説明

半導体装置及び半導体装置の製造方法

【課題】耐電圧特性を改善した半導体装置及び半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】アノード端子Taに、カソード端子Tkに対して大きな電圧を印加したときに形成される空乏層DLの端部に、アノード層(P型エミッタ領域、P型半導体領域P2)から到達する正孔が増加しないように、アノード層の端部であるP型半導体領域P2bを、アノード層の中央部であるP型半導体領域P2aに対して低濃度の不純物領域で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーエレクトロニクス分野における半導体装置及び半導体装置の製造方法、特にスイッチング素子であるサイリスタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図4に示す半導体装置200は、N型不純物の不純物濃度を有する半導体基板におけるN型半導体領域N1と、半導体基板の一方の主面に露出する上面部を除いて前記N型半導体領域N1に隣接するP型半導体領域P1と、半導体基板の一方の主面に露出する上面部を除いて前記P型半導体領域P1に隣接するN型半導体領域N2と、半導体基板の他方の主面に露出する下面部を除いて前記N型半導体領域N1に隣接するP型半導体領域P2と、を備えている。
また、半導体装置200において、N型半導体領域N2とP型半導体領域P1は、半導体基板の一方の主面において形成された保護膜I1に設けられた開口CT1a、開口CT1bを介して、それぞれ第1の電極M1a、第3の電極M1bにオーミック接触される。同様に、P型半導体領域P2は、半導体基板の他方の主面において形成された保護膜I2に設けられた開口CT2を介して、第2の電極M2にオーミック接触される。第1の電極M1aは、端子Tk(カソード端子)に、第3の電極M1bは、端子Tg(ゲート端子)に、第2の電極M2は、端子Ta(アノード端子)にそれぞれ接続される。
【0003】
以上の構成により、半導体装置200は、端子Taと端子Tkとの間に、P型半導体領域P2(Pエミッタ領域、以下アノード層とする)、N型半導体領域N1(Nベース領域、以下バルク層とする)及びP型半導体領域P1から構成されるPNPバイポーラトランジスタと、N型半導体領域N1、P型半導体領域P1(Pベース領域、以下単にベース層とする)及びN型半導体領域N2(Nエミッタ領域、以下カソード層とする)から構成されるNPNバイポーラトランジスタとが接続されたサイリスタである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−68873号公報
【特許文献2】特開平11−111855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような、サイリスタにおいて、端子Taと端子Tkに、端子Taが端子Tkに対して高くなるように電圧を印加すると、バルク層とベース層との界面に形成されるPN接合J2は逆方向にバイアスされ、サイリスタの順方向耐電圧を維持する。このため、印加可能なサイリスタの順方向電圧の最大値、すなわちサイリスタの順方向耐電圧(ブレークオーバ電圧VBO)を高めるためには、PN接合J2の逆方向バイアス時の耐圧を高める必要がある。
【0006】
ところで、半導体基体の上側主表面及び下側主表面に垂直な断面を考えた場合、PN接合J2の曲率がゼロである中央部に比べて、PN接合J2の曲率が大きいベース層の端部において、空乏層の伸びが短いことが知られている。
これは、アノード層のうちベース層端部に対向する領域から注入され、ベース層の端部の空乏層DLに到達する少数キャリアによって、空乏層DLの幅が狭くなるためである。空乏層DLの幅が狭くなることで、ベース層の端部の空乏層DLに加わる電界強度が増加する。これにより、ベース層の端部においては、電界集中が生じて降伏が起き易くなるので、ベース層の中央部に比べ逆方向バイアス時の耐圧が低くなる。つまり、サイリスタのブレークオーバ電圧VBOは、ベース層の端部における耐圧により決定される。
【0007】
上記とは反対に、サイリスタにおいて、今度は端子Taと端子Tkに、端子Tk側が端子Taに対して高くなるように電圧を印加すると、バルク層とアノード層との界面に形成されるPN接合J3には逆方向バイアス電圧が印加され、サイリスタの逆方向耐電圧(ブレークダウン電圧VBR)を維持する。このため、印加可能なサイリスタの逆方向電圧の最大値、すなわちサイリスタの逆方向耐電圧を高めるためには、PN接合J3の逆方向バイアス時の耐圧を高める必要がある。
