説明

半導体発光素子の駆動方法、発光装置、および当該発光装置を用いた光パルス試験器

【課題】複数の波長帯の光を発光可能な半導体発光素子を高光出力で動作させることが出来る半導体発光素子の駆動方法、発光装置、および当該発光装置を用いた小型且つ高性能な光パルス試験器を提供する。
【解決手段】1.55μm帯に利得波長λ1を有する活性層13aと1.3μm帯に利得波長λ2を有する活性層13bが、光の導波方向に沿って光学的に結合されて、利得波長λ1、λ2の長さの順に直列に配置され、短い利得波長λ2を有する活性層13b近傍、且つ、活性層13aと活性層13bのバットジョイント結合部19近傍に、短い利得波長λ2のブラッグ波長を有する回折格子20が形成された構成が形成された半導体発光素子の駆動方法であって、活性層13aへ駆動電流を印加するときに、活性層13bへ漏れ電流が流れ込まないように、活性層13bの上方に設けられた上部電極と半導体基板の底面に設けられた下部電極とを短絡する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子の駆動方法、発光装置、および当該発光装置を用いた光パルス試験器に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信の分野において、複数波長の光を出力するシステムが用いられている。そして、例えば2波長のレーザ光を出力するシステムの場合には、各波長用に製作された2つの半導体レーザを用意し、各半導体レーザからの出力光を合波して出力する構成としていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
これに対し本願出願人は、このような複雑な光学系を要さずに構成される2波長レーザ光源として、利得波長の大きく異なる複数の活性層を直列につなぎ、かつ内部に回折格子を配置して各波長が独立に発振を実現することで単体のチップから複数波長のレーザ光を出射できる半導体発光素子を提案している(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−209266号公報
【特許文献2】特願2009−34080号(特開2010−192601号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に開示された構成においては、長波側の活性層に駆動電流を印加して発振させた際に、隣接する短波側の活性層へ漏れキャリアが流入し、これが自由キャリア吸収を引き起こして出力が低下するという問題があった。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、複数の互いに異なる利得波長を有する活性層を直列に接続した半導体発光素子において、長波の活性層で放出及び増幅された光が短波の活性層を通過する際に長波の活性層から漏れてくるキャリアによって吸収され光出力が低下することを抑制するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の半導体発光素子の駆動方法は、
当該半導体発光素子は、
劈開によって形成された第1の光出射端面と第2の光出射端面とを有してなり、
半導体基板上に、異なる波長帯域に利得波長を有する複数の活性層が、光の導波方向に前記第1の光出射端面から前記第2の光出射端面に向かって前記利得波長の長さの順に光学的に結合されて配置され、前記半導体基板の底面に下部電極が形成されるとともに前記複数の活性層の各々の上方に該複数の活性層の各々に駆動電流を印加するための複数の上部電極が形成され、隣接する2つの活性層のうち、短い利得波長を有する活性層近傍で、且つ、該2つの活性層の境界面近傍に、該短い利得波長に相当するブラッグ波長を有する回折格子が形成されており、
最も長い利得波長を有する活性層で生成された光が、前記第1の光出射端面と前記第2の光出射端面とで構成される共振器で発振し、短い利得波長を有する活性層で生成された光が、前記回折格子と前記第2の光出射端面とで構成される共振器で発振し、ともに前記第2の光出射端面から出射される構成でなる、
前記半導体発光素子の駆動方法であって、
前記複数の活性層のうちの1つへ駆動電流を印加するときに、当該駆動電流が印加される活性層に隣接するより短い利得波長を有する活性層へ漏れ電流が流れ込まないように、該短い利得波長を有する活性層の上方に設けられた前記上部電極と前記半導体基板の底面に設けられた前記下部電極とを短絡することを特徴としている。
