説明

半導体ナノ結晶及びその製造方法

【課題】高い発光強度を有する半導体ナノ結晶及びその半導体ナノ結晶を簡単に低コストで製造できる方法を提供すること。
【解決手段】複数の元素がイオン結合により結合している化合物半導体の構成元素を含む化合物を含有するイオン液体にマイクロ波を照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光性や発光性を有する半導体ナノ結晶(量子ドット、ナノドットまたは半導体超微粒子とも呼ばれる)及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、半導体は様々な用途に広く利用されているが、半導体ナノ結晶と呼ばれる粒径1〜100nm程度の粒径とすると、バルクとは異なる特有の性質を持つことが知られている。例えば、CdSe、CdTeなどのカルコゲン化合物半導体ナノ結晶はバンド構造が粒径依存性を有し、いわゆる量子閉じ込め効果を生じる。それにより、粒径によって異なる波長(色)の蛍光特性や発光特性を示すため、有機EL、蛍光マーカー、太陽電池、レーザー光源を始めとする様々な光学素子の材料としての応用が期待されている。こうしたカルコゲン化合物半導体ナノ結晶に関する研究は盛んに行われており、例えば、特許文献1には電子デバイス用材料として好適な発光特性を有する半導体ナノ結晶が開示されている。また、非特許文献1に開示されているように、既に商品化されているものもある。
【0003】
上記のような従来入手可能な半導体ナノ結晶は、安定性の点で問題がある。すなわち、励起光を照射し続けたときの発光強度の低下が顕著であるため、長時間の使用には適さない。また、低温条件下では発光特性が極端に低下するため、使用環境に制約がある。また、非常に高価であるため、用途が実験用等、特殊な用途に限定される。
【0004】
価格が高いことの原因の一つはその製造方法にある。すなわち、上記のように市販されている半導体ナノ結晶は、例えば、特許文献2に開示されているようなガス中蒸発法で製造されている。ガス中蒸発法は、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中で対象物質を加熱することで蒸発させ、その蒸気が雰囲気ガスと衝突して運動エネルギーを失い且つ急冷される過程でナノ結晶を生成するものである。こうした製造方法は爆発の危険性がある上、粒子径の揃ったナノ結晶を多量に製造するのは困難であり、そのためにコストが高くつく。
【0005】
一方、最近、上記方法に代わる半導体ナノ結晶の製造方法として、非特許文献2に記載のような水性合成法が提案されている。すなわち、この方法は、カドミウムイオンと水溶性チオール(R−SH:Rはアルキル基)が溶解した溶液にNaHX(Xは硫黄、セレン、テルルなどのカルコゲン類)水溶液を混合し、加熱成長させることで、カルコゲン化合物半導体ナノ結晶(CdX)の表面を水酸化チオール分子が被覆してなる水溶性半導体ナノ結晶が溶解した水溶液を生成するものである。
【0006】
こうした水溶液中から水溶性半導体ナノ結晶を取り出す方法としては、カルコゲン化合物半導体ナノ結晶の表面を被覆している水溶性チオールを配位子交換によって疎水性チオールに置換することで、あるいは、カルコゲン化合物半導体ナノ結晶の表面を被覆している水溶性チオールに界面活性剤を結合させて複合化することでクロロホルム等の有機溶媒への可溶性を高め、有機溶媒に溶解させた状態でポリマーとして固定化する方法が知られている。
【0007】
上記のような水性合成法は製造工程が比較的単純であり、大量生産に向くため、コスト低減には有効である。しかしながら、水性合成法で製造される半導体ナノ結晶は、ガス中蒸発法で製造される半導体ナノ結晶に比べて発光強度が劣るという問題がある。また、発光強度の安定性は従来とほぼ同程度であり、ほとんど改善は見られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−315661号公報
【特許文献2】特開平5−261267号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「ハイ・クォリティー、プロダクション・クォンティティーズ・オブ・セミコンダクター・ナノクリスタルズ・フォー・ザ・ナノテクノロジー・リサーチャー(High Quality, Production Quantities of Semiconductor Nanocrystals for the Nanotechnology researcher)」、[on line]、オーシャンフォトニクス株式会社、[平成16年11月11日検索]、インターネット〈URL: http://www.oceanphotonics.com/pdf/CoreEviDots.pdf〉
