説明

半導体デバイス及び有機薄膜トランジスタの製造方法

有機半導体として有用なビス(2−アセニル)アセチレン化合物が開示される。これらの化合物は、OTFTの活性層として使用されると、ペンタセンと同等の電荷キャリア移動度および電流オン/オフ比のようなデバイス特性を示す。また、少なくとも1種の本発明の化合物を含む半導体デバイス、ならびに薄膜トランジスタまたはトランジスタアレイおよびエレクトロルミネッセンスランプなどの半導体デバイスを含む物品についても記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体として有用な有機化合物に関し、もう1つの態様では、該化合物を含むデバイスと、該化合物を含むデバイスの作製方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無機シリコンおよびガリウムヒ素半導体、二酸化シリコン絶縁体、ならびにアルミニウムおよび銅などの金属が半導体産業の中心となってきた。しかしながら、近年は、無機材料のセットに基づく従来のデバイスに代わるものとして有機薄膜トランジスタ(OTFT)を用いる研究努力が増大してきている。いくつかの利益の中でも特に、有機材料の使用は、電子デバイスのより低コストの製造、広域用途、ならびにディスプレイバックプレーンまたは集積回路のためのフレキシブル回路支持体の使用を可能にする。
【0003】
様々な材料が有機半導体として考慮されており、最も一般的なのは、テトラセンおよびペンタセンで例示される縮合アセン、チオフェンまたはフルオレン単位を含有するオリゴマー材料、ならびにレジオレギュラーポリ(3−アルキルチオフェン)のような高分子材料である。ポリマーは溶液からコーティングされてもよいが、高真空蒸着で作製される秩序だった薄膜と比較するとデバイス性能が悪い。3.3cm2-1-1の高さの正電荷キャリア移動度(p型)(T.W.ケリー(Kelley)、L.D.ボードマン(Boardman)、T.D.ダンバー(Dunbar)、D.V.マイレス(Muyres)、M.ペレリット(Pellerite)、T.P.スミス(Smith)、J.Phys.Chem.B2003、107、5877−5881)と、108よりも大きいオン/オフ電流比(D.ニップ(Knipp)、R.A.ストリート(Street)、A.フォルケル(Volkel)、J.ホー(Ho)、J.Appl.Phys.2003、93、347−355)と、0.5Vよりも低いしきい値下(sub−threshold)の電圧(H.クラウケ(Klauk)、M.ハリック(Halik)、U.チースチャン(Zschieschang)、G.シュミット(Schmid)、W.ラドリック(Radlik)、W.ウェーバー(Weber)、J.Appl.Phys.2002、92、5259−5263)とが、ペンタセンに基づくトランジスタについて報告されている。これらの値は、アモルファスシリコンに基づくデバイスと同等であるか、またはそれより優れている。
【0004】
しかしながら、代替の半導体材料が改善を提供し得るいくつかの領域がある。デバイス構造、材料の選択および基板の粗度は全て、デバイス性能に影響を与える。ペンタセンに基づくデバイスでは、これらの変化は、1つには、いくつかの多形体の存在に起因している。ペンタセン分子のアライメントまたは構造秩序はそれぞれの多形体または結晶相ごとに異なり、この構造秩序は、デバイスの電子特性を決定する。ペンタセンが取る結晶相は、結晶が形成される方法および条件に依存する。ペンタセンの薄膜形態は、イソプロパノール、アセトンまたはエタノールなどの溶媒への曝露によってバルク相に転換させることができる(例えば、ガンドラック(Gundlach)ら、Appl.Phys.Lett.、2000、74(22)3302を参照)。さらに、ペンタセンに基づく半導体デバイスの寿命のように、ペンタセンの長期間の酸化および熱安定性は未知である。合成および精製の容易さは、有機半導体の有用性について考慮されなければならないもう1つの因子である。最後に、一連の物理および化学特性を有する様々な有機半導体材料が、特定の用途のために必要とされ得ると思われる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のことを考えて、安定的で再現可能な電気特性を提供する新しい有機半導体が必要とされていることが認識される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
簡単に言うと、本出願は、有機半導体として有用なビス(2−アセニル)アセチレン化合物を開示する。上記の化合物は、OTFTの活性層として使用されると、ペンタセンと同等の電荷キャリア移動度および電流オン/オフ比のようなデバイス特性を示すことが発見された。本発明の化合物は確実に調製され、その分解点よりも十分に低い温度での傾斜昇華(gradient sublimation)によって、半導体グレードに精製される。
【0007】
従って、開示される化合物は、デバイスの有用な性能および安定性を提供し、アモルファスシリコンまたはペンタセンに基づくデバイスに対する実現可能な代替物である新しい有機半導体の当該技術分野における必要性を満たす。
【0008】
また、少なくとも1つの本発明の化合物を含む半導体デバイスと、半導体デバイスを含む物品とが開示される。例えば、特に好ましいデバイスには、薄膜トランジスタまたはトランジスタアレイ、およびエレクトロルミネッセンスランプが含まれる。
【0009】
本明細書中の使用では、「層」は、例えば、溶液コーティング法または蒸着法を用いて前駆体化合物から基板上に形成することができる層を示す。「層」という用語は、「バリア層」、「誘電体層」、「絶縁層」および「導電層」などの半導体産業に特有の層を含むことが意図される(「層」という用語は、半導体産業で使用されることが多い「膜」という用語と同義である)。また「層」という用語は、ガラス上のコーティングなど、半導体技術以外の技術において見られる層も含むことが意図される。本明細書中で使用される「誘電体層」または「ゲート誘電体」は、比較的高い誘電率を有する層(または膜)を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本明細書中で開示されるビス(2−アセニル)アセチレン化合物は、有機半導体として有用である。これらの化合物は、一般式
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、各Ac基は、ナフタレン(Np)、アントラセン(An)、またはテトラセン(Tet)から独立して選択される)を有する。Ac単位は、アセン環の2位により、中心のアセチリド単位に結合される。末端環、すなわちアセチリドから遠くにある環は、置換されていても置換されていなくてもよく、好ましくは置換されていない。置換される場合、相称的な置換が好ましいが、非相称的な類似体も同じ有用性を提供し得ることが認識されている。
【0013】
縮合した芳香環系を有する化合物は、一般に、番号付け順序が与えられ、ただ1つの環を構成する各炭素原子が番号付けされる(例えば、ジェームズ(James)E.バンクス(Banks)「有機化合物の命名:有機化学への計画された導入(NAMING ORGANIC COMPOUNDS:A PROGRAMMED INTRODUCTION TO ORGANIC CHEMISTRY)」サウンダーズ・カレッジ出版(Saunders College Publishing)、p.124、PA(1976)を参照)。アセンに対して通常使用される番号付け順序は、以下に示される。
【0014】
【化2】

【0015】
既に記載したように、アセチリド部分は、アセン環系の2位に結合される。アセンは、ナフタレン環の5位、6位、7位、または8位、アントラセン環の5位、6位、7位、または8位、もしくはナフタレン環の7位、8位、9位、または10位において、さらに置換されてもよい。本発明の置換アセン化合物は、電子供与置換基、ハロゲン置換基、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの置換基を含むことができる。アセンが末端環で置換される場合、置換の結果として、相称的な置換、すなわち、ナフタレンまたはアントラセン環の6位、もしくはテトラセン環の8位の置換がもたらされるのが好ましい。一方または両方のアセン環が置換されてもよい。
【0016】
存在する場合には、各置換基は、アルキル基、アルコキシ基、チオアルコキシ基、ハロゲン原子、およびこれらの組み合わせからなる群から独立して選択される。より好ましくは、各置換基は、独立して、アルキル基、アルコキシ基、またはこれらの組み合わせである。最も好ましくは、各置換基は、独立して、アルキル基である。有用なアルキル基、アルコキシ基、およびチオアルコキシ基としては、例えば、C1〜C18アルキル基、アルコキシ基、およびチオアルコキシ基がある。本発明の末端環置換化合物のうちの少なくともいくつかは、ペンタセンよりも有機溶媒に可溶性であり、従って、経済的な溶液処理による付着法のためのよりよい候補である。
