説明

半導体チップおよび半導体装置

【課題】 集積回路を解析しようとすると半導体チップ自体が破壊されるので、集積回路の解析、内蔵データの吸い出し・改竄が困難となり、高いセキュリティーを確保することができる半導体チップおよび該半導体チップが実装された半導体装置を提供する。また、集積回路の解析を防止する方法を提供する。
【解決手段】 集積回路および該集積回路に電気的に接続された複数の端子を有する半導体基板と、
該端子のおのおのに隣接して形成され、前記基板に電気的に接続された電気伝導性部材と
を有し、
複数のプローブをおのおの異なる該端子に接触させたときに、該プローブの少なくとも二個が該電気伝導性部材にも接触するように、該電気伝導性部材が該端子のおのおのに隣接して形成されている
ことを特徴とする半導体チップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集積回路の解析が困難であるため高いセキュリティーを確保することができる半導体チップおよび該半導体チップが実装された半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触ICカードは、ICカードとICカードリーダー・ライタとの間で非接触の状態でデータの交換を行うようなシステムで使用されるICカードである。現在、JR東日本、JR西日本、地下鉄、バス等の交通機関の共通乗車券として普及が急速に進んでいる。また、電子マネーシステムの電子マネーとして、有料自動車道路、各種店舗等でのICカードによる電子決済の普及が急速に進んでいる。
【0003】
電子マネーシステムが普及するに伴い、使用される電子機器およびシステムのセキュリティーが重要視されるようになってきた。特に携帯可能な電子機器を用いた電子決済システムの場合、電子機器自体の紛失・盗難を経て内蔵データが読み出されることにより、顧客情報や金銭情報などの重要機密事項が流出してしまう危険性が考えられる。また、製造された電子機器に顧客情報や金銭情報等の各種セキュリティーデータが入力された後に、内蔵メモリからデータを吸い出して、プログラムを解析することで、パスワードやキーオペレーションを割り出したり、情報の改竄を行ったりすることができる危険性がある。このような解析は困難ではあるが技術的に可能である。そのため、機器を分解しても内蔵データを解析できないような根本的な対策が必要となってきた。
【0004】
例えば、情報の改変や消去を可能とする認証回路を電子機器の内部回路に付与したり、破壊検知手段の出力に基づいて電子情報をリセットして消去したり(特許文献1)、プログラムとして起動時にパスワードを要求したり、特別なキーオペレーションを設けたりすることで、情報内容の保護を図ることが考えられてきた。
【0005】
ICチップ周辺での情報保護に関しては、例えば、特許文献2において、電子機器が組み込まれた筐体に、筐体開閉検知手段と、その検知手段からの信号を開閉回数として計測できる開閉回数計測手段とを設けることが提案されている。一旦筐体を閉めて出荷した後に該筐体を開けた場合には、この電子機器は二度と起動しなくなるように設計されており、機器の内部データの解析が不可能になる。特許文献3では集積回路表面を遮光膜で被覆することで、光学的な内部観察を防止する機構が提案されている。特許文献4においては、加工により半導体素子裏面に静的ストレスを付与することで半導体素子単体を取り出しての回路解析を防止することが提案されている。
【0006】
しかしながら、これらの従来技術においては、半導体装置のプラスチック製パッケージ等を剥離することによって取り出した半導体チップに対する回路解析を半導体チップ自体の破壊により阻止することに関しては何ら考慮がされていない。
【特許文献1】特開平10−222426号公報
【特許文献2】特開2002−229682号公報
【特許文献3】特開平10−270562号公報
【特許文献4】特許3553457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたものであり、集積回路を解析しようとすると半導体チップ自体が破壊されるので、集積回路の解析、内蔵データの吸い出し・改竄が困難となり、高いセキュリティーを確保することができる半導体チップおよび該半導体チップが実装された半導体装置を提供することを目的とする。また、本発明は、集積回路の解析を防止する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成する手段として、
集積回路および該集積回路に電気的に接続された複数の端子を有する半導体基板と、
該端子のおのおのに隣接して形成され、前記基板に電気的に接続された電気伝導性部材と
を有し、
複数のプローブをおのおの異なる該端子に接触させたときに、該プローブの少なくとも二個が該電気伝導性部材にも接触するように、該電気伝導性部材が該端子のおのおのに隣接して形成されている