【非特許文献2】ニコライ・ガポニック(Nikolai Gaponik)、他8名、「チオール−キャッピング・オブ・CdTe・ナノクリスタルズ:アン・オルタナティヴ・トゥ・オルガノメタリック・シンセティック・ルーツ(Thiol-Capping of CdTe Nanocrystals: An Alternative to Organometallic Synthetic Routes)」、ザ・ジャーナル・オブ・フィジカル・ケミストリー(The Journal of Physical Chemistry)、B, 2002, 106, pp.7177-7185
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、高い発光強度を有する半導体ナノ結晶及びその半導体ナノ結晶を簡単に低コストで製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
近年、CdS、CdTe、CdSeなど種々の半導体ナノ結晶を水中におけるマイクロ波照射により合成する方法が実施されている。(例えば、He, Y.; Lu, H.T.;Sai,L.M.;Lai,W.Y.;Fan,Q.L.;Wang,L.H.;Huang,W.,「シンセシス・オブ・CdTe・ナノクリスタルズ・スルー・プログラム・プロセス・オブ・マイクロウエーブ・イラディエーション(Synthesis of CdTe nanocrystals through program process of microwave irradiation)」、ザ・ジャーナル・オブ・フィジカル・ケミストリー(The Journal of Physical Chemistry)、B 2006, 110, (27), pp.13352-13356)
【0012】
しかし、マイクロ波照射は、しばしば水熱法と併用され、オートクレーブを用いた高圧・高温条件下での合成となり、安全性の問題を伴う。
一方、イオン液体は、室温付近で液体であり、蒸気圧がほとんどなく、熱安定性が高い溶媒として注目を集めている。そのため、常圧における高温加熱が達成され、種々の無機物合成にも利用されている。また、イオン液体を用いることで、水熱法で懸念される圧力の問題が解決される。そこで、イオン液体は発光性の半導体ナノ結晶の合成溶媒としても注目されており、イオン液体を用いてCdSe、CdS、ZnOなどのナノ結晶が合成されている。(例えば、Green, M.; Rahman, P.;Smyth-Boyle, D.「イオニック・リキッド・パッシベイティッド・CdSe・ナノクリスタルズ(ionic liquid passivated CdSe nanocrystals)」、ケミカル・コミュニケーションズ(Chemical Communications)、2007,(6), pp.574-576)
【0013】
さらに、カチオンとアニオンからなる、イオンのみで構成される極性溶媒であるイオン液体は、マイクロ波を効率的に吸収するので、イオン液体にマイクロ波を照射するとイオン液体は速やかに加熱されることが期待される。
本発明は係るイオン液体の特性に着目してなされたものであって、本発明の半導体ナノ結晶の製造方法は、複数の元素がイオン結合により結合している化合物半導体の構成元素を含む化合物を含有するイオン液体にマイクロ波を照射することを特徴としている。
また、本発明の半導体ナノ結晶は、複数の元素がイオン結合により結合している化合物半導体の構成元素を含む化合物を含有するイオン液体にマイクロ波を照射することにより得られることを特徴としている。
さらに、本発明の半導体ナノ結晶は、カルコゲン化合物半導体ナノ結晶であることを特徴としている。
また、本発明の半導体ナノ結晶は、CdTeナノ結晶、CdSeナノ結晶、CdSナノ結晶、ZnOナノ結晶であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、化合物半導体の構成元素を含む化合物を含有する極性溶媒であるイオン液体にマイクロ波を照射するものであるから、マイクロ波はイオン液体に効率的に吸収され、化合物半導体ナノ結晶の形成において微視的な反応温度の上昇をもたらし、速やかに化合物半導体ナノ結晶を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の方法によって得られたCdTeナノ結晶の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図2】図2は、本発明の方法によって得られたCdTeナノ結晶のX線回折パターンを示す図である。
