有することを特徴とする半導体ウェハ加工用粘着テープ。
(2)前記基材フィルムは、複数の層が積層してなり、前記複数の層のうち1層が前記未水添樹脂層であることを特徴とする(1)に記載の半導体ウェハ加工用粘着テープ。
(3)前記基材フィルムは、前記複数の層に、第1の外層と第2の外層とを含み、前記未水添樹脂層が、前記第1の外層と前記第2の外層との間にあることを特徴とする(2)に記載の半導体ウェハ加工用粘着テープ。
(4)前記未水添樹脂層の厚さが前記基材フィルムの総厚さに対して50%以上であることを特徴とする(2)または(3)に記載の半導体ウェハ加工用粘着テープ。
(5)前記未水添樹脂層において、前記スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体未水添物または前記スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体未水添物の含有量が、前記未水添樹脂層を構成する樹脂に対して10〜75wt%であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の半導体ウェハ加工用粘着テープ。
(6)前記複数の層のうち、前記未水添樹脂層でない層のうち少なくとも一層が、スチレン−水添イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−水添ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−水添イソプレン/ブタジエン−スチレンブロック共重合体の群から選ばれる少なくとも1つの共重合体を含有することを特徴とする(2)または(3)に記載の半導体ウェハ加工用粘着テープ。
(7)前記粘着剤層を形成する粘着剤がアクリル系粘着剤であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の半導体ウェハ加工用粘着テープ。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る半導体ウェハ加工用粘着テープにより、ウェハの加工において、チッピングを大幅に減少することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る半導体ウェハ加工用粘着テープ1を示す断面図。
【図2】(a)、(b)本発明に係る半導体ウェハ加工用粘着テープ13、17を示す断面図。
【図3】(a)〜(d)半導体ウェハのダイシング工程及びピックアップ工程を説明する断面図。
【図4】未水添及び水添スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂の損失係数を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(半導体ウェハ加工用粘着テープ)
本発明の半導体ウェハ加工用粘着テープ1は、図1の断面図で示すように、基材フィルム3と基材フィルム3上に形成された粘着剤層5とからなるものである。通常、粘着剤層5の表面は使用されるまで任意の剥離ライナー7が貼付され保護されている。本発明において、粘着テープ1は、粘着シートでもあり、いわゆるダイシングテープを含むものである。本発明の半導体ウェハ加工用粘着テープ1は、基材フィルム3が、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体未水添物もしくはスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体未水添物を含有する未水添樹脂層を有することを特徴とする半導体ウェハ加工用粘着テープである。なお、各図において、同一の符号は同じものを意味し、一部の図面について、その説明を省略している。また、各構成要素の大きさは模式的なもので、実際の縮尺を示すものではない。
【0015】
また、基材フィルム3に伸張可能なフィルムを介在させると、例えば基材フィルム3の粘着剤層が設けられない側に伸張可能なフィルムを積層すると、エキスパンドを容易に行えるようになる。このような樹脂としては、具体的には、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体加硫物、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エチル共重合体、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、エチレン−塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン、ポリアミド、アイオノマー、ニトリルゴム、ブチルゴム、スチレンイソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、天然ゴムおよびその水添加物または変性物等からなるフィルムなどが用いられる。また、これら伸張可能なフィルムは、これらの樹脂の2種以上を配合または積層して組み合わせて用いることもできる。
【0016】
チッピングは、ダイシング加工時のブレードと呼ばれる回転刃により引き起こされるものであるが、その原因について本発明者等が鋭意検討したところ、そのブレードの回転により、切削中のチップが振動してしまい、チップとブレードが接触することにより生じることを見出した。
【0017】
そこで、本発明の半導体ウェハ加工用粘着テープは、ダイシング加工時に発生するチップの振動を減衰させるため、制振特性を持たせることで、チッピングを防ぐものである。制振特性とは、振動エネルギーを熱エネルギーに変換することで、振動を低減する特性である。制振特性を評価する際の指標として損失係数(Tanδ)があり、この損失係数は動的粘弾性の測定にて算出される。