【0017】
ビス(2−アセニル)アセチレン化合物の末端環は、合成が比較的容易であるため、置換されていないのが最も好ましい。
【0018】
好ましい化合物としては、例えば、ビス(2−ナフチル)アセチレン、ビス(2−アントラセニル)アセチレン、およびビス(2−テトラセニル)アセチレンが挙げられ、これらは、説明したように置換されてもよいが、好ましくは置換されない。
【0019】
【化3】

【0020】
化合物の調製
ビス(2−アセニル)アセチレン化合物は、2−クロロ−または2−ブロモアセンと、ビス(トリアルキルスタンニル)アセチレンとのスティルカップリング(Stille coupling)によって調製することができる。スティルカップリングは、A.F.リトク(Littke)ら、J.American Chem Soc.、124巻、6343−6348ページにより概説されるように実行することができる。反応条件についての更なる情報は、V.ファリーナ(Farina)、V.クリシュナムリティ(Krishnamurthy)「有機反応(Organic Reactions)」L.A.パケット(Paquette)編、ジョン・ウィリー&サンズ社(John Wiley & Sons,Inc.)1997、50巻、1−652ページに見出すことができる。生成物は、真空昇華によって半導体グレードに精製することができる。
【0021】
その他の合成戦略を用いて、ビス(2−アセニル)アセチレンを構成することができる。例えば、パラジウム触媒による鈴木カップリングは、2−ブロモアントラセンをカップリングするために使用されている(K.イトウ(Ito)、T.スズキ(Suzuki)、Y.サカモト(Sakamoto)、D.クボタ(Kubota)、Y.イノウエ(Inoue)、F.サトウ(Sato)、S.トキトウ(Tokito)、Angew.Chem.,Int.Ed.2003、42、1159−1162を参照)。有機半導体の合成法のレビューが最近公開された(H.E.カッツ(Katz)、Z.バオ(Bao)、S.L.ジラット(Gilat)、Acc.Chem.Res.2001、34、359−369を参照)。
【0022】
末端環が置換されたビス(2−アセニル)アセチレン化合物は、2−ハロ−6−アルキルナフタレンまたはアントラセン、もしくは2−ハロ,8−アルキルテトラセンなどの末端環置換された2−クロロ−または2−ブロモアセンと、ビス(トリアルキルスタンニル)アセチレンとのスティルカップリングによって調製することができる。末端環置換2−クロロ−または2−ブロモアセンは、当該技術分野において既知の方法によって調製することができ、米国特許出願公開第2003−0105365号として公開された本出願人らの同時継続中の米国特許出願第10/256,616号明細書に記載される合成スキームを参照することができる。
【0023】
【化4】

【0024】
開示される化合物は、半導体デバイスの半導体層として使用することができる。多数のタイプの半導体デバイスが存在するが、全てに共通なのは、1つまたは複数の半導体材料の存在である。半導体デバイスは、例えば、S.M.ツェー(Sze)により「半導体デバイスの物理学(Physics of Semiconductor Devices)第2版」ジョン・ウィリー・アンド・サンズ(John Wiley and Sons)、ニューヨーク(1981)に記載されている。このようなデバイスには、整流器、トランジスタ(p−n−p、n−p−n、および薄膜トランジスタを含む多くのタイプがある)、発光半導体デバイス(例えば、有機発光ダイオード)、光導電体、電流制限器、サーミスター、p−n接合、電界効果ダイオード、ショットキーダイオード、および当該技術分野において既知の他のデバイスが含まれる。各半導体デバイスでは、半導体材料を1つまたは複数の金属または絶縁体と組み合わせてデバイスを形成する。半導体デバイスは、例えば、ピーター・ヴァン・ザント(Peter Van Zant)により「マイクロチップの組立(Microchip Fabrication)第4版」マグローヒル(McGraw−Hill)、ニューヨーク(2000)に記載される方法などの既知の方法によって調製または製造することができる。
【0025】
電子デバイスは、トランジスタ、トランジスタアレイ、ダイオード、コンデンサ、埋め込みコンデンサ、および抵抗器などの、回路を形成するために使用される構成要素を含む。また電子デバイスは、電子機能を実行する回路アレイも含む。これらのアレイまたは集積回路の例は、増幅器、レシーバ、トランスミッタ、インバータ、およびオシレータである。
【0026】
これらのデバイスおよびアレイの用途としては、無線周波数識別装置(RFID)、スマートカード、ランプ、ディスプレイなどがある。本発明は、デバイスのタイプにより制限されない。特に好ましいタイプのデバイスには、薄膜トランジスタが含まれる。
【0027】
特に有用なタイプのトランジスタデバイスの薄膜トランジスタ(TFT)は、一般に、ゲート電極と、ゲート電極上のゲート誘電体と、ゲート誘電体に隣接するソース電極およびドレイン電極と、ゲート誘電体に隣接すると共にソースおよびドレイン電極に隣接する半導体層とを含む(例えば、S.M.ツェー(Sze)、「半導体デバイスの物理学、第2版」ジョン・ウィリー・アンド・サンズ、492ページ、ニューヨーク(1981)を参照)。これらの構成要素は、様々な構成で組み立てることができる。さらに具体的には、有機薄膜トランジスタ(OTFT)は有機半導体層を有する。
【0028】
通常、基板は、製造、試験、および/または使用中にOTFTを支持する。任意で、基板は、OTFTに電気的な作用を提供することができる。有用な基板材料には、有機および無機材料が含まれる。例えば、基板は、無機ガラス、セラミック箔、高分子材料(例えば、アクリル、エポキシ、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリケトン、ポリ(オキシ−1,4−フェニレンオキシ−1,4−フェニレンカルボニル−1,4−フェニレン)(ポリ(エーテルエーテルケトン)またはPEEKと呼ばれることもある)、ポリノルボルネン、ポリフェニレンオキシド、ポリ(エチレンナフタレンジカルボキシレート)(PEN)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(フェニレンスルフィド)(PPS))、充填高分子材料(例えば、繊維強化プラスチック(FRP))、およびコート付きまたはコートなしの金属箔を含むことができる。
【0029】
ゲート電極は、任意の有用な導電性材料でよい。例えば、ゲート電極は、ドープされたシリコン、またはアルミニウム、クロム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金、タンタル、およびチタンなどの金属を含むことができる。また、例えば、ポリアニリンまたはポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェノン)/ポリ(スチレンスルホネート)(PEDOT:PSS)などの導電性ポリマーも使用することができる。さらに、これらの材料の合金、組み合わせ、および多層も有用であり得る。いくつかのOTFTでは、同一材料がゲート電極機能を提供すると共に、基板の支持機能も提供することができる。例えば、ドープされたシリコンは、ゲート電極として機能し、OTFTを支持することができる。
【0030】
ゲート誘電体は、一般に、ゲート電極上に提供される。このゲート誘電体は、ゲート電極をOTFTデバイスの残りから電気的に絶縁する。ゲート誘電体に有用な材料は、例えば、無機電気絶縁性材料または高分子誘電体層を含むことができる。
【0031】
ゲート誘電体に有用な材料の特定の例としては、ストロンチウム酸塩、タンタル酸塩、チタン酸塩、ジルコン酸塩、酸化アルミニウム、酸化シリコン、酸化タンタル、酸化チタン、窒化シリコン、チタン酸バリウム、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、セレン化亜鉛、および硫化亜鉛がある。さらに、これらの材料の合金、組み合わせ、および多層もゲート誘電体のために使用することができる。
【0032】
