説明

半導体結晶製造方法

【課題】高品質な半導体結晶を再現性よく得ることのできる半導体結晶成長方法および転位密度の均一な半導体結晶を提供する。
【解決手段】半導体結晶成長方法は、半導体の種結晶30と半導体の原料とを収容した容器20を加熱して、原料を半導体融液34とする原料融解工程と、容器20の種結晶30側の一端30aを、種結晶30を収容している側とは反対側の容器20の他端20aよりも低温に保持する温度保持工程と、種結晶30側の半導体融液34の温度の降下量を、他端20a側の半導体融液34の温度の降下量よりも少なくした状態で半導体融液34の温度を降下させて、種結晶30側から容器20の他端20aに向けて半導体融液34を徐々に固化させる結晶成長工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体結晶製造方法に関する。特に、本発明は、半導体融液から成長する半導体結晶のインゴット全長にわたって欠陥密度を低減させる半導体結晶製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、III−V族化合物半導体結晶等の結晶成長方法として、半導体融液をボートやルツボ等の容器に収容して、半導体融液の一端に種結晶を接触させた状態で種結晶側から容器の他端に向けて徐々に半導体融液を固化させることにより単結晶を成長させる結晶成長技術が開発されている。
【0003】
例えば、横型のボートに半導体融液を収容して結晶成長を実施する、水平ブリッジマン(Horizontal Bridgman:HB)法、水平温度勾配凝固(Gradient Freeze:GF)法、水平炉体移動(Traveling Furnace:TF)法、水平帯溶融凝固(Zone Melt:ZM)法等がある。また、縦型のルツボの下端に種結晶を搭載すると共に半導体融液を収容して、ルツボの下方から上方に向けて結晶を成長させる縦型成長法として、垂直ブリッジマン(Vertical Bridgman:VB)法、垂直温度勾配凝固(Vertical Gradient Freeze:VGF)法、垂直帯溶融凝固(Vertical Zone Melt:VZM)法がある。更には、縦型のルツボに収容した半導体融液に種結晶を接触させて、上方から下方に結晶を成長させるカイロポーラス(Kyropulos)法、液体封止技術とカイロポーラス法とを組み合わせた液体封止カイロポーラス(Liquid Encapsulated Kyropulos:LEK)法が知られている。
【0004】
そして、例えば、特許文献1には、原料融液を収容する容器と、容器の周囲に配置した温度勾配炉と、温度勾配炉を容器に対して相対的に移動する手段とを有し、容器の一端から固化成長させる単結晶の製造装置において、容器の壁内にBを含有させたBN製容器を用いた単結晶の製造装置が記載されている。
【0005】
特許文献1に記載の単結晶製造装置によれば、使用時にBN製容器の壁面から徐々にBが染み出してB膜でルツボの壁面が覆われるので、原料融液とルツボ表面の凹凸壁面とが接触することにより生じる結晶核の発生を防止できる。
【特許文献1】特許第2585415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の化合物半導体結晶の製造技術や特許文献1に記載の従来の化合物半導体結晶の製造装置では、結晶内部に発生する転位欠陥の密度が十分に低減できず、結晶成長方向に沿って結晶内部の欠陥密度の分布が大きく変化する場合があった。そして、結晶内部の欠陥の発生が甚だしい場合、双晶及び多結晶が結晶成長中に生成する場合があった。更に、結晶成長ごとに欠陥密度及び欠陥密度の分布形態がばらつくことがあり、低欠陥の単結晶を再現性よく得ることが困難であった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、結晶欠陥が少なく高品質な半導体結晶を再現性よく得ることのできる半導体結晶成長方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、発明者が得た以下の知見によりなされたものである。すなわち、まず、従来の化合物半導体結晶成長方法では、結晶成長の全域にわたり、結晶成長界面が略一定の温度勾配下を通過するか、あるいは略一定の温度勾配を維持しつつヒータ温度が降下する。単結晶の成長を開始するためには、種結晶のみから確実に結晶の成長が開始されなければならい。そのため、半導体融液はある程度の温度勾配下になければならない。この場合に、半導体融液内の温度勾配が緩やかすぎると、結晶成長開始時に種結晶以外の場所に結晶核が析出する。結晶核が析出すると、単結晶の成長が阻害される。一方、この温度勾配を急にしすぎると、凝固した結晶内部に熱歪みが生じ、転位などの結晶欠陥が生じる原因となる。
【0009】
しかしながら、結晶成長の初期は、半導体融液を単結晶の成長に必要な比較的大きい温度勾配下に置く必要があるが、凝固する結晶がまだ小さい間は、成長した結晶内部に生じる温度差もわずかであり、成長した結晶中の熱応力はそれほど大きくない。したがって、成長した結晶中に結晶欠陥も生じにくいと本発明者は考察した。更に、結晶成長が進行して、成長した結晶の領域の体積が増加すると、半導体融液から成長した結晶へと伝搬する熱流も安定するので、半導体融液中の温度勾配を緩やかにしても、単結晶の成長は阻害されることなく続けることができる。そして、温度勾配を緩やかにすることにより、体積が増加した成長結晶の内部に生じる温度差も低減することができるので、成長した結晶中の結晶欠陥の発生も大幅に抑制できると本発明者は考察した。このような考察により、本発明者は、連続的に進行する結晶成長中に、上述した温度勾配の緩和も連続的に制御する、すなわち、結晶成長の初期段階と、後期段階とで、半導体融液中の温度勾配を徐々に変化させるという知見に至った。
【0010】
したがって、本発明は、上記目的を達成するため、半導体の種結晶と半導体の原料とを収容した容器を加熱して、原料を半導体融液とする原料融解工程と、容器の種結晶側の一端を、種結晶を収容している側とは反対側の容器の他端よりも低温に保持する温度保持工程と、種結晶側の半導体融液の温度の降下量を、他端側の半導体融液の温度の降下量よりも少なくした状態で半導体融液の温度を降下させて、種結晶側から容器の他端に向けて半導体融液を徐々に固化させる結晶成長工程とを備える半導体結晶成長方法が提供される。
【0011】
また、上記半導体結晶成長方法において、結晶成長工程は、種結晶側の半導体融液の温度の降下速度を、他端側の半導体融液の温度の降下速度よりも遅くした状態で、半導体融液の温度を降下させて半導体融液を固化させてもよい。
【0012】
また、本発明は、上記目的を達成するため、複数個の加熱用ヒータを備える結晶成長炉内に、種結晶を収容した種結晶配置部を有すると共に、半導体の原料を収容した結晶成長用の容器を収容する容器収容工程と、容器に収容した原料が融解した半導体融液に種結晶を接触させた状態で、容器の種結晶側を加熱する加熱用ヒータの温度の降下量を、容器の種結晶配置部とは別の端部を加熱する加熱用ヒータの温度の降下量よりも少なくした状態で、半導体融液の温度を降下させて、種結晶側から容器の他端に向けて半導体融液を徐々に固化させる結晶成長工程とを備える半導体結晶成長方法が提供される。
【0013】
また、上記半導体結晶成長方法において、結晶成長工程は、容器の種結晶側を加熱する加熱用ヒータの温度の降下速度を、種結晶配置部とは別の端部を加熱する加熱用ヒータの温度の降下速度よりも遅くした状態で、半導体融液の温度を降下させてもよい。
【0014】
また、上記半導体結晶成長方法において、結晶成長工程は、容器の種結晶側を加熱する加熱用ヒータの温度を一定に保ちつつ、種結晶配置部とは別の端部を加熱する加熱用ヒータの温度を降下させて、半導体融液の温度を降下させてもよい。
【0015】
また、上記半導体結晶成長方法において、結晶成長工程は、容器の種結晶側の加熱温度と、種結晶配置部とは別の端部の加熱温度とを制御して、結晶成長中の半導体融液内の結晶成長方向(容器の長手方向)の温度勾配を、結晶成長の進行につれて結晶成長の開始時よりも小さくしてもよく、結晶成長工程は、容器の種結晶側の加熱温度を略一定に保持してもよい。
【0016】
また、上記半導体結晶成長方法において、結晶成長工程は、種結晶配置部とは別の端部を加熱する加熱用ヒータの温度の降下速度を結晶成長の開始時の降下速度から徐々に遅くしてもよい。あるいは、結晶成長工程は、種結晶配置部とは別の端部を加熱する加熱用ヒータの温度の降下速度を結晶成長の開始時の降下速度から徐々に遅くすることにより、結晶成長界面の移動速度を略一定にしてもよい。
【0017】
また、上記半導体結晶成長方法において、結晶成長工程は、結晶成長中の半導体融液内の結晶成長方向(容器の長手方向)の温度勾配を、結晶成長の進行につれて結晶成長の開始時よりも小さくすることにより、結晶成長界面の移動速度を略一定にしてもよい。
【0018】
また、上記半導体結晶成長方法において、半導体融液を収容する容器が水平に載置され、容器の一端に種結晶が配置され、半導体融液の凝固が水平方向に進行する水平ボート法を用いてもよく、又は、半導体融液を収容する容器が垂直に保持され、容器の下端に設けられた種結晶収容部に種結晶が配置され、半導体融液の凝固が下方から上方に向けて進行する縦型ボート法を用いてもよい。若しくは、半導体融液を収容する容器が垂直に保持され、容器の上端に種結晶が配置され、半導体融液の凝固が上方から下方に進行するKyropulos法を用いてもよい。
【0019】
また、上記半導体結晶成長方法において、結晶成長炉は、容器を包囲する位置に配置されて容器の種結晶側を加熱する加熱用ヒータと、容器の側面を除く端面を加熱する位置に配置されて容器の種結晶側とは別の端部を加熱する加熱用ヒータとを有してもよい。
【0020】
また、上記半導体結晶成長方法において、結晶成長炉は、容器を包囲する位置に配置されて容器を加熱する加熱用ヒータと、容器の長手方向に対して垂直な位置に発熱面を含み、容器の種結晶側とは別の端部を加熱する加熱用ヒータとを有してもよい。
【0021】
また、上記半導体結晶成長方法において、容器は、断面が円形であり、結晶成長工程は、半導体融液及び半導体融液から成長する成長結晶内の等温面が略平坦に維持された状態で結晶成長が進行するように、半導体融液を凝固させてもよい。
【0022】
また、上記半導体結晶成長方法において、結晶成長工程は、少なくとも結晶成長中において、容器を包囲して配置されている加熱用ヒータの温度が、容器の種結晶側とは別の端部を加熱する加熱用ヒータの温度よりも低い温度に保持されてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の半導体結晶成長方法によれば、結晶欠陥が少なく高品質な半導体結晶を再現性よく得ることのできる半導体結晶成長方法を提供することができ、更には、転位密度の均一な半導体結晶を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る結晶成長炉の断面の概要を示す。
【0025】
(結晶成長炉1の構造)
第1の実施の形態に係る結晶成長炉1は、成長する化合物半導体結晶の原料を収容する容器としてのルツボ20と、ルツボ20を収容するルツボ収容容器としてのサセプタ50と、サセプタ50を収容して保持するサセプタ支持部材55と、ルツボ20を上部から加熱する上部加熱部としての上部加熱ヒータ10と、ルツボ20を側面から加熱する複数の外周加熱部としての外周加熱ヒータ12とを備える。
