説明

半導体発光素子および光結合装置

【課題】放出光のピーク波長範囲の外側の発光スペクトル強度が低減された半導体発光装置およびそれを用いた光結合装置を提供する。
【解決手段】半導体発光素子は、発光層と、第1の層と、第2の層と、分布ブラッグ反射層と、を有する。発光層は、第1の面および第2の面を有し、740nm以上830nm以下の波長範囲にピーク波長を有する放出光を放出可能である。第1の層は、前記発光層の前記第1の面の側に設けられ、第1導電形を有し、前記発光層の反対の側に設けられた光取り出し面を有する。第2の層は、前記発光層の前記第2の面の側に設けられ、第2導電形を有する。分布ブラッグ反射層は、前記第2の層の前記発光層とは反対の側に設けられ、第2導電形を有する分布ブラッグ反射層であって、前記光取り出し面に向けて前記放出光を反射可能である。また、第3および第4の層は、前記ピーク波長よりも短いバンドギャップ波長をそれぞれ有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、半導体発光素子および光結合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器のリモコンや入出力を電気的に絶縁して信号を伝送する光結合装置には、0.74〜1μmの波長範囲の近赤外光が広く用いられる。
【0003】
発光素子として近赤外光を放出可能なLED(Light Emitting Diode)を用い、かつ受光素子としてSiフォトダイオードを用いると、近赤外光を感度良く検出することができる。
【0004】
発光素子に対する所望の波長範囲の外側において、発光スペクトル強度は低いことが好ましい。例えば、740〜830nmを所望の波長範囲とする場合、発光素子が870nm近傍の励起光を放出し、受光素子の深い領域に生じたキャリアが拡散される。このため、受光素子は、パルス信号の立ち下がりにおいて裾引き現象などを生じ、光結合装置においてパルス幅歪みや信号遅延などの特性低下を生じる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−270073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、放出光のピーク波長範囲の外側の発光スペクトル強度が低減された半導体発光装置およびそれを用いた光結合装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の半導体発光素子は、発光層と、第1の層と、第2の層と、分布ブラッグ反射層と、を有する。前記発光層は、第1の面および前記第1の面の反対の側に設けられた第2の面を有し、740nm以上830nm以下の波長範囲にピーク波長を有する放出光を放出可能である。前記第1の層は、前記発光層の前記第1の面の側に設けられ、第1導電形を有し、前記発光層の反対の側に設けられた光取り出し面を有する。前記第2の層は、前記発光層の前記第2の面の側に設けられ、第2導電形を有する。前記分布ブラッグ反射層は、前記第2の層の前記発光層とは反対の側に設けられ、第2導電形を有する分布ブラッグ反射層であって、第3の層と、前記第3の層の屈折率よりも高い屈折率を有する第4の層と、が交互に積層され、前記光取り出し面に向けて前記放出光を反射可能である。また、前記第3および第4の層は、前記ピーク波長よりも短いバンドギャップ波長をそれぞれ有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1(a)は第1の実施形態にかかる半導体発光装置の模式平面図、図1(b)は部分拡大模式断面図、である。
【図2】図2(a)は第1の実施形態にかかる半導体発光素子の発光スペクトルを示すグラフ図、図2(b)は第1の実施形態の変形例の発光スペクトルを示すグラフ図、である。
【図3】AlGa1−xAs(0≦x<0.45)のAl組成比に対するバンドギャップ波長の依存性を表すグラフ図である。
【図4】波長に対する比視感度の依存性を示すグラフ図である。
【図5】DBR層のバンドギャップ波長の範囲を示すグラフ図である。
【図6】図6(a)は第1の実施形態にかかる半導体発光素子の駆動電流波形およびその放出光が変換された電流波形を示すグラフ図、図6(b)はその変形例の駆動電流波形およびその放出光が変換された出力電流波形を示すグラフ図、である。
【図7】図7(a)は比較例にかかる半導体発光素子の発光スペクトルを表すグラフ図、図7(b)は受光素子による出力電流波形を示すグラフ図、である。