【図3】図3(a)は、化合物半導体(CdTe)構成元素を含む化合物を含有するイオン液体にマイクロ波を照射して加熱したときのCdTeについて吸収と光ルミネッセンスを示す図であり、図3(b)は、化合物半導体(CdTe)構成元素を含む化合物を含有するイオン液体を電気ヒータで加熱したときのCdTeについて吸収と光ルミネッセンスを示す図である。
【図4】図4の(A)、(B)、(C)は、それぞれ化合物半導体(CdTe)構成元素を含む化合物を含有する液体(イオン液体または水溶液)を150℃に加熱して150℃で保持する時間(反応時間)の違いによる「発光スペクトルの発光ピーク(nm)」、「吸収スペクトルから見積もられる半導体ナノ結晶の粒径(nm)」、「発光量子収率(発光による放出光子数の吸収光子数に対する比率(%))」を示す図である。
【図5】図5は、化合物半導体(CdTe)構成元素を含む化合物を含有するイオン液体にマイクロ波を照射して150℃で50分間保持してCdTeナノ結晶を作製した場合において、CdTeナノ結晶のクロロホルムへの抽出を行う前後における発光スペクトルと吸収スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施が可能な実施形態について説明する。当然のことながら、本発明の範囲を逸脱することなく、他の実施形態を利用することもできる。
《イオン液体》
イオン液体は以下に示すアニオン及びカチオンから選択されても良い。もちろん、本発明の目的に沿う限りにおいて、他のイオン液体を使用することもできる。
本発明によるイオン液体のアニオンは、I、Br、Cl、[N(CN)、[N(SOCF、[PF、[BF、[NO、[C(CN)、[B(CN)、[CFCOO]、[ClO、[BFCF、[CFSO、[CFSO、[CHSO、[(CFSON]、[(CSON]、[(CFSOC]、[(CSOC]、[(FSOC]、[CHCHOSO、[CFC(O)O]、[CFCFC(O)O]、[CHCHC(O)O]、[CHC(O)O]、[P(C、[P(CF、[P(CH)(CF、[P(C、[P(C)(CF、[P(CF、[P(C、[P(C、[P(C、[P(C、[(CP(O)O]、[(CP(O)O2−、[PC、[(CFP(O)O]、[(CHP(O)O]、[(CP(O)O]、[CFP(O)O2−、[CHP(O)O2−、[(CHO)P(O)O]、[BF(C、[BF(C)]、[BF(CF、[B(C、[BF(CN)]、[BF(CN)、[B(CF]-、[B(OCH、[B(OCH(C)]、[B(O、[B(O、[B(OCH、[N(CF、[AlCl]-および[SiF2−から選択されてもよい。
【0017】
本発明によるイオン液体のカチオンは、たとえば、以下に示す構造を有する化合物から選択されてもよい。
【化1】

【化2】

【0018】
ヘテロ原子と結合している少なくとも1つのRはHと異なる場合、H;
線状または分岐状C1〜C20のアルキル;
1つまたは複数の二重結合を含む線状または分岐状C2〜C20のアルケニル;
1つまたは複数の三重結合を含む線状または分岐状C2〜C20のアルキニル;
飽和または部分的または全体的に不飽和であるC3〜C7のシクロアルキル; ハロゲン−ヘテロ原子結合がない場合、ハロゲン、好ましくはフッ化物または塩化物;
正に帯電したヘテロ原子を有するNO基の結合がない場合、および少なくとも1つのRがNOと異なる場合、NO
正に帯電したヘテロ原子を有するCN基の結合がない場合、および少なくとも1つのRがCNと異なる場合、CN;
Rは同じでも異なっていてもよい;
Rの対は単結合または二重結合で結合されていてもよい;
1つまたは複数のRは、ハロゲン、好ましくは−Fおよび/または−Clで部分的にまたは全体的に、または、全てのRが全体的にハロゲン化されていない場合、−CNまたは−NOで部分的に、置換されてもよい;
いずれかのRの1つまたは2つの炭素原子は、任意のヘテロ原子および/または、−O−、−C(O)−、−C(O)O−、−S−、−S(O)−、SO−、−S(O)O−、−N=、−P=、−NR’−、−PR’−、−P(O)(OR’)−、−P(O)(OR’)O−、−P(O)(NR’R’)−、−P(O)(NR’R’)O−、P(O)(NR’R’)NR’−、−S(O)NR’−および−S(O)NR’の群から選択される基で置き換えられてもよいし置き換えなくてもよい。ここで、R’は、H、任意選択的に部分的または全体的にパーフルオロ化されたC1〜C6のアルキル、および/または、任意選択的に部分的または全体的にパーフルオロ化されたフェニルである。
いずれかのRは、HおよびC1〜C15のアルキルから独立して選択される。
【0019】
