説明

半導体レーザ素子およびその製造方法

【課題】 融着貼り付けを行なわずに製造することができ、かつレーザ発振することのできる半導体レーザ素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 半導体レーザ素子1は、キャリアの注入により光を発光する活性層5と、光放出面9aに形成された電極10と、電極10の垂直真下以外に存在し、活性層5で発生した光を回折させるとともに光放出面9aに対して垂直な方向に光を発するフォトニック結晶領域と、電極10の垂直真下に存在する発光領域とを備えている。フォトニック結晶領域は、積層構造と、二次元回折格子を構成するように設けられた複数の孔2aとを有しており、かつ複数の孔2aは光放出面9aにまで伸びている。発光領域は、複数の孔を有しておらず、かつ発光領域の面内方向長さは、フォトニック結晶領域において発生する定在波の、発光領域における波長の整数倍もしくは半整数倍である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体レーザ素子およびその製造方法に関し、より特定的には、GaN(窒化ガリウム)を含む材料からなる活性層と、光を回折させるフォトニック結晶領域とを備えた半導体レーザ素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DFB(Distributed feedback)レーザは、内部に設けられた一次元の回折格子によって前進波と後進波との結合を誘起し、その結果生じる定在波を利用したレーザである。この現象は、一次元の回折格子に対しブラック条件を満たす特定の波長の光でのみ生じる。したがって、DFBレーザによれば、縦モード(発振される光の光軸方向の共振モード)が単一モードである光を安定して発振することができる。
【0003】
一方、DFBレーザにおいて、発振される光の光軸方向(言い換えれば回折格子に対して垂直な方向)以外の方向の光は、回折格子により回折されても定在波とはならず、フィードバックされない。つまり、DFBレーザでは、発振される光の光軸方向以外の方向の光は発振に関与せずにロスになるので、その分だけ発光効率が悪いという欠点があった。
【0004】
そこで、近年、二次元の屈折率分布を持った二次元フォトニック結晶レーザが開発されつつある。二次元フォトニック結晶レーザによれば、発振される光の光軸方向以外の光であっても、フォトニック結晶面内に存在するさまざまな方向の光を回折して定在波を生じさせることで、発光効率を向上することができる。また、二次元フォトニック結晶レーザは、フォトニック結晶の主面に対して垂直な方向に面発光するという特徴を有しているので、レーザ光の出力を増加することができる。従来の二次元フォトニック結晶レーザは、たとえば以下の構造を有している。
【0005】
二次元フォトニック結晶レーザは、ダブルへテロ接合を形成するように形成されたn型クラッド層、活性層、およびp型クラッド層と、InP基板と、2つの電極とを備えている。InP基板の主面には、所定の格子配列(たとえば三角格子や正方格子など)で複数の孔が開口されている。これにより、孔の開いていない部分はInPの屈折率(n=3.21)となり、孔の開いている部分は空気の屈折率(n=1)となり、InP基板の主面は周期的な屈折率分布を有するフォトニック結晶(二次元回折格子)となる。このInP基板の主面上にn型クラッド層、活性層、およびp型クラッド層がこの順序で形成されている。p型クラッド層の主面と、フォトニック結晶が形成されていない側のInP基板の主面との各々に、2つの電極の各々が形成されている。
【0006】
このような二次元フォトニック結晶レーザでは、2つの電極間に適当な電圧を印加することによって、正孔と電子とが活性層に注入される。そして、正孔と電子とが再結合すると、所定の波長を持った光が活性層内に発生する。そして、この光が活性層外へ漏れ出してエバネッセント光となり、フォトニック結晶に伝搬し、フォトニック結晶内における孔の格子点でブラック反射を繰り返す。その結果、各格子点間で定在波が発生し、波長および位相が揃った光となる。そして、この光がフォトニック結晶の主面に垂直な方向から発振される。
【0007】
従来の二次元フォトニック結晶レーザは、第1のInP基板上にフォトニック結晶が形成された形態の第1の部品と、第2のInP基板上にn型クラッド層、活性層、およびp型クラッド層が形成された形態の第2の部品とを作製し、第1のInP基板のフォトニック結晶と、第2のInP基板におけるフォトニック結晶の真上に形成される層(n型あるいはp型クラッド層)とを融着貼り付けし、その後第2のInP基板を除去し、2つの電極を形成することによって製造されていた。
【0008】
なお、従来の二次元フォトニック結晶レーザは、たとえば特許文献1、特許文献2、非特許文献1、および非特許文献2に開示されている。特許文献1では、n型InPよりなる基板上にGaAsなどよりなるフォトニックバンド構造が形成された二次元フォトニック結晶レーザが開示されている。また、非特許文献1では、InPよりなる基板上にInPよりなるフォトニック結晶が形成された二次元フォトニック結晶レーザが開示されている。また、非特許文献2では、n型InPよりなる基板に孔を形成したフォトニック結晶を有する二次元フォトニック結晶レーザが開示されている。これらの二次元フォトニック結晶レーザは、全て赤外光を発振するレーザである。さらに、特許文献2では、フォトニック結晶周期構造体が発光領域平面に形成されていて、上部電極の垂直真下には設けられていない構成のレーザが開示されている。
【特許文献1】特開2000−332351号公報
【特許文献2】特開2003−273453号公報
【非特許文献1】横山光他、「二次元フォトニック結晶面発光レーザー」、日本赤外線学会誌、2003年、第12巻、第2号、第17頁〜第23頁
【非特許文献2】M.Imada, et al., "Coherent two-dimensional lasing action in surface-emitting laser with triangular-lattice photonic crystal structure", App. Phys. Lett., 75 (3) pp.316-318, 19 July 1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、青色や紫外光などの短波長の光を発振する二次元フォトニック結晶レーザへの要望が高まっている。青色や紫外光などの短波長の光を発振するためには、紫外光領域のバンドギャップを有するGaNなどの材料をフォトニック結晶として用いることが必要になる。しかしながら、GaNをフォトニック結晶として用いた場合には、二次元フォトニック結晶レーザを製造する際にたとえば以下の問題が生じる。
【0010】
上述のように、二次元フォトニック結晶レーザの製造の際には、フォトニック結晶と、フォトニック結晶の真上に形成される層(n型あるいはp型クラッド層)とを別体で作製した後で、フォトニック結晶と、フォトニック結晶の真上に形成される層とを融着貼り付けする必要がある。しかし、GaN結晶表面のRMS(自乗平均面粗さ)は通常2nm以上であり、GaN結晶表面の平坦性は低い。このため、GaNよりなるフォトニック結晶は、他の層と融着貼り付けすることが難しいという問題があった。特に、p型GaNよりなるフォトニック結晶と、p型GaNよりなるクラッド層とを融着貼り付けした場合には、フォトニック結晶とクラッド層とがオーミック接合しない。
