半導体膜の品質を検査するための検査システム及びこれを用いた検査方法
【課題】 I族元素、III族元素及びVI族元素を含むカルコパイライト構造の化合物半導体からなる半導体膜の品質を精度よく判断することができる検査システムと、これを用いた検査方法を提供する。
【解決手段】 半導体膜(10)の周囲の温度を100K以下に保つ温調部(11)と、半導体膜(10)に1.0eV以上の光子エネルギーを有する励起光(L1)を照射して、半導体膜(10)中にキャリアを発生させる光照射部(14)と、前記キャリアが発する蛍光のうち、0.9〜1.3eVの光子エネルギーを有する蛍光(L2)を受光して、蛍光(L2)の寿命値を測定する蛍光寿命測定部(15)と、蛍光寿命測定部(15)によって測定された蛍光(L2)の寿命値が予め定められた所定値未満のときに半導体膜(10)を不良と判定する判定部(17)とを含む検査システム(1)とする。
【解決手段】 半導体膜(10)の周囲の温度を100K以下に保つ温調部(11)と、半導体膜(10)に1.0eV以上の光子エネルギーを有する励起光(L1)を照射して、半導体膜(10)中にキャリアを発生させる光照射部(14)と、前記キャリアが発する蛍光のうち、0.9〜1.3eVの光子エネルギーを有する蛍光(L2)を受光して、蛍光(L2)の寿命値を測定する蛍光寿命測定部(15)と、蛍光寿命測定部(15)によって測定された蛍光(L2)の寿命値が予め定められた所定値未満のときに半導体膜(10)を不良と判定する判定部(17)とを含む検査システム(1)とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、I族元素、III族元素及びVI族元素を含むカルコパイライト構造の化合物半導体からなる半導体膜の品質を検査するための検査システム及びこれを用いた検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
I族元素、III族元素及びVI族元素を含むカルコパイライト構造の化合物半導体からなる半導体膜を光吸収層に用いた太陽電池は、結晶シリコン太陽電池に対し同等以上の変換効率を有する上、アモルファス太陽電池に対し同等以下にコストを抑えることができるため実用化が期待されている。なかでも、I族にCu、III族にIn、VI族にSeを用いたCuInSe2(以下、「CIS」と記述する。)からなる半導体膜や、これにGaを固溶したCu(In,Ga)Se2(以下、「CIGS」と記述する。)からなる半導体膜を光吸収層に用いた太陽電池は、高いエネルギー変換効率を示し、光照射等による効率の劣化が少ないという利点を有している。
【0003】
これらの半導体膜を光吸収層として用いた太陽電池を製造する場合、半導体膜を製膜した段階で、変換効率の高い太陽電池が得られる可能性のある半導体膜であるかどうかを判断することは、太陽電池の製造工程上の無駄を省き、歩留まりを向上させるために特に重要である。通常、半導体膜の品質を評価する際は、X線回折による結晶構造解析、2次イオン質量分析装置(SIMS)による厚さ方向の組成分布測定、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)による厚さ方向と直交する方向の組成分布測定、走査型電子顕微鏡(SEM)による膜断面や膜表面の形状観察、半導体膜中に発生したキャリアの蛍光強度の測定(特許文献1等参照)等の手段により評価していた。しかし、上記手段を用いても、測定結果と太陽電池の変換効率との間には顕著な相関関係はなく、半導体膜を製膜した段階で、変換効率の高い太陽電池が得られる可能性のある半導体膜であるかどうかを判断するのは困難であった。
【0004】
他方、非特許文献1には、製膜したCIGS膜の周囲の温度を室温(例えば、300K)に保ち、前記CIGS膜に励起光を照射してCIGS膜中にキャリアを発生させ、前記キャリアが発する蛍光の寿命値を測定して、この蛍光の寿命値からCIGS膜の品質を評価する方法が提案されている。前記蛍光の寿命値が短い場合は、例えば、CIGS膜に格子欠陥が多く存在することが考えられるため、変換効率の高い太陽電池が得られる可能性は低いと判断できる。
【特許文献1】特許2984114号公報
【非特許文献1】Keyes,B.M.; Dippo,P.; Metzger,W.; AbuShama,J.; Noufi,R.; Photovoltaic Specialists Conference, 2002. Conference Record of the Twer IEEE, 19-24 May 2002 pages:511-514
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1に提案された方法でも、測定された蛍光の寿命値と太陽電池の変換効率との間には僅かな相関が認められるのみで、顕著な差異は見出せないという課題があった。例えば、蛍光の寿命値が0.1ns異なるだけで、変換効率が1%以上も変化する場合があるため、測定した蛍光の寿命値からCIGS膜(半導体膜)の品質を判断するのは非常に困難であった。
【0006】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、I族元素、III族元素及びVI族元素を含むカルコパイライト構造の化合物半導体からなる半導体膜の品質を精度よく判断することができる検査システムと、これを用いた検査方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の検査システムは、I族元素、III族元素及びVI族元素を含むカルコパイライト構造の化合物半導体からなる半導体膜の品質を検査するための検査システムであって、
検査時において、前記半導体膜の周囲の温度を100K以下に保つ温調部と、
前記半導体膜に1.0eV以上の光子エネルギーを有する励起光を照射して、前記半導体膜中にキャリアを発生させる光照射部と、
前記光照射部によって発生した前記キャリアが発する蛍光のうち、0.9〜1.3eVの光子エネルギーを有する蛍光を受光して、前記蛍光の寿命値を測定する蛍光寿命測定部と、
前記蛍光寿命測定部によって測定された前記蛍光の寿命値が予め定められた所定値未満か否かを判断し、前記所定値未満のときに前記半導体膜を不良と判定する判定部とを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の検査方法は、I族元素、III族元素及びVI族元素を含むカルコパイライト構造の化合物半導体からなる半導体膜の品質を、前記検査システムを用いて検査する検査方法であって、
