説明

半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットおよびそれを成形してなる成形体

【課題】高い耐熱性に加えて、機械的特性を向上させた半芳香族ポリアミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】テレフタル酸成分と炭素数8〜12の直鎖脂肪族ジアミン成分とからなる半芳香族ポリアミド100質量部および繊維状強化材5〜300質量部を含有する半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットであって、前記繊維状強化材が無機繊維であるか、融点または分解温度のいずれか低い方が前記半芳香族ポリアミドの融点を超える有機繊維であり、前記繊維状強化材の長さと前記半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットの長さが実質的に等しく、前記繊維状強化材の表面における半芳香族ポリアミドによる被覆率が50%以上である半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的特性を向上させた半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド6T、ポリアミド9Tに代表される半芳香族ポリアミドは、耐熱性に優れていることから、電気・電子部品、自動車の各種成形材料として使用されている。これらの分野においては、機械的強度を向上させるため、半芳香族ポリアミドを短繊維の繊維状強化材で補強することが知られている。しかしながら、この方法では押出機での混練中に繊維の折損が避けられず、配合される繊維状強化材が本来有する性能を十分に引き出すことが困難であった。そのため、繊維の損傷が少なく、機械的特性に優れた成形品を提供することができる方法として、連続した繊維状強化材の繊維束を半芳香族ポリアミド内に通過させることにより、繊維束に樹脂を含浸させて、半芳香族ポリアミドと繊維状強化材を混合する引抜成形法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−274061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の樹脂組成物は、単に繊維状強化材の繊維束を、溶融させた半芳香族ポリアミドを通して作製しているため、半芳香族ポリアミド中に繊維束を個々の繊維にまで分散させることが難しく、繊維状強化材による補強効率が悪く、機械的強度の向上が不十分であった。
【0005】
本発明は、優れた耐熱性に加えて、機械的特性を向上させた半芳香族ポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
【0007】
(1)テレフタル酸成分と炭素数8〜12の直鎖脂肪族ジアミン成分とからなる半芳香族ポリアミド100質量部および繊維状強化材5〜300質量部を含有する半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットであって、前記繊維状強化材が無機繊維であるか、融点または分解温度のいずれか低い方が前記半芳香族ポリアミドの融点を超える有機繊維であり、前記繊維状強化材の長さと前記半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットの長さが実質的に等しく、前記繊維状強化材の表面における半芳香族ポリアミドによる被覆率が50%以上である半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレット。
(2)繊維状強化材が、ガラス繊維、炭素繊維および全芳香族ポリアミド繊維からなる群より選ばれた1種以上であることを特徴とする(1)に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレット。
(3)(1)または(2)に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットを製造するに際し、繊維状強化材の繊維束を、溶融状態にある半芳香族ポリアミド内を通過させ、繊維状強化材の繊維束を開繊させながら該半芳香族ポリアミドを含浸させ、次いで冷却した後に、切断することを特徴とする半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットの製造方法。
(4)(1)または(2)に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットを成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来の半芳香族ポリアミド樹脂組成物が有する優れた耐熱性に加えて、機械的特性を向上させた半芳香族ポリアミド樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットにおける、繊維状強化材の半芳香族ポリアミドによる被覆率を測定するための方法を説明するための図である。
【図2】本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットの製造に用いる含浸装置の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットは、半芳香族ポリアミドと繊維状強化材から構成される。
【0011】
本発明で用いる半芳香族ポリアミドは、ジカルボン酸成分とジアミン成分とから構成される。
【0012】
