半導体ウエーハのレーザ加工方法
【課題】 抗折強度の高いデバイスを製造可能な半導体ウエーハのレーザ加工方法を提供することである。
【解決手段】 半導体ウエーハのレーザ加工方法であって、半導体ウエーハの分割予定ラインに沿って半導体ウエーハに対して吸収性を有する波長のパルスレーザビームを照射して半導体ウエーハにレーザ加工溝を形成する加工溝形成工程を具備し、該加工溝形成工程では、パルスレーザビームのパルス幅を2ns以下に設定するとともに、1パルス当たりのピークエネルギー密度の上昇に伴って半導体ウエーハの分割予定ラインに形成されるレーザ加工溝の深さの進行が急峻化する変曲点以下のピークエネルギー密度でレーザビームを半導体ウエーハの分割予定ラインに照射することを特徴とする。
【解決手段】 半導体ウエーハのレーザ加工方法であって、半導体ウエーハの分割予定ラインに沿って半導体ウエーハに対して吸収性を有する波長のパルスレーザビームを照射して半導体ウエーハにレーザ加工溝を形成する加工溝形成工程を具備し、該加工溝形成工程では、パルスレーザビームのパルス幅を2ns以下に設定するとともに、1パルス当たりのピークエネルギー密度の上昇に伴って半導体ウエーハの分割予定ラインに形成されるレーザ加工溝の深さの進行が急峻化する変曲点以下のピークエネルギー密度でレーザビームを半導体ウエーハの分割予定ラインに照射することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエーハの分割予定ラインに沿ってレーザビームを照射して半導体ウエーハにレーザ加工溝を形成する半導体ウエーハの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造プロセスにおいては、略円板形状であるシリコンウエーハ、ガリウム砒素ウエーハ等の半導体ウエーハの表面に格子状に形成されたストリートと呼ばれる分割予定ラインによって複数の領域が区画され、区画された各領域にIC、LSI等のデバイスを形成する。そして、半導体ウエーハは切削装置又はレーザ加工装置によって個々のデバイスに分割され、分割されたデバイスは携帯電話、パソコン等の各種電気機器に広く利用されている。
【0003】
切削装置としては一般にダイシング装置と呼ばれる切削装置が用いられており、この切削装置ではダイアモンドやCBN等の超砥粒をメタルやレジンで固めて厚さ30〜300μm程度とした切削ブレードが約30000rpmと高速回転しつつ半導体ウエーハへ切り込むことで切削が遂行される。
【0004】
一方、レーザ加工装置は、半導体ウエーハを保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された半導体ウエーハにパルスレーザビームを照射するレーザビーム照射手段と、該チャックテーブルと該レーザビーム照射手段とを相対的に加工送りする加工送り手段とを少なくとも備えていて、半導体ウエーハの表面に形成された分割予定ラインに沿って半導体ウエーハに対して吸収性を有する波長のパルスレーザビームを照射してレーザ加工溝を形成し、次いで外力を付与してレーザ加工溝に沿って半導体ウエーハを破断して個々のデバイスに分割する(例えば、特開2007−19252号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−19252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、切削ブレードを備えたダイシング装置によって半導体ウエーハを切削して形成したデバイスの抗折強度が800MPaであるのに対して、従来のレーザ加工方法によって形成したデバイスの抗折強度は400MPaと低く、電気機器の品質の低下を招くという問題がある。
【0007】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、抗折強度の高いデバイスを製造可能な半導体ウエーハのレーザ加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、半導体ウエーハのレーザ加工方法であって、半導体ウエーハの分割予定ラインに沿って半導体ウエーハに対して吸収性を有する波長のパルスレーザビームを照射して半導体ウエーハにレーザ加工溝を形成する加工溝形成工程を具備し、該加工溝形成工程では、パルスレーザビームのパルス幅を2ns以下に設定するとともに、1パルス当たりのピークエネルギー密度の上昇に伴って半導体ウエーハの分割予定ラインに形成されるレーザ加工溝の深さの進行が急峻化する変曲点以下のピークエネルギー密度でレーザビームを半導体ウエーハの分割予定ラインに照射することを特徴とする半導体ウエーハのレーザ加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、パルスレーザビームのパルス幅を2ns以下に設定し、1パルス当たりのピークエネルギー密度をレーザ加工溝の深さが急峻化する変曲点以下に抑えるようにしたので、分割されたデバイスの抗折強度を800MPa以上にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明を実施するのに適したレーザ加工装置の外観斜視図である。
【図2】粘着テープを介して環状フレームにより支持された半導体ウエーハの斜視図である。
【図3】レーザビーム照射ユニットのブロック図である。
【図4】レーザ加工溝形成工程の斜視図である。
【図5】図5(A)はレーザ加工溝形成工程の説明図、図5(B)はレーザ加工溝を示す半導体ウエーハの断面図である。
【図6】ビームスポットの重なり量を説明する図である。
【図7】分割装置の斜視図である。
【図8】半導体ウエーハ分割工程の説明図である。
【図9】パルス幅10ps、波長1064nmのレーザビームをシリコンウエーハに1パルス照射したときのピークエネルギー密度と加工深さの関係を示すグラフである。
