説明

半導体装置の製造方法およびこの方法に用いる圧力容器

【課題】コストの低減を図りつつ、半導体チップのバンプと基板のパッドとの良好な半田接合を得ることができ、かつ接合信頼性を向上させた半導体装置の製造方法およびこの方法に用いる圧力容器を提供する。
【解決手段】バンプ4を有する複数の半導体チップ3を基板1上にフリップチップ実装して半導体装置を製造する半導体装置の製造方法は、以下の工程を含む。複数の半導体チップ3を、各バンプ4が基板1上の各パッド2表面の半田層5上に載るように、基板1上に配置する工程。複数の半導体チップ3が基板1上に配置されたワークWを圧力容器8に入れる工程。圧力容器8中の気圧を、ワークWを加熱する際の最高温度における接着剤層6に含まれる溶剤の蒸気圧よりも高くし、この状態で、ワークWをヒータ12により加熱し、半田層5を溶融させる工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンプを有する複数の半導体チップを基板上にフリップチップ実装し、各半導体チップ上のバンプと基板上のパッドとを電気的かつ機械的に接続させる半導体装置の製造方法およびこの方法に用いる圧力容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フリップチップ実装技術として、半導体装置の電極に半田バンプを形成し、このバンプと基板上の電極とを接合し、半導体装置と基板との間の隙間を樹脂材料にて封止する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
フリップチップ実装技術は、基板上に半導体チップをコンパクトに実装できることから、パッケージやモジュールの小型、薄型化に有利であり、近年、携帯電話をはじめとする各種のエレクトロニクス製品に広く採用が進んでいる。
図6(D)は、従来のフリップチップ実装構造を示す。基板100の上面には回路パターンのパッド102が形成されている。半導体チップ103の外部電極にはAu、Cu、或いは高融点半田よりなるバンプ104が突設されている。
【0003】
半導体チップ103を基板100にフリップチップ実装する従来の方法を、図6(A)〜(D)に基づいて説明する。まず、図6(A)に示すように、基板100のパッド102上に半田層105を形成する。次に、図6(B)に示すように、少なくとも半導体チップ103を搭載する基板100の領域に接着剤層106を形成する。次に、図6(C)に示すように、ボンディングツール107に吸着した半導体チップ103を、そのバンプ104が接着剤層106を貫通し、半田層105上に接地するように加圧する。同時に、半導体チップ103は、ボンディングツール107にて加熱され、半田層105を溶融させることにより、図6(D)に示すようにバンプ104とパッド102の半田接合がなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−148404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の方法では、半導体チップ103を、ボンディングツール107を用いて1つずつ加熱・圧着していくことから、フリップチップ実装プロセスに時間がかかり、加工コスト、設備投資コストの増大を招いていた。
これに対し、基板100上に、複数の半導体チップ103を仮載せし(ボンディングツール107にて半導体チップ103のバンプ104を基板100の半田層105の上に載置し、半田溶融加熱は行わない)、後に複数の半導体チップ103を裏面より一括して加熱・圧着する方式が考えられる。
【0006】
ところが、この方式では、複数の半導体チップ103を一括して加熱・圧着する際の加圧による接着剤層106の流動により、半導体チップ103の位置がずれてしまい、各半導体チップ103のバンプ104と基板100のパッド102との良好な半田接合が得られない。
この方式で加圧を行わずに、加熱のみを行なうと、接着剤層106の中の溶剤分が突沸し、ボイドが発生する。ボイドは、ヒートサイクル試験において半田接合部に破断を生じる原因となり、接合信頼性を低下させる。
また、接着剤層106の粘度を上げることにより、一括加圧時における半導体チップ103の位置ずれを低減できるが、バンプ104が接着剤層106を貫通することが出来ず、バンプ104と半田層105の間に接着剤層106が残存し、バンプ104とパッド102が半田接合されない問題を生じる。
