説明

半導体レーザおよびその製造方法

【課題】無効なリーク電流を抑制し、高効率および高速動作を実現する。
【解決手段】p型InP半導体基板7上に、p型クラッド層4、活性層3、および、n型クラッド層2を有する活性層部からなる半導体レーザ部と、半導体レーザ部の両側を埋め込む電流狭窄層とを備えた半導体レーザの製造方法であって、前記電流狭窄層は、第一のp型InP層9、RuドープInP層5、および、第二のp型InP層11を有し、RuドープInP層5が、第一および第二のp型InP層9,11にのみ接するように形成する。当該構成を得るため、RuドープInP層5の成長の途中でハロゲン元素を含むガスを導入する、もしくは、RuドープInP層5の成長開始時にガスを導入し、成長途中でガス導入量を変え、RuドープInP層5の成長完了後にガス導入を停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は半導体レーザとその製造方法に関し、特に、半導体レーザ部分の無効なリーク電流を低減し、低容量で高速動作を実現するための、半導体レーザとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信の高速化が著しく、半導体レーザの高速動作が必要となる用途が増えてきている。また、低コストで高速動作を実現するため、分布帰還型半導体レーザを直接高速変調する直接変調型の半導体レーザが求められている。
【0003】
高速動作の直接変調型の半導体レーザでは寄生容量を小さくする必要がある。特に、活性層の両端に埋込層を設ける埋込型構造では、その埋込層に半絶縁性半導体層を用いることが有効である。また、発光に寄与しない無効なリーク電流を抑制する必要がある。そのため、この半絶縁性半導体層には、電子を捕捉し、鉄(Fe)をドーパントとした構造が一般的である。鉄(Fe)は、リーク電流を抑制する効果がある。しかしながら、p型半導体層には、一般的に。亜鉛(Zn)がドーパントとして用いられている。そのため、亜鉛(Zn)が、鉄(Fe)との激しい相互拡散を引き起こし、半絶縁性半導体層の本来のリーク電流抑制機能が十分に発揮できないという問題がある。そのため、例えば特許文献1,2に記載のように、亜鉛(Zn)との相互拡散が発生しにくいルテニウム(Ru)をドーパントとした半絶縁性半導体層を埋込層に用いる試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−298240号公報(請求項4、3−4頁実施例)
【特許文献2】特開2011−134863号公報(段落0031−0034)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A. Dadgar et. al, “Ruthenium: A superior compensator of InP”, Applied Physics Letters, vol. 73, No. 26, pp. 3878-3880
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および2には、ルテニウム(Ru)をドーパントとしたRuドープ半導体層は、良好な半絶縁性が得られると記載している。例えば非特許文献1等に記載のように、Ruドープ半導体層は、電子とホールの双方を捕捉する性質がある。Ruドープ半導体層は、その上下に接する半導体層の導電型により、電圧をかけた時の電流が大きく変わる。Ruドープ半導体層の上下共にp型InP層を用いる構成が無効電流を最も抑制できる。このことから、半導体レーザの埋込層では、リーク電流低減に有効な半絶縁性を持つためには、Ruドープ層の周囲をp型の半導体層で囲む必要がある。
【0007】
特許文献1では、p型ドーパントの拡散により半絶縁性半導体層の周囲を自動的にp−とする技術が開示されている。しかしながら、実際には、ストライプ状のメサ側面のn型半導体クラッド層の側部ではp−とならずに、一部が半絶縁性層のまま残るため、p−SI―n構造となる箇所ができ、埋込層全体として十分な半絶縁性を持たないという問題点があった。
【0008】
また、特許文献2でも、Ruドープの半絶縁性ブロック層がn型半導体層に一部接する構造となっており、同様の問題がある。
【0009】
なお、ここで、図7,8に従来の半導体レーザの一例を示す。図7,8において、2はn型クラッドInP層、3は活性層、4はp型クラッドInP層、5はRuドープInP層、7はp型InP基板、9は第一p型InP層、10は絶縁膜、11は第二p型InP層である。
【0010】