【図10】パルス幅10ps、波長532nmのレーザビームをシリコンウエーハに1パルス照射したときのピークエネルギー密度と加工深さの関係を示すグラフである。
【図11】パルス幅10ps、波長355nmのレーザビームをシリコンウエーハに1パルス照射したときのピークエネルギー密度と加工深さの関係を示すグラフである。
【図12】パルス幅10ps、波長1064nm及び532nmのレーザビームをGaAsウエーハに1パルス照射したときのピークエネルギー密度と加工深さの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の半導体ウエーハの加工方法を実施するのに適したレーザ加工装置の概略構成図を示している。
【0012】
レーザ加工装置2は、静止基台4上にX軸方向に移動可能に搭載された第1スライドブロック6を含んでいる。第1スライドブロック6は、ボールねじ8及びパルスモータ10から構成される加工送り手段12により一対のガイドレール14に沿って加工送り方向、すなわちX軸方向に移動される。
【0013】
第1スライドブロック6上には第2スライドブロック16がY軸方向に移動可能に搭載されている。すなわち、第2スライドブロック16はボールねじ18及びパルスモータ20から構成される割り出し送り手段22により一対のガイドレール24に沿って割り出し方向、すなわちY軸方向に移動される。
【0014】
第2スライドブロック16上には円筒支持部材26を介してチャックテーブル28が搭載されており、チャックテーブル28は加工送り手段12及び割り出し送り手段22によりX軸方向及びY軸方向に移動可能である。チャックテーブル28には、チャックテーブル28に吸引保持された半導体ウエーハをクランプするクランパ30が設けられている。
【0015】
静止基台4にはコラム32が立設されており、このコラム32にはレーザビーム照射ユニット34を収容するケーシング35が取り付けられている。レーザビーム照射ユニット34は、図3に示すように、YAGレーザ又はYVO4レーザを発振するレーザ発振器62と、繰り返し周波数設定手段64と、パルス幅調整手段66と、パワー調整手段68とを含んでいる。
【0016】
レーザビーム照射ユニット34のパワー調整手段68により所定パワーに調整されたパルスレーザビームは、ケーシング35の先端に取り付けられた集光器36のミラー70で反射され、更に集光用対物レンズ72によって集光されてチャックテーブル28に保持されている半導体ウエーハWに照射される。
【0017】
ケーシング35の先端部には、集光器36とX軸方向に整列してレーザ加工すべき加工領域を検出する撮像手段38が配設されている。撮像手段38は、可視光によって半導体ウエーハの加工領域を撮像する通常のCCD等の撮像素子を含んでいる。
【0018】
撮像手段38は更に、半導体ウエーハに赤外線を照射する赤外線照射手段と、赤外線照射手段によって照射された赤外線を捕らえる光学系と、この光学系によって捕らえられた赤外線に対応した電気信号を出力する赤外線CCD等の赤外線撮像素子から構成される赤外線撮像手段を含んでおり、撮像した画像信号はコントローラ(制御手段)40に送信される。
【0019】
コントローラ40はコンピュータによって構成されており、制御プログラムに従って演算処理する中央処理装置(CPU)42と、制御プログラム等を格納するリードオンリーメモリ(ROM)44と、演算結果等を格納する読み書き可能なランダムアクセスメモリ(RAM)46と、カウンタ48と、入力インターフェイス50と、出力インターフェイス52とを備えている。
【0020】
56は案内レール14に沿って配設されたリニアスケール54と、第1スライドブロック6に配設された図示しない読み取りヘッドとから構成される加工送り量検出手段であり、加工送り量検出手段56の検出信号はコントローラ40の入力エンターフェイス50に入力される。
【0021】
60はガイドレール24に沿って配設されたリニアスケール58と第2スライドブロック16に配設された図示しない読み取りヘッドとから構成される割り出し送り量検出手段であり、割り出し送り量検出手段60の検出信号はコントローラ40の入力インターフェイス50に入力される。
【0022】
撮像手段38で撮像した画像信号もコントローラ40の入力インターフェイス50に入力される。一方、コントローラ40の出力インターフェイス52からはパルスモータ10、パルスモータ20、レーザビーム照射ユニット34等に制御信号が出力される。
【0023】
図2に示すように、レーザ加工装置2の加工対象である半導体ウエーハWの表面においては、第1のストリートS1と第2のストリートS2とが直交して形成されており、第1のストリートS1と第2のストリートS2とによって区画された領域に多数のデバイスDが形成されている。
【0024】
ウエーハWは粘着テープであるダイシングテープTに貼着され、ダイシングテープTの外周部は環状フレームFに貼着されている。これにより、ウエーハWはダイシングテープTを介して環状フレームFに支持された状態となり、図1に示すクランパ30により環状フレームFをクランプすることによりチャックテーブル28上に支持固定される。
【0025】
次に図4乃至図12を参照して、本発明実施形態の半導体ウエーハのレーザ加工方法について詳細に説明する。本発明の半導体ウエーハのレーザ加工方法では、図4及び図5(A)に示すように、半導体ウエーハWに対して吸収性を有する波長のパルスレーザビーム37を集光器36で集光して半導体ウエーハWの表面に照射しつつ、チャックテーブル28を図5(A)において一端(図5(A)で左端)から矢印X1で示す方向に所定の加工送り速度で移動させる。
【0026】
そして、ストリートS1の他端(図5(A)の右端)が集光器36の照射位置に達したら、パルスレーザビームの照射を停止すると共にチャックテーブル28の移動を停止する。その結果、半導体ウエーハWには、図5(B)に示すようにストリートS1に沿ってレーザ加工溝74が形成される。
