説明

半導体ガスセンサ

【課題】感ガス体を小型化しても特に一酸化炭素を検知するにあたっての検知感度の経時安定性を高く維持することが可能であり、消費電力を抑制すると共に高い信頼性を確保することができる半導体ガスセンサを提供する。
【解決手段】金属酸化物半導体として酸化スズを含有する感ガス体Aを備える。感ガス体Aは、その表面から深さ60μmまでの表層領域2に第一添加物としてパラジウムを含有すると共に、第二添加物としてタングステン、モリブデン、バナジウムから選択される少なくとも一種の金属を含有する。前記表層領域2における第二添加物の含有量は、表層領域2におけるスズ原子の総量に対して0.2〜6.0質量%の範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般家庭や工業分野などにおいて少ない電力消費量で可燃性ガス、一酸化炭素等を検出する半導体ガスセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、都市ガスやプロパンガスなどの可燃性ガスのガス漏れや、不完全燃焼によって発生する一酸化炭素を検知するためのガス警報器用の半導体センサとして、SnO2を主体とする外径0.8mm以下の感ガス体に、雑ガスを除去するフィルタ層を設けると共に、この感ガス体にヒータ兼用電極と白金電極とを埋設し、このヒータ兼用電極に高低二段階の電力を所定の周期で供給して感ガス体を高低二段階の温度で加熱することで、感ガス体の高温時に可燃性ガス等を、感ガス体の低温時に一酸化炭素等を検出するようにした半導体ガスセンサが提供されている(特許文献1参照)。この半導体ガスセンサは、1つの半導体ガスセンサで可燃性ガスと一酸化炭素とを検出することができ、また感ガス体を小型化すると共にヒータ兼用電極に供給する電力を高低二段階に切り換えることにより加熱のための消費電力を抑制し、且つ感ガス体の温度を速やかに変化させることを可能として測定のデッドタイムを短縮したものである。
【0003】
また、近年、消費電力の更なる低減や、ガス検知時の応答性の向上、製造コストの削減への要請により、感ガス体の更なる小型化が要望されるようになってきている。
【特許文献1】特開平11−142356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、感ガス体を小型化すると検知感度の経時安定性が損なわれる傾向があり、長期間ガスの測定を行っていると、特に一酸化炭素の濃度上昇に対する感ガス体の電気抵抗値の変化量が低減してしまって検知感度が悪化してしまい、長期間の実用に耐えるものを得ることは困難であった。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、感ガス体を小型化しても特に一酸化炭素を検知するにあたっての検知感度の経時安定性を高く維持することが可能であり、消費電力を抑制すると共に高い信頼性を確保することができる半導体ガスセンサを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る半導体ガスセンサは、金属酸化物半導体として酸化スズを含有する感ガス体Aを備える半導体ガスセンサにおいて、前記感ガス体Aは、感ガス体Aの表面から深さ60μmまでの表層領域2に第一添加物としてパラジウムを含有すると共に、第二添加物としてタングステン、モリブデン、バナジウムから選択される少なくとも一種の金属を含有し、前記表層領域2における第二添加物の含有量が、表層領域2におけるスズ原子の総量に対して0.2〜6.0質量%の範囲であることを特徴とするものである。
【0007】
上記表層領域2における第一添加物であるパラジウムの含有量は、表層領域2におけるスズ原子の総量に対して0.1〜3.0質量%の範囲であることが好ましい。
【0008】
また、上記感ガス体Aは、総体積が0.03〜0.064mm3の範囲であることが好ましい。
【0009】
また、上記感ガス体Aは、略球状に形成されていると共に、コイル状のヒータ兼用電極25と、ヒータ兼用電極15のコイルの中心を貫通する電極20とが埋設されていることが好ましい。
【0010】
このようにヒータ兼用電極25と、このヒータ兼用電極25のコイルの中心を貫通する電極20を設ける場合は、半導体ガスセンサは、ヒータ兼用電極25に高低二段階の電力を所定の周期で供給して感ガス体Aを高低二段階の温度で加熱する駆動回路を備えることが好ましい。
【0011】