【0008】
この駆動方法により、長波側の活性層へ印加した駆動電流の一部が隣接する短波側の活性層へ漏れだし、長波側の活性層が放出する光を吸収して発振出力を低下させることを防ぐことが出来る。
【0009】
また、本発明の半導体発光素子の駆動方法は、前記半導体発光素子の前記第2の光出射端面から出射される光に対する反射率が、前記半導体発光素子の前記第1の光出射端面から出射される光に対する反射率より低く形成された構成を有していてもよい。
【0010】
また、本発明の半導体発光素子の駆動方法は、前記複数の活性層が、第1の活性層および第2の活性層からなり、前記第1の活性層の前記利得波長が1.52〜1.58μmであり、前記第2の活性層の前記利得波長が1.28〜1.34μmである構成を有している。この構成により、1つの素子で1.3μm帯および1.55μm帯の光を複数の縦モードで発振させることができる。
【0011】
また、本発明の半導体発光素子の駆動方法は、前記複数の活性層が、第1の活性層、第2の活性層および第3の活性層からなり、前記第1の活性層の前記利得波長が1.60〜1.65μmであり、前記第2の活性層の前記利得波長が1.52〜1.58μmであり、前記第3の活性層の前記利得波長が1.28〜1.34μmである構成を有している。この構成により、1つの素子で1.3μm帯、1.55μm帯および1.625μm帯の光を複数の縦モードで発振させることができる。
【0012】
本発明の発光装置は、
劈開によって形成された第1の光出射端面と第2の光出射端面とを有してなり、
半導体基板上に、異なる波長帯域に利得波長を有する複数の活性層が、光の導波方向に前記第1の光出射端面から前記第2の光出射端面に向かって前記利得波長の長さの順に光学的に結合されて配置され、前記半導体基板の底面に下部電極が形成されるとともに前記複数の活性層の各々の上方に該複数の活性層の各々に駆動電流を印加するための複数の上部電極が形成され、隣接する2つの活性層のうち、短い利得波長を有する活性層近傍で、且つ、該2つの活性層の境界面近傍に、該短い利得波長に相当するブラッグ波長を有する回折格子が形成されており、
最も長い利得波長を有する活性層で生成された光が、前記第1の光出射端面と前記第2の光出射端面とで構成される共振器で発振し、短い利得波長を有する活性層で生成された光が、前記回折格子と前記第2の光出射端面とで構成される共振器で発振し、ともに前記第2の光出射端面から出射される半導体発光素子と、
前記複数の活性層の各々に駆動電流を印加し、前記複数の活性層のうちの1つへ駆動電流を印加するときに、当該駆動電流が印加される活性層に隣接するより短い利得波長を有する活性層へ漏れ電流が流れ込まないように、該短い利得波長を有する活性層の上方に設けられた前記上部電極と前記半導体基板の底面に設けられた前記下部電極とを短絡する発光素子駆動回路と、を有している。
【0013】
この構成により、長波側の活性層へ印加した駆動電流の一部が隣接する短波側の活性層へ漏れだし、長波側の活性層が放出する光を吸収して発振出力を低下させることを防いだ発光装置を実現できる。
【0014】
また、本発明の発光装置は、前記第2の光出射端面から出射される光に対する反射率が、前記第1の光出射端面から出射される光に対する反射率より低く形成された構成を有していてもよい。
【0015】
また、本発明の発光装置は、前記複数の活性層が、第1の活性層および第2の活性層からなり、前記第1の活性層の前記利得波長が1.52〜1.58μmであり、前記第2の活性層の前記利得波長が1.28〜1.34μmである構成を有している。この構成により、1つの素子で1.3μm帯および1.55μm帯の光を複数の縦モードで発振させることができる。
【0016】
また、本発明の発光装置は、前記複数の活性層が、第1の活性層、第2の活性層および第3の活性層からなり、前記第1の活性層の前記利得波長が1.60〜1.65μmであり、前記第2の活性層の前記利得波長が1.52〜1.58μmであり、前記第3の活性層の前記利得波長が1.28〜1.34μmである構成を有している。この構成により、1つの素子で1.3μm帯、1.55μm帯および1.625μm帯の光を複数の縦モードで発振させることができる。
【0017】
本発明の光パルス試験器は、請求項5乃至8のいずれかに記載の発光装置であって、前記半導体発光素子が光パルスを発するよう、前記発光素子駆動回路が印加する前記駆動電流がパルス状であり、前記半導体発光素子の前記第2の光出射端面から出射された前記光パルスを被測定光ファイバに出力する、前記発光装置と、前記被測定光ファイバからの前記光パルスの戻り光を電気信号に変換する受光部と、前記受光部によって変換された電気信号に基づいて前記被測定光ファイバの損失分布特性を解析する信号処理部と、を有している。