【0027】
全ての第1のストリートS1に沿ってレーザ加工溝74を形成したら、チャックテーブル28を90度回転する。次いで、第1のストリートS1と直交する全ての第2のストリートS2に沿って同様なレーザ加工溝74を形成する。その結果、半導体ウエーハWには全てのストリートS1,S2に沿ってレーザ加工溝74が形成される。
【0028】
本発明のレーザ加工方法では、集光器36から出力されるパルスレーザビームの繰り返し周波数、パルス幅、スポット径D1及び加工送り速度を最適に設定することにより、図6に示すように、隣接するパルスレーザビームのスポットの加工送り方向の重なり量(オーバーラップ量)OLを以下の範囲内に調整するのが好ましい。即ち、スポット径をD1とすると、16D1/20≦OL≦19D1/20に重なり量を調整する。
【0029】
このように全てのストリートS1,S2に沿ってレーザ加工溝74を形成したならば、次に図7に示すような分割装置80を使用して半導体ウエーハWをレーザ加工溝74に沿って個々のチップに分割するウエーハ分割工程を実施する。
【0030】
図7に示す分割装置80は、環状フレームFを保持するフレーム保持手段82と、フレーム保持手段82に保持された環状フレームFに装着された粘着テープTを拡張するテープ拡張手段84を具備している。
【0031】
フレーム保持手段82は、環状のフレーム保持部材86と、フレーム保持部材86の外周に配設された固定手段としての複数のクランプ88から構成される。フレーム保持部86の上面は環状フレームFを載置する載置面86aを形成しており、この載置面86a上に環状フレームFが載置される。
【0032】
そして、載置面86a上に載置された環状フレームFは、クランプ88によってフレーム保持部材86に固定される。このように構成されたフレーム保持手段82はテープ拡張手段84によって上下方向に移動可能に支持されている。
【0033】
テープ拡張手段84は、環状のフレーム保持部材86の内側に配設された拡張ドラム90を具備している。この拡張ドラム90は、環状フレームFの内径より小さく、該環状フレームFに装着された粘着テープTに貼着される半導体ウエーハWの外径より大きい内径を有している。
【0034】
拡張ドラム90はその下端に一体的に形成された支持フランジ92を有している。テープ拡張手段84は更に、環状のフレーム保持部材86を上下方向に移動する駆動手段94を具備している。この駆動手段94は支持フランジ92上に配設された複数のエアシリンダ96から構成されており、そのピストンロッド98がフレーム保持部材86の下面に連結されている。
【0035】
複数のエアシリンダ96から構成される駆動手段94は、環状のフレーム保持部材86をその載置面86aが拡張ドラム90の上端と略同一高さとなる基準位置と、拡張ドラム90の上端より所定量下方の拡張位置の間を上下方向に移動する。
【0036】
以上のように構成された分割装置80を用いて実施する半導体ウエーハ分割工程について図8(A)及び図8(B)を参照して説明する。図8(A)に示すように、半導体ウエーハWを粘着テープTを介して支持した環状フレームFを、フレーム保持部材86の載置面86a上に載置し、クランプ88によってフレーム保持部材86を固定する。このとき、フレーム保持部材86はその載置面86aが拡張ドラム90の上端と略同一高さとなる基準位置に位置付けられる。
【0037】
次いで、エアシリンダ96を駆動してフレーム保持部材86を図8(B)に示す拡張位置に下降する。これにより、フレーム保持部材86の載置面86a上に固定されている環状フレームFも下降するため、環状フレームFに装着された粘着テープTは拡張ドラム90の上端縁に当接して主に半径方向に拡張される。
【0038】
その結果、粘着テープTに貼着されている半導体ウエーハWには放射状に引張力が作用する。このように半導体ウエーハWに放射状に引張力が作用すると、半導体ウエーハWはレーザ加工溝74に沿って破断され、個々の半導体チップ(デバイス)Dに分割される。
【0039】
本発明は、従来のレーザ加工方法によって形成したデバイスの抗折強度は400MPaと低く、電気機器の品質の低下を招くという問題があるので、レーザ加工の際の1パルス当たりのピークエネルギー密度に着目し、ピークエネルギー密度と加工深さの関係を検討したものである。
【0040】
図9を参照すると、パルス幅10ps、波長1064nmのレーザビームをシリコンウエーハに1パルス照射したときの、ピークエネルギー密度と加工深さの関係が示されている。横軸は対数メモリのピークエネルギー密度(GW/cm2)を示し、縦軸は加工深さ(nm)を示している。
【0041】
図9を観察すると明らかなように、ピークエネルギー密度が小さいときにはピークエネルギー密度の増大に応じて加工溝の深さは徐々に深くなっているが、ピークエネルギー密度がA点以上になるとピークエネルギー密度の増大に応じて加工溝の深さの進行が急峻になっている。本明細書ではA点を変曲点と定義する。A点のピークエネルギー密度は約200GW/cm2である。
【0042】
本発明は、パルス幅を所定値以下に抑え、且つピークエネルギー密度を変曲点A以下に抑えて1パルス当たりの加工深さを制御することにより、デバイスの抗折強度を800MPa以上に向上できることを見出したものである。
【0043】
図10を参照すると、パルス幅10ps、波長532nmのレーザビームをシリコンウエーハに1パルス照射したときの、ピークエネルギー密度と加工深さの関係が示されている。図9に示した波長1064nmのレーザビームと同様に、波長532nmのレーザビームでも変曲点Bが存在し、この変曲点B以下のピークエネルギー密度でレーザビームをシリコンウエーハに照射することにより、デバイスの抗折強度を800MPa以上に向上することができる。変曲点Bは約200GW/cm2である。
【0044】