また、粘度の高い接着剤層106を加熱・加圧した場合、溶融した半田層105は、圧力の低い方向に流動してしまい、バンプ104との良好な半田接合を得ることが出来ない。さらに流動した半田が基板の回路パターン間を短絡させる問題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、コストの低減を図りつつ、半導体チップのバンプと基板のパッドとの良好な半田接合を得ることができ、かつ接合信頼性を向上させた半導体装置の製造方法およびこの方法に用いる圧力容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に係る半導体装置の製造方法は、バンプをそれぞれ有する複数の半導体チップを、パッドと、前記パッドの表面に設けられた半田層とを有する基板上に、接着剤層を介してフリップチップ実装して半導体装置を製造する半導体装置の製造方法であって、(a)前記複数の半導体チップを、前記各バンプが対応する前記各パッド表面の前記半田層上に載るように押圧して、前記基板上に配置する工程と、(b)前記複数の半導体チップが前記基板上に配置されたワークを圧力容器に入れる工程と、(c)前記圧力容器中の気圧を、前記ワークを加熱する際の最高温度における前記接着剤層に含まれる溶剤の蒸気圧よりも高くし、この状態で、前記ワークを加熱し、前記半田層を溶融させることにより、前記バンプと前記パッドとの半田接合を得る工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、半導体チップのバンプと基板のパッドとの半田接合を得る工程では、機械的に接着剤層を加圧しないことから、接着剤層の流動による半導体チップの位置ずれが抑制される。したがって、接着剤層の粘度は、バンプが貫通し、溶融した半田がバンプ上で濡れる程度に低くすることができる。これらのことから、加熱により溶融した半田層が圧力の偏りにより流動し、パターン間を短絡させることもない。また、加熱時における圧力容器内の気圧がワークを加熱する際の最高温度における接着剤層に含まれる溶剤の蒸気圧よりも高いことから、溶剤の突沸によるボイドの発生を防止することが出来る。これにより、半導体チップのバンプと基板のパッドとの接合信頼性が向上する。また、複数の半導体チップを圧力容器内で一括して加熱し、半田層を溶融させることにより、バンプとパッドの半田接合を得る方式であるため、加工コスト、設備投資コストを低減することができる。
【0010】
また、本発明の第2の態様に係る半導体装置の製造方法は、上記本発明の第1の態様に係る半導体装置の製造方法において、前記複数の半導体チップを前記基板上に配置する前記工程(a)は、前記半導体チップを、前記半導体チップの表面と前記接着層材の表面との間に隙間が生じるように位置決めし、減圧下で前記半導体チップを押圧することによって行われることを特徴とする。
この構成によれば、複数の半導体チップを、半導体チップの表面と接着剤層の表面との間に隙間が生じるように位置決めした後、減圧下で半導体チップを押圧することにより、基板と半導体チップとの間、特にバンプの凹凸の周辺等に空気が入り込んで間隙が形成されてしまう問題を低減することができる。その結果、半導体チップの基板からの剥離や、バンプの酸化による回路の抵抗の増加を低減することができる。
【0011】
また、本発明の第3の態様に係る半導体装置の製造方法は、上記本発明の第1または第2の態様に係る半導体装置の製造方法の前記複数の半導体チップを前記基板上に配置する前記工程(a)において、前記半導体チップを押圧する圧力は、前記複数の半導体チップの各バンプの先端が前記接着剤層を貫通して前記半田層に達して変形すると共に、前記半導体チップの表面が前記接着剤層と密着する大きさであることを特徴とする。
この構成によれば、複数の半導体チップを一括して加熱・圧着する上記方式における加圧による接着剤層の流動が抑制され、その流動による半導体チップの位置ずれが抑制されるので、半導体チップのバンプと基板のパッドとの良好な半田接合を得ることができる。
【0012】
