説明

半導体結晶の製造方法

【課題】結晶欠陥の少ない高品質な半導体結晶を再現性よく得ることにある。
【解決手段】結晶成長用のルツボ6を加熱するためのヒータ3を有する炉内にルツボ6を設置し、ルツボ6内に収容された半導体融液5をルツボ6の底部に設けられた種結晶10と接触させ、半導体融液5を種結晶10側から上方に向けて徐々に固化させて半導体結晶を製造する方法であって、ヒータ3からルツボ6への熱線を遮蔽するための熱線遮蔽治具4を徐々に上方に移動させ、熱線遮蔽治具4の移動に伴って半導体結晶12の成長を進行させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体融液を固化させて半導体結晶を成長させる半導体結晶の製造方法に関し、更に詳しくは、ルツボの底部に種結晶を配して、半導体融液を種結晶側から上方に向けて徐々に固化させる半導体結晶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまでに、III−V族化合物等の半導体結晶の結晶成長方法として、半導体融液をル
ツボ等の容器に収容し、半導体融液の一端を種結晶に接触させた状態で種結晶側から他端に向けて徐々に固化させることにより、単結晶を成長させる結晶成長技術が多数開発され、実用に供されてきた。
例えば、縦型のルツボに半導体の原料融液を収容し、ルツボの下端に種結晶を配して、下方から上方へ向けて半導体結晶を成長させる、いわゆる縦型成長法としては、垂直ブリッジマン(Vertical Bridgman:VB)法、垂直温度勾配凝固(Vertical Gradient Freeze:VGF)法などが知られている。
【0003】
VB法は、半導体融液を収容するルツボと、ルツボの周囲に配置した加熱用ヒータと、ルツボを前記ヒータに対して相対的に移動する手段とを有し、ルツボを前記ヒータの加熱領域内から徐々に移動させることにより、ルツボの一端から半導体融液を固化、成長させる単結晶の製造方法である。
VGF法は、半導体融液を収容するルツボと、ルツボの周囲に配管した加熱用ヒータとからなり、ルツボ加熱用ヒータに勾配のある温度分布を持たせて、その温度分布の勾配を保持したままヒータ温度を全体的に降下させて行くことでルツボの一端から半導体融液を固化、成長させる単結晶の製造方法である。
これらの結晶成長方法に関しては、非特許文献1、2に詳しく解説が記載されている。また、特許文献1〜4等にもその応用技術が記載されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、原料融液を収容するルツボと、ルツボの周囲に配置した温度勾配炉と、温度勾配炉をルツボに対して相対的に移動する手段とを有し、ルツボの一端から固化成長させる単結晶の製造装置において、ルツボの壁内にBを含有させたBN(窒化ホウ素)製ルツボを用いた単結晶の製造装置が記載されている。特許文献1では、使用時にBN製ルツボの壁面から徐々にBが染み出してB膜でルツボの壁面が覆われるので、原料融液とルツボ表面の凹凸壁面とが接触することによって生じる結晶核の発生を防止している。
【0005】
【非特許文献1】干川圭吾編著、1994年5月版、(株)培風館刊、「アドバンストエレクトロニクス I−4 バルク結晶成長技術」
【非特許文献2】日本学術振興会第161委員会編、1999年6月版、(株)培風館刊、「現代エレクトロニクスを支える単結晶成長技術」
【特許文献1】特許第2585415号公報
【特許文献2】特許第2664085号公報
【特許文献3】特許第2850581号公報
【特許文献4】特許第3391503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したVB法、VGF法による従来の半導体結晶の製造技術では、VB法、VGF法のいずれにも、次に述べるような欠点があり、両方法の欠点を同時に解決
できる結晶成長方法は未だ開発されていない。
【0007】
VB法は、炉体の構成や温度制御が比較的簡単ですむという利点があるが、一方で、炉内でルツボを移動させなければならないため、必然的に炉内容積が大きくなり、装置が大型化するという欠点がある。更に、炉内でヒータに対してルツボを移動させるため、ルツボ前後にある空間の容積が時々刻々変化し、また、熱容量の大きな原料を収容したルツボが移動するため、炉内の熱容量分布も変化する。これにより、結晶成長の進行に伴って、炉内の温度分布も初期の設定から大きくずれていってしまい、結晶成長界面の熱環境を結晶成長中に一定に保つことが難しい。その結果、安定した結晶成長条件の設定マージンが狭くなり、再現性良く単結晶成長させることが難しくなっている。更に、成長した結晶にかかる熱応力も大きくなりやすく、また、結晶の頭部(種結晶側)と尾部(種結晶とは反対側)で結晶の受ける熱履歴が異なってしまうため、結晶中に欠陥が発生しやすく、また、その分布にばらつきが生じやすいという問題がある。