また、このような駆動回路を備える半導体ガスセンサは、上記感ガス体Aを高温で加熱した状態において可燃性ガスを検出し、低温で加熱した状態で一酸化炭素を検出することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、感ガス体を小型化した場合であっても、特に一酸化炭素濃度を検知する際において水素ガス等の雑ガスの影響を排除して検知感度を向上することができ、更にガス検知時の検知感度、特に一酸化炭素を検知する際の検知感度の経時変化を防止して長期間に亘って安定した測定を行うことが可能となるものである。
【0013】
また、上記感ガス体の総体積を0.03〜0.064mm3の範囲となるようにすると、感ガス体を小型化することによりガス検知時に感ガス体を加熱する際の消費電力を低減すると共にガス検知時の検知感度及び応答性を向上することができ、且つこのように感ガス体を小型化するにもかかわらず、特に一酸化炭素を検知する際の検知感度の経時変化を防止して長期間に亘って安定した測定を行うことが可能となるものである
また、上記感ガス体を略球状に形成すると共に、コイル状のヒータ兼用電極と、ヒータ兼用電極のコイルの中心を貫通する電極とが埋設されているように形成すると、電極及びヒータ兼用電極をまとまり良く配置して感ガス体の小型化が容易となるものである。
【0014】
また、ヒータ兼用電極に高低二段階の電力を所定の周期で供給して感ガス体を高低二段階の温度で加熱する駆動回路を備えるようにすると、高温加熱時にはメタン等の可燃性ガスを検知すると共に低温加熱時には一酸化炭素を検知することができて、可燃性ガスと一酸化炭素とを一つの感ガス体で検知することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明をその実施をするための最良の形態に基づいて説明する。
【0016】
本発明に係る半導体ガスセンサは、白金(Pt)、白金合金(Pt合金)等から形成されるヒータ及び電極をセンサ基体とし、このセンサ基体を覆うように感ガス体Aが球状に設けられる。
【0017】
電極は、感ガス体Aの電気抵抗測定用に設けられるものであり、感ガス体Aを測定対象のガスを含む雰囲気中に配置した状態でこの電極間の電気抵抗値を測定し、この電気抵抗値に基づいてガス濃度を検出することができるものである。
【0018】
ヒータは、感ガス体Aを一定の温度に保つために設けられる。すなわち、感ガス体Aは組成に応じてガスを検知するための好適な温度(素子温度)があり、また素子温度が変動するとガス感度が変動して正確な濃度を検知することが困難になるため、ガス濃度の検出を行うにあたり、ヒータにて素子温度を好適温度に保ち、ガス濃度を正確に検知することができるようにするものである。
【0019】
図1〜3に示す半導体ガスセンサでは、コイル状のヒータ兼用電極25及び芯線状の電極20をセンサ基体として、このヒータ兼用電極25及び電極20を覆うように略球状(球体状、楕円球体状等)に感ガス体Aが形成されている。このとき図示の例ではヒータ兼用電極25は、そのコイル部分が感ガス体Aの、表面から深さ60μmまでの表層領域2を除く内層領域1中に埋設されるように形成されると共に、電極20はヒータ兼用電極25のコイル部分の中心を貫通するように感ガス体A中に埋設されており、これによりヒータ兼用電極25及び電極20がまとまりよく配設されて感ガス体Aの小型化が容易なものである。
【0020】
そして、この半導体ガスセンサは、有底筒状のセンサ筐体40の底部を兼ねる樹脂製のベース30と、ベース30を貫通してセンサ筐体40内外に突出する3本の端子101,102,103と、端子101,102,103に白金(Pt)、白金合金(Pt合金)等からなるリード線201,202,203を接続固定して支持された感ガス体Aと、センサ筐体40の天上面に設けられたガス導入用のステンレス製等の金網41とで構成されている。ヒータ兼用電極25は白金(Pt)、白金合金(Pt合金)等から形成され、且つ上述のリード線201,203間に設けられて、ヒータ兼用電極25、リード線201,203が一体に形成されているものであり、また電極20は白金(Pt)、白金合金(Pt合金)等から形成され、且つ上述のリード線202により形成されているものである。
【0021】
感ガス体Aは、金属酸化物半導体として酸化スズ(SnO2)を主成分として含有するものであり、このSnO2の総量は、感ガス体Aの全量に対して55〜70質量%の範囲とすることが好ましい。
【0022】