半芳香族ポリアミドを構成するジカルボン酸成分は、テレフタル酸を主成分として用いる必要がある。テレフタル酸は芳香族ジカルボン酸の中でも化学構造の対称性が高いため、機械的特性や耐熱性に優れた半芳香族ポリアミドを得ることができる。
【0013】
半芳香族ポリアミドを構成するジアミン成分は、炭素数が8〜12の直鎖脂肪族ジアミンを主成分として用いる必要がある。これらのジアミンは、化学構造の対称性が高いため、耐熱性が高い半芳香族ポリアミドを得ることができる。炭素数が8〜12の直鎖脂肪族ジアミンとしては、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミンが挙げられる。中でも、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミンがより好ましい。一般的に、半芳香族ポリアミドにおいては、いわゆる偶奇効果が発現し、用いられるジアミンの炭素数が偶数である場合の方が、炭素数が奇数である場合よりも、より安定な結晶構造をとり、耐熱性が高いためである。ジアミンの炭素数が8未満の場合、得られる半芳香族ポリアミドの融点が340℃を超え、アミド結合の分解温度を上回るため好ましくない。一方、ジアミンの炭素数が12を超える場合、得られる半芳香族ポリアミドの耐熱性が不足するため好ましくない。
【0014】
本発明で用いる半芳香族ポリアミドには、主成分となるテレフタル酸成分以外の他のジカルボン酸成分、および/または炭素数が8〜12である直鎖脂肪族ジアミン成分以外の種類の他のジアミン成分(以下、「共重合成分」と略称する場合がある。)が共重合されていてもよい。共重合成分は、原料モノマーの総モル数に対し、5モル%以下とすることが好ましく、実質的に共重合成分を含まないことがより好ましい。共重合成分を5モル%以下とすることで、機械的特性や耐熱性を向上させることができる。
【0015】
他のジカルボン酸成分としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0016】
他のジアミン成分としては、1,2−エタンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン等の脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン等の脂環式ジアミン、キシリレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。
【0017】
半芳香族ポリアミドには、必要に応じて、カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸や11−アミノウンデカン酸等のω−アミノカルボン酸を共重合させてもよい。
【0018】
半芳香族ポリアミドの重量平均分子量は、15,000〜50,000であることが好ましく、20,000〜50,000であることがより好ましく、26,000〜50,000であることがさらに好ましい。半芳香族ポリアミドの重量平均分子量を15,000〜50,000とすることで、射出成形時の流動性を維持しつつも、機械的特性を向上させることができる。
【0019】
半芳香族ポリアミドの相対粘度は、特に限定されず、目的に応じて適宜設定すればよい。例えば、成形加工が容易な半芳香族ポリアミドを得ようとすれば、相対粘度を2.0以上とすることが好ましい。
【0020】
本発明で用いる半芳香族ポリアミドは、トリアミン量が十分に低減されていることが好ましい。半芳香族ポリアミドは、重合時におけるジアミン同士の縮合反応により、トリアミン構造が副生し易い。トリアミン量が多いと、分子鎖中に架橋構造が生成し、その架橋構造は分子鎖の動きや配列を束縛するため、結晶性が低下する。また、トリアミン量が多いと、ゲルが多く発生するため、得られる成形体の表面にフィッシュアイやブツとして存在し、表面外観を損ねる原因となることがある。そのため、半芳香族ポリアミド中に含まれるトリアミン単位は、ジアミン単位の0.3モル%以下であることが好ましく、0.15モル%以下であることがより好ましく、0.12モル%以下であることがさらに好ましく、0.10モル%以下であることが特に好ましい。半芳香族ポリアミド中のトリアミン構造がジアミン単位の0.3モル%を超える場合には、結晶性が低下したり、ゲルが発生して得られる成形体の表面平滑性を損ねたり、色調が低下することがある。
【0021】
トリアミン単位をジアミン単位の0.3モル%以下とするためには、テレフタル酸成分とジアミン成分とから塩を生成する際、水や有機溶剤の配合量を、原料モノマーの合計100質量部に対して5質量部以下とすることが好ましく、0.5質量部未満とすることがより好ましく、全く使用しないことがさらに好ましい。
【0022】
本発明で用いる半芳香族ポリアミドは、従来から知られている加熱重合法や溶液重合法の方法を用いて製造することができる。中でも、工業的に有利である点から、加熱重合法が好ましく用いられる。
【0023】
加熱重合法としては、モノマーから反応物を得る工程(i)と、反応物を重合する工程(ii)からなる方法が挙げられる。本発明においては、トリアミン単位がジアミン単位の0.3モル%以下である半芳香族ポリアミドを得るために、工程(i)の段階を、重合系中の水分や溶媒が少ない条件、すなわち、ジカルボン酸とジアミンの合計100質量部に対して、水と有機溶剤の合計量が5質量部以下である水および/または有機溶剤の存在下で実施することが好ましい。
【0024】