【0008】
VGF法は、ルツボを移動させる必要が無いことから、VB法とは逆に、炉体をコンパクトに設計しやすく、また結晶成長中の炉内温度分布も変化しにくいという利点がある反面、加熱用ヒータに勾配のある温度分布を持たせ、これを結晶成長中はプログラム制御しなければならないため、温度制御が複雑で難しいという欠点がある。加熱用ヒータに勾配のある温度分布を持たせるには、一般的に複数のヒータを多段に連れて、それぞれの設定温度を変える手法が用いられるが、それぞれのヒータの温調が相互干渉しやすく、制御が非常に難しくなる。また、ヒータを多段に連ねると、ヒータとヒータのつなぎ目に非発熱部ができてしまい、炉内の温度勾配が一様になりにくい。その結果、結晶成長界面がヒータのつなぎ目部分を通過する際に、成長界面形状に乱れを生じ、結晶欠陥の発生原因になってしまう。更に、成長炉を長期間使っていると、ヒータに劣化が生じるが、設定温度の異なる個々のヒータの劣化度合いにはばらつきが出るため、炉内の温度分布が気付かないうちにずれてしまうということも往々にして起こる。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、半導体結晶の製造方法において、結晶欠陥の少ない高品質な半導体結晶を再現性よく得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、結晶成長用のルツボを側面より加熱するためのヒータを有する炉内に前記ルツボを設置し、前記ルツボ内に収容された半導体融液を前記ルツボの底部に設けられた種結晶と接触させ、前記半導体融液を前記種結晶側から上方に向けて徐々に固化させて半導体結晶を製造する方法であって、前記ヒータから前記ルツボへの熱線を遮蔽するための熱線遮蔽治具を徐々に上方に移動させ、前記熱線遮蔽治具の移動に伴って前記半導体結晶の成長を進行させるようにしたことを特徴とする半導体結晶の製造方法である。
【0011】
本発明の第2の態様は、結晶成長用のルツボを側面より加熱するためのヒータを有する炉内に前記ルツボを設置し、前記ルツボ内に収容された半導体融液を前記ルツボの底部に設けられた種結晶と接触させ、前記半導体融液を前記種結晶側から上方に向けて徐々に固化させて半導体結晶を製造する方法であって、前記ヒータから前記ルツボへの熱線を遮蔽するための熱線遮蔽治具を設け、前記熱線遮蔽治具によって前記半導体融液と前記半導体結晶との結晶成長界面付近及びその下方側部分への前記ヒータからの熱線を遮蔽し、前記熱線遮蔽治具を徐々に上方に移動させることにより、前記結晶成長界面付近の大きな温度勾配を有する前記ルツボ内の温度分布を維持しつつ前記半導体結晶を成長させるようにしたことを特徴とする半導体結晶の製造方法である。
【0012】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様の半導体結晶の製造方法において、前記ヒ
ータ、前記熱線遮蔽治具、及び前記ルツボは、同心円状に配置されていることを特徴とする半導体結晶の製造方法である。
【0013】
本発明の第4の態様は、第1〜第3の態様のいずれかの半導体結晶の製造方法おいて、前記熱線遮蔽治具は、筒体状であることを特徴とする半導体結晶の製造方法である。
【0014】
本発明の第5の態様は、第4の態様の半導体結晶の製造方法において、前記筒体状の熱線遮蔽治具には、熱線遮蔽量を調整するために、その一部に穴あけ加工、及び/又は不均一な肉厚加工が施されていることを特徴とする半導体結晶の製造方法である。
【0015】
本発明の第6の態様は、第1〜第5の態様のいずれかの半導体結晶の製造方法おいて、前記ヒータは、前記ルツボの被加熱領域よりも長い連続した発熱帯を有していることを特徴とする半導体結晶の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、結晶成長中の結晶成長界面付近の温度勾配を安定に維持することができ、結晶欠陥の少ない高品質な半導体結晶を再現性よく製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
