半導体発光素子
【課題】結晶欠陥の発生を防止し、特性が劣化しない範囲で、TMモード発振が行えるようにした半導体発光素子を提供する。
【解決手段】GaAs基板1上に、n型AlGaAsクラッド層2、n型AlGaAsビーム拡散層3、n型AlGaAs光ガイド層4、MQW活性層5、p型AlGaAs光ガイド層6、p型AlGaAsビーム拡散層7、p型AlGaAs第1クラッド層8、InGaPエッチングストップ層9、p型AlGaAs第2クラッド層10、p型GaAsコンタクト層11が形成されている。MQW活性層5は、バリア層と引っ張り歪を持つ井戸層で構成された多重量子井戸構造を有しており、井戸層の各膜厚がバリア層の各膜厚よりも大きく、井戸層のうち、少なくとも1層の膜厚が他の井戸層とは異なるように構成されている。
【解決手段】GaAs基板1上に、n型AlGaAsクラッド層2、n型AlGaAsビーム拡散層3、n型AlGaAs光ガイド層4、MQW活性層5、p型AlGaAs光ガイド層6、p型AlGaAsビーム拡散層7、p型AlGaAs第1クラッド層8、InGaPエッチングストップ層9、p型AlGaAs第2クラッド層10、p型GaAsコンタクト層11が形成されている。MQW活性層5は、バリア層と引っ張り歪を持つ井戸層で構成された多重量子井戸構造を有しており、井戸層の各膜厚がバリア層の各膜厚よりも大きく、井戸層のうち、少なくとも1層の膜厚が他の井戸層とは異なるように構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引っ張り歪を持つ井戸層を有する活性層を備えた半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体発光素子の中で、半導体レーザは、例えば、DVDやレーザプリンタ等の光源として用いられている。例えば、赤外波長領域の波長780nmの半導体レーザには、従来活性層材料にAlGaAsが用いられており、偏光はTEモードで発振していた。TEモード発振では、伝搬方向と垂直方向に電界が存在するため、半導体レーザの放出光を絞るために放射窓を小さくすることができない。放射窓を小さくすると、電界成分が放射窓に遮られてしまい、レーザ光が十分伝搬されない。
【0003】
放射窓を小さくしても、レーザ光の電界成分を十分伝搬させるために、TMモード発振によるレーザ光を生成し、光の伝搬方向に電界成分を持たせるようにしている。TMモードで発振するためには、活性層に引っ張り歪を持つ井戸層を用いる必要があり、そのために、井戸層とバリア層(障壁層)の組成を調整して、井戸層に引っ張り歪を加えるようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−312465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
活性層中の井戸層に大きな引っ張り歪みを加えるほど、TMモード発振が大きくなる。そこで、歪量を大きくするためには、格子定数の大きく異なる材料を井戸層とバリア層に用いれば良い。しかし、あまり、大きな歪を加えすぎると、格子を維持できなくなり、リラックス(格子緩和)してしまう。このとき、結晶欠陥が発生し、逆に特性が劣化する。結晶欠陥は、歪量が大きくなる程、また、膜厚が厚くなる程、発生しやすくなる。結晶欠陥の発生を防止し、特性が劣化しない条件でTMモード発振を行えるようにすることが必要である。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、結晶欠陥の発生を防止し、特性が劣化しない範囲で、TMモード発振が行えるようにした半導体発光素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、バリア層と引っ張り歪を持つ井戸層で構成された多重量子井戸構造を有する活性層を備え、前記井戸層の各膜厚がバリア層の各膜厚よりも大きく、前記井戸層のうち、少なくとも1層の膜厚が他の井戸層と異なることを特徴とする半導体発光素子である。
【0007】
また、請求項2記載の発明は、前記井戸層の各膜厚は、6nmより大きいことを特徴とする請求項1記載の半導体発光素子である。
【0008】
また、請求項3記載の発明は、前記活性層は、半導体基板上に積層された積層体の一部を形成し、前記井戸層の格子定数が前記半導体基板の格子定数よりも小さいことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体発光素子である。
【0009】
また、請求項4記載の発明は、前記井戸層と半導体基板の格子定数差は、0.18%以上に構成されていることを特徴とする請求項3に記載の半導体発光素子である。
【0010】
また、請求項5記載の発明は、前記積層体上に形成される電極が、ストライプ形状に構成されていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の半導体発光素子である。
【0011】
また、請求項6記載の発明は、前記積層体の一部がリッジ構造に形成されていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の半導体発光素子である。
【0012】
また、請求項7記載の発明は、前記活性層より上側のエッチングストップ層上に形成されたクラッド層の一部が、前記リッジ構造に含まれていることを特徴とする請求項6に記載の半導体発光素子である。
【0013】
また、請求項8記載の発明は、前記クラッド層は、前記エッチングストップ層に近い側から積層方向に向けて、第1不純物濃度領域と第2不純物濃度領域に分けられており、前記第1不純物濃度領域の不純物濃度は第2不純物濃度領域よりも低いことを特徴とする請求項7に記載の半導体発光素子である。
【0014】
また、請求項9記載の発明は、前記リッジ構造の底面は前記第1不純物濃度領域側に形成され、かつ前記第1不純物濃度領域と第2不純物濃度領域の境界から前記第1不純物濃度領域側に100nmの深さまでの範囲に形成されていることを特徴とする請求項8に記載の半導体発光素子である。
【0015】
また、請求項10記載の発明は、前記第1不純物濃度領域の不純物濃度が5×1017cm−3〜2×1018cm−3の範囲、又は、前記第2不純物濃度領域と第1不純物濃度領域との濃度差dが0<d≦1×102(cm−3)のいずれかを満たしていることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の半導体発光素子である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の半導体発光素子では、量子井戸構造を有する活性層を備えており、この活性層はバリア層と引っ張り歪を持つ井戸層で構成されている。また、井戸層膜厚がバリア層膜厚よりも大きく、複数の井戸層のうち、少なくとも1層の膜厚が他の井戸層とは異なるように構成されている。これにより、TMモード波の閾値電流がTEモード波の閾値電流よりも低くなるので、TMモード発振の大きな半導体発光素子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。本発明の半導体発光素子として半導体レーザの構成例を図1に示す。GaAs基板1上に、n型AlGaAsクラッド層2、n型AlGaAsビーム拡散層3、n型AlGaAs光ガイド層4、MQW活性層5、p型AlGaAs光ガイド層6、p型AlGaAsビーム拡散層7、p型AlGaAs第1クラッド層8、InGaPエッチングストップ層9、p型AlGaAs第2クラッド層10、p型GaAsコンタクト層11、p電極12が積層され、GaAs基板1の裏側にはn電極13が形成されている。GaAs基板1には、傾斜n型GaAs基板が用いられる。また、p電極12はTiとAuの多層金属膜等を、n電極1はAu、Ge、Niの合金層とTiとAuの多層金属膜等が用いられる。