図7に示す例では、活性層をメサストライプ状に形成し、当該活性層の両脇にRuドープInP層5を埋込成長させている。成長層内で通常の半導体成長条件でRuドープInP層5を成長させると、図7に示すように、異常成長により、RuドープInP層5の表面に凹凸ができる。そのため、その後の半導体層成長やウェハプロセスで種々の問題が発生する。従って、当該異常成長を防止するために、ハロゲン元素を含むガスを成長槽内に導入しながら、RuドープInP層5成長させる。しかしながら、p型InP基板7を用いた場合は、RuドープInP層5の成長開始時からガスを導入すると、活性層のn型クラッドInP層2の側面に成長されている第一p型InP層9がエッチングされてしまう。その結果、図8に示すように、RuドープInP層5がn型クラッドInP層2に接触してしまう。その場合には、リーク電流の経路が発生するという問題点があった。
【0011】
特許文献2には、p型AlInAs層を埋込層に用いることで、電子に対する障壁が大きくなり、さらにリーク電流を低減できる技術が開示されている。しかしながら、このp型AlInAs層を用いた場合、ハロゲン元素を含むガスをRuドープInP層の成長開始時から導入すると、成長装置内に付着しているAlInAsの一部が成長装置内に浮遊する。その結果、RuドープInP層の表面が荒れるという問題点があった。
【0012】
この発明は、かかる問題点を解決するためのものであり、無効なリーク電流を抑制し、高効率および高速動作を実現する半導体レーザとその製造方法を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、p型半導体基板上に、少なくとも、p型クラッド層、活性層、および、n型クラッド層を順に積層して、活性層部を形成する工程と、前記活性層部をエッチングによりメサストライプ状に加工して、半導体レーザ部を形成する工程と、前記半導体レーザ部の両側において、前記p型半導体基板上に、第一のp型InP層、RuドープInP層、および、第二のp型InP層を順に積層して、前記半導体レーザ部の両側を埋め込んで、電流狭窄層を形成する工程とを備え、前記電流狭窄層を形成する工程は、前記p型半導体基板上に、前記第一のp型InP層を成長する、第一のp型InP層形成工程と、前記第一のp型InP層上に、前記RuドープInP層を成長する、前記RuドープInP層形成工程と、前記RuドープInP層上に、前記第二のp型InP層を成長する、第二のp型InP層形成工程とを備え、前記RuドープInP層形成工程において、前記RuドープInP層が前記第一および第二のp型InP層にのみ接する構成を得るため、前記RuドープInP層成長の途中でハロゲン元素を含むガスを導入する、もしくは、前記RuドープInP層成長開始時にガスを導入し、成長途中でガス導入量を変え、前記RuドープInP層成長完了後に前記ガス導入を停止させる、ことを特徴とする半導体レーザの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、p型半導体基板上に、少なくとも、p型クラッド層、活性層、および、n型クラッド層を順に積層して、活性層部を形成する工程と、前記活性層部をエッチングによりメサストライプ状に加工して、半導体レーザ部を形成する工程と、前記半導体レーザ部の両側において、前記p型半導体基板上に、第一のp型InP層、RuドープInP層、および、第二のp型InP層を順に積層して、前記半導体レーザ部の両側を埋め込んで、電流狭窄層を形成する工程とを備え、前記電流狭窄層を形成する工程は、前記p型半導体基板上に、前記第一のp型InP層を成長する、第一のp型InP層形成工程と、前記第一のp型InP層上に、前記RuドープInP層を成長する、前記RuドープInP層形成工程と、前記RuドープInP層上に、前記第二のp型InP層を成長する、第二のp型InP層形成工程とを備え、前記RuドープInP層形成工程において、前記RuドープInP層が前記第一および第二のp型InP層にのみ接する構成を得るため、前記RuドープInP層成長の途中でハロゲン元素を含むガスを導入する、もしくは、前記RuドープInP層成長開始時にガスを導入し、成長途中でガス導入量を変え、前記RuドープInP層成長完了後に前記ガス導入を停止させる、ことを特徴とする半導体レーザの製造方法であるので、無効なリーク電流を抑制し、高効率および高速動作を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施の形態1に係る半導体レーザの構成を示した説明図である。
【図2A】この発明の実施の形態1に係る半導体レーザの製造方法の処理の流れを示した製造フロー図である。
