説明

半導体磁器組成物の製造方法及び半導体磁器組成物を用いたヒータ

【課題】BaTiO−(Bi1/2Na1/2)TiO系材料のジャンプ特性を向上させる。
【解決手段】BaTiOのBaの一部をBi-Naで置換した半導体磁器組成物の製造方法であって、(BaQ)TiO仮焼粉(Qは半導体化元素)を用意する工程、(BiNa)TiO仮焼粉を用意する工程、前記(BaQ)TiO仮焼粉及び前記(BiNa)TiO仮焼粉を混合する工程、混合した仮焼粉を成形し焼結する工程、得られた焼結体を600℃以下で熱処理する工程、前記工程で作製した素子を用いたPTCヒータを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は正の抵抗温度係数(PTC)を有する半導体磁器組成物の製造方法及び該半導体磁器組成物を用いたヒータに関する。
【背景技術】
【0002】
正の抵抗温度特性を示す材料としてBaTiO系半導体磁器組成物が知られている。BaTiO系半導体磁器組成物にSrTiOやPbTiOを添加するとキュリー温度をシフトさせることができるが、正方向へシフトできる添加材料はPbTiOだけである。しかし、PbTiOは環境汚染を引き起こす元素を含有するため、添加材料としてPbTiOを使用しない材料が望まれる。そこで、BaTiOのBaの一部をBi-Naで置換して成る半導体磁器組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
BaTiO系材料において、還元雰囲気中で焼結するなど、室温比抵抗が小さくなるように処理すると、抵抗温度係数(ジャンプ特性)が低下するという問題がある。ジャンプ特性が低下すると目的温度でスイッチングしないという問題がある。そこで、ジャンプ特性を改善するために、1100℃を越える高温で熱処理を行うことが提案されている(特許文献2)
【特許文献1】WO2006−106910号公報
【特許文献2】特開昭56−169301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、PTC材料の耐熱特性が向上したこともあり、高温環境で使用されることが多くなっているが、更に高い温度環境で使用を可能とするためにさらなるジャンプ特性の改善が望まれている。Pbを含まずBaの一部をBi-Naで置換して成るBaTiO−(Bi1/2Na1/2)TiO系材料は、それ自体、十分なジャンプ特性を有するものの、上述の要望からジャンプ特性を向上させる必要がある。ジャンプ特性向上のためには、上述のような熱処理が考えられるが、Pbを含むBaTiO系材料に対する熱処理をそのまま適用してもジャンプ特性の改善に至らないことが確認できた。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、BaTiO−(Bi1/2Na1/2)TiO系材料等のBaTiOのBaの一部をBi-Naで置換して成る半導体磁器組成物のジャンプ特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが、BaTiO−(Bi1/2Na1/2)TiO系材料に対する熱処理を行ったところ、素子が処理温度1280℃で絶縁体となるなど、高温熱処理によりPTC特性が損なわれることが確認された。この理由として、原子価制御により生成した3価のTiが4価に酸化し、キャリアが減少することが考えられる。
【0007】
また、Pbを含むBaTiO系材料のジャンプ特性は粒界の酸素量に依存しているため、焼結中に生じた酸素欠陥を低減した後、粒界に酸素を導入する必要がある。このため、酸素欠陥が回復する800℃以上で熱処理を行わなければ実用可能なジャンプ特性を得ることができない。一方、BaTiO−(Bi1/2Na1/2)TiO系材料は粒界酸素量のみならず材料の成分分布もジャンプ特性に影響を与えている。このため、酸素欠陥を回復させずに粒界に酸素を導入するだけでもジャンプ特性を改善することが可能となる。このため、600℃以下で熱処理を行ってもジャンプ特性を改善することができるとの知見を得た。
【0008】
上記知見に基づき、本発明はBaの一部をBi-Naで置換した半導体磁器組成物を600℃以下で熱処理することでジャンプ特性を向上させるものである。熱処理は大気中でもよいが、酸素を含む雰囲気中が好ましく、より速効的には酸素雰囲気中の熱処理が好ましい。
【0009】
また、本発明はBaの一部をBi-Naで置換した半導体磁器組成物に電極を形成した後、大気中600℃以下で熱処理することでジャンプ特性を向上させるものである。電極を形成した場合、電極劣化を避けるため、大気中での熱処理が好ましい。
【0010】
