説明

半導体レーザ装置

【課題】再生系光ディスクシステムの光源に十分に使用可能な、安定した自励発振特性を有するIII族窒化物からなる半導体レーザ装置を実現できるようにする。
【解決手段】半導体レーザ装置は、基板11の上に形成され、AlGa1−xNからなるn型クラッド層13と、n型クラッド層13の上に形成されたMQW活性層15と、MQW活性層15の上に形成され、AlGa1−yNからなるp型クラッド層19と、p型クラッド層19の上に形成されたp型コンタクト層20と、基板11とn型クラッド層13の間に形成され、AlGa1−zNからなるn型反射抑制層12とを有している。n型クラッド層13におけるAl組成x、p型クラッド層19におけるAl組成y及びn型反射抑制層12におけるAl組成zは、x<zで且つy<zの関係を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ装置に関し、特に自励発振型半導体レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光ディスク及び光磁気記録ディスク等の記録媒体に対する光学的記録装置及び光学的読み出し装置等に用いる光ピックアップ光源として、半導体レーザ装置が多用されている。その用途はレコーダ用、PC用及び車載用等の多岐にわたり、光ディスク市場は拡大し続けている。特に最近では、青紫色の発光波長を有するIII族窒化物半導体、いわゆる窒化ガリウム系半導体(AlGaInN)レーザ装置を用いた次世代DVD(Digital Versatile Disc)のうちBlu−ray市場が急速な立ち上がりを見せている。なかでも、再生専用の次世代DVDが占める割合は高く、車載用途の青紫色半導体レーザ装置の研究開発が進められている。
【0003】
ところで、光ピックアップ装置の光源となる半導体レーザ装置に求められる特性として、低雑音特性が挙げられる。
【0004】
以下、半導体レーザ装置における雑音の発生要因について説明する。
【0005】
半導体レーザ装置を光ピックアップ光源に用いると、光ディスク若しくは光記録媒体及び光学系部材等からの反射光が半導体レーザ装置にフィードバックされる。この場合、レーザ光の可干渉性(コヒーレンス)が高い場合には、半導体レーザ装置における共振器内の光と反射光とが互いに干渉し、結果的に半導体レーザ装置の出力に雑音が生じてしまうことが分かっている。このレーザ光の可干渉性を低くするには、半導体レーザ装置における発振スペクトルをマルチモード発振させることが有効である。
【0006】
例えば、射光に起因する雑音の解決法としては、(1)半導体レーザ装置を高周波重畳回路を用いて変調し、発振スペクトルをマルチモード化する。(2)半導体レーザ装置を自励発振(パルス発振)型のレーザ装置として発振スペクトルをマルチモード化する等の方法が知られている。
(1)半導体レーザ装置を高周波重畳回路により変調させる方法は、高周波重畳モジュールを使用することから部品点数が増大するため、光ピックアップ装置の小型化及びコストの面で不利である。また、高周波重畳回路からの不要輻射により、他の電子機器の誤動作が発生するおそれがある。
(2)高周波重畳回路を用いずに発振スペクトルをマルチモード化させる方法には、半導体レーザ装置の導波路内に可飽和吸収体を形成し、自励発振を生じさせる方法がある。これにより、レーザ発振による発振強度が時間の経過に対してパルス状に周期的に変化する。これにより、発振スペクトルがマルチモード化するため、レーザ出射光の干渉性が低下する。このような干渉性が低下した半導体レーザ装置は、光ディスクからの反射光が半導体レーザ装置に戻ってきたとしても、レーザ装置からの出射光と反射による戻り光とが干渉を起こさず、雑音の発生が抑えられるため、データの読み出しエラーを防止することができる。しかも、半導体レーザ装置自体をパルス発振状態とするため、高周波重畳回路等の付加的な部品を設ける必要がないので、小型化、軽量化及び低コスト化を図れると共に、不要輻射が生じないという効果を有する。
【0007】
このような自励発振型の半導体レーザ装置として、特許文献1が知られている。ここには、活性層の井戸層の層数を2〜4層、その厚さを10nm以下とし、AlGa1−xNからなるクラッド層におけるAl組成を0≦x≦0.3とすることにより、安定な自励発振を実現する青紫色レーザ装置が得られると記載されている。
【特許文献1】特開平11−214788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記従来のIII族窒化物系半導体を用いた自励発振型半導体レーザ装置は以下のような問題を有している。
【0009】
まず、III族窒化物系半導体は、赤外レーザ装置や赤色レーザ装置の活性層を構成するAlGaAs系材料及びAlGaInP系材料と比べて微分モーダル利得が大きいことから、自励発振時のピークパワー強度が高くなりやすく、再生時の光出力動作時でも光ディスクの情報が書き換えられてしまうおそれがある。ここで、微分モーダル利得とは、活性層の微分利得(利得の動作キャリア密度に対する変化)と活性層における光閉じ込め係数との積であり、この値が大きいほど低い注入キャリア密度で発振しやすいレーザ装置であるといえる。但し、微分モーダル利得が大きい場合は、可飽和吸収効果により可飽和吸収体がレーザ光に対して透明な状態になると、光出力が時間的に急激に増大し、自励発振による光のパルスのピークパワー強度が高くなるため、再生時の動作光出力によっても光ディスクの情報が書き換わってしまう。
【0010】
図13に従来報告されている自励発振型の赤外レーザ装置、赤色レーザ装置及び青紫色レーザ装置の各微分モーダル利得を示す。図13からも分かるように、微分モーダル利得は、赤外レーザ装置、赤色レーザ装置及び青紫色レーザ装置の順に大きくなっており、青紫色レーザ装置は自励発振時のピークパワー強度が高くなりやすい。
【0011】
図14(a)及び図14(b)に従来の青紫色レーザ装置と赤色レーザ装置の自励発振時の光出力の時間応答特性を示す。図14(b)に示す赤色レーザ装置においては、ピークパワー強度と平均出力との比の値が5.3倍であるのに対して、図14(a)に示す青紫色レーザ装置においては、平均出力に対し光パルスのピークパワー強度が高く、ピークパワー強度と平均出力との比の値が8.1倍である。ここで、ピークパワー強度が平均出力の7倍以上になると、光ディスクの情報が書き換えられてしまう場合があることが分かっている。従って、ピーク強度と平均出力との比の値は、7倍以下に設定する必要がある。
【0012】
