説明

半導電性多結晶ダイヤモンド

【課題】放電機械加工(EDM)及び放電研削(EDG)における切削性を向上させる超硬質半導電性多結晶ダイヤモンド(PCD)材料を提供すること。
【解決手段】Li、Be及びAlをドープされた半導電性ダイヤモンド粒子及び/又は半導電性表面を有する絶縁性ダイヤモンド粒子で形成された超硬質で半導電性のPCD材料が提供され、この材料を取り込まれた工具、及びこの材料の製作方法が提供される。この超硬質PCD材料は、添加剤を含む絶縁性ダイヤモンド粒子原料の層を使用し、複数のダイヤモンド結晶を半導電性表面を含むように変換するよう焼結することにより製作することができる。あるいは、超硬質PCD材料は、Li、Al又はBeをドープされたダイヤモンド結晶からなる半導電性ダイヤモンド粒子原料を焼結して製作される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多結晶ダイヤモンドに関し、より具体的には、向上した切削性、特に放電機械加工(Electro-Discharge Machining)又は放電研削(Electro-Discharge Grinding)における向上した切削性を示す半導電性多結晶ダイヤモンドに関する。
【背景技術】
【0002】
当該技術分野において知られている多結晶ダイヤモンド(PCD)材料は、ダイヤモンドの粒子又は結晶と延性金属触媒/バインダとから形成されるのが典型的であり、高温/高圧(「HTHP」)処理により合成される。このようなPCD材料は、耐摩耗性が高いという機械的特性でよく知られた超硬質材料である。このような機械的特性を有することによりPCD材料は、機械加工、地下採掘及び地下穿孔のための切削工具のような、耐摩耗性という機械的特性が強く望まれる工業用途に使用するための材料選択に際して評判が高い。このような用途において、例えば切削工具や穿孔工具と共に使用されるインサート上に、表面コーティングの形で通常のPCD材料を設け、これによりインサートの耐摩耗性を向上させることができる。もともと、このような用途で使用されるPCDインサートは、好適な支持体材料を覆ってPCDを主体とする材料の1つ以上の層を形成することにより製造される。切削エレメントとも呼ばれるこのようなインサートは、基材と、PCD表層と、随意に、露出されたPCD表層とこの表層の下側に位置する基材の支持層との間の結合を改善するための1つ以上の移行層とを含む。このようなインサート用途に使用される基材は一般に、コバルト(Co)で固められた炭化タングステン(WC)のような炭化物材料から形成され、一般には、超硬(又は焼結)炭化タングステン合金、WC/Co系、と呼ばれる。
【0003】
1つ又は複数のPCD層は従来、金属バインダを内部に含むことができる。金属バインダは、ダイヤモンド粒子相互間の結晶間結合を容易にするのに使用され、層をお互いどうし及び下側に位置する基材に結合するように作用する。金属バインダ材料は一般には約10質量%の質量割合で含まれる。バインダとして従来使用される金属は、コバルト、鉄、あるいはニッケル及び/又はそれらの混合物もしくは合金を含む群からしばしば選択される。バインダ材料は、マンガン、タンタル、クロムのような金属及び/又はそれらの混合物もしくは合金を含むこともある。金属バインダは、PCD材料を形成するための成分として粉末形態で供給してもよく、あるいは、「焼結」処理とも呼ばれるHTHP処理中に基材材料からPCD材料中に引き込むこともできる。
【0004】
PCD材料を作るのに使用されるバインダ材料の量は、靭性及び硬度/耐摩耗性という所期の材料特性相互間における妥協の結果として決まるものとなる。金属バインダ含量が高くなると、結果として得られるPCD材料の靭性が一般に増大する一方、金属含量が高くなるとPCD材料の硬度、耐摩耗性及び熱安定性は低下する。こうして、互いに逆の影響を受けるこれらの所期特性は、特定の用途のサービス需要に見合うように所期の耐摩耗性レベル及び靭性レベルの双方を有するPCDコーティングを提供できるという融通性を究極的には制限してしまう。加えて、PCD材料の耐摩耗性を増大させるようにPCD組成物が選ばれると、一般には脆性も増大し、これによりPCD材料の靭性が減少してしまう。
【0005】
