説明

半導体素子

【課題】珪素結晶基板上のIII族窒化物半導体層を用いて半導体素子を構成するに際し、結晶性及び表面の平坦性に優れるIII族窒化物半導体層から半導体素子を構成できるようにする。
【解決手段】珪素単結晶基板と、その基板の表面に設けた炭化珪素層と、その炭化珪素層に接して設けたIII族窒化物半導体接合層と、そのIII族窒化物半導体接合層上にIII族窒化物半導体からなる超格子構造層を備えた半導体素子において、炭化珪素層は立方晶で格子定数が0.436nmを超え、0.460nm以下の、組成的に珪素を富裕に含む非化学量論的な組成の層とし、III族窒化物半導体接合層は、組成がAlGaIn1−αα(0≦X、Y、Z≦1、X+Y+Z=1、0≦α<1、Mは窒素以外の第V族元素である。)とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、珪素単結晶を基板と、その基板上に形成されたIII族窒化物半導体層を備えた積層構造を使用して構成される半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)や窒化アルミニウム(AlN)などは、従来から、III族窒化物半導体として知られている。これらのIII族窒化物半導体材料は、青色或いは緑色等の短波長の可視光を発する発光ダイオード(英略称:LED)やレーザーダイオード(英略称:LD)等の半導体発光素子を構成するために利用されている(例えば、特許文献1参照。)。また、高周波トランジスタ等の電子デバイスを構成するために利用されている(例えば、非特許文献1参照)。
この様なIII族窒化物半導体材料からなる半導体素子は 、サファイア(α−Al2O3)バルク単結晶(例えば、特許文献2参照。)或いは立方晶(cubic)の炭化珪素(SiC)バルク(bulk)単結晶を基板として構成されている(例えば、特許文献3参照。)。例えば、サファイア基板上にIII族窒化物半導体材料からなるクラッド(clad)層及び発光層等を備えた積層構造体を利用してLEDが製造されるに至っている(例えば、特許文献4参照。)。
しかしながら、III族窒化物半導体素子用の基板として常用されるサファイアは、電気絶縁性であるため、例えば、静電気等に対して耐電圧性の高いIII族窒化物LEDを得るのが容易ではないとの問題がある。また、サファイアは然して熱伝導性が良好ではないため、基板の放熱性を利用した低損失の電界効果形トランジスタ(英略称:FET)を作製するのは困難であった。導電性があり、また熱伝導性に優れる炭化珪素バルク単結晶を基板とすれば 、静電気等に対して耐電圧性に優れるLEDや放熱性に優れるFETを構成するに利便となる。しかし、基板として利用するために適度に大きな口径の炭化珪素バルク単結晶は高価であり、民生用の汎用III族窒化物半導体素子を製造する際に不利となっている。
【0003】
一方、珪素単結晶(シリコン)は、元来、熱伝導性に優れる上に、良導性の大口径単結晶が既に量産されるに至っている。従って、良導性で大口径のシリコンを基板として利用すれば、例えば、静電気等に対して耐性が高い、廉価な汎用LEDを実用化できると期待される。また、高抵抗でありながら、熱伝導率の高いシリコンを基板とすれば、低損失の高周波帯域通信用FETを実現できると期待される。しかしながら、珪素単結晶の格子定数(=a)は0.543nmであり、III族窒化物半導体、例えば、六方晶GaNのa軸格子定数は3.189Åであるため、双方の材料間には大きな格子ミスマッチ(mismatch)がある。立方晶のGaN(a=0.451nm)に対しても、珪素単結晶とのミスマッチは大きい。このため、珪素単結晶基板上には、結晶欠陥の少ない良質なIII族窒化物半導体層を安定して形成するのが難しい欠点があった。
【0004】
格子ミスマッチの大きな単結晶基板上に、III族窒化物半導体層を設ける際には、双方の格子の不整合性を緩和するための緩衝(buffer)層を設けるのが従来からの技術である。従来技術に於いて、緩衝層は例えば、AlNやGaN等のIII族窒化物半導体材料から構成されている(例えば、特許文献5参照。)。しかしながら、珪素単結晶と立方晶或いは六方晶のAlNまたはGaNとの格子ミスマッチが大きく、充分に格子歪を緩和できない。このため、従来のIII族窒化物半導体材料からなる緩衝層として用いて、III族窒化物半導体層を形成しようとしても、結晶性に優れるIII族窒化物半導体層を安定して形成出来ないことが問題となっている。
また、珪素単結晶を基板として、その上にIII族窒化物半導体層を形成するに際し、立方晶3C型の炭化珪素(3C−SiC)の薄膜層を介して、III族窒化物半導体層を形成する従来技術も知られている(例えば、非特許文献2参照。)。しかしながら、3C−SiC薄膜層の性質に依って、その上層のIII族窒化物半導体層の結晶性などが顕著に変化するため、良質のIII族窒化物半導体層を安定して形成出来ない難点がある。また、SiCから成る緩衝層を用いても、その上に形成したIII族窒化物半導体層は、必ずしも、表面の平坦性に優れるものとはなり得な問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭54−3834号公報
【特許文献2】特開平6−151963号公報
【特許文献3】特開平6−326416号公報
【特許文献4】特開平6−151966号公報
【特許文献5】特開平6−314659号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】エム・エー・カーン(M.A.Khan)他、アプライド フィジ クス レターズ(Appl.Phys.Lett.)、アメリカ合衆国、1993年 、第62巻、1786頁
【非特許文献2】ティー・キクチ(T.Kikuchi)他、ジャーナルオブ クリスタル グロース(J.Crystal Growth)、オランダ、2005年、 第271巻、第1−2号、e1215頁〜e1221頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
導電性及び放熱性に優れ、しかも大口径の単結晶が既に、量産されている珪素単結晶を基板とした光学的及び電気的特性に優れる半導体素子を得るには、基板との格子ミスマッチを好適に緩和して、良質のIII族窒化物半導体層をもたらせる構成から成る緩衝層が必要である。例えば、珪素単結晶基板上にIII族窒化物半導体層を形成するに際し、SiC層を緩衝層として用いる場合にあっても、双方の材料間の格子ミスマッチを好適に緩和できる構成からなるSiC緩衝層が必要である。
【0008】
更に、格子ミスマッチを緩和するに有効な構成から成るSiC緩衝層を用いるに加えて、結晶性に優れ、且つ表面の平坦性にも優れるIII族窒化物半導体層をもたらすための緩衝層上の積層構造にも創意が必要である。また、特性に優れる半導体素子を製造するには、そのSiC緩衝層と、表面の平坦性に優れる良質のIII族窒化物半導体層とを安定してもたらすための製造方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、単結晶からなる基板と、その単結晶基板の表面に設けられた炭化珪素(SiC)層と、その炭化珪素層に接合させて設けられたIII族窒化物半導体接合層と、そのIII族窒化物半導体層上に設けられたIII族窒化物半導体からなる超格子構造層とを備えた半導体素子にあって、本発明の半導体素子は、(1)基板を珪素単結晶とし、その基板上に設けられた、格子定数が0.436nmを超え、0.460nm以下とする組成的に珪素を富裕に含む非化学量論的な組成の立方晶の炭化珪素からなる炭化珪素層と、その上に設けられたAlGaIn1−αα(0≦X,Y,Z≦1,X+Y+Z=1。記号Mは窒素(N)以外の第V族元素を表し、0≦α<1である。)III族窒化物半導体接合層と、その上に設けられたIII族窒化物半導体からなる超格子構造層とを備えている、ことを特徴としている。
【0010】
