説明

半導体光学素子用レンズの製造方法

【課題】レンズの圧縮(コンプレッション)成形による製造方法において、レンズ用樹脂材料の加熱硬化の硬化収縮による、ひけ又は気泡の混入により、レンズ底面などに欠損部ができるのを防止し、かつ、レンズ底面が平坦化された半導体素子用樹脂レンズを製造する方法の提供。
【解決手段】半導体光学素子用樹脂レンズの製造方法において、キャビティ凹部を有する成形型の前記凹部に液状のレンズ用樹脂材料を充填し、少なくとも前記成形型のキャビティ凹部に充填されたレンズ用樹脂材料の表面を覆うように薄片材で蓋をし、次いで前記樹脂材料を加熱して硬化させることによって、レンズ用樹脂材料の加熱硬化時の収縮によるひけ又は気泡の混入などを原因とする欠損の発生を防止しすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ、とくに半導体光学素子用樹脂レンズの製造方法に関するものであり、特に、成形型を用いてレンズを製造する際にレンズ樹脂材料の硬化収縮によるひけ、又は気泡の混入などによりレンズに欠損部が生じるのを防止するための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)は、光を放射する半導体発光素子であり、電気エネルギーを紫外線、可視光、赤外光などに変換するものである。例えば、可視光を利用するものとしては,GaP、GaAsP、GaAlAs等の発光材料で形成した半導体発光素子があり、これらを透明樹脂等で封止したLEDランプが広く使用されている。また、発光材料をプリント基板や金属リードの上面に固定し、数字や文字をかたどった透明樹脂ケースで封止したディスプレイ型のLEDランプなども多用されている。
【0003】
また、発光ダイオードは半導体素子であるため、寿命が長く、信頼性も高く、光源として用いた場合には、その交換作業も軽減できることから、携帯通信機器、パーソナルコンピュータ周辺機器、OA機器、家庭用電気機器、オーディオ機器、各種スイッチ、バックライト用光源、掲示板等の各種表示装置などの構成部品として広く使用されている。更に、車載機器の表示部のバックライト照明用光源としてLEDランプが注目され、メーター、ヒーターコントロールパネル、オーディオなどの表示部のバックライト照明に利用されており、特に白色又は青緑領域において高輝度で発光するLEDランプが求められている。
【0004】
LEDランプにおいては、その使用目的によっては、封止材上に発光した光の進行方向を規制するための集光レンズを設けられる場合がある(下記特許文献1参照)。このような集光レンズの作製方法としては、図5に示すように、一般に、圧縮成形(コンプレッション成形)により、レンズの形状の凹部を有する金型に液状のレンズ用樹脂を充填し、上型により加圧し、加熱硬化させ、冷却後、金型から取り出すことが行われている。このとき、液状レンズ用樹脂の硬化収縮によるひけ、気泡の混入などにより、レンズ底面などに欠損部ができてしまうことがある(下記、特許文献2参照)。そこで、本発明者らは、上型を使用しないで、下型のみの金型において、液状のレンズ用樹脂を充填、加熱硬化させると、レンズ底面が解放されているため、気泡の混入などがなく欠損部が生じるのを防ぐ
ことを提案した(下記、特許文献3参照)。しかしながら、このような開放系による成形では、表面張力によりレンズ底面が球状になってしまい、レンズ底面の平坦化が要求される仕様のものを作製することは困難である。
【特許文献1】特開平3−119769号公報
【特許文献2】特開平8−99368号公報
【特許文献3】特願2003−70210号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、レンズの圧縮(コンプレッション)成形による製造方法において、レンズ用樹脂材料の加熱硬化の硬化収縮による、ひけ又は気泡の混入により、レンズ底面などに欠損部ができるのを防止し、かつ、レンズ底面が平坦化されたレンズを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、レンズの圧縮(コンプレッション)成形による製造方法において、図1(A)に示すように上型の代わりに薄片材を使用することによって、成形材料が硬化収縮する際、それにともなって樹脂フィルムも成形材料に接触したままそれに追従して変形するため、ひけ又は気泡の混入を防ぐことができ、レンズ底面などに欠損部が生じるのを防ぐことができることを見出した。
