半導体光素子
【課題】効率の良いレーザ動作を実現することが可能な半導体光素子を提供する。
【解決手段】半導体光素子1は、活性層40と第1反射層30とを含む半導体積層3と、半導体積層3の活性層40側の主面3aから離間して配置された第2反射層60と、を備える。活性層40は、キャリヤ励起層41及びキャリヤ励起層41に挟まれた井戸層50を有する。キャリヤ励起層41はIV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含んだ複数の半導体層からなると共に、キャリヤ励起層のバンドギャップは井戸層50に近づくに従って減少する。井戸層50は、IV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含んだ短周期超格子構造を有する第1の層及びIV−VI族化合物半導体を含む第2の層を備える。
【解決手段】半導体光素子1は、活性層40と第1反射層30とを含む半導体積層3と、半導体積層3の活性層40側の主面3aから離間して配置された第2反射層60と、を備える。活性層40は、キャリヤ励起層41及びキャリヤ励起層41に挟まれた井戸層50を有する。キャリヤ励起層41はIV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含んだ複数の半導体層からなると共に、キャリヤ励起層のバンドギャップは井戸層50に近づくに従って減少する。井戸層50は、IV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含んだ短周期超格子構造を有する第1の層及びIV−VI族化合物半導体を含む第2の層を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
2.5〜25μmの波長を有する光を発生する半導体光素子は、分子の基本振動モードに基づく光吸収を利用したガス分析に用いることができる。また、波長が調整可能な半導体光素子は、医療用の計測分野における機器への応用が可能である。そのため、2.5〜25μmの範囲において波長が調整可能な半導体光素子の重要性が増している。特許文献1には、オージェ再結合の確率が小さく、比較的高い温度で動作するIV−VI族半導体を用いた半導体光素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−37337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現存する2.5〜25μmの波長を有する光を発生する半導体光素子は、動作温度を低くする必要があると共に、発生するレーザ光の出力パワーが小さいという問題がある。波長が調整可能な半導体素子には、例えばIII−V族半導体の量子井戸における伝導帯内サブバンド間の遷移を利用する量子カスケードレーザがある。しかしながら、量子カスケードレーザは広い波長調整域を得ることができない。
【0005】
2.5〜25μmの範囲において波長が調整可能な半導体光素子として有望視されている半導体光素子として、IV−VI族半導体を用いた面発光型の半導体光素子がある。このIV−VI族半導体を用いた半導体光素子において、効率の良いレーザ動作を実現するためには、少ない励起光の強度で反転分布を実現することが望まれる。また、自由キャリヤ吸収に起因する光損失を低減させることにより、少ない光利得であってもレーザ動作を実現できるようにすることが必要である。近赤外光により励起され効率の良いレーザ動作を実現する半導体光素子には、活性層の体積が小さい面発光型の構造が適している。このような構造を有する半導体光素子には、励起光である近赤外光は透過し、該半導体光素子が発生する光の99%以上は反射する反射層が必要である。
【0006】
本発明は、効率の良いレーザ動作を実現する半導体光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の半導体光素子は、活性層と第1反射層とを含む半導体積層と、半導体積層の活性層側の主面から離間して配置された第2反射層と、を備え、活性層は、キャリヤ励起層及びキャリヤ励起層に挟まれた井戸層を有し、キャリヤ励起層はIV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含んだ短周期超格子構造を有する複数の半導体層からなると共に、キャリヤ励起層のバンドギャップは井戸層に近づくに従って減少し、井戸層は、IV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含む第1の層と、IV−VI族化合物半導体を含む第2の層とを有する。
【0008】
本発明の半導体光素子は、活性層がキャリヤ励起層と井戸層とを有する。キャリヤ励起層はIV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含んだ短周期超格子構造を有するので、キャリヤ移動度が増加する。キャリヤ移動度が増加するとキャリヤ拡散係数が増大するので、キャリヤ励起層において発生したキャリヤが速やかに井戸層に流れ込む。これ故、キャリヤ励起層におけるキャリヤ濃度が低減される。また、キャリヤ励起層のバンドギャップは井戸層に近づくに従って減少する。これ故、キャリヤ励起層において発生したキャリヤを速やかに井戸層に導くことができるので、レーザ動作時においてキャリヤ励起層のキャリヤ濃度をさらに低減できる。自由キャリヤ吸収による光損失はキャリヤ濃度に比例するが、自由キャリヤ吸収による光損失係数がキャリヤ移動度に反比例するので、キャリヤ励起層のキャリヤ移動度が増加するとキャリヤ移動度の二乗に反比例してキャリヤ励起層の自由キャリヤ吸収損失が低減される。さらに、井戸層は、IV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含む第1の層と、IV−VI族化合物半導体を含む第2の層とを有する。このような構成によれば、注入キャリヤ濃度を増すことによりバンド間遷移発光した光が井戸層を通過する間に光が増幅される利得を、活性層、第1反射層及び第2反射層において失う光損失よりも大きくできる。これ故、所定の光損失があってもレーザ発振させることができる。室温付近(高温)でのレーザ動作には、上述のキャリヤ励起層における自由キャリヤ吸収損失の低減が重要になる。この光損失の低減により、低光利得においてもレーザ動作が可能になるため、光利得領域である井戸層の厚さを薄くすることができ、反転分布に必要なキャリヤ励起量を大幅に低減できる。従って、本発明に係る半導体光素子は小さな励起光強度で反転分布を発生させて効率の良いレーザ動作を実現できる。
【0009】
また、本発明の半導体光素子は、第2反射層と対向する半導体積層の主面が凹面の形状を有する。このような構成によれば、キャビティ内でのレーザ光の横方向の広がりを抑えることができるので、励起光のスポット径を小さくし、小さな励起光強度でレーザ動作を生じさせることができる。
【0010】
また、本発明の半導体光素子は、第1反射層が、IV−VI族化合物半導体を含む第3の層とII−VI族化合物半導体を含む第4の層とを有する。また、本発明に係る半導体光素子は、第2反射層が、BaF2を含む第6の層と、II−VI族化合物半導体及びIV−VI族化合物半導体のうち何れか一方を含む第5の層とを有する。また、本発明に係る半導体光素子は、第2反射層が、II−VI族化合物半導体を含む第6の層と、IV−VI族化合物半導体を含む第5の層とを有する。このような構成によれば、活性層において発生された中赤外光の波長を有するレーザ光を効率よく反射することができる。さらに、活性層を励起する近赤外光を効率よく透過させることができる。従って、近赤外光により励起され中赤外光を効率よく出射する半導体光素子を得ることができる。
【0011】
また、本発明の半導体光素子は、キャリヤ励起層のバンドギャップが井戸層に近づくに従って段階的に減少してもよい。また、キャリヤ励起層のバンドギャップが井戸層に近づくに従って連続的に減少してもよい。このように構成することにより、キャリヤ励起層において発生したキャリヤを速やかに井戸層に導くことができるので、レーザ動作時においてキャリヤ励起層に存在するキャリヤ濃度が低減される。従って、本発明に係る半導体光素子は小さな励起光強度で反転分布を発生させて効率の良いレーザ動作を実現できる。
【0012】
本発明の半導体光素子は、第1光電変換層と、第1光電変換層の上に形成された第2光電変換層とを含み、第1光電変換層はIV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含んだ短周期超格子構造を有し、第2光電変換層はシリコンを含む半導体層を有する。
【0013】
本発明の半導体光素子では、第1の光電変換層がIV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含む半導体層を有しているので、シリコンを含む半導体層を有する第2の光電変換層と異なる波長域の光を光電変換することができる。また、第1光電変換層がIV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含んだ短周期超格子構造を有しているので、高いキャリヤ移動度を実現することができると共にキャリヤ寿命を伸ばすことができる。従って、本発明に係る半導体光素子は、効率よく光電変換を行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、効率の良いレーザ動作を実現する半導体光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態に係る半導体光素子の構成を説明するための図である。