【0011】
ここで、特許文献2には、融着貼り付けを行なわずに製造することのできる二次元フォトニック結晶面発光レーザが開示されている。しかし、特許文献2に開示されたレーザでは、光のフィードバックが起こるフォトニック結晶領域と、電流注入によってゲインを得る発光領域との関係が明確ではない。このため、実際に光のフィードバックによるゲインは起こらず、レーザ発振する構造にはなっていない。
【0012】
そこで、本発明の目的は、融着貼り付けを行なわずに製造することができ、かつレーザ発振することのできる半導体レーザ素子およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の半導体レーザ素子は、キャリアの注入により光を発光する活性層と、素子表面に形成された電流注入用電極と、電流注入用電極の垂直真下以外に存在し、活性層で発生した光を回折させるとともに素子表面に対して垂直な方向に光を発するフォトニック結晶領域と、電流注入用電極の垂直真下に存在する発光領域とを備えている。フォトニック結晶領域は、第1の屈折率を有する部分と、二次元回折格子を構成するように設けられた第2の屈折率を有する部分とを有しており、かつ第2の屈折率を有する部分は素子表面にまで伸びている。発光領域は、第2の屈折率を有する部分を有しておらず、かつ発光領域の面内方向長さは、フォトニック結晶領域において発生する定在波の、発光領域における波長の整数倍もしくは半整数倍である。
【0014】
本発明の半導体レーザ素子の製造方法は、キャリアの注入により光を発光する活性層と、活性層にキャリアを注入するための第1および第2クラッド層と、活性層で発生した光を面内で回折させるとともに素子表面に対して垂直な方向に光を発するフォトニック結晶領域とを含む半導体レーザ素子の製造方法であって、以下の工程を備えている。第1クラッド層、活性層、および第2クラッド層をエピタキシャル成長法によってこの順序で基板上に積層する。素子表面に電流注入用電極を形成する。素子表面からエッチングすることにより、第1の屈折率を有する部分と第2の屈折率を有する部分とを有するフォトニック結晶領域を電流注入用電極の垂直真下以外に形成する。電流注入用電極の垂直真下に存在する発光領域の面内方向長さは、フォトニック結晶領域において発生する定在波の、発光領域における波長の整数倍もしくは半整数倍である。
【0015】
本発明の半導体レーザ素子およびその製造方法によれば、活性層を含む層と電流注入用電極とを形成した後で、素子表面における電流注入用電極のない領域から第2の屈折率を有する部分を形成することで、フォトニック結晶領域が作製され、これによって融着貼り付けを行なわずに半導体レーザ素子を製造することができる。また、電流注入用電極の垂直真下に存在する発光領域には第2の屈折率を有する部分を形成する必要がないので、発光領域へのキャリア注入が第2の屈折率を有する部分によって阻害されることがない。さらに、発光領域の面内方向長さが、フォトニック結晶領域において発生する定在波が発光領域に存在する際の波長の整数倍もしくは半整数倍であることで、発光領域が共振器として機能する。これによって、フォトニック結晶領域において発生する定在波に対応する波長の定在波が、発光領域にも発生する。したがって、フォトニック結晶領域と発光領域とで定在波が繋がり、2つの領域の全体に定在波が発生することで、フィードバックによるゲインが起こり、レーザ発振することができる。
【0016】
本発明の半導体レーザ素子において好ましくは、第2の屈折率を有する部分が活性層にまで伸びている。これによって、第2の屈折率を有する部分に要求される深さ方向の設計精度が緩和される。なお、フォトニック結晶領域に存在する活性層の部分には電流が注入されないので、たとえばエッチング加工によるダメージなどによって素子の特性が劣化することはない。
【0017】
本発明の半導体レーザ素子において好ましくは、フォトニック結晶領域における第2の屈折率を有する部分は、入射された光を素子表面に対して平行な方向へ回折する回折条件と、入射された光を素子表面に対して垂直な方向へ回折する回折条件とを同時に満たすように設けられている。
【0018】
第2の屈折率を有する部分が素子表面に対して平行な方向へ回折する回折条件を満たすことで、フォトニック結晶領域内で定在波を発生させることができる。また、第2の屈折率を有する部分が素子表面に対して垂直な方向へ回折する回折条件を満たすことで、素子は面発光を実現することができる。
【0019】
本発明の半導体レーザ素子において好ましくは、第2の屈折率を有する部分は素子表面に形成された複数の孔であり、フォトニック結晶領域は二次元回折格子の構成を崩すような欠陥部分を有している。
【0020】
これにより、フォトニック結晶領域内で発生した定在波が欠陥部分から漏れ、素子表面に対して垂直な方向への光が発生する。
【0021】
なお、「欠陥部分」とは、結晶構造の欠陥を意味しているのではなく、二次元回折格子の配列の欠陥部分を意味している。具体的には、たとえば回折格子点のあるべき位置に格子点がない部分や、他の回折格子点に比べて大きな回折格子点となっている部分などを意味している。
【0022】
本発明の半導体レーザ素子において好ましくは、電流注入用電極は、平面的な外形形状が二次元回折格子の方位に合わせた多角形状よりなっている。
【0023】
これにより、電極の多角形状の辺方向に沿って、強度の等しい長方形の発光領域を形成することができる。これにより発光領域は丸型電極の場合よりも広がることになるため、光の取り出し効率が高くなる。また、辺方向に沿って強度の等しい長方形の発光領域を形成することができるため、発振強度のムラを抑制することができる。
【0024】
なお、「平面的な外形形状が二次元回折格子の方位に合わせた多角形状よりなる」とは、半導体レーザ素子を電流注入用電極側から平面的に見たときに多角形の全ての辺の各々が二次元回折格子の回折格子点同士を結ぶ線に平行であるように構成された、多角形よりなることを意味する。
【0025】
本発明の半導体レーザ素子において好ましくは、第2の屈折率を有する部分は三角回折格子を構成するように設けられており、電流注入用電極の平面的な外形形状は六角形状である。これにより、辺方向に沿って強度の等しい長方形の発光領域を形成することが可能となる。
【0026】
本発明の半導体レーザ素子において好ましくは、第2の屈折率を有する部分は正方格子を構成するように設けられており、電流注入用電極の平面的な外形形状は四角形状である。これにより、辺方向に沿って強度の等しい長方形の発光領域を形成することが可能となる。
【0027】
本発明の半導体レーザ素子において好ましくは、電流注入用電極は複数の単位電極からなっている。半導体レーザ素子は、複数の単位電極の各々を電気的に接続するための透明電極をさらに備えている。
【0028】