多くの事例において、PCDが形成された後、それを切削して、切削工具において使用するための所望の形状にしなければならない。切削は典型的には、当該技術においてよく知られている放電機械加工(EDM)作業又は放電研削(EDG)作業を用いてなされる。しかし、通常のPCDにおけるダイヤモンド骨格の性質が絶縁性であるため、切削部に金属マトリックス材料を存在させ、これにより前述の切削作業にとって不可欠なある程度のPCDの導電率を保証することが必要である。PCD中の金属バインダは金属マトリックスを形成し、EDM切削又はEDG切削を支援する導電率を提供する。しかし、EDM切削又はEDG切削中に冷却に用いられる冷却用流体又は誘電性流体がPCDから金属マトリックスを浸出させて、PCD層の抵抗を著しく増大させることがある。種々の冷却用/誘電性溶液、例えばAdcool(商標)の如きものや、他の腐食抑制溶液及び/又は脱イオン水が、EDM処理又はEDG処理中に用いられることがある。EDM作業において切削面とワイヤとの間に生じるアーク、及びEDG作業における研削砥石も、浸出を引き起こす。
【0006】
PCD中の金属マトリックスが浸出することによりPCDの抵抗が著しく増大する場合、又は比較的僅かな金属マトリックスしかない領域に出くわす場合には、切削速度は極めて遅くなるか、又はゼロになり、EDM処理に組み込まれた切削ワイヤが破断することがある。いくつかの事例において、この問題を克服するために、PCD材料中に余分の金属が提供される。付加的な金属を添加すると、その結果としてPCDの熱安定性を低下させ、且つまた材料硬度を減少させ、これに相応して耐摩耗性を減少させることになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、材料の硬度、耐摩耗性及び熱安定性を低下させることなしに、EDM及びEDGにおける切削性を向上させるPCD材料が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、多結晶ダイヤモンド(PCD)超硬質材料、及び該材料を製作する方法に関する。1つの態様において、多結晶ダイヤモンド超硬質材料は半導電性ダイヤモンド結晶を含んでいる。この半導電性ダイヤモンド結晶は、リチウム、ベリリウム又はアルミニウムをドープされたダイヤモンド結晶であることができる。別の代表的な態様では、多結晶ダイヤモンド超硬質材料は通常のダイヤモンド結晶から形成され、これらの結晶の少なくとも一部のものが半導電性外表層を含んでいる。上記の代表的な態様のいずれによっても、多結晶ダイヤモンド超硬質材料は半導体材料となる。
【0009】
本発明の一つの代表的な方法によれば、基材を提供し、この基材の上に多結晶ダイヤモンド層を形成することによって、切削エレメントが製作される。非導電性のダイヤモンド粒子原料と添加剤とを含むダイヤモンド粉末層を提供し、このダイヤモンド粉末層を、固形半導体材料である多結晶ダイヤモンドに変換することにより、多結晶ダイヤモンド層を基材の上に形成する。添加剤は、リチウム、ベリリウム、ホウ素及びアルミニウムからなる群から選択することができる。通常の絶縁性ダイヤモンド結晶から構成されるダイヤモンド粒子原料、例えばタイプIのダイヤモンド結晶を使用することができる。
【0010】
本発明の別の代表的方法によれば、ベリリウム、リチウム及びアルミニウムのうちの少なくとも1つをドープされたダイヤモンド結晶を含むダイヤモンド粒子原料の層を提供し、次いで焼結して、ダイヤモンド粒子原料の層を半導電性の固形多結晶ダイヤモンド層に変換することにより、切削エレメントが形成される。
【0011】
上記の代表的製作方法のいずれによっても、超硬質PCD層は、通常の絶縁性ダイヤモンド結晶、例えばタイプIのダイヤモンド結晶などから形成されたPCD層と比較して導電率が増大した半導体材料として形成される。PCD層中に含まれることが可能な金属バインダ材料の全てが浸出によって除去されても、本発明の半導電性PCD材料の切削性、特にEDM及びEDGにおける切削性は改善される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の代表的態様による切削エレメントの斜視図である。
【図2】図1に示す本発明の代表的態様の切削エレメントを備えたビット本体の斜視図である。
【図3】本発明の代表的態様によるPCD材料内の、半導電性表層を有するダイヤモンド結晶の効果を示すグラフである。
【図4】本発明の代表的態様によるPCD材料内の、半導電性表層を有するダイヤモンド結晶の効果を示す別のグラフである。
【図5】通常のPCD材料と本発明の代表的態様により製作された代表的な半導電性PCD材料との比較を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、下記の詳細な説明を添付の図面と関連させて読めば最もよく理解される。強調したいのは、慣行に従って、図面の種々の構成要素は一定の比率通りに拡大・縮小したものではない。逆に、種々の構成要素の寸法は、分かりやすくするために、任意に拡大又は縮小されることがある。同様の符号は、明細書及び図面全体を通して同様の構成要素を示す。
【0014】
