説明

半導体装置の製造方法

【課題】 2μm以上の深い領域の活性化を行うことができるが、活性化率をより高める技術が望まれている。
【解決手段】 不純物が注入されたシリコン基板の表面に、波長690nm〜950nm、パルス幅5μs〜30μs、パルスの繰り返し周波数0.5kHz〜3.0kHzのパルスレーザビームを入射させながら、シリコン基板の表面上で、パルスレーザビームのビーム断面を重複率50%〜80%で移動させ、前記シリコン基板の表面が溶融しないパワー密度の条件で活性化アニールを行う半導体装置の製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスレーザビームをシリコン基板に照射して不純物の活性化アニールを行う半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン基板に注入した不純物の活性化アニールに、YAGレーザ等の固体レーザの第二高調波、エキシマレーザ等の高出力パルスレーザを用いる技術が知られている。これらのレーザ発振器から出力されるパルスレーザのパルス幅は、高々数百nsである。このように短いパルス幅のパルスレーザビームを用い、活性化に必要なパルスエネルギを確保しようとすると、ピークエネルギを高くしなければならない。ピークエネルギが高くなると、表面近傍の温度が短時間に上昇するため、1μm以上の深い領域の不純物の活性化を行うことが困難である。また、これらのパルスレーザビームの波長は紫外域または530nmよりも短い可視域である。この波長域のレーザビームは、シリコンに吸収され易いため、シリコン基板への侵入の深さは1μm以下である。このため、1μmよりも深い領域の不純物の活性化を行うのに不利である。
【0003】
波長690nm〜900nmのレーサビームを用い、シリコン基板への照射時間を10μs〜100μsとして、深い領域の活性化を行う技術が知られている(特許文献1)。YAGレーザの第二高調波を用い、パルス幅を250ns〜1200nsとするとともに、パルスの立ち上がりの緩やかなレーザパルスを用いることにより、2μm以上の深い領域の不純物の活性化を行う技術が知られている(特許文献2)。さらに、アニールをアシストする近赤外レーザを併用することにより、2μm以上の深さの領域の不純物の活性化を行う技術が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−351659号公報
【特許文献2】特開2011−60868号公報
【特許文献3】特開2011−119297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたように、ビーム幅50μmの連続発振レーザを用い、照射時間を10μsとするためには、シリコン基板を保持したステージの移動速度を5m/sにしなければならない。このような高速でステージを移動させることは困難である。
【0006】
特許文献2、3に記載されたレーザアニール技術で、2μm以上の深い領域の活性化を行うことができるが、活性化率をより高める技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によると、
不純物が注入されたシリコン基板の表面に、波長690nm〜950nm、パルス幅5μs〜30μs、パルスの繰り返し周波数0.5kHz〜3.0kHzのパルスレーザビームを入射させながら、前記シリコン基板の表面上で、パルスレーザビームのビーム断面を重複率50%〜80%で移動させ、前記シリコン基板の表面が溶融しないパワー密度の条件で活性化アニールを行う半導体装置の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
この条件でレーザアニールを行うことにより、2μm以上の深い領域の不純物の活性化率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、実施例による半導体装置の製造方法で用いられるレーザアニール装置の概略図である。
【図2】図2は、実施例による方法で製造される半導体装置(IGBT)の断面図である。