別法によれば、ゲート誘電体は、有機高分子誘電体層を含んでもよい。多数の有機ポリマーが、誘電体材料として考慮されてきた。これらには、ポリイミド、パリレン(parylene)C、架橋ベンゾシクロブテン、およびシアノエチルプルランが含まれる。例えば、C.D.シェロー(Sheraw)ら「高性能有機薄膜トランジスタのためのスピンオンポリマーゲート誘電体(Spin−on polymer gate dielectric for high performance organic thin film transistors)」、Materials Research Society Symposium Proceedings v558、Materials Research Society、Warrendale、PA、USA、pages 403−408(2000)と、米国特許第6,265,243号明細書(カッツ(Katz))と、米国特許第5,347,144号明細書(ガルニエ(Garnier))とを参照されたい。
【0033】
有機高分子誘電体の好ましい群は、シアノ官能性部分と、比較的高い誘電率をポリマー全体に提供する部分とを有するポリマーを含み、これらの部分は同一でも異なっていてもよい。ポリマーは、ホモポリマーでもコポリマーでもよい。コポリマーは2つ以上の異なるモノマーから調製されるポリマーであり、ターポリマー、テトラポリマーなどを含む。モノマーは結合して、ランダム、ブロック、セグメント化コポリマー、および様々なその他の構造配列のいずれかを形成することができる。
【0034】
このような高分子誘電体は、式
【0035】
【化5】

【0036】
(式中、各R1は独立してH、アリール基(アラルキルおよびアルカリルを含む)、Cl、Br、I、または架橋性基(すなわち、1つまたは複数の架橋性基)を含む有機基であり、各R2は独立してH、アリール基(アラルキルおよびアルカリルを含む)、またはR4であり、各R3は独立してHまたはメチルであり、各R5は芳香環の置換基であり、独立してアルキル基、ハロゲン、またはR4であり、n=0〜3であり、各R4は独立して、少なくとも1つのCN基を含み、1つのCN基あたり約30〜約200の分子量を有する有機基であるが、ポリマーの少なくとも1つの繰返し単位はR4を含むことを条件とする)
の繰返し単位を有する、実質的にフッ素化されていない有機ポリマーでよい。好ましくは、少なくとも1つのR1は、架橋性基を含む。2つの繰返し単位は同じこともあり、それによりホモポリマーが形成される。特定の実施形態では、実質的にフッ素化されていない誘電性ポリマーが架橋される。このようなポリマーは、2003年5月8日に出願された本出願人らの同時係属中の米国特許出願第10/434,377号明細書に開示されている。
【0037】
ソース電極およびドレイン電極はゲート誘電体によってゲート電極から隔てられるが、ソース電極およびドレイン電極の上または下に、有機半導体層が存在することができる。ソースおよびドレイン電極は、任意の有用な導電性材料でよい。有用な材料にはゲート電極について上記された材料のほとんどが含まれ、例えば、アルミニウム、バリウム、カルシウム、クロム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金、チタン、ポリアニリン、PEDOT:PSS、その他の導電性ポリマー、これらの合金、これらの組み合わせ、およびこれらの多層である。当該技術分野で知られているように、これらの材料には、n型半導体材料と共に使用するのに適するものもあれば、p型半導体材料と共に使用するのに適するものもある。
【0038】
薄膜電極(すなわち、ゲート電極、ソース電極、およびドレイン電極)は、物理的な蒸着(例えば、熱蒸発またはスパッタリング)もしくはインクジェット印刷などの任意の有用な手段によって提供することができる。これらの電極のパターニングは、シャドーマスキング、加法フォトリソグラフィ、減法フォトリソグラフィ、印刷、マイクロコンタクト印刷、およびパターンコーティングなどの既知の方法によって達成することができる。
【0039】
薄膜トランジスタまたは集積回路の特に有用な1つの作製方法は、フレキシブルで再配置可能な高分子アパーチャマスクによって、集積回路または集積回路要素を形成することである。該技法は、回路の層、または層の一部を画定するパターンを有して形成された多数の高分子アパーチャマスクを通して材料を順次付着させることを含む。いくつかの実施形態では、回路は、集積回路パターンを形成するために通常使用されるエッチングまたはフォトリソグラフィ工程をどれも必要とすることなく、単にアパーチャマスク付着技法を用いて形成することができる。該技法は、液晶ディスプレイなどの電子ディスプレイおよび無線周波数識別(RFID)回路などの低コスト集積回路の回路要素の形成において特に有用であり得る。さらに、該技法は、フォトリソグラフィまたは他の湿式法とは通常適合性でない有機半導体を組み込んだ集積回路の組立てにおいて有利であり得る。
【0040】
様々な実施形態において、パターンを有して形成されたフレキシブルアパーチャマスク、自立型アパーチャマスクおよび高分子アパーチャマスクなどの異なる再配置可能なアパーチャマスクを用いて、集積回路の層または層の一部を画定することができる。再配置可能な高分子アパーチャマスクは、およそ5〜50ミクロンまたはおよそ15〜35ミクロンの厚さを有し得る。アパーチャマスク内の様々な付着開口部は、約1000ミクロン未満、約50ミクロン未満、約20ミクロン未満、約10ミクロン未満、またはさらに約5ミクロン未満の幅を有し得る。これらのサイズの開口部は、集積回路の小さい回路要素の形成において特に有用である。さらに、付着開口部の間の1つまたは複数の間隙は、約1000ミクロン未満、約50ミクロン未満、約20ミクロン未満または約10ミクロン未満でよく、これも小さい回路要素の形成において有用である。また、約1センチメートル、25センチメートル、100センチメートル、またはさらに500センチメートルよりも大きい幅を有するパターンを含むアパーチャマスクについても記載される。これらの幅を有するパターンは、以下により詳細に記載されるように、より大きい表面積にわたる様々な回路の形成において有用であり得る。いくつかの実施形態では、層は、再配置可能な高分子アパーチャマスクを介して基板上に付着させることができる。
【0041】
様々なレーザアブレーション技法を使用して、付着開口部のパターンを有する高分子アパーチャマスクの形成を容易にすることができる。さらに、伸張技法およびその他の技法を用いて、フレキシブル高分子アパーチャマスクの位置合わせを容易にすることができる。さらに、アパーチャマスクのたるみを制御する方法が使用されてもよく、これは、広い幅にわたって広がるパターンを含むマスクの使用において特に有用であり得る。
【0042】
アパーチャマスクは、多数の利点を提供することができる。例えば、アパーチャマスクは、付着方法を用いて比較的小さい回路要素の形成を容易にすることができる。アパーチャマスクは、約1000ミクロン未満、約50ミクロン未満、約20ミクロン未満、約10ミクロン未満、またはさらに約5ミクロン未満の幅を有する回路要素を容易にすることができる。また、大きい面積(例えば、10平方センチメートル、50平方センチメートル、1平方メートル、またはさらに大きい面積)を覆う上述の比較的小さい幅の回路要素を有するいくつかの場合には、アパーチャマスクは、比較的大きい回路パターンの形成を容易にすることができる。さらに、アパーチャマスクは、回路の組立てに関するコストを削減することができ、有機半導体の場合には、デバイス性能をさらに改善することができる。高分子アパーチャマスクは、他の方法よりも高速かつ低コストのレーザアブレーション方法を用いて形成することができる。また、安価な高分子材料は高分子マスクを使い捨てにすることができるが、再使用できる実施形態についても記載される。
【0043】
さらに、高分子材料は、磁性材料を含浸させるのに十分に適合し得る。その場合、磁性材料は、以下に記載されるマスクのたわみを低減させるために使用することができる。さらに、高分子材料は伸張性であることが多く、たわみを低減させるかまたはマスクを位置合わせするかのいずれかのために、マスクが伸張されることを可能にする。
【0044】
更なる詳細は、米国特許出願公開第03−0094959−A1号明細書として公開された本出願人らの同時継続中の米国特許出願第10/19699号明細書を参照することができる。
【0045】
本発明はさらに、記載した有機半導体とゲート誘電体との間に配設された表面処理層を含む薄膜トランジスタを提供する。表面処理層は、非フッ素化高分子層、自己組織化単分子層またはシロキサン高分子層から選択することができる。表面処理層は、しきい値電圧、しきい値下の傾斜、オン/オフ比、および電荷キャリア移動度などの特性の改善を含む、既知のデバイスを越える1つまたは複数の改善を有機薄膜トランジスタに提供する。さらに、電荷キャリア移動度などの少なくとも1つの特性における大きな改善は、その他のOTFT特性を望ましい範囲内に保持しながら、表面処理層を用いて達成することができる。本発明により提供されるデバイス性能の改善は、同様の処理条件により、表面処理層なしで製造されたOTFTよりも高い動作速度を有する複雑な回路の製造を可能にする。この表面処理層は、非常に小さい特徴部分をもったデバイスと同等の性能を有するより大きい回路の製造も可能にする。より大きい特徴サイズを有するデバイスは、高価な精密パターニング方法を必要としないのでより安価である。