【図2B】この発明の実施の形態1に係る半導体レーザの製造方法の処理の流れを示した製造フロー図である。
【図2C】この発明の実施の形態1に係る半導体レーザの製造方法の処理の流れを示した製造フロー図である。
【図2D】この発明の実施の形態1に係る半導体レーザの製造方法の処理の流れを示した製造フロー図である。
【図2E】この発明の実施の形態1に係る半導体レーザの製造方法の処理の流れを示した製造フロー図である。
【図2F】この発明の実施の形態1に係る半導体レーザの製造方法の処理の流れを示した製造フロー図である。
【図2G】この発明の実施の形態1に係る半導体レーザの製造方法の処理の流れを示した製造フロー図である。
【図2H】この発明の実施の形態1に係る半導体レーザの製造方法の処理の流れを示した製造フロー図である。
【図2I】この発明の実施の形態1に係る半導体レーザの製造方法の処理の流れを示した製造フロー図である。
【図3】この発明の実施の形態2に係る半導体レーザの構成を示した説明図である。
【図4A】この発明の実施の形態1および2の変形例を示した説明図である。
【図4B】この発明の実施の形態1および2の変形例を示した説明図である。
【図4C】この発明の実施の形態1および2の変形例を示した説明図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係る半導体レーザの製造方法を示した説明図である。
【図6】この発明の実施の形態2に係る半導体レーザの製造方法を示した説明図である。
【図7】従来の半導体レーザの構成を示した説明図である。
【図8】従来の半導体レーザの構成を示した説明図である。
【図9】この発明の実施の形態1に係る半導体レーザにおけるRu−InP膜厚と低効率との関係を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る製造方法で製造した半導体レーザの構成を示す。
【0017】
図1に示すように、本実施の形態1に係る半導体レーザにおいては、p型InP半導体基板7上に、p型InPクラッド層4、活性層3、および、n型InPクラッド層2が順に積層されることにより、p型InP半導体基板7上に積層部が形成されている。積層部はメサストライプ状に加工される。また、メサストライプ状の積層部の両側には、InP半導体を埋込成長することにより、電流狭窄層が形成されている。本実施の形態1に係る半導体レーザは、このように構成された分布帰還型半導体レーザである。
【0018】
電流狭窄層は、p型InP半導体基板7上に、p型InP層9、RuドープInP層5、および、p型InP層11を順に積層して、形成する。ここで、RuドープInP層5は、p型InP層9および11にのみ接している。これにより、RuドープInP層5がn型InPクラッド層2に接触しない。そのため、リーク電流の経路が発生しないので、活性層を介しない発光に無効なリーク電流を抑制することができる。また、RuドープInP層5の厚さを調整することで、高速変調動作に必要な低容量も実現できる。高速変調動作の観点から、RuドープInP層5の厚さを1〜5μm程度に設定することが望ましい。
【0019】
Ru−InPの膜厚は薄すぎると半導体レーザ動作に必要な十分な抵抗率を得ることができない。これは、p型InPのドーパントとしては亜鉛(Zn)がよく使われるが、亜鉛(Zn)はInP中での拡散が非常に早い。埋込成長を必要とするレーザ素子では埋込成長後にコンタクト層成長など複数回の結晶成長工程が必要となり、そのたびに高温の熱処理が埋込成長部にも加わることとなる。本発明の実験では、図9に示すように、Ru−InP層5の膜厚が0.5μm以下の場合には抵抗率が極端に低くなることがわかっている。これは埋込成長部が高温にさらされることでp−InP層9,11中のp型ドーパントがRu−InP層5に拡散することで正味のRu−InP層5の膜厚が薄くなっているからである。拡散の観点から、Ru−InP層5の膜厚は0.5μm以上であることが望ましい。
以上から、Ru−InP層5の膜厚は1〜5μmであればよく、この例では、2μmとした。
【0020】
なお、図1において、12はn型InPクラッド層2内に形成された回折格子層であり、13は回折格子層12上に積層されたn型InPクラッド層であり、10はn型InPクラッド層13上に設けられたエッチング用の絶縁膜マスクである。
【0021】
図1は、製造工程の途中の状態の半導体レーザを示しており、完成した半導体レーザは、後述の図2Iに示す構造を有する。
【0022】
以下に、本実施の形態1に係る半導体レーザを製造するための製造方法を、図2A〜(図2Iを用いて説明する。
【0023】
