説明

半導体膜形成用塗布液、それを用いた半導体膜及び色素増感型太陽電池

【課題】優れた光電変換効率を有する色素増感型太陽電池を作製するための半導体膜形成用塗布液、それを用いた半導体膜及び色素増感型太陽電池を提供する。
【解決手段】半導体膜形成用塗布液は、金属酸化物粒子、バインダー、及び下記一般式(1)で表される化合物を含有する。


(式中、R1は置換もしくは非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アシル基、ヘテロアリール基、複素環基、NR45、またはOR6を表す。R2〜R6は、それぞれR1と同義である。また、R1とR2、R1とR3とが互いに結合して環を形成してもよい。Xは酸素原子またはNHを表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体膜形成用塗布液、それを用いた半導体膜及び色素増感型太陽電池に関する。特に、半導体電極として特定の化合物を含有する塗布液を用いて製造された半導体膜を有する色素増感型太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シリコン系太陽電池に代わる有機材料を用いた太陽電池として色素増感型太陽電池が着目されており、研究開発が盛んに行われている。
【0003】
色素増感型太陽電池においては、透明導電性基板上に増感色素を担持した半導体多孔膜からなる半導体電極が用いられるが、従来の半導体多孔膜は、主に界面活性剤存在下、水溶液中に半導体粒子を分散した塗布液を基板上に塗布またはスクリーン印刷して、450℃または500℃近辺で焼成することにより製造されている。
【0004】
光電極用半導体膜の形成においては、焼結により半導体粒子間のネッキングを良好に形成することが重要であり、この場合には半導体膜を形成する塗布液中のバインダーを焼結処理により分解する必要がある。故に、バインダーが少ないことが好ましいが、バインダーが少なすぎると生成した半導体膜にクラックが発生しやすくなり、このクラックに電解液が浸透して直接透明導電性基板と接触し、変換効率の低下を引き起こしたり、半導体膜自体が基板から剥れやすくなって、太陽電池そのものの寿命が短くなる等のトラブルが発生する原因となる。
【0005】
この課題を解決する手段として、半導体粒子の塗布液にポリアルキレングリコール等のバインダーを含有させることによって、塗布液に適度な粘性を維持させ、焼成後の半導体膜としては多孔性に優れ、結果的に光電変換効率が向上する技術が提案されている(例えば特許文献1、2参照)。しかし、これらの技術では、未だ十分なものではなかった。さらに特許文献2では、バインダーを除去するために焼成後に紫外光を照射する技術が開示されているが、同工程を有することにより生産コストが向上する原因となる。
【0006】
一方、特許文献3では、少量の親水性バインダーを含有する塗布液を用いてそれを含有する半導体膜を製造する方法が開示されており、低温の焼成でも好ましいネッキングを形成し、電子伝導性に優れ、さらに十分な機械的強度も有するとされている。しかしながら、バインダーをより少ない量に使用とした場合には、半導体膜形成を安定に形成させるためには未だ十分なものではなかった。
【0007】
さらに、特許文献4では、実質的にバインダーを含まない塗布液でも適度な粘性を有し、低温の焼成でも密着性や耐久性に優れ、さらに光電変換効率に優れた色素増感型太陽電池を得ることができると開示されている。しかし、バインダーを実質的に含まない塗布液を用いた場合には、焼結後の半導体膜の成膜性が不十分なばかりではなく、焼結後にバインダーが分解することによって得られる多孔質性に対して劣り、満足のできる光電変換効率を達成していない。
【特許文献1】特開2004−153030号公報
【特許文献2】特開2004−234988号公報
【特許文献3】特開2005−235757号公報
【特許文献4】特開2006−76855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述したような課題を解決するためのもので、その目的は、優れた光電変換効率を有する色素増感型太陽電池を作製するための半導体膜形成用塗布液を提供することであり、特に低温での焼成でも十分な成膜性、電子伝導性を有する半導体膜形成用塗布液を提供することである。さらに、これらを用いて作製された半導体膜及び色素増感型太陽電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題は、半導体電極を作製するに当たり、特定の化合物を含有する塗布液を使用することによって解決されるに至った。
【0010】
具体的には下記に挙げる通りである。
【0011】
1.金属酸化物粒子、バインダー、及び下記一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする半導体膜形成用塗布液。
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、R1は置換もしくは非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アシル基、ヘテロアリール基、複素環基、NR45、またはOR6を表す。R2〜R6は、それぞれR1と同義である。また、R1とR2、R1とR3とが互いに結合して環を形成してもよい。Xは酸素原子またはNHを表す。)
2.前記一般式(1)で表される化合物が、尿素または尿素誘導体であることを特徴とする前記1に記載の半導体膜形成用塗布液。
【0014】
3.前記バインダー(B)と前記一般式(1)で表される化合物(U)の質量比(U/B)が、0.03〜0.5であることを特徴とする前記1または2に記載の半導体膜形成用塗布液。
【0015】
4.前記金属酸化物粒子(F)とバインダー(B)の質量比(F/B)が、5〜50であることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の半導体膜形成用塗布液。
【0016】
5.前記金属酸化物粒子の平均一次粒子径が、5〜400nmであることを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載の半導体膜形成用塗布液。
【0017】
6.前記1〜5のいずれかに1項に記載の半導体膜形成用塗布液を塗布、焼結することで製造されたことを特徴とする半導体膜。
【0018】
7.導電性基材上に、色素が表面に吸着された半導体膜から構成される金属酸化物半導体電極と、電荷移動層と、対向電極とを順次有する色素増感型太陽電池であって、該半導体膜として前記6に記載の半導体膜を用いることを特徴とする色素増感型太陽電池。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、優れた光電変換効率を有する色素増感型太陽電池を作製するための半導体膜形成用塗布液、特に低温での焼成でも十分な成膜性、電子伝導性を有する半導体膜形成用塗布液を提供することである。さらに、これらを用いて作製された半導体膜及び色素増感型太陽電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
〔一般式(1)で表される化合物〕
本発明の半導体膜形成用塗布液は、金属酸化物粒子、前記一般式(1)で表される化合物及びバインダーを含有することが特徴である。一般式(1)で表される化合物を含有する塗布液を使用することによって、塗布性、成膜性、密着性等で発生する課題を克服するばかりではなく、レドックスや電解質の浸透性、色素の吸着性に優れた多孔質膜多孔質膜を形成することが可能となった。
【0022】
前記一般式(1)において、R1は置換もしくは非置換のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基、シクロアルキル基等)、アルケニル基(例えば、プロペニル基、ブテニル基、ノネニル基等)、アリール基(例えば、フェニル基等)、アシル基(例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ヘキサノイル基、シクロヘキサノイル基、ベンゾイル基、ピリジノイル基等)、ヘテロアリール基(例えば、トリアゾール基、イミダゾール基、ピリジン基、フラン基、チオフェン基等)、複素環基(例えば、ピリジル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、イミダゾリル基、フリル基、ピロリル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、セレナゾリル基、スリホラニル基、ピペリジニル基、ピラゾリル基、テトラゾリル基等)、NR45、またはOR6を表す。また、R1とR2、R1とR3とが互いに結合して環を形成してもよい。Xは酸素原子またはNHを表す。
【0023】
本発明においては、前記一般式(1)で表される化合物は、アルコール性水酸基を有しないことが、本発明の目的効果を発揮させる観点から好ましい。
【0024】
前記一般式(1)で表される化合物の分子量は200以下であることが好ましい。また、水素原子を除く原子数が15以下であることが好ましく、また水溶性であることが添加容易性の観点から好ましい。
【0025】
以下に、本発明に係る一般式(1)で表される化合物例を列挙するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
【化2】