本発明により製造された半導体磁器組成物は、BaTiOのBaの一部をBi-Naで置換した従来の半導体磁器組成物には見られないジャンプ特性を有することから、本発明により製造された半導体磁器組成物からなる発熱体を用いたヒータは、より高温環境下での使用に適したものとなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、Baの一部をBi-Naで置換した半導体磁器組成物のジャンプ特性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、Baの一部をBi-Naで置換して成るBaTiO−(Bi1/2Na1/2)TiO系材料を600℃以下で熱処理するものである。600℃を越えるとBaTiO−(Bi1/2Na1/2)TiO系材料は次第に絶縁特性を呈し、1280℃で絶縁体となる。このため、実用上問題のない範囲である600℃を熱処理温度の上限とした。処理時間については余り長くてもジャンプ特性が飽和することから12時間程度が好ましい。なお、室温付近でも長時間、熱処理を行えば効果を得ることができる。また窒素中での熱処理はジャンプ特性を低下させるため好ましくない。
【0013】
本発明において、(BaQ)TiO仮焼粉(Qは半導体化元素)を用意する工程は、まず、BaCO、TiOと半導体化元素の原料粉末、例えば、LaやNbを混合して原料粉末を作成し仮焼する。仮焼温度は600℃から1000℃の範囲が好ましく、仮焼時間は0.5時間以上が好ましい。仮焼温度が600℃未満あるいは仮焼時間が0.5時間未満では(BaQ)TiOが殆ど形成されず、未反応のBaCO、BaO、TiOが(BiNa)TiOとの均一反応を阻害し、PTC特性の発現を妨げるため好ましくない。また、仮焼温度が1000℃を越えると、Bi揮散を調整する効果がなくなり安定な(BaQ)TiO−(BiNa)TiOを生成の妨げになり好ましくない。
【0014】
本発明において、(BiNa)TiO仮焼粉を用意する工程は、まず、原料粉末となるNaCO、Bi、TiOを乾式混合して混合原料粉末を作製し仮焼する。仮焼温度は700℃から950℃の範囲が好ましく、仮焼時間は0.5時間から10時間が好ましい。仮焼温度が700℃未満あるいは仮焼時間が0.5時間未満では未反応のNaOが雰囲気の水分あるいは湿式混合の場合は、その溶媒と反応し、組成ずれや特性のバラツキを生じるため好ましくない。また、仮焼温度が950℃を越えるかあるいは仮焼時間が10時間を越えると、Biの揮散が進み、組成ずれを起こし、二次相の生成が促進されるため好ましくない。
【0015】
本発明において、(BaQ)TiO仮焼粉及び(BiNa)TiO仮焼粉を混合する工程は、各仮焼粉を所定量に配合した後、混合する。混合は、純水やエタノールを用いた湿式混合または乾式混合のいずれでもよいが、乾式混合を行うと、組成ずれをより防止することができ好ましい。また、仮焼粉の粒度に応じて、混合の後、粉砕あるいは混合と粉砕を同時に行ってもよい。混合、粉砕後の混合仮焼粉の平均粒度は、0.6μmから1.5μmが好ましい。
【0016】
上記工程において、Si酸化物を3.0mol%以下、Ca炭酸塩またはCa酸化物を4.0mol%以下添加すると、Si酸化物は結晶粒の異常成長を抑制するとともに抵抗率のコントロールを容易にすることができ、Ca炭酸塩またはCa酸化物は低温での焼結性を向上させることができ好ましい。いずれも上記限定量を超えて添加すると、組成物が半導体化を示さなくなるため好ましくない。添加は各工程における混合前に行うことが好ましい。
【0017】
本発明において、(BaQ)TiO仮焼粉及び(BiNa)TiO仮焼粉を混合した仮焼粉を成形し焼結する工程は、まず、混合仮焼粉を所望の成形手段によって成形する。成形前に必要に応じて粉砕粉を造粒装置によって造粒してもよい。成形後の成形体密度は2〜3g/cmが好ましい。焼結は、大気中または還元雰囲気中あるいは低酸素濃度の不活性ガス雰囲気中で、焼結温度1200℃から1400℃、焼結時間は2時間から6時間で行うことができる。なお、成形前に造粒を行った場合は、焼結前に300℃から700℃で脱バインダー処理を行うことが好ましい。
【0018】
本発明において、半導体磁器組成物に電極を形成する工程は、焼結体を板状に加工して試験片を作製した後、表面にオーミック電極を形成する。オーミック電極として、Ti、Cr、Ni、Al、Fe、Cu、Ag−Zn等が選択し得る。オーミック電極の形成は試験片に焼き付ける他、スパッタや蒸着でもよい。オーミック電極を保護するため同電極をカバー電極、例えば、AgやAl、Au、Ptで覆うことが好ましい。
【0019】
(実施例1)
主材料としてBaCO、TiO半導体化元素としてLaの原料粉末を準備し、(Ba0.994La0.006)TiOとなるように配合し、さらに、必要により焼結助剤としてCaCO、SiOを添加し、エタノール中で混合した。得られた混合原料粉末を900℃で4時間大気中仮焼し、(BaLa)TiO仮焼粉を用意した。
【0020】
NaCO、Bi、TiOの原料粉末を準備し、(Bi0.5Na0.5)TiOとなるように配合し、さらに、必要により焼結助剤を添加し、大気中又はエタノール中で混合した。得られた混合原料粉末を800℃で4時間大気中仮焼し、(BiNa)TiO仮焼粉を用意した。
【0021】
上記(BaLa)TiO仮焼粉と(BiNa)TiO仮焼粉を[(Bi0.5Na0.50.1(Ba0.994La0.0060.9] TiOとなるように配合し、純水を媒体としてポットミルにより、混合仮焼粉が1.0μmから2.0μmになるまで混合、粉砕した後、乾燥させた。この混合仮焼粉の粉砕粉にPVAを添加、混合した後、造粒装置によって造粒した。得られた造粒粉を一軸プレス装置で成形し、上記成形体を700℃で脱バインダー後、窒素中で、焼結温度1340℃で4時間焼結し、焼結体を得た。なお、(BaLa)TiO仮焼温度が900℃以下では、BaCO、TiOが仮焼粉中に残存させることができ、あるいは、(BaLa)TiO仮焼温度が1000℃以上1200℃以下の仮焼粉にはBaCO、TiOを後添加すると特性を安定させることができる。