これにより、光の取り出しを妨げることなく、複数の単位電極を電気的に接続することができる。その結果、複数の発光領域を同一のアレイとして通電できるようになり、高出力化を図ることができる。
【0029】
なお、本明細書中において「半導体レーザ素子」とは、アレイ状に配列した複数の半導体レーザ素子によって構成される半導体レーザアレイを含む意味である。
【0030】
本発明の半導体レーザ素子において好ましくは、活性層は、導電性GaNまたは導電性SiC(炭化シリコン)よりなる基板上に形成されており、活性層はGaNを含む材料よりなっている。
【0031】
上記製造方法において好ましくは、基板は導電性GaNまたは導電性SiCからなり、かつ活性層はGaNを含む材料からなっている。
【0032】
導電性GaNまたは導電性SiCの上にGaNを含む材料の層をエピタキシャル成長すると、転位密度が低く、平坦性の高いGaN系結晶が得られる、したがって、活性層の転位密度を低下し、平坦性を向上することができる。また、導電性を有する基板を用いると、基板に電極を取り付けることで基板を介して電流を注入することができるので、高電流密度の電流を活性層内へ注入することができる。
【0033】
上記製造方法において好ましくは、第1クラッド層、活性層、および第2クラッド層は、MOCVD(metal-organic chemical vapor deposition)法あるいはMBE(molecular beam epitaxy)法を用いて連続的に形成される。
【0034】
これにより、一度のエピタキシャル成長で第1クラッド層、活性層、および第2クラッド層が形成できるので、半導体レーザ素子の製造が単純化され、高歩留まり化および低コスト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の半導体レーザ素子およびその製造方法によれば、融着貼り付けを行なわずに製造することができ、かつレーザ発振することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態について、特にGaN系材料を活性層に用いる短波長発光のレーザに関して、図に基づいて説明する。
【0037】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における半導体レーザ素子の斜視図である。図2は、図1のII−II線に沿った断面図である。図1および図2に示すように、半導体レーザ素子1は、基板3と、n型クラッド層4と、活性層5と、p型クラッド層6と、p型クラッド層8と、コンタクト層9と、電極10および11とを備えている。
【0038】
基板3はたとえば導電性GaNまたは導電性SiCよりなっており、主面3aを有している。基板3の主面3a上には、n型クラッド層4およびp型クラッド層6が形成されており、活性層5がn型クラッド層4およびp型クラッド層6に挟まれている。p型クラッド層6上には、p型クラッド層8およびコンタクト層9がこの順序で形成されている。コンタクト層9の上面である光放出面9a(素子表面)には、電流注入用電極としての電極10が設けられている。電極10はたとえば円の平面形状を有している。また、基板3の主面3aとは反対側の主面3bには、一面に電極11が設けられている。
【0039】
図3は、本発明の実施の形態1におけるp型クラッド層の構成を示す部分平面図である。図1〜図3を参照して、本実施の形態の半導体レーザ素子1は、フォトニック結晶領域Aと発光領域Bとをさらに備えている。言い換えれば、コンタクト層9およびp型クラッド層8は、平面的に見て、電極10の垂直真下以外に存在するフォトニック結晶領域Aと、電極10の垂直真下に存在する発光領域Bとに分けられている。フォトニック結晶領域Aは、第1の屈折率を有する積層構造(p型クラッド層8およびコンタクト層9を含む積層構造)と、光放出面9a(図1)に二次元回折格子を構成するように設けられた第2の屈折率を有する部分とを有している。本実施の形態では、第2の屈折率を有する部分が複数の孔2aによって構成されている。複数の孔2aは二次元回折格子(本実施の形態においては三角格子)を構成するように設けられており、複数の孔2aの各々は回折格子点として機能する。各孔2aは、柱状(例えば、円柱形状)の空間部として設けられている。複数の孔2aは、p型クラッド層8およびコンタクト層9を貫通して光放出面9aにまで伸びている。各孔2aの中心と、これと最も近い隣接の6個の孔2aの中心との距離は等しい値であり、格子定数a(孔の中心の間隔)はたとえば0.19μmであり、孔2aの直径はたとえば0.09μmである。
【0040】
なお、孔2aには、第1の屈折率よりも低屈折率である材料を埋め込むことも可能である。しかしながら、第1の屈折率と第2の屈折率との差を大きくとるためには、孔2aは何も埋め込まない状態(気体、たとえば空気を埋め込んだ状態)であることが好ましい。このように屈折率の差を大きくとると、第1の屈折率の積層構造内に光を閉じ込めることができる。なお、孔2aを埋め込む低屈折率の誘電体材料としては、シリコン窒化膜(SiNx)などを用いることができる。
【0041】
一方、発光領域Bには複数の孔2aが形成されておらず、積層構造のみが存在している。フォトニック結晶領域Aの格子定数aおよび発光領域Bの面内方向長さbが満たす条件については、後に詳細に説明する。
【0042】
図1および図2を参照して、n型クラッド層4はたとえばn型AlGaNよりなっており、p型クラッド層6および8はたとえばp型AlGaNよりなっている。n型クラッド層4およびp型クラッド層6は、共に、活性層5にキャリアを注入し、かつ活性層5へ注入されるべきキャリアが伝導する導電層として機能する。また、n型クラッド層4およびp型クラッド層6は、共に、活性層5にキャリア(電子および正孔)および光を閉じ込める閉じ込め層として機能する。つまり、n型クラッド層4、活性層5、およびp型クラッド層6は、ダブルヘテロ接合を形成している。このため、キャリアと発光とを活性層5に集中させることができる。
【0043】
活性層5はたとえばAlxGa1-x-yInyN(0≦x,y≦1,0≦x+y≦1)よりなる多重量子井戸によって構成されている。また、単一の半導体材料よりなっていてもよい。活性層5は、フォトニック結晶領域Aに沿って設けられ所定の方向に伸びる複数の量子細線として形成されることができ、また、フォトニック結晶領域Aに沿って設けられ複数の量子箱として形成されることができる。各量子細線は、その長手方向と直交する2方向に関して電子のエネルギ準位が離散的になるような寸法(たとえば数十nm程度)を有する。各量子箱は、互いに直交する3方向に関して電子のエネルギ準位が離散的になるような寸法(たとえば数十nm程度)を有する。このような量子構造を備えると状態密度が大きくなるので、発光効率が高められると共に、発光スペクトルが先鋭化される。
【0044】
p型クラッド層8はたとえばp型のAlGaNよりなっている。p型クラッド層8は、活性層5に与えられるべきキャリアが伝導する導電層として機能する。また、コンタクト層9は、電極10との接触をオーミック接触にするために形成される。電極10および11は、たとえばAu(金)などよりなっている。
【0045】