【図3】図3Aは、実施例による方法で採用されるレーザアニールのタイミングチャートであり、図3Bは、シリコン基板上におけるビーム断面を示す平面図である。
【図4】図4A、図4B、図4Cは、それぞれ周波数fを0.5kHz、1.0kHz、2.5kHzに設定し、種々のレーザ照射条件でアニールを行ったときの非照射面の最高到達温度及び活性化率を示す図表である。
【図5】図5は、深さ方向に関する不純物濃度及びキャリア濃度の分布を示すグラフである。
【図6】図6は、深さ方向に関する不純物濃度及びキャリア濃度の分布を示すグラフである。
【図7】周波数fを0.5kHzに設定したときの、パルス幅と、非溶融条件を満たすパワー密度の上限値との関係を示すグラフである。
【図8】周波数fを1.0kHzに設定したときの、パルス幅と、非溶融条件を満たすパワー密度の上限値との関係を示すグラフである。
【図9】周波数fと、非溶融条件を満たすパワー密度の上限値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に、実施例による半導体装置の製造方法で用いられるレーザアニール装置の概略図を示す。レーザ光源11がドライバ10によって駆動される。レーザ光源11には、例えば発振波長690〜950nmのレーザダイオードが用いられる。本実施例においては、レーザ光源11として、発振波長800nmのレーザダイオードを用いた。アニール中に、レーザ光源11は連続発振させておく。
【0011】
レーザ光源11から出射されたレーザビームが、半波長板12に入射する。半波長板12は、その遅相軸の向きを変化させることにより、レーザビームの偏光方向を変化させる。半波長板12を透過したレーザビームが、音響光学素子13に入射する。音響光学素子13は、制御装置25から制御を受けることにより、レーザビームを直進させるか、または進行方向を変化させる。進行方向が変化したレーザビームは、ビームダンパ14に入射する。
【0012】
音響光学素子13を直進したレーザビームは、ホモジナイザ15を透過した後、ビームスプリッタ16に入射する。ビームスプリッタ16は、入射したレーザビームの一部の成分を、ビームダンパ17に向けて反射させ、残りの成分を直進させる。ビームスプリッタ16を直進する成分の比率は、半波長板12の遅相軸の向きを変えて偏光方向を変化させることにより、制御することができる。
【0013】
ビームスプリッタ16を透過したレーザビームが、1/4波長板19及び集光レンズ20を透過して、アニール対象であるシリコン基板30に入射する。シリコン基板30は、可動ステージ21に保持されている。ホモジナイザ15と集光レンズ20とにより、シリコン基板30の表面におけるビーム断面が、長尺形状にされるとともに、長軸及びそれに直交する方向(幅方向)に関する光強度が均一化される。可動ステージ21は、シリコン基板30を、ビーム断面の幅方向に移動させる。
【0014】
シリコン基板30の表面で反射した反射光が、集光レンズ20及び1/4波長板19を透過して、ビームスプリッタ16に入射する。1/4波長板19を2回透過することにより、偏光方向が90°変化する。このため、反射光は、ビームスプリッタ16で反射され、ビームダンパ18に入射する。
【0015】
音響光学素子13によって、レーザビームを直進させる期間と、レーザビームをビームダンパ14に入射させる期間とを、交互に繰り返すことにより、連続発振のレーザビームから、パルスレーザビームを生成することができる。音響光学素子13を制御することにより、パルスレーザビームのパルス幅及びパルスの繰り返し周波数(以下、単に「周波数」という。)を制御することができる。
【0016】
図2に、実施例による方法で製造される半導体装置の例として、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)の断面図を示す。IGBTは、n型のシリコン基板30の一方の面にエミッタとゲートとを形成し、もう一方の面にコレクタを形成することで作製される。エミッタとゲートを形成する面の構造は、一般的なMOSFETの作製工程と同様の工程で作製される。たとえば、図2に示すように、シリコン基板30の表面に、p型のベース領域33、n型のエミッタ領域34、ゲート電極35、ゲート絶縁膜36、エミッタ電極37が配置される。ゲート−エミッタ間の電圧で、電流のオンオフ制御を行うことができる。
