説明

半導体レーザ素子

【課題】III族窒化物半導体からなる半導体積層構造を用いて、長波長化を実現した半導体レーザ素子を提供する。
【解決手段】半導体レーザ素子は、基板1およびIII族窒化物半導体積層構造2を含む半導体積層構造を有している。III族窒化物半導体積層構造2は、半極性面を結晶成長面とするIII族窒化物半導体からなり、Inを含む発光層10と、発光層10の一方側に配置されたp型ガイド層17と、発光層10の他方側に配置されたn型ガイド層15と、p型ガイド層17の発光層10とは反対側に配置されたp型クラッド層18と、n型ガイド層15の発光層10とは反対側に配置されたn型クラッド層14とを有する。III族窒化物半導体2は、前記結晶成長面へのc軸の射影ベクトルと平行に形成された直線状のリッジ2と、前記射影ベクトルと垂直な劈開面からなる一対のレーザ共振面21,22とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、III族窒化物半導体からなる半導体レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体とは、III-V族半導体においてV族元素として窒素を用いた半導体である。窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)が代表例である。一般には、AlXInYGa1-X-YN(0≦X≦1,0≦Y≦1,0≦X+Y≦1)と表わすことができる。
青色や緑色といった短波長のレーザ光源は、DVDに代表される光ディスクへの高密度記録、画像処理、医療機器、計測機器などの分野で活用されるようになってきている。このような短波長レーザ光源は、たとえば、GaN半導体を用いたレーザダイオードで構成されている。
【0003】
特許文献1には、m面を結晶成長面とすることによって発振効率を向上した半導体レーザ素子が開示されている。この半導体レーザ素子は、Inを含む発光層と、発光層を挟むように配置されたp型ガイド層およびn型ガイド層と、これらを挟むように配置されたp型クラッド層およびn型クラッド層とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−239083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発光層のIn組成を大きくすることによって、発光波長を長波長化することができる。ところが、m面を成長主面としたIII族窒化物半導体で発光層を成長させると、発光層のIn組成をあまり大きくすることができない。本願発明者の最新の研究によれば、m面を成長主面としたIII族窒化物半導体で作製したレーザダイオードでは、500nm付近が発光上限波長となる。したがって、緑色の波長域(510nm〜540nm)の半導体レーザ素子を実現するのが困難である。
【0006】
そこで、この発明の目的は、III族窒化物半導体からなる半導体積層構造を用いて、長波長化を実現した半導体レーザ素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための請求項1記載の発明は、半極性面を結晶成長面とするIII族窒化物半導体からなり、Inを含む発光層と、この発光層の一方側に配置されたp型ガイド層と、前記発光層の他方側に配置されたn型ガイド層と、前記p型ガイド層の前記発光層とは反対側に配置されたp型クラッド層と、前記n型ガイド層の前記発光層とは反対側に配置されたn型クラッド層とを有する半導体積層構造を含み、前記半導体積層構造が、前記結晶成長面へのc軸の射影ベクトルと平行に形成された直線状の導波路と、前記射影ベクトルと垂直な劈開面からなる一対のレーザ共振面とを含む、半導体レーザ素子である。
【0008】
本願発明者の最新の研究により、半極性面を成長主面として成長させるIII族窒化物半導体を用いることによって、In組成の大きな発光層の形成が可能であり、緑色波長域の半導体レーザ素子を実現できることが分かった。そこで、この発明では、半極性面を結晶成長面とするIII族窒化物半導体によってレーザダイオード構造を構成する半導体積層構造が形成されている。半極性面を結晶成長面とするIII族窒化物半導体では、内部電場の影響が小さいので、m面等の非極性面を結晶成長面とするIII族窒化物半導体の場合と同様に、発振効率の良い半導体レーザ素子を実現できる。
【0009】
一方、本願発明者の最新の研究によれば、半極性面を主面とするIII族窒化物半導体結晶は、劈開面(レーザ共振面)を適切に選択しなければ、レーザ共振面として十分にスムーズな劈開面を得られないことが明らかになった。そこで、この発明では、半導体積層構造の結晶成長面(半極性面)へのc軸の射影ベクトルと平行に直線状の導波路がとられている。そして、この導波路と垂直な劈開面でレーザ共振面が形成されている。このようにレーザ共振面を選択することにより、レーザ共振面は、平坦性の良好な劈開面からなることになる。その結果、優れた特性の半導体レーザ素子を実現できる。
【0010】
より具体的に説明すると、典型的な下地基板材料であるGaNのc軸方向およびa軸方向の格子定数は、それぞれ、5.185Å、3.189Åである。これに対して、AlNのc軸方向およびa軸方向の格子定数は、それぞれ、4.982Å、3.112Åである。したがって、c軸方向の格子定数の差の方が、a軸方向の格子定数の差よりも大きい。したがって、GaN基板上にAlxGa1-xN(0<X≦1)を成長させると、a軸方向の歪み量よりもc軸方向の歪み量の方が大きくなる。
【0011】
そこで、この発明では、c軸の射影ベクトルと平行な方向に直線状の導波路をとり、その導波路に垂直な劈開面でレーザ共振面を形成している。これにより、結晶の劈開によってレーザ共振面を形成するときに、c軸方向に蓄積された大きな内部応力(歪み)を利用できるので、平坦性の良好な劈開面を得ることができる。これにより、発振効率の優れた半導体レーザ素子を実現できる。
【0012】
さらに、本願発明者は、半極性面を成長主面として成長させたIII族窒化物半導体のPL(フォトルミネッセンス)偏光特性を測定した。その測定結果は、a軸射影方向偏光(電界成分がa軸射影方向に沿う偏光成分)の強度が最も高いことを示していた。したがって、c軸射影方向に共振器長方向(導波路の長手方向)をとることによって、TEモードの光を効率良く利用できるから、発振効率をより高めることができる。
【0013】
このように、この発明によれば、III族窒化物半導体を用いて、長波長化が可能であり、しかも発振効率の優れた半導体レーザ素子を提供できる。
請求項2に記載されているように、半極性面の具体例は、{20−21}面であり、この場合に、レーザ共振面を{−1014}面にとることが好ましい。{20−21}面に直交する結晶面は、{−1014}面および{11−20}面である。{−1014}面は、{20−21}面へのc軸の射影ベクトルと垂直な結晶面であり、{11−20}面は、{20−21}面へのa軸の射影ベクトルと垂直な結晶面である。これらのうち、{−1014}面をレーザ共振面とすることによって、平坦性の良い劈開面でレーザ共振面を形成できる。
