説明

半田材検査方法および半田材検査装置、制御プログラム、コンピュータ読み取り可能な記録媒体

【課題】半田材の劣化を生じさせること無く、かつ短時間で半田材の粘度計測を可能とする粘度計測装置および粘度計測方法を実現する。
【解決手段】赤外分光計測部10によって、検査対象の半田材に光を照射することによって該検査対象の半田材から反射する特定波数の赤外線の第一強度を検出し、比較対象の半田材に上記光を照射することによって該比較対象の半田材を反射する上記特定波数の赤外線の第二強度を検出する。そして、算出部10において、上記第二赤外線吸光度に基づいて特定される検量線方程式に、上記第一赤外線吸光度を代入することによって上記検査対象の半田材の粘度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半田材の粘度を検査する半田材検査方法および半田材検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリント基板の生産ラインにおいては、基板上に半田材を印刷する印刷工程、この印刷された半田材上に電子部品を搭載するマウント工程、基板に電子部品を半田付けするリフロー工程を行うことによって、基板上に電子部品を実装している。
【0003】
また、上述した印刷工程において、上記半田材は、基板上に配置されたメタルマスク表面に載せられている。このメタルマスクは、配線パターンに対応した開口穴が形成されているものである。そして、上記半田材は、上記メタルマスク表面において、移動スキージによって押圧されることにより、回転移動する。さらに、この回転移動している半田材が、上記移動スキージの押圧力によって、上記開口穴から基板上に押し出される。これにより、半田材が基板に印刷される。
【0004】
このメタルマスクは、同一の半田材を載せたまま、大量の基板に対して連続して使用される。したがって、上記半田材は、上記印刷を繰り返す度に、上記移動スキージによって繰り返し回転移動することとなる。ここで、この回転移動によって、上記半田材は、徐々に劣化していき、その粘度が高くなる。劣化して粘度の高くなった半田材は、プリント基板において不良をもたらす要因となる。
【0005】
すなわち、基板上に印刷される半田材の粘度の高い場合、印刷工程後の基板において「カケ」「カスレ」等の不良が生じやすくなることが知られている。このため、メタルマスク上に半田材を供給する前に、供給対象となる半田材の粘度を分析する作業が重要である。
【0006】
半田材の粘度を測定する装置としては、従来、ロータと呼ばれるらせん状の羽によってクリーム状の半田材をかき回し、その粘度を計測する装置(例えば、株式会社マルコム製PCU-200シリーズ)がある。
【0007】
また、特許文献1には、スキージ表面を流動する半田材の流動速度に基づいて、該半田材の粘度を測定する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平5−99831号公報(公開日:1993年04月23日)
【特許文献2】特公平8−20434号公報(公告日:1996年03月04日)
【特許文献3】特開平10−82737号公報(公開日:1998年03月31日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ロータによって半田材をかき回し、その粘度を計測する装置では、以下の(A)〜(D)に示すような問題が存在する。
(A) 粘度計測には1ポットすべてのクリーム半田が必要となる。
(B) 粘度計測時に半田材をかき回すことによって、半田材を劣化させてしまう。
(C) 粘度計測には30分程度の比較的長い時間を要する。
(D) ロータにクリーム半田が付着するため、装置の清掃に大幅な時間を要する。
【0009】
また、特許文献1に開示の方法では、スキージ駆動時のみしか半田材の粘度を計測することができず、検査対象が印刷工程で使用中の半田材のみに限られるという問題が生じる。
【0010】
そこで、特許文献2には、サンプリングした半田材を用いて滴定を行うことにより、半田材(フラックス)の酸度を計測する方法が開示されている。しかし、この方法では、試薬の調整等の作業に手間がかかるという問題が生じる。
【0011】
また、特許文献3によれば、紫外線光電子分光法によって、半田材の表面酸化率を計測する手法が開示されている。しかし、この方法は、人体に有害な紫外線を用いているため、作業衛生上好ましくない。
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、半田材の劣化を生じさせること無く、かつ短時間で半田材の粘度計測を可能とする粘度計測装置および粘度計測方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上の目的を達成するために、本発明の半田材検査方法は、検査対象の半田材に光を照射することによって該検査対象の半田材から反射する特定波数の赤外線の第一強度を検出する第一検出工程と、比較対象の半田材に上記光を照射することによって該比較対象の半田材から反射する上記特定波数の赤外線の第二強度を検出する第二検出工程と、上記検出された第一および第二強度に基づき、上記検査対象の半田材の粘度を検査する検査工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
良質な半田材は、低粘度、低酸化度、高還元力であり、半田材が劣化すると、粘度/酸化度が高くなり、還元力が低くなることが知られている。したがって、半田材の劣化度は、該半田材の粘度、酸化度、還元力の少なくとも1項目から判断することができる。
【0015】
ここで、本願の発明者らは、従来技術とは異なる手法であって、半田材の粘度を分析できる手法を検討した。そして、本願の発明者らは、鋭意工夫の結果、赤外線分光法を用いると、半田材の粘度を分析することができる事を知見した。
【0016】
以下、赤外線分光法によって、半田材の粘度を分析できる理由について詳細に説明する。
【0017】
半田材を使用し続け、また、半田材を外気にさらし続けると、半田材においては、含有金属が酸化し、含有する酸(例えば、カルボン酸)が塩に変化する。つまり、半田材を使用し、または、外気にさらし続けると、該半田材においては、含有金属酸化物が増加し、酸の含有量が減少し、塩の含有量が増加することとなる。
【0018】
そして、この金属酸化物の増加によって、半田材の酸化度が高くなり、塩の増加によって半田材の粘度が高くなり、酸の含有量の減少によって半田材の還元力が低下する。