【図2】井戸層の構成を説明するための図である。
【図3】キャリヤ励起層の構成を説明するための図である。
【図4】活性層におけるバンドギャップを説明するための図である。
【図5】キャリヤ励起層の構成を説明するための図である。
【図6】第1反射層の構成を説明するための図である。
【図7】活性層における励起キャリヤ濃度を説明するための図である。
【図8】第1反射層及び第2反射層の特性を説明するための図である。
【図9】半導体光素子の特性を説明するための図である。
【図10】半導体光素子の特性を説明するための図である。
【図11】第2実施形態に係る半導体光素子の構成を説明するための図である。
【図12】第3実施形態に係る半導体光素子の構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら本発明による半導体光素子の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付す。
【0017】
図1は本実施形態の半導体光素子1の構成を説明するための図である。図1を参照すると、半導体光素子1には、レンズ4を介して励起光L1が入射される。半導体光素子1は、基板2、半導体積層3及び第2反射層60を含んでいる。半導体積層3は活性層40及び第1反射層30を含んでおり、基板2の裏面2b上にこの順で積層されて構成されている。即ち、半導体積層3の主面3aの上には、基板2が設けられている。活性層40の主面40aの反対側にある裏面40bの上には、第1反射層30が設けられている。
【0018】
第2反射層60は、半導体積層3の活性層40側の主面3aから離間して配置されている。基板2の裏面2bの反対側にある主面2a側には、空隙を介して第2反射層60が主面2aに近接して略平行に配置されている。基板2の主面2aと第2反射層60の主面60aとの間の距離D1は、例えば1cmである。基板2として、例えば厚さD2が0.5mmのBaF2(フッ化バリウム)を用いることができる。また、基板2は、シリコンを含む半導体基板であってもよい。
【0019】
活性層40は、基板2の厚さ方向にキャリヤ励起層41、井戸層50及びキャリヤ励起層41を有する。キャリヤ励起層41、井戸層50及びキャリヤ励起層41は、この順に基板2の裏面2bの上に積層されている。活性層40の厚さD3は、活性層40に入射される励起光L1の波長をλとし、屈折率をnとすると、次式(1)により求まる。本実施形態では、例えばλ/n=700nmである。
D3=λ/n…(1)
【0020】
第1反射層30は、複数の半導体層を有する多層ミラーであり、例えば第1反射層30の厚さD4は2700nmである。第1反射層30の詳細は後述する。
【0021】
第2反射層60は、基板2の主面2aに対して凹状の形状を有する。第2反射層60は、互いに異なる複数の層を有する多層ミラーである。第2反射層60は、II−VI族化合物半導体及びIV−VI族化合物半導体のうち何れか一方を含む第5の層62と、BaF2を含む第6の層61とを有する。第2反射層60は、例えば厚さD5が130nmである希土類元素を含んだIV−VI族化合物半導体である例えばPbEuTeからなる第5の層62と、例えば厚さD6が500nmであるBaF2からなる第6の層61と、が交互に積層された構造を有する。また、第5の層62は、II−VI族化合物半導体である例えばSrSからなることができる。本実施形態では、第6の層61が第5の層62に挟まれている。第2反射層60の厚さD7は、例えば1260nmである。第2反射層60には、第2反射層60の厚さ方向に第2反射層60を移動させる駆動部63が設けられている。駆動部63には、例えば圧電素子であるピエゾ素子を用いることができる。第2反射層60は、例えばホットウォールエピタキシ法や分子線エピタキシー法により形成することができる。
【0022】
図2は、井戸層50の構成を説明するための図である。井戸層50は、キャリヤ励起層41が設けられる主面50a及び裏面50bを有する。即ち、井戸層50は二層のキャリヤ励起層41に両面から挟まれている。井戸層50は、IV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含んだ短周期超格子構造を有する第1の層52と、IV−VI族化合物半導体を含む第2の層51とを備えている。井戸層50は、例えば112nmの厚さを有する。
【0023】
井戸層50は、6つの第1の層51と、5つの第2の層52とを備えている。第1の層51と第2の層52とは、井戸層50の厚さ方向に交互に積層されて、複数の量子井戸構造を形成する。井戸層50とキャリヤ励起層41とは第1の層51を介して接続されている。第1の層51と第2の層52とが積層された部分を1周期として、5周期分の構成が設けられている。即ち本実施形態の井戸層50は、5つの井戸層を備えている。
【0024】
第1の層51は、IV−VI族化合物半導体である例えばPbS(硫化鉛)からなる半導体層と、II−VI族化合物半導体である例えばSrS(硫化ストロンチウム)からなる半導体層により構成された短周期超格子構造を有する。例えば、第1の層51の厚さD8は12nmである。第2の層52は、IV−VI族化合物半導体であるPbSからなる半導体層である。例えば、第2の層52の厚さD9は8nmである。井戸層50は、例えばホットウォールエピタキシ法や分子線エピタキシー法により形成することができる。
【0025】
図3は、キャリヤ励起層41の構成を説明するための図である。キャリヤ励起層41は、励起光L1を吸収してキャリヤを生成する。キャリヤ励起層41は、井戸層50の主面50a上と、主面50aの反対側にある裏面50b上に設けられている。キャリヤ励起層41は、例えば300nmの厚さを有する。キャリヤ励起層41はIV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含んだ短周期超格子構造を有する複数の半導体層42a〜42dを含んでいる。半導体層42a〜42dは、主面50a或いは裏面50b上にこの順で積層されている。キャリヤ励起層41は、例えばホットウォールエピタキシ法や分子線エピタキシー法により形成することができる。
【0026】
図4(a)は、キャリヤ励起層41を含む活性層40が有するエネルギーバンドを示す図である。複数の半導体層42a〜42dは互いに異なるバンドギャップE1〜E4を有している。このキャリヤ励起層41のバンドギャップE1〜E4は、井戸層50に近づくに従って段階的に減少するように構成されている。なお、キャリヤ励起層41のバンドギャップE1〜E4は、図4(b)に示されるように井戸層50に近づくに従って連続的に減少してもよい。
【0027】
井戸層50の主面50aに隣接している半導体層42aが有するバンドギャップE1は例えば550meV(ミリエレクトロンボルト)であり、この半導体層42aに隣接する半導体層42bが有するバンドギャップE2は例えば620meVである。さらに、半導体層42bに隣接する半導体層42cが有するバンドギャップE3は例えば740meVであり、この半導体層42cに隣接する半導体層42dが有するバンドギャップE4は860meVである。
【0028】
再び図3を参照すると、例えば、半導体層42aは、IV−VI族化合物半導体であるPbSからなる半導体層43とII−VI族化合物半導体であるSrSからなる半導体層44とが交互に積層された構成を有する。半導体層42aが有するバンドギャップE1は、半導体層43の厚さと周期により制御される。なお、半導体層44の厚さは、1分子層程度であることが好ましい。
【0029】
図5は、半導体層42a〜42dが有するバンドギャップと、半導体層42a〜42dに含まれたPbSからなる半導体層43の厚さとの関係を示す図である。図5の点P1を参照すると、半導体層42aのバンドギャップE1を550meVに設定するためには、半導体層42aに含まれる半導体層43の厚さを約4nmにすればよいことがわかる。そして、半導体層43と半導体層44とにより構成される積層を1周期として、周期の数を25周期とすることにより、半導体層42aが形成される。
【0030】
図5の点P2を参照すると、半導体層42bのバンドギャップE2を620meVに設定するためには、半導体層42bに含まれるPbSからなる半導体層の厚さを約3nmにすればよいことがわかる。そして、PbSからなる半導体層とSrSからなる半導体層とにより構成される積層を1周期として、周期の数を30周期とすることにより、半導体層42bが形成される。
【0031】
また、図5の点P3を参照すると、半導体層42cのバンドギャップE3を740meVに設定するためには、半導体層42cに含まれるPbSからなる半導体層の厚さを約2nmにすればよいことがわかる。そして、PbSからなる半導体層とSrSからなる半導体層とにより構成される積層を1周期として、周期の数を22周期とすることにより、半導体層42cが形成される。
【0032】
そして、図5の点P4を参照すると、半導体層42dのバンドギャップE4を860meVに設定するためには、半導体層42dに含まれるPbSからなる半導体層の厚さを約1.5nmにすればよいことがわかる。そして、PbSからなる半導体層とSrSからなる半導体層とにより構成される積層を1周期として、周期の数を30周期とすることにより、半導体層42dが形成される。