【0014】
なお、他の半極性面としては、{11−22}面および{01−12}面を例示できる。
請求項3記載の発明は、前記半導体積層構造が、前記導波路に沿って前記一対のレーザ共振面の間で延びるリッジを含み、前記半導体レーザ素子が、前記半導体積層構造の前記リッジが配置されている側の表面に形成された表面電極と、前記半導体積層構造の前記表面において前記リッジの長手方向と直交する幅方向へ離れた位置に配置され、前記リッジと等しいかそれ以上の高さを有し、前記幅方向の長さが前記リッジの幅よりも大きく、かつ前記表面電極から間隔を開けて形成された受け部とをさらに含む、請求項1または2に記載の半導体レーザ素子である。
【0015】
この構成によれば、半導体積層構造の裏面(リッジとは反対側の表面)から加工を行って分割ガイド溝を形成し、半導体積層構造の表面側からブレードをあてがって外力を加えることにより、元基板を分割(劈開)して、レーザ共振面を形成できる。半導体積層構造の裏面からの加工は、リッジ(導波路)を傷付けることなく行うことができるので、導波路と垂直な方向に延びる連続線状パターンで行える。したがって、外力を加えたときに、安定した分割(劈開)を行える。しかも、ブレードからの外力は、受け部に作用させることができる。これにより、リッジを保護しながら元基板を分割(劈開)して、良好な劈開面からなるレーザ共振面を形成できる。しかも、受け部は、半導体積層構造の幅方向(劈開面および結晶成長面に平行な方向。共振器幅方向)の長さがリッジの幅よりも大きいので、外力を確実に受けることができる。また、受け部は、表面電極から間隔を開けて形成されているので、外力を受けるときに表面電極を傷付けることがない。したがって、電流リーク等の不具合を回避できる。
【0016】
請求項4記載の発明は、前記半導体積層構造の前記表面とは反対側の裏面に形成され、前記一対のレーザ共振面から内方に後退した端面後退部を周縁に有する裏面電極をさらに含む、請求項3に記載の半導体レーザ素子である。この構成によれば、裏面電極の周縁が、レーザ共振面から内方に後退した端面後退部を有しているので、この端面後退部を目印にして半導体積層構造の裏面側からの加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、この発明の一実施形態に係る半導体レーザ素子の構成を説明するための斜視図である。
【図2】図2は、図1のII−II線に沿う縦断面図である。
【図3】図3は、図1のIII−III線に沿う横断面図である。
【図4】図4は、III族窒化物半導体の結晶構造のユニットセルを表した図解図である。
【図5】図5は、{20−21}面を主面としたGaN単結晶基板上にコヒーレントに成長させたAlxGa1-xN層(0≦x≦1)の歪み量(%)を示す。
【図6】図6は、{20−21}面を結晶成長面として成長させたIII族窒化物半導体(試料)のPL(フォトルミネッセンス)偏光特性の測定結果を示す。
【図7】半導体レーザダイオードを製造するための元基板であるウエハを示す図解的な斜視図である。
【図8A】図8Aは、ウエハを個別素子(半導体レーザ素子)に分割する手順の概略を説明するための図解的な斜視図である。
【図8B】図8Bは、ウエハを個別素子(半導体レーザ素子)に分割する手順の概略を説明するための図解的な斜視図である。
【図8C】図8Cは、ウエハを個別素子(半導体レーザ素子)に分割する手順の概略を説明するための図解的な斜視図である。
【図9】図9は、ウエハの表面におけるp側電極および受け部の配置を説明するための部分拡大平面図である。
【図10A】図10Aは、n側電極の第1の形成パターン例を示す底面図である。
【図10B】図10Bは、n側電極の第2の形成パターン例を示す底面図である。
【図10C】図10Cは、n側電極の第3の形成パターン例を示す底面図である。
【図11】図11Aおよび図11Bは、一次劈開の具体例を説明するための説明図である。
【図12】図12Aおよび図12Bは、二次劈開の具体例を説明するための説明図である。
【図13】図13Aおよび図13Bは、二次劈開の他の具体例を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る半導体レーザ素子の構成を説明するための斜視図であり、図2は、図1のII−II線に沿う縦断面図であり、図3は、図1のIII−III線に沿う横断面図である。
この半導体レーザ素子70は、基板1と、基板1上に結晶成長によって形成されたIII族窒化物半導体積層構造2と、基板1の裏面(III族窒化物半導体積層構造2と反対側の表面)に接触するように形成された裏面電極としてのn側電極3と、III族窒化物半導体積層構造2の表面に接触するように形成された表面電極としてのp側電極4とを備えたファブリペロー型のものである。p側電極4は、p側オーミック電極4Aと、p側パッド電極4Bとを含む。この実施形態では、基板1およびIII族窒化物半導体積層構造2によって、半導体レーザダイオード構造を構成する半導体積層構造が形成されている。
【0019】
基板1は、この実施形態では、GaN単結晶基板で構成されている。この基板1は、この実施形態では、半極性面の一つである{20−21}面を主面としたものであり、この主面上における結晶成長によって、III族窒化物半導体積層構造2が形成されている。したがって、III族窒化物半導体積層構造2は、{20−21}面を結晶成長面(主面)とするIII族窒化物半導体からなる。
【0020】
III族窒化物半導体積層構造2を形成する各層は、基板1に対してコヒーレントに成長されている。コヒーレントな成長とは、下地層からの格子の連続性を保った状態での結晶成長をいう。下地層との格子不整合は、結晶成長される層の格子の歪みによって吸収され、下地層との界面での格子の連続性が保たれる。
GaNのa軸格子定数は、3.189Åであり、c軸格子定数は、5.185Åである。一方、無歪み(strain-free)の状態でのAlNのa軸格子定数は3.112Åであり、c軸格子定数は、4.982Åである。したがって、AlGaNのa軸格子定数およびc軸格子定数は、Al組成が大きいほど小さい。また、Al組成の増加に対する増加率は、c軸格子定数の方がa軸格子定数よりも大きい。よって、GaN基板上にAlGaN結晶をコヒーレントに成長させると、AlGaN結晶にはc軸方向およびa軸方向に引っ張り歪み(内部応力)が生じ、その大きさは、c軸方向の方が大きい。
【0021】
III族窒化物半導体積層構造2は、発光層10と、n型半導体層11と、p型半導体層12とを備えている。n型半導体層11は発光層10に対して基板1側に配置されており、p型半導体層12は発光層10に対してp側オーミック電極4A側に配置されている。こうして、発光層10が、n型半導体層11およびp型半導体層12によって挟持されていて、ダブルヘテロ接合が形成されている。発光層10には、n型半導体層11から電子が注入され、p型半導体層12から正孔が注入される。これらが発光層10で再結合することにより、光が発生するようになっている。