【0046】
任意の既知の薄膜トランジスタ構成を表面処理層と共に使用することができる。例えば、ソースおよびドレイン電極は、ソースおよびドレイン電極の上に有機半導体層を有してゲート誘電体に隣接してもよいし、ソースおよびドレイン電極とゲート誘電体との間に有機半導体層が介在されてもよい。各実施形態において、薄膜トランジスタは、有機半導体層とゲート誘電体との間に表面処理層を含むことができる。
【0047】
1つの実施形態では、本発明は、ゲート誘電体と本発明の有機半導体層との間に介在された実質的にフッ素化されていない高分子層を含む有機薄膜トランジスタ(OTFT)を提供し、実質的にフッ素化されていない高分子層は約400Å未満の厚さを有する。
【0048】
1つの実施形態では、本発明は、基板を提供することと、基板上にゲート電極を形成することと、ゲート電極上にゲート誘電体を形成することと、ゲート誘電体と有機半導体層との間に介在される実質的にフッ素化されていない高分子層(約400Å未満の厚さを有する)を施すことと、高分子層に隣接して有機半導体層を付着させることと、有機半導体層と接触してソース電極およびドレイン電極を付着させることとを含む、OTFTの製造方法を提供する。複数のOTFTを含む集積回路も提供される。
【0049】
高分子表面処理層は、約400オングストローム(Å)未満、より好ましくは約200Å未満、最も好ましくは約100Å未満の最大厚さを有する。高分子表面処理層は、一般に、少なくとも約5Å、より好ましくは少なくとも約10Åの厚さを有する。厚さは、機知の方法、例えば偏光解析法によって決定することができる。
【0050】
高分子表面処理層は、多くの選択肢から選択される。例えば、上記の範囲内の厚さを有する実質的にフッ素化されていない高分子層を使用することができる。本明細書では、「実質的にフッ素化されていない」とは、高分子層中の約5%未満(より好ましくは、約1%未満、そしてさらにより好ましくは0%)の炭素がフッ素置換基を有することを意味する。
【0051】
本明細書中で使用される場合、「置換される」は、OTFTの所望の性能を妨害しない置換基で置換されることを意味する。適切な置換基の例としては、ハロゲン(例えば、Cl、Br、I)、シアノ、C1〜C20脂肪族、アリール、およびアリールアルキル基などがある。本明細書中で使用される場合、「へテロ原子」は、O、P、S、NおよびSiなどの非炭素原子を意味する。
【0052】
高分子層は、式
【0053】
【化6】

【0054】
により表されるインター重合(相互重合)単位をインター重合単位の約50〜100%の量で有し、かつ、前記インター重合単位の0〜約50%の量で式
【0055】
【化7】

【0056】
に従うインター重合単位を有するポリマーを含み得る。
【0057】
これらの式において、各R1およびR2は、独立して、R1およびXが異なる場合には、水素、C1〜C20脂肪族、クロロ、ブロモ、カルボキシ、アシルオキシ、ニトリル、アミド、アルコキシ、カルボアルコキシ、アリールオキシ、塩素化脂肪族、臭素化脂肪族、C6〜C20アリール、C7〜C20アリールアルキル、ヒドロキシ、ならびにこれらの組み合わせから選択される基を含み、1つまたは複数のへテロ原子および/もしくは1つまたは複数の官能基を含有することができる。各Xは、独立して、ゲート誘電体に結合することができる官能基を含む。さらに、少なくとも2つのR1、R2、および/またはX基の任意の組み合わせは、一緒に、環式または多環式の脂肪族または芳香族基を形成することができる。
【0058】
1および/またはR2の特定の選択には、水素、C1〜C20脂肪族(線状または分枝状でも、飽和または不飽和でもよい)、C6〜C20アリール、およびC7〜C20アリールアルキル(これも、線状または分枝状、および飽和または不飽和のセグメントを含有することができる)から選択される基が含まれる。特定のポリマーは、(メタ)アクリル酸メチル、直鎖または分枝C2〜C18の脂肪族またはアリールアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、塩化ビニル、酢酸ビニル、エチレン、直鎖または分枝C3〜C18α−オレフィン、イソプレン、クロロプレン、1,3−ブタジエン、フマル酸ジエチル、酢酸アリル、メチルビニルケトン、およびスチレンなどの前駆体モノマーから誘導され得る。
【0059】
ゲート誘電体に結合することができる官能基には、選択されたゲート誘電体への化学結合を形成することが知られている基が含まれる。X基の特定の選択には、−PO32または−OPO32(式中、各Rは独立して、水素またはC1〜C12脂肪族基もしくはC6〜C18アリールまたはアリールアルキル基)、−SO3H、アルコキシシリル、クロロシリル、アセトキシシリル、ベンゾトリアゾリル(−C643)、−CONHOH、−COOH、−OH、−SH、−COSH、−COSeH、−C54N、−SeH、−NC、アミノ、およびホスフィニルが含まれる。ベンゾトリアゾリルとしては、例えば、ベンゾトリアゾリルカルボニルオキシ(−OC(=O)C643)、ベンゾトリアゾリルオキシ(−O−C643)、およびベンゾトリアゾリルアミノ(−NH−C643)基がある。特定の好ましい基としては、−PO32、−OPO32、およびトリメトキシシリルが挙げられる。
【0060】
少なくとも2つのR1、R2、および/またはX基の組み合わせは、一緒に、脂肪族でも芳香族でもよい環式または多環式基を形成することができる。特定の例は、ノルボルネンおよび置換ノルボルネン、無水マレイン酸、アセナフチレン、ならびにイタコン酸無水物などのコモノマーを取り込んだコポリマーである。またジビニルベンゼンから誘導されるもの、および(メタ)アクリレート誘導シンナマートを含む、ビニル型の重合によって架橋した網目を形成することができるポリマーおよびコポリマーも有用である。
【0061】
従って、式Iと、任意で式IIとのインター重合単位を有する高分子層は、広範囲の材料を含む。特定の例としては、ポリスチレン、ポリ(1−ヘキセン)、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(アセナフチレン)、ポリ(ビニルナフタレン)、ポリ(ブタジエン)、ポリ(酢酸ビニル)、ならびにα−メチルスチレン、4−tert−ブチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレンおよび4−メチルスチレンから誘導されるものなどのホモポリマーが挙げられる。このようなホモポリマーの例では、高分子層は、0%の式IIに従う前記インター重合単位を含む。
【0062】
好ましい高分子層は、スチレンインター重合単位を有するポリマーで構成される。スチレンインター重合単位には、スチレン、ならびにα−メチルスチレン、4−tert−ブチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−(ホスホノメチル)スチレン、およびジビニルベンゼンなどの置換スチレンから誘導されるものが含まれる。
【0063】
ブロック、ランダム、および交互などのコポリマーも、本発明において記載される高分子層で有用である。有用なコポリマーは、式Iおよび任意で式IIのインター重合単位を含む。好ましい例としては、スチレン、α−メチルスチレン、4−tert−ブチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、および4−メチルスチレンから選択される少なくとも2つの異なるモノマーのコポリマーがある。その他の好ましい例としては、式IIの単位を有する材料がある。式IIの単位を形成するのに有用なモノマーの特定の例としては、4−(ホスホノメチル)スチレンなどのビニルホスホン酸およびその他のホスホン酸含有コモノマー、ならびにメタクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピルなどのトリアルコキシシラン含有コモノマーが挙げられる。好ましい例としては、スチレンおよびビニルホスホン酸の様々なコポリマー、スチレンおよび他のホスホン酸含有コモノマーのコポリマー、スチレンおよびホスホネート含有コモノマーのコポリマー、スチレンおよびホスフェート含有コモノマーのコポリマー、スチレンおよび4−(ホスホノメチル)スチレンのコポリマー、スチレンおよびメタクリル酸トリメトキシシリルプロピルのコポリマー、ならびにスチレンおよびシリル含有コモノマーのコポリマーが挙げられる。
【0064】