【0017】
シリコン基板30の反対側の面に、p型のコレクタ層39が形成されている。必要に応じて、コレクタ層39とシリコン基板30との間に、n型のバッファ層38を形成してもよい。コレクタ層39及びバッファ層38は、それぞれ不純物としてボロン及びリンをイオン注入により注入し、活性化アニールを行うことにより形成される。この活性化アニールに、図1に示したレーザアニール装置が適用される。コレクタ電極40が、活性化アニールの後に、コレクタ層39の表面に形成される。
【0018】
図3Aに、実施例による半導体装置の製造方法で採用されるレーザアニールのタイミングチャートを示す。パルス幅PWのレーザパルスが、周波数f、すなわち周期1/fで、シリコン基板30に照射される。このレーザパルスは、連続発振するレーザビームから、音響光学素子13(図1)により切り出されたものであるため、その波形は矩形に近い。なお、レーザ光源11をドライバ10によりパルス発振させ、音響光学素子13とビームダンパ14とを省略してもよい。
【0019】
アニール時のシリコン基板30には、図2に示した表側の素子構造が既に形成されており、裏側に、バッファ層38及びコレクタ層39の不純物が注入されている。この段階では、注入された不純物は、活性化されていない。
【0020】
図3Bに、シリコン基板30(図1)のレーザ照射面におけるビーム断面23を示す。ビーム断面23は、一方向に長い長尺形状を有する。ホモジナイザ15(図1)により光強度分布が均一化されているため、長尺方向及び幅方向に関する光強度分布は、ほぼトップフラット形状を有する。
【0021】
長尺方向の長さをLとし、ビーム幅をWtとする。パルスレーザビームの照射は、シリコン基板30を、ビーム断面23の幅方向に移動させながら行われる。シリコン基板30を移動させることにより、パルスレーザビームがシリコン基板30の表面を走査する。パルスレーザビームを、ビーム幅方向に走査することにより、1つの辺の長さが、ビーム断面の長さLと等しい長方形の領域をアニールすることができる。
【0022】
1つのレーザパルスのビーム断面(図3Bにおいて実線で示されている。)と、次に入射するレーザパルスのビーム断面(図3Bにおいて破線で示されている。)との重複する領域の幅をWoとする。重複率を、Wo/Wtと定義する。シリコン基板30の移動速度をVとすると、Wt−Wo=V/fと表される。このため、パルスの繰り返し周波数f、ビーム幅Wt、及びステージの移動速度Vにより、重複率が決定される。実施例においては、ビーム幅Wtを240μmとした。
【0023】
シリコン基板30(図1)にボロン(B)及びリン(P)を注入し、種々のレーザ照射条件で活性化アニールを行った。以下、この評価実験について説明する。
【0024】
一般的に、IGBTに用いられるシリコン基板30(図2)の厚さは、100μm程度である。シリコン基板30の背面(コレクタ層39が形成された表面)にレーザビームを入射させたときに、表側の表面(エミッタ領域34等が形成された表面)の温度が高くなりすぎると、既に形成されている素子構造が損傷を受ける。シリコン基板30の背面におけるパワー密度を徐々に高くし、表側の素子構造が損傷を受け始める直前の照射条件を求めた。損傷を受け始める直前の照射条件と同一の条件で、厚さ525μmのシリコン基板の背面にレーザ照射を行ったところ、表側の表面の最高到達温度が115℃であった。この結果から、IGBTの活性化アニールを行う際に、厚さ525μmのシリコン基板にレーザ照射を行ったときの、反対側の表面の最高到達温度が115℃以下の条件(この条件を、「非損傷条件」という。)でレーザ照射を行うことが好ましいと考えられる。
【0025】