【0022】
n型半導体層11は、基板1側から順に、n型GaNコンタクト層13(たとえば2μm厚)、n型AlInGaNクラッド層14(1.5μm厚以下。たとえば1.0μm厚)およびn型InGaNガイド層15(たとえば0.1μm厚)を積層して構成されている。一方、p型半導体層12は、発光層10の上に、順に、p型AlGaN電子ブロック層16(たとえば20nm厚)、p型InGaNガイド層17(たとえば0.1μm厚)、p型AlInGaNクラッド層18(1.5μm厚以下。たとえば0.4μm厚)およびp型GaNコンタクト層19(たとえば0.3μm厚)を積層して構成されている。
【0023】
n型GaNコンタクト層13およびp型GaNコンタクト層19は、低抵抗層である。p型GaNコンタクト層19は、p側オーミック電極4Aにオーミック接触している。n型GaNコンタクト層13は、GaNにたとえばn型ドーパントとしてのSiを高濃度にドープ(ドーピング濃度は、たとえば、3×1018cm−3)することによってn型半導体とされている。また、p型GaNコンタクト層19は、p型ドーパントとしてのMgを高濃度にドープ(ドーピング濃度は、たとえば、3×1019cm−3)することによってp型半導体層とされている。
【0024】
n型AlInGaNクラッド層14およびp型AlInGaNクラッド層18は、発光層10からの光をそれらの間に閉じ込める光閉じ込め効果を生じるものである。n型AlInGaNクラッド層14は、AlInGaNにたとえばn型ドーパントとしてのSiをドープ(ドーピング濃度は、たとえば、1×1018cm−3)することによってn型半導体とされている。また、p型AlInGaNクラッド層18は、p型ドーパントとしてのMgをドープ(ドーピング濃度は、たとえば、1×1019cm−3)することによってp型半導体層とされている。n型AlInGaNクラッド層14は、n型InGaNガイド層15よりもバンドギャップが広く、p型AlInGaNクラッド層18は、p型InGaNガイド層17よりもバンドギャップが広い。これにより、良好な閉じ込めを行うことができ、低閾値および高効率の半導体レーザダイオードを実現できる。
【0025】
n型InGaNガイド層15およびp型InGaNガイド層17は、発光層10にキャリア(電子および正孔)を閉じ込めるためのキャリア閉じ込め効果を生じる半導体層であり、かつ、クラッド層14,18とともに、発光層10への光閉じ込め構造を形成している。これにより、発光層10における電子および正孔の再結合の効率が高められるようになっている。n型InGaNガイド層15は、InGaNにたとえばn型ドーパントとしてのSiをドープ(ドーピング濃度は、たとえば、1×1018cm−3)することによりn型半導体とされており、p型InGaNガイド層17は、InGaNにたとえばp型ドーパントとしてのMgをドープする(ドーピング濃度は、たとえば、5×1018cm−3)ことによってp型半導体とされている。
【0026】
p型AlGaN電子ブロック層16は、AlGaNにp型ドーパントとしてのたとえばMgをドープ(ドーピング濃度は、たとえば、5×1018cm−3)して形成されたp型半導体であり、発光層10からの電子の流出を防いで、電子および正孔の再結合効率を高めている。
発光層10は、たとえばInGaNを含むMQW(多重量子井戸:multiple-quantum well)構造を有しており、電子と正孔とが再結合することにより光が発生し、その発生した光を増幅させるための層である。
【0027】
発光層10は、たとえば、InGaN層からなる量子井戸層(たとえば3nm厚)とAlGaN層からなる障壁層(バリア層:たとえば9nm厚)とを交互に複数周期繰り返し積層して構成された多重量子井戸(MQW:Multiple-Quantum Well)構造を有していてもよい。この場合に、InGaNからなる量子井戸層は、Inの組成比を5%以上とすることにより、バンドギャップが比較的小さくなり、AlGaNからなる障壁層は、バンドギャップが比較的大きくなる。たとえば、量子井戸層と障壁層とは交互に2〜7周期繰り返し積層されており、これにより、多重量子井戸構造の発光層が構成されている。発光波長は、量子井戸層のバンドギャップに対応しており、バンドギャップの調整は、インジウム(In)の組成比を調整することによって行うことができる。インジウムの組成比を大きくするほど、バンドギャップが小さくなり、発光波長が大きくなる。この実施形態では、発光波長は、量子井戸層(InGaN層)におけるInの組成を調整することによって、たとえば、450nm〜550nm(青色〜緑色)とされている。前記多重量子井戸構造は、Inを含む量子井戸層の数が3以下とされることが好ましい。
【0028】
図1等に示すように、p型半導体層12は、その一部が除去されることによって、直線状のリッジ20を形成している。より具体的には、p型コンタクト層19、p型AlInGaNクラッド層18およびp型InGaNガイド層17の一部がエッチング除去され、横断面視ほぼ台形形状(メサ形)のリッジ20が形成されている。このリッジ20は、c軸をIII族窒化物半導体積層構造2の結晶成長面に射影した射影ベクトルの方向(以下「c軸射影方向」という。)に平行な方向に沿って形成されている。
【0029】
さらに、III族窒化物半導体構造2の表面(リッジ20が形成された側の主面)においてリッジ20の両側には、リッジ20の長手方向に直交する方向に離れた位置に、4つの受け部30が形成されている。より具体的には、リッジ20の一端の両側方に一対の受け部30が配置されており、リッジ20の他端の両側方に別の一対の受け部30が配置されている。各受け部30は、p型半導体層12からなる土台部31と、この土台部31上に形成された薄膜部32とを含む。土台部31は、リッジ20と同様に、p型半導体層12の一部を除去することによって形成されている。すなわち、p型コンタクト層19、p型AlInGaNクラッド層18およびp型InGaNガイド層17の一部がエッチング除去され、横断面視ほぼ台形形状(メサ形)の土台部31が形成されている。薄膜部32は、土台部31の表面に形成された絶縁膜33,34(後述の絶縁層6)を含む。
【0030】
各受け部30は、この実施形態では、平面視矩形状に形成されている。各受け部30は、リッジ20の長手方向(共振器長方向。この実施形態では<−1014>方向)に直交する幅方向(共振器幅方向。この実施形態ではa軸方向)に関する長さが、リッジ20の幅よりも大きく形成されている。たとえば、リッジ20の幅は、2.5μm程度であり、これに対して、受け部30の前記幅方向の長さは数十μm〜数百μmであってもよい。また、各受け部30は、リッジ20に平行な方向の長さがリッジ20の長さ(共振器長)に比較して十分に短く形成されている。たとえば、リッジ20の長さは600μm程度であり、これに対して受け部30の共振器長方向の長さは数十μm程度であってもよい。さらに、各受け部30は、リッジ20から前記幅方向に沿って予め定める距離を開けて配置されている。リッジ20の幅方向中心と、受け部30のリッジ20側の端縁との間の距離は、数μm〜数十μm程度であってもよい。
