説明

半導体発光素子及び半導体発光素子の製造方法

【課題】 光の取り出し効率を向上させるとともに、容易かつ再現性良く製造可能な半導体発光素子やその製造方法を提供する。
【解決手段】 半導体発光素子1は、電力を供給することで発光する発光層12を有した半導体積層構造11〜13と、半導体積層構造11〜13の上面に形成されて発光層12が出射する光に対して透明であり導電性を有する透明電極14と、透明電極14の上面に形成されて発光層12が出射する光に対して透明であり透明電極14よりも屈折率が高い透明高屈折率膜15と、を備える。透明高屈折率膜15は、透明電極14から離れるに従い連続的または段階的に屈折率が低くなり、かつ、透明電極14からの距離にかかわらず組成が一様である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)などに代表される半導体発光素子や、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LEDなどに代表される半導体発光素子は、低消費電力や、小型、高輝度、長寿命などの利点があるため、近年様々な用途で利用されている。例えば、消費電力の大きい白熱灯の代替として、照明装置に利用されるようになってきている。
【0003】
半導体発光素子は、光を出射する発光層など、複数の層が積層されて成る。そのため、例えばLEDなどでは、発光層から出射される光を、いくつかの層を通過させて外部に取り出す必要がある。しかしながら、光がこれらの層の界面を通過する際に減衰し、最終的な光の取り出し効率が低下し得るため、問題となる。この問題について、図面を参照して説明する。図7は、透明電極及び保護膜と光の進行状態とを示す断面図である。なお、図示の都合上、断面を示すハッチングは省略している。
【0004】
図7は、絶対屈折率(以下、単に屈折率と称する)が1.9の酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide:ITO)から成る透明電極101から、屈折率が1.5の酸化シリコン(SiO)から成る保護膜102に光が入射する場合を例示したものである。図7に示す例では、光の入射先である保護膜102の屈折率が、光の入射元である透明電極101の屈折率よりも、小さくなっている。そのため、透明電極101から保護膜102に光が入射する界面において、全反射が生じ得る。
【0005】
全反射は、入射角が臨界角θよりも大きい光において生じる。例えば、図7のXのように、入射角が臨界角θ以下の光は、界面で屈折するものの、保護膜102内に入射する。一方、図7のYのように、入射角が臨界角θよりも大きい光は、界面で全反射するため、保護膜102内には入射しない。
【0006】
また、臨界角θは、入射元の屈折率nと入射先の屈折率nとの比に応じて、下記式(1)のように決まる。例えば、図7に示した透明電極101から保護膜102に光が入射する界面の臨界角は、52.1°となる。
【0007】
θ=arcsin(n/n) ・・・(1)
【0008】
上記式(1)に示したように、入射先の屈折率nが入射元の屈折率nよりも相対的に小さくなるほど、臨界角θが小さくなる。そして、臨界角θが小さくなると、界面で全反射する光の割合が増大するため、光の取り出し効率が低下する。
【0009】
そこで、例えば特許文献1では、透明電極上に、当該透明電極よりも屈折率が小さい突起を設けた半導体発光素子が、提案されている。この半導体発光素子では、突起の構成元素および組成比を透明電極からの距離に応じて変動させて、透明電極から離れるほど当該突起の屈折率が小さくなるようにすることで、突起内に入射した光が先端に向かうほど屈折するようにして、突起の側壁から光を取り出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許2010/0148199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記の半導体発光素子では、透明電極の屈折率よりも、突起の屈折率の方が小さいため、透明電極から突起に光が入射する際に全反射が生じる。そのため、光の取り出し効率を十分に向上させることができないため、問題となる。さらに、この半導体発光素子では、突起の構成元素および組成比を透明電極からの距離に応じて変動させる必要がある。そのため、突起の作製に必要な材料の種類が増えるとともに成膜条件の制御が困難になることで、突起を再現性良く作製することが困難になるとともにコストが高くなるため、問題となる。