III族窒化物系半導体を用いた自励発振型レーザ装置は、高い微分モーダル利得を持つことにより、再生時においても高いピークパワー強度による光ディスク書き換えが発生する一方、正孔の有効質量が大きいことに起因して、発振閾値が大きくなるという問題もある。発振閾値の増大は温度特性の劣化をもたらすため、信頼性の低下につながる。
【0013】
従って、微分モーダル利得を大きくすれば自励発振の光のピーク強度が高くなって、光ディスクの情報が再生動作時においても書き換わるおそれがある。これに対し、光のピークパワー強度を抑えるために微分モーダル利得を小さくすれば、発振閾値が増大して、信頼性の低下につながる。このため、ピークパワー強度を抑えつつ、発振閾値が大きくならないという最適な微分モーダル利得が必要となる。
【0014】
さらに、反射光による雑音特性劣化に加えて、青紫色レーザ装置(レーザチップ)の結晶成長用基板である窒化ガリウム(GaN)は、発振波長に対して透明であるため、レーザ光を吸収するGaAs基板を用いる赤外レーザ装置や赤色レーザ装置と比較して基板からの反射光が多い。その上、自然放出光又は散乱されたレーザ光がGaNからなる基板とクラッド層との界面で発生する、いわゆるチップ内部の迷光も多い。
【0015】
図15に示す従来の青紫色レーザ装置、赤外レーザ装置及び赤色レーザ装置における各電流(Iop)−光出力(Po)特性からも分かるように、レーザ発振前(発振電流閾値以前)において、青紫色レーザ装置は、赤外レーザ装置及び赤色レーザ装置よりも迷光量が多くなっている。迷光が活性層で吸収されると、光出力に揺らぎが生じるため雑音レベルが高くなり、相対強度雑音(RIN:Relateive Intensity Noise)の増大を招く。これを回避するには、青紫色レーザ装置においては、再生時の光出力を赤色レーザ装置及び赤外レーザ装置よりも高くして、相対的に自然放出光の寄与を小さくするという施策がなされている。一般に、赤色レーザ装置及び赤外レーザ装置の光出力が5mWに対し、青紫色レーザ装置においては10mW以上が必要となり、10mWを超える高い光出力時には自励発振が停止して、発振スペクトルは単一モードとなってしまう。
【0016】
このように、青紫色自励発振型レーザ装置においては、迷光量を抑制して、低雑音特性を実現すると共に、10mW以上の高出力下でも自励発振を維持することが必要となる。
【0017】
以上のように、一般に使用される井戸層の厚さが10nm以下で、層数が2〜4の場合には、高い微分モーダル利得のため、自励発振時の高いピークパワー強度による光ディスクへの書き換えが生じる。また、レーザ発振に必要な利得が足りないため、発振閾値が高くなるという問題が生じる。
【0018】
さらに、自励発振が生じたとしても、迷光量が多く、雑音特性を劣化させるという問題も生じる。
【0019】
また、AlGa1−xNからなるクラッド層のAl組成が比較的に高い場合(0.1<x≦0.3)は、該クラッド層にクラックが発生して、信頼性の低下を引き起こすという問題をも同時に生じる。
【0020】
本発明は、前記従来の問題を解決し、再生系光ディスクシステムの光源に十分に使用可能な、安定した自励発振特性を有するIII族窒化物からなる半導体レーザ装置を実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記の目的を達成するため、本発明は、半導体レーザ装置を、アルミニウムの組成が基板に近い第1のクラッド層及び基板から遠い第2のクラッド層よりも高い窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)からなる反射抑制層を基板と第1のクラッド層との間及び第2のクラッド層とコンタクト層との間の少なくとも一方に形成する構成とする。
【0022】
具体的に、本発明に係る半導体レーザ装置は、基板の上に形成され、AlGa1−xNからなる第1導電型の第1のクラッド層と、第1のクラッド層の上に形成された活性層と、活性層の上に形成され、AlGa1−yNからなる第2導電型の第2のクラッド層と、第2のクラッド層の上に形成された第2導電型のコンタクト層と、基板と第1のクラッド層の間及び第2のクラッド層とコンタクト層との間の少なくとも一方に形成され、AlGa1−zNからなる反射抑制層とを備え、第1のクラッド層におけるAl組成x、第2のクラッド層におけるAl組成y及び反射抑制層におけるAl組成zは、x<zで且つy<zの関係を満たすことを特徴とする。
【0023】
本発明の半導体レーザ装置によると、基板と第1のクラッド層の間及び第2のクラッド層とコンタクト層との間の少なくとも一方に形成され、AlGa1−zNからなる反射抑制層を備え、第1のクラッド層におけるAl組成x、第2のクラッド層におけるAl組成y及び反射抑制層におけるAl組成zは、x<zで且つy<zの関係を満たすため、活性層からの基板又はコンタクト層への光分布の広がりを抑制することが可能となる。これにより、基板又はコンタクト層から反射される迷光が活性層に再吸収されて、雑音を増大させることを防止できる。また、各クラッド層よりも高いAl組成を持つAlGa1−zNからなる反射抑制層は、各クラッド層の屈折率よりも低いため、屈折率が低い反射抑制層が少なくとも一方のクラッド層の外側に配置されることから、自励特性を実現し得る活性層への光閉じ込め係数を向上させることができる。
【0024】
本発明の半導体レーザ装置において、第1のクラッド層におけるAl組成xは、0.03≦x≦0.1であり、第2のクラッド層におけるAl組成yは、0.03≦y≦0.1であり、反射抑制層におけるAl組成zは、0.1<z≦0.3であり、反射抑制層の膜厚は、5nm以上且つ15nm以下であることが好ましい。
【0025】
このようにすると、自励発振に必要な活性層への光の閉じ込めを十分に確保できると共に、半導体層に生じるクラックを抑制できるため、信頼性が高い半導体レーザ装置を得ることができる。また、反射抑制層におけるAl組成を0.1<z≦0.3とし、その膜厚を5nm以上且つ15nm以下とすることにより、基板又はコンタクト層への光分布の広がりを十分に減衰させることができるため、迷光の発生を抑制し、雑音の増大を防止できる。さらに、自励発振特性を実現し得る活性層への光の閉じ込め効率を向上させることもできる。その結果、低雑音特性を有する自励発振型半導体レーザ装置を得ることができる。また、反射抑制層におけるAl組成及び膜厚を所定の範囲内にすることにより、格子不整合によって発生する応力に起因するクラックの発生を抑制することができるため、信頼性を低下させることなく、所望の動作特性を実現できる
本発明の半導体レーザ装置において、第2のクラッド層は、その上部に形成され、電流が選択的に注入されるストライプ部を有しており、第2のクラッド層におけるストライプ部の側方には、電流ブロック層が形成されていることが好ましい。