【0018】
MQW活性層5は、図3に示すように、GaAsP井戸層5aとAlGaAsバリア層5bを交互に積層させた多重量子井戸(Multi Quantum Well)構造を有している。また、n型AlGaAs光ガイド層4上に、まずGaAsP井戸層5aが作製された後、AlGaAsバリア層5bが形成され、井戸層とバリア層とが交互に積層される。最後はGaAsP井戸層5aが形成され、その上にp型AlGaAs光ガイド層6が形成される。MQW活性層5のGaAsP井戸層5aには、図の矢印で示すように、横方向(積層方向とは垂直方向)に引っ張り歪が発生するように形成されている。
【0019】
MQW活性層5における各GaAsP井戸層5aの膜厚は、どのAlGaAsバリア層5bの膜厚よりも厚く構成されている。さらに、各GaAsP井戸層5aは、すべて同一の膜厚で構成されているのではなく、少なくとも1層のGaAsP井戸層の膜厚は、他のGaAsP井戸層の膜厚と異なるように構成されている。
【0020】
図1の半導体レーザは、p型AlGaAs第2クラッド層10とp型GaAsコンタクト層11とで、ストライプ状のリッジ部分を構成したリッジ構造を有している。電流は、ストライプ状のリッジ部と、リッジ部の下部を流れる。
【0021】
図1の半導体レーザの製造方法を簡単に説明すると、既知のMOCVD法やフォトリソグラフィ技術等により、以下のように行われる。GaAs基板1上に、MOCVD法(有機金属化学気相成長法)を用いた結晶成長によって、n型AlGaAsクラッド層2、n型AlGaAsビーム拡散層3、n型AlGaAs光ガイド層4、MQW活性層5、p型AlGaAs光ガイド層6、p型AlGaAsビーム拡散層7、p型AlGaAs第1クラッド層8、InGaPエッチングストップ層9、p型AlGaAs第2クラッド層10、p型GaAsコンタクト層11を順に積層する。なお、MQW活性層5は、上述のように、GaAsP井戸層5aとAlGaAsバリア層5bとを交互に積層する。本実施例では、GaAsP井戸層5aを3層とAlGaAsバリア層5bを2層積層する。
【0022】
次に、ストライプ状のSiO2をマスクとし、ドライエッチングによりp型GaAsコンタクト層11及びp型AlGaAs第2クラッド層10をエッチングして、リッジ部を形成する。次に、塩酸若しくは希硫酸と過酸化水素水でウェットエッチングしてInGaPエッチングストップ層9に達するまでエッチングを行う。エッチングストップ層9によりリッジエッチングが自動的に停止し、制御良くリッジを形成できる。
【0023】
その後、SiO2のマスクをHF処理によって除去する。最後に、ラッピング、ポリッシュによってウエハを所定の厚さまで薄くし、蒸着又はスパッタによってp電極12及びn電極13を形成する。
【0024】
図1では、リッジ構造を有する半導体レーザの例を示したが、図2のように、ストライプ状のリッジ構造を用いずに、p電極をストライプ形状にした半導体レーザとすることもできる。図1と同じ符号を付したものは、図1と同様の構成を示す。GaAs基板1上に、n型AlGaAsクラッド層2、n型AlGaAsビーム拡散層3、n型AlGaAs光ガイド層4、MQW活性層5、p型AlGaAs光ガイド層6、p型AlGaAsビーム拡散層7が積層されているところまでは、図1と同様である。図1と異なるのは、エッチングストップ層がなく、p型AlGaAsビーム拡散層7上にはp型AlGaAsクラッド層18、p型GaAsコンタクト層19が順に積層されている。また、素子の中央部に電流を流すようにするために、図1のリッジ構造を形成せずに、p電極20をストライプ形状に作製している。
【0025】
ここで、MQW活性層5のGaAsP井戸層5aとAlGaAsバリア層5bとでは、後述する図8に示すように、構成材料の格子定数が大きく異なるので、井戸層5aには引っ張り歪が発生するのであるが、単に引っ張り歪が発生しただけでは、TMモード発振を十分引き出すことができない。これは、井戸層に引っ張り歪を加えたとしても、レーザ光にはTMモードとTEモードの両波が混在するためである。TMモード発振を優位にするためには、TMモード波の方の閾値電流が十分低くなるように構成することが必要である。
【0026】
そこで、活性層の組成等は一定にして、TMモード発振条件は満たすようにし、井戸層の膜厚構成を変化させて、TMモード発振が優位になるような条件をシミュレーションにより考察した。シミュレーションには、図1、3の構造を有する半導体レーザを用い、具体的には以下のようにした。
【0027】
n型AlGaAsクラッド層2は膜厚3.5μmのn型Al0.53GaAs、n型AlGaAsビーム拡散層3は膜厚0.05μmのn型Al0.53GaAs、n型AlGaAs光ガイド層4は膜厚0.08μmのn型Al0.6GaAs、p型AlGaAs光ガイド層6は膜厚0.08μmのp型Al0.6GaAs、p型AlGaAsビーム拡散層7は膜厚0.05μmのp型Al0.53GaAs、p型AlGaAs第1クラッド層8は膜厚0.03μmのp型Al0.53GaAs、InGaPエッチングストップ層9は膜厚0.015μmのInGaP、p型AlGaAs第2クラッド層10は膜厚1.6μmのp型Al0.53GaAs、p型GaAsコンタクト層11は、膜厚0.4μmのp型GaAsで構成した。なお、いずれの半導体層においても、n型不純物にはSiを、p型不純物にはMgを用いた。また、リッジ構造のリッジ幅(リッジ形状の底面の幅)は、1.5μmとした。
【0028】
また、MQW活性層5は3層のGaAsP井戸層5aと2層のAlGaAsバリア層5bを交互に積層させた多重量子井戸構造とした。AlGaAsバリア層5bは、膜厚5nmのアンドープAl0.3GaAsで構成した。一方、GaAsP井戸層5aはアンドープGaAs1−XPX(0<X<1)で構成し、本実施例ではX=0.1のGaAs0.9P0.1として、その膜厚を色々と変化させ、TMモード発振の状態を調べた。
【0029】
図4は、3層のGaAsP井戸層5aの各膜厚を変化させた場合のシミュレーション結果を示す。図の横軸は、3層の井戸層の膜厚構成(nm)を示し、縦軸は、相対閾値電流(任意単位)を示す。ここで、相対閾値電流とは、(TMモード発振の閾値電流)/(TEモード発振の閾値電流)で計算された数値を示す。井戸層に引っ張り歪が加えられた場合でも、レーザ光には、TMモードとTEモードの両波が混在するため、相対閾値電流で示している。すなわち、相対閾値電流が小さいほど、TMモード発振が顕著になることがわかる。
【0030】
また、図の横軸で、例えば、8/9/10nmと記載されている場合は、左側の数字8nmがp型AlGaAs光ガイド層6に最も近いGaAsP井戸層5aの膜厚を示し、それから順にn型層側に近くなる井戸層5aの膜厚に対応する。したがって、n型AlGaAs光ガイド層4に最も近い井戸層5aが、膜厚10nmとなる。
【0031】
従来技術では、3つの井戸層の膜厚をすべて同一にしているので、図4の9/9/9nmの場合を基準に考える。3つの井戸層のうち、1層でも膜厚を変化させると、相対閾値電流は変化する。8/8/11nm、8/11/8nm、7/9/11nm、11/9/7nmの膜厚構成では、相対閾値電流は9/9/9nmの場合よりも大きくなる。この場合、井戸層の膜厚の差は、2nm又は3nmである。一方、8/9/10nm、10/9/8nmの膜厚構成では、相対閾値電流は9/9/9nmの場合よりも小さくなる。この場合、井戸層の膜厚の差は、1nmである。また、8.5/9/9.5nm、9.5/9/8.5nmの膜厚構成では、相対閾値電流は9/9/9nmの場合よりも、かなり小さくなる。この場合、井戸層の膜厚の差は、0.5nmである。
