説明

半導体レーザ装置

【課題】 屈折率導波構造を有し、横モードが高次モードもしくはマルチモードで発振するGaN系のストライプ型半導体レーザの複数の発光領域を高輝度に集光可能にするため、水平ビーム放射角度を小さく抑える。
【解決手段】 例えばp-GaNキャップ層28およびp-Al0.1Ga0.9Nクラッド層27に幅W2のリッジ構造が形成されてなる屈折率導波構造を有し、横モードが高次モードもしくはマルチモードで発振するGaN系のストライプ型半導体レーザにおいて、ストライプ中央部とストライプ外との実効屈折率差Δnを1.5×10-2以下に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体レーザ装置に関し、特に詳細には、横モードが高次モードもしくはマルチモードで発振するストライプ幅が3μm以上のGaN系半導体レーザチップから発せられたレーザビームを合波するようにした半導体レーザ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、600nm以下の短波長領域で発光する光源として、III-V族窒化物であるAlInGaN系の半導体レーザが注目されている。このAlInGaN等のGaN系材料は非特許文献1に記載されているように、青・緑の波長領域の半導体発光素子を形成する上で極めて優れた特性を有しており、近時は、該材料を用いて360〜500nmの短波長域で発振する半導体レーザの実用化および技術開発が進められている。
【0003】
この種の半導体レーザは、発振波長が短くて、現在実用化されている最短波長の630nm半導体レーザより格段に小さい光スポットが得られることから、高記録密度タイプの光ディスクメモリ用光源への応用が最も期待されている。また、450nm以下の短波長光源は、短波長域に感度が高い感光材料を用いた印刷などの分野におけるデジタル画像形成機器の光源として重要であり、405nm域の半導体レーザはフォトポリマ材料を用いたCTP(computer to plate)用の露光光源として実用化されている。これらの応用には、光学的に高品質な単峰性のガウスビームが必要であるので、半導体レーザとしては高品位の基本横モードレーザを用いることが必須となる。
【0004】
基本横モード発振を実現するためには、屈折率導波型の素子構造を用いて導波モードの安定化を図る必要がある。その要求を満たす上で、屈折率導波構造の屈折率差つまり、ストライプ中央部とストライプ外との実効屈折率差Δnは、通常5×10-3〜1×10-2の範囲に設定されている。また基本横モード発振を実現するためにはそれと併せて、2μm以下の極めて狭いストライプ幅が必要となっている。このため、素子端面における光密度は極めて大きくなり、例えば光ディスクの記録用光源として用いられる50mWタイプの半導体レーザにおいて、素子端面の光密度は約5MW/cm2程度まで達する。したがって、基本横モード発振するGaN系半導体レーザでは、100〜200mW程度が、数千〜10000時間以上の実用的な信頼性をもって1つのストライプから得られる連続光出力の限界と考えられる。
【0005】
また、更に大きな光出力を得るためには、ストライプ幅を広く取って高次横モードあるいはマルチ横モード発振させる必要がある。そのような大出力の半導体レーザとして具体的には、ストライプ幅が50〜2000μm程度で0.5〜5W程度の大出力が得られる赤色や赤外領域のブロードストライプ半導体レーザが、固体レーザ励起、溶接、半田付け、医療用等の分野で広く用いられている。
【0006】
前述したGaN系半導体レーザは、短波長の利点を活かして、上述のような応用分野において赤色や赤外領域の半導体レーザと置き換えられる可能性がある。またこのGaN系半導体レーザは、光子エネルギーが高いことから、光化学反応を活用した材料改質、産業に応用される可能性もある。そのような応用を実現する上では、高次横モードや横マルチモードで発振する素子の性能向上が重要となる。特に、大出力光源はエネルギーとしての光を用いるが、単に出力を上げるのでなく輝度を上げることが重要となる。また、GaN系半導体レーザでは、横方向成長を用いて部分的に結晶欠陥(転位)密度を下げて高信頼性を実現しているため、現状では、高品位の結晶性を維持してストライプ幅を広げるには限界がある。最近、全面低転位密度のGaN基板が作製されているが、一般のサファイア基板に比べて極めて高価であるため、一般的に使われるには一層の低コスト化が望まれている。