また、本発明の第4の態様に係る半導体装置の製造方法は、上記本発明の第1乃至3のいずれか1つの態様に係る半導体装置の製造方法において、加熱経過により前記接着剤層の状態が軟化傾向から硬化傾向に変化する点を当該接着剤層の溶融粘度の変局点としたとき、前記工程(c)は、前記接着剤層が前記変局点に達したとき、前記圧力容器中の気圧が前記溶剤の蒸気圧以上であり、かつ、前記ワークの加熱により前記半田層近傍の温度が当該半田層の溶融温度以上であることを特徴とする。
ここで、半田層近傍の温度とは、半田接合により接合される基板のパッドと半導体チップのバンプの、半田層の近傍の温度のことである。
【0013】
半田層近傍の温度が半田層の溶融温度に達したとき接着剤層が硬化した状態であると、溶融された半田の流動が該接着剤層によって阻害され、良好な半田接合ができない場合があるが、この構成によれば、半田層近傍の温度が半田層の溶融温度に達したとき、接着剤層は変局点前の軟化した状態であるため、接着剤層による半田の流動阻害を防止し、良好な半田接合を行うことができる。
また、接着剤層に含有されている溶剤の沸点において、圧力容器中の気圧が、溶剤の蒸気圧よりも高いと、溶剤の突沸によるボイドの発生を防止することができる。これにより、半導体チップのバンプと基板のパッドとの接合信頼性が向上する。
【0014】
本発明に第1の態様に係る圧力容器は、上記本発明の第1乃至4のいずれか1つの態様に係る半導体装置の製造方法に用いる圧力容器であって、上部に開口部を有し、バンプをそれぞれ有する複数の半導体チップと、パッドと前記パッドの表面に設けられた半田層とを有する基板とが、接着剤層を介して配置されたワークを収容可能な容器本体と、前記開口部を塞ぐ蓋と、前記圧力容器中の気圧が、前記ワークを加熱する際の最高温度における前記接着剤層に含まれる溶剤の蒸気圧よりも高くなるように前記容器本体内に高圧空気を導入するための導入部と、前記蓋の内面に取り付けられ、前記容器本体に収容された前記ワークを、前記半田層を溶融させて前記バンプと前記パッドとを半田接合可能なように加熱するヒータと、を備えることを特徴とする。
この構成によれば、導入部から圧力容器内に高圧空気を導入して、圧力容器中の気圧を調節可能であると共に、ヒータによりワークを加熱することができる。
【0015】
また、本発明の第2の態様に係る圧力容器は、上記本発明の第1の態様に係る圧力容器の前記ヒータが、パルスヒータであることを特徴とする。
この構成によれば、接着剤層の構成する接着剤の種類に応じて温度プロファイルを制御することにより、接着剤層の軟化・硬化を促進させずに、かつ、急速にワークを加熱することができるため、接着剤層が変局点前の軟化した状態で半田を溶融させることができ、良好な半田接合を行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、コストの低減を図りつつ、半導体チップのバンプと基板のパッドとの良好な半田接合を得ることができ、かつ接合信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(A)は本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法の工程(2)を説明するための図であり、(B)は本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法の工程(3)を説明するための図である。
【図2】図2(A)は一実施形態に係る半導体装置の製造方法の工程(4)を説明するための図で、図2(B)は図2(A)のX部の拡大図である。
【図3】図3(A)は一実施形態に係る半導体装置の製造方法の工程(5)及び(6)を説明するための図で、図3(B)は図3(A)のY部の拡大図である。
【図4】半田接合時の不具合を説明するための、加熱時間(t)に対する加熱点温度(T)と圧力容器8内の気圧(P)と接着剤層6を構成する接着剤の溶融粘度(η)を示した図である。
【図5】良好な半田接合を説明するための、加熱時間(t)に対する加熱点温度(T)と圧力容器8内の気圧(P)と接着剤層6を構成する接着剤の溶融粘度(η)を示した図である。
【図6】(A)〜(D)は従来技術の工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を、図1〜図3に基づいて説明する。
この半導体装置の製造方法は、図3(A),(B)に示すように、バンプ4をそれぞれ有する複数の半導体チップ3を基板1上にフリップチップ実装し、複数の半導体チップ3の各バンプ4と基板1上の対応する各パッド2とを電気的かつ機械的に接続させる方法である。