【0018】
この構成により、複数の波長帯の光を複数の縦モードで発振可能な半導体発光素子を高出力で動作させられるので、小型且つ高性能な光パルス試験器を実現できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、複数の波長帯の光を発光可能な半導体発光素子を高光出力で動作させることが出来る半導体発光素子の駆動方法、発光装置、および当該発光装置を用いた小型且つ高性能な光パルス試験器を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態の発光装置を示す図
【図2】本発明の第1の実施形態の発光装置の別の態様を示す図
【図3】本発明の第2の実施形態の発光装置を示す図
【図4】本発明の第2の実施形態の発光装置の別の態様を示す図
【図5】本発明の第3の実施形態の光パルス試験器の構成を示すブロック図
【図6】本発明の第1の実施形態の発光装置の半導体発光素子の特性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る半導体発光素子の駆動方法、発光装置、および発光装置を用いた光パルス試験器の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0022】
(第1の実施形態)
本発明に係る発光装置の第1の実施形態を図1および図2に示す。発光装置50は、半導体発光素子10と発光素子駆動回路2とから構成されている。
【0023】
半導体発光素子10は、図1および図2に示すように、例えば、n型InP(インジウム・リン)からなるn型半導体基板11と、n型InPクラッド層12と、利得波長λ1を有するInGaAsP(インジウム・ガリウム・砒素・リン)からなる第1の活性層13aを有する第1の利得領域Iと、利得波長λ2(<λ1)を有するInGaAsPからなる第2の活性層13bを有する第2の利得領域IIと、を備える。
【0024】
ここで、利得波長とは、後述する複数の縦モードの発振波長のうち所望の縦モードのピーク波長を示すものとする。本実施形態では、利得波長λ1、λ2として光パルス試験器で用いる波長1.55μm、1.3μmを例にして説明する。なお、利得波長λ1、λ2は、それぞれ1.52≦λ1≦1.58、1.28≦λ2≦1.34の範囲内の値であってもよい。
【0025】
あるいは1.28〜1.34、1.47〜1.50、1.52〜1.55、1.60〜1.65の各波長範囲からの任意の組み合わせであってもよい(ただしλ1>λ2として選択する。単位はμm)。
【0026】
第1の活性層13aと第2の活性層13bは、光の導波方向に沿って配置され、バットジョイント手法により光学的に結合されている。なお、ここで言う第1の活性層13aおよび第2の活性層13bは、多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)構造とそれを挟む光分離閉じ込め(SCH:Separate Confinement Heterostructure)層を含んでいる。
【0027】
また、第1の活性層13aおよび第2の活性層13bの上面にはp型InPクラッド層14、p型InGaAs(インジウム・ガリウム・砒素)からなるコンタクト層15がこの順に積層されている。
【0028】
また、n型半導体基板11の下面には下部電極16、コンタクト層15上には第1の利得領域I用の第1の上部電極17aおよび第2の利得領域II用の第2の上部電極17bが蒸着形成されている。
【0029】
また、半導体発光素子10は、劈開によって形成された第1の光出射端面10aおよび第2の光出射端面10bをそれぞれ有する。第1の光出射端面10aには高反射(HR)コート18aが、第2の光出射端面10bには低反射(LR)コート18bがそれぞれ施されており、第2の光出射端面10bから出射される光に対する反射率が、第1の光出射端面10aから出射される光に対する反射率より低くなっている。
【0030】
ここで、HRコート18aが施された第1の光出射端面10a側の反射率は90%以上、LRコート18bが施された第2の光出射端面10b側の反射率は1〜10%程度とすることが好ましい。
【0031】