【0026】
更に、結晶成長炉1は、加熱用ヒータとしての上部加熱ヒータ10及び複数の外周加熱ヒータ12が発する熱の結晶成長炉1の外部への伝熱を防止する複数の断熱材60と、一の外周加熱ヒータ12(例えば、外周加熱ヒータ12b)と他の外周加熱ヒータ12(例えば、外周加熱ヒータ12c)との間に設けられる断熱材62と、複数の断熱材60及び断熱材62等を外部から覆うチャンバー70とを備える。
【0027】
本実施形態に係る結晶成長炉1は、VGF法で化合物半導体結晶の単結晶を成長する。すなわち、結晶成長炉1は、ルツボ20内に収容した原料融液としての融液34を、ルツボ20の一端に設置された種結晶30と接触させた状態で、種結晶30側のルツボ20の一端を、ルツボ20の他端(ルツボ20の開口部側)よりも低温に保持しつつ、融液34の温度を降下させて、種結晶30側からルツボ20の他端に向けて融液34を徐々に固化させることにより、化合物半導体結晶の単結晶を成長する。そして、結晶成長炉1で成長する化合物半導体結晶は、一例として、III−V族化合物半導体であるGaAsの単結晶である。
【0028】
ルツボ20は、化合物半導体結晶の種結晶30を収容する種結晶配置部としての細径部25と、所定の角度で細径部25に連続して設けられる傾斜部26と、傾斜部26に連続して設けられ、細径部25の長手方向と略平行な部分を含む断面円形の直胴部27とを有する。ルツボ20の直胴部27は、上面視において略円形状であり、一例として、直径160mm、長さ300mmの略円筒形に形成される。また、ルツボ20は、熱分解窒化ホウ素(Pyrolytic Boron Nitride:pBN)から形成される。なお、ルツボ20は石英から形成することもできる。
【0029】
すなわち、ルツボ20は細径部25を底部に有すると共に、略円筒形状の直胴部27の端部にルツボ20の内部を露出するルツボ開口部22を有する。ルツボ20は、細径部25に種結晶30を収容すると共に、ルツボ開口部22から導入された化合物半導体結晶の原料とp型用又はn型用の所定のドーパントとを所定量ずつ収容する。また、ルツボ20は、B等の液体封止剤40を更に収容する。なお、化合物半導体結晶の原料は、成長する化合物半導体の多結晶である。
【0030】
ルツボ20内では、所定の温度で融解した化合物半導体の原料の融液34が細径部25の種結晶30と接触して単結晶の成長が開始される。そして、ルツボ20内において、種結晶30の側から結晶成長炉1の上方に向かって、成長結晶32として徐々に成長していく。
【0031】
サセプタ50はグラファイトから形成され、ルツボ20を保持して収容する。また、サセプタ支持部材55は、結晶成長炉1内で昇降及び回転が自在にできるように設けられる。そして、サセプタ支持部材55の上にサセプタ50が搭載されて保持される。この場合に、サセプタ50の下方のサセプタ下部52がサセプタ支持部材55に接触して、サセプタ支持部材55の上にサセプタ50が搭載される。これにより、ルツボ20内の温度分布を緩やか、かつ、一定に保つことを目的として、結晶成長中にルツボ20を回転させることができる。
【0032】
複数の外周加熱ヒータ12はそれぞれ、結晶成長炉1の上部から下部へ向かう方向に沿って配置される。この場合に、複数の外周加熱ヒータ12は、サセプタ50の周囲を囲むように結晶成長炉1の内部の所定の高さの位置にそれぞれ配置される。具体的には、外周加熱ヒータ12aと、外周加熱ヒータ12aの下に配置される外周加熱ヒータ12bと、外周加熱ヒータ12bの下に配置される外周加熱ヒータ12cと、外周加熱ヒータ12cの下に配置される外周加熱ヒータ12dとが、結晶成長炉1の上部から下部へ向かう方向に沿って配置される。
【0033】
そして、複数の外周加熱ヒータ12の設定温度は、結晶成長炉1の上部から下部へ向かう方向に沿って順次、低下するように設定される。すなわち、外周加熱ヒータ12aの設定温度>外周加熱ヒータ12bの設定温度>外周加熱ヒータ12cの設定温度>外周加熱ヒータ12dの設定温度、となるように複数の外周加熱ヒータ12の設定温度が設定される。
【0034】
上部加熱ヒータ10は、ルツボ開口部22の上方に配置される。すなわち、上部加熱ヒータ10は、種結晶30が収容される細径部25よりもルツボ開口部22の近くに配置される。そして、上部加熱ヒータ10は、ルツボ20内の融液34を、サセプタ上部51及びルツボ開口部22の側から加熱する。すなわち、上部加熱ヒータ10は、ルツボ20の側面を加熱せずに、端面を加熱する。なお、上部加熱ヒータ10は、発熱面を有しており、当該発熱面が、ルツボ20の長手方向に略垂直に配置される。換言すると、当該発熱面が、ルツボ20が収容する融液34の液面と略水平に配置される。
【0035】
上部加熱ヒータ10は、融液34を加熱する熱を融液34の上方から供給することにより、ルツボ20の上方から下方への一方向に熱流が流れるようにする。すなわち、ルツボ20内の融液34を通過する熱流が、ルツボ開口部22側から種結晶30の側に向かって略直線となるように、上部加熱ヒータ10は、所定の熱量の熱を融液34の上方から供給する。
【0036】
また、上部加熱ヒータ10の設定温度は、複数の外周加熱ヒータ12のいずれの設定温度よりも高く設定される。なお、上部加熱ヒータ10は、ルツボ開口部22の上方に配置される限り、その形状及び大きさ、並びに外周加熱ヒータ12に対する位置は問わない。なお、結晶成長炉1は、サセプタ下部52の側からルツボ20を加熱する下部加熱ヒータを更に備えて形成することもできる。下部加熱ヒータは、その加熱面が、ルツボ20内の融液34の液面と略平行となるようにチャンバー70内に配置される。
【0037】
上部加熱ヒータ10、下部加熱ヒータ、及び複数の外周加熱ヒータ12はそれぞれ、一例として、炭化ケイ素(SiC)等の材料から形成される抵抗加熱ヒータで構成される。なお、上部加熱ヒータ10、下部加熱ヒータ、及び複数の外周加熱ヒータ12はそれぞれ、カーボンヒータ、赤外線加熱ヒータ、RFコイルで加熱した発熱体を2次ヒータとして用いるヒータ等で構成することもできる。
【0038】
断熱材60は、複数の外周加熱ヒータ12及び上部加熱ヒータ10の外側を包囲して設けられる。断熱材60を設けることにより、複数の外周加熱ヒータ12及び上部加熱ヒータ10が発した熱を、ルツボ20に効率的に伝熱させることができる。一方、断熱材62は、一の外周加熱ヒータ12と他の外周加熱ヒータ12との間で所定の温度差を確保するために、一の外周加熱ヒータ12と他の外周加熱ヒータ12との間に配置される。なお、断熱材62を設置しなくても一の外周加熱ヒータ12と他の外周加熱ヒータ12との間で所定の温度差が確保される場合、断熱材62を省略することができる。
【0039】
断熱材62は、一例として、グラファイトの成型材から形成される。また、断熱材62は、アルミナ材、グラスウール、又は耐火レンガ等から形成することもできる。
【0040】
チャンバー70は、ルツボ20と、ルツボ20を収容するサセプタ50と、サセプタ50を保持するサセプタ支持部材55と、上部加熱ヒータ10及び複数の外周加熱ヒータ12と、断熱材60及び断熱材62とを密閉する。なお、結晶成長炉1は、チャンバー70内の雰囲気を所定のガス雰囲気に設定する機能と、チャンバー70内の圧力を一定値に保つガス圧制御機能とを有する。
【0041】
なお、本実施形態に係る結晶成長炉1においては、GaAsの単結晶だけではなく、他のIII−V族化合物半導体結晶を成長することもできる。例えば、結晶成長炉1を用いて、InP、InAs、GaSb、又はInSb等の化合物半導体の単結晶を成長することができる。また、結晶成長炉1を用いてAlGaAs、InGaAs、又はInGaP等のIII−V族化合物半導体結晶の三元混晶結晶、若しくは、AlGaInP等のIII−V族化合物半導体結晶の四元混晶結晶の成長にも応用できる。
【0042】
また、結晶成長炉1を用いて、ZnSe、CdTe等のII−VI族化合物半導体結晶、又は、Si、Ge等のIV族半導体結晶の成長をすることもできる。更に、結晶成長炉1を用いて、化合物半導体結晶又は半導体結晶ではない材料の結晶である、金属結晶、酸化物結晶、フッ化物結晶の結晶を成長することもできる。
【0043】
また、本実施形態においてルツボ20内において成長する化合物半導体の融液34が、大気圧以上の解離圧を有する場合、チャンバー70を圧力容器とすることもできる。チャンバー70を圧力容器とすることにより、化合物半導体の融液34が大気圧以上の解離圧を有する場合であっても、液体封止剤40を用いると共に、チャンバー70内を解離圧以上の圧力に設定することにより、融液34の分解等を防止して化合物半導体の単結晶を成長させることができる。
【0044】
また、ルツボ20の全体を石英等から形成されたアンプルに封入することもできる。そして、ルツボ20を封入したアンプルを結晶成長炉1内の所定の位置に設置して、化合物半導体の単結晶を成長することもできる。
【0045】
また、本実施形態に係る結晶成長炉1においては、上部加熱ヒータ10及び複数の外周加熱ヒータ12の設定温度を所定の速度で徐々に低下させて、ルツボ20内の温度を低下させ、ルツボ20内の融液34から単結晶としての成長結晶32を成長させるが、成長結晶32の成長方法はこの方法に限られない。例えば、本実施の形態の変形例においては、サセプタ支持部材55を徐々に降下させることにより成長結晶32を成長させることもできる。
【0046】
図2Aは、本発明の第1の実施の形態に係る結晶成長炉内の結晶成長方向に沿った温度変化の模式図を示す。具体的には、図2A(a)は、種結晶と融液とを収容したルツボの縦断面図であり、図2A(b)は、原料の多結晶を融解するときのルツボ内の温度の状況を示している。更に、図2A(c)は、結晶成長の進行に伴った、ルツボ内の温度変化のプロファイルを示す。
【0047】
まず、図2A(b)に示すように、結晶成長の開始時において、種結晶30の上端である種結晶端30aよりも上のルツボ20内に収容した原料を溶融させる。すなわち、種結晶端30aに対応する位置Pの温度が融点(m.p.)となると共に、位置Pから融液34の液面に対応する位置Pまでの温度が少なくとも融点以上となるように、上部加熱ヒータ10及び複数の外周加熱ヒータ12の温度を設定する。具体的に、ルツボ20内の温度の状況が、温度プロファイル100で示したように、種結晶端30aからルツボ端20aに向かって温度が徐々に上昇するように、上部加熱ヒータ10及び複数の外周加熱ヒータ12の温度を設定する。なお、この場合における融液34の上端の温度、すなわち位置Pにおける温度を温度Tとする。
【0048】
続いて、図2A(c)に示すように、結晶成長を開始させる。具体的には、図2A(c)は、結晶成長の進行に伴い、ルツボ20内の温度の状態が、温度プロファイル100、102、104、106と徐々に変化する様子を示す。まず、原料が融液34となった時点において、上部加熱ヒータ10及び複数の外周加熱ヒータ12の温度を制御することにより、温度プロファイル100を、種結晶端30aの温度が融点よりも低い温度tであると共に、融液34の液面の温度が温度Tよりも低い温度Tである温度プロファイル102に変化させる。温度プロファイル102では、少なくとも位置Pから位置Pまでの範囲内で、ルツボ20の中の温度が、位置Pから位置Pに向けて単調に増加する温度勾配に設定される。したがって、温度プロファイル102では、位置P側が位置P側より高温に設定される。すなわち、温度プロファイル102では、少なくとも位置Pから位置Pまでルツボ20の位置が上昇するに伴い、温度tから温度Tまで温度が単調に上昇する。