本発明において有用なポリマーの種類としては、エチレン、プロピレン、およびより高級のα−オレフィンの炭化水素オレフィンホモポリマーおよびコポリマーがある。これらのオレフィンは、一般構造−CH2CHR−で表すことができ、式中Rは、水素またはC1〜C10(好ましくはC1〜C6)脂肪族ラジカルである。コポリマーは、このようなオレフィンと共重合可能な1つまたは複数のエチレン不飽和コモノマーを含むことができる。これらには、酢酸ビニルなどのビニルエステルと、メタクリル酸メチルおよびアクリロニトリルなどのアクリルおよびα−アルキルアクリル酸ならびにこれらのアルキルエステル、アミド、およびニトリルと、スチレンおよびビニルナフタレンなどのビニル芳香族と、マレイン酸およびフマル酸の無水物およびアルキルエステルと、ビニルアルキルエーテルと、ビニルピリジンと、N−ビニルカルバゾールと、1,3−ブタジエンなどのジエンとが含まれる。
【0065】
本発明に有用なポリマーは、官能基の導入によって調製することもできる。これらは、通常は、官能性開始剤、官能性連鎖移動剤、または官能性連鎖停止剤と呼ばれる様々な材料の使用によって提供され得る。これらの材料の例としては、オキシ塩化リン、メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、クロロトリアルコキシシラン、およびテトラクロロシランが挙げられる。これらの種の導入は、通常、ポリマー鎖の末端または中間点において官能基を導入する。これらの反応物を用いて調製される有用な高分子種の例には、α−(トリエトキシシリル)プロピルチオポリスチレン、およびω−(ホスホン酸)ポリスチレンが含まれる。
【0066】
ポリマー表面処理層は、開環重合から誘導されてもよい。この実施形態では広範な種類のモノマーを使用することができる。適切なモノマーの例には、環状エーテル、環状アミド、環状アミン、環状スルフィド、およびホスホニトリル酸クロリドなどの無機環状化合物が含まれる。これらの材料におけるポリマーの繰返し単位は、モノマー中に見られるものと同様の結合により結合されるが、再配置されて、環状の鎖ではなく直鎖を提供する。これらの重合は、様々なメカニズムにより進行され得る。1つの特定のタイプの開環重合は、開環メタセシス重合またはROMPである。この方法で重合させることができる適切なモノマーとしては、ノルボルネン、C4〜C10環状アルケン、およびC4〜C10環状非共役ジエンが挙げられる。これらのROMPモノマーは、1つまたは複数のC1〜C20直鎖または分枝脂肪族基、芳香族基、またはアリールアルキル基で置換されてもよく、そのうちのどれかが1つまたは複数のへテロ原子を含んでもよい。既知であるように、脂肪族基は飽和されていてもよいし、1つまたは複数の炭素−炭素多重結合を含んでもよく、アリールアルキル基は、脂肪族および芳香族の両方の構造を含有する。本発明のこの態様において有用な特定の材料としては、直鎖または分枝C1〜C18アルキル置換ノルボルネン、トリアルコキシシリル置換ノルボルネン、5−ノルボルネン−2−カルボン酸のエステル、2−ホスホノ−5−ノルボルネンのエステル、1,4−シクロオクタジエン、およびジシクロペンタジエンが挙げられる。
【0067】
高分子表面処理層は、芳香族官能性セグメントを含むモノマー前駆体、モノマー、およびオリゴマーから誘導されてもよい。このような高分子材料は、芳香族熱硬化性樹脂の種類において見出される。好ましい種類の芳香族熱硬化性樹脂は、ポリアリーレン、例えば、ポリフェニレンおよびポリナフタレンである。このようなポリアリーレンには、へテロ原子を含有するポリマー、例えばポリアリーレンエーテルが含まれる。ポリアリーレンは、様々な方法で調製することができる。ポリアリーレン組成物の1つの有用な調製手段は、適切なモノマーまたはオリゴマー前駆体を誘電体層に施し、そして次に、加熱または放射などによるエネルギー源への曝露を通してこれらの材料を重合させることによる。好ましい種類のオリゴマーは、シクロペンタジエノンおよびアセチレン置換された材料で構成される低分子量の芳香族熱硬化性組成物である。分子量は、これらのオリゴマーのスピンコーティングを可能にするために十分に低い。このような材料は、ミシガン州ミッドランドのダウ・ケミカル社(Dow Chemical Co.,Midland,MI)からシルク(SiLK)(登録商標)樹脂として市販されている。シルク(登録商標)樹脂は、「集積回路相互接続の製造のための低誘電率ポリマーの開発(Development of a Low−Dielectric−Constant Polymer for the Fabrication of Integrated Circuit Interconnect)」、J.P.マーティン(Martin)ら、Adv.Mater.2000、12(23)、1769−1778、およびその中の参考文献、ならびに米国特許第5,956,679号明細書および同第6,288,188号明細書においてより十分に説明されている。シルク(登録商標)樹脂を表面上にスピンコーティングさせ、そして次に加熱により硬化させて、不溶性のポリアリーレン膜を形成することができる。
【0068】
その他の有用なオリゴマー組成物は、エネルギー源、特に熱放射への曝露で架橋してポリナフタレンを形成する多官能性o−フェニルエチニル置換芳香族モノマーである。芳香族熱硬化性ポリマーを形成するモノマー前駆体の種類のその他の例としては、シンナマート、ジビニルベンゼン、ジアセチレン、ベンゾシクロブテン、およびこれらの置換誘導体がある。
【0069】
その他の好ましい種類のポリアリーレンは、パリレン(すなわち、ポリ(p−キシレン)ポリマー)およびポリフルオレンである。パリレンは、反応性p−キシレンモノマーをその蒸気から表面上に同時に吸着および重合させることによって調製される半結晶性ポリマーである。モノマーの蒸着およびその重合の結果、事実上ピンホールがなく基板表面にコンフォーマルで均一な厚さの薄膜が形成される。有用なパリレンとしては、パリレンN、パリレンC、およびパリレンDがある。
【0070】
もう1つの態様では、表面処理層の有用なポリマーおよびコポリマーは、室温で実質的に非極性のガラス状固体である。好ましくは、ポリマーは、80モル%以上のアルキル、アリール、またはアリールアルキルモノマー単位を含み、前記モノマー単位は実質的にヘテロ原子を持たない。ポリマーは、約20モル%よりも少ない、ヘテロ原子を含有するモノマー単位を有する(より好ましくは、約10モル%よりも少ない)。さらに、前記ポリマーは好ましくは、少なくとも約25℃、より好ましくは少なくとも約50℃、最も好ましくは少なくとも約100℃の、バルクで測定されたガラス転移温度(Tg)を有する。これらのタイプのポリマーの例には、線状および熱硬化性材料を含む上記で記載したものの多くが含まれる。特定の例としては、ポリスチレン、ポリフルオレン、ポリノルボルネン、ポリ(アセナフチレン)、およびこれらのアルキル置換された誘導体、ならびに官能基化されたコポリマーが挙げられる。さらに、2つ以上の高分子材料または共重合体材料のブレンドが使用されてもよい。
【0071】
もう1つの態様では、本発明のOTFTは、厚さが約400Å未満であり実質的にフッ素化されていない高分子層を有し、OTFTは、高分子層を含まない同様のOTFTの電荷キャリア移動度よりも少なくとも50%大きい電荷キャリア移動度を有する。本発明のもう1つの態様では、OTFTは、少なくとも0.02cm2/Vs、好ましくは少なくとも0.10cm2/Vs、より好ましくは少なくとも1.0cm2/Vsであり、高分子層を含まない同様のOTFTの電荷キャリア移動度よりも大きい電荷キャリア移動度を有する。本明細書では、全ての電荷キャリア移動度値は、室温での値である。
【0072】
表面処理層において有用なポリマーおよびコポリマーは、既知の手段、例えば上記のものようなモノマーのフリーラジカル重合、開環重合、アニオン重合、カチオン重合、または配位重合によって調製することができる。またポリマーは、その後の反応で修飾して官能基を導入することもできる。
【0073】
高分子表面処理層は、既知の方法によってゲート誘電体上に提供される。例えば、高分子表面処理層は、スプレー、スピン、ディップ、ナイフ、グラビア、マイクロコンタクト印刷、インクジェット印刷、スタンピング、転写印刷、および蒸着などのコーティング方法によって提供され得る。高分子表面処理層は、溶媒に基づく方法または無溶媒方法によってゲート誘電体上に提供され得る。高分子層への現在好ましい経路は、溶媒に基づく方法を含む。高分子表面処理層の前駆体の溶液がゲート誘電体層上に提供される場合、溶媒は、例えば加熱などの関連する材料に適合する方法によって除去される。
【0074】
1つの実施形態では、高分子層を提供する前に、ソースおよびドレイン電極がゲート誘電体に隣接して付着される。次に、高分子表面処理層が施される。ポリマーを含む層が完成したら、有機半導体層がソースおよびドレイン電極上、ならびにゲート誘電体に隣接する高分子層上に付着される。半導体の付着の前に、高分子層を提供するためにゲート誘電体上に付着された材料は洗い流され得るので、ソースおよびドレイン電極には本質的に高分子層がない。すなわち、約5Å未満の高分子層、より好ましくは1Å未満の高分子層がソースおよびドレイン電極上に存在し、そして最も好ましくは、高分子層は存在しない。