特に、本発明に係る半導体素子は、上記(1)項に記載の半導体素子にあって、(2)III族窒化物半導体接合層上に設ける超格子構造層が、アルミニウム(Al)組成を相違する窒化アルミニウム・ガリウム(組成式AlGa1−XN:0≦X≦1)層を交互に積層させて構成されている、ことを特徴としている。
【0011】
特に、本発明に係る半導体素子は、上記(2)項に記載の半導体素子にあって、(3)III族窒化物半導体接合層に、超格子構造層をなす窒化アルミニウム・ガリウム(AlGa1−XN:0≦X≦1)層にあって、アルミニウム組成(=X)をより小とする窒化アルミニウム・ガリウム層が接合させて設けられている、ことを特徴としている。
特に、本発明に係る半導体素子は、上記(1)項に記載の半導体素子にあって、(4)超格子構造層が、ガリウム(Ga)組成を相違する窒化ガリウム・インジウム(組成式GaIn1−QN:0≦Q≦1)層を交互に積層させて構成されている、ことを特徴としている。
【0012】
特に、本発明に係る半導体素子は、上記(4)項に記載の半導体素子にあって、(5)III族窒化物半導体接合層に、超格子構造層をなす窒化ガリウム・インジウム(GaIn1−QN:0≦Q≦1)層にあって、ガリウム組成(=Q)をより大とする窒化ガリウム・インジウム層が接合させて設けられている、ことを特徴としている。
【0013】
特に、本発明に係る半導体素子は、上記(1)乃至(5)項の何れかに記載の半導体素子にあって、(6)III族窒化物半導超格子構造層が、膜厚を5ML以上30MLとするIII族窒化物半導体層から構成されている、ことを特徴としている。
【0014】
特に、本発明に係る半導体素子は、上記(1)乃至(6)項の何れかに記載の半導体素子にあって、(7)基板が、表面を{111}結晶面とする{111}珪素単結晶であり、III族窒化物半導体接合層が、六方晶のウルツ鉱結晶型窒化AlNから構成されている、ことを特徴としている。
【0015】
特に、本発明に係る半導体素子は、上記(1)乃至(6)項の何れかに記載の半導体素子にあって、(8)基板が、表面を{001}結晶面とする{001}珪素単結晶であり、III族窒化物半導体接合層が、立方晶の閃亜鉛鉱結晶型窒化アルミニウム(AlN)から構成されている、ことを特徴としている。
【0016】
また、珪素単結晶からなる基板と、その珪素単結晶基板の表面に設けられた炭化珪素層と、その炭化珪素層に接合させて設けられたIII族窒化物半導体接合層と、そのIII族窒化物半導体層上に設けられたIII族窒化物半導体からなる超格子構造層とを備えた半導体素子の製造方法にあって、本発明の半導体素子の製造方法は、(A)(1)珪素単結晶基板の表面に炭化水素ガスを吹き付けて、基板の表面をなす結晶面に、炭化水素を吸着させる工程と、(2)その後、吸着させた温度以上の温度に珪素単結晶基板を加熱して、珪素単結晶基板の表面に格子定数を0.36nmを超え、0.460nm以下とする組成的に珪素を富裕に含む非化学量論的な組成の立方晶の炭化珪素層を形成する工程と、(3)その後、炭化珪素層の表面に、第V族元素を含む気体と、第III族元素を含む気体を供給して、III族窒化物半導体接合層を形成する工程と、(4)その後、III族窒化物半導体接合層上に、III族窒化物半導体からなる超格子構造層を形成する工程とを、含むことを特徴としている。
【0017】
特に、本発明の半導体素子の製造方法は、上記(A)項に記載の製造方法にあって、(B)基板を、{111}結晶面を表面とする{111}珪素単結晶とし、その基板の表面に、組成的に珪素を富裕に含む非化学量論的な組成を有し、且つ、{111}結晶面を表面とする立方晶の炭化珪素層を形成した後、その炭化珪素層の表面に、六方晶のIII族窒化物半導体接合層を形成し、その後、III族窒化物半導体接合層上に、六方晶のIII族窒化物半導体からなる超格子構造層を形成する、ことを特徴としている。
【0018】
また特に、上記(A)項に記載の製造方法にあって、(C)基板を、{001}結晶面を表面とする{001}珪素単結晶とし、その基板の表面に、組成的に珪素を富裕に含む非化学量論的な組成を有し、且つ、{001}結晶面を表面とする立方晶の炭化珪素層を形成した後、その炭化珪素層の表面に、立方晶のIII族窒化物半導体接合層を形成し、その後、III族窒化物半導体接合層上に、立方晶のIII族窒化物半導体からなる超格子構造層を形成する、ことを特徴としている。
【0019】
また特に、上記(B)または(C)項に記載の製造方法にあって、(D)珪素単結晶からなる基板の表面に、組成的に珪素を富裕に含む非化学量論的な組成の炭化珪素層を形成した後、その炭化珪素層の表面に、アルミニウムを含む気体原料と、窒素を含む気体原料とを供給して、窒化アルミニウムからなるIII族窒化物半導体接合層を形成する、ことを特徴としている。
【0020】
また特に、上記(D)項に記載の製造方法にあって、(E)珪素単結晶からなる基板の表面に、組成的に珪素を富裕に含む非化学量論的な組成の炭化珪素層を形成した後、その炭化珪素層の表面に、アルミニウムを含む気体原料を供給して、アルミニウム膜を被着させた後、窒素を含む気体原料を供給して、アルミニウム膜を窒化し、窒化アルミニウム層を形成する、ことを特徴としている。
【0021】
また特に、上記(D)項に記載の製造方法にあって(F)珪素単結晶からなる基板の表面に、炭化水素ガスを吹き付けると共に、電子を照射しつつ、珪素単結晶基板の表面に、炭化珪素を吸着させる、ことを特徴としている。
【0022】
また特に、上記(F)項に記載の製造方法にあって (G)珪素単結晶からなる基板の表面に、炭化水素を吸着させた後、電子を照射しつつ、炭化水素を吸着させた温度以上の温度に珪素単結晶基板を加熱して、珪素単結晶基板の表面に格子定数を0.436nmを超え、0.460nm以下とする組成的に珪素を富裕に含む非化学量論的な組成の立方晶の炭化珪素層を形成する、ことを特徴としている。
【0023】
すなわち本願発明は以下に関する。
[1]珪素単結晶基板と、その基板の表面に設けた炭化珪素層と、その炭化珪素層に接して設けたIII族窒化物半導体接合層と、そのIII族窒化物半導体接合層上にIII族窒化物半導体からなる超格子構造層を備えた半導体素子であって、炭化珪素層は立方晶で格子定数が0.436nmを超え、0.460nm以下の、組成的に珪素を富裕に含む非化学量論的な組成の層であり、III族窒化物半導体接合層は、組成がAlGaIn1−αα(0≦X、Y、Z≦1、X+Y+Z=1、0≦α<1、Mは窒素以外の第V族元素である。)である、ことを特徴とする半導体素子。
[2]III族窒化物半導体からなる超格子構造層が、アルミニウム(Al)組成を相違する窒化アルミニウム・ガリウム(AlGa1−XN:0≦X≦1)層を交互に積層した層である、ことを特徴とする[1]に記載の半導体素子。
[3]アルミニウム組成を相違する窒化アルミニウム・ガリウム層でアルミニウム組成を小とする層が、III族窒化物半導体接合層に接していることを特徴とする[2]に記載の半導体素子。
[4]III族窒化物半導体からなる超格子構造層が、ガリウム(Ga)組成を相違する窒化ガリウム・インジウム(GaIn1−QN:0≦Q≦1)層を交互に積層した層である、ことを特徴とする[1]に記載の半導体素子
[5]ガリウム組成を相違する窒化ガリウム・インジウム層でガリウム組成を大とする層が、III族窒化物半導体接合層に接している、ことを特徴とする[4]に記載の半導体素子。
[6]III族窒化物半導体からなる超格子構造層が、膜厚が5モノレイヤー(ML)〜30MLの範囲内である、ことを特徴とする[1]乃至[5]の何れか1項に記載の半導体素子。
[7]珪素単結晶基板が、表面を{111}結晶面とする基板であり、III族窒化物半導体接合層が、六方晶のウルツ鉱結晶型窒化アルミニウム(AlN)層である、ことを特徴とする[1]乃至[6]の何れか1項に記載の半導体素子。
[8]珪素単結晶基板が、表面を{001}結晶面とする基板であり、III族窒化物半導体接合層が、立方晶の閃亜鉛鉱結晶型窒化アルミニウム(AlN)層である、ことを特徴とする[1]乃至[6]の何れか1項に記載の半導体素子。
【0024】