【0032】
以上より、活性層を構成する井戸層のうち、少なくとも1層の膜厚が他の井戸層とは異なった場合、その膜厚が異なる井戸層と他の井戸層との膜厚差が2nm未満であれば、相対閾値電流は3つの井戸層の膜厚がすべて同一の場合よりも小さくなることがわかる。より具体的には、最も近い位置に配置された2つの井戸層の間の変化の幅が、すべて2nmや3nmとなっている構造については、相対閾値電流は9/9/9nmの場合よりも大きくなる。一方、最も近い位置に配置された2つの井戸層の間の変化の幅が、すべて2nm未満の場合には、相対閾値電流は3つの井戸層の膜厚がすべて同一の場合よりも小さくなることがわかる。
【0033】
図4では、最も近い位置に配置された2つの井戸層間の膜厚の変化の幅が等間隔であったが、これを不揃いにした例を含む結果を図5に示す。図の枠で囲んだ領域に示されるように、8.5/8.8/9.7nm、9.7/8.8/8.5nm、8.3/9.2/9.5nm、9.5/9.2/8.3nmの膜厚構成では、相対閾値電流は9/9/9nmの場合よりも小さくなる。最も近い位置に配置された2つの井戸層の膜厚差は、各々、0.3/0.9nm、0.9/0.3nm、0.9/0.3nm、0.3/0.9nmとなっている。すなわち、最も近い位置に形成された2つの井戸層間の膜厚の変化幅が、すべて2nm未満、厳しく条件を取ると1nm以下の場合が、TMモード発振が顕著になることがわかり、図4と同様の結論が導き出せる。
【0034】
次に、活性層5を上記と同様の構成して、3つのGaAsP井戸層5aの各膜厚を同一に保ちながら、その膜厚を変化させた。すなわち、AlGaAsバリア層5bは膜厚5nmのアンドープAl0.3GaAsで、GaAsP井戸層5aはアンドープGaAs0.9P0.1(X=0.1)で構成した。井戸層の膜厚と閾値電流の関係を図6に示す。図に示す黒菱形(◆)のデータがTEモードを、黒四角がTMモードを示す。また、図7は、図6のTMモード、TEモードに関する閾値電流の比を取って、上述した相対閾値電流としたものである。
【0035】
図7からわかるように、井戸層の膜厚が6nm以下の場合、相対閾値電流が大きくなり、TEモードとTMモードの混在波となる可能性がある。一方、井戸層の膜厚が6nmを越える場合、図6に示されるように、TEモードの閾値電流が非常に高くなっていき、TEモードの発振が妨げられる。その結果、図7に示されるように、相対閾値電流が小さくなり、TMモード発振が顕著になることがわかる。
【0036】
また、GaAsYP1−YとAl1−YGaYAsとで、組成Yを変化させた場合の格子定数差を計算した。GaAsP井戸層5aを膜厚9nmのGaAsYP1−Yで形成し、GaAs基板1をAl1−YGaYAs基板として組成Yを変化させた。図8(a)は、GaAsYP1−Yで組成Yを変化させたときの格子定数の変化をL1(実線)で表わし、Al1−YGaYAsの組成Yを変化させたときの格子定数をL2(点線)で表わしたものである。ここで、GaAsの格子定数は5.65325、AlAsの格子定数は5.6611、GaPの格子定数は5.4505である。その間は、線形変化として計算した。
【0037】
組成Yが増加するにしたがって、GaAsYP1−Yの格子定数は直線的に上昇しているが、Al1−YGaYAsの格子定数の変化はほとんどない。このときの、100×(L1−L2)/L1の数値(格子定数差)とGaAs1−XPXの組成Xとの関係を示すのが図8(b)である。縦軸は格子定数差(%)を、横軸はGaAs1−XPXの組成Xを示す。ここで、組成Xは、組成Yとの間に、X=Y−1の関係がある。組成Xが大きくなるほどに、GaAs基板又はAlGaAs半導体層との格子定数差は大きくなる。格子定数差が大きくなるということは、引っ張り歪量が増大することを意味する。
【0038】
ここで、図9に示すように、引っ張り歪と圧縮歪と閾値電流密度との関係を見ると、引っ張り歪の方が、圧縮歪に比べて、低閾値電流密度で動作する範囲が小さいことがわかる。あまり大きな歪を加えると、結晶欠陥が発生し、逆に特性が劣化するためである。したがって、引っ張歪量に大きく関係するGaAs1−XPXのP(燐)成分の組成Xにより、どのようにTMモードの閾値電流が変化するのかを調べることが必要である。図10にGaAs1−XPXのP組成Xと閾値電流との関係を示す。図6と同様、黒菱形(◆)のデータがTEモードを、黒四角がTMモードを示す。また、図11は、図10のTMモード、TEモードに関する閾値電流の比を取って、上述した相対閾値電流としたものである。なお、X1で示されたデータは、図から判別しにくいが、TEモードとTMモードの閾値電流が同じで、重なっているデータを示す。
【0039】
図10からわかるように、P組成Xが0.04以下であると、TEモードとTMモードとは閾値電流がほとんど同じであり、TEモード波とTMモード波が混在している。しかし、P組成Xが0.04を越えると、TMモードの閾値電流のほうが小さくなり、図11からもわかるように、相対閾値電流が1よりも小さくなる。図10、11のデータからは、特にP組成Xが0.05以上になるとTMモードが顕著になる。ここで、図8(b)と対比すると、P組成Xが0.05のときの格子定数差は、0.18%となる。一方、引っ張り歪量には、格子緩和するまでの臨界点があり、そのときの臨界格子定数差は0.4程度に相当するので、これからP組成Xの大きさは13%程度が限界であると考えられる。なお、P組成Xが異なれば、引っ張り歪み量も変化し、臨界膜厚も変化する。
【0040】
次に、図1のリッジ構造で、TMモード発振とするための条件を、膜厚や格子定数等以外の観点から考える。図12は、図1と半導体層の構成はほぼ同じである。図1と同じ符号は同一の構成を示す。
【0041】
GaAs基板1上に、n型AlGaAsクラッド層2、n型AlGaAsビーム拡散層3、n型AlGaAs光ガイド層4、MQW活性層5、p型AlGaAs光ガイド層6、p型AlGaAsビーム拡散層7、p型AlGaAs第1クラッド層8、InGaPエッチングストップ層9、p型AlGaAs第2クラッド層100、p型GaAsコンタクト層11、p電極12が積層され、GaAs基板1の裏側にはn電極13が形成されている。図12の半導体レーザは、p型AlGaAs第2クラッド層100の一部とp型GaAsコンタクト層11とで、ストライプ状のリッジ部分を形成したリッジ構造を形成している。図1と異なるのは、p型AlGaAs第2クラッド層100がストライプ状のリッジ形状部100Aと平板形状部100Bとから構成されている点にある。図の破線で示されたD2は、リッジ形状部100Aと平板形状部100Bとの境界、すなわちリッジ構造の底面を示す。
【0042】
これは、エッチングストップを行う位置を、InGaPエッチングストップ層9よりもp型GaAsコンタクト層11側のp型AlGaAs第2クラッド層100の途中で止めることで構成できる。これにより、活性層へのリッジからの歪の影響と光の漏れ出しの影響を低減させることができる。ここで、MQW活性層5は、前記の例と同様、3層のGaAsP井戸層5aと2層のAlGaAsバリア層5bを交互に積層させた多重量子井戸構造とした。また、AlGaAsバリア層5bは、膜厚5nmのアンドープAl0.3GaAsで構成した。一方、GaAsP井戸層5aはアンドープGaAs0.9P0.1(X=0.1)とした。井戸層5aにGaAs0.9P0.1を用いることで、井戸層5aには引っ張り歪が発生している。また、その他の半導体層の材料組成や膜厚は、図1で説明した内容と同じである。なお、図12のように、D2の位置でエッチングを止めるには、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)等を用いれば良い。