【0033】
図6は、第1反射層30の構成を説明するための図である。第1反射層30は活性層40の裏面40bの上に設けられている。第1反射層30は、IV−VI族化合物半導体を含んだ短周期超格子構造を有する第3の層31とII−VI族化合物半導体を含む第4の層32とを有する。第3の層31と第4の層32とにより構成された積層を1周期として、周期の数を5周期とすることにより、第1反射層30が形成される。第1反射層30は、例えばホットウォールエピタキシ法や分子線エピタキシー法により形成することができる。
【0034】
第3の層31は、発光させる中赤外レーザ光を吸収しない十分なバンドギャップを有することが必要である。また、近赤外励起光も吸収しない0.8eV以上のバンドギャップを有することが好ましい。第3の層31は、IV−VI族化合物半導体であるPbSからなる半導体層34と、II−VI族化合物半導体であるSrSからなる半導体層33とを有している。半導体層34は4分子層の厚さを有し、半導体層33は1分子層の厚さを有する。第3の層31の厚さD10は、例えば170nmである。第3の層31では、半導体層33と半導体層34とにより構成される積層を1周期として、周期の数を100周期とすることにより短周期超格子構造が形成される。
【0035】
第4の層32は、II−VI族化合物半導体であるSrSからなる。第4の層32の厚さD11は、例えば350nmである。
【0036】
なお、第3の層31は、PbSからなる半導体層34とSrSからなる半導体層33とを含んだ短周期超格子構造を備えた構成に変えて、IV−VI族化合物半導体の金属元素の一部をアルカリ土類元素又は希土類元素で置き換えた半導体からなる構成であってもよい。例えば、第3の層31は、IV−VI族化合物半導体の金属元素の一部をアルカリ土類元素であるSr(ストロンチウム)で置き換えたPb(1−x)SrxS(x>0.06)からなる半導体層であってもよい。また、第3の層31は、IV−VI族化合物半導体の金属元素の一部を希土類元素であるEu(ユーロピウム)で置き換えたPb(1−x)EuxS(x>0.10)からなる半導体層であってもよい。
【0037】
なお、上述した第2反射層60は、第1反射層30と同様の構成であってもよい。即ち、第2反射層60は、IV−VI族化合物半導体を含んだ短周期超格子構造を有する第5の層62と、II−VI族化合物半導体を含む第6の層61とを有する。第5の層62は、例えばIV−VI族化合物半導体であるPbSからなる半導体層と、II−VI族化合物半導体であるSrSからなる半導体層とを有している。この第5の層62は、Pb(1−x)SrxS(x>0.06)或いはPb(1−x)EuxS(x>0.10)からなる半導体層であってもよい。第6の層61は、例えばII−VI族化合物半導体であるSrSからなる。
【0038】
本実施形態に係る半導体光素子1は、活性層40がキャリヤ励起層41と井戸層50とを有する。キャリヤ励起層41は、IV−VI族化合物半導体であるPbSからなる半導体層とII−VI族化合物半導体であるSrSからなる半導体層とにより構成された短周期超格子構造を有するので、キャリヤ移動度が増加する。キャリヤ移動度が増大するとキャリヤ拡散係数が増大するので、キャリヤ励起層41において発生したキャリヤが速やかに井戸層50に流れ込む。これ故、キャリヤ励起層41におけるキャリヤ濃度が低減される。また、キャリヤ励起層41のバンドギャップE1〜E4は井戸層50に近づくに従って減少する。これ故、キャリヤ励起層41において発生したキャリヤを速やかに井戸層50に導くことができるので、レーザ動作時においてキャリヤ励起層41のキャリヤ濃度が大幅に低減される。自由キャリヤ吸収による光損失はキャリヤ濃度に比例するが、自由キャリヤ吸収による光損失係数もキャリヤ移動度に反比例するので、キャリヤ励起層41のキャリヤ移動度が増加するとキャリヤ移動度の二乗に反比例してキャリヤ励起層41の自由キャリヤ吸収損失が低減される。さらに、井戸層50は、IV−VI族化合物半導体であるPbSからなる半導体層と、II−VI族化合物半導体であるSrSからなる半導体層とを含む第1の層51を有する。また、井戸層50は、IV−VI族化合物半導体であるPbSからなる第2の層52を有する。このような構成によれば、注入キャリヤ濃度を増すことによりバンド間遷移発光した光が井戸層を通過する間に光が増幅される利得を、活性層40、第1反射層30、及び第2反射層60において失う光損失よりも大きくできる。これ故、所定の光損失があってもレーザ発振させることができる。室温付近(高温)でのレーザ動作には、上述のキャリヤ励起層41における自由キャリヤ吸収損失の低減が重要になる。この光損失の低減により、低光利得においてもレーザ動作が可能になるため、光利得領域である井戸層50の厚さを薄くすることができ、反転分布に必要なキャリヤ励起量を大幅に低減できる。従って、本発明に係る半導体光素子は小さな励起光強度で反転分布を発生させて効率の良いレーザ動作を実現できる。
【0039】
また、半導体光素子1は、第1反射層30が、IV−VI族化合物半導体であるPbSからなる半導体層34と、II−VI族化合物半導体であるSrSからなる半導体層33とにより構成された短周期超格子構造を有する第3の層31と、II−VI族化合物半導体であるSrSからなる第4の層32とを有する。このような構成によれば、活性層40において発生された中赤外光の波長を有するレーザ光L2を効率よく反射することができる。
【0040】
また、半導体光素子1は、第1反射層30の第3の層31が、IV−VI族化合物半導体であるPbSからなる半導体層34と、II−VI族化合物半導体であるSrSからなる半導体層33とにより構成された短周期超格子構造を有している。このように構成することにより、第3の層31を構成する半導体層34の組成比及び第3の層31を構成する半導体層33と半導体層34の周期を調整して、第1反射層30において光を透過する波長領域を励起光L1が有する波長である1.55μmを含む領域に設定することができる。また、第1反射層30において光を反射する波長領域を活性層40において発生されたレーザ光が有する波長である2.7〜3.3μmの波長を含む領域に設定することができる。レーザ光が有する波長は、半導体光素子1の温度により発振波長は異なる。例えば、半導体光素子1を300K(ケルビン)にしたときは2.7μmであり、半導体光素子1を液体窒素温度(−196℃)にしたときは3.3μmである。
【0041】
上述した活性層40の励起キャリヤ濃度の分布を確認した。図7は、活性層の励起キャリヤ濃度の分布を示す図である。比較例である図7(a)は、キャリヤ励起層のバンドギャップが一定の値である場合の活性層における励起キャリヤ濃度の分布を示す図であり、図7(b)は本実施形態の活性層40における励起キャリヤ濃度の分布を示す図である。図7(a)及び図7(b)において、範囲S1、S3は井戸層の領域を示し、範囲S2、S4はキャリヤ励起層の領域を示す。図7(a)と図7(b)とを対比すると、図7(b)の範囲S4に示される励起キャリヤ濃度が、図7(a)の範囲S2に示される励起キャリヤ濃度よりも低減されていることがわかった。即ち、キャリヤ励起層41で発生したキャリヤがキャリヤ励起層41に残留することなく、速やかに井戸層50に移動していることが確認された。
【0042】
上述した第1反射層30及び第2反射層60の反射特性を確認した。図8は、第1反射層30及び第2反射層60の反射特性を示す図である。図8のグラフG1は、第1反射層30の反射特性を示す。グラフG1を参照すると、第1反射層30は、2.3〜3.3μmの波長域で99%以上の反射率が得られていることがわかった。また、本実施形態における励起光L1である波長1.55μmの光は、50%以上が透過されることがわかった。図8のグラフG2は、第2反射層60の反射特性を示す。グラフG2を参照すると、第2反射層60は2.3〜3.3μmの波長域で98%以上の反射率が得られていることがわかった。従って、本実施形態に係る第2反射層60は、活性層40において発生された中赤外光の波長を有するレーザ光を効率よく反射することができることが確認された。なお、上述のようにグラフG2における中赤外レーザ光の反射率をグラフG1に比べて下げることにより、レーザ光を第2反射層60側に出力することができる。
【0043】
上述した井戸層50の光利得注入キャリヤ濃度依存性を確認した。図9は、井戸層50の光利得注入キャリヤ濃度依存性を示す図である。図9を参照すると、活性層40、第1反射層30及び第2反射層60において往復4%程度の光損失があっても、量子井戸を光が通過する間に3%(往復6%)の光増幅が可能であるのでレーザ動作が可能であることがわかった。さらに、本実施形態の活性層40が有する構造により、キャリヤ励起層41にとどまるキャリヤ数を低減できるので、より好適なレーザ動作が実現できることが確認された。
【0044】
上述した半導体光素子1の入出力特性を確認した。図10は、半導体光素子1に入射する励起光L1が有するエネルギーと半導体光素子1から出射されるレーザ光L2が有するエネルギーとの関係を示す図である。本実施例では、半導体光素子1の動作温度は摂氏マイナス70度に設定された。励起光L1には、周期が10kHzであり、波長が1.55μmの近赤外線レーザが用いられた。図10を参照すると、半導体光素子1が発振を開始する励起光L1の閾値エネルギーは、2.2Wであった。この閾値エネルギーは1平方センチメートル当り7kWのエネルギーに相当する。出力レーザ光L2の最大エネルギーは、1700mWであった。また、例えば5Wのエネルギーを有する励起光L1を入射したとき、出力されたレーザ光L2のエネルギーは800mWであった。これは、半導体光素子1が30%の外部量子効率を有することを示している。