前記温調部により、前記半導体膜の周囲の温度を100K以下に保ち、
前記光照射部により、前記半導体膜に1.0eV以上の光子エネルギーを有する励起光を照射して、前記半導体膜中にキャリアを発生させ、
前記蛍光寿命測定部により、前記光照射部によって発生した前記キャリアが発する蛍光のうち、0.9〜1.3eVの光子エネルギーを有する蛍光を受光して、前記蛍光の寿命値を測定し、
前記判定部により、前記蛍光寿命測定部によって測定された前記蛍光の寿命値が予め定められた所定値未満か否かを判断し、前記所定値未満のときに前記半導体膜を不良と判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の検査システムによれば、検査する半導体膜の周囲の温度を100K以下に保つ温調部を有しているため、室温(300K)で測定した場合と比較して、キャリアが発する蛍光を相対的に長寿命化させることができる。その結果、測定された蛍光の寿命値と太陽電池の変換効率との間の相関が容易に得られるため、半導体膜の品質を精度よく判断することができる。また、本発明の検査方法によれば、半導体膜の周囲の温度を100K以下に保って蛍光の寿命値を測定するため、上記理由により半導体膜の品質を精度よく判断することができる。これにより、半導体膜を製膜した段階で、半導体膜の良否を判断して、品質が良好な半導体膜のみを選別できるため、太陽電池の製造工程上の無駄を省き、歩留まりを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の検査システムは、I族元素、III族元素及びVI族元素を含むカルコパイライト構造の化合物半導体からなる半導体膜の品質を検査するための検査システムである。前記化合物半導体としては、例えば、背景技術で説明したCIS、CIGS等が挙げられる。また、I族元素及びIII族元素としてCISやCIGSと同じ元素を用い、VI族元素としてSeの代わりにSを用いた化合物半導体や、VI族元素としてSe及びSの双方を用いた化合物半導体等でもよい。
【0011】
そして、本発明の検査システムは、検査時において、半導体膜の周囲の温度を100K以下に保つ温調部と、半導体膜に1.0eV以上の光子エネルギーを有する励起光を照射して、半導体膜中にキャリアを発生させる光照射部と、光照射部によって発生したキャリアが発する蛍光のうち、0.9〜1.3eVの光子エネルギーを有する蛍光を受光して、前記蛍光の寿命値を測定する蛍光寿命測定部と、蛍光寿命測定部によって測定された前記蛍光の寿命値が予め定められた所定値未満か否かを判断し、所定値未満のときに半導体膜を不良と判定する判定部とを含む。本発明の検査システムは、検査する半導体膜の周囲の温度を100K以下に保つ温調部を有しているため、室温(300K)で測定した場合と比較して、キャリアが発する蛍光を相対的に長寿命化させることができる。その結果、測定された蛍光の寿命値と太陽電池の変換効率との間の相関が容易に得られるため、半導体膜の品質を精度よく判断することができる。
【0012】
温調部としては、例えば、液体窒素等の冷媒が貯留された恒温槽等が例示できる。光照射部は、1.0eV以上の光子エネルギーを有する励起光を照射できるものであれば特に限定されないが、波長532〜1064nmの励起光を照射できるものが好ましく、例えば市販の蛍光寿命測定装置(例えば浜松ホトニクス製近赤外蛍光寿命測定装置、型番:C7990等)に設けられた光源等が使用できる。なお、照射する光子エネルギーが1.0eV未満では、半導体膜中にキャリアを発生させることが困難となる。蛍光寿命測定部は、被測定試料からの0.9〜1.3eVの光子エネルギーを有する蛍光を受光して、前記蛍光の寿命値を測定することができるものであれば特に限定されず、例えば市販の蛍光寿命測定装置に設けられた検出器等が使用できる。なお、受光する光子エネルギーが、0.9eV未満の場合や、1.3eVを超える場合は、蛍光強度が弱くなるため、蛍光の寿命値の測定が困難となる。
【0013】
判定部としては、特に限定されないが、例えばパーソナルコンピュータ等を使用することができる。パーソナルコンピュータを判定部として用いる場合は、前記パーソナルコンピュータに予め定められた所定値を入力しておき、前記パーソナルコンピュータに設けられた中央演算処理装置(CPU)等によって、測定された蛍光の寿命値が前記所定値未満か否かを判断し、前記所定値未満のときに半導体膜を不良と判定することができる。なお、前記所定値の設定方法の一例としては、まず、製膜条件(蒸着速度等)が異なる半導体膜を複数製膜する。そして、これらの半導体膜に1.0eV以上の光子エネルギーを有する励起光を照射して、半導体膜中にキャリアを発生させ、前記キャリアが発する蛍光のうち、0.9〜1.3eVの光子エネルギーを有する蛍光のピークにおける寿命値を測定する。次に、これらの半導体膜を用いて太陽電池を製造し、変換効率を測定する。そして、前記蛍光の寿命値に対して、前記変換効率をプロットし、例えば、変換効率が10%となるときの前記蛍光の寿命値を前記所定値として設定すればよい。
【0014】
本発明の検査方法は、I族元素、III族元素及びVI族元素を含むカルコパイライト構造の化合物半導体からなる半導体膜の品質を、前記検査システムを用いて検査する検査方法であって、前記温調部により、前記半導体膜の周囲の温度を100K以下に保ち、前記光照射部により、前記半導体膜に1.0eV以上の光子エネルギーを有する励起光を照射して、前記半導体膜中にキャリアを発生させ、前記蛍光寿命測定部により、前記光照射部によって発生した前記キャリアが発する蛍光のうち、0.9〜1.3eVの光子エネルギーを有する蛍光を受光して、前記蛍光の寿命値を測定し、前記判定部により、前記蛍光寿命測定部によって測定された前記蛍光の寿命値が予め定められた所定値未満か否かを判断し、前記所定値未満のときに前記半導体膜を不良と判定することを特徴とする。本発明の検査方法は、半導体膜の周囲の温度を100K以下に保って蛍光の寿命値を測定するため、上述したように半導体膜の品質を精度よく判断することができる。これにより、半導体膜を製膜した段階で、半導体膜の良否を判断して、品質が良好な半導体膜のみを選別できるため、太陽電池の製造工程上の無駄を省き、歩留まりを向上させることができる。
【0015】
また、本発明の検査方法は、前記温調部により、前記半導体膜の周囲の温度を70〜85Kの範囲に保つ検査方法としてもよい。前記温度範囲であれば、液体窒素等の容易に入手できる冷媒を使用することができるので、検査コストを抑えることができる。
【0016】