【0007】
このような状況下で、大出力で高輝度、すなわち単位面積あたりのレーザパワーの大きいレーザ装置を実現するには、複数の発光領域からのレーザビームを合波集光することが有効となる。図4は、この合波集光系が適用された半導体レーザ装置の一般的なタイプを模式的に示すものである。この半導体レーザ装置においては、複数の半導体レーザチップLD1〜5を集積し、それらから発せられたレーザビームB1〜5を各々焦点距離=f1、開口数=NA1のコリメートレンズC1〜5により平行光とした後、焦点距離=f2、開口数=NA2の集光レンズDによって合波集光する。また図5には、1つの半導体チップに複数の発光領域を集積してなる半導体レーザアレイLAから発せられたレーザビームB1〜5を合波集光するようにした半導体レーザ装置を示す。
【非特許文献1】ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Japanese Journal of Applied Physics)1995年、第34巻、第7A号、第L797-799頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上例示した合波レーザ光源では、接合面に平行な方向に連なる複数の近視野像を合波している。この際の光学系の倍率mは、m=f2/f1で表される。また、半導体レーザの近視野像の幅をW1とすると、集光スポットの接合面に平行な方向の幅W2は、W2=m×W1となる。集光ビームの広がり角度をNA2とすると、このNA2に基づいて出力ビームの輝度(スポット径と広がり角度の積)を規定できる。他方、n本のビームを合波したコリメート光が集光レンズで絞れるためには、(n/m)× NA1 ≦NA2、を満たす必要がある。したがって、与えられた光学系において、合波するビーム本数nを増やして高出力・高輝度化するためには、半導体レーザの出力ビームの放射角度NA1(=コリメートレンズの開口数)を小さくする必要がある。
【0009】
また、上に示したように合波ビーム本数nを増やすためのみならず、GaN系半導体レーザ装置の水平ビーム放射角度、つまり接合面に平行な方向の放射角度を小さくしたいという要求は広く存在するものである。
【0010】
本発明は上記の事情に鑑み、水平ビーム放射角度を小さく抑えることができる半導体レーザチップから発せられたレーザビームをより多数合波可能で、高出力・高輝度の合波ビームを得ることができる半導体レーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による半導体レーザ装置を構成するレーザチップは、前述したように屈折率導波構造を有し、横モードが高次モードもしくはマルチモードで発振するGaN系のストライプ型半導体レーザにおいて、ストライプ中央部とストライプ外との実効屈折率差Δnが1.5×10-2以下となっていることを特徴とするものである。
【0012】
なお上記の実効屈折率差Δnは、より好ましくは5×10-3≦Δn≦1.5×10-2、さらに好ましくは5×10-3≦Δn≦1×10-2の範囲に設定される。
【0013】
また上記構成の半導体レーザにおいて、ストライプの幅は5μm以上とされることが望ましい。
【0014】
また上記屈折率導波構造としては、リッジ導波路構造あるいは内部ストライプ型導波路構造のいずれもが好適に採用され得る。
【0015】
また上記構成を有する本発明の構成要件である半導体レーザは、1つの半導体チップにストライプ構造を1つ備えるものとして形成されてもよいし、あるいは1つの半導体チップに、各々の発光点が接合面に平行な方向にほぼ一線に並ぶ状態にして複数のストライプ構造が設けられて、半導体レーザアレイとして形成されてもよい。
【0016】
一方、本発明による1つの半導体レーザ装置は、上に説明した1つの半導体チップにストライプ構造を1つ備えてなるタイプの半導体レーザを用いた合波レーザ装置であって、