上記ブレークオーバ電圧VBOの場合と同じく、半導体基体の上側主表面及び下側主表面に垂直な断面を考えた場合、PN接合J3の曲率がゼロである中央部に比べて、PN接合J3の曲率が大きいアノード層の端部において、空乏層の伸びが短い。そのため、アノード層の端部においては、電界集中が生じて降伏が起き易くなるので、アノード層の中央部に比べ逆方向バイアス時の耐圧が低い。つまり、サイリスタの逆方向耐電圧は、Pアノード層の端部における耐圧により決定される。
【0008】
このように、従来において、サイリスタの順逆両方向の耐圧(ブレークオーバ電圧VBO及びブレークダウン電圧VBR)は、それぞれベース層、アノード層の端部において決定されていた。本発明は、ブレークオーバ電圧VBOまたはブレークダウン電圧VBRの端部での低下を抑制し、順方向動作において実質的な電流容量を減少させることのないサイリスタを提供することにある。
なお、上記特許文献1及び2は、一導電型の不純物領域のうちの高濃度領域と低濃度領域とを一つの工程で形成する技術を開示しているにすぎない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、第1端子と第2端子間に電圧が印加されたときに空乏層を形成することにより前記第1端子と前記第2端子間の電流通電を阻止する半導体装置において、前記空乏層の一方を形成する第1導電型の第1の半導体領域と前記空乏層の他方を形成する第2導電型の第2の半導体領域とのいずれか一方の半導体領域に隣接して、該一方の半導体領域とは逆導電型の第3の半導体領域を有し、前記第3の半導体領域は、不純物を高濃度に含む高濃度領域と、前記高濃度領域に比較して不純物を低濃度に含み、前記高濃度領域の周辺を一巡する低濃度領域と、を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、第1導電型エミッタ領域、第2導電型ベース領域、第1導電型ベース領域、及び第2導電型エミッタ領域を、半導体基体の上下方向へ直列に順次隣接させて構成し、前記第2導電型ベース領域及び前記第2導電型エミッタ領域の少なくとも一方の領域は、不純物を高濃度に含む高濃度領域と、前記高濃度領域に比較して不純物を低濃度に含む前記高濃度領域の周辺を一巡する低濃度領域と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記半導体装置の製造方法であって、前記高濃度領域及び前記低濃度領域を有する半導体領域を形成するにあたり、半導体基板の一主面上にマスク物質を形成するマスク物質形成工程と、前記半導体領域の前記高濃度領域に対応する第1の領域上の前記マスク物質を全て取り除くとともに、前記半導体領域の前記低濃度領域に対応する領域であって、前記第1の領域と異なる箇所の第2の領域上の前記マスク物質を、規則的に繰り返される複数の開口により取り除くマスク物質除去工程と、前記マスク物質除去工程により前記マスク物質が取り除かれた領域に不純物をデポジションする不純物デポジション工程と、デポジションされた不純物を拡散させ前記半導体領域を形成する拡散工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
また、上記半導体装置の製造方法において、前記第2の領域の複数の開口各々は、前記第1の領域を環状に取り囲む一定幅の開口であって、それぞれが隣り合う他の開口と一定の間隔を有して設けられることを特徴とする。
【0013】
また、上記半導体装置の製造方法において、前記第2の領域の複数の開口各々は、前記第1の領域を取り囲むメッシュ状の開口であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
この本発明によれば、空乏層が形成されているPN接合に対向する半導体領域から、空乏層へ到達する少数キャリア(ホール)のうち、低濃度領域から空乏層へ到達する少数キャリアは減少し、低濃度領域に対向して形成されている部分の空乏層の幅が狭くなることを抑制できる。これにより、空乏層が形成されているPN接合に対向する半導体領域全てを高濃度で形成する場合に比べ、耐電圧(ブレークオーバ電圧VBOまたはブレークダウン電圧VBR)の低下を抑制することができる。