【0019】
したがって、検査対象の半田材において、酸および塩の含有度を分析できれば、該半田材の粘度を検査することができ、ひいては半田材の劣化度を検査できる。つまり、半田材における酸の含有度、塩の含有度は、半田材の劣化度を示すものである。
【0020】
ここで、本発明者らは、赤外線分光法によれば、酸、塩の含有度の少なくとも1項目を分析することが可能であることに着目し、本発明を実現するに至った。
【0021】
具体的に、本発明においては、検査対象の半田材に光を照射することによって該検査対象の半田材から反射する特定波数の赤外線の第一強度を検出し、比較対象の半田材に上記光を照射することによって該比較対象の半田材を反射する上記特定波数の赤外線の第二強度を検出している。
【0022】
ここで、半田材における酸、塩の含有度に応じて、該半田材における特定波数の赤外線の吸収量は変化し、該半田材を反射する赤外線の特定波数の強度は変化する。これは、半田材に含まれる酸、塩は、各々において特定されている波数帯域の赤外線を吸収する性質を有しているからである。
【0023】
したがって、上記検査対象の半田材を反射する赤外線の特定波数の第一強度と、比較対象の半田材を反射する赤外線の該特定波数の第二強度とに基づけば、検査対象の半田材における酸、塩の含有度を分析でき、これにより、検査対象の半田材の粘度を検査することができる。それゆえ、検査対象の半田材の劣化度を検査できる。
【0024】
なお、本発明の半田材検査方法において、半田材に照射される光は、上記特定波数の赤外線そのものであってもよいし、上記特定波数の赤外線を含む光であってもよい。
【0025】
なお、以上示した本発明の半田材検査方法によれば、特許文献2に開示されているような滴定作業が不要であるため、特許文献2の方法よりも作業上の手間を抑制できる。また、以上示した本発明の半田材検査方法は、紫外線を使わないため、特許文献3の方法よりも作業衛生上好ましい。
【0026】
また、以上の目的を達成するために、本発明の半田材検査装置は、検査対象の半田材および比較対象の半田材に光を照射する光源と、上記光が照射されることによって検査対象の半田材から反射する特定波数の赤外線の第一強度を検出し、上記光が照射されることによって比較対象の半田材から反射する該特定波数の赤外線の第二強度を検出する強度検出手段と、上記検出された第一および第二強度に基づいて、上記検査対象の半田材の粘度を出力する制御手段と、を含むことを特徴とする。
【0027】
上記構成によれば、強度検出手段は、光源から光が照射されることによって検査対象の半田材から反射する特定波数の赤外線の第一強度を検出し、光源から光が照射されることによって比較対象の半田材から反射する特定波数の赤外線の第二強度を検出する。
【0028】
ここで、半田材における酸、塩の含有度に応じて、該半田材を反射する赤外線の特定波数の強度は変化する。これは、半田材に含まれる酸、塩は、各々において特定されている波数帯域の赤外線を吸収する性質を有しているからである。
【0029】
したがって、上記検査対象の半田材を反射する赤外線の特定波数の第一強度と、比較対象の半田材を反射する赤外線の該特定波数の第二強度とに基づけば、検査対象の半田材における酸、塩の含有度を求めることができる。ここで、この含有度は、半田材の劣化度を示すものである。
【0030】
そこで、上記構成においては、この含有度を、上記検査対象の半田材の粘度として出力させる。これにより、この装置の利用者は、出力された粘度を分析でき、検査対象の半田材の劣化度を検査できる。
【0031】
また、本発明の半田材検査方法においては、酸、塩の含有度の少なくとも1項目を分析できればよいため、上記特定波数は、半田材に含まれる酸が吸収する赤外線の波数帯域に含まれる波数であってもよい。そして、上記酸としては、カルボン酸であることが好ましい。これは、半田材に含まれる酸のうち、含有量の多い酸としてカルボン酸が挙げられるからである。
【0032】
なお、カルボン酸は、1665cm−1〜1730cm−1の赤外線を吸収する性質を有している。それゆえ、上記特定波数は、1665cm−1〜1730cm−1の範囲に含まれる波数であることが好ましい。
【0033】
さらに、本発明の半田材検査方法においては、酸、塩の含有度の少なくとも1項目を分析できればよいため、上記特定波数は、半田材に含まれる塩が吸収する赤外線の波数帯域に含まれる波数であってもよい。そして、上記塩としては、カルボン酸塩であることが好ましい。これは、劣化した半田材に含まれる塩のうち、含有量の多い塩としてはカルボン酸塩が挙げられるからである。
【0034】
なお、カルボン酸塩は、1270cm−1〜1430cm−1の赤外線を吸収する性質を有している。それゆえ、上記特定波数は、1270cm−1〜1430cm−1の範囲に含まれる波数であることが好ましい。また、カルボン酸塩は、1500cm−1〜1650cm−1の赤外線を吸収する性質を有している。それゆえ、上記特定波数は、1500cm−1〜1650cm−1の範囲に含まれる波数であることが好ましい。
【0035】
なお、上記制御手段は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、上記制御手段をコンピュータにて実現させる制御プログラム、および、該制御プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0036】
以上のように、本発明の半田材検査方法は、検査対象の半田材に光を照射することによって該検査対象の半田材から反射する特定波数の赤外線の第一強度を検出する第一検出工程と、比較対象の半田材に上記光を照射することによって該比較対象の半田材から反射する上記特定波数の赤外線の第二強度を検出する第二検出工程と、上記検出された第一および第二強度に基づき、上記検査対象の半田材の粘度を検査する検査工程と、を含む。
【0037】
それゆえ、検査対象の半田材に含有している酸、塩の含有度を分析でき、これにより、検査対象の半田材の粘度を検査することができる。よって、検査対象の半田材の劣化度を検査できる。
【0038】
また、上記半田材検査方法及び半田材検査装置では、検査対象及び比較対象の半田材に光を照射することによって半田材の粘度を検出するものであり、ロータによって半田材をかき回し、その粘度を計測する従来方法に比べて、以下の(A)〜(D)の利点を有する。
(A) 検査に用いるクリーム半田が少量で済む。