工程(i)としては、例えば、ジカルボン酸粉末を予めジアミンの融点以上かつジカルボン酸の融点以下の温度に加熱し、ジアミンの融点以上かつジカルボン酸の融点以下の温度において、ジカルボン酸の粉末の状態を保つように、実質的に水を含有させずに、ジアミンをジカルボン酸粉末に添加する方法が挙げられる。あるいは、別の方法として、溶融状態のジアミンと固体のテレフタル酸からなる懸濁液を攪拌混合し、混合液を得た後、最終的に生成する半芳香族ポリアミドの融点未満の温度で、テレフタル酸とジアミンとの反応による塩の生成と、前記塩の重合による低重合物の生成反応とをおこない、塩および低重合物の混合物を得る方法が挙げられる。この場合、反応をさせながら破砕をおこなってもよいし、反応後に一旦取り出してから破砕をおこなってもよい。工程(i)としては、反応物の形状の制御が容易な前者の方法の方が好ましい。
【0025】
工程(ii)としては、例えば、工程(i)で得られた反応物を、最終的に生成する半芳香族ポリアミドの融点未満の温度で固相重合し、所定の分子量まで高分子量化させ、半芳香族ポリアミドを得る方法が挙げられる。固相重合は、重合温度180〜270℃、反応時間0.5〜10時間で窒素等の不活性ガス気流中でおこなうことが好ましい。
【0026】
半芳香族ポリアミドの製造において、重合の効率を高めるため重合触媒を用いたり、重合度の調整、熱分解や着色を抑制するため末端封止剤を用いたりすることができる。
【0027】
重合触媒としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸またはそれらの塩が挙げられ、重合触媒の添加量としては、通常、ジカルボン酸とジアミンの総モルに対して、2モル%以下で用いることが好ましい。
【0028】
末端封鎖剤としては、酢酸、ラウリン酸、安息香酸等のモノカルボン酸、オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン等のモノアミンが挙げられ、これらいずれか一種、あるいはこれらを組み合わせて用いられる。末端封鎖剤の添加量としては、通常、ジカルボン酸成分とジアミン成分の合計に対して5モル%以下で用いることが好ましい。
【0029】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、半芳香族ポリアミド100質量部に対し、繊維状強化材5〜300質量部含有させる必要がある。繊維状強化材の配合量が5質量部未満では、機械的特性の向上が少ないので好ましくない。一方、配合量が300質量部を超える場合には、機械的特性の補強効率が低下するばかりでなく、引抜成形時の作業性が低下し、半芳香族ポリアミド樹脂組成物のペレットを得ることが困難となる場合があるので好ましくない。また、射出成形時の流動性が低下するため、成形体を得る際に、該成形体の外観や品質が均一なものとならない場合がある。
【0030】
本発明で用いる繊維状強化材は、無機繊維であるか、融点または分解温度のいずれか低い方が芳香族ポリアミドの融点を超える有機繊維であることが必要である。有機繊維の場合、融点または分解温度のいずれか低い方が、(芳香族ポリアミドの融点+20℃)以上であることがより好ましく、(芳香族ポリアミドの融点+100℃)以上であることがさらに好ましい。有機繊維の融点または分解温度のいずれか低い方が、芳香族ポリアミドの融点以下であると、半芳香族ポリアミドペレットを作製する際に、繊維状強化材が溶融し芳香族ポリアミドと混合され、補強効果が得られないので好ましくない。無機繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維、セラミックス繊維、玄武岩繊維が挙げられる。有機繊維としては、例えば、全芳香族ポリアミド繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維が挙げられる。中でも、入手しやすいことから、ガラス繊維、炭素繊維および全芳香族ポリアミド繊維が好ましい。これらの繊維状強化材は2種以上を併用してもよい。
【0031】
繊維状強化材は、繊維自身を補強するためや、繊維状強化材と半芳香族ポリアミドとの親和性や接着性を改良し、機械的特性を向上させるため、例えば、シランカップリング剤、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、ダイマー酸誘導体樹脂等の表面処理剤で表面処理されていてもよい。中でも、汎用性が高いことから、シランカップリング剤が好ましい。
【0032】
シランカップリング剤としては、例えば、ビニルシラン系、アクリルシラン系、エポキシシラン系、アミノシラン系が挙げられ、中でも、半芳香族ポリアミドと繊維状強化材との密着効果を得やすいことから、アミノシラン系カップリング剤が好ましい。
【0033】
繊維状強化材表面への表面処理剤の付着量は、特に限定されないが、繊維状強化材100質量部あたり、0.1〜10質量部(固形分)であることが好ましい。付着量を0.1〜10質量部(固形分)とすることで、表面処理剤の余剰分同士が固まることなく、繊維状強化材の全周を効率よく表面処理することができる。
【0034】
繊維状強化材に表面処理剤を付着させる方法としては、例えば、スプレー法、コーティング法、ディップ法等の公知の方法が挙げられ、中でも、ディップ法が好ましい。
【0035】
ディップ法とは、表面処理剤の水分散液に繊維状強化材を浸漬させた後、水分をディップ等で絞り出し、さらに残った水分を乾燥させることにより、表面処理された繊維状強化材を得る方法である。乾燥は連続した繊維状強化材を引き取る時に、熱風乾燥機の中を通過させることによりおこなうことが好ましい。
【0036】