図11を参照すると、パルス幅10ps、波長355nmのレーザビームをシリコンウエーハに1パルス照射したときの、ピークエネルギー密度と加工深さの関係が示されている。波長355nmのレーザビームでも、波長1064nm、532nmのレーザビームと同様に、変曲点Cが存在し、この変曲点C以下のピークエネルギー密度でレーザ加工を遂行することにより、デバイスの抗折強度を800MPa以上に向上することができる。変曲点Cは約200GW/cm2である。
【0045】
図12を参照すると、GaAsウエーハにレーザビームを1パルス照射したときの、ピークエネルギー密度と加工深さの関係が示されている。符号100は波長1064nmのレーザビームを、102は波長532nmのレーザビームを示している。図12を観察すると明らかなように、GaAsウエーハについては加工深さの進行が急峻になる明らかな変曲点D(波長1064nm)、E(波長532nm)が存在する。
【0046】
GaAsウエーハについても、GaAsウエーハに照射される1パルス当たりのエネルギー密度を変曲点以下に抑えることにより、デバイスの抗折強度を向上することができる。図12で変曲点Dは約800GW/cm2、変曲点Eは約70GW/cm2である。
【0047】
次に、上述した本発明の知見を確認するためと、パルスレーザビームの好ましいパルス幅を決定するとともにデバイスの抗折強度が800MPa以上となる加工条件を調べるために、以下の実験を行った。
【0048】
波長1064nm、532nm、355nmの各レーザビームについてパルス幅を30ns、10ns、5ns、3ns、2ns、1ns、100ps、50ps、10psと変化させるとともに、各パルス幅において出力を変化させて所望のレーザ加工が施される1パルス当たりのエネルギーを実験で求め、そのエネルギーをパルス幅で割り算するとともに、スポットの面積で割り算してピークエネルギー密度を算出し、パルス幅とピークエネルギー密度と抗折強度との関係を調べた。
【0049】
ここで、ピークエネルギー密度(W/cm2)=平均出力(W)/(繰り返し周波数(Hz)×スポット面積(cm2)×パルス幅(s))の関係がある。その結果、波長1064nm、532nm、355nmの各レーザビームについてほとんど同様の以下の結果が得られた。
【0050】
(実験1) 繰り返し周波数:10kHz、平均出力:0.1W、パルス幅:2ns、スポット径:φ10μm、送り速度:10mm/s、ピークエネルギー密度:6.35GW/cm2で半導体ウエーハにレーザ加工溝を形成してから個々のデバイスに分割し、デバイスの抗折強度を測定したところ800MPaであった。
【0051】
(実験2) 繰り返し周波数:100kHz、平均出力:0.1W、パルス幅:10ps、スポット径:φ10μm、送り速度:100mm/s、ピークエネルギー密度:63.66GW/cm2で半導体ウエーハにレーザ加工溝を形成してから個々のデバイスに分割し、デバイスの抗折強度を測定したところ1800MPaであった。
【0052】
(実験3) 繰り返し周波数:100kHz、平均出力:0.3W、パルス幅:10ps、スポット径:φ10μm、送り速度:100mm/s、ピークエネルギー密度:190.9GW/cm2で半導体ウエーハにレーザ加工溝を形成してから個々のデバイスに分割し、デバイスの抗折強度を測定したところ1000MPaであった。
【0053】
(実験4) 繰り返し周波数:100kHz、平均出力:0.4W、パルス幅:10ps、スポット径:φ10μm、送り速度:100mm/s、ピークエネルギー密度:254.6GW/cm2で半導体ウエーハにレーザ加工溝を形成してから個々のデバイスに分割し、デバイスの抗折強度を測定したところ500MPaであった。
【0054】
(実験5) 繰り返し周波数:10kHz、平均出力:0.2W、パルス幅:3ns、スポット径:φ10μm、送り速度:10mm/s、ピークエネルギー密度:8.2GW/cm2で半導体ウエーハにレーザ加工溝を形成してから個々のデバイスに分割し、デバイスの抗折強度を測定したところ500MPaであった。
【0055】
実験1〜実験3の結果に示されるように、パルス幅を2ns以下に抑え、ピークエネルギー密度を200GW/cm2以下に抑えた場合には、800MPa以上の抗折強度が得られることが確認された。このピークエネルギー密度200GW/cm2という値は図9〜図11に示した変曲点A,B,Cに概略対応している。
【0056】
しかし、実験5の結果から明らかなように、ピークエネルギー密度を200GW/cm2に抑えた場合でも、パルス幅を3nsにするとデバイスの抗折強度が500MPaであり、デバイスの抗折強度の向上が十分でないことが確認された。よって、照射するパルスレーザビームのパルス幅を2ns以下にすることが必要である。
【0057】
実験4は変曲点A,B,C以上のピークエネルギー密度でレーザ加工した場合を示しており、この場合にはパルスレーザビームのパルス幅を2ns以下にしてもデバイスの抗折強度の向上が十分ではないことが示されている。
【0058】
また、図6を参照して説明したように、隣接するスポットSの加工送り方向におけるオーバーラップ率が16/20〜19/20の範囲内にあることが好ましい。更に、半導体ウエーハW上でのレーザビームのスポット径はφ5μm〜φ15μmの範囲内にあることが好ましい。
【符号の説明】
【0059】
W 半導体ウエーハ
T 粘着テープ(ダイシングテープ)
F 環状フレーム
D デバイス
2 レーザ加工装置
28 チャックテーブル
34 レーザビーム照射ユニット
36 集光器
74 レーザ加工溝
80 分割装置
82 フレーム保持手段
84 テープ拡張手段
86 フレーム保持部材
90 拡張ドラム
96 エアシリンダ
A〜E 変曲点