(B) 検査時に半田材をかき回す必要が無く、半田材を劣化させない。
(C) 計測時間が30秒程度と短い時間で済む。
(D) プレート上の半田材を拭き取るだけでよいので、装置の清掃が短時間でおこなえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
〔半田材検査方法〕
本実施形態における半田材検査方法は、赤外線を利用して、半田材の粘度を検査する方法である。なお、本実施形態における「半田材」とは、プリント基板の生産ラインにおいて用いられるクリーム状の半田ペーストを意義するものとするが、本発明においては、この半田ペーストに限定されるものではなく、周知の半田材全般に対して適用可能である。
【0040】
以下、本実施形態の半田材検査方法の詳細を説明する。
【0041】
半田材を使用し続け、また、半田材を外気にさらし続けると、半田材においては、含有金属が酸化し、含有カルボン酸がカルボン酸塩に変化する。つまり、半田材を使用し、または、外気にさらし続けると、該半田材においては、含有金属酸化物が増加し、含有カルボン酸が減少し、含有カルボン酸塩が増加することとなる。
【0042】
この金属酸化物の増加によって、半田材の酸化度が高くなり、このカルボン酸塩の増加によって半田材の粘度が高くなり、カルボン酸の含有量の減少によって半田材の還元力が低下するという現象が生じる。このような現象を半田材の劣化という。
【0043】
したがって、検査対象の半田材において、カルボン酸の含有度、カルボン酸塩の含有度の少なくとも一つを分析できれば、該半田材の粘度を検査することができ、ひいては半田材の劣化度を検査できる。
【0044】
一方、カルボン酸、カルボン酸塩の各々は、各々において特定されている特定波数帯域の赤外線を吸収することが知られている。
【0045】
そこで、以下の工程の組み合わせを実施することにより、本実施形態の半田材検査方法を実現することとする。まず、検査対象の半田材に光を照射することによって該検査対象の半田材から反射する特定波数の赤外線の第一強度を検出する第一検出工程を実施する。つぎに、比較対象の半田材に上記光を照射することによって該比較対象の半田材を反射する上記特定波数の赤外線の第二強度を検出する第二検出工程を実施する。そして、上記検出された各強度に基づき、上記検査対象の半田材の粘度を検査する検査工程を実施する。なお、第一検出工程と第二検出工程とは、実施順序が逆になってもよいし、同時に行ってもよい。
【0046】
以上の本実施形態の半田材検査方法によれば、第一検出工程および第二検出工程によって、検査対象の半田材から反射する赤外線の特定波数の第一強度と、比較対象の半田材から反射する赤外線の特定波数の第二強度とを検出できる。
【0047】
ここで、上述したように、カルボン酸、カルボン酸塩の各々は、各々において特定されている特定波数帯域の赤外線を吸収する。したがって、半田材におけるカルボン酸、カルボン酸塩の含有度に応じて、半田材における特定波数の赤外線の吸収量は変化し、半田材を反射する特定波数の赤外線の強度は変化する。
【0048】
したがって、第一および第二検出工程で検出した各強度に基づけば、検査対象の半田材におけるカルボン酸の含有度、カルボン酸塩の含有度の少なくとも一つを分析できる。それゆえ、検査対象の半田材の粘度を検査できる。
【0049】
なお、上記検査工程の態様としては、検査対象の半田材の粘度Vは、以下の(1)式に示す検量線方程式を用いて求めることができる。
【0050】
V=aA+bA+c … (1)
上記検量線方程式において、a,b,cは、半田材ごとに固有の定数である。また、特徴量Aは、比較対象の半田材と検査対象の半田材との間における上記特定波数の赤外線吸収度の相違度を示すパラメータである。それゆえ、これらパラメータを求めることにより、比較対象の半田材と検査対象の半田材との間におけるカルボン酸、カルボン酸塩の含有度の相違を分析でき、検査対象の半田材の粘度を検査することができるのである。
【0051】
特徴量Aの算出方法としては、以下の(2)〜(4)式に示す3種類が考えられる。
【0052】
A=Achlo/Aacid … (2)
A=Achlo/Aref … (3)
A=Aref/Aacid … (4)
ここで、
Aacidは、カルボン酸の吸収波長付近での吸光度計測値、
Achloは、カルボン酸塩の吸収波長付近での吸光度計測値、
Arefは、参照波長付近での吸光度計測値、
である。尚、参照波長とは、半田材の劣化に伴う吸光度の変化を示さない波長ピークを示すものであり、そのような変化のないピークであればどのような波長であってもよい。
【0053】
また、上記検査対象および上記比較対象としては、各々同一の半田材が使用される。なお、上記「各々同一の半田材を使用」とは、型式が同一の半田材を意味し、型式が同一であればロットは別でもかまわない。たとえば、検査対象を、ある型式・あるロットの半田材aとする。この場合の比較対象としては、半田材aと同一型式・別ロットの新品状態の半田材b、および、半田材bを印刷工程で使用し粘度を変化させた半田材b’、または、半田材a・半田材bと同一型式・別ロットの半田材cを印刷工程で使用し粘度を変化させた半田材c’、などが利用できる。
【0054】
〔実施例1〕
次に、以上示した本実施形態の半田材検査方法の一実施例を説明する。
【0055】
まず、本実施例において検査対象となる半田材について説明する。本実施例では、図2に示す各物質を含有成分とする半田材を検査に用いた。同図に示すように、本実施例の半田材は、80〜90%の錫と、1〜3%の銀と、1%未満の銅と、2〜4%のジエチレングリコールモノへキシルエーテルと、1%未満の2-エチル-1,3-ヘキサンジオールと、4〜6%のロジンと、を含んでいる。
【0056】
なお、半田材の主成分は錫(Sn)または鉛(Pb)等の金属であるが、本実施例の半田材では、図2に示すように、この金属として錫が用いられている。また、半田材において還元力をもたらす主成分であるカルボン酸として、本実施例の半田材では、図2に示すように、ロジン(C19H29COOH)が用いられている。
【0057】
本実施例では、図2に示す半田材であって、新品の状態の当該半田材を比較対象とし、プリント基板の印刷工程において使用された後の当該半田材を検査対象とした。なお、以下では、比較対象の半田材を単に「比較対象」とし、検査対象の半田材を単に「検査対象」とよぶことがある。
【0058】