繊維状強化材の配合方法は、その補強効果が損なわれなければ特に限定されないが、引抜成形法が好適に用いられる。引抜成形法とは、連続した繊維状強化材の繊維束(以下、「繊維束」と略称する場合がある。)を溶融状態にある半芳香族ポリアミド内に通過させることにより、繊維束に半芳香族ポリアミドを含浸させて、半芳香族ポリアミドと繊維状強化材とを混合する方法である。
【0037】
引抜成形法に用いる含浸装置の例を図1に示す。含浸装置は、芯鞘タイプの含浸ダイ3、およびアウトダイ5(非直線構造を有する貫通部)が接合部品6により連結されているものである。繊維束1が、含浸ダイ3内の空洞部8を通って、繊維束導入口4に導入される。それと同時に、溶融樹脂導入口2(取付部品7により溶融押出混練機の吐出側と連結されている)から吐出される溶融状態の半芳香族ポリアミドを流入させて、繊維束1を半芳香族ポリアミドに接触させる。そして、アウトダイ5(非直線構造を有する貫通部)に通すことにより、繊維束1を、移動中心軸に対し徐々に偏心させ蛇行させ、ストランド状の半芳香族ポリアミドと繊維束とを含有する樹脂組成物を作製することができる。なお、非直線構造とは、引き抜き方向とは平行でない部分を有する構造を言い、例えば、蛇行構造、螺旋構造、ジグザグ構造、階段構造が挙げられる。中でも、蛇行構造が好ましい。非直線構造の貫通部を通過させることによって、繊維束を開繊させながら、繊維束にしごきを与え、繊維束中に含有する空気の排出を促進させ、溶融した半芳香族ポリアミドを効率よく含浸させることができる。
【0038】
半芳香族ポリアミドと繊維束の比率は、繊維束の引き取り速度と半芳香族ポリアミドの吐出量で調整することができる。繊維束は、引きながら溶融した半芳香族ポリアミドを通過させることが好ましい。
【0039】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットは、半芳香族ポリアミドと繊維状強化材とを含有する樹脂組成物をストランド状に押し出した後、冷却、裁断することにより得ることができる。裁断機としては、ストランドカッター、ロータリーカッター、スライドカット式カッターが好ましく、ロータリーカッター、スライドカット式カッターがより好ましい。ロータリーカッター、スライドカット式カッターを用いて裁断することで、半芳香族ポリアミドが繊維束から剥がれ落ちることを防止できる。
【0040】
引抜成形法においては、前記のような製造プロセスに由来して、繊維状強化材の長さと樹脂組成物の長さは実質的に等しくなる。ここで、「長さが実質的に等しい」とは、裁断後の組成物の長さが、組成物中の繊維状強化材の平均繊維長の90〜110%となることをいう。
【0041】
なお、繊維状強化材の長さと樹脂組成物の長さが実質的に等しい場合、結果として、繊維状強化材の長さ方向と、ペレットの長さ方向とが実質的に平行となる。ここで、「実質的に平行になる」とは、繊維状強化材が、顕著に屈曲することなく、繊維のいずれの部分もペレットの長さ方向に対して0°〜15°程度の角度となることをいう。
【0042】
組成物長、すなわち、組成物中の繊維状強化材の繊維長は、3〜30mmとすることが好ましい。組成物中の繊維状強化材の繊維長が3mm未満であると、補強効果に劣る場合があり、一方、30mmを超えると、成形性に悪影響を及ぼす場合がある。また、繊維径は3〜200μmとすることが好ましい。繊維径が3μm未満であると、引抜成形時に折損または断糸しやすく、一方、200μmを超えると、補強効果に劣る場合がある。また、断面形状として、円形断面である繊維状強化材を好ましく用いることができるが、必要に応じて、長方形、楕円、それ以外の異形断面である繊維状強化材を用いることができる。
【0043】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットにおいて、繊維状強化材の表面における半芳香族ポリアミドによる被覆率は50%以上であることが必要であり、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。繊維状強化材の半芳香族ポリアミドによる被覆率が50%未満であると、繊維状強化材と半芳香族ポリアミドの密着性が低下し、本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットより得られる成形体の機械的特性が低下するので好ましくない。また、半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットを所定の長さに裁断する際に、繊維状強化材からの半芳香族ポリアミドの脱落が多発する。
【0044】
本発明において、繊維状強化材の半芳香族ポリアミドによる被覆率とは、繊維状強化材の繊維束を構成する繊維状強化材の全繊維本数あたりの、半芳香族ポリアミドにより、その外周を被覆された繊維状強化材の繊維の本数の比率と定義する。ここで、繊維状強化材の繊維1本の全外周が半芳香族ポリアミドと接している状態を「被覆されている」と判定し、一方、繊維状強化材の繊維1本の外周において、隣接する繊維状強化材との間に隙間がなく、半芳香族ポリアミドと接していない部分がある場合は「被覆されていない」と判定する。つまり、該ペレット中の繊維状強化材は、半芳香族ポリアミドに被覆しているか、もしくは被覆されていないかのいずれかである。
【0045】
上記の被覆率の求め方を、図2を用いて説明する。図2は、本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットの断面を示すものであり、主成分となる半芳香族ポリアミド12中に、繊維状強化材の繊維が10本存在している。そして、半芳香族ポリアミドにより被覆されている繊維状強化材の繊維11が5本存在している。また、隣接する繊維状強化材の繊維との間に隙間がなく、つまり、半芳香族ポリアミドにより被覆されていない繊維状強化材の繊維10が5本存在している。
