説明

半導体装置の製造装置および製造方法、ならびに半導体装置

【課題】半導体製造装置の製造技術において、PETおよびPEN等の耐熱性に劣るものの、実用性に富むプラスチック基材を用いることを可能にする。
【解決手段】本発明に係る製造装置50は、半導体チップ10をパッケージキャリア基材1にフリップチップ実装することによって、半導体装置10を製造する。パッケージキャリア基材1は、半導体チップ端子8とパッケージキャリア端子2とを共晶接合するために必要な温度よりも低いガラス転移点温度を有するプラスチック基材によって出来ている。製造装置50において、パッケージキャリア基材1を挟む上側クランパー6’および下側クランパー7’のうち少なくともいずれかには、冷却機構15が備えられている。この冷却機構15によって、パッケージキャリア基材1を前記共晶接合に必要な温度以下に冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体チップをパッケージキャリア基材にフリップチップ実装することによって、半導体装置を製造する製造装置および製造方法、ならびに半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造時には、一般に、半導体チップとパッケージキャリアとを電気的に接続させる。そのための接続方法の一例として、フリップチップ実装が良く用いられる。本実装では、半導体チップの電気信号入出力端子部をパッケージキャリアのリードフレーム端子部に直接接続する。パッケージキャリアとしては、フレキシブル基板(FPC)等の有機基板、セラミックス、ガラス、およびシリコン等の種々の材料が用いられる。
【0003】
フリップチップ実装を採用すれば、ワイヤーボンディングに比べて、実装時間を短縮でき、さらに実装領域を僅かに済ませられる。したがって、パッケージキャリア容積を小さくできる等の利点が得られる。
【0004】
一般的なフリップチップ実装の詳細を図10および図11に示す。図10は、フリップチップ実装をリール・トゥ・リール方式によって行う半導体製造装置100の全体の概略を示す図である。図11は、フリップチップ実装において、半導体チップ端子とパッケージキャリア端子とを電気的に接続する機構部分を拡大して示す図である。
【0005】
フリップチップ実装の中の一つに、TCP(Tape Carrier Package)がある。液晶駆動用ドライバー半導体チップの実装の際、TCPが用いられる。従来TCPでは、金バンプが形成された半導体チップ端子と、錫メッキが形成されたパッケージキャリア端子との接合に、金−錫共晶接合法を採用している。この接合法では、約500℃に印加したボンディング用ツール9をパッケージキャリア端子2および半導体チップ端子8に押し付ける。これによって、端子同士の接合面に金−錫共晶層を形成し、強固な接合を達成している。
【0006】
TCPの詳細を図12および図13に示す。図12は、一般的にTCPで用いるパッケージキャリアの概略を示す図である。図12に示すように、TCPではパッケージキャリアにデバイスホール4が開口している。パッケージキャリア端子2は、このデバイスホール4に突き出た形となっており、パッケージキャリア基材1がない構造となっている。図13は、従来のTCPにおける接合部の断面を示す図である。
【0007】
TCPにおいて、一般的にポリイミド樹脂がパッケージキャリア基材1として用いられる。ポリイミド樹脂のガラス転移温度は320℃であり、ボンディング用ツールを印加した温度(約500℃)よりも低い。そのため、共晶接合の際、パッケージキャリア基材1が溶融してしまう可能性がある。しかし、端子同士の共晶接合時間が約2秒と短時間であること、またポリイミド樹脂が耐熱性を有することから、共晶接合が可能となる。
【0008】
より信頼性の高い接合を行うために、更なる接合方法の工夫が行われている。特許文献1では、金−錫の共晶組成比を変更することによって、共晶接合温度(250℃)を下げる方法が開示されている。これによってポリイミド樹脂の耐熱性のマージンを稼ぐことができ、接合の信頼性を高めることが可能である。
【0009】
強固な金−錫共晶接合のため、ボンディング用ツールを300℃程度の印加温度に上げる必要がある。このボンディング用ツールの熱の影響によって、テープ基材と半導体チップの線膨張係数の差による応力が生じる。この応力によって、接合面が剥離してしまう場合がある。これを防止するために、共晶接合部を冷却する装置が特許文献2で開示されている。
本文献の技術では、パッケージキャリアとボンディング用ツール接触面に高圧エアーを吹き付けることによって、接合部を冷却している。これによって、パッケージキャリアの熱膨張を抑制でき、高い信頼性の接合が得られる。また、ボンディング用ツールとパッケージキャリアの接触面積を小さくすることによっても、パッケージキャリアの熱膨張を抑制している。さらに、本文献の技術はパッケージキャリア端子と半導体チップ端子との共晶形成時間の短縮を図る方法として開示されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−330149(1999年11月30日公開)