[9](1)珪素単結晶基板の表面に炭化水素ガスを吹き付けて、基板の表面に炭化水素を吸着させる工程と、(2)吸着させた温度以上の温度に珪素単結晶基板を加熱して、珪素単結晶基板の表面に格子定数を0.436nmを超え、0.460nm以下とする組成的に珪素を富裕に含む非化学量論的な組成の立方晶の炭化珪素層を形成する工程と、(3)炭化珪素層の表面に、第V族元素を含む気体と、第III族元素を含む気体を供給して、III族窒化物半導体接合層を形成する工程と、(4)III族窒化物半導体接合層上に、III族窒化物半導体からなる超格子構造層を形成する工程とを、この順で含むことを特徴とする半導体素子の製造方法。
[10]珪素単結晶基板を、表面を{111}結晶面とする基板とし、基板表面に形成する炭化珪素層を、表面を{111}結晶面とする層とし、III族窒化物半導体接合層を、六方晶の層とし、III族窒化物半導体からなる超格子構造層を、六方晶の層とする、ことを特徴とする請求項9に記載の半導体素子の製造方法。
[11]珪素単結晶基板を、表面を{001}結晶面とする基板とし、基板表面に形成する炭化珪素層を、表面を{001}結晶面とする層とし、III族窒化物半導体接合層を、立方晶の層とし、III族窒化物半導体からなる超格子構造層を、立方晶の層とする、ことを特徴とする請求項9に記載の半導体素子の製造方法。
[12](3)の工程において、炭化珪素層の表面に、第III族元素を含む気体としてアルミニウムを含む気体と、第V族元素を含む気体として窒素を含む原料とを供給して、窒化アルミニウムからなるIII族窒化物半導体接合層を形成する、ことを特徴とする[9]乃至[11]の何れか1項に記載の半導体素子の製造方法。
[13](3)の工程を、(3a)炭化珪素層の表面に、第III族元素を含む気体を供給して第III族元素を含む層を形成する工程と、(3b)第III族元素を含む層を窒化してIII族窒化物半導体接合層として第III族元素の窒化層を形成する工程とする、ことを特徴とする[9]乃至[12]の何れか1項に記載の半導体素子の製造方法。
[14](3a)の工程において、炭化珪素層の表面に、第III族元素を含む気体としてアルミニウムを含む気体を供給してアルミニウム層を形成することを特徴とする[13]に記載の半導体素子の製造方法。
[15](1)の工程を、(1a)珪素単結晶基板の表面に炭化水素ガスを吹き付けると共に、電子を照射して基板の表面に炭化水素を吸着させる工程とする、ことを特徴とする[9]乃至[14]の何れか1項に記載の半導体素子の製造方法。
[16](1)および(2)の工程を、(1b)珪素単結晶基板の表面に、炭化水素を吸着させた後、電子を照射しつつ、炭化水素を吸着させた温度以上の温度に珪素単結晶基板を加熱して、珪素単結晶基板の表面に格子定数が0.436nmを超え、0.460nm以下とする組成的に珪素を富裕に含む非化学量論的な組成の立方晶の炭化珪素層を形成する工程とする、ことを特徴とする[9]乃至[14]の何れか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明に依れば、単結晶からなる基板と、その単結晶基板の表面に設けられた炭化珪素層と、その炭化珪素層に接合させて設けられたIII族窒化物半導体接合層と、そのIII族窒化物半導体層上に設けられたIII族窒化物半導体からなる超格子構造層とを備えた半導体素子にあって、本発明の半導体素子は、(1)基板を珪素単結晶とし、その基板上に設けられた、格子定数が0.436nmを超え、0.460nm以下とする組成的に珪素を富裕に含む非化学量論的な組成の立方晶の炭化珪素から緩衝層を構成し、その緩衝層上には、AlGaIn1−αα(0≦X,Y,Z≦1,X+Y+Z=1。記号Mは窒素(N)以外の第V族元素を表し、0≦α<1である。)からなるIII族窒化物半導体接合層を設け、更に、そのIII族窒化物半導体接合層上にIII族窒化物半導体からなる超格子構造層を設けた積層構成を利用して、半導体素子を得ることとしたので、結晶性に優れる良質で、且つ、表面の平坦性に優れるIII族窒化物半導体層をもたらすことができ、従って、高性能の半導体素子を提供できる。
【0026】
特に、本発明では、III族窒化物半導体接合層上に設ける超格子構造層を、アルミニウム組成を相違するAlGa1−XN(0≦X≦1)層を交互に積層させて構成することとしたので、結晶性に優れる良質で、且つ、表面の平坦性に優れるIII族窒化物半導体層を安定してもたらすことができ、従って、高性能の半導体素子を安定して提供するに効果を奏する。
【0027】
特に、本発明ではまた、アルミニウム組成を相違するAlGa1−XN(0≦X≦1)層から成る超格子構造層を設けるにあって、その超格子構造層をなすAlGa1−XN(0≦X≦1)層の中で、アルミニウム組成(=X)をより小とするAlGa1−XN層をIII族窒化物半導体接合層上に接合させて設ける積層構成としたので、特に、表面の平坦性に優れるIII族窒化物半導体層を形成することができ、構成能の半導体素子を得るに貢献できる。
【0028】
また、本発明ではまた、III族窒化物半導体接合層上に設ける超格子構造層を、ガリウム(Ga)組成を相違するGaIn1−QN(0≦Q≦1)層を交互に積層させて構成することとしたので、結晶性に優れる良質で、且つ、表面の平坦性に優れるIII族窒化物半導体層を安定してもたらすことができ、従って、高性能な半導体素子を安定して提供するに効果を奏する。
特に、本発明では、GaIn1−QN(0≦Q≦1)層から成る超格子構造層を設けるにあって、その超格子構造層をなすGaIn1−QN(0≦Q≦1)の中で、ガリウム組成(=Q)をより大とする窒化ガリウム・インジウム層をIII族窒化物半導体接合層上に接合させて設ける積層構成としたので、特に、表面の平坦性に優れるIII族窒化物半導体層を形成することができ、高性能な半導体素子を得るに貢献できる。
【0029】
特に、本発明では、超格子構造層を、膜厚を5ML以上30MLとするAlGa1−XN(0≦X≦1)層またはGaIn1−QN(0≦Q≦1)層から構成することとしたので、特に、表面の平坦性に優れるIII族窒化物半導体層を安定して形成することができ、高性能な半導体素子を安定して得るに貢献できる。
【0030】
特に、本発明では、基板を{111}珪素単結晶とし、その基板表面上に、SiC緩衝層を介して設けるIII族窒化物半導体接合層を、六方晶のウルツ鉱結晶型のAlGaIn1−αα(0≦X,Y,Z≦1,X+Y+Z=1。記号Mは窒素(N)以外の第V族元素を表し、0≦α<1である。)から構成することとしたので、その上に設ける超格子構造層等を六方晶のIII族窒化物半導体層から統一的に構成することができ、従って、六方晶のIII族窒化物半導体材料に基づく特性を発現できる半導体素子を得るに優位となる。
【0031】
特に、本発明では、表面を{001}結晶面とする{001}珪素単結晶を基板とし、その基板表面上に、SiC緩衝層を介して設けるIII族窒化物半導体接合層を、立方晶の閃亜鉛鉱結晶型のAlGaIn1−αα(0≦X,Y,Z≦1,X+Y+Z=1。記号Mは窒素(N)以外の第V族元素を表し、0≦α<1である。)から構成することとしたので、その上に設ける超格子構造層等を立方晶のIII族窒化物半導体層から統一的に構成することができ、従って、立方晶のIII族窒化物半導体材料に基づく特性を発現できる半導体素子を得るに優位となる。
【0032】
また、本発明では、珪素単結晶からなる基板と、その珪素単結晶基板の表面に設けられた炭化珪素層と、その炭化珪素層に接合させて設けられたIII族窒化物半導体接合層と、そのIII族窒化物半導体層上に設けられたIII族窒化物半導体からなる超格子構造層とを備えた半導体素子を製造するに際し、単結晶基板の表面に炭化水素ガスを吹き付けて、基板の表面をなす結晶面に、炭化水素を吸着させ、その後、吸着させた温度以上の温度に珪素単結晶基板を加熱して炭化珪素層を形成することとしたので、珪素単結晶基板の表面に、格子定数が0.436nmを超え、0.460nm以下とする組成的に珪素を富裕に含む非化学量論的な組成の立方晶を確実に形成することができ、しいては、その上に、良質なAlGaIn1−αα(0≦X,Y,Z≦1,X+Y+Z=1。記号Mは窒素(N)以外の第V族元素を表し、0≦α<1である。)からなるIII族窒化物半導体接合層と、更にその上に、III族窒化物半導体からなる超格子構造層とを形成できるため、それらの半導体層の結晶性の良好さを反映して、特性に優れる半導体素子を製造できる。