【0049】
この場合において、種結晶端30aの融液34の温度の降下量が、ルツボ20の開口部側の融液34の温度の降下量よりも少なくなるように、上部加熱ヒータ10及び複数の外周加熱ヒータ12の温度をそれぞれ制御する。一例として、種結晶30の側を加熱する外周加熱ヒータ12の温度を、所定の温度において一定となるように保持する。そして、融液34の液面の側を加熱する上部加熱ヒータ10の温度を、液面付近の温度が温度Tから温度Tに降下するように、所定の温度に降下させる。
【0050】
更に、温度プロファイル102から温度プロファイル104に温度の状態が変化するように結晶成長を進行させる。この場合においても、上部加熱ヒータ10及び外周加熱ヒータ12の温度を制御して、種結晶端30aの温度が温度tよりも低い温度tであると共に、融液34の液面の温度が温度Tよりも低い温度Tとなるような温度プロファイル104に変化させる。同様にして、温度プロファイル104から温度プロファイル106に温度の状態が変化するように更に結晶成長を進行させる。この場合においても、種結晶端30aの温度が温度tよりも低い温度tであると共に、融液34の液面の温度が温度Tよりも低い温度Tとなるような温度プロファイル106に変化させる。
【0051】
温度プロファイル104から温度プロファイル106に変化する過程で、融液34の温度は、全域が融点以下となり、融液34の凝固が完了する。したがって、温度プロファイル106は、凝固が完了した結晶インゴット内部の温度勾配を示すプロファイルである。
【0052】
このように、上部加熱ヒータ10及び複数の外周加熱ヒータ12の温度設定を結晶成長の進行に応じて変化させることにより、結晶成長中の融液34内の結晶成長方向に沿った温度勾配を、結晶成長の開始時の温度勾配、すなわち温度プロファイル100に示した温度勾配よりも、温度プロファイル102、104、106に示した温度勾配のように徐々に小さくする。
【0053】
その結果、結晶成長の初期には、種結晶30の端部から結晶成長を開始させ、融液34の一方向凝固を可能とするのに十分な温度勾配を確保しつつ、融液34の凝固が完了した時点においては、成長した結晶の内部に大きな温度差を生じさせずに結晶成長を実施できる。換言すると、過剰な熱応力を結晶内部に発生させることを抑制して、結晶成長を実施できる。
【0054】
なお、種結晶30の側を加熱する外周加熱ヒータ12の温度の降下速度を、上部加熱ヒータ10の温度の降下速度よりも遅くして、種結晶端30aに接している融液34の温度の降下速度を融液34の液面付近の温度の降下速度より遅くすることにより、融液34の液面における温度の降下量を、種結晶端30aに接している融液34の温度の降下量よりも多くすることもできる。また、より欠陥の少ない単結晶の成長を目的として、上部加熱ヒータ10及び外周加熱ヒータ12の温度の降下速度は、結晶成長の開始時における降下速度から徐々に遅くして、結晶成長を実施することもできる。
【0055】
図2Bは、本発明の第1の実施の形態に係る結晶成長の進行に伴った、ルツボ内の温度変化のプロファイルの詳細を示す。
【0056】
結晶成長界面の移動速度を一定に制御する点について、より詳細に説明する。まず、結晶成長界面の移動速度を一定に制御することは、融液34と成長結晶との界面位置(温度分布上の融点m.p.の位置)の単位時間t当たりの変化量ΔPを一定にすることに相当する。具体的に、図2Bを参照すると、位置P1と位置P2との差異の絶対値を単位時間tで除した値と、位置P2と位置P3との差異の絶対値を単位時間tで除した値と、位置P3と位置P4との差異の絶対値を単位時間tで除した値とがそれぞれ、一定になる関係を成立させるようにヒータ温度を制御する。すなわち、|Pa−Pb|/t=|Pb−Pc|/t=|Pc−Pd|/t=const.という関係式が成り立つように、ヒータ温度を制御する。
【0057】
このような関係式を成立させるために、ヒータ温度の降下速度を、結晶成長の進行に応じて徐々に低下させる。例えば、単位時間t当たりの所定の位置Pにおける温度の降下量が、(Ta−Tb)/t>(Tb−Tc)/t>(Tc−Td)/tとなるようにヒータ温度の降下速度を制御する。なお、この場合における温度勾配(1/tanθ)は、ヒータ温度の降下速度を制御して、(1/tanθa)>(1/tanθb)>(1/tanθc)>(1/tanθd)のように、結晶成長の進行に応じて徐々に減少させることが必要条件となる。
【0058】
本実施の形態では、ルツボ20内の温度プロファイルの制御を容易にすることを目的として上部加熱ヒータ10を用いているが、図2Aに示した温度プロファイルを実現することができる限り、上部加熱ヒータ10を用いずに、外周加熱ヒータ12だけで結晶成長炉を構成することもできる。
【0059】
(変形例)
本発明の第1の実施の形態に係る結晶成長炉1は、ルツボ20内の化合物半導体の原料の融液34の揮発及び蒸発を防止することを目的として、ルツボ開口部22を塞ぐ蓋を更に有していてもよい。なお、ルツボ20内の融液34に上部加熱ヒータ10からの熱を効率よく伝熱させることを目的として、熱伝導率が高い材料からルツボ開口部22を塞ぐ蓋を形成することが好ましい。一例として、当該蓋はグラファイト、窒化アルミニウム(AlN)、又は炭化ケイ素(SiC)から形成することができる。
【0060】
また、ルツボ20内での化合物半導体の結晶の成長条件を安定化させ、単結晶の成長の再現性を向上させることを目的として、ルツボ20の細径部25側に冷却手段を組み合わせた結晶成長炉を構成することもできる。
【0061】
[第1の比較例]
図3は、第1の比較例に係る結晶成長炉の断面の概要を示す。
【0062】
第1の比較例に係る結晶成長炉2は、本発明の第1の実施の形態に係る結晶成長炉1から上部加熱ヒータ10を取り除いた点を除き、結晶成長炉1と略同一の構成を備えるので、詳細な説明は省略する。
【0063】
図4は、第1の比較例に係るVGF法における結晶成長炉内の結晶成長方向に沿った温度変化の模式図を示す。具体的には、図4(a)は、種結晶と融液とを収容したルツボの縦断面図であり、図4(b)は、原料の多結晶を融解するときのルツボ内の温度の状況を示している。更に、図4(c)は、結晶成長の進行に伴った、ルツボ内の温度変化のプロファイルを示す。
【0064】
まず、図4(b)に示すように、結晶成長の開始時において、種結晶端30aよりも上のルツボ20内に収容した原料を溶融させる。すなわち、種結晶端30aに対応する位置Pの温度が融点(m.p.)となると共に、位置Pから融液34の液面に対応する位置Pまでの温度が少なくとも融点以上となるように、複数の外周加熱ヒータ12の温度を設定する。具体的に、ルツボ20内の温度の状況が、温度プロファイル100で示したように、種結晶端30aからルツボ端20aに向かって温度が徐々に上昇するように、複数の外周加熱ヒータ12の温度を設定する。なお、この場合における融液34の上端の温度、すなわち位置Pにおける温度を温度Tとする。
【0065】
続いて、図4(c)に示すように、結晶成長を開始させる。具体的には、図4(c)は、結晶成長の進行に伴い、ルツボ20内の温度の状態が、温度プロファイル100、101、103、105と徐々に変化する様子を示す。
【0066】
まず、原料が融液34となった時点において、複数の外周加熱ヒータ12の温度を制御することにより、温度プロファイル100を、種結晶端30aの温度が融点よりも低い温度t’であると共に、融液34の液面の温度が温度Tよりも低い温度T’である温度プロファイル101に変化させる。この場合において、温度プロファイル100の温度勾配と温度プロファイル101の温度勾配とは略同一に保たれており、位置Pにおける温度の降下量と位置Pにおける温度の降下量とは略同一である。すなわち、温度プロファイル100と温度プロファイル101とでは、位置Pと位置Pとの間の温度差は略同一である。
【0067】
更に、温度プロファイル101から温度プロファイル103に温度の状態が変化するように結晶成長を進行させる。この場合においても、外周加熱ヒータ12の温度を制御して、種結晶端30aの温度が温度t’よりも低い温度t’であると共に、融液34の液面の温度が温度T’よりも低い温度T’となるような温度プロファイル103に変化させる。同様にして、温度プロファイル103から温度プロファイル105に温度の状態が変化するように更に結晶成長を進行させる。この場合においても、種結晶端30aの温度が温度t’よりも低い温度t’であると共に、融液34の液面の温度が温度T’よりも低い温度T’となるような温度プロファイル105に変化させる。この場合において、いずれの温度プロファイルにおいても、温度勾配は略一定に保たれている。
【0068】
温度プロファイル103から温度プロファイル105に変化する過程で、融液34の温度は、全域が融点以下となり、融液34の凝固が完了する。したがって、温度プロファイル105は、凝固が完了した結晶インゴット内部の温度勾配を示すプロファイルである。
【0069】
このように、第1の比較例に係る結晶成長炉においては、結晶成長中の融液34内の結晶成長方向に沿った温度勾配が、結晶成長の開始時の温度勾配、すなわち、温度プロファイル100に示した温度勾配を保ちつつ、結晶成長中も温度プロファイル101、103、及び105に示したように、常に一定に保たれる。
【0070】
その結果、結晶成長の初期に必要な、種結晶30の端部から結晶成長を開始させ、融液34の一方向凝固を可能にするのに十分な温度勾配が、融液34の凝固が完了した時点においても保たれたままであり、成長した結晶の内部に大きな温度差が生じる。すなわち、成長した結晶内部に過剰な熱応力が発生することとなり、成長した結晶中に結晶欠陥が発生しやすくなると共に、発生した結晶欠陥が増殖しやすくなることとなる。
【0071】
第1の比較例では、上部加熱ヒータ10を用いない構成の結晶成長炉であるが、たとえ上部加熱ヒータ10を用いた場合であっても、図4に示したような温度プロファイルを適用して結晶成長を実施する限り、結晶欠陥を低減することは困難である。図2Aに示した本発明の第1の実施の形態に係る温度プロファイルによる結晶成長炉1内の温度の制御方法を実現することができる限り、第1の実施の形態に係る結晶成長炉1のヒータ構成は、図1において述べたヒータ構成に限定されるものではない。
【0072】
(第1の実施の形態の効果)
本発明の第1の実施の形態に係る結晶成長方法によれば、結晶成長中のルツボ20内の結晶成長方向の温度勾配を第1の比較例よりも緩やかにすることができるので、成長結晶32内の転位等の欠陥の発生密度を低減することができる。そして、成長結晶32内の欠陥の発生密度を低減することができるので、第1の実施の形態に係る結晶成長方法を用いて成長した半導体結晶においては、成長した半導体結晶から形成される半導体基板内での電気的特性、光学的特性、及び機械的特性等について面内での均一性が向上する。
【0073】