また、サイリスタのオン動作に係るアノード層の中央部を、高濃度の不純物領域のままにできるので、順方向動作において実質的な電流容量を減少させることのないサイリスタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の半導体装置100の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の半導体装置100のアノード層の形成に用いられるフォトマスクのパターンの平面図、及び同フォトマスクを用いた半導体装置の部分断面図である。
【図3】本発明の半導体装置100のアノード層の形成に用いられる、他のフォトマスクのパターンの平面図、及び同フォトマスクを用いた半導体装置の部分断面図である。
【図4】関連する半導体装置200の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態におけるサイリスタ(半導体装置100)の断面図を示している。なお、図4と同一の部分には同一の符号を付している。半導体装置100は、図1に示すように、N型不純物の不純物濃度を有する半導体基板におけるN型半導体領域N1と、半導体基板の一方の主面に露出する上面部を除いて前記N型半導体領域N1に隣接するP型半導体領域P1と、半導体基板の一方の主面に露出する上面部を除いて前記P型半導体領域P1に隣接するN型半導体領域N2と、半導体基板の他方の主面に露出する下面部を除いて前記N型半導体領域N1に隣接するP型半導体領域P2と、を備えている。
ここで、N型半導体領域N2は、平面視においてP型半導体領域P1の内側にあり、またN型半導体領域N2は半導体基板表面からの深さ方向に、P型半導体領域P1に比較して浅く形成されている。
また、本実施形態において、P型半導体領域P1及びP型半導体領域P2の両方の領域は、N型半導体領域N1を介して対向している。また、P型半導体領域P1及びP型半導体領域P2の両方の領域は、それぞれP型不純物を高濃度に含む高濃度P型半導体領域P1a、P2a(高濃度領域)と、高濃度領域に比較してP型不純物を低濃度に含み、高濃度領域の周辺を一巡する低濃度P型半導体領域P1b、P2b(低濃度領域)と、を有している。
【0017】
また、半導体装置100において、N型半導体領域N2とP型半導体領域P1は、半導体基板の一方の主面において形成された保護膜I1に設けられた開口CT1a、開口CT1bを介して、それぞれ第1の電極M1a、第3の電極M1bにオーミック接触される。同様に、P型半導体領域P2は、半導体基板の他方の主面において形成された保護膜I2に設けられた開口CT2を介して、第2の電極M2にオーミック接触される。第1の電極M1aは、端子Tk(カソード端子)に、第3の電極M1bは、端子Tg(ゲート端子)に、第2の電極M2は、端子Ta(アノード端子)にそれぞれ接続される。
以上の構成により、半導体装置100は、端子Taと端子Tkとの間に、P型半導体領域P2(Pエミッタ領域、以下アノード層とする)、N型半導体領域N1(Nベース領域、以下バルク層とする)及びP型半導体領域P1から構成されるPNPバイポーラトランジスタと、N型半導体領域N1、P型半導体領域P1(Pベース領域、以下単にベース層とする)及びN型半導体領域N2(Nエミッタ領域、以下カソード層とする)から構成されるNPNバイポーラトランジスタとが接続されたサイリスタである。
【0018】
ここで、まず、半導体装置100の製造方法について説明する。
最初に、N型不純物の不純物濃度を有する半導体基板(バルク層となる)を用意する。次に、P型半導体領域P2(アノード層)を形成する工程に進む。まず、半導体基板のアノード側表面(他方の主面)に下地酸化膜を形成し、酸化膜上にイオン注入のマスクとなるフォトレジスト(例えばポジ型のフォトレジスト)を塗布する。次に、フォトマスクを用いて露光を行う。
図2は、露光において用いるフォトマスクのパターンの平面図(図2(a))、及びイオン注入後の半導体基板の断面図を示す。
【0019】
図2(a)に示すフォトマスクのパターンの平面図においては、アノード層のうちの高濃度P型半導体領域となるべき領域P2aのフォトレジストを感光させる矩形状光透過部M22a、アノード層のうちの低濃度P型半導体領域P2bとなるべき領域のフォトレジストを感光させる複数の環状光透過部M22bを示している。
