説明

単層カーボンナノチューブの形成方法

本発明は、単層カーボンナノチューブの形成方法に関する。本方法は、ガス状炭素源を適切な条件においてメソポーラスTUD‐1シリケートに接触させることを含む。メソポーラスTUD‐1シリケートは、元素周期表の3〜13族の金属を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2009年7月3日に米国特許商標庁に出願され公式に第61/222040の出願番号が割り当てられた出願“Metal Incorporated TUD‐1 Catalyst for Carbon Nanotubes Synthesis”の優先権を主張する。2009年7月3日出願のその出願の内容は、PCT規則4.18に従ったPCT規則20.5(a)により、本願に含まれていない明細書、特許請求の範囲及び図面のあらゆる要素又は部分を含めたあらゆる目的のために参照として本願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、単層カーボンナノチューブの形成方法に関する。
【背景技術】
【0003】
単層カーボンナノチューブ(SWCNT,single−walled carbon nanotube)は、特別な熱特性、機械特性、電気光学特性、電子特性を備えた独特の一次元構造を有するので、電子デバイス、化学センサ、水素貯蔵デバイス等の多様な応用の有望な候補となっている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0004】
SWNTの電子特性は、その幾何学的形状、つまり直径及びカイラリティに依存する。各チューブ構造は、グラフェンをどのように巻いてナノチューブにするのかを示す一対の整数(n,m)で指定可能である。このカイラルインデックス(n,m)は、グラフェンネットに対するカーボンナノチューブの周囲(カイラルベクトル)を指定する。また、整数(n,m)は、カーボンナノチューブの直径及び螺旋度も定める。m=0の場合、ナノチューブは“ジグザグ”と称される。n=mの場合、ナノチューブは“アームチェア”と称される。その他の場合、原子鎖が、周囲を取り囲むのではなくて、チューブ軸に沿って螺旋状になるので、ナノチューブは“カイラル”と称される。
【0005】
考えられる多くの応用におけるSWCNTの最適性能は、チューブサンプルの(n,m)単分散にかかっている。何故ならば、異なる(n,m)構造のSWCNTは、明確に異なる特性を有するからである。大抵のSWCNT合成方法は、広い(n,m)分布を有するチューブサンプルをもたらす。狭い(n,m)分布を有するSWCNT(20種以下)を製造することができ、更に、(n,m)選択性が、温度、触媒担体、炭素原料、ガス圧、結晶面等の成長条件を最適化することによって操作可能であることが、研究によって実証されている。更に、SWNTの直径が減少すると、SWNTを形成するためのグラファイトシートの考えられる(n,m)の選択肢の数が減少するので、考えられるカイラル構造の多様性が減少する。従って、狭い直径分布を有する小さな直径のSWNTが非常に望ましい。何故ならば、個々のSWNTがより均一な電子特性を有するからである。全ての成長条件の中で、触媒が、生成されるSWCNTの(n,m)分布を定めるのに最も重要な役割を果たす。所望の(n,m)構造を有するSWCNTの大規模で経済的な生成に繋がり得る新規触媒の開発は、SWCNT合成研究における一番の目的である。
【0006】
複数の触媒が、狭い(n,m)分布のSWCNTに向けた優れた選択性を実証していて、Co/Mo触媒(非特許文献2)、Fe/Co触媒(非特許文献3)、Fe/Ru触媒(非特許文献4)、Co‐MCM‐41触媒(非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7)が挙げられる。最初の三つの触媒は全て二元金属触媒である。二つの金属種の間の相乗効果が、金属クラスターを安定化させるのを助けて、(n,m)の狭い分布を可能にする。経済的なナノチューブ生成に十分な触媒は、後続のナノチューブ精製プロセスにおいて基板及び金属クラスターを除去することの単純性も要求する。この観点からは、単金属触媒が、その二元金属のライバルよりも好まれる。何故ならば、Mo又はRu化合物は、ナノチューブサンプルからの除去が難しいからである。Ciuparu等(上記非特許文献6)は、単金属Coをメソポーラス分子篩(MCM‐41)内に取り込むことに成功し、それをSWCNT成長用の触媒として用いている(上記非特許文献6、上記非特許文献7、非特許文献8)。NiやFe等の他の金属も、SWCNT成長用にMCM‐41内に取り込むことができる。バルクSWCNTサンプルに対する最も狭い(n,m)分布は、Co‐MCM‐41触媒から生成されたチューブに対して報告されている。この触媒は、低欠陥チューブを得るための穏やかな4ステップ精製法も可能にする。しかしながら、Co‐MCM‐41触媒の欠点は、その高いコスト(種々の高価な界面活性剤)、長い合成時間(オートクレーブ中で7日間)、及び比較的低い炭素担持量(1.25重量%の炭素/1重量%のコバルト)であり、SWCNTのコストを更に大幅に増大させる。従って、狭い(n,m)分布のSWCNTに向けた優れた選択性を保持するのと同時にCo‐MCM‐41と比較して低いコスト及び短い時間で合成可能な新規単金属触媒を得ることが望まれている。理想的には、このような触媒は、より高い生産性でSWCNTを生産することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A.Jorio、G.Dresselhaus、M.S.Dresselhaus編、Carbon Nanotubes,Advanced Topics in the Synthesis,Structure,Properties and Applications、Springer(ベルリン)、2008年、序文、p.V−IX
【非特許文献2】S.M.Bachilo等、J.Am.Chem.Soc.、2003年、第125巻、p.11186
【非特許文献3】S.Maruyama等、Chemical Physics Letters、2002年、第360巻、p.229
【非特許文献4】X.Li等、J.Am.Chem.Soc.、2007年、第129巻、p.15770
【非特許文献5】S.Lim等、J.Phys.Chem.B、2003年、第107巻、p.11048
【非特許文献6】D.Ciuparu等、Journal of Physical Chemistry B、2004年、第108巻、p.10196
【非特許文献7】D.Ciuparu等、Journal of Physical Chemistry B、2004年、第108巻、p.503
【非特許文献8】Y.Chen等、Carbon、2006年、第44巻、p.67
【非特許文献9】Jansen等、Chem.Commun.、2001年、p.713−71
【非特許文献10】M.S.Hamdy等、Catalysis Today、2005年、第100巻、p.255
【非特許文献11】Z.Shan等、Applied Catalysis A:General、2003年、第254巻、p.339
【非特許文献12】Z.Shan等、Microporous and Mesoporous Materials、2001年、第48巻、p.181
【非特許文献13】M.S.Hamdy等、Chemistry‐A European Journal、2006年、第12巻、1782
【非特許文献14】R.Anand等、Catalysis Today、2006年、第117巻、p.279
【非特許文献15】Telalovi等、J.Mater.Chem.、2010年、第20巻、p.642−658
【非特許文献16】J.C.Jansen等、Chemical Communications、2001年、p.713
【非特許文献17】Y.Brik等、Journal of Catalysis、2001年、第202巻、p.118
【非特許文献18】M.Vo等、Journal of Catalysis、2002年、第212巻、p.10