さらに、n型InPクラッド層12の第2の利得領域IIにおいて、第1の活性層13aと第2の活性層13bのバットジョイント結合部19近傍に、1.3μmのブラッグ波長λgおよび100cm-1以上の結合係数κを有する回折格子20が形成されている。
【0032】
なお、回折格子20が形成される位置は、図1に示したように第2の活性層13bの下方であってもよく、あるいは第2の活性層13bの上方のp型InPクラッド層14内であってもよい(図示せず)。また、第1の利得領域Iの第1の光出射端面10a近傍にも回折格子が形成されていてもよい。
【0033】
このような構造を有する半導体発光素子の製造方法については、特許文献2に詳細に述べられている。
【0034】
発光素子駆動回路2は、所望する波長を発振させるために対応する上部電極と下部電極の間に駆動電流を印加する機能を有するとともに、その他の上部電極を下部電極とショートさせる機能を有する(詳細は後述)。
【0035】
次に、以上のように構成された本実施形態の発光装置50における半導体発光素子10の駆動方法について説明する。
【0036】
まず動作を述べると、第1の利得領域I用の第1の上部電極17aと下部電極16との間に駆動電流が印加された場合には、第1の活性層13aの内部が発光状態となる。第1の活性層13aで生成された1.55μm帯の光は、利得波長が1.3μmの第2の活性層13bでは吸収されず、且つ、1.3μmのブラッグ波長λgを有する回折格子20で反射されずに、第1の活性層13aおよび第2の活性層13bに沿って伝搬する。当該第1の活性層13aで生成された1.55μm帯の光は、第1の光出射端面10aと第2の光出射端面10bで構成された共振器において、1.55μm帯の複数の縦モードで発振し、LRコート18bが形成された第2の光出射端面10bから出射される。
【0037】
上記したように、第1の利得領域I用の第1の上部電極17aと下部電極16との間に駆動電流が印加された場合には、第1の活性層13aの内部が発光状態となる。しかし第1の上部電極17aと第2の上部電極17bの間の分離抵抗が有限であるため、電流の一部は第2の活性層13bへと漏れてくる。
【0038】
そこで本発明の駆動方法では、図1に示すように、第1の利得領域Iを発光させる際に、第2の上部電極17bと下部電極16とをショートさせる。これにより第1の利得領域Iからの漏れ電流が第2の利得領域IIを流れることで生じるキャリアによる光吸収が抑制され、第1の利得領域Iの発光によるレーザ光出力が向上する。
【0039】
これにより図6に示すように、特に高電流時における1.55μm光出力の飽和が大きく改善され、高出力動作が実現される。端面出力が200mW以上得られているので、光パルス試験器の代表例である光タイムドメインリフレクトメータ(Optical Time Domain Reflectometer)に用いた場合、ダイナミックレンジとして35dB以上の高性能が得られる。
【0040】
一方、図2に示すように、第2の利得領域II用の第2の上部電極17bと下部電極16との間に駆動電流が印加された場合には、第2の活性層13bの内部が発光状態となる。
【0041】
第2の活性層13bで生成された1.3μm帯の光は、第2の活性層13bに沿って伝搬する。この1.3μmの光は、1.3μmのブラッグ波長λgを有する回折格子20で90%以上反射されるため、利得波長が1.55μmの第1の活性層13aにおける光吸収は抑制されている。従って、第2の活性層13bで生成された1.3μm帯の光は、回折格子20と第2の光出射端面10bで構成された共振器において、1.3μm帯の複数の縦モードで発振し、LRコート18bが形成された第2の光出射端面10bから出射される。
【0042】
この場合には第2の活性層13bで生成された1.3μm帯の光はほとんど第1の活性層13aへ侵入しないため、図6に示すように第1の上部電極17aをショートした効果は前記の場合に比べて小さくなる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態の発光装置における半導体発光素子の駆動方法は、一方の上部電極と下部電極との間で駆動電流を印加する際に他方の上部電極を下部電極にショートすることで光出力の飽和を抑制し高光出力化を実現する。特に長波側の光を発振させる時に短波側の上部電極をショートさせることで大きな効果が得られる。
【0044】
(第2の実施形態)