複数の環状光透過部M22b各々は、矩形状光透過部M22aを環状に取り囲む一定幅の開口であって、複数の開口各々が隣り合う他の開口と一定の間隔(遮光部に相当する)を有するように規則的に設けられている。
この図2(a)のフォトマスクのパターンが半導体基板で転写され、矩形状光透過部M22aに対応する開口、複数の環状光透過部M22b各々に対応する開口がフォトレジストにおいて形成され、これらの開口から、P型不純物イオン(例えばボロンイオン)が注入される。
【0020】
アノード層を形成するイオン注入後において、複数の環状光透過部M22b各々に対応するフォトレジストにおける開口から注入されたP型不純物イオンは活性化されず、低濃度P型半導体領域となるべき領域は離散的であり、互いの不純物領域が繋がっておらず、一部にN型半導体領域が存在する。また、複数の環状光透過部M22bのうち最も内側の矩形状光透過部M22bに対応するフォトレジストにおける開口と矩形状光透過部M22aに対応するフォトレジストにおける開口とから注入されたP型不純物イオンは活性化されず、低濃度P型半導体領域P2bとなるべき領域と、高濃度P型半導体領域P2aとなるべき領域とが繋がっておらず、その間にN型半導体領域が存在する。
【0021】
フォトレジスト剥離後、注入したP型不純物イオンの活性化のための熱処理を行い、イオン注入した不純物の横方向の拡散により、活性化されていない互いの不純物領域を繋げ、低濃度P型半導体領域P2bとなるべき領域同士の間、低濃度P型半導体領域P2bとなるべき領域と高濃度P型半導体領域P2aとなるべき領域との間に、N型半導体領域がなくなるようにする。
図2(b)は、図2(a)のフォトマスクのパターン上を走るAA’線に沿った部分に対応する半導体装置100の断面を示した断面図であり、熱処理(拡散)後のアノード層及びバルク層を示している。熱処理後、低濃度P型半導体領域P2bとなるべき領域同士の間、低濃度P型半導体領域P2bとなるべき領域と高濃度P型半導体領域P2aとなるべき領域との間に存在したN型半導体領域はなくなり、活性化されていなかった不純物領域同士が繋がり、図2(b)に示すように、高濃度領域P2aに対応するP型半導体領域P22a及び低濃度領域P2bに対応するP型半導体領域P22bが形成される。
このようにして、P型不純物を高濃度に含むP型半導体領域P2a(高濃度領域)と、高濃度領域に比較してP型不純物を低濃度に含み、P型半導体領域P2aの周辺を一巡する低濃度のP型半導体領域P2b(低濃度領域)とからなる、アノード層(P型半導体領域P2)が形成される。
【0022】
続いて、ベース層(P型半導体領域P1)を形成する工程に進む。半導体基板のカソード側表面(一方の主面)に下地酸化膜を形成し、酸化膜上にイオン注入のマスクとなるフォトレジストを塗布する。次に、矩形状光透過部が設けられたフォトマスクを用いて露光を行い、露光されたフォトレジストにおける開口からP型不純物イオン(例えばボロンイオン)注入を行う。また、フォトレジスト剥離後、注入したP型不純物イオンの活性化のための熱処理を行い、ベース層を形成する。
もちろん、この際用いるフォトマスクは、矩形状光透過部が設けられたフォトマスクであってもよいが、上記アノード層を形成する際に用いたフォトマスクと同様に複数の環状の光透過部が設けられたフォトマスクであってもよい。図1に構造を示すサイリスタは、アノード層形成の際と同様のフォトマスクを用いた場合を示している。図1に示すサイリスタの場合、P型不純物イオン注入活性化のための熱処理後、高濃度のP型半導体領域P1a(高濃度領域)と、高濃度領域に比較して不純物を低濃度に含むP型半導体領域P1aの周辺を一巡する低濃度のP型半導体領域P1b(低濃度領域)とからなる、ベース層(P型半導体領域P1)が形成されている。
【0023】
続いて、カソード層(N型半導体領域N2)を形成する工程に進む。半導体基板のカソード側表面(一方の主面)に下地酸化膜を形成し、酸化膜上にイオン注入のマスクとなるフォトレジストを塗布する。フォトマスクを用いて露光を行い、露光されたフォトレジストにおける開口からN型不純物イオン(例えばリンイオン)を行う。
この際用いるフォトマスクは、矩形状にフォトレジストを感光させる光透過部がベース層の光透過部に対して内側になるように設けられたフォトマスクである。