【非特許文献19】L.Wei等、Journal of Physical Chemistry C、2008年、第112巻、p.17567
【非特許文献20】M.Milnera等、Physical Review Letters、2000年、第84巻、p.1324
【非特許文献21】R.B.Weisman、S.M.Bachilo、Nano Lett.、2003年、第3巻、p.1235
【非特許文献22】R.A.Viscarra Rossel、A.B.McBratney、Geoderma、1998年、第85巻、p.19
【非特許文献23】Y.Chen等、Journal of Catalysis、2004年、第226巻、p.351
【非特許文献24】Y.Chen等、Journal of Catalysis、2004年、第225巻、p.453
【非特許文献25】W.E.Alvarez等、Carbon、2001年、第39巻、p.547
【非特許文献26】G.Lolli等、Phys.Chem.B、2006年、第110巻、p.2108
【非特許文献27】J.E.Herrera等、Journal of Catalysis、2001年、第204巻、p.129
【非特許文献28】L.Wei等、J.Phys.Chem.C、2008年、第112巻、第10号、p.2771−2774
【非特許文献29】L.Wei等、The Journal of Physical Chemistry B、2008年、第112巻、p.2771
【非特許文献30】F.Chen等、J.Nano Lett.、2007年、第7巻、p.3013
【非特許文献31】S.Lim等、J.Phys.Chem.C、2008年、第112巻、p.12442
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、現状の方法の上記欠点を回避する単層カーボンナノチューブの生産方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、化学気相堆積において炭素源と接触した際に単層カーボンナノチューブを成長させることができる活性触媒に関し、そのような活性触媒を形成するための方法が提供される。活性触媒は、メソポーラスTUD‐1シリケートであるか、又はこれを含む。本発明は、カーボンナノチューブの生成、及び得られたカーボンナノチューブにも関する。TUD‐1は、大面積(最大1000m/g)及び高熱安定性(1000℃においてほとんど劣化しない)を有するメソポーラスシリカであり、デルフト工科大において合成されて、非特許文献9において初めて報告された。これは、小型で安価な界面活性剤ではない化学品を用いて合成可能である。TUD‐1シリカ構造内に金属イオンを取り込むために様々な方法が開発されている(例えば、Feに対して非特許文献10、Alに対して非特許文献11、Tiに対して非特許文献12、Coに対して非特許文献13、非特許文献14、非特許文献15)。本発明に至るまで、TUD‐1は、カーボンナノチューブを成長させることができるとは知られていなかった。
【0010】
第一の側面において、本発明は、単層カーボンナノチューブの形成方法を提供する。本方法は、ガス状炭素源をメソポーラスTUD‐1シリケートに適切な条件において接触させることを含む。メソポーラスTUD‐1シリケートは、ナノチューブ成長用に触媒として有効な金属を含む。
【0011】
典型的な実施形態では、本方法は、化学気相堆積を行うことを含む。化学気相堆積を行うのに、流体状の炭素源、又はガス状炭素源等の流体内に含まれた炭素源と、メソポーラスTUD‐1シリケートとが用いられる。
【0012】
一部実施形態では、ナノチューブ成長用に触媒として有効な金属は、元素周期表の3〜13族の金属である。
【0013】
関連する側面において、本発明は、単層カーボンナノチューブの形成におけるメソポーラスTUD‐1シリケートの使用に関する。本使用は、ガス状炭素源をメソポーラスTUD‐1シリケートに適切な条件で接触させることを含む。メソポーラスTUD‐1シリケートは、ナノチューブ成長用に触媒として有効な金属を含む。
【0014】
一部実施形態では、ナノチューブ成長用に触媒として有効な金属は、元素周期表の3〜13族の金属である。
【0015】
更なる側面において、本発明は、第一の側面に係る方法によって得られた単層カーボンナノチューブに関する。
【0016】
一実施形態によると、形成された単層カーボンナノチューブの大部分は、カイラルインデックス(6,5)、(9,8)、(7,6)、(8,4)及び(7,6)のうち一つを有する。
【0017】
本発明の他の側面、特徴及び実施形態は、以下の開示及び添付の特許請求の範囲からより完全に明らかとなるものである。
【0018】
本発明は、非限定的な例として考慮される詳細な説明及び添付図面を参照して、より良く理解されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】Co‐TUD‐1の物理構造及び化学構造を示す。X線回折。
【図1B】Co‐TUD‐1の物理構造及び化学構造を示す。等温線及び細孔径分布(挿入図)を示す窒素物理吸着。
【図1C】Co‐TUD‐1の物理構造及び化学構造を示す。Co‐TUD‐1及びCo参照の紫外線‐可視光スペクトル。
【図1D】Co‐TUD‐1の物理構造及び化学構造を示す。H温度プログラム還元。
【図2】Co‐TUD‐1で生成された合成されたままの(as‐synthesized)固体SWCNTサンプル(還元温度500℃)のラマンスペクトルを示す。
【図3】Co‐TUD‐1を用いて異なる還元温度(a)500℃、b)450℃、c)400℃)で生成されたSWCNTサンプルの2次元フォトルミネッセンス等高線図を示す。主要なチューブ(6,5)及び(9,8)が強調されている。
【図4】Co‐TUD‐1で生成されて精製されたSWCNT懸濁液(還元温度500℃)の紫外線‐可視光‐近赤外線吸光度スペクトルを示す。
【図5】Co‐TUD‐1を用いて異なる還元温度(A)300℃、B)200℃)で生成されたSWCNTサンプルの2次元フォトルミネッセンス等高線図を示す。主要なチューブ(9,8)、(10,8)及び(10,9)が強調されている。
【図6】Ni‐TUD‐1を用いて生成されたSWCNTサンプルの2次元フォトルミネッセンス等高線図を示す。(8,6)等の主要なチューブが強調されている。Fe‐TUD‐1を用いて生成されたSWCNTサンプルは同様の結果をもたらした。
【図7】633nmレーザの下での異なる温度でCo‐TUD‐1を使用して生成された合成されたままのSWCNTを用いて測定されたラマンスペクトルを示す。
【図8】(a)500℃、(b)450℃、(c)400℃でプレ還元されたCo‐TUD‐1を用いて生成されたSWCNTサンプルの熱重量分析を示す。
【図9】785nmレーザの下でのSWCNTサンプル(400℃でプレ還元されたCo‐TUD‐1)のラマンスペクトルを示す:(a)合成されたままのSWCNT、(b)430℃で酸化、(c)620℃で酸化、(d)焼成された生のCo‐TUD‐1触媒。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、単層カーボンナノチューブの形成方法を提供する。カーボンナノチューブはあらゆる長さ及び直径のものであり得る。一部実施形態では、カーボンナノチューブは、略1〜200nm(略3〜200nm、略1〜100nm等)の直径を有し得る。例えば、原子間力顕微鏡法(AFM,atomic force microscopy)及び/又はラマン散乱分光法が、本発明の方法で形成された単層カーボンナノチューブの寸法を決定するのに使用され得る。個々のナノチューブは、金属、半導体、又は絶縁体であり得る。
【0021】