【0046】
後述のように、繊維状強化材の被覆率(r)(%)は、[半芳香族ポリアミドに被覆されている繊維状強化材の繊維本数(本)/繊維状強化材の全繊維本数(本)]×100により求められる。すなわち、図1の場合のビニロン繊維の半芳香族ポリアミドによる被覆率は、(5/10)×100=50(%)となる。
【0047】
半芳香族ポリアミド樹脂組成物を用いて成形をおこなう方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法が挙げられる。中でも、機械的特性、成形性を十分に向上させることができることから、射出成形法を好ましく用いることができる。射出成形機としては、特に限定されないが、例えば、スクリューインライン式射出成形機、プランジャ式射出成形機が挙げられる。射出成形機のシリンダー内で加熱溶融された半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、ショットごとに計量され、金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化された後、成形体として金型から取り出される。射出成形時の樹脂温度は、半芳香族ポリアミド樹脂組成物の融点以上とする必要があり、(融点+100℃)未満とすることが好ましい。なお、半芳香族ポリアミド樹脂組成物の加熱溶融時には、用いる半芳香族ポリアミド樹脂組成物は十分に乾燥されたものを用いることが好ましい。含有する水分量が多いと、射出成形機のシリンダー内で樹脂が発泡し、最適な成形体を得ることが困難となることがある。射出成形に用いる半芳香族ポリアミド樹脂組成物の水分率は0.3質量%未満が好ましく、0.1質量%未満がより好ましい。
【0048】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて、充填材、顔料等の添加剤を加えてもよい。添加剤としては、例えば、タルク、膨潤性粘土鉱物、シリカ、アルミナ、ガラスビーズ、グラファイト等の充填材、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤が挙げられる。
【0049】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、示差走査熱量計を用いて測定した過冷却度が40℃以下の範囲を満たし、結晶化速度が速いため、成形体の加工時、特に射出成形において成形サイクルを短縮することができ、成形コストの低減に寄与することができる。
【0050】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、機械的特性および耐熱性が共に優れているため、自動車部品、電気電子部品、雑貨、土木建築用品等の広範な用途に使用できる。中でも、繊維状強化材による補強効果を生かして、耐久消費財用途で用いることが可能であり、自動車部品、電気電子部品に好適に用いることができる。自動車部品用途としては、例えば、エンジンカバー、エアインテークマニホールド、スロットルボディ、エアインテークパイプ、ラジエタータンク、ラジエターサポート、ラジエターホース、ラジエターグリル、タイミングベルトカバー、ウォーターポンプインレット、ウォーターポンプアウトレット、クーリングファン、ファンシュラウド、エンジンマウント等のエンジン周辺部品、プロペラシャフト、スタビライザーバーリンケージロッド、アクセルペダル、ペダルモジュール、シールリング、ベアリングリテーナー、ギア等の機構部品、オイルパン、オイルフィルターハウジング、オイルフィルターキャップ、オイルレベルゲージ、燃料タンク、燃料チューブ、フューエルカットオフバルブ、キャニスター、フューエルデリバリーパイプ、フューエルフィラーネック、フューエルセンダーモジュール、燃料配管用継手等の燃料・配管系部品、ワイヤーハーネス、リレーブロック、センサーハウジング、エンキャプシュレーション、イグニッションコイル、ディストリビューター、サーモスタットハウジング、クイックコネクター、ランプリフレクタ、ランプハウジング、ランプエクステンション、ランプソケット等の電装系部品、リアスポイラー、ホイールカバー、ホイールキャップ、カウルベントグリル、エアアウトレットルーバー、エアスクープ、フードバルジ、フェンダー、バックドア、シフトレバーハウジング、ウインドーレギュレータ、ドアロック、ドアハンドル、アウトサイドドアミラーステー等の各種内外装部品が挙げられる。また、電気電子部品用途としては、例えば、コネクタ、LEDリフレクタ、スイッチ、センサー、ソケット、コンデンサー、ジャック、ヒューズホルダー、リレー、コイルボビン、抵抗器、IC、LEDのハウジングが挙げられる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
1.測定方法
(1)半芳香族ポリアミドの相対粘度
96質量%硫酸を溶媒とし、濃度1g/dL、25℃で測定した。
【0052】
(2)半芳香族ポリアミドの重量平均分子量
東ソー社製ゲル浸透クロマトグラフィ装置を用い、下記条件で調整した試料溶液にてGPC分析をおこなった後、ポリメチルメタクリレート(ポリマーラボラトリーズ社製)を標準試料として作成した検量線を用いて、重量平均分子量を求めた。
<試料調整>
半芳香族ポリアミド5mgに10mMトリフルオロ酢酸ナトリウム含有ヘキサフルオロイソプロパノール2mlを加えて溶解後、ディスクフィルターで濾過した。
<条件>