【0031】
III族窒化物半導体積層構造2は、リッジ20の長手方向両端における劈開により形成された鏡面からなる一対の端面21,22(劈開面)を有している。この一対の端面21,22は、互いに平行であり、この実施形態では、いずれも{20−21}面へのc軸の射影ベクトルに垂直(すなわち、{−1014}面)である。こうして、n型InGaNガイド層15、発光層10およびp型InGaNガイド層17によって、端面21,22をレーザ共振面とするファブリペロー共振器が形成されている。すなわち、発光層10で発生した光は、レーザ共振面21,22の間を往復しながら、誘導放出によって増幅される。そして、増幅された光の一部が、レーザ共振面21,22からレーザ光として素子外に取り出される。
【0032】
レーザ共振面21,22において、裏面側の下縁領域には、レーザ共振面21,22を劈開によって形成する際のスクライブ加工に起因する端面加工痕8が幅方向全域にわたって形成されている。下縁領域とは、基板1およびIII族窒化物半導体積層構造2を含む半導体積層構造の裏面に連なる領域である。また、幅方向とは、III族窒化物半導体積層構造2の結晶成長面に平行であって、リッジ20の長手方向に直交する方向(共振器幅方向)である。
【0033】
また、基板1およびIII族窒化物半導体積層構造2を含む半導体積層構造は、リッジ20に平行な一対の側面25を有している。これらの一対の側面25には、元基板としてのウエハから半導体積層構造を劈開して分割するときのスクライブ加工に起因する側面加工痕28が長手方向全域に亘って形成されている。長手方向とは、リッジ20の長手方向に平行な方向(共振器長方向)である。スクライブ加工を裏面側から行った場合には、図1に示すように、側面25の下縁領域に側面加工痕28が形成されている。また、スクライブ加工を表面側から行った場合には、図13Bに示すように、側面25の上縁領域に側面加工痕38が形成されている。上縁領域とは、半導体積層構造の表面(リッジ20側の面)に連なる領域である。
【0034】
n側電極3は、たとえばAlからなり、基板1にオーミック接続されている。また、p側オーミック電極4Aは、たとえばPtからなり、p型コンタクト層19にオーミック接続されている。p側オーミック電極4Aがリッジ20の頂面(帯状の接触領域)のp型GaNコンタクト層19だけに接触するように、p型InGaNガイド層17およびp型AlInGaNクラッド層18の露出面を覆う絶縁層6が設けられている。これにより、リッジ20に電流を集中させることができるので、効率的なレーザ発振が可能になる。また、リッジ20の表面は、p側オーミック電極4Aとの接触部を除く領域が絶縁層6で覆われて保護されているので、横方向の光閉じ込めを緩やかにして制御を容易にすることができるとともに、側面からのリーク電流を防ぐことができる。絶縁層6は、屈折率が1よりも大きな絶縁材料、たとえば、SiOやZrOで構成することができる。p側パッド電極4Bは、たとえば、Ti/Auで形成されている。
【0035】
絶縁層6は、受け部30の表面および側面を覆っており、その一部は、薄膜部32を構成する絶縁膜34となっている。一方、p側オーミック電極4Aは、受け部30を露出させるパターンで形成されている。より具体的には、受け部30とp側オーミック電極4Aの周縁との間には、予め定める間隔が開けられている。この間隔は、たとえば、10μm程度であってもよい。
【0036】
リッジ20の頂面にはp側オーミック電極4Aが接しており、一方、受け部30はリッジ20とほぼ同じ高さの土台部31上に、絶縁膜33,34を積層した薄膜部32を配置した構造となっている。薄膜部32の厚さは、p側オーミック電極4Aの厚さと同等か、またはそれよりも厚い。そのため、受け部30の表面の高さ(III族窒化物半導体積層構造2の表面からの距離)は、リッジ20上のp側オーミック電極4Aの表面と同等か、またはそれよりも高い。これにより、後述する分割工程(ブレーク工程)において、リッジ20が劈開用のブレードから大きな外部応力を受けないので、リッジ20を保護できる。
【0037】
レーザ共振面21,22は、それぞれ絶縁膜23,24(図1では図示を省略した。)によって被覆されている。レーザ共振面21,22の結晶面は、前記c軸射影方向に垂直な面であり、この実施形態では、{−1014}面である。一方のレーザ共振面21を被覆するように形成された絶縁膜23は、たとえばZrOの単膜からなる。これに対し、他方のレーザ共振面22に形成された絶縁膜24は、たとえばSiO膜とZrO膜とを交互に複数回繰り返し積層した多重反射膜で構成されている。絶縁膜23を構成するZrOの単膜は、その厚さがλ/2n(ただし、λは発光層10の発光波長。nはZrOの屈折率)とされている。一方、絶縁膜24を構成する多重反射膜は、たとえば、膜厚λ/4n(ただしnはSiOの屈折率)のSiO膜と、膜厚λ/4nのZrO膜とを交互に積層した構造となっている。
【0038】
このような構造により、レーザ共振面21における反射率は小さく、レーザ共振面22における反射率が大きくなっている。より具体的には、たとえば、レーザ共振面21の反射率は20%程度とされ、レーザ共振面22における反射率は99.5%程度(ほぼ100%)となる。したがって、レーザ共振面21から、より大きなレーザ出力が出射されることになる。すなわち、この半導体レーザ素子70では、レーザ共振面21が、レーザ出射端面とされている。
【0039】
このような構成によって、n側電極3およびp側電極4を電源に接続し、n型半導体層11およびp型半導体層12から電子および正孔を発光層10に注入することによって、この発光層10内で電子および正孔の再結合を生じさせ、450nm〜550nmの光を発生させることができる。この光は、レーザ共振面21,22の間をガイド層15,16に沿って往復しながら、誘導放出によって増幅される。そして、レーザ出射端面であるレーザ共振面21から、より多くのレーザ出力が外部に取り出されることになる。
【0040】
図4は、III族窒化物半導体の結晶構造のユニットセルを表した図解図である。III族窒化物半導体の結晶構造は、六方晶系で近似することができ、一つのIII族原子に対して4つの窒素原子が結合している。4つの窒素原子は、III族原子を中央に配置した正四面体の4つの頂点に位置している。これらの4つの窒素原子は、一つの窒素原子がIII族原子に対して+c軸方向に位置し、他の三つの窒素原子がIII族原子に対して−c軸側に位置している。このような構造のために、III族窒化物半導体では、分極方向がc軸に沿っている。
【0041】
c軸は六角柱の軸方向に沿い、このc軸を法線とする面(六角柱の頂面)がc面{0001}である。c面に平行な2つの面でIII族窒化物半導体の結晶を劈開すると、+c軸側の面(+c面)はIII族原子が並んだ結晶面となり、−c軸側の面(−c面)は窒素原子が並んだ結晶面となる。そのため、c面は、+c軸側と−c軸側とで異なる性質を示すので、極性面(Polar Plane)と呼ばれる。