【0007】
また、この際、図1(B)に示すように、下型と上型の間に薄片材を介在させることによっても、同様に、ひけ又は気泡の混入を防ぐことができ、レンズ底面などに欠損部が生じるのを防ぐことができる。
【0008】
本発明の具体的構成は以下のとおりである。
(1)レンズの製造方法であって、キャビティ凹部を有する成形型の前記キャビティ凹部に液状のレンズ用樹脂材料を充填し、少なくとも前記成形型のキャビティ凹部に充填されたレンズ用樹脂材料の露出している表面を薄片材で覆い(レンズ用樹脂材料の表面を覆うように薄片材で蓋をし)、次いで前記樹脂材料を加熱して硬化させる、レンズの製造方法。
(2)前記薄片材が前記成形型の下型と上型の間に介在されている、上記(1)に記載のレンズの製造方法。
(3)前記薄片材が熱変形温度90℃以上の耐熱性樹脂フィルムである、上記(1)又は(2)に記載のレンズの製造方法。
(4)前記樹脂フィルムがポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである、上記(3)に記載のレンズの製造方法。
(5)前記樹脂フィルムの厚さが10〜500μmである、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のレンズの製造方法。
(6)前記レンズ用樹脂材料が、シリコーン樹脂であり、前記紙がシリコーン処理された剥離紙である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のレンズの製造方法。
(7)前記キャビティ凹部が複数設けられている成形型を使用する、上記(1)〜(6)のいずれかに記載のレンズの製造方法。
(8)複数のキャビティ凹部のうち成形型の一方端部に位置するキャビティ凹部には、他の部に位置するキャビティ凹部よりレンズ用樹脂材料が多く充填されており、前記一方端部のキャビティ凹部より他方端部に向けて、空気を抜きながら樹脂フィルムで覆っていく、上記(7)に記載のレンズの製造方法。
(9)前記半導体光学素子が、発光ダイオードである、上記(1)〜(8)のいずれかに記載のレンズの製造方法。
(10) 樹脂用レンズ材料に薄片材を密着または接着させて前記樹脂用レンズ材料を覆う、上記(1)、(2)、(6)〜(9)のいずれかに記載のレンズの製造方法。
(11)薄片材として、密着性または接着性を向上せしめる処理を予め行った樹脂フィルムを用いる、上記(10)に記載のレンズの製造方法。
(12)樹脂フィルムまたは紙との密着性または接着性を向上せしめる処理が、表面状態を変える処理または表面改質処理である、上記(11)に記載の半導体光学素子用樹脂。
(13)表面状態を変える処理がシリコーン処理、プライマー処理または梨地処理であり、表面改質処理が紫外線処理、オゾン処理、コロナ処理またはプラズマ処理である、上記(12)に記載のレンズの製造方法。
(14)薄片材が、樹脂フィルム、紙、金属、ゴム、皮または繊維の1種または2種以上を含むものである、上記(1)、(2)、(7)〜(10)のいずれかに記載のレンズの製造方法。
(15)レンズが半導体光学素子用樹脂レンズである、上記(1)〜(14)のいずれかに記載のレンズの製造方法。
(16)上記(1)〜(15)のいずれかに記載の製造方法によって製造されたレンズであって、薄片材の表面形状が表面に転写されたレンズ。
【0009】
本発明の成形型としては、例えば、図1(A)及び(B)に示されるような成形型2が挙げられる。図中、2は成形型で、その上面22にはキャビティ凹部21が形成されている。この場合、このキャビティ凹部21は円板状凹陥部211と、この円板状凹陥部211の中央下部に形成された断面円弧状凹陥部212とからなる形状を有し、この断面円弧状凹陥部212の壁面がレンズの集光面となる凸面となるもので、このキャビティ凹部21に液状のレンズ用樹脂材料が充填される。
【0010】
本発明では、レンズ用樹脂材料の露出している表面を覆うための材として、薄片材を用いることができる。本明細書において「薄片材」とは、約1mm以下の厚さを有する、フィルムまたはシート等の形状を有する材を意味する。その材質は、例として樹脂フィルム、紙、金属、ゴム、皮または繊維の1種または2種以上を含むものが挙げられるがこれらに限定されない。また、これらの材料を単独でまたは複数種組み合わせて用いることができる。これらの薄片材うち、耐熱性を有し、かつ柔軟なものは製造効率の点において好ましい。また、樹脂フィルムまたは紙は、材自体のコスト面において有利であり、金属は再利用が可能である点において有利である。