【0026】
この場合に、電流ブロック層は誘電体材料又は半導体材料により構成されていることが好ましい。
【0027】
このようにすると、電流ブロック層を誘電体材料により形成する場合には、窒化物半導体層をエピタキシャル成長する工程が簡略化できるため、製造コストを低減できる。一方、電流ブロック層を半導体材料により形成する場合には、窒化物半導体のIn組成又はAl組成を調整することができるため、所望の屈折率を設定できるので、設計自由度が向上する。また、電流ブロック層を構成する材料は、発振波長の光に対してほぼ透明の材料であっても、その光を吸収する材料であってもよい。電流ブロック層に透明材料を用いる場合は、電流ブロック層における光の損失が小さくなるため、スロープ効率が改善され、温度特性が向上する。また、電流ブロック層に吸収材料を用いる場合は、電流ブロック層において光の吸収が生じることにより、チップ内部の迷光の抑制や光の拡がり角の形状の安定化が得られる。
【0028】
本発明の半導体レーザ装置において、活性層は量子井戸層と障壁層とを交互に積層してなる量子井戸活性層からなり、井戸層の層数は5であり、井戸層の膜厚は、2nm以上且つ4nm以下であることが好ましい。
【0029】
このようにすると、光ディスクの情報を書き換えない程度のピークパワー強度を得られると共に、活性層の内部に十分な可飽和吸収体を形成することが可能となるため、10mW以上の光出力動作時においても安定した自励発振を得られ、発振閾値が十分に小さい最適な微分モーダル利得を得ることができる。
【0030】
本発明の半導体レーザ装置において、活性層は量子井戸層と障壁層とを交互に積層してなる量子井戸活性層からなり、井戸層の層数は6であり、井戸層の膜厚は、0.8nm以上且つ2.5nm以下であることが好ましい。
【0031】
このようにすると、ピークパワー強度が抑制され、活性層の内部に自励発振に必要な可飽和吸収層を十分に形成することができる。このため、10mW以上の高出力動作時においても自励発振が可能であり、且つ低発振閾値を実現することができる。
【0032】
本発明の半導体レーザ装置において、活性層は量子井戸層と障壁層とを交互に積層してなる量子井戸活性層からなり、井戸層の層数は7であり、井戸層の膜厚は、0.4nm以上且つ1.5nm以下であることが好ましい。
【0033】
このようにすると、井戸層に対するインジウム(In)の添加量が相対的に大きくなって、空間的にIn偏析が発生する。In組成が高いとバンドギャップエネルギーが局所的に小さくなるため、発振波長に対して吸収を持つことになるので、In偏析は可飽和吸収体を形成しやすくなる。また、井戸層の層数が7層と多いため、活性層に形成される可飽和吸収体をも確保することができる。
【0034】
以上の構成により、10mW以上の高出力動作時でも安定した自励発振を得られるようになる。また、本発明によれば、ピークパワー強度と平均出力との比の値が7倍以下となるため、光ディスクの書き換えが生じることがなく、また、井戸層が薄いため発振閾値を低くすることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係る半導体レーザ装置によると、微分モーダル利得や迷光の発生を制御することができるため、光出力が10mW以上の自励発振特性を得られると共に、自励ピークパワーの強度を抑制でき、さらに雑音特性に優れた半導体レーザ装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本願発明にあたって、本願発明者らは、従来技術における前記の課題を解決すべく詳細な検討を以下のように行った。
【0037】
図1に示すように、本願発明の試作例に係るIII族窒化物系半導体レーザ装置は、例えばn型GaNからなる基板101の上に形成されたAlGaNからなるn型クラッド層102及びp型クラッド層104に挟まれた、InGaNからなる多重量子井戸活性層103を備えている。
【0038】
p型クラッド層104の上部には、リッジストライプ部150が形成され、該リッジストライプ部150の上部には、p型コンタクト層105が形成されている。また、リッジストライプ部150の両側面上及び両側方の領域には電流ブロック層106が形成されている。なお、リッジストライプ部150を通った電流が多重量子井戸活性層103に注入されて発光する。
【0039】
本試作例においては、各クラッド層102、104のAl組成を、それぞれ0.02、0.07及び0.12の3通りとし、さらに多重量子井戸活性層103における井戸層の層数を1w、3w、5w、7w及び9wの5とし、各井戸層の厚さを1nm、3nm及び5nmの3通りとして、計9通りのレーザ装置を作製し、それぞれの特性の確認を行った。その結果を図2に示す。
【0040】
図2から分かるように、井戸層1w等の厚さ及びクラッド層102、104の各Al組成によって、それぞれ、自励発振を伴わないレーザ発振をするレーザ装置、自励発振を伴うレーザ発振をするレーザ装置、及び発振閾値が高くレーザ発振に至らないレーザ装置という結果を得た。自励発振したレーザ装置は、光出力が10mWを超えても自励発振を起こすことを確認している。また、発振ピークパワーの強度を測定したところ、クラッド層のAl組成が0.07で且つ井戸層の膜厚が5nmのレーザ装置は、発振ピーク強度と平均出力値との比の値が8.3倍であるのに対し、クラッド層のAl組成が0.07で且つ井戸層の膜厚が3nmのレーザ装置は、発振ピーク強度と平均出力値との比の値が6.3倍という結果を得ている。
【0041】
この現象を解明すべく、本願発明者は、多重量子井戸活性層の利得及び損失、並びに多重量子井戸活性層への光閉じ込め係数に注目し、微分モーダル利得の計算を行った。その結果を図3に示す。試作結果(記号◎)と計算結果とから、以下のようなことが確認できる。
【0042】
まず、図3から分かるように、井戸層の厚さが1nmのレーザ装置が、レーザ発振を生じなかった理由は、井戸層がの厚さが小さいことにより、レーザ発振に必要な微分モーダル利得が足りなかったためであると考えられる。また、自励発振に至らずレーザ発振した理由は、発振に必要な微分モーダル利得は得られるものの、自励発振を生じさせるほどの微分モーダル利得は得られなかったためである。井戸層の厚さが1nmであっても、クラッド層のAl組成が0.12であれば、活性層への光閉じ込め係数を増大させることは可能である。このため、自励発振を生じる微分モーダル利得は得られるものの、Al組成が0.1を超えると基板101との格子不整合が大きくなり、格子不整合により発生する応力によってクラッド層102、104にクラックが発生することから、信頼性が低下する。
【0043】