【0033】
特に、本発明に依れば、{111}結晶面を表面とする{111}珪素単結晶を基板として用い、その基板の表面に、組成的に珪素を富裕に含む非化学量論的な組成を有し、且つ、{111}結晶面を表面とする立方晶の{111}炭化珪素層を形成して、その炭化珪素層の表面に、六方晶のAlGaIn1−αα(0≦X,Y,Z≦1,X+Y+Z=1。記号Mは窒素(N)以外の第V族元素を表し、0≦α<1である。)からなるIII族窒化物半導体接合層を形成し、その後、III族窒化物半導体接合層上に、六方晶のIII族窒化物半導体からなる超格子構造層を形成する工程を経て、半導体素子を形成することとしたので、六方晶のIII族窒化物半導体の結晶特性に基づく光学的或いは電気的特性を好適に発現できる半導体素子を製造できる。
【0034】
また特に、本発明に依れば、{001}結晶面を表面とする{001}珪素単結晶を基板として用い、その基板の表面に、組成的に珪素を富裕に含む非化学量論的な組成を有し、且つ、{001}結晶面を表面とする立方晶の炭化珪素層を形成し、その炭化珪素層の表面に、立方晶のIII族窒化物半導体接合層を形成して、その後、III族窒化物半導体接合層上に、立方晶のIII族窒化物半導体からなる超格子構造層を形成する工程を経て、半導体素子を形成することとしたので、立方晶のIII族窒化物半導体の結晶特性に基づく光学的或いは電気的特性を好適に発現できる半導体素子を製造できる。
【0035】
また特に、本発明に依れば、珪素単結晶からなる基板の表面に、組成的に珪素を富裕に含む非化学量論的な組成の炭化珪素層を形成した後、その炭化珪素層の表面に、アルミニウムを含む気体原料と、窒素を含む気体原料とを供給して、窒化アルミニウムからなるIII族窒化物半導体接合層を形成することとしたので、格子ミスマッチを低減でき、従って、良質なAlNからなるIII族窒化物半導体接合層を備えた高性能な半導体素子を製造できる。
【0036】
また特に、本発明に依れば、珪素単結晶からなる基板の表面に、組成的に珪素を富裕に含む非化学量論的な組成の炭化珪素層を形成した後、その炭化珪素層の表面にAlNからなるIII族窒化物半導体接合層を形成するに際し、アルミニウムを含む気体原料を供給して、炭化珪素層の表面にアルミニウム被膜を形成した後、その被膜に窒素を含む気体原料を供給して、アルミニウム膜を窒化し、窒化アルミニウム層を形成することとしたので、例えば、晶系が六方晶に画一的の揃ったAlNからIII族窒化物半導体接合層を形成できる。
【0037】
また特に、本発明に依れば、珪素単結晶からなる基板の表面に、炭化水素ガスを吹き付けるに併せて、珪素単結晶基板の表面に電子を照射しつつ、珪素単結晶基板の表面に、炭化珪素を吸着させる工程を経由して、格子定数が0.436nmを超え、0.460nm以下とする組成的に珪素を富裕に含む非化学量論的な組成の立方晶の炭化珪素層を形成することとしたので、結晶欠陥が特に少ない結晶性に優れる炭化珪素層を安定して形成でき、しいては、高性能な半導体素子を安定して製造できる。
【0038】
また特に、本発明に依れば、炭化水素ガスを吹き付けるに併せて、電子を照射しつつ、珪素単結晶からなる基板の表面に炭化水素を吸着させた後、電子を照射しつつ、炭化水素を吸着させた温度以上の温度に珪素単結晶基板を加熱して、基板をなす珪素と、その基板の表面に吸着した炭化水素との間の化合反応を促進させ、立方晶の炭化珪素層を形成することとしたので、結晶欠陥の少ない立方晶の炭化珪素層を効率的に形成でき、従って、高性能な半導体素子を効率的に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施例1に記載のLEDの平面模式図である。
【図2】図1に記載したLEDの破線A−Aに沿った断面構造を示す模式図である。
【図3】本発明の実施例2に記載のLEDの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
珪素単結晶基板としては、種々の面方位の結晶面を表面とする珪素単結晶を用いることができるが、本発明の実施にあたり、基板として最も好適に使用できる珪素結晶は、表面を{001}結晶面、若しくは{111}結晶面とする{001}若しくは{111}単結晶である。これらの結晶面から傾斜した結晶面を表面とする珪素単結晶も基板として充分に利用できる。{001}結晶面より傾斜した結晶面、角度にして、例えば、2°<110>方向に傾斜した結晶面を表面とする珪素単結晶基板は、逆位相(反位相)粒界(英略称:APD)(坂 公恭著、材料学シリーズ「結晶電子顕微鏡学−材料研究者のための−」、1997年11月25日、(株)内田老鶴圃発行、第1版、64〜65頁参照)の少ない結晶層を得るに優位である。本発明では、{001}珪素単結晶は、立方晶の結晶層を利用する半導体素子を構成する場合に主に用いる。一方、{111}珪素単結晶は、六方晶の結晶層を利用する半導体素子を構成する場合に主に用いる。
【0041】
基板として用いる珪素単結晶の伝導形は不問である。p形或いはn形の何れの伝導形の珪素単結晶を基板として利用できる。特に、抵抗率(比抵抗)の小さい良導性の珪素単結晶基板は、LEDやLD等の半導体発光素子を作製するのに好適に利用できる。また、高抵抗の珪素単結晶は、素子を動作させるための電流(素子動作電流)の基板側への漏洩(leak)を低減する必要がある半導体素子用途の基板として利用できる。例えば、FETを作製するための基板として好適に利用できる(高抵抗のp形またはn形半導体は、各々、π形またはν形と称される場合がある(米津 宏雄著、「光通信素子工学−発光・受光素子−」、平成7年5月20日、工学図書(株)発行、5版、317頁脚注参照))。
本発明では、基板とする珪素単結晶の表面をなす結晶面の面方位に拘らず、その表面上には、炭化珪素層を設ける。この炭化珪素層は、Ramsdellの表記方法に従えば(日本学術振興会高温セラミック材料第124委員会編著、「SiC系セラミック新材料−最近の展開−」、2001年2月28日、(株)内田老鶴圃発行、第1版、13〜16頁参照)、3C型の結晶構造を有する立方晶の結晶層であるのが最も好ましい。3C型の立方晶の炭化珪素(3C−SiC)層であるか、または、例えば、4H型や6H型の六方晶の炭化珪素(4H−SiC、6H−SiC)層であるかは、例えば、電子回折像の解析をもって判断できる。
【0042】
3C−SiC層は、珪素単結晶基板の表面に吸着させた炭化水素を利用して形成するのが望ましい。炭化水素を吸着させるための炭化水素ガスとしては、メタン(分子式CH)、エタン(分子式C)及びプロパン(分子式C)等の飽和脂肪族炭化水素や、アセチレン(分子式C)等の不飽和炭化水素を例示できる。その他、芳香族炭化水素類または脂環式炭化水素類もあるが、分解して珪素と反応し易いアセチレンが最も好ましく利用できる。{111}珪素単結晶の{111}結晶面にアセチレンを吸着させる温度は400℃〜600℃とするのが好ましい。{001}珪素単結晶の{001}結晶面にアセチレンを吸着させるのに適する温度は、{111}結晶面の場合より高く、450℃〜650℃である。
【0043】
アセチレン等の炭化水素は、珪素単結晶基板の表面をなす結晶面に、珪素原子の最配列構造を創出した後に吸着させるのが好ましい。例えば、{111}珪素単結晶基板の{111}結晶面からなる表面に、(7×7)再配列構造を出現させた後、炭化珪素を吸着させるのが好ましい。(7×7)再配列構造は、例えば、{111}珪素単結晶の表面をなす{111}結晶面を、10−6パルカル(圧力単位:Pa)程度の高真空環境下、例えば、分子線エピタキシャル(英略称:MBE)成長用チャンバー(chamber)内で750℃〜850℃で熱処理を施すと形成できる。珪素単結晶基板の表面の再配列構造は、高速反射電子回折(英略称:RHEED)などの電子回折分析手段により確認できる。
【0044】