【0043】
また、p型AlGaAs第2クラッド層100は、p型不純物の濃度が異なる低濃度領域(第1不純物濃度領域)と高濃度領域(第2不純物濃度領域)の2つの領域から形成されている。図12に示すNは、不純物濃度の低濃度領域と高濃度領域の境界を表す。不純物濃度の境界Nよりも上側(コンタクト層11側)が高濃度領域となり、境界Nよりも下側(MQW活性層5側)が低濃度領域となる。また、リッジ構造の底面となるD2は不純物濃度の境界Nよりも低濃度領域側に形成される。
【0044】
InGaPエッチングストップ層9とp型AlGaAs第2クラッド層100との界面位置をD1、p型AlGaAs第2クラッド層100とp型GaAsコンタクト層11との界面位置をD3とする。高濃度領域(第2不純物濃度領域)のp型不純物濃度は、4×1019cm−3とし、低濃度領域(第1不純物濃度領域)のp型不純物濃度は、1×1018cm−3とした。図12のリッジ幅(D2位置の幅)は1.5μmに形成した。そして、境界Nの位置を所定の位置に固定して、エッチング深さを変え、境界Nと境界D2との関係をシミュレーションしたのが図13である。
【0045】
図13の縦軸は閾値電流(mA)を、横軸は活性層からの距離(μm)を示す。活性層からの距離とは、MQW活性層5とp型AlGaAs光ガイド層6との界面からの距離を表わす。境界Nは、図に示すように、活性層から約0.7μmのところに形成されている。ここで、エッチングにより、境界D2を変化させると、境界D2がMQW活性層5に近づくほど、TEモードとTMモードの閾値電流は低下する。
【0046】
しかし、TEモードとTMモードの閾値電流に差がなくなってくるので、TEモード波とTMモード波との混在波となる可能性が大きくなる。一方、図より、境界Nから活性層側に100nm以内では、TEモードの閾値電流よりも、TMモードの閾値電流の方が十分小さくなっている。したがって、不純物濃度の境界Nよりも、リッジ構造の底面位置D2の方が低濃度領域側に形成されるようにし、NとD1との深さ方向の距離差は、100nm以内に構成することで、TEモード発振を顕著にすることができる。
【0047】
次に、境界D2を境界Nと同じ位置にして、低濃度領域の不純物濃度を1×1019cm−3から変化させた場合のシミュレーション結果を図14に示す。高濃度領域は、上記の4×1019cm−3に固定した。図14の縦軸は閾値電流(mA)を、横軸はp型AlGaAs第2クラッド層100の低濃度領域の濃度(cm−3)を示す。図14に示すように、低濃度領域の不純物濃度が2×1018cm−3を越えると、TEモードとTMモードの閾値電流の差が小さくなってくる。したがってTMモード波をより顕著にするためには、2×1018cm−3以下とすることが望ましい。下限は、図より、5×1017cm−3となる。上記より、低濃度領域の好ましい範囲は、5×1017cm−3以上、2×1018cm−3以下となる。
【0048】
一方、高濃度領域の範囲は、低濃度領域よりも濃度が高いことが必要なので、少なくとも2×1018cm−3を越える濃度で、上限は5×1019cm−3と考えられる。以上より、高濃度領域と低濃度領域との濃度差で考えると、濃度差dの許容範囲は、0<d≦1×102(cm−3)となる。したがって、低濃度領域については、不純物濃度が5×1017cm−3〜2×1018cm−3であるか、又は、上記濃度差dが0<d≦1×102(cm−3)であるかのいずれかを満たすことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の半導体発光素子の断面構造の一例を示す図である。
【図2】本発明の半導体発光素子の断面構造の一例を示す図である。
【図3】本発明の半導体発光素子の活性層の構成例を示す図である。
【図4】活性層における井戸層の膜厚構成と相対閾値電流との関係を示す図である。
【図5】活性層における井戸層の膜厚構成と相対閾値電流との関係を示す図である。
【図6】井戸層膜厚と閾値電流との関係を示す図である。
【図7】井戸層膜厚と相対閾値電流との関係を示す図である。
【図8】格子定数とAlGaAs及びGaAsPの組成との関係を示す図である。
【図9】引っ張り歪及び圧縮歪と閾値電流密度との関係を示す図である。
【図10】GaAsPのP組成Xと閾値電流との関係を示す図である。
【図11】GaAsPのP組成Xと相対閾値電流との関係を示す図である。
【図12】リッジ構造を有する半導体発光素子の断面構造の他の例を示す図である。
【図13】図12の構成において、第2クラッド層で不純物濃度変化がある場合、不純物濃度変化位置の活性層からの距離と閾値電流との関係を示す図である。
【図14】第2クラッド層の低濃度領域における不純物濃度と閾値電流との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
1 GaAs基板
2 n型AlGaAsクラッド層
3 n型AlGaAsビーム拡散層
4 n型AlGaAs光ガイド層
5 MQW活性層
5a GaAsP井戸層
5b AlGaAsバリア層
6 p型AlGaAs光ガイド層
7 p型AlGaAsビーム拡散層
8 p型AlGaAs第1クラッド層
9 InGaPエッチングストップ層
10 p型AlGaAs第2クラッド層
11 p型GaAsコンタクト層
12 p電極
13 n電極
18 p型AlGaAsクラッド層
19 p型GaAsコンタクト層
20 p電極
21 n電極
100 p型AlGaAs第2クラッド層
【技術分野】
【0001】
本発明は、引っ張り歪を持つ井戸層を有する活性層を備えた半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体発光素子の中で、半導体レーザは、例えば、DVDやレーザプリンタ等の光源として用いられている。例えば、赤外波長領域の波長780nmの半導体レーザには、従来活性層材料にAlGaAsが用いられており、偏光はTEモードで発振していた。TEモード発振では、伝搬方向と垂直方向に電界が存在するため、半導体レーザの放出光を絞るために放射窓を小さくすることができない。放射窓を小さくすると、電界成分が放射窓に遮られてしまい、レーザ光が十分伝搬されない。
【0003】
放射窓を小さくしても、レーザ光の電界成分を十分伝搬させるために、TMモード発振によるレーザ光を生成し、光の伝搬方向に電界成分を持たせるようにしている。TMモードで発振するためには、活性層に引っ張り歪を持つ井戸層を用いる必要があり、そのために、井戸層とバリア層(障壁層)の組成を調整して、井戸層に引っ張り歪を加えるようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−312465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
活性層中の井戸層に大きな引っ張り歪みを加えるほど、TMモード発振が大きくなる。そこで、歪量を大きくするためには、格子定数の大きく異なる材料を井戸層とバリア層に用いれば良い。しかし、あまり、大きな歪を加えすぎると、格子を維持できなくなり、リラックス(格子緩和)してしまう。このとき、結晶欠陥が発生し、逆に特性が劣化する。結晶欠陥は、歪量が大きくなる程、また、膜厚が厚くなる程、発生しやすくなる。結晶欠陥の発生を防止し、特性が劣化しない条件でTMモード発振を行えるようにすることが必要である。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、結晶欠陥の発生を防止し、特性が劣化しない範囲で、TMモード発振が行えるようにした半導体発光素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、バリア層と引っ張り歪を持つ井戸層で構成された多重量子井戸構造を有する活性層を備え、前記井戸層の各膜厚がバリア層の各膜厚よりも大きく、前記井戸層のうち、少なくとも1層の膜厚が他の井戸層と異なることを特徴とする半導体発光素子である。