樹脂フィルムとしては、レンズ樹脂材料の加熱に耐えることができ、かつ柔軟性を有する樹脂フィルムが好ましく、その例として従来公知のポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、環状オレフィン樹脂、シリコンゴム、EPDM等の樹脂フィルムを用いることができる。より好ましくは、熱変形温度90℃以上の耐熱性樹脂フィルムが用いられるが、特に好ましくは、PETフィルムが用いられる。PETフィルムは、典型的には、二軸延伸法によって製造される。
レンズ用樹脂材料の露出している表面を覆うための薄片材として用いる紙としてはレンズ樹脂材料の加熱に耐えることができ、かつ柔軟性を有する紙が好ましい。また、離型材を表面に処理した紙は、樹脂レンズの成形後に剥離し易いため好ましい。前記離型材としては、ジメチルシリコーン系、フェニルシリコーン系、フッ素系が挙げられ、ジメチルシリコーン系が好ましい。
薄片材として用いる金属としてはステンレス、真鍮、アルミ、鉄が、ゴムとしてはシリコーンゴム、EPDM、フッ素ゴム、NBRが、皮としては牛皮、豚皮が、また繊維としては綿、絹、ナイロン繊維、ポリエステル繊維が、それぞれ例示される。
【0011】
薄片材のうち、樹脂フィルムの厚さは、樹脂の種類により適宜決められるが、薄い場合には、材料の収縮に追従して変形することができるため、レンズ用樹脂材料の硬化に伴い気泡混入を防ぐことが容易になる。また、厚い場合には、フィルムの平坦さが維持できるため波打ちが生じず、レンズ底面の平坦化に資する。例えば、PETフィルムの場合、10〜500μmの厚さが好ましく、10〜100μmの厚さがより好ましく、50〜100μmの厚さが最も好ましく、それぞれ適していることがわかった。
【0012】
また、本発明で使用する成形型には複数のキャビティ凹部を形成し、各々のキャビティ凹部に順に又は複数の定量供給装置を用いて一度にレンズ用樹脂を充填してレンズを製造することができる。その際、複数のキャビティ凹部のうち成形型の一方端部に位置するキャビティ凹部には、他の部に位置するキャビティ凹部よりレンズ用樹脂材料を多めに充填し、前記一方端部のキャビティ凹部より他方端部に向けて、空気を抜きながら樹脂フィルム等の薄片材で覆ってゆくことにより、複数の樹脂レンズを気泡の混入がなく一度に製造することができる。また、PETフィルムを用いると、フィルムが透明であるため、気泡の巻き込みの有無を確認しながらフィルムで覆うことができるため、気泡不良を防止することができる。
【0013】
本発明においては、成形時にレンズ用樹脂材料を圧縮することがないため、成形型としては、金属製、樹脂製、ゴム製のいずれも適用可能であるが、加熱硬化時又は冷却時の熱伝導性を考慮すると金属製の金型を用いることが好ましい。
【0014】
本発明の製造方法においては、特に、上記キャビティ凹部が、円板状凹陥部と、その中央下部に形成された断面円弧状凹陥部とを備える形状に形成された成形型を用いることが好ましい。
【0015】
なお、本発明においては、図2(A)に示されるような成形型を用いることも可能である。また、図2(B)に示されるような、キャビティ凹部21が円板状凹陥部211と、この円板状凹陥部211の下部に形成された上記円板状凹陥部211と同径の断面円弧状凹陥部212とからなる形状を有する成形型も好適に用いることができる。
【0016】
レンズ用樹脂材料は、例えば、図3に示されるように、成形型2に形成されたキャビティ凹部21(図3(A))に液状のレンズ用樹脂材料3をこのレンズ用樹脂材料3がキャビティ凹部に、定量供給装置6で充填量を調整しながら充填量を調整しながら充填(図3(B),(C))する。その後、薄片材5で樹脂材料3及び金型2の表面を覆う(図3(D))。次いで、このレンズ用樹脂材料の液滴31を薄片材5の上から遠赤外線ヒータ71、IHヒータ72又はその両方を用いて加熱してレンズ用樹脂材料の液滴31を硬化(図3(E))させる方法などが好適である。
【0017】
レンズ用樹脂材料の液滴31を硬化させた後は、送風機81で空冷、放熱板82を介して水冷又はその両方により冷却(図3(F))し、取り出し機9で成形型2から離型(図3(G))してレンズ1を得ることができる。得られたレンズ1は、キャビティ凹部21のレンズの集光面となる凸面1と、平坦なレンズ底面とを有するものとなる。