また、本発明の検査方法は、前記所定値を10nsとする検査方法であってもよい。前記所定値を10nsとすることにより、例えば、変換効率が10%以上の太陽電池が得られる可能性のある半導体膜を選別することができる。以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
[第1実施形態]
まず、本発明の第1実施形態に係る検査システムについて図面を参照して説明する。参照する図1は、本発明の第1実施形態に係る検査システムの構成図である。
【0018】
図1に示すように、検査システム1は、半導体膜10の周囲の温度を70〜85Kの範囲に保つ温調部11として液体窒素12が貯留された恒温槽13と、光照射部14と、蛍光寿命測定部15と、パーソナルコンピュータ17とを有する。半導体膜10は、検査時において、恒温槽13内の液体窒素12に浸漬されている。光照射部14は、半導体膜10に1.0eV以上の光子エネルギーを有する励起光L1を照射して、半導体膜10中にキャリアを発生させることができる。また、蛍光寿命測定部15は、光照射部14によって発生した前記キャリアが発する蛍光のうち、0.9〜1.3eVの光子エネルギーを有する蛍光L2を受光して、蛍光L2の寿命値を測定することができる。
【0019】
パーソナルコンピュータ17と蛍光寿命測定部15とは、接続コード18により接続されており、蛍光寿命測定部15により測定された蛍光L2の寿命値が接続コード18を通じてパーソナルコンピュータ17に入力されるように構成されている。また、パーソナルコンピュータ17には、予め定められた所定値(例えば10ns等)が入力されている。そして、半導体膜10を検査する際、パーソナルコンピュータ17に、蛍光寿命測定部15により測定された蛍光L2の寿命値が入力されると、パーソナルコンピュータ17は、パーソナルコンピュータ17に設けられたCPU(図示せず)によって、測定された蛍光L2の寿命値が前記所定値未満か否かを判断し、前記所定値未満のときに半導体膜10を不良と判定する。即ち、パーソナルコンピュータ17は、半導体膜10の良否を判定する判定部として機能する。なお、判定結果の出力方法は特に限定されず、例えばパーソナルコンピュータ17のモニタ17aに表示してもよいし、パーソナルコンピュータ17に、プリンタ(図示せず)を接続して、判定結果を印刷してもよい。
【0020】
なお、半導体膜10は、I族元素、III族元素及びVI族元素を含むカルコパイライト構造の化合物半導体からなり、図2に示すように、ガラス基板20上に、Mo等からなる金属層21を介して積層されている。
【0021】
以上、本発明の第1実施形態に係る検査システムについて説明したが、本発明は前記実施形態には限定されない。例えば、蛍光寿命測定部が、蛍光を受光する受光部と、前記蛍光の寿命値を測定する測定部とに分離して構成されていてもよい。
【0022】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る検査方法を利用した太陽電池の製造方法について図面を参照して説明する。参照する図3は、第2実施形態に係る検査方法を利用した太陽電池の製造方法を示すフローチャートである。また、参照する図4は、第2実施形態に係る検査方法を利用した太陽電池の製造方法により製造された太陽電池の断面図である。なお、本実施形態では、太陽電池の光吸収層として、CIGSからなる半導体膜を使用する場合について説明する。
【0023】
図3に示すように、まず、Na、K及びLiからなる群より選択される少なくとも1種類のアルカリ金属元素を含有するガラス基板30(図4参照)を中性洗剤や純水等により洗浄し、乾燥する(ステップS1)。次に、ガラス基板30上に、スパッタ法によりMoからなる金属層31(図4参照)を約0.4μmの厚さで形成する(ステップS2)。そして、光吸収層として、金属層31上に、CIGSからなる半導体膜32(図4参照)を四元同時蒸着法により約2μmの厚さで製膜して、基板33(図4参照)を形成する(ステップS3)。なお、CIGSからなる半導体膜32の形成方法は、上記の四元同時蒸着法に限定されず、例えばH2Seを用いたセレン化法、スパッタ法、スプレー法、電着法等を用いてもよい
次に、前述した検査システム1の恒温槽13内の液体窒素12(図1参照)に、半導体膜32が光照射部14及び蛍光寿命測定部15(図1参照)側に向くように、基板33を浸漬する(ステップS4)。続いて、光照射部14(図1参照)により、半導体膜32に1.0eV以上の光子エネルギーを有する励起光L1(図1参照)を照射して、半導体膜32中にキャリアを発生させる(ステップS5)。そして、蛍光寿命測定部15(図1参照)により、光照射部14によって発生した前記キャリアが発する蛍光のうち、0.9〜1.3eVの光子エネルギーを有する蛍光L2(図1参照)を受光して、蛍光L2の寿命値を測定する(ステップS6)。そして、パーソナルコンピュータ17(図1参照)に、蛍光寿命測定部15により測定された蛍光L2の寿命値が入力された後、パーソナルコンピュータ17によって、測定された蛍光L2の寿命値が予め定められた所定値未満か否かを判断する(ステップS7)。この際、蛍光L2の寿命値が前記所定値未満(ステップS8のYes)のときは、半導体膜32を不良と判定して、次工程へと進むことなく終了する。
【0024】
一方、蛍光L2の寿命値が前記所定値以上(ステップS8のNo)のときは、半導体膜32を良と判定して、基板33を恒温槽13から取り出し、乾燥後、半導体膜32上に、窓層34(図4参照)を0.1〜0.3μmの厚さで形成する(ステップS9)。窓層34は、例えば、ZnO膜、ZnMgO膜等からなるものが使用でき、スパッタ法等により形成できる。次に、窓層34上に、透明導電層35(図4参照)を0.1〜0.5μmの厚さで形成する(ステップS10)。透明導電層35は、例えば、酸化インジウム−スズ合金膜(ITO膜)、SnO2膜、In2O3膜、ZnOにAlをドーピングしたZnO:Al膜、ZnOにBをドーピングしたZnO:B膜等からなるものが使用でき、スパッタ法等により形成できる。最後に、200〜350℃で5〜10分間熱処理して(ステップS11)、太陽電池40(図4参照)が得られる。
【0025】
本発明の第2実施形態に係る検査方法(図3のステップS4〜S8に相当)は、半導体膜32の周囲の温度を100K以下(70〜85K)に保って蛍光L2の寿命値を測定するため、室温(300K)で測定した場合と比較して、蛍光L2を相対的に長寿命化させることができる。その結果、測定された蛍光L2の寿命値と太陽電池40の変換効率との間の相関が容易に得られるため、半導体膜32の品質を精度よく判断することができる。よって、上述したように、第2実施形態に係る検査方法を利用して太陽電池40を製造すると、半導体膜32を製膜した段階で、半導体膜32の良否を判断して、品質が良好な半導体膜32のみを選別できるため、太陽電池40の製造工程上の無駄を省き、歩留まりを向上させることができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0027】