【0027】
【化3】

【0028】
本発明に係る一般式(1)で表される化合物は、当業者が公知の方法に従って容易に合成することができ、また市販品として入手することもできる。
【0029】
本発明においては、前記一般式(1)で表される化合物の中で、尿素または尿素誘導体を用いることが好ましく、中でも尿素が特に好ましい。
【0030】
また、本発明においては、前記一般式(1)で表される化合物(U)とバインダー(B)の質量比(U/B)が0.03未満である場合には、本発明の効果が発現しにくく、また0.5を超えると、半導体膜(金属酸化物粒子層)を形成した場合にひび割れ状の欠陥発生等を招きやすくなることから、後述するバインダー(B)に対する前記一般式(1)で表される化合物(U)の質量比(U/B)が、0.03〜0.5であることが好ましい。
【0031】
〔バインダー〕
本発明の半導体膜形成用塗布液に用いられるバインダーとしては、公知のものを使用することができ、セルロース類、ポリエーテル類、アルキルエーテル類、グリコール類、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデン等を挙げることができるが、これらに限定されるものではなく、2種類以上のバインダーを混合して用いても構わない。バインダーとしては、増粘性に優れたものが好ましく、セルロース類、グリコール類がより好ましい。セルロース類としては、メチルセルロース、エチルセルロースが挙げられる。グリコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルキレングリコール、及びジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコールが挙げられる。これらは単独である必要はなく、複数種のものを併用することもできる。
【0032】
バインダーは、低分子量のものから高分子量のものまで、求める粘度等に応じて種々のものを用いることができ、また異なる分子量のものを組み合わせて用いることもできる。
【0033】
また、本発明においては、前記金属酸化物粒子(F)に対するバインダー(B)の質量比(F/B)が5未満である場合には、本発明の効果が発現しにくく、また50を超えると、半導体膜を形成した場合にひび割れ状の欠陥発生等を招きやすくなることから、金属酸化物粒子(F)に対するバインダー(B)の質量比(F/B)が、5〜50であることが好ましい。
【0034】
〔溶媒〕
本発明の半導体膜形成用塗布液に用いられる溶媒としては、金属酸化物粒子を分散し得るものであれば特に限定はなく、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合液が包含される。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノール等のアルコール、メチルエチルケトン、アセトン、アセチルアセトン等のケトン、ヘキサン、シクロヘキサン、アセトニトリル等の炭化水素等が用いられる。また、それらの混合溶媒等の親水性溶媒を挙げることができる。基材として樹脂を使用する場合は、後述する色素増感型太陽電池の製造における乾燥工程の乾燥温度が室温〜200℃の範囲であることから、溶媒は常圧での沸点が200℃以下であるものが好ましいが、減圧装置等の分散媒の沸点を降下させる装置の内部で溶媒を塗布するのであればこの限りではない。
【0035】
〔添加剤〕
本発明の半導体膜形成用塗布液には、金属酸化物粒子、及び上述した一般式(1)で表される化合物の他に、界面活性剤、増粘剤等の種々の添加剤を含有してもよい。
【0036】
〔半導体膜形成用塗布液の製造方法〕
次に、本発明の半導体膜形成用塗布液の製造方法について説明する。
【0037】
本発明の半導体膜形成用塗布液の製造方法において、前記一般式(1)で表される化合物はどのタイミングで添加してもよい。金属酸化物粒子を液相で作製した場合は、作製に使用した溶媒をそのまま持ち込み、これに一般式(1)で表される化合物を添加し溶解し、その後分散を行ってもよいし、金属酸化物粒子を溶媒に分散する前に、予め一般式(1)で表される化合物を溶媒に溶解してもよく、また、金属酸化物粒子の分散が終了した後に一般式(1)で表される化合物を添加し溶解してもよい。しかし、一般式(1)で表される化合物の特性を顕著に発現させる観点から、一般式(1)で表される化合物の存在下で、金属酸化物粒子を分散する方法が好ましい。この時、必要に応じて任意のタイミングで希釈操作を施してもよい。金属酸化物粒子の溶媒への分散方法は、ボールミル、高速回転粉砕機、攪拌ミル、超音波発生器を利用した装置、乳鉢、ペイントコンディショナー、ホモジナイザー等、金属酸化物粒子と分散媒を混合し、かつ金属酸化物の凝集を解砕する分散機であれば特に制限はない。
【0038】
〔色素増感型太陽電池〕
次に、本発明の色素増感型太陽電池について、図1を用いて説明する。図1は、本発明の色素増感型太陽電池の基本構造を示す概略断面図である。本発明の色素増感型太陽電池は図1によって示される通り、導電性基材1及び表面に色素3を吸着した金属酸化物粒子2から構成される金属酸化物半導体電極、電荷移動層(「電解質層」と呼ぶこともある)4、さらに対向電極5を有する構成である。なお、図1において、e-は電子を表し、矢印は当該電子の流れを示す。
【0039】
本発明の色素増感型太陽電池を構成する際には、前記金属酸化物半導体電極、電荷移動層及び対向電極をケース内に収納して封止するか、あるいはそれら全体を樹脂封止することが好ましい。
【0040】
本発明の色素増感型太陽電池に、太陽光または太陽光と同等の電磁波を照射すると、金属酸化物粒子2に吸着された色素3は、照射された太陽光もしくは電磁波を吸収して励起する。励起によって発生した電子は金属酸化物粒子2に移動し、次いで導電性基材1を経由して対向電極5に移動して、電荷移動層4のレドックス電解質を還元する。一方、金属酸化物粒子2に電子を移動させた色素3は酸化体となっているが、対向電極5から電荷移動層4のレドックス電解質を経由して電子が供給されることにより、還元されて元の状態に戻り、同時に電荷移動層4のレドックス電解質は酸化されて、再び対向電極5から供給される電子により還元されうる状態に戻る。このようにして電子が流れ、本発明の色素増感型太陽電池を構成することができる。
【0041】
〔金属酸化物粒子〕
本発明に係る金属酸化物半導体電極を構成する金属酸化物粒子としては、半導体に吸着した色素で光照射により発生した電子を受け取り、これを導電性基材へ伝達する半導体であれば特に限定はなく、公知の色素増感型太陽電池に使用される種々の金属酸化物粒子を使用することができる。具体的には、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化タングステン等の各種金属酸化物半導体、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム等の各種複合金属酸化物半導体、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化アルミニウム、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化マンガン等の遷移金属酸化物、酸化セリウム、酸化ガドリニウム、酸化サマリウム、酸化イッテルビウム等のランタノイドの酸化物等の金属酸化物粒子、シリカに代表される天然または合成の珪酸化合物粒子等の無機絶縁体粒子等を挙げることができる。また、これらの材料を組み合わせて使用することもできる。さらに、金属酸化物粒子をコアシェル構造としたり、異なる金属元素をドーピングしたりしてもよく、任意の構造、組成の金属酸化物粒子を適用することが可能である。
【0042】
金属酸化物粒子の平均粒子径は、5〜400nmであることが好ましく、10〜100nmであることがさらに好ましい。また、金属酸化物粒子の形状も特に限定はなく、球状、針状、または不定形結晶であってもよい。
【0043】
金属酸化物粒子の形成方法としては、特に限定はなく、水熱反応法、ゾルゲル法/ゲルゾル法、コロイド化学合成法、塗布熱分解法、噴霧熱分解法等の各種液相法、及び化学気相析出法等の各種気相法を用いることができる。
【0044】
〔金属酸化物半導体電極の作製方法〕
本発明の色素増感型太陽電池の金属酸化物半導体電極の作製方法としては、金属酸化物粒子、バインダー、及び一般式(1)で表される化合物を含有する本発明の半導体膜形成用塗布液を使用していれば特に限定はなく、公知の種々の塗布方法を適用することが可能である。具体的には、スクリーン印刷法、インクジェット法、ロールコート法、ドクターブレード法、スピンコート法、スプレー塗布法等を挙げることができる。
【0045】