各々の発光点が接合面に平行な方向にほぼ一線に並ぶ状態に配置された複数の上記半導体レーザチップと、
各半導体レーザチップから発せられたレーザビームを各々平行光化する複数のコリメートレンズと、
該コリメートレンズを通過した複数のレーザビームをほぼ共通の点に集光する集光レンズとからなることを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明による別の半導体レーザ装置は、上記半導体レーザアレイとして形成された半導体レーザチップを用いた合波レーザ装置であって、
1つまたは複数の該半導体レーザチップと、
該半導体レーザチップから発せられたレーザビームを各々平行光化する複数のコリメートレンズと、
該コリメートレンズを通過した複数のレーザビームをほぼ共通の点に集光する集光レンズとからなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
導波路設計で放射角度が決められる基本横モード発振の半導体レーザと異なり、ストライプ幅を広げて高次横モードを含む横マルチモードで発振させる半導体レーザについては、従来、ビーム放射角度の制御ができないと考えられてきた。以下、この点について、実例を挙げて詳しく説明する。
【0019】
本発明者は、図6に示す発振波長808nmの幅広ストライプのマルチモード半導体レーザについて、多種のサンプル素子を作製して、ビーム放射角度を左右する条件を調べた。なおこの図6の半導体レーザは、n-GaAs基板1(Si=2×1018 cm-3ドープ)、n-GaAsバッファ層2(Si=1×1018 cm-3ドープ、0.5μm厚)、n-Al0.63Ga0.37Asクラッド層3(Si=1×1018 cm-3ドープ、1μm厚)、アンドープSCH活性層4、p-Al0.63Ga0.37Asクラッド層5(Zn=1×1018 cm-3ドープ、1μm厚)、p-GaAsキャップ層6(Zn=2×1019 cm-3ドープ、0.3 μm厚)、SiO2絶縁膜7、p側電極8(Ti/Pt/Au)およびn側電極9を有する。ここで、アンドープSCH活性層4はIn0.48Ga0.52P光ガイド層(アンドープ、層厚Wg=0.1μm)、In0.13Ga0.87As0.75P0.25量子井戸層(アンドープ、10 nm)、In0.48Ga0.52P光ガイド層(アンドープ、層厚Wg=0.1μm)からなる。
【0020】
本例の半導体レーザは、底の幅がW3のメサストライプ構造を有するものであるが、このストライプ幅W3の値を10、15、20、25、55μmとした5種のサンプル素子を作製した。さらに、p-Al0.63Ga0.37Asクラッド層5のメサストライプ外のエッチング領域における残し厚みt1を変えることにより、ストライプ中央部とストライプ外との実効屈折率差Δnを制御し、該Δnの値を5×10-3、7×10-3、1.4×10-2とした3種のサンプル素子を作製した。なお、従来の赤外半導体レーザにおいては、安定な屈折率導波が得られるΔn=9×10-7以上の範囲ではビーム放射角度が変化しないため、Δnを例えば2×10-2以上と大きめに取るようにしてきた。この半導体レーザは、室温において波長約808nm、閾値電流約100mAで発振した。
【0021】
この半導体レーザについて、水平ビーム放射角度、つまり接合面と平行な面内のビーム放射角度(半値全幅)と前記実効屈折率差Δnとの関係、同じく水平ビーム放射角度(半値全幅)と前記ストライプ幅W3との関係を求めた結果を、それぞれ図7、図8に示す。
【0022】
図7に示されるように、この種の赤外域の幅広ストライプ横マルチモード半導体レーザにおいては、実効屈折率差Δnが7×10-3以上の安定な屈折率導波領域において、ビーム放射角度はΔnに依存せずほぼ一定となっている。これは、光導波路の境界条件に拘わらず、利得媒質である活性領域の特性により横モード、すなわち近視野像の基本空間周波数が支配されることを示している。なお同図でΔn=5×10-3の場合、ビーム放射角度が小さくなっているが、横モードの光出力依存性から本例では横モードが不安定となっており、活性層への注入キャリア起因のプラズマ効果による屈折率低下のため、屈折率導波が不安定であって実用に適さないことが判明した。