実施例として、前述した第1実施形態に係る検査システム1により、半導体膜を検査した例について説明する。まず、前述した図3に示すフローチャートのステップS3までを行い、基板33(図4参照)を作製した。続いて、検査システム1を用い、前述した図3に示すフローチャートのステップS4〜S8までを行った。なお、光照射部14(図1参照)と蛍光寿命測定部15(図1参照)とを含む蛍光寿命測定装置として、浜松ホトニクス製近赤外蛍光寿命測定装置(例えば型番:C7990)を使用し、励起光L1(図1参照)は、励起波長:532nm、パルス幅:1ns以下、繰り返し周期:5kHz、出力:15mW、格子エネルギー:2.33eVとした。また、予め定められた所定値を10nsとして、この所定値をパーソナルコンピュータ17(図1参照)に入力した。図5に、観測された蛍光L2(図1参照)の蛍光強度を太線で示す。また、比較例として同じく図5に、半導体膜の周囲の温度を300Kにして測定したときの蛍光強度を細線で示す。更に、図6に、図5のピーク位置における蛍光強度の経時変化(減衰曲線)を示し、このうち図6Aは実施例における蛍光強度の減衰曲線を示し、図6Bは比較例における蛍光強度の減衰曲線を示す。
【0028】
図5に示すように、実施例の場合は、蛍光強度のピーク位置が0.984eV(図中矢印I)となり、比較例の場合は、蛍光強度のピーク位置が1.06eV(図中矢印II)となった。
【0029】
また、図6Aと図6Bとを比較すると、図6Aに示す実施例における蛍光強度が、図6Bに示す比較例における蛍光強度よりも減衰速度が遅いことがわかる。また、蛍光寿命測定部15(図1参照)により、実施例及び比較例における蛍光L2の寿命値(光子のカウント数が最大値を示してから前記最大値の1/eになるまでの時間)を測定した結果、実施例では、48.239nsとなり、比較例では0.395nsとなった。これにより、実施例では、比較例に比べ蛍光L2が長寿命化することが分かった。また、実施例の場合は、測定された蛍光L2の寿命値(48.239ns)が、予め定められた所定値(10ns)以上であるため、パーソナルコンピュータ17により良と判定された。そして、実施例で検査した基板33を用いて、前述した方法により太陽電池を作製し、変換効率を測定した結果、16.7%という高い変換効率が得られた。
【0030】
なお、実施例で用いた所定値(10ns)の設定は、まず、製膜時の蒸着速度が異なる半導体膜を複数製膜した。そして、実施例と同様にこれらの半導体膜に励起光L1(図1参照)を照射し、発生したキャリアの蛍光L2(図1参照)のピークにおける寿命値を測定した。次に、これらの半導体膜を用いて太陽電池を製造し、変換効率を測定した。そして、図7に示すように、蛍光L2の寿命値に対して、前記変換効率をプロットした。図7に示すグラフでは、蛍光L2の寿命値が10ns以上の場合に、変換効率が10%以上の太陽電池が得られているため、10nsを予め定められた所定値とした。なお、所定値を決定する際の、変換効率の値は10%でなくてもよい。例えば、図7に示すように、蛍光L2の寿命値が40ns以上の場合に、変換効率が16%以上の太陽電池が得られているため、40nsを予め定められた所定値とすることによって、より変換効率が高い太陽電池を歩留まり良く製造できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態に係る検査システムの構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る検査システムにより検査される半導体膜(基板)の断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る検査方法を利用した太陽電池の製造方法を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第2実施形態に係る検査方法を利用した太陽電池の製造方法により製造された太陽電池の断面図である。
【図5】本発明の実施例及び比較例において、測定された蛍光強度を示すグラフである。
【図6】Aは、本発明の実施例における蛍光強度の減衰曲線であり、Bは、比較例における蛍光強度の減衰曲線である。
【図7】蛍光の寿命値に対して、太陽電池の変換効率をプロットしたグラフである。
【符号の説明】
【0032】
1 検査システム
10,32 半導体膜
11 温調部
12 液体窒素
13 恒温槽
14 光照射部
15 蛍光寿命測定部
17 パーソナルコンピュータ(判定部)
20,30 ガラス基板
21,31 金属層
33 基板
34 窓層
35 透明導電層
40 太陽電池
L1 励起光
L2 蛍光
【技術分野】
【0001】
本発明は、I族元素、III族元素及びVI族元素を含むカルコパイライト構造の化合物半導体からなる半導体膜の品質を検査するための検査システム及びこれを用いた検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
I族元素、III族元素及びVI族元素を含むカルコパイライト構造の化合物半導体からなる半導体膜を光吸収層に用いた太陽電池は、結晶シリコン太陽電池に対し同等以上の変換効率を有する上、アモルファス太陽電池に対し同等以下にコストを抑えることができるため実用化が期待されている。なかでも、I族にCu、III族にIn、VI族にSeを用いたCuInSe2(以下、「CIS」と記述する。)からなる半導体膜や、これにGaを固溶したCu(In,Ga)Se2(以下、「CIGS」と記述する。)からなる半導体膜を光吸収層に用いた太陽電池は、高いエネルギー変換効率を示し、光照射等による効率の劣化が少ないという利点を有している。
【0003】