【0022】
得られた焼結体を10mm×10mm×1mmの板状に加工して試験片を作成し、Ag−Znで構成されたオーミック電極と、その上にAgを主成分とするカバー電極を同時に焼き付け試験素子とした後、試験片を抵抗測定器で室温から270℃までの範囲で比抵抗値の温度変化を測定し、PTC特定として室温比抵抗、キュリー温度、抵抗温度係数((lnR−lnR)×100/(T−T)、R:最大抵抗比、R:Tにおける比抵抗、T:Rを示す温度、T:キュリー温度)を測定した。測定後、電極を取り除き、室温から800℃で熱処理を行った。熱処理後、材料に再度電極を形成し、上記PTC特性を評価した。
【0023】
表1は酸素雰囲気中で20℃から600℃で熱処理をしたときのPTC特性、表2は大気中で20℃から800℃で熱処理を行ったときのPTC特性、抵抗温度係数に着目すると、酸素雰囲気中及び大気中で熱処理を行った試料は、何れも熱処理前の抵抗温度係数よりも高い値を示すことが確認できた。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
(実施例2)
実施例1と同様にしてPTC特性を測定した。測定後、電極を取り除くことなくそのままの状態で、室温から800℃で熱処理を行った。電極を形成した状態で、酸素雰囲気中で熱処理を行うと、電極が劣化するため、また窒素中で処理を行っても効果が無いため、大気中で熱処理を行った。熱処理後、上記PTC特性を評価した。
【0027】
【表3】

【0028】
表3は大気中で20℃から800℃で熱処理をしたときのPTC特性を示す。抵抗温度係数に着目すると、大気中で熱処理を行った試料は、600℃までは、何れも熱処理前の抵抗温度係数よりも高い値を示すことが確認できた。しかし、800℃では熱処理前の抵抗温度係数よりも低い値を示すことが確認できた。
【0029】
(実施例3)
400℃で熱処理した材料と熱処理していない材料の端面に電極を形成し、ヒータ素子を作製した。図1はヒータ素子の構成を示しており、放熱フィン11を備えた一対のケーシング13(13a、13b)で、ヒータ素子15を挟持して構成される。一方のケーシング13aに設けられた給電端子17aと、他方のケ−シング13bに設けられた給電端子17bとを介してヒータ素子15に電圧を印加することでヒータ素子15を発熱させることができる。作製したヒータ素子を恒温槽の中へ設置し、所定の温度まで昇温した後、給電素子に13ボルトの電圧を印加し温度に対する電圧、電流の変化を観察した(表4参照)。
【0030】
【表4】

【0031】
図2は温度(横軸)に対する電圧、電流(縦軸)の変化を示す図であり、熱処理無し(図中(a))に比べて熱処理有り(図中(b))の特性は、高温側で極めて電流値が低くなっており、高温時の安全性が向上していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ヒータ素子の構成を示す図
【図2】ヒータ素子の温度に対する電圧、電流の変化を示す図
【符号の説明】
【0033】
11 放熱フィン
13a、13b ケーシング
15 ヒータ素子
17a、17b 給電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Baの一部をBi−Naで置換した半導体磁器組成物の製造方法であって、
前記半導体磁器組成物を600℃以下で熱処理する工程を含む半導体磁器組成物の製造方法。
【請求項2】
前記工程は、酸素を含む雰囲気中で熱処理する工程である請求項1記載の半導体磁器組成物の製造方法。
【請求項3】
前記工程は、大気中で熱処理する工程である請求項1記載の半導体磁器組成物の製造方法。
【請求項4】
Baの一部をBi-Naで置換した半導体磁器組成物の製造方法であって、
前記半導体磁器組成物に電極を形成する工程と、
前記半導体磁器組成物を大気中600℃以下で熱処理する工程を含む電極付き半導体磁器組成物の製造方法。
【請求項5】
BaTiOのBaの一部をBi-Naで置換した半導体磁器組成物の製造方法であって、
(BaQ)TiO仮焼粉(Qは半導体化元素)を用意する工程、
(BiNa)TiO仮焼粉を用意する工程、
前記(BaQ)TiO仮焼粉及び前記(BiNa)TiO仮焼粉を混合する工程、
混合した仮焼粉を成形し焼結する工程、
得られた焼結体を600℃以下で熱処理する工程を含む半導体磁器組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載の製造方法で得られた電極付き半導体磁器組成物からなる発熱体を有するヒータ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−227477(P2009−227477A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71353(P2008−71353)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】