ことを特徴とする半導体チップならびに該半導体チップが実装された半導体装置を提供する。
【0009】
また、本発明は、
集積回路の解析を防止する方法であって、
該集積回路と該集積回路に電気的に接続された複数の端子とを有する半導体基板を有する半導体チップにおいて、前記基板に電気的に接続された電気伝導性部材を、複数のプローブをおのおの異なる該端子に接触させたときに、該プローブの少なくとも二個が該電気伝導性部材にも接触するように、該端子のおのおのに隣接して形成すること
を含む方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の半導体チップにおいては、複数の端子のおのおのに隣接して電気伝導性部材が形成されている。複数のプローブをおのおの異なる該端子に接触させたときに、該プローブの少なくとも二個が該電気伝導性部材に接触するように、該電気伝導性部材は形成されている。該電気伝導性部材は該半導体チップの半導体基板に電気的に接続されているので、該電気伝導性部材と接触した該プローブから該半導体基板に電圧が加わる。その結果、該半導体基板中に埋め込まれて形成されている半導体素子と該半導体基板との間のpn接合や該半導体素子内のpn接合には、該プローブからの電圧がそのまま加わり、大量の電流が流れることとなるので、これらのpn接合の一部は物理的に破壊される。これにより、本発明の半導体チップはもはや正常には動作しなくなり、集積回路の解析が困難となる。よって、本発明の半導体チップの内蔵データの吸い出し、改竄が困難となる。このように、本発明の半導体チップは、機密情報へのアクセスが困難なセキュリティーデバイスとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明につき詳細に説明する。
【0012】
[半導体チップ]
図1は、本発明の半導体チップの一例を示す縦断面図である。図2は、図1のうち、金製電気伝導性部材の周辺を示す拡大図である。図3は、形成される金製電気伝導性部材の周辺を示す上面図である。金バンプを環状に包囲する状態で金製の電気伝導性部材を構築する。該金バンプの周囲に無電解めっき法にて、液温60-65℃、Au濃度10±2g/Lという条件で、該金製電気伝導性部材を形成する。形成される該金製電気伝導性部材を300℃、30minでアニールすると、そのヴィッカース硬度は40-60Hvとなる。該金製電気伝導性部材の高さは10〜50μm、厚さは0.5〜5μm、該金バンプと該金製電気伝導性部材の内壁面との間隔は0.25〜3μmである。
【0013】
図4は、図1および2に一例として示す本発明の半導体チップの端子にプローブを接触させたときの結果を示す縦断面図である。プローブは端子だけでなく金製電気伝導性部材にも接触していることが分かる。この結果、該半導体チップのpn接合の一部は破壊され、該半導体チップの集積回路の解析は困難となる。
【0014】
[半導体基板]
本発明の半導体チップを形成する半導体基板は、その上に集積回路を形成することができる限り特に限定されず、p型半導体基板でもn型半導体基板でもよい。その具体例としては、p型シリコン基板、n型シリコン基板などが挙げられる。前記半導体基板は、当業者に公知の方法によって製造することができる。
【0015】
[集積回路]
前記半導体基板の表面には集積回路が形成される。該集積回路としては、一層のみからなる集積回路を形成してもよく、多層からなる集積回路を形成してもよい。後者の場合、各層の間には絶縁膜が設けられ、各層は層間配線により接続される。前記集積回路は、当業者に公知の方法によって製造することができる。
【0016】
[端子]
前記半導体基板は、前記集積回路に電気的に接続された複数の端子を有する。該端子は通常、前記集積回路の表面にパッドとして設けられる。該端子の材料としては、例えば、アルミニウム、金、ニッケル、銅などの金属が挙げられ、アルミニウムおよび金が特に好ましく用いられる。該端子は、該パッドの表面に形成された、金、ハンダなどの金属からなるバンプであってもよい。
【0017】
[電気伝導性部材]
前記半導体基板の表面には、前記集積回路のほかに電気伝導性部材も形成される。該電気伝導性部材は、前記端子のおのおのに隣接して形成され、前記基板に電気的に接続される。この際、複数のプローブをおのおの異なる該端子に接触させたときに、該プローブの少なくとも二個が該電気伝導性部材にも接触するように、該電気伝導性部材が該端子のおのおのに隣接して形成される。なお、該電気伝導性部材は該集積回路表面上において該端子とは電気的に絶縁して形成されている。
【0018】