【0018】
なお、上記図では、成形型に1つのキャビティ凹部が形成されたものを例示したが、これに限定されるものではなく、1つの成形型の上面に複数のキャビティ凹部を設け、各々キャビティ凹部に順に又は複数の定量供給装置を用いて一度にレンズ用樹脂材料を充填してレンズを製造することも可能である。
【0019】
本発明においては、レンズ用樹脂材料として液状のものを用いる。このようなものとしては、樹脂製レンズの製造に用いられる従来公知の液状樹脂材料を用いることができるが、特にシリコーン樹脂組成物が好ましく用いられる。このような液状のシリコーン樹脂組成物を硬化させることにより、シリコーン樹脂製のレンズを得ることができるが、シリコーン樹脂組成物としては、特に、液状の付加反応硬化型のシリコーン樹脂組成物が好ましい。液状の付加反応硬化型のシリコーン樹脂組成物は、表面も内部も均一に硬化させることができるので好適である。
【0020】
上記付加反応型のシリコーン樹脂組成物としては、熱硬化により透明なシリコーン樹脂を形成するものであれば特に制限されないが、例えば、オルガノポリシロキサンをベースポリマーとし、オルガノハイドロジェンポリシロキサン及び白金系触媒等の重金属系触媒を含むものが挙げられる。
【0021】
上記オルガノポリシロキサンとしては、下記平均単位式
RaSiO(4−a)/2
(式中、Rは非置換又は置換一価炭化水素基で、好ましくは炭素数1〜10、特に1〜8のものである。aは0.8〜2、特に1〜1.8の正数である。)
で示されるものが挙げられる。ここで、Rとしてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、ビニル基、ブテニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基や、これらの炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換されたクロロメチル基、クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、シアノ基置換炭化水素基などが挙げられ、Rは同一であっても異なっていてもよいが、Rとしてフェニル基を含むもの、特に、全Rのうち5〜80モル%がフェニル基であるものが、光学レンズの耐熱性及び透明性の点から好ましい。
【0022】
また、Rとしてビニル基等のアルケニル基を含むもの、特に全Rのうち1〜20モル%がアルケニル基であるものが好ましく、中でもアルケニル基を1分子中に2個以上有するものが好ましく用いられる。このようなオルガノポリシロキサンとしては、例えば、末端にビニル基等のアルケニル基を有するジメチルポリシロキサンやジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体等の末端アルケニル基含有ジオルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0023】
一方、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、3官能以上(即ち、1分子中にケイ素原子に結合する水素原子(Si−H基)を3個以上有するもの)が好ましく、例えば、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルフェニルハイドロジェンポリシロキサン等が挙げられ、特に、常温で液状のものが好ましい。また、触媒としては、白金、白金化合物、ジブチル錫ジアセテートやジブチル錫ジラウリレート等の有機金属化合物、又はオクテン酸錫のような金属脂肪酸塩などが挙げられる。これらオルガノハイドロジェンポリシロキサンや触媒の種類や量は、架橋度や硬化速度を考慮して適宜決定すればよい。また、上記成分以外に、得られるシリコーン樹脂の強度や透明度を損なわない程度に充填剤、耐熱材、可塑剤等を添加してもよい。上記シリコーン樹脂組成物としては、信越化学
工業株式会社製 KE1935(A/B)、KJR632、GE東芝シリコーン株式会社製 XE14−062、XE14−907、東レ・ダウ・コーニング・シリコーン株式会社製 SH6103、DX−35−547等の市販品を用いることができる。
【0024】
本発明の製造方法は、径が1〜30mm程度、厚さが0.5〜30mm程度の小型の樹脂レンズを製造する場合に、特に好適である。また、上記例では、半導体光学素子としてチップ型の発光ダイオードに用いる場合を例示したが、これに限定されるものではなく、例えば、受光素子チップが組み込まれた画像形成用受光素子などのレンズとして用いることも可能である。