【0045】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係る半導体光素子について説明する。図11は、第2実施形態に係る半導体光素子1Aの構成を示す図面である。半導体光素子1Aは、基板79、半導体積層80及び第2反射層83を有する。半導体積層80は、第1反射層81と活性層82とを有する。活性層82の主面82aの上に第1反射層81が積層されている。活性層82の主面82aの反対側にある裏面82bから活性層82の厚さ方向に離間して、第2反射層83が近接して配置されている。
【0046】
半導体光素子1Aは、第1反射層81及び第2反射層83を構成する半導体層の組成と、励起光L3の入射方向とが第1実施形態に係る半導体光素子1と異なる。また、第2反射層83と対向する半導体積層80の主面82bは凹面の形状を有する点において第1実施形態に係る半導体光素子1と異なる。
【0047】
第1反射層81は、第7の層86と第8の層87とが交互に積層された構造を有する。第7の層86は例えばII−VI族半導体であるZnTe(テルル化亜鉛)からなる。第8の層87は、第1実施形態の第1反射層30における第3の層31と同様の構成を有する。
【0048】
第2反射層83は、第9の層84と第10の層85とが交互に積層された構造を有する。第9の層84は例えばZnTeからなる。第10の層85は例えばBaF2からなる。第2反射層83は、第9の層84と第10の層85とを1周期として、5周期分の構成にさらに第9の層84を1層加えた構成を有する。この構成により、例えば2.7〜3.4μmの波長を有する光を99%以上反射させることができる。
【0049】
半導体光素子1Aでは、第2反射層83の主面83aから励起光L3が入射される。励起光L3は、例えば870nmの波長を有する近赤外光である。第2反射層83を構成する材料のバンドギャップを1.5eV以上に設定すれば、この励起光L3を吸収しないので、この近赤外励起光L3を50%以上透過するように設計できる。励起光L3は第2反射層83を透過して活性層82に到達し、活性層82はレーザ光L4を発生する。第1反射層81は、例えば2.7〜3.4μmの波長を有する光を吸収することなく、2%程度透過する。即ち、98%程度のレーザ光L4が反射される。そして反射を繰り返して増幅されたレーザ光L4の一部が第1反射層81の裏面81bから出射される。第2反射層83と対向する活性層82の主面82bは、凹面の形状を有する。第2反射層83と活性層82の間の距離D12を100μm以下に近く配置し、励起光L3のスポット径D13を大きく設定すれば、第1反射層81及び第2反射層83の両方を平面形状としてもレーザ動作が可能であるが、励起光L3のスポット径D13を数十μm以下に小さくし、小さな励起光強度でレーザ動作を生じさせるためには、第2反射層83或は活性層82を含む半導体積層80を凹面形状にし、レーザ光のキャビティ内での横方向の広がりを抑えることが必要となる。半導体素子1Aでは、第1反射層81及び活性層82を(曲率半径8mmの)凹面形状にして、低い励起光強度でのレーザ動作を実現している。
【0050】
<第3実施形態>
図12は、第3実施形態に係る半導体光素子70の構成を示す図である。半導体光素子70は、太陽光Sを光電変換するいわゆる太陽電池素子である。半導体光素子70は、第1光電変換層74と、第1光電変換層74の上に形成された第2光電変換層73とを備えている。第1光電変換層74の裏面74bの上には裏面電極75が設けられている。第2光電変換層73の主面73aには透明電極72が設けられ、該透明電極72の上には反射防止膜71が設けられている。透明電極72には電極76が電気的に接続され、第2光電変換層73の裏面73bの上には中間電極77が電気的に接続されている。電極76と中間電極77との間から、第2光電変換層73において発生された電流が取り出される。裏面電極75には電極78が電気的に接続されている。中間電極77と電極78との間から、第1光電変換層74において発生された電流が取り出される。
【0051】
第1光電変換層74はIV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含んだ短周期超格子構造を有する。第1光電変換層74は、例えば0.5〜2μmの厚さを有する。本実施形態の第1光電変換層74は、IV−VI族化合物半導体であるPbSからなる半導体層と、II−VI族化合物半導体からなるSrSからなる半導体層とにより構成される短周期超格子構造を有する。PbSからなる半導体層は、例えば1.5〜2nmの厚さを有する。第1光電変換層74は、主面74a側からBi(ビスマス)がドーピングされたn型の領域と裏面74b側からTl(タリウム)がドーピングされたp型の領域とを有する。このように構成されることで、第1光電変換層74はpin接合構造を有する。なお、第1光電変換層74は、0.5〜2μmの厚さを有するPb(1−x)SrxSからなる薄膜であってもよい。また、第1光電変換層74に形成された接合形態は、pn接合であってもよい。
【0052】
第2光電変換層73はシリコン基板を含むシリコンからなる半導体層を有している。第2光電変換層73には、例えばシリコンからなる光電変換層を有する単結晶シリコン型太陽電池素子、多結晶シリコン型太陽電池素子、薄膜シリコン型太陽電池素子及びHIT型太陽電池素子といった太陽電池素子の構造を用いることができる。
【0053】
本実施形態の半導体光素子70によれば、第1光電変換層74がIV−VI族化合物半導体であるPbSからなる半導体層とII−VI族化合物半導体であるSrSからなる半導体層とにより構成される短周期超格子構造を有するので、シリコンを含む半導体層を有する第2光電変換層73と異なる波長域である1.1〜1.5μmの波長域の光を光電変換することができる。また、第1光電変換層74がPbSからなる半導体層とSrSからなる半導体層とにより構成された短周期超格子構造を有しているので、高いキャリヤ移動度を実現することができると共に、キャリヤ寿命を伸ばすことができる。従って、本実施形態に係る半導体光素子70は、効率よく光電変換を行うことができる。
【0054】
また、本実施形態の半導体光素子70によれば、第1光電変換層74がPbSからなる半導体層とSrSからなる半導体層とにより構成された短周期超格子構造を有しているので、第1光電変換層74において光電変換される光の波長域を調整することができる。
【符号の説明】
【0055】
1、1A…半導体素子、2…基板、3…半導体積層、40…活性層、41…キャリヤ励起層、30…第1反射層、50…井戸層、60…第2反射層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
2.5〜25μmの波長を有する光を発生する半導体光素子は、分子の基本振動モードに基づく光吸収を利用したガス分析に用いることができる。また、波長が調整可能な半導体光素子は、医療用の計測分野における機器への応用が可能である。そのため、2.5〜25μmの範囲において波長が調整可能な半導体光素子の重要性が増している。特許文献1には、オージェ再結合の確率が小さく、比較的高い温度で動作するIV−VI族半導体を用いた半導体光素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−37337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現存する2.5〜25μmの波長を有する光を発生する半導体光素子は、動作温度を低くする必要があると共に、発生するレーザ光の出力パワーが小さいという問題がある。波長が調整可能な半導体素子には、例えばIII−V族半導体の量子井戸における伝導帯内サブバンド間の遷移を利用する量子カスケードレーザがある。しかしながら、量子カスケードレーザは広い波長調整域を得ることができない。
【0005】
2.5〜25μmの範囲において波長が調整可能な半導体光素子として有望視されている半導体光素子として、IV−VI族半導体を用いた面発光型の半導体光素子がある。このIV−VI族半導体を用いた半導体光素子において、効率の良いレーザ動作を実現するためには、少ない励起光の強度で反転分布を実現することが望まれる。また、自由キャリヤ吸収に起因する光損失を低減させることにより、少ない光利得であってもレーザ動作を実現できるようにすることが必要である。近赤外光により励起され効率の良いレーザ動作を実現する半導体光素子には、活性層の体積が小さい面発光型の構造が適している。このような構造を有する半導体光素子には、励起光である近赤外光は透過し、該半導体光素子が発生する光の99%以上は反射する反射層が必要である。
【0006】
本発明は、効率の良いレーザ動作を実現する半導体光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の半導体光素子は、活性層と第1反射層とを含む半導体積層と、半導体積層の活性層側の主面から離間して配置された第2反射層と、を備え、活性層は、キャリヤ励起層及びキャリヤ励起層に挟まれた井戸層を有し、キャリヤ励起層はIV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含んだ短周期超格子構造を有する複数の半導体層からなると共に、キャリヤ励起層のバンドギャップは井戸層に近づくに従って減少し、井戸層は、IV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含む第1の層と、IV−VI族化合物半導体を含む第2の層とを有する。