上記で示された有機カチオンの好ましい置換基は、国際公開第2007/093961号パンフレットの5〜7ページに開示されている。これらのページに規定されている好ましいカチオンは、参照することにより本明細書に完全に組み込まれる。もっとも好ましい置換基Rは、HおよびC1〜C15のアルキルから独立して選択される。置換基は、望ましい正電荷が得られるように選択される。
【0020】
本明細書で参照されているいずれかのアルキル、アンケニルまたはアルキニルは、線状、分岐状または環状であってもよい。
【0021】
本発明のイオン液体は、2種または3種以上を含んでもよい。
また、本発明のイオン液体として、上記のイオン液体に加えて下記一般式(1)で表わされる第4級アンモニウム塩を好ましいイオン液体として使用することができる。
【化3】

【0022】
(式中、R、R、R、及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜3の直鎖又は分岐のアルキル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基又はイソプロポキシメチル基を示し、R及びRで、及び/又はR及びRで環構造を形成しても良い。Yは、アニオンである。)で表される化合物である。R、R、R、及びRは、同一又は異なって、メチル基、エチル基、メトキシメチル基又はエトキシメチル基であることが好ましい。一般式(1)においては、R及びRで環構造を形成し、かつR及びRで環構造を形成していてもよく、R及びRで、又はR及びRで環構造を形成していても良い。R及びRにより形成される環は、5員環が好ましい。R及びRにより形成される環は、5員環が好ましい。
【0023】
一般式(1)で表わされる化合物中のカチオンは、N,N,N,N−テトラエチルアンモニウムカチオン、N,N,N−トリエチル−N−メチルアンモニウムカチオン、N,N,N−トリメチル−N−メトキシメチルアンモニウムカチオン、N−エチル−N,N−ジメチル−N−メトキシメチルアンモニウムカチオン、 N,N−ジエチル−N−メチル−N−メトキシメチルアンモニウムカチオン、N,N,N−トリエチル−N−メトキシメチルアンモニウムカチオン、N−プロピル−N,N−ジメチル−N−メトキシメチルアンモニウムカチオン、N−プロピル−N,N−ジエチル−N−メトキシメチルアンモニウムカチオン、N−ブチル−N,N−ジメチル−N−メトキシメチルアンモニウムカチオン、N−ブチル−N,N−ジエチル−N−メトキシメチルアンモニウムカチオン、N,N,N−トリメチル−N−メトキシエチルアンモニウムカチオン、N−エチル−N,N−ジメチル−N−メトキシエチルアンモニウムカチオン、N,N−ジエチル−N−メチル−N−メトキシエチルアンモニウムカチオン、N,N,N−トリエチル−N−メトキシエチルアンモニウムカチオン、N−プロピル−N,N−ジメチル−N−メトキシエチルアンモニウムカチオン、N−プロピル−N−ジエチル−N−メトキシエチルアンモニウムカチオン、N−ブチル−N,N−ジメチル−N−メトキシエチルアンモニウムカチオン、N−ブチル−N,N−ジエチル−N−メトキシエチルアンモニウムカチオン等が挙げられる。
【0024】
及びRで、及び/又はR及びRで環構造を形成している第4級アンモニウムカチオンとして、N−エチル−N−メチルピロリジニウムカチオン、N−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウムカチオン、N−エチル−N−メトキシメチルピロリジニウムカチオン、N−エトキシメチル−N−メチルピロリジニウムカチオン、N−エチル−N−エトキシメチルピロリジニウムカチオン、N−エチル−N−メトキシエチルピロリジニウムカチオン、N−メチル−N−メトキシエチルピロリジニウムカチオン、N−エトキシエチル−N−メチルピロリジニウムカチオン、N−エチル−N−エトキシエチルピロリジニウムカチオン、N,N−ジエチルピロリジニウムカチオン、N−エチル−N−メトキシメチルピロリジニウムカチオン、N−メチル−N−エトキシメチルピロリジニウムカチオン、N−エチル−N−エトキシメチルピロリジニウムカチオン、スピロ−(1,1‘)−ビピロリジニウムカチオン等が挙げられる。
【0025】
中でも、好ましくは、N−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウムカチオン、N−エチル−N−メトキシメチルピロリジニウムカチオン、N−エトキシメチル−N−メチルピロリジニウムカチオン、N−メチル−N−メトキシエチルピロリジニウムカチオン、N−エチル−N−メトキシエチルピロリジニウムカチオン、N,N−ジエチル−N−メチル−N−メトキシエチルアンモニウムカチオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンなどが挙げられる。さらに好ましくは、N−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウムカチオン、N−エチル−N−メトキシメチルピロリジニウムカチオン、N−エトキシメチル−N−メチルピロリジニウムカチオン、N−メチル−N−メトキシエチルピロリジニウムカチオンなどが挙げられる。