半導体膜形成用塗布液中の金属酸化物粒子の粒子径は微細であることが好ましく、一次粒子として存在していることが好ましい。金属酸化物粒子を含有する塗布液は、金属酸化物粒子を前述の溶媒中に分散することによって調製される。塗布中には、必要に応じて界面活性剤や粘度調節剤(ポリエチレングリコール等の多価アルコール等)を加えることができる。溶媒中の金属酸化物粒子の濃度は、0.1〜70質量%が好ましく、0.1〜30質量%がさらに好ましい。
【0046】
上記の金属酸化物粒子を含有する半導体膜形成用塗布液を導電性基材上に塗布し、乾燥等を行った後、空気中または不活性ガス中で焼成して、半導体膜が形成される。この時の焼成温度は、特に限定はないが、焼結により半導体膜中の有機成分が分解し、半導体粒子間でネッキング形成されることが望ましく、具体的には180〜550℃の温度で焼成を行うことが好ましい。
【0047】
本発明においては、焼結後に生成される半導体膜は多孔質構造膜(空隙を有する、ポーラスな層ともいう)であることが好ましく、多孔質膜の空隙率は10〜60体積%が好ましく、30〜60体積%がより好ましい。なお、半導体膜の空隙率は、誘電体の厚み方向に貫通性のある空隙率を意味し、水銀ポロシメーター(島津ポアライザー9220型)等の市販の装置を用いて測定することができる。半導体膜の厚さは、30μm以下であることが好ましく、5〜20μmであることがより好ましい。
【0048】
また、必要に応じて、半導体膜上に金属酸化物による表面処理を施してもよい。この表面処理の組成は、特に金属酸化物粒子間の電子伝導性の観点から、コアとなる金属酸化物粒子と同種の組成を使用することが好ましい。
【0049】
この表面処理を施す方法としては、導電性基材上に半導体膜を形成した後、表面処理となる金属酸化物の前駆体を該半導体膜に塗布すること、もしくは該半導体膜を前駆体溶液に浸漬し、さらに必要に応じて焼成処理を施すことにより、金属酸化物からなる表面処理を行うことができる。具体的には、酸化チタンの前駆体である四塩化チタン水溶液またはチタンアルコキシドを用いた電気化学的処理や、チタン酸アルカリ金属やチタン酸アルカリ土類金属の前駆体を用いることによって表面処理を行うことができる。この際の焼成温度や焼成時間は特に制限はなく、任意に制御することができるが、200℃以下であることが好ましい。
【0050】
〔導電性基材〕
本発明で用いられる導電性基材としては、導電性基材側を受光面とする場合には、導電性基材は実質的に透明であることが好ましい。実質的に透明であるとは、光の透過率が10%以上であることを意味し、50%以上であることが好ましく、80%以上であることが特に好ましい。
【0051】
導電性基材としては、それ自体が導電性を有する基材、またはその表面に導電層を有する基材を利用することができる。後者の場合、基材としてはガラス板や、酸化チタンやアルミナ等のセラミックの研磨板、さらに公知の種々のプラスチックシートを使用することが可能であるが、コスト面や可撓性を考慮するとプラスチックシートを使用することが好ましい。
【0052】
プラスチックシートとしては、具体的にはトリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、シンジオタクチックポリステレン(SPS)、ポリカーボネート(PC),ポリアリレート(PA)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、環状ポリオレフィン、フェノキシ樹脂、ブロム化フェノキシ等を挙げることができる。
【0053】
これらの基材上に設ける導電層に使用する導電性材料としては、公知の種々の金属や金属酸化物等からなる無機系導電性材料、ポリマー系導電性材料、無機有機複合型の導電性材料、またはこれらを任意に混合した導電性材料等、あらゆるものを使用することができる。
【0054】
無機系導電性材料として具体的には、白金、金、銀、銅、亜鉛、チタン、アルミニウム、ロジウム、インジウム等の金属、導電性カーボン、さらにスズドープ酸化インジウム(ITO)、酸化スズ(SnO2)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、酸化亜鉛(ZnO2)等の金属酸化物を挙げることができる。
【0055】
ポリマー系導電性材料として具体的には、各種置換されていてもされていなくてもよいチオフェン、ピロール、フラン、アニリン等を重合させてなる導電性ポリマーやポリアセチレン等を挙げることができるが、導電性が高い観点からポリチオフェンが好ましく、特にポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)が好ましい。
【0056】
基材上に導電層を形成する方法としては、導電性材料に応じた公知の適切な方法を用いることが可能で、例えば、ITO等の金属酸化物からなる導電層を形成する場合、スパッタ法、CVD法、SPD法(スプレー熱分解堆積法)、蒸着法等の薄膜形成法が挙げられる。また、ポリマー系導電性材料からなる導電層を形成する場合は、公知の様々な塗布法により形成することが好ましい。
【0057】
導電層の膜厚は0.01〜10μm程度が好ましく、0.05〜5μm程度がさらに好ましい。導電性基材としては表面抵抗が低いほどよく、具体的には50Ω/cm2以下であることが好ましく、10Ω/cm2以下であることがさらに好ましい。
【0058】
また、導電性基材の集電効率を向上しさらに導電性を上げるために、光透過率を著しく損なわない範囲の面積率で、金、銀、銅、白金、アルミニウム、ニッケル、インジウム、チタン、タングステン等からなる金属配線層を前記導電層と併用してもよい。金属配線層を用いる場合、格子状、縞状、櫛状等のパターンとして、光が導電性基材を均一に透過するように配設するとよい。金属配線層を併用する場合、基材に蒸着、スパッタリング等で設置し、その上に前記導電層を設けるのが好ましい。
【0059】
〔色素〕
本発明において、前述した金属酸化物粒子の表面に吸着させる色素としては、種々の可視光領域及び/または赤外光領域に吸収を有し、金属酸化物粒子の伝導帯より高い最低空準位を有する色素が好ましく、公知の様々な色素を使用することができる。
【0060】
例えば、アゾ系色素、キノン系色素、キノンイミン系色素、キナクリドン系色素、スクアリリウム系色素、シアニン系色素、シアニジン系色素、メロシアニン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポルフィリン系色素、ペリレン系色素、インジゴ系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、ローダミン系色素等が挙げられる。
【0061】
なお、金属錯体色素も好ましく使用され、その場合においては、Cu、Ni、Fe、Co、V、Sn、Si、Ti、Ge、Cr、Zn、Ru、Mg、Al、Pb、Mn、In、Mo、Y、Zr、Nb、Sb、La、W、Pt、Ta、Ir、Pd、Os、Ga、Tb、Eu、Rb、Bi、Se、As、Sc、Ag、Cd、Hf、Re、Au、Ac、Tc、Te、Rh等の種々の金属を用いることができる。
【0062】
上記の中で、シアニン色素、メロシアニン色素、スクワリリウム色素等のポリメチン色素は好ましい態様の1つであり、具体的には特開平11−35836号、同11−67285号、同11−86916号、同11−97725号、同11−158395号、同11−163378号、同11−214730号、同11−214731号、同11−238905号、特開2004−207224号、同2004−319202号の各公報、欧州特許第892,411号及び同911,841号等の各明細書に記載の色素を挙げることができる。
【0063】
さらに金属錯体色素も好ましい態様の1つであり、金属フタロシアニン色素、金属ポルフィリン色素またはルテニウム錯体色素が好ましく、ルテニウム錯体色素がより好ましい。ルテニウム錯体色素としては、例えば、米国特許第4,927,721号、同4,684,537号、同5,084,365号、同5,350,644号、同5,463,057号、同5,525,440号の各明細書、特開平7−249790号、特表平10−504512号、WO98/50393号、特開2000−26487号、同2001−223037号、同2001−226607号、特許第3430254号の各公報に記載の錯体色素を挙げることができる。
【0064】
本発明では、金属酸化物の表面に吸着する色素として、ローダニン系色素を使用することが特に好ましい。ローダニン系色素であればどのような構造であっても好ましく用いることが可能であるが、下記一般式(2)または一般式(3)で表される少なくとも1種の色素を用いることが特に好ましい。
【0065】
【化4】

