説明

半導体レーザモジュール

【課題】レーザ溶接による接合において、低融点層を生じさせること無く接合が行われ、その接合の信頼性をより向上させた半導体レーザモジュールを提供する。
【解決手段】第一の金属材料からなる半導体レーザ素子を載置するベース或いは半導体レーザ素子を納める封止部材と、前記半導体レーザ素子から発せられる光を導くレンズを保持する第二の金属材料からなるレンズホルダを、第三の金属材料からなる接合部材を介して接合して形成する半導体レーザモジュールであって、前記第一の金属材料が、Fe−Ni−Co系合金で、前記第二の金属材料が、Pb元素、Te元素およびS元素が添加され、且つNi元素が不可避不純物濃度にある快削性に優れるフェライト系ステンレス合金で、前記第三の金属材料が、Ni元素、Pb元素、Te元素およびS元素が不可避不純物濃度にあるフェライト系ステンレス合金で、あることを特徴とする半導体レーザモジュール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信分野で主に使用される光半導体素子や半導体レーザ素子などをマウントする半導体レーザモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信の使用される光半導体素子や半導体レーザ素子は、図2(イ)に示されるような同軸型の半導体レーザモジュールや、(ロ)に示されるバタフライタイプ(表面実装型)の半導体レーザモジュールの形で供与されている(特許文献1参照)。
図2(イ)の半導体レーザモジュール20では、光半導体素子4aが載置されたステム5と直結しているキャップ1aと、光半導体素子4から発せられる光を集光するレンズ7を保持するレンズホルダ2が接合されている。
図2(ロ)の半導体レーザモジュール20では、半導体レーザ素子4bを載置したベース1bと、半導体レーザ素子4bからの発せられる光を集光するレンズ7を保持するレンズホルダ2が、その底面で接合されている、
【0003】
このような半導体レーザモジュール20において、半導体レーザ素子を載置するベース1b、および半導体レーザ素子4bや光半導体素子4aを封止するキャップ1aなどの材料としては、封止性や素子に対する熱膨張特性を考慮してFe−Ni−Co系合金(以後、第一の金属材料と称す)が主に利用されている。
【0004】
一方、レンズホルダ2に使われる材料は、レンズ7を正しい位置にマウントし、その使用中、マウントした位置を常時保持しなくてはならず、その為には、レンズ形状に合わせた精密なレンズホルダ2を作製できる快削性に優れる金属材料が用いられる。従来、S元素、Pb元素及びTe元素を添加することで快削性を大きく向上させた耐熱性に優れるフェライト系ステンレス鋼であるFe−Cr−S−Pb−Te系合金(以後、第二の金属材料と称す)が使われてきている。
【0005】
上記レンズホルダ2と、ベース1b或いはキャップ1aは、両者を正確な位置で組み合わせて、YAGレーザなどによるスポット溶接を用いて、互いの金属材料を溶融して接合される。
【0006】
【特許文献1】特開平05−206522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来、レンズホルダに用いられている第二の金属材料と、ベース或いはキャップに用いられている第一の金属材料の組合せによる接合では、接合の際にYAGレーザの熱により溶け合い接合界面に合金部を形成するが、第一の金属材料中のNi元素と第二の金属材料中のS元素、Pb元素およびTe元素が、レーザ溶接による溶融後の凝固過程において結晶粒界に偏析して低融点部となり凝固割れを生じさせてしまうことがあり、この割れが信頼性評価試験として印加される温度サイクルによって進行してレンズホルダの位置を変化させ、結果として光軸ズレを引き起こし、信頼性を大きく損なわせる場合がある。
【0008】
そこで、前記問題に鑑み本発明の目的は、レーザ溶接による接合において、低融点部を生じさせること無く接合が行われ、その接合の信頼性をより向上させた半導体レーザモジュールを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく請求項1記載の発明は、第一の金属材料からなる半導体レーザ素子を載置するベース或いは半導体レーザ素子を納める封止部材と、前記半導体レーザ素子から発せられる光を導くレンズを保持する第二の金属材料からなるレンズホルダを、第三の金属材料からなる接合部材を介して接合して形成する半導体レーザモジュールであって、前記第一の金属材料が、Fe−Ni−Co系合金で、前記第二の金属材料が、Pb元素、Te元素およびS元素が添加され、且つNi元素が不可避不純物濃度にあるフェライト系ステンレス合金で、前記第三の金属材料が、Ni元素、Pb元素、Te元素およびS元素が不可避不純物濃度にあるフェライト系ステンレス合金で、あることを特徴とする半導体レーザモジュールである。