【0025】
本発明の製造方法により得られたレンズを用いて製造した発光装置の例を図
4に示した。図4に示されるように、発光ダイオード103を封止する透明樹脂106の上に樹脂レンズ1が載せられる。この透明樹脂106中に、蛍光体を添加することにより、発光ダイオードからの光の波長を変換することができる。あるいは、蛍光体を含有した樹脂カバー(キャップ)を発光ダイオードを覆うように設置することにより、同様に光の波長の変換を行うこともできる。
【0026】
本発明において、樹脂用レンズ材料に薄片材を密着または接着させて前記樹脂用レンズ材料を覆う工程を含む方法は、気泡の混入を確実に防止することができるのみならず、薄片材に製品部(成形されたレンズ部分)からはみ出した薄バリ部分を密着、または接着させて、仕上げを容易にすることができるため好ましい。また、薄片材として、密着性または接着性を向上せしめる処理を予め行った樹脂フィルムまたは紙を用いる工程を含む方法も、気泡の混入を確実に防止することなどを可能とするため好ましい。
これらの態様においては、製品部分と、薄張り部分は肉厚さがあるため、樹脂フィルムまたは紙には薄バリ部分が残り、製品部は厚肉のためフィルムから容易に剥すことができることから、仕上げ工程を簡略化することができるのである(図6)。また、前記したとおり、薄片材としての金属を用いた場合には、製品部の製造後に、用いた金属を元の状態に再生することが可能であるため、その再利用が容易である。
【0027】
ここで、薄片材としての樹脂フィルムまたは紙との密着性または接着性を向上せしめる処理とは、表面状態を変える処理または表面改質処理である。表面状態を変える処理としては、例えばシリコーン処理、プライマー処理および梨地処理が挙げられる。これらの表面状態を変える処理のうち、例えば梨地処理を行うと、梨地がフィルムまたは紙からレンズ底面部に転写される。このように梨地が転写されたレンズを半導体光学発光素子に用いると、レンズと封止剤との接着性を向上せしめたり、接着しない場合における光拡散効果を奏することができる。また、プライマー処理については、エチレン−酢酸ビニル共重合体、オレフィン系、熱可塑性エラストマー等のTPR系、ポリエステル系、ポリアミド系の接着剤を用いて、一体加熱する方法またはホットメルト型接着方法を用いる方法のような、当技術分野において通常行われる方法を用いることができる。
【0028】
表面改質処理としては、紫外線処理、オゾン処理、コロナ処理またはプラズマ処理が挙げられる。これらの表面改質処理のうち、紫外線処理、オゾン処理が簡便かつ効果が高いため好ましく、紫外線処理がとくに好ましい。
なお、表面改質処理を行う時間は適宜改変することができる。例えば、紫外線処理においては、照射時間を短くすることによって、照射工程が短時間で済み、かつ成形されたレンズとフィルムとの剥離がより容易に行えるといった利点がある。また、照射時間を長くした場合には、薄バリ部分(フィルムまたは紙と接着した、成形されたレンズ以外の樹脂の残りの部分)とフィルムまたは紙との接着がより強固になるため、成形されたレンズのフィルムまたは紙からの剥離がより容易になる。したがって、紫外線の照射時間としては、1〜700secが好ましく、15〜650secがより好ましく、30〜600secが最も好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、集光レンズとしての機能を有し、かつレンズの製造時の硬化収縮によるひけ又は気泡の混入によって生ずる欠損もなく、レンズ底面が平坦化された半導体光学素子用の樹脂レンズを生産性よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
〔実施例1〕
レンズ用樹脂材料として珪素原子に結合するフェニル基を有するオルガノポリシロキサンをベースポリマーとする液状シリコーン樹脂組成物(XE14−907(GE東芝シリコーン株式会社製))を用い、これを光学的に加工した図1に示すような形状のキャビティ凹部を100個形成した金型に定量供給装置を用いて液状シリコーン組成物を充填し、全ての液状シリコーン組成物の表面が覆われるように、金型の全表面に厚さ75μm のPETフィルム(東レ株式会社製ルミラー75 T60)を張り付ける。次いで、この金型を加熱することによって、液状シリコーン組成物を硬化させ、冷却後、金型から離型して、シリコーン樹脂製レンズ(径6mm、厚さ3mm)を100個製造した。これらのレンズはいずれも底面が平坦化されていた。