また、第1の実施の形態に係る結晶成長方法によれば、ルツボ20の上方から下方への熱流を実現できるので、結晶成長中に成長結晶32が受ける熱履歴を、成長結晶32の部分によらず略一定にすることができる。これにより、成長結晶32をスライスして形成される複数の半導体基板間での欠陥密度、電気的特性、光学的特性、及び機械的特性等のばらつきが低減する。
【0074】
また、第1の実施の形態に係る結晶成長方法によれば、結晶成長中の成長界面の近傍の温度勾配を、成長開始時よりも常に低く保持することから、融液34内の対流等による急激な温度変化の影響を抑制でき、その結果、結晶成長の工程が安定化する。したがって、成長結晶32中に双晶及び多結晶が発生する確率を低減できる。
【0075】
また、第1の実施の形態に係る結晶成長方法によれば、成長する結晶中の長手方向の温度勾配を徐々に小さくしていくことにより、結晶の長手方向について結晶成長に伴う温度環境の変化を小さくでき、結晶成長で生じた成長結晶32の内部に加わる熱応力を低減することができる。これにより、長尺の結晶成長を実施する場合であっても、成長結晶32中に生じる転位等の欠陥の発生が抑制されるので、成長した半導体結晶から形成される半導体基板内での電気的特性、光学的特性、及び機械的特性等について面内での均一性が向上する。
【0076】
また、第1の実施の形態に係る結晶成長方法によれば、結晶成長中のルツボ20内の径方向の温度勾配をも緩やかにすることができるので、ルツボ20の径が大口径であっても、成長した半導体結晶から形成される半導体基板内での電気的特性、光学的特性、及び機械的特性等について面内での均一性が向上する。
【0077】
[第2の実施の形態]
図5は、本発明の第2の実施の形態に係る結晶成長炉の断面の概要を示す。
【0078】
第2の実施の形態に係る結晶成長炉3は、成長する化合物半導体結晶の原料を収容する容器としてのボート120と、ボート120を収容する石英アンプル150と、石英アンプル150を外周から加熱する複数の外周加熱部としての外周加熱ヒータ130とを備える。
【0079】
更に、石英アンプル150は、石英アンプル150内をV族雰囲気に保つ原料となるV族元素110と、石英アンプル150内を2つのゾーンに区切る拡散障壁140とを有する。拡散障壁140は、一例として、石英で形成され、その中央部分には連通孔(キャピラリー)が形成されている。また、複数の外周加熱ヒータ130は、個々のヒータの温度をそれぞれ独立に制御できるように構成されており、その温度域は、少なくとも成長する単結晶の原料を溶融することができる温度である高温の結晶成長ゾーン180と、結晶成長ゾーン180の温度より低温のV族元素圧制御ゾーン190とに分かれる。
【0080】
第2の実施の形態に係る結晶成長炉3は、GF法で化合物半導体結晶の単結晶を成長する。すなわち、結晶成長炉3は、ボート120内に収容した融液160を、ボート120の一端に設置された種結晶170と接触させた状態で、種結晶170側のボート120の一端を、ボート120の他端よりも低温に保持しつつ、融液160の温度を降下させて、種結晶170側からボート120の他端に向けて融液160を徐々に固化させることにより、化合物半導体結晶の単結晶を成長する。そして、結晶成長炉3で成長する化合物半導体結晶は、一例として、III−V族化合物半導体であるGaAsの単結晶である。
【0081】
ボート120は、化合物半導体結晶の種結晶170を収容する種結晶配置部としての細径部122と、船型の融液収容部124とを有する。ボート120の融液収容部124は、その断面形状が略半円形又は台形であり、一例として、上底80mm、下底60mm、高さ50mmの台形に形成される。また、ボート120は、一例として、高純度石英から形成される。なお、ボート120は、熱分解窒化ホウ素(pBN)から形成することもできる。
【0082】
ボート120は、細径部122に種結晶170を収容すると共に、ボート120の融液収容部124に載置された化合物半導体結晶の原料とp型用又はn型用の所定のドーパントとを所定量ずつ収容する。また、石英アンプル150は、アンプル内のV族元素の蒸気圧を補償するためのV族元素110を更に収容する。V族元素110は、例えば、GaAsの結晶成長を実施する場合、砒素である。なお、化合物半導体結晶の原料は、成長する化合物半導体の多結晶である。
【0083】
ボート120内では、所定の温度で融解した化合物半導体の原料の融液160が細径部122の種結晶170と接触して単結晶の成長を開始する。そして、ボート120内において、種結晶170の側から結晶成長炉3の高温側に向かって成長結晶として徐々に成長していく。
【0084】
複数の外周加熱ヒータ130はそれぞれ、結晶成長炉3の長手方向に沿って配置される。この場合において、複数の外周加熱ヒータ130は、石英アンプル150の周囲を囲む位置にそれぞれ配置される。そして、複数の外周加熱ヒータ130の設定温度は以下のように制御する。例えば、V族元素圧制御ゾーン190に対応する位置に配置される外周加熱ヒータ130は、石英アンプル150の内部の圧力が大気圧と釣り合うように(平衡するように)V族元素110の蒸気圧を制御すべく温度が設定され、V族元素110を加熱する。また、結晶成長ゾーン180に対応する位置に配置される外周加熱ヒータ130は、ボート120の種結晶170側(細径部122側又はボート120の一端)から、ボート120の反対側(ボート120の他端)に向かう方向に沿って順次、温度が上昇するように温度が設定される。
【0085】
複数の外周加熱ヒータ130は、一例として、カンタル線等の材料から形成される抵抗加熱ヒータを用いることができる。なお、複数の外周加熱ヒータ130は、炭化ケイ素(SiC)、カーボンヒータ、又は赤外線加熱ヒータ等から形成することもできる。
【0086】
なお、本実施形態に係る結晶成長炉3においては、GaAsの単結晶だけではなく、他のIII−V族化合物半導体結晶を成長することもできる。例えば、結晶成長炉3を用いて、InP、InAs、GaSb、又はInSb等の化合物半導体の単結晶を成長することができる。また、結晶成長炉3を用いてAlGaAs、InGaAs、又はInGaP等のIII−V族化合物半導体結晶の三元混晶結晶、若しくは、AlGaInP等のIII−V族化合物半導体結晶の四元混晶結晶の成長にも応用できる。
【0087】
また、結晶成長炉3を用いて、ZnSe、CdTe等のII−VI族化合物半導体結晶、又は、Si、Ge等のIV族半導体結晶の成長をすることもできる。更に、結晶成長炉1を用いて、化合物半導体結晶又は半導体結晶ではない材料の結晶である、金属結晶、酸化物結晶、フッ化物結晶の結晶を成長することもできる。
【0088】
また、本実施形態において石英アンプル150内において成長する化合物半導体の融液160が、大気圧以上の解離圧を有する場合、石英アンプル150及び複数の外周加熱ヒータ130を、圧力容器内に収容することもできる。石英アンプル150を圧力容器に収容することにより、化合物半導体の融液160が大気圧以上の解離圧を有する場合であっても、石英アンプル150の外部圧力を、収容する化合物半導体の融液160の解離圧力と釣り合うように設定することにより、融液160の分解等を防止して化合物半導体の単結晶を成長させることができる。
【0089】
また、本実施形態に係る結晶成長炉3においては、複数の外周加熱ヒータ130の設定温度を所定の速度で徐々に低下させて、ボート120内の温度を低下させ、ボート120内の融液160から単結晶としての成長結晶を成長させるが、成長結晶の成長方法はこの方法に限られない。例えば、本実施の形態の変形例においては、ボート120を徐々に移動させることにより成長結晶を成長させることもできる。
【0090】
本実施形態に係る結晶成長炉3においては、結晶成長炉3に、GF法の原型であるブリッジマン法(Bridgman法)、又は加熱ヒータを有する炉体をボート120に対して移動させて結晶成長する炉体移動法(Trabeling Furnace法:TF法)を適用することもできる。
【0091】
図6は、本発明の第2の実施の形態に係る結晶成長炉内の結晶成長方向に沿った温度変化の模式図を示す。具体的には、図6(a)は、種結晶と融液とを収容したボートの縦断面図であり、図6(b)は、原料の多結晶を融解したときのボート内の温度の状況を示している。更に、図6(c)は、結晶成長の進行に伴った、ボート内の温度変化のプロファイルを示す。
【0092】
まず、図6(b)に示すように、結晶成長の開始時において、種結晶170よりも高温側のボート120内に収容した原料を溶融させる。すなわち、種結晶端に対応する位置Pの温度が融点(m.p.)となると共に、位置Pからボート120の種結晶170側とは反対の端部に対応する位置Pまでの温度が少なくとも融点以上となるように、結晶成長ゾーン180の外周加熱ヒータ130の温度を設定する。具体的に、ボート120内の温度の状況が、温度プロファイル200で示したように、種結晶端から種結晶端の反対側のボート120端に向かって温度が徐々に上昇するように、結晶成長ゾーン180の外周加熱ヒータ130の温度を設定する。なお、この場合における融液160の最高温度、すなわち位置Pにおける温度を温度T11とする。
【0093】
続いて、図6(c)に示すように、結晶成長を開始させる。具体的には、図6(c)は、結晶成長の進行に伴い、ボート120内の温度の状態が、温度プロファイル200、202、204、206と徐々に変化する様子を示す。まず、原料が融液160となった時点において、結晶成長ゾーン180の外周加熱ヒータ130の温度を制御することにより、温度プロファイル200を、種結晶端の温度が融点よりも低い温度t11であると共に、融液160の液面の温度が温度T11よりも低い温度T12である温度プロファイル202に変化させる。温度プロファイル202では、少なくとも位置Pから位置Pまでの範囲内で、ボート120の中の温度が、位置Pから位置Pに向けて単調に増加する温度勾配に設定される。したがって、温度プロファイル202では、位置P側が位置P側より高温に設定される。
【0094】
この場合において、種結晶端の融液160の温度の降下量が、ボート120の種結晶170とは反対側の融液160の温度の降下量よりも少なくなるように、結晶成長ゾーン180の複数の外周加熱ヒータ130の温度をそれぞれ制御する。一例として、種結晶170の側を加熱する外周加熱ヒータ130の温度を、所定の温度において一定となるように保持する。そして、融液160の種結晶170とは反対側(位置P)を加熱する外周加熱ヒータ130の温度を、位置Pの温度が温度T11から温度T12に降下するように、所定の温度に降下させる。
【0095】
更に、温度プロファイル202から温度プロファイル204に温度の状態が変化するように結晶成長を進行させる。この場合においても、外周加熱ヒータ130の温度を制御して、種結晶端の温度が温度t11よりも低い温度t12であると共に、融液160の高温側の温度が温度T12よりも低い温度T13となるような温度プロファイル204に変化させる。同様にして、温度プロファイル204から温度プロファイル206に温度の状態が変化するように更に結晶成長を進行させる。この場合においても、種結晶端の温度が温度t12よりも低い温度t13であると共に、融液160の高温側の温度が温度T13よりも低い温度T14となるような温度プロファイル206に変化させる。
【0096】