【0008】
本発明の半導体光素子は、活性層がキャリヤ励起層と井戸層とを有する。キャリヤ励起層はIV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含んだ短周期超格子構造を有するので、キャリヤ移動度が増加する。キャリヤ移動度が増加するとキャリヤ拡散係数が増大するので、キャリヤ励起層において発生したキャリヤが速やかに井戸層に流れ込む。これ故、キャリヤ励起層におけるキャリヤ濃度が低減される。また、キャリヤ励起層のバンドギャップは井戸層に近づくに従って減少する。これ故、キャリヤ励起層において発生したキャリヤを速やかに井戸層に導くことができるので、レーザ動作時においてキャリヤ励起層のキャリヤ濃度をさらに低減できる。自由キャリヤ吸収による光損失はキャリヤ濃度に比例するが、自由キャリヤ吸収による光損失係数がキャリヤ移動度に反比例するので、キャリヤ励起層のキャリヤ移動度が増加するとキャリヤ移動度の二乗に反比例してキャリヤ励起層の自由キャリヤ吸収損失が低減される。さらに、井戸層は、IV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含む第1の層と、IV−VI族化合物半導体を含む第2の層とを有する。このような構成によれば、注入キャリヤ濃度を増すことによりバンド間遷移発光した光が井戸層を通過する間に光が増幅される利得を、活性層、第1反射層及び第2反射層において失う光損失よりも大きくできる。これ故、所定の光損失があってもレーザ発振させることができる。室温付近(高温)でのレーザ動作には、上述のキャリヤ励起層における自由キャリヤ吸収損失の低減が重要になる。この光損失の低減により、低光利得においてもレーザ動作が可能になるため、光利得領域である井戸層の厚さを薄くすることができ、反転分布に必要なキャリヤ励起量を大幅に低減できる。従って、本発明に係る半導体光素子は小さな励起光強度で反転分布を発生させて効率の良いレーザ動作を実現できる。
【0009】
また、本発明の半導体光素子は、第2反射層と対向する半導体積層の主面が凹面の形状を有する。このような構成によれば、キャビティ内でのレーザ光の横方向の広がりを抑えることができるので、励起光のスポット径を小さくし、小さな励起光強度でレーザ動作を生じさせることができる。
【0010】
また、本発明の半導体光素子は、第1反射層が、IV−VI族化合物半導体を含む第3の層とII−VI族化合物半導体を含む第4の層とを有する。また、本発明に係る半導体光素子は、第2反射層が、BaF2を含む第6の層と、II−VI族化合物半導体及びIV−VI族化合物半導体のうち何れか一方を含む第5の層とを有する。また、本発明に係る半導体光素子は、第2反射層が、II−VI族化合物半導体を含む第6の層と、IV−VI族化合物半導体を含む第5の層とを有する。このような構成によれば、活性層において発生された中赤外光の波長を有するレーザ光を効率よく反射することができる。さらに、活性層を励起する近赤外光を効率よく透過させることができる。従って、近赤外光により励起され中赤外光を効率よく出射する半導体光素子を得ることができる。
【0011】
また、本発明の半導体光素子は、キャリヤ励起層のバンドギャップが井戸層に近づくに従って段階的に減少してもよい。また、キャリヤ励起層のバンドギャップが井戸層に近づくに従って連続的に減少してもよい。このように構成することにより、キャリヤ励起層において発生したキャリヤを速やかに井戸層に導くことができるので、レーザ動作時においてキャリヤ励起層に存在するキャリヤ濃度が低減される。従って、本発明に係る半導体光素子は小さな励起光強度で反転分布を発生させて効率の良いレーザ動作を実現できる。
【0012】
本発明の半導体光素子は、第1光電変換層と、第1光電変換層の上に形成された第2光電変換層とを含み、第1光電変換層はIV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含んだ短周期超格子構造を有し、第2光電変換層はシリコンを含む半導体層を有する。
【0013】
本発明の半導体光素子では、第1の光電変換層がIV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含む半導体層を有しているので、シリコンを含む半導体層を有する第2の光電変換層と異なる波長域の光を光電変換することができる。また、第1光電変換層がIV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含んだ短周期超格子構造を有しているので、高いキャリヤ移動度を実現することができると共にキャリヤ寿命を伸ばすことができる。従って、本発明に係る半導体光素子は、効率よく光電変換を行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、効率の良いレーザ動作を実現する半導体光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態に係る半導体光素子の構成を説明するための図である。
【図2】井戸層の構成を説明するための図である。
【図3】キャリヤ励起層の構成を説明するための図である。
【図4】活性層におけるバンドギャップを説明するための図である。
【図5】キャリヤ励起層の構成を説明するための図である。
【図6】第1反射層の構成を説明するための図である。
【図7】活性層における励起キャリヤ濃度を説明するための図である。
【図8】第1反射層及び第2反射層の特性を説明するための図である。
【図9】半導体光素子の特性を説明するための図である。
【図10】半導体光素子の特性を説明するための図である。
【図11】第2実施形態に係る半導体光素子の構成を説明するための図である。
【図12】第3実施形態に係る半導体光素子の構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら本発明による半導体光素子の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付す。
【0017】
図1は本実施形態の半導体光素子1の構成を説明するための図である。図1を参照すると、半導体光素子1には、レンズ4を介して励起光L1が入射される。半導体光素子1は、基板2、半導体積層3及び第2反射層60を含んでいる。半導体積層3は活性層40及び第1反射層30を含んでおり、基板2の裏面2b上にこの順で積層されて構成されている。即ち、半導体積層3の主面3aの上には、基板2が設けられている。活性層40の主面40aの反対側にある裏面40bの上には、第1反射層30が設けられている。
【0018】
第2反射層60は、半導体積層3の活性層40側の主面3aから離間して配置されている。基板2の裏面2bの反対側にある主面2a側には、空隙を介して第2反射層60が主面2aに近接して略平行に配置されている。基板2の主面2aと第2反射層60の主面60aとの間の距離D1は、例えば1cmである。基板2として、例えば厚さD2が0.5mmのBaF2(フッ化バリウム)を用いることができる。また、基板2は、シリコンを含む半導体基板であってもよい。
【0019】
活性層40は、基板2の厚さ方向にキャリヤ励起層41、井戸層50及びキャリヤ励起層41を有する。キャリヤ励起層41、井戸層50及びキャリヤ励起層41は、この順に基板2の裏面2bの上に積層されている。活性層40の厚さD3は、活性層40に入射される励起光L1の波長をλとし、屈折率をnとすると、次式(1)により求まる。本実施形態では、例えばλ/n=700nmである。
D3=λ/n…(1)
【0020】
第1反射層30は、複数の半導体層を有する多層ミラーであり、例えば第1反射層30の厚さD4は2700nmである。第1反射層30の詳細は後述する。
【0021】
第2反射層60は、基板2の主面2aに対して凹状の形状を有する。第2反射層60は、互いに異なる複数の層を有する多層ミラーである。第2反射層60は、II−VI族化合物半導体及びIV−VI族化合物半導体のうち何れか一方を含む第5の層62と、BaF2を含む第6の層61とを有する。第2反射層60は、例えば厚さD5が130nmである希土類元素を含んだIV−VI族化合物半導体である例えばPbEuTeからなる第5の層62と、例えば厚さD6が500nmであるBaF2からなる第6の層61と、が交互に積層された構造を有する。また、第5の層62は、II−VI族化合物半導体である例えばSrSからなることができる。本実施形態では、第6の層61が第5の層62に挟まれている。第2反射層60の厚さD7は、例えば1260nmである。第2反射層60には、第2反射層60の厚さ方向に第2反射層60を移動させる駆動部63が設けられている。駆動部63には、例えば圧電素子であるピエゾ素子を用いることができる。第2反射層60は、例えばホットウォールエピタキシ法や分子線エピタキシー法により形成することができる。
【0022】