【0023】
一方、図8に示すビーム放射角度のストライプ幅依存性を見ると、ストライプ幅W3が約20μmでビーム放射角度が極大となり、20μm以上ではほぼ一定となる。なお、ここには示していないストライプ幅W3=200μmの素子は、W3=55μmの素子とほぼ同じビーム放射角度となった。このように、従来の赤外域の幅広ストライプのマルチモード半導体レーザにおいては、屈折率導波構造を用いても、ビーム放射角度を制御することが困難であった。特に、高輝度化に必要な小さいビーム放射角度を実現することが困難であった。
【0024】
ところが、本発明者の研究によると、同様に横モードが高次モードもしくはマルチモードで発振する半導体レーザであっても、GaN系のストライプ型半導体レーザにおける事情は全く異なることが分かった。すなわち、このGaN系のストライプ型半導体レーザの場合は、ストライプ中央部とストライプ外との実効屈折率差Δnを小さくするほど水平ビーム放射角度が小さくなり、そして、そのようにしても広いΔnの範囲において屈折率導波が安定して、十分実用に適することが判明した。
【0025】
図2は、横モードが高次モードもしくはマルチモードで発振するGaN系のストライプ型半導体レーザ装置の典型例について、ストライプ中央部とストライプ外との実効屈折率差Δnと、水平ビーム放射角度(半値全幅)との関係を調べた結果を示すものである。ここから、実効屈折率差Δnが1.5×10-2以下の範囲にあれば、20°以下と十分に小さい水平ビーム放射角度が得られることが分かる。
【0026】
また、一般には実効屈折率差Δnが小さくなるほど屈折率導波が不安定になるが、この場合は、実効屈折率差Δnの値を5×10-3と比較的小さくしても屈折率導波が安定し、安定な横モード制御が可能であることが確認された。よってこの点から、本発明を構成する半導体レーザにおいては、実効屈折率差Δnの値を5×10-3≦Δn≦1.5×10-2の範囲内に設定することがより好ましい。
【0027】
また、実効屈折率差Δnを1×10-2以下とすれば、水平ビーム放射角度は15°以下程度とさらに小さくなり、更なる高輝度化を実現できることになる。よってこの点から、本発明を構成する半導体レーザにおいては、実効屈折率差Δnの値を5×10-3≦Δn≦1×10-2の範囲内に設定することがさらに好ましい。
【0028】
また図3には、横モードが高次モードもしくはマルチモードで発振するGaN系のストライプ型半導体レーザの典型例について、ストライプ幅W1と水平ビーム放射角度(半値全幅)との関係を調べた結果を示す。同図から、ここに示すストライプ幅W1の範囲内であれば、水平ビーム放射角度はストライプ幅W1に依存しないことが分かる。そうであれば、このストライプ幅W1を5μm以上と大きく設定して、高出力化を実現するのが好ましい。
【0029】
なお図3には比較のために、ストライプ幅W1=1.4μmの基本横モード発振する半導体レーザにおける同様の関係を示す。ここから、幅広ストライプのマルチ横モード半導体レーザは、基本横モード素子と比較してビーム放射角度が顕著に大きく、ビーム放射特性が全く異なることが分かる。
【0030】
他方、本発明による半導体レーザ装置はいずれも、接合面に平行な方向に連なる複数の近視野像を合波する構成となっているが、そこでは、上述のように水平ビーム放射角度を十分小さく設定できる半導体レーザチップが用いられているので、合波するビーム本数nを増やして高出力・高輝度化を実現可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0032】
図1は、本発明の一実施形態にを構成する半導体レーザを示す断面模式図である。図示の通りこの半導体レーザは、低欠陥GaN基板20と、n-GaNバッファ層21(Siドープ、5μm厚)と、該n-GaNバッファ層21の上に順次形成されたn-In0.1Ga0.9Nバッファ層22(Siドープ、0.1μm厚)、n-Al0.1Ga0.9Nクラッド層23(Siドープ、0.45μm厚)、n-GaN光ガイド層24(Siドープ、0.1μm厚)、アンドープ活性層25、p-GaN光ガイド層26(Mgドープ、0.3μm厚)、p-Al0.1Ga0.9Nクラッド層27(Mgドープ、0.45μm厚)およびp-GaNキャップ層28(Mgドープ、0.25 μm厚)を有する。