本発明に係る適切な触媒として有効な金属を含むメソポーラスTUD‐1シリケートは、単層カーボンナノチューブの形成に向けた驚異的に高い選択性を有する。金属及びシリケートの文脈において使用される際の“含む”との用語は、金属がシリカ上に移植されている実施形態を含む。しかしながら、明確性のため、“移植”との表現を、以下においても頻繁に加える。メソポーラスTUD‐1シリケートを用いると、優先的に単層カーボンナノチューブが形成されて、少なくとも本質的には単層カーボンナノチューブのみを含む。単層カーボンナノチューブの文脈における“少なくとも本質的”との用語は、略10%以下、略5%以下、略2%以下、略1%、略0.5%、略0.1%、略0.05%の単層カーボンナノチューブの存在を指称する。典型的には、単層カーボンナノチューブのみが形成されて、つまり多層カーボンナノチューブは形成されない。この点に関して、本発明者は、本発明の方法を行った際に多層カーボンナノチューブの兆候を見つけなかった。
【0022】
カーボンナノチューブは、グラファイトシートを巻いた円筒である。単層カーボンナノチューブ(SWCNT)は、グラファイトシートの一枚の層のみを含みという点において独特な部類のカーボンナノチューブを表す。単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブの両方が知られている。カーボンナノチューブにおいて、ナノチューブのシェル数は、一つ(つまり単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を構成)から50シェルまで変化し得て、このような構造の隣接するシェルの各対は、略0.34ナノメートルのオーダの層間の間隔を有する。カーボンナノチューブ(CNT)は典型的に、直径1〜50ナノメートルで、長さ数マイクロメートルのものであるが、SWCNTは、300マイクロメートル以上の長さにも成長する。本発明の方法で形成されたカーボンナノチューブは略10nmから略10μmの範囲等の所望の長さのものであり得る。用いられるカーボンナノチューブの導電性は、特定の実施形態の具体的な要求に応じて、自由に選択され得る。ナノチューブ表面に沿った炭素の六員環の配置に応じて、カーボンナノチューブは金属又は半導体になり得る。このようなカーボンナノチューブはいずれも本発明に係る方法で形成可能である。
【0023】
このようなナノチューブは、コバルト、ニッケル又は鉄等の少量の遷移金属パウダーを用いたアーク蒸発プロセスで形成可能である。このようなプロセスにおける金属は、成長しているチューブ状構造が丸まって小さなフラーレンケージへと閉じてしまうことを防止する触媒として作用する。金属触媒の存在は、成長プロセスの温度を低下させることも可能にする。単層カーボンナノチューブは、70%以上の収率で生成可能である。こうしたナノチューブは、長さ0.1ミリメートル以上のバンドル(ロープ)へと自己組織化する。単層カーボンナノチューブは、安定な炭素含有分子、例えば気相中のエチレンや、予め形成された触媒粒子等の適切な温度での触媒分解によっても生成され得る。
【0024】
ガス状炭素源又は原料をメソポーラスTUD‐1シリケートと接触させることは、カーボンナノチューブを成長させるのに適切な接触時間にわたって適切な条件で行われ得る。例えば、製造作業の具体的な実施に適した連続、バッチ、セミバッチ、又は他のモードの処理が採用され得る。接触は、例えば、流動床リアクタとして動作するリアクタにおいて実施され得て、その中で、ガス状炭素源が流動媒体として流される。炭素含有ガスは、例えば、TUD‐1シリケートの触媒粒子を有するリアクタセル内に供給され得る(触媒粒子はリアクタセル内に配置される)。あらゆる圧力が印加され得る。典型的には、ガス状炭素源は、略1から略20atmの範囲(1から略15atm、略2から略15atm、1から略12atm、略2から略12atm、略2から略10atm等)内の圧力で印加される。一部実施形態では、圧力は、略2atmから略9atmの範囲内(3、4、5、6、7、8、9atm等)で選択される。一部実施形態では、接触は、略300から略700℃の範囲内の温度、略1から略12atmの範囲内の圧力、略1秒間から略10分間の接触時間、カーボンナノチューブの成長に有効な流量及び組成で行われる。一部実施形態では、接触は、略480から略600℃の範囲内の温度、略1から略5atmの範囲内の圧力で実施され得る。
【0025】
炭素源物質は、炭素源ガスを含み得て、CO、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、プロピレン、アセチレン、オクタン、ベンゼン、ナフタレン、トルエン、キシレン、C〜C20炭化水素の混合物、有機アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n‐プロパノール、イソプロパノール、n‐ブタノール、イソブタノール、ネオブタノール、tert‐ブタノール)、又は、カーボンナノチューブを成長させるのに伴うプロセス条件下においてTUD‐1シリケートと有効に接触する他の適切な物質(典型的にはガス状)が挙げられる。アルゴン等の不活性ガスが、TUD‐1シリケートを接触させる前に、ガス状炭素源と混合され得る。
【0026】
TUD‐1シリケートは、三次元の不規則な細孔系を有するので、スポンジ状に見える。それで、TUD‐1シリケートは、シリカ細孔の出口内への高速拡散を可能にする。更に、TUD‐1は、特に高い安定性を有し、他の金属の取り込みを可能にすることができるものである。TUD‐1は、ゾル‐ゲルプロセスに基づいた手順で形成可能である。このプロセスは、シリケートを含むゾルの生成を含む。このようなゾルは、コロイド状シリカベースの粒子(例えばナノ粒子)の懸濁液である。このゾルは、例えば、シリコンアルコキシド等の前駆体を反応させること(加水分解を含む)によって生成され得る。シリコンアルコキシドの加水分解は、シラノールSi‐OH基によって、シリコンに結合したOR基の置換を誘起して、縮重合によるシリカネットワークの形成に繋がると考えられる。シリコンアルコキシドの例として、例えば、メチルシリケート(Si(OMe))、エチルシリケート(Si(OEt))、プロピルシリケート(Si(OPr))、イソプロピルシリケート(Si(Oi‐Pr))、ペンチルシリケート(Si(OCH11)、オクチルシリケート(Si(OC17)、イソブチルシリケート(Si(OCHiPr))、テトラ(2‐エチルヘキシル)オルソシリケート(Si(OCHC(Et)n‐Bu))、テトラ(2‐エチルブチル)シリケート(Si(OCHCHEt)、エチレンシリケート((CSi)、テトラキス(2,2,2‐トリフルオロエトキシ)シラン(Si(OCHCF)、テトラキス(メトキシエトキシ)シラン(Si(OCHCHOMe))、ベンジルシリケート、シクロペンチルが挙げられる。一部実施形態では、シリコンアルコキシドの加水分解によるゾルの調製は、水中で行われる。一部実施形態では、ゾルの調製を、水とアルコール(エタノールやイソプロパノール等)の混合物中で実施することができる。
【0027】
TUD‐1の形成においては、キレート剤を用いて、シリコンをキレートする、つまり、シリコンで配位錯体を形成する。一部実施形態では、トリエタノールアミンを、キレート剤として加え得る。トリエタノールアミンは、シラトランの形成を生じさせて、これは、二量体、三量体、更にはオリゴマーになり得る。一部実施形態では、シリコンをキレートするキレート剤として、テトラエチレングリコールを加え得る。テトラエチレングリコールは、シリケート、及び加えられたあらゆる触媒活性金属酸化物の両方と錯体を形成することができる(下記参照)。更に、テトラエチル水酸化アンモニウムを加え得る。テトラエチル水酸化アンモニウム及びテトラエチレングリコールは、得られる生成物内に微小多孔性を誘起する。従って、テトラエチル水酸化アンモニウム/テトラエチレングリコールは、20nmから最小1nm以下に及ぶ連続的尺度の孔が形成されることを保証する。テトラエチル水酸化アンモニウム及びテトラエチレングリコールは、必要に応じてTUD‐1の形成に使用した後にリサイクル可能である。後述のように、他の金属塩、金属酸化物、又は金属アルコラート(例えば、アルカノエート)を、シリコンアルコキシドとトリエタノールアミン又はテトラエチレングリコールを接触させる際に、又はその直後に加え得る。
【0028】