・検出器:示差屈折率検出器RI−8010(東ソー社製)
・溶離液:10mMトリフルオロ酢酸ナトリウム含有ヘキサフルオロイソプロパノール
・流速:0.4ml/分
・温度:40℃
【0053】
(3)半芳香族ポリアミドの降温結晶化温度、融点、過冷却度
パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC−7を用い、昇温速度20℃/分で350℃まで昇温した後、350℃で5分間保持し、降温速度20℃/分で25℃まで降温した際の発熱ピークのトップを与える温度を降温結晶化温度(Tcc)、さらに25℃で5分間保持後、再び昇温速度20℃/分で昇温測定した際の吸熱ピークのトップを融点(Tm)とした。融点と降温結晶化温度の差(Tm−Tcc)を過冷却度とした。
【0054】
(4)半芳香族ポリアミド中のトリアミン量
半芳香族ポリアミド10mgに47%臭化水素酸を3mL加え、130℃で20時間加熱後、蒸発乾固し、さらに80℃2時間減圧乾燥した。これにピリジン2mL、N,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド1mLを加え、90℃で30分加熱した。冷却後、メンブランフィルターでろ過した溶液を、質量分析計を備えたガスクロマトグラフィー装置で分析した。別に測定した標準物質のジアミンとトリアミンにより得た検量線を用いて半芳香族ポリアミド中のジアミンとトリアミンを定量し、ジアミンに対するトリアミンのモル比を算出した。トリアミンの標準物質は、酸化パラジウムを触媒として用いて、オートクレーブ中にてジアミンを240℃で3時間加熱撹拌して反応させて得たトリアミン化合物を用いた。
【0055】
(5)繊維束表面への表面処理剤の付着量
繊維束を長さ100mmで切り出し、繊維束1本あたりの質量を5点測定し、その平均値をWgとした。一方、表面処理剤を用いて表面処理を行った後の強化繊維束を、熱風乾燥機中110℃で2時間乾燥させ、該繊維束をデシケーターに移し室温まで冷却した。その後、該繊維束を100mmで切り出し、繊維束1本あたりの質量を5点測定し、その平均値をWgとした。表面処理剤の付着量は次式で求めた。
表面処理剤の付着量(質量%)=[(W−W)/W]×100
【0056】
(6)繊維強化材の熱分解開始温度
パーキンエルマー社製TGA−7を用いて、試料10mgを、窒素雰囲気下30℃から10℃/分で昇温し、重量減少率が20%となる温度を熱分解開始温度とした。
【0057】
(7)ペレット中の繊維状強化材の繊維長
実施例および比較例で得られた半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットを、400℃に設定した溶融炉に24時間入れて成形片の半芳香族ポリアミド成分を焼却し、繊維状強化材を得た。マイクロスコープを用いて、繊維状強化材の長さを100点測定し、平均の長さを求めた。
【0058】
(8)繊維状強化材の半芳香族ポリアミドによる被覆率(R)
半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットの略円形切断面が水平になるよう設置し、周辺を冷間埋込樹脂(成分:不飽和ポリエステル)で包埋し、該樹脂を十分に硬化させた。その後、切断面を研磨し、半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットの新たな端面を露出させた。ここで、半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットの端面において、中心と周を結ぶ直線で面積が均等に8分割された扇形の部分、すなわち、半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレット扇形端面につき、以下の観察を行なった。
【0059】
半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットの扇形端面を偏光顕微鏡により観察し、前記被覆率の判定基準に従い、扇形端面における、繊維状強化材の全繊維本数と、外周が半芳香族ポリアミドに被覆されている繊維状強化材の繊維本数を計測した。そして、次式により半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレット1個についての繊維状強化材の被覆率(r)を算出した。
繊維状強化材の被覆率(r)(%)=[半芳香族ポリアミド樹脂に被覆されている繊維状強化材の繊維本数(本)/繊維状強化材の全繊維本数(本)]×100
任意に選ばれた半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレット100粒について、被覆率(r)を算出し、その平均値を繊維状強化材の被覆率(R)とした。
【0060】
(9)曲げ強度、曲げ弾性率
実施例および比較例で得られた半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットを十分に乾燥した後、射出成形機(東芝機械社製、「EC−100型」)を用いて射出成形をおこない、縦8mm×横10mm×厚み4mmの成形片を作製した。シリンダー温度は(融点+25℃)、金型温度は(融点−185℃)、射出圧力は100MPa、射出時間は10秒、取り出し時間は5秒とした。
得られた成形片を用いて、ASTM D790に従って測定した。実用上、曲げ強度は160MPa以上が好ましく、曲げ弾性率は4GPa以上が好ましい。
【0061】
(10)衝撃強度
(9)で得られた成形片にノッチを付けて、ISO179に従って測定した。実用上、10kJ/m以上が好ましい。