【0018】
ここで一般的な動的粘弾性の測定方法について説明すると、当該方法は、試験体に周期的な微小歪を与え、それに対する応答を測定する方法であり、この方法を用いることにより、試験体における弾性要素と粘性要素の両方の要素をどの程度有するのか知ることができる。試験体が完全な弾性体であれば、それに対する応答は同位相で現れ、貯蔵弾性率と、損失弾性率の比で求められる損失係数は零となる。しかし粘性要素が存在すると、応答に遅れが生じ、損失係数は、正の値をとる。
貯蔵弾性率は弾性要素に起因して現れ、弾性要素は応力印加によって変形した際、それに対する応答を受け、力学的エネルギーが保存される性質を有するのに対し、損失弾性率は粘性要素に起因して現れ、応力印加によって変形した際、印加した応力に応じた力学的エネルギーは熱として消費される性質を有する。
本発明においては、ダイシング加工時に応力はブレードの回転から与えられるが、半導体ウェハ加工用粘着テープの損失係数が特定の値以上であれば、その応力に対する変形の回復に対応するチップの振動を抑制できるため、チッピングを低減することができる。
【0019】
ブレードによるダイシング時には、回転するブレードとウェハとの接触により発熱する。ブレードの回転数は通常、25000〜55000rpmであり、その値を周波数に換算すると400〜900Hzとなる。通常発熱を抑制するために、ダイシング時には15〜25℃の冷却水がその接触部分に流され、導体ウェハ加工用粘着テープはほぼ一定温度(例えば、23℃)で保たれる。温度23℃で周波数400〜900Hzにおける半導体ウェハ加工用粘着テープの損失係数の最小値が0.20以上とすることにより、ダイシング時に発生したチップの振動を減衰させ、チッピングを防ぐことができる。
【0020】
(未水添樹脂層)
本発明に係る半導体ウェハ加工用粘着テープ13、17を示す断面図である図2において、未水添樹脂層11としては、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体未水添物、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体未水添物単独またはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体未水添物もしくはスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体未水添物と他の樹脂とのブレンドから構成されることが望ましい。
【0021】
これらの未水添物とブレンドする他の樹脂としては、ポリプロピレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体である直鎖状低密度ポリエチレン若しくは超低密度ポリエチレンであってα−オレフィンがプロピレン、ブテン−1、オクテン−1、4メチルペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1である樹脂、スチレン系共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(以下、「EVA」という)、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体(以下、「EMMA」という)、エチレン−メタクリル酸共重合体(以下、「EMAA」という)、エチレン−エチルメタクリレート共重合体又はこれらの樹脂の混合物が挙げられる。
【0022】
本発明においては、基材フィルム3が有する未水添樹脂層11に含有される、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体未水添物もしくはスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体未水添物は、構造中に二重結合を多く含有することに起因してゴム弾性を有するため損失係数が高く、チッピング低減に効果が高い。
【0023】
本発明の未水添樹脂層11で用いられるスチレン系ブロック共重合体(スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂)の未水添物は、スチレン単位からなる重合体ブロックとイソプレン単位もしくはブタジエン単位からなる重合体ブロックからなるブロック共重合体であり、イソプレン単位もしくはブタジエン単位に基づく炭素−炭素二重結合が未水添であるものが用いられる。なお、水添とは、不飽和結合を水素により還元反応する水素添加反応(水素化)のことである。
【0024】
また、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体未水添物、もしくはスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体未水添物中のスチレン単位の含有率は、好ましくは5〜40重量%であり、より好ましくは5〜25重量%である。これは、5重量%未満では、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、もしくはスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体を安定して重合できなくなる場合があり、また40重量%を超えると、硬くて脆くなる場合があるからである。なお、共重合体の剛性を小さくすることで、押出加工性が良好となり、厚さムラを一層低減することができる。