これらの半導体膜を光吸収層として用いた太陽電池を製造する場合、半導体膜を製膜した段階で、変換効率の高い太陽電池が得られる可能性のある半導体膜であるかどうかを判断することは、太陽電池の製造工程上の無駄を省き、歩留まりを向上させるために特に重要である。通常、半導体膜の品質を評価する際は、X線回折による結晶構造解析、2次イオン質量分析装置(SIMS)による厚さ方向の組成分布測定、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)による厚さ方向と直交する方向の組成分布測定、走査型電子顕微鏡(SEM)による膜断面や膜表面の形状観察、半導体膜中に発生したキャリアの蛍光強度の測定(特許文献1等参照)等の手段により評価していた。しかし、上記手段を用いても、測定結果と太陽電池の変換効率との間には顕著な相関関係はなく、半導体膜を製膜した段階で、変換効率の高い太陽電池が得られる可能性のある半導体膜であるかどうかを判断するのは困難であった。
【0004】
他方、非特許文献1には、製膜したCIGS膜の周囲の温度を室温(例えば、300K)に保ち、前記CIGS膜に励起光を照射してCIGS膜中にキャリアを発生させ、前記キャリアが発する蛍光の寿命値を測定して、この蛍光の寿命値からCIGS膜の品質を評価する方法が提案されている。前記蛍光の寿命値が短い場合は、例えば、CIGS膜に格子欠陥が多く存在することが考えられるため、変換効率の高い太陽電池が得られる可能性は低いと判断できる。
【特許文献1】特許2984114号公報
【非特許文献1】Keyes,B.M.; Dippo,P.; Metzger,W.; AbuShama,J.; Noufi,R.; Photovoltaic Specialists Conference, 2002. Conference Record of the Twer IEEE, 19-24 May 2002 pages:511-514
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1に提案された方法でも、測定された蛍光の寿命値と太陽電池の変換効率との間には僅かな相関が認められるのみで、顕著な差異は見出せないという課題があった。例えば、蛍光の寿命値が0.1ns異なるだけで、変換効率が1%以上も変化する場合があるため、測定した蛍光の寿命値からCIGS膜(半導体膜)の品質を判断するのは非常に困難であった。
【0006】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、I族元素、III族元素及びVI族元素を含むカルコパイライト構造の化合物半導体からなる半導体膜の品質を精度よく判断することができる検査システムと、これを用いた検査方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の検査システムは、I族元素、III族元素及びVI族元素を含むカルコパイライト構造の化合物半導体からなる半導体膜の品質を検査するための検査システムであって、
検査時において、前記半導体膜の周囲の温度を100K以下に保つ温調部と、
前記半導体膜に1.0eV以上の光子エネルギーを有する励起光を照射して、前記半導体膜中にキャリアを発生させる光照射部と、
前記光照射部によって発生した前記キャリアが発する蛍光のうち、0.9〜1.3eVの光子エネルギーを有する蛍光を受光して、前記蛍光の寿命値を測定する蛍光寿命測定部と、
前記蛍光寿命測定部によって測定された前記蛍光の寿命値が予め定められた所定値未満か否かを判断し、前記所定値未満のときに前記半導体膜を不良と判定する判定部とを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の検査方法は、I族元素、III族元素及びVI族元素を含むカルコパイライト構造の化合物半導体からなる半導体膜の品質を、前記検査システムを用いて検査する検査方法であって、
前記温調部により、前記半導体膜の周囲の温度を100K以下に保ち、
前記光照射部により、前記半導体膜に1.0eV以上の光子エネルギーを有する励起光を照射して、前記半導体膜中にキャリアを発生させ、
前記蛍光寿命測定部により、前記光照射部によって発生した前記キャリアが発する蛍光のうち、0.9〜1.3eVの光子エネルギーを有する蛍光を受光して、前記蛍光の寿命値を測定し、
前記判定部により、前記蛍光寿命測定部によって測定された前記蛍光の寿命値が予め定められた所定値未満か否かを判断し、前記所定値未満のときに前記半導体膜を不良と判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の検査システムによれば、検査する半導体膜の周囲の温度を100K以下に保つ温調部を有しているため、室温(300K)で測定した場合と比較して、キャリアが発する蛍光を相対的に長寿命化させることができる。その結果、測定された蛍光の寿命値と太陽電池の変換効率との間の相関が容易に得られるため、半導体膜の品質を精度よく判断することができる。また、本発明の検査方法によれば、半導体膜の周囲の温度を100K以下に保って蛍光の寿命値を測定するため、上記理由により半導体膜の品質を精度よく判断することができる。これにより、半導体膜を製膜した段階で、半導体膜の良否を判断して、品質が良好な半導体膜のみを選別できるため、太陽電池の製造工程上の無駄を省き、歩留まりを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の検査システムは、I族元素、III族元素及びVI族元素を含むカルコパイライト構造の化合物半導体からなる半導体膜の品質を検査するための検査システムである。前記化合物半導体としては、例えば、背景技術で説明したCIS、CIGS等が挙げられる。また、I族元素及びIII族元素としてCISやCIGSと同じ元素を用い、VI族元素としてSeの代わりにSを用いた化合物半導体や、VI族元素としてSe及びSの双方を用いた化合物半導体等でもよい。
【0011】
そして、本発明の検査システムは、検査時において、半導体膜の周囲の温度を100K以下に保つ温調部と、半導体膜に1.0eV以上の光子エネルギーを有する励起光を照射して、半導体膜中にキャリアを発生させる光照射部と、光照射部によって発生したキャリアが発する蛍光のうち、0.9〜1.3eVの光子エネルギーを有する蛍光を受光して、前記蛍光の寿命値を測定する蛍光寿命測定部と、蛍光寿命測定部によって測定された前記蛍光の寿命値が予め定められた所定値未満か否かを判断し、所定値未満のときに半導体膜を不良と判定する判定部とを含む。本発明の検査システムは、検査する半導体膜の周囲の温度を100K以下に保つ温調部を有しているため、室温(300K)で測定した場合と比較して、キャリアが発する蛍光を相対的に長寿命化させることができる。その結果、測定された蛍光の寿命値と太陽電池の変換効率との間の相関が容易に得られるため、半導体膜の品質を精度よく判断することができる。
【0012】