なお、本実施の形態における半導体レーザ素子1の各部分の寸法を例示的に以下に列挙すると、基板3の厚さはたとえば100μmであり、n型クラッド層4、p型クラッド層6、およびp型クラッド層8の各々の厚みはたとえば0.5μmであり、活性層5の厚みはたとえば0.1μmである。
【0046】
次に、半導体レーザ素子1の発光方法について、図1〜図4を用いて説明する。
【0047】
電極10に正電圧を印加すると、p型クラッド層6および8から活性層5へ正孔が注入され、n型クラッド層4から活性層5へ電子が注入される。活性層5へ正孔および電子(キャリア)が注入されると、キャリアの再結合が起こり、光が発生される。発生される光の波長は、活性層5が備える半導体層のバンドギャップによって規定される。
【0048】
活性層5において発生された光は、n型クラッド層4およびp型クラッド層6によって垂直方向には活性層5内に閉じ込められるが、光放出面9aに平行な方向(水平方向)にはフォトニック結晶領域Aに到達する。フォトニック結晶領域Aに到達した光の波長と、フォトニック結晶領域Aの有する所定の周期とが一致する場合には、その周期に対応する波長において光は面内で回折を繰り返し、定在波が発生し、位相条件が規定される。フォトニック結晶領域Aにおいて、光は、光放出面9aに垂直な方向S(図1)にも回折される。一方、発光領域Bは、その領域長さの規定により、共振器として働くことができる。フォトニック結晶領域および発光領域における光の回折を模式的に図4に示す。フォトニック結晶領域Aにおいて位相が規定された光は、発光領域B内の光にフィードバックされ、発光領域Bの共振器としての作用により定在波を発生させる。この発光領域B内の定在波は、フォトニック結晶領域Aにおいて規定される定在波と繋がっている。つまり、定在波は2つの領域に繋がりながら広がる。
【0049】
電流は、電極10の垂直真下の領域に主に注入されるので、発光およびゲインは、電極10を中心にした発光領域Aにおいてのみ生じる。上記の定在波により2つの領域に十分な量の光が蓄積されると、波長および位相条件の揃った光が、光放出面9aから方向Sへ誘導放出される。
【0050】
図5は、フォトニック結晶領域および発光領域に発生する定在波を模式的に示す平面図である。図3および図5を参照して、フォトニック結晶領域Aにおける複数の孔2aの各々は、隣接する発光領域Bからの入射光が光放出面9aに対して平行な方向へ回折される回折条件(0度の回折条件)と、発光領域Bからの入射光が光放出面9a(図1)に対して垂直な方向、すなわち方向Sへ回折される回折条件(90度の回折条件)とを同時に満たすように設けられている。
【0051】
上記回折条件を満たす複数の孔2aの配列の一例を挙げると、フォトニック結晶領域Aにおける複数の孔2aの間隔、すなわちフォトニック結晶領域Aの格子間隔(格子定数)aは、以下の式(1)の関係を満たしている。
【0052】
eff×a=m×(λ/2) ・・・(1)
式(1)において、Neffは活性層を含むフォトニック結晶領域Aの全スラブ構造の実効屈折率であり、λは真空中における活性層発光の波長であり、mは偶数である。格子定数aが式(1)の条件を満たすことによって、光放出面9aに対して平行な方向と、光放出面9aに対して垂直な方向Sとに、発光領域Bからの入射光が回折される。面内での回折が繰り返された結果、フォトニック結晶領域Aにおいて一定の波長(λ/Neff)を有する定在波が規定される。図5では、m=2の場合の定在波を示している。
【0053】
一方、発光領域Bの面内方向長さbは、発光領域Bにおいて発生する(規定される)定在波の波長(λ/Neff0)の整数倍もしくは半整数倍となっている(Neff0:活性層を含む発光領域Bの全スラブ構造の実効屈折率)。具体的には、発光領域Bの面内方向長さb(図3)は、以下の式(2)の関係を満たしている。
【0054】
b=(n/2)×(λ/Neff0) ・・・(2)
式(2)において、nは整数である。発光領域Bの面内方向長さbが式(2)を満たすことによって、発光領域Bにおいても定在波が発生する。このとき、発光領域Bは共振器として働く。たとえばn=100の場合には、b=50λ/Neff0となる。図5では、n=8の場合の定在波を示している。発光領域Bおよびその周辺の領域は、電極10から高電流密度の電流が注入される領域であるので、光を増幅するゲイン領域として機能する。
【0055】
なお、「発光領域Bの面内方向長さ」とは、発光領域Bの共振器としてのサイズを規定するもので、発光領域Bが円の平面形状である場合にはその直径を指し、発光領域Bが多角形の場合には互いに平行な2つの辺の間の距離を指す。
【0056】
次に、本実施の形態における半導体レーザ素子1の製造方法について、図6〜図8を用いて説明する。
【0057】
始めに、図6を参照して、たとえば導電性GaNまたは導電性SiCなどよりなる基板3を準備する。そして、たとえばMOCVD法などを用いて、第1クラッド層としてのn型クラッド層4、活性層5、第2クラッド層としてのp型クラッド層6、p型クラッド層8、およびコンタクト層9をこの順序で基板3の主面3a上に連続的にエピタキシャル成長させる。なお、図示しないが、基板3の直上にバッファ層を形成し、バッファ層の上にn型クラッド層4を形成してもよい。次に、図7を参照して、たとえば蒸着法などを用いて、コンタクト層9の光放出面9aに電極10を形成し、基板3の主面3bに電極11を形成する。
【0058】
次に、図8を参照して、電子ビームリソグラフィ技術によって、所定のパターンを有するレジスト20をコンタクト層9上における電極10の周囲に形成する。続いて、レジスト20をマスクとして光放出面9aから、コンタクト層9およびp型クラッド層8をICP(Inductively coupled plasma)でエッチングする。これによって、電極10の垂直真下以外の領域がフォトニック結晶領域Aとなり、電極10の垂直真下の領域が発光領域Bとなる。また、上述のように、発光領域Bの面内方向長さbが、フォトニック結晶領域Aにおいて発生する定在波が発光領域B内に存在する際の波長の整数倍もしくは半整数倍となるように、複数の孔2aの各々を形成する。その後、レジスト20を除去し、図2に示す半導体レーザ素子1が完成する。
【0059】
本実施の形態の半導体レーザ素子1は、キャリアの注入により光を発光する活性層5と、光放出面9aに形成された電極10と、電極10の垂直真下以外に存在し、活性層5で発生した光を回折させるとともに光放出面9aに対して垂直な方向に光を発するフォトニック結晶領域Aと、電極10の垂直真下に存在する発光領域Bとを備えている。フォトニック結晶領域Aは、積層構造と、二次元回折格子を構成するように設けられた複数の孔2aとを有しており、かつ複数の孔2aは光放出面9aにまで伸びている。発光領域Bは、複数の孔を有しておらず、かつ発光領域Bの面内方向長さbは、フォトニック結晶領域Aにおいて発生する定在波の、発光領域Bにおける波長の整数倍もしくは半整数倍である。
【0060】