半導体融液を凝固させるためには、融点以下の温度にまで冷却しなければいけない。即ち、結晶成長を進行させるためには、結晶成長界面付近に、常に結晶成長の進行方向に対してある程度の温度勾配を付けておくことが必要不可欠である。一方、凝固した後の半導体結晶の内部には、できるだけ温度勾配を付けたくない。半導体結晶内に温度勾配があると、結晶の線膨張係数の温度依存性に起因して熱応力が発生し、これが半導体結晶中に欠陥を生じさせるためである。また、凝固前の半導体融液中にも、なるべく温度勾配を付けたくない。例えば、III−V族化合物の半導体融液を必要以上に加熱すると、V族元素の
解離という問題が生じ、成長結晶の組成を乱す原因になるからである。
このため、結晶成長中のルツボ内の温度分布は、図1に模式的に示したように、結晶成長界面近傍のみに常にある程度大きな温度勾配があり、それ以外の上方及び下方の位置・場所、即ち半導体結晶中と半導体融液中の温度勾配は、極力小さくすることが理想的である。
【0018】
前述したVB法では、ルツボ加熱用のヒータの温度分布を図1のように設定することは可能である。しかし、VB法ではルツボを移動させなければならないことから、ルツボ移動に伴う炉内の温度分布の変動を避けることができず、図1に示すような温度分布を結晶成長中に維持することが困難である。また、VGF法では、ヒータの設定温度を制御して成長を進行させなければならず、図1に示したような温度分布を、その形状を保ったまま連続的に上方に移動させるように制御することは難しい。
【0019】
本発明者は、上記の問題を解決すべく種々検討した結果、ヒータからルツボ側面側への熱線を遮蔽するための熱線遮蔽治具を用いることで、図1に示すような形のルツボ内の温度分布を、結晶成長中に安定的に維持可能な方法を案出した。
【0020】
以下に、本発明に係る半導体結晶の製造方法の一実施形態を図面を用いて説明する。
【0021】
(結晶成長炉の構造)
図2は、本実施形態で用いた結晶成長炉の概要を示す断面模式図である。
結晶成長炉1は、成長する化合物半導体結晶の原料を収容する容器としてのルツボ6と、ルツボ6を収容するルツボ収容容器としてのサセプタ7と、サセプタ7を保持するサセプタ支持部材8と、ルツボ6を側面から加熱する加熱手段としての外周加熱ヒータ3とを
備える。外周加熱ヒータ3は、図示例では、炉内に上下に配置された2つの外周加熱ヒータ3a、3bから構成されている。
また、サセプタ7と外周加熱ヒータ3との間の空間には、外周加熱ヒータ3からの熱線を遮蔽するための熱線遮蔽治具4が設けられている。
更に、結晶成長炉1は、複数の外周加熱ヒータ3が発する熱の結晶成長炉1の外部への伝熱を防止する複数の断熱材2と、これら断熱材2等を外部から密閉して覆う、天井部及び底板部を有する円筒状のチャンバー11とを備える。
上記の結晶成長炉1の炉部材は、ヒータ3の電極や温度制御用の熱電対(いずれも図示省略)などの一部の部材を除いて、ほぼチヤンバ11の中心軸に対して同心円状に配置されている。
結晶成長炉1で成長する化合物半導体結晶は、一例として、III−V族化合物半導体で
あるGaAsの単結晶である。
【0022】
ルツボ6は、円筒体状の直胴部と、直胴部の下端に接続して設けられ、下方に向かって漸次縮径して形成された円錐筒体状の傾斜部と、傾斜部に接続して設けられ、化合物半導体結晶の種結晶10を収容する種結晶配置部としての有底円筒体状の細径部とからなる。ルツボ6の直胴部は、一例として、直径160mm、長さ300mmの円筒である。また、ルツボ6は、熱分解窒化ホウ素( Pyrolytic Boron Nitride :pBN)から形成される
。なお、ルツボ6は石英から形成することもできる。
すなわち、ルツボ6は、細径部を底部に有すると共に、直胴部の上端にルツボ開口部を有する。ルツボ6には、細径部に種結晶10が収容されると共に、ルツボ開口部から導入された化合物半導体結晶の原料と、必要に応じてp型用又はn型用の所定のドーパントとが所定量ずつ収容される。化合物半導体結晶の原料には、成長する化合物半導体の多結晶を用いる。また、ルツボ6には、B等の液体封止材9を更に収容してもよい。
【0023】
サセプタ7はグラファイトから形成され、ルツボ6を保持して収容する。また、サセプタ支持部材8は、結晶成長炉1内で昇降及び回転ができるように設けられている。そして、サセプタ支持部材8の上にサセプタ7が搭載されて保持される。従って、サセプタ支持部材8を回転することにより、結晶成長中にルツボ6を回転させることができる。