【特許文献2】特開2004−71608(2004年3月4日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1および特許文献2の技術は、耐熱性の高いポリイミド樹脂に対しては有効であると考えられる。しかし、それでもテープ基材と半導体チップとの接合面に応力差が残留している状態において共晶接合していると推測できる。そのため、少しの熱衝撃、機械的衝撃または振動衝撃を受けることによって接合面が剥離してしまう危険性を持っている。
【0012】
ポリイミド樹脂以外にフレキシブルに富む樹脂基材として、PET(ポリエチレンテレフタレート)およびPEN(ポリエチレンナフタレート)等の樹脂基材が挙げられる。これらはポリイミド樹脂よりも耐熱性がはるかに劣る。そのため、これらをパッケージキャリア基材として用いる場合、前述した2件の特許文献の接合方法を用いたとしても、ツールを押下した瞬間にテープ基材が溶融してしまう。したがって、外観上一目で不良品と判別できるほど信頼性に劣る接合となってしまう。
【0013】
以上より、前述した2件の特許文献の技術では、PETおよびPEN等の樹脂基材が金−錫共晶接合温度に耐えることができない。したがって、PETおよびPEN等の樹脂基材を用いる半導体製造装置並びに製造方法として、不十分であると言わざるを得ない。PETおよびPEN等の樹脂基材は、ポリイミド樹脂に比べて廉価であり、汎用性も高く、多方面で使われている。しかしながら、前述の理由からTCPでは使用するのが困難な現状である。
【0014】
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、その目的は、PETおよびPEN等の耐熱性に劣るものの、実用性に富むプラスチック基材を用いることが可能な半導体製造装置の製造装置および製造方法、ならびに半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る半導体装置の製造装置は、上記の課題を解決するために、
半導体チップをパッケージキャリア基材にフリップチップ実装することによって、半導体装置を製造する製造装置において、前記パッケージキャリア基材を挟む上側クランパーおよび下側クランパーのうち少なくともいずれかに、冷却機構が備えられていることを特徴としている。
【0016】
上記の構成によれば、本発明に係る半導体装置の製造装置は、フリップチップ実装を用いて半導体装置を製造する。具体的には、約500℃に印加したボンディング用ツールをパッケージキャリア端子および半導体チップ端子に押し付けることによって、端子同士を共晶接合する。この際、半導体チップとパッケージキャリア端子とを精度良く位置合わせするために、上側クランパーおよび下側クランパーによってパッケージキャリア基材を上下から挟み込んで押さえる。
【0017】
本製造装置では、上側クランパーおよび下側クランパーの少なくともいずれかに、冷却機構が備えられている。これにより、両クランパーによって挟まれたパッケージキャリア基材を、端子同士を共晶接合する際に、ガラス転移点温度(Tg)以下に冷却することができる。結果、ボンディング用ツールの熱によるパッケージキャリア基材の変形、溶融もしくは焼失を防止することができる。また、パッケージキャリア基材は冷却機構によって十分に冷却されるので、ポリイミド基材に比べて耐熱性に劣るプラスチックを材料としたパッケージキャリア基材を、本製造装置では何ら問題なく用いることができる。
【0018】
以上のように、本発明に係る半導体装置の製造装置は、耐熱性に劣るものの実用性に富むプラスチック基材をパッケージキャリア基材として用いた場合でも、基材の変形、溶融もしくは焼失を防止でき、その結果、信頼性の高いフリップチップ実装を行うことができる。したがって、パッケージキャリア基材として、従来使用できなかった材質も使用できるようになり、使用可能な材質の種類の幅が広がる効果も得られる。
【0019】
本発明に係る半導体装置の製造方法は、上記の課題を解決するために、
半導体チップをパッケージキャリア基材にフリップチップ実装することによって、半導体装置を製造する製造方法において、前記パッケージキャリア基材を挟む上側クランパーおよび下側クランパーのうち少なくともいずれかに、冷却機構が備えられていることを特徴としている。
【0020】
上記の構成によれば、本発明に係る製造装置と同様の作用効果を奏する。
【0021】
また、本発明に係る半導体装置の製造装置においては、
前記冷却機構は、前記上側クランパーの内部および前記下側クランパーの内部のうち少なくともいずれかに備えられていることを特徴としている。
【0022】