次に、クラッド層のAl組成が0.02で、井戸層の厚さが3nm又は5nmのレーザ装置は、自励発振はするものの、温度特性が劣化した。これは、Al組成が0.02の場合は、活性層とクラッド層とのバンドギャップ差が小さく、活性層に有効にキャリアが閉じ込められなかったため、温度特性が劣化したと考えられる。
【0044】
次に、クラッド層のAl組成が0.07で、井戸層の厚さが3nm又は5nmのレーザ装置について説明する。これらのレーザ装置は、自励発振を得られるものの、井戸層の厚さが5nmのレーザ装置は、再生用パワー(10mW)で光ディスクの情報を書き換えてしまうほどの自励発振ピーク強度となった。これは、微分モーダル利得が大き過ぎるためであり、適当な自励発振ピーク強度を達成するには、微分モーダル利得を最適化する必要がある。
【0045】
以上の実験及び計算結果から、自励発振を実現すると共に、自励発振ピーク強度を抑制するには、クラッド層のAl組成並びに活性層の井戸層の厚さ及び層数を最適化し、活性層の利得及び損失並びに活性層への光閉じ込め係数を制御して、所望の微分モーダル利得を得られる導波路構造を設計する必要があることが判明した。その望ましい範囲は、微分モーダル利得が1.5×10−17cm以上且つ2.4×10−17cm以下であり、これを実現するには、井戸層が5層の場合には、膜厚が2nm以上且つ4nm以下であり、クラッド層のAl組成は0.03以上且つ0.1以下である。
【0046】
同様に、AlGaNからなるクラッド層のAl組成をそれぞれ0、0.05及び0.1とし、活性層における井戸層の数を6層又は7層とした場合の微分モーダル利得の計算結果を図4及び図5に示す。
【0047】
井戸層の厚さが大きくなることにより微分モーダル利得が増大する理由は、井戸層の厚さが増すと共に活性層の利得が増大することに起因する。但し、図4及び図5からも分かるように、自励ピークパワー強度が大きいこと、自励発振に至らないレーザ発振及び発振閾値が大きいためにレーザ発振に至らないこと、及び温度特性が劣化すること等の問題を考慮すると、最適な自励発振を実現できる範囲は、井戸層の層数が6の場合は、井戸層の厚さが0.8nm以上且つ2.5nm以下であり、また、井戸層の層数が7の場合は、井戸層の厚さが0.4nm以上且つ1.5nm以下であることが分かった。
【0048】
次に、図1の構成を持つ試作用の半導体レーザ装置において、基板101とn型クラッド層102との間に該n型クラッド層102よりもAl組成が高いAlGa1−zN層を形成して、雑音特性に対する寄与を検討した。ここでは、AlGa1−zN層は、Al組成を0.3とし、その厚さを10nmとしている。
【0049】
図6にAlGa1−zN層の有無による雑音特性(RIN特性)の結果を示す。図6から分かるように、AlGa1−zN層を設けることにより、10mWの光出力時で約3dB/Hzの改善が見られる。
【0050】
これを考察するにあたり、AlGa1−zN層の有無によって、光分布がどのように変化しているかをニアフィールドパターン(Near Field Pattern:NFP)によって確認した。その結果を図7に示す。図7から分かるように、AlGa1−zN層を設けない場合は、基板側の光分布の裾が振動している。この振動は基板101から反射された迷光に起因しており、この迷光の存在が雑音特性を劣化させる原因である。一方、AlGa1−zN層を設けた場合は、基板側における光分布が速やかに減衰している。これにより、クラッド層よりも高いAl組成を有するAlGa1−zN層は、反射抑制層として効果があることが確認される。
【0051】
以上の結果から、AlGa1−zNからなる反射抑制層を基板101とn型クラッド層102との間に形成して、基板101への光分布の広がりを抑制したことにより、基板101から反射される迷光が活性層103に再吸収されなくなり、その結果、RIN特性を改善したと考えられる。さらに、自励発振特性を実現し得る活性層103への光閉じ込め係数を向上させる効果もあることが新たに分かった。
【0052】
さらに、AlGa1−zNからなる反射抑制層をp型クラッド層104とp型コンタクト層105との間にのみ設けた場合、及び基板101とn型クラッド層102との間にもさらに設けた場合も同様にRIN特性の改善を確認している。
【0053】
なお、AlGa1−zN層のAl組成を0.1以下とするとRIN特性が悪化する。これは、AlGa1−zN層のAl組成が0.1よりも小さい場合には、クラッド層よりもAlGa1−zN層の方が屈折率が大きくなり、クラッド層と反射抑制層との界面で光が反射されて、迷光量が増大するからである。
【0054】
このように、例えば、基板101とn型クラッド層102の間に、n型クラッド層102よりもAl組成が高いAlGa1−zNからなる反射抑制層を設けることにより、基板101から反射される迷光の発生が抑制されて、RIN特性が改善されると共に自励発振特性が向上する。しかしながら、n型クラッド層102のAl組成と同様に、反射抑制層はAl組成が高くなり過ぎたり、厚くなり過ぎたりすると、該反射抑制層にクラックが発生してしまう。そこで、反射抑制層にクラックを発生させないAlGa1−zN層のAl組成及び厚さの好ましい値を得るべく検討を行った。その結果を図8に示す。図8から分かるようbに、AlGa1−zN層のAl組成が高くなるか、厚くなるとクラックが発生する傾向にある。
【0055】
より具体的には、AlGa1−zNからなる反射抑制層の厚さが5nmよりも小さいか、Al組成が0.1よりも小さいと光分布の広がりを抑制できず、迷光が発生してRIN特性を劣化させる。一方、反射抑制層の厚さが15nmよりも大きいか、Al組成が0.3よりも大きいと反射抑制層にクラックが発生するおそれがあるため、Al組成を0.1<z≦0.3とし、その厚さを5nm以上且つ15nm以下とすることが好ましい。
【0056】
この範囲の反射抑制層を用いて半導体レーザ装置を作製及び評価したところ、自励発振特性及びRIN特性で良好な結果を得られ、実用可能であることが確認された。
【0057】
以下、具体例として実施形態を説明する。
【0058】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置について図面を参照しながら説明する。
【0059】
図9は本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の断面構成を示している。
【0060】