【0075】
高分子層に関する更なる詳細は、本出願人の同時継続中の米国特許出願第10/012654号明細書を参照することができる。
【0076】
また表面処理層は、実質的に、OTFTのゲート誘電体と有機半導体層との間に介在された約400Å未満の厚さのシロキサン高分子層を含むことができる。高分子表面処理層は、式
【0077】
【化8】

【0078】
(式中、各Rは、独立して、水素、C1〜C20脂肪族、C4〜C20脂環式、アリールアルキル、またはアリール、およびこれらの組み合わせから選択される基を含み、1つまたは複数のへテロ原子および/もしくは1つまたは複数の官能基を含有することができる)に従うインター重合単位を有する実質的にフッ素化されていないポリマーを含む。本明細書において使用される場合、「へテロ原子」は、O、P、S、NおよびSiなどの炭素でない原子を意味する。本明細書では、「実質的にフッ素化されていない」は、高分子層中の約5%未満(より好ましくは約1%未満、そしてさらにより好ましくは0%)の炭素がフッ素置換基を有することを意味する。
【0079】
本発明の高分子表面処理層は、約400オングストローム(Å)未満、より好ましくは約200Å未満、最も好ましくは約100Å未満の最大厚さを有する。本発明の高分子層は、一般に、少なくとも約5Å、より好ましくは少なくとも約10Åの厚さを有する。厚さは、既知の方法、例えば偏光解析法によって決定することができる。
【0080】
R基の特定の選択には、例えば、メチル、フェニル、2−フェニルエチル、C2〜C18脂肪族基と、ヒドロキシル、ビニル、5−ヘキセニル、水素、クロロ、3−(メタ)アクリロキシプロピル、3−メルカプトプロピル、3−グリシドキシプロピル、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル、3−アミノプロピル、3−アセトキシプロピル、3−クロロプロピル、3−カルボキシプロピル、3−シアノプロピル、クロロフェニル、C1〜C6の2−(ジアルキルホスホノ)エチルを含むがこれらに限定されない官能基含有部分とが含まれる。
【0081】
有用な高分子材料の例としては、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(ジメチルシロキサン−co−ジフェニルシロキサン)、ポリ(メチルフェニルシロキサン−co−ジフェニルシロキサン)、およびポリ(ジメチルシロキサン−co−メチルフェニルシロキサン)が挙げられる。
【0082】
本発明の実施において有用なシロキサンポリマーは、例えば、アニオン重合、縮合重合、または開環重合を含む当業者によく知られている多数の方法のいずれかによって調製することができる。また、本発明に有用なシロキサンポリマーは、官能性末端基または官能性ペンダント基の導入により調製することもできる。これは、官能性モノマー、官能性開始剤、または官能性連鎖停止剤(例えば、クロロトリアルコキシシランによるアニオン重合ポリジオルガノシロキサンの停止)の使用により達成することができる。また、これらは、現存するシロキサンポリマーの修飾、例えば、オレフィン官能性ポリジオルガノシロキサンと、シリコン水素化物、例えばトリクロロシランとの反応によって調製することもできる。
【0083】
本発明は、シロキサンポリマー中の各単位が二官能性前駆体から誘導される線状ポリジオルガノシロキサンの使用を強調するが、三官能性または四官能性前駆体から誘導される少量のシロキサン単位を取り込んだポリオルガノシロキサンを使用することも本発明の範囲内にあると考えられる。三官能性および四官能性で誘導されるシロキサン単位の数は、ポリマー中のシロキサン単位の平均数全体の約10パーセントを超えてはならず、好ましくは約5パーセント以下である。
【0084】
有用な高分子材料は、さらに、スチレン、ブタジエン、またはイソプレンなどのエチレン不飽和モノマーから誘導されるインター重合単位のブロックと結合した式(I)のブロックを含むブロックコポリマーを含むことができる。さらに、2つ以上の高分子材料または共重合体材料のブレンドが使用されてもよい。
【0085】
もう1つの態様では、本発明は、基板を提供することと、基板上にゲート電極を形成することと、ゲート電極上にゲート誘電体を形成することと、ゲート誘電体と有機半導体層との間に介在される約400Å未満の厚さを有する実質的にフッ素化されていない高分子層を施すことと、高分子表面処理層に隣接して本発明の有機半導体層を付着させることと、有機半導体層と接触してソース電極およびドレイン電極を付着させることとを含む、OTFTの製造方法を提供する。OTFTを含む集積回路も提供される。
【0086】
また表面処理層は、ゲート誘電体と有機半導体層との間に介在された自己組織化単分子層を含むことができ、単分子層は、ゲート誘電体と自己組織化単分子層の前駆体との間の反応生成物であり、前駆体は、式X−Y−Znを有する組成物を含む。式中、Xは、HまたはCH3であり、Yは、線状または分枝状C5〜C50脂肪族または環状脂肪族連結基、もしくは芳香族基を含む線状または分枝状C8〜C50基、およびC3〜C44脂肪族または環状脂肪族連結基であり、Zは、−PO32、−OPO32、ベンゾトリアゾリル(−C643)、カルボニルオキシベンゾトリアゾール(−OC(=O)C643)、オキシベンゾトリアゾール(−O−C643)、アミノベンゾトリアゾール(−NH−C643)、−CONHOH、−COOH、−OH、−SH、−COSH、−COSeH、−C54N、−SeH、−SO3H、−NC、−SiCl(CH32、−SiCl2CH3、アミノ、およびホスフィニルから選択され、nは、1、2、または3であり、ただし、Zが−SiCl(CH32または−SiCl2CH3である場合には、n=1であることを条件とする。
【0087】
もう1つの面において、本発明は、基板を提供するステップと、基板上にゲート電極材料を提供するステップと、ゲート電極材料上にゲート誘電体を提供するステップと、ゲート誘電体に隣接して自己組織化単分子層(SAM)を提供するステップであって、該単分子層が、ゲート誘電体と、自己組織化単分子層の前駆体との間の反応生成物であるステップと、単分子層に隣接して本発明の有機半導体層を提供するステップと、有機半導体層と接触してソース電極およびドレイン電極を提供するステップとを含む、薄膜トランジスタの製造方法を提供する。前駆体は、有機薄膜トランジスタ物品について上記で説明されたとおりである。有機薄膜トランジスタ物品を含む集積回路も提供される。
【0088】
自己組織化単分子層の前駆体は、自己組織化膜、通常は単分子層膜を目的の表面に形成する分子を提供する。自己組織化薄膜は、対象の基板を自己組織化前駆体の希釈溶液中でコーティングするか、あるいは前駆体を含有する気相に暴露してフィルムの形成を進行させることによって調製することが多い。前駆体分子は、基板上にほぼ組織化された分子膜を形成する。形成されてしまえば、付着に使用された溶媒中に、膜は再溶解しない。
【0089】
一般に、ゲート誘電体への吸着または結合反応と競合し得る、単分子層の形成とは無関係に架橋を形成する三官能性シランなどの材料は、本発明の単分子層前駆体としては望ましくない。しかしながら、ゲート誘電体に結合するのに有効な官能基を有し、そしてSAMの形成後に架橋を形成することができるその他の基を有する材料を使用することができる。
【0090】
本明細書では、ゲート誘電体と、自己組織化単分子層前駆体内の官能基との間の反応は、好ましくは、結合相互作用(例えば、共有結合またはイオン結合)である。本明細書では、自己組織化単分子層は、約5オングストローム〜約30オングストロームのオーダーの厚さの単分子の層を指す。
【0091】
好ましい実施形態では、Yは、飽和脂肪族基、不飽和脂肪族基、飽和環状脂肪族基、および不飽和環状脂肪族基、またはこれらの組み合わせでよく、そのそれぞれは線状でも分枝状でもよい。単分子層前駆体は、式CH3(CH2)PO32(式中、mは4〜21の整数である)の組成物を含むことができる。
【0092】
単分子層前駆体の特定の例としては、1−ホスホノオクタン、1−ホスホノへキサン、1−ホスホノヘキサデカン、および1−ホスホノ−3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカンが挙げられる。
【0093】