必要であれば、ゾルは、例えば基板上へのスピンコーティングによって、表面上に堆積され得る。ゾルは、触媒遷移を経てゲルを形成し、そのゲルは固体にするために乾燥される。必要であれば、得られた固体をすりつぶし得る。固体は、無機縮合反応を完了させるために熱水処理され得る。この熱処理は、触媒作用アニーリングステップであると考えられ、オートクレーブ等の蒸気の取り扱いを可能にする密閉容器内で簡便に行われ得る。あらゆる期間が、ゲルをアニーリングするために選択され得る。当該分野において使用される典型的な期間が、採用され得て、たとえば、略2秒間から略1分間の範囲内(15秒間や20秒間等)である。必要であれば、熱処理は更に繰り返され得る。必要であれば、形成されたシリケートが、更なる圧密熱処理に晒されて、望ましくない有機物を除去し得る。
【0029】
ゲルの乾燥で得られる固体(上記)は、無機縮合反応を完了させるために慎重な焼成(下記参照)にも晒され得る。多孔質構造は同様に形成される。つまり、略1℃/分の低い傾斜速度を用いる場合には、熱水処理無しで生成される。適度な高温における熱水処理及び、低い傾斜速度での熱処理(つまり焼成)の両方が、ゲル形成後の多様なシリカ種の縮合反応を完了させる。Si‐アルコキシ結合は、Si‐シロキシ結合よりも不安定な性質のものである。そこで、高温において、シリカオリゴマーは広範に縮合して、テトラエチル水酸化アンモニウムで形成されたシラトラン、及びテトラエチレングリコール錯体がそれぞれ、部分的に又は完全に加水分解する。テトラエチル水酸化アンモニウム/テトラエチレングリコール及びシリカネットワークの分離が生じる。テトラエチル水酸化アンモニウム/テトラエチレングリコールのメソサイズの凝集体が生じて、メソ細孔をテンプレート形成する。
【0030】
得られた生のTUD‐1は、例えば急速熱処理(RTP,rapid thermal processing)法を用いて、焼成され得る。焼成は高温で行われ得て、その正確な温度は、後の触媒作用が生じることを妨げない値に選択される。温度上昇は、照射等のあらゆる手段によって発生させ得る。一部実施形態では、高温は、略450℃から略1000℃の範囲内(例えば略500℃から略800℃の範囲)であり得る。一部実施形態では、高温は略600℃である。ゲルをアニーリングするために、あらゆる期間が選択され得る。当該分野において使用される典型的な期間が採用され得て、例えば、略30分間から略24時間の範囲内(略1時間から略12時間、略2時間から略12時間、略6時間から略12時間等)であり得る。
【0031】
焼成は、トリエタノールアミン又はテトラエチレングリコールを除去する。同じ目的のために、抽出(ソックスレー抽出)を採用し得る。
【0032】
TUD‐1は、界面活性剤又は液晶テンプレート無しで、トリエタノールアミン又はテトラエチレングリコールで形成されるメソポーラスシリケートである。トリエタノールアミンは、メソ細孔形成におけるテンプレートとして、並びに金属錯化剤として作用することができる。従って、金属は、使用される金属の濃度に応じて、シリケート上に移植されるか、シリケート骨格内で置換され得る(上記非特許文献13)。TUD‐1は、高い基板アクセス性を有するスポンジ状構造を有するが、一部実施形態では、金属中心へのより良いアクセス性のために、移植が好まれ得る。いずれの場合でも、金属は加えられて、テトラエチレングリコールで錯体を形成するか、又はトリエタノールアミン(上記)の作用によって金属アトランを形成し、そのいずれも、自由トリエタノールアミン/テトラエチレングリコールと共にメソ細孔をテンプレート形成する。この金属アトラン又はテトラエチレングリコール錯体によって、金属酸化物粒子は生じない。焼成中に、これらの錯体は分解して、あらゆる有機種が除去される。多量の追加金属が用いられた場合のみ、金属酸化物ナノ粒子が生じる。従って、多量の金属が用いられた場合、金属は典型的には、酸化物種の形状でメソ細孔の(つまり内部)表面上に移植される。担持量に応じて、酸化物種は、高度に分散した単量体サイト、又は小型酸化物クラスターとなり得る。少量の金属が用いられた場合、金属は、孤立原子の形状でTUD‐1の骨格内に取り込まれる。正確な閾値は、用いられる金属に依存して、以前に出版されたデータ(例えば、上記非特許文献12や上記非特許文献13)に基づいた予備試験において容易に求めることができる。典型的には、閾値は、略50のSi/M比、最低でも略25のSi/M比の範囲であると予想される。従って、TUD‐1内に存在する金属のレベルは、メソポーラスシリカが高熱安定性を有することによって、触媒が熱CVD条件下においてその固有のメソ構造を保持することを可能にするように制御可能である。小さな触媒粒径は、より小さな直径の単層カーボンナノチューブを提供すると考えられる。
【0033】
上述の実施形態では、金属は、シリケートの形成中に既にシリケート内に含まれているか、又はシリケート上に移植されている。一部実施形態では、第一ステップでTUD‐1が形成されて、後続ステップで金属がその上に移植される。このような後の移植は、従来の含浸、又は標準的な合成後移植を用いて実施可能であり、例えば、高温において、芳香族溶媒(例えばトルエン)等の適切な溶媒内で、典型的にはアルゴンやN等の不活性ガス下で実施可能である。
【0034】
TUD‐1のメソ細孔のサイズは、その形成に選択された条件に従って調整可能である(例えば、上記非特許文献12や上記非特許文献13を参照)。細孔径は、例えば、略2から略25nmの範囲内で選択され得て、略25から略20nm、つまり25から略200Åが挙げられる(前記)。表面積は、略400から略1000m−1となるように調整可能である。
【0035】
TUD‐1内に取り込まれる又はその上に移植される金属は、ナノチューブ形成に触媒作用を及ぼすのに適したあらゆる金属であり得る。金属は、例えば元素周期表の3から13族から選択され、例えば元素周期表の3から12族又は4から12族のうち一つの遷移金属であり得る。例示的な例として、Y等の3族元素、WやMo等の6族元素、FeやRu等の8族元素、Co、Ir又はRh等の9族元素、Ni、Pt又はPd等の10族元素、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Er又はLu等のランタノイドが挙げられる。一部実施形態では、金属は遷移金属、例えば第一列遷移金属である。
【0036】
一部実施形態では、メソポーラスTUD‐1シリケートは基板上に配置され、その基板に付着され得る。このような実施形態では、基板は、触媒の担体表面を提供し、触媒は、薄膜として又は所望の多様なパターンで基板表面に付着され得る。基板用の適切な物質として、アルミナ、シリケート、アルミニウムシリケート、石英、金属が挙げられるがこれらに限定されず、また、その金属として、金、プラチナ、パラジウム、モリブデンが挙げられるがこれらに限定されるものではない。必要に応じて、基板は実質的に平坦な表面を有し得る。基板は、例えばフレークやウェーハ(Siウェーハ等)であり得る。TUD‐1シリケートは、3次元メソポーラス構造並びに金属又は金属酸化物ナノ粒子を提供するために、適切な時間にわたって適切な温度において、このような基板上に焼成され得る。例えば、触媒は、ディップコーティング、ドロップコーティング、又はスピンコーティングを用いて基板上に付着され得る。また、触媒は、フォトリソグラフィ又はソフトリソグラフィを用いても基板上に付着され得る。例示的な例として、触媒が適切な基板上に付着されて、触媒含有基板が、触媒を焼成するために、略2時間にわたって略550℃の温度で加熱され得る。触媒含有基板は例えば空気中で加熱され得る。
【0037】
本発明の方法では、その中に含まれた又はその上に移植された追加の金属を有するTUD‐1シリケート(上記)は、還元されて、活性触媒を形成する。還元前の状態におけるTUD‐1シリケートは、TUD‐1ソースシリケートであると考えられる。TUD‐1シリケート内に含まれる金属触媒粒子は酸化型で存在するが、この還元によって、還元型に変換される。還元は、典型的にはTUD‐1シリケートを還元ガス(例えば、水素、アミン、アンモニア、ジボラン、二酸化硫黄、ヒドラジン)と接触させることによって行われ、水素を流す等還元ガスを流すことを含む。従って、TUD‐1シリケート内に含まれた又はその上に移植された追加の金属が、触媒活性型で提供される。後述のように、反応条件(持続時間及び温度を含む)は、主要なカイラルインデックス及びカイラルインデックスの分布に関して生成物を制御するように用いられ得る。