硬度、耐摩耗性又は熱安定性を含むことなしに切削性、特にEDM及びEDGにおける切削性が改善されたPCD材料、そのような材料を取り入れた切削工具及びその他の工具、そしてそのような材料及び工具の製造方法が提供される。本発明の代表的態様のPCD材料においては、その性質が半導電性であるダイヤモンド結晶又は半導電性の外表層を含むダイヤモンド結晶の比率が相当に高い。このようなダイヤモンド結晶は、それらを半導体にするのに充分な少量の格子間不純物、例えばリチウム(Li)、ベリリウム(Be)、ホウ素(B)及びアルミニウム(Al)などを含有する。
【0015】
半導電性ダイヤモンドに関しては、Wentorf, R.H. and Bovenkirk, H.P.著「半導電性ダイヤモンドの製造(Preparation of Semiconducting Diamonds)」 J. Chem. Phys. 36, 第1987頁 (1962)、Field, J.E.著「ダイヤモンドの特性 (The Properties of Diamond)」, Academic Press, 1979、及び Wentorf, R.H.著「高圧でのダイヤモンドの形成(The formation of Diamond at High Pressure)」、Advances in High Pressure Research, Academic Press, 第249-281頁 (1974)に論じられている。これらの文献のそれぞれの内容は参照により本明細書中に取り入れられる。他面において、電気絶縁体である通常のダイヤモンド結晶で形成されたPCDは、本発明のPCDよりもはるかに高い抵抗を有する。このことは、金属バインダ材料が含まれているPCD材料、及びこのような金属バインダ材料を含有していないPCD材料の双方に当てはまる。
【0016】
本発明の代表的態様のPCDは、Li、BeもしくはAl又はそれらの組み合わせをドープされた半導電性ダイヤモンド結晶から形成された半導電性ダイヤモンド粒子原料を使用して製作される。本発明の別の代表的態様では、PCDは、半導電性のダイヤモンド粒子原料と、通常の非導電性のダイヤモンド粒子原料、例えばタイプIのダイヤモンド粒子原料などとの組み合わせを用いることにより製作してもよい。本発明のさらに別の代表的態様では、PCDは、適量の添加剤、例えばB、Li、Be及びAlのようなものと一緒に、通常のドープされていないダイヤモンド粒子原料(例えばタイプIのダイヤモンド粒子原料)を使用して製作される。これらの添加剤は、ダイヤモンド結晶を半導電性表層を含むダイヤモンド結晶に変えるように、ダイヤモンド格子全体にわたって拡散する。この拡散現象は、PCD材料を固まらせるのに用いられるHTHP焼結処理中に生じる。上述の方法のそれぞれに従って製作されたPCD材料はその性質が半導電性である。以下、半導電性のダイヤモンド粒子原料を使用して製作されたPCD材料と、通常のダイヤモンド粒子原料及びダイヤモンド結晶を半導電性表層を有するように変えるための添加剤とを使用して製作されたPCD材料の両方を、まとめて半導電性PCDと呼ぶことにする。
【0017】
本発明の半導電性PCDは一般に超硬質材料又は超硬質層と呼ばれる固形構造体であり、切削工具上及び切削エレメント上の切削層として、又は他の用途のための耐摩耗層として使用することができる。便宜上、切削エレメント及び切削工具を以後「切削エレメント」と呼ぶ。半導電性PCDは、切削エレメントを製造するために基材上に形成された層であってもよい。代表的な態様では、切削エレメントは、ドリル用ビットに挿入して地面の穿孔に用いることができる。本発明の半導電性PCDは他の代表的態様において、種々の他の用途及び産業に用いることができる。
【0018】
代表的な切削エレメントを図1に示す。図1は、基材12と、カッティングテーブルとも呼ばれそして上面18を含む超硬質層16とから形成された切削エレメント10を示している。超硬質層16は、本発明では半導電性PCDから形成されている。基材12と超硬質層16との間には、界面14が形成されている。別の代表的態様によれば、超硬質層16と基材12との間に、1つ又は複数の移行層(図示せず)が形成されてもよい。図1に示したほぼ円筒形の切削エレメントは、一例にすぎず、種々の他の代表的態様に従って、切削エレメントと超硬質層とは種々の他の形状のいずれを採用してもよい。
【0019】
1つの代表的態様では、切削エレメントはビット、例えば図2に示すドラッグビットに取り付けられており、穿孔の際にはエッジ28に沿って地層と接触する。図2に示す代表的態様では、切削エレメント10は、ろう付け又は当該技術分野でよく知られている他の手段により、ポケット又はドラッグビット本体24内に達する他の形状の受容部材に接合されている。図示の配置構成は一例にすぎず、切削エレメント10は、他の代表的態様において種々の他の配置構成で使用することができる。
【0020】