【0025】
また、本発明におけるスチレン系ブロック共重合体未水添物(スチレン系熱可塑性エラストマー未水添物)を配合する部数は、未水添樹脂層11を構成する樹脂中、10〜75wt%であることが好ましい。本発明におけるスチレン系ブロック共重合体未水添物の含有量が少なすぎると、十分な制振性が得られず、チッピング抑制効果が小さい場合がある。また、スチレン系ブロック共重合体未水添物の含有量が多すぎると、フィルム自体が軟らかくなりすぎ、ハンドリングやカッティング性が悪化する。
【0026】
従来のスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂の使用例では、スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂として水素を添加したものが用いられている。水素を添加する理由は、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体もしくはスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体の、イソプレンもしくはブタジエン中の二重結合の存在により起こる大気中の酸素などによる酸化劣化等に起因して、樹脂がもろくなるのを防止させ、耐候性を向上させるためである。
【0027】
水素添加を行うことで前記スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂組成物の耐候性は改善されるが、構造中の二重結合が還元されることでゴム弾性が低下し、未水添のスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂組成物と比較して、損失係数のピーク温度が低下する。そのため、スチレン系熱可塑性エラストマー水添物は、半導体ウェハ加工用粘着テープを使用する23℃付近の領域での環境下におけるチッピング性能の改善には効果が薄い。
【0028】
また、粘着テープ1は、図2(a)に示す粘着テープ13のように、基材フィルム3を未水添樹脂層11と外層15を用いて構成し、未水添樹脂層11の上に粘着剤層5を設けてもよいし、図2(b)に示す粘着テープ17のように、未水添樹脂層11を第1の外層15a及び第2の外層15bで挟んで基材フィルム3を構成してもよい。
【0029】
特に、図2(b)に示すように、半導体ウェハ加工用粘着テープ17において、基材フィルム3を少なくとも未水添樹脂層11とその両面の第1の外層15aと第2の外層15bの3層以上の樹脂層で構成することで、外層15の樹脂層により、未水添樹脂層11の未水添のスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂が大気中の酸素と暴露する部分を保護し、二重結合の存在により起こる酸化劣化等に起因してもろくなるのを防止し、耐候性に優れ、且つチッピング性能に優れた半導体ウェハ加工用粘着テープを提供することができる。
【0030】
(外層)
外層15の構成樹脂は、例えばスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体未水添物もしくはスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体未水添物と相溶性のある樹脂で、ゴム弾性を有する熱可塑性樹脂からなることが好ましい。このような熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体である直鎖状低密度ポリエチレン若しくは超低密度ポリエチレンであってα−オレフィンがプロピレン、ブテン−1、オクテン−1、4メチルペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1である樹脂、スチレン系共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン−エチルメタクリレート共重合体又はこれらの樹脂の混合物であってもよい。特に好ましくは、スチレン系共重合体として、スチレン−水添イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−水添ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−水添イソプレン/ブタジエン−スチレンブロック共重合体またはこれらの共重合体の混合物、さらには、これらの共重合体と上述の熱可塑性樹脂の混合物である。これらの共重合体を、上述の熱可塑性樹脂と混合する場合は、これらの共重合体の含有量が、外層15を構成する樹脂に対して10〜75wt%であることが好ましい。これらの共重合体を適用することで、未水添樹脂層の未水添熱可塑性エラストマー樹脂層との相溶性に優れ、未水添樹脂層が大気中の酸素により劣化することを防ぎ、ひいてはチッピング性能に優れた半導体ウェハ加工用粘着テープを提供することができる。
【0031】
未水添樹脂層11の厚さは、基材フィルム3全体の厚さに対して50%以上であり、好ましくは70%以上である。このような層厚とすることにより、刃先がテープ内に食い込み易くなるため、非常に容易にカットできるようになる。カットし易くなることにより、カットミスが減り歩留まりが向上するに加え、ライン速度をアップでき生産性を大幅に改善できる。未水添樹脂層11の厚さが、基材フィルム3全体の厚さに対して50%未満の場合、刃先がテープ内に食い込みにくくなるため、カットミスが発生する。半導体製造ラインにおいては、ウェハへのテープ貼合、テープカット、ダイシングなどの各工程への移行の大部分が全自動で行われており、カットミスが発生すると工程がストップすることとなり,生産歩留まりが悪化する。なお、未水添樹脂層11の厚さは、好ましくは30〜100μmであり、より好ましくは45〜90μmであり、さらに好ましくは50〜80μmである。