【0066】
前記一般式(2)または一般式(3)において、X11〜X14及びX21〜X26は、それぞれ独立に酸素原子、硫黄原子、セレン原子のいずれかを表し、好ましくはX11、X12、X14、及びX21、X22、X24、X26がそれぞれ硫黄原子またはセレン原子であり、さらに好ましくは硫黄原子である。X13、及びX23、X25は酸素原子であることが好ましい。
【0067】
12、R13、及びR22、R23はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。R14は−COOH基または−PO32基を表し、R24、R26は水素原子、−COOH基または−PO32基を表し、少なくとも1つは−COOH基または−PO32基を表す。
【0068】
11、及びL21、L22はそれぞれ独立に2価の連結基を表す。2価の連結基の例としてはメチレン基(−CH2−)、エチレン基(−CH2CH2−)、プロピレン基(−CH2CH2CH2−)等が挙げられるが、特に好ましくはメチレン基、エチレン基である。
【0069】
15、及びR25は置換または無置換アルキル基を表すが、炭素数1〜8の直鎖及び分岐のアルキル基が好ましく、炭素数2〜4の直鎖及び分岐のアルキル基(例えば、エチル基、i−プロピル基、n−ブチル基等)がさらに好ましい。
【0070】
12、R13、及びR22、R23等の置換基の例としては、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、i−プロピル基、t−ブチル基、n−ドデシル基及び1−ヘキシルノニル基等)、シクロアルキル基(例えば、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基及びアダマンチル基等)及びアルケニル基(例えば、2−プロピレン基、オレイル基等)、アリール基(例えば、フェニル基、オルト−トリル基、オルト−アニシル基、1−ナフチル基、9−アントラニル基等)、複素環基(例えば、2−テトラヒドロフリル基、2−チオフェニル基、4−イミダゾリル基及び2−ピリジル基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボキシル基、カルボニル基(例えば、アセチル基、トリフルオロアセチル基、ピバロイル基等のアルキルカルボニル基、ベンゾイル基、ペンタフルオロベンゾイル基、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾイル基等のアリールカルボニル基等)、オキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、n−ドデシルオキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基、2,4−ジ−t−アミルフェノキシカルボニル基、1−ナフチルオキシカルボニル基等のアリールオキシカルボニル基及び2−ピリジルオキシカルボニル基、1−フェニルピラゾリル−5−オキシカルボニル基等の複素環オキシカルボニル基等)、カルバモイル基(例えば、ジメチルカルバモイル基、4−(2,4−ジ−t−アミルフェノキシ)ブチルアミノカルボニル基等のアルキルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基、1−ナフチルカルバモイル基等のアリールカルバモイル基)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、2−エトキシエトキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、2,4−ジ−t−アミルフェノキシ基、4−(4−ヒドロキシフェニルスルホニル)フェノキシ基等)、複素環オキシ基(例えば、4−ピリジルオキシ基、2−ヘキサヒドロピラニルオキシ基等)、カルボニルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、トリフルオロアセチルオキシ基、ピバロイルオキシ基等のアルキルカルボニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、ペンタフルオロベンゾイルオキシ基等のアリールオキシ基等)、ウレタン基(例えば、N,N−ジメチルウレタン基等のアルキルウレタン基、N−フェニルウレタン基、N−(p−シアノフェニル)ウレタン基等のアリールウレタン基)、スルホキシル基、スルホニルオキシ基(例えば、メタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、n−ドデカンスルホニルオキシ基等のアルキルスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、p−トルエンスルホニルオキシ基等のアリールスルホニルオキシ基)、アミノ基(例えば、ジメチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、n−ドデシルアミノ基等のアルキルアミノ基、アニリノ基、p−t−オクチルアニリノ基等のアリールアミノ基等)、スルホニルアミノ基(例えば、メタンスルホニルアミノ基、ヘプタフルオロプロパンスルホニルアミノ基、n−ヘキサデシルスルホニルアミノ基等のアルキルスルホニルアミノ基、p−トルエンスルホニルアミノ基、ペンタフルオロベンゼンスルホニルアミノ等のアリールスルホニルアミノ基)、スルファモイルアミノ基(例えば、N,N−ジメチルスルファモイルアミノ基等のアルキルスルファモイルアミノ基、N−フェニルスルファモイルアミノ基等のアリールスルファモイルアミノ基)、アシルアミノ基(例えば、アセチルアミノ基、ミリストイルアミノ基等のアルキルカルボニルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等アリールカルボニルアミノ基)、ウレイド基(例えば、N,N−ジメチルアミノウレイド基等のアルキルウレイド基、N−フェニルウレイド基、N−(p−シアノフェニル)ウレイド基等のアリールウレイド基)、スルホニル基(例えば、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基等のアルキルスルホニル基及びp−トルエンスルホニル基等のアリールスルホニル基)、スルファモイル基(例えば、ジメチルスルファモイル基、4−(2,4−ジ−t−アミルフェノキシ)ブチルアミノスルホニル基等のアルキルスルファモイル基、フェニルスルファモイル基等のアリールスルファモイル基)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、t−オクチルチオ基等)、アリールチオ基(例えばフェニルチオ基等)及び複素環チオ基(例えば、1−フェニルテトラゾール−5−チオ基、5−メチル−1,3,4−オキサジアゾール−2−チオ基等)等が挙げられる。これらの置換基は上記に示した置換基によってさらに置換されていてもよい。
【0071】
12、R13、及びR22、R23はそれぞれ互いに結合して環構造を形成してもよく、形成される環構造としては脂肪族環、芳香族環のいずれでもよく、炭化水素環であっても複素環であってもよい。これら結合して形成された環も上記に示した置換基によって置換されていてもよいし、さらに別の環構造と縮合していてもよく、一般式(2)または一般式(3)で表される化合物そのものとさらに縮合していてもよい。
【0072】
12、R13、及びR22、R23の置換基の例としては上記のものが挙げられるが、好ましいものはそれぞれ水素原子、ハロゲン原子、置換または無置換のアルキル基、アリール基、複素環基、アルコキシカルボニル基であり、さらに好ましくは水素原子、置換または無置換アルキル基である。
【0073】
11、及びR21は任意の置換基を表し、上述したR12、R13、及びR22、R23と同様の置換基とすることが可能であるが、少なくとも1つ以上は電子吸引性の置換基であることが好ましく、その場合、nは1〜4の整数を表す。電子吸引性の置換基である場合、ハメットの置換基定数σpの値が0.1〜0.8の置換基であることが好ましく、さらには、置換基のσp値の総和が0.2〜2.0であることが好ましく、0.25〜1.5であることが最も好ましい。
【0074】
ここで言うハメットの置換基定数σpの値としては、Hansch,C.Leoらの報告(例えば、J.Med.Chem.16、1207(1973);ibid.20、304(1977))に記載の値を用いるのが好ましい。
【0075】
例えば、σpの値が0.10以上の置換基または原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、カルボキシル基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン置換アルキル基(例えば、トリクロロメチル、トリフルオロメチル、クロロメチル、トリフルオロメチルチオメチル、トリフルオロメタンスルホニルメチル、パーフルオロブチル)、脂肪族・芳香族もしくは複素環アシル基(例えば、ホルミル、アセチル、ベンゾイル)、脂肪族・芳香族もしくは複素環スルホニル基(例えば、トリフルオロメタンスルホニル、メタンスルホニル、ベンゼンスルホニル)、カルバモイル基(例えば、カルバモイル、メチルカルバモイル、フェニルカルバモイル、2−クロロ−フェニルカルバモイル)、アルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニル、ジフェニルメチルカルボニル)、置換芳香族基(例えば、ペンタクロロフェニル、ペンタフルオロフェニル、2,4−ジメタンスルホニルフェニル、2−トリフルオロメチルフェニル)、複素環残基(例えば、2−ベンゾオキサゾリル、2−ベンズチアゾリル、1−フェニル−2−ベンズイミダゾリル、1−テトラゾリル)、アゾ基(例えば、フェニルアゾ)、ジトリフルオロメチルアミノ基、トリフルオロメトキシ基、アルキルスルホニルオキシ基(例えば、メタンスルホニルオキシ)、アシロキシ基(例えば、アセチルオキシ、ベンゾイルオキシ)、アリールスルホニルオキシ基(例えば、ベンゼンスルホニルオキシ)、ホスホリル基(例えばジメトキシホスホニル、ジフェニルホスホリル)、スルファモイル基(例えば、N−エチルスルファモイル、N,N−ジプロピルスルファモイル、N−(2−ドデシルオキシエチル)スルファモイル、N−エチル−N−ドデシルスルファモイル、N,N−ジエチルスルファモイル)等が挙げられる。
【0076】
σpの値が0.35以上の置換基としては、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、フッ素置換アルキル基(例えば、トリフルオロメチル、パーフルオロブチル)、脂肪族・芳香族もしくは複素環アシル基(例えば、アセチル、ベンゾイル、ホルミル)、脂肪族・芳香族もしくは複素環スルホニル基(例えば、トリフルオロメタンスルホニル、メタンスルホニル、ベンゼンスルホニル)、カルバモイル基(例えば、カルバモイル、メチルカルバモイル、フェニルカルバモイル、2−クロロ−フェニルカルバモイル)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、ジフェニルメチルカルボニル)、フッ素またはスルホニル基置換芳香族基(例えば、ペンタフルオロフェニル、2,4−ジメタンスルホニルフェニル)、複素環残基(例えば、1−テトラゾリル)、アゾ基(例えば、フェニルアゾ)、アルキルスルホニルオキシ基(例えば、メタンスルホニルオキシ)、ホスホリル基(例えば、ジメトキシホスホリル、ジフェニルホスホリル)、スルファモイル基等が挙げられる。
【0077】
σpの値が0.60以上の置換基としては、シアノ基、ニトロ基、脂肪族・芳香族もしくは複素環スルホニル基(例えば、トリフルオロメタンスルホニル、ジフルオロメタンスルホニル、メタンスルホニル、ベンゼンスルホニル)等が挙げられる。
【0078】
11、及びR21として好ましいのは、ハロゲン原子、ハロゲン置換アルキル基(トリフルオロメチル基等)、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、シアノ基である。
【0079】
一般式(2)または一般式(3)の化合物には、該一般式で表される化合物そのものの他に、該化合物から誘導されるイオン及び塩を含む。例えば、分子構造中にスルホン酸基を有している場合には、該化合物の他にスルホン酸基が解離して生じる陰イオン、及び該陰イオンと対陽イオンとで形成される塩を含む。このような塩としてはナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等の金属イオンと形成した塩であってもよいし、ピリジン、ピペリジン、トリエチルアミン、アニリン、ジアザビシクロウンデセン等の有機塩基と形成した塩であってもよい。
【0080】
分子内に塩基性基を有する化合物の場合も、同様に該化合物がプロトン化されて生成する陽イオン、及び塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、メチルスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩等の、酸と形成した塩である場合も含まれる。
【0081】
以下に、本発明における一般式(2)または一般式(3)で表される化合物の具体例を示すが、本発明の内容がこれら例示化合物に限定されるものではない。
【0082】
【化5】