【0026】
一般式(1)で表される化合物のアニオンYとしては、例えば、BF、PF、CFCO、CFSO、N(CFSO、N(CFCFSO、C(CFSO、N(CFSO)(CFCO)、AlF、ClBF、(FSO、CBF、CFBF等を挙げることができる。好ましくは、BF、PF、N(CFSO、N(CFCFSO、(FSO又はCFSOであり、より好ましくは、N(CFSOである。
【0027】
一般式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、下記のような化合物を例示することができる。
N,N,N,N−テトラエチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホン)アミド、N,N,N−トリエチル−N−メチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホン)アミド、N−エチル−N−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホン)アミド、N,N−ジエチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホン)アミド、N−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホン)アミド、N−エチル−N−メトキシメチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホン)アミド、N−メチル−N−エトキシメチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホン)アミド、N−エチル−N−エトキシメチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホン)アミド、スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホン)アミド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−メトキシエチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホン)アミド、N−メチル−N−メトキシエチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホン)アミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホン)アミド並びに前記化合物に含まれるビス(トリフルオロメチルスルホン)アミドを上記Yで示される各種アニオン等に変更した化合物を挙げることができる。中でも、N,N,N,N−テトラエチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホン)アミド、N,N,N−トリエチル−N−メチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホン)アミド、N−エチル−N−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホン)アミド、N−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホン)アミド、スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホン)アミド、並びに前記化合物に含まれるビス(トリフルオロメチルスルホン)アミドを上記Yで示される各種アニオン等に変更した化合物等が好ましい。より好ましくは、N,N,N,N−テトラエチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホン)アミド、N,N,N−トリエチル−N−メチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホン)アミド、N−エチル−N−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホン)アミド、N−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホン)アミド、スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホン)アミド等である。