厚さ525μmのシリコン基板に種々の条件でレーザ照射を行い、反対側の表面の最高到達温度及び不純物の活性化率を測定した。シリコン基板の表面の最高到達温度の測定には、アセイ工業株式会社製のWAX示温インクを用いた。シリコン基板のレーザ照射面とは反対側の表面にWAX示温インクを塗布しておき、レーザ照射後のインクの透明度の変化により、最高到達温度を知ることができる。
【0026】
図4Aに、周波数fを0.5kHzとし、パルス幅PW、パワー密度PD、及び重複率を異ならせてレーザ照射を行ったときの、シリコン基板のレーザ照射面とは反対側の表面(以下、「非照射面」という。)の最高到達温度及び不純物の活性化率を測定した結果を示す。パルス幅PWは、10μs、15μs、20μs、25μs、及び30μsの条件から選択した。重複率は、50%、67%、及び80%の条件から選択した。パワー密度は、シリコン基板のレーザ照射面が溶融しない条件(以下、「非溶融条件」という。)を満たすパワー密度の上限値に近い値とした。この照射条件でレーザ照射を行うと、レーザ照射面の温度の最高到達温度が、シリコンの融点とほぼ等しくなる。ただし、融解熱に相当するエネルギがシリコン基板に与えられないため、基板表面の溶融は生じない。
【0027】
レーザ照射面を溶融させることなく、シリコン基板30をほぼ融点まで加熱することにより、レーザ照射面の表層部の不純物の活性化率を高めることができる。パルス幅PWが10μs以上という長い条件で、かつレーザ照射面が溶融し始める条件でレーザ照射を行うと、全面が一様に溶融せず、溶融した領域と溶融しない領域とが斑模様に分布してしまう。全面が一様に溶融する程度までパワー密度を高めると、非照射面の温度上昇が顕著になる。すなわち、パルス幅PWが10μs以上という長い条件の下では、照射面を溶融させ、かつ非照射面の素子構造に損傷を与えないという条件を見出すことが困難である。従って、非溶融条件でレーザ照射を行うことが好ましい。
【0028】
図4Aに示した表の各欄の上段に、シリコン基板の非照射面の最高到達温度を示し、下段に、リンの活性化率を示す。活性化率のカッコ付き表記は、実際に試料を測定して得られた値ではなく、非照射面の最高到達温度がより低い照射条件の試料の測定結果から、活性化率がカッコ付き数値以上になると予想されることを意味する。例えば、重複率50%、パルス幅15μsの条件で作製した試料において、非照射面の最高到達温度が80℃、活性化率が100%であり、パルス幅20μs〜30μsで作製した試料の非照射面の最高到達温度が80℃以上になっていることから、これらの試料の活性化率は、ほぼ100%になると予想される。
【0029】
図4B及び図4Cに、それぞれ周波数fを1.0kHz及び2.5kHzとしたときの、非照射面の最高到達温度と活性化率との測定結果を示す。
【0030】
図5に、評価に用いた試料の深さ方向の不純物濃度分布及びキャリア濃度分布の測定結果を示す。横軸は深さを単位「μm」で表し、縦軸は濃度を単位「cm−3」で表す。ボロンの注入は、加速エネルギ40keV、ドーズ量1×1015cm−2の条件で行い。リンの注入は、加速エネルギ700keV、ドーズ量1×1013cm−2の条件で行った。破線B0及び破線P0は、それぞれ注入直後のボロン濃度及びリン濃度を示す。細い実線p1は、パルス幅15μs、重複率50%、周波数0.5kHzの条件でレーザ照射を行った試料S1、破線p2は、パルス幅15μs、重複率67%、周波数0.5kHzの条件でレーザ照射を行った試料S2、太い実線p3は、パルス幅25μs、重複率67%、周波数0.5kHzの条件でレーザ照射を行った試料S3の正孔濃度を示す。細い実線nは、試料S1、S2、S3の電子濃度を示す。3つの試料の電子濃度分布は、ほぼ重なっているため、1本の細い実線で示している。
【0031】
シリコン基板の表面が溶融していないため、表層部の電子濃度分布が、注入直後のボロン濃度分布を反映した形状になっている。また、深さ2.5μmまでのリンが、ほとんど100%活性化していることがわかる。
【0032】
図4Aに戻って説明を続ける。重複率が80%の時に、パルス幅PWが10μs〜15μsの範囲内で、非損傷条件でアニールを行うことができる。パルス幅PWが20μs〜30μsの範囲内では、照射面を融点近傍まで加熱すると、非照射面の最高到達温度が115℃以上になってしまう。このため、非損傷条件を満たすことができない。