上記工程と同様、フォトレジスト剥離後、注入したN型不純物イオンの活性化のための熱処理を行い、カソード層を形成する。
【0024】
続いて、電極形成工程に進む。アノード、カソード、ゲートの各電極を形成する際、必要に応じて既に形成されたアノード層、カソード層、ベース層各々の表面に、イオン注入法によりオーミック層(図1において不図示)を形成する。その後、保護膜I1、保護膜I2を形成し、メタル電極と各半導体領域の電気的接触を得るため、開口CT1a、開口CT2及び開口CT1bを形成する。最後に、各開口CT1a、開口CT2及び開口CT1b上に、メタル電極となる金属材料、例えばアルミニウムを堆積し、アルミニウムをパターニングして、カソード電極M1a、アノード電極M2及びゲート電極M1bを形成する。
【0025】
このようにして形成された半導体装置100は、アノード端子Ta(第1端子)とカソード端子Tk(第2端子)間に電圧が印加されたときに空乏層DLを形成することによりアノード端子Taとカソード端子Tk間の電流通電を阻止する半導体装置である。
半導体装置100は、空乏層DLの一方を形成するN型半導体領域N1(第1導電型の第1の半導体領域、バルク層)と空乏層DLの他方を形成するP型半導体領域P1(第2導電型の第2の半導体領域、ベース層)とのいずれか一方の半導体領域(ここではバルク層)に隣接して、該一方の半導体領域とは逆導電型の第3の半導体領域(P型半導体領域P2、アノード層)を有している。また、アノード層は、不純物を高濃度に含むP型半導体領域P2a(高濃度領域)と、P型半導体領域P2aに比較してP型不純物を低濃度に含み、P型半導体領域P2aの周辺を一巡するP型半導体領域P2b(低濃度領域)と、を有している。
【0026】
この本発明によれば、空乏層DLが形成されているPN接合J2に対向する半導体領域(アノード層)から、空乏層DLへ到達する少数キャリア(ホール)のうち、低濃度領域(P型半導体領域P2b)から空乏層DLへ到達する少数キャリアは減少し、低濃度領域(P型半導体領域P2b)に対向して形成されている部分の空乏層の幅が狭くなることを抑制できる。これにより、空乏層DLが形成されているPN接合J2に対向するアノード層全てを高濃度で形成する場合に比べ、順方向耐電圧(ブレークオーバ電圧VBO)の低下を抑制することができる。
また、サイリスタのオン動作に係るアノード層の中央部(P型半導体領域P2a)を、高濃度の不純物領域のままにできるので、順方向動作において実質的な電流容量を減少させることのないサイリスタを提供することができる。
【0027】
また、上記製造方法の説明において述べたように、ベース層(P型半導体領域P1)においてもP型半導体領域P1a(高濃度領域)と、P型半導体領域P1aに比較して不純物を低濃度に含むP型半導体領域P1aの周辺を一巡するP型半導体領域P1b(低濃度領域)と、を有している場合、以下に述べるように逆方向耐電圧(ブレークダウン電圧VBR)の低下をも抑制することができる。
つまり、半導体装置100は、アノード端子Ta(第1端子)とカソード端子Tk(第2端子)間に、カソード端子Tkがアノード端子Taに対して高くなるように、電圧を印加したとき、PN接合J3に逆方向バイアス電圧が印加され、サイリスタの逆方向耐電圧(ブレークダウン電圧VBR)を維持する。
【0028】
ここで、空乏層が形成されているPN接合J3に対向するベース層(P型半導体領域P1)から、空乏層へ到達する少数キャリア(ホール)のうち、低濃度領域(P型半導体領域P1b)から空乏層へ到達する少数キャリアは減少し、低濃度領域(P型半導体領域P1b)に対向して形成されている部分の空乏層の幅が狭くなることを抑制できる。これにより、空乏層が形成されているPN接合J3に対向するベース層全てを高濃度で形成する場合に比べ、逆方向耐電圧(ブレークダウン電圧VBR)の低下を抑制することができる。
このように、サイリスタには、アノード端子Ta(第1端子)とカソード端子Tk(第2端子)間に順方向の電圧が印加されたときにPN接合J2に、逆方向の電圧が印加されたときにPN接合J3に、それぞれ空乏層が形成される。本発明により、低濃度P型半導体領域P2bを設けた場合、PN接合J2に空乏層が形成されているときは、PN接合J2に対向する低濃度P型半導体領域P2bから空乏層へ到達する少数キャリアを減少できる。また、低濃度P型半導体領域P1bを設けた場合、PN接合J3に空乏層が形成されているときは、PN接合J3に対向する低濃度P型半導体領域P1bから空乏層へ到達する少数キャリアを減少できる。これによって、サイリスタの順方向耐電圧(ブレークオーバ電圧VBO)と逆方向耐電圧(ブレークダウン電圧VBR)との少なくとも一方の耐電圧の低下を、従来構造のサイリスタに比べて抑制できる。