【0083】
【化6】

【0084】
【化7】

【0085】
【化8】

【0086】
【化9】

【0087】
【化10】

【0088】
【化11】

【0089】
【化12】

【0090】
【化13】

【0091】
【化14】

【0092】
【化15】

【0093】
【化16】

【0094】
【化17】

【0095】
【化18】

【0096】
【化19】

【0097】
【化20】

【0098】
【化21】

【0099】
【化22】

【0100】
【化23】

【0101】
【化24】

【0102】
本発明に係る上記化合物は、例えば、エフ・エム・ハーマ著「シアニン・ダイズ・アンド・リレーテッド・コンパウンズ」(1964,インター・サイエンス・パブリッシャーズ発刊)、米国特許第2,454,629号、同2,493,748号の各明細書、特開平6−301136号、特開2003−203684号の各公報等に記載された方法を参考にして合成することができる。
【0103】
これらの色素は吸光係数が大きく、かつ繰り返しの酸化還元に対して安定であることが好ましい。また、上記色素は金属酸化物粒子上に化学的に吸着することが好ましく、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、アミド基、アミノ基、カルボニル基、ホスフィン基等の官能基を有することが好ましい。
【0104】
また、光電変換の波長域をできるだけ広くし、かつ変換効率を上げるため、2種類以上の色素を併用または混合することもできる。この場合、目的とする光源の波長域と強度分布に合わせるように、併用または混合する色素とその割合を選ぶことができる。
【0105】
本発明において、金属酸化物粒子に色素を吸着させる方法としては特に限定されず、公知の方法が用いることができる。例えば、色素を有機溶剤に溶解して色素溶液を調製し、得られた色素溶液に透明導電膜上の金属酸化物粒子を浸漬する方法、または得られた色素溶液を金属酸化物粒子表面に塗布する方法等が挙げられる。
【0106】
前者においては、ディップ法、ローラ法、エヤーナイフ法等が適用でき、後者においてはワイヤーバー法、アプリケーション法、スピン法、スプレー法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法等が適用できる。なお、色素の吸着に先立って、金属酸化物粒子の表面を予め減圧処理や加熱処理等処理を施し、表面を活性化し膜中の気泡を除去する工程を有してもよい。
【0107】
金属酸化物粒子への増感効果を好ましく得る観点から、金属酸化物粒子を色素の溶液に浸漬する時間は、3〜48時間が好ましく、さらに好ましくは、4〜24時間である。
【0108】
また、浸漬にあたり色素溶液は色素が分解しない限りにおいて、沸騰しない温度にまで加熱して用いてもよい。好ましい温度範囲は10〜50℃、特に好ましくは15〜35℃であるが、溶媒が前記温度範囲で沸騰する場合はこの限りでない。
【0109】
また、金属酸化物粒子を浸漬した色素溶液に超音波照射を行うこともできる。超音波照射は市販の装置を用いることができ、また照射時間としては、好ましくは30分〜4時間であり、さらに好ましくは1〜3時間である。
【0110】
色素溶液に用いる溶媒は色素を溶解するものであればよく、従来公知の溶媒を用いることができる。また、当該溶媒は常法に従って精製された溶媒、また溶媒の使用に先立って、必要に応じて蒸留及び/または乾燥を行い、より純度の高い溶媒であることが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、1種またはそれ以上の疎水性溶媒、非プロトン性溶媒、疎水性、かつ非プロトン性の溶媒またはそれらの混合物が挙げられる。
【0111】
ここで、疎水性溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化脂肪族炭化水素;ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸エチル等のエステル類等、並びにそれらの組み合わせた混合溶媒等が挙げられる。
【0112】
非プロトン性溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン等のエーテル類;アセトニトリル、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド等の窒素化合物類;二硫化炭素、ジメチルスルホキシド等の硫黄化合物類;ヘキサメチルホスホルアミド等のリン化合物類、並びにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0113】
好ましく用いられる溶媒は、メタノール、エタノール、n−プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、塩化メチレン、1,1,2−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素溶媒であり、特に好ましくはメタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、塩化メチレンである。
【0114】
色素溶液中の色素の濃度は、使用する色素、溶媒の種類、色素吸着工程により適宜調整することができ、例えば、1×10-5mol/L以上、好ましくは5×10-5〜1×10-2mol/L程度が挙げられる。
【0115】
なお、色素の吸着量が少ないと増感効果が不十分になり、逆に吸着量が多いと金属酸化物粒子に吸着していない色素が浮遊して、これが増感効果を減じ、光電変換効率の低下をもたらす原因となるので好ましくない。上記のことから、未吸着の色素を洗浄により速やかに除去するのが好ましい。
【0116】
洗浄溶剤としては、色素の溶解性が比較的低く、かつ比較的乾燥しやすい、アセトン等の溶剤が好ましい。また、洗浄は加熱状態で行うのが好ましい。また、洗浄により余分な色素を除去した後、色素の吸着状態をより安定にするために、金属酸化物粒子の表面を有機塩基性化合物で処理して、未反応色素の除去を促進させてもよい。有機塩基性化合物としては、ピリジン、キノリン等の誘導体が挙げられる。これら化合物が液体の場合にはそのまま用いてもよいが、固体の場合には溶剤、好ましくは色素溶液と同一の溶剤に溶解して用いてもよい。
【0117】
色素を2種以上用いる場合は、混合する色素の比率は特に限定はなく、それぞれの色素より最適化し選択されるが、一般的に等モルずつの混合から、1つの色素につき10%mol程度以上使用するのが好ましい。
【0118】
色素を2種以上併用する場合の具体的方法としては、混合溶解して吸着させても、色素を金属酸化物粒子に順次吸着させてもよい。併用する色素を混合し溶解した溶液を用いて金属酸化物粒子に色素を吸着する場合、溶液中の色素合計の濃度は1種類のみ担持する場合と同様でよい。色素を混合して使用する場合の溶媒としては前記したような溶媒が使用可能である。併用する色素それぞれについて溶液を調製し金属酸化物粒子に吸着させる場合も、溶媒としては前記したような溶媒が使用可能であり、使用する各色素用の溶媒は同一でも異なっていてもよい。
【0119】
各色素について別々の溶液を調製し、各溶液に順に浸漬して作製する場合は、金属酸化物粒子に色素を吸着させる順序がどのようであっても本発明の効果を得ることができる。また、各色素を単独で吸着させた金属酸化物粒子を混合することで作製してもよい。
【0120】
金属酸化物粒子に色素を担持する際、色素同士の会合を防ぐために包摂化合物の共存下、色素を担持することが効果的である。ここで包摂化合物としてはコール酸等のステロイド系化合物、クラウンエーテル、シクロデキストリン、カリックスアレン、ポリエチレンオキサイド等が挙げられるが、好ましいものとしてはデオキシコール酸、デヒドロデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、コール酸メチルエステル、コール酸ナトリウム等のコール酸類、ポリエチレンオキサイド等が挙げられる。
【0121】
また、色素を担持させた後、4−t−ブチルピリジン等のアミン化合物で金属酸化物粒子表面を処理してもよい。処理の方法は、例えば、アミンのエタノール溶液に色素を担持した金属酸化物粒子の設けられた基板を浸す方法等が採られる。
【0122】
〔短絡防止層〕
本発明の色素増感太陽電池においては、前述した導電層と金属酸化物粒子電極との間に、短絡防止層を設けることができる。これにより、電解質と金属酸化物粒子電極の短絡電流を低減することができる。特に電解質として固体のp型半導体を用いる場合は、この層を有することが好ましい。
【0123】
短絡防止層としては、可視光を透過する絶縁性物質で、伝導帯のエネルギー準位が金属酸化物粒子のそれに近い値を有するn型半導体であれば特に制限はない。例えば、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、ポリビニルアルコール、ポリウレタン等が挙げられる。また、一般的に光電変換材料に用いられるものでもよく、例えば、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タングステン等が挙げられる。
【0124】
短絡防止層の形成方法としては、透明導電層の場合と同様に真空成膜プロセスや、液相コーティング法等により作製することができる。真空成膜プロセスを用いる場合、透明導電層、短絡防止層、金属酸化物粒子層は大気開放することなく真空下でインライン成膜が可能である。
【0125】