【0042】
一方、六角柱の側面がそれぞれm面{1-100}であり、隣り合わない一対の稜線を通る面がa面{11-20}である。これらは、c面に対して直角な結晶面であり、分極方向に対して直交しているため、極性のない平面、すなわち、非極性面(Nonpolar Plane)である。
さらに、c面に対して傾斜している(平行でもなく直角でもない)結晶面は、分極方向に対して斜めに交差しているため、若干の極性のある平面、すなわち、半極性面(Semipolar Plane)である。半極性面の具体例は、{20−21}面、{11-22}面、{01−12}面、{10-1-1}面、{10-1-3}面、{11-24}面、{10-12}面などである。これらのうち、{20−21}面および{11-22}面を図4に示す。
【0043】
たとえば、{20−21}面を主面とするGaN単結晶基板は、c面を主面としたGaN単結晶から切り出して作製することができる。切り出された基板の{20−21}面は、たとえば、化学的機械的研磨処理によって研磨され、c軸射影方向である<−1014>方向およびそれに直交する<11−20>方向の両方に関する方位誤差が、±1°以内(好ましくは±0.3°以内)とされる。こうして、{20−21}面を主面とし、かつ、転位や積層欠陥といった結晶欠陥のないGaN単結晶基板が得られる。
【0044】
このようにして得られるGaN単結晶基板上に、有機金属気相成長法によって、半導体レーザダイオード構造を構成するIII族窒化物半導体積層構造2が成長させられる。
{20−21}面を主面としたGaN単結晶基板上に結晶成長させられるIII族窒化物半導体は、{20−21}面を結晶成長面として成長する。c面を主面として結晶成長した場合には、c軸方向の分極の影響で、発光層10での発光効率が悪くなるおそれがある。これに対して、半極性面である{20−21}面を結晶成長主面とすれば、量子井戸層での分極が抑制され、発光効率が増加する。これにより、閾値の低下やスロープ効率の増加を実現できる。また、分極が少ないため、発光波長の電流依存性が抑制され、安定した発振波長を実現できる。さらに、m面を成長主面とする場合よりも、発光層10のIn組成を大きくできるので、長波長化が可能になる。
【0045】
図5は、{20−21}面を主面としたGaN単結晶基板上にコヒーレントに成長させたAlxGa1-xN層(0≦x≦1)の歪み量(%)を示す。図5には、アルミニウム組成xに対する歪み量の変化が示されている。c軸射影方向である<−1014>方向への歪み量ε‖[-1014]およびそれに直交する<11−20>方向への歪み量ε‖[11-20]は、いずれも正の値である。したがって、AlxGa1-xN層には、引っ張り応力が生じる。そして、その引っ張り応力は、アルミニウム組成xの増加に伴って増大する。図5に明確に表れている通り、ε‖[-1014]>ε‖[11-20]である。すなわち、c軸射影方向である<−1014>方向への歪み量ε‖[-1014]は、それに直交する<11−20>方向への歪み量ε‖[11-20]よりも大きい。このことは、<−1014>方向に直交する結晶面での劈開が、<11−20>方向に直交する結晶面での劈開よりも容易であることを意味する。
【0046】
そこで、この実施形態では、レーザ共振面21,22をc軸射影方向である<−1014>方向に直交する{−1014}面としている。したがって、基板1上にIII族窒化物半導体積層構造2を成長させた元基板を{−1014}面で劈開することにより、平坦性の良好な劈開面からなるレーザ共振面21,22が得られる。
図6は、{20−21}面を結晶成長面として成長させたIII族窒化物半導体(試料)のPL(フォトルミネッセンス)偏光特性の測定結果を示す。具体的には、励起光源から試料にレーザ光を照射してフォトルミネッセンスを生じさせ、発生した光を、偏光板を通してCCD分光器で検出した。図6の横軸は、{20−21}面に平行な面内で変化させた偏光板の角度(polarizer angle)を示す。偏光板角度が0度または180度のとき、偏光板は、<−1014>方向の偏光成分(電界Eが<−1014>方向に平行な偏光成分)を通過させる。偏光板角度が90度のとき、偏光板は、<11−20>方向の偏光成分(電界Eが<11−20>方向に平行な偏光成分)を通過させる。縦軸は、フォトルミネッセンス強度(PL intensity(任意単位))を示す。
【0047】
図6から、a軸射影方向である<11−20>方向の偏光成分の強度が最も強いことが分かる。したがって、c軸射影方向である<−1014>方向に共振器長方向(リッジ20の長手方向)をとることによって、最も強度の強い偏光成分がこれに直交する。その結果、TEモードの光を効率良く利用できるから、発振効率を高めることができる。
次に、この半導体レーザ素子70の製造方法について説明する。
【0048】
半導体レーザ素子70を製造するには、まず、図7に図解的に示すように、GaN単結晶基板からなるIII族窒化物半導体基板1を構成する元基板であるウエハ5の上に、半導体レーザ素子70をそれぞれ構成する複数の個別素子80(半導体レーザ素子領域)が行列状に配列されて形成される。
より具体的には、ウエハ5(GaN単結晶基板の状態)の上に、n型半導体層11、発光層10およびp型半導体層12がエピタキシャル成長させられることによって、III族窒化物半導体積層構造2が形成される。
【0049】
III族窒化物半導体積層構造2が形成された後には、たとえばドライエッチングによりリッジ20および土台部31(受け部30の一部)が形成される。このドライエッチングに先立って、リッジ20および土台部31の形成領域には、ドライエッチングのためのハードマスクとして絶縁膜33(たとえば、酸化シリコン膜)が選択的に形成される。この絶縁膜33は、ドライエッチングの後に選択的に除去される。具体的には、土台部31上には絶縁膜33が残され、リッジ20の頂面上の絶縁膜33は除去される。こうして、土台部31上に薄膜部32を構成する一層目の絶縁膜33が形成される一方で、リッジ20の頂面は露出させられる。
【0050】
次いで、たとえば酸化シリコンからなる絶縁層6が全面に形成された後、リッジ20の頂面上の絶縁層6がエッチングによって除去される。これにより、土台部31には、絶縁膜33上に、2層目の絶縁膜34(絶縁層6)が形成される。
この後、p側オーミック電極4A、p側パッド電極4B、およびn側電極3が形成される。p側オーミック電極4Aおよびp側パッド電極4Bは、パターニングにより、受け部30およびその周辺の領域を除いて形成される。これにより、p側オーミック電極4Aおよびp側パッド電極4Bは、受け部30を全く覆わず、p側電極4の周縁は、受け部30から間隔を開けて位置することになる。p側電極4の形成は、たとえば、抵抗加熱または電子線ビームによる金属蒸着装置によって行うことができる。
【0051】
こうして、複数の個別素子80が形成された状態のウエハ5が得られる。必要に応じて、n側電極3の形成に先だって、ウエハ5を薄型化するために、その裏面側からの研削・研磨処理(たとえば、化学的機械的研磨)が行われる。