珪素単結晶基板の表面をなす結晶面に炭化水素を吸着させた後、珪素単結晶基板を加熱することにより、吸着させた炭化水素と基板結晶をなす珪素原子とを反応させ、炭化珪素層を形成する。この際、比較的高温で珪素単結晶基板を加熱すると、化学量論的に珪素を富裕に含む炭化珪素層を形成できる。炭化水素を吸着させた珪素単結晶基板を例えば、500℃〜700℃で加熱して形成する。加熱する温度を高温とする程、短時間で、化学量論的に珪素を富裕に含む炭化珪素層を形成できる。珪素を富裕に含む度合いは、炭化珪素層をなす非化学量論的な組成の炭化珪素の格子定数に反映される。非化学量論的な組成の炭化珪素では、珪素の組成が富裕になるに従い、格子定数は大きくなる。当量的な組成の3C−SiCの格子定数が0.436nmであるのに対し(上記の「SiC系セラミック新材料−最近の展開−」、340頁、表5.1.1.参照)、本発明に係わる非化学量論的な組成の炭化珪素層は、0.436nmを超え、0.460nm以下の格子定数を有するのを特徴としている。
【0045】
上記の様な範囲にある格子定数を有する立方晶3C型の炭化珪素層は、III族窒化物半導体接合層を構成するIII族窒化物半導体材料との格子ミスマッチ度が少ない。従って、例えば、格子定数を0.451nmとする立方晶閃亜鉛鉱結晶型のGaNからIII族窒化物半導体接合層を形成するに際し、格子整合性に優れる緩衝層として有用となる。
また、上記の様な範囲にある格子定数を有する立方晶3C型の炭化珪素層の(110)結晶面の間隔は、ウルツ鉱結晶型で六方晶のAlNのa軸と略一致するため、III族窒化物半導体接合層となす六方晶のIII族窒化物半導体層を形成するにも好都合となる。上記の範囲外の格子定数を有する立方晶の炭化珪素層は、立方晶或いは六方晶の何れの結晶型のIII族窒化物半導体材料との格子ミスマッチが増大するため、その上に形成されるIII族窒化物半導体接合層の結晶的品質は顕著に悪化させ、極めて不都合である。
【0046】
珪素を炭素に比べ富裕に含む非化学量論的な組成の炭化珪素層は、また、珪素単結晶基板の表面に炭化水素を吸着させた後、その基板の表面に、珪素を含む気体を供給しつつ、加熱することに依っても形成できる。例えば、炭化水素を吸着させた珪素単結晶基板の表面に、シラン(分子式SiH)類を供給しつつ、加熱して形成する。また、高真空に保持された例えば、MBE成長用チャンバー内で珪素のビームを照射しつつ、炭化水素を吸着させた珪素単結晶基板を加熱することにより形成できる。形成した非化学量論的な組成の炭化珪素層の格子定数は、例えば、電子回折法などの分析手段により計測できる。
【0047】
非化学量論的な組成の炭化珪素層を形成するにあって、表面を{001}結晶面とする炭化珪素層を得るには、{001}結晶面を表面とする{001}珪素単結晶を基板として用いる。また、表面を{111}結晶面とする非化学量論的な組成の炭化珪素層を得るには、{111}結晶面を表面とする{111}珪素単結晶を基板として用いる。
【0048】
表面をなす結晶面の面方位に関係無く、珪素単結晶基板の表面に炭化珪素層を形成するに際し、基板の表面に、電子を照射しつつ、炭化水素ガスを吹き付けると、炭化水素を基板の表面に均一に吸着させられる。照射する電子は、例えば、真空中に於いて電熱された金属から放出される熱電子を利用する。珪素単結晶基板の表面の均等な密度で照射する。照射密度としては、1×1012〜5×1013cm−2が適する。また、照射する電子の加速エネルギーが約100エレクトロンボルト(単位:eV)未満と低いと、炭化水素を珪素単結晶基板の表面に均一に吸着させるに至らない。500eVを超える加速エネルギーの電子を照射させると、却って、炭化水素の分解や脱着が促進され、不都合である。
従って、電子発生源、例えば、タングステン(W)フィラメントと被照射体の珪素単結晶基板との間の電位差は、100ボルト(V)以上で500V以下とするのが好ましい。
【0049】
また、表面に炭化水素を吸着させた珪素単結晶基板を加熱して、その基板の表面に3C−SiC層を形成する際にも、電子を照射すれば、双晶や積層欠陥等の結晶欠陥密度の小さい結晶性に優れる3C−SiC層を形成できる。電子の照射密度としては、1×1012〜5×1013cm−2が適する。また、照射する電子の加速エネルギーは、100eV〜500eVが適する。
【0050】
非化学量論的な組成の炭化珪素層には、AlGaIn1−αα(0≦X,Y,Z≦1,X+Y+Z=1。記号Mは窒素(N)以外の第V族元素を表し、0≦α<1である。)からなるIII族窒化物半導体層を接合させて設ける。III族窒化物半導体接合層をなすAlGaIn1−ααは、例えば、窒化アルミニウム・ガリウム(AlGaN:0≦X,Y≦1,X+Y=1),窒化ガリウム・インジウム(GaInN:0≦Y,Z≦1,Y+Z=1)、窒化リン化アルミニウム(AlN1−αα:0≦α<1)から構成できる。
【0051】
III族窒化物半導体接合層は、非化学量論的な組成の炭化珪素層の格子定数(a)(0.436nmを超え、0.460nm以下である。)に近似する格子定数または格子面間隔を有するIII族窒化物半導体材料から構成するのが好適である。例えば、立方晶の閃亜鉛鉱結晶型のAlN(a=0.438nm)やGaN(a=0.451nm)から好適に構成できる。また、本発明に係わる非化学量論的な組成の立方晶炭化珪素層の(110)結晶面の間隔(0.308nm〜0.325nm)に近似するa軸を有する六方晶ウルツ鉱結晶型のAlN、GaN及びそれらの混晶から構成できる。
【0052】
六方晶のAlN等からなるIII族窒化物半導体接合層を形成するには、{111}結晶面を表面とする{111}珪素単結晶を基板として用いるのが得策である。また、立方晶のAlN等からなるIII族窒化物半導体接合層を得るには、{001}結晶面を表面とする{001}珪素単結晶を基板として用いるのが利便である。
【0053】
更に、AlNからなるIII族窒化物半導体層を形成するに際し、珪素単結晶基板の表面に一旦、アルミニウム(Al)膜を被着させた後、そのAl膜を、窒素含有気体を含む雰囲気中で窒化して、AlN層となす手段もある。この形成手段に依れば、晶系の揃ったAlN層を効率的に形成できる。例えば、{111}珪素単結晶基板の{111}結晶面からなる表面に、Al膜を形成し、その後、例えば、窒素プラズマ雰囲気中で窒化すれば、晶系を六方晶に画一的に揃った六方晶AlN層を形成できる。
【0054】
非化学量論的な組成の炭化珪素層上に整合性良く形成されたIII族窒化物半導体接合層は、その上層として設ける超格子構造層の形成を促進させる。III族窒化物半導体接合層は、例えば、有機金属化学的気相堆積法(英略称:MOCVD)、ハロゲン(hologen)またはハイドライド(hydride)化学的気相堆積(CVD)法、MBE法、ケミカルビーム成長法(英略称:CBE)などの成長手段を利用して形成できる。
【0055】
III族窒化物半導体接合層上には、III族窒化物半導体からなる超格子構造層を形成する。例えば、構成元素の組成を相違するIII族窒化物半導体層を交互に積層させて、超格子構造を形成する。また、例えば、禁止帯幅(bandgap)を相違するIII族窒化物半導体層を交互に積層させて、超格子構造を形成する。III族窒化物半導体接合層をAlNまたはGaNから構成する場合、超格子構造層は、格子マッチングの良好さから、アルミニウム組成(=X)を相違するAlGa1−XN(0≦X≦1)層から構成するのが好ましい。また、ガリウム組成(=Q)を相違するGaIn1−QN(0≦Q≦1)層から構成するのが好ましい。
【0056】
特に、超格子構造層を構成するアルミニウム組成を相違するAlGa1−XN層の中で、アルミニウム組成を最小とするAlGa1−XN層を、III族窒化物半導体接合層に接合させる設ける構成すると、表面の平坦性に優れるIII族窒化物半導体層を与える超格子構造層が得られる。また同様に、超格子構造層を構成するガリウム組成を相違するGaIn1−QN(0≦Q≦1)層の中で、ガリウム組成を最大とするGaIn1−QN層を、III族窒化物半導体接合層に接合させて設ける構成とすると、表面の平坦性に優れるIII族窒化物半導体層を与える超格子構造層が得られる。