【図8】図8(a)は受光素子において生じる拡散キャリアを説明する模式図、図8(b)および(d)は830nmよりも長い光成分による作用を説明する模式図、図8(d)および(e)は830nm以下の光成分による作用を説明する模式図、である。
【図9】Siフォトダイオードの相対分光感度を示すグラフ図である。
【図10】図10(a)は第2の実施形態にかかる半導体発光素子の発光スペクトルのグラフ図、図10(b)はその駆動電流波形および放出光が変換された出力電流波形を表すグラフ図、である。
【図11】図11(a)は本実施形態にかかる光結合装置の模式断面図、図11(b)は端子の接続を示す模式図、である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
図1(a)は第1の実施形態にかかる半導体発光装置の模式平面図、図1(b)は領域Dの部分拡大模式断面図、である。
半導体発光素子10は、発光層26と、第1の層32と、第2の層24と、分布ブラッグ反射(DBR:Distributed Bragg Reflector)層23と、を有する。
【0010】
発光層26は、第1の面26aおよび第1の面26aの反対の側の第2の面26bを有し、740nm以上かつ830nm以下の波長範囲のピーク波長を有する放出光を放出可能である。第1の層32は、発光層26の第1の面26aの側に設けられ、光取り出し面32cを含み、第1導電形を有する。第2の層24は、発光層26の第2の面26bの側に設けられ、第2導電形を有する。DBR層23は、発光層26とは反対となる第2の層24の側に設けられ、第2導電形を有する。また、DBR層23は、第3の層22aと、第3の層22aの屈折率n1よりも高い屈折率n2を有する第4の層22bと、の1ペア22が交互に積層され、光取り出し面32cに向けて放出光を反射可能である。
【0011】
図1(a)では、半導体発光素子10は、光取り出し面32cの上方に設けられた電流ブロック層38と、電流ブロック層38の上方に設けられた第1の電極40と、DBR層23の下方に設けられた基板50と、基板50の裏面に設けられた第2の電極52と、をさらに有している。
【0012】
第1の電極40は、パッド部40aおよび細線部40bを有していてもよい。この場合、パッド部40aと、第1の層32と、の間に電流ブロック層38を設けると、パッド部40aの下方領域へのキャリアJの注入を低減し、パッド部40aの下方領域での発光を抑制でき、光取り出し効率を高めることができる。
【0013】
また、第1の層32は、細線電極40bの側に設けられた電流拡散層32aと、発光層26の側に設けられたクラッド層32bと、を有してもよい。第1の電極40aと電流拡散層32aとの間に電流ブロック層38を設けた場合、キャリアJは、細線電極40bから電流拡散層32aへ注入され、発光層26へ流れ込む。すなわち、細線電極40bの下方の発光層26の領域Eの近傍が発光領域Eとなる。
【0014】
発光層26、第1の層32、第2の層24、およびDBR層23は、In(AlGa1−y1−xP(0≦x≦1、0≦y≦1)なる組成式で表されるInAlGaP系材料、またはAlGa1−xAs(0≦x≦1)からなるAlGaAs系材料、などを含むことができる。なお、これらの材料が、アクセプタやドナーとなる元素を含んでいてもよい。
【0015】
第1の実施形態にかかる半導体発光素子5は、光結合装置や光センサなどに用いる近赤外光を発光するものとする。のちに説明するように、その波長範囲は740以上かつ830nm以下とすることが好ましい。
【0016】
第1の実施形態では、次に示す材料が用いられるものとするが、本発明はこれに限定されるものではない。基板50はGaAsからなる。第1の層32は、AlGaAs系材料またはInAlGaP系材料などからなる。発光層26はAlGa1−xAs(0≦x<0.45)またはInGa1−xAs(0≦x≦1)などからなる。第2の層24は、AlGaAs系材料またはInAlGaP系材料からなる。DBR層23の第3の層22aはInAl1−xP(0≦x≦1)系材料、DBR層23の第4の層22bはAlGaAs系材料、からそれぞれなる。
【0017】
また、発光層26をMQW(Multi Quantum Well)構造とし、MQWの組成と構造とを変化することにより、ピーク波長λpを、740以上かつ830nm以下の波長範囲に制御することが容易となる。なお、ピーク波長λpとは、広がりを有する発光スペクトルにおいて、スペクトル強度が最大となる波長を表すものとする。