半導電性PCD材料を製作する方法は、基材を提供し、そしてこの基材の上にダイヤモンド粉末層を提供し、次いでHTHP処理を使用して焼結して、それによりダイヤモンド粉末層を固まらせてそれをPCDの超硬質層に変換し、且つまたこのPCD層を基材に結合させて切削エレメントを製作することを含む。基材は予備成形された固体基材でもよく、あるいは、基材は粉末形態で提供されて、焼結作業中に固められてもよい。基材は種々のマトリックス材料から形成することができる。1つの代表的態様では、基材は超硬炭化タングステン合金(焼結炭化タングステン合金)から形成することができる。超硬炭化タングステン合金は一般に、基材バインダ金属マトリックス、例えば鉄、ニッケル又はコバルト中に分配された炭化タングステン粒子を意味する。他の基材材料を他の代表的態様において使用することができる。基材として使用するのに適した耐摩耗性材料は、炭化物と、元素周期表のIVB族、VB族、VIB族及びVIIB族から選択された金属との複合物から選択することができる。他のこのような炭化物の例として、炭化タンタル及び炭化チタンが挙げられる。本発明の態様において使用するのに適した基材バインダマトリックス材料には、元素周期表のVI族、VII族及びVII族の遷移金属が含まれる。例えば、鉄及びニッケルは良好な基材バインダマトリックス材料である。
【0021】
本発明の代表的態様において半導電性PCD材料を製作するのに使用されるダイヤモンド粉末層は、多数の微細ダイヤモンド結晶を含む。ダイヤモンド粉末層は、基材上に直接設けてもよく、あるいは、ダイヤモンド粉末層と基材との間に1つ又は複数の任意の移行層を設けてもよい。
【0022】
1つの代表的態様によれば、ダイヤモンド粉末層は、Li、Be又はAlをドープされたダイヤモンド結晶からなる少なくともある特定の半導電性ダイヤモンド粒子原料を含む。半導電性ダイヤモンド原料を、通常のドープされていないダイヤモンド原料と混合してダイヤモンド粉末層を形成してもよい。別の代表的態様では、ダイヤモンド粉末層のダイヤモンド結晶は、実質的に半導電性ダイヤモンド粒子原料のみからなるものでもよい。
【0023】
別の代表的態様によれば、ダイヤモンド粉末層は、絶縁体、例えばタイプIのダイヤモンド結晶である通常のダイヤモンド結晶からなるものでもよい。この代表的態様によれば、添加剤、例えばLi、Be、B又はAlがダイヤモンド粉末層に添加される。これらの添加剤は粉末形態又は顆粒形態でよく、ダイヤモンド粉末層全体にわたって混合される。1つの代表的態様では、これらの添加剤は、ダイヤモンド粉末層全体にわたって均一に混合することができる。添加剤は、ダイヤモンド粉末層が固まってPCD層を形成するのにつれて形成されたダイヤモンド格子中に拡散するのに充分に小さいように選択される。PCDにおけるダイヤモンド格子の大きさが小さいことにより、この格子は、通常の絶縁性ダイヤモンド結晶を半導電性ダイヤモンド結晶に変えるために限定された数の不純物種(すなわち添加剤)を収容できるにすぎない。Li、Be、B及びAlは、ダイヤモンド格子中に拡散するのに充分に小さいことが知られている元素である。このような元素は一例にすぎず、他の不純物原子又は化合物を他の代表的態様で使用してもよい。Li、Be、B及びAlは、PCDをP型半導体にする。
【0024】
ダイヤモンド粉末層に含まれる添加剤の量は、1つの代表的態様では0.1質量%〜10.0質量%の範囲にあるが、他の実施態様においては他の質量割合を用いてもよい。添加剤の質量割合の上限は、それより多くなると焼結処理に悪影響を及ぼす量によって決定される。添加剤がダイヤモンド格子中に格子全体にわたって拡散し、絶縁性ダイヤモンド結晶を半導電性ダイヤモンド結晶に変化させるように、適量の好適に小さな添加剤元素又は添加剤化合物が選択される。極めて少量の添加剤がダイヤモンド結晶を変化させ、導電性の増大という改善を果すことができることが見いだされた。絶縁性ダイヤモンド材料が半導電性材料に変化する際、添加剤が拡散することにより、一部の又は全てのダイヤモンド結晶が半導電性表面を有するダイヤモンド結晶に変えられる。このような拡散現象は、PCDを固まらせるのに用いられるHTHP焼結処理中に生じる。このHTHP焼結処理中に、添加剤種はPCD全体にわたって自由に拡散することができる。有意の導電性の改善を実現するためには、ダイヤモンド結晶全体を半導電性ダイヤモンド結晶に完全に変換する必要はない。むしろ、ダイヤモンド結晶の表層を半導電性表層に変えることにより、導電性が改善され、ひいては形成されたPCDの切削性が改善される。この態様によれば、ドープされていないダイヤモンド結晶、例えばタイプIのダイヤモンド結晶が、半導電性表層を含むダイヤモンド結晶に変換される。
【0025】