【0019】
この半導体装置の製造方法は、以下の工程を備える。
<工程(1)>
工程(1)では、半導体チップ3のバンプ4を形成する。
まず、半導体ウエハ(図示省略)を半導体チップ単位で切断して複数の半導体チップ3を用意し、各半導体チップ3の外部電極(図示省略)上にバンプ4を形成する。バンプ4としては、半導体チップ3の外部電極に高さ50〜70μmのAuスタッドバンプを形成するとよい。
Auスタッドバンプは、例えば、金ワイヤの先端を放電溶融させてボールを形成し、これを半導体チップ3の外部電極に超音波により接合し、金ワイヤを切断することで形成される。なお、バンプ4は、Cu或いは高融点半田よりなるスタッドバンプでもよい。
【0020】
<工程(2)>
次に、工程(2)では、各パッド2の表面に半田層5をそれぞれ形成する。図1(A)は、本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法の工程(2)を説明するための図である。
図1(A)に示すように、基板1の上面には、複数の半導体チップ3にそれぞれ対応する複数の回路パターン(単位回路パターン)が形成されており、各回路パターンに複数のパッド2が形成されている(図1(A)参照)。
半田層5としては、例えば、パッド2の表面に、電解メッキ法にて厚み3〜10μmの半田層を形成するとよい。半田層としては、Sn単体ならびに、Sn37Pb、Sn3.5Ag、Sn3.0Ag0.5Cuなど、Sn合金を用いる。Sn3.5Ag半田層は、Snに少量のAg(0重量%<Ag≦3.5重量%)を加えた組成を有する。
【0021】
<工程(3)>
次に、工程(3)では、基板1の少なくとも複数の半導体チップ3を搭載する領域に接着剤層6を形成する。図1(B)は、本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法の工程(3)を説明するための図である。
接着剤層6は、例えば、厚み20〜50μmの半硬化状態のエポキシ系接着フィルムを基板1上にラミネートするとよい。接着剤層6は、エポキシ樹脂に限定されず、例えば、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、汎用エンプラ、スーパーエンプラなど熱可塑性樹脂などを用いることが出来る。さらに、2種類以上の材料をその製造工程中において化学的方法あるいは機械的方法で混合(ポリマーブレンド)してもよい。また、接着剤層6の形成方法としては、ラミネート以外に、液状の樹脂をスクリーン印刷する方法を用いることが出来る。
【0022】
<工程(4)>
次に、工程(4)では、バンプ4をパッド2表面の半田層5上に載るように押圧して、基板1上に配置する。図2(A),(B)は、本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法の工程(4)を説明するための図である。
図2(A)に示すように、複数の半導体チップ3を、複数の半導体チップ3の各バンプ4(図2(B)参照)が基板1上の対応する各パッド2表面の半田層5上に載るように押圧して、基板1上に配置する。
例えば、フリップチップボンダー20を用いて半導体チップ3を一つずつ吸着し、吸着した半導体チップ3を基板1上のパッド2と半導体チップ3のバンプ4の位置が合うようにアライメントして配置する。
【0023】
このとき、半導体チップ3を基板1に対して押圧する圧力は、図2(B)に示すように、Auスタッドバンプであるバンプ4の先端がエポキシ系接着フィルムである接着剤層6を貫通して半田層5に達して変形すると共に、半導体チップ3の表面が接着剤層6と密着するような大きさにすることが好ましい。このとき、接着剤層6は、バンプ4の高さよりも小さい厚みのものを用いる。このようにすることで、半導体チップ3の表面が接着剤層6と密着するよう配置させると、バンプ4の先端が接着剤層6を貫通して半田層5に達して変形して、より確実にバンプ4と半田層5との接続がなされる。
【0024】