【0007】
また、請求項2記載の発明は、前記井戸層の各膜厚は、6nmより大きいことを特徴とする請求項1記載の半導体発光素子である。
【0008】
また、請求項3記載の発明は、前記活性層は、半導体基板上に積層された積層体の一部を形成し、前記井戸層の格子定数が前記半導体基板の格子定数よりも小さいことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体発光素子である。
【0009】
また、請求項4記載の発明は、前記井戸層と半導体基板の格子定数差は、0.18%以上に構成されていることを特徴とする請求項3に記載の半導体発光素子である。
【0010】
また、請求項5記載の発明は、前記積層体上に形成される電極が、ストライプ形状に構成されていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の半導体発光素子である。
【0011】
また、請求項6記載の発明は、前記積層体の一部がリッジ構造に形成されていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の半導体発光素子である。
【0012】
また、請求項7記載の発明は、前記活性層より上側のエッチングストップ層上に形成されたクラッド層の一部が、前記リッジ構造に含まれていることを特徴とする請求項6に記載の半導体発光素子である。
【0013】
また、請求項8記載の発明は、前記クラッド層は、前記エッチングストップ層に近い側から積層方向に向けて、第1不純物濃度領域と第2不純物濃度領域に分けられており、前記第1不純物濃度領域の不純物濃度は第2不純物濃度領域よりも低いことを特徴とする請求項7に記載の半導体発光素子である。
【0014】
また、請求項9記載の発明は、前記リッジ構造の底面は前記第1不純物濃度領域側に形成され、かつ前記第1不純物濃度領域と第2不純物濃度領域の境界から前記第1不純物濃度領域側に100nmの深さまでの範囲に形成されていることを特徴とする請求項8に記載の半導体発光素子である。
【0015】
また、請求項10記載の発明は、前記第1不純物濃度領域の不純物濃度が5×1017cm−3〜2×1018cm−3の範囲、又は、前記第2不純物濃度領域と第1不純物濃度領域との濃度差dが0<d≦1×102(cm−3)のいずれかを満たしていることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の半導体発光素子である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の半導体発光素子では、量子井戸構造を有する活性層を備えており、この活性層はバリア層と引っ張り歪を持つ井戸層で構成されている。また、井戸層膜厚がバリア層膜厚よりも大きく、複数の井戸層のうち、少なくとも1層の膜厚が他の井戸層とは異なるように構成されている。これにより、TMモード波の閾値電流がTEモード波の閾値電流よりも低くなるので、TMモード発振の大きな半導体発光素子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。本発明の半導体発光素子として半導体レーザの構成例を図1に示す。GaAs基板1上に、n型AlGaAsクラッド層2、n型AlGaAsビーム拡散層3、n型AlGaAs光ガイド層4、MQW活性層5、p型AlGaAs光ガイド層6、p型AlGaAsビーム拡散層7、p型AlGaAs第1クラッド層8、InGaPエッチングストップ層9、p型AlGaAs第2クラッド層10、p型GaAsコンタクト層11、p電極12が積層され、GaAs基板1の裏側にはn電極13が形成されている。GaAs基板1には、傾斜n型GaAs基板が用いられる。また、p電極12はTiとAuの多層金属膜等を、n電極1はAu、Ge、Niの合金層とTiとAuの多層金属膜等が用いられる。
【0018】
MQW活性層5は、図3に示すように、GaAsP井戸層5aとAlGaAsバリア層5bを交互に積層させた多重量子井戸(Multi Quantum Well)構造を有している。また、n型AlGaAs光ガイド層4上に、まずGaAsP井戸層5aが作製された後、AlGaAsバリア層5bが形成され、井戸層とバリア層とが交互に積層される。最後はGaAsP井戸層5aが形成され、その上にp型AlGaAs光ガイド層6が形成される。MQW活性層5のGaAsP井戸層5aには、図の矢印で示すように、横方向(積層方向とは垂直方向)に引っ張り歪が発生するように形成されている。
【0019】
MQW活性層5における各GaAsP井戸層5aの膜厚は、どのAlGaAsバリア層5bの膜厚よりも厚く構成されている。さらに、各GaAsP井戸層5aは、すべて同一の膜厚で構成されているのではなく、少なくとも1層のGaAsP井戸層の膜厚は、他のGaAsP井戸層の膜厚と異なるように構成されている。
【0020】
図1の半導体レーザは、p型AlGaAs第2クラッド層10とp型GaAsコンタクト層11とで、ストライプ状のリッジ部分を構成したリッジ構造を有している。電流は、ストライプ状のリッジ部と、リッジ部の下部を流れる。
【0021】
図1の半導体レーザの製造方法を簡単に説明すると、既知のMOCVD法やフォトリソグラフィ技術等により、以下のように行われる。GaAs基板1上に、MOCVD法(有機金属化学気相成長法)を用いた結晶成長によって、n型AlGaAsクラッド層2、n型AlGaAsビーム拡散層3、n型AlGaAs光ガイド層4、MQW活性層5、p型AlGaAs光ガイド層6、p型AlGaAsビーム拡散層7、p型AlGaAs第1クラッド層8、InGaPエッチングストップ層9、p型AlGaAs第2クラッド層10、p型GaAsコンタクト層11を順に積層する。なお、MQW活性層5は、上述のように、GaAsP井戸層5aとAlGaAsバリア層5bとを交互に積層する。本実施例では、GaAsP井戸層5aを3層とAlGaAsバリア層5bを2層積層する。
【0022】
次に、ストライプ状のSiO2をマスクとし、ドライエッチングによりp型GaAsコンタクト層11及びp型AlGaAs第2クラッド層10をエッチングして、リッジ部を形成する。次に、塩酸若しくは希硫酸と過酸化水素水でウェットエッチングしてInGaPエッチングストップ層9に達するまでエッチングを行う。エッチングストップ層9によりリッジエッチングが自動的に停止し、制御良くリッジを形成できる。
【0023】
その後、SiO2のマスクをHF処理によって除去する。最後に、ラッピング、ポリッシュによってウエハを所定の厚さまで薄くし、蒸着又はスパッタによってp電極12及びn電極13を形成する。
【0024】
図1では、リッジ構造を有する半導体レーザの例を示したが、図2のように、ストライプ状のリッジ構造を用いずに、p電極をストライプ形状にした半導体レーザとすることもできる。図1と同じ符号を付したものは、図1と同様の構成を示す。GaAs基板1上に、n型AlGaAsクラッド層2、n型AlGaAsビーム拡散層3、n型AlGaAs光ガイド層4、MQW活性層5、p型AlGaAs光ガイド層6、p型AlGaAsビーム拡散層7が積層されているところまでは、図1と同様である。図1と異なるのは、エッチングストップ層がなく、p型AlGaAsビーム拡散層7上にはp型AlGaAsクラッド層18、p型GaAsコンタクト層19が順に積層されている。また、素子の中央部に電流を流すようにするために、図1のリッジ構造を形成せずに、p電極20をストライプ形状に作製している。