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑み、光の取り出し効率を向上させるとともに、容易かつ再現性良く製造可能な半導体発光素子やその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明は、電力を供給することで発光する発光層を有した半導体積層構造と、
前記半導体積層構造の上面に形成され、前記発光層が出射する光に対して透明であり導電性を有する透明電極と、
前記透明電極の上面に形成され、前記発光層が出射する光に対して透明であり前記透明電極よりも屈折率が高い透明高屈折率膜と、を備え、
前記透明高屈折率膜は、前記透明電極から離れるに従い連続的または段階的に屈折率が低くなり、かつ、前記透明電極からの距離にかかわらず構成元素が同一であることを特徴とする半導体発光素子を提供する。
【0014】
この場合、透明電極の屈折率よりも、透明高屈折率膜の屈折率が高くなる。そのため、透明電極から透明高屈折率膜に光が入射する界面において、全反射を抑制することが可能になる。また、透明高屈折率膜の屈折率は、前記透明電極から離れるに従い低くなる。そのため、透明高屈折率膜から外部、例えば空気中に光を出射する界面の臨界角を大きくして、当該界面における全反射を抑制することが可能になる。
【0015】
さらにこの場合、透明高屈折率膜は、同一の構成元素から成る。そのため、透明高屈折率膜の成膜条件の制御が容易になり、再現性良く透明高屈折率膜を作製することが可能になる。また、透明高屈折率膜の作製にかかるコストを、低くすることができる。
【0016】
さらに、上記特徴の半導体発光素子は、前記透明高屈折率膜の成膜条件が、前記透明電極からの距離に応じて異なっていると、好ましい。
【0017】
この場合、透明高屈折率膜の成膜条件を制御することで、透明高屈折率膜の屈折率を制御することになる。そのため、透明高屈折率膜を容易かつ再現性良く作製することが可能になる。
【0018】
さらに、上記特徴の半導体発光素子は、前記透明高屈折率膜を成膜する際の下地の温度が、前記透明電極から離れるほど低くなっていると、好ましい。
【0019】
この場合、透明高屈折率膜の透過率の低下を抑制しながら、透明高屈折率膜の屈折率を低くすることができる。したがって、透過率の低下に伴う光取り出し効率の低下を、抑制することが可能になる。
【0020】
さらに、上記特徴の半導体発光素子は、前記透明高屈折率膜の上面が、凹凸状であると、好ましい。
【0021】
この場合、凹部の底や凸部の先端だけでなく、凸部の側壁からも光を取り出すことが可能になる。そのため、光の取り出し効率を、向上することが可能になる。
【0022】
さらに、上記特徴の半導体発光素子は、少なくとも前記透明高屈折率膜の上面に形成され、前記透明高屈折率膜よりも屈折率が低い保護膜を、さらに備えてもよい。
【0023】
この場合においても、透明高屈折率膜の屈折率は、前記透明電極から離れるに従い低くなるため、透明高屈折率膜から保護膜に光が入射する界面の臨界角を大きくして、当該界面における全反射を抑制することが可能になる。
【0024】
さらに、上記特徴の半導体発光素子は、前記透明電極が酸化インジウムスズから成り、前記透明高屈折率膜が酸化チタンから成り、前記保護膜が酸化シリコンから成ってもよい。
【0025】
また、上記特徴の半導体発光素子は、前記透明高屈折率膜の屈折率が、2.1以上であると、好ましい。
【0026】
この場合、透明電極から透明高屈折率膜に光が入射する際に全反射が生じることを、効果的に抑制することが可能になる。
【0027】
また、上記特徴の半導体発光素子は、前記透明高屈折率膜の膜厚は、50nm以上150nm以下であると、好ましい。
【0028】
この場合、透明電極から透明高屈折率膜に光を効果的に取り出すとともに、透明高屈折率膜による光の減衰を効果的に抑制することが可能になる。
【0029】
また、本発明は、電力を供給することで発光する発光層を有した半導体積層構造を形成する半導体積層構造形成ステップと、
前記半導体積層構造の上面に、前記発光層が出射する光に対して透明であり導電性を有する透明電極を形成する透明電極形成ステップと、
前記透明電極の上面に、前記発光層が出射する光に対して透明であり前記透明電極よりも屈折率が高い透明高屈折率膜を形成する透明高屈折率膜形成ステップと、を備え、
前記透明高屈折率膜形成ステップが、前記透明電極からの距離に応じて成膜条件を異ならせることで、前記透明電極から離れるに従い連続的または段階的に屈折率が低くなり、かつ、前記透明電極からの距離にかかわらず構成元素が同一である前記透明高屈折率膜を形成するものであることを特徴とする半導体発光素子の製造方法を提供する。
【0030】