上記の構成によれば、クランパーの内部に冷却機構を備えることによって、クランパーがパッケージキャリア基材を直接冷却することができる。
【0023】
また、本発明に係る半導体装置の製造装置においては、
前記上側クランパーは、パッケージキャリア端子と半導体チップ端子とを接合するために設けられた開口部の端から前記パッケージキャリア基材のデバイスホールの端までの距離を、0.00mm〜0.21mmとした構造を有することを特徴としている。
【0024】
上記の構成によれば、上側クランパーの開口端部からデバイスホールまでの距離が小さいほど、上側クランパーとパッケージキャリア基材が接触する面積が増大する。したがって、上側クランパーがパッケージキャリア基材を冷却する面積が大きくなる。これによって、パッケージキャリア基材を冷却する効果をより高めることができる。
【0025】
前記下側クランパーは、パッケージキャリア端子と半導体チップ端子とを接合するために設けられた開口部の端から前記パッケージキャリア基材のデバイスホールの端までの距離を、0.00mm〜0.21mmとした構造を有することを特徴としている。
【0026】
上記の構成によれば、下側クランパーの開口端部からデバイスホールまでの距離が小さいほど、下側クランパーとパッケージキャリア基材が接触する面積が増大する。したがって、下側クランパーとパッケージキャリア基材を冷却する面積が大きくなる。これによって、パッケージキャリア基材を冷却する効果をより高めることができる。
【0027】
また、本発明に係る半導体装置の製造装置においては、
前記冷却機構は、冷却剤およびこれを保持する容器によって構成されていることを特徴としている。
【0028】
上記の構成によれば、クランパー内部の容器に冷却剤を保持することによって、クランパーは冷却機構を備え、パッケージキャリア基材を冷却することができる。
【0029】
また、本発明に係る半導体装置の製造装置においては、
前記冷却剤は、前記容器の内部を循環することを特徴としている。
【0030】
上記の構成によれば、クランパー内部の容器において、冷却剤が循環することによって、クランパーは常に一定温度の冷却機構を備えることができる。したがって、パッケージキャリア基材を常に一定温度に冷却することができる。
【0031】
また、本発明に係る半導体装置の製造装置においては、
前記冷却剤は、蒸留水、純水、およびエチレングリコールのうち少なくともいずれかであることを特徴としている。
【0032】
上記の構成によれば、クランパーはパッケージキャリア基材に対する冷却効果を十分に保つことができる。
【0033】
また、本発明に係る半導体装置の製造装置においては、
前記冷却機構は、前記上側クランパーの外部および前記下側クランパーの外部のうち少なくともいずれかに接触する形で備えられていることを特徴としている。
【0034】
上記の構成によれば、クランパーの外部に冷却機構に接触する形で備えることによって、クランパーがパッケージキャリア基材を冷却することができる。
【0035】
また、本発明に係る半導体装置の製造装置においては、
前記冷却機構は、金属または金属合金の板であることを特徴としている。
【0036】
上記の構成によれば、クランパーが金属または金属合金の板によって冷却されることにより、パッケージキャリア基材を冷却することができる。
【0037】
また、本発明に係る半導体装置の製造装置においては、
前記冷却機構は、前記上側クランパーおよび前記下側クランパーの両方にそれぞれ備えられていることを特徴としている。
【0038】
上記の構成によれば、上側クランパーおよび下側クランパーの両方がそれぞれ冷却機構を備えることによって、パッケージキャリア基材を冷却する効果をより高めることができる。
【0039】
また、本発明に係る半導体装置の製造装置においては、
前記上側クランパーおよび前記下側クランパーのうち少なくともいずれかは、鋼、ステンレス、アルミニウム、チタン、銅、丹銅、黄銅、および青銅鋳物のうちいずれかによって構成されていることを特徴としている。
【0040】
上記の構成によれば、クランパーはパッケージキャリア基材を保持し、なおかつ連続した接合にも耐える強度を持つことができる。
【0041】
また、本発明に係る半導体装置の製造装置においては、
前記パッケージキャリア基材は、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、およびポリイミド樹脂のうち少なくともいずれかによって構成されていることを特徴としている。
【0042】
上記の構成によれば、パッケージキャリア基材はプラスチック基材によって構成される。冷却機構を備えるクランパーによって、パッケージキャリア基材は冷却される。これによって、本発明に係る半導体装置の製造装置は、ガラス転移点温度(Tg)に依存せず、パッケージキャリア基材としてプラスチック基材を適用することができる。
【0043】