ここで、この比較対象および検査対象に対して、各々同一強度の赤外線を照射し、比較対象を反射する赤外線における500cm−1〜3000cm−1の帯域の強度(第二強度)を検出し、検査対象を反射する赤外線における500cm−1〜3000cm−1の帯域の強度(第一強度)を検出した(第一検出工程、第二検出工程)。
【0059】
さらに、本実施例では、各波数について、比較対象の赤外線の吸光度(第二赤外線吸光度)と、検査対象の赤外線の吸光度(第一赤外線吸光度)とを下記の(5),(6)式にて算出した。すなわち、上記吸光度は、波数hに対応するブランク値(照射した赤外線の波数hにおける強度)をBLとし、比較対象から反射する赤外線の波数hにおける強度をAとし、検査対象から反射する赤外線の波数hにおける強度をBとして、
(波数hに対応する)比較対象の赤外線の吸光度A´=−log(A/BL)・・・(5)
(波数hに対応する)検査対象の赤外線の吸光度B´=−log(B/BL)・・・(6)
を、波数毎に演算することによって求めることができる。
【0060】
図3は、算出した吸光度を示すスペクトルチャートである。なお、同図における横軸は赤外線の波数(Wave Number)を示し、縦軸は赤外線の吸光度を示す。同図に示すように、比較対象の赤外線の吸光度と、検査対象の赤外線の吸光度とでは相違があることが観測される。
【0061】
図4は、赤外線の波数と、該波数に対応する吸光度差との関係を示したチャートである。つまり、図4のチャートは、図3のチャートに示される検査対象の吸光度から比較対象の吸光度を差し引いた吸光度差を示したものである。
【0062】
図4から、比較対象と検査対象とでは、600cm−1付近、1300cm−1付近、1600cm−1付近、1700−1cm−1付近の吸光度において、大きな差があることがわかる。
【0063】
具体的には、600cm−1、1300cm−1、1600cm−1付近において、検査対象の赤外線吸光度は、比較対象の赤外線吸光度よりも高くなっていることがわかる。また、1700cm−1付近において、検査対象の赤外線吸光度は、比較対象の赤外線吸光度よりも低くなっていることがわかる。
【0064】
ここで、赤外線スペクトルチャートにおいて、600cm−1付近で観測される吸収は、金属酸化物における酸素-金属結合の振動によるものであることが知られている。また、1300cm−1付近で観測される吸収は、カルボン酸塩の対称伸縮振動によるものであり、1600cm−1付近で観測される吸収は、カルボン酸塩における逆対称伸縮振動によるものであることが知られている。さらに、1700cm−1付近で観測される吸収は、カルボン酸における二重結合の伸縮振動による吸収を示すものであることが知られている。
【0065】
したがって、600cm−1付近において、検査対象の方が、比較対象よりも、赤外線吸光度が高くなっていることから、検査対象においては、比較対象よりも金属酸化物が多量に含まれており、比較対象よりも酸化度が高いことがわかる。
【0066】
また、1300cm−1付近および1600cm−1付近において、検査対象の方が、比較対象よりも、赤外線吸光度が高くなっていることから、検査対象においては、比較対象よりもカルボン酸塩が多量に含まれており、比較対象よりも粘度が高いことがわかる。
【0067】
さらに、1700cm−1付近において、検査対象の方が、比較対象よりも、赤外線吸光度が低くなっていることから、検査対象においては、比較対象よりもカルボン酸が少なく、比較対象よりも還元力が低いことがわかる。
【0068】
このように、本実施例では、赤外線スペクトルの各波数について、検査対象の半田材を反射する赤外線の強度(第一強度)と、比較対象の半田材を反射する赤外線の強度(第二強度)とから、検査対象の半田材における赤外線の吸光度(第一赤外線吸光度)と、比較対象の半田材における赤外線の吸光度(第二赤外線吸光度)とを求めている。
【0069】
そして、赤外線スペクトルの各波数について、検査対象の半田材の吸光度から比較対象の半田材の吸光度を差し引いた吸光度差を求めている。ここで、600cm−1、1300cm−1、1600cm−1、1700cm−1付近における上記吸光度差を参照すれば、検査対象の半田材に含まれる金属酸化物の含有度、カルボン酸の含有度、カルボン酸塩の含有度を把握することができる。
【0070】
そして、この金属酸化物の含有度から、検査対象の半田材の酸化度を把握でき、カルボン酸の含有度から、検査対象の半田材の還元力を把握でき、カルボン酸塩の含有度から、検査対象の半田材の粘度を把握できる。
【0071】
つぎに、比較対象の赤外線の吸光度と、検査対象の赤外線の吸光度との相違について検討した。具体的には、上記(5),(6)式で求められる吸光度A´およびB´を、上述した(2)〜(4)式の何れかに代入して特徴量Aを求める。例えば、(2)式を用いて特徴量Aを求める場合には、上記吸光度A´およびB´は、カルボン酸の吸収波長付近およびカルボン酸塩の吸収波長付近の波数について求められる。
【0072】
ここで、図5は、特徴量Aと半田材の粘度との相関関係を示すグラフであり、横軸を特徴量A、縦軸を粘度としている、尚、図5における◆、■、および▲のプロットは、(2)式を用いて特徴量Aを求めた場合の実験値を例示しており、◆、■、および▲のプロットのそれぞれは、計測日や劣化のさせ方の条件が違っても検量線にうまくのることを示している。
【0073】
図5から明らかなように、特徴量Aと半田材の粘度とは、常にほぼ一定の相関関係を示しており、具体的には上記(1)式に示すような二次関数曲線(図中、実線にて示す)の相関関係を示す。
【0074】
このため、上記二次関数曲線を検量線方程式とし、該検量線方程式が半田材に対して特定されれば、検査対象の赤外線の吸光度の測定結果から特徴量Aを求め、この特徴量Aを上記検量線方程式に代入することで、検査対象の半田材の粘度を求めることができる。
【0075】
また、上記検量線方程式を特定するためには、以下の手順にて(1)式における係数a〜cを求める。先ず、劣化度がそれぞれ異なる少なくとも3種類の半田材サンプルを比較対象とし、これら比較対象の計測結果から3種の特徴量A1〜A3を求める。そして、これらの特徴量A1〜A3のそれぞれを代入した3つの検量線方程式を連立方程式とし、これを解くことによってa〜cの解を求めればよい。
【0076】
このように、本実施例では、赤外線スペクトルの各波数について、検査対象の半田材を反射する赤外線の強度(第一強度)と、比較対象の半田材を反射する赤外線の強度(第二強度)とから、検査対象の半田材における赤外線の吸光度(第一赤外線吸光度)と、比較対象の半田材における赤外線の吸光度(第二赤外線吸光度)とを求めている。