【0018】
発光層26から下方へ向かって放出される放出光G1が第4の層22bと第3の層22aとの1ペア22を通過する場合、その光路長がピーク波長λpの2分の1となるようにすると、光の干渉により反射光G2を強めることができる。また、第3の層22aと第4の層22bとのペア数を増やすのに応じて、反射光が強め合い反射率をさらに高めることができる。この場合、DBR層23の反射率を最大とする波長と、放出光のピーク波長λpと、を実質的に同一とすると放出光を効率よく光取り出し面32cから外部に取り出すことができる。なお、ペア数qは、例えば10〜30の範囲で適正に選ぶとよい。
【0019】
また、第3の層22aおよび第4の層22bを、それぞれの媒質内波長の4分の1とすると、簡素な構造で高い反射率を得ることが容易となる。この場合、第4の層22bの厚さMは、式(1)のように、第4の層(屈折率:n2)22b内の媒質内波長の4分の1とすればよい。
【0020】

M=(λ1/n2)/4 式(1)

但し、λ1:放出光の自由空間波長
【0021】
また、第3の層22aの厚さNは、式(2)のように、第3の層(屈折率:n1)すればよい。
【0022】

N=(λ1/n1)/4 式(2)

【0023】
DBR層23による反射光G2と、発光層26から上方に向かって放出される光G3と、は光取り出し面32cから放出光G4として外部に取り出される。
【0024】
図2(a)第1の実施形態にかかる半導体発光素子の発光スペクトルのグラフ図、図2(b)はその変形例にかかる半導体発光素子の発光スペクトルのグラフ図、である。
図2(a)の第1の実施形態にかかる半導体発光素子は、In0.5Al0.5Pからなり、式(2)の厚さNを有する第3の層22aと、Al0.144Ga0.856Asからなり、式(1)の厚さMを有する第4の層22bと、を10ペア有する。また、放出光のピーク波長λpは、約776nmであるものとする。このようにすると、第4の層22bの屈折率n2を第3の層22aの屈折率n1よりも、高くすることができ、DBR層23の反射率を高めることができる。
【0025】
Al0.144Ga0.856Asである第4の層22bは、740〜830nmの波長範囲において直接遷移であり、そのバンドギャップ波長λg4は約775nmである。すなわち、Al組成比xを0.144以上とすると、バンドギャップ波長λg4は775nm以下とすることができる。このため、第4の層22bが、ピーク波長λpが776nmである放出光よりも長い波長を有する光を放出することが抑制できる。また、放出光の発光スペクトルのうち、第4の層22bのバンドギャップ波長λg4よりも短波長側に広がった光成分を第4の層22bにより吸収し、外部へ放出することを抑制することができる。
【0026】
なお、バンドギャップ波長λgapは、式(3)で表すことができる。
【0027】

λgap(nm)=1240/Eg(eV) 式(3)

但し、Eg:バンドギャップエネルギー
【0028】
また、In0.5Al0.5Pである第3の層22aは、間接遷移であり、放出光が抑制される。なお、バンドギャップ波長は、約528nmである。
【0029】
図2(b)の変形例にかかる半導体発光素子は、In0.5Al0.5Pからなり、式(2)の厚さNを有する第3の層22aと、Al0.2Ga0.8Asからなり、式(1)の厚さMを有する第4の層22bと、を20ペア有する。ピーク波長λpは、約776nmである。Al0.2Ga0.8Asである第4の層22bは、740〜830nmの波長範囲において直接遷移であり、そのバンドギャップ波長λg4は、約740nmであり、放出光の発光スペクトルのうち、740nm以上の光成分の吸収は抑制される。他方、バンドギャップ波長λg4を740nm以上とすることにより、バンドギャップ波長λg4よりも短い光成分は、第4の層22bにより吸収され、外部に向かう放射強度を低減することができる。この場合にも、第4の層22bの屈折率n2を第3の層22aの屈折率n1よりも、高くすることができ、DBR層23の反射率を高めることができる。
【0030】
図3は、AlGa1−xAs(0≦x<0.45)のAl組成比に対するバンドギャップ波長の依存性を表すグラフ図である。