また、感ガス体Aには、感ガス体Aの電気抵抗値の調整や強度向上などのためにアルミナ(Al23)等を骨材として含有させても良く、この場合、アルミナの含有量は、十分な検知感度を維持すると共に電気抵抗値の調整や強度向上等を十分に行うことができるように適宜調整することができる。
【0023】
また、感ガス体Aには、第一添加物としてパラジウムを含有させると共に、第二添加物としてタングステン、モリブデン、バナジウムから選択される少なくとも一種の金属を含有させる。
【0024】
上記の第一添加物と第二添加物は、感ガス体Aにおける、表面から深さ60μmまでの表層領域2に含有される。
【0025】
上記のようにして感ガス体Aに第一添加物及び第二添加物を含有させると、感ガス体Aの高温加熱と低温加熱とを繰り返し行って高温時にメタン等の可燃性ガスの検知を行うと共に、低温時において一酸化炭素の検知を行う場合に、測定が長期間に亘ってもガスの検知感度の変化が少なくなり、このため、感ガス体Aの素子サイズが小さい場合であっても、検知感度の経時安定性が高い半導体ガスセンサを得ることができるものである。また、このような表層領域2を設けることで雑ガスの検知感度を低減することができるものであり、このとき、水素等の検知感度を特に低温時において低減し、特に一酸化炭素の測定精度を向上することができる。
【0026】
上記のような効果を得るためには、表層領域2における第二添加物であるタングステン、モリブデン、バナジウムから選択される少なくとも一種の金属の含有量は、表層領域2におけるスズ原子(SnO2中のスズ原子。以下同じ。)の全量に対して、0.2〜6.0質量%とする。この第二添加物の表層領域2における含有量が少ないと、水素等に対する一酸化炭素等の選択検知性が十分に得られなくなって測定精度を十分に向上することができず、また一酸化炭素やメタン等の可燃性ガスの検知感度が経時的に鋭敏化する傾向が生じて検知感度の経時安定性が損なわれる。またこの第二添加物の含有量が過大になると一酸化炭素等の検知感度に経時劣化が生じるが、これは触媒劣化により素子温度を高温から低温に移行した時の、感ガス体Aの表面での一酸化炭素の吸着反応が遅くなるからであると推測される。図8は、第二添加物の含有量が過大である場合の感ガス体Aの一酸化炭素検知感度の一例を示すグラフであり、感ガス体Aを高温加熱状態(300〜500℃)から、一酸化炭素検知に好適な低温加熱状態(60〜100℃)へ移行させた際の、清浄空気中(Air)及び濃度100ppmの一酸化炭素含有雰囲気中(CO100ppm)での、検知出力(センサ抵抗値)の変化を示している。このグラフに示すように、高温加熱状態から低温加熱状態に移行した際、一酸化炭素含有雰囲気中の感ガス体Aのセンサ抵抗値は、初期(初期CO100ppm)は速やかに変化して応答性が良好なものであるが、低温加熱と高温加熱とを2年間連続して行ったもの(2年後CO100ppm)では、センサ抵抗値の変化が鈍化し、このため高温加熱状態から低温加熱状態へ移行してから、一酸化炭素濃度を正確に検知可能となるまでのタイムラグが大きくなる。
【0027】
この第二添加物は、表層領域2の全体に亘って存在するようにしても良いが、表層領域2における、更に厚みの薄い領域にのみ第二添加物が存在していても良い。
【0028】
また、感ガス体Aにおける、上記表層領域2よりも内奥側の領域である内層領域1における、第二添加物の有無は制限されるものではない。すなわち、内層領域1には第二添加物が含有されていても良く、また含有されていなくても良い。内層領域1に第二添加物が含有されている場合は、これらの含有量は特に制限されるものではないが、内層領域1における第二添加物の含有量は内層領域1におけるスズ原子の全量に対して、3.0質量%以下とすることが好ましい。
【0029】
また、表層領域2における第一添加物であるパラジウムの含有量は、表層領域2におけるスズ原子の全量に対して、0.1〜3.0質量%とすることが好ましい。また、この第一添加物は表層領域2にのみ含有させても良いが、感ガス体Aの全体に含有させることが好ましいものであり、この場合は、感ガス体Aにおけるスズ原子の全量に対して、0.1〜3.0質量%とすることが好ましい。この範囲において、感ガス体Aによる一酸化炭素等の優れた検知感度や応答性が得られる。このとき第一添加物の含有量が過少であると、一酸化炭素やメタン等の可燃性ガスの検知感度が経時的に鈍化する傾向が生じて検知感度の経時安定性が損なわれるおそれがある。またこの第一添加物の含有量が過大になると検知感度の鋭敏化を招いて、この場合も検知感度の経時安定性が損なわれるおそれがある。
【0030】