上述のように、半導体チップ3の基板1への配置は、常圧(大気圧)下で行っても良いが、半導体チップ3を、半導体チップ3の表面と接着剤層6の表面との間に隙間が生じるように位置決めした後、減圧下、好ましくは真空ポンプ等で50hPa以下とした雰囲気中で半導体チップ3を押圧することにより行っても良い。これにより、基板1と半導体チップ3との間、特にバンプ4の凹凸の周辺等に空気が入り込んで間隙が形成されてしまう問題を低減することができる。その結果、半導体チップ3の基板1からの剥離や、バンプ4の酸化による回路の抵抗の増加を低減することができる。なお、半導体チップ3の位置決めは、バンプ4の先端が接着剤層6に入り込むようにし、望ましくは、バンプ4の少なくとも一部がパッド2に接触するようにするとよい。この様に位置決めすることで、位置決めした後に、基板1および半導体チップ3を移動する際、位置決めした所定位置からずれるのを防止することができる。
【0025】
<工程(5)>
次に、工程(5)では、ワークWを圧力容器8に入れる。図3(A),(B)は、本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法の工程(5)と次工程(6)を説明するための図である。
図3(A)に示すように、複数の半導体チップ3が基板1上に載置されたワークW(図2(A)参照)を圧力容器8に入れる。尚、本発明の一実施形態に係る圧力容器の一例として圧力容器8を挙げて説明する。
この圧力容器8は、上部に開口部13を有し、複数の半導体チップ3が基板1上に配置されたワークWを収容可能な容器本体9と、その開口部13を塞ぐ蓋10と、容器本体9の側壁に、この側壁を貫通するように固定され、容器本体9内に高圧空気を導入する導入部としての高圧空気導入パイプ11と、蓋10の内面に取り付けられたヒータ12とを有する。蓋10を外して、開口部13からワークWを圧力容器8に入れる。
【0026】
<工程(6)>
次に、工程(6)では、各バンプ4と各パッド2とを半田接合する。
図3(A),(B)に示すように、高圧空気導入パイプ11から圧力容器8内に高圧空気を導入して、圧力容器8中の気圧を、ワークWを加熱する際の最高温度における接着剤層6に含まれる溶剤の蒸気圧よりも高くし、この状態で、ワークWをヒータ12により加熱し、半田層5を溶融させることにより、各バンプ4と各パッド2の半田接合を得る。
【0027】
工程(6)において、接着剤層6が溶融粘度の変局点に達したとき、(1)圧力容器8中の気圧が、接着剤層6に含有されている溶剤の蒸気圧以上であり、かつ、(2)ワークWの加熱により半田層5近傍の温度が半田層5の溶融温度以上である、上記の2つの条件を満足させていることが望ましい。ここで、変局点とは、加熱経過により接着剤層6の状態(溶融粘度)が軟化傾向から硬化傾向に変化する点のことである。また、半田層5近傍の温度とは、半田接合により接合される基板1のパッド2と半導体チップ3のバンプ4の、半田層5の近傍の温度のことである。
【0028】
例えば、図4に示すように、半田層5近傍の温度(加熱点温度)が、半田層5の溶融温度(T2)に達したとき、接着剤層6が硬化した状態であると、即ち変局点(A)よりも加熱時間が経過した状態であると、溶融された半田の流動が、硬化した状態の接着剤層6によって阻害され、良好な半田接合ができないという不具合が発生する場合がある。図4は、半田接合時の不具合を説明するための、加熱時間(t)に対する加熱点温度(T)と圧力容器8内の気圧(P)と接着剤層6を構成する接着剤の溶融粘度(η)を示した図である。ここで、横軸に加熱時間(t)を示し、縦軸に加熱点温度(T)と圧力容器8内の気圧(P)と接着剤層6を構成する接着剤の溶融粘度(η)を示した。また、圧力容器8内の気圧(P)は、圧力容器8の蓋10が閉まってから上昇する。
【0029】
上記のような半田接合の不具合を防止するために、図5に示すように、接着剤層6が変局点(A)に達したとき、ワークWの加熱により半田層5近傍の温度が半田層5の溶融温度(T2)以上にする条件(2)を満足させることにより、接着剤層6を変局点(A)前の軟化した状態で半田接合を行うことができる。即ち、接着剤層6による半田の流動阻害を防止して良好な半田接合を行うことができる。図5は、良好な半田接合を説明するための、加熱時間(t)に対する加熱点温度(T)と圧力容器8内の気圧(P)と接着剤層6を構成する接着剤の溶融粘度(η)を示した図である。ここで、横軸に加熱時間(t)を示し、縦軸に加熱点温度(T)と圧力容器8内の気圧(P)と接着剤層6を構成する接着剤の溶融粘度(η)を示した。また、圧力容器8内の気圧(P)は、圧力容器8の蓋10が閉まってから上昇する。
【0030】