温調部としては、例えば、液体窒素等の冷媒が貯留された恒温槽等が例示できる。光照射部は、1.0eV以上の光子エネルギーを有する励起光を照射できるものであれば特に限定されないが、波長532〜1064nmの励起光を照射できるものが好ましく、例えば市販の蛍光寿命測定装置(例えば浜松ホトニクス製近赤外蛍光寿命測定装置、型番:C7990等)に設けられた光源等が使用できる。なお、照射する光子エネルギーが1.0eV未満では、半導体膜中にキャリアを発生させることが困難となる。蛍光寿命測定部は、被測定試料からの0.9〜1.3eVの光子エネルギーを有する蛍光を受光して、前記蛍光の寿命値を測定することができるものであれば特に限定されず、例えば市販の蛍光寿命測定装置に設けられた検出器等が使用できる。なお、受光する光子エネルギーが、0.9eV未満の場合や、1.3eVを超える場合は、蛍光強度が弱くなるため、蛍光の寿命値の測定が困難となる。
【0013】
判定部としては、特に限定されないが、例えばパーソナルコンピュータ等を使用することができる。パーソナルコンピュータを判定部として用いる場合は、前記パーソナルコンピュータに予め定められた所定値を入力しておき、前記パーソナルコンピュータに設けられた中央演算処理装置(CPU)等によって、測定された蛍光の寿命値が前記所定値未満か否かを判断し、前記所定値未満のときに半導体膜を不良と判定することができる。なお、前記所定値の設定方法の一例としては、まず、製膜条件(蒸着速度等)が異なる半導体膜を複数製膜する。そして、これらの半導体膜に1.0eV以上の光子エネルギーを有する励起光を照射して、半導体膜中にキャリアを発生させ、前記キャリアが発する蛍光のうち、0.9〜1.3eVの光子エネルギーを有する蛍光のピークにおける寿命値を測定する。次に、これらの半導体膜を用いて太陽電池を製造し、変換効率を測定する。そして、前記蛍光の寿命値に対して、前記変換効率をプロットし、例えば、変換効率が10%となるときの前記蛍光の寿命値を前記所定値として設定すればよい。
【0014】
本発明の検査方法は、I族元素、III族元素及びVI族元素を含むカルコパイライト構造の化合物半導体からなる半導体膜の品質を、前記検査システムを用いて検査する検査方法であって、前記温調部により、前記半導体膜の周囲の温度を100K以下に保ち、前記光照射部により、前記半導体膜に1.0eV以上の光子エネルギーを有する励起光を照射して、前記半導体膜中にキャリアを発生させ、前記蛍光寿命測定部により、前記光照射部によって発生した前記キャリアが発する蛍光のうち、0.9〜1.3eVの光子エネルギーを有する蛍光を受光して、前記蛍光の寿命値を測定し、前記判定部により、前記蛍光寿命測定部によって測定された前記蛍光の寿命値が予め定められた所定値未満か否かを判断し、前記所定値未満のときに前記半導体膜を不良と判定することを特徴とする。本発明の検査方法は、半導体膜の周囲の温度を100K以下に保って蛍光の寿命値を測定するため、上述したように半導体膜の品質を精度よく判断することができる。これにより、半導体膜を製膜した段階で、半導体膜の良否を判断して、品質が良好な半導体膜のみを選別できるため、太陽電池の製造工程上の無駄を省き、歩留まりを向上させることができる。
【0015】
また、本発明の検査方法は、前記温調部により、前記半導体膜の周囲の温度を70〜85Kの範囲に保つ検査方法としてもよい。前記温度範囲であれば、液体窒素等の容易に入手できる冷媒を使用することができるので、検査コストを抑えることができる。
【0016】
また、本発明の検査方法は、前記所定値を10nsとする検査方法であってもよい。前記所定値を10nsとすることにより、例えば、変換効率が10%以上の太陽電池が得られる可能性のある半導体膜を選別することができる。以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
[第1実施形態]
まず、本発明の第1実施形態に係る検査システムについて図面を参照して説明する。参照する図1は、本発明の第1実施形態に係る検査システムの構成図である。
【0018】
図1に示すように、検査システム1は、半導体膜10の周囲の温度を70〜85Kの範囲に保つ温調部11として液体窒素12が貯留された恒温槽13と、光照射部14と、蛍光寿命測定部15と、パーソナルコンピュータ17とを有する。半導体膜10は、検査時において、恒温槽13内の液体窒素12に浸漬されている。光照射部14は、半導体膜10に1.0eV以上の光子エネルギーを有する励起光L1を照射して、半導体膜10中にキャリアを発生させることができる。また、蛍光寿命測定部15は、光照射部14によって発生した前記キャリアが発する蛍光のうち、0.9〜1.3eVの光子エネルギーを有する蛍光L2を受光して、蛍光L2の寿命値を測定することができる。
【0019】
パーソナルコンピュータ17と蛍光寿命測定部15とは、接続コード18により接続されており、蛍光寿命測定部15により測定された蛍光L2の寿命値が接続コード18を通じてパーソナルコンピュータ17に入力されるように構成されている。また、パーソナルコンピュータ17には、予め定められた所定値(例えば10ns等)が入力されている。そして、半導体膜10を検査する際、パーソナルコンピュータ17に、蛍光寿命測定部15により測定された蛍光L2の寿命値が入力されると、パーソナルコンピュータ17は、パーソナルコンピュータ17に設けられたCPU(図示せず)によって、測定された蛍光L2の寿命値が前記所定値未満か否かを判断し、前記所定値未満のときに半導体膜10を不良と判定する。即ち、パーソナルコンピュータ17は、半導体膜10の良否を判定する判定部として機能する。なお、判定結果の出力方法は特に限定されず、例えばパーソナルコンピュータ17のモニタ17aに表示してもよいし、パーソナルコンピュータ17に、プリンタ(図示せず)を接続して、判定結果を印刷してもよい。
【0020】
なお、半導体膜10は、I族元素、III族元素及びVI族元素を含むカルコパイライト構造の化合物半導体からなり、図2に示すように、ガラス基板20上に、Mo等からなる金属層21を介して積層されている。
【0021】
以上、本発明の第1実施形態に係る検査システムについて説明したが、本発明は前記実施形態には限定されない。例えば、蛍光寿命測定部が、蛍光を受光する受光部と、前記蛍光の寿命値を測定する測定部とに分離して構成されていてもよい。
【0022】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る検査方法を利用した太陽電池の製造方法について図面を参照して説明する。参照する図3は、第2実施形態に係る検査方法を利用した太陽電池の製造方法を示すフローチャートである。また、参照する図4は、第2実施形態に係る検査方法を利用した太陽電池の製造方法により製造された太陽電池の断面図である。なお、本実施形態では、太陽電池の光吸収層として、CIGSからなる半導体膜を使用する場合について説明する。