該プローブとしては、例えば、LSIテスタ等の集積回路試験機のプローブが挙げられる。より具体的には、該プローブとしては、例えば、直径20μm程度の円柱状のプローブが挙げられる。該プローブにおいては、例えば、SK材がニッケルコーティングされ、更に金めっきされている。該金めっきの上に更にロジウムがめっきされていてもよい。このようなプローブを用いて半導体チップ上の集積回路を解析する場合、正確に電気信号を捕捉するためには該プローブを前記端子に接触させることが必要である。半導体装置のパッケージを溶剤や酸などで除去して半導体チップを取り出したとき、半導体チップにはボンディングワイヤが残存している場合があるが、このようなボンディングワイヤを通じて正確に回路解析を行うことは通常、困難である。パッケージを除去する処理によって物理的・化学的な影響を受けて、このようなボンディングワイヤと端子との接続の状態やボンディングワイヤの表面の状態が不安定に変化しうるからである。
【0019】
複数のプローブをおのおの異なる該端子に接触させたときに、該プローブの少なくとも二個が該電気伝導性部材に接触することで、該電気伝導性部材に電気的に接続された前記半導体基板に該プローブから電圧が加わる。その結果、該半導体基板中に埋め込まれて形成されている半導体素子と該半導体基板との間のpn接合や該半導体素子内のpn接合には、該プローブからの電圧がそのまま加わり、大量の電流が流れることとなるので、これらのpn接合の一部は物理的に破壊される。これにより、本発明の半導体チップはもはや正常には動作しなくなり、集積回路の解析が困難となる。
【0020】
電気伝導性部材の材質は、電気伝導性である限り特に制限されず、例えば、金、アルミニウム、ニッケル、銅などの金属、導電性高分子などが挙げられる。
【0021】
前記電気伝導性部材と前記端子との隣接の仕方は、複数のプローブをおのおの異なる該端子に接触させたときに、該プローブの少なくとも二個が該電気伝導性部材にも接触するようになっている限り、特に制限されない。該プローブの少なくとも二個が該電気伝導性部材にも接触するように該電気伝導性部材を構成および配置することは、想定されるプローブ(特に先端部)の形状および太さ(直径)に応じて、当業者であれば容易に行うことができる。即ち、上に例示したようにプローブ先端が直径20μm程度の円柱状である場合には、該電気伝導性部材の形状、配置等を以下のようにすればよい。
【0022】
例えば、該電気伝導性部材が該端子を環状に包囲する状態で該電気伝導性部材を形成することができる。該電気伝導性部材の高さとしては、例えば、好ましくは5〜50μm、より好ましくは10〜30μm、更により好ましくは15〜25μmが挙げられる。該電気伝導性部材の長さとしては、例えば、好ましくは3〜150μmが挙げられる。該電気伝導性部材の厚さとしては、例えば、好ましくは0.1〜30μm、より好ましくは0.5〜5μmが挙げられる。該端子と該電気伝導性部材の内壁面との間隔としては、例えば、好ましくは0.25〜3μm、より好ましくは0.25〜1.0μmが挙げられる。該電気伝導性部材を該半導体基板と平行な面で切ったときの横断面形状は特に制限されず、例えば、円、楕円、正方形、長方形などが挙げられる。
【0023】
また、該電気伝導性部材が複数の板状の突起からなり、該突起が該端子を包囲する状態で該電気伝導性部材を形成することもできる。該板状の突起の高さとしては、例えば、好ましくは5〜50μm、より好ましくは10〜30μm、更により好ましくは15〜25μmが挙げられる。該板状の突起の長さ(幅)としては、例えば、好ましくは3〜150μmが挙げられる。該板状の突起の厚さとしては、例えば、好ましくは0.25〜5μm、より好ましくは0.5〜1.0μmが挙げられる。該板状の突起の個数としては、該端子当たり、例えば、好ましくは2〜50個、より好ましくは8〜25個が挙げられる。該端子と該板状の突起の内壁面との間隔としては、例えば、好ましくは0.5〜20μm、より好ましくは0.5〜10μmが挙げられる。隣接する該板状の突起どうしの間隔としては、例えば、好ましくは0.1〜10μm、より好ましくは0.1〜3μmが挙げられる。該板状の突起で取り囲まれる部分を該半導体基板と平行な面で切ったときの横断面形状は特に制限されず、例えば、円、楕円、正方形、長方形などが挙げられる。
【0024】
更に、該電気伝導性部材が複数の棒状の突起からなり、該突起が該端子を包囲する状態で該電気伝導性部材を形成することもできる。該棒状の突起の高さとしては、例えば、好ましくは5〜50μm、より好ましくは10〜30μm、更により好ましくは15〜25μmが挙げられる。該棒状の突起の太さ(直径)としては、例えば、好ましくは0.5〜30μm、より好ましくは0.5〜5μmが挙げられる。該棒状の突起の個数としては、該端子当たり、例えば、好ましくは4〜250個が挙げられる。該端子と該棒状の突起との間隔としては、例えば、好ましくは0.25〜5μmが挙げられる。隣接する該棒状の突起どうしの間隔としては、例えば、好ましくは0.1〜10μm、より好ましくは0.1〜3μmが挙げられる。該棒状の突起の横断面の形状は特に制限されず、例えば、円、楕円、正方形、長方形などが挙げられる。該棒状の突起で取り囲まれる部分を該半導体基板と平行な面で切ったときの横断面形状は特に制限されず、例えば、円、楕円、正方形、長方形などが挙げられる。