【0062】
2.原料
実施例および比較例で用いた原料を以下に示す。
【0063】
(1)ジカルボン酸成分
・テレフタル酸
・イソフタル酸
【0064】
(2)ジアミン成分
・1,8−オクタンジアミン
・1,9−ノナンジアミン
・1,10−デカンジアミン
・1,12−ドデカンジアミン
【0065】
(3)繊維状強化材
無機繊維
・GF:ガラス繊維束(日本電気硝子社製、商品名「ER2400T―448N」)、平均繊維径 17μm
・CF:炭素繊維束(東邦テナックス社製、商品名「IMS40」)、平均繊維径6.4μm
有機繊維
・AF:アラミド繊維束(帝人テクノプロダクツ社製、商品名「テクノーラ SK303」)、平均繊維径12μm、熱分解開始温度 500℃
【0066】
(4)表面処理剤で処理した繊維状強化材
・S−GF:
シランカップリング剤(N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、「KBM−603」)を1質量%水溶液とした。その後、前記水溶液に、ガラス繊維束を浸漬し、130℃で乾燥させながら引き取り、表面処理済ガラス繊維束(S−GF)を得た。ガラス繊維束100質量部への表面処理済の付着量は、固形分で0.3質量部であった。
【0067】
製造例1
[工程(i)]
ジアミン成分として1,10−デカンジアミン(5050質量部)、ジカルボン成分として粉末状テレフタル酸(4870質量部)、末端封鎖剤として安息香酸(72質量部)、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物(6質量部)をオートクレーブに入れ、100℃に加熱後、ダブルヘリカル型の攪拌翼を用いて回転数28rpmで撹拌を開始し、1時間加熱した。原料モノマーのモル比は、1,10−デカンジアミン:テレフタル酸=50:50であった。この混合物を、回転数を28rpmに保ったまま230℃昇温し、引き続き230℃で3時間加熱した。その際、塩と低重合体の生成反応と破砕は同時におこなった。その後、反応により生じた水蒸気を放圧し、反応物を得た。
【0068】
[工程(ii)]
工程(i)で得られた反応物を、乾燥機中、常圧窒素気流下、230℃で5時間加熱して重合しポリアミド(P−1)を得た。
【0069】
製造例2
[工程(i)]
ジカルボン成分としてテレフタル酸粉末(4870質量部)、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム(6質量部)、末端封鎖剤としての安息香酸(72質量部)を、リボンブレンダー式の反応装置に入れ、窒素密閉下、ダブルヘリカル型の攪拌翼を用いて回転数30rpmで撹拌しながら170℃に加熱した。その後、温度を170℃に保ち、かつ回転数を30rpmに保ったまま、液注装置を用いて、100℃に加温したデカンジアミン(5050質量部)を、28質量部/分の速度で、3時間かけて連続的(連続液注方式)にテレフタル酸粉末に添加し反応物を得た。原料モノマーのモル比は、1,10−デカンジアミン:テレフタル酸=50:50であった。
【0070】
[工程(ii)]
工程(i)で得られた反応物を、引き続き工程(i)で用いたリボンブレンダー式の反応装置内で、窒素気流下、230℃に昇温し、230℃で5時間加熱して重合しポリアミド(P−2)を得た。
【0071】
製造例3〜5および7
樹脂組成、製造条件を表1のように変更する以外は、製造例2と同様にしてポリアミドを得た。
【0072】
製造例6
[工程(i)]
ジアミン成分として1,10−デカンジアミン(5050質量部)、ジカルボン成分として粉末状テレフタル酸(4870質量部)、末端封鎖剤として安息香酸(72質量部)、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物(6質量部)、蒸留水400質量部(原料モノマーの合計量100質量部に対して4質量部)をオートクレーブに入れ、100℃に加熱後、回転数28rpmで撹拌を開始し、1時間加熱した。原料モノマーのモル比は、1,10−デカンジアミン:テレフタル酸=50:50であった。この混合物を、回転数を28rpmに保ったまま230℃に昇温し、引き続き230℃で3時間加熱した。その際、塩と低重合体の生成反応と破砕は同時におこなった。その後、反応により生じた水蒸気を放圧し、反応物を得た。
【0073】
[工程(ii)]
工程(i)で得られた反応物を、乾燥機中、常圧窒素気流下、230℃で5時間加熱して重合しポリアミド(P−6)を得た。
【0074】
製造例8
[工程(i)]
ジアミン成分として1,10−デカンジアミン(5050質量部)、ジカルボン酸成分として平均粒径80μmの粉末状テレフタル酸(4870質量部)、末端封鎖剤として安息香酸(72質量部)、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物(6質量部)、蒸留水9200質量部(原料モノマーの合計量100質量部に対して、92質量部)をオートクレーブに入れ、100℃に加熱後、回転数28rpmで撹拌を開始し、1時間加熱した。原料モノマーのモル比は、1,10−デカンジアミン:テレフタル酸=50:50であった。この混合物を、回転数を28rpmに保ったまま230℃に昇温し、引き続き230℃で3時間加熱した。その際、塩と低重合体の生成反応と破砕は同時におこなった。その後、反応により生じた水蒸気を放圧し、反応物を得た。
【0075】
[工程(ii)]
工程(i)で得られた反応物を、乾燥機中、常圧窒素気流下、230℃で5時間加熱して重合しポリアミド(P−8)を得た。
【0076】