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエーハの分割予定ラインに沿ってレーザビームを照射して半導体ウエーハにレーザ加工溝を形成する半導体ウエーハの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造プロセスにおいては、略円板形状であるシリコンウエーハ、ガリウム砒素ウエーハ等の半導体ウエーハの表面に格子状に形成されたストリートと呼ばれる分割予定ラインによって複数の領域が区画され、区画された各領域にIC、LSI等のデバイスを形成する。そして、半導体ウエーハは切削装置又はレーザ加工装置によって個々のデバイスに分割され、分割されたデバイスは携帯電話、パソコン等の各種電気機器に広く利用されている。
【0003】
切削装置としては一般にダイシング装置と呼ばれる切削装置が用いられており、この切削装置ではダイアモンドやCBN等の超砥粒をメタルやレジンで固めて厚さ30〜300μm程度とした切削ブレードが約30000rpmと高速回転しつつ半導体ウエーハへ切り込むことで切削が遂行される。
【0004】
一方、レーザ加工装置は、半導体ウエーハを保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された半導体ウエーハにパルスレーザビームを照射するレーザビーム照射手段と、該チャックテーブルと該レーザビーム照射手段とを相対的に加工送りする加工送り手段とを少なくとも備えていて、半導体ウエーハの表面に形成された分割予定ラインに沿って半導体ウエーハに対して吸収性を有する波長のパルスレーザビームを照射してレーザ加工溝を形成し、次いで外力を付与してレーザ加工溝に沿って半導体ウエーハを破断して個々のデバイスに分割する(例えば、特開2007−19252号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−19252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、切削ブレードを備えたダイシング装置によって半導体ウエーハを切削して形成したデバイスの抗折強度が800MPaであるのに対して、従来のレーザ加工方法によって形成したデバイスの抗折強度は400MPaと低く、電気機器の品質の低下を招くという問題がある。
【0007】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、抗折強度の高いデバイスを製造可能な半導体ウエーハのレーザ加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、半導体ウエーハのレーザ加工方法であって、半導体ウエーハの分割予定ラインに沿って半導体ウエーハに対して吸収性を有する波長のパルスレーザビームを照射して半導体ウエーハにレーザ加工溝を形成する加工溝形成工程を具備し、該加工溝形成工程では、パルスレーザビームのパルス幅を2ns以下に設定するとともに、1パルス当たりのピークエネルギー密度の上昇に伴って半導体ウエーハの分割予定ラインに形成されるレーザ加工溝の深さの進行が急峻化する変曲点以下のピークエネルギー密度でレーザビームを半導体ウエーハの分割予定ラインに照射することを特徴とする半導体ウエーハのレーザ加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、パルスレーザビームのパルス幅を2ns以下に設定し、1パルス当たりのピークエネルギー密度をレーザ加工溝の深さが急峻化する変曲点以下に抑えるようにしたので、分割されたデバイスの抗折強度を800MPa以上にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明を実施するのに適したレーザ加工装置の外観斜視図である。
【図2】粘着テープを介して環状フレームにより支持された半導体ウエーハの斜視図である。
【図3】レーザビーム照射ユニットのブロック図である。
【図4】レーザ加工溝形成工程の斜視図である。
【図5】図5(A)はレーザ加工溝形成工程の説明図、図5(B)はレーザ加工溝を示す半導体ウエーハの断面図である。
【図6】ビームスポットの重なり量を説明する図である。
【図7】分割装置の斜視図である。
【図8】半導体ウエーハ分割工程の説明図である。
【図9】パルス幅10ps、波長1064nmのレーザビームをシリコンウエーハに1パルス照射したときのピークエネルギー密度と加工深さの関係を示すグラフである。
【図10】パルス幅10ps、波長532nmのレーザビームをシリコンウエーハに1パルス照射したときのピークエネルギー密度と加工深さの関係を示すグラフである。
【図11】パルス幅10ps、波長355nmのレーザビームをシリコンウエーハに1パルス照射したときのピークエネルギー密度と加工深さの関係を示すグラフである。
【図12】パルス幅10ps、波長1064nm及び532nmのレーザビームをGaAsウエーハに1パルス照射したときのピークエネルギー密度と加工深さの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の半導体ウエーハの加工方法を実施するのに適したレーザ加工装置の概略構成図を示している。
【0012】
レーザ加工装置2は、静止基台4上にX軸方向に移動可能に搭載された第1スライドブロック6を含んでいる。第1スライドブロック6は、ボールねじ8及びパルスモータ10から構成される加工送り手段12により一対のガイドレール14に沿って加工送り方向、すなわちX軸方向に移動される。
【0013】
第1スライドブロック6上には第2スライドブロック16がY軸方向に移動可能に搭載されている。すなわち、第2スライドブロック16はボールねじ18及びパルスモータ20から構成される割り出し送り手段22により一対のガイドレール24に沿って割り出し方向、すなわちY軸方向に移動される。
【0014】
第2スライドブロック16上には円筒支持部材26を介してチャックテーブル28が搭載されており、チャックテーブル28は加工送り手段12及び割り出し送り手段22によりX軸方向及びY軸方向に移動可能である。チャックテーブル28には、チャックテーブル28に吸引保持された半導体ウエーハをクランプするクランパ30が設けられている。