また、本発明に係る半導体装置の製造装置においては、
前記パッケージキャリア基材は、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートによって構成されていることを特徴としている。
【0044】
上記の構成によれば、パッケージキャリア基材はポリイミド基材に比べて耐熱性に劣るポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートによって構成される。したがって、本発明に係る半導体装置の製造装置は、冷却機構を備えるクランパーによって、パッケージキャリア基材をポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートのガラス転移点温度(Tg)以下に冷却する。これによって、耐熱性に劣るが実用性に富むポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートをパッケージキャリア基材として使用することができる。
【0045】
本発明に係る半導体装置は、上記の課題を解決するために、
半導体チップの端子部とパッケージキャリア基材の端子部とが共晶接合された構造の半導体装置において、前記パッケージキャリア基材が、前記共晶接合に必要な印加温度よりも低いガラス転移点温度を有するプラスチック材料によって構成されていることを特徴とする。
【0046】
上記の構成によれば、耐熱性に劣るが実用性に富むプラスチック基材を用いた半導体装置を提供できる。
【発明の効果】
【0047】
本発明に係る半導体装置の製造装置では、耐熱性に劣るものの実用性に富むプラスチック基材をパッケージキャリア基材として用いた場合でも、基材の変形、溶融もしくは焼失を防止でき、その結果、信頼性の高いフリップチップ実装を行うことができる。したがって、パッケージキャリア基材として、従来使用できなかった材質も使用できるようになり、使用可能な材質の種類の幅が広がった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態に係るクランパー内部に冷却剤を貯蔵または循環させる半導体製造装置を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るクランパー外部に冷却剤を接触させる半導体製造装置を示す断面図である。
【図3】(a)は、従来の上側クランパーを示す断面図であり、(b)は、本発明の一実施形態に係るクランパー内部に冷却剤を循環させる上側クランパーの断面を示す図であり、(c)は、本発明の一実施形態に係るクランパー内部に冷却剤を貯蔵させる上側クランパーの断面を示す図であり、(d)は、本発明の一実施形態に係るクランパー内部に冷却剤15を循環させる上側クランパーの上面を示す図である。
【図4】(a)は、従来の下側クランパーを示す断面図であり、(b)は、本発明の一実施形態に係るクランパー内部に冷却剤を循環させる下側クランパーの断面を示す図であり、(c)は、本発明の一実施形態に係るクランパー内部に冷却剤を貯蔵させる下側クランパーの断面を示す図であり、(d)は、本発明の一実施形態に係るクランパー内部に冷却剤15を循環させる下側クランパーの上面を示す図である。
【図5】(a)は、従来の上側クランパーの開口部を拡大して示す上面図であり、(b)は、本発明の一実施形態に係る上側クランパーの開口部を拡大して示す上面図である。
【図6】上側クランパー開口端部からデバイスホールまでの距離によるパッケージキャリア基材の溶融度合いを示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る冷却水循環システムを示す概略図である。
【図8】(a)は、本発明の一実施形態に係るクランパー外部の上下面に冷却板を接触させる上側クランパーを示す断面図であり、(b)は、本発明の一実施形態に係るクランパー外部の上面に冷却板を接触させる上側クランパーを示す断面図であり、(c)は、本発明の一実施形態に係るクランパー外部の上下面に冷却板を接触させる上側クランパーを示す上面図であり、(d)は、本発明の一実施形態に係るクランパー外部の下面に冷却板を接触させる上側クランパーを示す断面図であり、(e)は、本発明の一実施形態に係るクランパー外部の下面に冷却板を接触させる上側クランパーを示す上面図である。
【図9】(a)は、本発明の一実施形態に係るクランパー外部に冷却板を接触させる下側クランパーを示す断面図であり、(b)は、本発明の一実施形態に係るクランパー外部に冷却板を接触させる下側クランパーを示す上面図である。
【図10】半導体製造装置を示す概略図である。
【図11】フリップチップ実装の機構部を拡大して示す斜面図である。
【図12】パッケージキャリアの概略を示す平面図である。
【図13】従来のTCPにおける接合部の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明の実施の形態(実施例)を、図面を参照して詳細に説明する。