【0057】
特に、超格子構造層を、層厚を5ML以上で30ML以下とするAlGa1−XN層またはGaIn1−QN層から構成すると、結晶層の内部の歪の伝播を好都合に抑制できる。従って、表面の平坦性に優れるIII族窒化物半導体層をもたらす超格子構造層を形成できる。1MLの厚さとは、六方晶のIII族窒化物半導体層にあっては、c軸の1/2の厚さである。例えば、c軸を0.520nmとする六方晶ウルツ鉱結晶型のGaNの1MLの厚さは、0.260nmである。立方晶のIII族窒化物半導体層にあっては、格子定数に相当する厚さである。
【0058】
超格子構造層はまた、電子や正孔(hole)に量子準位を与える量子井戸構造であっても差し支えは無い。AlGa1−XN(0≦X≦1)層から量子井戸構造を構成する場合、アルミニウム組成(=X)がより大きく、禁止帯幅がより大きなAlGa1−XN層を障壁(barrier)層とし、アルミニウム組成(=X)がより小さく、禁止帯幅がより小さなAlGa1−XN層を井戸(well)層として構成する。また、GaIn1−QN(0≦Q≦1)層から量子井戸構造を構成する場合、ガリウム組成(=Q)がより大きく、禁止帯幅がより大きなGaIn1−QN層を障壁層とし、ガリウム組成(=Q)がより小さく、禁止帯幅がより小さなGaIn1−QN層を井戸(well)層として構成する。
【0059】
超格子構造層を構成するAlGa1−XN層またはGaIn1−QN層は、上記のIII族窒化物半導体接合層の場合と同じく、例えば、MOCVD法、ハロゲン(hologen)またはハイドライド(hydride)CVD法、MBE法、CBEなどの成長手段を利用して形成できる。上記のIII族窒化物半導体接合層の形成に利用したのと同一の成長手段に依り、III族窒化物半導体接合層上に引き続き超格子構造層を形成することとすると、半導体素子を得るに簡便となる。
【0060】
超格子構造層を構成するAlGa1−XN層またはGaIn1−QN層を成長させるに際し、それらの層を構成するIII族元素の原料とV族元素とを交互に繰り返し供給して成長させると、表面の平坦性に優れる超格子構造層を得ることができる。例えば、III族窒化物半導体接合層の表面に、先ず、III族元素の原料を供給し、その後、III族元素の原料の供給を停止し、代替に窒素源を供給する手段、即ち、III族元素とV族元素の原料を交互に供給しつつ形成したAlGa1−XN層またはGaIn1−QN層を用いれば、表面の平坦性に優れる超格子構造を形成できる。
【0061】
珪素単結晶基板の表面の清浄化、その清浄化された基板表面への炭化水素の吸着、吸着させた炭化水素を利用した炭化珪素層の形成、炭化珪素層上へのIII族窒化物半導体接合層の形成、及びIII族窒化物半導体接合層上への超格子構造層の形成は、一貫して同一の設備を行うのが、簡略な工程をもって簡易に半導体素子を製造する上で得策である。
MBE法に依れば、高真空な環境下で成長を行うが故に、炭化水素を吸着させ、それを元に炭化珪素層を形成する際に、電子を珪素単結晶基板の表面に向けて照射することも容易に行える。また、MBE法では、上記の如く、構成元素の原料を交互に供給しつつ、超格子構造層をなすAlGa1−XN層またはGaIn1−QN層を簡易に形成できる利点がある。
【0062】
超格子構造層上には、表面の平坦性に優れる成長層を形成できる。従って、その様な平坦性に優れる成長層を活性層(能動層)として利用すれば、光学的或いは電気的特性に優れる半導体素子を構成できる。例えば、六方晶のIII族窒化物半導体接合層上の六方晶のIII族窒化物半導体層からなる超格子構造層に設けた六方晶のIII族窒化物半導体層を、電子走行層(チャネル(channel)層)や電子供給層として利用すれば高移動度FETを構成できる。特に、六方晶のIII族窒化物半導体に依るピエゾ(piezo)の発現に依り、2次元電子を効率的に蓄積する電子走行層を備えた高移動度FETを製造できる。
【0063】
また、例えば、立方晶のIII族窒化物半導体接合層上の立方晶のIII族窒化物半導体層からなる超格子構造層に設けた立方晶のIII族窒化物半導体層を、下部クラッド層や発光層として利用すれば高輝度のLED等の発光素子を形成できる。特に、価電子帯が縮退している立方晶のIII族窒化物半導体の性質を利用すれば、発振波長が画一化されたLDをもたらせる。
【実施例】
【0064】
(実施例1)
本実施例1では、(111)結晶面を表面とする(111)珪素単結晶基板に設けた非化学量論的な組成の炭化珪素層、六方晶のIII族窒化物半導体接合層、六方晶のIII族窒化物半導体層からなる超格子構造層とを含むエピタキシャル積層構造体から発光ダイオード(LED)を作製する場合を例にして、本発明を具体的に説明する。
【0065】
本実施例1で作製した半導体LED10の平面構造を図1に模式的に示す。また、図2には、図1に示したLED10の破線A−A線に沿った断面構造を模式的に示す。
【0066】
LED10の作製には、(111)結晶面を表面とする、硼素(元素記号:B)を添加したp形の珪素単結晶を基板101として用いた。基板101を、MBE成長用の成長チャンバー内に搬送した後、約5×10−7パスカル(Pa)の高真空中で、基板101を850℃に加熱した。 RHEEDパターンを監視しつつ、基板101の表面をなす(111)結晶面が(7×7)再配列構造となる迄、同温度で継続して加熱した。
【0067】
(7×7)再配列構造が出現したのを確認した後、基板101をMBE成長チャンバー内に収納したままで、450℃に降温した。次に、基板101の表面にアセチレンガスを吹き付け、アセチレンをその表面に吸着させた。アセチレンガスは、RHEEDパターン上で、基板101の表面の(7×7)再配列構造に起因する電子回折斑点(spot)が略消滅する迄、継続して吹き付けた。
【0068】
その後、アセチレンガスの基板101の表面への吹き付けを停止し、基板101を600℃に昇温した。RHEEDパターンに立方晶3C型の炭化珪素に依るストリーク(光条)が出現する迄、同温度に基板101を保持し、珪素単結晶基板101の表面に炭化珪素層102を形成した。600℃に於いて、(111)珪素単結晶のRHEEDパターンから求めた珪素単結晶の格子定数を基に、形成した炭化珪素の格子定数は、0.450nmと計算された。炭化珪素層102の層厚は約2nmであり、表面は、(111)結晶面であった。
【0069】
非化学量論的な組成の炭化珪素層102上には、窒素プラズマを窒素源とするMBE法に依り、ウルツ鉱結晶型の六方晶窒化アルミニウム(AlN)層103を、基板101の温度を720℃として形成した。窒素プラズマは、高純度窒素ガスに、周波数13.56MHzの高周波と磁界とを印加する電子サイクトロトロン共鳴(ECR)型装置を用いて発生させた。MBE成長チャンバーを約1×10−6Paの高真空に保持しつつ、窒素プラズマ内の原子状窒素(窒素ラジカル)を電気的斥力を利用して抽出して、炭化珪素層102の表面に噴霧した。本発明の云うIII族窒化物半導体接合層として形成した、AlN層103の層厚は約15nmであり、表面は、{0001}結晶面であった。
【0070】
六方晶(hexagonal)のAlN層103上には、720℃でMBE法に依り、六方晶の第1のn形窒化ガリウム(GaN)104aを形成した。超格子構造層104の構成層たる第1のn形GaN層104aの層厚は、10ML(約2.6nm)とした。第1のn形GaN層104aには、超格子構造層104を構成する別の構成層であるアルミニウム(Al)組成比を0.10とする第1のn形窒化アルミニウム・ガリウム混晶(Al0.10Ga0.90N)104bを接合させて設けた。次に、第1のn形Al0.10Ga0.90N混晶層104bには、第2のn形GaN層104aを接合させて設けた。第2のn形GaN層104aには、第2のAl0.10Ga0.90N混晶層104bを接合させて設けた。第2のAl0.10Ga0.90N混晶層104b上には、更に、第3のn形GaN層104a及び第3のn形Al0.10Ga0.90N混晶層104bとを設けて、超格子構造層104の形成を終了した。第1乃至第3のn形Al0.10Ga0.90N混晶層104bの層厚は何れも10MLとした。