Al組成比xがゼロの場合、バンドギャップ波長λgapは約870nmであり、Al組成比xが増加するに従いバンドギャップ波長λgapが低下する。第1の実施形態では、ピーク波長λpの範囲を740nm以上かつ830nm以下とする。このため、第4の層22bをAlGa1−xAs(0≦x≦1)とする場合、Al組成比xは、0.056よりも大きくかつ0.2以下の範囲内とする。
【0031】
また、第3の層22aのバンドギャップ波長λg3および第4の層22bのバンドギャップ波長λg4は、放出光のピーク波長λp以下とする。このようにすると、第3の層22aおよび第4の層22bが発光層26からの放出光を吸収しない。なお、屈折率は、例えば、Al組成比xが0.03において3.61、Al組成比が0.35において3.47などとなる。
【0032】
さらに、第1の実施形態において、例えば、第3の層22aをAl0.35Ga0.65Asとすると、バンドギャップ波長λg3は約680nm、屈折率n1は約3.47とすることができる。また、第4の層22bをAl0.06Ga0.95Asとすると、バンドギャップ波長λg4は約827nm、屈折率n2は約3.63とすることができる。すなわち、Al組成比xの異なる直接遷移型のAlGaAs層を2つ組み合わせてもよい。
【0033】
図4は、波長に対する比視感度の依存性を示すグラフ図である。
比視感度は、波長が680nmよりも短くなるに従い増加し、波長が555nm近傍で最大値となる。比視感度が高い680nm以下の波長成分を有する光は、その発光強度がピーク波長における発光強度の10分の1程度であっても人間の目では視認可能である。すなわち、680nm以下の波長を有する可視光の発光強度は十分に低減することが好ましい。
【0034】
第1の実施形態において、第4の層22bのバンドギャップ波長λgapを740nm以上とすると、バンドギャップ波長λgap以下の光成分を吸収することができる。
【0035】
図5は、第1の実施形態にかかる半導体発光素子において、第3の層および第4の層のバンドギャップ波長の範囲を示すグラフ図である。
第3の層22aのバンドギャップ波長λg3および第4の層22bのバンドギャップ波長λg4は、放出光のピーク波長λpよりも短くする。なお、ピーク波長λpは、発光層26のMQW構造によって変化することができる。
【0036】
さらに、第4の層22bのバンドギャップ波長を740nm以上とすることにより、比視感度が高い光成分を吸収し、半導体発光素子10の外部への漏れを低減することが容易となる。例えば、ピーク波長λpの下限である740nm以下の波長範囲において、比視感度が高くなる約680nm以下の波長の発光強度をピーク波長λpにおける発光強度よりも十分に低減可能である。
【0037】
また、例えば、第1の層32に、バンドギャップ波長λgapがピーク波長λpマイナス20nmよりも短く、比視感度が高い波長範囲よりも長い層32d(図1(a))を設けると、比視感度が高い可視光を外部に放出することをさらに抑制できるので好ましい。また、第3の層22aのバンドギャップ波長を740nm以上とすることも可能である。
【0038】
図6(a)は第1の実施形態にかかる半導体発光素子の駆動電流波形と、その放出光が変換された出力電流波形を示すグラフ図、図6(b)は第1の実施形態の変形例にかかる半導体発光素子の駆動電流波形と、その放出光が変換された出力電流波形を示すグラフ図、である。
横軸は時間、縦軸は電流の相対値、である。半導体発光素子は、入力電流により駆動され、光パルスを放出する。光パルスは、Siフォトダイオードなどで受光され、電流に変換される。キャリアの再結合による発光、光励起によるキャリアの発生には、図6のように時間遅れを生じる。第1の実施形態にかかる半導体発光素子は、図2(a)に示すように740〜830nmの波長範囲の外側において、発光強度が十分に抑制されている。
【0039】
また、第1の実施形態の変形例にかかる半導体発光素子は、図2(b)に示すように740〜830nmの波長範囲の外側において、発光強度が十分の抑制されている。いずれの場合においても、光ー電気変換のパルス立ち下がり時間における電流波形の変動などノイズ成分は少ない。このため、パルス幅歪や信号遅延などの信号伝送特性を低下させる要素は少ない。
【0040】
図7(a)は比較例にかかる半導体発光素子の発光スペクトルを表すグラフ図、図7(b)は受光素子による出力電流波形、である。
比較例にかかる半導体発光素子のDBR層は、GaAsを含んでいる。GaAsのバンドギャップ波長は略870nmであるので、740〜830nmの放出光を吸収したGaAsが励起され、870nm近傍の波長の光が放出される。または、発光層をオーバーフローしたキャリアが、GaAs内で再結合して870nm近傍の波長において発光を生じる場合もある。