【0023】
図3に示すように、まず、Na、K及びLiからなる群より選択される少なくとも1種類のアルカリ金属元素を含有するガラス基板30(図4参照)を中性洗剤や純水等により洗浄し、乾燥する(ステップS1)。次に、ガラス基板30上に、スパッタ法によりMoからなる金属層31(図4参照)を約0.4μmの厚さで形成する(ステップS2)。そして、光吸収層として、金属層31上に、CIGSからなる半導体膜32(図4参照)を四元同時蒸着法により約2μmの厚さで製膜して、基板33(図4参照)を形成する(ステップS3)。なお、CIGSからなる半導体膜32の形成方法は、上記の四元同時蒸着法に限定されず、例えばH2Seを用いたセレン化法、スパッタ法、スプレー法、電着法等を用いてもよい
次に、前述した検査システム1の恒温槽13内の液体窒素12(図1参照)に、半導体膜32が光照射部14及び蛍光寿命測定部15(図1参照)側に向くように、基板33を浸漬する(ステップS4)。続いて、光照射部14(図1参照)により、半導体膜32に1.0eV以上の光子エネルギーを有する励起光L1(図1参照)を照射して、半導体膜32中にキャリアを発生させる(ステップS5)。そして、蛍光寿命測定部15(図1参照)により、光照射部14によって発生した前記キャリアが発する蛍光のうち、0.9〜1.3eVの光子エネルギーを有する蛍光L2(図1参照)を受光して、蛍光L2の寿命値を測定する(ステップS6)。そして、パーソナルコンピュータ17(図1参照)に、蛍光寿命測定部15により測定された蛍光L2の寿命値が入力された後、パーソナルコンピュータ17によって、測定された蛍光L2の寿命値が予め定められた所定値未満か否かを判断する(ステップS7)。この際、蛍光L2の寿命値が前記所定値未満(ステップS8のYes)のときは、半導体膜32を不良と判定して、次工程へと進むことなく終了する。
【0024】
一方、蛍光L2の寿命値が前記所定値以上(ステップS8のNo)のときは、半導体膜32を良と判定して、基板33を恒温槽13から取り出し、乾燥後、半導体膜32上に、窓層34(図4参照)を0.1〜0.3μmの厚さで形成する(ステップS9)。窓層34は、例えば、ZnO膜、ZnMgO膜等からなるものが使用でき、スパッタ法等により形成できる。次に、窓層34上に、透明導電層35(図4参照)を0.1〜0.5μmの厚さで形成する(ステップS10)。透明導電層35は、例えば、酸化インジウム−スズ合金膜(ITO膜)、SnO2膜、In2O3膜、ZnOにAlをドーピングしたZnO:Al膜、ZnOにBをドーピングしたZnO:B膜等からなるものが使用でき、スパッタ法等により形成できる。最後に、200〜350℃で5〜10分間熱処理して(ステップS11)、太陽電池40(図4参照)が得られる。
【0025】
本発明の第2実施形態に係る検査方法(図3のステップS4〜S8に相当)は、半導体膜32の周囲の温度を100K以下(70〜85K)に保って蛍光L2の寿命値を測定するため、室温(300K)で測定した場合と比較して、蛍光L2を相対的に長寿命化させることができる。その結果、測定された蛍光L2の寿命値と太陽電池40の変換効率との間の相関が容易に得られるため、半導体膜32の品質を精度よく判断することができる。よって、上述したように、第2実施形態に係る検査方法を利用して太陽電池40を製造すると、半導体膜32を製膜した段階で、半導体膜32の良否を判断して、品質が良好な半導体膜32のみを選別できるため、太陽電池40の製造工程上の無駄を省き、歩留まりを向上させることができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0027】
実施例として、前述した第1実施形態に係る検査システム1により、半導体膜を検査した例について説明する。まず、前述した図3に示すフローチャートのステップS3までを行い、基板33(図4参照)を作製した。続いて、検査システム1を用い、前述した図3に示すフローチャートのステップS4〜S8までを行った。なお、光照射部14(図1参照)と蛍光寿命測定部15(図1参照)とを含む蛍光寿命測定装置として、浜松ホトニクス製近赤外蛍光寿命測定装置(例えば型番:C7990)を使用し、励起光L1(図1参照)は、励起波長:532nm、パルス幅:1ns以下、繰り返し周期:5kHz、出力:15mW、格子エネルギー:2.33eVとした。また、予め定められた所定値を10nsとして、この所定値をパーソナルコンピュータ17(図1参照)に入力した。図5に、観測された蛍光L2(図1参照)の蛍光強度を太線で示す。また、比較例として同じく図5に、半導体膜の周囲の温度を300Kにして測定したときの蛍光強度を細線で示す。更に、図6に、図5のピーク位置における蛍光強度の経時変化(減衰曲線)を示し、このうち図6Aは実施例における蛍光強度の減衰曲線を示し、図6Bは比較例における蛍光強度の減衰曲線を示す。
【0028】
図5に示すように、実施例の場合は、蛍光強度のピーク位置が0.984eV(図中矢印I)となり、比較例の場合は、蛍光強度のピーク位置が1.06eV(図中矢印II)となった。
【0029】
また、図6Aと図6Bとを比較すると、図6Aに示す実施例における蛍光強度が、図6Bに示す比較例における蛍光強度よりも減衰速度が遅いことがわかる。また、蛍光寿命測定部15(図1参照)により、実施例及び比較例における蛍光L2の寿命値(光子のカウント数が最大値を示してから前記最大値の1/eになるまでの時間)を測定した結果、実施例では、48.239nsとなり、比較例では0.395nsとなった。これにより、実施例では、比較例に比べ蛍光L2が長寿命化することが分かった。また、実施例の場合は、測定された蛍光L2の寿命値(48.239ns)が、予め定められた所定値(10ns)以上であるため、パーソナルコンピュータ17により良と判定された。そして、実施例で検査した基板33を用いて、前述した方法により太陽電池を作製し、変換効率を測定した結果、16.7%という高い変換効率が得られた。
【0030】