本発明に係る発光装置の第2の実施形態について図面を用いて説明する。第1の実施形態と同様の構成については説明を省略する。本実施形態では、利得波長λ1、λ2、λ3として光パルス試験器で用いる波長1.625μm、1.55μm、1.3μmを例にして説明する。なお、利得波長λ1、λ2、λ3は、それぞれ1.60≦λ1≦1.65、1.52≦λ2≦1.58、1.28≦λ3≦1.34の範囲内の値であってもよい。
【0045】
あるいは1.28〜1.34、1.47〜1.50、1.52〜1.55、1.60〜1.65の各波長範囲からの任意の組み合わせであってもよい(ただしλ1>λ2>λ3として選択する。単位はμm)。
【0046】
図3および図4は、本発明に係る発光装置の第2の実施形態を示す図である。発光装置51は、半導体発光素子30と発光素子駆動回路2とから構成されている。
【0047】
半導体発光素子30は、図3および図4に示すように、利得波長λ1が1.625μmのInGaAsPからなる第1の活性層33aを有する第1の利得領域Iと、利得波長λ2が1.55μmのInGaAsPからなる第2の活性層33bを有する第2の利得領域IIと、利得波長λ3が1.3μmのInGaAsPからなる第3の活性層33cを有する第3の利得領域IIIと、を備える。
【0048】
第1の活性層33a、第2の活性層33bおよび第3の活性層33cは、光の導波方向に沿ってこの順に配置され、バットジョイント手法によりそれぞれが光学的に結合されている。なお、ここで言う第1の活性層33a、第2の活性層33bおよび第3の活性層33cは、MQW構造とそれを挟むSCH層を含んでいる。
【0049】
また、n型半導体基板11の下面には下部電極16、コンタクト層15上には第1の利得領域I用の第1の上部電極37a、第2の利得領域II用の第2の上部電極37bおよび第3の利得領域III用の第3の上部電極37cが蒸着形成されている。
【0050】
また、半導体発光素子30は、劈開によって形成された第1の光出射端面30aおよび第2の光出射端面30bをそれぞれ有する。第1の実施形態と同様に、第1の光出射端面30aにはHRコート18aが、第2の光出射端面30bにはLRコート18bがそれぞれ施されている。
【0051】
さらに、n型InPクラッド層12の第2の利得領域IIにおいて、第1の活性層33aと第2の活性層33bのバットジョイント結合部39a近傍に、1.55μmのブラッグ波長λgaおよび100cm-1以上の結合係数κを有する回折格子40aが形成されている。ここで、回折格子40aのピッチは約0.24μmである。
【0052】
同様に、n型InPクラッド層12の第3の利得領域IIIにおいて、第2の活性層33bと第3の活性層33cのバットジョイント結合部39b近傍に、1.3μmのブラッグ波長λgbおよび100cm-1以上の結合係数κを有する回折格子40bが形成されている。
【0053】
なお、回折格子40a、40bが形成される位置は、上記および図2に示したように第2の活性層33bおよび第3の活性層33cの下方であってもよく、第2の活性層33bおよび(または)第3の活性層33cの上方のp型InPクラッド層14内であってもよい(図示せず)。また、第1の利得領域Iの第1の光出射端面30a近傍に回折格子が形成されていてもよい。
【0054】
次に、以上のように構成された本実施形態の発光装置51における半導体発光素子30
の駆動方法について説明する。
【0055】
まず動作を述べると、図3に示すように、第1の利得領域I用の第1の上部電極37aと下部電極16との間に駆動電流が印加された場合には、第1の活性層33aの内部が発光状態となる。第1の活性層33aで生成された1.625μm帯の光は、利得波長が1.55μmの第2の活性層33bおよび利得波長が1.3μmの第3の活性層33cでは吸収されず、且つ、1.55μmのブラッグ波長λgaを有する回折格子40aおよび1.3μmのブラッグ波長λgbを有する回折格子40bで反射されずに、第1の活性層33a、第2の活性層33bおよび第3の活性層33cに沿って伝搬する。第1の活性層33aで生成された1.625μm帯の光は、第1の光出射端面30aと第2の光出射端面30bで構成された共振器において、1.625μm帯の複数の縦モードで発振し、LRコート18bが形成された第2の光出射端面30bから出射される。
【0056】
上記したように、第1の利得領域I用の第1の上部電極37aと下部電極16との間に駆動電流が印加された場合には、第1の活性層33aの内部が発光状態となる。しかし第1の上部電極37aと第2の上部電極37bの間の分離抵抗が有限であるため、電流の一部は第2の活性層33bへと漏れてくる。