本発明の実施において有用な分枝状炭化水素単分子層前駆体の種類の1つのメンバーは、1−ホスホノ−3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカンである。この種類のその他のメンバーには、1−ホスホノ−2−エチルへキサン、1−ホスホノ−2,4,4−トリメチルペンタン、および1−ホスホノ−3,5,5−トリメチルへキサンが含まれる。1−ホスホノ−3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカンは、アルケン二重結合の反応、アルコールから対応する臭化物への転化、およびその後の臭化物から対応するホスホン酸への転化によって、市販のアリル型アルコール前駆体から調製することができる。より具体的には、1−ホスホノ−3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカンは、3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセン−1−オールを3,7,11,15−テトラメチル−1−ヘキサデカノールに還元し、3,7,11,15−テトラメチル−1−ヘキサデカノールを1−ブロモ−3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカンに転化させ、そして次に1−ブロモ−3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカンを1−ホスホノ−3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカンに転化させて得ることができる。これらの合成的な変換は、当業者によく知られた材料および方法を用いて達成される。また、3,7,11,15−テトラメチル−2−ヘキサデセン−1−オール以外の出発材料および上記のもの以外の個々の反応シーケンスを使用して、1−ホスホノ−3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカンおよびこの種類の分枝状炭化水素単分子層前駆体のその他のメンバーを合成することもでき、そして、特に例示された単分子層前駆体および調製方法は、過度の限定であると解釈されてはならない。
【0094】
本発明の化合物は、単独で使用することもできるし、あるいはOTFT(または他の半導体デバイス)の有機半導体層として組み合わせて使用することもできる。層は、例えば、蒸着および印刷技法などの有用な手段によって提供することができる。
【0095】
本発明の化合物は、複数のOTFTを含む集積回路において、そして様々な電子物品においても使用することができる。このような物品には、例えば、無線周波数識別(RFID)タグ、フレキシブルディスプレイ用のバックプレーン(例えば、パーソナルコンピュータ、携帯電話、または携帯用デバイスにおいて使用するため)、スマートカード、メモリーデバイスなどが含まれる。
【実施例】
【0096】
本発明の目的および利点は以下の実施例によってさらに説明されるが、これらの実施例において列挙される特定の材料およびその量、ならびにその他の条件および詳細は、本発明を過度に限定すると解釈されてはならない。
【0097】
2−ブロモアントラセンの合成
1Lの三つ口フラスコに蒸留ヘッドを取り付け、N2でパージした。2−ブロモアントラキノン(29.0g、101mmol)、シクロヘキサノール(350mL)、およびアルミニウムトリ−sec−ブトキシド(140mL、550mmol)を系に装入した。ポットの温度が162℃になるまで留出物を捕集しながら混合物を加熱し、混合物は深い琥珀色になった。反応を160℃で16時間加熱し、次に室温に冷却した。混合物をテトラヒドロフラン(100mL)と混合し、2Lのフィルタフリット上に注いで、黒色固体を単離した。固体を6MのHCl(100mL)と共にフリット上で攪拌し、次に水(500mL)でさらに洗浄した。灰色の粗生成物を一晩空気乾燥した。120℃のソース温度における真空トレインサブリメーション(train sublimation)(圧力約5×10-5トル)によってさらに固体を精製して、12.6g(48%)のオフホワイトの生成物が得られた。DSCデータ:最高温度220℃(ΔH=126Jg-1。IR(KBr、強い吸収のみ):892、741、474cm-11HNMR(500MHz、d6−Me2SO、内部TMS)δ7.56(m、6重線、6−H、8−H)、7.60(dd、J=2.0、9.0Hz、7−H)、8.09(m、1−H、3−H、4−H)、8.39(‘d’、J=1Hz、9−H)、8.57(s、5−H)、8.63(s、10−H)。
【0098】
2−クロロテトラセンの合成
二つ口の500mL丸底フラスコに蒸留ヘッドおよびレシーバを取り付け、窒素下で、2−クロロ−5,12−テトラセンキノン(11.5g、39.4mmol)、シクロヘキサノール(100mL)、およびAl(O−sec−Bu)3(50mL)を装入した。約115℃のポット温度で留出物がレシーバ中に集まり始めるまで混合物を加熱した。濃いオレンジ色の混合物の温度が162℃に達するまで蒸留を継続し、次に溶液を159℃で36時間加熱した。混合物を50℃に冷却し、同体積の乾燥THFを添加し、次に80℃まで加熱し、攪拌した。熱い混合物を10〜20μmのフリット上に注いで、明るいオレンジ色の固体を単離し、これを水(150mL)、5%HCl(150mL)、および更なる水(150mL)で洗浄した。ろ液をいくらかの更なる水および濃HCLと混合し、攪拌し、一晩放置した。固体を2〜3時間空気乾燥して、5.04gの材料が得られた。130〜150℃における高真空(圧力約10-5トル)トレインサブリメーションによる精製によって、4.0gの蛍光性のオレンジ色の生成物が得られた。上記のろ液から更なる収量の粗材料を単離し、サブリメーション(昇華)後にさらに1.37gが得られた。正味の収率52%。DSC(20℃/分):361℃(ΔH=96Jg-1、分解)。EIMS:262([M]+,100%)、226([M−HCl]+,23%)。分析 C1811Clの計算値:C,82.3、H,4.22。実測値:C,82.5、H,4.27。
【0099】
実施例1
ビス(2−アントラセニル)アセチレンの調製
フロンティア・サイエンティフィック(Frontier Scientific)から、ビス(トリ−n−ブチルスタンニル)アセチレンを入手した。Pd2(dba)3、P(t−Bu)3(ヘキサン中10重量%)およびCsF(99.9%)をストレム(Strem)から購入した。CsFを微粉に混練し、80℃の真空下で一晩乾燥させた。トルエンをナトリウムから蒸留し、ストラウス(Straus)フラスコ中に大気から保護して保存した。操作は、標準シュレンク(Schlenk)技法を用いて窒素下で行なった。250mLの容器に、Pd2(dba)3(19mg、0.021mmol、0.5%mol)、CsF(1.42g、9.33mmol、2.2当量)、PhMe(20mL)、2−ブロモアントラセン(1.09g、4.24mmol)、ビス(トリブチルスタンニル)アセチレン(1.29g、2.13mmol)、およびP(t−Bu)3(0.15mL、0.052mmol、1.2%)を連続して装入し、混合物を室温で一晩攪拌し、琥珀色の溶液中に細かいオレンジ色の沈殿が生じた。フィルタフリット上で固体を単離し、水で洗浄し、空気乾燥した。225〜275℃のソース温度でオレンジ色の粗生成物を高真空トレインサブリメーションによって精製し、444mg(55%)の明るい黄色の生成物が得られた。EIMS:378([M]+,100%)、189([M]2+,19%)。DSC(20℃/分):378℃(ΔH=3.2Jg-1)、389℃(ΔH=57Jg-1)、最後の吸熱(endotherm)のすぐ後に、分解による鋭い発熱(exotherm)が続いた。CHCl3中の励起スペクトル(418nmで蛍光発光を監視):λmax(正規化強度)、284(0.80)、308(0.51)、320(1.0)。蛍光スペクトル(CHCl3中、350nm励起):λmax(正規化強度)、418(1.0)、438(0.82)。分析 C3018の計算値:C,95.2、H,4.79。実測値:C,95.3、H,4.98。
【0100】
実施例2
示差走査熱量測定(DSC)および熱重量分析(TGA)によって、ビス(2−アントラセニル)アセチレンの熱特性を調査した。TGAデータは、370℃付近の分解の始まりを示す。示差走査熱量測定データのプロットは、図1に示される。窒素雰囲気中0℃から400℃まで、20℃/分で材料を加熱することによって、データを収集した。ビス(2−アントラセニル)アセチレンは、約389℃で溶融し、次の発熱で証明されるように、分解によって相変化が達成される。高真空下で、ビス(2−アントラセニル)アセチレンは、約225℃、すなわち材料の分解点よりも十分に低温で昇華され得る。
【0101】
実施例3
3つの異なる基板(SiO2、Al23、および100Åのポリ(α−メチルスチレン)がコーティングされたAl23[AMS−Al23])上にコーティングされたビス(2−アントラセニル)アセチレンのX線回折パターン(CuKα放射)は、図4に示される。各サンプルは、基板のタイプとはほぼ無関係な間隔および強度で、一連の(0,0,1)層のラインを生成した。21.4Åの間隔は、伸張された分子の長さに相当し、分子が基板の面に垂直に配向されることを示す。TFTがオン状態にあるときに活性チャネルを介した良好な電荷輸送を可能にするのがこの分子間の配列である。膜の秩序性は、狭くて強い反射ラインから明らかである。