この場合、透明電極の屈折率よりも、透明高屈折率膜の屈折率が高くなる。そのため、透明電極から透明高屈折率膜に光が入射する界面において、全反射を抑制することが可能になる。また、透明高屈折率膜の屈折率は、光の進行方向に沿って低くなる。そのため、透明高屈折率膜の屈折率を無用に低下させることなく、透明高屈折率膜から外部に光を出射する界面の臨界角を大きくして、当該界面における全反射を抑制することが可能になる。
【0031】
さらにこの場合、透明高屈折率膜が同一の構成元素から成り、その成膜条件を制御することで、透明高屈折率膜の屈折率を制御することになる。そのため、成膜条件の制御が容易であるとともに、透明高屈折率膜を容易かつ再現性良く作製することが可能になる。また、透明高屈折率膜の作製にかかるコストを、低くすることができる。
【0032】
さらに、上記特徴の半導体発光素子の製造方法は、前記透明高屈折率膜形成ステップが、前記透明高屈折率膜を成膜する際の下地の温度を、前記透明電極から離れるほど低くするものであると、好ましい。
【0033】
この場合、透明高屈折率膜の透過率の低下を抑制しながら、透明高屈折率膜の屈折率を低くすることができる。したがって、透過率の低下に伴う光取り出し効率の低下を、抑制することが可能になる。
【発明の効果】
【0034】
上記特徴の半導体発光素子やその製造方法によれば、光が入射する界面の全反射を抑制することで、半導体発光素子の光の取り出し効率を向上させることが可能になる。さらに、上記特徴の半導体発光素子やその製造方法によれば、透明高屈折率膜ひいては半導体発光素子を容易かつ再現性良く作製することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図。
【図2】本発明の実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図。
【図3】本発明の実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図。
【図4】透明高屈折率膜の屈折率と成膜時の基板温度との関係を示すグラフ。
【図5】透明高屈折率膜の透過率と成膜時の基板温度との関係を示すグラフ。
【図6】透明電極、透明高屈折率膜及び保護膜と光の進行状態とを示す断面図。
【図7】透明電極及び保護膜と光の進行状態とを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態として、窒化ガリウム(GaN)系のLEDを例示する。ただし、本発明を適用可能な半導体発光素子は、当該LEDに限られるものではない。
【0037】
<半導体発光素子の製造方法>
最初に、本発明の実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例について、図面を参照して説明する。図1〜図3は、本発明の実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図である。また、図1(a)、図1(b)、図1(c)、図1(d)、図1(e)、図2(a)、図2(b)、図2(c)、図2(d)、図3の順番で、半導体発光素子の製造工程の進行を示している。
【0038】
最初に、図1(a)及び図1(b)に示すように、サファイアなどから成る基板10の上面を、凹凸状に加工する。例えば、このような凹凸は、凹部(溝)を形成すべき部分を除いて基板10の表面上にレジストを形成し、ICP(Inductively Coupled Plasma)等のエッチングを行うことで、形成することができる。なお、エッチングで使用したレジストは、当該エッチングの後に除去する。
【0039】
次に、図1(c)に示すように、凹凸状とした基板10の上面に、半導体積層構造11〜13を形成する。具体的に例えば、凹凸状とした基板10の上面に、n型のGaNから成るnクラッド層11、GaNから成る障壁層とInGa1−xN(0<x≦1)から成る井戸層とが交互に積層されるとともに最初及び最後の層が障壁層となる多重量子井戸構造を備えた発光層(活性層)12、p型のGaNから成るpクラッド層13を、この順番で積層する。
【0040】
nクラッド層11、発光層12及びpクラッド層13は、例えばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)などによって積層することができる。また、n型のGaNのドーパントとして、例えばSiを用いることができる。また、p型のGaNのドーパントとして、例えばMgを用いることができる。また、このpクラッド層13の積層後、p型ドーパンドを活性化するべくアニールを行ってもよい。また、nクラッド層11、発光層12及びpクラッド層13を構成するGaNやInGa1−xNに、Alなどの他の元素が含まれていてもよい。