【0038】
SWCNTの形成方法においては典型的に、気相の炭素源と、プラズマや加熱コイル等のエネルギー源が用いられて、そのエネルギー源は、ガス状炭素源にエネルギーを移すことによって、反応性炭素原子への分解を生じさせる。このようなプロセスは一般的に化学気相堆積である。触媒活性金属の作用によって、カーボンナノチューブが形成される。多様な化学気相堆積(CVD,chemical vapor deposition)法が当該分野において知られている。これらの方法のいずれかを、固体シリカ担持触媒を用いることに基づいた本発明の方法において使用可能である。例として、プラズマ増強CVD、熱CVD、アルコール触媒CVD、レーザ補助熱CVD、高圧CO不均化CVDが挙げられるが、これらに限定されるものではない。プラズマ増強CVDは、チャンバ又は炉内でのグロー放電及び電極を用いる。熱化学気相堆積は通常炉内で行われ、その中で基板が高温にされる。アルコール触媒CVDは、600℃以下の温度(略550℃等)で行うことができ、蒸発アルコールの使用に基づくものである。レーザ補助熱CVDは、連続波COレーザを用いる。
【0039】
化学気相堆積プロセスは、予め選択された温度で行われ得て、例えば略350℃から略1000℃の炉温度(略400℃から略950℃、略450℃から略1000℃、略450℃から略950℃、略500℃から略1000℃、略500℃から略950℃、略550℃から略950℃、略600℃から略950℃、略650℃から略950℃等)のものであり、略700℃から略950℃、略700℃から略900℃、略700℃から略850℃、略700℃から略800℃、略750℃から略850℃、又は略750℃から略800℃の範囲内が挙げられる。他の実施形態では、CVDプロセスは、略850℃の炉温度で行われる。CVDプロセスは、略1分間から略4時間の時間(略10分間から略2時間、略20分間から略1時間)にわたって行われ得て、例えば45分間又は30分間である。一実施形態では、CVDプロセスは、略800℃の炉温度で略60分間の時間にわたって行われる。一実施形態では、CVDプロセスは、略850℃の炉温度で略30分間の時間にわたって行われる。
【0040】
基板表面のトポグラフィ等の用いられる条件(上記)に応じて、多様な配向のナノチューブを得ることができる。一実施形態では、単層カーボンナノチューブの平行なアレイが形成される。一実施形態では、個々の単層カーボンナノチューブの形状の複数の単層カーボンナノチューブが形成される。一実施形態では、単層カーボンナノチューブの二次元ネットワークが形成される。
【0041】
本願で説明される方法では、形成される単層カーボンナノチューブの大部分は、所定の範囲内の直径を有する。一般的に、形成されるカーボンナノチューブは狭い直径分布を有する。典型的な実施形態では、形成されるカーボンナノチューブの大部分は均一な直径のものである。典型的には、SWCNT大部分は、略0.7nmの直径を有する。活性化/還元に選択された温度に応じて、より大きな又は小さな直径の追加のSWCNTの数/量が異なり得る。例えば、還元温度が略500℃の場合、直径0.757nmのSWCNTが、圧倒的に支配的な種である。還元温度が低下すると、より小さな直径のSWCNTの数は一般的に減少する。還元温度が上昇すると、より小さな直径のSWCNTの数は一般的に増加する。
【0042】
カイラルインデックス(上記)に関して、形成されるカーボンナノチューブの特性は、活性触媒を提供するための条件を調整することによって、制御可能である。特に、の一以上の還元剤(H等)に対するTUD‐1ソースシリケートの還元温度(例えば0から800℃)、露出時間(例えば0から1時間)、主要なカイラルインデックスを選択的に決めることができる。他のカイラル種(つまり主要なカイラルインデックス以外のもの)の存在及び量は、同じ様に調整され得る。一部実施形態では、主要なカイラルインデックスは(6,5)である(図3を参照)。一部実施形態では、主要なカイラルインデックスは(9,8)である(図5を参照)。例示的な例として、(9,8)の他に形成されるカーボンナノチューブの特徴となり得る追加のインデックスは、例えば(8,4)及び(7,6)である。選択されたカイラルインデックスに適した還元条件の正確な組み合わせは、少数の試験値を用いて簡便に決定可能であり、また、TUD‐1内に取り込まれた金属に依存する(図6を参照)。所望のカイラリティのカーボンナノチューブを得るための適切な反応条件を経験的に決定することは、当業者の知識の範疇である。
【0043】
一部実施形態では、形成されるカーボンナノチューブの大部分はインデックス(6,5)のものである。一部実施形態では、全ての形成されるSWCNTのうち少なくとも30%(全ての形成されるSWCNTのうち少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、又は少なくとも85%を含む)は、インデックス(6,5)を有する。選択性は、(9,8)、(7,6)、(7,5)等の他のカイラル種にもシフトし得る。一部実施形態では、形成されるカーボンナノチューブの大部分はインデックス(9,8)のものである。一部実施形態では、全ての形成されるSWCNTのうち少なくとも30%(全ての形成されるSWCNTのうち少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、又は少なくとも85%を含む)は、インデックス(9,8)を有する。活性化/還元用に選択された温度に応じて、他のインデックスを有する追加のSWNTの数/量は異なり得る(図3を参照)。例えば、還元温度が略500℃の場合、インデックス(6,5)のSWNTが圧倒的に支配的な種である。還元温度が低下すると、他のインデックス、特にインデックス(7,5)、(7,6)及び(9,8)のSWNTの数が増加する。
【0044】
本発明をより良く理解してもらい実用的な有効性を示すために、以下、具体的な実施形態について、以下の非限定的な例によって説明する。
【0045】
[本発明の例示的な実施形態]
本発明の方法を実施することの例として、Co取り込みTUD‐1の合成について以下開示する。Fe又はNiを取り込んだTUD‐1も同様に、本発明者によって生成されて、同等に適切なものであることがわかった(図6を参照)。Co‐TUD‐1が非常に狭い(n,m)分布を有するSWCNTを高い生産性で成長させることができることが実証された。例は、個々のCo‐TUD‐1触媒に対する(n,m)選択性が、水素中の触媒の還元温度を変化させることによって操作可能であることも実証している。Co‐TUD‐1は、狭い(n,m)分布のSWCNTの工業的な規模での生産の優秀な候補である。
【0046】
触媒として使用するために、金属取り込みTUD‐1(例えばコバルト取り込みTUD‐1)を合成して、特性評価して、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の成長に応用した。他の金属(Co以外)も、TUD‐1に組み込んで触媒を形成するのに使用され得る。Co‐TUD‐1の性質を、複数の特性評価法を用いて調査して、大表面積(740m/g)、明確な細孔径(7.4nm)、及び均一なCo還元性を有することがわかった。Co‐TUD‐1を用いて生成したSWCNTサンプルは、SWCNTについて高度に選択的である。還元温度が、SWCNTの(n,m)分布をシフトすることができる重要な因子であることが発見された。500℃の還元温度でプレ還元すると、Co‐TUD‐1は、狭い(n,m)分布を有する小さな直径のSWCNTを生成する。この研究は、SWCNT生成におけるCo‐TUD‐1の有望な応用を明らかにし、Co‐TUD‐1は、Co‐MCM‐1と比較して安価で合成が容易である。
【0047】
〈例1:Co‐TUD‐1合成〉