【0077】
そして、複数種類の比較対象の半田材における赤外線の吸光度(第二赤外線吸光度)から該半田材に対する複数の特徴量Aを求め、さらに該半田材における検量線方程式を特定する。ここで、1300cm−1、1600cm−1、1700cm−1付近における上記吸光度から、上記特徴量Aと粘度との相関関係を求め、上記検量線方程式を特定する。また、比較対象の一つは新品の状態の半田材とし、この新品の半田材に対する吸光度を(2)〜(4)式における吸光度初期値とする。
【0078】
そして、赤外線スペクトルの各波数について、検査対象の半田材の吸光度から該検査対象の特徴量Aを求め、検査対象の特徴量Aを上記検量線方程式に代入することで検査対象の粘度が算出される。
【0079】
つぎに、新品の状態の半田材を比較対象とし、プリント基板の印刷工程における印刷回数が200回、400回、600回、800回、1000回、1200回の各半田材を検査対象として、本実施例で示した方法によって分析した結果を図6(a)に示す。
【0080】
図6(a)は、赤外線の波数と、各波数に対応する検査対象の半田材の吸光度から比較対象の半田材の吸光度を差し引いて得られる吸光度差との関係を、検査対象毎に示したチャートである。なお、横軸は赤外線の波数を示し、縦軸は、検査対象の半田材の吸光度と比較対象の半田材の吸光度との差である吸光度差を示す。
【0081】
図6(a)から、半田材の印刷回数が増加する程、1300cm−1付近および1600cm−1付近の吸光度差は高くなり、1700cm−1付近の吸光度差は減少していることがわかる。これにより、印刷回数が増加する程、半田材においてカルボン酸が減少し、カルボン酸塩が増加していることがわかる。そして、このカルボン酸塩の増加という結果から、印刷回数が増加する程、半田材の粘度が上昇することを分析できる。
【0082】
実際、各検査対象について粘度を測定したところ、図6(b)に示すように、半田材の印刷回数と半田材の粘度とは正の相関関係があることが確認された。また、半田材の1600cm−1付近の赤外線の吸光度差と半田材の粘度とは正の相関関係があり、半田材の1700cm−1付近の赤外線の吸光度差と半田材の粘度とは負の相関関係があることも確認された。このような関係が成立するのは、半田材の印刷回数が増加するほど、半田材に含有されるカルボン酸が減少して1700cm−1付近の赤外線の吸収が少なくなり、半田材に含有されるカルボン酸塩が増加して1600cm−1付近の赤外線の吸収が大きくなり、さらにカルボン酸塩の増加に応じて粘度が高くなるからである。
【0083】
また、上記した各々の特定波数(1300cm−1、1600cm−1、1700cm−1)は、数値変更が可能である。つまり、特定波数は、1300cm−1、1600cm−1、1700cm−1に限定されるものではなく、特定波数としての有効範囲を設定することが可能である。この点について、具体的に説明する。
【0084】
まず、図6における分析と同様、新品の状態の半田材を比較対象とし、プリント基板の印刷工程における印刷回数が200回、400回、600回、800回、1000回、1200回の各半田材を検査対象として、本実施例で示した方法によって各検査対象に対して上記吸光度差を求めた。この結果を図7〜図9に示す。なお、図7では、1270cm−1〜1430cm−1の波数帯域についての上記吸光度差を示し、図8では、1500cm−1〜1650cm−1の波数帯域についての上記吸光度差を示し、図9では、1665cm−1〜1730cm−1の波数帯域についての上記吸光度差を示す。
【0085】
半田材に含まれるカルボン酸塩の対称伸縮振動の吸収ピークは1300cm−1付近(厳密には、1323cm−1)で検出されるが、図7に示すように、1270cm−1〜1430cm−1に注目すれば、検査対象毎の吸光度差の相違を区別でき、1282cm−1〜1382cm−1に注目すれば、検査対象毎の吸光度差の相違をさらに顕著に観測することができる。したがって、1270cm−1〜1430cm−1の間の少なくともいずれかの波数を上記注目波数とすれば、各検査対象のカルボン酸塩の含有度を分析することが可能となる。
【0086】
また、カルボン酸塩の逆対称伸縮振動の吸収ピークは1600cm−1付近(厳密には、1590cm−1)で検出されるが、図8に示すように、1500cm−1〜1650cm−1に注目すれば、検査対象毎の吸光度差の相違を区別でき、1562cm−1〜1624cm−1に注目すれば、検査対象毎の吸光度差の相違をさらに顕著に観測することができる。したがって、1500cm−1〜1650cm−1の間の少なくともいずれかの波数を上記注目波数とすれば、各検査対象のカルボン酸塩の含有度を分析することが可能となる。
【0087】
さらに、カルボン酸の炭素-酸素二重結合の吸収ピークは、1700cm−1付近で検出されるが、図9に示すように、1665cm−1〜1730cm−1に注目すれば、検査対象毎の吸光度差の相違を区別でき、1683cm−1〜1710cm−1に注目すれば、検査対象毎の吸光度差の相違をさらに顕著に観測することができる。したがって、1665cm−1〜1730cm−1の間の少なくともいずれかの波数を上記注目波数とすれば、各検査対象のカルボン酸の含有度を分析することが可能となる。
【0088】
〔半田材検査装置〕
次に、本実施形態の半田材検査方法を実現する半田材検査装置について説明する。なお、以下で説明する半田材検査装置は、あくまで、本実施形態の半田材検査方法を実現する装置の例示であり、本実施形態の半田材検査方法を実現するにあたって、以下の半田材検査装置が必須となるわけではない。
【0089】
本実施形態の半田材検査装置100は、図1に示すように、赤外分光計測部10、入力部20、記憶部30、算出部40、出力部50、および制御部60を備えて構成されている。
【0090】
赤外分光計測部10は、測定物となる半田材に対して光を照射し、その反射光における特定波数の赤外線強度を検出する手段である。入力部20は、オペレータが既知の半田材の粘度を入力するための手段である。記憶部30は、半田材の粘度を算出する際に使用される粘度算出用のパラメータ(例えば、検量線方程式の係数、特徴量初期値)を記憶する手段である。算出部40は、赤外分光計測部10によって測定された赤外線強度、および記憶部30に記憶された粘度算出用のパラメータに基づいて、半田材の粘度を算出する手段である。出力部50は、算出部40によって算出された半田材の粘度を出力する手段である。