【0028】
上記一般式(1)で表わされる化合物は、大塚化学社等から市販されており、該市販品を使用することができる。また、上記一般式(1)で表される化合物は、例えば、特開2000−109487号公報に記載の方法に従って製造することができる。
【0029】
《マイクロ波》
マイクロ波の周波数は一般的に2.45GHzであるが、これに限定されるものではない。集束マイクロ波を使用する方が非集束のものより好ましい。また、効率的な加熱のためには、単一モードの方が多モード(マルチモード)より好ましい。加熱速度は、連続電源またはパルス電源によるマイクロ波の投入出力によって制御することができる。
【0030】
[(加熱終了時の温度)−(加熱開始時の温度)]/加熱時間(分)で定義されるマイクロ波を照射することによるイオン液体の加熱速度は、20℃/分以上が好ましく、より好ましくは30℃/分以上である。加熱速度が20℃/分未満の場合、製造される半導体ナノ結晶の粒径分布の幅が広くなり、一様な特性の半導体ナノ結晶が得ることが困難になる。また、ピーク加熱温度は100〜180℃の範囲が好ましく、この温度範囲で5〜80分間保持するのが好ましい。上記ピーク加熱温度および保持時間のいずれか一方を下回る条件で加熱すると、半導体ナノ結晶の生成に長時間を要する。しかし、上記ピーク加熱温度および保持時間のいずれか一方を上回る条件で加熱しても、半導体ナノ結晶の生成は促進されず、製造される半導体ナノ結晶の粒径分布の幅が広くなる。
【0031】
[(冷却開始時の温度)−(冷却終了時の温度)]/冷却時間(分)で定義されるイオン液体の冷却速度に特に制限はなく、上記ピーク加熱温度で所定時間保持した後、室温まで放置することにより冷却することができる。
【0032】
《半導体ナノ結晶の粒径》
本発明で得られる半導体ナノ結晶の粒径は、ナノメートル(nm)のオーダーである。その粒径分布は2〜7nmであり、好ましくは3〜4nmである。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものでないことは言うまでもなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において、適宜変更や修正が可能である。
【0034】
《CdTeナノ結晶の製造−実施例1》
和光純薬社製のCdCl・2.5HO(99.9%)12.5ミリモルと、アルドリッチ(Aldrich)社製のN,N−(ジメチルアミノ)エタンチオール塩酸塩(95%:DMAET)30ミリモルとを水に溶解させ、その水溶液に1規定NaOHを加えてpH5.5に調製した。そして、この溶液に大塚化学社製のN−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホン)アミド[イオン液体]を加えて振とうし、CdイオンとDMAETをイオン液体中に抽出した。この抽出後、上層の水相をデカンテーション法により除去し、真空ポンプを用いた減圧操作によりイオン液体中から水分を除去した。そして、イオン液体相に林化学社製のAlTeに1規定HSO水溶液を加えることにより発生させたHTeガスを窒素気流下吹き込み、CdTeナノ結晶前駆体溶液を得た。そして、「IMCR―25003型ク゛リーンモチーフidx」のマイクロ波照射装置を用いて、2.45GHzのマイクロ波を0ないし300Wの出力の間で制御しながらイオン液体に照射すると、約5分でイオン液体の温度は150℃に上昇した。そして、150℃で9〜80分間保持してCdTeナノ結晶を合成した後、マイクロ波の照射を停止してイオン液体を室温になるまで放置した。
【0035】
《CdTeナノ結晶の顕微鏡写真》
図1は以上のようにして得られたCdTeナノ結晶を含む化合物の電子顕微鏡写真(150℃で80分間保持したもの)であり、図1の左側の(a)は6万倍の電子顕微鏡写真であり、図1の右側の(b)は20万倍に拡大した電子顕微鏡写真である。図1の左側の(a)において、黒い点状の部分がCdTeナノ結晶である。図1をみると、CdTeナノ結晶は単一の結晶からなり、高い結晶性を有することが分かる。図1の左側の(a)より、CdTeナノ結晶の粒径は2〜5nmであり、平均粒径は4.1nm、分散度は15%程度であった。なお、分散度とは、平均粒径からの粒径のバラツキをいう。
【0036】
《CdTeナノ結晶のX線回折パターン》
また、上記のようにして得られたCdTeナノ結晶のX線回折を行ったところ、図2に示すような閃亜鉛鉱型の回折パターンを示した。
【0037】
《加熱方式及び反応時間の違いによる吸収スペクトルと発光スペクトルの変化》
図3の上側の(a)は、上記実施例1と同じようにしてマイクロ波をイオン液体に照射して加熱した場合において、150℃における保持時間を9分間、25分間、35分間、50分間、80分間と違えたときの発光スペクトルと吸収スペクトルを示す図である。図3の下側の(b)は、上記実施例1においてマイクロ波照射装置に代えて電気ヒーターによりイオン液体溶液を含む容器を加熱した場合において、150℃まで約10分間で昇温し、150℃における保持時間を10分間、30分間、50分間、80分間、110分間と違えたときの発光スペクトルと吸収スペクトルを示す図である。
【0038】
図3(a)(b)において、実線は吸収スペクトルを示し、破線は発光スペクトルを示す。図3(a)(b)に示すように、第1励起子の立ち上がりが、加熱時間(反応時間)の増加とともに、赤方偏移する(長波長側にずれる)ことが分かる。すなわち、反応時間を長くすることによって、イオン液体中でCdTeナノ結晶を強制的に成長させることができる。
【0039】
《反応時間の違いによる発光ピーク、粒径および発光量子収率の変化》
図4の最上位の(A)、中間の(B)、最下位の(C)は、それぞれ化合物半導体(CdTe)構成元素を含む化合物を含有する液体(イオン液体または水溶液)を150℃に加熱して150℃で保持する時間(反応時間)の違いによる「発光スペクトルの発光ピーク(nm)」、「吸収スペクトルから見積もられる半導体ナノ結晶の粒径(nm)」、「発光量子収率(発光による放出光子数の吸収光子数に対する比率(%))」を示す。
【0040】
また、図4(A)(B)(C)において、(a)、(b)、(c)、(d)はそれぞれ、「上記実施例1と同じようにしてマイクロ波をイオン液体に照射して加熱した場合」、「上記実施例1においてマイクロ波照射装置に代えて電気ヒーターによりイオン液体溶液を含む容器を加熱した場合」、「上記実施例1においてイオン液体を用いずに化合物半導体(CdTe)構成元素を含む化合物を含有する水溶液(pH5.5に調製したもの)にマイクロ波を照射して加熱した場合」、「上記実施例1においてイオン液体を用いずにマイクロ波照射装置に代えて電気ヒーターにより化合物半導体(CdTe)構成元素を含む化合物を含有する水溶液(pH5.5に調製したもの)を含む容器を加熱した場合」を示す。
【0041】
図4(A)に示すように、化合物半導体(CdTe)構成元素を含む化合物を含有するイオン液体をマイクロ波で加熱することによって発光ピーク波長の最も素早いシフトが観察された(a)。すなわち、イオン液体の効率的なマイクロ波吸収による加熱による素早い粒子の成長により短時間で赤色発光の粒子を得られる。
【0042】
図4(B)に示すように、化合物半導体(CdTe)構成元素を含む化合物を含有するイオン液体をマイクロ波で加熱することによって半導体ナノ結晶の粒径が最も大きくなる(a)。すなわち、イオン液体の効率的なマイクロ波吸収による加熱により素早い粒子の成長が起こっていることが分かる。
【0043】
図4(C)に示すように、化合物半導体(CdTe)構成元素を含む化合物を含有するイオン液体をマイクロ波で加熱することによって発光量子収率が増加することが分かる(a)。例えば、イオン液体をマイクロ波で80分間加熱することによって、発光量子収率として61%もの極めて高い収率が得られることが分かる(a)。一方、化合物半導体(CdTe)構成元素を含む化合物を含有する水溶液をマイクロ波で加熱しても発光量子収率は低く、360分間加熱しても発光量子収率は30%程度である(d)。このように、マイクロ波を加熱手段として、化合物半導体構成元素の溶媒を水溶液からイオン液体に変えることで、加熱時間を1/5程度に短くしても、発光量子収率を倍増することができる。
【0044】
《揮発性有機溶媒による半導体ナノ結晶の抽出》
イオン液体は不揮発性であるため、イオン液体中で作製した半導体ナノ結晶を揮発性の有機溶媒で取り出すことは重要な操作である。そこで、上記実施例1のようにして作製したCdTeナノ結晶をイオン液体から取り出すために、CdTeナノ結晶を含有するイオン液体にドデカンチオールを加え、クロロホルムへの抽出を行った。
【0045】
図5の上側の(a)は、上記実施例1と同じようにしてマイクロ波をイオン液体に照射して150℃で50分間保持してCdTeナノ結晶を作製した場合において、CdTeナノ結晶のクロロホルムへの抽出を行う前の発光スペクトルと吸収スペクトルを示す図、図5の下側の(b)はそのようにして作製したCdTeナノ結晶のクロロホルムへの抽出を行った後の発光スペクトルと吸収スペクトルを示す図である。図5において、実線は吸収スペクトル、破線は発光スペクトルを示す。CdTeナノ結晶のクロロホルムへの抽出後において、吸収ピークおよび発光ピークはともに10nm程度短波長側にシフトしたが、クロロホルムへの抽出後の発光量子収率は52%であり、クロロホルムへの抽出前の発光量子収率54%と比べて、ほとんど変化が見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によって得られるCdTeナノ結晶、CdSeナノ結晶、CdSナノ結晶、ZnOナノ結晶などは、発光量子収率が高く、高い強度で蛍光を放出し得るので、以下のように応用し得る。
(1)電気化学発光素子への応用
例えば、二枚の電極間に本発明に係る半導体ナノ結晶を保持する。この電極間に電圧を印加すると、半導体ナノ結晶の粒径に応じた波長の光が放出される。
【0047】
(2)レーザ媒質への応用
本発明に係る半導体ナノ結晶をレーザ媒質として励起レーザ光を照射すると、半導体ナノ結晶の粒径に応じた波長のレーザ光が出射される。
【0048】
(3)蛍光センサへの応用
検出対象成分を吸着するセンサ面に本発明に係る半導体ナノ結晶を保持する。通常、半導体ナノ結晶からは蛍光が放出されるが、臭気成分や火薬などの特定成分がセンサ面に吸着されると、半導体ナノ結晶からの蛍光の輝度が下がったり、蛍光が放出されなくなったり、あるいは蛍光の波長(色)が変化したりする。これにより、検知対象成分が存在することが認識できる。この蛍光センサは、例えば食品管理、環境管理、地雷検知などの用途に使用できる。
【0049】
(4)太陽電池
電流取り出し用の電極に接触するように、本発明に係る半導体ナノ結晶を保持する。これに太陽光が照射されると、半導体ナノ結晶が電子を放出し、この電子が電極に流れることで電流が発生する。
【0050】
(5)インクへの応用
各種インクに本発明に係る半導体ナノ結晶を分散させることにより、偽造防止用インクとする。本発明に係る半導体ナノ結晶は、所定波長の励起光が照射されると、所定波長の蛍光が放出される。この所定波長をコピー機の読み取り光の波長に合わせることにより、このインクを用いて印刷された印刷物をコピーすると、隠された文字や図形が出現して複写されたり、基となる原稿の色と異なる色で複写されるようにすることができ、偽造防止が可能となる。また、本発明に係る半導体ナノ結晶の粒径は数nmであり、従来提案されている偽造防止インクに用いられてきた粒子の大きさと比較すると、はるかに微細であり、印刷機や複写機のノズルつまりが発生することもないという利点もある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の元素がイオン結合により結合している化合物半導体の構成元素を含む化合物を含有するイオン液体にマイクロ波を照射することを特徴とする半導体ナノ結晶の製造方法。
【請求項2】
複数の元素がイオン結合により結合している化合物半導体の構成元素を含む化合物を含有するイオン液体にマイクロ波を照射することにより得られることを特徴とする半導体ナノ結晶。
【請求項3】
半導体ナノ結晶がカルコゲン化合物半導体ナノ結晶であることを特徴とする請求項2記載の半導体ナノ結晶。
【請求項4】
半導体ナノ結晶がCdTeナノ結晶、CdSeナノ結晶、CdSナノ結晶またはZnOナノ結晶のいずれかであることを特徴とする請求項2または3記載の半導体ナノ結晶。



【図5】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−18689(P2013−18689A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155245(P2011−155245)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者 第1回イオン液体討論会実行委員会 刊行物 第1回イオン液体討論会要旨集 発行年月日 平成23年1月14日 〔刊行物等〕 研究集会 第1回イオン液体討論会 主催者 イオン液体研究会 共催者 国立大学法人 鳥取大学 開催日 平成23年1月17日〜18日 〔刊行物等〕 発行者 社団法人 日本化学会 刊行物 日本化学会第91春季年会 2011年講演予稿集 発行年月日 平成23年3月11日 〔刊行物等〕 掲載年月日 平成23年5月17日 掲載アドレス http://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2011/jm/c1jm11059d
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【出願人】(000206901)大塚化学株式会社 (55)
【Fターム(参考)】