図9に示すように、第1の実施形態に係る半導体レーザ装置は、例えば、n型窒化ガリウム(GaN)からなる基板11の上に順次エピタキシャル成長してなり、厚さが10nmのn型Al0.15Ga0.85Nからなるn型反射抑制層12と、厚さが2.5μmのn型Al0.05Ga0.95Nからなるn型クラッド層13と、厚さが90nmのAl0.003Ga0.997Nからなるガイド層14と、InGaNからなる多重量子井戸(MQW)活性層15と、厚さが35nmのIn0.02Ga0.98Nからなる第1中間層16と、厚さが65nmのIn微添加GaNからなる第2中間層17と、厚さが20nmのAl0.2Ga0.8Nからなるオーバーフロー抑制(OFS)層18と、厚さが480nmのp型Al0.05Ga0.95Nからなるp型クラッド層19と、厚さが50nmのp型GaNからなるp型コンタクト層20とを有している。
【0061】
ここで、MQW活性層15は、それぞれ厚さが7.5nmのIn0.02Ga0.98Nからなる5層のバリア層0b、2b、…、8bと、それぞれ厚さが2.5nmのIn0.05Ga0.95Nからなる5層の井戸層1w、3w、…、9wとが交互に積層されて構成されている。
【0062】
p型クラッド層19の上部には、p型コンタクト層20を含めリッジストライプ部50が形成されている。リッジストライプ部50の両側面上及び両側方の領域には、例えば厚さが400nmの酸化シリコン(SiO)からなる電流ブロック層21が形成されている。ここで、リッジストライプ部50のストライプ幅Wは、1.4μmである。また、電流ブロック層21の下面、すなわちリッジストライプ部50の下面からMQW活性層15の上面までの距離(残し厚)dpを160nmとしている。また、図示はしないが、p型コンタクト層20の上から電流ブロック層21の上にわたってp側電極が形成され、基板11におけるn型反射抑制層12と反対側の面上にはn側電極が形成されている。
【0063】
本発明において、n型GaNからなる基板11の主面は、a面、r面又はm面でよく、さらには他の面方位であってもよい。また、基板11はGaNに限られず、サファイア(単結晶Al)、炭化シリコン(SiC)又はシリコン(Si)を用いることができる。
【0064】
また、第1の実施形態に係るn型反射抑制層12には、厚さが10nmのn型Al0.15Ga0.85Nを用いたが、Al組成及び厚さは一例である。前述したように、AlGa1−zNにおけるAl組成を0.1<z≦0.3とし、その厚さを5nm以上且つ15nm以下とすることにより、n型反射抑制層12におけるクラックの発生を防止すると共に、基板11への光分布の広がりをも抑制することができる。その結果、基板11から反射される迷光がMQW活性層15に再吸収されることを防止し、RIN特性を改善することが可能となる。
【0065】
さらに、基板11とn型クラッド層13との間に、n型Al0.15Ga0.85Nからなるn型反射抑制層12を形成したことにより、生成された光をMQW活性層15に有効に閉じ込める効果もあり、10mWという高出力動作時でも自励発振特性を実現することができる。
【0066】
厚さが2.5μmのn型Al0.05Ga0.95Nからなるn型クラッド層13及び厚さが480nmのp型Al0.05Ga0.95Nからなるp型クラッド層19においても、Al組成及びその厚さはこれに限られない。例えば、AlGa1−xN及びAlGa1−yNにおけるAl組成をそれぞれ0.03≦x≦0.1及び0.03≦y≦0.1と設定することにより、MQW活性層15に自励発振に必要な光閉じ込め効果を十分に確保することができる。その上、各クラッド層13、19に生じるクラックを抑制し、信頼性が高いレーザ装置を作製することが可能となる。
【0067】
各クラッド層13、19の厚さについても、所望の光閉じ込め効果及び光分布(拡がり角)を考慮して適宜変更してもよい。さらに、n型クラッド層13及びp型クラッド層19のAl組成は対称(x=y)ではなく、x>y又はx<yのように異なっていてもよい。例えばx>yの場合は、光分布が基板側に寄るため、p側電極による吸収がなくなるので光損失が減少し、温度特性に優れるレーザ装置を得ることができる。逆にx<yの場合は、光分布がp側電極側によるため、水平方向(基板面に平行な方向)の光の閉じ込め効果をさらに強くすることができる。
【0068】
これにより、電流−光出力特性における非線形性が発生する現象である折れ曲がり(キンク)の光出力レベルが向上したり、拡がり角が安定化したりするという効果がある。
【0069】
各クラッド層13、19は、例えば、組成が互いに異なるAlGaN/AlGaN、又はAlGaN/GaNを多層に積層してなる超格子構造であってもよい。この場合は、Al組成の平均が0.03≦x≦0.1及び0.03≦y≦0.1の範囲内であればよい。このように、各クラッド層13、19を超格子構造とすることにより、動作電圧を低減することができる。
【0070】
Al0.003Ga0.997Nからなるガイド層14、In0.02Ga0.98Nからなる第1中間層16及びIn微添加GaNからなる第2中間層17は、そのエネルギーギャップがMQW活性層15を構成する井戸層1w等のエネルギーギャップと各クラッド層13、19のエネルギーギャップの間の値を持つような材料であれば、AlGaN及びInGaNでなくともよい。また、ガイド層14、第1中間層16及び第2中間層17は、そのAl組成又はIn組成だけでなく、その膜厚も所望の光閉じ込め効果及び光分布(拡がり角)を考慮して適宜変更してもよい。さらに、ガイド層14、各中間層16、17には、その全部又は一部にドナー又はアクセプタをドーピングしてもよい。これによりキャリア濃度が増大して、発振閾値及び動作電圧を低減することができる。
【0071】
MQW活性層15における厚さが7.5nmのIn0.02Ga0.98Nからなるバリア層、及び厚さが2.5nmのIn0.05Ga0.95Nからなる井戸層の各In組成及び各厚さは、所望のレーザ発振波長に応じてその組成を設定すればよい。例えば、井戸層1w等の層数が5の場合は、該井戸層1w等の厚さをそれぞれ2nm以上且つ4nm以下に設定する必要がある。このようにすると、光ディスクの情報を書き換えない程度のピークパワー強度にできると共に、10mW以上の光出力動作時においても自励発振が可能である。さらには、発振閾値が十分に小さい最適な微分モーダル利得を得ることができる。なお、MQW活性層15におけバリア層には、InGaNに代えてGaNを用いてもよい。
【0072】
厚さが20nmのAl0.2Ga0.8Nからなるオーバーフロー抑制(OFS)層18は、このAl組成及び厚さでなくともよい。OFS層18のAl組成が低い又は厚さが小さい場合には、キャリアの移動度が大きくなるため、レーザ装置の抵抗を小さくすることができる。一方、Al組成が高い又は厚さが大きい場合には、OFS層18を電子が飛び越える確率が減るため、電子が発光に有効に寄与するようになるので、内部量子効率が向上する。また、OFS層18にはp型ドーパントであるMgをドーピングしてもよく、これによりp型クラッド層19から正孔が注入されやすくなる。