本実施の形態の半導体レーザ素子1の製造方法は、キャリアの注入により光を発光する活性層5と、活性層5にキャリアを注入するためのn型クラッド層4およびp型クラッド層6と、活性層5で発生した光を面内で回折させるとともに光放出面9aに対して垂直な方向Sに光を発するフォトニック結晶領域Aとを含む半導体レーザ素子の製造方法であって、以下の工程を備えている。n型クラッド層4、活性層5、およびp型クラッド層6をエピタキシャル成長法によってこの順序で基板3上に積層する。光放出面9aに電極10を形成する。光放出面9aからエッチングすることにより、第1の屈折率を有する積層構造と第2の屈折率を有する複数の孔2aとを有するフォトニック結晶領域Aを電極10の垂直真下以外に形成する。電極10の垂直真下に存在する発光領域Bの面内方向長さbは、フォトニック結晶領域Aにおいて発生する定在波の、発光領域Bにおける波長の整数倍もしくは半整数倍である。
【0061】
本発明の半導体レーザ素子およびその製造方法によれば、活性層5と電極10とを形成した後で、光放出面9aにおける電極10のない領域から複数の孔2aを有する部分を形成することで、フォトニック結晶領域Aが作製され、これによって融着貼り付けを行なわずに半導体レーザ素子を製造することができる。
【0062】
また、電極10の垂直真下に存在する発光領域Bには孔を形成する必要がないので、発光領域Bへのキャリア注入が孔によって阻害されることがない。
【0063】
さらに、発光領域Bの面内方向長さbが、フォトニック結晶領域Aにおいて発生する定在波の、発光領域Bにおける波長の整数倍もしくは半整数倍であることで、発光領域Bが共振器として機能する。これによって、フォトニック結晶領域Aにおいて発生する定在波と対応する波長の定在波が、発光領域Bにも発生する。したがって、フォトニック結晶領域Aと発光領域Bとで定在波が繋がり、2つの領域の全体に定在波が発生することで、フィードバックによるゲインが起こり、レーザ発振することができる。
【0064】
本実施の形態の半導体レーザ素子1において、フォトニック結晶領域Aにおける複数の孔2aは、入射された光を光放出面9aに対して平行な方向へ回折する回折条件と、入射された光を光放出面9aに対して垂直な方向Sへ回折する回折条件とを同時に満たすように設けられている。
【0065】
複数の孔2aが光放出面9aに対して平行な方向へ回折する回折条件を満たすことで、フォトニック結晶領域A内で定在波を発生させることができる。また、複数の孔2aが光放出面9aに対して垂直な方向Sへ回折する回折条件を満たすことで、素子は面発光を実現することができる。
【0066】
本実施の形態の半導体レーザ素子1において、活性層5は、導電性GaNまたは導電性SiCよりなる基板3上に形成されており、活性層5はGaNを含む材料よりなっている。
【0067】
上記製造方法において、基板3は導電性GaNまたは導電性SiCからなり、かつ活性層5はGaNを含む材料からなっている。
【0068】
導電性GaNまたは導電性SiCの上にGaNを含む材料の層をエピタキシャル成長すると、転位密度が低く、平坦性の高いGaN系結晶が得られる、したがって、活性層5の転位密度を低下し、平坦性を向上することができる。また、導電性を有する基板3を用いると、基板3に電極11を取り付けることで基板3を介して電流を注入することができるので、高電流密度の電流を活性層内へ注入することができる。
【0069】
上記製造方法において、n型クラッド層4、活性層5、およびp型クラッド層6は、MOCVD法あるいはMBE法を用いて連続的に形成される。
【0070】
これにより、一度のエピタキシャル成長でn型クラッド層4、活性層5、およびp型クラッド層6が形成できるので、半導体レーザ素子の製造が単純化され、高歩留まり化および低コスト化を図ることができる。
【0071】
(実施の形態2)
実施の形態1では、複数の孔2aが活性層5にまで達していない場合について示した。しかし、本発明の半導体レーザ素子はこのような場合の他、たとえば以下に示す構成であってもよい。
【0072】
図9は、本発明の実施の形態2における半導体レーザ素子の構成を示す断面図である。図9に示すように、本実施の形態の半導体レーザ素子1aにおいて、複数の孔2aの各々は、コンタクト層9、p型クラッド層8、p型クラッド層6、活性層5、およびn型クラッド層4を貫通して、光放出面9aから基板3の主面3aにまで達している。このような構成の半導体レーザ素子1aは、実施の形態1における図8に示す製造工程において、光放出面9aから、コンタクト層9、p型クラッド層8、p型クラッド層6、活性層5、およびn型クラッド層4をエッチングすることによって得られる。
【0073】
なお、これ以外の半導体レーザ素子1aの構成およびその製造方法は、実施の形態1の半導体レーザ素子1およびその製造方法とほぼ同様であるので、同一の部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0074】
本実施の形態の半導体レーザ素子1aにおいて、複数の孔2aの各々は活性層5にまで伸びている。これによって、複数の孔2aの各々に要求される深さ方向の設計精度が緩和される。なお、フォトニック結晶領域Aに存在する活性層5の部分には電流が注入されないので、複数の孔2aを形成することによって素子の特性が劣化することはない。
【0075】
(実施の形態3)
実施の形態1では、フォトニック結晶領域Aの複数の孔2aが図3に示すような三角格子を構成するように設けられている場合について示した。しかしながら、複数の孔2aの配列は、たとえば以下のようなものであってもよい。
【0076】
図10は、本発明の実施の形態3におけるp型クラッド層の構成を示す部分平面図である。図10に示すように、本実施の形態のフォトニック結晶領域Aには、複数の孔2aが正方格子を形成するように設けられている。正方格子の格子定数はdとなっている。
【0077】
また、フォトニック結晶領域Aは、二次元回折格子の構成を崩すような欠陥部分14を有している。図10においては、孔2aがあるべき部分に孔が形成されていない部分が欠陥部分14となっている。
【0078】
なお、これ以外の半導体レーザ素子の構成およびその製造方法は、実施の形態1における半導体レーザ素子1の構成およびその製造方法とほぼ同様であるので、同一の部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0079】
本実施の形態の半導体レーザ素子においても、実施の形態1の半導体レーザ素子と同様の効果を得ることができる。
【0080】
本実施の形態の半導体レーザ素子において、第2屈折率を有する部分は複数の孔2aであり、フォトニック結晶領域Aは二次元回折格子の構成を崩すような欠陥部分14を有している。
【0081】
実施の形態1では、フォトニック結晶領域Aの格子定数aは上記式(1)の関係を満たすことによって、光放出面9aに対して平行な方向とに、光放出面9aに対して垂直な方向Sとに発光領域Bからの入射光が回折される場合について示した。しかし、本実施の形態では、フォトニック結晶領域A内で発生した定在波が欠陥部分14から漏れ、方向Sへの光が発生する。したがって、フォトニック結晶領域Aの格子定数aは、上記式(1)を満たさなくてもよいことになり、発光領域Bからの入射光が光放出面9aに対して平行な方向へ回折される回折条件を少なくとも満たせばよいことになる。
【0082】