【0033】
重複率を67%に設定すると、パルス幅PWが10μs〜25μsの範囲内で、照射面を融点近傍まで加熱し、かつ非照射面の最高到達温度を115℃未満にすることが可能である。すなわち、非損傷条件でアニールを行うことができる。
【0034】
重複率を50%に設定したとき、パルス幅PWが10μs〜30μsの範囲内において、非損傷条件を満たすことができる。
【0035】
図4Bに示すように、周波数fが1.0kHzの場合には、重複率を80%にすると、非損傷条件でアニールを行うことができない。重複率を67%に設定したとき、パルス幅を10μsに設定すると、非損傷条件を満たすことができる。重複率を50%に設定すると、パルス幅が10μs〜20μsの範囲内で、非損傷条件を満たすことができる。
【0036】
図4Cに示すように、周波数fが2.5kHzの場合には、重複率が67%〜80%の範囲内で、非損傷条件を満たすことができない。重複率を50%に設定すると、パルス幅を10μs〜15μsの範囲内で、非損傷条件を満たすことができる。なお、周波数fを3kHzにすると、重複率が50%でも非照射面の最高到達温度が115℃を超えた。この実験結果から、非損傷条件を満たすための周波数fの上限は3kHzであると考えられる。
【0037】
図4A〜図4Cに示した非溶融かつ非損傷条件で作製した試料のいずれにおいても、94%以上の高い活性化率が得られている。
【0038】
非溶融かつ非損傷条件であっても、パワー密度が低すぎると、活性化率が低下してしまう。次に、活性化率を高く維持するための条件について説明する。
【0039】
図6に、異なるパワー密度でレーザ照射を行った2つの試料の電子濃度分布及び正孔濃度分布の測定結果を示す。横軸は、深さを単位「μm」で表し、縦軸は、濃度を単位「cm−3」で表す。パルス幅PWを15μsとし、周波数fを0.5kHzとし、重複率を67%とした。図6の細い実線n1及び太い実線p1は、それぞれパワー密度445kW/cmの条件で作製した試料の電子濃度分布及び正孔濃度分布を示す。細い破線n2及び太い破線p2は、それぞれパワー密度410kW/cmの条件で作製した試料の電子濃度分布及び正孔濃度分布を示す。
【0040】
パワー密度445kW/cmの条件で作製した試料においては、ほぼ100%の活性化率が得られている。これに対し、パワー密度410kW/cmの条件で作製した試料においては、活性化率が不十分であることがわかる。発明者らの種々の評価実験によると、パワー密度が、非溶融条件の上限値の92%以上であれば、十分な活性化率が得られると考えられる。
【0041】
図7に、周波数fを0.5kHzに設定したときに、非溶融条件を満たすパワー密度の上限値を示す。横軸は、パルス幅を単位「μs」で表し、縦軸は、パワー密度を単位「kW/cm」で表す。横軸及び縦軸とも、対数目盛である。パルス幅10μs以上の領域にプロットした丸記号は、実際にレーザビーム照射を行って得られた値であり、パルス幅5μsにプロットした丸記号は、シミュレーションにより求めた値である。
【0042】
丸記号を連ねる実線よりも左下の領域のパワー密度PD及びパルス幅PWが、非溶融条件を満たす。非溶融条件を数式で表すと、
PD≦−45+1950×PW−1/2・・・(1)
となる。ここで、PWは、パルス幅を単位「μs」で表した値であり、PDは、パワー密度を単位「kW/cm」で表した値である。
【0043】
パルス幅PW及びパワー密度PDを、上記不等式(1)を満たす値にすると、照射面は溶融しない。ところが、パワー密度が低くなりすぎると、活性化率が低下してしまう。図6に示した評価実験の結果から、パワー密度は、不等式(1)の右辺の値の92%以上にすることが好ましい。この条件を不等式で表すと、
PD≧0.92×(−45+1950×PW−1/2)・・・(2)
となる。
【0044】
図7において、パワー密度の上限値の92%の値を、破線で示す。照射面を溶融させず、かつ十分な活性化率を実現するために、パワー密度PD及びパルス幅PWを、図7に示したグラフの実線と破線との間の領域から選択することが好ましい。