【0032】
さらに、基材フィルムを構成する層のうち、粘着剤層5と接する面には、密着性を向上するために、コロナ処理を施したりプライマー等の他の層を設けたりしてもよい。また、基材フィルム3の厚さは特に制限されないが、好ましくは30〜200μm、特に好ましくは50〜100μmである。
【0033】
(粘着剤層)
粘着剤層5は、従来公知の種々の粘着剤により形成され得る。このような粘着剤としては、何ら限定されるものではないが、たとえばゴム系、アクリル系、シリコーン系、ポリビニルエーテル系等をベースポリマーとした粘着剤が用いられる。粘着剤層5の厚さは、好ましくは5〜20μmであり、より好ましくは8〜12μmである。
【0034】
これらのベースポリマーに凝集力を付加するために架橋剤を配合することができる。架橋剤としては、ベースポリマーに対応して、例えばイソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート系架橋剤、アジリジン系架橋剤、アミン樹脂などが挙げられる。さらに粘着剤には、本発明の目的が損なわれない範囲で、所望により、各種添加成分を含有させることができる。
【0035】
また、放射線硬化型や加熱発泡型の粘着剤も用いることができる。放射線硬化型の粘着剤としては、紫外線、電子線等で硬化し、剥離時には剥離しやすくなる粘着剤を使用することができ、加熱発泡型の粘着剤としては、加熱により発泡剤や膨張剤により剥離しやすくなる粘着剤を使用することができる。さらに、粘着剤としてはダイシング・ダイボンディング兼用可能な接着剤であってもよい。放射線硬化型粘着剤としては、たとえば、特公平1−56112号公報、特開平7−135189号公報等に記載のものが好ましく使用されるがこれらに限定されることはない。本発明においては、紫外線硬化型粘着剤を用いることが好ましい。その場合には、放射線により硬化し三次元網状化する性質を有すればよく、例えば通常のゴム系あるいはアクリル系の感圧性ベース樹脂(ポリマー)に対して、分子中に少なくとも2個の光重合性炭素−炭素二重結合を有する低分子量化合物(以下、光重合性化合物という)および光重合開始剤が配合されてなるものが使用される。
【0036】
上記のゴム系あるいはアクリル系のベース樹脂は、天然ゴム、各種の合成ゴムなどのゴム系ポリマー、あるいはポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとこれと共重合可能な他の不飽和単量体との共重合物などのアクリル系ポリマーが使用される。
【0037】
また上記の粘着剤中に、イソシアネート系硬化剤を混合することにより、初期の接着力を任意の値に設定することができる。このような硬化剤としては、具体的には多価イソシアネート化合物、たとえば2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、3−メチルジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−2,4’−ジイソシアネート、リジンイソシアネートなどが用いられる。
紫外線硬化型粘着剤の場合には、粘着剤中に光重合開始剤を混入することにより、紫外線照射による重合硬化時間ならびに紫外線照射量を少なくなることができる。
【0038】
このような光重合開始剤としては、具体的には、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジベンジル、ジアセチル、β−クロールアンスラキノンなどが挙げられる。
【0039】
(剥離ライナー)
本発明の半導体ウェハ加工用テープは通常、粘着剤層に剥離ライナー7が積層されたものとして供給され、使用時には剥離ライナー7を剥がして使用する。剥離ライナー7としては、紙にシリコーンオイル若しくはワックスを含浸させたもの、又は離型プラスチックフィルムなどが好適に用いられる。また、この剥離ライナー7の厚さは、ロール巻きに支障のない厚さであればよく、例えば5〜300μm程度であり、好ましくは20〜50μmである。
【0040】
本発明によれば、半導体ウェハ加工用粘着テープの基材フィルムに、23℃の領域付近で損失係数に優れた未水添の熱可塑性エラストマー樹脂を適用することで、チッピング性能に優れた半導体ウェハ加工用粘着テープを提供することができる。
【0041】
また、本発明によれば、未水添樹脂を含む未水添樹脂層を、未水添樹脂を含まない第1の外層と第2の外層により挟み込むことにより、大気中の酸素による未水素添加スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂の二重結合の反応を抑制し、耐候性に優れた半導体ウェハ加工用粘着テープを提供することができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例で各特性は次のように試験し、評価した。
【0043】
(未水添樹脂・水添樹脂の損失係数の測定)
下記の未水添樹脂と水添樹脂を用いて、基材を構成する樹脂の損失係数を測定した。
未水添樹脂:スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体未水添物;株式会社クラレ製 ハイブラー5125
水添樹脂:スチレン−水添イソプレン−スチレンブロック共重合体;株式会社クラレ製 ハイブラー7125