【0073】
リッジストライプ部50におけるストライプ幅は1.4μmとしたが、0.7μm以上且つ2.5μm以下であれば問題はない。例えば、ストライプ幅が0.7μm以下であると動作電圧が増大する。また、ストライプ幅の2.5μmという値は、キンクレベルや単峰性の拡がり角形状等の各種特性を維持する限界である。
【0074】
また、リッジストライプ部50は、上部の幅が下部の幅よりも小さいテーパストライプ形状としてもよい。テーパストライプ形状を採用することにより、注入キャリアを効率良く活用できるため、温度特性及びキンクレベルの向上、動作電圧の低減、及び自励発振の助長等種々の特性改善を図ることができる。また、p型クラッド層19の残し厚dpも160nmに限られず、キンクレベル及び拡がり角等の所望の特性を実現できる値に設定すればよい。
【0075】
電流ブロック層21は、その厚さが400nmに限られない。また、その材料もSiOに代えて、窒化シリコン(SiN)若しくはアモルファスシリコン(α−Si)等の誘電体材料又はInGaN若しくはAlGaN等の半導体材料を用いることができる。
【0076】
電流ブロック層21を誘電体材料により形成する場合は、窒化物半導体からなるエピタキシャル層を成長させる際のエピタキシャル成長の成長回数を削減できるため、製造コストが低減する。また、電流ブロック層21を窒化物半導体材料により形成する場合は、その形成時にIn組成及びAl組成を変化させることにより、所望の屈折率を設定できるため、設計の自由度が向上する。
【0077】
また、電流ブロック層21には、発振波長の光に対してほぼ透明の材料を用いてもよく、また発振波長の光を吸収する材料であってもよい。電流ブロック層21に透明材料を用いる場合は、電流ブロック層21での損失が小さくなるため、スロープ効率の改善及び温度特性が向上する。これに対し、電流ブロック層21に吸収材料を用いる場合は、電流ブロック層21において光が吸収されることにより、半導体レーザ装置(チップ)内の迷光を抑制できると共に、光の拡がり角の形状の安定化を図れる。
【0078】
さらに、電流ブロック層21は単層ではなく、2層以上を積層させた積層構造としてもよい。2層以上を積層する場合には、発振波長の光に対して透明な材料と吸収可能な材料とを組み合わせて双方の特長を生かすことにより、半導体レーザ装置の動作の諸特性を向上させることができ、また、設計の自由度を向上することができる。
【0079】
以下、第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の動作の諸特性を説明する。
【0080】
図10(a)は出力が10mW時の波長特性を示し、図10(b)は発振応答特性(発振ピークパワー強度)を示し、図10(c)はRIN特性を示す。
【0081】
図10(a)からは、発振波長の401.5nmを中心として波長幅が広がっていることから、発振スペクトルがマルチモード化し、自励発振していることが分かる。図10(b)からは、発振ピークパワー強度が平均出力値に対して5.8倍となり、7倍以下に抑制されていることが分かる。さらに、図10(c)からは、出力が10mW時のRIN特性が約−130dB/Hzとなり、良好なRIN特性を得られることが分かる。
【0082】
以上のように、第1の実施形態によると、MQW活性層15の層数及び厚さ、並びにn型クラッド層13、p型クラッド層19及び反射抑制層における各Al組成を所定の範囲に設定して、微分モーダル利得及び迷光の発生を制御することにより、出力が10mW以上の高出力動作時においても自励発振特性を維持し、また自励ピークパワー強度を抑制することができる。さらに、雑音特性に優れた半導体レーザ装置を得ることができる。
【0083】
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置について図面を参照しながら説明する。
【0084】
図11は本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置の断面構成を示している。図11において、図9に示す構成部材と同一の構成部材には同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0085】
図11に示すように、第2の実施形態においては、基板11とn型クラッド層23との間にn型Al0.15Ga0.85Nからなるn型反射抑制層12を設ける代わりに、p型クラッド層29とp型コンタクト層20との間にp型AlGa1−zNからなるp型反射抑制層22を設けている。
【0086】
ここで、n型クラッド層23は、厚さが2.8μmのn型Al0.07Ga0.93Nからなり、p型クラッド層29は、厚さが500nmのp型Al0.07Ga0.93Nからなる。
【0087】
また、MQW活性層25は、それぞれ厚さが7.5nmのIn0.02Ga0.98Nからなる6層のバリア層0b、2b、…、10bと、それぞれ厚さが1.5nmのIn0.07Ga0.93Nからなる6層の井戸層1w、3w、…、11wとが交互に積層されて構成されている。
【0088】
良好な特性が得られる微分モーダル利得の値である1.5×10−17cm以上且つ2.4×10−17cm以下を実現するには、各クラッド層23、29のAlGa1−xN及びAlGa1−yNにおけるAl組成を0.03≦x、y≦0.1とし、且つ、井戸層1w等の層数が6の場合には、前述したように、該井戸層1w等の厚さをそれぞれ0.8nm以上且つ2.5nm以下に設定する必要がある。これにより、光ディスクの情報を書き換えない程度のピークパワー強度を得られると共に、10mW以上の高い光出力時でも安定した自励発振が維持され、発振閾値が十分に小さい最適な微分モーダル利得を得ることができる。
【0089】
第2の実施形態の特徴である、p型クラッド層29とp型コンタクト層20との間に形成されたp型AlGa1−zNからなるp型反射抑制層22は、そのAl組成を0.1<z≦0.3とし、その厚さを5nm以上且つ15nm以下に設定することにより、該p型反射抑制層22に生じるクラックを防止することができる。
【0090】
また、第2の実施形態に係るp型反射抑制層22は、MQW活性層25からp型コンタクト層20への光の広がりを抑制するため、p型コンタクト層25から反射される迷光を防ぐので、RIN特性が向上する。さらに、p型反射抑制層22は、MQW活性層25への光の閉じ込め係数を増大する効果を持つため、高出力動作時でも自励発振特性を実現することができる。
【0091】