温度プロファイル204から温度プロファイル206に変化する過程で、融液160の温度は、全域が融点以下となり、融液160の凝固が完了する。したがって、温度プロファイル206は、凝固が完了した結晶インゴット内部の温度勾配を示すプロファイルである。
【0097】
このように、結晶成長ゾーン180の複数の外周加熱ヒータ130の温度設定を結晶成長の進行に応じて変化させることにより、結晶成長中の融液160内の結晶成長方向に沿った温度勾配を、結晶成長の開始時の温度勾配、すなわち温度プロファイル200に示した温度勾配よりも、温度プロファイル202、204、206に示した温度勾配のように徐々に小さくする。
【0098】
その結果、結晶成長の初期には、種結晶170の端部から結晶成長を開始させ、融液160の一方向凝固を可能とするのに十分な温度勾配を確保しつつ、融液160の凝固が完了した時点においては、成長した結晶の内部に大きな温度差を生じさせずに結晶成長を実施できる。換言すると、過剰な熱応力を結晶内部に発生させることを抑制して、結晶成長を実施できる。
【0099】
なお、種結晶170の側を加熱する外周加熱ヒータ130の温度の降下速度を、種結晶170とは反対側を加熱する外周加熱ヒータ130の温度の降下速度よりも遅くして、種結晶170に接している融液160の温度の降下速度を融液160の高温側の温度の降下速度より遅くすることにより、融液160の高温側の温度の降下量を、種結晶170側の融液160の温度の降下量よりも多くすることもできる。また、より欠陥の少ない単結晶の成長を目的として、外周加熱ヒータ130の温度の降下速度は、結晶成長の開始時における降下速度から徐々に遅くして、結晶成長を実施することもできる。
【0100】
[第2の比較例]
第2の比較例に係る結晶成長に用いる結晶成長炉は、本発明の第2の実施の形態に係る結晶成長炉3と同一の構成を備えるので、図示は省略する。
【0101】
図7は、第2の比較例に係るGF法における結晶成長炉内の結晶成長方向に沿った温度変化の模式図を示す。具体的には、図7(a)は、種結晶と融液とを収容したボートの縦断面図であり、図7(b)は、原料の多結晶を融解したときのボート内の温度の状況を示している。更に、図7(c)は、結晶成長の進行に伴った、ボート内の温度変化のプロファイルを示す。
【0102】
まず、図7(b)に示すように、結晶成長の開始時において、種結晶170よりも高温側のボート120内に収容した原料を溶融させる。すなわち、種結晶端に対応する位置Pの温度が融点(m.p.)となると共に、位置Pから融液160の種結晶170側とは反対の端部に対応する位置Pまでの温度が少なくとも融点以上となるように、結晶成長ゾーン180の複数の外周加熱ヒータ130の温度をそれぞれ設定する。具体的に、ボート120内の温度の状況が、温度プロファイル200で示したように、種結晶端からボート120の反対側の端に向かって温度が徐々に上昇するように、結晶成長ゾーン180の外周加熱ヒータ130の温度を設定する。なお、この場合における融液160の高温側の温度、すなわち位置Pにおける温度を温度T11とする。
【0103】
続いて、図7(c)に示すように、結晶成長を開始させる。具体的には、図7(c)は、結晶成長の進行に伴い、ボート120内の温度の状態が、温度プロファイル200、201、203、205と徐々に変化する様子を示す。まず、原料が融液160となった時点において、結晶成長ゾーン180の外周加熱ヒータ130の温度を制御することにより、温度プロファイル200を、種結晶端の温度が融点よりも低い温度t11’であると共に、ボート120の種結晶170が搭載されている側とは反対側の融液160の温度が温度T11よりも低い温度T12’である温度プロファイル201に変化させる。この場合において、温度プロファイル201の温度勾配は、温度プロファイル200の温度勾配と略同一に保たれており、位置Pにおける温度の降下量と位置Pにおける温度の降下量とは略同一である。すなわち、温度プロファイル200と温度プロファイル201とにおいて、位置Pと位置Pとの間の温度差は略同一に設定される。
【0104】
更に、温度プロファイル201から温度プロファイル203に温度の状態が変化するように結晶成長を進行させる。この場合においても、結晶成長ゾーン180の外周加熱ヒータ130の温度を制御して、種結晶端の温度が温度t11’よりも低い温度t12’であると共に、ボート120の種結晶170とは反対側の端の融液160の温度が温度T12’よりも低い温度T13’となるような温度プロファイル203に変化させる。同様にして、温度プロファイル203から温度プロファイル205に温度の状態が変化するように更に結晶成長を進行させる。この場合においても、種結晶端の温度が温度t12’よりも低い温度t13’であると共に、ボート120の種結晶170とは反対側の端の融液160の温度が温度T13’よりも低い温度T14’となるような温度プロファイル205に変化させる。この場合において、いずれの温度プロファイルにおいても、温度勾配は略一定を保つ。
【0105】
温度プロファイル203から温度プロファイル205に変化する過程で、融液160の温度は、全域が融点以下となり、融液160の凝固が完了する。したがって、温度プロファイル205は、凝固が完了した結晶インゴット内部の温度勾配を示すプロファイルである。
【0106】
このように、第2の比較例に係る結晶成長方法においては、結晶成長中の融液160内の結晶成長方向に沿った温度勾配が、結晶成長の開始時の温度勾配、すなわち、温度プロファイル200に示した温度勾配を保ちつつ、結晶成長中も温度プロファイル201、203、及び205に示したように、常に一定に保たれる。
【0107】
その結果、結晶成長の初期に必要な、種結晶170の端部から結晶成長を開始させ、融液160の一方向凝固を可能にするのに十分な温度勾配が、融液160の凝固が完了した時点においても保たれたままであり、成長した結晶の内部に大きな温度差が生じる。すなわち、成長した結晶内部に過剰な熱応力が発生することとなり、成長した結晶中に結晶欠陥が発生しやすくなると共に、発生した結晶欠陥が増殖しやすくなることとなる。
【0108】
(第2の実施の形態の効果)
第2の実施の形態に係る結晶成長方法によれば、結晶成長中のボート120内の結晶成長方向の温度勾配を第2の比較例よりも緩やかにすることができるので、成長結晶内の転位等の欠陥の発生密度を低減することができる。そして、成長結晶内の欠陥の発生密度を低減することができるので、第2の実施の形態に係る結晶成長方法を用いて成長した半導体結晶においては、成長した半導体結晶から形成される半導体基板内での電気的特性、光学的特性、及び機械的特性等について面内での均一性が向上する。
【0109】
また、第2の実施の形態に係る結晶成長方法によれば、結晶成長中の成長界面の近傍の温度勾配を、成長開始時よりも常に低く保持することから、融液160内の対流等による急激な温度変化の影響を抑制でき、その結果、結晶成長の工程が安定化する。したがって、成長結晶中に双晶及び多結晶が発生する確率を低減できる。
【0110】
また、第2の実施の形態に係る結晶成長方法によれば、成長する結晶中の長手方向の温度勾配を徐々に小さくしていくことにより、結晶の長手方向について結晶成長に伴う温度環境の変化を小さくでき、結晶成長で生じた成長結晶の内部に加わる熱応力を低減することができる。これにより、長尺の結晶成長を実施する場合であっても、成長結晶中に生じる転位等の欠陥の発生が抑制されるので、成長した半導体結晶から形成される半導体基板内での電気的特性、光学的特性、及び機械的特性等について面内での均一性が向上する。
【0111】
[第3の実施の形態]
図8は、本発明の第3の実施の形態に係る結晶成長炉の断面の概要を示す。
【0112】
第3の実施の形態に係るルツボ310、サセプタ320、サセプタ支持部材330、断熱材350、チャンバー360、及び液体封止剤390は、第1の実施の形態に係るルツボ20、サセプタ50、サセプタ支持部材55、断熱材62、チャンバー70、及び液体封止剤40と略同一の構成を有すると共に、略同一の機能・作用を奏するので、相違点を除き、詳細な説明は省略する。
【0113】
第3の実施の形態に係る結晶成長炉4は、成長する化合物半導体結晶の原料を収容する容器としてのルツボ310と、ルツボ310を収容するルツボ収容容器としてのサセプタ320と、サセプタ320を収容して保持するサセプタ支持部材330と、ルツボ310を側面から加熱する複数の外周加熱部としての外周加熱ヒータ340とを備える。
【0114】
更に、結晶成長炉4は、種結晶370を吊り下げ支持する種結晶支持部材380と、複数の外周加熱ヒータ340が発する熱の結晶成長炉4の外部への伝熱を防止する断熱材350と、断熱材350等を外部から覆うチャンバー360とを備える。
【0115】
本実施形態に係る結晶成長炉4は、カイロポーラス法で化合物半導体結晶の単結晶を成長する。すなわち、結晶成長炉4は、ルツボ310内に収容した融液400の表面に、種結晶370と接触させた状態で、種結晶370側のルツボ310の一端を、ルツボ310の他端(ルツボ310の底部側)よりも低温に保持しつつ、融液400の温度を降下させて、種結晶370側からルツボ310の他端に向けて融液400を徐々に固化させることにより、化合物半導体結晶の単結晶を成長する。なお、結晶成長炉4で成長する化合物半導体結晶は、一例として、III−V族化合物半導体であるGaAsの単結晶である。
【0116】
具体的に、ルツボ310内では、所定の温度で融解した化合物半導体の原料の融液400が種結晶支持部材380に支持された種結晶370と接触して単結晶の成長が開始される。そして、ルツボ310内において、種結晶370の側から結晶成長炉4の下方に向かって、成長結晶として徐々に成長していく。この場合において、複数の外周加熱ヒータ340の設定温度は、結晶成長炉4の下部から上部へ向かう方向に沿って順次、低下するように設定される。すなわち、複数の外周加熱ヒータ340の設定温度は、ルツボ310の底部から開口部側に向かって徐々に低下するように設定される。
【0117】
なお、本実施形態に係る結晶成長炉4においては、GaAsの単結晶だけではなく、他のIII−V族化合物半導体結晶を成長することもできる。また、II−VI族化合物半導体結晶を成長することもできる。
【0118】
また、本実施形態においても、第1の実施の形態と同様に、ルツボ310内の融液400が、大気圧以上の解離圧を有する場合、チャンバー360を圧力容器とすることができる。本実施の形態に係るチャンバー360が圧力容器である場合の機能及び作用は、第1の実施の形態におけるチャンバー70と同様であるので詳細な説明は省略する。
【0119】
図9は、本発明の第3の実施の形態に係る結晶成長炉内の結晶成長方向に沿った温度変化の模式図を示す。具体的には、図9(a)は、種結晶と融液とを収容したルツボの縦断面図であり、図9(b)は、原料の多結晶を融解するときのルツボ内の温度の状況を示している。更に、図9(c)は、結晶成長の進行に伴った、ルツボ内の温度変化のプロファイルを示す。
【0120】
まず、図9(b)に示すように、結晶成長の開始時において、種結晶370の下端よりも下のルツボ310内に収容した原料を溶融させる。すなわち、種結晶端に対応する位置Pの温度が融点(m.p.)となると共に、位置Pから融液400の最下端に対応する位置Pまでの温度が少なくとも融点以上となるように、複数の外周加熱ヒータ340の温度を設定する。具体的に、ルツボ310内の温度の状況が、温度プロファイル300で示したように、種結晶370の下端からルツボ310の底部に向かって温度が徐々に上昇するように、複数の外周加熱ヒータ340の温度を設定する。なお、この場合における融液310の最下端の温度、すなわち位置Pにおける温度を温度T31とする。