上記回折条件を満たすためには、フォトニック結晶領域Aの格子定数aは、mが整数である場合の上記式(1)を満たせばよい。言い換えれば、フォトニック結晶領域Aの格子定数aは、上記式(1)においてmが偶数である場合の値の他、mが奇数である場合の値であってもよい。この回折条件を満たすことによって、光放出面9aに対して平行な方向に発光領域Bからの入射光が回折され、欠陥部分14から漏れる光によって方向Sへの光が発生する。その結果、フォトニック結晶領域Aにおいて一定の波長(λ/Neff)を有する定在波が規定される。一方で、発光領域Bでは、実施の形態1と同様に波長(λ/Neff0)を有する定在波が規定され、両者は繋がる。そして、発振した光が光放出面9aから放出される。
【0083】
(実施の形態4)
図11は、本発明の実施の形態4における半導体レーザ素子の構成を示す平面図である。図11に示すように、本実施の形態における半導体レーザ素子1cでは、電極10の平面的な外形形状が実施の形態1の場合と異なっている。本実施の形態において、光放出面9a上に設けられた電極10は、平面的な外形形状が二次元回折格子の方位に合わせた多角形状よりなっている。具体的には、電極10は平面的な外形形状が六角形であり、六角形の全ての辺の各々が複数の孔2a同士を結ぶ線Cに平行であるように構成されている。
【0084】
本実施の形態の半導体レーザ素子1cによれば、電極10がフォトニック結晶領域Aの三角格子の方位に合わせた六角形状の外形を有しているため、光の取り出し効率を高くできるとともに、発振強度のムラを抑制することができる。以下、そのことを円形電極の場合と比較して詳細に説明する。
【0085】
図12は、電極の平面形状が円形である場合の発光領域を説明するための平面図である。図12を参照して、複数の孔102aの配列パターンは三角格子となっている。発光強度は電極110の寸法に依存する。具体的には格子配列に沿った方向について考えてみる。位置C101と位置C102との間の長さC11が式(2)を満たしているとする。すると、位置C101と位置C102との間には定在波が発生し、発光する。同様に、位置C105と位置C106との間の長さC13が式(2)を満たしているとすると、位置C105と位置C106との間には定在波が発生し、発光する。一方、位置C103と位置C104との間の長さC12は、式(2)を満たしていない。このため、位置C103と位置C104との間には定在波が発生せず、発光しない。その結果、実際に発光する領域S11は、発光領域Bの円周に沿った一部の領域のみとなるので、発光強度が不均一になる。
【0086】
これに対して本実施の形態においては、図13を参照して、電極10がフォトニック結晶領域Aの三角格子の方位に合わせた六角形状の外形を有している。このため、発光強度が六角電極10の各辺に沿って均一になる。具体的には、位置C1と位置C2とは、格子配列に沿った位置にあり、かつ位置C1と位置C2との間の長さC5は、式(2)を満たしている。このため、位置C1と位置C2との間には定在波が発生し、発光する。同様に、位置C3と位置C4との間の長さC6は、式(2)を満たしているので、位置C3と位置C4との間には定在波が発生し、発光する。これにより図中太線の矢印で示すように、各格子配列に沿う部分の各々で発光強度が等しくなり、六角電極10の各辺の周囲に生じる、実際に発光する領域S1は平面的に見て長方形となる。また六角電極10の各辺に沿って発光強度が均一になる。
【0087】
このように本実施の形態によれば、円形電極ではムラのあった発光する領域の形状を長方形にして広げることができるため、より多くの光を取り出すことが可能となり、光の取り出し効率を高めることができる。また六角電極10の各辺に沿って発光強度を均一にすることができるため、発振強度のムラを抑制することができる。
【0088】
(実施の形態5)
図14は、本発明の実施の形態5における半導体レーザ素子の構成を示す平面図である。図14に示すように、本実施の形態における半導体レーザ素子1dでは、複数の孔2aの配列パターンと、電極10の平面的な外形形状とが実施の形態1の場合と異なっている。本実施の形態において、複数の孔2aは、実施の形態3で説明したような正方格子を形成するように設けられている。また、光放出面9a上に設けられた電極10は、平面的な外形形状が二次元回折格子の方位に合わせた多角形状よりなっている。具体的には、電極10は平面的な外形形状が四角形であり、四角形の全ての辺の各々が複数の孔2a同士を結ぶ線Cに平行であるように構成されている。
【0089】
なお、これ以外の本実施の形態の構成については上述した実施の形態1の構成とほぼ同じであるため、同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0090】
本実施の形態によれば、実施の形態4と同様、電極10がフォトニック結晶領域Aの正方格子の方位に合わせた四角形状の外形を有しているため、光の取り出し効率を高くできるとともに、発振強度のムラを抑制することができる。以下、そのことを円形電極の場合と比較して詳細に説明する。
【0091】
図15は、電極の平面形状が円形である場合の発光領域を説明するための平面図である。図15を参照して、複数の孔102aの配列パターンは正方格子となっている。実施の形態4で説明したように、発光強度は電極110の寸法に依存する。具体的には、格子配列に沿った方向について考えてみる。位置C107と位置C108との間の長さC14が式(2)を満たしているとする。すると、位置C107と位置C108との間には定在波が発生し、発光する。一方、位置C109と位置C110との間の長さC15は、式(2)を満たしていない。このため、位置C109と位置C110との間には定在波が発生せず、発光しない。その結果、二次元格子配列が正方格子であるときにも、実際に発光する領域S12は、発光領域Bの円周に沿った一部の領域のみとなるので、発光強度が不均一になる。
【0092】
これに対して本実施の形態においては、図16を参照して、電極10がフォトニック結晶領域Aの正方格子の方位に合わせた四角形状の外形を有している。このため、発光強度が四角電極10の各辺に沿って均一になる。具体的には、位置C7と位置C8とは、格子配列に沿った位置にあり、かつ位置C7と位置C8との間の長さC11は、式(2)を満たしている。このため、位置C7と位置C8との間には定在波が発生し、発光する。同様に、位置C9と位置C10との間の長さC12は、式(2)を満たしているので、位置C9と位置C10との間には定在波が発生し、発光する。これにより図中太線の矢印で示すように、各格子配列に沿う部分の各々で発光強度が等しくなり、四角電極10の各辺の周囲に生じる、実際に発光する領域S2は平面的に見て長方形となる。また四角電極10の各辺に沿って発光強度が均一になる。
【0093】
このように本実施の形態によれば、円形電極においてムラのあった発光する領域の形状を長方形にして広げることができるため、より多くの光を取り出すことが可能となり、光の取り出し効率を高めることができる。また四角電極10の各辺に沿って発光強度を均一にすることができるため、発振強度のムラを抑制することができる。
【0094】
(実施の形態6)