上述の代表的製作方法のいずれに従っても、半導電性PCDの超硬質材料が製造される。上述の代表的態様のいずれに従っても、ダイヤモンド粉末層中に充分な金属バインダ材料を含ませることができ、最大約30%の容量パーセントでPCD材料中に金属バインダ材料を作ることができるが、しかし、他の代表的態様では他の容量パーセントのバインダ材料を使用してもよい。別の代表的態様によれば、金属バインダ材料は、HTHP焼結作業中に基材からPCD層中に拡散することができる。1つの代表的態様では、金属バインダの質量パーセントは、8〜12質量%の範囲にあることができ、15%以下の質量パーセントが使用されるのが一般的である。例えばコバルト、鉄、ニッケル、マンガン、タンタル、クロムなどの金属、及び/又はそれらの混合物又は合金を、金属バインダ材料として使用することができる。金属バインダ材料は、PCD層のダイヤモンド粒子相互間の結晶間結合を容易にし、他の層又は基材にPCD層を結合するように作用し、また、PCD層の導電性を増大させる。しかし、本発明の1つの側面は、半導電性ダイヤモンド結晶又は半導電性表層を有するダイヤモンド結晶で製作された半導電性PCD中ではダイヤモンド骨格が導電性の性質であるため、切削性を保証するために金属マトリックスを存在させることを必要としない。
【0026】
本発明の種々の態様によれば、PCD材料が金属バインダなしで製作される場合にも、あるいは、金属マトリックス材料が浸出により事実上完全に除去された後でも、PCD材料はEDM及びEDGを使用した切削を可能にするのに充分に高い導電性を有している。1つの代表的態様では、金属バインダを実質的に含有しない本発明のPCDが、1000オーム未満の抵抗を有するように製作された。別の態様では、10%以下の質量パーセントの金属バインダを含有するように製作されたPCD層の抵抗は、50オーム未満であった。
【0027】
本明細書中に記載した抵抗値は、サンプル表面から約1cm間隔を置いたプローブを使用して行われた通常の抵抗測定の値である。
【0028】
固形半導電性PCDを製作後、このPCDを切削して所望の形状にするために、放電機械加工による又は放電研削による切削作業が必要となることがある。PCDの性質が半導電性であるので、EDM及びEDGを使用して、このような半導電性PCD材料について切削速度を上昇させることができる。このことは、EDM処理及びEDG処理全体を通して使用される冷却用及び誘電性の流体と、EDM処理及びEDG処理それ自体によって生じたアークとが、切削作業中に半導電性PCDから何らかの金属バインダ材料を浸出させるとしても当てはまる。金属バインダが浸出により失われたとしても、あるいは、金属バインダ材料が全く含まれていないとしても、本発明のPCDが放電機械加工による及び放電研削による切削作業において切削性を保証するのに充分に導電性であることを、発明者らは発見した。半導電性PCDは更に、極めて高い耐摩耗性を有する一方、その切削性を依然として保持する。金属バインダ材料の添加量を低減するか又はなくすことさえもできるので、形成されたPCD層の硬度、耐摩耗性及び熱安定性は犠牲とならずに、向上させることができる。
【0029】
固形半導電性PCDを切削することにより切削エレメントを形成した後、切削エレメントはろう付け又は当該技術分野でよく知られている他の手段により、ドリルビット本体に接合することができる。
【0030】
図3〜5は、本発明の態様に従って製作された代表的な半導電性PCDの利点を示すグラフである。図3〜5は、本発明に従って製作された半導電性PCDが、標準のPCD材料と比較して著しく低い抵抗、すなわち著しく高い導電性を有することを全体として示している。これらの図はまた、切削処理中に金属マトリックス材料が酸で浸出させられた後に、本発明の半導電性PCDの抵抗が、通常の絶縁性ダイヤモンドから形成された標準のPCDと比較してやはり著しく低減されている(すなわち導電率は上昇している)ことも示している。図3〜5はまた、本発明により製作された半導電性PCDにおける切削処理中の酸による浸出の影響が、標準のPCDと比較して抑制されていることも示している。「標準のPCD」は、通常の絶縁性ダイヤモンド、例えばタイプIのダイヤモンドからなる。
【0031】
図3は、データサンプルの非正規分布を示すのに一般に使用されるワイブル(Weibull)プロットであり、上述のように、半導電性PCD層のHTHP処理後に測定された抵抗を標準のPCDと比較して示している。全ての事例において、サンプル表面から約1cm間隔を置いたプローブを使用して、通常の抵抗測定を行った。図3において、サンプル1は、通常のタイプIの(絶縁性)ダイヤモンド粒子原料を含むダイヤモンド粉末層に、2.0質量%のホウ素を添加し、次いで焼結して、少なくとも一部の絶縁性ダイヤモンド結晶を半導電性表層を含むように変化させることにより製作されたPCDである。やはり図3に示したサンプル2は、通常のタイプIのダイヤモンド粒子原料を含むダイヤモンド粉末層に、0.5質量%のホウ素を添加し、次いで焼結して、少なくとも一部の絶縁性ダイヤモンド結晶を半導電性表層を含むように変化させることにより製作されたPCDである。サンプル1及びサンプル2のそれぞれは、約10質量%のコバルトマトリックス材料を含むPCD材料である。標準のPCDサンプルは、通常の絶縁性ダイヤモンドだけで製作されている点を除いて、サンプル1及びサンプル2と実質的に同様の通常のPCD材料である。図3に示すように、本発明の2つのPCDサンプルが示す抵抗は低減されている。