各個別素子80は、ウエハ5上に仮想される碁盤目状の切断ライン7(仮想的な線)によって区画される各矩形領域に形成されている。切断ライン7は、共振器幅方向(a軸射影方向である<11−20>方向)に沿う端面切断ライン7aと、共振器長方向(c軸射影方向である<−1014>方向)に沿う側面切断ライン7bと、を有することになる。
【0052】
このような切断ライン7に沿って、ウエハ5が各個別素子80へと分割される。すなわち、ウエハ5を切断ライン7に沿って劈開して、個別素子80が切り出される。
次に、ウエハ5を個別素子80に分割する方法について、具体的に説明する。
図8A、図8Bおよび図8Cは、ウエハ5を個別素子80に分割する手順の概略を説明するための図解的な斜視図である。ウエハ5は、まず、共振器長方向(c軸射影方向)に直交する(すなわち、{−1014}面に平行な)端面切断ライン7aに沿って劈開される。これを以下「一次劈開」ということにする。この一次劈開により、図8Bに示すバー状体90が複数本得られる。各バー状体90の両側面91は、レーザ共振面21,22となる結晶面である。このバー状体90の側面91に、前述の絶縁膜23,24(反射率調整用の端面コート膜。図2参照)が形成される。
【0053】
次に、各バー状体90は、共振器長方向(c軸射影方向)に平行な側面切断ライン7bに沿って切断される。これを以下「二次劈開」ということにする。この二次劈開により、図8Cに示すように、バー状体90が個別素子80毎に分割され、複数のチップが得られる。
図9は、ウエハ5の表面におけるp側電極4および受け部30の配置を説明するための部分拡大平面図である。ウエハ5上には、複数本のリッジ20がストライプ状に形成されている。すなわち、複数本のリッジ20は、一定の間隔を開けて互いに平行に形成されている。各リッジ20は、一方向に整列した複数個の個別素子80を通るように形成されている。各リッジ20に直交する方向に沿って、端面切断ライン7aが設定されている。端面切断ライン7aは、リッジ20に平行な方向(共振器長方向)に沿って、共振器長に等しい間隔で設定されている。
【0054】
各リッジストライプ20の両側には、端面切断ライン7aの近傍の領域に、端面切断ライン7aを跨ぐように、平面視ほぼ矩形の受け部30が形成されている。一方、側面切断ライン7bは、隣り合うリッジ20からほぼ等距離の中間位置に、リッジ20と平行に設定されている。受け部30は、側面切断ライン7bを跨ぐ領域に渡って形成されている。すなわち、切断前のウエハ5の表面上では、端面切断ライン7aと側面切断ライン7bとの交差点を共有する4つの個別素子80にそれぞれ属する4つの受け部30が一体になっている。
【0055】
p側オーミック電極4Aは、リッジ20の頂面の全域にわたって形成されている。リッジ20の頂面以外の領域では、p側電極4は、側面切断ライン7bから予め定める距離だけ後退した位置に幅方向周縁が配置される帯状パターンで形成されている。さらに、p側電極4は、リッジ20の長手方向に関して受け部30に対応する領域では幅狭の帯状パターンに形成されていて、受け部30を回避している。より具体的には、この領域では、p側オーミック電極4Aは、リッジ20の頂面付近にのみ形成され、p側パッド電極4Bは形成されていない。
【0056】
図10Aは、n側電極3の第1の形成パターン例を示す底面図である。この例では、n側電極3は、切断ライン7a,7bによって区画される複数の矩形領域内にそれぞれ矩形パターンで形成されている。個々のn側電極3は、端面切断ライン7aおよび側面切断ライン7bのいずれからも予め定める距離だけ後退した周縁を有している。より具体的には、個々のn側電極3は、半導体レーザ素子70のレーザ共振面21,22に対応する端面切断ライン7aから後退した端面後退部3aと、半導体レーザ素子70の側面25に対応する側面切断ライン7bに対向する側面後退部3bとをその周縁に有している。端面後退部3aは、端面切断ライン7aと平行な直線状に形成されており、側面後退部3bは側面切断ライン7bと平行な直線状に形成されている。したがって、複数のn側電極3が形成されていない部分は、切断ライン7a,7bに整合する細い線状領域をなす。よって、この線状領域を目印として、ウエハ5を切断する際に必要な加工を行うことができる。
【0057】
図10Bは、n側電極3の第2の形成パターン例を示す底面図である。この例では、n側電極3は、端面切断ライン7aによって区画される複数の帯状領域内にそれぞれ帯状パターンで形成されている。この例のn側電極3は、側面切断ライン7bでは分離されていない。個々のn側電極3は、半導体レーザ素子70のレーザ共振面21,22に対応した端面切断ライン7aから予め定める距離だけ後退した端面後退部3cを周縁に有している。端面後退部3cは、端面切断ライン7aと平行な直線状に形成されている。したがって、複数のn側電極3が形成されていない部分は、端面切断ライン7aに整合する細い線状領域をなす。よって、この線状領域を目印として、ウエハ5を切断する際に必要な加工を行うことができる。
【0058】
図10Cは、n側電極3の第3の形成パターン例を示す底面図である。この例では、n側電極3は、各端面切断ライン7aの両端に一対のノッチ37を有している。ノッチ37は、n側電極3の内方に向かって後退する形状を有している。この例のn側電極3は、切断ライン7a,7bでは分離されていない。リッジ20に直交する方向に沿って対向する一対のノッチ37を通る直線は、端面切断ライン7aに整合する。そこで、ノッチ37を目印として、ウエハ5を切断する際に必要な加工を行うことができる。
【0059】
図11Aおよび図11Bは、一次劈開の具体例を説明するための説明図である。一次劈開は、図11Aに示す裏面スクライブ工程と、図11Bに示す表面ブレーキング工程とを含む。
裏面スクライブ工程は、図11Aに示すように、ウエハ5の裏面から端面切断ライン7aに沿ってスクライブ加工を施す工程である。ウエハ5の表面はリッジ20が形成されている主面であり、その反対の主面がウエハ5の裏面である。スクライブ加工は、レーザ加工機(レーザスクライバ)によって行ってもよいし、ダイヤモンドスクライバによって行ってもよい。スクライブ加工によって、ウエハ5の裏面側には、端面切断ライン7aに沿って、連続した端面加工痕8が形成されることになる。この端面加工痕8は、各個別素子80(半導体レーザ素子70)において、レーザ共振面21,22の幅方向全域に渡って連続することになる。端面加工痕8は、溝形状(分割ガイド溝)であってもよい。スクライブ加工の深さは、端面切断ライン7aにおけるウエハ5の厚さ(より正確には基板1およびIII族窒化物半導体積層構造2を含む半導体積層構造の厚さ)の10%以上であることが好ましい。したがって、端面加工痕8は、ウエハ5(基板1およびIII族窒化物半導体積層構造2)の裏面から、その厚さの10%以上の深さの範囲に至る下縁領域に形成されることになる。
【0060】