【0041】
次に、図1(d)に示すように、半導体積層構造11〜13の上面(pクラッド層13の上面)に、発光層12が出射する光に対して透明であるとともに導電性を有する透明電極14を形成する。この透明電極14は、例えば酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide:ITO)から成り、例えばスパッタなどによって形成される。
【0042】
次に、図1(e)に示すように、透明電極14の上面に、発光層12が出射する光に対して透明であり透明電極14よりも屈折率が高い透明高屈折率膜15を形成する。この透明高屈折率膜15は、例えば酸化チタン(TiO)から成り、例えばスパッタなどによって形成される。
【0043】
透明高屈折率膜15は、透明電極14から離れるに従い、連続的または段階的に屈折率が低くなるように形成する。ただし、透明高屈折率膜15は、透明電極14からの距離にかかわらず構成元素が同一になるようにする。
【0044】
このような透明高屈折率膜15の形成方法の一例について、図4及び図5を参照して説明する。図4は、透明高屈折率膜の屈折率と成膜時の基板温度との関係を示すグラフであり、図5は、透明高屈折率膜の透過率と成膜時の基板温度との関係を示すグラフである。
【0045】
図4に示すように、透明高屈折率膜15を成す酸化チタンは、成膜時の基板温度(下地の温度)を低くするほど、屈折率が低くなる。そのため、透明高屈折率膜15の成膜の進行に応じて基板温度を徐々に下げることで、上述の特性を有する透明高屈折率膜15を形成することができる。具体的に例えば、成膜の開始時の基板温度を300℃、終了時の基板温度を100℃にすると、透明電極14側の屈折率が略2.4であり、その反対側の屈折率が略2.2となる透明高屈折率膜15を形成することができる。
【0046】
また、図5に示すように、透明高屈折率膜15を成す酸化チタンは、成膜時の基板温度の変動に応じて透過率が変動するが、その変動量は小さくなる。そのため、透明高屈折率膜15の成膜時の基板温度を変動させると、透過率の変動を抑制しながら屈折率を変動させることができる。したがって、透過率の低下に伴う光取り出し効率の低下を、抑制することが可能になる。ただし、当然ながら、透明高屈折率膜15の透過率が高いほど、光の取り出し効率を高めることができる。そのため、詳細については後述するが、透明高屈折率膜15の透過率を無用に低下させないようにすると、好ましい。
【0047】
次に、図2(a)に示すように、透明高屈折率膜15の上面を、凹凸状に加工する。例えば、基板10の上面を凹凸状に加工した場合と同様に、凹部を形成すべき部分を除いて透明高屈折率膜15の表面上にレジストを形成し、ICP等のエッチングを行うことで、凹凸を形成する。なお、エッチングで使用したレジストは、当該エッチングの後に除去する。
【0048】
本例の半導体発光素子の製造方法では、後の工程で、透明電極14上にp電極16を形成し、nクラッド層11上にn電極17を形成する。そのため、p電極16を形成する領域Pについては透明電極14を露出させ、n電極17を形成する領域Nについてはnクラッド層11を露出させる必要がある。即ち、p電極16を形成する領域Pについては、透明高屈折率膜15を除去し、n電極17を形成する領域Nについては、透明高屈折率膜15と、透明電極14と、pクラッド層13と、発光層12と、nクラッド層11の一部と、を除去する必要がある。
【0049】
そこで、まず図2(b)に示すように、透明高屈折率膜15について、p電極16を形成する領域Pに該当する部分と、n電極17を形成する領域Nに該当する部分と、のそれぞれを除去する。次に、図2(c)に示すように、透明電極14と、pクラッド層13と、発光層12と、nクラッド層11とのそれぞれについて、n電極17を形成する領域Nに該当する部分を除去する。ただし、nクラッド層11については、n電極17を形成する領域Nに該当する部分を完全には除去せず、一部を残す。
【0050】
例えば、透明電極14は、王水等によるエッチングによって除去することができる。さらに例えば、透明高屈折率膜15やpクラッド層13、発光層12及びnクラッド層11は、ICP等のエッチングによって除去することができる。ただし、これらのエッチングを行う場合、除去すべき部分を除いてレジストを形成する必要がある。なお、それぞれのエッチングで使用したそれぞれのレジストは、それぞれのエッチングの終了後に除去する。
【0051】