また、接着剤層6に含有されている溶剤の沸点(T1領域:100〜150℃近傍)において、圧力容器8中の気圧が、溶剤の蒸気圧(P1)よりも高いと、溶剤の突沸によるボイドの発生を防止することができる。これにより、半導体チップ3のバンプ4と基板1のパッド2との接合信頼性が向上する。
【0031】
上述したように、接着剤層6が溶融粘度の変局点(A)に達したとき、上記の2つの条件を満たすようにするためには、ヒータ12として、パルスヒータを用いることが望ましい。パルスヒータは、温度プロファイルを制御することが容易であり、接着剤層6の構成する接着剤の種類に応じて温度プロファイルを制御することにより、図5に示したように、接着剤層6の軟化・硬化を促進させずに、かつ、急速にワークWを加熱することができるため、接着剤層6が変局点(A)前の軟化した状態で半田を溶融させることができ、良好な半田接合を行うことができる。
【実施例】
【0032】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
6.3mm×6.3mmの半導体チップ3を100個用意し、それぞれの半導体チップ3の外部電極上に、バンプ4として高さ50μm以上のAuスタッドバンプを形成した。基板1に形成されたパッド2の上に、半田層5として3から5μmのSn3.5Ag半田層を形成し、その上から接着剤層6として厚み30μmの半硬化状態のエポキシ系接着フィルムをラミネートした。なお、エポキシ系接着フィルムに含有される溶剤は、ジメチルホルムアミドである。
【0033】
フリップチップボンダー20を用いて半導体チップ3を、Auスタッドバンプ(バンプ4)先端がエポキシ系接着フィルム(接着剤層6)を貫通して半田層5に達するように、押圧して基板1上に配置した。このときの押圧力は0.84MPaであった。また、このとき、半導体チップ3のAuスタッドバンプ(バンプ4)側の表面は、エポキシ系接着フィルム(接着剤層6)に密着していた。
【0034】
半導体チップ3が基板1上に載置されたワークWを圧力容器8に入れ、圧力容器8内の圧力を0.7MPaに高めた状態で、Sn3.5Ag半田の融点221℃を越えるよう、ワークWを230℃まで加熱し、45秒放置した。なお、ジメチルホルムアミドの230℃における蒸気圧は、0.54MPaである。
【0035】
ワークWを冷却した後、圧力容器8より取り出し、エポキシ系接着フィルム(接着剤層6)におけるボイドの有無について、SAT(超音波映像装置)を用いて観察し、ボイドの無いことを確認した。また、各半導体チップ3のAuスタッドバンプ(バンプ4)と基板1の各パッド2との半田接合状態を断面観察した結果、各Auスタッドバンプ(バンプ4)と各パッド2の良好な接合状態を確認することが出来た。
【0036】
上記一実施形態に係る半導体装置の製造方法によれば、以下の作用効果を奏する。
(1)半導体チップ3のバンプ4と基板1のパッド2の半田接合を得る上記工程(6)では、機械的に接着剤層6を加圧しないことから、接着剤層6の流動による半導体チップ3の位置ずれが抑制される。したがって、接着剤層6の粘度は、バンプ4が貫通し、溶融した半田がバンプ4上で濡れる程度に低くすることができる。これらのことから、加熱により溶融した半田層5が圧力の偏りにより流動し、基板1の回路パターン間を短絡させることもない。
【0037】
(2)加熱時における圧力容器8内の気圧がワークWを加熱する際の最高温度における接着剤層6に含まれる溶剤の蒸気圧よりも高いことから、溶剤の突沸によるボイドの発生を防止することが出来る。これにより、半導体チップ3のバンプ4と基板1のパッド2との接合信頼性が向上する。
【0038】
(3)複数の半導体チップ3を圧力容器8内で一括して加熱し、半田層5を溶融させることにより、バンプ4とパッド2の半田接合を得る方式であるため、加工コスト、設備投資コストを低減することができる。
【0039】
(4)上記工程(4)において、複数の半導体チップ3を基板1上に載置する時の圧力は、複数の半導体チップ3の各バンプ4の先端が接着剤層6を貫通して半田層5に達して変形すると共に、半導体チップ3の表面が接着剤層6と密着する大きさである。これにより、複数の半導体チップ3を一括して加熱して接合する際に、加圧することなく、半導体チップ3のバンプ4と基板1のパッド2との良好な半田接合を得ることができる。
【0040】