【0024】
熱線遮蔽治具4は、例えば、厚さ1mmのモリブデン板からなる筒状の部材で、炉外の機構(図示せず)により昇降自在に設けられている。また、熱線遮蔽治具4は、昇降するだけでなく、サセプタ7の周囲を回転自在に設けてもよい。一例として、サセプタ支持部材8を回転する駆動機構を利用して、サセプタ支持部材8の回転に伴って熱線遮蔽治具4が昇降し、或いは昇降及び回転するように構成する。
熱線遮蔽治具4は、外周加熱ヒータ3からの熱線を遮蔽する能力を有し、炉内で熱変形せず、かつ成長する半導体結晶に対して不純物となる元素を放出しない材料であれば、どのような材質を選定しても構わない。モリブデン以外にも、例えば、タングステンなどの金属や、アルミナ、SiCなどのセラミクス、グラファイトやpBN、さらにこれらの複合材料などから構成することも可能である。
【0025】
結晶成長炉1内に配置される複数の外周加熱ヒータ3(3a、3b)は、サセプタ7及びサセプタ支持部材8の周囲を囲むように結晶成長炉1の内部の所定の位置にそれぞれ配置される。上部の外周加熱ヒータ3aは、その発熱部の均熱帯内にルツボ6が配置されており、ルツボ6の被加熱領域、即ち傾斜部を含むルツボ6内の融液5を側面からほぼ均等に加熱することができる。サセプタ7はサセプタ支持部材8により支持されているため、上部の外周加熱ヒータ3aで加熱された熱は、その多くがサセプタ支持部材8を通じて炉の下方に放熱される。このため、融液5内の上下方向の温度分布は、上部の外周加熱ヒータ3aによりほぼ均等に加熱されているにもかかわらず、下方ほど低温になるような温度勾配を持つことになる。この温度勾配が必要以上に大きくなることを避けるため、下部の
外周加熱ヒータ3bによりサセプタ支持部材8を加熱して、融液5内にできる上下方向の温度勾配を調整する。一般に、上下の外周加熱ヒータ3a、3bの設定温度は、上部のヒータ3aよりも下部のヒータ3b方が低く設定される。
外周加熱ヒータ3は、一例として、グラファイト等の材料から形成される抵抗加熱ヒータで構成される。なお、外周加熱ヒータ3は、炭化ケイ素(SiC)ヒータ、赤外線加熱ヒータ、RFコイルで加熱した発熱体を2次ヒータとして用いるヒータ等で構成することもできる。
【0026】
断熱材2は、複数の外周加熱ヒータ3の外側を包囲して設けられる。断熱材2を設けることにより、複数の外周加熱ヒータ3が発した熱を、ルツボ6に効率的に伝熱させることができる。断熱材2は、一例として、グラファイトの成型材から構成される。なお、断熱材2は、アルミナ材、グラスウール、耐火レンガ等で構成することもできる。
【0027】
チャンバー11は、ルツボ6と、ルツボ6を収容するサセプタ7と、サセプタ7を保持するサセプ夕支持部材8と、複数の外周加熱ヒータ3と、断熱材2及び熱線遮蔽治具4とを密閉する。なお、結晶成長炉1は、チャンバー11内の雰囲気を所定のガス雰囲気に設定する機構と、チャンバー11内の圧力を一定値に保つガス圧制御機構とを有する。
【0028】
(本実施形態の半導体結晶の製造方法)
はじめに、外周加熱ヒータ3の加熱により、ルツボ6内に収容したドーパントを含む化合物半導体結晶の原料を所定の温度で融解し、融解した融液5を、ルツボ6の底部に設置された種結晶10と接触させた状態に保持する。この状態においては、熱線遮蔽治具4の上端は種結晶10の上端付近に置かれる。ここで、上端付近とは、熱線遮蔽治具4により外周加熱ヒータ3から種結晶10への熱が遮蔽され、外周加熱ヒータ3からの熱で種結晶10が加熱・溶解するのを防ぐ程度に、熱線遮蔽治具4によって種結晶10が外周加熱ヒータ3に対して隠れているような位置をいう。
次に、熱線遮蔽治具4を徐々に上昇させることにより、サセプタ7の側面を加熱する外周加熱ヒータ3からの熱線を少しずつ遮蔽していく。この結果、融液5の温度が下方から順に降下する。ルツボ6内では細径部の種結晶10と接触している融解した化合物半導体原料の融液5から単結晶12の成長が始まり、種結晶10側から結晶成長炉1の上方に向かって融液5が徐々に固化し、化合物半導体の単結晶12が成長していく。この間、サセプタ7は、融液5内の温度分布を軸対称に保つため回転させられていることが望ましいが、上下方向の移動は必ずしも必要としない。また、外周加熱ヒータ3の設定温度の変更も不要である。
【0029】