図2は、井戸層50の構成を説明するための図である。井戸層50は、キャリヤ励起層41が設けられる主面50a及び裏面50bを有する。即ち、井戸層50は二層のキャリヤ励起層41に両面から挟まれている。井戸層50は、IV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含んだ短周期超格子構造を有する第1の層52と、IV−VI族化合物半導体を含む第2の層51とを備えている。井戸層50は、例えば112nmの厚さを有する。
【0023】
井戸層50は、6つの第1の層51と、5つの第2の層52とを備えている。第1の層51と第2の層52とは、井戸層50の厚さ方向に交互に積層されて、複数の量子井戸構造を形成する。井戸層50とキャリヤ励起層41とは第1の層51を介して接続されている。第1の層51と第2の層52とが積層された部分を1周期として、5周期分の構成が設けられている。即ち本実施形態の井戸層50は、5つの井戸層を備えている。
【0024】
第1の層51は、IV−VI族化合物半導体である例えばPbS(硫化鉛)からなる半導体層と、II−VI族化合物半導体である例えばSrS(硫化ストロンチウム)からなる半導体層により構成された短周期超格子構造を有する。例えば、第1の層51の厚さD8は12nmである。第2の層52は、IV−VI族化合物半導体であるPbSからなる半導体層である。例えば、第2の層52の厚さD9は8nmである。井戸層50は、例えばホットウォールエピタキシ法や分子線エピタキシー法により形成することができる。
【0025】
図3は、キャリヤ励起層41の構成を説明するための図である。キャリヤ励起層41は、励起光L1を吸収してキャリヤを生成する。キャリヤ励起層41は、井戸層50の主面50a上と、主面50aの反対側にある裏面50b上に設けられている。キャリヤ励起層41は、例えば300nmの厚さを有する。キャリヤ励起層41はIV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含んだ短周期超格子構造を有する複数の半導体層42a〜42dを含んでいる。半導体層42a〜42dは、主面50a或いは裏面50b上にこの順で積層されている。キャリヤ励起層41は、例えばホットウォールエピタキシ法や分子線エピタキシー法により形成することができる。
【0026】
図4(a)は、キャリヤ励起層41を含む活性層40が有するエネルギーバンドを示す図である。複数の半導体層42a〜42dは互いに異なるバンドギャップE1〜E4を有している。このキャリヤ励起層41のバンドギャップE1〜E4は、井戸層50に近づくに従って段階的に減少するように構成されている。なお、キャリヤ励起層41のバンドギャップE1〜E4は、図4(b)に示されるように井戸層50に近づくに従って連続的に減少してもよい。
【0027】
井戸層50の主面50aに隣接している半導体層42aが有するバンドギャップE1は例えば550meV(ミリエレクトロンボルト)であり、この半導体層42aに隣接する半導体層42bが有するバンドギャップE2は例えば620meVである。さらに、半導体層42bに隣接する半導体層42cが有するバンドギャップE3は例えば740meVであり、この半導体層42cに隣接する半導体層42dが有するバンドギャップE4は860meVである。
【0028】
再び図3を参照すると、例えば、半導体層42aは、IV−VI族化合物半導体であるPbSからなる半導体層43とII−VI族化合物半導体であるSrSからなる半導体層44とが交互に積層された構成を有する。半導体層42aが有するバンドギャップE1は、半導体層43の厚さと周期により制御される。なお、半導体層44の厚さは、1分子層程度であることが好ましい。
【0029】
図5は、半導体層42a〜42dが有するバンドギャップと、半導体層42a〜42dに含まれたPbSからなる半導体層43の厚さとの関係を示す図である。図5の点P1を参照すると、半導体層42aのバンドギャップE1を550meVに設定するためには、半導体層42aに含まれる半導体層43の厚さを約4nmにすればよいことがわかる。そして、半導体層43と半導体層44とにより構成される積層を1周期として、周期の数を25周期とすることにより、半導体層42aが形成される。
【0030】
図5の点P2を参照すると、半導体層42bのバンドギャップE2を620meVに設定するためには、半導体層42bに含まれるPbSからなる半導体層の厚さを約3nmにすればよいことがわかる。そして、PbSからなる半導体層とSrSからなる半導体層とにより構成される積層を1周期として、周期の数を30周期とすることにより、半導体層42bが形成される。
【0031】
また、図5の点P3を参照すると、半導体層42cのバンドギャップE3を740meVに設定するためには、半導体層42cに含まれるPbSからなる半導体層の厚さを約2nmにすればよいことがわかる。そして、PbSからなる半導体層とSrSからなる半導体層とにより構成される積層を1周期として、周期の数を22周期とすることにより、半導体層42cが形成される。
【0032】
そして、図5の点P4を参照すると、半導体層42dのバンドギャップE4を860meVに設定するためには、半導体層42dに含まれるPbSからなる半導体層の厚さを約1.5nmにすればよいことがわかる。そして、PbSからなる半導体層とSrSからなる半導体層とにより構成される積層を1周期として、周期の数を30周期とすることにより、半導体層42dが形成される。
【0033】
図6は、第1反射層30の構成を説明するための図である。第1反射層30は活性層40の裏面40bの上に設けられている。第1反射層30は、IV−VI族化合物半導体を含んだ短周期超格子構造を有する第3の層31とII−VI族化合物半導体を含む第4の層32とを有する。第3の層31と第4の層32とにより構成された積層を1周期として、周期の数を5周期とすることにより、第1反射層30が形成される。第1反射層30は、例えばホットウォールエピタキシ法や分子線エピタキシー法により形成することができる。
【0034】
第3の層31は、発光させる中赤外レーザ光を吸収しない十分なバンドギャップを有することが必要である。また、近赤外励起光も吸収しない0.8eV以上のバンドギャップを有することが好ましい。第3の層31は、IV−VI族化合物半導体であるPbSからなる半導体層34と、II−VI族化合物半導体であるSrSからなる半導体層33とを有している。半導体層34は4分子層の厚さを有し、半導体層33は1分子層の厚さを有する。第3の層31の厚さD10は、例えば170nmである。第3の層31では、半導体層33と半導体層34とにより構成される積層を1周期として、周期の数を100周期とすることにより短周期超格子構造が形成される。
【0035】
第4の層32は、II−VI族化合物半導体であるSrSからなる。第4の層32の厚さD11は、例えば350nmである。
【0036】
なお、第3の層31は、PbSからなる半導体層34とSrSからなる半導体層33とを含んだ短周期超格子構造を備えた構成に変えて、IV−VI族化合物半導体の金属元素の一部をアルカリ土類元素又は希土類元素で置き換えた半導体からなる構成であってもよい。例えば、第3の層31は、IV−VI族化合物半導体の金属元素の一部をアルカリ土類元素であるSr(ストロンチウム)で置き換えたPb(1−x)SrxS(x>0.06)からなる半導体層であってもよい。また、第3の層31は、IV−VI族化合物半導体の金属元素の一部を希土類元素であるEu(ユーロピウム)で置き換えたPb(1−x)EuxS(x>0.10)からなる半導体層であってもよい。
【0037】
なお、上述した第2反射層60は、第1反射層30と同様の構成であってもよい。即ち、第2反射層60は、IV−VI族化合物半導体を含んだ短周期超格子構造を有する第5の層62と、II−VI族化合物半導体を含む第6の層61とを有する。第5の層62は、例えばIV−VI族化合物半導体であるPbSからなる半導体層と、II−VI族化合物半導体であるSrSからなる半導体層とを有している。この第5の層62は、Pb(1−x)SrxS(x>0.06)或いはPb(1−x)EuxS(x>0.10)からなる半導体層であってもよい。第6の層61は、例えばII−VI族化合物半導体であるSrSからなる。
【0038】
本実施形態に係る半導体光素子1は、活性層40がキャリヤ励起層41と井戸層50とを有する。キャリヤ励起層41は、IV−VI族化合物半導体であるPbSからなる半導体層とII−VI族化合物半導体であるSrSからなる半導体層とにより構成された短周期超格子構造を有するので、キャリヤ移動度が増加する。キャリヤ移動度が増大するとキャリヤ拡散係数が増大するので、キャリヤ励起層41において発生したキャリヤが速やかに井戸層50に流れ込む。これ故、キャリヤ励起層41におけるキャリヤ濃度が低減される。また、キャリヤ励起層41のバンドギャップE1〜E4は井戸層50に近づくに従って減少する。これ故、キャリヤ励起層41において発生したキャリヤを速やかに井戸層50に導くことができるので、レーザ動作時においてキャリヤ励起層41のキャリヤ濃度が大幅に低減される。自由キャリヤ吸収による光損失はキャリヤ濃度に比例するが、自由キャリヤ吸収による光損失係数もキャリヤ移動度に反比例するので、キャリヤ励起層41のキャリヤ移動度が増加するとキャリヤ移動度の二乗に反比例してキャリヤ励起層41の自由キャリヤ吸収損失が低減される。さらに、井戸層50は、IV−VI族化合物半導体であるPbSからなる半導体層と、II−VI族化合物半導体であるSrSからなる半導体層とを含む第1の層51を有する。また、井戸層50は、IV−VI族化合物半導体であるPbSからなる第2の層52を有する。このような構成によれば、注入キャリヤ濃度を増すことによりバンド間遷移発光した光が井戸層を通過する間に光が増幅される利得を、活性層40、第1反射層30、及び第2反射層60において失う光損失よりも大きくできる。これ故、所定の光損失があってもレーザ発振させることができる。室温付近(高温)でのレーザ動作には、上述のキャリヤ励起層41における自由キャリヤ吸収損失の低減が重要になる。この光損失の低減により、低光利得においてもレーザ動作が可能になるため、光利得領域である井戸層50の厚さを薄くすることができ、反転分布に必要なキャリヤ励起量を大幅に低減できる。従って、本発明に係る半導体光素子は小さな励起光強度で反転分布を発生させて効率の良いレーザ動作を実現できる。