【0050】
(半導体装置の製造装置の構成)
一般的に、半導体チップとパッケージキャリアとを電気的に接続させる方法の一例として、フリップチップ実装が挙げられる。このフリップチップ実装の中の一つに、TCP(Tape Carrier Package)がある。TCPは液晶駆動用ドライバー半導体チップの実装の際に良く用いられる。本発明は前記TCPを改良したものである。
【0051】
本実施形態では、半導体チップ10とパッケージキャリア基材1とをフリップチップ実装することによって、半導体装置を製造する製造装置および製造方法が提供される。まず、本発明の概略について、従来技術を開示した図11を参照して説明する。
【0052】
図11は、従来の半導体製造装置100における、フリップチップ実装の機構部を拡大して示す図である。本発明は従来のTCPと同様に、図11に示すように、ボンディング用ステージ11に載置されている半導体チップ10とパッケージキャリア端子2の位置合わせを行い、半導体チップ端子8とパッケージキャリア端子2を共晶接合するものである。その際、半導体チップ10とパッケージキャリア端子2の位置合わせを精度良く実施する必要がある。そのために上側クランパー6と下側クランパー7を用いるのが一般的となっている。このクランパーは、パッケージキャリア基材1を上下から挟み込み、押さえる役割を持つ。
【0053】
前述のとおり、クランパーはパッケージキャリア基材1を保持する役割を持つ。したがって、クランパーはパッケージキャリア基材1を保持し、なおかつ連続した接合にも耐える強度が必要である。これに加えて加工性の良さを考慮して、クランパーの材質にはスチール、ステンレス、アルミニウム、チタン、銅、丹銅、黄銅または青銅鋳物を用いている。
【0054】
パッケージキャリア基材1はスプロケットホール3を有しており、これによってパッケージキャリア基材1を一定方向に移動させる。また、パッケージキャリア基材1とパッケージキャリア端子2は接着剤12によって接着されている。さらに、パッケージキャリア端子2が接着している側の表面はソルダーレジスト5に覆われている。
【0055】
本発明における従来技術からの改良点について、図1および図2を参照して以下に説明する。図1は、クランパー内部に冷却剤15を循環させる半導体製造装置50の断面を示す図である。図2は、クランパー外部に冷却剤15を接触させる半導体製造装置60の断面を示す図である。
【0056】
従来のTCPでは、パッケージキャリア基材1としてポリイミド樹脂を使用している。ポリイミド樹脂は、使用温度が400℃以上であり、耐熱性を有する。このため、300℃程度の温度を端子部に印加したとしても、ポリイミド樹脂はその熱に耐えることができる。
【0057】
ポリイミド樹脂以外のプラスチックとして、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリアミド樹脂が挙げられる。特にPET(ポリエチレンテレフタレート)およびPEN(ポリエチレンナフタレート)は、ガラス転移点温度が280℃以下であり、ポリイミド樹脂と比較して耐熱性に劣る。これらをパッケージキャリア基材1として使用した場合、共晶接合時にボンディング用ツール9の熱がパッケージキャリア端子2に伝わることによって、基材が変形、溶融もしくは焼失してしまう。本発明はこれを防止することを目的に、冷却機構を有するクランパーを用いていることを特徴とする。
【0058】
冷却機構の装着例について、以下に説明する。図1の例では、冷却機構は、上側クランパー6’および下側クランパー7’内部に冷却剤15を循環させる形をとる。図2の例では、上側クランパー6および下側クランパー7外部に冷却剤15を接触させる形をとる。こうしてクランパーが冷却機構を持つことにより、両クランパーによって挟まれるパッケージキャリア基材1を、ガラス転移点温度(Tg)以下に冷却する。この結果、パッケージキャリア基材1の変形、溶融もしくは焼失を防止することができる。なお、冷却機構は上側クランパーおよび下側クランパーの少なくともいずれかに備えられていればよい。両方に備えられていれば、パッケージキャリア基材1の冷却効果をより高められるので好ましい。
【0059】
(冷却剤を循環するクランパーの構成)
以下に、クランパー内部に冷却剤15を循環させる半導体製造装置50の実施例について、図3および図4を参照して説明する。図3(a)は、従来の上側クランパー6断面を示す図である。図4(a)は、従来の下側クランパー7の断面を示す図である。図3(b)は、内部に冷却剤15を循環させる上側クランパー6’の断面を示す図である。図4(b)は、内部に冷却剤15を循環させる下側クランパー7’の断面を示す図である。図3(d)は、内部に冷却剤15を循環させる上側クランパー6’の上面を示す図である。図4(d)は、内部に冷却剤15を循環させる下側クランパー7’の上面を示す図である。