【0025】
ここで、MQW活性層5のGaAsP井戸層5aとAlGaAsバリア層5bとでは、後述する図8に示すように、構成材料の格子定数が大きく異なるので、井戸層5aには引っ張り歪が発生するのであるが、単に引っ張り歪が発生しただけでは、TMモード発振を十分引き出すことができない。これは、井戸層に引っ張り歪を加えたとしても、レーザ光にはTMモードとTEモードの両波が混在するためである。TMモード発振を優位にするためには、TMモード波の方の閾値電流が十分低くなるように構成することが必要である。
【0026】
そこで、活性層の組成等は一定にして、TMモード発振条件は満たすようにし、井戸層の膜厚構成を変化させて、TMモード発振が優位になるような条件をシミュレーションにより考察した。シミュレーションには、図1、3の構造を有する半導体レーザを用い、具体的には以下のようにした。
【0027】
n型AlGaAsクラッド層2は膜厚3.5μmのn型Al0.53GaAs、n型AlGaAsビーム拡散層3は膜厚0.05μmのn型Al0.53GaAs、n型AlGaAs光ガイド層4は膜厚0.08μmのn型Al0.6GaAs、p型AlGaAs光ガイド層6は膜厚0.08μmのp型Al0.6GaAs、p型AlGaAsビーム拡散層7は膜厚0.05μmのp型Al0.53GaAs、p型AlGaAs第1クラッド層8は膜厚0.03μmのp型Al0.53GaAs、InGaPエッチングストップ層9は膜厚0.015μmのInGaP、p型AlGaAs第2クラッド層10は膜厚1.6μmのp型Al0.53GaAs、p型GaAsコンタクト層11は、膜厚0.4μmのp型GaAsで構成した。なお、いずれの半導体層においても、n型不純物にはSiを、p型不純物にはMgを用いた。また、リッジ構造のリッジ幅(リッジ形状の底面の幅)は、1.5μmとした。
【0028】
また、MQW活性層5は3層のGaAsP井戸層5aと2層のAlGaAsバリア層5bを交互に積層させた多重量子井戸構造とした。AlGaAsバリア層5bは、膜厚5nmのアンドープAl0.3GaAsで構成した。一方、GaAsP井戸層5aはアンドープGaAs1−XPX(0<X<1)で構成し、本実施例ではX=0.1のGaAs0.9P0.1として、その膜厚を色々と変化させ、TMモード発振の状態を調べた。
【0029】
図4は、3層のGaAsP井戸層5aの各膜厚を変化させた場合のシミュレーション結果を示す。図の横軸は、3層の井戸層の膜厚構成(nm)を示し、縦軸は、相対閾値電流(任意単位)を示す。ここで、相対閾値電流とは、(TMモード発振の閾値電流)/(TEモード発振の閾値電流)で計算された数値を示す。井戸層に引っ張り歪が加えられた場合でも、レーザ光には、TMモードとTEモードの両波が混在するため、相対閾値電流で示している。すなわち、相対閾値電流が小さいほど、TMモード発振が顕著になることがわかる。
【0030】
また、図の横軸で、例えば、8/9/10nmと記載されている場合は、左側の数字8nmがp型AlGaAs光ガイド層6に最も近いGaAsP井戸層5aの膜厚を示し、それから順にn型層側に近くなる井戸層5aの膜厚に対応する。したがって、n型AlGaAs光ガイド層4に最も近い井戸層5aが、膜厚10nmとなる。
【0031】
従来技術では、3つの井戸層の膜厚をすべて同一にしているので、図4の9/9/9nmの場合を基準に考える。3つの井戸層のうち、1層でも膜厚を変化させると、相対閾値電流は変化する。8/8/11nm、8/11/8nm、7/9/11nm、11/9/7nmの膜厚構成では、相対閾値電流は9/9/9nmの場合よりも大きくなる。この場合、井戸層の膜厚の差は、2nm又は3nmである。一方、8/9/10nm、10/9/8nmの膜厚構成では、相対閾値電流は9/9/9nmの場合よりも小さくなる。この場合、井戸層の膜厚の差は、1nmである。また、8.5/9/9.5nm、9.5/9/8.5nmの膜厚構成では、相対閾値電流は9/9/9nmの場合よりも、かなり小さくなる。この場合、井戸層の膜厚の差は、0.5nmである。
【0032】
以上より、活性層を構成する井戸層のうち、少なくとも1層の膜厚が他の井戸層とは異なった場合、その膜厚が異なる井戸層と他の井戸層との膜厚差が2nm未満であれば、相対閾値電流は3つの井戸層の膜厚がすべて同一の場合よりも小さくなることがわかる。より具体的には、最も近い位置に配置された2つの井戸層の間の変化の幅が、すべて2nmや3nmとなっている構造については、相対閾値電流は9/9/9nmの場合よりも大きくなる。一方、最も近い位置に配置された2つの井戸層の間の変化の幅が、すべて2nm未満の場合には、相対閾値電流は3つの井戸層の膜厚がすべて同一の場合よりも小さくなることがわかる。
【0033】
図4では、最も近い位置に配置された2つの井戸層間の膜厚の変化の幅が等間隔であったが、これを不揃いにした例を含む結果を図5に示す。図の枠で囲んだ領域に示されるように、8.5/8.8/9.7nm、9.7/8.8/8.5nm、8.3/9.2/9.5nm、9.5/9.2/8.3nmの膜厚構成では、相対閾値電流は9/9/9nmの場合よりも小さくなる。最も近い位置に配置された2つの井戸層の膜厚差は、各々、0.3/0.9nm、0.9/0.3nm、0.9/0.3nm、0.3/0.9nmとなっている。すなわち、最も近い位置に形成された2つの井戸層間の膜厚の変化幅が、すべて2nm未満、厳しく条件を取ると1nm以下の場合が、TMモード発振が顕著になることがわかり、図4と同様の結論が導き出せる。
【0034】
次に、活性層5を上記と同様の構成して、3つのGaAsP井戸層5aの各膜厚を同一に保ちながら、その膜厚を変化させた。すなわち、AlGaAsバリア層5bは膜厚5nmのアンドープAl0.3GaAsで、GaAsP井戸層5aはアンドープGaAs0.9P0.1(X=0.1)で構成した。井戸層の膜厚と閾値電流の関係を図6に示す。図に示す黒菱形(◆)のデータがTEモードを、黒四角がTMモードを示す。また、図7は、図6のTMモード、TEモードに関する閾値電流の比を取って、上述した相対閾値電流としたものである。
【0035】
図7からわかるように、井戸層の膜厚が6nm以下の場合、相対閾値電流が大きくなり、TEモードとTMモードの混在波となる可能性がある。一方、井戸層の膜厚が6nmを越える場合、図6に示されるように、TEモードの閾値電流が非常に高くなっていき、TEモードの発振が妨げられる。その結果、図7に示されるように、相対閾値電流が小さくなり、TMモード発振が顕著になることがわかる。
【0036】
また、GaAsYP1−YとAl1−YGaYAsとで、組成Yを変化させた場合の格子定数差を計算した。GaAsP井戸層5aを膜厚9nmのGaAsYP1−Yで形成し、GaAs基板1をAl1−YGaYAs基板として組成Yを変化させた。図8(a)は、GaAsYP1−Yで組成Yを変化させたときの格子定数の変化をL1(実線)で表わし、Al1−YGaYAsの組成Yを変化させたときの格子定数をL2(点線)で表わしたものである。ここで、GaAsの格子定数は5.65325、AlAsの格子定数は5.6611、GaPの格子定数は5.4505である。その間は、線形変化として計算した。
【0037】
組成Yが増加するにしたがって、GaAsYP1−Yの格子定数は直線的に上昇しているが、Al1−YGaYAsの格子定数の変化はほとんどない。このときの、100×(L1−L2)/L1の数値(格子定数差)とGaAs1−XPXの組成Xとの関係を示すのが図8(b)である。縦軸は格子定数差(%)を、横軸はGaAs1−XPXの組成Xを示す。ここで、組成Xは、組成Yとの間に、X=Y−1の関係がある。組成Xが大きくなるほどに、GaAs基板又はAlGaAs半導体層との格子定数差は大きくなる。格子定数差が大きくなるということは、引っ張り歪量が増大することを意味する。