上部の外周加熱ヒータ3aは、ルツボ6の被加熱領域よりも長い連続した発熱帯(均熱帯)を有し、ルツボ6内の融液5はほぼ均等に加熱される。ここで、ルツボ6の被加熱領域とは、ルツボ6内で原料が収容されている部分の側面を指す。このほぼ均等に加熱された領域に熱線遮蔽治具4を挿入すると、外周加熱ヒータ3aからルツボ6側面への熱線が熱線遮蔽治具4により遮蔽され、円筒状の熱線遮蔽治具4の上端部4a付近に位置するルツボ6内の温度分布には、ある程度大きな温度勾配が生じ、熱線遮蔽治具4の下方側の温度は低下する。このため、ルツボ6内の温度分布は、図1に近似するような形の温度分布となり、熱線遮蔽治具4の上端部4a付近に、融液5と単結晶12との結晶成長界面13が形成される。従って、熱線遮蔽治具4を徐々に上昇すると、熱線遮蔽治具4の上昇に追従して結晶成長界面13も上昇し、単結晶12の成長が進行していくことになる。
【0030】
このように、本実施形態の半導体結晶の製造方法では、上部の外周加熱ヒータ3aの発熱帯(均熱帯)により均一に加熱される温度領域に熱線遮蔽治具4を移動させる構成なので、単結晶成長中の結晶成長界面13付近の温度勾配を安定に維持することができ、結晶欠陥が少なく、その分布が均一な高品質な半導体結晶を再現性よく製造できる。
更に、上述したVB法、VGF法と比較すると、本実施形態の製造方法によれば、次のような効果が得られる。VB法と比較すると、VB法のようにルツボを炉内で移動させないので、炉内の温度ゆらぎを低減でき、炉体をコンパクトにでき、残留歪の少ない結晶を成長することが可能となる。また、VGF法と比較すると、ヒータによる温度勾配分布の移動制御を不要ないしシンプル化でき、結晶成長中の結晶成長界面形状の制御を安定化でき、ヒータのゾーン数を減少でき、run-to-run(各結晶成長回毎)の結晶成長条件の変動を小さくすることができる。
【0031】
(他の実施形態)
上記実施形態では、単純な円筒形状の熱線遮蔽治具(熱線遮蔽部材、熱遮蔽体)4を用いたが、本発明の結晶成長方法においては、熱線遮蔽治具の形状を変更することで、結晶成長界面や凝固後の結晶内部の温度勾配をある程度、自由に変更・調整することができるという特長を有する。そしてこれにより、成長結晶中に生じる結晶欠陥を減少させることができ、単結晶化の容易さと欠陥抑制とのバランスを調整して両立させやすくできる。
【0032】
図3は、熱線遮蔽治具4の形状として考えられる他の実施形態を示したものである。
図3(a)は、熱線遮蔽治具4の上端部4aを、上方に行くに従って肉厚が薄くなるテーパ状の断面形状部20としたものである。これにより、結晶成長界面近傍にできる温度勾配を、図2に示す熱線遮蔽治具4よりも、少し緩和・低減することができる。また、斜めにテーパ状になっている部分の角度を変えることで、温度勾配を変えることができる。また斜めになっている部分は、必ずしも一定の比率で直線的に肉厚が減少している必要はなく、放物線状や階段状など色々に変化させてもよい。
【0033】
図3(b)は、熱線遮蔽治具4の上端部4aに、熱線を部分的に透過させるための複数の小穴21を設けたものである。小穴21は、図示例では貫通穴となっているが、肉厚を薄くしただけの非貫通穴でも良い。この小穴21を設けることにより、凝固直後の結晶を加熱することができるため、成長界面近傍の温度勾配を、図2に示す熱線遮蔽治具4よりも、少し緩くすることができる。小穴21を設ける場所と穴の大きさ、形状、数を変更することで、所望の温度勾配が得られるように調整を図ることができる。
【0034】
図3(c)は、熱線遮蔽治具4の上端部4aよりも下方側に、熱線を部分的に透過させるための複数の小穴21を設けたものである。小穴21は、図示のような貫通穴でも肉厚を薄くしただけの非貫通穴でも良い。この小穴21を設けることにより、凝固した結晶12を加熱することができるため、結晶12が冷えすぎることを防ぐ効果が得られる。これは、結晶12中の残留熱歪を低減し、クラックの発生を防止する上で効果的である。結晶12内の温度分布は、小穴21を設ける場所と穴の大きさ、形状、数を変更することで調整を図ることができる。
【0035】
図3(d)は、熱線遮蔽治具4の一部に窓22を開けた構造の例である。これは、図3(b)と同様の効果を狙ったものであるが、開口面積が大きい分だけ効果の度合いも大きくできる。窓22の位置を図3(d)に示す位置よりも下方に下げれば、図3(c)と同様の効果も得られる。
【0036】
図3(e)、図3(f)は、熱線遮蔽治具4の上端部4aに矩形や三角形の切欠き23、24を施して、上端部4aを櫛形にしたものである。これらは、いずれも図3(a)と同様の効果を狙ったものである。