なお、実施例で用いた所定値(10ns)の設定は、まず、製膜時の蒸着速度が異なる半導体膜を複数製膜した。そして、実施例と同様にこれらの半導体膜に励起光L1(図1参照)を照射し、発生したキャリアの蛍光L2(図1参照)のピークにおける寿命値を測定した。次に、これらの半導体膜を用いて太陽電池を製造し、変換効率を測定した。そして、図7に示すように、蛍光L2の寿命値に対して、前記変換効率をプロットした。図7に示すグラフでは、蛍光L2の寿命値が10ns以上の場合に、変換効率が10%以上の太陽電池が得られているため、10nsを予め定められた所定値とした。なお、所定値を決定する際の、変換効率の値は10%でなくてもよい。例えば、図7に示すように、蛍光L2の寿命値が40ns以上の場合に、変換効率が16%以上の太陽電池が得られているため、40nsを予め定められた所定値とすることによって、より変換効率が高い太陽電池を歩留まり良く製造できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態に係る検査システムの構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る検査システムにより検査される半導体膜(基板)の断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る検査方法を利用した太陽電池の製造方法を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第2実施形態に係る検査方法を利用した太陽電池の製造方法により製造された太陽電池の断面図である。
【図5】本発明の実施例及び比較例において、測定された蛍光強度を示すグラフである。
【図6】Aは、本発明の実施例における蛍光強度の減衰曲線であり、Bは、比較例における蛍光強度の減衰曲線である。
【図7】蛍光の寿命値に対して、太陽電池の変換効率をプロットしたグラフである。
【符号の説明】
【0032】
1 検査システム
10,32 半導体膜
11 温調部
12 液体窒素
13 恒温槽
14 光照射部
15 蛍光寿命測定部
17 パーソナルコンピュータ(判定部)
20,30 ガラス基板
21,31 金属層
33 基板
34 窓層
35 透明導電層
40 太陽電池
L1 励起光
L2 蛍光
【特許請求の範囲】
【請求項1】
I族元素、III族元素及びVI族元素を含むカルコパイライト構造の化合物半導体からなる半導体膜の品質を検査するための検査システムであって、
検査時において、前記半導体膜の周囲の温度を100K以下に保つ温調部と、
前記半導体膜に1.0eV以上の光子エネルギーを有する励起光を照射して、前記半導体膜中にキャリアを発生させる光照射部と、
前記光照射部によって発生した前記キャリアが発する蛍光のうち、0.9〜1.3eVの光子エネルギーを有する蛍光を受光して、前記蛍光の寿命値を測定する蛍光寿命測定部と、
前記蛍光寿命測定部によって測定された前記蛍光の寿命値が予め定められた所定値未満か否かを判断し、前記所定値未満のときに前記半導体膜を不良と判定する判定部とを含むことを特徴とする検査システム。
【請求項2】
I族元素、III族元素及びVI族元素を含むカルコパイライト構造の化合物半導体からなる半導体膜の品質を、請求項1に記載の検査システムを用いて検査する検査方法であって、
前記温調部により、前記半導体膜の周囲の温度を100K以下に保ち、
前記光照射部により、前記半導体膜に1.0eV以上の光子エネルギーを有する励起光を照射して、前記半導体膜中にキャリアを発生させ、
前記蛍光寿命測定部により、前記光照射部によって発生した前記キャリアが発する蛍光のうち、0.9〜1.3eVの光子エネルギーを有する蛍光を受光して、前記蛍光の寿命値を測定し、
前記判定部により、前記蛍光寿命測定部によって測定された前記蛍光の寿命値が予め定められた所定値未満か否かを判断し、前記所定値未満のときに前記半導体膜を不良と判定することを特徴とする検査方法。
【請求項3】
前記温調部により、前記半導体膜の周囲の温度を70〜85Kの範囲に保つ請求項2に記載の検査方法。
【請求項4】
前記所定値は、10nsである請求項2に記載の検査方法。
【請求項1】
I族元素、III族元素及びVI族元素を含むカルコパイライト構造の化合物半導体からなる半導体膜の品質を検査するための検査システムであって、
検査時において、前記半導体膜の周囲の温度を100K以下に保つ温調部と、
前記半導体膜に1.0eV以上の光子エネルギーを有する励起光を照射して、前記半導体膜中にキャリアを発生させる光照射部と、
前記光照射部によって発生した前記キャリアが発する蛍光のうち、0.9〜1.3eVの光子エネルギーを有する蛍光を受光して、前記蛍光の寿命値を測定する蛍光寿命測定部と、
前記蛍光寿命測定部によって測定された前記蛍光の寿命値が予め定められた所定値未満か否かを判断し、前記所定値未満のときに前記半導体膜を不良と判定する判定部とを含むことを特徴とする検査システム。
【請求項2】
I族元素、III族元素及びVI族元素を含むカルコパイライト構造の化合物半導体からなる半導体膜の品質を、請求項1に記載の検査システムを用いて検査する検査方法であって、
前記温調部により、前記半導体膜の周囲の温度を100K以下に保ち、
前記光照射部により、前記半導体膜に1.0eV以上の光子エネルギーを有する励起光を照射して、前記半導体膜中にキャリアを発生させ、
前記蛍光寿命測定部により、前記光照射部によって発生した前記キャリアが発する蛍光のうち、0.9〜1.3eVの光子エネルギーを有する蛍光を受光して、前記蛍光の寿命値を測定し、
前記判定部により、前記蛍光寿命測定部によって測定された前記蛍光の寿命値が予め定められた所定値未満か否かを判断し、前記所定値未満のときに前記半導体膜を不良と判定することを特徴とする検査方法。
【請求項3】
前記温調部により、前記半導体膜の周囲の温度を70〜85Kの範囲に保つ請求項2に記載の検査方法。
【請求項4】
前記所定値は、10nsである請求項2に記載の検査方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2006−38638(P2006−38638A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219026(P2004−219026)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽光発電技術研究開発(先進太陽電池技術研究開発)」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽光発電技術研究開発(先進太陽電池技術研究開発)」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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