【0044】
これらの樹脂を、熱プレスにより、シート状に成形後、レオバイブロン動的粘弾性測定装置DDV−III(AND社製)を用い、昇温速度3℃/min、周波数110Hz時の−100℃〜50℃での温度分散時の損失係数を測定した。
上記樹脂のシート形状での損失係数測定の結果を図4に示す。
【0045】
図4に示すように、未水添スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂の損失係数は、水添スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂に比べ高温側の15〜30℃付近で高い値を示す結果となる。特に、半導体ウェハ加工用粘着テープを使用する23℃付近の領域の環境下において未水添スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂は水添スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂に比べ優れた損失係数を示す。そのため、半導体ウェハ加工用粘着テープを作成するうえで、未水添のスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂を用いることができれば、チッピング性に優れる性能を有することができる。
【0046】
(半導体ウェハ加工用粘着テープの作製と評価)
下記の要領で作成した実施例及び比較例の半導体ウェハ加工用粘着テープを用いてチッピング性、損失係数、エキスパンド性、カッティング性、耐候性の各評価を行った。
【0047】
なお、本実施例・比較例においては、図2(b)のように、中間層(実施例の場合は未水添樹脂層)を、第1の外層と第2の外層で挟み、第2の外層の上に粘着剤層を形成している。
【0048】
半導体ウェハ加工用粘着テープは表1に示したような各層構成の基材フィルムを、押し出し機を用いて樹脂単体またはニーダー練りブレンド組成物(共)押出加工により作成した。得られた基材フィルムの厚みはすべて100μmである。得られた基材フィルムの粘着剤塗布側にコロナ処理をして、乾燥後の粘着剤層の厚さが10μmとなるように粘着剤を塗工し、半導体ウェハ加工用粘着テープを作成した。この粘着テープの各評価を評価方法に従って試験した。その結果を表1に示す。なお、表1内の括弧内の数字は樹脂の配合割合のwt%を意味し、PP(50)+SIS(50)とは、PPとSISをそれぞれ50wt%の割合で混合したことを意味する。
【0049】
この実施例および比較例で用いた基材構成樹脂、粘着剤は以下のとおりである。
(基材構成樹脂)
SIS:スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体未水添物;
株式会社クラレ製 ハイブラー5125
SEPS:スチレン−水添イソプレン−スチレンブロック共重合体;
株式会社クラレ製 ハイブラー7125
SBS:スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体未水添物;
クレイトンポリマージャパン株式会社製 クレイトンD
SEBS:スチレン−水添ブタジエン−スチレンブロック共重合体;
クレイトンポリマージャパン株式会社製 クレイトンG
PP:ホモポリプロピレン;宇部興産社製 J−105G
PE:低密度ポリエチレン;東ソー製 ペトロセン205
EVA:エチレン-酢酸ビニル共重合体;宇部興産社製 V212
EMAA:エチレン-メタアクリル酸エチル共重合体;三井デュポンポリケミカル社製 ニュクレルN1214
【0050】
(粘着剤)
アクリル系ベースポリマー(2−エチルヘキシルアクリレート、メチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレートからなる共重合体、重量平均分子量20万、ガラス転移点=−35℃)100質量部にポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン社製、商品名コロネートL)3質量部、光重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物としてテトラメチロールメタンテトラアクリレート10質量部、光重合開始剤としてα−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン1質量部を添加し、混合して得た。
【0051】
(耐候性試験)
実施例及び比較例の半導体加工用粘着テープから、幅25mm×長さ100mmの試験片を切り出し、23℃、湿度50%の一定環境下の暗所に放置し、一定期間後目視観察を行い、下記の基準で評価した。
◎:3ヶ月経過後も黄変なし
○:1〜3ヶ月以内に黄変あり
×:1ヶ月以内に黄変あり
【0052】
(カッティング性試験)
テープを円形にカットする際、使い古しの刃先の丸くなったロータリーカッターを用い、滑らかにカットできるかを測定した。
◎:全周にわたり、完全にカットできた
○:2/3以上カットできた
△:1/3以上が未カット部分であった
×:カットできなかった
【0053】
(エキスパンド性試験)
実施例及び比較例の半導体加工用粘着テープに6インチウェハをマウントし、ダイシングを行った(チップサイズは5mm角)。紫外線照射(500mJ/m)後、テープをダイボンダー(NECマシナリー製、CPS−100FM、商品名)で固定リングを10mm引き下げてチップ間幅を測定した。
◎:300um〜
○:100〜300um
△:50〜100um
×:50um以下
【0054】
(テープの損失係数測定)