【0032】
図4は、図1で使用したPCD材料サンプルの実質的に全てのコバルトマトリックス相を酸浸出により除去した後で測定された、PCD材料サンプルの電気抵抗を示す別のワイブルプロットである。図4に示したデータを得るのに使用された例においては、フッ化水素酸及び硝酸中で煮沸することにより、酸浸出がデータ収集のために意図的に引き起こされた。しかし、これとは別に他の典型的な手法を用いてもよい。PCD材料中に存在する何らかの金属バインダ材料を浸出させることができる冷却用及び誘電性流体を通常のEDM切削作業及びEDG切削作業に用いた結果として、酸によりPCDからコバルトマトリックス相がやはり同様に浸出される。このように、図4は、EDM切削作業及びEDG切削作業中のPCD材料を示すものである。図4は、本発明のサンプル1及びサンプル2のそれぞれと標準のPCDとで抵抗の値が何桁か違うことを示している。図4にプロットされた測定が行われたときには、標準のPCD及びサンプル1及び2のそれぞれは金属バインダ材料を実質的に含有していなかった。
【0033】
図5は、図3及び図4に示す電気抵抗測定値を要約して示す棒グラフである。図5に示すように、焼結後かつ浸出前に、PCDサンプル1及び2のそれぞれは約10オームの抵抗が測定され、これに対して標準のPCDサンプルは約400〜500オームの抵抗が測定された。詳しく言えば、HTHP処理後、サンプル1は約8オームの抵抗が測定され、サンプル2は約20オームの抵抗が測定された。すなわち両サンプルは50オーム未満の抵抗を有する。この場合、製作されたままで、半導電性PCDサンプルのそれぞれが、タイプIの又は他の通常の絶縁性ダイヤモンドだけから形成された実質的に同様のPCD層の対応する抵抗の約10%未満、より具体的には約5%未満の抵抗を示すことが分かる。本発明のサンプル1及び2から実質的に全ての金属バインダ材料を浸出させた後、サンプル1及び2の双方は約1000オームの抵抗が測定され、これに対して標準のPCDは約2〜3×108オームの抵抗を有する。酸浸出による抵抗の増加は、サンプル1及び2と比較して標準のPCDにおいてはるかに大きい。
【0034】
通常のダイヤモンドだけからなるPCD材料と比較した場合、Li、Be又はAlをドープされたダイヤモンド結晶からなるダイヤモンド粒子原料を使用して、しかも金属バインダ材料を添加しないで製作された本発明の半導電性PCD材料は、最初は金属バインダ材料を含み、その後この金属バインダ材料を浸出により除去するように形成されたPCD層よりも、抵抗/導電性特性においてなお一層大きな改善を示す(図4及び5参照)ものと考えられる。発明者らの考えによれば、通常のPCDを半導電性PCDに変えるのに用いられる付加的な不純物種が存在しなければ、ダイヤモンド結晶間結合はより優れたものとなる。
【0035】
図3〜5とサンプル1及び2は、本発明の利点を示すのに提供するものである。サンプル1及び2は一例にすぎず、本発明の半導電性PCD材料が低減した抵抗を有するという利点は、異なる金属バインダ材料を有するように形成されたサンプルの場合も、また異なる比率でバインダ材料が存在するサンプルの場合にも、同様に達成可能である。
【0036】
本発明の半導電性PCD材料(すなわち、Al、Be又はLiをドープされた少なくともある特定のダイヤモンド結晶、又は半導電性表面を有する少なくともある特定のダイヤモンド結晶)はまた、通常のPCDよりもはるかに大きな熱伝導率を有する。発明者らの考えによれば、本発明の半導電性PCD材料の熱伝導率は、80°Kにおいて通常のPCD材料の伝導率よりも15倍大きく、室温においては通常のPCD材料の伝導率よりも4〜5倍大きくなり得る。切削工具における切削層として用いる場合、半導電性PCD材料は、被切削対象に対するPCD切削層の摩耗により発生する熱をより良好に伝導することができ、ひいては切削層の温度をより低く維持することができる。切削層及び工具の温度上昇は、切削工具の寿命を短くすることが知られている。従って、本発明の半導電性PCDを切削層として使用することにより、切削エレメントの作業寿命は長くなる。
【0037】