【0015】
静止基台4にはコラム32が立設されており、このコラム32にはレーザビーム照射ユニット34を収容するケーシング35が取り付けられている。レーザビーム照射ユニット34は、図3に示すように、YAGレーザ又はYVO4レーザを発振するレーザ発振器62と、繰り返し周波数設定手段64と、パルス幅調整手段66と、パワー調整手段68とを含んでいる。
【0016】
レーザビーム照射ユニット34のパワー調整手段68により所定パワーに調整されたパルスレーザビームは、ケーシング35の先端に取り付けられた集光器36のミラー70で反射され、更に集光用対物レンズ72によって集光されてチャックテーブル28に保持されている半導体ウエーハWに照射される。
【0017】
ケーシング35の先端部には、集光器36とX軸方向に整列してレーザ加工すべき加工領域を検出する撮像手段38が配設されている。撮像手段38は、可視光によって半導体ウエーハの加工領域を撮像する通常のCCD等の撮像素子を含んでいる。
【0018】
撮像手段38は更に、半導体ウエーハに赤外線を照射する赤外線照射手段と、赤外線照射手段によって照射された赤外線を捕らえる光学系と、この光学系によって捕らえられた赤外線に対応した電気信号を出力する赤外線CCD等の赤外線撮像素子から構成される赤外線撮像手段を含んでおり、撮像した画像信号はコントローラ(制御手段)40に送信される。
【0019】
コントローラ40はコンピュータによって構成されており、制御プログラムに従って演算処理する中央処理装置(CPU)42と、制御プログラム等を格納するリードオンリーメモリ(ROM)44と、演算結果等を格納する読み書き可能なランダムアクセスメモリ(RAM)46と、カウンタ48と、入力インターフェイス50と、出力インターフェイス52とを備えている。
【0020】
56は案内レール14に沿って配設されたリニアスケール54と、第1スライドブロック6に配設された図示しない読み取りヘッドとから構成される加工送り量検出手段であり、加工送り量検出手段56の検出信号はコントローラ40の入力エンターフェイス50に入力される。
【0021】
60はガイドレール24に沿って配設されたリニアスケール58と第2スライドブロック16に配設された図示しない読み取りヘッドとから構成される割り出し送り量検出手段であり、割り出し送り量検出手段60の検出信号はコントローラ40の入力インターフェイス50に入力される。
【0022】
撮像手段38で撮像した画像信号もコントローラ40の入力インターフェイス50に入力される。一方、コントローラ40の出力インターフェイス52からはパルスモータ10、パルスモータ20、レーザビーム照射ユニット34等に制御信号が出力される。
【0023】
図2に示すように、レーザ加工装置2の加工対象である半導体ウエーハWの表面においては、第1のストリートS1と第2のストリートS2とが直交して形成されており、第1のストリートS1と第2のストリートS2とによって区画された領域に多数のデバイスDが形成されている。
【0024】
ウエーハWは粘着テープであるダイシングテープTに貼着され、ダイシングテープTの外周部は環状フレームFに貼着されている。これにより、ウエーハWはダイシングテープTを介して環状フレームFに支持された状態となり、図1に示すクランパ30により環状フレームFをクランプすることによりチャックテーブル28上に支持固定される。
【0025】
次に図4乃至図12を参照して、本発明実施形態の半導体ウエーハのレーザ加工方法について詳細に説明する。本発明の半導体ウエーハのレーザ加工方法では、図4及び図5(A)に示すように、半導体ウエーハWに対して吸収性を有する波長のパルスレーザビーム37を集光器36で集光して半導体ウエーハWの表面に照射しつつ、チャックテーブル28を図5(A)において一端(図5(A)で左端)から矢印X1で示す方向に所定の加工送り速度で移動させる。
【0026】
そして、ストリートS1の他端(図5(A)の右端)が集光器36の照射位置に達したら、パルスレーザビームの照射を停止すると共にチャックテーブル28の移動を停止する。その結果、半導体ウエーハWには、図5(B)に示すようにストリートS1に沿ってレーザ加工溝74が形成される。
【0027】
全ての第1のストリートS1に沿ってレーザ加工溝74を形成したら、チャックテーブル28を90度回転する。次いで、第1のストリートS1と直交する全ての第2のストリートS2に沿って同様なレーザ加工溝74を形成する。その結果、半導体ウエーハWには全てのストリートS1,S2に沿ってレーザ加工溝74が形成される。
【0028】
本発明のレーザ加工方法では、集光器36から出力されるパルスレーザビームの繰り返し周波数、パルス幅、スポット径D1及び加工送り速度を最適に設定することにより、図6に示すように、隣接するパルスレーザビームのスポットの加工送り方向の重なり量(オーバーラップ量)OLを以下の範囲内に調整するのが好ましい。即ち、スポット径をD1とすると、16D1/20≦OL≦19D1/20に重なり量を調整する。
【0029】
このように全てのストリートS1,S2に沿ってレーザ加工溝74を形成したならば、次に図7に示すような分割装置80を使用して半導体ウエーハWをレーザ加工溝74に沿って個々のチップに分割するウエーハ分割工程を実施する。
【0030】
図7に示す分割装置80は、環状フレームFを保持するフレーム保持手段82と、フレーム保持手段82に保持された環状フレームFに装着された粘着テープTを拡張するテープ拡張手段84を具備している。
【0031】
フレーム保持手段82は、環状のフレーム保持部材86と、フレーム保持部材86の外周に配設された固定手段としての複数のクランプ88から構成される。フレーム保持部86の上面は環状フレームFを載置する載置面86aを形成しており、この載置面86a上に環状フレームFが載置される。
【0032】