次に、図2(d)に示すように、透明電極14を露出させた部分(領域P)にp電極16を形成し、nクラッド層11を露出させた部分(領域N)にn電極17を形成する。p電極16及びn電極17は、単一の金属の層としてもよいし、複数の金属の層を組み合わせたものとしてもよい。後者の場合、例えば、透明電極14上またはnクラッド層11上に形成されNiから成る第1Ni膜と、第1Ni膜上に形成されAlから成るAl膜と、Al膜上に形成されNiから成る第2Ni膜と、第2Ni膜上に形成されPtから成るPt膜と、Pt膜上に形成されAuから成るAu膜と、Au膜上に形成されNiから成る第3Ni膜と、から成るものとしてもよい。
【0052】
この場合、第1Ni膜は、透明電極14及びnクラッド層11のそれぞれとオーミック接触し得る。また、Al膜やPt膜は、発光層12が出射する光の少なくとも一部を反射し得る。また、第2Ni膜は、Al膜及びPt膜を強固に結びつけ得る。また、Au膜及び第3Ni膜は、電力を供給する外部の電源装置と電気的に接続するためのワイヤ等と、電気的及び物理的に接続し得る。
【0053】
p電極16及びn電極17は、例えば、p電極16を形成する領域P及びn電極17を形成する領域Nのそれぞれを除いてレジストを形成し、蒸着等によって電極16,17を成す膜を形成した後に当該レジストをリフトオフすることで、同時に形成することができる。
【0054】
そして、図3に示すように、透明高屈折率膜15の上面と、n電極17を形成するために露出させた部分の側面及び底面に、酸化シリコン(SiO)から成る保護膜18を形成する。また、図3に示すように、p電極16及びn電極17の上面の一部(端部)や側面にも、保護膜18が形成され得る。また、後述する分割工程において、分割溝を形成する位置には、保護膜18が形成されないようにすると、好ましい。
【0055】
保護膜18は、例えばプラズマCVD等により酸化シリコンを全面的に形成した後、除去すべき部分を除いてレジストを形成し、フッ酸等のエッチャントを用いて当該部分の酸化シリコンを除去することで、形成することができる。なお、エッチングで使用したレジストは、エッチングの終了後に除去する。
【0056】
以上の工程によって、半導体発光素子1が形成される。ただし、この段階ではウエハの状態(基板10及びnクラッド層11が共通となり、複数の半導体発光素子1が一体となっている状態)であるため、必要に応じてチップへの分割を行う。この分割は、半導体発光素子1を単位として行われ、1つのチップには少なくとも1つの半導体発光素子1が含まれる。
【0057】
具体的に例えば、まずnクラッド層11に分割溝を形成する。この分割溝は、分割溝を形成すべき部分を除いてレジストを形成し、ICP等のエッチングを行うことで、形成することができる。なお、エッチングで使用したレジストは、エッチングの終了後に除去する。次に、基板10の凹凸が形成されていない方の面(以下、裏面とする)を、研磨等によって薄くする。そして、当該基板10の裏面に対して、レーザスクライブ等によってスクライブ溝を形成する。このとき、基板10におけるスクライブ溝を、nクラッド層11における分割溝と対向する位置に形成する。そして、例えば基板10の裏面側に形成されたスクライブ溝に刃を押し当てることで、スクライブ溝と分割溝との間が割れ、ウエハがチップに分割される。チップ化された半導体発光素子1は、例えばワイヤボンディングにより実装され、外部の電源装置と電気的に接続される。
【0058】
<半導体発光素子の動作>
上述の半導体発光素子1に対して、p電極16及びn電極17から電力を供給すると、発光層12が光を出射する。発光層12が出射する光は、基板10側と、透明高屈折率膜15側と、にそれぞれ向かう。ただし、基板10側に向かう光の少なくとも一部は、凹凸状の基板10の表面で反射されて、透明高屈折率膜15側に向かう。
【0059】
透明高屈折率膜15側に向かう光は、透明電極14、透明高屈折率膜15及び保護膜18を通過して外部に出射される。本例の半導体発光素子1では、透明電極14、透明高屈折率膜15及び保護膜18を光が通過する際の全反射を抑制することで、光の取り出し効率を向上させる。これについて、以下図面を参照して具体的に説明する。図6は、透明電極、透明高屈折率膜及び保護膜と光の進行状態とを示す断面図である。なお、図示の都合上、断面を示すハッチングは省略している。
【0060】
図6に示すように、本例の半導体発光素子1では、透明電極14の屈折率が1.9、保護膜18の屈折率が1.5となっている。また、透明高屈折率膜15の屈折率は、透明電極14側が2.4、凹部の底15bが2.2、凸部の先端15tが2.2となっており、透明電極14から離れるに従い連続的または段階的に低くなるように変動しているものとする。また、以下では説明の具体化のため、凹部の底15bと凸部の先端15tとが平行であり、凸部の側壁15sが凹部の底15b及び凸部の先端15tに対して垂直である場合について例示する。