また、このような感ガス体Aの総体積は、小型化することにより、特に感ガス体Aの高温加熱と低温加熱とを繰り返し行って高温時にメタン等の可燃性ガスの検知を行うと共に、低温時において一酸化炭素の検知を行う場合に、ヒータ兼用電極25を加熱するために供給される電力を高低二段階に切り換える場合の消費電力を抑制することができ、且つ感ガス体Aの温度を速やかに変化させることを可能としてガス検知時の応答性を向上し、測定のデッドタイムを短縮することができる。
【0031】
また、感ガス体Aの体積は、特に0.03〜0.064mm3の範囲とすることが好ましく、これにより感ガス体Aの検知感度の経時安定性を更に向上することができる。すなわち、上記組成を有する感ガス体Aの体積が前記範囲に対して小さくなると、測定期間が長期間に亘る場合のガスの検知感度が鈍化する傾向が生じ、また感ガス体Aの体積が前記範囲に対して大きくなると、逆にガスの検知感度が経時的に鋭敏化する傾向が生じてしまうものであるが、感ガス体Aの体積を0.03〜0.064mm3の範囲とすると、ガスの検知感度の経時変化が生じにくくなり、長期に亘って安定したガス検知を行うことができるものである。
【0032】
また、上記のように感ガス体Aの体積を0.03〜0.064mm3の範囲とする場合には、素子温度の変化に対するガスの検知感度の安定性が高いものである。半導体ガスセンサにおける感ガス体Aを、ガス検知時に所望の温度に加熱する場合には、通常は感ガス体Aを加熱するためのヒータに対して一定電圧を印加するものであるが、感ガス体Aの素子サイズにばらつきがあると、実際の素子温度は所望の温度からずれた値になる場合がある。このような感ガス体Aの温度ばらつきが生じた場合でも、感ガス体Aの体積を上記範囲にすると、多少の検知温度の違いが生じた場合でも、低温加熱時の一酸化炭素の検知感度と、高温加熱時のメタン等の可燃性ガスの検知感度の変動幅が共に小さくなり、検知感度にばらつきが生じないようにすることができる。
【0033】
図6は、このような素子温度とガス感度との関係の一例を示したものであり、一酸化炭素の検知感度は低温加熱状態で高く且つ温度変化による変動幅が小さいものであり、素子温度が高くなると急激に低下する。またメタンの検知感度は高温加熱状態で高く且つ温度変化による変動幅が小さいものであり、素子温度が低くなると急激に低下する。このとき感ガス体Aの体積が小さすぎると(例えば図6における0.02mm2の場合)、高温加熱状態ではメタンの検知感度に大きな変化は生じないが、低温加熱状態の場合は素子温度が高温側にシフトしてしまって一酸化炭素の検知感度の低下が生じ、また感ガス体Aの体積が大きすぎると(例えば図6における0.075mm2の場合)、低温加熱状態では一酸化炭素の検知感度に大きな変化は生じないが、高温加熱状態では素子温度が低温側にシフトしてしまってメタンの検知感度の低下が生じてしまうものである。これに対し、感ガス体Aの体積を上記のように0.03〜0.064mm3の範囲とすると、低温加熱状態における一酸化炭素の検知感度も高温加熱状態におけるメタンの検知感度も、共に大きな変動は生じず、検知感度のばらつきが生じにくいものである。
【0034】
ここで、このような小型の感ガス体Aにおいては、特に低温加熱状態での一酸化炭素の検知感度の長期安定性が損なわれやすいものであるが、本発明では上記のように第一添加物と第二添加物とを含有させていることから、小型の感ガス体Aであっても長期に亘って検知感度の劣化が抑制され、長期間の使用においても高い信頼性を有する半導体ガスセンサを得ることができるものである。
【0035】
上記のような感ガス体Aを作製するにあたっては、例えば酸化スズを含む成形体に対して第一添加物や第二添加物を含む溶液や分散液を塗布含浸した後、焼成することができる。また、酸化スズ、第一添加物、第二添加物を含有する混合物を成形・焼成することにより、第一添加物と第二添加物を全体的に均一に含む感ガス体Aを得ることもできる。また、第一添加物と第二添加物のうちの一方と酸化スズとを含む混合物にて成形体を作製し、この成形体に、第一添加物と第二添加物のうちの他方を含む溶液や分散液を塗布含浸した後、焼成するようにしても良い。その他適宜の手法により感ガス体Aを作製することができる。
【0036】
感ガス体Aの具体的な形成方法の一例を以下に説明する。
【0037】
感ガス体Aの形成に用いる金属酸化物半導体であるSnO2は、適宜の手法で調製されるものを用いることができるが、例えばSnCl4の水溶液をNH4で加水分解してスズ酸ゾルを得て、これを乾燥した後に空気中で焼成(例えば550〜700℃で1時間)することで調製することができる。
【0038】
このようなSnO2を粉砕したものに、Pdの王水溶液を含浸させ、空気中で焼成(例えば500℃で1時間)することで、PdをSnO2に添加することができる。
【0039】
次いで、得られた焼成物にテルピネオール等の有機溶媒、アルミナ等の骨材、その他の添加材を加えてペースト状の成形材料を調製し、これをセンサ基体に塗布した後、適宜の条件、例えば空気雰囲気下で500〜700℃で1〜60分間焼成することで、好ましくは0.03〜0.064mm3の範囲の体積を有する略球状(球体、楕円球体等)の成形体を得る。
【0040】
次に、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)から選択される一種又は二種以上の金属を無機シリカゾルや有機シリカ等のシリカバインダーなどに分散・溶解させた分散液を調製し、この分散液中に上記成形体を浸漬したり、この分散液を上記成形体に塗布するなどして、この成形体表面と分散液とを接触させて、分散液を成形体の表層に含浸させる。
【0041】
そして、この成形体を焼成(例えば空気中で500〜700℃で1〜10分間)することで、感ガス体Aを形成することができる。
【0042】
この感ガス体Aは、全体に亘ってPdが分散して存在することから、表層領域2にもPdが含有されているものであり、このときPdの使用量は、表層領域2におけるPdの含有量が所望の範囲となるように適宜調整される。
【0043】
また、上記のように成形体に分散液を含浸した後焼成することで、感ガス体Aの表層領域2にタングステン(W)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)から選択される一種又は二種以上の金属が含有されるものであり、このときの表層領域2における前記金属の含有量は、例えば分散液の濃度、塗布量、分散液への成形体の浸漬時間、分散液の粘度等を調整することで、適宜変更することができる。
【0044】
感ガス体Aの具体的な形成方法の他例を以下に説明する。
【0045】
SnO2は上記の、適宜の手法で調製されるものを用いることができるが、例えばSnCl4の水溶液をNH4で加水分解してスズ酸ゾルを得て、これを乾燥した後に空気中で焼成(例えば550〜700℃で1時間)することで調製することができる。
【0046】
このようなSnO2を粉砕したものに、Pd、並びにタングステン(W)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)から選択される一種又は二種以上の金属を溶解させた王水溶液を含浸させ、空気中で焼成(例えば500℃で1時間)することで、Pdと、W、Mo、Vから選択される一種又は二種以上の金属とを、SnO2に添加することができる。
【0047】
次に、上記焼成物にテルピネオール等の有機溶媒、アルミナ等の骨材、その他の添加材等を加えてペースト状の成形材料を調製し、これをセンサ基体に塗布した後、適宜の条件、例えば空気雰囲気下で500〜700℃で1〜60分間焼成することで、好ましくは0.03〜0.064mm3の範囲の体積を有する略球状(球体、楕円球体等)の感ガス体Aを形成することができる。
【0048】
この、感ガス体Aは、Pdが全体的に分散して存在することから、表層領域2にもPdが含有されているものであり、このときPdの使用量は、表層領域2におけるPdの含有量が所望の値となるように適宜調整される。
【0049】
また、感ガス体Aには、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)から選択される一種又は二種以上の金属も全体的に分散して存在していることから、表層領域2にも前記金属が含有されているものであり、このときの前記金属の使用量は、表層領域2における前記金属の含有量が所望の値となるように適宜調整される。
【0050】
上記のような感ガス体Aを備える半導体ガスセンサにてメタン等の可燃性ガスと一酸化炭素の検知を行う場合には、既述のようにヒータ兼用電極25に高低二段階の電力を所定の周期で供給して感ガス体Aの高温加熱と低温加熱とを繰り返し行うことにより、高温時にメタン等の可燃性ガスの検知を行うと共に、低温時において一酸化炭素の検知を行うことができる。このとき良好な検知感度を得るためには、可燃性ガスの検知時に感ガス体Aを高温加熱する場合にその温度を300〜500℃の範囲となるようにすることが好ましく、また一酸化炭素の検知時に感ガス体Aを低温加熱する場合にその温度を60〜100℃の範囲となるようにすることが好ましい。
【0051】
また低温加熱と高温加熱の繰り返し周期は適宜設定されるが、例えば低温加熱を10〜30秒間、高温加熱を3〜7秒間として低温加熱と高温加熱を繰り返して測定を行うことができる。ここで、上記のように感ガス体Aを小型化することで感ガス体Aの温度を速やかに変化させることができることから、測定のデッドタイムを短縮することができるため、短い周期で感ガス体Aの温度を変化させても安定した測定を行うことができる。
【0052】
また、感ガス体Aを300〜500℃の温度に維持することでメタン等の可燃性ガスのみを検知するようにしても良く、また300〜500℃の温度の高温加熱と60〜100℃の低温加熱とを繰り返して低温加熱時に一酸化炭素濃度を検知すると共に高温加熱時に感ガス体Aのクリーニングをするようにしても良い。
【0053】
この半導体ガスセンサのヒータ兼用電極25に高低二段階の電力を所定の周期で供給して感ガス体Aを高低二段階の温度で加熱する駆動回路の一例を図4に示す。本回路では、交流電源電圧を一定の直流電圧VCCに定電圧回路50で変換したのち、この直流電圧VCCをスイッチング素子Qと感ガス体Aのヒータ兼用電極25との直列回路に印加するとともに、負荷抵抗Rと感ガス体Aとの直列回路に印加し、更に感ガス体Aの検知状態の監視とヒータ兼用電極25に印加する電圧のスイッチング制御とを行う信号処理部60に印加している。
【0054】
信号処理部60は、タイマ62と、感ガス体Aの高温状態期間と低温状態期間とをタイマ62の計時出力により交互に設定し、且つ、高温状態期間と低温状態期間とでそれぞれトランジスタQのオンデューティを駆動回路63を通じて制御する機能、及び、低温状態期間の所定タイミングで取り込んだ感ガス体Aの電圧値と予め設定してある基準値とから汚染度が警報動作閾値を越えた時に警報制御出力回路67を通じて外部に警報信号を出力する機能を備えた演算制御回路64と、負荷抵抗Rの両端電圧をA/D変換するA/D変換回路61と、デジタル変換された負荷抵抗の両端電圧値をD/A変換し再度アナログ出力として外部に出力するD/A変換回路65と、上記基準値や警報動作閾値を格納するメモリ66よりなり、信号処理部60は例えば1チップのマイクロコンピュータから構成される。
【0055】
ここで、警報制御出力回路67の警報信号は警報表示用の発光ダイオード(LED)71や外付けのブザー72の駆動制御等に用いられ、また換気装置等の外部機器の制御のための接点出力となる。また、信号処理部60の外付け回路として設けた温度補償回路80はA/D変換される負荷抵抗Rの両端電圧を感ガス体Aの温度特性に対応して補正し、温度の影響を無くすためのものである。
【0056】
ところで、感ガス体Aの高温状態期間では、駆動回路63がパルス信号でトランジスタQをオンオフすることにより、ヒータ兼用電極25に印加する電圧の平均値が所定の値(例えば0.9V)となるようにして感ガス体Aを所定の温度(例えば400℃)で加熱し、かつその期間が所定の期間(例えば5秒)となるようにする。
【0057】
また、低温状態期間では、駆動回路63がパルス信号でトランジスタQをオンオフすることにより、ヒータ兼用電極25に印加する電圧の平均値が所定の値(例えば0.2V)となるようにして感ガス体Aを高温状態期間の場合よりも低い所定の温度(例えば80℃)で加熱し、かつその期間が所定の期間(例えば10秒)となるようにする。
【0058】
本回路では感ガス体Aの高温状態と低温状態とが交互に切り換えられ、感ガス体Aの高温状態では、高温状態から低温状態に切り換わる時点に演算制御回路64がA/D変換した負荷抵抗Rの両端電圧を取り込み汚染度を判定するとともに、警報動作閾値と比較して警報動作閾値を越えている場合には警報信号を出力して、メタン等の可燃性ガスの検出を行うことができる。また、感ガス体Aの低温状態では、低温状態に切り換わって約1秒程度経過した時点から次に高温状態に切り換わるまで逐次演算制御回路64がA/D変換した負荷抵抗Rの両端電圧を取り込み汚染度を判定するとともに、警報動作閾値と比較して警報動作閾値を越えている場合には警報信号を出力して、一酸化炭素の検出を行うことができる。
【0059】
このように検知対象のガス(一酸化炭素)に応じて、低温状態の期間と、トランジスタQをオン・オフするパルス信号のオンデューティや周期を設定することにより、短時間で確実に一酸化炭素を検出することができる。
【0060】
図4の回路では、感ガス体Aのヒータ兼用電極25に印加する電圧をスイッチング制御により設定しているが、図5の回路に示すように、ヒータ兼用電極25に印加する電圧を連続制御により設定しても良い。本回路では、定電圧回路50の出力端間にヒータ兼用電極25とトランジスタQ2との直列回路を接続し、トランジスタQ2の基準電圧を決めるオペアンプOPの非反転入力端の電圧値をトランジスタQ1のオン/オフで切り換えてトランジスタQ2の基準電圧を二段階に切り換えるようになっている。トランジスタQ1のオン/オフ制御は演算制御部64から駆動回路63を介して出力される制御信号により行われ、トランジスタQ1をオンする期間とオフする期間とはそれぞれ感ガス体Aの高温状態期間と低温状態期間に対応しており、その設定はタイマ62の計時出力に基づいて行われる。
【0061】
而して、本回路においても検知対象のガスが一酸化炭素の場合、高温状態期間を例えば約5秒としてヒータ兼用電極25に印加する電圧を約0.9Vに設定するとともに、低温状態期間を例えば約10秒としてヒータ兼用電極25に印加する電圧を約0.2Vに設定することにより、メタンガスやプロパンガスなどの可燃性ガスと弁別して一酸化炭素を短時間で検出することができる。
【0062】
尚、本実施形態では、ヒータ兼用電極25に印加する電圧を高低二段階に切り換えて、感ガス体Aの温度を高温状態と低温状態に切り換えているが、ヒータ兼用電極25への電力供給をオン・オフして、感ガス体Aの温度を高温と低温に切り換えるようにしても良く、このように感ガス体Aの低温時にヒータ兼用電極25への電力供給を停止すると、半導体ガスセンサの消費電力をさらに低減することができる。
【実施例】
【0063】
次に本発明の実施例をさらに詳細に説明する。
【0064】
(実施例1〜23、比較例1,2)
SnO2の粉砕物にPdの王水溶液を含浸させ、空気中で500℃で1時間焼成した。次いで、得られた焼成物にテルピネオール、SnO2に対して70質量%のアルミナを加えてペースト状の成形材料を調製し、これを図1に示すようなセンサ基体に塗布した後、空気雰囲気下で600℃で30分間焼成することで、略球状の成形体を得た。
【0065】
次に、タングステン(W)、モリブデン(Mo)又はバナジウム(V)をシリカバインダーに分散・溶解させた分散液中に上記成形体を浸漬した後、この成形体を空気中で600℃で5分間焼成することで感ガス体Aを形成し、この感ガス体Aを用いて図1〜3に示すような半導体ガスセンサを作製した。
【0066】
各実施例及び比較例における感ガス体Aの、体積並びに表層領域2における組成を、表1に示す。尚、表層領域2の組成は、波長分散型X線アナライザーによる測定により導出されたものであり、表層領域2におけるスズ原子の総量に対する、Pd、W、Mo、Vの各原子の質量割合を示している。
【0067】
(経時安定性評価試験)
各実施例及び比較例の半導体ガスセンサを図5に示す構成のガス警報器の回路に接続し、ヒータ兼用電極25に0.9Vの電圧を5秒間印加して加熱する高温加熱と、ヒータ兼用電極25に0.2Vの電圧を10秒間印加して加熱する低温加熱とを繰り返すように動作させ、低温加熱開始から10秒後の時点で一酸化炭素の検知濃度が110ppmである場合に不完全燃焼警報を発するように設定し、高温加熱開始から5秒後の時点でメタンの検知濃度が3000ppmである場合にガス漏れ警報を発するように設定した。そしてこのガス警報器の回路を2年間連続動作させて、警報濃度の変化を調べた。その結果を表1に示す。表1における一酸化炭素警報濃度は2年間連続動作後における不完全燃焼警報が発せられる際の実際の一酸化炭素濃度を示し、メタン警報濃度は2年間連続動作後におけるガス漏れ警報が発せられる際の実際のメタン濃度を示している。尚、表1中には、一酸化炭素測定の際の不完全燃焼警報時(低温加熱開始から10秒後の時点)と、メタン測定の際のガス漏れ警報時(高温加熱開始から5秒後の時点)での、それぞれの実際の素子温度も示している。
【0068】
【表1】

【0069】
この結果から明らかなように、表層領域2における第二添加物の含有量がスズ原子に対して0.2〜6.0質量%の範囲となることにより、高温加熱時のメタン検知時と、低温加熱時の一酸化炭素検知時のいずれの場合においても、検知感度の経時安定性が高いものであり、また第一添加物であるパラジウムの含有量がスズ原子に対して0.1〜3.0質量%の範囲となることによっても、検知感度の経時安定性が向上することが確認された。
【0070】
また感ガス体Aの総体積を0.03〜0.064mm3の範囲とすることによっても、検知感度の経時安定性が向上することが確認された。
【0071】
(選択検知性評価試験)
実施例21について、高温加熱時と、低温加熱時において、感ガス体Aを清浄空気(Air)、一酸化炭素含有雰囲気(CO)、メタン含有雰囲気(CH4)、水素含有雰囲気(H2)にそれぞれ曝露した場合の検知出力を調査した。低温加熱時における結果を図7(a)、高温加熱時における結果を図7(b)に、それぞれ示す。
【0072】
この結果から、図7(a)によると、一酸化炭素含有雰囲気に曝露した場合、メタン含有雰囲気及び水素含有雰囲気の場合に比べて、清浄空気に曝露した場合からの検知出力の変化が大きくなり、一酸化炭素検知時におけるメタンや水素の影響が小さく、選択検知性が高いことが確認された。
【0073】
また、図7(b)によると、メタン含有雰囲気に曝露した場合、一酸化炭素含有雰囲気及び水素含有雰囲気の場合に比べて、清浄空気に曝露した場合からの検知出力の変化が大きくなり、メタン検知時における一酸化炭素や水素の影響が小さく、選択検知性が高いことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す半導体ガスセンサにおける感ガス体の断面図である。
【図2】同上の半導体ガスセンサの要部概略構成図である。
【図3】同上の半導体ガスセンサの一部破断した正面図である。
【図4】同上の半導体ガスセンサの駆動回路の一例を示す回路図である。
【図5】同上の半導体ガスセンサの駆動回路の他例を示す回路図である。
【図6】素子温度と一酸化炭素及びメタンの検知感度との関係の一例を示すグラフである。
【図7】実施例21におけるガス検知感度の測定結果を示すものであり、(a)は低温加熱状態、(b)は高温加熱状態における結果を示すグラフである。
【図8】第二添加物の含有量が過剰な感ガス体における一酸化炭素検知感度の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0075】
A 感ガス体
2 表層領域
20 電極
25 ヒータ兼用電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物半導体として酸化スズを含有する感ガス体を備える半導体ガスセンサにおいて、前記感ガス体は、感ガス体の表面から深さ60μmまでの表層領域に第一添加物としてパラジウムを含有すると共に、第二添加物としてタングステン、モリブデン、バナジウムから選択される少なくとも一種の金属を含有し、前記表層領域における第二添加物の含有量が、表層領域におけるスズ原子の総量に対して0.2〜6.0質量%の範囲であることを特徴とする半導体ガスセンサ。
【請求項2】
上記表層領域における第一添加物であるパラジウムの含有量が、表層領域におけるスズ原子の総量に対して0.1〜3.0質量%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の半導体ガスセンサ。
【請求項3】
感ガス体の総体積が0.03〜0.064mm3の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体ガスセンサ。
【請求項4】
上記感ガス体が略球状に形成されていると共に、コイル状のヒータ兼用電極と、ヒータ兼用電極のコイルの中心を貫通する電極とが埋設されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の半導体ガスセンサ。
【請求項5】
ヒータ兼用電極に高低二段階の電力を所定の周期で供給して感ガス体を高低二段階の温度で加熱する駆動回路を備えることを特徴とする請求項4に記載の半導体ガスセンサ。
【請求項6】
上記感ガス体を高温で加熱した状態において可燃性ガスを検出し、低温で加熱した状態で一酸化炭素を検出するものであることを特徴とする請求項5に記載の半導体ガスセンサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−46970(P2006−46970A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−224804(P2004−224804)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(593210961)エフアイエス株式会社 (39)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】