そして、載置面86a上に載置された環状フレームFは、クランプ88によってフレーム保持部材86に固定される。このように構成されたフレーム保持手段82はテープ拡張手段84によって上下方向に移動可能に支持されている。
【0033】
テープ拡張手段84は、環状のフレーム保持部材86の内側に配設された拡張ドラム90を具備している。この拡張ドラム90は、環状フレームFの内径より小さく、該環状フレームFに装着された粘着テープTに貼着される半導体ウエーハWの外径より大きい内径を有している。
【0034】
拡張ドラム90はその下端に一体的に形成された支持フランジ92を有している。テープ拡張手段84は更に、環状のフレーム保持部材86を上下方向に移動する駆動手段94を具備している。この駆動手段94は支持フランジ92上に配設された複数のエアシリンダ96から構成されており、そのピストンロッド98がフレーム保持部材86の下面に連結されている。
【0035】
複数のエアシリンダ96から構成される駆動手段94は、環状のフレーム保持部材86をその載置面86aが拡張ドラム90の上端と略同一高さとなる基準位置と、拡張ドラム90の上端より所定量下方の拡張位置の間を上下方向に移動する。
【0036】
以上のように構成された分割装置80を用いて実施する半導体ウエーハ分割工程について図8(A)及び図8(B)を参照して説明する。図8(A)に示すように、半導体ウエーハWを粘着テープTを介して支持した環状フレームFを、フレーム保持部材86の載置面86a上に載置し、クランプ88によってフレーム保持部材86を固定する。このとき、フレーム保持部材86はその載置面86aが拡張ドラム90の上端と略同一高さとなる基準位置に位置付けられる。
【0037】
次いで、エアシリンダ96を駆動してフレーム保持部材86を図8(B)に示す拡張位置に下降する。これにより、フレーム保持部材86の載置面86a上に固定されている環状フレームFも下降するため、環状フレームFに装着された粘着テープTは拡張ドラム90の上端縁に当接して主に半径方向に拡張される。
【0038】
その結果、粘着テープTに貼着されている半導体ウエーハWには放射状に引張力が作用する。このように半導体ウエーハWに放射状に引張力が作用すると、半導体ウエーハWはレーザ加工溝74に沿って破断され、個々の半導体チップ(デバイス)Dに分割される。
【0039】
本発明は、従来のレーザ加工方法によって形成したデバイスの抗折強度は400MPaと低く、電気機器の品質の低下を招くという問題があるので、レーザ加工の際の1パルス当たりのピークエネルギー密度に着目し、ピークエネルギー密度と加工深さの関係を検討したものである。
【0040】
図9を参照すると、パルス幅10ps、波長1064nmのレーザビームをシリコンウエーハに1パルス照射したときの、ピークエネルギー密度と加工深さの関係が示されている。横軸は対数メモリのピークエネルギー密度(GW/cm2)を示し、縦軸は加工深さ(nm)を示している。
【0041】
図9を観察すると明らかなように、ピークエネルギー密度が小さいときにはピークエネルギー密度の増大に応じて加工溝の深さは徐々に深くなっているが、ピークエネルギー密度がA点以上になるとピークエネルギー密度の増大に応じて加工溝の深さの進行が急峻になっている。本明細書ではA点を変曲点と定義する。A点のピークエネルギー密度は約200GW/cm2である。
【0042】
本発明は、パルス幅を所定値以下に抑え、且つピークエネルギー密度を変曲点A以下に抑えて1パルス当たりの加工深さを制御することにより、デバイスの抗折強度を800MPa以上に向上できることを見出したものである。
【0043】
図10を参照すると、パルス幅10ps、波長532nmのレーザビームをシリコンウエーハに1パルス照射したときの、ピークエネルギー密度と加工深さの関係が示されている。図9に示した波長1064nmのレーザビームと同様に、波長532nmのレーザビームでも変曲点Bが存在し、この変曲点B以下のピークエネルギー密度でレーザビームをシリコンウエーハに照射することにより、デバイスの抗折強度を800MPa以上に向上することができる。変曲点Bは約200GW/cm2である。
【0044】
図11を参照すると、パルス幅10ps、波長355nmのレーザビームをシリコンウエーハに1パルス照射したときの、ピークエネルギー密度と加工深さの関係が示されている。波長355nmのレーザビームでも、波長1064nm、532nmのレーザビームと同様に、変曲点Cが存在し、この変曲点C以下のピークエネルギー密度でレーザ加工を遂行することにより、デバイスの抗折強度を800MPa以上に向上することができる。変曲点Cは約200GW/cm2である。
【0045】
図12を参照すると、GaAsウエーハにレーザビームを1パルス照射したときの、ピークエネルギー密度と加工深さの関係が示されている。符号100は波長1064nmのレーザビームを、102は波長532nmのレーザビームを示している。図12を観察すると明らかなように、GaAsウエーハについては加工深さの進行が急峻になる明らかな変曲点D(波長1064nm)、E(波長532nm)が存在する。
【0046】
GaAsウエーハについても、GaAsウエーハに照射される1パルス当たりのエネルギー密度を変曲点以下に抑えることにより、デバイスの抗折強度を向上することができる。図12で変曲点Dは約800GW/cm2、変曲点Eは約70GW/cm2である。
【0047】
次に、上述した本発明の知見を確認するためと、パルスレーザビームの好ましいパルス幅を決定するとともにデバイスの抗折強度が800MPa以上となる加工条件を調べるために、以下の実験を行った。
【0048】
波長1064nm、532nm、355nmの各レーザビームについてパルス幅を30ns、10ns、5ns、3ns、2ns、1ns、100ps、50ps、10psと変化させるとともに、各パルス幅において出力を変化させて所望のレーザ加工が施される1パルス当たりのエネルギーを実験で求め、そのエネルギーをパルス幅で割り算するとともに、スポットの面積で割り算してピークエネルギー密度を算出し、パルス幅とピークエネルギー密度と抗折強度との関係を調べた。