【0057】
そこで本発明の駆動方法では、第1の利得領域Iを発光させる際に、第2の上部電極37bと下部電極16とをショートさせる。これにより第1の利得領域Iからの漏れ電流が第2の利得領域IIを流れることで生じるキャリアによる光吸収が抑制され、第1の利得領域Iの発光によるレーザ光出力が向上する。第2の上部電極37bをショートさせるとともに第3の上部電極37cも下部電極16とショートさせても良いが、第1の利得領域Iに隣接する第2の上部電極37bをショートさせることが効果を得る上で肝要であることは明らかである。
【0058】
これにより、特に高電流時における1.625μm光出力の飽和が大きく改善され、高出力動作が実現される。
【0059】
一方、図4に示すように、第2の利得領域II用の第2の上部電極37bと下部電極16との間に駆動電流が印加された場合には、第2の活性層33bの内部が発光状態となる。第2の活性層33bで生成された1.55μm帯の光は、1.55μmのブラッグ波長λgaを有する回折格子40aで90%以上反射されるため、利得波長が1.625μmの第1の活性層33aにおける光吸収を抑制することができる。また、第2の活性層33bで生成された1.55μm帯の光は、利得波長が1.3μmの第3の活性層33cでは吸収されず、且つ、1.3μmのブラッグ波長λgbを有する回折格子40bで反射されずに、第2の活性層33bおよび第3の活性層33cに沿って伝搬する。第2の活性層33bで生成された1.55μm帯の光は、回折格子40aと第2の光出射端面30bで構成された共振器において、1.55μm帯の複数の縦モードで発振し、LRコート18bが形成された第2の光出射端面30bから出射される。
【0060】
第1の実施形態で述べたごとく、この場合も共振器の一部として光が往復する第3の活性層33cへの漏れ電流を抑えるために、第3の上部電極37cを下部電極16とショートする。これにより1.55μm帯光の光出力が特に高電流時に大きく改善される。同時に第1の上部電極37aも下部電極16とショートしても良いが、効果は第3の上部電極のショートの方が大きい。
【0061】
一方、第3の利得領域III用の第3の上部電極37cと下部電極16との間に電流が印加された場合には、第3の活性層33cの内部が発光状態となる(不図示)。
【0062】
第3の活性層33cで生成された1.3μm帯の光は、1.3μmのブラッグ波長λgbを有する回折格子40bで90%以上反射されるため、利得波長が1.625μmの第1の活性層33aおよび利得波長が1.55μmの第2の活性層33bにおける光吸収を抑制することができる。第3の活性層33cで生成された1.3μm帯の光は、回折格子40bと第2の光出射端面30bで構成された共振器において、1.3μm帯の複数の縦モードで発振し、LRコート18bが形成された第2の光出射端面30bから出射される。従って、第1の実施形態で述べたとおり第1の上部電極37aおよび第2の上部電極37bをショートさせることで光出力は改善されるが効果は小さい。またその場合、第3の利得領域IIIに隣接する第2の上部電極37bをショートさせることが肝要であることは言うまでもない。
【0063】
以上説明したように、本実施形態の発光装置における半導体発光素子の駆動方法は、1つの上部電極と下部電極との間で駆動電流を印加する際に、その他の上部電極を下部電極にショートすることで光出力の飽和を抑制し高光出力化を実現する。特に長波側の光を発振させる時に短波側で隣接する上部電極をショートさせることで大きな効果が得られる。
【0064】
(第3の実施形態)
複数の異なる波長帯の光を複数の縦モードで発振可能な第1または第2の実施形態の発光装置50、51は、光パルス試験器の光源として用いることができる。以下、発光装置50、51を用いた光パルス試験器の実施形態について図面を用いて説明する。
【0065】
図5に示すように、第3の実施形態の光パルス試験器55は、半導体発光素子10、30および半導体発光素子10、30に光パルスを発するためのパルス状の駆動電流を印加する発光素子駆動回路2’を有し、半導体発光素子10、30の第2の光出射端面10b、30bから出射された光パルスを被測定光ファイバ3に出力する発光装置である発光部1と、被測定光ファイバ3からの光パルスの戻り光を電気信号に変換する受光部4と、受光部4によって変換された電気信号に基づいて被測定光ファイバ3の損失分布特性を解析する信号処理部5と、を備える。