【0039】
また、半導体光素子1は、第1反射層30が、IV−VI族化合物半導体であるPbSからなる半導体層34と、II−VI族化合物半導体であるSrSからなる半導体層33とにより構成された短周期超格子構造を有する第3の層31と、II−VI族化合物半導体であるSrSからなる第4の層32とを有する。このような構成によれば、活性層40において発生された中赤外光の波長を有するレーザ光L2を効率よく反射することができる。
【0040】
また、半導体光素子1は、第1反射層30の第3の層31が、IV−VI族化合物半導体であるPbSからなる半導体層34と、II−VI族化合物半導体であるSrSからなる半導体層33とにより構成された短周期超格子構造を有している。このように構成することにより、第3の層31を構成する半導体層34の組成比及び第3の層31を構成する半導体層33と半導体層34の周期を調整して、第1反射層30において光を透過する波長領域を励起光L1が有する波長である1.55μmを含む領域に設定することができる。また、第1反射層30において光を反射する波長領域を活性層40において発生されたレーザ光が有する波長である2.7〜3.3μmの波長を含む領域に設定することができる。レーザ光が有する波長は、半導体光素子1の温度により発振波長は異なる。例えば、半導体光素子1を300K(ケルビン)にしたときは2.7μmであり、半導体光素子1を液体窒素温度(−196℃)にしたときは3.3μmである。
【0041】
上述した活性層40の励起キャリヤ濃度の分布を確認した。図7は、活性層の励起キャリヤ濃度の分布を示す図である。比較例である図7(a)は、キャリヤ励起層のバンドギャップが一定の値である場合の活性層における励起キャリヤ濃度の分布を示す図であり、図7(b)は本実施形態の活性層40における励起キャリヤ濃度の分布を示す図である。図7(a)及び図7(b)において、範囲S1、S3は井戸層の領域を示し、範囲S2、S4はキャリヤ励起層の領域を示す。図7(a)と図7(b)とを対比すると、図7(b)の範囲S4に示される励起キャリヤ濃度が、図7(a)の範囲S2に示される励起キャリヤ濃度よりも低減されていることがわかった。即ち、キャリヤ励起層41で発生したキャリヤがキャリヤ励起層41に残留することなく、速やかに井戸層50に移動していることが確認された。
【0042】
上述した第1反射層30及び第2反射層60の反射特性を確認した。図8は、第1反射層30及び第2反射層60の反射特性を示す図である。図8のグラフG1は、第1反射層30の反射特性を示す。グラフG1を参照すると、第1反射層30は、2.3〜3.3μmの波長域で99%以上の反射率が得られていることがわかった。また、本実施形態における励起光L1である波長1.55μmの光は、50%以上が透過されることがわかった。図8のグラフG2は、第2反射層60の反射特性を示す。グラフG2を参照すると、第2反射層60は2.3〜3.3μmの波長域で98%以上の反射率が得られていることがわかった。従って、本実施形態に係る第2反射層60は、活性層40において発生された中赤外光の波長を有するレーザ光を効率よく反射することができることが確認された。なお、上述のようにグラフG2における中赤外レーザ光の反射率をグラフG1に比べて下げることにより、レーザ光を第2反射層60側に出力することができる。
【0043】
上述した井戸層50の光利得注入キャリヤ濃度依存性を確認した。図9は、井戸層50の光利得注入キャリヤ濃度依存性を示す図である。図9を参照すると、活性層40、第1反射層30及び第2反射層60において往復4%程度の光損失があっても、量子井戸を光が通過する間に3%(往復6%)の光増幅が可能であるのでレーザ動作が可能であることがわかった。さらに、本実施形態の活性層40が有する構造により、キャリヤ励起層41にとどまるキャリヤ数を低減できるので、より好適なレーザ動作が実現できることが確認された。
【0044】
上述した半導体光素子1の入出力特性を確認した。図10は、半導体光素子1に入射する励起光L1が有するエネルギーと半導体光素子1から出射されるレーザ光L2が有するエネルギーとの関係を示す図である。本実施例では、半導体光素子1の動作温度は摂氏マイナス70度に設定された。励起光L1には、周期が10kHzであり、波長が1.55μmの近赤外線レーザが用いられた。図10を参照すると、半導体光素子1が発振を開始する励起光L1の閾値エネルギーは、2.2Wであった。この閾値エネルギーは1平方センチメートル当り7kWのエネルギーに相当する。出力レーザ光L2の最大エネルギーは、1700mWであった。また、例えば5Wのエネルギーを有する励起光L1を入射したとき、出力されたレーザ光L2のエネルギーは800mWであった。これは、半導体光素子1が30%の外部量子効率を有することを示している。
【0045】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係る半導体光素子について説明する。図11は、第2実施形態に係る半導体光素子1Aの構成を示す図面である。半導体光素子1Aは、基板79、半導体積層80及び第2反射層83を有する。半導体積層80は、第1反射層81と活性層82とを有する。活性層82の主面82aの上に第1反射層81が積層されている。活性層82の主面82aの反対側にある裏面82bから活性層82の厚さ方向に離間して、第2反射層83が近接して配置されている。
【0046】
半導体光素子1Aは、第1反射層81及び第2反射層83を構成する半導体層の組成と、励起光L3の入射方向とが第1実施形態に係る半導体光素子1と異なる。また、第2反射層83と対向する半導体積層80の主面82bは凹面の形状を有する点において第1実施形態に係る半導体光素子1と異なる。
【0047】
第1反射層81は、第7の層86と第8の層87とが交互に積層された構造を有する。第7の層86は例えばII−VI族半導体であるZnTe(テルル化亜鉛)からなる。第8の層87は、第1実施形態の第1反射層30における第3の層31と同様の構成を有する。
【0048】
第2反射層83は、第9の層84と第10の層85とが交互に積層された構造を有する。第9の層84は例えばZnTeからなる。第10の層85は例えばBaF2からなる。第2反射層83は、第9の層84と第10の層85とを1周期として、5周期分の構成にさらに第9の層84を1層加えた構成を有する。この構成により、例えば2.7〜3.4μmの波長を有する光を99%以上反射させることができる。
【0049】
半導体光素子1Aでは、第2反射層83の主面83aから励起光L3が入射される。励起光L3は、例えば870nmの波長を有する近赤外光である。第2反射層83を構成する材料のバンドギャップを1.5eV以上に設定すれば、この励起光L3を吸収しないので、この近赤外励起光L3を50%以上透過するように設計できる。励起光L3は第2反射層83を透過して活性層82に到達し、活性層82はレーザ光L4を発生する。第1反射層81は、例えば2.7〜3.4μmの波長を有する光を吸収することなく、2%程度透過する。即ち、98%程度のレーザ光L4が反射される。そして反射を繰り返して増幅されたレーザ光L4の一部が第1反射層81の裏面81bから出射される。第2反射層83と対向する活性層82の主面82bは、凹面の形状を有する。第2反射層83と活性層82の間の距離D12を100μm以下に近く配置し、励起光L3のスポット径D13を大きく設定すれば、第1反射層81及び第2反射層83の両方を平面形状としてもレーザ動作が可能であるが、励起光L3のスポット径D13を数十μm以下に小さくし、小さな励起光強度でレーザ動作を生じさせるためには、第2反射層83或は活性層82を含む半導体積層80を凹面形状にし、レーザ光のキャビティ内での横方向の広がりを抑えることが必要となる。半導体素子1Aでは、第1反射層81及び活性層82を(曲率半径8mmの)凹面形状にして、低い励起光強度でのレーザ動作を実現している。
【0050】
<第3実施形態>
図12は、第3実施形態に係る半導体光素子70の構成を示す図である。半導体光素子70は、太陽光Sを光電変換するいわゆる太陽電池素子である。半導体光素子70は、第1光電変換層74と、第1光電変換層74の上に形成された第2光電変換層73とを備えている。第1光電変換層74の裏面74bの上には裏面電極75が設けられている。第2光電変換層73の主面73aには透明電極72が設けられ、該透明電極72の上には反射防止膜71が設けられている。透明電極72には電極76が電気的に接続され、第2光電変換層73の裏面73bの上には中間電極77が電気的に接続されている。電極76と中間電極77との間から、第2光電変換層73において発生された電流が取り出される。裏面電極75には電極78が電気的に接続されている。中間電極77と電極78との間から、第1光電変換層74において発生された電流が取り出される。