まず、図2Aに示すように、面方位(100)のp型半導体InP基板7(図示省略、図2E参照)上に、p型InPクラッド層4、活性層3、および、n型InPクラッド層2を、順に積層して積層部を形成する。次に、干渉露光や電子ビーム露光等を用いて、n型InPクラッド層2にグレーティングを形成することにより、回折格子層12を形成する。グレーティングは、n型InPクラッド層2内部の回折格子層12に必要な発振波長となるように形成する。
【0024】
次に、図2Bに示すように、回折格子層12上に、さらに、n型InPクラッド層13を積層する。次に、図2Cに示すように、n型InPクラッド層13をSiO2等の絶縁膜マスク10で部分的に覆い、絶縁膜マスク10で覆われていない部分をドライエッチングや薬液を用いたウェットエッチングにより、2〜5ミクロン程度の深さでエッチングして、図2Dに示すように、積層部をメサストライプ状に加工する。このメサストライプ状の積層部は、半導体レーザの活性層部(半導体レーザ部)となる。
【0025】
次に、図2Eに示すように、活性層部(半導体レーザ部)の両側に、埋込層として、第一p型InP層9、RuドープInP層5、および、第二p型InP層11を、p型半導体InP基板7上に、順に積層する。こうして形成された、第一p型InP層9、RuドープInP層5、および、第二p型InP層11からなる積層部は、電流狭窄層となる。なお、電流狭窄層形成の際には、RuドープInP層5が、n型InPクラッド層2に接触せずに、第一p型InP層9および第二p型InP層11によって完全に囲まれるように、ハロゲン元素を含むガス導入を行ないながら、RuドープInP層5を成長させる。ガス導入のタイミングとしては、RuドープInP層5の成長の途中で、ハロゲン元素を含むガスを成長装置内に導入するようにする。もしくは、RuドープInP層5の成長開始時に、当該ガスを導入し、成長途中でガス導入量を変え、RuドープInP層5成長完了後に、ガス導入を停止するようにしてもよい。
【0026】
この後、図2Fに示すように、絶縁膜マスク10を除去後、n型InPクラッド層13上に、n型InPコンタクト層8を成長させる。RuドープInP層5は、第一p型InP層9および第二p型InP層11によって完全に囲まれているため、n型InPコンタクト層8にも接しない。さらに、図2Gに示すように、活性層部(半導体レーザ部)の両側に、n型InPコンタクト層8の表面から、n型InPコンタクト層8、第二p型InP層11、RuドープInP層5、および、第一p型InP層9を貫通して、p型InPクラッド層4(あるいは、p型半導体InP基板)に達する、アイソレーション溝14を形成する(図4C参照)。次に、図2Hに示すように、そのアイソレーション溝14の内壁に、絶縁膜15を形成する。
【0027】
さらに、図2Iに示すように、電流を注入するレーザ部のn型コンタクト層8上にn側電極16を形成する。さらに、p型半導体InP基板7を適切な厚さに研削し、p型半導体InP基板7の下面に、p側電極17を形成する。その後、光学端面を結晶のへき開面を利用して形成し、端面に反射率を制御するためのコーティングを施す。次に、半導体レーザとなる素子間を切り離して、半導体レーザが完成する。
【0028】
以上のように、本実施の形態1に係る半導体レーザは、半導体レーザ部と、その両側に設けられた電流狭窄層とを含む。半導体レーザ部は積層部から構成されており、当該積層部は、p型半導体基板(p型半導体InP基板7)上に順に積層された、p型クラッド層(p型InPクラッド層4)、活性層3、および、n型クラッド層(n型InPクラッド層2)を少なくとも有する。半導体レーザ部は、メサストライプ状に加工され、その両側が電流狭窄層により埋め込まれている。電流狭窄層は、p型半導体基板(p型半導体InP基板7)上に順に積層された、p型InP層(第一p型InP層9)、RuドープInP層5、および、p型InP層(第二p型InP層11)を有し、且つ、RuドープInP層5がp型InP層(第一及び/または第二p型InP層9,11)にのみ接する。電流狭窄層がこのような構成を有することで、電流狭窄層の電流狭窄効果が十分に発揮される。また、RuドープInP層5の厚さを調整することで、高速変調動作に必要な低容量も確保できる。
【0029】