【0045】
図8に、周波数fを1.0kHzに設定したときに、非溶融条件を満たすパワー密度の上限値を示す。横軸は、パルス幅を単位「μs」で表し、縦軸は、パワー密度を単位「kW/cm」で表す。横軸及び縦軸とも、対数目盛である。パルス幅10μs以上の領域にプロットした丸記号は、実際にレーザビーム照射を行って得られた値であり、パルス幅5μsにプロットした丸記号は、シミュレーションにより求めた値である。
【0046】
丸記号を連ねる実線よりも左下の領域のパワー密度PD及びパルス幅PWが、非溶融条件を満たす。非溶融条件を数式で表すと、
PD≦−65+1950×PW−1/2・・・(3)
となる。ここで、PWは、パルス幅を単位「μs」で表した値であり、PDは、パワー密度を単位「kW/cm」で表した値である。
【0047】
十分な活性化率を実現するために、パワー密度は、非溶融条件を満たすパワー密度の上限値の92%以上にすることが好ましい。この条件を不等式で表すと、
PD≧0.92×(−65+1950×PW−1/2)・・・(4)
となる。
【0048】
図9に、周波数fと、非溶融条件を満たすパワー密度の上限値との関係を示す。周波数fが1.0kHz〜3.0kHzの間では、非溶融条件を満たすパワー密度PDの上限値はほぼ一定である。なお、パルス幅が5μs〜30μsの範囲内でも、非溶融条件を満たすパワー密度PDの上限値はほぼ一定である。従って、周波数fが1.0kHz〜3.0kHzの間において、不等式(3)が非溶融条件となり、不等式(4)が、十分な活性化率を実現する条件となる。
【0049】
周波数fが0.5kHzのとき、非溶融条件を満たすパワー密度の上限値は、周波数fが1.0kHz〜3.0kHzのときの上限値よりも約20kW/cm〜40kW/cm程度高い。具体的には、非溶融条件を満たすパワー密度の上限値の差は、パルス幅が15μsのとき約40kW/cmであり、パルス幅が20μs〜30μsのとき約20kW/cmである。なお、パルス幅が10μsの条件では、装置構成上、非溶融条件の上限値を測定できなかった。周波数fが0.5kHz〜1.0kHzの範囲で、非溶融条件を満たすパワー密度の上限値がほぼ線型に変化すると考えると、上記不等式(1)を周波数fで一般化すると、
20μs≦PW≦30μsのとき、
PD≦−45+1950×PW−1/2−40×(f−0.5)・・・(5a)、
10μs≦PW<20μsのとき、
PD≦−25+1950×PW−1/2−80×(f−0.5)・・・(5b)
が導出される。ここで、fは、周波数を単位「kHz」で表示した値である。
【0050】
同様に、上記不等式(2)から、
20μs≦PW≦30μsのとき、
PD≧0.92×(−45+1950×PW−1/2−40×(f−0.5))
・・・(6a)、
10μs≦PW<20μsのとき、
PD≧0.92×(−25+1950×PW−1/2−80×(f−0.5))
・・・(6b)、
が導出される。
【0051】
図4Aに示した実験結果から、周波数fが0.5kHzのとき、パルス幅30μs以下の領域において、非溶融条件を満たすパワー密度の上限値で、かつ非損傷条件を満たすレーザ照射を行うことができる。
【0052】
図4Bに示した実験結果から、周波数fが1.0kHzのとき、パルス幅を25μs以上に設定すると、非溶融条件を満たすパワー密度の上限値では、非損傷条件を満たすことができない。従って、パルス幅を5μs〜20μsの範囲内とすることが好ましい。
【0053】
図4Cに示した実験結果から、周波数fが2.5kHzのとき、パルス幅を20μs以上に設定すると、非溶融条件を満たすパワー密度の上限値では、非損傷条件を満たすことができない。従って、パルス幅を5μs〜15μsの範囲内とすることが好ましい。
【0054】
周波数fを低くすると、ウエハ1枚のアニールに要する時間が長くなる。アニールに要する時間を短くする(言い換えると、スループットを高める)という観点から、周波数fは高くすることが好ましい。ただし、周波数fを高くすると、非溶融条件を満たすパワー密度の上限値において、非損傷条件を満たすことができるパルス幅PW及び重複率の範囲が狭まってしまう。
【0055】