【0041】
これら870nm近傍の光成分は、図7(a)のように、発光強度がピーク値の10分の1よりも小さいが、広がったスペクトルを有する。広がった発光スペクトルを有する放出光を半導体受光素子を用いて電流に変換すると、図7(b)のように、立ち下がり時間における電流波形の変動などノイズ成分が大きくなる。このため、パルス幅歪や信号遅延などの信号伝送特性を低下させる。
【0042】
図8(a)は受光素子において生じる拡散キャリアを説明する模式図、図8(b)および(c)は830nmよりも長い波長成分による作用を説明する模式図、図8(d)および(e)は830nm以下の波長成分による作用を説明する模式図、である。
半導体受光素子12は、Siフォトダイオードとするがこれに限定されるものではない。入射光のうち、波長が長い光成分は、波長の短い光成分よりも、表面から深い領域まで到達する。このため、830nmよりも長い波長の光成分は、例えば空乏層12aの深さよりも深い領域12bまで入射することが容易である。
【0043】
深い領域12bで発生したキャリア62は、走行時間が長いので、図8(c)のように出力電流波形の立ち下がり時間において尾引き現象を生じる。このように空乏層12aよりも深い領域12bに生じたキャリア62により、図7(b)のように、立ち下がり時間における変動が大きい電流波形となる。他方、830nmよりも短い波長の光成分は、空乏層12aに電子−ホールペアを生じる。空乏層12a内で発生したキャリア60は、逆バイアス電圧により反対の方向にドリフトして電流を生じる。この場合、走行時間は短いので、尾引き現象による影響を小さくできる。
【0044】
図9は、Siフォトダイオードの相対分光感度を示すグラフ図である。
縦軸は相対感度、横軸は波長(nm)である。Siフォトダイオードの分光感度は、960nm近傍に最大値を有する。しかしながら、入射光の波長を短くする方が深い領域にキャリアを生じることを抑制できる。このため、第1の実施形態では、半導体発光素子のピーク波長は、830nm以下とすることが好ましい。GeやInGaAsなどからなるフォトダイオードを用いてもよいが、分光感度の最大値となる波長はSiよりも高い波長となる。本実施形態の発光素子と、Siフォトダイオードと、を組み合わせると、感度が高く誤動作が少ないリモコンが構成できる。
【0045】
次に、第2の実施形態にかかる半導体発光素子について説明する。第2の実施形態では、DBR層23の第3の層22aおよび第4の層22bは、間接遷移領域からなる。図3に表したように、AlGa1−xAs(0≦x≦1)は、0≦x<0.45の範囲において直接遷移、0.45≦x≦1の範囲において間接遷移となる。例えば、第4の層22bは、Al0.5Ga0.5Asとし間接遷移とする。また、第3の層22aはIn0.5Al0.5Pからなる間接遷移領域からなるものとする。間接遷移領域の場合、伝導帯の底と、価電子帯の頂上とが、運動量kがゼロとなる位置では一致していない。このため、放出遷移の確率が小さくなり、ピーク波長λpよりも長い波長範囲において放出光により励起されて生じる発光が抑制される。
【0046】
図10(a)は第2の実施形態にかかる半導体発光素子の発光スペクトルのグラフ図、図10(b)はその放出光が変換された電流波形を表すグラフ図、である。
図10(a)のように、ピーク波長範囲の外側の発光強度は十分に抑制されている。また、図10(b)のように、光ー電気変換のパルス立ち下がり時間における電流波形の変動などノイズ成分は少ない。このため、パルス幅歪や信号遅延などの信号伝送特性を低下させる要素は少ない。
【0047】
図11(a)は本実施形態にかかる光結合装置の模式断面図、図11(b)は端子の接続を示す模式図、である。
図11(a)のように、光結合装置は、本実施形態の半導体発光素子10と、半導体受光素子12と、入力リード70、出力リード72と、支持体74と、を有している。半導体発光素子10は、入力リード70と接続されている。半導体受光素子12は、出力リード72と接続されている。半導体発光素子10の光取り出し面32cは、半導体受光素子12の受光面12cと、対向している。
【0048】
支持体74は、樹脂などからなり、入力リード70および出力リード72を支持し、内部に半導体発光素子10および半導体受光素子12を収納可能である。放出光G4の光路に透光性樹脂層75を設け、その周囲を近赤外光を遮光可能な樹脂からなる支持体74とすると、外部への近赤外光の不要な放射を抑制し、外部からの近赤外光による誤動作を抑制できる。