また、当該構成の半導体レーザを製造するための製造方法としては、まずはじめに、成長装置内にp型半導体基板(p型半導体InP基板7)を配置する。該p型半導体基板(p型半導体InP基板7)上に、少なくとも、p型クラッド層(p型InPクラッド層4)、活性層3、n型クラッド層(n型InPクラッド層2)を有する積層部からなる半導体レーザ部を形成する。次に、この半導体レーザ部をメサストライプ状に加工し、その両側に、電流狭窄層を埋め込む。電流狭窄層は、p型InP層(第一p型InP層9)、RuドープInP層5、および、p型InP層(第二p型InP層11)を順に積層し、かつ、RuドープInP層5がp型InP層(第一及び/または第二p型InP層9,11)にのみ接するように、形成される。このとき、RuドープInP層5がp型InP層(第一及び/または第二p型InP層9,11)にのみ接する構造を実現するために、ハロゲン元素を含むガスを成長装置内に導入するタイミングを調整し、適切な時点でガス導入を行う。具体的には、当該電流狭窄層形成時に、RuドープInP層5成長の途中でハロゲン元素を含むガスを成長装置内に導入する。もしくは、RuドープInP層5成長開始時に当該ガスを導入し始め、成長途中でガス導入量を増加させ、RuドープInP層5成長完了後にガス導入を停止し、p型InP層を成長させるようにしてもよい。本実施の形態においては。このようにして半導体レーザを製造するようにしたので、電流狭窄層において、p型InP層(第一p型InP層9)、RuドープInP層5、p型InP層(第二p型InP層11)を順に積層され、且つ、RuドープInP層5がp型InP層(第一及び/または第二p型InP層9,11)にのみ接する構成となったため、電流狭窄層の電流狭窄効果が十分に発揮される。また、RuドープInP層5の厚さを自由に調整することもでき、高速変調動作に必要な低容量も実現できる。
【0030】
本実施の形態の特徴となる、ハロゲン元素を含むガス導入に関して、図5を用いて以下に詳細を説明する。
【0031】
電流狭窄層の第一p型InP層9を成長後、RuドープInP層5の成長を開始する。第一p型InP層9は、p型InPクラッド層4、活性層3、および、n型InPクラッド層2に接触している。このとき、図5(a)に示す段階のRuドープInP層5の成長の途中で、RuドープInP層5の異常成長を抑制するために、塩化水素(HCl)等のハロゲン元素を含むガスを成長装置内に導入する。RuドープInP層5の成長完了時にガス導入を停止し、第二p型InP層11を成長し、電流狭窄層の形成が完了する(図5(b))。このガス導入により、既に成長した第一p型InP層9がエッチングされ始める。そのため、RuドープInP層5が、n型InP層2に接しないように、p型InP層(第一及び/または第二p型InP層9,11)で完全に囲むためには、ガス導入時期を適切に調整する必要がある。ガス導入時期が早いと、図8のように、第一p型InP層9がエッチングされ、RuドープInP層5がn型クラッドInP層2に接して、リーク電流が増加する構造となってしまう。実際には、ガス導入でエッチングされる厚さ以上に半導体層(具体的には、第一p型InP層9とRuドープInP層5)が成長された段階(図5(a))で、ガスを導入する。電流狭窄層の成長速度とガスによるエッチング量とに依存するため、例えば、第一p型InP層9とRuドープInP層5とを合わせた厚さが0.5μm程度以上になった時点で、ガスを導入すればよい。なお、ガスは、図5(a)以前には全く導入しないとして説明したが、RuドープInP層5の成長開始時から図5(a)の段階までは、ガス導入量を少なくし、図5(a)の段階からRuドープInP層5の成長完了時まではガス導入量を増やすようにしてもよく、この方法でも同様の効果が得られる。
【0032】
特許文献2でも、ハロゲン化ガスを導入する技術が開示されている。しかしながら、特許文献2では、半絶縁性半導体層成長前にメサストライプ側面に十分な厚さの半導体層が積層されており、半絶縁性半導体層成長の途中段階でガスを導入し始める必要がない。また、特許文献2の図1の第1p型InP層のメサストライプ側面の厚さを厚くせずに、第1n型InP層の厚さを厚くすることで、リーク電流を増加させることなく、半絶縁性半導体層成長直前のメサストライプ側面の半導体層を厚くするよう調整が可能なため、ガス導入時期については何も開示されていない。従って、特許文献2と本発明とは異なる。また、本実施の形態1の構成において、RuドープInP層5の成長前に、0.5μm程度以上に第一p型InP層9を厚く成長すると、この部分を流れるリーク電流が増加し、良好な特性が得られない。よって、上述した本実施の形態1による製造方法が有効な解決方法となる。
【0033】
なお、本実施の形態1に係る製造方法は、図4A及び図4Cに示すような、光導波路層19を備えた半導体レーザにおける、光導波路形成時に用いても同様の効果が得られる。図4A及び図4Cに示す半導体レーザは、p型半導体InP基板7上に積層された、少なくともp型InPクラッド層4、活性層3、n型InPクラッド層2を有する積層部からなる半導体レーザ部と、その光出力側に設けられたクラッド層を伴う光導波路層19とを有している。また、図4Cに示すように、活性層3と光導波路層19とがメサストライプ状に加工され、その両側が半導体の電流狭窄層で埋め込まれている。他の構成は、図1,2で説明した半導体レーザと同じである。