【0038】
ここで、図9に示すように、引っ張り歪と圧縮歪と閾値電流密度との関係を見ると、引っ張り歪の方が、圧縮歪に比べて、低閾値電流密度で動作する範囲が小さいことがわかる。あまり大きな歪を加えると、結晶欠陥が発生し、逆に特性が劣化するためである。したがって、引っ張歪量に大きく関係するGaAs1−XPXのP(燐)成分の組成Xにより、どのようにTMモードの閾値電流が変化するのかを調べることが必要である。図10にGaAs1−XPXのP組成Xと閾値電流との関係を示す。図6と同様、黒菱形(◆)のデータがTEモードを、黒四角がTMモードを示す。また、図11は、図10のTMモード、TEモードに関する閾値電流の比を取って、上述した相対閾値電流としたものである。なお、X1で示されたデータは、図から判別しにくいが、TEモードとTMモードの閾値電流が同じで、重なっているデータを示す。
【0039】
図10からわかるように、P組成Xが0.04以下であると、TEモードとTMモードとは閾値電流がほとんど同じであり、TEモード波とTMモード波が混在している。しかし、P組成Xが0.04を越えると、TMモードの閾値電流のほうが小さくなり、図11からもわかるように、相対閾値電流が1よりも小さくなる。図10、11のデータからは、特にP組成Xが0.05以上になるとTMモードが顕著になる。ここで、図8(b)と対比すると、P組成Xが0.05のときの格子定数差は、0.18%となる。一方、引っ張り歪量には、格子緩和するまでの臨界点があり、そのときの臨界格子定数差は0.4程度に相当するので、これからP組成Xの大きさは13%程度が限界であると考えられる。なお、P組成Xが異なれば、引っ張り歪み量も変化し、臨界膜厚も変化する。
【0040】
次に、図1のリッジ構造で、TMモード発振とするための条件を、膜厚や格子定数等以外の観点から考える。図12は、図1と半導体層の構成はほぼ同じである。図1と同じ符号は同一の構成を示す。
【0041】
GaAs基板1上に、n型AlGaAsクラッド層2、n型AlGaAsビーム拡散層3、n型AlGaAs光ガイド層4、MQW活性層5、p型AlGaAs光ガイド層6、p型AlGaAsビーム拡散層7、p型AlGaAs第1クラッド層8、InGaPエッチングストップ層9、p型AlGaAs第2クラッド層100、p型GaAsコンタクト層11、p電極12が積層され、GaAs基板1の裏側にはn電極13が形成されている。図12の半導体レーザは、p型AlGaAs第2クラッド層100の一部とp型GaAsコンタクト層11とで、ストライプ状のリッジ部分を形成したリッジ構造を形成している。図1と異なるのは、p型AlGaAs第2クラッド層100がストライプ状のリッジ形状部100Aと平板形状部100Bとから構成されている点にある。図の破線で示されたD2は、リッジ形状部100Aと平板形状部100Bとの境界、すなわちリッジ構造の底面を示す。
【0042】
これは、エッチングストップを行う位置を、InGaPエッチングストップ層9よりもp型GaAsコンタクト層11側のp型AlGaAs第2クラッド層100の途中で止めることで構成できる。これにより、活性層へのリッジからの歪の影響と光の漏れ出しの影響を低減させることができる。ここで、MQW活性層5は、前記の例と同様、3層のGaAsP井戸層5aと2層のAlGaAsバリア層5bを交互に積層させた多重量子井戸構造とした。また、AlGaAsバリア層5bは、膜厚5nmのアンドープAl0.3GaAsで構成した。一方、GaAsP井戸層5aはアンドープGaAs0.9P0.1(X=0.1)とした。井戸層5aにGaAs0.9P0.1を用いることで、井戸層5aには引っ張り歪が発生している。また、その他の半導体層の材料組成や膜厚は、図1で説明した内容と同じである。なお、図12のように、D2の位置でエッチングを止めるには、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)等を用いれば良い。
【0043】
また、p型AlGaAs第2クラッド層100は、p型不純物の濃度が異なる低濃度領域(第1不純物濃度領域)と高濃度領域(第2不純物濃度領域)の2つの領域から形成されている。図12に示すNは、不純物濃度の低濃度領域と高濃度領域の境界を表す。不純物濃度の境界Nよりも上側(コンタクト層11側)が高濃度領域となり、境界Nよりも下側(MQW活性層5側)が低濃度領域となる。また、リッジ構造の底面となるD2は不純物濃度の境界Nよりも低濃度領域側に形成される。
【0044】
InGaPエッチングストップ層9とp型AlGaAs第2クラッド層100との界面位置をD1、p型AlGaAs第2クラッド層100とp型GaAsコンタクト層11との界面位置をD3とする。高濃度領域(第2不純物濃度領域)のp型不純物濃度は、4×1019cm−3とし、低濃度領域(第1不純物濃度領域)のp型不純物濃度は、1×1018cm−3とした。図12のリッジ幅(D2位置の幅)は1.5μmに形成した。そして、境界Nの位置を所定の位置に固定して、エッチング深さを変え、境界Nと境界D2との関係をシミュレーションしたのが図13である。
【0045】
図13の縦軸は閾値電流(mA)を、横軸は活性層からの距離(μm)を示す。活性層からの距離とは、MQW活性層5とp型AlGaAs光ガイド層6との界面からの距離を表わす。境界Nは、図に示すように、活性層から約0.7μmのところに形成されている。ここで、エッチングにより、境界D2を変化させると、境界D2がMQW活性層5に近づくほど、TEモードとTMモードの閾値電流は低下する。
【0046】
しかし、TEモードとTMモードの閾値電流に差がなくなってくるので、TEモード波とTMモード波との混在波となる可能性が大きくなる。一方、図より、境界Nから活性層側に100nm以内では、TEモードの閾値電流よりも、TMモードの閾値電流の方が十分小さくなっている。したがって、不純物濃度の境界Nよりも、リッジ構造の底面位置D2の方が低濃度領域側に形成されるようにし、NとD1との深さ方向の距離差は、100nm以内に構成することで、TEモード発振を顕著にすることができる。
【0047】
次に、境界D2を境界Nと同じ位置にして、低濃度領域の不純物濃度を1×1019cm−3から変化させた場合のシミュレーション結果を図14に示す。高濃度領域は、上記の4×1019cm−3に固定した。図14の縦軸は閾値電流(mA)を、横軸はp型AlGaAs第2クラッド層100の低濃度領域の濃度(cm−3)を示す。図14に示すように、低濃度領域の不純物濃度が2×1018cm−3を越えると、TEモードとTMモードの閾値電流の差が小さくなってくる。したがってTMモード波をより顕著にするためには、2×1018cm−3以下とすることが望ましい。下限は、図より、5×1017cm−3となる。上記より、低濃度領域の好ましい範囲は、5×1017cm−3以上、2×1018cm−3以下となる。
【0048】
一方、高濃度領域の範囲は、低濃度領域よりも濃度が高いことが必要なので、少なくとも2×1018cm−3を越える濃度で、上限は5×1019cm−3と考えられる。以上より、高濃度領域と低濃度領域との濃度差で考えると、濃度差dの許容範囲は、0<d≦1×102(cm−3)となる。したがって、低濃度領域については、不純物濃度が5×1017cm−3〜2×1018cm−3であるか、又は、上記濃度差dが0<d≦1×102(cm−3)であるかのいずれかを満たすことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の半導体発光素子の断面構造の一例を示す図である。