実施例および比較例の半導体ウェハ加工用粘着テープから、幅5mm×長さ10mmの試験片を切り出した。その試験片を動的粘弾性測定装置(ユービーエム社製、Rheogel−E4000)の支持用治具に固定し、温度23℃、周波数400〜900Hzで測定し、その範囲内での損失係数の最小値を得た。
【0055】
(チッピング性評価)
実施例及び比較例の半導体ウェハ加工用粘着テープに、直径6インチ、厚さ350μmの表面金蒸着ウェハを貼合し、ダイシング装置(DISCO社製、DAD−340)を使用してチップサイズが5mm角となるようにダイシングを行った。ダイシング条件は、回転丸刃回転数:40000rpm、切削速度:100mm/s、切削水流量は20mLである。また、ダイシングの際、回転丸刃が粘着テープに切り込む深さは30μmとなるように行った。
ダイシング後、UV照射を実施し(500mJ/m)、1枚のウェハからランダムに50チップ取り出し、チップ裏面(粘着面)の各辺における最大のチッピング値を顕微鏡(100〜200倍)で測定し、全値の平均を算出した。
【0056】
(総合評価)
耐候性、カッティング性、エキスパンド性、損失係数およびチッピング性を考慮して総合評価とした。
◎:良好
○:合格
△:製品として使えるレベル
×:不合格
【0057】
【表1】

【0058】
いずれの実施例からも明らかなように、基材フィルムの中間層に損失係数の優れる未水添のスチレン系熱可塑性エラストマー樹脂であるSISまたはSBSを含有させることで、比較例に対して良好なチッピング性能を示し、耐候性、カッティング性、エキスパンド性、チッピング性能というダイシングテープとして有効な半導体ウェハ加工用粘着テープを得ることができた。
【0059】
また、比較例4、実施例4、実施例3を比べると、未水添樹脂層の厚さが、基材フィルムの総厚さに対して50%以上であることが好ましいことが分かる。
また、比較例5、実施例5、実施例2、実施例3、実施例6、比較例6を比べると、SISまたはSBSの含有量が、未水添樹脂層を構成する樹脂に対して、10〜75wt%であることが好ましいことが分かる。
【符号の説明】
【0060】
1………半導体ウェハ加工用粘着テープ
3………基材フィルム
5………粘着剤層
7………剥離ライナー
11………未水添樹脂層
13………半導体ウェハ加工用粘着テープ
15………外層
17………半導体ウェハ加工用粘着テープ
21………ホルダー
23………粘着テープ
25………半導体ウェハ
27………素子小片(半導体チップ)
29………エキスパンダー
31………真空チャック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム上に粘着剤層を有してなる半導体ウェハ加工用粘着テープにおいて、前記基材フィルムが、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体未水添物またはスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体未水添物を含有する未水添樹脂層を有することを特徴とする半導体ウェハ加工用粘着テープ。
【請求項2】
前記基材フィルムは、複数の層が積層してなり、
前記複数の層のうち1層が前記未水添樹脂層であることを特徴とする請求項1に記載の半導体ウェハ加工用粘着テープ。
【請求項3】
前記基材フィルムは、前記複数の層に、第1の外層と第2の外層とを含み、
前記未水添樹脂層が、前記第1の外層と前記第2の外層との間にあることを特徴とする請求項2に記載の半導体ウェハ加工用粘着テープ。
【請求項4】
前記未水添樹脂層の厚さが前記基材フィルムの総厚さに対して50%以上であることを特徴とする請求項2または3に記載の半導体ウェハ加工用粘着テープ。
【請求項5】
前記未水添樹脂層において、前記スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体未水添物または前記スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体未水添物の含有量が、前記未水添樹脂層を構成する樹脂に対して10〜75wt%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体ウェハ加工用粘着テープ。
【請求項6】
前記複数の層のうち、前記未水添樹脂層でない層のうち少なくとも一層が、スチレン−水添イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−水添ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−水添イソプレン/ブタジエン−スチレンブロック共重合体の群から選ばれる少なくとも1つの共重合体を含有することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の半導体ウェハ加工用粘着テープ。
【請求項7】
前記粘着剤層を形成する粘着剤がアクリル系粘着剤であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の半導体ウェハ加工用粘着テープ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−216704(P2011−216704A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84096(P2010−84096)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】