【0060】
図3(b)に示すように、上側クランパー6’のクランプ部分の厚みを従来の上側クランパー6より薄くすることによって、内部に冷却剤15を循環できるスペースを確保する。確保したスペースは、厚さ100μm程度の金属板16によって覆われており、冷却剤を保持する容器を成している。この金属板16の材質は、熱伝導性の優れた銅、ステンレスまたはアルミ材を用いるのが良い。パッケージキャリア基材1を上から押さえ付けることに対する耐久性を考慮すると、鉄等も防錆処理を施せば十分使用できる。使用する環境および冷却剤に合わせて、腐食、耐久性を考慮して材質を選定することが望ましい。
【0061】
一方、下側クランパー7’はパッケージキャリア基材1を保持する際、基材と接触する面積は上側クランパー6,6’と比べて大きい。なおかつ基材と接触する部分は、100μm程度の薄い構造をしているため、冷却剤15を循環するスペースを端子同士の接合部分の近傍に設けることが困難である。そのため、図4(b)に示すように、冷却剤を循環するスペースを下側クランパー7’の厚みがある部分に形成している。こうすることで、熱伝導によりパッケージキャリア基材1をガラス転移点温度(Tg)以下に冷却している。
【0062】
次に、冷却剤15を循環させるスペースを設けた上側クランパー6’の構造について図5を参照して説明する。図5(a)は、従来の上側クランパー6の開口部を示す図である。図5(b)は、本発明における上側クランパー6’の開口部を示す図である。図6は、上側クランパー開口端部18からデバイスホール4までの距離によるパッケージキャリア基材1の溶融度合いについて説明する図である。これはボンディング用ツール温度が520℃、接合時間が0.8秒およびツール押下接合圧力が73Nの条件下で共晶接合を行った場合である。図に示す20は、本発明における上側クランパー6’を用いた場合を示し、22は、従来の上側クランパー6を用いた場合を示す。
【0063】
まず上側クランパー6’の開口サイズについて詳細に説明する。図5(a)に示すように、従来の上側クランパー6では、パッケージキャリア基材1のデバイスホール4から上側クランパー開口端部18までの距離が0.89mmである。図6に示すように、デバイスホール4から上側クランパー開口端部18までの距離が小さいほど、パッケージキャリア基材1の溶融度合いが低い。言いかえると、デバイスホール4から上側クランパー開口端部18までの距離が小さいほど、上側クランパー6’の冷却面積が増加し、パッケージキャリア基材1をガラス転移点温度(Tg)以下に冷却しやすくなる。したがって、本発明における上側クランパー6’は、図5(b)に示すようにその距離を0.21mmまで縮小している。なお、この距離は0.00mm〜0.21mmの範囲にあればよい。
【0064】
続いて冷却剤15の循環方法について図7を参照して説明する。図7は、冷却水循環システムの概略を示す図である。
【0065】
循環方法として循環配管内の窒素ガスの圧力差によるベンチュリ効果を利用して、冷却剤15を循環させる方式をとる。冷却剤15として冷却水26を用いた例を以下に示す。図7に示すように、冷却水26を容器24に入れ、冷却水循環流量が125cc/分、冷却水温度が常温、および窒素ガス供給量が30l/分の循環条件の下では、十分な冷却効果を得ることができた。また、冷却剤循環用配管13は冷却剤の導入、排出および循環用に最低2箇所以上の入排水口を有していることが望まれる。さらには、配管径は内径4mm以上とするのが望ましい。冷却剤15の循環方法は、前述の窒素ガスの圧力差を利用する方法以外に、市販の恒温循環ポンプを利用することもできる。このように、クランパーの温度を一定に保持することが可能であれば、本発明に適用される循環システムはその循環方法に制約を持たない。また、循環する冷却剤15は蒸留水および純水等の水に限らず、エチレングリコール等の不凍液も使用できる。
【0066】
(冷却剤を貯蔵させるクランパーの構成)
以上、クランパー内部に冷却剤15を循環させる半導体製造装置50の実施例を示した。クランパーに冷却機構を持たせる目的であれば、クランパー内部に冷却剤15を循環させず、貯蔵させる方法を採用しても良い。この例を、図3および図4に示す。図3(c)は、内部に冷却剤15を貯蔵させる上側クランパー6”の断面を示す図である。図4(c)は、内部に冷却剤15を貯蔵させる下側クランパー7”の断面を示す図である。
【0067】
冷却剤15を循環させる上側クランパー6’と同様に、図3(c)に示すように、上側クランパー6”のクランプ部分の厚みを薄くすることによって、冷却剤15を貯蔵するスペースを確保している。また、下側クランパー7”においても下側クランパー7’と同様に、図4(c)に示すように、冷却剤を貯蔵するスペースを下側クランパー7”の厚みがある部分に形成している。また、上側クランパー6”の開口サイズは上側クランパー6’と同様に、デバイスホール4から上側クランパー開口端部18までの距離を0.21mmとしている。