製造例8は、原料モノマーの合計量100質量部に対して、蒸留水を92質量部用いて重合をおこなった。そのため、ポリアミド(P−8)は、ポリアミド(P−1)と比較して、重量平均分子量が顕著に低く、トリアミン量が顕著に多かった。
【0077】
製造例9
蒸留水の添加量を表1のように変更する以外は、製造例6と同様にしてポリアミドを得た。
【0078】
製造例10、11
末端封鎖剤の添加量を変更する以外は、製造例1と同様にしてポリアミドを得た。
【0079】
表1に、ポリアミドの樹脂組成、製造条件およびその特性値を示す。
【0080】
【表1】

【0081】
実施例1
二軸押出機(池貝製作所製、「PCM−30」)の先端に、図1の含浸ダイ(縦1.5×横2.0mmの繊維束導入口、アウトダイ5に蛇行構造を有する。)を取り付け、長繊維樹脂含浸装置とした。半芳香族ポリアミド(P−1)を長繊維樹脂含浸装置の主ホッパーに供給し、330℃で溶融した。含浸ダイに貫通させてあったガラス繊維束と、溶融した(Pー1)とを含浸ダイ内で接触させた。100質量部の(P−1)に対して、ガラス繊維束が100質量部になるように調整し、押し出し、2個の回転するロールの間を通して引き取った。その後、ロータリーカッターで裁断し、ペレット長が10mmである半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。
【0082】
実施例2〜19、比較例1
配合組成を変更する以外は、実施例1と同様にして半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。
【0083】
比較例2
含有するガラス繊維の配合量を変更した以外は、実施例1と同様にして半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットを得ようと試みたが、ガラス繊維束の配合量が過剰であったため、ガラス繊維束中に溶融した半芳香族ポリアミド10Tがいきわたらず、繊維が分離してペレットを得ることができなかった。
【0084】
比較例3
アウトダイに引き抜き方向に直進する貫通部を有するダイを用いる以外は、実施例1と同様にして半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。
【0085】
得られた半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットの樹脂組成およびその特性値を表2に示す。
【0086】
【表2】

【0087】
実施例1〜19は、被覆率が50%以上で、繊維状強化材の長さとペレットの長さが等しいペレットであったため、それから得られた成形体は、耐熱性が高く、機械的特性、すなわち曲げ強度、曲げ弾性率、耐衝撃性に優れていた。
【0088】
比較例1は、繊維状強化材の配合量が少なかったため、機械的特性が低かった。
比較例3は、被覆率が50%未満であったため、機械的特性が低かった。
【符号の説明】
【0089】
1 繊維束
2 溶融樹脂流入口
3 含浸ダイ
4 繊維束導入口
5 アウトダイ(蛇行貫通部)
6 接合部品
7 取付部分
8 空洞部
9 溶融樹脂の流れ
10 半芳香族ポリアミドにより被覆されていない繊維状強化材の繊維
11 半芳香族ポリアミドにより被覆されている繊維状強化材の繊維
12 半芳香族ポリアミド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸成分と炭素数8〜12の直鎖脂肪族ジアミン成分とからなる半芳香族ポリアミド100質量部および繊維状強化材5〜300質量部を含有する半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットであって、前記繊維状強化材が無機繊維であるか、融点または分解温度のいずれか低い方が前記半芳香族ポリアミドの融点を超える有機繊維であり、前記繊維状強化材の長さと前記半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットの長さが実質的に等しく、前記繊維状強化材の表面における半芳香族ポリアミドによる被覆率が50%以上である半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレット。
【請求項2】
繊維状強化材が、ガラス繊維、炭素繊維および全芳香族ポリアミド繊維からなる群より選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレット。
【請求項3】
請求項1または2に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットを製造するに際し、繊維状強化材の繊維束を、溶融状態にある半芳香族ポリアミド内を通過させ、繊維状強化材の繊維束を開繊させながら該半芳香族ポリアミドを含浸させ、次いで冷却した後に、切断することを特徴とする半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットの製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットを成形してなる成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−49793(P2013−49793A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188909(P2011−188909)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】