【0032】
〔実施例2〕
表面改質を行った樹脂フィルムを用いた。表面改質は、東レ(株)製 ルミラー 厚み100μmのPETフィルムに、センエンジニアリング(株)製 紫外線照射機 PHOT SURFACE PROCESSOR MODEL PL16-110 ランプSUV110GS-36 を用いて照射距離20mmの条件で、0〜600秒処理によって行った。
レンズキャビティ凹部に信越化学工業(株)製 シリコーン樹脂KJR632を充填し、表面改質したPETフィルムで気泡が入らないように覆って、上金型で閉じ170℃で30分加熱し成型したところ、薄バリ部分はPETフィルムに接着し、製品部分はPETフィルムから剥すことが出来ること(表1)、およびこれらの製品部分(レンズ)はいずれも底面が平坦化されていることが、それぞれ確認された。
【0033】
【表1】

【0034】
〔実施例3〕
(株)東レ製 ルミラー 厚み100μmのPETフィルムの表面状態を変えて、すなわち梨地処理を行い表面を粗して、レンズキャビティ凹部に信越化学工業(株)製 シリコーン樹脂KJR632を充填し、梨地処理した前記PETフィルムで気泡が入らないように覆って、上金型で閉じ170℃で30分加熱し成型したところ、薄バリ部分はPETフィルムに接着し、製品部分はPETフィルムから剥すことが出来ることおよびこれらの製品部分(レンズ)はいずれも底面が平坦化されていることが、それぞれ確認された。また、フィルムの梨地面は転写され、レンズ底面部分は梨地面となった。
【0035】
〔実施例4〕
レンズキャビティ凹部に信越化学工業(株)製 シリコーン樹脂KJR632を充填し、フィルムの代りに、ジメチルシリコーン系離型材をスプレー塗布し乾燥させたコピー用紙を用いて、気泡が入らないように覆って、上金型で閉じ170℃で30分加熱し成型したところ、薄バリ部分はコピー用紙に接着し、製品部分はコピー用紙から剥すことが出来ること、およびこれらの製品部分(レンズ)はいずれも底面が平坦化されていることが、それぞれ確認された。
【0036】
〔実施例5〕
(株)東レ製 ルミラー 厚み100μmのPETフィルムを金型と加熱プレスを用いて表面にφ3高さ3mmのドーム状の凸を形成した。次にレンズキャビティ凹部(φ6高さ6mm)に信越化学工業(株)製 シリコーン樹脂KJR632を充填し、前記PETフィルムを用いて凸部がレンズキャビ凹部に気泡が入らないように覆って、上金型で閉じ170℃で30分加熱し成型したところ、薄バリ部分はPETフィルムに接着し、製品部分はPETフィルムから剥すことが出来ることが確認された。フィルムの凸は転写され、レンズ底面部分は凹面となった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本願発明によって、レンズの圧縮成形による製造方法において、レンズ用樹脂材料の加熱硬化の硬化収縮による、ひけ又は気泡の混入により、レンズ底面などに欠損部ができるのを防止し、かつ、レンズ底面が平坦化された半導体素子用樹脂レンズを製造する方法が提供される。したがって、本発明は、半導体素子用樹脂レンズおよび半導体素子等の製造業および関連産業の発展に寄与するところ大である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の薄片材を用いたレンズの製造方法を示す。(A)は上型の代わりに薄片材を用いた例であり、(B)は上型と下型の間に薄片材を介在させた例である。
【図2】本発明の製造方法において用いる成形型の他の例を示す。(A)はキャビティ凹部21が断面円弧状凹陥部212のみからなる形状を有する成形型の零であり、(Bは)円板状凹陥部211と、この円板状凹陥部211の下部に形成された上記円板状凹陥部211と同径の断面円弧状凹陥部212とからなる形状を有する成形型の例である。
【図3】本発明の製造方法によりレンズを製造する工程を説明する説明図を示す。
【図4】本発明の製造方法により製造されたレンズを用いた半導体光学素子の一例を示す。
【図5】従来の圧縮成形によるレンズの製造方法を示す。
【図6】本発明の製造方法において成形されたレンズを薄片材から剥離する工程の一例を示す。
【符号の説明】
【0039】
1 レンズ
101 リード
102 リード