【0025】
前記電気伝導性部材と前記基板との電気的な接続の仕方は特に制限されない。プローブからの電圧が印加されることにより本発明の半導体チップのpn接合が容易に破壊されるためには、抵抗や保護回路等を介さないで前記電気伝導性部材と前記基板とが電気的に接続されることが好ましい。具体的には、チップ表面へのめっきによる配線、ワイヤによる配線などが挙げられる。これら配線の材質としては、例えば、金、アルミニウム、ニッケル、銅などの金属、導電性高分子などが挙げられる。
【0026】
前記電気伝導性部材の形成方法としては、例えば、無電解めっき法、電解めっき法、ワイヤボンディング法、スパッタリング法、転写法、インクジェット法などが挙げられる。
【0027】
無電解めっき法によって該電気伝導性部材を形成する場合の条件は以下のとおりである。液温としては、例えば、好ましくは30〜100℃、より好ましくは50〜90℃が挙げられる。Au濃度としては、例えば、好ましくは1〜10g/L、より好ましくは2〜5g/Lが挙げられる。pHとしては、例えば、好ましくは4.0〜13.0、より好ましくは5.0〜9.0が挙げられる。
【0028】
電解めっき法によって該電気伝導性部材を形成する場合の条件は以下のとおりである。液音としては、例えば、好ましくは30〜100℃、より好ましくは40〜70℃が挙げられる。Au濃度としては、例えば、好ましくは1〜20g/L、より好ましくは1〜15/Lが挙げられる。電流密度としては、例えば、好ましくは0.1〜3.0ASD(Ampere Square Decimeter)、より好ましくは0.3〜1.0ASDが挙げられる。
【0029】
[半導体装置]
本発明の半導体チップを実装することによって半導体装置を製造することができる。該半導体チップの実装方法は特に制限されず、例えば、ワイヤボンディング実装、フリップチップ実装などの公知の方法が挙げられる。半導体装置を製造する際のパッケージングの方法は公知であり、樹脂封止(モールド)パッケージ、セラミックパッケージ、キャン(金属)パッケージ、ガラスパッケージなどを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の半導体チップの一例を示す縦断面図である。
【図2】図1のうち、金製電気伝導性部材の周辺を示す拡大図である。
【図3】形成される金製電気伝導性部材の周辺を示す上面図である。
【図4】図1および2に一例として示す本発明の半導体チップの端子にプローブを接触させたときの結果を示す縦断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集積回路および該集積回路に電気的に接続された複数の端子を有する半導体基板と、
該端子のおのおのに隣接して形成され、前記基板に電気的に接続された電気伝導性部材と
を有し、
複数のプローブをおのおの異なる該端子に接触させたときに、該プローブの少なくとも二個が該電気伝導性部材にも接触するように、該電気伝導性部材が該端子のおのおのに隣接して形成されている
ことを特徴とする半導体チップ。
【請求項2】
該電気伝導性部材が該端子を環状に包囲する状態で形成されていることを特徴とする請求項1に係る半導体チップ。
【請求項3】
該電気伝導性部材が複数の板状の突起からなり、該突起が該端子を包囲する状態で形成されていることを特徴とする請求項1に係る半導体チップ。
【請求項4】
該電気伝導性部材が複数の棒状の突起からなり、該突起が該端子を包囲する状態で形成されていることを特徴とする請求項1に係る半導体チップ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に係る半導体チップが実装された半導体装置。
【請求項6】
集積回路の解析を防止する方法であって、
該集積回路と該集積回路に電気的に接続された複数の端子とを有する半導体基板を有する半導体チップにおいて、前記基板に電気的に接続された電気伝導性部材を、複数のプローブをおのおの異なる該端子に接触させたときに、該プローブの少なくとも二個が該電気伝導性部材にも接触するように、該端子のおのおのに隣接して形成すること
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−287102(P2006−287102A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−107402(P2005−107402)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(000228198)エヌ・イーケムキャット株式会社 (87)
【Fターム(参考)】