(5)上記工程(6)において、接着剤層6が溶融粘度の変局点に達したとき、圧力容器8中の気圧が、接着剤層6に含有されている溶剤の蒸気圧以上であり、かつ、ワークWの加熱により半田層5近傍の温度が半田層5の溶融温度以上である、上記の2つの条件を満足させることにより、接着剤層6を変局点前の軟化した状態で半田接合を行うことができる。即ち、接着剤層6による半田の流動阻害を防止して良好な半田接合を行うことができる。
【0041】
(6)圧力容器8のヒータ12として、パルスヒータを用いることにより、接着剤層6の軟化・硬化を促進させずに、かつ、急速にワークWを加熱することができるため、接着剤層6が変局点前の軟化した状態で半田を溶融させることができ、良好な半田接合を行うことができる。
【符号の説明】
【0042】
1:基板
2:パッド
3:半導体チップ
4:バンプ
5:半田層
6:接着剤層
8:圧力容器
9:容器本体
10:蓋
11:高圧空気導入パイプ
12:ヒータ
W:ワーク


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バンプをそれぞれ有する複数の半導体チップを、パッドと、前記パッドの表面に設けられた半田層とを有する基板上に、接着剤層を介してフリップチップ実装して半導体装置を製造する半導体装置の製造方法であって、
(a)前記複数の半導体チップを、前記各バンプが対応する前記各パッド表面の前記半田層上に載るように押圧して、前記基板上に配置する工程と、
(b)前記複数の半導体チップが前記基板上に配置されたワークを圧力容器に入れる工程と、
(c)前記圧力容器中の気圧を、前記ワークを加熱する際の最高温度における前記接着剤層に含まれる溶剤の蒸気圧よりも高くし、この状態で、前記ワークを加熱し、前記半田層を溶融させることにより、前記バンプと前記パッドとの半田接合を得る工程と、
を備えることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記複数の半導体チップを前記基板上に配置する前記工程(a)は、
前記半導体チップを、前記半導体チップの表面と前記接着層材の表面との間に隙間が生じるように位置決めし、減圧下で前記半導体チップを押圧することによって行われることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記複数の半導体チップを前記基板上に配置する前記工程(a)において、前記半導体チップを押圧する圧力は、前記複数の半導体チップの各バンプの先端が前記接着剤層を貫通して前記半田層に達して変形すると共に、前記半導体チップの表面が前記接着剤層と密着する大きさであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
加熱経過により前記接着剤層の状態が軟化傾向から硬化傾向に変化する点を当該接着剤層の溶融粘度の変局点としたとき、
前記工程(c)は、前記接着剤層が前記変局点に達したとき、前記圧力容器中の気圧が前記溶剤の蒸気圧以上であり、かつ、前記ワークの加熱により前記半田層近傍の温度が当該半田層の溶融温度以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載された半導体装置の製造方法に用いる圧力容器であって、
上部に開口部を有し、バンプをそれぞれ有する複数の半導体チップと、パッドと前記パッドの表面に設けられた半田層とを有する基板とが、接着剤層を介して配置されたワークを収容可能な容器本体と、
前記開口部を塞ぐ蓋と、
前記圧力容器中の気圧が、前記ワークを加熱する際の最高温度における前記接着剤層に含まれる溶剤の蒸気圧よりも高くなるように前記容器本体内に高圧空気を導入するための導入部と、
前記蓋の内面に取り付けられ、前記容器本体に収容された前記ワークを、前記半田層を溶融させて前記バンプと前記パッドとを半田接合可能なように加熱するヒータと、を備えることを特徴とする圧力容器。
【請求項6】
前記ヒータは、パルスヒータであることを特徴とする請求項5に記載の圧力容器。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−263200(P2010−263200A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88538(P2010−88538)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】