上述のものは本発明の原理を示すにすぎない。従って、本明細書中ではっきりと説明又は図示してはいないが、本発明の原理を具体化するものであり本発明の範囲及び精神に含まれる種々の構成を当業者が案出できることは明らかである。更に、本明細書中に掲げた全ての例及び条件付きの表現は、基本的には教示を目的とし、本発明の原理及び発明者らにより技術促進に寄与する概念を理解するのを補助するものにすぎず、具体的に掲げたこのような例及び条件に本発明を限定するものでないものと解釈すべきである。更にまた、本発明の原理、側面及び態様、並びに本発明の具体例に言及している本明細書中の全ての記述内容は、それらと構造的及び機能的に同等のものを包含するものとする。加えて、そのような同等のものは、現在知られている同等のもの、及び将来において開発される同等のもの、すなわち構造とは無関係に同一機能を発揮するように開発される任意のエレメントの双方を含むものとする。従って本発明の範囲は、本明細書中に示し、説明した代表的態様に限定されるものではない。むしろ本発明の範囲及び精神は特許請求の範囲によって具体化される。
【符号の説明】
【0038】
10 切削エレメント
12 基材
16 超硬質層
24 ドラッグビット本体
28 エッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削エレメントを製作する方法であって、
非導電性ダイヤモンド結晶と添加剤とを含むダイヤモンド粉末層を提供すること、
そして前記非導電性ダイヤモンド結晶と前記添加剤とを、固形半導体材料である多結晶ダイヤモンド層に変換すること、
を含む、切削エレメント製作方法。
【請求項2】
前記変換が焼結することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記焼結が、複数の前記非導電性ダイヤモンド結晶上に半導電性表層を形成することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記焼結が、前記多結晶ダイヤモンド層全体にわたって前記添加剤を拡散させ、且つ前記多結晶ダイヤモンド層を50オーム以下の抵抗を有するように形成させる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記ダイヤモンド粉末層の提供が、該層内に適量の金属バインダ材料の粉末を提供することを含み、該粉末の量は、前記焼結により作られる前記多結晶ダイヤモンド層が10%以下の質量パーセントの前記金属バインダ材料を含み、且つ50オーム以下の抵抗を有するような量である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記添加剤がホウ素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記添加剤がLi、Be及びAlのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記非導電性ダイヤモンド結晶が、タイプIのダイヤモンド粒子原料を実質的に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
放電機械加工及び放電研削のうちの一方を用いて前記多結晶ダイヤモンド層を切削することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記多結晶ダイヤモンド層に存在する金属材料を浸出させることを含み、浸出後、前記多結晶ダイヤモンド層が1000オーム以下の抵抗を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記多結晶ダイヤモンド層が金属バインダ材料を実質的に含有せず、1000オーム以下の抵抗を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
切削エレメントを製作する方法であって、
Be、Li及びAlのうちの少なくとも1種をドープされたダイヤモンド結晶を含むダイヤモンド粒子原料の層を提供すること、及び
焼結して前記ダイヤモンド粒子原料の層を固形半導体材料である多結晶ダイヤモンド層に変換すること、
を含む、切削エレメント製作方法。
【請求項13】
基材を提供することを更に含み、前記焼結が前記多結晶ダイヤモンド層を前記基材に結合することを更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ダイヤモンド粒子原料の層の提供が、該層内に金属マトリックス材料の粉末を提供することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記ダイヤモンド粒子原料の層の提供が、該層内に適量の金属バインダ材料の粉末を提供することを含み、該粉末の量は、前記焼結により作られる前記多結晶ダイヤモンド層が10%以下の質量パーセントの前記金属バインダ材料を含み、且つ50オーム以下の抵抗を有するような量である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記多結晶ダイヤモンド層に存在する金属材料を浸出させることを更に含み、該浸出させられた多結晶ダイヤモンド層が1000オーム以下の抵抗を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