これらは、あくまでも一例であって、本発明で用いられる熱線遮蔽治具は、図2,図3に例示した範囲に限定されるものでは勿論なく、他の変形例も色々と考えられる。また、上記に示した熱線遮蔽治具を組み合わせた構造としてもよい。
更に、熱線遮蔽治具は、必ずしも一様な材質からなる必要はなく、異なる2種以上の材
料からなる部材を組み合わせて、熱線遮蔽性能や熱伝導率や輻射率の最適化を図ることもできる。例えば、図2に示すようなモリブデン等からなる円筒体の上に、当該円筒体よりも熱線遮蔽性能が小さい、熱線に対して不透明あるいは半透明の材料からなる円環状部を設けて、成長界面近傍の温度勾配を少し緩くするようにしてもよい。また、図2に示すようなモリブデン等からなる下部円筒体の上に、熱線に対して半透明あるいは透明な材料(例えば石英)からなる上部円筒体を設けて、融液5側を上部円筒体で覆うようにしてもよい。
【0037】
図2に示す上記実施形態では、熱線遮蔽治具4を結晶成長炉1の炉体の下部で支持して上下駆動させる構造を採ったが、熱線遮蔽治具4を炉体の上部から吊り下げて上下駆動させる構造とすることも可能である。駆動機構の設置に関しては炉体の上部から熱線遮蔽治具を吊り下げる方が容易であるが、熱線遮蔽治具の吸収した熱を効率よく放熱させ、熱線遮蔽治具の効果を高めるために、炉体の下部で支持して上下駆動させる構造とした方が望ましい。なお、熱線遮蔽治具は、上記実施形態のような一体的なものでなく、たとえば、内筒とその外側の外筒とからなる入れ子構造とし、まず内筒のみが上昇し、次いで内筒下端の外フランジと外筒上端の内フランジが連結されて、内筒と共に外筒も上昇するように構成してもよい。
【0038】
また、熱線遮蔽治具4の上昇速度は、必ずしも一定である必要はなく、成長界面における過冷却度の制御や、不純物をドープした結晶成長においては偏析の制御を目的として、熱線遮蔽治具4の上昇速度を徐々に速く又は遅くしていく実施形態や、プログラム制御で結晶成長中に多段回に熱線遮蔽治具4の上昇速度を変更する実施形態なども考えられる。
【0039】
なお、結晶成長炉1において、化合物半導体の融液5が大気圧以上の解離圧を有する場合、チャンバー11を圧力容器とすることもできる。チャンバー11を圧力容器とすることにより、化合物半導体の融液5が大気圧以上の解離圧を有する場合であっても、液体封止剤9を用いると同時に、チャンバー内を解離圧以上の圧力に設定することにより、融液5の解離を防止して化合物半導体の単結晶を成長させることができる。
また、ルツボ6の全体を石英等から形成されたアンプルに封入することもできる。そして、ルツボ6を封入したアンプルを結晶成長炉1内の所定の位置に設置して、化合物半導体の単結晶を成長することもできる。この場合、熱線遮蔽治具4は、外周加熱ヒータ3とアンプルとの間に設置される。
【0040】
また、結晶成長炉1においては、熱遮蔽部材4を上昇させてルツボ6内の温度(単結晶との界面付近の融液5の温度)を低下させ、ルツボ6内の融液5から単結晶を成長させているが、従来の結晶成長方法、即ちルツボ6を外周加熱ヒータ3に対して下方に移動させたり、外周加熱ヒータ3の設定温度を降下させる方法と組み合わせて単結晶を成長させてもよい。この場合、熱遮蔽部材4は、必ずしも上昇させ続ける必要はない。
【0041】
なお、上記の結晶成長炉1では、GaAsの単結晶だけではなく、他のIII−V族化合
物半導体結晶を成長することもできる。例えば、結晶成長炉1を用いて、InP、InAs、GaSb、又はInSb等の化合物半導体の単結晶を成長することができる。また、結晶成長炉1を用いて、ZnSe、CdTe等のII−VI族化合物半導体結晶、又は、Si、Ge等のIV族半導体結晶の成長をすることもできる。更に、結晶成長炉1を用いて、化合物半導体結晶又は半導体結晶ではない材料の結晶である、金属結晶、酸化物結晶、フッ化物結晶等の結晶を成長することもできる。
本発明は、縦型のルツボを使った結晶成長方法に適用されることが望ましいが、横型のルツボ(ボート)を使った結晶成長方法にも適用が可能である。横型の改良法の場合は、融液を収容するボートとヒータとの間に熱線遮蔽治具を水平方向に挿入すればよい。この時、熱線遮蔽治具には融液からの放熱を助けるための開口部を設けることが望ましい。
【実施例】
【0042】
次に、本発明の実施例を説明する。この実施例では、図2に示す結晶成長炉1を用いて、GaAsの単結晶成長を行った。
ルツボ6は、その直胴部の直径160mm、直胴部の長さ300mm、肉厚0.5mm