【0033】
そして上記p-GaNキャップ層28の周囲およびp-Al0.1Ga0.9Nクラッド層27の上面はSiN膜29によって覆われ、さらにその上にはNi/Auからなるp電極30が形成され、またn-GaNバッファ層21の上の、発光領域を含まない部分にはTi/Al/Ti/Auからなるn電極31が形成されている。
【0034】
以下、この半導体レーザの作製方法について説明する。まず、図示しないサファイアc面基板上に、例えばジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Japanese Journal of Applied Physics)2000年、第39巻、第7A号、第L647頁に記載されている方法により、低欠陥GaN基板20とする層を形成する。次に常圧MOCVD法を用いて、n-GaNバッファ層21、n-In0.1Ga0.9Nバッファ層22、n-Al0.1Ga0.9Nクラッド層23、n-GaN光ガイド層24、アンドープ活性層25、p-GaN光ガイド層26、p-Al0.1Ga0.9Nクラッド層27およびp-GaNキャップ層28(Mgドープ、0.25 μm)を成長させる。
【0035】
ここで活性層25は、アンドープIn0.1Ga0.9N量子井戸層(3nm厚)、アンドープAl0.04Ga0.96N障壁層(0.01μm厚)、アンドープIn0.1Ga0.9N量子井戸層(3nm厚)、p-Al0.1Ga0.9N障壁層(Mgドープ、0.01μm厚)の4層構造とする。
【0036】
次にフォトリソグラフィと塩素イオンを用いたRIBE(reactive ion beam etching)によりp-GaNキャップ層28およびp-Al0.1Ga0.9Nクラッド層27の側部領域を、p-GaN光ガイド層26からt2の距離の位置までエッチングして、幅W2のリッジストライプを形成する。
【0037】
次にSiN膜29をプラズマCVDにより全面に製膜した後、フォトリソグラフィとエッチングによりリッジ上の不要部分を除去する。その後窒素ガス雰囲気中で熱処理によりp型不純物を活性化する。次いで、塩素イオンを用いたRIBEにより発光領域を含む部分以外のエピ層をn-GaNバッファ層21が露出するまでエッチング除去する。その後、n電極材料としてTi/Al/Ti/Au、p電極材料としてNi/Auを真空蒸着後、窒素中アニールして、オーミック電極であるn電極31、p電極30を形成する。共振器端面は劈開により形成する。
【0038】
以上により、本実施形態にを構成するGaN系ストライプ型半導体レーザが完成する。この半導体レーザは屈折率導波構造を有し、横モードが高次モードもしくはマルチモードで発振する。その発振波長は405nmである。
【0039】
先に説明した図2は、本実施形態を構成する半導体レーザについて、ストライプ中央部とストライプ外との実効屈折率差Δnと、水平ビーム放射角度(半値全幅)との関係を調べた結果を示すものである。本例では、リッジストライプ幅W2を7μmで一定とし、実効屈折率差Δnを4.8×10-3、6.5×10-3、1.07×10-2、1.42×10-2とした4種のサンプル素子を作製し、それらについて上記関係を調べた。なおこの実効屈折率差Δnの値は、上記p-Al0.1Ga0.9Nクラッド層27のエッチング残し厚t2を変えることにより変化させた。ここから、先に説明した通り、実効屈折率差Δnが1.5×10-2以下の範囲にあれば、20°以下と十分に小さい水平ビーム放射角度が得られることが分かる。
【0040】
また、一般には実効屈折率差Δnが小さくなるほど屈折率導波が不安定になるが、この場合は、実効屈折率差Δnの値を5×10-3と比較的小さくしても屈折率導波が安定し、安定な横モード制御が可能であることが確認された。よってこの点を考慮すると、実効屈折率差Δnの値は5×10-3≦Δn≦1.5×10-2の範囲内に設定することがより好ましい。
【0041】