1重量%のコバルトを有するCo‐TDU‐1を、上記非特許文献13によって報告された方法を修正した方法に従って、合成した。典型的な合成では、0.28gの硫酸コバルト(II)七水和物(CoSO・7HO、>99%、Sigma‐Aldrich)を蒸留水に溶解して、激しく攪拌しながら10gのテトラエチルオルソシリケート(TEOS、>98%、Sigma‐Aldrich)に滴状で加えた。0.5時間の攪拌後に、7.2gのトリエタノールアミン(TEA、>98.5%、Fluka)及び1.8gの蒸留水を、TEOS溶液内に滴状で加えて、更に2時間攪拌した。その後、6.1gのテトラエチル水酸化アンモニウム(TEAOH、35%、Sigma‐Aldrich)を混合物に加えて、24時間にわたって室温で寝かせた。寝かせた後に、混合物を100℃で24時間にわたって乾燥させて、その後、テフロン(登録商標)で内側が覆われたステンレス鋼オートクレーブ内で8時間にわたって180度で熱水処理した。最終生成物を、あらゆる有機テンプレートを除去するために、安定な空気流の下において600℃で10時間にわたって焼成した。全合成プロセスは略3日間かかり、以前のCo‐MCM‐41合成(非特許文献5)に必要な時間の半分以下である。
【0048】
Fe‐TUD‐1及びNi‐TUD‐1を同じプロトコルに従って製造し、それぞれ硫酸鉄(II)七水和物、硫酸ニッケル(II)七水和物を用いた。
【0049】
〈例2:Co‐TUD‐1特性評価〉
Co‐TUD‐1触媒の物理的及び化学的性質を、X線回折(XRD,X‐ray diffraction)、窒素物理吸着、紫外線‐可視光分光法、H温度プログラム還元(TPR,temperature programmed reduction)によって特性評価した。XRD測定を、Bruker Axs D8 X線回折計(Cu Kα、λ=0.15、4nm、40KV、30mA)を用いて行った。試験前に、サンプルを100℃で一晩乾燥させた。窒素吸脱着等温線を、Quantachrome Autosorb‐6b静的容積測定機器を用いて77Kで測定した。分析前に、サンプルを真空下において350℃で脱ガスした。比表面積を、BET(Brunauer・Emmet・Teller)法に従って、計算した。細孔径及び細孔径分布を、等温線の脱着分岐を用いて、BJH(Barret・Joyner・Halenda)法によって計算した。紫外線‐可視光拡散反射率スペクトルを、Varian 5000 紫外線‐可視光‐近赤外線分光光度計に記録した。スペクトルを、参照としての純BaSOと共に、200〜800nmの範囲で記録した。試験を行う前に、全てのサンプルを100℃で一晩乾燥させた。焼成した触媒の還元性を、ガスクロマトグラフィ(Techcomp、7900)の熱伝導度検出器(TCD,thermal conductivity detector)を用いて、TPRによって特性評価した。略200mgの各サンプルを石英セル内に担持させた。各TPRの実行の前に、サンプルセルを室温で空気によってパージして、その後、温度を5℃/分で500℃まで上昇させて、同じ温度で1時間浸漬して、室温まで冷却した。この手順は、H‐TPRを実施する前に、クリーンな表面を生じさせる。ガス流を5%H/Arに切り替えて、安定になるまで基準値をモニタリングした。基準値の安定後に、サンプルセルを5℃/分で加熱して、30分間にわたって900℃で保持した。アセトントラップを、サンプルセルとTCDとの間に設置して、サンプル還元によって生じ水を凝縮した。
【0050】
〈例3:SWCNT成長及び特性評価〉
Co‐TUD‐1を用いたSWCNT合成を、加圧CO化学気相堆積システムを用いて実施した。CO中のカルボニルを、Matheson Gas Products製のNanochem Purifilterによって除去した。まず、200mgのCo‐TUD‐1触媒をH(1bar、50sccm)の下で0.5時間にわたって400から500℃でプレ還元した。リアクタ温度を、Ar流の下で800℃に更に上昇させた。加圧CO(6bar、100sccm)を800℃でリアクタ内に導入して、SWCNT形成のために1時間保持した。Co‐TUD‐1上の成長させたまま(As‐grown)のSWCNTを薄いウェーハにプレスして、ラマン分光法で調査した。633nmレーザ及び785nmレーザの両方を用いて、サンプル上の複数のランダムなスポットに対する後方散乱構成において、Renishaw Ramanscopeを用いて、スペクトルを収集した。2.5〜5mWのレーザエネルギーを用いて、測定中にSWCNTサンプルを破壊することを回避した。20sの積分時間を採用した。それらのラマンスペクトルには、TUD‐1担体の除去後におけるフィルタ膜上のSWCNTからのラマンスペクトルと比較しても、顕著な差は無かった。全炭素担持量を、熱重量分析(TGA,thermogravimetric analysis)によって、合成されたままの触媒に対して求めた。更に、炭素堆積物を担持した合成されたままの触媒を、1.5mol/LのNaOHにおいて更に還流させて、シリカマトリクスを溶解して、ナイロン膜(0.2μm細孔)で濾過した。結果物の炭素堆積物の純度も、シリカ担体除去後に、TGAによって評価した。TGAを、PerkiElmer Diamond TG/TGA機器で実施した。典型的な測定に対して、略1mgのサンプル(合成されたままの触媒、又はシリカ除去後の炭素堆積物のいずれか)を、アルミナパン上に担持した。サンプルを、まず110℃に加熱して、湿気を除去するために、200mL/分の空気流において110℃で10分間保持した。温度を、10℃/分の傾斜で110℃から1000℃まで連続的に上昇させた。サンプルの重量をモニタリングして、温度の関数として記録した。同じ手順を、サンプルを室温に冷却した後に繰り返して、基準として機能する他の重量/温度曲線を得た。濾過した炭素堆積物を、100Wで0.5時間にわたるカップホーン型超音波処理器(SONICS、VCX‐130)内での超音波処理によって、2重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS,sodium dodecyl benzene sulfonate)(Aldrich)のDO(99.9原子%のD、Sigma‐Aldrich)溶液内に更に懸濁させた。超音波処理後に、懸濁液を50000gで1時間にわたって遠心分離した。遠心分離後に得られたクリアなSWCNT懸濁液を、フォトルミネッセンス(PLE)及び紫外線‐可視光‐近赤外線吸収分光法によって特性評価した。PLEを、300nmから850nmまでで走査した励起、及び900nmから1400nmまでで収集した放出で、Jobin‐Yvon Nanolog‐3蛍光分光計で行った。紫外線‐可視光‐近赤外線吸収スペクトルを、Varian Cary 5000紫外線‐可視光‐近赤外線蛍光分光計で測定した。
【0051】
〈結果及び考察〉
XRDを適用して、Co‐TUD‐1の構造を特性評価した。図1Aは、作製した1重量%のCo‐TUD‐1サンプルに対する小角XRDパターンを示す。2θ=0.8°から1.0°の近傍における強い回折ピークは、合成したCo‐TUD‐1に対する高度な秩序メソポーラス構造を示す(非特許文献16)。窒素物理吸着を用いて、Co‐TUD‐1のより詳細な物理的構造を得た。図1Bの吸着/脱着等温線は、0.5〜0.8の相対圧力(P/P)において窒素取り込みのステップ状の上昇を示していて、典型的なメソポーラス構造を表している。また、等温線は、IV型等温線に属するヒステリシスも示す。Co‐TUD‐1サンプルは、狭い細孔径分布を有する略7.4nmの明確な細孔径を示す(図1Bの挿入図)。物理吸着から得られたデータは、サンプルが、740m/gの表面積及び1.42mL/gの大きな細孔容積を有することも示す。
【0052】
Co‐TUD‐1の化学的構造を、紫外線‐可視光分光法及びTPRで特性評価した。図1Cの紫外線‐可視光スペクトルは、TUD‐1シリカテンプレート中のCoの局所的環境を示す。Co‐TUD‐1サンプルは、660nmにおいてマイナーなピーク肩部を