のpBN製のものを用い、まず、ルツボ6の細径部に、直径10mm、長さ90mmのGaAsの種結晶10を収納した。続いて、予め合成した塊状のGaAs多結晶をルツボ6内に24000g充填し、次いで、液体封止材9としてのBを400gをルツボ6内に装填した。
次に、このルツボ6を、グラファイト製のサセプタ7に収容した。更に、このサセプタ7を、サセプタ支持部材8上に搭載した。次に、結晶成長炉1を密閉して、結晶成長炉1内を窒素ガスでガス置換した。これにより、結晶成長炉1内のガス雰囲気は、窒素ガス雰囲気となった。
本実施例における熱線遮蔽治具4は、厚さ1mmのモリブデン板からなる円筒状部材を用いた。また、熱線遮蔽治具4の上端部は、図3(a)に示すような、上方に向かって肉厚が薄くなるテーパ状の断面形状とした。
【0043】
続いて、ルツボ6の回転を開始した。ルツボ6の回転は、サセプ夕支持部材8を回転させて行い、ルツボ6の回転速度は3rpmに設定した。また、上下の外周加熱ヒータ3a、3bに通電して、ルツボ6の加熱を開始した。上下の外周加熱ヒータ3a、3bの設定温度は、それぞれ1290℃、1050℃とした。原料セット時における熱線遮蔽治具4の位置は、その上端が種結晶10の上端より数mmだけ下になるように設置して、外周加熱ヒータ3からの熱で種結晶10が加熱され、融解してしまうのを防ぐようにした。これにより、ルツボ6の加熱の開始後、所定時間ルツボ6を加熱し続けることにより、ルツボ6内のGaAs多結晶が完全に融解して融液5が形成され、融液5の下端は種結晶10の先端と接触した状態に保持された。上記のヒータ3a、3bの各設定温度は、融液5をこの状態で保持するために必要な条件を試行錯誤して決定した結果得られたものである。
【0044】
なお、ルツボ6を加熱する工程で、チャンバー11内の雰囲気ガスの体積は膨張する。そこで、チャンバー11内の圧力が0.5MPaを超えないように、チャンバー11内の
圧力を制御した。すなわち、本実施例においては、チャンバー11内の圧力が結晶成長中も常に0.5MPaに保持されるように、自動的かつ連続的にチャンバー11内のガス圧
を制御した。
ルツボ6内のGaAs多結晶を融解させる過程において、ルツボ6内に添加された液体封止材9としてのBは、GaAs多結晶が融解するより早く軟化した。軟化したBは、透明な水飴状になって融液5の表面を覆った。これにより、GaAsの分解によるAsの揮発を抑制できた。
【0045】
このように融液5を形成した後、上下の外周加熱ヒータ3a、3bの制御方式を温度制御からパワー制御に切り替え、融液5の温度が安定するまで2時間保持した。これにより、結晶成長中は、上下の外周加熱ヒータ3a、3bは常に一定のパワーで加熱を続けることになる。ヒータの制御をパワー制御方式に切り替えるのは、温度制御方式だと、熱線遮蔽治具4が熱電対の前を通過した際に、温調のフィードバックに使う熱電対の出力が急激に変化し、ヒータパワーがこれに追随して炉内温度が大きくばらついてしまうためである。
【0046】
結晶成長炉1内の温度が安定した後、熱線遮蔽治具4を、4.5mm/hの速度で約3
日間かけてゆっくりとルツボ6の上端位置まで上昇させた。ルツボ6の回転は、この間3rpmの回転数を保ったまま、結晶成長が完了するまで続けられた。
【0047】
その後、熱線遮蔽治具4の上昇を停止し、そこから更に、上下の外周加熱ヒータ3a、3bの温度がいずれも950℃になるように48時間かけて徐冷し、次いで、上下の外周加熱ヒータ3a、3bの温度が400℃になるまで、−20℃/hの速度で外周加熱ヒータ3a、3bの温度を低下させた。続いて、ルツボ6の回転を止め、上下の外周加熱ヒータ3a、3bの通電を停止して、ルツボ6を室温まで冷却した。ルツボ6を室温まで冷却した後、結晶成長炉1からルツボ6を取り出し、液体封止材9であるBを除去して成長した結晶12を取り出した。その結果、得られた成長結晶12が全長にわたってGaAsの単結晶であることが確認された。
【0048】
上記と同じ工程で、連続して20回の結晶成長を実施した。その結果、いずれの結晶成長においても、全長がGaAs単結晶である結晶を得ることができた。すなわち、多結晶化や双晶の発生は1本も見られなかった。
上記実施例の工程で得られた20本のGaAs単結晶の内の1本を選択し、選択した1本のGaAs単結晶の直胴部をスライスし、その頭部側、中央部、尾部側の3箇所から(1 0 0)面を有する略円形状のウェハを抜き出した。次に、ウエハ表面を鏡面研磨し、溶融KOHによるエッチング処理を施して、転位に対応して発生するピットの密度測定、すなわち転位密度測定を実施した。こうして評価したウェハ面内の平均転位密度は、いずれのウェハにおいても0.5×10cm−2以下であった。