【0066】
この第3の実施形態における発光素子駆動回路2’は、第1及び第2の実施形態における発光素子駆動回路2とは異なり、パルス状の駆動電流を印加するようになっている。
【0067】
なお、信号処理部5は、発光素子駆動回路2’が半導体発光素子10、30に駆動電流を印加するタイミングを制御する。
【0068】
さらに、本実施形態の光パルス試験器55は、発光部1からの光パルスをバンドパスフィルタ(BPF)6に出力するとともに、被測定光ファイバ3からの戻り光を受光部4に出力する光カプラ7と、被測定光ファイバ3と光結合する光コネクタ8と、信号処理部5の処理結果を表示する表示部9と、を備える。
【0069】
次に、以上のように構成された本実施形態の光パルス試験器55の動作を説明する。なお、以下の説明においては、本実施形態の光パルス試験器55は半導体発光素子10を備えているものとする。
【0070】
まず、発光素子駆動回路2’によって、半導体発光素子10の第1の利得領域I(または第2の利得領域II)にパルス状の駆動電流が印加され、第2の上部電極17b(または第1の上部電極17a)は下部電極16とショートされることにより、発光部1から1.55μm帯(または1.3μm帯)の光パルスが出力される。
【0071】
またこのとき発光させていない利得領域については上下の電極がショートされている。
【0072】
そして、発光部1から出力された光パルスが、光カプラ7、BPF6、光コネクタ8を経て、被測定光ファイバ3に入射される。被測定光ファイバ3に入射された光パルスは、戻り光となって光カプラ7を介して受光部4に受光される。
【0073】
戻り光は、受光部4によって電気信号に変換され、信号処理部5に入力される。そして、信号処理部5によって、被測定光ファイバ3の損失分布特性が算出される。算出された損失分布特性は表示部9に表示される。
【0074】
以上説明したように、本実施形態の光パルス試験器55は、1つの素子で複数の異なる波長帯の光を高光出力で発振可能な半導体発光素子を備えるため、小型化および高性能化を実現できる。
【符号の説明】
【0075】
1 発光部(発光装置)
2、2’ 発光素子駆動回路
3 被測定光ファイバ
4 受光部
5 信号処理部
10、30 半導体発光素子
10a、30a 第1の光出射端面
10b、30b 第2の光出射端面
13a、33a 第1の活性層
13b、33b 第2の活性層
18a 高反射(HR)コート
18b 低反射(LR)コート
19、39a、39b バットジョイント結合部(境界面)
20、40a、40b 回折格子
33c 第3の活性層
50、51 発光装置
55 光パルス試験器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体発光素子の駆動方法にして、
当該半導体発光素子は、
劈開によって形成された第1の光出射端面と第2の光出射端面とを有してなり、
半導体基板上に、異なる波長帯域に利得波長を有する複数の活性層が、光の導波方向に前記第1の光出射端面から前記第2の光出射端面に向かって前記利得波長の長さの順に光学的に結合されて配置され、前記半導体基板の底面に下部電極が形成されるとともに前記複数の活性層の各々の上方に該複数の活性層の各々に駆動電流を印加するための複数の上部電極が形成され、隣接する2つの活性層のうち、短い利得波長を有する活性層近傍で、且つ、該2つの活性層の境界面近傍に、該短い利得波長に相当するブラッグ波長を有する回折格子が形成されており、
最も長い利得波長を有する活性層で生成された光が、前記第1の光出射端面と前記第2の光出射端面とで構成される共振器で発振し、短い利得波長を有する活性層で生成された光が、前記回折格子と前記第2の光出射端面とで構成される共振器で発振し、ともに前記第2の光出射端面から出射される構成でなる、
前記半導体発光素子の駆動方法であって、
前記複数の活性層のうちの1つへ駆動電流を印加するときに、当該駆動電流が印加される活性層に隣接するより短い利得波長を有する活性層へ漏れ電流が流れ込まないように、該短い利得波長を有する活性層の上方に設けられた前記上部電極と前記半導体基板の底面に設けられた前記下部電極とを短絡することを特徴とする半導体発光素子の駆動方法。
【請求項2】
前記半導体発光素子の前記第2の光出射端面から出射される光に対する反射率が、前記半導体発光素子の前記第1の光出射端面から出射される光に対する反射率より低く形成されたことを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子の駆動方法。