【0121】
続いて、図9(c)に示すように、結晶成長を開始させる。具体的には、図9(c)は、結晶成長の進行に伴い、ルツボ310内の温度の状態が、温度プロファイル300、302、304、306と徐々に変化するように複数の外周加熱ヒータ340の温度を制御する。まず、原料が融液400となった時点において、複数の外周加熱ヒータ340の温度を制御することにより、温度プロファイル300を、種結晶端の温度が融点よりも低い温度t31であると共に、融液400の底部の温度が温度T31よりも低い温度T32である温度プロファイル302に変化させる。温度プロファイル302では、少なくとも位置Pから位置Pまでの範囲内で、ルツボ310の中の温度が、位置Pから位置Pに向けて単調に増加する温度勾配に設定される。したがって、温度プロファイル302では、位置P側が位置P側より高温に設定される。
【0122】
この場合において、種結晶端の融液400の温度の降下量が、ルツボ310の底部側の融液400の温度の降下量よりも少なくなるように、複数の外周加熱ヒータ340の温度をそれぞれ制御する。一例として、種結晶370の側を加熱する外周加熱ヒータ340の温度を、所定の温度において一定となるように保持する。そして、融液400の底部に近い側(位置P付近)を加熱する外周加熱ヒータ340の温度を、温度T31から温度T32に降下するように、所定の温度に降下させる。
【0123】
更に、温度プロファイル302から温度プロファイル304に温度の状態が変化するように結晶成長を進行させる。この場合においても、外周加熱ヒータ340の温度を制御して、種結晶端の温度が温度t31よりも低い温度t32であると共に、融液400の底部の温度が温度T32よりも低い温度T33となるような温度プロファイル304に変化させる。同様にして、温度プロファイル304から温度プロファイル306に温度の状態が変化するように更に結晶成長を進行させる。この場合においても、種結晶端の温度が温度t32よりも低い温度t33であると共に、融液400の底部(位置P)の温度が温度T33よりも低い温度T34となるような温度プロファイル306に変化させる。
【0124】
温度プロファイル304から温度プロファイル306に変化する過程で、融液400の温度は、全域が融点以下となり、融液400の凝固が完了する。したがって、温度プロファイル306は、凝固が完了した結晶インゴット内部の温度勾配を示すプロファイルである。
【0125】
このように、複数の外周加熱ヒータ340の温度設定を結晶成長の進行に応じて変化させることにより、結晶成長中の融液400内の結晶成長方向に沿った温度勾配を、結晶成長の開始時の温度勾配、すなわち温度プロファイル300に示した温度勾配よりも、温度プロファイル302、304、306に示した温度勾配のように徐々に小さくする。
【0126】
その結果、結晶成長の初期には、種結晶370の先端からのみ結晶成長を開始させ、融液400の一方向凝固を可能とするのに十分な温度勾配を確保しつつ、融液400の凝固が完了した時点においては、成長した結晶の内部に大きな温度差を生じさせずに結晶成長を実施できる。換言すると、過剰な熱応力を結晶内部に発生させることを抑制して、結晶成長を実施できる。
【0127】
なお、種結晶370の側を加熱する外周加熱ヒータ340の温度の降下速度を、ルツボ310の底部側(位置P付近側)を加熱する外周加熱ヒータ340の温度の降下速度よりも遅くして、種結晶端に接している融液400の温度の降下速度を融液400の底部付近の温度の降下速度より遅くすることにより、融液400の底部における温度の降下量を、種結晶370に接している融液400の表面側の温度の降下量よりも多くすることもできる。また、より欠陥の少ない単結晶の成長を目的として、設定温度を降下させる外周加熱ヒータ340の温度の降下速度は、結晶成長の開始時における降下速度から徐々に遅くして、結晶成長を実施することもできる。
【0128】
(第3の実施の形態の変形例)
第3の実施の形態の変形例に係る結晶成長炉は、複数の外周加熱ヒータ340に加えて、ルツボ310の底部を加熱する底部加熱ヒータを更に備えて構成することができる。また、第3の実施の形態に係る結晶成長炉4は、ルツボ310内の化合物半導体の原料の融液400の揮発及び蒸発を防止することを目的として、ルツボ開口部を塞ぐ蓋を更に備えることもできる。更に、第3の実施の形態の変形例に係る結晶成長炉においては、ルツボ310内での化合物半導体の結晶の成長条件を安定化させ、単結晶の成長の再現性を向上させることを目的として、種結晶370を支持する種結晶支持部材380に冷却手段を組み合わせることもできる。
【0129】
(第3の実施の形態の効果)
本発明の第3の実施の形態に係る結晶成長方法によれば、結晶成長中のルツボ310内の結晶成長方向の温度勾配を従来よりも緩やかにすることができるので、成長結晶内の転位等の欠陥の発生密度を低減することができる。そして、成長結晶内の欠陥の発生密度を低減することができるので、第3の実施の形態に係る結晶成長方法を用いて成長した半導体結晶においては、成長した半導体結晶から形成される半導体基板内での電気的特性、光学的特性、及び機械的特性等について面内での均一性が向上する。
【0130】
また、第3の実施の形態に係る結晶成長方法によれば、ルツボ310の下方から上方への熱流を実現できるので、結晶成長中に成長結晶が受ける熱履歴を、成長結晶の部分によらず略一定にすることができる。これにより、成長結晶をスライスして形成される複数の半導体基板間での欠陥密度、電気的特性、光学的特性、及び機械的特性等のばらつきが低減する。
【0131】
また、第3の実施の形態に係る結晶成長方法によれば、結晶成長中の成長界面の近傍の温度勾配を、成長開始時よりも常に低く保持することから、融液400内の対流等による急激な温度変化の影響を抑制でき、その結果、結晶成長の工程が安定化する。したがって、成長結晶中に双晶及び多結晶が発生する確率を低減できる。
【0132】
また、第3の実施の形態に係る結晶成長方法によれば、成長する結晶中の長手方向の温度勾配を徐々に小さくしていくことにより、結晶の長手方向について結晶成長に伴う温度環境の変化を小さくでき、結晶成長で生じた成長結晶の内部に加わる熱応力を低減することができる。これにより、長尺の結晶成長を実施する場合であっても、成長結晶中に生じる転位等の欠陥の発生が抑制されるので、成長した半導体結晶から形成される半導体基板内での電気的特性、光学的特性、及び機械的特性等について面内での均一性が向上する。
【0133】
また、第3の実施の形態に係る結晶成長方法によれば、結晶成長中のルツボ310内の径方向の温度勾配をも緩やかにすることができるので、ルツボ310の径が大口径であっても、成長した半導体結晶から形成される半導体基板内での電気的特性、光学的特性、及び機械的特性等について面内での均一性が向上する。
【実施例】
【0134】
(実施例1)
本発明の第1の実施例として、第1の実施の形態で説明した結晶成長炉1を用いてVGF法によりGaAsの単結晶成長を実施した例を以下に述べる。
【0135】
図10は、本発明の実施例に係る結晶成長の工程の流れを示す。
【0136】
まず、直胴部27の直径160mm、直胴部27の長さ300mmのpBN製のルツボ20の細径部25に、GaAsの種結晶を収容した(S100)。続いて、予め合成した塊状のGaAsの多結晶をルツボ20内に24000g充填した(S105)。次に、ドーパントとしてのSiを7.2gと、液体封止剤40としてのBを400g、ルツボ20内に添加した(S110)。
【0137】
次に、このルツボ20を、グラファイト製のサセプタ50に収容した(S115)。更に、このサセプタ50を、結晶成長炉1内で昇降が自在であって、回転が自在であるサセプタ支持部材55の上に搭載した(S120)。次に、結晶成長炉1を密閉して、結晶成長炉1内を窒素ガスでガス置換した(S125)。これにより、結晶成長炉1内のガス雰囲気は、窒素ガス雰囲気となった。
【0138】
続いて、ルツボ20の回転を開始した(S130)。ここで、ルツボ20の回転速度は1rpmに設定した。なお、ルツボ20の回転は、サセプタ支持部材55を回転させて行い、結晶成長が終了するまでルツボ20の回転を継続した。そして、上部加熱ヒータ10及び複数の外周加熱ヒータ12のそれぞれに通電して、ルツボ20の加熱を開始した(S135)。ルツボ20の加熱の開始後、所定時間ルツボ20を加熱し続けることにより、ルツボ20内のGaAs多結晶を完全に融解して融液34とした(S140)。
【0139】
なお、ルツボ20を加熱する工程で、チャンバー70内の雰囲気ガスの体積は膨張する。そこで、チャンバー70内の圧力が0.5MPaを超えないように、チャンバー70内の圧力を制御した。すなわち、本実施例においては、チャンバー70内の圧力が結晶成長中も常に0.5MPaに保持されるように、自動的かつ連続的にチャンバー70内のガス圧を制御した。
【0140】
ここで、ルツボ20内のGaAs多結晶を融解させる過程において、ルツボ20内に添加されたBは、GaAs多結晶が融解するより早く軟化した。そして、軟化したBは、透明な水飴状になって融液34の表面を覆った。これにより、GaAsの分解によるAsの揮発を抑制できた。
【0141】
続いて、上部加熱ヒータ10の設定温度を1295℃に設定した(S145)。また、複数の外周加熱ヒータ12の設定温度を、結晶成長炉1の上から下に行くにつれて低下する温度に設定した(S145)。具体的には、複数の外周加熱ヒータ12のうち上部加熱ヒータ10に最も近い位置に配置されている外周加熱ヒータ12aの設定温度を1260℃に設定した。そして、外周加熱ヒータ12aの下に配置されている外周加熱ヒータ12bの設定温度を1240℃に設定した。
【0142】
更に、外周加熱ヒータ12bの下に配置されている外周加熱ヒータ12cの設定温度を1100℃、外周加熱ヒータ12cの下に配置されている外周加熱ヒータ12dの設定温度を1050℃に設定した(S145)。そして、上部加熱ヒータ10及び複数の外周加熱ヒータ12の温度を設定した後、融液34の温度が安定するまで4時間保持した(S150)。
【0143】
なお、S150の工程において、上部加熱ヒータ10及び複数の外周加熱ヒータ12の位置に対するルツボ20の位置は、予め結晶成長炉1内に熱電対を挿入して計測した温度分布に基づいて決定した。具体的には、ルツボ20を保持している間に種結晶30が融解して消失することを防止すべく、GaAsの融点である1238℃の等温線が、種結晶30の上端部分にかかるようにルツボ20を配置した。
【0144】
結晶成長炉1内の温度が安定した後、サセプタ支持部材55を1rpmの回転速度で回転させた。続いて、上部加熱ヒータ10の設定温度を、0.5deg/hの速度で降下させた(S155)。そして、約3日かけて上部加熱ヒータ10の設定温度が1260℃になった時点で上部加熱ヒータ10の温度効果を停止した。更に、上部加熱ヒータ10及び複数の外周加熱ヒータ12の温度が950℃になるように24時間かけて徐冷した(S160)。
【0145】