また、実効屈折率差Δnを1×10-2以下とすれば、水平ビーム放射角度は15°以下程度とさらに小さくなり、更なる高輝度化を実現できることになる。よってこの点からは、実効屈折率差Δnの値を5×10-3≦Δn≦1×10-2の範囲内に設定することがさらに好ましい。
【0042】
また図3には、本実施形態を構成する半導体レーザについて、ストライプ幅W1と水平ビーム放射角度(半値全幅)との関係を調べた結果を示す。なお本例では、実効屈折率差Δnを9×10-3で一定とし、ストライプ幅W1=5μm、10μm、15μmとした3種のサンプル素子を作製し、それらについて上記関係を調べた。先に説明した通り、ストライプ幅W1が5μm〜15μmの範囲内であれば、水平ビーム放射角度はストライプ幅W1に依存しないことが分かる。そうであれば、このストライプ幅W1を5μm以上と大きく設定して、高出力化を実現するのが好ましい。
【0043】
なお、本実施形態と基本構造を同じくする半導体レーザは、本実施形態で使用した説明したGaN基板以外に、絶縁物のサファイア基板を用いても形成可能である。また、同様の構造をSiCのような導電性の基板上に作製することも可能である。更に、AlGaNの埋め込み構造や、その他の屈折率導波構造および電流狭窄構造を用いることも可能である。
【0044】
さらに上記実施形態では、クラッド層がAl0.1Ga0.9N、光ガイド層がGaNからなるものであるが、クラッド層のAl組成としてはキャリア閉じ込め効果を得るため0.1以上とされる。これ以上のAl組成では、光閉じ込めはAl組成増加とともに向上するため、上記は十分条件となり、良好な光閉じ込めを薄いAlGaNクラッドを用いて実現することができる。またクラッド層としては、AlGaNを含む超格子構造等を適用することも可能である。
【0045】
さらに上記実施形態を構成する半導体レーザは、1つの半導体チップに1ストライプ構造を有するように基板を劈開して作製されるが、1つの半導体チップに複数のストライプ構造を有するように基板を劈開することにより、半導体レーザアレイを作製することも可能である。
【0046】
次に、上述のような半導体レーザチップを用いた合波半導体レーザ装置の実施形態について説明する。まず一つの実施形態として、図1に示したタイプの半導体レーザチップ、すなわち1つの半導体チップに1ストライプ構造を有する半導体レーザチップを複数適用する実施形態が挙げられる。その全体形状は、図4に示したものと基本的に同様であり、その場合は図示の複数の半導体レーザLD1〜5に代えて、それぞれ図1の半導体レーザチップを用いればよい。
【0047】
なおこの場合、複数の半導体レーザチップは、各々の発光点が接合面に平行な方向にほぼ一線に並ぶ状態に配置されて、接合面に平行な方向に並ぶ複数の近視野像が互いに重ねられる形となる。
【0048】
次に別の実施形態として、1つの半導体チップに複数のストライプ構造を有してなる本発明の半導体レーザアレイを1つ適用する実施形態が挙げられる。その全体形状は、図5に示したものと基本的に同様であり、その場合は図示の半導体レーザアレイLAに代えて、上述の本発明による半導体レーザアレイを用いればよい。
【0049】
この半導体レーザアレイにおいては、一般的な半導体レーザアレイと同様に、各々の発光点が接合面に平行な方向にほぼ一線に並ぶ状態にして複数のストライプ構造が形成される。本例においても、合波集光系により、接合面に平行な方向に並ぶ複数の近視野像が互いに重ねられる形となる。なお、上述のような半導体レーザアレイを複数並設して用いて、合波するビーム本数をより多くすることも可能である。
【0050】
以上説明した半導体レーザ装置においては、いずれも、前述のように水平ビーム放射角度を十分小さく設定できる本発明の特徴である半導体レーザチップが用いられているので、合波するビーム本数nを増やして高出力・高輝度化を実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態を構成する半導体レーザチップの断面模式図
【図2】GaN系の幅広ストライプマルチ横モード半導体レーザにおける、水平ビーム放射角度とストライプ内外の実効屈折率差との関係を示す説明図