103 半導体発光素子
104 リード細線
105 発光体収容部材
106 封止材(透明樹脂)
2 成形型(下型)
21 キャビティ凹部
211 円板状凹陥部
212 断面円弧状凹陥部
3 レンズ用樹脂材料
31 液滴
4 成形型(上型)
5 薄片材
6 定量供給装置
71 遠赤外線ヒータ
72 IHヒータ
81 送風機
82 放熱板
9 取り出し機
10 薄バリ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズを製造する方法であって、キャビティ凹部を有する成形型の前記キャビティ凹部に液状のレンズ用樹脂材料を充填し、少なくとも前記成形型のキャビティ凹部に充填されたレンズ用樹脂材料の露出している表面を薄片材で覆い、次いで前記樹脂材料を加熱して硬化させる、前記方法。
【請求項2】
薄片材が前記成形型の下型と上型の間に介在されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
薄片材が熱変形温度90℃以上の耐熱性樹脂フィルムである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
樹脂フィルムがポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
樹脂フィルムの厚さが10〜500μmである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
レンズ用樹脂材料がシリコーン樹脂である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
キャビティ凹部が複数設けられている成形型を使用する、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
複数のキャビティ凹部のうち成形型の一方端部に位置するキャビティ凹部には、他の部に位置するキャビティ凹部よりレンズ用樹脂材料が多く充填されており、前記一方端部のキャビティ凹部より他方端部に向けて、空気を抜きながら樹脂フィルムで覆っていく、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
半導体光学素子が発光ダイオードである、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
樹脂用レンズ材料に薄片材を密着または接着させて前記樹脂用レンズ材料を覆う、請求項1、2、6〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
薄片材として、密着性または接着性を向上せしめる処理を予め行った樹脂フィルムまたは紙を用いる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
樹脂フィルムまたは紙との密着性または接着性を向上せしめる処理が、表面状態を変える処理または表面改質処理である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
表面状態を変える処理がシリコーン処理、プライマー処理または梨地処理であり、表面改質処理が紫外線処理、オゾン処理、コロナ処理またはプラズマ処理である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
薄片材が、樹脂フィルム、紙、金属、ゴム、皮または繊維の1種または2種以上を含むものである、請求項1、2、7〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
レンズが半導体光学素子用樹脂レンズである、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載の方法によって製造されたレンズであって、薄片材の表面形状が表面に転写された、前記レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−7765(P2006−7765A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−157767(P2005−157767)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(597096161)株式会社朝日ラバー (74)
【Fターム(参考)】