図17は、本発明の実施の形態6における半導体レーザ素子(アレイ)の構成を示す断面図である。図17を参照して、本実施の形態の半導体レーザ素子1eは、透明電極16をさらに備えている。また、電極10は複数の単位電極10a,10bを有している。透明電極16は複数の単位電極10a,10bの各々を覆うようにコンタクト層9上一面に形成されており、複数の単位電極10a,10bの各々を電気的に接続している。透明電極16はたとえばITO(indium-tin oxide)よりなっている。
【0095】
また、半導体レーザ素子1eにおいては、複数の単位電極10a,10bの各々における垂直真下の領域には複数の発光領域の各々がアレイ状に配列して形成されており、複数の単位電極10a,10bの各々における垂直真下以外の領域にはフォトニック結晶領域が形成されている。つまり、複数の孔2aは、複数の単位電極10a,10bの各々における垂直真下以外の領域に形成されている。
【0096】
なお、これ以外の半導体レーザ素子1eの構成は、実施の形態1における半導体レーザ素子1の構成とほぼ同じであるため、同一の部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0097】
本実施の形態の半導体レーザ素子1eにおいて、電極10は複数の単位電極10a,10bを有している。半導体レーザ素子1eは、複数の単位電極10a,10bの各々を電気的に接続するための透明電極16をさらに備えている。
【0098】
これにより、光の取り出しを妨げることなく、複数の単位電極10a,10bを電気的に接続することができる。その結果、複数の発光領域を同一の素子として通電できるようになり、高出力化を図ることができる。
【実施例】
【0099】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0100】
(実施例1)
本実施例では、以下の製造方法を用いて、本発明例A〜Cの半導体レーザ素子の作製を試みた。
【0101】
本発明例A:基板3として、低転位導電性GaN基板を準備した。次に、MOCVD装置を用いて、n型バッファ層、n型クラッド層4、活性層5、p型クラッド層6、p型クラッド層8、およびコンタクト層9を、この順序でエピタキシャル成長させることにより基板3上に形成した。活性層5の発光波長は410nm(紫色)とした。続いて、コンタクト層9の光放出面9aに円形状のp型オーミック電極10を形成し、基板3の主面3b全面にn型オーミック電極11を形成した。p型オーミック電極10の直径(すなわち発光領域Bの面内長さb)は、50λ/Neff0とした。次に、コンタクト層9上における電極10の周囲に、レジスト20として電子ビーム露光用フォトレジスト(ZEP520)を塗布し、電子ビーム露光機を用いて複数の孔のレジストパターンを描画した。続いて、このレジストパターンをマスクとしてICP−RIE(Reactive ion etching)法を用いて、コンタクト層9およびp型クラッド層8をエッチングし、複数の孔2aを形成した。これによって、フォトニック結晶領域Aを作製し、半導体レーザ素子を得た。フォトニック結晶領域Aとしては、複数の孔2aが正方格子を構成するように設けられていて、格子定数aがa=λ/Neff(つまり、上記式(1)においてm=2の場合)の関係を満たすフォトニック結晶領域を作製した。
【0102】
本発明例B:本発明例Aとほぼ同様の製造方法によって半導体レーザ素子を作製した。但し、複数の孔2aを形成する際、p型クラッド層8でエッチングを止めずにさらにp型クラッド層6および活性層5までエッチングし、活性層5に達する孔2aを形成した。
【0103】
本発明例C:本発明例Aとほぼ同様の製造方法によって半導体レーザ素子を作製した。但し、フォトニック結晶領域Aとしては、複数の孔2aが三角格子を構成するように設けられていて、格子定数aがa=λ/2Neff(つまり、上記式(1)においてm=1の場合)の関係を満たすフォトニック結晶領域を作製した。また、フォトニック結晶領域Aには、空気孔11個に対して1個の割合で、孔を形成しない欠陥部分14を形成した。
【0104】
上記の3種類の半導体レーザ素子について、連続通電で電流注入し、レーザ発振の可否を調べた。その結果、本発明例A〜Cの全てにおいて、約7kA/cm2の閾値電流密度でレーザ発振することが確認された。レーザ光は、基板3の主面3aに垂直な方向へ、光放出面9aにおける電極10の外周部から出射した。特に本発明例Cについては、電極10の外周部の狭い位置からレーザ光が出射した。
【0105】
(実施例2)
本実施例では、電流注入用電極の平面形状を規定することの効果について調べた。具体的には、以下の製造方法を用いて、本発明例DおよびEの半導体レーザ素子を作製した。
【0106】
本発明例D:本発明例Aとほぼ同様の製造方法によって半導体レーザ素子を作製した。但し、電極10については、正方格子の方位に合わせた四角形の平面形状とした。
【0107】
本発明例E:本発明例Aとほぼ同様の製造方法によって半導体レーザ素子を作製した。但し、フォトニック結晶領域Aとしては、複数の孔2aが三角格子を構成するように設けられていて、格子定数aがa=λ/Neff(つまり、上記式(1)においてm=2の場合)の関係を満たすフォトニック結晶領域を作製した。電極10については、三角格子の方位に合わせた六角形の平面形状とした。
【0108】
上記の2種類の半導体レーザ素子について、連続通電で電流注入し、レーザ発振の可否を調べた。その結果、本発明例DおよびEのいずれにおいても、約4kA/cm2の閾値電流密度でレーザ発振することが確認された。レーザ光は、基板3の主面3aに垂直な方向へ、光放出面9aにおける電極10の外周部から出射した。このことから、円形電極を用いた場合に比べてレーザ光発振の閾値を低下できることが分かる。
【0109】
(実施例3)
本実施例では、電流注入用電極が複数の単位電極と透明電極とを有することの効果について調べた。具体的には、以下の製造方法を用いて、本発明例Fを作製した。
【0110】
本発明例F:本発明例Dとほぼ同様の製造方法によって半導体レーザ素子を作製した。但し、電極10が有する単位電極として、光放出面9a内に10個×10個のアレイ状の単位電極を形成した。また、これによって複数の単位電極の各々における垂直真下の領域に複数の発光領域を形成した。さらに、電極10が有する透明電極16として、ITOよりなる透明電極を光放出面9a全面に蒸着し、複数の単位電極の各々を電気的に接続した。
【0111】
上記の本発明例Fの半導体レーザ素子について、連続通電で電流注入し、レーザ発振の可否を調べた。その結果、それぞれの発光領域から約4kA/cm2の閾値電流密度でレーザ発振することが確認された。また、本発明例Dの半導体レーザ素子におけるレーザ光の出力は0.7mWであったのに対して、本発明例Fの半導体レーザ素子におけるレーザ光の出力は70mWであった。このことから、電流注入用電極が複数の単位電極と透明電極とを有することで、閾値電流密度を同程度に保ちつつレーザアレイが簡便に構成できることが分かる。