【0068】
この際、使用する冷却剤15は、前述のとおり蒸留水および純水等の水に限らず、エチレングリコール等の不凍液も使用できる。
【0069】
また、上側クランパー6”に用いる金属板16は、上側クランパー6’と同様に、熱伝導性の優れた銅、ステンレス、アルミ材または防錆処理を施した鉄等を用いる。前述したとおり、使用する環境および冷却剤に合わせて、腐食、耐久性を考慮して材質を選定することが望ましい。
【0070】
(冷却剤を外部に装着するクランパーの構成)
次にクランパー外部に冷却剤15を接触させる半導体製造装置60の実施例を説明する。実施例として、冷却板をクランパー外部に接触させることで、クランパーを冷却する場合を図8および図9を参照して示す。図8(a)は、上側クランパー6のクランプ面に上側クランパー下面用冷却板14’と、それに対して反対側の上面に上側クランパー上面用冷却板14を装着した時のクランパーの断面を示す図である。図8(b)は、上側クランパー6のクランプ面に対して反対側の上面のみに上側クランパー上面用冷却板14を装着した時のクランパーの断面を示す図である。図8(c)は、上側クランパー6のクランプ面に対して反対側の上面のみに上側クランパー上面用冷却板14を装着した時のクランパーの上面を示す図である。図8(d)は、上側クランパー6のクランプ面のみに上側クランパー下面用冷却板14’を装着した時のクランパーの断面を示す図である。図8(e)は、上側クランパー6のクランプ面のみに上側クランパー下面用冷却板14’を装着した時のクランパーの上面を示す図である。図9(a)は、冷却板を装着した下側クランパー7の断面を示す図である。図9(b)は、下側クランパー下面用冷却板17を装着した下側クランパー7の上面を示す図である。
【0071】
図8(a)、(b)および(d)に示したとおり、上側クランパー6において、冷却板をクランプ面とそれに対して反対側の上面の2面に装着した場合、クランプ面に対して反対側の上面のみに装着した場合、およびクランプ面のみに装着した場合とが可能である。この際、上側クランパー開口端部18とボンディング用ツール9との接触マージンの確保のため、冷却板を上側クランパー開口端部18の端まで被せない構造をしている。また、上側クランパー6の開口サイズは従来のクランパーと同様に、デバイスホール4から上側クランパー開口端部18までの距離を0.89mmとしている。冷却板と上側クランパー開口端部18の距離は、上側クランパー6の角度および冷却板の厚さにより調節しなければならない。クランプ面においては、連続フリップチップ実装による冷却板の表面凸凹または薄肉化等の変形が起こる可能性がある。このことから、平行度を保つために冷却板をクランプ部分の斜面部分にのみに装着している。この際、冷却板は平ネジによって装着している。
【0072】
一方、下側クランパー7において、冷却板を下側クランパー7とパッケージキャリア基材1との接触面に装着すると、接触面の平坦性やクランパーの保持精度が落ちてしまう。このため、図9(a)に示すように、下側クランパー7はパッケージキャリア基材1との非接触面に冷却板17を装着させる構造を成す。この際、熱伝導によってパッケージキャリア基材1をガラス転移点温度(Tg)以下に冷却している。冷却板は、上側クランパー6と同様に、平ネジによって装着している。
【0073】
冷却板の冷却方法としては、冷却板から直接引き回されて延長した冷却板の一端を冷却(放熱)する。この際、一定の温度に保たれた水、液体窒素に浸液もしくはドライエアーを吹き付けて冷却(放熱)させる構造をとる。あるいは、特に冷却機構を持たせずに、冷却板の熱伝導によって冷却(放熱)する方法を採用しても良い。いずれもクランパー本体を熱伝導によって冷却することを目的としている。このため、冷却板は高い熱伝導性が求められる。よって、材質には銅などの金属またはSUSなどの金属合金を用いればよい。
【0074】
以上、本発明者によってなされた発明を、前記実施形態(実施例)に基づき具体的に説明したが、本発明は、前記実施形態(実施例)に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明に係る半導体装置の製造装置は、例えばTCPを採用する半導体製造装置として利用できる。
【符号の説明】
【0076】
1 パッケージキャリア基材
2 パッケージキャリア端子
3 スプロケットホール
4 デバイスホール
5 ソルダーレジスト
6 上側クランパー
6’ 循環型冷却機構付の上側クランパー
6” 貯蔵型冷却機構付の上側クランパー
7 下側クランパー
7’ 循環型冷却機構付の下側クランパー
7” 貯蔵型冷却機構付の下側クランパー
8 半導体チップ端子
9 ボンディング用ツール
10 半導体チップ
11 ボンディング用ステージ
12 接着剤
13 冷却剤循環用配管(冷却機構)
14 上側クランパー上面用の冷却板