短絡防止層の膜厚は0.001〜0.02μmが好ましいが、適宜調整することができる。
【0126】
〔電荷移動層〕
電荷移動層は色素の酸化体に電子を補充する機能を有する電荷輸送材料を含有する層である。本発明で用いることのできる代表的な電荷輸送材料の例としては、酸化還元対イオンが溶解した溶剤や酸化還元対イオンを含有する常温溶融塩等の電解液、酸化還元対イオンの溶液をポリマーマトリクスや低分子ゲル化剤等に含浸したゲル状の擬固体化電解質、さらには高分子固体電解質等が挙げられる。
【0127】
また、イオンが関わる電荷輸送材料の他に、固体中のキャリア移動が電気伝導に関わる材料として、電子輸送材料や正孔(ホール)輸送材料を挙げることもでき、これらは併用してすることも可能である。
【0128】
電荷移動層に電解液を使用する場合、含有する酸化還元対イオンとしては、一般に公知の太陽電池等において使用することができるものであれば特に限定されない。
【0129】
具体的には、I-/I3-系、Br2-/Br3-系等の酸化還元対イオンを含有させたもの、フェロシアン酸塩/フェリシアン酸塩やフェロセン/フェリシニウムイオン、コバルト錯体等の金属錯体等の金属酸化還元系、アルキルチオール−アルキルジスルフィド、ビオロゲン色素、ハイドロキノン/キノン等の有機酸化還元系、ポリ硫化ナトリウム、アルキルチオール/アルキルジスルフィド等の硫黄化合物等を挙げることができる。
【0130】
ヨウ素系としてさらに具体的には、ヨウ素とLiI、NaI、KI、CsI、CaI2等の金属ヨウ化物との組み合わせ、テトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイド等の4級アンモニウム化合物や、4級イミダゾリウム化合物のヨウ素塩等との組み合わせ等が挙げられる。
【0131】
臭素系としてさらに具体的には、臭素とLiBr、NaBr、KBr、CsBr、CaBr2等の金属臭化物との組み合わせ、テトラアルキルアンモニウムブロマイド、ピリジニウムブロマイド等4級アンモニウム化合物の臭素塩等との組み合わせ等が挙げられる。
【0132】
溶剤としては電気化学的に不活性で、粘度が低くイオン易動度を向上したり、もしくは誘電率が高く有効キャリア濃度を向上したりして、優れたイオン伝導性を発現できる化合物であることが望ましい。
【0133】
具体的にはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物、3−メチル−2−オキサゾリジノン等の複素環化合物、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル化合物、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等の鎖状エーテル類、メタノール、エタノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、アセトニトリル、グルタロジニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、メトキシアセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル化合物、さらにテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等非プロトン極性物質等を用いることができる。
【0134】
好ましい電解質濃度は0.1〜15Mであり、さらに好ましくは0.2〜10Mである。また、ヨウ素系を使用する場合の好ましいヨウ素の添加濃度は0.01〜0.5Mである。
【0135】
溶融塩電解質は光電変換効率と耐久性の両立という観点から好ましい。溶融塩電解質としては、例えば、国際公開第95/18456号パンフレット、特開平8−259543号、特開2001−357896号の各公報、電気化学,第65巻,11号,923頁(1997年)等に記載されているピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩等の既知のヨウ素塩を含む電解質を挙げることができる。これらの溶融塩電解質は常温で溶融状態であるものが好ましく、溶媒を用いない方が好ましい。
【0136】
オリゴマー及びポリマー等のマトリクスに電解質あるいは電解質溶液を含有させたものや、ポリマー添加、低分子ゲル化剤やオイルゲル化剤添加、多官能モノマー類を含む重合、ポリマーの架橋反応等の手法によりゲル化(擬固体化)させて使用することもできる。
【0137】
ポリマー添加によりゲル化させる場合は、特にポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデンを好ましく使用することができる。オイルゲル化剤添加によりゲル化させる場合は、好ましい化合物は分子構造中にアミド構造を有する化合物である。
【0138】
また、ポリマーの架橋反応により電解質をゲル化させる場合、架橋可能な反応性基を含有するポリマー及び架橋剤を併用することが望ましい。この場合、好ましい架橋可能な反応性基は含窒素複素環(例えば、ピリジン環、イミダゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、トリアゾール環、モルホリン環、ピペリジン環、ピペラジン環等)であり、好ましい架橋剤は窒素原子に対して求電子反応可能な2官能以上の試薬(例えば、ハロゲン化アルキル、ハロゲン化アラルキル、スルホン酸エステル、酸無水物、酸クロライド、イソシアネート等)である。電解質の濃度は通常0.01〜99質量%で好ましくは0.1〜90質量%程度である。
【0139】
また、ゲル状電解質としては、電解質と、金属酸化物粒子及び/または導電性粒子とを含む電解質組成物を用いることもできる。金属酸化物粒子としては、TiO2、SnO2、WO3、ZnO、ITO、BaTiO3、Nb25、In23、ZrO2、Ta25、La23、SrTiO3、Y23、Ho23、Bi23、CeO2、Al23からなる群から選択される1種または2種以上の混合物が挙げられる。これらは不純物がドープされたものや複合酸化物等であってもよい。導電性粒子としては、カーボンを主体とする物質からなるものが挙げられる。
【0140】
次に、高分子電解質としては、酸化還元種を溶解あるいは酸化還元種を構成する少なくとも1つの物質と結合することができる固体状の物質であり、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンサクシネート、ポリ−β−プロピオラクトン、ポリエチレンイミン、ポリアルキレンスルフィド等の高分子化合物またはそれらの架橋体、ポリホスファゼン、ポリシロキサン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアルキレンオキサイド等の高分子官能基に、ポリエーテルセグメントまたはオリゴアルキレンオキサイド構造を側鎖として付加したもの、またはそれらの共重合体等が挙げられ、その中でも特にオリゴアルキレンオキサイド構造を側鎖として有するものやポリエーテルセグメントを側鎖として有するものが好ましい。
【0141】
前記の固体中に酸化還元種を含有させるには、例えば、高分子化合物となるモノマーと酸化還元種との共存下で重合する方法、高分子化合物等の固体を必要に応じて溶媒に溶解し、次いで、前記の酸化還元種を加える方法等を用いることができる。酸化還元種の含有量は、必要とするイオン伝導性能に応じて適宜選定することができる。
【0142】
本発明では、溶融塩等のイオン伝導性電解質の代わりに、有機または無機あるいはこの両者を組み合わせた固体の正孔輸送材料を使用することができる。
【0143】
有機正孔輸送材料としては、芳香族アミン類やトリフェニレン誘導体類、さらにポリアセチレン及びその誘導体、ポリ(p−フェニレン)及びその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)及びその誘導体、ポリチエニレンビニレン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリトルイジン及びその誘導体等の導電性高分子を好ましく用いることができる。
【0144】
正孔(ホール)輸送材料には、ドーパントレベルをコントロールするためにトリス(4−ブロモフェニル)アミニウムヘキサクロロアンチモネートのようなカチオンラジカルを含有する化合物を添加したり、酸化物半導体表面のポテンシャル制御(空間電荷層の補償)を行うためにLi[(CF3SO22N]のような塩を添加しても構わない。
【0145】
無機正孔輸送材料としては、p型無機化合物半導体を用いることができる。この目的のp型無機化合物半導体は、バンドギャップが2eV以上であることが好ましく、さらに2.5eV以上であることが好ましい。
【0146】
また、p型無機化合物半導体のイオン化ポテンシャルは、色素の正孔を還元できる条件から、色素吸着電極のイオン化ポテンシャルより小さいことが必要である。使用する色素によってp型無機化合物半導体のイオン化ポテンシャルの好ましい範囲は異なってくるが、一般に4.5〜5.5eVであることが好ましく、さらに4.7〜5.3eVであることが好ましい。
【0147】
好ましいp型無機化合物半導体は一価の銅を含む化合物半導体であり、CuI及びCuSCNが好ましく、CuIが最も好ましい。p型無機化合物半導体を含有する電荷移動層の好ましいホール移動度は10-4〜1042/V・secであり、さらに好ましくは10-3〜103cm2/V・secである。また、電荷輸送層の好ましい導電率は10-8〜102S/cmであり、さらに好ましくは10-6〜10S/cmである。