【0010】
請求項2記載の発明は、Fe−Ni−Co系合金からなる半導体レーザ素子を載置するベース或いは半導体レーザ素子を納める封止部材と、Pb元素、Te元素およびS元素が添加され、且つNi元素が不可避不純物濃度にある快削性に優れるフェライト系ステンレス合金からなる前記半導体レーザ素子から発せられる光を導くレンズを保持するレンズホルダとの合金の溶融を伴う接合方法であって、 その接合面に、Ni元素、Pb元素、Te元素およびS元素が不可避不純物濃度にあるフェライト系ステンレス合金からなる接合部材を設け、前記ベース或いは封止部材と接合部材間および前記レンズホルダと接合部材間を溶融して接合することを特徴とする接合方法である。
【0011】
請求項3記載の発明は、半導体レーザ素子から発せられる光を導くレンズを保持し、半導体レーザ素子を載置するベース或いは半導体レーザ素子を納める封止部材と接合されるレンズホルダであって、前記レンズホルダの前記ベース或いは封止部材との接合面に、Ni元素、Pb元素、Te元素およびS元素が不可避不純物濃度であるフェライト系ステンレス合金が設けられていることを特徴とする半導体レーザモジュール用レンズホルダである。
【発明の効果】
【0012】
以上のように本発明によれば、従来レーザ溶接のような金属の溶融を伴う接合方法において、生じてしまう低融点部を生じることなく接合ができ、結果として信頼性に優れた半導体レーザモジュールを提供するもので、工業上顕著な効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に図を参照して本発明を詳細に説明する。
図1(イ)、(ロ)は異なる形態の本発明に係る半導体レーザモジュール20を示す断面図である。
図1(イ)では、第一の金属材料からなるキャップ1aと、第二の金属材料からなるレンズホルダ2の接合面に第三の金属材料からなるリング状の接合部材3aを設け、第一の金属材料と第二の金属材料が直接接合せずに、第一の金属材料と第三の金属材料の接合、第二の金属材料と第三の金属材料の接合というように、第三の金属材料からなる接合部材を介して、第一の金属材料からなるキャップ1aと第二の金属材料からなるレンズホルダ2を接合する。
【0014】
図1(ロ)に示される半導体レーザモジュール20においても同様に、半導体レーザ素子4bが載置される第一の金属材料からなるベース1bとレンズホルダ2を、第三の金属材料からなる接合部材3bを介して接合するものである。 なお、第二の金属材料からなるレンズホルダ2と第三の金属材料からなる接合部材3a、3bとをあらかじめ接合してなるレンズホルダなど、第一の金属材料からなるキャップ1aやベース1bとの接合面に第三の金属材料を設けたレンズホルダを用意し、これを第三の金属材料の箇所において第一の金属材料からなるキャップ1a又はベース1bに接合してもよい。
図1(イ)、(ロ)において、6はリード、8は金属スリーブ、9は金属フェルール、10は光ファイバ、12はパッケージ、13はペルチェ素子を表している。
【0015】
本発明の骨子は、半導体レーザモジュール20のレンズホルダ2と、素子と繋がっているベース1b或いはキャップ1aとの接合において、ベース1b或いはキャップ1aに用いられるNi元素を含む第一の金属材料とレンズホルダ2に使用するS元素、Pb元素やTe元素を含んで、快削性に優れる第二の金属材料とを、レーザ溶接のような材料の溶融を伴う方法により接合を行う際に、その接合界面にNi元素、Pb元素、Te元素およびS元素を含む低融点の脆弱層を形成することなく接合を行うことにあり、第三の金属材料を介して、第一の金属材料と第二の金属材料の両者を直接には接合することなく接合することで、前記低融点の脆弱層の生成を抑制し、半導体レーザモジュール20の信頼性の低下を防ぐものである。
【0016】
ここで、用いる第三の金属材料は、SUS430に代表されるフェライト系ステンレス鋼(Fe−Cr系合金)が望ましく、JIS G4305−2005及びG4304−2005に規定されるようにS元素、Pb元素、Te元素およびNi元素が添加されていないFe−Cr系合金である。
この第三の金属材料を第一の金属材料と第二の金属材料間に配置してレーザ溶接すると、第一の金属材料と第三の金属材料間では、第三の金属材料にはPb元素、Te元素が添加されておらず、S元素も不可避不純物濃度であることから、第一の金属材料を構成するNi元素と相まって、低融点の脆弱層を形成することはないために、この接合箇所では凝固割れの発生が防止され、信頼性が向上する。
【0017】
更に、第三の金属材料と第二の金属材料間では、両者共に、Ni元素を含有しておらず、低融点の脆弱層を形成することはなく、従って、接合箇所での凝固割れによる信頼性の低下は引き起こされない。
【実施例】
【0018】
表1に示す成分組成の金属材料を用い、図1(イ)に示す半導体レーザモジュールを作製し、作製直後の接合箇所の走査電子顕微鏡による目視観察と、−40℃〜85℃の温度範囲での温度サイクル試験(100サイクル)を行った後の接合箇所の走査電子顕微鏡による目視観察を行い、接合箇所の形態を観察した。その結果を表2に記す。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

「不良数/試験数で評価」
【0021】
表1、表2から明らかなように、本発明に係る半導体レーザモジュールでは、どちらの場合も、接合箇所に割れやクラックはみられず、健全な接合面をしていた。対して、従来のものでは、溶接直後においても割れが発生している試料が見られ、温度サイクル試験後には、その割合が大きくなっているのがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る半導体レーザモジュールの断面図で、(イ)は同軸型の半導体レーザモジュール、(ロ)バタフライタイプ(表面実装型)の半導体レーザモジュールである。
【図2】従来の半導体レーザモジュールを示す断面図で、(イ)は同軸型の半導体レーザモジュール、(ロ)はバタフライタイプの半導体レーザモジュールである。
【符号の説明】
【0023】
1a キャップ(第一の金属材料)
1b ベース(第一の金属材料)
2 レンズホルダ(第二の金属材料)
3a 接合部材(第三の金属材料)
3b 接合部材(第三の金属材料)
4a 光半導体素子
4b 半導体レーザ素子
5 ステム
6 リード
7 レンズ
8 金属スリーブ
9 金属フェルール
10 光ファイバ
12 パッケージ
13 ペルチェ素子
20 半導体レーザモジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の金属材料からなる半導体レーザ素子を載置するベース或いは半導体レーザ素子を納める封止部材と、
前記半導体レーザ素子から発せられる光を導くレンズを保持する第二の金属材料からなるレンズホルダを、第三の金属材料からなる接合部材を介して接合して形成する半導体レーザモジュールであって、
前記第一の金属材料が、Fe−Ni−Co系合金で、
前記第二の金属材料が、Pb元素、Te元素およびS元素が添加され、且つNi元素が不可避不純物濃度にあるフェライト系ステンレス合金で、
前記第三の金属材料が、Ni元素、Pb元素、Te元素およびS元素が不可避不純物濃度にあるフェライト系ステンレス合金、
であることを特徴とする半導体レーザモジュール。
【請求項2】
Fe−Ni−Co系合金からなる半導体レーザ素子を載置するベース或いは半導体レーザ素子を納める封止部材と、Pb元素、Te元素およびS元素が添加され、且つNi元素が不可避不純物濃度にある-フェライト系ステンレス合金からなる前記半導体レーザ素子から発せられる光を導くレンズを保持するレンズホルダとの合金の溶融を伴う接合方法であって、
その接合面に、Ni元素、Pb元素、Te元素およびS元素が不可避不純物濃度にあるフェライト系ステンレス合金からなる接合部材を設け、前記ベース或いは封止部材と接合部材間および前記レンズホルダと接合部材間を溶融して接合することを特徴とする接合方法。
【請求項3】
半導体レーザ素子から発せられる光を導くレンズを保持し、半導体レーザ素子を載置するベース或いは半導体レーザ素子を納める封止部材と接合されるレンズホルダであって、
前記レンズホルダの前記ベース或いは封止部材との接合面に、Ni元素、Pb元素、Te元素およびS元素が不可避不純物濃度であるフェライト系ステンレス合金が設けられていることを特徴とする半導体レーザモジュール用レンズホルダ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−251067(P2007−251067A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−75694(P2006−75694)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】