なお、第2の実施形態においては、リッジ型のレーザ構造を用いて説明したが、リッジ型に限られず、埋め込み型のレーザ構造であってもよい。埋め込み型レーザ構造とは、活性層の上に中間層、p型OFS層、p型第1クラッド層及びn型電流ブロック層を形成した後、n型電流ブロック層の一部に電流注入のためのストライプ状の窓部を形成し、p型第2クラッド層、p型反射抑制層及びp型コンタクト層を再成長により形成する構造をいう。なお、活性層からn型電流ブロック層の間の層は中間層、p型OFS層及びp型第1クラッド層に限られず、所望の半導体層を適宜選択すればよい。
【0092】
第2の実施形態に係るリッジ型レーザ構造においては、p型クラッド層29、p型反射抑制層22及びp型コンタクト層20の一部はストライプ形状を有するため、p型コンタト層20の平面積は小さい。一方、埋め込み型レーザ構造の場合は、活性層の上方の全面にp型コンタクト層が設けられるため、リッジ型レーザ構造と比べて、p型コンタクト層の面積は極めて大きい。このように、p型コンタクト層の面積が大きいことは、反射される迷光量が大きく、雑音特性の劣化につながるが、このような埋め込み型レーザ構造では、活性層の上方の全体にp型反射抑制層が形成されるため、p型コンタクト層への光分布の広がりを抑制して、反射される迷光量を大幅に削減できるので、雑音特性を劣化を確実に抑制できる。
【0093】
このように、p型クラッド層とp型コンタクト層との間にp型反射抑制層を形成する場合は、リッジ型レーザ構造よりも埋め込み型レーザ構造の方が雑音抑制に対して大きな効果を得ることができる。
【0094】
第2の実施形態に係る半導体レーザ装置は、光出力が10mWの動作時においても、自励発振により発振スペクトルがマルチモード化していることを確認している。また、光出力の時間応答特性においても、発振ピークパワー強度と平均出力との比の値が7倍以下となり、光ディスクに対して情報の書き換えが発生しない発振ピークパワー強度を実現している。また、RIN特性も約−130dB/Hzを実現している。
【0095】
以上により、光ピックアップ光源として実用可能な窒化物系半導体レーザ装置を実現することができる。
【0096】
(第3の実施形態)
以下、本発明の第3の実施形態に係る半導体レーザ装置について図面を参照しながら説明する。
【0097】
図12は本発明の第3の実施形態に係る半導体レーザ装置の断面構成を示している。図12において、図9に示す構成部材と同一の構成部材には同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0098】
図12に示すように、第3の実施形態においては、基板11とn型クラッド層33との間にn型n型AlGa1−zNからなるn型反射抑制層12を設け、且つ、p型クラッド層39とp型コンタクト層20との間にもp型AlGa1−zNからなるp型反射抑制層22を設けている。
【0099】
ここで、n型クラッド層33は、厚さが2.4μmのn型Al0.1Ga0.9Nからなり、p型クラッド層39は、厚さが460nmのp型Al0.1Ga0.9Nからなる。
【0100】
また、MQW活性層35は、それぞれ厚さが7.5nmのIn0.02Ga0.98Nからなる7層のバリア層0b、2b、…、12bと、それぞれ厚さが0.7nmのIn0.1Ga0.9Nからなる7層の井戸層1w、3w、…、13wとが交互に積層されて構成されている。
【0101】
良好な特性を得るための微分モーダル利得の値である1.5×10−17cm以上且つ2.4×10−17cm以下を実現するには、各クラッド層33、39のAlGa1−xN及びAlGa1−yNにおけるAl組成を0.03≦x、y≦0.1とし、且つ、井戸層1w等の層数が7の場合には、前述したように、該井戸層1w等の厚さをそれぞれ0.4nm以上且つ1.5nm以下に設定する必要がある。井戸層1w等の厚さをこの程度に設定すると、該井戸層1w等へのInの添加量は相対的に多くなる。インジウム(In)の添加量が多くなると、空間的にIn偏析が発生する。また、In組成が高いと、バンドギャップエネルギーが局所的に小さくなるため、発振波長に対して吸収を持つことになるので、Inの偏析は可飽和吸収体を形成しやすくなるという利点がある。また、井戸層1w等の層数が7と多いため、MQW活性層35に形成される可飽和吸収体をも確保できる。
【0102】
これにより、ディスクへの書き込みが生じない程度のピークパワー強度を得られると共に、10mW以上の高い光出力時でも安定した自励発振が維持され、発振閾値が十分に小さい最適な微分モーダル利得を得ることができる。
【0103】
第3の実施形態の特徴である、基板11とn型クラッド層33との間に形成されたn型AlGa1−zNからなるn型反射抑制層12及びp型クラッド層39とp型コンタクト層20との間に形成されたp型AlGa1−zNからなるp型反射抑制層22は、そのAl組成を0.1<z≦0.3とし、その厚さを5nm以上且つ15nm以下に設定することにより、各反射抑制層12、22に生じるクラックを防止することができる。
【0104】
また、第3の実施形態に係る各反射抑制層12、22は、MQW活性層35から基板11側への光の広がりと、p型コンタクト層20側への光の広がりとを抑制して、基板11及びp型コンタクト層20から反射される迷光を防ぐので、RIN特性が向上する。さらに、各反射抑制層12、22は、MQW活性層35への光の閉じ込め係数を増大する効果を持つため、高出力動作時でも自励発振特性を実現することができる。
【0105】
第3の実施形態に係る半導体レーザ装置は、光出力が10mWの動作時においても、発振スペクトルがマルチモード化し、自励発振することを確認している。また、光出力の時間応答特性においても、発振ピークパワー強度と平均出力との比の値が7倍以下となり、光ディスクに対して情報の書き換えが発生しない発振ピークパワー強度を実現している。さらに、各反射抑制層12、22を設けたことにより、RIN特性も約−130dB/Hzと良好な特性を得られている。
【0106】
以上により、光ピックアップ光源として実用可能な窒化物系半導体レーザ装置を実現することができる。
【0107】
なお、本発明の各実施形態においては、基板11の導電型をn型としたが、これに限られず、p型の基板を用いてもよい。この場合には、p型基板とMQW活性層との間にp型反射抑制層を設け、MQW活性層の上に形成されたn型クラッド層とn型コンタクト層との間にn型反射抑制層を設ければよい。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明に係る半導体レーザ装置は、高出力動作時における自励発振動作を維持すると共に、発振ピーク強度が抑制され且つ雑音特性にも優れており、光ディスクシステムの分野におけるレーザ光源等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の試作例に係る半導体レーザ装置を示す模式的な構成断面図である。