【0112】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、GaNを含むフォトニック結晶領域を備えた半導体レーザ素子およびその製造方法に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の実施の形態1における半導体レーザ素子の斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1におけるp型クラッド層の構成を示す部分平面図である。
【図4】フォトニック結晶領域および発光領域における光の回折を模式的に示す断面図である。
【図5】フォトニック結晶領域および発光領域に発生する定在波を模式的に示す平面図である。
【図6】本発明の実施の形態1における半導体レーザ素子の製造方法の第1工程を示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態1における半導体レーザ素子の製造方法の第2工程を示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態1における半導体レーザ素子の製造方法の第3工程を示す断面図である。
【図9】本発明の実施の形態2における半導体レーザ素子の構成を示す断面図である。
【図10】本発明の実施の形態3におけるp型クラッド層の構成を示す部分平面図である。
【図11】本発明の実施の形態4における半導体レーザ素子の構成を示す平面図である。
【図12】電極の平面形状が円形である場合の発光領域を説明するための平面図である。
【図13】電極の平面形状が六角形である場合の発光領域を説明するための平面図である。
【図14】本発明の実施の形態5における半導体レーザ素子の構成を示す平面図である。
【図15】電極の平面形状が円形である場合の発光領域を説明するための平面図である。
【図16】電極の平面形状が四角形である場合の発光領域を説明するための平面図である。
【図17】本発明の実施の形態6における半導体レーザ素子の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0115】
1,1a,1c〜1e 半導体レーザ素子、2a,102a 孔、3 基板、3a,3b 基板主面、4 n型クラッド層、5 活性層、6,8 p型クラッド層、9 コンタクト層、9a 光放出面、10,11,110 電極、10a,10b 単位電極、14 欠陥部分、16 透明電極、20 レジスト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアの注入により光を発光する活性層と、
素子表面に形成された電流注入用電極と、
前記電流注入用電極の垂直真下以外に存在し、前記活性層で発生した光を回折させるとともに前記素子表面に対して垂直な方向に光を発するフォトニック結晶領域と、
前記電流注入用電極の垂直真下に存在する発光領域とを備え、
前記フォトニック結晶領域は、第1の屈折率を有する部分と、二次元回折格子を構成するように設けられた第2の屈折率を有する部分とを有し、かつ前記第2の屈折率を有する部分は前記素子表面にまで伸びており、
前記発光領域は、第2の屈折率を有する部分を有しておらず、かつ前記発光領域の面内方向長さは、前記フォトニック結晶領域において発生する定在波の、前記発光領域における波長の整数倍もしくは半整数倍である、半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記第2の屈折率を有する部分が前記活性層にまで伸びている、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記フォトニック結晶領域における前記第2の屈折率を有する部分は、入射された光を前記素子表面に対して平行な方向へ回折する回折条件と、入射された光を前記素子表面に対して垂直な方向へ回折する回折条件とを同時に満たすように設けられている、請求項1または2に記載の半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記第2の屈折率を有する部分は前記素子表面に形成された複数の孔であり、前記フォトニック結晶領域は前記二次元回折格子の構成を崩すような欠陥部分を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記電流注入用電極は、平面的な外形形状が前記二次元回折格子の方位に合わせた多角形状よりなる、請求項1〜4のいずれかに記載の半導体レーザ素子。
【請求項6】
前記第2の屈折率を有する部分は三角回折格子を構成するように設けられており、前記電流注入用電極の平面的な外形形状は六角形状である、請求項5に記載の半導体レーザ素子。
【請求項7】
前記第2の屈折率を有する部分は正方格子を構成するように設けられており、前記電流注入用電極の平面的な外形形状は四角形状である、請求項5に記載の半導体レーザ素子。
【請求項8】
前記電流注入用電極は複数の単位電極からなり、
前記複数の単位電極の各々を電気的に接続するための透明電極をさらに備える、請求項1〜7のいずれかに記載の半導体レーザ素子。
【請求項9】
前記活性層は導電性窒化ガリウムまたは導電性炭化シリコンよりなる基板上に形成されており、前記活性層は窒化ガリウムを含む材料よりなる、請求項1〜8のいずれかに記載の半導体レーザ素子。
【請求項10】
キャリアの注入により光を発光する活性層と、前記活性層に前記キャリアを注入するための第1および第2クラッド層と、前記活性層で発生した光を面内で回折させるとともに素子表面に対して垂直な方向に光を発するフォトニック結晶領域とを含む半導体レーザ素子の製造方法であって、
前記第1クラッド層、前記活性層、および前記第2クラッド層をエピタキシャル成長法によってこの順序で基板上に積層する工程と、
前記素子表面に電流注入用電極を形成する工程と、
前記素子表面からエッチングすることにより、第1の屈折率を有する部分と第2の屈折率を有する部分とを有するフォトニック結晶領域を前記電流注入用電極の垂直真下以外に形成する工程とを備え、
前記電流注入用電極の垂直真下に存在する発光領域の面内方向長さは、前記フォトニック結晶領域において発生する定在波の、前記発光領域における波長の整数倍もしくは半整数倍である、半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項11】
前記第1クラッド層、前記活性層、および前記第2クラッド層は、MOCVD法あるいはMBE法を用いて連続的に形成される、請求項10に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項12】
前記基板は導電性窒化ガリウムまたは導電性炭化シリコンからなり、かつ前記活性層は窒化ガリウムを含む材料からなる、請求項10または11に記載の半導体レーザ素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−179573(P2006−179573A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−369276(P2004−369276)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】