【0061】
透明電極14から透明高屈折率膜15に光が入射する界面では、光の入射先の屈折率が光の入射元の屈折率よりも高くなるため、全反射は生じない。一方、透明高屈折率膜15から保護膜18に光が入射する界面では、光の入射先の屈折率が光の入射元の屈折率よりも低くなるため、全反射が生じ得る。具体的には、透明高屈折率膜15から保護膜18に光が入射する界面の臨界角θよりも入射角が大きい光が、当該界面で全反射する。なお、本例の半導体発光素子1では、臨界角θが43°になる(上記式(1)参照)。
【0062】
ただし、上述のように本例の半導体発光素子1では、透明高屈折率膜15の上面を凹凸状にしている。そのため、A1及びA2の光のように、凹部の底15bや凸部の先端15tに対しては入射角が臨界角θよりも大きくなる(即ち、全反射する)が、凸部の側壁15sに対しては入射角が臨界角θよりも小さくなる(即ち、全反射しない)ものが生じ得る。
【0063】
これについて、凹部の底15b及び凸部の先端15tに対して垂直な方向(図中の上下方向)を基準(0°)として光の角度を規定し、具体的に説明する。まず、上述のように、角度が臨界角θ(43°)以下となる光は、凹部の底15bや凸部の先端15tで全反射せず、これらを通過する。一方、A1のように、臨界角θよりも大きい角度となる光は、凹部の底15bや凸部の先端15tで全反射する。ただし、A2のように、当該光の角度が90°−θ(=47°)以上である場合、凸部の側壁15sにおいては光の入射角が臨界角θ以下となるため、凸部の側壁15sで全反射せず、これを通過する。
【0064】
即ち、本例の半導体発光素子1では、θ以下または90°−θ以上の角度となる光について、全反射を抑制して界面を通過させることが可能になる。したがって、本例の半導体発光素子1では、光の取り出し効率を向上させることができる。なお、凹部の底15b及び凸部の先端15tと凸部の側壁15sとは、垂直以外の角度であってもよい。
【0065】
また、本例の半導体発光素子1に対する比較例として、透明高屈折率膜15の上面が凹凸状であるが、透明高屈折率膜15の屈折率が上述した例のように変動せず、2.4の一定値である場合について想定する。この比較例では、透明高屈折率膜15から保護膜18に光が入射する界面の臨界角が、38.7°になる(上記式(1)参照)。即ち、比較例において全反射が抑制される光の角度は、38.7°以下または51.3°以上となる。したがって、本例の半導体発光素子1の方が、比較例よりも、全反射が抑制される光の角度を8.6°も広げることができる。
【0066】
以上のように、本例の半導体発光素子1では、透明電極14の屈折率よりも、透明高屈折率膜15の屈折率が高くなる。そのため、透明電極14から透明高屈折率膜15に光が入射する界面において、全反射を抑制することが可能になる。また、透明高屈折率膜15の屈折率は、前記透明電極から離れるに従い低くなる。そのため、透明高屈折率膜から外部、例えば空気中に光を出射する界面の臨界角を大きくして、当該界面における全反射を抑制することが可能になる。
【0067】
さらに、透明高屈折率膜15は、同一の構成元素から成る。そのため、透明高屈折率膜15の成膜条件の制御が容易になり、再現性良く透明高屈折率膜15を作製することが可能になる。また、透明高屈折率膜15の作製にかかるコストを、低くすることができる。
【0068】
したがって、本例の半導体発光素子1では、光が入射する界面の全反射を抑制することで、半導体発光素子の光の取り出し効率を向上させることが可能になる。さらに、本例の半導体発光素子1では、透明高屈折率膜15ひいては半導体発光素子1を容易かつ再現性良く作製することが可能になる。
【0069】
また、p電極16及びn電極17にも光は入射するが、p電極16及びn電極17が上述したAl膜等を備えていれば、p電極16及びn電極17に入射する光が反射されるため、p電極16及びn電極17による光の吸収を抑制することができる。そのため、半導体発光素子1の光の取り出し効率を、向上させることができる。
【0070】
<変形等>
なお、透明高屈折率膜15の膜厚を、50nm以上150nm以下にすると、透明電極14から透明高屈折率膜15に光を効果的に取り出すとともに、透明高屈折率膜15による光の減衰を効果的に抑制することが可能になるため、好ましい。また、透明高屈折率膜15の屈折率を2.1以上にすると、透明電極14から透明高屈折率膜15に光が入射する際に全反射が生じることを、効果的に抑制することが可能になるため、好ましい。
【0071】