【0091】
制御部60は、赤外分光計測部10から送られてくるアナログ信号(赤外線強度)を処理するブロックであり、該アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D(Analog to Digital)コンバータと、該デジタル信号に基づいてデータ処理を行うコンピュータとによって構成される。さらに、制御部60は、上記各部の制御を行う。
【0092】
ここで、上記半田材の粘度を算出する際には、半田材の特徴量Aが求められる。上記特徴量Aは、上述したように、上記第一強度から、検査対象の半田材における上記特定波数の第一赤外線吸光度を求め、上記第二強度から、比較対象の半田材における上記特定波数の第二赤外線吸光度とを求め、上記第一赤外線吸光度と上記第二赤外線吸光度とから算出される。
【0093】
これにより、上記特徴量Aは、上記検査対象の半田材の特定波数の赤外線吸収度と、比較対象の半田材の特定波数の赤外線吸収度との相違度を示したものとなる。ここで、半田材におけるカルボン酸、カルボン酸塩の含有度に応じて、該半田材における特定波数の赤外線の吸収量は変化し、該半田材を反射する特定波数の赤外線の強度、すなわち半田材における上記特定波数の赤外線吸光度は変化し、これに伴って上記特徴量Aも変化する。
【0094】
したがって、半田材検査装置のオペレータは、特徴量Aを参照することによって、検査対象の半田材に含有しているカルボン酸、カルボン酸塩の含有度を知ることができ、検査対象の半田材の劣化度を検査できる。
【0095】
また、上記構成において、光源と半田材との間、または、半田材と強度検出手段との間に、赤外線のみを透過させる光学フィルタを設ければ、強度検出手段は、半田材から反射する赤外線を検出することが可能となる。
【0096】
以下、本実施形態の半田材検査装置の実施例を説明する。
【0097】
〔実施例2〕
本実施例の半田材検査装置100は、測定物となる半田材に対して光を照射し、その反射光における特定波数の赤外線強度を検出する手段として赤外分光計測部10を有している。まずは、赤外分光計測部10の一構成例を図10を参照して説明する。
【0098】
図10に示すように、赤外分光計測部10は、光源11、バンドパスフィルタ12、プレート13、光電変換器(強度検出手段)14を備えている。赤外分光計測部10において、測定物となる半田材16はプレート13上に載置される。また、半田材16は、前記比較対象または検査対象の半田材に該当するものであり、照射された赤外線を反射する。
【0099】
光源11は、プレート13上の半田材16の方向に向けて光を照射するランプであり、例えば、グローバランプ、セラミック光源、キセノンランプ、PbSnTeレーザなどが使用される。
【0100】
バンドパスフィルタ12は、プレート12上の半田材13と光電変換器14との間に配置されている光学フィルタである。このバンドパスフィルタ12は、特定波数の赤外線のみを透過するものである。なお、特定波数は、上述の実施例1で説明したものと同様であり、カルボン酸、カルボン酸塩のうちの少なくとも一つの赤外線吸収が認められる波数である。
【0101】
光電変換器14は、入射する赤外線の強度を検出する。さらに、光電変換器14は、検出した赤外線の強度を示すアナログ信号を生成し、該アナログ信号を制御部60へ送信する。この光電変換器14の例としては、例えば、MCT(光導電素子,HgCdTe)、焦電素子、サーモパイルなど(ただし焦電素子の場合はチョッパやパルス光源が必要になる)を用いたデバイスが挙げられる。なお、光電変換器14は、プレート13上の半田材16から反射する赤外線の光軸上に位置するように設けられている。
【0102】
この半田材検査装置100によれば、制御部60のコンピュータにおいて処理されるデジタル信号は、半田材16から反射する注目波数の赤外線の強度を示したデータとなる。
【0103】
よって、半田材検査装置100において、比較対象の半田材16をプレート13に配して、この半田材16に特定波数の赤外線を照射することによって、比較対象の半田材16を反射する赤外線の強度(第二強度)を光電変換器14に検出させ、その後、検査対象の半田材16をプレート13上に配して、同様の作業で赤外線の強度(第一強度)を検出させればよい。これにより、制御部60には、比較対象の半田材16を反射する赤外線の強度を示すデータと、検査対象の半田材16を反射する赤外線の強度を示すデータとが順次伝達されることとなる。
【0104】
そして、制御部60が、上記各強度に基づき、検査対象における特定波数の赤外線の吸光度(第一赤外線吸光度)と、比較対象における特定波数の赤外線の吸光度(第二赤外線吸光度)とを求める。さらに、制御部60が、比較対象における注目波数の赤外線の吸光度と検査対象における注目波数の赤外線の吸光度とか検量線方程式によって検査対象の粘度を求めることができる。
【0105】
また、図1に示すように、半田材検査装置100において、制御部60に記憶部30を接続させる構成とすれば、予め、比較対象の半田材を反射する赤外線の強度のみを検出し、この強度を示すデータを記憶部30に保存させておくことができる。これにより、複数の検査対象の半田材に対して連続して検査する場合であっても、比較対象の半田材を反射する赤外線の強度の検出は一度だけで済ませることが可能である。
【0106】
上記半田材検査装置100は、実際に半田材の粘度測定を行う前に、半田材の粘度を算出するために用いる初期パラメータの設定を行う必要がある。先ずは、この設定時シーケンスを図11を参照して説明する。
【0107】
図11に示す設定時シーケンスでは、先ずは、粘度が既知の値である3種類の半田材サンプル(サンプル1〜3)について赤外分光計測部10によって特定波数の赤外線に対する吸収度の計測を行う(S1,S3,S5)。この時、3種類のサンプルは、それぞれの粘度は異なる(劣化度が異なる)が同一種類の半田材であり、かつサンプルの一つについては新品の半田材を用いる。さらに、上記サンプル1〜3においてはその粘度が既知であるため、その粘度を入力部20を介して入力する(S2,S4,S6)。
【0108】
上記S1,S3,S5のステップによって計測された赤外線吸収度を、上述した(2)〜(4)式の何れかに代入することにより、3種類の特徴量Aを求めることができる。さらに、特徴量Aと上記S2,S4,S6のステップにおいて入力された半田材の粘度を上述した(1)式に代入することにより、3つの検量線方程式を連立させることができる。この連立方程式は算出部40によって解かれ、これにより上記(1)式に含まれるパラメータa〜cが算出される(S7)。すなわち、上記S7では、サンプル1〜3の半田材にかかる検量線方程式が算出される。