【0049】
上述したように、本実施例の結晶成長方法によれば、結晶成長を行っている間中、一貫して結晶成長界面13近傍だけに温度勾配をつけることができ、融液5や成長結晶12中の温度勾配を緩くすることができる。これにより、結晶成長条件が安定し、結晶欠陥が少なく、均質な単結晶を再現性良く得ることができた。このため、成長結晶をスライスして形成される複数の半導体基板間での電気的特性、光学的特性及び機械的特性等のばらつきを低減でき、また、良品基板の取得率を向上させ、原料を効率良く使うことができ、製造コストの低減にもなる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】結晶成長中の理想的なルツボ内温度分布を説明するための説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る半導体結晶の製造方法で用いた結晶成長炉の概略的な縦断面図である。
【図3】本発明に用いる熱線遮蔽治具の他の実施形態を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 結晶成長炉
2 断熱材
3 加熱ヒータ
4 熱線遮蔽治具
5 融液
6 ルツボ
7 サセプタ
8 サセプタ支持部材
9 液体封止材
10 種結晶
11 チャンバー
12 単結晶(半導体結晶)
13 結晶成長界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶成長用のルツボを加熱するためのヒータを有する炉内に前記ルツボを設置し、前記ルツボ内に収容された半導体融液を前記ルツボの底部に設けられた種結晶と接触させ、前記半導体融液を前記種結晶側から上方に向けて徐々に固化させて半導体結晶を製造する方法であって、
前記ヒータから前記ルツボへの熱線を遮蔽するための熱線遮蔽治具を徐々に上方に移動させ、前記熱線遮蔽治具の移動に伴って前記半導体結晶の成長を進行させるようにしたことを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項2】
結晶成長用のルツボを加熱するためのヒータを有する炉内に前記ルツボを設置し、前記ルツボ内に収容された半導体融液を前記ルツボの底部に設けられた種結晶と接触させ、前記半導体融液を前記種結晶側から上方に向けて徐々に固化させて半導体結晶を製造する方法であって、
前記ヒータから前記ルツボへの熱線を遮蔽するための熱線遮蔽治具を設け、前記熱線遮蔽治具によって前記半導体融液と前記半導体結晶との結晶成長界面付近及びその下方側部分への前記ヒータからの熱線を遮蔽し、前記熱線遮蔽治具を徐々に上方に移動させることにより、前記結晶成長界面付近の温度勾配を有する前記ルツボ内の温度分布を維持しつつ前記半導体結晶を成長させるようにしたことを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の半導体結晶の製造方法において、前記ヒータ、前記熱線遮蔽治具、及び前記ルツボは、同心円状に配置されていることを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の半導体結晶の製造方法において、前記熱線遮蔽治具は、筒体状であることを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の半導体結晶の製造方法において、前記筒体状の熱線遮蔽治具には、熱線遮蔽量を調整するために、その一部に穴あけ加工、及び/又は不均一な肉厚加工が施されていることを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の半導体結晶の製造方法において、前記ヒータは、前記ルツボの被加熱領域よりも長い連続した発熱帯を有していることを特徴とする半導体結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−120828(P2010−120828A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298022(P2008−298022)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】