【0034】
この光導波路層19を有する半導体レーザの製造方法の一例は下記の通りである。まず、面方位(100)のp型半導体InP基板7上に、p型InPクラッド層4、活性層3、および、n型InPクラッド層2を積層する。次に、n型InPクラッド層2内部の回折格子層12(図示省略、図2A〜図2I参照)を、干渉露光や電子ビーム露光等を用いて形成する。その上にさらにn型InPクラッド層13(図示省略、図2A〜図2I参照)を積層する。この積層構造で、光の出射方向の一部を除去するため、n型InPクラッド層13の一部をSiO2等の絶縁膜マスク20で覆い、絶縁膜マスク20で覆われていない部分をドライエッチングや薬液を用いたウェットエッチングにより、活性層3下面の深さまでエッチングする。その後、図4Aのように積層構造を成長し、この積層構造のうちRuドープInP層5の成長時に本実施の形態1の製造方法を適用する。その後、この活性層3および導波路層19を含めた積層構造の一部をSiO2等の絶縁膜マスク10で覆い、絶縁膜マスク10で覆われていない部分をドライエッチングや薬液を用いたウェットエッチングにより、2〜5ミクロン程度の深さでエッチングし、メサストライプ状に加工する。
【0035】
図4A及び図4Cの構成においても、このメサストライプの両側に、電流狭窄層を形成し半導体レーザを形成するが、この電流狭窄層形成時に、本実施の形態1の製造方法を適用してもよい。すなわち、第一p型InP層9を積層後、RuドープInP層5成長の途中で、ハロゲン元素を含むガスを成長装置内に導入する、もしくは、RuドープInP層5成長開始時に当該ガスを導入し、成長途中でガス導入量を変え、RuドープInP層5成長完了後にガス導入を停止し、第二p型InP層11を成長させる。絶縁膜マスク10を除去後、n型InPクラッド層13上に、n型InPコンタクト層8を成長させるが、RuドープInP層5は、第一p型InP層9および第二p型InP層11によって完全に囲まれているため、n型InPコンタクト層8にも接しない構造となる。なお、光導波路層19を有する構造では、活性層3から導波路層19に電流がリークしないよう、光導波路層19の上部のn型InPコンタクト層8を一部エッチングで削除したコンタクト層除去部21を形成する。
【0036】
以上のように、本実施の形態においては、半導体レーザを、p型半導体基板(p型半導体InP基板7)上に、少なくともp型クラッド層(p型InPクラッド層4)、活性層3、および、n型クラッド層(n型InPクラッド層2)を有する積層部からなる分布帰還型半導体レーザ部を有し、この半導体レーザ部がメサストライプ状に加工され、その両側が半導体の電流狭窄層で埋め込まれ、その電流狭窄層が、p型InP層(第一p型InP層9)、RuドープInP層5、p型InP層(第二p型InP層11)を順に積層した構造であり、且つ、RuドープInP層5がp型InP層(第一及び/または第二p型InP層9,11)にのみ接する構成にすることで、埋込層である電流狭窄層の電流狭窄効果が十分に発揮される。また、RuドープInP層5の厚さを調整することで、高速変調動作に必要な低容量も確保できる。
【0037】
また、本実施の形態においては、このような構成の半導体レーザを製造するために、電流狭窄層形成時に、RuドープInP層5が第一及び/または第二p型InP層9,11にのみ接する構造を実現するために、RuドープInP層5成長の途中でハロゲン元素を含むガスを成長装置内に導入する、もしくは、RuドープInP層5成長開始時に当該ガスを導入し、成長途中でガス導入量を変え、RuドープInP層5成長完了後にガス導入を停止し、p型InP層を成長させるようにしたので、電流狭窄層において、第一p型InP層9、RuドープInP層5、第二p型InP層11を順に積層され、且つ、RuドープInP層5が第一及び/または第二p型InP層9,11にのみ接する構成となったため、電流狭窄層の電流狭窄効果が十分に発揮される。また、RuドープInP層5の厚さを調整することで、高速変調動作に必要な低容量も確保できる。
【0038】
さらに、図4A及び図4Cに示されるように、半導体レーザ部の光出力側に、クラッド層を伴う光導波路層19を有した構成においても、本実施の形態1に係る半導体レーザの構成および製造方法を適用することにより、同様の効果が得られる。
【0039】
実施の形態2.