【0109】
上記S7で算出された検量線方程式のパラメータa〜cと、新品サンプルに対する赤外線吸収度の計測値とは、その後の半田材の粘度計測工程において使用されるため、記憶部30に格納される。以上が、実際の半田材の粘度測定を行う前に実行される設定時シーケンスである。
【0110】
次に、粘度が未知の値である半田材サンプルについて、赤外分光計測部10による特定波数の赤外線に対する吸収度の計測結果から、その粘度を求める稼動時シーケンスを図12を参照して説明する。
【0111】
図12に示す稼動時シーケンスでは、先ずは、粘度が未知の値である半田材サンプル(未知サンプル)について赤外分光計測部10によって特定波数の赤外線に対する吸収度の計測を行う(S11)。この時、上記未知サンプルにおける半田材は、上述した設定時シーケンスにおいて検量線方程式が算出(特定)されている。
【0112】
上記S11にて計測された未知サンプルの赤外線吸収度は算出部40に送られ、算出部40において未知サンプルの粘度が算出される。すなわち、未知サンプルの赤外線吸収度と、記憶部30に記憶されている新品サンプルの赤外線吸収度とから、上述した(2)〜(4)式の何れかを用いて未知サンプルの特徴量Aが求められ、この特徴量Aをパラメータa〜cの特定された検量線方程式(すなわち(1)式)に代入することによって未知サンプルの粘度が求められる(S12)。
【0113】
上記S12において求められた未知サンプルの粘度は、一旦記憶部30に記憶され(S13)、その後、制御部60からの指示によって記憶部30から読み出されて(S14)、出力部50において出力される(S15)。
【0114】
尚、本実施の形態において、赤外分光計測部10の構成は上記図10の例に限定されるものではなく、図13に示すような構成とすることも可能である。
【0115】
図13の半田材検査装置100では、プレート13には、一方の面側と他方の面側との間で相互に光を透過させる透光領域(ZnSe等)13aが含まれている。そして、半田材16は、プレート13における一方の面側の透光領域13a上に配置される。
【0116】
さらに、プレート13における他方の面側に対向する位置に、光源11、バンドパスフィルタ12、光電変換器14が配され、さらに、ミラー17・18が配される。具体的には、光源11の光軸上に、光源11からの光の進行方向に沿ってミラー17を配置する。そして、ミラー17は、光源11から照射される光を透光領域13aの方向へ反射するように設置される。さらに、ミラー18は、透光領域13aからの光を光電変換器14の方向へ反射するように配置される。
【0117】
また、図10や図13に示した半田材検査装置100は、プリント基板の印刷装置200の近傍に備えられることにより、インライン分析用に変形することも可能である。すなわち、上記半田材検査装置100は、プリント基板の生産ラインにおける印刷工程で使用されている半田材の劣化度をインライン分析するために用いることが可能である。
【0118】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、上述した実施形態において開示された各技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0119】
なお、上記実施例の制御部60は、CPUなどの演算手段が、ROM(Read Only Memory)やRAMなどの記憶手段に記憶されたプログラムを実行し、キーボードなどの入力手段、ディスプレイなどの出力手段、あるいは、インターフェース回路などの通信手段を制御することにより実現することができる。したがって、これらの手段を有するコンピュータが、上記プログラムを記録した記録媒体を読み取り、当該プログラムを実行するだけで、制御部60の各種機能および各種処理を実現することができる。また、上記プログラムをリムーバブルな記録媒体に記録することにより、任意のコンピュータ上で上記の各種機能および各種処理を実現することができる。
【0120】
この記録媒体としては、マイクロコンピュータで処理を行うために図示しないメモリ、例えばROMのようなものがプログラムメディアであっても良いし、また、図示していないが外部記憶装置としてプログラム読取り装置が設けられ、そこに記録媒体を挿入することにより読取り可能なプログラムメディアであっても良い。
【0121】
また、何れの場合でも、格納されているプログラムは、マイクロプロセッサがアクセスして実行される構成であることが好ましい。さらに、プログラムを読み出し、読み出されたプログラムは、マイクロコンピュータのプログラム記憶エリアにダウンロードされて、そのプログラムが実行される方式であることが好ましい。なお、このダウンロード用のプログラムは予め本体装置に格納されているものとする。
【0122】
また、上記プログラムメディアとしては、本体と分離可能に構成される記録媒体であり、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フレキシブルディスクやハードディスク等の磁気ディスクやCD/MO/MD/DVD等のディスクのディスク系、ICカード(メモリカードを含む)等のカード系、あるいはマスクROM、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、フラッシュROM等による半導体メモリを含めた固定的にプログラムを担持する記録媒体等がある。
【0123】
また、インターネットを含む通信ネットワークを接続可能なシステム構成であれば、通信ネットワークからプログラムをダウンロードするように流動的にプログラムを担持する記録媒体であることが好ましい。
【0124】
さらに、このように通信ネットワークからプログラムをダウンロードする場合には、そのダウンロード用のプログラムは予め本体装置に格納しておくか、あるいは別な記録媒体からインストールされるものであることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の半田材検査方法、半田材検査装置は、プリント基板の生産ラインにおける印刷工程で使用されるペースト状の半田材を検査する方法、装置として好適であるが、このペースト状の半田材に限定されず、周知の半田材全般に広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】本発明の実施形態を示すものであり、半田材検査装置の要部構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施例の半田材検査方法における検査対象の半田材の含有成分および各成分の含有割合(重量%)を示す表である。