【0071】
超格子構造層104上には、MBE法に依り、珪素(Si)をドーピングしつつ、層厚を約2200nmとするn形GaNからなる下部クラッド層105を設けた。n形GaN層105は、上記の超格子構造層104を介して設けたため、表面粗さは、r.m.s.値にして約1.0nmと良好な平坦性を有していた。
【0072】
下部クラッド層105上には、n形GaNを障壁層と、n形窒化ガリウム・インジウム混晶(Ga0.85In0.15N)を井戸層とを、交互に5周期に亘り、積層させた構成からなる多重量子井戸構造の発光層106を形成した。発光層106には、p形Al0.10Ga0.90N(層厚約90nm)からなる上部クラッド層107を形成した。これより、n形クラッド層105と、n形発光層106と、及びp形上部クラッド層107とからpn接合型ダブルヘテロ(DH)接合構造の発光部を構成した。発光部をなすp形上部クラッド層107上には、更に、p形GaN(層厚約100nm)からなるコンタクト層108を設けて、LED10用途の積層構造体11を形成した。
【0073】
積層構造体11の最表層をなすp形コンタクト層108の表面には、金(元素記号:Au)とニッケル(元素記号:Ni)酸化物とからなるp形のオーミック(Ohmic)電極109を形成した。一方のn形オーミック電極110は、その電極110を設ける領域にある発光層106、上部クラッド層107、及びコンタクト層108を一般的なドライエッチング手段で除去した後、形成した。n形オーミック電極110は、超格子構造層104を介して形成したため、良好な平坦性を有することとなった下部クラッド層105の表面に設けた。即ち、LED10では、p形オーミック電極109と、n形オーミック電極110とを、珪素単結晶基板101に関して、同一の表面側に設けた。
【0074】
上記の如く作製したLEDチップ10のp形及びn形オーミック電極109,110間に素子動作電流を通流し、発光及び電気的特性を調査した。LED10に順方向に電流をながしたところ、主波長を460nmとする青色光が出射された。順方向電流を20mAとした際の発光強度は、約2.2mWの高強度となった。順方向に20mAの電流を通流した際の順方向電圧(Vf)は、約3.4Vとなった。また、非化学量論的な組成の炭化珪素層102を緩衝層として設けたために、その上に結晶性に優れるIII族窒化物半導体層からなる超格子構造層104、及びDH構造型の発光部を設けられた。このため、逆方向電流を10μAとした際の逆方向電圧は15Vの高電圧となった。また、特に、結晶性に優れるIII族窒化物半導体層から超格子構造層104及び発光部を構成することとしたので、局所的な耐圧不良(local breakdown)の殆どない逆方向の耐電圧性に優れるLEDを構成できた。
(実施例2)
本実施例1では、(001)結晶面を表面とする(001)珪素単結晶基板に設けた非化学量論的な組成の炭化珪素層、立方晶のIII族窒化物半導体接合層、立方晶のIII族窒化物半導体層からなる超格子構造層とを含むエピタキシャル積層構造体から発光ダイオード(LED)を作製する場合を例にして、本発明を具体的に説明する。
【0075】
本実施例2で作製した半導体LED20の断面構造を模式的に示す。
【0076】
LED20の作製には、(001)結晶面を表面とする、燐(元素記号:P)を添加したn形の珪素単結晶を基板201として用いた。基板201を、MBE成長用の成長チャンバー内に搬送した後、約5×10−7パスカル(Pa)の高真空中で、基板201を800℃に加熱した。 RHEEDパターンを監視しつつ、基板201の表面をなす(100)結晶面が(2×1)再配列構造となる迄、同温度で継続して加熱した。
【0077】
(2×2)再配列構造が出現したのを確認した後、基板201をMBE成長チャンバー内に収納したままで、420℃に降温した。次に、基板201の表面にアセチレンガスを吹き付け、併せて、電子を照射しつつ、アセチレンをその表面に吸着させた。電子は、高真空に保たれた成長チャンバー内に配置したタングステン(元素記号:W)フィラメントを通電加熱して発生させた。電子は、加速電圧を300Vとし、面積密度約5×1012cm−2で照射した。アセチレンガスと電子は、RHEEDパターン上で、基板201の表面の(2×1)再配列構造に起因する電子回折斑点が略消滅する迄、継続して供給した。
【0078】
その後、珪素単結晶基板201を550℃に昇温した。基板201の温度が550℃に安定した時点で、電子を基板201に向けて。再び、照射し始めた。RHEEDパターンに立方晶3C型の炭化珪素に依るストリークが出現する迄、同温度で基板201の表面に電子を照射し続け、珪素単結晶基板201の表面に3C型立方晶の炭化珪素層202を形成した。600℃に於いて、(001)珪素単結晶のRHEEDパターンから求めた珪素単結晶の格子定数を基に、形成した炭化珪素の格子定数は0.440nmと計算された。
また、炭化珪素層202のRHEEDパターンには、双晶及び積層欠陥に起因する異常回折は認められなかった。また、炭化珪素層202の層厚は約2nmであり、同層202の表面は、(001)結晶面であった。
【0079】
非化学量論的な組成の炭化珪素層202上には、窒素プラズマを窒素源とするMBE法に依り、立方晶閃亜鉛鉱結晶型の窒化アルミニウム(AlN)層203を、基板201の温度を700℃として形成した。窒素プラズマは、高純度窒素ガスに、周波数13.56MHzの高周波と磁界とを印加する電子サイクトロトロン共鳴(ECR)型装置を用いて発生させた。MBE成長チャンバーを約1×10−6Paの高真空に保持しつつ、窒素プラズマ内の原子状窒素(窒素ラジカル)を電気的斥力を利用して抽出して、炭化珪素層202の表面に噴霧した。本発明の云うIII族窒化物半導体接合層たるAlN層203の層厚は約8nmとした。AlN層203は、(001)結晶面を表面とする単結晶層であった。
【0080】
立方晶(cubic)のAlN層203の表面の(001)結晶面上には、700℃でMBE法に依り、立方晶の第1のn形窒化ガリウム(GaN)204aを形成した。超格子構造層204の構成層たる第1のn形GaN層204aの層厚は、15ML(約3.9nm)とした。第1のn形GaN層204aには、超格子構造層204を構成する別の構成層であるガリウム(Ga)組成比を0.95とする第1のn形窒化ガリウム・インジウム混晶(Ga0.95In0.05N)204bを接合させて設けた。次に、第1のn形Ga0.95In0.05N混晶層204bには、第2のn形GaN層204aを接合させて設けた。第2のn形GaN層204aには、第2のGa0.95In0.05N混晶層204bを接合させて設けた。第2のGa0.95In0.05N混晶層204b上には、更に、第3のn形GaN層204a及び第3のn形Ga0.95In0.05N混晶層204bとを設けて、超格子構造層204の形成を終了した。第1乃至第3のn形Ga0.95In0.05N混晶層204bの層厚は何れも10MLとした。
【0081】
超格子構造層204の最表層をなす(001)結晶面を表面とするn形Ga0.95In0.05N混晶層204b上には、MBE法に依り、珪素をドーピングしつつ、層厚を約1800nmとする立方晶でn形のGaNからなる下部クラッド層205を設けた。n形GaN層205は、上記の超格子構造層204を介して設けたため、表面粗さはr.m.s.にして約1.2nmと良好な平坦性を有していた。
【0082】
下部クラッド層205上には、立方晶のn形GaN障壁層と立方晶のn形窒化ガリウム・インジウム混晶(Ga0.85In0.15N)井戸層との5対の構成からなる多重量子井戸構造の発光層206をMBE法により700℃で形成した。発光層206には、層厚を約100nmとする立方晶でp形Al0.10Ga0.90Nからなる上部クラッド層207を形成した。これより、n形クラッド層205と、n形発光層206と、及びp形上部クラッド層207とからpn接合型ダブルヘテロ(DH)接合構造の発光部を構成した。発光部をなすp形上部クラッド層207上には、更に、層厚を約90nmとする立方晶のp形GaNからなるコンタクト層208をMBE法で設けて、LED20用途の積層構造体21を形成した。