示し、410及び710nmにおいて二つの幅広いピークを示す。660nmのピークは、ν A2→(P)遷移であると割り当てられ、C2+四面体構造を示す(非特許文献17)。410及び710nmの吸収ピークは、Co参照において検出されたものと同様であり、ν 1g1g及びν 1g2g遷移に割り当てられ、八面体配位Co3+イオンを示す(前記)。我々のCo‐TUD‐1サンプル対する410nmの吸収ピークは、Co参照と比較してはるかに幅広である。これは、410nmと四面体Co2+に割り当てられる追加のピーク(500から600nmの範囲に典型的には観測される)との間のマスキング又は重なりによって生じ得る。更に、八面体Co2+イオンに対しては吸収ピークが観測されなかった。何故ならば、四面体Co2+イオンに対する消光係数は、八面体イオンのものよりも通常ははるかに強いからである。図1Dに示されるTPRプロファイルは、TUD‐1構造中のCoイオンの安定性に対するより直接的な情報を与える。明確で狭い還元ピークは483℃に中心がある。この還元温度は、シリカ粒子担持含浸コバルト触媒の還元温度よりも高い(非特許文献18)。439℃及び383℃の二つの肩部を図1Dに見て取ることができる。これらは、シリカ粒子担持含浸コバルト触媒(前記)に対するCo→CoO→Coの還元プロセスに対応する。従って、483℃のピークは、TUD‐1構造内に取り込まれたCoの還元に割り当てられる。
【0053】
全体的に、多様な特性評価の結果は、Co‐TUD‐1が、Co‐MCM‐41触媒に匹敵する性質、即ち、高度な秩序メソポーラス構造、大きな表面積、狭い分布の細孔径、シリカテンプレート内に取り込まれた安定Co種を有することを示している。これらの性質は、高品質SWCNTの生産にとって重要であると考えられる(上記非特許文献5、非特許文献19)。
【0054】
ラマン分光を、633nmレーザを用いて合成されたままSWCNTサンプルに対して行った。スペクトルは、生成物中のSWCNTの存在度を実証する強いRBMピークを示す(図2)。RBMの位置はSWCNTの直径とよく相関するが(非特許文献20)、共鳴ラマン効果のせいでSWCNTサンプルの(n,m)分布を決定するのには十分でない。その(n,m)分布を更に明らかにするために、PLE及び紫外線‐可視光‐近赤外線吸収を、精製したSWCNT懸濁液を用いて測定した。PLEマップのピーク(図3a)を、ロールアップインデックス(n,m)に割り当てることができ、特定のチューブ構造の第二サブバンドの励起遷移エネルギー(E22)と第一サブバンドの光子放出エネルギー(E11)に対応する(非特許文献21)。図3aにおいて、(6,5)が、狭い分布(n,m)のチューブにおいて支配的である。E11遷移エネルギー(800〜1600nm)に対応する紫外線‐可視光‐近赤外線吸収スペクトル(図4)によって、(6,5)の優性が確かめられた。略1400nmのピークは、大きな直径のチューブ又はHOによる寄与であり得る(非特許文献22)。DOを分散溶媒として用いたが、周囲環境における測定中の湿気の影響を完全に回避することは不可能である。PLE(図3a)は、大きな直径のチューブ領域(E11>1400nm)において(9,8)に帰属するかすかなピークのみを示すので、本発明者は、吸収スペクトルにおける略1400nmのピークは主にHOによるものと考えている。
【0055】
Co‐MCM‐41(非特許文献23、非特許文献24)及びCoMoCAT(非特許文献25、非特許文献26、非特許文献27)を用いた触媒調製及びSWCNT合成の条件は、系統的に研究されてきた。還元温度は、それに従ってSWCNTの直径分布を変化させることができるようにするためのCo‐MCM‐41内のコバルト状態に密接に相関する重要なパラメータである(上記非特許文献23)。従って、Co‐TUD‐1内のコバルトクラスターも、SWCNTの直径及びカイラリティを制御できるようにするために還元温度を変化させることによって調整できることが望ましい。Co‐TUD‐1のTPRプロファイル(図1D)は、483℃の細いピークと、より低い439℃及び383℃の二つの肩部を示す。従って、コバルトは、異なる温度下において部分的に又は完全に還元可能であり、コバルトクラスターのサイズは、異なるSWCNT直径及び(n,m)分布に繋がるように変更可能である。SWCNTを、500℃、450℃及び400℃の異なる還元温度下で合成した。図3は、300nmから900nmの励起波長及び900nmから1600nmの放出波長でのフォトルミネッセンス(PLE)2次元等高線図の最大範囲に対する比較を示す。500℃では、SWCNTの(n,m)は、狭く分布して、10未満の半導体種が観測可能である。主要な種は、Co‐TUD‐1成長SWCNTにおいて(6,5)(直径0.757nm)である一方、同じ成長条件下のCo‐MCM‐41において(7,5)(直径0.829nm)である(非特許文献28)。より小さな直径分布は、SWCNTのカイラリティマップに従ってより少ない(n,m)種を示唆するものであるので、これは、Co‐MCM‐41に対するCo‐TUD‐1の利点であると考えられる。これは、共活性剤(cosurfactant)(非特許文献29)又はポリマー(非特許文献30)を用いた単一種のSWCNT抽出に向けた合成後分離において好まれる。還元温度を450℃及び400℃に低下させると、カイラリティ分布は広がる(図3b及びc)。(6,5)SWCNTが依然として他の(n,m)に対して最も強い強度を示しているが、(9,8)が強くなっているようにみえる。図1DのTPRプロファイルを参照すると、Co、CoO、及び取り込まれたCoは、その後、400℃、450℃、500℃においてそれぞれ還元可能である。Co及びCoOは、TUD‐1シリカ構造の表面に位置し、低温において還元可能である。これらの完全に還元されたクラスターは、SWCNT合成温度(800℃)への加熱中により大きなクラスターへと焼結されて、(9,8)等のより大きな直径のチューブが生成される。500℃に還元温度を上昇させると、取り込まれたCoは小さなクラスターに還元される。これらのクラスターはCo及びCoOから還元されたものよりも安定で、小さなサイズのままであり得る。同じ現象はCo‐MCM‐41においても観測されていて、コバルトクラスターの安定性の原因として、アンカーリング効果が考えられる(非特許文献24)。同じ曲率構造を共有するTUD‐1においても同じ効果が当てはまるかどうかを分析した。還元温度を制御することによって、SWCNTの(n,m)分布をシフトさせることができ、最も狭い(n,m)分布を500℃で得ることができた。
【0056】
SWCNTのカイラリティ選択性に対する還元温度の効果を更に確かめるために、合成されたままのSWCNTサンプルに対して、633nmレーザの下でラマン分光法を行った(図7に示す)。バルクSWCNTサンプルに対する(n,m)チューブの存在度評価は、連続レーザ励起ラマン分光法、及び各カイラル種の固有の特性の両方を要する複雑なものであるが、RBMの位置はSWCNTの直径に反比例することから(上記非特許文献20)、500℃以下において、450℃及び400℃と比較して、より小さな直径のチューブが生成されたことが更に発見された。より小さな直径のチューブに対応する緑領域に位置するRBMピークは、還元温度を上昇させるとより強力になり、青領域のRBMピークに対してはその逆である。この観点から、ラマンスペクトルはPLEの結果と一致する。
【0057】
大きなコバルトクラスターは、大きな直径のSWCNTを生成するだけではなく、DWCNT、MWCNT、及び炭素不純物(アモルファスカーボン、グラファイト等)の生成にも繋がる。他の合成物に対するSWCNT選択性は、合成法に関する重要な評価項目である。SWCNTサンプルの組成は、各炭素合成物の異なる燃焼温度に従った熱重量分析(TGA)を用いて評価可能である。図8は、Co‐TUD‐1を用いて500℃(a)、450℃(b)、400℃(c)の異なる還元温度で生成したSWCNTサンプルのTGAの結果を示す。図8aにおいて、430℃の主なピークは、SWCNTの酸化によるものである一方、330℃のかすかな肩部、及び900℃の小さなピークは、それぞれアモルファスカーボン、グラファイトに割り当て可能である。240℃の正のピークは、コバルト残留物の酸化によって取り込まれた酸素である。従って、500℃で還元されたCo‐TUD‐1が、SWCNTに対する高い選択性を有することは明らかである。しかしながら、還元温度を450℃に低下させると(図4b)、340℃のアモルファスカーボンピークがより強くなり、ある程度の量のアモルファスカーボンがサンプル中に存在することを示唆している。一方、520℃の新たなピークが現れて、これは割り当てが難しい。