表面ブレーキング工程は、図11Bに示すように、ウエハ5の表面側から、端面切断ライン7aに沿ってブレード9(たとえばセラミックブレード)をあてがって、ウエハ5に外力を加える工程である。これにより、ウエハ5は、端面加工痕8に沿って、ウエハ5の主面に垂直な結晶面で劈開される。こうして、リッジ20に垂直な劈開面からなるレーザ共振面21,22が得られる。これらのレーザ共振面21,22は、裏面側の下縁領域にそれぞれ端面加工痕8を有することになる。端面加工痕8は、たとえば、線状の溝を長手方向に沿って半割した形状(部分溝形状)を有していてもよい。
【0061】
ブレード9をウエハ5にあてがうとき、ブレード9のエッジは受け部30に当接し、プレート9からの外力の大部分は受け部30で受けられる。これは、受け部30の高さがリッジ20の高さ(より正確にはその頂面に形成されたp側オーミック電極4Aの高さ)以上であり、受け部30のブレード9に沿う方向の長さがリッジ20の幅よりも大きいからである。したがって、ブレード9によってウエハ5に外力を加えるとき、この外力のほとんど(または全部)は受け部30によって受けられ、リッジ20にはほとんど(または全く)作用しない。そのため、リッジ20を外力から保護しながら、ブレード9によるブレーキング工程を行うことができる。したがって、導波路を傷付けることなく一次劈開を行うことができるから、歩留まりがよくなる。
【0062】
図12Aおよび図12Bは、二次劈開の具体例を説明するための説明図である。この具体例に係る二次劈開は、図12Aに示す裏面スクライブ工程と、図12Bに示す表面ブレーキング工程とを含む。
裏面スクライブ工程は、図12Aに示すように、ウエハ5の裏面から側面切断ライン7bに沿ってスクライブ加工を施す工程である。このスクライブ加工は、一次劈開のブレーキング工程の前に行うことが好ましいが、一次劈開のスクライブ加工(端面切断ライン7aに沿ったスクライブ加工)の前であっても後であってもよい。スクライブ加工は、レーザ加工機(レーザスクライバ)によって行ってもよいし、ダイヤモンドスクライバによって行ってもよいが、一次劈開のスクライブ加工と同じ加工方法が好ましい。スクライブ加工によって、ウエハ5の裏面側には、側面切断ライン7bに沿って、側面加工痕28が形成されることになる。側面加工痕28は、溝形状(分割ガイド溝)であってもよい。スクライブ加工の深さは、側面切断ライン7bにおけるウエハ5の厚さ(より正確にはリッジ20および受け部30以外の部分における基板1およびIII族窒化物半導体積層構造2の合計の厚さ)の80%以上であることが好ましい。したがって、側面加工痕28は、ウエハ5(基板1およびIII族窒化物半導体積層構造2を含む半導体積層構造)の裏面から、その厚さの80%以上の深さの範囲に至る下縁領域に形成されることになる。
【0063】
表面ブレーキング工程は、図12Bに示すように、一次劈開におけるブレーキング工程よりも後に行われる。したがって、二次劈開における表面ブレーキング工程は、一次劈開によって得られたバー状体80の表面側から、側面切断ライン7bに沿ってブレード29(たとえばセラミックブレード)をあてがって、ウエハ5(バー状体80)に外力を加える工程である。これにより、ウエハ5(バー状体80)は、側面加工痕28に沿って、ウエハ5の主面に垂直な結晶面で劈開される。こうして、リッジ20に平行な側面25が形成される。これらの側面25は、裏面側の下縁領域にそれぞれ側面加工痕28を有することになる。側面加工痕28は、たとえば、線状の溝を長手方向に沿って半割した形状(部分溝形状)を有していてもよい。
【0064】
ブレード29をウエハ5(バー状体80)にあてがうとき、ブレード29のエッジは受け部30に当接する。これは、受け部30の高さがp側オーミック電極4Aの高さよりも高いからである。したがって、ブレード29によってウエハ5(バー状体80)に外力を加えるとき、この外力は、最初に受け部30によって受けられる。そのため、受け部30から劈開が始まり、バー状体80の共振器長方向全域へと劈開範囲が広がる。これにより、リッジ20に平行な側面に関する劈開も安定して行うことができる。
【0065】
図13Aおよび図13Bは、二次劈開の他の具体例を説明するための説明図である。この具体例に係る二次劈開は、図13Aに示す表面スクライブ工程と、図13Bに示す裏面ブレーキング工程とを含む。
表面スクライブ工程は、図13Aに示すように、ウエハ5の表面から側面切断ライン7bに沿ってスクライブ加工を施す工程である。このスクライブ加工は、一次劈開のブレーキング工程の前に行うことが好ましいが、一次劈開のスクライブ加工(端面切断ライン7aに沿ったスクライブ加工)の前であっても後であってもよい。スクライブ加工は、レーザ加工機(レーザスクライバ)によって行ってもよいし、ダイヤモンドスクライバによって行ってもよい。スクライブ加工によって、ウエハ5の表面側には、側面切断ライン7bに沿って、側面加工痕38が形成されることになる。側面加工痕38は、溝形状(分割ガイド溝)であってもよい。スクライブ加工の深さは、側面切断ライン7bにおけるウエハ5の厚さ(より正確にはリッジ20および受け部30以外の部分における基板1およびIII族窒化物半導体積層構造2の合計の厚さ)の80%以上であることが好ましい。したがって、側面加工痕38は、ウエハ5(基板1およびIII族窒化物半導体積層構造2を含む半導体積層構造)の表面から、その厚さの80%以上の深さの範囲に至る上縁領域に形成されることになる。
【0066】
裏面ブレーキング工程は、図13Bに示すように、一次劈開におけるブレーキング工程よりも後に行われる。したがって、二次劈開における裏面ブレーキング工程は、一次劈開によって得られたバー状体80の裏面側から、側面切断ライン7bに沿ってブレード39(たとえばセラミックブレード)をあてがって、ウエハ5(バー状体80)に外力を加える工程である。これにより、ウエハ5(バー状体80)は、側面加工痕38に沿って、ウエハ5の主面に垂直な結晶面で劈開される。こうして、リッジ20に平行な側面25が形成される。これらの側面25は、図13Bに示すように、裏面側の上縁領域にそれぞれ側面加工痕38を有することになる。側面加工痕38は、たとえば、線状の溝を長手方向に沿って半割した形状(部分溝形状)を有していてもよい。
【0067】
以上のように、この実施形態の半導体レーザ素子70においては、半導体レーザダイオード構造を構成するIII族窒化物半導体積層構造2は、半極性面である{20−21}面を結晶成長面として基板1上に成長させられている。そのため、In組成の大きな発光層10を形成することができるから、緑色波長域の半導体レーザ素子70を実現できる。半極性面を結晶成長主面とするIII族窒化物半導体では、内部電場の影響が小さいので、非極性面であるm面を結晶成長面とするIII族窒化物半導体の場合と同様に、発振効率の良い半導体レーザ素子を実現できる。さらに、リッジ20は、c軸射影方向である<−1014>方向と平行にとられ、c軸射影方向と垂直な{−1014}面がレーザ共振面21,22となっている。{−1014}面は、III族窒化物半導体積層構造2の内部応力を利用した劈開が可能な結晶面であるから、平坦性の良い劈開面からなるレーザ共振面21,22が得られる。これにより、優れた発振効率を実現できる。しかも、{20−21}面を成長主面として形成した半導体レーザダイオード構造(III族窒化物半導体積層構造2)は、<−1014>方向と直交する<11−20>方向の偏光を発生する。したがって、<11−20>方向と直交する<−1014>方向に共振器長をとることにより、TEモードの光を効率良く利用することができ、発振効率を一層高めることができる。