また、透明高屈折率膜15の成膜時の基板温度を制御することで、透明高屈折率膜15の屈折率を制御する方法について例示したが、基板温度以外の成膜条件を制御してもよい。ただし、基板温度を制御する場合、上述のように透明高屈折率膜15の透過率の低下を抑制することができるため、好ましい。
【0072】
また、透明高屈折率膜15を設けず、透明電極14を凹凸状に加工する態様も想定され得る。しかしながら、透明電極14の加工が難しいことや、透明電極14の膜厚を変動させることによる半導体発光素子の動作の不具合等を考慮すると、上述の半導体発光素子1のように、透明高屈折率膜15を設ける構成とした方が好ましい。そして、透明高屈折率膜15を設けることで、透明高屈折率膜15から保護膜18に光が入射する界面の臨界角が大きくなり得るが、上述のように透明高屈折率膜15の屈折率を制御し、透明高屈折率膜15の上面を凹凸状に加工することで、当該界面を通過する光を増大させ、光の取り出し効率を向上することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に係る半導体発光素子やその製造方法は、照明装置等に搭載されるLED等に、好適に利用され得る。
【符号の説明】
【0074】
1 : 半導体発光素子
10 : 基板
11 : nクラッド層
12 : 発光層
13 : pクラッド層
14 : 透明電極
15 : 透明高屈折率膜
16 : p電極
17 : n電極
18 : 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力を供給することで発光する発光層を有した半導体積層構造と、
前記半導体積層構造の上面に形成され、前記発光層が出射する光に対して透明であり導電性を有する透明電極と、
前記透明電極の上面に形成され、前記発光層が出射する光に対して透明であり前記透明電極よりも屈折率が高い透明高屈折率膜と、を備え、
前記透明高屈折率膜は、前記透明電極から離れるに従い連続的または段階的に屈折率が低くなり、かつ、前記透明電極からの距離にかかわらず構成元素が同一であることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記透明高屈折率膜の成膜条件が、前記透明電極からの距離に応じて異なっていることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記透明高屈折率膜を成膜する際の下地の温度が、前記透明電極から離れるほど低くなっていることを特徴とする請求項2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記透明高屈折率膜の上面が、凹凸状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体発光素子。
【請求項5】
少なくとも前記透明高屈折率膜の上面に形成され、前記透明高屈折率膜よりも屈折率が低い保護膜を、さらに備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体発光素子。
【請求項6】
前記透明電極が酸化インジウムスズから成り、前記透明高屈折率膜が酸化チタンから成り、前記保護膜が酸化シリコンから成ることを特徴とする請求項5に記載の半導体発光素子。
【請求項7】
前記透明高屈折率膜の屈折率が、2.1以上であることを特徴とする請求項6に記載の半導体発光素子。
【請求項8】
前記透明高屈折率膜の膜厚は、50nm以上150nm以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の半導体発光素子。
【請求項9】
電力を供給することで発光する発光層を有した半導体積層構造を形成する半導体積層構造形成ステップと、
前記半導体積層構造の上面に、前記発光層が出射する光に対して透明であり導電性を有する透明電極を形成する透明電極形成ステップと、
前記透明電極の上面に、前記発光層が出射する光に対して透明であり前記透明電極よりも屈折率が高い透明高屈折率膜を形成する透明高屈折率膜形成ステップと、を備え、
前記透明高屈折率膜形成ステップが、前記透明電極からの距離に応じて成膜条件を異ならせることで、前記透明電極から離れるに従い連続的または段階的に屈折率が低くなり、かつ、前記透明電極からの距離にかかわらず構成元素が同一である前記透明高屈折率膜を形成するものであることを特徴とする半導体発光素子の製造方法。
【請求項10】
前記透明高屈折率膜形成ステップが、前記透明高屈折率膜を成膜する際の下地の温度を、前記透明電極から離れるほど低くするものであることを特徴とする請求項9に記載の半導体発光素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate