説明

半導体膜形成用塗料、半導体膜、光電池用電極およびその製造方法、ならびに光電池

【課題】結着力および色素吸着性に優れて光電池特性が高い半導体膜を製造できる半導体膜形成用塗料を提供する。結着力および色素吸着性に優れて光電池特性を高くできる半導体膜、光電池特性を高くできる光電池用電極を提供する。
【解決手段】本発明の半導体膜形成用塗料は、酸化亜鉛粒子と、エマルジョン樹脂を含む結着剤と、溶媒とを含有する。本発明の半導体膜13は、酸化亜鉛粒子と、エマルジョン樹脂を含む結着剤と、色素とを含有する。本発明の光電池用電極10は、透明基材11と、透明基材11の片面または両面に形成された透明導電膜12と、透明導電膜12の、透明基材11側と反対側の面に形成された上記半導体膜13とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電池用電極に備えられる半導体膜とそれを形成するための半導体膜形成用塗料に関する。さらには、色素増感光電池用の電極とその製造方法、およびそれを使用した光電池に関する。
【背景技術】
【0002】
グレッツェルが、非特許文献1に、変換効率7.9%の新しい型の光電池(色素増感光電池)を発表して以来、色素増感光電池の研究開発は世界的に行われてきた。グレッツェルの発表した色素増感光電池は、TiO(酸化チタン)電極と対向電極とを対峙させ、それらの間に電解質溶液を配置した構造を有するものである。TiO電極としては、フッ素ドープ酸化スズからなる透明導電膜付きのガラス板と、透明導電膜上に設けられ、表面に通常N3と呼ばれるルテニウム増感色素が吸着している多孔質TiO膜とからなるものが使用されている。また、対向電極としては、導電性ガラス基板に白金膜を形成したものが、電解質溶液としてはアセトニトリルなどの溶媒にI/Iを含む酸化還元溶液が使用されている。
【0003】
従来、色素増感光電池のTiO電極を製造するためには、例えば、まず、数十nmサイズのTiO粉末をポリエチレングリコールやセルロース系結着剤に分散させてペーストを調製し、そのペーストをガラス基材上の透明導電膜上に塗布して塗膜を形成する。その後、500℃程度の高温で焼成して結着剤を分解し、TiO粉末粒子同士を結合させ、次いで、TiO表面に染料(色素)を吸着させる。
【0004】
ところで、近年では、用途拡大のために、電極における基材をプラスチック化して、薄型かつ軽量で、屈曲性を有する光電池を開発することが求められている。また、電極における基材をプラスチック化して可撓性を持たせ、光電池を連続生産することにより、コストを下げることも考えられている。しかしながら、上記のような、TiO粉末を使用した電極の製造方法では、高温で焼結する必要があるため、プラスチックフィルムを基材とした電極を製造することは困難であった。
【0005】
そこで、プラスチックフィルムを基材とした電極を低温で製造する方法として、次の(1)〜(3)の方法が提案されている。
(1)TiO微粒子をプラスチックフィルムに加圧プレスにより接合する方法(非特許文献2参照)
(2)TiO微粒子を静電的電着法により成膜する方法(非特許文献3参照)
(3)TiO微粒子を水熱合成法により成膜する方法(非特許文献4参照)
しかしながら、上記(1)の方法では、原理的には加圧ロールを使うことで連続生産が可能であるが、幅方向にて均一にTiO微粒子をプラスチックフィルムに加圧接合することは極めて難しい。また、(2)及び(3)の方法では、特殊なバッチ処理を必要とするため、連続生産を行うことは困難である。
【0006】
また、上記TiOを用いた光電池の課題を解決する手法として、TiOの代わりにZnOを用いる方法が提案されている(特許文献1、2参照)。具体的には、酸化亜鉛と増感色素と結着剤であるカルボキシメチルセルロースと溶媒とを含む塗料を、透明電極付きプラスチック基板に塗布、乾燥することにより、色素増感光電池用電極を製造する方法が提案されている。
しかしながら、特許文献1、2に記載の方法で得た半導体膜は、結着力や色素の吸着性が低く、発電性能が充分とはいえなかった。
【特許文献1】特開2005−135798号公報
【特許文献2】特開2005−135799号公報
【非特許文献1】グレッツェル、「ネイチャー(Nature)」、第353巻、1991年、p.737
【非特許文献2】エイチ・リンドストローム(H.Lindstroem)ら、「ジャーナル オブフォトケミストリ アンド フォトバイオロジ エイ(Journal of Photochemistry and Photobiology A)」、第145巻、2001年、p.107
【非特許文献3】ディ・マッシューズ(D.Matthews)ら、「オーストラリアン ジャーナル オブ ケミストリ(Australian Journal of chemistry)」、第47巻、1994年、p.1869
【非特許文献4】ディ・チャン(D.Zhang)ら、「ケミストリ レターズ(Chemistry Letters)、2002年、p.874
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、従来の方法では、光電池特性に優れた色素増感光電池用電極のプラスチック化及びその連続生産は困難であるのが実情であった。
本発明の目的は、結着力および色素吸着性に優れて光電池特性が高い半導体膜を、基材としてプラスチックフィルムを使用できるような低温でも連続的に製造できる半導体膜形成用塗料を提供することにある。
また、本発明の目的は、結着力および色素吸着性に優れて光電池特性を高くできる半導体膜、光電池特性を高くできる光電池用電極、そのような光電池用電極を容易に製造できる光電池用電極の製造方法、光電池特性に優れた光電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1] 酸化亜鉛粒子と、エマルジョン樹脂を含む結着剤と、溶媒とを含有することを特徴とする半導体膜形成用塗料。
[2] 前記エマルジョン樹脂が、スチレン−ブタジエン共重合体及び/又はアクリロニトリル−ブタジエン共重合体であることを特徴とする[1]に記載の半導体膜形成用塗料。
[3] 酸化亜鉛粒子と、エマルジョン樹脂を含む結着剤と、色素とを含有することを特徴とする半導体膜。
[4] 前記色素が下記一般式(1)で表される置換基を有する化合物であることを特徴とする[3]に記載の半導体膜。
−COOR (1)
(式中、Rは水素原子またはアルキル基を示す)
[5] 前記エマルジョン樹脂が、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、アクリル樹脂、アクリル−スチレン共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、フッ素樹脂、ウレタン樹脂からなる群より選ばれた1種以上であることを特徴とする[3]または[4]に記載の半導体膜。
[6] 透明基材と、該透明基材の片面または両面に形成された透明導電膜と、該透明導電膜の、透明基材側と反対側の面に形成された半導体膜とを有する光電池用電極であって、前記半導体膜が、[3]ないし[5]のいずれかに記載の半導体膜であることを特徴とする光電池用電極。
[7] 前記透明基材がプラスチックフィルムであることを特徴とする[6]に記載の光電池用電極。
[8] 透明基材の片面または両面にあらかじめ形成した透明導電膜の表面に、[1]または[2]に記載の半導体膜形成用塗料を塗布し、乾燥させて半導体膜用塗膜を形成する工程と、
前記半導体膜用塗膜の表面に、色素を含有する溶液を塗布し、乾燥させる工程とを有することを特徴とする光電池用電極の製造方法。
[9] 前記透明基材がプラスチックフィルムであることを特徴とする[8]に記載の光電池用電極の製造方法。
[10] [6]または[7]に記載の光電池用電極と、該光電池用電極の半導体膜に対向する位置に設けられた対向電極とを具備し、光電池用電極と対向電極との間に電解質材料が充填されていることを特徴とする光電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明の半導体膜形成用塗料によれば、結着力および色素吸着性に優れて光電池特性が高い半導体膜を、基材としてプラスチックフィルムを使用できるような低温でも連続的に製造できる。
本発明の半導体膜は、結着力および色素吸着性に優れて光電池特性を高くできるものである。
本発明の光電池用電極は、光電池特性を高くできる。
本発明の光電池用電極の製造方法によれば、光電池特性を高くできる光電池用電極を容易に製造できる。
本発明の光電池は、光電池特性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(半導体膜形成用塗料)
本発明の半導体膜形成用塗料は、酸化亜鉛粒子と結着剤と溶媒とを必須成分として含有するものである。
ここで、酸化亜鉛(ZnO)粒子としては、焼成法(フランス法)と湿式法のいずれの方法で製造されたものを使用できる。酸化亜鉛粒子の平均粒子径は数nmから数μmの範囲のものが使用できるが、10〜200nmの範囲の粒子径のものが好ましい。平均粒子径が10nm未満であると、分散安定性やハンドリング性が低くなり、一方、200nmを超えると表面積が小さくなって色素の吸着量が低下してしまうことがある。ただし、光散乱効果を期待して200nmを超える粒径のものを一部使用することは可能である。
【0011】
結着剤は、エマルジョン樹脂を含むものであって、酸化亜鉛粒子同士を結着し、かつ、後述の透明導電膜に強固に結合して成膜可能なものである。エマルジョン樹脂とは、エマルジョン状態から得られた固形状の樹脂のことである。
エマルジョン樹脂としては、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、アクリル樹脂、アクリル−スチレン共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、フッ素樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、光電池用電解質材料の溶媒として用いられるアセトニトリル等の有機溶媒に対して溶解しにくいものが好ましい。さらには、結着力が高いものが好ましく、具体的には、スチレン−ブタジエン共重合体及び/又はアクリロニトリル−ブタジエン共重合体が好ましい。スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体は、電解質材料に侵されにくいだけでなく、酸化亜鉛粒子の分散性にも優れる。
【0012】
溶媒としては、例えば、水、または、アルコール、ケトン、エステル、アミド、ニトリル、カーボネート、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素の有機溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で使用してもよいし、混合して使用してもよい。上記溶媒の中でも、取り扱い性に優れることから、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコールが好ましい。
【0013】
本発明の半導体膜形成塗料は、一般式(1)で表される置換基を有する色素を任意成分として含んでもよい。
ここで、色素は、増感剤として機能し、水溶性で、アンカー基としてスルフォン酸基、カルボキシ基、リン酸基などを有するものが挙げられる。このような色素としては、例えば、テトラスルフォン酸フタロシアニン金属錯体、テトラブロモフェノールブルー、キサンテン系色素、リボフラビン、ポリピリジンルテニウム錯体、クマリン系色素、ペニレン系色素、シアニン系色素、オキソノール系色素、スクアリリウムなどが挙げられる。該色素は、酸化亜鉛粒子に吸着されていても構わない。
また、色素としては、光電池の光電変換効率(η)をより高くできる点では、上記一般式(1)で表される置換基を有するものが好ましい。なお、一般式(1)におけるRは水素原子またはアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等)である。一般式(1)で表される置換基を有する色素としては、例えば、和光純薬工業株式会社製の商品名エオシンY、林原生物化学研究所製クマリン系色素でNKX−2587、NKX−2677、三菱製紙製インドリン系色素でD−149、D−102などが挙げられる。
【0014】
半導体膜形成用塗料において、酸化亜鉛粒子と結着剤との質量比は100/0.5〜100/20の範囲であることが好ましい。酸化亜鉛粒子と結着剤との質量比100/0.5よりも結着剤比率が少ないと結着力が不足する傾向にあり、100/20よりも結着剤比率が多いと、半導体膜中の酸化亜鉛粒子間の接合が不充分となり、光電池の変換効率が低下する傾向にある。
また、その他の成分の配合比率は、該塗料を塗布する方法に適した粘度に合わせて適宜選択すればよい。
【0015】
半導体膜形成用塗料は、各成分を別々に配合して調製してもよい。
また、色素を含む半導体膜形成用塗料を調製する場合には、例えば、酸化亜鉛粒子を色素の溶液に浸漬させて、酸化亜鉛粒子に色素をあらかじめ吸着させる方法を適用できる。酸化亜鉛粒子に色素をあらかじめ吸着させれば、酸化亜鉛粒子表面への色素の吸着状態を容易に制御できる。
また、半導体膜形成用塗料を調製する際には、酸化亜鉛粒子を充分に分散させるために、サンドミルや、ホモジナイザー等の分散装置を使用することが好ましい。
【0016】
以上説明した半導体膜形成用塗料は結着剤としてエマルジョン樹脂を含むため、得られる半導体膜内の酸化亜鉛粒子同士の結着力、および、半導体膜の透明導電膜に対する結着力を強くできる。また、エマルジョン樹脂を含む半導体膜形成用塗料より形成した半導体膜は、色素の吸着性が高い。これらのことから、半導体膜の光電変換効率を高くできるため、光電池特性を高くできる。
【0017】
また、上記半導体膜形成用塗料によれば、塗布後、100〜150℃程度の低温で乾燥しても、膜を形成できる。したがって、500℃程度の高温での焼成工程は不要であるため、プラスチック製の基材を容易に使用することができる。
また、この半導体膜形成用塗料を用いることにより、該塗料の塗布、乾燥、色素吸着(浸漬または塗布)、乾燥という簡便な方法により半導体膜を形成できるから、半導体膜を連続的に製造できる。
さらに、半導体膜形成用塗料に色素を含有させる方法、あらかじめ色素が吸着された酸化亜鉛を用いる方法を適用すれば、塗料の塗布、乾燥というより簡便な方法により半導体膜を形成できるから、半導体膜をより容易に連続生産できる。したがって、光電池用電極のロール・ツー・ロールでの連続生産も実現可能である。
【0018】
(半導体膜)
本発明の半導体膜は、酸化亜鉛粒子と結着剤と色素とを含有するものである。酸化亜鉛粒子と結着剤と色素は、上記半導体膜形成用塗料に含まれるものと同様である。半導体膜における酸化亜鉛粒子の含有量は90〜98質量%であることが好ましい。酸化亜鉛含有量が90質量%以上であれば、半導体膜中での充分な電子伝導性を確保でき、98質量%以下であれば、半導体膜の破損および剥離を防止できる。
半導体膜中の酸化亜鉛粒子と結着剤との配合比率は半導体膜形成用塗料中の範囲と同じである。半導体膜における色素の含有量は、色素吸着量で表され、1.0×10−8mol/cm以上が好ましく、より好ましくは3.8×10−8mol/cm以上である。色素吸着量が多いほど、短絡電流密度(mA/cm)を上げることができ、光電変換効率を増加させることが可能になる。色素吸着量が1.0×10−8mol/cm以上であれば実用的に使用可能となる。
【0019】
半導体膜の厚さは0.01〜300μmであることが好ましい。半導体膜の厚さが0.01μm以上であれば、光電池に適用した際に充分な光電変換効率を得ることができ、300μm以下であれば、半導体膜をより容易に形成できる。
【0020】
半導体膜の形成方法としては、例えば、酸化亜鉛粒子と結着剤と溶媒とを含む半導体膜形成用塗料を塗布し、乾燥させて塗膜を形成した後、その塗膜に色素を吸着させる方法、酸化亜鉛粒子と結着剤と色素と溶媒とを含む半導体形成用塗料を塗布し、乾燥させる方法などが挙げられる。
【0021】
本発明の半導体膜は、酸化亜鉛粒子同士の結着力、および、半導体膜の透明導電膜に対する結着力が強く、また、色素の吸着性が高い。その結果、光電変換効率を高くできるため、光電池特性を高くできる。
【0022】
(光電池用電極)
本発明の光電池用電極について説明する。
図1に、光電池用電極の一例を示す。この光電池用電極10は、透明基材11と、透明基材11の片面に形成された透明導電膜12と、透明導電膜12の、透明基材11側と反対側の面に形成された半導体膜13とを有するものである。半導体膜13としては、上述した本発明の半導体膜が用いられている。
【0023】
透明基材11としては、ガラス板やプラスチックフィルムなどが挙げられるが、薄型かつ軽量で、屈曲性を有する点では、プラスチックフィルムが好ましい。
プラスチックフィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリイミド、芳香族ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、セロファン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、シクロオレフィン樹脂等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、混合してもよいし、更には積層したものを用いてもよい。
透明基材11としてプラスチックフィルムを用いることにより、薄肉・軽量化や屈曲性の向上を図ることができるが、そのような効果が不要な場合にはガラス板を使用しても構わない。
【0024】
透明基材11の厚さとしては5〜300μmであることが好ましい。透明基材11の厚さが5μm以上であれば、破損を防止でき、300μm以下であれば、屈曲性を確保することができる。
【0025】
透明導電膜12は、例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化亜鉛等の導電性の金属酸化物を含む膜である。この透明導電膜12は、光電池の性能をより高くできることから、透明性と導電性とが共に高いことが好ましい。透明基材11の種類にも異なるが、具体的には、透明性としては全光線透過率が80%以上であることが好ましく、導電性としては表面抵抗率500Ω/□以下であることが好ましい。
透明導電膜12は、例えば、スパッタリング等の方法で透明基材11の表面に成膜することができる。
【0026】
上述した光電池用電極10は、上述した半導体膜形成用塗料から形成された半導体膜13を有するため、光電変換効率を高くでき、光電池特性を高くできる。
また、この光電池用電極10では、透明基材11を容易にプラスチック化できるため、光電池用電極10に屈曲性を持たせることができ、また、薄肉・軽量化できる。
【0027】
(光電池用電極の製造方法)
上記光電池用電極10の第1の製造方法について説明する。
第1の製造方法は、透明基材11の片面にあらかじめ形成した透明導電膜12の表面に、酸化亜鉛粒子と結着剤と溶媒とを含有し、色素を含有しない半導体膜形成用塗料を塗布し、乾燥させて半導体膜用塗膜を形成する工程と、前記半導体膜用塗膜の表面に、色素を含有する溶液(以下、色素含有溶液という。)を塗布し、乾燥させて半導体膜13を形成する工程とを有する方法である。
【0028】
半導体膜形成用塗料の塗布方法としては、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法等を適用できる。
半導体膜形成用塗料を塗布した後の乾燥での乾燥条件としては、溶媒を揮発させて除去できる条件であればよく、例えば、100〜150℃で、1〜30分間程度である。
色素含有溶液は、色素が、アルコール、水、またはそれらの混合溶媒に溶解したものである。色素含有溶液の塗布方法としては、上記半導体膜形成用塗料の塗布方法あるいは塗膜を色素含有溶液に浸漬する方法などが挙げられる。色素含有溶液の塗布した後の乾燥では、室温〜150℃程度で乾燥することが好ましい。
【0029】
上記半導体膜形成用塗料を用いる第1の製造方法によれば、光電変換効率が高い半導体膜13を容易に形成できるため、光電池特性の高い光電池用電極10を容易に製造できる。特に、この製造方法では、半導体膜用塗膜に色素含有溶液を塗布するため、得られる半導体膜において色素を表面側に偏在させることができるため、光に当たる色素量が多くなり、光電変換効率をより高くすることができる。
また、上記半導体膜形成用塗料を用いる第1の製造方法によれば、透明基材11を容易にプラスチック化できるため、屈曲性を有し、薄肉・軽量で光電池特性に優れた光電池用電極10を容易に製造できる。
【0030】
次に、上記光電池用電極の第2の製造方法について説明する。
第2の製造方法は、剥離性支持体上に、酸化亜鉛粒子と結着剤と溶媒とを含有し、色素を含有しない半導体膜形成用塗料を塗布し、乾燥させて半導体膜用塗膜を形成する工程と、前記半導体膜用塗膜の表面に色素含有溶液を塗布し、乾燥させて半導体膜13を形成する工程と、透明基材11の片面にあらかじめ形成した透明導電膜12の表面に、前記剥離性支持体上の半導体膜13を積層する工程と、半導体膜13から剥離性支持体を剥離する工程とを有する方法である。
第2の製造方法における半導体膜形成用塗料の塗布、乾燥、色素含有溶液の塗布、乾燥は第1の製造方法と同様である。
【0031】
この第2の製造方法において、剥離性支持体としては、例えば、紙またはプラスチックフィルムがシリコーン樹脂などで表面処理された剥離紙や剥離性プラスチックフィルムなどが挙げられる。中でも、表面の平滑性から剥離性ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが好ましい。
また、第2の製造方法において、透明導電膜12の表面に半導体膜13を積層した後には、挟持装置により挟持し、透明導電膜12と半導体膜13との密着性を高めることが好ましい。
【0032】
上記半導体膜形成用塗料を用いる第2の製造方法によっても、光電変換効率が高い半導体膜13を容易に形成できるため、光電池特性の高い光電池用電極10を容易に製造できる。
また、上記第2の製造方法は、剥離性支持体上の半導体膜13を透明導電膜12の表面に転写する方法であり、生産性の高い塗工設備や印刷装置を使用して、剥離性支持体と半導体膜13との積層体を作製できる。この積層体は保管することができるため、必要なときに透明基材11上の透明導電膜に積層することで、光電池用電極10を製造することができる。また、転写法であるため、1種類の積層体に各種透明基材11を組み合わせることができ、融通性が高く、品種を容易に多様化できる。
【0033】
なお、本発明の光電池用電極は、上記第1の製造方法および第2の製造方法以外の方法で製造しても構わない。例えば、酸化亜鉛粒子と結着剤と溶媒とを含有し、色素を含有しない半導体膜形成用塗料の代わりに、酸化亜鉛粒子と結着剤と色素と溶媒とを含有する半導体膜形成用塗料を用いてもよい。その場合には、半導体膜形成用塗料の塗布後に、色素含有溶液の塗布を省略することができる。
また、両面に透明導電膜が形成された透明基材を用い、両方の透明導電膜の表面に半導体膜を形成してもよい。
【0034】
(光電池)
次に、本発明の光電池の一例について説明する。
図2に、本例の光電池を示す。この光電池1は、上述した光電池用電極10と、光電池用電極10の半導体膜13に対向する位置に設けられた対向電極20とを具備し、光電池用電極10と対向電極20との間に電解質材料30が充填されているものである。
また、光電池用電極10の透明導電膜12と対向電極20とは外部負荷回路40を介して電気的に接続されている。
【0035】
ここで、対向電極20としては、白金板、白金スパッタ膜を設けたガラス板、カーボン電極などが挙げられる。
対向電極20を光電池用電極10に対向するように設ける際には、例えば、光電池用電極10と対向電極20との間にスペーサ50を配置することが好ましい。
【0036】
電解質材料30としては、ヨウ素とヨウ素化合物を溶媒に溶解したものが好ましい。ヨウ素化合物としては、例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム、テトラプロピルアンモニウムヨウ素、テトラブチルアンモニウムヨウ素、ジメチルプロピルイミダゾリルヨウ素などが挙げられる。溶媒としては、例えば、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、エチレンカーボネート、プロピオンカーボネート、ジメチルカーボネートやこれらの混合溶剤が使用でき、さらに、t−ブチルピリジンを添加することもできる。
【0037】
光電池の製造方法としては、例えば、まず、上記のように製造された光電池用電極10上に、スペーサ50を設置し、スペーサ50上に対向電極20を設置した後、この状態で固定する。次いで、光電池用電極10と対向電極20との間に電解質材料30を注入し、最後に光電池用電極10および対向電極20に外部負荷回路40を取り付けて光電池1を得る。
【0038】
上述した光電池1は、上記光電池用電極10を備えるものであるため、充分な光電池特性を有する。しかも、この光電池1では、光電池用電極10の透明基材11を容易にプラスチック化できるため、屈曲性を持たせることができ、また、薄肉・軽量化できる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(従来例)
該従来例は、特許文献1、2に記載の方法である。
酸化亜鉛粒子(ナノファイン50、堺化学社製、粒子径20nm)2.0gと、カルボキシメチルセルロース(CMC−DN−100L、ダイセル化学工業社製)の2質量%水溶液4.0mlと、水1.0mlを混合して、半導体膜形成用塗料を調製した。
この半導体膜形成用塗料を、FTO膜付きのガラス基板(縦10mm×横15mm×厚さ0.7mm、表面抵抗率10Ω/□)のFTO膜上にドクターブレード法により塗布し、150℃で15分間乾燥させ、乾燥膜厚16.8μmの半導体膜用塗膜を形成して、電極用積層体を得た。
また、一般式(1)の置換基を有する色素(商品名エオシンY、和光純薬工業株式会社製)12.96mgを、水:エタノール=1:1(体積比)の混合溶液40mlに加えた後、30分超音波撹拌して、5×10−4mol/lの色素溶液を調製した。
そして、この色素溶液に、前記電極用積層体を3時間浸漬し、その後、自然乾燥させて、光電池用電極を得た。
【0040】
(実施例1)
酸化亜鉛粒子(ナノファイン50、堺化学社製、粒子径20nm)1.0gと、固形分濃度39.9質量%のスチレン−ブタジエン共重合体エマルジョン(BM−400B、日本ゼオン社製)0.1mlと、水3.0mlを混合して、半導体膜形成用塗料を調製した。
この半導体膜形成用塗料を、FTO膜付きのガラス基板(縦10mm×横15mm×厚さ0.7mm、表面抵抗率10Ω/□)のFTO膜上にドクターブレード法により塗布し、150℃で15分間乾燥させ、乾燥膜厚16.1μmの半導体膜用塗膜を形成して、電極用積層体を得た。また、従来例と同様にして、色素溶液を調製した。
そして、この色素溶液に、前記電極用積層体を3時間浸漬し、その後、自然乾燥させて、光電池用電極を得た。
【0041】
(実施例2)
色素を、和光純薬工業株式会社製エオシンYから三菱製紙製D−149に変更したこと以外は、実施例1と同様にして光電池用電極を得た。光電池用電極の半導体膜の乾燥膜厚は16.5μmであった。
【0042】
(実施例と従来例の評価)
従来例および実施例1、2の光電池用電極を用い、色素吸着測定、電池特性測定、結着性試験を行った。なお、各々の試験(測定)は、同様に作製した各々別の試験体を用いた。
[色素吸着量の測定]
水酸化ナトリウムの0.5質量%溶液5mlに光電池用電極を浸漬して色素を溶液中に脱離させた。その後、光電池用電極を引き上げ、光電池用電極浸漬後の溶液の比色定量分析により色素量を測定した。この色素量を色素吸着量とした。結果を表1に示す。
[電池特性測定]
光電池用電極の半導体膜上に、厚さ0.3mmのポリテトラフルオロエチレンシートからなるスペーサを介して白金電極を設けた。次いで、半導体膜と白金電極との間隙に、ヨウ化テトラプロピルアンモニウム0.5mol/lとヨウ素0.05mol/lのアセトニトリル溶液からなる電解液を注入して、光電池を組み立てた。得られた光電池を、JASCO社製の太陽電池特性評価システムにより、1sun照射下でI−V特性を測定した。結果を表1に示す。なお、この光電池の受光面積は0.25cmであった。
[結着性試験]
半導体膜にカッターナイフで格子状に切込みを形成し、チッピングの程度を目視により観察して評価した。従来例と実施例1の、切込みを形成した後の半導体膜表面の光学写真を図3に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
結着剤としてカルボキシメチルセルロースを用いた従来例では、半導体膜における色素吸着量が少なく、その結果、光電変換効率が低かった。また、結着性試験から、従来例では、カッターナイフの切り込んだ部分にチッピングが多く生じており、結着力が弱いことが分かった。
これに対し、結着剤としてエマルジョン樹脂を用いた実施例1、2では、半導体膜における色素吸着量が多く、光電変換効率が高かった。特に、実施例2では色素の性能に優れ、光電変換効率がより高かった。また、結着性試験から、実施例1では、チッピングがほとんど無く、結着力が強固であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の光電池用電極の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の光電池の一例を示す断面図である。
【図3】従来例および実施例1の、切込みを形成した後の半導体膜表面の光学写真である。
【符号の説明】
【0046】
10 光電池用電極
11 透明基材
12 透明導電膜
13 半導体膜
20 対向電極
30 電解質材料
40 外部負荷回路
50 スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛粒子と、エマルジョン樹脂を含む結着剤と、溶媒とを含有することを特徴とする半導体膜形成用塗料。
【請求項2】
前記エマルジョン樹脂が、スチレン−ブタジエン共重合体及び/又はアクリロニトリル−ブタジエン共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の半導体膜形成用塗料。
【請求項3】
酸化亜鉛粒子と、エマルジョン樹脂を含む結着剤と、色素とを含有することを特徴とする半導体膜。
【請求項4】
前記色素が下記一般式(1)で表される置換基を有する化合物であることを特徴とする請求項3に記載の半導体膜。
−COOR (1)
(式中、Rは水素原子またはアルキル基を示す)
【請求項5】
前記エマルジョン樹脂が、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、アクリル樹脂、アクリル−スチレン共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、フッ素樹脂、ウレタン樹脂からなる群より選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項3または4に記載の半導体膜。
【請求項6】
透明基材と、該透明基材の片面または両面に形成された透明導電膜と、該透明導電膜の、透明基材側と反対側の面に形成された半導体膜とを有する光電池用電極であって、
前記半導体膜が、請求項3ないし請求項5のいずれかに記載の半導体膜であることを特徴とする光電池用電極。
【請求項7】
前記透明基材がプラスチックフィルムであることを特徴とする請求項6に記載の光電池用電極。
【請求項8】
透明基材の片面または両面にあらかじめ形成した透明導電膜の表面に、請求項1または2に記載の半導体膜形成用塗料を塗布し、乾燥させて半導体膜用塗膜を形成する工程と、
前記半導体膜用塗膜の表面に、色素を含有する溶液を塗布し、乾燥させる工程とを有することを特徴とする光電池用電極の製造方法。
【請求項9】
前記透明基材がプラスチックフィルムであることを特徴とする請求項8に記載の光電池用電極の製造方法。
【請求項10】
請求項6または7に記載の光電池用電極と、該光電池用電極の半導体膜に対向する位置に設けられた対向電極とを具備し、光電池用電極と対向電極との間に電解質材料が充填されていることを特徴とする光電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−70783(P2009−70783A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−241059(P2007−241059)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【Fターム(参考)】