【0148】
本発明において、電荷移動層を金属酸化物粒子電極と対向電極との間に形成する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、金属酸化物粒子電極と対向電極とを対向配置してから両電極間に前述した電解液や各種電解質を充填して電荷移動層とする方法、金属酸化物粒子電極または対向電極の上に電解質や各種電解質を滴下あるいは塗布等することにより電荷移動層を形成した後、電荷移動層の上に他方の電極を重ね合わせる方法等を用いることができる。
【0149】
また、金属酸化物粒子電極と対向電極との間から電解質が漏れ出さないようにするため、必要に応じて金属酸化物粒子電極と対向電極との隙間にフィルムや樹脂を用いて封止したり、金属酸化物粒子電極と電荷移動層と対向電極を適当なケースに収納したりすることも好ましい。
【0150】
前者の形成方法の場合、電荷移動層の充填方法として、浸漬等による毛管現象を利用する常圧プロセス、または常圧より低い圧力にして間隙の気相を液相に置換する真空プロセスを利用できる。
【0151】
後者の形成方法の場合、塗布方法としてはマイクログラビアコーティング、ディップコーティング、スクリーンコーティング、スピンコーティング等を用いることができる。湿式の電荷移動層においては未乾燥のまま対極を付与し、エッジ部の液漏洩防止措置を施すことになる。また、ゲル電解質の場合には湿式で塗布して重合等の方法により固体化する方法があり、その場合には乾燥、固定化した後に対極を付与することもできる。
【0152】
固体電解質や固体の正孔(ホール)輸送材料の場合には、真空蒸着法やCVD法等のドライ成膜処理で電荷移動層を形成し、その後対向電極を付与することもできる。具体的には、真空蒸着法、キャスト法、塗布法、スピンコート法、浸漬法、電解重合法、光電解重合法等の手法により電極内部に導入することができ、必要に応じて基材を任意の温度に加熱して溶媒を蒸発させる等により形成する。
【0153】
電荷移動層の厚さは10μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに1μm以下であることが好ましい。また、電荷移動層の導電率は1×10-10S/cm以上であることが好ましく、1×10-5S/cm以上であることがさらに好ましい。
【0154】
〔対向電極〕
本発明で使用できる対向電極は、前述した導電性基材と同様にそれ自体が導電性を有する基材の単層構造、またはその表面に対極導電層を有する基材を利用することができる。後者の場合、対極導電層に用いる導電性材料、基材、さらにその製造方法としては、前述した導電性基材の場合と同様で、公知の種々の材料及び方法を適用することができる。その中でも、I3-イオン等の酸化や他のレドックスイオンの還元反応を十分な速さで行わせる触媒能を持ったものを使用することが好ましく、具体的には白金電極、導電材料表面に白金メッキや白金蒸着を施したもの、ロジウム金属、ルテニウム金属、酸化ルテニウム、カーボン等が挙げられる。
【0155】
また、前述と同様にコスト面や可撓性を考慮するとプラスチックシートを基材として使用し、導電性材料としてポリマー系材料を塗布して使用することも好ましい態様の1つである。
【0156】
対極導電層の厚さは特に制限されないが、3nm〜10μmが好ましい。対極導電層が金属である場合は、その厚さは好ましくは5μm以下であり、さらに好ましくは10nm〜3μmの範囲である。対向電極の表面抵抗は低い程よく、具体的には表面抵抗の範囲としては50Ω/□以下であることが好ましく、20Ω/□以下であることがより好ましく、10Ω/□以下であることがさらに好ましい。
【0157】
前述した導電性基材と対向電極のいずれか一方または両方から光を受光してよいので、導電性基材と対向電極の少なくとも一方が実質的に透明であればよい。発電効率の向上の観点からは、導電性基材を透明にして光を導電性基材側から入射させるのが好ましい。この場合、対向電極は光を反射する性質を有するのが好ましい。このような対向電極としては、金属または導電性の酸化物を蒸着したガラスまたはプラスチック、あるいは金属薄膜を使用できる。
【0158】
対向電極は、前述した電荷移動層上に直接導電性材料を塗布、メッキまたは蒸着(PVD、CVD)するか、対極導電層を有する基材の導電層側または導電性基材単層を貼り付ければよい。また、導電性基材の場合と同様に特に対向電極が透明の場合には、金属配線層を併用することも好ましい態様の1つである。
【0159】
対極としては導電性を持っており、レドックス電解質の還元反応を触媒的に作用するものが好ましい。例えば、ガラス、もしくは高分子フィルムに白金、カーボン、ロジウム、ルテニウム等を蒸着したり、導電性微粒子を塗り付けたものが用い得る。
【実施例】
【0160】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0161】
実施例
《半導体膜形成用塗布液の調製》
(半導体膜形成用塗布液CD−1の調製)
結晶性酸化チタン粉末(日本アエロジル社製、P25)60gを水1200g中に攪拌しながら添加した後、硝酸14.9gを加えた反応系を80℃に加熱した後、8時間攪拌を続けた。放冷した後、エバポレータにより水分を留去して、粉末状にしてから乳鉢でよく粉砕した。得られた酸化チタン粒子の平均粒径は15nmであった。
【0162】
次いで、純水128ml、酸化チタン粒子56g、10質量%エチルセルロースのエタノール溶液56ml、t−BuOH 160mlを混合後、ミル分散機で分散し、半導体膜形成用塗布液CD−1を調製した。
【0163】
(半導体膜形成用塗布液CD−2の調製)
半導体膜形成用塗布液CD−1の調製において、純水122ml、酸化チタン粒子56g、エタノール56ml、10質量%の例示化合物13の水溶液5.6ml、t−BuOH 160mlを混合後、ミル分散機で分散した以外は同様にして、半導体膜形成用塗布液CD−2を調製した。
【0164】
(半導体膜形成用塗布液CD−3の調製)
半導体膜形成用塗布液CD−1の調製において、純水125ml、酸化チタン粒子56g、10質量%ポリエチレングリコールのエタノール56ml、10質量%の例示化合物13の水溶液2.8ml、t−BuOH 160mlを混合後、ミル分散機で分散した以外は同様にして、半導体膜形成用塗布液CD−3を調製した。
【0165】
(半導体膜形成用塗布液CD−4の調製)
半導体膜形成用塗布液CD−1の調製において、純水125ml、酸化チタン粒子56g、10質量%エチルセルロースのエタノール56ml、10質量%の例示化合物13の水溶液5.6ml、t−BuOH 160mlを混合後、ミル分散機で分散した以外は同様にして、半導体膜形成用塗布液CD−4を調製した。
【0166】
(半導体膜形成用塗布液CD−5の調製)
半導体膜形成用塗布液CD−1の調製において、純水125ml、酸化チタン粒子56g、10質量%エチルセルロースのエタノール11.2ml、10質量%の例示化合物13の水溶液5.6ml、t−BuOH 160mlを混合後、ミル分散機で分散した以外は同様にして、半導体膜形成用塗布液CD−5を調製した。
【0167】
(半導体膜形成用塗布液CD−6の調製)
半導体膜形成用塗布液CD−5の調製において、例示化合物13の替わりに例示化合物23を用いた以外は同様にして、半導体膜形成用塗布液CD−6を調製した。
【0168】
(半導体膜形成用塗布液CD−7の調製)
半導体膜形成用塗布液CD−5の調製において、例示化合物13の替わりに例示化合物51を用いた以外は同様にして、半導体膜形成用塗布液CD−7を調製した。
【0169】
(半導体膜形成用塗布液CD−8の調製)
半導体膜形成用塗布液CD−5の調製において、ポリエチレングリコールの替わりにエチルセルロースを用いた以外は同様にして、半導体膜形成用塗布液CD−8を調製した。
【0170】
《色素増感型太陽電池の作製》
(色素増感型太陽電池SC−1の作製)
透明導電性基材となる表面抵抗10Ω/□のFTOガラス基板のFTO面に、ドクターブレード法によって上記の半導体膜形成用塗布液CD−1を30μmの液厚みで塗布し、室温で乾燥後、さらに450℃で30分間の焼結処理を行って、多孔性の金属酸化物粒子層を形成した。
【0171】
次いで、アセトニトリル:t−ブタノール=1:1溶液200質量部中に、色素I 0.1質量部を溶解した色素溶液を作製し、上記半導体膜(金属酸化物粒子層)を基板ごと24時間浸漬した後、アセトニトリル:t−ブタノール=1:1溶液で洗浄、乾燥して、金属酸化物粒子電極を作製した。
【0172】
カソード電極としてITOガラス基材上に白金を真空蒸着し、電解質を注入するための穴を設けた。前記ガラス基板と前記カソード電極とを6.5mm角の穴を開けた25μm厚のシート状スペーサー兼封止材(SOLARONIX社製、SX−1170−25)を用いて向き合うように張り合わせ、カソード電極に設けた電解質注入穴から、体積比が1:4であるアセトニトリル:炭酸エチレンの混合溶媒にテトラプロピルアンモニウムアイオダイド、ヨウ素、t−ブチルピリジンとを、それぞれの濃度が0.46モル/L、0.06モル/L、0.50モル/Lとなるように溶解したレドックス電解質を入れた電荷移動層を注入し、ホットボンドで穴を塞ぎ、上から前記封止剤を用いてカバーガラスを貼り付け封止した。
【0173】
前記ガラス基板の受光面側に、反射防止フィルム(コニカミノルタオプト社製ハードコート/反射防止タイプセルロース系フィルム)を張り合わせ、色素増感型太陽電池SC−1を作製した。
【0174】
【化25】