【0083】
積層構造体21の最表層をなすp形コンタクト層208の表面の中央には、金(Au)とニッケル(Ni)酸化物とからなるp形のオーミック電極209を形成した。一方のn形オーミック電極210は、n形珪素単結晶基板201の裏面の全面に金真空蒸着膜を設けて構成した。
【0084】
上記の如く作製したLEDチップ20のp形及びn形オーミック電極209,210間に素子動作電流を通流し、発光及び電気的特性を調査した。LED20に順方向に電流をながしたところ、主波長を465nmとする青色光が出射された。順方向電流を20mAとした際の発光強度は、約2.0mWの高強度となった。順方向に20mAの電流を通流した際の順方向電圧(Vf)は、約3.3Vとなった。また、非化学量論的な組成の炭化珪素層202を緩衝層として設けたために、その上に結晶性に優れるIII族窒化物半導体層からなる超格子構造層204、及びDH構造型の発光部を設けられた。このため、逆方向電流を10μAとした際の逆方向電圧は15Vの高電圧となった。また、特に、結晶性に優れるIII族窒化物半導体層から超格子構造層204及び発光部を構成することとしたので、局所的な耐圧不良の殆どない逆方向の耐電圧性に優れるLEDを構成できた。
(実施例3)
金属アルミニウム膜を窒化することにより形成した窒化アルミニウムからなるIII族窒化物半導体接合層を備えたLEDを構成する場合を例にして、本発明の内容を具体的に説明する。
【0085】
上記の実施例1に記載の如く、(111)結晶面を表面とする(111)珪素単結晶基板上に、立方晶3C型の炭化珪素層を形成した。次に、格子定数を0.450nmとする炭化珪素層の(111)結晶面からなる表面に、MBE成長チャンバー内で、アルミニウム(Al)のビーム(beam)を照射して、Al被膜を形成した。Al被膜の膜厚は約3nmとした。
【0086】
次に、MBE成長用チャンバーに備え付けられたECR(電子サイクロトロン共鳴)型高周波(RF)プラズマ発生装置を利用して窒素プラズマを、同チャンバー内に発生させた。然る後、窒素プラズマ中の窒素ラジカルを選択的に抽出して、上記のAl被膜に照射し、それを窒化させた。窒化に依り形成されたAlN膜は、RHEEDパターンから六方晶であるとされた。
【0087】
Al被膜を窒化して形成した六方晶AlN層をIII族窒化物半導体接合層として、その上には、上記の実施例1に記載のとおりの構成からなる超格子構造層、n形下部クラッド層、n形発光層、p形上部クラッド層、及びp形コンタクト層を順次、積層させてLED用途の積層構造体を形成した。窒化に依り形成したAlN層をIII族窒化物半導体接合層として用いることにより、その上に設けた上記の超格子構造層等を構成するIII族窒化物半導体層は何れも、六方晶の晶系に画一的に統一されたものとなった。電子回折分析及び一般的な断面TEM(透過電子顕微鏡)観察に依れば、それら各層の表面は(0001)結晶面であり、またその各層の内部には、立方晶の結晶塊の存在は殆ど認められなかった。
【0088】
窒化に依り形成した六方晶AlN層をIII族窒化物半導体接合層として備えた上記の積層構造体には、上記実施例1に記載の如くのp形及びn形オーミック電極を設けて、LEDを構成した。
【0089】
LEDに、20mAの順方向電流を通流した際の発光波長は、上記実施例に記載のLEDと略同一の約460nmであった。また、Al被膜の窒化に依り形成した晶系が六方晶に画一的に統一されたAlN層をIII族窒化物半導体接合層として用いたために、立方晶の結晶塊の混在が無い六方晶のIII族窒化物半導体結晶から発光層が形成されているため、LEDチップ間の発光波長は均一であった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明に依れば、結晶性に優れる良質で、且つ、表面の平坦性に優れるIII族窒化物半導体層をもたらすことができ、従って、高性能の半導体素子として利用できる。
【符号の説明】
【0091】
10 LED
11 LED用積層構造体
101 珪素単結晶基板
102 非化学量論的な組成の炭化珪素層
103 III族窒化物半導体接合層(AlN層)
104 III族窒化物半導体超格子構造層
105 III族窒化物半導体下部クラッド層
106 III族窒化物半導体発光層
107 III族窒化物半導体上部クラッド層
108 III族窒化物半導体コンタクト層
109 p形オーミック電極
110 n形オーミック電極
20 LED
21 LED用積層構造体
201 珪素単結晶基板
202 非化学量論的な組成の炭化珪素層
203 III族窒化物半導体接合層(AlN層)
204 III族窒化物半導体超格子構造層
205 III族窒化物半導体下部クラッド層
206 III族窒化物半導体発光層
207 III族窒化物半導体上部クラッド層
208 III族窒化物半導体コンタクト層
209 p形オーミック電極
210 n形オーミック電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素単結晶基板と、その基板の表面に設けた炭化珪素層と、その炭化珪素層に接して設けたIII族窒化物半導体接合層と、そのIII族窒化物半導体接合層上にIII族窒化物半導体からなる超格子構造層を備えた半導体素子であって、炭化珪素層は立方晶で格子定数が0.436nmを超え、0.460nm以下の、組成的に珪素を富裕に含む非化学量論的な組成の層であり、III族窒化物半導体接合層は、組成がAlGaIn1−αα(0≦X、Y、Z≦1、X+Y+Z=1、0≦α<1、Mは窒素以外の第V族元素である。)である、ことを特徴とする半導体素子。
【請求項2】
III族窒化物半導体からなる超格子構造層が、アルミニウム(Al)組成を相違する窒化アルミニウム・ガリウム(AlGa1−XN:0≦X≦1)層を交互に積層した層である、ことを特徴とする請求項1に記載の半導体素子。
【請求項3】
アルミニウム組成を相違する窒化アルミニウム・ガリウム層でアルミニウム組成を小とする層が、III族窒化物半導体接合層に接していることを特徴とする請求項2に記載の半導体素子。
【請求項4】
III族窒化物半導体からなる超格子構造層が、ガリウム(Ga)組成を相違する窒化ガリウム・インジウム(GaIn1−QN:0≦Q≦1)層を交互に積層した層である、ことを特徴とする請求項1に記載の半導体素子。
【請求項5】
ガリウム組成を相違する窒化ガリウム・インジウム層でガリウム組成を大とする層が、III族窒化物半導体接合層に接している、ことを特徴とする請求項4に記載の半導体素子。
【請求項6】
III族窒化物半導体からなる超格子構造層が、膜厚が5モノレイヤー(ML)〜30MLの範囲内である、ことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の半導体素子。
【請求項7】
珪素単結晶基板が、表面を{111}結晶面とする基板であり、III族窒化物半導体接合層が、六方晶のウルツ鉱結晶型窒化アルミニウム(AlN)層である、ことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の半導体素子。
【請求項8】
珪素単結晶基板が、表面を{001}結晶面とする基板であり、III族窒化物半導体接合層が、立方晶の閃亜鉛鉱結晶型窒化アルミニウム(AlN)層である、ことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−258988(P2011−258988A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200153(P2011−200153)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【分割の表示】特願2005−229426(P2005−229426)の分割
【原出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【Fターム(参考)】