放電機械加工及び放電研削のうちの一方を用いて、前記多結晶ダイヤモンド層を切削することを更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記提供が、Be、Li及びAlのうちの少なくとも1種をドープされた前記ダイヤモンド結晶だけから実質的になるダイヤモンド粒子原料の層を提供することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
Be、Li及びAlからなる群から選択された材料をドープされたダイヤモンド結晶を含んでいる多結晶ダイヤモンド材料。
【請求項20】
半導体材料であることを特徴とする、請求項19に記載の多結晶ダイヤモンド材料。
【請求項21】
P型半導体材料であることを特徴とする、請求項19に記載の多結晶ダイヤモンド材料。
【請求項22】
10オーム以下の抵抗を有している、請求項19に記載の多結晶ダイヤモンド材料。
【請求項23】
実質的にタイプIのダイヤモンドだけから作られた実質的に同様の多結晶ダイヤモンド材料の対応する抵抗の10%未満の抵抗を有する、請求項19に記載の多結晶ダイヤモンド材料。
【請求項24】
80°Kにおいて、実質的にタイプIのダイヤモンドだけから形成された実質的に同様の多結晶ダイヤモンド材料の対応する熱伝導率よりも約15倍大きい熱伝導率を有する、請求項19に記載の多結晶ダイヤモンド材料。
【請求項25】
金属バインダ材料を実質的に含有しておらず、且つ1000オーム以下の抵抗を有している、請求項19に記載の多結晶ダイヤモンド材料。
【請求項26】
基材の上に形成された、請求項19に記載の多結晶ダイヤモンド材料を含む切削エレメント。
【請求項27】
タイプIのダイヤモンド結晶を含み、複数の前記タイプIのダイヤモンド結晶が半導電性表層を有している、多結晶ダイヤモンド材料。
【請求項28】
不純物種を更に含んでおり、該不純物種がLi、Be、B及びAlからなる群から選択されている、請求項27に記載の多結晶ダイヤモンド材料。
【請求項29】
前記半導電性表層が不純物種を含んでおり、該不純物種がLi、Be、B及びAlからなる群から選択されている、請求項27に記載の多結晶ダイヤモンド材料。
【請求項30】
P型半導電性材料である、請求項27に記載の多結晶ダイヤモンド材料。
【請求項31】
抵抗が50オーム以下である、請求項27に記載の多結晶ダイヤモンド材料。
【請求項32】
10%以下の質量パーセントの金属バインダを更に含む、請求項31に記載の多結晶ダイヤモンド材料。
【請求項33】
金属バインダ材料を実質的に含有しておらず、且つ1000オーム以下の抵抗を有している、請求項27に記載の多結晶ダイヤモンド材料。
【請求項34】
基材の上に形成された、請求項27に記載の多結晶ダイヤモンド材料を含む切削エレメント。
【請求項35】
切削エレメントを含むドリルビットであって、前記切削エレメントが、基材と、該基材の上の多結晶ダイヤモンド層とを含んでおり、該多結晶ダイヤモンド層がタイプIのダイヤモンド結晶を含んでおり、複数の該タイプIのダイヤモンド結晶が半導電性表層を有している、切削エレメントを含むドリルビット。
【請求項36】
切削エレメントを含むドリルビットであって、前記切削エレメントが、基材と、該基材上の多結晶ダイヤモンド層とを含んでおり、該多結晶ダイヤモンド層が、リチウム、ベリリウム及びアルミニウムからなる群から選択された添加剤をドープされたダイヤモンド結晶を含んでいる、切削エレメントを含むドリルビット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−25404(P2011−25404A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−183926(P2010−183926)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【分割の表示】特願2003−49011(P2003−49011)の分割
【原出願日】平成15年2月26日(2003.2.26)
【出願人】(594036836)スミス インターナショナル,インコーポレイティド (3)
【Fターム(参考)】