【図3】本発明の一実施例の半田材検査方法によって得られたチャートであって、検査対象の半田材の赤外線吸光度と、比較対象の半田材の赤外線吸光度とを示すスペクトルチャートである。
【図4】図3に示す検査対象の半田材の赤外線吸光度から比較対象の半田材の赤外線吸光度を差し引いて得られた吸光度差を示すチャートである。
【図5】特徴量Aと半田材の粘度との相関関係を示すグラフである。
【図6】(a)は、複数の検査対象について、各検査対象の半田材の赤外線吸光度から比較対象の半田材の赤外線吸光度を差し引いて得られた吸光度差を検査対象毎に示したチャートであり、(b)は、複数の検査対象について、印刷回数、粘度、所定波数の赤外線の吸光度を示した表である。
【図7】複数の検査対象について、各検査対象の半田材の赤外線吸光度から比較対象の半田材の赤外線吸光度を差し引いて得られた吸光度差を検査対象毎に示したチャートであり、1270cm−1〜1420cm−1の波数帯域についてのチャートである。
【図8】複数の検査対象について、各検査対象の半田材の赤外線吸光度から比較対象の半田材の赤外線吸光度を差し引いて得られた吸光度差を検査対象毎に示したチャートであり、1500cm−1〜1650cm−1の波数帯域についてのチャートである。
【図9】複数の検査対象について、各検査対象の半田材の赤外線吸光度から比較対象の半田材の赤外線吸光度を差し引いて得られた吸光度差を検査対象毎に示したチャートであり、1665cm−1〜1725cm−1の波数帯域についてのチャートである。
【図10】本発明の一実施例の半田材検査方法を実現する半田材検査装置を示す模式図である。
【図11】上記半田材検査装置による設定時シーケンスを示すタイミングチャートである。
【図12】上記半田材検査装置による稼動時シーケンスを示すタイミングチャートである。
【図13】図10に示す半田材検査装置の変形例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0127】
11 光源
12 バンドパスフィルタ
13 プレート
13a 透光領域
14 光電変換器(強度検出手段)
16 半田材
20 入力部
30 記憶部
40 算出部
50 出力部
60 制御部(制御手段)
100 半田材検査装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象の半田材に光を照射することによって該検査対象の半田材から反射する特定波数の赤外線の第一強度を検出する第一検出工程と、
比較対象の半田材に上記光を照射することによって該比較対象の半田材から反射する上記特定波数の赤外線の第二強度を検出する第二検出工程と、
上記検出された第一および第二強度に基づき、上記検査対象の半田材の粘度を検査する検査工程と、
を含むことを特徴とする半田材検査方法。
【請求項2】
上記検査工程においては、
上記第一強度に基づき、上記検査対象の半田材における上記特定波数の第一赤外線吸光度を求め、
上記第二強度に基づき、上記比較対象の半田材における上記特定波数の第二赤外線吸光度を求め、
上記第二赤外線吸光度に基づいて特定される検量線方程式に、上記第一赤外線吸光度を代入することによって上記検査対象の半田材の粘度を算出することを特徴とする請求項1に記載の半田材検査方法。
【請求項3】
上記特定波数は、1270cm−1〜1430cm−1の範囲に含まれる波数であることを特徴とする請求項1または2に記載の半田材検査方法。
【請求項4】
上記特定波数は、1500cm−1〜1650cm−1の範囲に含まれる波数であることを特徴とする請求項1または2に記載の半田材検査方法。
【請求項5】
上記特定波数は、1665cm−1〜1730cm−1の範囲に含まれる波数であることを特徴とする請求項1または2に記載の半田材検査方法。
【請求項6】
上記特定波数は、半田材に含まれる塩が吸収する赤外線の波数帯域に含まれる波数であることを特徴とする請求項1または2に記載の半田材検査方法。
【請求項7】
上記特定波数は、半田材に含まれる酸が吸収する赤外線の波数帯域に含まれる波数であることを特徴とする請求項1または2に記載の半田材検査方法。
【請求項8】
上記塩は、カルボン酸塩であることを特徴とする請求項6に記載の半田材検査方法。
【請求項9】
上記酸は、カルボン酸であることを特徴とする請求項7に記載の半田材検査方法。
【請求項10】
検査対象の半田材および比較対象の半田材に光を照射する光源と、
上記光が照射されることによって検査対象の半田材から反射する特定波数の赤外線の第一強度を検出し、上記光が照射されることによって比較対象の半田材から反射する該特定波数の赤外線の第二強度を検出する強度検出手段と、
上記検出された第一および第二強度に基づいて、上記検査対象の半田材の粘度を出力する制御手段と、
を含むことを特徴とする半田材検査装置。
【請求項11】
上記制御手段は、
上記第一強度に基づき、上記検査対象の半田材における上記特定波数の第一赤外線吸光度を求め、
上記第二強度に基づき、上記比較対象の半田材における上記特定波数の第二赤外線吸光度を求め、
上記第二赤外線吸光度に基づいて特定される検量線方程式に、上記第一赤外線吸光度を代入することによって上記検査対象の半田材の粘度を算出することを特徴とする請求項10に記載の半田材検査装置。
【請求項12】
半田材検査装置の制御プログラムであって、請求項10に記載の制御手段における機能をコンピュータで実現する制御プログラム。
【請求項13】
請求項12に記載の制御プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−192596(P2007−192596A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−9280(P2006−9280)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【特許番号】特許第3824021号(P3824021)
【特許公報発行日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】