【0068】
また、この実施形態では、基板1およびIII族窒化物半導体積層構造2を含む半導体積層構造が、レーザ共振面21,22の下縁領域に形成された端面加工痕8を有している。すなわち、この半導体レーザ素子70では、半導体積層構造の裏面側から加工を施して端面加工痕8を形成し、半導体積層構造の表面側からブレード9をあてがって外力を加えることで元基板を劈開し、その劈開面によってレーザ共振面21,22を形成できる。端面加工痕8は、リッジ20が形成されていない裏面側に形成されるので、リッジ20の付近に不連続部を有する不連続パターンに形成する必要がないから、連続パターンに形成できる。そのため、表面側から加える外力による劈開を安定に行うことができるので、良好な劈開面を得ることができる。これにより、特性の優れた半導体レーザ素子70を提供できる。具体的には、しきい値電流の低減、スロープ効率の増大、および動作電流の低減を達成できる。
【0069】
また、半導体レーザ素子70においては、III族窒化物半導体積層構造2の表面においてリッジ20の長手方向と直交する幅方向へ離れた位置に受け部30が配置されており、この受け部30は、リッジ20以上の高さを有し、前記幅方向の長さがリッジ20の幅よりも大きく、かつp側オーミック電極4Aから間隔を開けて形成されている。これにより、ウエハ5の表面側にブレード9をあてがって外力を加えるときに、この外力のほとんどまたは全部を受け部30に作用させることができる。これにより、リッジ20を保護しながら元基板であるウエハ5を分割(劈開)して、良好な劈開面からなるレーザ共振面21,22を形成できる。しかも、受け部30は、幅方向の長さがリッジ20の幅よりも大きいので、外力を確実に受けることができる。また、受け部30は、p側オーミック電極4Aから間隔を開けて形成されているので、外力を受けるときにp側オーミック電極4Aを傷付けることがない。これにより、電流リーク等の不具合の原因となることもない。
【0070】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明は、さらに他の形態で実施することもできる。たとえば、前述の実施形態では、リッジ20の両側に受け部30を設けて、端面切断ライン7aに沿ってウエハ5を分割する際にブレード9がリッジ20に外力をほとんど及ぼさないようになっている。しかし、リッジ20の高さがさほど高くなく、リッジ20が損傷する可能性が低い場合には、受け部30を省いてもよい。また、III族窒化物半導体積層構造2を構成する各層の組成は一例にすぎず、必要な仕様に応じて変更してもよい。さらに、前述の実施形態では、{20−21}面を成長主面としたIII族窒化物半導体積層構造2を用いる例を具体的に説明したが、他の半極性面である{11-22}面、{01−12}面、{10-1-1}面、{10-1-3}面、{11-24}面、{10-12}面などを主面(結晶成長面)としたIII族窒化物半導体積層構造によって半導体レーザダイオード構造が構成されてもよい。
【0071】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 基板(GaN単結晶基板)
2 III族窒化物半導体積層構造
3 n側電極
3a 端面後退部
3b 側面後退部
3c 端面後退部
4 p側電極
4A p側オーミック電極
4B p側パッド電極
5 ウエハ
6 絶縁層
7 切断ライン
7a 端面切断ライン
7b 側面切断ライン
8 端面加工痕
9 ブレード
10 発光層
11 n型半導体層
12 p型半導体層
13 n型GaNコンタクト層
14 n型AlInGaNクラッド層
15 n型InGaNガイド層
16 p型AlGaN電子ブロック層
17 p型InGaNガイド層
18 p型AlInGaNクラッド層
19 p型GaNコンタクト層
20 リッジ
21 レーザ共振面
22 レーザ共振面
23 絶縁膜
24 絶縁膜
25 側面
28 側面加工痕
29 ブレード
30 受け部
31 土台部
32 薄膜部
33 絶縁膜
34 絶縁膜
37 ノッチ
38 側面加工痕
39 ブレード
70 半導体レーザ素子
80 個別素子(半導体レーザ素子領域)
90 バー状体
91 バー状体の側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半極性面を結晶成長面とするIII族窒化物半導体からなり、Inを含む発光層と、この発光層の一方側に配置されたp型ガイド層と、前記発光層の他方側に配置されたn型ガイド層と、前記p型ガイド層の前記発光層とは反対側に配置されたp型クラッド層と、前記n型ガイド層の前記発光層とは反対側に配置されたn型クラッド層とを有する半導体積層構造を含み、
前記半導体積層構造が、前記結晶成長面へのc軸の射影ベクトルと平行に形成された直線状の導波路と、前記射影ベクトルと垂直な劈開面からなる一対のレーザ共振面とを含む、
半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記半極性面が{20−21}面であり、前記レーザ共振面が{−1014}面である、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記半導体積層構造が、前記導波路に沿って前記一対のレーザ共振面の間で延びるリッジを含み、
前記半導体レーザ素子が、
前記半導体積層構造の前記リッジが配置されている側の表面に形成された表面電極と、
前記半導体積層構造の前記表面において前記リッジの長手方向と直交する幅方向へ離れた位置に配置され、前記リッジと等しいかそれ以上の高さを有し、前記幅方向の長さが前記リッジの幅よりも大きく、かつ前記表面電極から間隔を開けて形成された受け部とをさらに含む、
請求項1または2に記載の半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記半導体積層構造の前記表面とは反対側の裏面に形成され、前記一対のレーザ共振面から内方に後退した端面後退部を周縁に有する裏面電極をさらに含む、請求項3に記載の半導体レーザ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−124273(P2012−124273A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272761(P2010−272761)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】