その後、上部加熱ヒータ10及び複数の外周加熱ヒータ12の温度が400℃になるまで、−20℃/hの速度で上部加熱ヒータ10及び複数の外周加熱ヒータ12の温度を低下させた。続いて、上部加熱ヒータ10及び複数の外周加熱ヒータ12の通電を停止して、ルツボ20を室温まで冷却した(S165)。ルツボ20を室温まで冷却した後、ルツボ20内の成長結晶32が全長にわたってGaAsの単結晶であることが確認された。
【0146】
なお、上記S100からS165の工程で、連続して20回の結晶成長を実施した。その結果、いずれの結晶成長においても、全長がGaAsの単結晶である結晶を得ることができた。
【0147】
結晶成長炉1を用いて図10に示した工程で得られた20本のGaAs単結晶の内の1本を選択した。そして、選択した1本のGaAs単結晶の直胴部分に該当する部分をスライスして、(100)面を有する略円形状の複数のウェハを切り出した。次に、切り出したウェハ表面に溶融KOHによるエッチング処理を施した。続いて、転位に対応して発生するピットの密度測定、すなわち転位密度測定を実施した。
【0148】
図11は、本発明の実施例1に係る結晶成長炉で成長したGaAs単結晶のウェハ面内の平均転位密度の結晶長手方向の分布を示す。
【0149】
KOHエッチング処理を施したウェハを観察した結果、GaAs単結晶の全長にわたってリネージ等の欠陥の発生は認められなかった。そして、図11に示すように、切り出したウェハ面内の平均転位密度はGaAs単結晶の直胴部の全体にわたって5×10cm−2以下であった。具体的には、GaAs単結晶の直胴部の長さは250mmであり、GaAs単結晶の少なくとも5mmから250mmまでの範囲内において、平均転位密度が3×10cm−2から5×10cm−2の範囲であった。平均転位密度の最小値と最大値との差は、2×10cm−2未満に収まった。
【0150】
また、他の19本のGaAs単結晶についても、GaAs単結晶の種結晶側、直胴部の中央部、及び直胴部の尾部からウェハを切り出して、溶融KOHによるエッチング処理を施した。そして、上記と同様の転位密度測定を実施した。その結果、19本全てのGaAs単結晶のいずれの部分においても、平均転位密度は0.5×10cm−2以下であった。すなわち、19本のGaAs単結晶のいずれについても平均転位密度が所定値以下である結晶が、再現性よく得られることが示された。
【0151】
(第1の比較例の成長A)
まず、第1の比較例に係る結晶成長炉2を用いて、上部加熱ヒータ10に関する設定を除いた上で、図10と同様の工程でGaAs単結晶の成長を実施した。
【0152】
ここで、複数の外周加熱ヒータ12の設定温度は、結晶成長炉2の上から下に行くにつれて低下する温度に設定した(S145)。具体的には、複数の外周加熱ヒータ12のうち最上部に配置されている外周加熱ヒータ12aの設定温度を1270℃に設定した。そして、外周加熱ヒータ12aの下に配置されている外周加熱ヒータ12bの設定温度を1240℃に設定した。更に、外周加熱ヒータ12bの下に配置されている外周加熱ヒータ12cの設定温度を1100℃、外周加熱ヒータ12cの下に配置されている外周加熱ヒータ12dの設定温度を1050℃に設定した(S145)。そして、各外周加熱ヒータ12の温度を設定した後、融液34の温度が安定するまで4時間保持した(S150)。
【0153】
結晶成長に当たっては、4つの外周加熱ヒータ12の設定温度を、それぞれ0.5deg/hの速度で60時間にわたって降下させ、その後、更に各外周加熱ヒータ12の温度が全て950℃になるように24時間かけて徐冷した(S160)。
【0154】
第1の比較例の成長Aにおいては、ヒータの温度設定及び温度降下プログラム以外の項目については、第1の実施例と条件を同一にしてGaAs単結晶の成長を実施した。なお、結晶成長炉2によるGaAs単結晶の成長(すなわち、第1の比較例の成長A)は2回実施した。
【0155】
1回目の成長によって得られたGaAsの結晶は、ルツボ20の傾斜部26から直胴部27に移行する部分において双晶が発生しており、GaAsの単結晶は得られなかった。また、2回目の成長では、得られたGaAsの結晶の直胴部分に多結晶が発生しており、GaAsの単結晶が全長にわたっては得られなかった。
【0156】
(第1の比較例の成長B)
次に、第1の比較例に係る結晶成長炉2を用いて、第1の比較例の成長Aとは、複数の外周加熱ヒータ12の設定温度及び温度降下速度を変えて成長を実施した。具体的には、複数の外周加熱ヒータ12のうち最上部に配置されている外周加熱ヒータ12aの設定温度を1290℃に設定した。そして、外周加熱ヒータ12aの下に配置されている外周加熱ヒータ12bの設定温度を1240℃に設定した。更に、外周加熱ヒータ12bの下に配置されている外周加熱ヒータ12cの設定温度を1200℃、外周加熱ヒータ12cの下に配置されている外周加熱ヒータ12dの設定温度を1050℃に設定した(S145)。
【0157】
結晶成長に当たっては、4つの外周加熱ヒータ12の設定温度を、それぞれ0.6deg/hの速度で60時間にわたって降下させ、その後、更に各外周加熱ヒータ12の温度が全て950℃になるように24時間かけて徐冷した(S160)。
【0158】
第1の比較例の成長Bにおいても、ヒータの温度設定及び温度降下プログラム以外の項目については、第1の実施例と条件を同一にしてGaAs単結晶の成長を実施した。なお、第1の比較例の成長Bに係る結晶成長炉2によるGaAs単結晶の成長は2回実施した。この成長において得られたGaAsの結晶は、全長にわたって端結晶であった。
【0159】
次に、得られたGaAsの単結晶の直胴部分に該当する部分をスライスして、(100)面を有する略円形状の複数のウェハを切り出した。次に、切り出したウェハ表面に溶融KOHによるエッチング処理を施した。続いて、転位密度測定を実施した。
【0160】
図12は、第1の比較例の成長Bに係る結晶成長方法で成長したGaAs単結晶のウェハ面内の平均転位密度の結晶長手方向の分布を示す。
【0161】
第1の比較例の成長Bでは、結晶内で平均転位密度が最も低い部位でも、ウェハ面内平均で5×10cm−2以上であり、多い部位では1×10cm−2に近い転位密度であった。平均転位密度の最小値と最大値との差は、少なくとも4×10cm−2以上あった。更に、ウェハ面内で転位密度が高い領域には、スリップラインやリネージ欠陥の発生が多く観察された。
【0162】
図12を参照すると、第1の比較例の成長Bで得られた結晶においては、本発明の実施例1に係る結晶よりも全体的に大きい平均転位密度を示した。これは、結晶の長手方向の温度勾配が、比較的大きいまま成長を続けたため、成長結晶32に加わる熱応力の変化が大きかったためと推測された。更に、成長した結晶の長手方向にわたって、転位密度の分布の変化が大きかった。これは、上部加熱ヒータ10を使用していないために、外周加熱ヒータ12の継ぎ目の温度分布の影響が、成長結晶に強く反映されたためと推測された。
【0163】
なお、第1の比較例の成長Bにおいては、更に10回の成長を実施した。その結果、7本の結晶は結晶の全長にわたって単結晶となったが、2本の結晶についてはルツボ20の傾斜部26から直胴部27に移行する部分において双晶の発生がみられた。また、残りの1本の結晶については、結晶の直胴部分の途中から多結晶が発生していた。これも、結晶に加わる熱応力の変化が大きかったためと推測された。
【0164】
(実施例2)
本発明の他の実施例に係る実施例2として、第2の実施の形態で説明した結晶成長炉3を用いてGF法によりGaAsの単結晶成長を実施した例を以下に述べる。
【0165】
図13は、本発明の実施例2に係る結晶成長の工程の流れを示す。
【0166】
まず、幅55mm、直胴部(融液収容部124の直胴部分)の長さ600mmの石英製のボート120の細径部122にGaAsの種結晶170を収容すると共に、直胴部にGaAsの原料多結晶4000g及びドーパントとして190mgのSiを収容した(S200)。
【0167】
次に、このボート120を、V族元素110としての60gの砒素と共に、石英製の石英アンプル150に収容した(S205)。石英アンプル150の内部で、ボート120と砒素とは、拡散障壁140により仕切られている。そして、この石英アンプル150の内部を不活性ガスとしての窒素ガスで置換した後、真空排気して、<5×10−6torrの圧力にして封じ切った(S210)。続いて、この石英アンプル150を、結晶成長炉3の外周加熱ヒータ130内にセットした(S215)。
【0168】
原料多結晶を融解するにあたり、まず、外周加熱ヒータ130の設定温度を610℃として外周加熱ヒータ130の通電を開始すると共に(S220)、V族元素圧制御ゾーン190に対応する外周加熱ヒータ130にてV族元素圧制御ゾーン190を加熱して、石英アンプル150内の砒素の蒸気圧と大気圧とを釣り合わせた(S225)。そして、結晶成長が完了して結晶成長炉の冷却を開始するまでの間、V族元素圧制御ゾーン190に対応する外周加熱ヒータ130の設定温度は、610℃に保持した。
【0169】
次に、結晶成長ゾーン180に対応する外周加熱ヒータ130の温度を昇温させ、原料多結晶を融解してGaAsの融液160を形成した(S230)。結晶成長ゾーン180においては、種結晶170の融解を防止することを目的として、種結晶170側の温度がGaAsの融点である1238℃を超えない温度となると共に、ボート120の種結晶170側の反対側の端部が約1270℃となるように、各外周加熱ヒータ130の温度をそれぞれ設定した(S235)。その結果、融液160の内部のボート120の長手方向の温度分布は、種結晶170側からボート120の種結晶170側とは反対側に向かって単調増加する温度勾配となった。
【0170】
各外周加熱ヒータ130の温度を設定した後、融液160の内部の温度が安定するまで、約4時間放置した。続いて、結晶成長ゾーン180の種結晶170側の温度を一定に保ちつつ、ボート120の種結晶170の反対側の端の最高温部に対応する外周加熱ヒータ130の設定温度を0.5deg/hの割合で降下させることにより結晶成長を開始した(S240)。結晶成長ゾーン180の中央部に位置する外周加熱ヒータ130の設定温度は、融液160の内部のボート120の長手方向の温度分布が、各時刻において種結晶170側から最高温部に向かって単調増加する温度勾配となるように、その降下速度を設定して制御した。
【0171】
結晶成長ゾーン180に位置する外周加熱ヒータ130の設定温度を降下させることで、GaAsの融液160が種結晶170と接触している側から最高温部側に向かって順に凝固を開始して、GaAs単結晶の成長が進行した。そして、約2.5日を経て融液160が完全に凝固した。次に、最高温部に対応する外周加熱ヒータ130の設定温度の効果を停止すると共に、結晶成長ゾーン180に位置する外周加熱ヒータ130の温度を100deg/hの割合で600℃近傍まで冷却(徐冷)した(S245)。更に、結晶成長ゾーン180及びV族元素圧制御ゾーン190のそれぞれに対応する外周加熱ヒータ130の通電を停止して、室温まで冷却した(S250)。
【0172】
その後、石英アンプル150から成長した結晶を取り出して観察したところ、全長にわたってGaAsの単結晶となっていることが確認された。なお、上記説明におけるS200からS250の工程で、連続して20回の結晶成長を実施した。その結果、いずれの結晶成長においても、全長がGaAsの単結晶である結晶を得ることができた。