【0049】
また、第1および第2の実施形態にかかる半導体発光素子は、ピーク波長以上の波長範囲における発光強度を十分低減することができる。このため、光ー電気変換のパルス立ち下がり時間における電流波形の変動などのノイズ成分を低減し、パルス幅歪や信号遅延などの信号伝送特性を低下を抑制することができる。
【0050】
また、本実施形態にかかる半導体発光素子10は、740nm以下の光成分を低減することが容易である。このため、支持体4の外部へ比視感度が高い可視光Gvが漏れることを抑制でき、光結合装置の視認性を改善できる。
【0051】
半導体発光素子10は入力リード70に接着され、その第1電極が接続される第1端子T1と、半導体発光素子10の第2電極が接続される第2端子T2と、を含む。また半導体受光素子12は出力リード72に接着され、その第1電極が接続される第1端子T3と、受光素子の第2電極が接続される第2端子T4と、を含む。このようにして、端子T1およびT2を有する入力リード70と、端子T3およびT4を有する出力リード72と、を電気的に絶縁して信号伝送を行うことができる。このような光結合装置は、産業機器、通信機器、測定機器、家電製品、などを含む電子機器に広く用いることができる。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0053】
10 半導体発光素子、12 半導体受光素子、22 分布ブラッグ反射層(1ペア)、22a 第3の層、22b 第4の層、23 分布ブラッグ反射層、24 第2の層、26 発光層、 32 第1の層、32c 光取り出し面、70 入力リード、72 出力リード、74 支持体、λp ピーク波長、λgap、λg3、λg4 バンドギャップ波長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面および前記第1の面の反対の側に設けられた第2の面を有し、740nm以上830nm以下の波長範囲にピーク波長を有する放出光を放出可能な発光層と、
前記発光層の前記第1の面の側に設けられた第1導電形の第1の層であって、前記発光層の反対の側に設けられた光取り出し面を有する第1の層と、
前記発光層の前記第2の面の側に設けられた第2導電形の第2の層と、
前記第2の層の前記発光層とは反対の側に設けられ、第2導電形を有する分布ブラッグ反射層であって、第3の層と、前記第3の層の屈折率よりも高い屈折率を有する第4の層と、が交互に積層され、前記光取り出し面に向けて前記放出光を反射可能な分布ブラッグ反射層と、
を備え、
前記第3および第4の層は、前記ピーク波長よりも短いバンドギャップ波長をそれぞれ有することを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記第3の層は、間接遷移であることを特徴とする請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記第4の層は、間接遷移であることを特徴とする請求項2記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記第4の層の前記バンドギャップ波長は、740nm以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の半導体発光素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の半導体発光素子と、
前記半導体発光素子からの前記放出光を受光し電気信号に変換可能な半導体受光素子と、
前記半導体発光素子と接続された入力リードと、
前記受光素子と接続され、前記入力リードとは電気的に絶縁された出力リードと、
前記入力リードおよび前記出力リードを支持し、前記半導体発光素子と前記半導体受光素子を内部に収納可能な支持体と、
を備えたことを特徴とする光結合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−199293(P2012−199293A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60939(P2011−60939)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】