【0049】
ここで、ピークエネルギー密度(W/cm2)=平均出力(W)/(繰り返し周波数(Hz)×スポット面積(cm2)×パルス幅(s))の関係がある。その結果、波長1064nm、532nm、355nmの各レーザビームについてほとんど同様の以下の結果が得られた。
【0050】
(実験1) 繰り返し周波数:10kHz、平均出力:0.1W、パルス幅:2ns、スポット径:φ10μm、送り速度:10mm/s、ピークエネルギー密度:6.35GW/cm2で半導体ウエーハにレーザ加工溝を形成してから個々のデバイスに分割し、デバイスの抗折強度を測定したところ800MPaであった。
【0051】
(実験2) 繰り返し周波数:100kHz、平均出力:0.1W、パルス幅:10ps、スポット径:φ10μm、送り速度:100mm/s、ピークエネルギー密度:63.66GW/cm2で半導体ウエーハにレーザ加工溝を形成してから個々のデバイスに分割し、デバイスの抗折強度を測定したところ1800MPaであった。
【0052】
(実験3) 繰り返し周波数:100kHz、平均出力:0.3W、パルス幅:10ps、スポット径:φ10μm、送り速度:100mm/s、ピークエネルギー密度:190.9GW/cm2で半導体ウエーハにレーザ加工溝を形成してから個々のデバイスに分割し、デバイスの抗折強度を測定したところ1000MPaであった。
【0053】
(実験4) 繰り返し周波数:100kHz、平均出力:0.4W、パルス幅:10ps、スポット径:φ10μm、送り速度:100mm/s、ピークエネルギー密度:254.6GW/cm2で半導体ウエーハにレーザ加工溝を形成してから個々のデバイスに分割し、デバイスの抗折強度を測定したところ500MPaであった。
【0054】
(実験5) 繰り返し周波数:10kHz、平均出力:0.2W、パルス幅:3ns、スポット径:φ10μm、送り速度:10mm/s、ピークエネルギー密度:8.2GW/cm2で半導体ウエーハにレーザ加工溝を形成してから個々のデバイスに分割し、デバイスの抗折強度を測定したところ500MPaであった。
【0055】
実験1〜実験3の結果に示されるように、パルス幅を2ns以下に抑え、ピークエネルギー密度を200GW/cm2以下に抑えた場合には、800MPa以上の抗折強度が得られることが確認された。このピークエネルギー密度200GW/cm2という値は図9〜図11に示した変曲点A,B,Cに概略対応している。
【0056】
しかし、実験5の結果から明らかなように、ピークエネルギー密度を200GW/cm2に抑えた場合でも、パルス幅を3nsにするとデバイスの抗折強度が500MPaであり、デバイスの抗折強度の向上が十分でないことが確認された。よって、照射するパルスレーザビームのパルス幅を2ns以下にすることが必要である。
【0057】
実験4は変曲点A,B,C以上のピークエネルギー密度でレーザ加工した場合を示しており、この場合にはパルスレーザビームのパルス幅を2ns以下にしてもデバイスの抗折強度の向上が十分ではないことが示されている。
【0058】
また、図6を参照して説明したように、隣接するスポットSの加工送り方向におけるオーバーラップ率が16/20〜19/20の範囲内にあることが好ましい。更に、半導体ウエーハW上でのレーザビームのスポット径はφ5μm〜φ15μmの範囲内にあることが好ましい。
【符号の説明】
【0059】
W 半導体ウエーハ
T 粘着テープ(ダイシングテープ)
F 環状フレーム
D デバイス
2 レーザ加工装置
28 チャックテーブル
34 レーザビーム照射ユニット
36 集光器
74 レーザ加工溝
80 分割装置
82 フレーム保持手段
84 テープ拡張手段
86 フレーム保持部材
90 拡張ドラム
96 エアシリンダ
A〜E 変曲点
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウエーハのレーザ加工方法であって、
半導体ウエーハの分割予定ラインに沿って半導体ウエーハに対して吸収性を有する波長のパルスレーザビームを照射して半導体ウエーハにレーザ加工溝を形成する加工溝形成工程を具備し、
該加工溝形成工程では、パルスレーザビームのパルス幅を2ns以下に設定するとともに、1パルス当たりのピークエネルギー密度の上昇に伴って半導体ウエーハの分割予定ラインに形成されるレーザ加工溝の深さの進行が急峻化する変曲点以下のピークエネルギー密度でレーザビームを半導体ウエーハの分割予定ラインに照射することを特徴とする半導体ウエーハのレーザ加工方法。
【請求項1】
半導体ウエーハのレーザ加工方法であって、
半導体ウエーハの分割予定ラインに沿って半導体ウエーハに対して吸収性を有する波長のパルスレーザビームを照射して半導体ウエーハにレーザ加工溝を形成する加工溝形成工程を具備し、
該加工溝形成工程では、パルスレーザビームのパルス幅を2ns以下に設定するとともに、1パルス当たりのピークエネルギー密度の上昇に伴って半導体ウエーハの分割予定ラインに形成されるレーザ加工溝の深さの進行が急峻化する変曲点以下のピークエネルギー密度でレーザビームを半導体ウエーハの分割予定ラインに照射することを特徴とする半導体ウエーハのレーザ加工方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−272699(P2010−272699A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123436(P2009−123436)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】
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