チューブサイズ、バンドルサイズ、金属‐チューブ相互作用の多くの因子が酸化温度をシフトし得るので(非特許文献31)、SWCNT又はMWCNTが500〜600℃の領域に現れ得る。この520℃のピークの起源を検証するため、部分的に(430℃)及び完全に(620℃)に燃焼させたSWCNTサンプル(400℃で還元)に対してラマン分光法を行い、炭素組成損失を比較した(図9に示す)。最初の二つのラマンスペクトルを比較することによって、第二のスペクトル(図9b)は、430℃での燃焼後にも依然として強いままであり、RBMピークが合成されたままのサンプル(図9a)と同一であることが観測された。挿入図(左側)はRBMピークの拡大図を示し、200及び278cm−1の二つのピークが縮んでいて、少量のSWCNTが酸化したことを示している。更に、620℃での燃焼後では、1597cm−1の小さなGバンドのみが観測可能であり、これはグラファイト残留物に由来する。他のプロファイルは、生の焼結Co‐TUD‐1触媒(図9d)と同一であり、炭素によるものではないことは明らかである。全体として、図8b及び8cに現れる520℃のピークはSWCNT酸化によるものであり、Co‐TUD‐1を用いて成長させたサンプルは、少量のアモルファスカーボン及びグラファイトと依然として組み合わさってはいるが、SWCNTが非常に豊富なものであると結論付けられる。
【0058】
〈まとめ〉
まとめとして、代表面積及び明確な細孔構造を有するコバルト取り込みTUD‐1が、上記例において合成された。このメソポーラス触媒を応用して、CVDを用いてSWCNTを合成し、これは、アモルファスカーボン及びグラファイトを含む少量の不純物のみと混合したSWCNTの成長に対して高度に選択的である。MWCNTの存在を示す証拠は無かった。更に、触媒を500℃でプレ還元した場合、SWCNTの(n,m)は狭く分布していて、主に(6,5)であった。還元温度を低下させることによって、(n,m)分布を、より大きな直径範囲へとシフトさせることができ、(9,8)がより強力に観測され得る。現状広く用いられているCo‐MCM‐41と比較して、CO‐TUD‐1は、高品質SWCNTを同等に生産できるが、その合成の単純性及び経済性は、Co‐MCM‐41に対して優れている。
【0059】
本明細書中の以前の発行文献の列挙及び考察は、必ずしもその文献が当該分野の現状の一部である又は周知の知識であることを認めるものとして取られるものではない。列挙された全ての文献は、あらゆる目的のために参照として本願に組み込まれるものである。
【0060】
本願で例示的に説明される本発明は、本願で具体的に開示させる要素、限定が無くとも適切に実施可能である。従って、例えば、“備える”、“含む”、“含有する”等の用語は、拡張的であり且つ限定無く読まれるものである。更に、本願で用いられている用語及び表現は、限定のためではなく説明のためのものであり、そのような用語及び表現の使用は、図示されて説明された特徴又はその一部分の等価物を排除するものではなく、多様な修正が、本願に係る発明の範囲内で可能であることを認識されたい。従って、本発明を、例示的な実施形態及び任意の特徴によって具体的に説明してきたが、本願で開示されて実施される発明の修正及び変形が当業者によって為され得て、このような修正及び変形が本発明の範囲内にあると考えられるものであることは理解されたい。
【0061】
本発明を、本願で広範で一般的に説明してきた。一般的な開示内に落とし込まれるより狭い種及び亜属種の各々も、本発明の一部を成す。これは、排除された事項が本願で具合的に記載されているかどうかを問わず、その属からなんらかの対象を除く但し書き又は負の限定を備えた本発明の一般的な説明を含む。
【0062】
他の実施形態も特許請求の範囲内に存する。更に、本発明の特徴又は側面がマーカッシュ方式で記載される場合、当業者は、本発明が、そのマーカッシュ方式の個々の事項又は事項のサブグループにおいても記載されるということを認識するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層カーボンナノチューブを形成するための方法であって、ガス状炭素源を適切な条件においてメソポーラスTUD‐1シリケートに接触させることを備え、前記メソポーラスTUD‐1シリケートが、ナノチューブ成長用に触媒として有効な金属を備える、方法。
【請求項2】
前記触媒として有効な金属が、元素周期表の3〜13族の金属を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
化学気相堆積を実施することを備える請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記元素周期表の3〜13族の金属が、コバルト、ニッケル及び鉄のうち少なくとも一つである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記炭素源が、CO、メタン、メタノール、エタノール及びアセチレンから成る群から選択させる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ガス状炭素源を、略1から略10atmの範囲内の圧力で前記メソポーラスTDU‐1シリケートに接触させる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記圧力が6atomである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記メソポーラスTUD‐1シリケートが、TUD‐1ソースシリケートの還元によって得られ、前記TUD‐1ソースシリケートが、元素周期表の3〜13族の金属又は金属酸化物を備えたメソポーラスTUD‐1シリケートである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記TUD‐1ソースシリケートの還元が、高温において実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記TUD‐1ソースシリケートの還元が、Hへ晒すことによって実施される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記TUD‐1ソースシリケートが、450℃以上の温度で還元される、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記メソポーラスTUD‐1シリケートが、最大1000℃の温度で還元される、請求項9〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記メソポーラスTUD‐1シリケートが、略500℃から略850℃の範囲内の温度で還元される、請求項9〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
形成される単層カーボンナノチューブの少なくとも50%が、カイラルインデックス(6,5)、(9,8)、(7,6)、(8,4)及び(7,6)のうち一つを有する、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−532089(P2012−532089A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519517(P2012−519517)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【国際出願番号】PCT/SG2010/000250
【国際公開番号】WO2011/002417
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(506222889)ナンヤン テクノロジカル ユニヴァーシティ (6)
【氏名又は名称原語表記】NANYANG TECHNOLOGICAL UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】50 Nanyang Avenue, Singapore 639798 (SG)
【Fターム(参考)】