【0029】
また、図3は、露光において用いる、他のフォトマスクのパターンの平面図(図3(a))、及びイオン注入後の半導体基板の断面図を示す。
図3(a)に示すフォトマスクのパターンの平面図においては、アノード層(P型半導体領域P2)のうちの高濃度P型半導体領域P2aとなるべき領域のフォトレジストを感光させる矩形状光透過部M22a、アノード層のうちの低濃度P型半導体領域P2bとなるべき領域のフォトレジストを感光させる複数の光透過部M22bを示している。
複数の光透過部M22b各々は、矩形状光透過部M22aを取り囲むメッシュ状の開口であることを特徴としている。ここで、複数の矩形状光透過部M22bは、例えば縦及び横の長さが一定の長方形あるいは正方形の矩形部から構成され、光透過部である長方形或いは正方形同士は一定の間隔(遮光部に相当する)で規則的に繰り返される構成となっている。
【0030】
アノード層形成工程において、この図3(a)のフォトマスクのパターンがフォトレジストに転写された後の形状は、矩形状光透過部M22aに対応する開口、複数の矩形状光透過部M22b各々に対応する開口から成り、これらのフォトレジストにおける開口から、P型不純物イオン(例えばボロンイオン)が注入される。
そして、このフォトマスクを用いたイオン注入に続く熱処理により、上述した製造方法と同様、P型不純物を高濃度に含む高濃度P型半導体領域P2aと、高濃度P型半導体領域P2aに比較してP型不純物を低濃度に含み、高濃度P型半導体領域P2aを一巡する低濃度P型半導体領域P2bとから成るアノード層(P型半導体領域P2)が形成される。
【0031】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の変更等も含まれる。
例えば、上記実施形態の説明においては、イオン注入を行う際、下地酸化膜の形成後にフォトレジストを塗布するものとしたが、この下地酸化膜形成は必ずしも必要な工程ではなく、省略してもよい。
また、上記実施形態の説明においては、イオン注入よりベース層、アノード層、カソード層、オーミック層を形成したが、マスク物質としてフォトレジストを用いず、酸化膜を用いてもよい。この場合、半導体基板の一主面上にマスク物質である酸化膜を形成し、この酸化膜のうち高濃度領域及び低濃度領域となるべき領域の酸化膜を、上記フォトマスクを用いて開口し、酸化膜における開口から半導体基板へ不純物をデポジションして(例えば拡散源として固体、液体または気体を用いて)熱拡散法により高濃度領域及び低濃度領域を形成してもよい。
また、上記実施形態の説明においては、アノード層、ベース層、カソード層の順に形成する場合について説明したが、この順に形成しなくても本発明の半導体装置を製造できる。例えば、ベース層形成後、アノード層を形成してもよく、また、アノード層とベース層を同時に形成してもよい。
【0032】
また、本発明の実施形態においては、ゲート端子付き3端子のサイリスタを例にとり説明したが、2端子サイリスタに本発明を適用してもよい。2端子サイリスタとしては、例えば、次の構造を有するサイリスタが考えられる。2端子サイリスタは、第1導電型不純物の不純物濃度を有する半導体基板における第1導電型半導体領域(例えばP型半導体領域P1)と、半導体基板の一方の主面に露出する上面部を除いて前記P型半導体領域P1に隣接する第2導電型半導体領域(N型半導体領域N2)と、半導体基板の一方の主面に露出する上面部を除いて前記N型半導体領域N2に隣接するP型半導体領域P3と、半導体基板の他方の主面に露出する下面部を除いて前記P型半導体領域P1に隣接するN型半導体領域N4と、半導体基板の他方の主面に露出する下面部を除いて前記N型半導体領域N4に隣接するP型半導体領域P5と、を備える。また、2端子サイリスタは、P型半導体領域P3とN型半導体領域N2が、第1の電極M1にオーミック接触され、P型半導体領域P5とN型半導体領域N4が、第2の電極M2にオーミック接触される。また、2サイリスタの第1の電極M1は、端子T1(アノード端子)に、第2の電極M2は、端子T2(カソード端子)に夫々接続される。
【0033】