【0173】
結晶成長炉3を用いて図13に示した工程で得られた20本のGaAs単結晶のうちの1本を選択した。そして、選択した1本のGaAs単結晶の直胴部分に該当する部分をスライスして、(100)面を有する略台形状の複数のウェハを切り出した。次に、切り出したウェハ表面に溶融KOHによるエッチング処理を施した。続いて、転位密度測定を実施した。
【0174】
KOHエッチング処理を施したウェハを観察した結果、GaAs単結晶の全長にわたってリネージ等の欠陥の発生は認められなかった。そして、切り出したウェハ面内の平均転位密度はGaAs単結晶の直胴部の全体にわたって50cm−2以下であった。具体的には、GaAs単結晶の直胴部の長さは550mmであり、GaAs単結晶の少なくとも5mmから550mmまでの範囲内において、平均転位密度が5cm−2から50cm−2の範囲であった。
【0175】
また、他の19本のGaAs単結晶についても、GaAs単結晶の種結晶側、直胴部の中央部、及び直胴部の尾部からウェハを切り出して、溶融KOHによるエッチング処理を施した。そして、上記と同様の転位密度測定を実施した。その結果、19本全てのGaAs単結晶のいずれの部分においても、平均転位密度は50cm−2以下であった。すなわち、19本のGaAs単結晶のいずれについても平均転位密度が所定値以下である結晶が、再現性よく得られることが示された。
【0176】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない。
【図面の簡単な説明】
【0177】
【図1】第1の実施の形態に係る結晶成長炉の断面の概要図である。
【図2A】第1の実施の形態に係る結晶成長炉内の結晶成長方向に沿った温度変化の模式図であり、(a)は、種結晶と融液とを収容したルツボの縦断面図であり、(b)は、原料の多結晶を融解するときのルツボ内の温度の状況を示す図であり、(c)は、結晶成長の進行に伴った、ルツボ内の温度変化のプロファイルを示す図である。
【図2B】第1の実施の形態に係る結晶成長の進行に伴った、ルツボ内の温度変化のプロファイルの詳細を示す図である。
【図3】第1の比較例に係る結晶成長炉の断面の概要図である。
【図4】第1の比較例に係るVGF法のおける結晶成長炉内の結晶成長方向に沿った温度変化の模式図であり、(a)は、種結晶と融液とを収容したルツボの縦断面図であり、(b)は、原料の多結晶を融解するときのルツボ内の温度の状況を示す図であり、(c)は、結晶成長の進行に伴った、ルツボ内の温度変化のプロファイルを示す図である。
【図5】第2の実施の形態に係る結晶成長炉の断面の概要図である。
【図6】第2の実施の形態に係る結晶成長炉内の結晶成長方向に沿った温度変化の模式図であり、(a)は、種結晶と融液とを収容したボートの縦断面図であり、(b)は、原料の多結晶を融解したときのボート内の温度の状況を示す図であり、(c)は、結晶成長の進行に伴った、ボート内の温度変化のプロファイルを示す図である。
【図7】第2の比較例に係るGF法における結晶成長炉内の結晶成長方向に沿った温度変化の模式図であり、(a)は、種結晶と融液とを収容したボートの縦断面図であり、(b)は、原料の多結晶を融解したときのボート内の温度の状況を示す図であり、(c)は、結晶成長の進行に伴った、ボート内の温度変化のプロファイルを示す図である。
【図8】第3の実施の形態に係る結晶成長炉の断面の概要図である。
【図9】第3の実施の形態に係る結晶成長炉内の結晶成長方向に沿った温度変化の模式図であり、(a)は、種結晶と融液とを収容したルツボの縦断面図であり、(b)は、原料の多結晶を融解するときのルツボ内の温度の状況を示す図であり、(c)は、結晶成長の進行に伴った、ルツボ内の温度変化のプロファイルを示す図である。
【図10】実施例に係る結晶成長の工程の流れを示す図である。
【図11】実施例1に係る結晶成長炉で成長したGaAs単結晶のウェハ面内の平均転位密度の結晶長手方向の分布を示す図である。
【図12】第1の比較例の成長Bに係る結晶成長方法で成長したGaAs単結晶のウェハ面内の平均転位密度の結晶長手方向の分布を示す図である。
【図13】実施例2に係る結晶成長の工程の流れを示す図である。
【符号の説明】
【0178】
1、2、3、4 結晶成長炉
10、11 上部加熱ヒータ
12a、12b、12c、12d、130、340 外周加熱ヒータ
15 熱伝導部材
20、310 ルツボ
20a、20b ルツボ端
22 ルツボ開口部
24 ルツボ側面
25 細径部
26 傾斜部
27 直胴部
30、170、370 種結晶
30a 種結晶端
32 成長結晶
34、160、400 融液
40、390 液体封止剤
50、320 サセプタ
51 サセプタ上部
52 サセプタ下部
55、330 サセプタ支持部材
60、62、350 断熱材
70、360 チャンバー
100、101、102、103、104、105、106 温度プロファイル
110 V族元素
120 ボート
122 細径部
124 融液収容部
140 拡散障壁
150 石英アンプル
180 結晶成長ゾーン
190 V族元素圧制御ゾーン
200、201、202、203、204、205、206 温度プロファイル
300、302、304、306 温度プロファイル
380 種結晶支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体の種結晶と前記半導体の原料とを収容した容器を加熱して、前記原料を半導体融液とする原料融解工程と、
前記容器の前記種結晶側の一端を、前記種結晶を収容している側とは反対側の前記容器の他端よりも低温に保持する温度保持工程と、
前記種結晶側の前記半導体融液の温度の降下量を、前記他端側の前記半導体融液の温度の降下量よりも少なくした状態で前記半導体融液の温度を降下させて、前記種結晶側から前記容器の前記他端に向けて前記半導体融液を徐々に固化させる結晶成長工程と
を備える半導体結晶成長方法。
【請求項2】
前記結晶成長工程は、前記種結晶側の前記半導体融液の温度の降下速度を、前記他端側の前記半導体融液の温度の降下速度よりも遅くした状態で、前記半導体融液の温度を降下させて前記半導体融液を固化させる
請求項1に記載の半導体結晶成長方法。
【請求項3】
複数個の加熱用ヒータを備える結晶成長炉内に、種結晶を収容した種結晶配置部を有すると共に、半導体の原料を収容した結晶成長用の容器を収容する容器収容工程と、
前記容器に収容した前記原料が融解した半導体融液に種結晶を接触させた状態で、前記容器の前記種結晶側を加熱する前記加熱用ヒータの温度の降下量を、前記容器の前記種結晶配置部とは別の端部を加熱する前記加熱用ヒータの温度の降下量よりも少なくした状態で、前記半導体融液の温度を降下させて、前記種結晶側から前記容器の他端に向けて前記半導体融液を徐々に固化させる結晶成長工程と
を備える半導体結晶成長方法。
【請求項4】
前記結晶成長工程は、前記容器の前記種結晶側を加熱する前記加熱用ヒータの温度の降下速度を、前記種結晶配置部とは別の端部を加熱する前記加熱用ヒータの温度の降下速度よりも遅くした状態で、前記半導体融液の温度を降下させる
請求項3に記載の半導体結晶成長方法。
【請求項5】
前記結晶成長工程は、前記容器の前記種結晶側を加熱する前記加熱用ヒータの温度を一定に保ちつつ、前記種結晶配置部とは別の端部を加熱する前記加熱用ヒータの温度を降下させて、前記半導体融液の温度を降下させる
請求項3に記載の半導体結晶成長方法。
【請求項6】
前記結晶成長工程は、前記容器の前記種結晶側の加熱温度と、前記種結晶配置部とは別の端部の加熱温度とを制御して、結晶成長中の前記半導体融液内の結晶成長方向(前記容器の長手方向)の温度勾配を、前記結晶成長の進行につれて前記結晶成長の開始時よりも小さくする
請求項1から5のいずれか1項に記載の半導体結晶成長方法。
【請求項7】
前記結晶成長工程は、前記容器の前記種結晶側の加熱温度を略一定に保持する
請求項6に記載の半導体結晶成長方法。
【請求項8】
前記結晶成長工程は、前記種結晶配置部とは別の端部を加熱する前記加熱用ヒータの温度の降下速度を結晶成長の開始時の降下速度から徐々に遅くする
請求項3から5のいずれか1項に記載の半導体結晶成長方法。
【請求項9】
前記結晶成長工程は、前記種結晶配置部とは別の端部を加熱する前記加熱用ヒータの温度の降下速度を結晶成長の開始時の降下速度から徐々に遅くすることにより、結晶成長界面の移動速度を略一定にする
請求項3から5のいずれか1項に記載の半導体結晶成長方法。
【請求項10】
前記結晶成長工程は、結晶成長中の前記半導体融液内の結晶成長方向(前記容器の長手方向)の温度勾配を、前記結晶成長の進行につれて前記結晶成長の開始時よりも小さくすることにより、結晶成長界面の移動速度を略一定にする
請求項6又は7に記載の半導体結晶成長方法。
【請求項11】
前記半導体融液を収容する前記容器が水平に載置され、前記容器の一端に前記種結晶が配置され、前記半導体融液の凝固が水平方向に進行する水平ボート法を用いる
請求項1から5のいずれか1項に記載の半導体結晶成長方法。
【請求項12】
前記半導体融液を収容する前記容器が垂直に保持され、前記容器の下端に設けられた種結晶収容部に前記種結晶が配置され、前記半導体融液の凝固が下方から上方に向けて進行する縦型ボート法を用いる
請求項1から5のいずれか1項に記載の半導体結晶成長方法。
【請求項13】
前記半導体融液を収容する前記容器が垂直に保持され、前記容器の上端に前記種結晶が配置され、前記半導体融液の凝固が上方から下方に進行するKyropulos法を用いる
請求項1から5のいずれか1項に記載の半導体結晶成長方法。
【請求項14】
前記結晶成長炉は、前記容器を包囲する位置に配置されて前記容器の前記種結晶側を加熱する前記加熱用ヒータと、前記容器の側面を除く端面を加熱する位置に配置されて前記容器の前記種結晶側とは別の端部を加熱する前記加熱用ヒータとを有する
請求項3から5のいずれか1項に記載の半導体結晶成長方法。
【請求項15】
前記結晶成長炉は、前記容器を包囲する位置に配置されて前記容器を加熱する前記加熱用ヒータと、前記容器の長手方向に対して垂直な位置に発熱面を含み、前記容器の前記種結晶側とは別の端部を加熱する前記加熱用ヒータとを有する
請求項3から5のいずれか1項に記載の半導体結晶成長方法。
【請求項16】
前記容器は、断面が円形であり、
前記結晶成長工程は、前記半導体融液及び前記半導体融液から成長する成長結晶内の等温面が略平坦に維持された状態で結晶成長が進行するように、前記半導体融液を凝固させる
請求項12又は13に記載の半導体結晶成長方法。
【請求項17】
前記結晶成長工程は、少なくとも結晶成長中において、前記容器を包囲して配置されている前記加熱用ヒータの温度が、前記容器の前記種結晶側とは別の端部を加熱する前記加熱用ヒータの温度よりも低い温度に保持される
請求項14又は15に記載の半導体結晶成長方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−190914(P2009−190914A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31581(P2008−31581)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】