【0102】
実施例4
ビス(2−アントラセニル)アセチレンのクロロホルム溶液を用いる光学的な分光測定は図2に示される。吸収波長および発光最大値は、実施例1に記載される。吸収最大値の低エネルギー側から、約3.8eVのバンドギャップが計算され得るが、低レベルの吸収は、425nmまで広がる。例えばペンタセン(2.1eV)と比べてこの材料の高いバンドギャップは、より長い寿命およびより安定な電気性能が要求される用途において有利であろう。
【0103】
実施例5
ポリ(α−メチルスチレン)でコーティングされたAl23基板上に0.5Å/秒の速度で真空蒸着されたビス(2−アントラセニル)アセチレンの原子間力顕微鏡画像が図3に示される。ポリマー表面処理および半導体層の厚さは、それぞれ、約300Åおよび100Åである。結晶は、およそ1〜2μmの大きさである。微結晶のサイズおよび質が、付着中の基板の温度とともに大きく変わり得ることは、当該技術分野において十分に確立されている。半導体材料の付着中の基板温度を制御する努力は行なわなかった。
【0104】
実施例6
HP半導体パラメータアナライザを用い、ゲート電圧Vg(+10V〜−40V)を掃引し、ドレイン電圧Vdが−40Vで一定になるようにして、TFTを特徴付けた。Id1/2−Vgトレースへの直線的な適合によって、飽和移動度およびしきい値電圧(Vt)の抽出が可能になり、Id−Vgトレースへの直線的な適合により、しきい値下傾斜(S)および電流オン/オフ比が計算できるようになる。図5は、実施例5に記載されるように構成されたビス(2−アントラセニル)アセチレンTFTについて周囲条件下で得られる代表的なデバイストレースを示す。このサンプルのデータは、μsat=1.1cm2/Vs、Vt=−21V、S=1.1V/10年、およびIon/Ioff=4.4×105であった。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】実施例2の示差走査熱量測定の結果をプロットしたグラフである。
【図2】実施例4の吸収および発光スペクトルデータを示すグラフである。
【図3】実施例5の原子間力顕微鏡写真のデジタル画像である。
【図4】実施例3のx線回折データを示すグラフである。
【図5】実施例6の転移曲線を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】

【化1】

(式中、各アセニル(Ac)基は、ナフタレン、アントラセン、またはテトラセンから独立して選択される)のビス(2−アセニル)アセチレン化合物。
【請求項2】
前記各Ac基が同一であり、ナフタレン、アントラセン、またはテトラセンから選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
末端アセニル基の少なくとも1つが置換されている、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
両方の末端アセン基が置換されている、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
6−置換ナフタレン環、6−置換アントラセン環、または8−置換テトラセン環から選択される、請求項3または4に記載の化合物。
【請求項6】
前記置換基が、アルキル、アルコキシ、チオアルコキシおよびハロゲン置換基から選択される、請求項3〜5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
請求項1に記載の少なくとも1種の化合物を半導体として含む半導体デバイス。
【請求項8】
前記デバイスが、ゲート誘電体と半導体層との間に介在された表面処理層を含む有機薄膜トランジスタであり、前記表面処理層が、自己組織化単分子層、非フッ素化ポリマー層またはシロキサンポリマー層から選択される、請求項7に記載のデバイス。
【請求項9】
前記非フッ素化ポリマー層が、
a)芳香族官能性セグメントを含むモノマー前駆体、モノマー、およびオリゴマーから誘導される高分子層と、
b)開環重合から誘導される高分子層と、
c)式
【化2】

により表されるインター重合単位を前記インター重合単位の約50〜100%の量で有し、かつ、前記インター重合単位の0〜約50%の量で式
【化3】

(式中、各R1およびR2は、独立して、水素、C1〜C20脂肪族、クロロ、ブロモ、カルボキシ、アシルオキシ、ニトリル、アミド、アルコキシ、カルボアルコキシ、アリールオキシ、塩素化脂肪族、臭素化脂肪族、C6〜C20アリール、C7〜C20アリールアルキル、異なるR1およびX基が含まれる場合にはヒドロキシ、ならびにこれらの組み合わせから選択される基を含み、1つまたは複数のへテロ原子および/もしくは1つまたは複数の官能基を含有することができ、各Xは、独立して、ゲート誘電体に結合することができる官能基を含み、そして、少なくとも2つのR1、R2、および/またはX基の任意の組み合わせは、一緒に、環式または多環式脂肪族、芳香族、または多環式芳香族基を形成することができる)
により表されるインター重合単位を有するポリマーを含む高分子層と、
d)これらの組み合わせと、
から選択される材料を含む、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記シロキサンポリマー層が、式
【化4】

(式中、各Rは、独立して、水素、C1〜C20脂肪族、C4〜C20脂環式、アリールアルキル、またはアリール、およびこれらの組み合わせから選択される基を含み、1つまたは複数のへテロ原子および/もしくは1つまたは複数の官能基を含有することができる)
により表されるインター重合単位を有するポリマーを含む、請求項8に記載のデバイス。
【請求項11】
前記表面処理層が、ゲート誘電体と有機半導体層との間に介在された自己組織化単分子層を含み、前記単分子層が、ゲート誘電体と自己組織化単分子層の前駆体との間の反応生成物であり、前記前駆体が、式
X−Y−Zn
(式中、Xは、HまたはCH3であり、
Yは、線状または分枝状C5〜C50脂肪族または環状脂肪族連結基、もしくは芳香族基を含む線状または分枝状C8〜C50基、およびC3〜C44脂肪族または環状脂肪族連結基であり、
Zは、−PO32、−OPO32、ベンゾトリアゾリル(−C643)、カルボニルオキシベンゾトリアゾール(−OC(=O)C643)、オキシベンゾトリアゾール(−O−C643)、アミノベンゾトリアゾール(−NH−C643)、−CONHOH、−COOH、−OH、−SH、−COSH、−COSeH、−C54N、−SeH、−SO3H、−NC、−SiCl(CH32、−SiCl2CH3、アミノ、およびホスフィニルから選択され、そして
nは、1、2、または3であるが、ただし、Zが−SiCl(CH32または−SiCl2CH3である場合には、n=1であることを条件とする)
を有する組成物を含む、請求項8に記載のデバイス。
【請求項12】
a)基板を提供することと、
b)前記基板上にゲート電極材料を堆積させることと、
c)前記ゲート電極材料上にゲート誘電体を堆積させることと、
d)請求項1に記載のビス(2−アセニル)アセチレンを含む有機半導体層を高分子層に隣接して堆積させることと、
e)ソース電極およびドレイン電極を前記有機半導体層に接触して提供することと、
を含む有機薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項13】
前記ゲート誘電体と前記有機半導体層との間に介在される表面処理層を提供することをさらに含み、前記表面処理層が、自己組織化単分子層、非フッ素化ポリマー層またはシロキサンポリマー層から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記の層が1つまたは複数の高分子アパーチャマスクを用いて堆積される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記アパーチャマスクが再配置可能である、請求項14に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2007−530429(P2007−530429A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520163(P2006−520163)
【出願日】平成16年6月2日(2004.6.2)
【国際出願番号】PCT/US2004/017108
【国際公開番号】WO2005/014511
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】