【0175】
(色素増感型太陽電池SC−2〜8の作製)
色素増感型太陽電池SC−1の作製において、半導体形成用塗布液を表1に記載のように変更した以外は色素増感型太陽電池SC−1の作製と同様に行い、色素増感型太陽電池SC−2〜8を作製した。
【0176】
《色素増感型太陽電池の光電変換特性の評価》
上記で得られた色素増感型太陽電池SC−1〜8の各々に、ソーラーシミュレーター(JASCO(日本分光)製、低エネルギー分光感度測定装置CEP−25)により100mW/m2の強度の光を照射した時の短絡電流密度Jsc(mA/cm2)、開放電圧Voc(V)、形状因子(%)、変換効率η(%)を求めて、表1に示した。値は、同じ構成及び作製方法の太陽電池3つずつ作製して評価した値の平均値とした。
【0177】
【表1】

【0178】
表1から分かるように、本発明の半導体膜形成用塗布液を用いて作製した金属酸化物粒子電極を有する色素増感型太陽電池SC−3〜8では、比較の色素増感型太陽電池SC−1、2に比べ、短絡電流、形状因子が改善され、光電変換効率が向上していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0179】
【図1】本発明の色素増感型太陽電池の基本構造を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0180】
1 導電性基材
11 基板
12 導電層
2 金属酸化物粒子
3 色素
4 電荷移動層
5 対向電極
51 基板
52 対極導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物粒子、バインダー、及び下記一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする半導体膜形成用塗布液。
【化1】

(式中、R1は置換もしくは非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アシル基、ヘテロアリール基、複素環基、NR45、またはOR6を表す。R2〜R6は、それぞれR1と同義である。また、R1とR2、R1とR3とが互いに結合して環を形成してもよい。Xは酸素原子またはNHを表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表される化合物が、尿素または尿素誘導体であることを特徴とする請求項1に記載の半導体膜形成用塗布液。
【請求項3】
前記バインダー(B)と前記一般式(1)で表される化合物(U)の質量比(U/B)が、0.03〜0.5であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体膜形成用塗布液。
【請求項4】
前記金属酸化物粒子(F)とバインダー(B)の質量比(F/B)が、5〜50であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体膜形成用塗布液。
【請求項5】
前記金属酸化物粒子の平均一次粒子径が、5〜400nmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体膜形成用塗布液。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに1項に記載の半導体膜形成用塗布液を塗布、焼結することで製造されたことを特徴とする半導体膜。
【請求項7】
導電性基材上に、色素が表面に吸着された半導体膜から構成される金属酸化物半導体電極と、電荷移動層と、対向電極とを順次有する色素増感型太陽電池であって、該半導体膜として請求項6に記載の半導体膜を用いることを特徴とする色素増感型太陽電池。

【図1】
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【公開番号】特開2009−96842(P2009−96842A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267616(P2007−267616)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】