【図2】本発明の半導体発光素子の断面構造の一例を示す図である。
【図3】本発明の半導体発光素子の活性層の構成例を示す図である。
【図4】活性層における井戸層の膜厚構成と相対閾値電流との関係を示す図である。
【図5】活性層における井戸層の膜厚構成と相対閾値電流との関係を示す図である。
【図6】井戸層膜厚と閾値電流との関係を示す図である。
【図7】井戸層膜厚と相対閾値電流との関係を示す図である。
【図8】格子定数とAlGaAs及びGaAsPの組成との関係を示す図である。
【図9】引っ張り歪及び圧縮歪と閾値電流密度との関係を示す図である。
【図10】GaAsPのP組成Xと閾値電流との関係を示す図である。
【図11】GaAsPのP組成Xと相対閾値電流との関係を示す図である。
【図12】リッジ構造を有する半導体発光素子の断面構造の他の例を示す図である。
【図13】図12の構成において、第2クラッド層で不純物濃度変化がある場合、不純物濃度変化位置の活性層からの距離と閾値電流との関係を示す図である。
【図14】第2クラッド層の低濃度領域における不純物濃度と閾値電流との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
1 GaAs基板
2 n型AlGaAsクラッド層
3 n型AlGaAsビーム拡散層
4 n型AlGaAs光ガイド層
5 MQW活性層
5a GaAsP井戸層
5b AlGaAsバリア層
6 p型AlGaAs光ガイド層
7 p型AlGaAsビーム拡散層
8 p型AlGaAs第1クラッド層
9 InGaPエッチングストップ層
10 p型AlGaAs第2クラッド層
11 p型GaAsコンタクト層
12 p電極
13 n電極
18 p型AlGaAsクラッド層
19 p型GaAsコンタクト層
20 p電極
21 n電極
100 p型AlGaAs第2クラッド層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バリア層と引っ張り歪を持つ井戸層で構成された多重量子井戸構造を有する活性層を備え、前記井戸層の各膜厚がバリア層の各膜厚よりも大きく、前記井戸層のうち、少なくとも1層の膜厚が他の井戸層と異なることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記井戸層の各膜厚は、6nmより大きいことを特徴とする請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記活性層は、半導体基板上に積層された積層体の一部を形成し、前記井戸層の格子定数が前記半導体基板の格子定数よりも小さいことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記井戸層と半導体基板の格子定数差は、0.18%以上に構成されていることを特徴とする請求項3に記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記積層体上に形成される電極が、ストライプ形状に構成されていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の半導体発光素子。
【請求項6】
前記積層体の一部がリッジ構造に形成されていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の半導体発光素子。
【請求項7】
前記活性層より上側のエッチングストップ層上に形成されたクラッド層の一部が、前記リッジ構造に含まれていることを特徴とする請求項6に記載の半導体発光素子。
【請求項8】
前記クラッド層は、前記エッチングストップ層に近い側から積層方向に向けて、第1不純物濃度領域と第2不純物濃度領域に分けられており、前記第1不純物濃度領域の不純物濃度は第2不純物濃度領域よりも低いことを特徴とする請求項7に記載の半導体発光素子。
【請求項9】
前記リッジ構造の底面は前記第1不純物濃度領域側に形成され、かつ前記第1不純物濃度領域と第2不純物濃度領域の境界から前記第1不純物濃度領域側に100nmの深さまでの範囲に形成されていることを特徴とする請求項8に記載の半導体発光素子。
【請求項10】
前記第1不純物濃度領域の不純物濃度が5×1017cm−3〜2×1018cm−3の範囲、又は、前記第2不純物濃度領域と第1不純物濃度領域との濃度差dが0<d≦1×102(cm−3)のいずれかを満たしていることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の半導体発光素子。
【請求項1】
バリア層と引っ張り歪を持つ井戸層で構成された多重量子井戸構造を有する活性層を備え、前記井戸層の各膜厚がバリア層の各膜厚よりも大きく、前記井戸層のうち、少なくとも1層の膜厚が他の井戸層と異なることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記井戸層の各膜厚は、6nmより大きいことを特徴とする請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記活性層は、半導体基板上に積層された積層体の一部を形成し、前記井戸層の格子定数が前記半導体基板の格子定数よりも小さいことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記井戸層と半導体基板の格子定数差は、0.18%以上に構成されていることを特徴とする請求項3に記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記積層体上に形成される電極が、ストライプ形状に構成されていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の半導体発光素子。
【請求項6】
前記積層体の一部がリッジ構造に形成されていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の半導体発光素子。
【請求項7】
前記活性層より上側のエッチングストップ層上に形成されたクラッド層の一部が、前記リッジ構造に含まれていることを特徴とする請求項6に記載の半導体発光素子。
【請求項8】
前記クラッド層は、前記エッチングストップ層に近い側から積層方向に向けて、第1不純物濃度領域と第2不純物濃度領域に分けられており、前記第1不純物濃度領域の不純物濃度は第2不純物濃度領域よりも低いことを特徴とする請求項7に記載の半導体発光素子。
【請求項9】
前記リッジ構造の底面は前記第1不純物濃度領域側に形成され、かつ前記第1不純物濃度領域と第2不純物濃度領域の境界から前記第1不純物濃度領域側に100nmの深さまでの範囲に形成されていることを特徴とする請求項8に記載の半導体発光素子。
【請求項10】
前記第1不純物濃度領域の不純物濃度が5×1017cm−3〜2×1018cm−3の範囲、又は、前記第2不純物濃度領域と第1不純物濃度領域との濃度差dが0<d≦1×102(cm−3)のいずれかを満たしていることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の半導体発光素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−80757(P2010−80757A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−248732(P2008−248732)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
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