図3は、この発明の実施の形態2に係る製造方法で製造した半導体レーザの構成を示す。
【0040】
図3に示すように、本実施の形態2に係る半導体レーザは、実施の形態1の電流狭窄層において、第一p型InP層9とRuドープInP層5との間にp型AlInAs層18を介在させた点だけが、実施の形態1と異なり、他は、実施の形態1と同じである。
【0041】
また、本実施の形態2に係る半導体レーザの製造方法においては、第一p型InP層9の形成後の、RuドープInP層5形成前の段階に、p型AlInAs層18を形成するようにした点だけが異なり、他は実施の形態1と同じ製造方法を適用したものである。
【0042】
本実施の形態2においては、ハロゲン元素を含むガスの導入は、RuドープInP層5成長途中の図6(a)の段階で開始し、RuドープInP層5成長完了時にガス導入を停止する。その後、第二p型InP層11を成長し、電流狭窄層の形成が完了する(図6(b))。p型AlInAs層18は電子に対するエネルギー障壁が大きいので、p型AlInAs層18を用いることで、活性層3から電流狭窄層への電子のオーバーフローを抑制し、活性層3を介さない発光に無効なリーク電流を、実施の形態1よりも更に抑制することができる。この構造の半導体レーザ製造時にハロゲン元素を含むガスをRuドープInP層5の成長開始時から導入した場合には、実施の形態1に示す効果の他に、直前に成長し成長装置内に付着しているAlInAsの一部が成長装置内に浮遊することによる、成長層の表面荒れなどの問題を抑制できる効果があることが特徴である。
【0043】
なお、本実施の形態2のp型AlInAs層18を用いた構造では、第一p型InP層9を用いない構成でも、製造過程において同様の効果が得られる。さらに、InPよりも電子のオーバーフローを抑制する効果があれば、電流狭窄層に用いたAlInAs層はAlGaInAs等、その他の材料を用いてもよく、この場合も製造過程において同様の効果が得られる。
【0044】
なお、本実施の形態2に係る半導体レーザの製造方法は、図4B及び図4Cに示すような、p型半導体基板7上に設けられた半導体レーザ部と、その光出力側に設けられたクラッド層を伴う光導波路層19とを有し、半導体レーザ部と光導波路層19とがメサストライプ状に加工され、その両側が電流狭窄層で埋め込まれた半導体レーザにおける光導波路層19上の光導波路形成時にも適用でき、同様の効果が得られる。
【0045】
本実施の形態2の図3および図4B及び図4Cのいずれの構造においても、積層構造にp型AlInAs層18を用いること以外の製造方法は、上記の実施の形態1と同じであり、特徴とするガス導入時期やガス導入量においても実施の形態1と同様である。
【0046】
以上のように、本実施の形態2においては、半導体レーザの構成を、p型半導体基板(p型半導体InP基板7)上に、少なくともp型クラッド層(p型InPクラッド層4)、活性層3、および、n型クラッド層(n型InPクラッド層2)を有する半導体レーザ部を有し、この半導体レーザ部がメサストライプ状に加工され、その両側が半導体の電流狭窄層で埋め込まれ、その電流狭窄層が、p型InP層(第一p型InP層9)、p型AlInAs層18、RuドープInP層5、p型InP層(第二p型InP層11)を順に積層した構造であり、且つ、RuドープInP層5がp型半導体層(p型AlInAs層18および/または第二p型InP層11)にのみ接する構成にすることで、埋込層である電流狭窄層の電流狭窄効果が十分に発揮される。また、RuドープInP層5の厚さを調整することで、高速変調動作に必要な低容量も確保できる。
【0047】
また、当該構成の半導体レーザを製造するための製造方法としては、まずはじめに、成長装置内にp型半導体基板(p型半導体InP基板7)を配置し、該p型半導体基板(p型半導体InP基板7)上に、少なくともp型クラッド層(p型InPクラッド層4)、活性層3、n型クラッド層(n型InPクラッド層2)を有する積層部からなる分布帰還型半導体レーザ部を形成し、次に、この半導体レーザ部をメサストライプ状に加工し、その両側に、p型InP層(第一p型InP層9)、p型AlInAs層18、RuドープInP層5、および、p型InP層(第二p型InP層11)を順に積層し、かつ、RuドープInP層5がp型半導体層(p型AlInAs層18及び/または第二p型InP層11)にのみ接するように、埋込層を形成して電流狭窄層とする。このとき、RuドープInP層5が、p型半導体層(p型AlInAs層18及び/または第二p型InP層9,11)にのみ接する構造を実現するために、当該電流狭窄層形成時に、RuドープInP層5成長の途中でハロゲン元素を含むガスを成長装置内に導入する、もしくは、RuドープInP層5成長開始時に当該ガスを導入し、成長途中でガス導入量を変え、RuドープInP層5成長完了後にガス導入を停止し、p型InP層を成長させる。このようにして、半導体レーザを製造するようにしたので、電流狭窄層において、p型InP層(第一p型InP層9)、p型AlInAs層18、RuドープInP層5、p型InP層(第二p型InP層11)を順に積層され、且つ、RuドープInP層5がp型半導体層(p型AlInAs層18及び/または第二p型InP層11)にのみ接する構成となったため、電流狭窄層の電流狭窄効果が十分に発揮される。また、RuドープInP層5の厚さを調整することで、高速変調動作に必要な低容量も確保できる。