【図2】本発明の9通りの試作例に係る半導体レーザ装置の試作結果を示すグラフある。
【図3】本発明の5層の井戸層を有する試作例に係る半導体レーザ装置における微分モーダル利得とクラッド層のAl組成の関係を井戸層の厚さをパラメータとして示したグラフである。
【図4】本発明の6層の井戸層を有する試作例に係る半導体レーザ装置における微分モーダル利得とクラッド層のAl組成の関係を井戸層の厚さをパラメータとして示したグラフである。
【図5】本発明の7層の井戸層を有する試作例に係る半導体レーザ装置における微分モーダル利得とクラッド層のAl組成の関係を井戸層の厚さをパラメータとして示したグラフである。
【図6】本発明のAlGa1−zNからなる反射抑制層を有する試作例に係る半導体レーザ装置におけるRIN特性を反射抑制層を有さない試作例と共に示したグラフである。
【図7】本発明のAlGa1−zNからなる反射抑制層を有する試作例に係る半導体レーザ装置における近視野像(NFP)を反射抑制層を有さない試作例と共に示したグラフである。
【図8】本発明のAlGa1−zNからなる反射抑制層を有する試作例に係る半導体レーザ装置の反射抑制層におけるAl組成及び厚さとクラックの発生との関係を示すグラフである。
【図9】本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置を示す模式的な構成断面図である。
【図10】(a)〜(c)は本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の動作特性を示し、(a)は波長特性を示すグラフであり、(b)は自励発振時間応答特性を示すグラフであり、(c)は相対雑音強度(RIN)特性を示すグラフである。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置を示す模式的な構成断面図である。
【図12】本発明の第3の実施形態に係る半導体レーザ装置を示す模式的な構成断面図である。
【図13】従来の赤色、赤外及び青紫色レーザ装置における微分モーダル利得の動作キャリア密度依存性を示すグラフである。
【図14】(a)及び(b)は従来の半導体レーザ装置における自励発振時間応答特性を示し、(a)は青紫色レーザ装置であり、(b)は赤色レーザ装置である。
【図15】従来の赤色、赤外及び青紫色レーザ装置における電流(Iop)−光出力(Po)特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0110】
101 基板
102 n型クラッド層
103 多重量子井戸活性層
104 p型クラッド層
105 p型コンタクト層
106 電流ブロック層
150 リッジストライプ部
11 基板
12 n型反射抑制層
13 n型クラッド層
14 ガイド層
15 多重量子井戸(MQW)活性層
16 第1中間層
17 第2中間層
18 オーバーフロー抑制(OFS)層
19 p型クラッド層
20 p型コンタクト層
21 電流ブロック層
22 p型反射抑制層
23 n型クラッド層
25 多重量子井戸(MQW)活性層
29 p型クラッド層
33 n型クラッド層
39 p型クラッド層
0b、2b、4b、6b、8b、10b、12b バリア層
1w、3w、5w、7w、9w、11w、13w 井戸層
50 リッジストライプ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に形成され、AlGa1−xNからなる第1導電型の第1のクラッド層と、
前記第1のクラッド層の上に形成された活性層と、
前記活性層の上に形成され、AlGa1−yNからなる第2導電型の第2のクラッド層と、
前記第2のクラッド層の上に形成された第2導電型のコンタクト層と、
前記基板と前記第1のクラッド層の間及び前記第2のクラッド層と前記コンタクト層との間の少なくとも一方に形成され、AlGa1−zNからなる反射抑制層とを備え、
前記第1のクラッド層におけるAl組成x、前記第2のクラッド層におけるAl組成y及び前記反射抑制層におけるAl組成zは、x<zで且つy<zの関係を満たすことを特徴とする半導体レーザ装置。
【請求項2】
前記第1のクラッド層におけるAl組成xは、0.03≦x≦0.1であり、
前記第2のクラッド層におけるAl組成yは、0.03≦y≦0.1であり、
前記反射抑制層におけるAl組成zは、0.1<z≦0.3であり、前記反射抑制層の膜厚は、5nm以上且つ15nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ装置。
【請求項3】
前記第2のクラッド層は、その上部に形成され、電流が選択的に注入されるストライプ部を有しており、
前記第2のクラッド層における前記ストライプ部の側方には、電流ブロック層が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体レーザ装置。
【請求項4】
前記電流ブロック層は、誘電体材料又は半導体材料により構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置。
【請求項5】
前記活性層は、量子井戸層と障壁層とを交互に積層してなる量子井戸活性層からなり、
前記井戸層の層数は5であり、
前記井戸層の膜厚は、2nm以上且つ4nm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置。
【請求項6】
前記活性層は、量子井戸層と障壁層とを交互に積層してなる量子井戸活性層からなり、
前記井戸層の層数は6であり、
前記井戸層の膜厚は、0.8nm以上且つ2.5nm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置。
【請求項7】
前記活性層は、量子井戸層と障壁層とを交互に積層してなる量子井戸活性層からなり、
前記井戸層の層数は7であり、
前記井戸層の膜厚は、0.4nm以上且つ1.5nm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−21342(P2010−21342A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180174(P2008−180174)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】