【請求項3】
前記半導体発光素子の前記複数の活性層が、第1の活性層および第2の活性層からなり、
前記第1の活性層の前記利得波長が1.52〜1.58μmであり、
前記第2の活性層の前記利得波長が1.28〜1.34μmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体発光素子の駆動方法。
【請求項4】
前記半導体発光素子の前記複数の活性層が、第1の活性層、第2の活性層および第3の活性層からなり、
前記第1の活性層の前記利得波長が1.60〜1.65μmであり、
前記第2の活性層の前記利得波長が1.52〜1.58μmであり、
前記第3の活性層の前記利得波長が1.28〜1.34μmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体発光素子の駆動方法。
【請求項5】
劈開によって形成された第1の光出射端面と第2の光出射端面とを有してなり、
半導体基板上に、異なる波長帯域に利得波長を有する複数の活性層が、光の導波方向に前記第1の光出射端面から前記第2の光出射端面に向かって前記利得波長の長さの順に光学的に結合されて配置され、前記半導体基板の底面に下部電極が形成されるとともに前記複数の活性層の各々の上方に該複数の活性層の各々に駆動電流を印加するための複数の上部電極が形成され、隣接する2つの活性層のうち、短い利得波長を有する活性層近傍で、且つ、該2つの活性層の境界面近傍に、該短い利得波長に相当するブラッグ波長を有する回折格子が形成されており、
最も長い利得波長を有する活性層で生成された光が、前記第1の光出射端面と前記第2の光出射端面とで構成される共振器で発振し、短い利得波長を有する活性層で生成された光が、前記回折格子と前記第2の光出射端面とで構成される共振器で発振し、ともに前記第2の光出射端面から出射される半導体発光素子と、
前記複数の活性層の各々に駆動電流を印加し、前記複数の活性層のうちの1つへ駆動電流を印加するときに、当該駆動電流が印加される活性層に隣接するより短い利得波長を有する活性層へ漏れ電流が流れ込まないように、該短い利得波長を有する活性層の上方に設けられた前記上部電極と前記半導体基板の底面に設けられた前記下部電極とを短絡する発光素子駆動回路と、を有することを特徴とする発光装置。
【請求項6】
前記半導体発光素子の前記第2の光出射端面から出射される光に対する反射率が、前記半導体発光素子の前記第1の光出射端面から出射される光に対する反射率より低く形成されたことを特徴とする請求項5に記載の発光装置。
【請求項7】
前記半導体発光素子の前記複数の活性層が、第1の活性層および第2の活性層からなり、
前記第1の活性層の前記利得波長が1.52〜1.58μmであり、
前記第2の活性層の前記利得波長が1.28〜1.34μmであることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の発光装置。
【請求項8】
前記半導体発光素子の前記複数の活性層が、第1の活性層、第2の活性層および第3の活性層からなり、
前記第1の活性層の前記利得波長が1.60〜1.65μmであり、
前記第2の活性層の前記利得波長が1.52〜1.58μmであり、
前記第3の活性層の前記利得波長が1.28〜1.34μmであることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の発光装置。
【請求項9】
請求項5乃至8のいずれかに記載の発光装置であって、前記半導体発光素子が光パルスを発するよう、前記発光素子駆動回路が印加する前記駆動電流がパルス状であり、前記半導体発光素子の前記第2の光出射端面から出射された前記光パルスを被測定光ファイバに出力する、前記発光装置と、
前記被測定光ファイバからの前記光パルスの戻り光を電気信号に変換する受光部と、
前記受光部によって変換された電気信号に基づいて前記被測定光ファイバの損失分布特性を解析する信号処理部と、を備えた光パルス試験器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−64921(P2012−64921A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113132(P2011−113132)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】