この2端子サイリスタの場合、順方向動作(アノード端子電圧>カソード端子電圧)において、N型半導体領域N2とP型半導体領域P1との間のPN接合に逆バイアスが印加され空乏層が形成される。本発明により、N型半導体領域N4を高濃度と低濃度からなる領域で構成することで、空乏層へ到達する少数キャリア(この場合は電子)の増加が抑えられ、N型半導体領域N2の端部におけるブレークオーバ電圧VBOの低下を抑制することができる。
また、逆方向動作(アノード端子電圧<カソード端子電圧)において、N型半導体領域N4とP型半導体領域P1との間のPN接合に逆バイアスが印加され空乏層が形成される。本発明により、N型半導体領域N2を高濃度と低濃度からなる領域で構成することで、空乏層へ到達する少数キャリア(この場合は電子)の増加が抑えられ、N型半導体領域N4の端部におけるブレークオーバ電圧VBO’の低下を抑制することができる。
【符号の説明】
【0034】
N1,N2,N4…N型半導体領域、P1,P2,P1a,P2a,P1b,P2b,P3,P5…P型半導体領域、DL…空乏層、J1,J2,J3…PN接合、CT1a,CT1b,CT2…開口、M1a,M1b,M2,M1…電極、I1,I2…保護膜、Ta,Tk,Tg,T1,T2…端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端子と第2端子間に電圧が印加されたときに空乏層を形成することにより前記第1端子と前記第2端子間の電流通電を阻止する半導体装置において、
前記空乏層の一方を形成する第1導電型の第1の半導体領域と前記空乏層の他方を形成する第2導電型の第2の半導体領域とのいずれか一方の半導体領域に隣接して、該一方の半導体領域とは逆導電型の第3の半導体領域を有し、
前記第3の半導体領域は、不純物を高濃度に含む高濃度領域と、前記高濃度領域に比較して不純物を低濃度に含み、前記高濃度領域の周辺を一巡する低濃度領域と、を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
第1導電型エミッタ領域、第2導電型ベース領域、第1導電型ベース領域、及び第2導電型エミッタ領域を、半導体基体の上下方向へ直列に順次隣接させて構成し、
前記第2導電型ベース領域及び前記第2導電型エミッタ領域の少なくとも一方の領域は、
不純物を高濃度に含む高濃度領域と、前記高濃度領域に比較して不純物を低濃度に含む前記高濃度領域の周辺を一巡する低濃度領域と、を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の半導体装置の製造方法であって、
前記高濃度領域及び前記低濃度領域を有する半導体領域を形成するにあたり、半導体基板の一主面上にマスク物質を形成するマスク物質形成工程と、
前記半導体領域の前記高濃度領域に対応する第1の領域上の前記マスク物質を全て取り除くとともに、前記半導体領域の前記低濃度領域に対応する領域であって、前記第1の領域と異なる箇所の第2の領域上の前記マスク物質を、規則的に繰り返される複数の開口により取り除くマスク物質除去工程と、
前記マスク物質除去工程により前記マスク物質が取り除かれた領域に不純物をデポジションする不純物デポジション工程と、
デポジションされた不純物を拡散させ前記半導体領域を形成する拡散工程と、
を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記第2の領域の複数の開口各々は、前記第1の領域を環状に取り囲む一定幅の開口であって、それぞれが隣り合う他の開口と一定の間隔を有して設けられることを特徴とする請求項3に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記第2の領域の複数の開口各々は、前記第1の領域を取り囲むメッシュ状の開口であることを特徴とする請求項3に記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−104663(P2012−104663A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252000(P2010−252000)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000002037)新電元工業株式会社 (776)
【Fターム(参考)】