【0051】
第1光電変換層74はIV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含んだ短周期超格子構造を有する。第1光電変換層74は、例えば0.5〜2μmの厚さを有する。本実施形態の第1光電変換層74は、IV−VI族化合物半導体であるPbSからなる半導体層と、II−VI族化合物半導体からなるSrSからなる半導体層とにより構成される短周期超格子構造を有する。PbSからなる半導体層は、例えば1.5〜2nmの厚さを有する。第1光電変換層74は、主面74a側からBi(ビスマス)がドーピングされたn型の領域と裏面74b側からTl(タリウム)がドーピングされたp型の領域とを有する。このように構成されることで、第1光電変換層74はpin接合構造を有する。なお、第1光電変換層74は、0.5〜2μmの厚さを有するPb(1−x)SrxSからなる薄膜であってもよい。また、第1光電変換層74に形成された接合形態は、pn接合であってもよい。
【0052】
第2光電変換層73はシリコン基板を含むシリコンからなる半導体層を有している。第2光電変換層73には、例えばシリコンからなる光電変換層を有する単結晶シリコン型太陽電池素子、多結晶シリコン型太陽電池素子、薄膜シリコン型太陽電池素子及びHIT型太陽電池素子といった太陽電池素子の構造を用いることができる。
【0053】
本実施形態の半導体光素子70によれば、第1光電変換層74がIV−VI族化合物半導体であるPbSからなる半導体層とII−VI族化合物半導体であるSrSからなる半導体層とにより構成される短周期超格子構造を有するので、シリコンを含む半導体層を有する第2光電変換層73と異なる波長域である1.1〜1.5μmの波長域の光を光電変換することができる。また、第1光電変換層74がPbSからなる半導体層とSrSからなる半導体層とにより構成された短周期超格子構造を有しているので、高いキャリヤ移動度を実現することができると共に、キャリヤ寿命を伸ばすことができる。従って、本実施形態に係る半導体光素子70は、効率よく光電変換を行うことができる。
【0054】
また、本実施形態の半導体光素子70によれば、第1光電変換層74がPbSからなる半導体層とSrSからなる半導体層とにより構成された短周期超格子構造を有しているので、第1光電変換層74において光電変換される光の波長域を調整することができる。
【符号の説明】
【0055】
1、1A…半導体素子、2…基板、3…半導体積層、40…活性層、41…キャリヤ励起層、30…第1反射層、50…井戸層、60…第2反射層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性層と第1反射層とを含む半導体積層と、
前記半導体積層の前記活性層側の主面から離間して配置された第2反射層と、
を備え、
前記活性層は、キャリヤ励起層及び前記キャリヤ励起層に挟まれた井戸層を有し、
前記キャリヤ励起層はIV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含んだ短周期超格子構造を有する複数の半導体層からなると共に、前記キャリヤ励起層のバンドギャップは前記井戸層に近づくに従って減少し、
前記井戸層は、IV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含む第1の層と、IV−VI族化合物半導体を含む第2の層とを有する、ことを特徴とする半導体光素子。
【請求項2】
前記第2反射層と対向する前記半導体積層の前記主面は凹面の形状を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の半導体光素子。
【請求項3】
前記第1反射層は、IV−VI族化合物半導体を含む第3の層とII−VI族化合物半導体を含む第4の層とを有する、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体光素子。
【請求項4】
前記第2反射層は、II−VI族化合物半導体及びIV−VI族化合物半導体のうち何れか一方を含む第5の層と、BaF2を含む第6の層とを有する、ことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の半導体光素子。
【請求項5】
前記第2反射層は、IV−VI族化合物半導体を含む第5の層と、II−VI族化合物半導体を含む第6の層とを有する、ことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の半導体光素子。
【請求項6】
前記キャリヤ励起層の前記バンドギャップは前記井戸層に近づくに従って段階的に減少する、ことを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか一項に記載の半導体光素子。
【請求項7】
前記キャリヤ励起層の前記バンドギャップは前記井戸層に近づくに従って連続的に減少する、ことを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか一項に記載の半導体光素子。
【請求項8】
第1光電変換層と、前記第1光電変換層の上に形成された第2光電変換層と、を含み、
前記第1光電変換層はIV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含んだ短周期超格子構造を有し、
前記第2光電変換層はシリコンを含む半導体層を有する、ことを特徴とする半導体光素子。
【請求項1】
活性層と第1反射層とを含む半導体積層と、
前記半導体積層の前記活性層側の主面から離間して配置された第2反射層と、
を備え、
前記活性層は、キャリヤ励起層及び前記キャリヤ励起層に挟まれた井戸層を有し、
前記キャリヤ励起層はIV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含んだ短周期超格子構造を有する複数の半導体層からなると共に、前記キャリヤ励起層のバンドギャップは前記井戸層に近づくに従って減少し、
前記井戸層は、IV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含む第1の層と、IV−VI族化合物半導体を含む第2の層とを有する、ことを特徴とする半導体光素子。
【請求項2】
前記第2反射層と対向する前記半導体積層の前記主面は凹面の形状を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の半導体光素子。
【請求項3】
前記第1反射層は、IV−VI族化合物半導体を含む第3の層とII−VI族化合物半導体を含む第4の層とを有する、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体光素子。
【請求項4】
前記第2反射層は、II−VI族化合物半導体及びIV−VI族化合物半導体のうち何れか一方を含む第5の層と、BaF2を含む第6の層とを有する、ことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の半導体光素子。
【請求項5】
前記第2反射層は、IV−VI族化合物半導体を含む第5の層と、II−VI族化合物半導体を含む第6の層とを有する、ことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の半導体光素子。
【請求項6】
前記キャリヤ励起層の前記バンドギャップは前記井戸層に近づくに従って段階的に減少する、ことを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか一項に記載の半導体光素子。
【請求項7】
前記キャリヤ励起層の前記バンドギャップは前記井戸層に近づくに従って連続的に減少する、ことを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか一項に記載の半導体光素子。
【請求項8】
第1光電変換層と、前記第1光電変換層の上に形成された第2光電変換層と、を含み、
前記第1光電変換層はIV−VI族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体を含んだ短周期超格子構造を有し、
前記第2光電変換層はシリコンを含む半導体層を有する、ことを特徴とする半導体光素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−4533(P2013−4533A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130531(P2011−130531)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 社団法人応用物理学会 刊行物名 2011年春季第58回応用物理学関係連合講演会講演予稿集 発行日 2011年3月9日
【出願人】(594117881)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 社団法人応用物理学会 刊行物名 2011年春季第58回応用物理学関係連合講演会講演予稿集 発行日 2011年3月9日
【出願人】(594117881)
【Fターム(参考)】
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