【図3】GaN系の幅広ストライプマルチ横モード半導体レーザにおける、水平ビーム放射角度とストライプ幅との関係を示す説明図
【図4】合波集光する半導体レーザ装置の一例を示す概略平面図
【図5】合波集光する半導体レーザ装置の別の例を示す概略平面図
【図6】従来の赤外域半導体レーザの一例を示す概略立断面図
【図7】従来の赤外域半導体レーザにおける、水平ビーム放射角度とストライプ内外の実効屈折率差との関係を示す説明図
【図8】従来の赤外域半導体レーザにおける、水平ビーム放射角度とストライプ幅との関係を示す説明図
【符号の説明】
【0052】
20 低欠陥GaN基板層
21 n-GaNバッファ層
22 n-In0.1Ga0.9Nバッファ層
23 n-Al0.1Ga0.9Nクラッド層
24 n-GaN光ガイド層
25 アンドープ活性層
26 p-GaN光ガイド層
27 p-Al0.1Ga0.9Nクラッド層
28 p-GaNキャップ層
29 SiN膜
30 p電極
31 n電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率導波構造を有し、横モードが高次モードもしくはマルチモードで発振するGaN系のストライプ型半導体レーザ装置において、ストライプ中央部とストライプ外との実効屈折率差Δnが1.5×10-2以下となっていることを特徴とする半導体レーザ装置。
【請求項2】
前記実効屈折率差Δnが、5×10-3≦Δn≦1.5×10-2の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の半導体レーザ装置。
【請求項3】
前記実効屈折率差Δnが、5×10-3≦Δn≦1×10-2の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の半導体レーザ装置。
【請求項4】
前記ストライプの幅が5μm以上であることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の半導体レーザ装置。
【請求項5】
前記屈折率導波構造が、リッジ導波路構造であることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の半導体レーザ装置。
【請求項6】
前記屈折率導波構造が、内部ストライプ型導波路構造であることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の半導体レーザ装置。
【請求項7】
1つの半導体チップにストライプ構造を1つ備えてなることを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の半導体レーザ装置。
【請求項8】
1つの半導体チップに、各々の発光点が接合面に平行な方向にほぼ一線に並ぶ状態にして複数のストライプ構造が設けられて、半導体レーザアレイとして形成されたことを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の半導体レーザ装置。
【請求項9】
各々の発光点が接合面に平行な方向にほぼ一線に並ぶ状態に配置された請求項7記載の半導体レーザチップ複数と、
各半導体レーザチップから発せられたレーザビームを各々平行光化する複数のコリメートレンズと、
該コリメートレンズを通過した複数のレーザビームをほぼ共通の点に集光する集光レンズとからなる半導体レーザ装置。
【請求項10】
1つまたは複数の請求項8記載の半導体レーザチップと、
該半導体レーザチップから発せられた複数のレーザビームを各々平行光化する複数のコリメートレンズと、
該コリメートレンズを通過した複数のレーザビームをほぼ共通の点に集光する集光レンズとからなる半導体レーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−120923(P2006−120923A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−308285(P2004−308285)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】