重複率が低くなると、特に深い領域における活性化率が、面内で一様にならない場合がある。2μm〜3μm程度の深い領域でも、活性化率を面内で一様にするために、重複率は40%以上にすることが好ましい。重複率を高くすれば、活性化率の面内の一様性は高まる。図4A〜図4Cに示したように、周波数fが0.5kHzであれば、重複率を50%〜80%の範囲内に設定することができる。これに対し、周波数fを2.5kHzに設定すると、非溶融条件を満たすパワー密度PDの上限値で、かつ重複率67%以上の範囲では、非損傷条件を満たすことができない。
【0056】
活性化深さが2μm〜3μmより浅い場合には、重複率またはパルス幅をより小さい値に設定することが可能である。図4に示したように、重複率またはパルス幅が小さくなると、非照射面の最高到達温度は低くなる傾向を示す。従って、この場合には、周波数fを2.5kHzより高くすることが可能である。また、この結果を元に、パワー密度PDとパルス幅PWとの関係式を求めることが可能であることは当業者に自明であろう。
【0057】
周波数f、重複率、パワー密度PD、パルス幅PWとして、非溶融かつ非損傷条件で、さらに十分な活性化率を実現することができる範囲から選択することが好ましい。さらに、アニール時間、活性化率の面内ばらつき等の観点から、さらに好ましい値を抽出すればよい。
【0058】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0059】
10 ドライバ
11 レーザ光源
12 半波長板
13 音響光学素子
14 ビームダンパ
15 ホモジナイザ
16 ビームスプリッタ
17、18 ビームダンパ
19 1/4波長板
20 集光レンズ
21 可動ステージ
23 ビーム断面
25 制御装置
30 シリコン基板
33 ベース領域
34 エミッタ領域
35 ゲート電極
36 ゲート絶縁膜
37 エミッタ電極
38 バッファ層
39 コレクタ層
40 コレクタ電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物が注入されたシリコン基板の表面に、波長690nm〜950nm、パルス幅5μs〜30μs、パルスの繰り返し周波数0.5kHz〜3.0kHzのパルスレーザビームを入射させながら、前記シリコン基板の表面上で、パルスレーザビームのビーム断面を重複率50%〜80%で移動させ、前記シリコン基板の表面が溶融しないパワー密度の条件で活性化アニールを行う半導体装置の製造方法。
【請求項2】
パルス幅をPW(μs)、パワー密度しきい値上限値をPD(kW/cm)、パルスの繰り返し周波数をf(kHz)としたとき、0.5≦f≦1.0の範囲内で、
20≦PW≦30のとき、
PD≦−45+1950×PW−1/2−40×(f−0.5)、かつ、
PD≧0.92×(−45+1950×PW−1/2−40×(f−0.5))、
10≦PW≦20のとき、
PD≦−25+1950×PW−1/2−80×(f−0.5)、かつ、
PD≧0.92×(−25+1950×PW−1/2−80×(f−0.5))
を満たす条件で、前記パルスレーザビームを前記シリコン基板の表面に照射する請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
パルス幅をPW(μs)、パワー密度しきい値上限値をPD(kW/cm)、パルスの繰り返し周波数をf(kHz)としたとき、1.0≦f≦3.0の範囲内で、
PD≦−65+1950×PW−1/2、かつ
PD≧0.92×(−65+1950×PW−1/2
を満たす条件で、前記パルスレーザビームを前記シリコン基板の表面に照射する請求項1に記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−58610(P2013−58610A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196053(P2011−196053)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)