14’ 上側クランパー下面用の冷却板
15 冷却剤(冷却機構)
16 金属板(冷却機構)
17 下側クランパー下面用の冷却板(冷却機構)
18 上側クランパー開口端部
50 半導体製造装置(製造装置)
60 半導体製造装置(製造装置)
100 従来の半導体製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップをパッケージキャリア基材にフリップチップ実装することによって、半導体装置を製造する製造装置において、
前記パッケージキャリア基材を挟む上側クランパーおよび下側クランパーのうち少なくともいずれかに、冷却機構が備えられていることを特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項2】
前記冷却機構は、前記上側クランパーの内部および前記下側クランパーの内部のうち少なくともいずれかに備えられていることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造装置。
【請求項3】
前記上側クランパーは、パッケージキャリア端子と半導体チップ端子とを接合するために設けられた開口部の端から前記パッケージキャリア基材のデバイスホールの端までの距離を、0.00mm〜0.21mmとした構造を有することを特徴とする請求項2に記載の半導体装置の製造装置。
【請求項4】
前記下側クランパーは、パッケージキャリア端子と半導体チップ端子とを接合するために設けられた開口部の端から前記パッケージキャリア基材のデバイスホールの端までの距離を、0.00mm〜0.21mmとした構造を有することを特徴とする請求項2に記載の半導体装置の製造装置。
【請求項5】
前記冷却機構は、冷却剤およびこれを保持する容器によって構成されていることを特徴とする請求項3または4に記載の半導体装置の製造装置。
【請求項6】
前記冷却剤は、前記容器の内部を循環することを特徴とする請求項5に記載の半導体装置の製造装置。
【請求項7】
前記冷却剤は、蒸留水、純水、およびエチレングリコールのうち少なくともいずれかであることを特徴とする請求項5または6に記載の半導体装置の製造装置。
【請求項8】
前記冷却機構は、前記上側クランパーの外部および前記下側クランパーの外部のうち少なくともいずれかに接触する形で備えられていることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造装置。
【請求項9】
前記冷却機構は、金属または金属合金の板であることを特徴とする請求項8に記載の半導体装置の製造装置。
【請求項10】
前記冷却機構は、前記上側クランパーおよび前記下側クランパーの両方にそれぞれ備えられていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の半導体装置の製造装置。
【請求項11】
前記上側クランパーおよび前記下側クランパーのうち少なくともいずれかは、鋼、ステンレス、アルミニウム、チタン、銅、丹銅、黄銅、および青銅鋳物のうちいずれかによって構成されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の半導体装置の製造装置。
【請求項12】
前記パッケージキャリア基材は、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、およびポリイミド樹脂のうち少なくともいずれかによって構成されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項13】
前記パッケージキャリア基材は、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートによって構成されていることを特徴とする請求項12に記載の半導体装置。
【請求項14】
半導体チップをパッケージキャリア基材にフリップチップ実装することによって、半導体装置を製造する製造方法において、
前記パッケージキャリア基材を挟む上側クランパーおよび下側クランパーのうち少なくともいずれかに、冷却機構が備えられていることを特徴とする半導体装置を製造する製造方法。
【請求項15】
半導体チップの端子部とパッケージキャリア基材の端子部とが共晶接合された構造の半導体装置において、
前記パッケージキャリア基材が、前記共晶接合に必要な温度よりも低いガラス転移点温度を有するプラスチック材料によって構成されていることを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−267802(P2010−267802A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117864(P2009−117864)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】