【0048】
また、本実施の形態2では、電子に対するエネルギー障壁が大きなp型AlInAs層18を用いることで、活性層3から電流狭窄層への電子のオーバーフローを抑制し、活性層3を介さない発光に無効なリーク電流を、実施の形態1よりも更に小さくできる効果がある。
【0049】
また、ハロゲン元素を含むガスをRuドープInP層5の成長開始時から導入した場合には、実施の形態1に示す効果の他に、直前に成長して成長装置内に付着しているAlInAsの一部が成長装置内に浮遊することによる、成長層の表面荒れなどの問題を抑制できる効果がある。
【符号の説明】
【0050】
2 n型InPクラッド層、3 活性層、4 p型InPクラッド層、5 RuドープInP層、7 p型半導体InP基板、8 n型InPコンタクト層、9 第一p型InP層、10 絶縁膜マスク、11 第二p型InP層、12 回折格子層、13 n型InPクラッド層、14 アイソレーション溝、15 絶縁膜、16 n側電極、17 p側電極、18 p型AlInAs層、19 光導波路層、20 絶縁膜マスク、21 コンタクト層除去部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型半導体基板上に、少なくとも、p型クラッド層、活性層、および、n型クラッド層を順に積層して、活性層部を形成する工程と、
前記活性層部をエッチングによりメサストライプ状に加工して、半導体レーザ部を形成する工程と、
前記半導体レーザ部の両側において、前記p型半導体基板上に、第一のp型InP層、RuドープInP層、および、第二のp型InP層を順に積層して、前記半導体レーザ部の両側を埋め込んで、電流狭窄層を形成する工程と
を備え、
前記電流狭窄層を形成する工程は、
前記p型半導体基板上に、前記第一のp型InP層を成長する、第一のp型InP層形成工程と、
前記第一のp型InP層上に、前記RuドープInP層を成長する、前記RuドープInP層形成工程と、
前記RuドープInP層上に、前記第二のp型InP層を成長する、第二のp型InP層形成工程と
を備え、
前記RuドープInP層形成工程において、
前記RuドープInP層が前記第一および第二のp型InP層にのみ接する構成を得るため、前記RuドープInP層成長の途中でハロゲン元素を含むガスを導入する、もしくは、前記RuドープInP層成長開始時にガスを導入し、成長途中でガス導入量を変え、前記RuドープInP層成長完了後に前記ガス導入を停止させる、
ことを特徴とする半導体レーザの製造方法。
【請求項2】
前記電流狭窄層は、前記第一のp型InP層と前記RuドープInP層との間に、さらに、p型AlInAs層が積層されており、
前記電流狭窄層を形成する工程は、
前記第一のp型InP層形成工程と前記RuドープInP層形成工程との間に、
前記第一のp型InP層上に、前記p型AlInAs層を成長する、p型AlInAs層形成工程を
さらに備えている
ことを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザの製造方法。
【請求項3】
p型半導体基板上に順に積層された、p型クラッド層、活性層、および、n型クラッド層からなる活性層部を有する、メサストライプ状の半導体レーザ部と、
前記p型半導体基板上に順に積層された、第一のp型InP層、RuドープInP層、および、第二のp型InP層を含み、前記半導体レーザ部の両側を埋め込んだ電流狭窄層と
を備え、
前記RuドープInP層が、前記第一および第二のp型InP層にのみ接し、前記半導体レーザ部には接していない
ことを特徴とする半導体レーザ。
【請求項4】
前記RuドープInP層の膜厚は、1.0μm以上、且つ、5.0μm以下であることを特徴とする請求項3に記載の半導体レーザ。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図2G】
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【図2H】
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【図2I】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−77797(P2013−77797A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−65565(P2012−65565)
【出願日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、総務省「超高速光伝送システム技術の研究開発(イーサネット向け超高速省電力光伝送技術)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】