説明

単結晶引き上げ装置、及び単結晶引き上げ装置に用いられる低熱伝導性部材

【課題】ルツボ回転軸から炉外への熱逃げを抑制することができ、しかも、製造コストを安価に抑えることのできる金属単結晶引上げ装置を提供する。
【解決手段】単結晶引き上げ装置1は、シリコン体融液3を収納する石英ルツボ2と、石英ルツボ2を保持する黒鉛ルツボ4と、黒鉛ルツボ4を下部で固定保持するための受け皿5と、受け皿5を下部で支持し受け皿5及びルツボ2,4を回転させながら昇降させるルツボ回転軸6とを備えている。受け皿5とルツボ回転軸6との接合面には、低熱伝導部材10が介在されている。低熱伝導部材10は略管状に形成されており、低熱伝導部材10の中央孔をルツボ回転軸6の凸部が挿通した状態で介在配置されている。これにより、受け皿5の底部下側に空隙部11が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法により、シリコン、ゲルマニウム等の単結晶化する金属原料から金属単結晶を作製する単結晶引上げ装置に関し、特に、該単結晶引上げ装置に用いられるルツボから熱がルツボ回転軸を経由して炉外に逃げるのを防止した熱逃げ防止構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多結晶シリコンからシリコン単結晶を作製する方法としては、チョクラルスキー法(以下、「CZ法」という。)がある。このCZ法に用いられる単結晶引上げ装置の一般的な構成は、シリコン融液を収容する石英ルツボ、該石英ルツボを保持する黒鉛ルツボ、該黒鉛ルツボを下部で固定保持するための受け皿、該受け皿を下部で支持し受皿及びルツボを回転させながら昇降させるルツボ回転軸、前記黒鉛ルツボの外周に配置されているヒータ等から構成されている。そして、ヒータにより黒鉛ルツボ及び石英ルツボを加熱してシリコンを融液している。
【0003】
このような単結晶引上げ装置においては、ルツボ、受け皿、及びルツボ回転軸は、全て黒鉛製であるのが一般的であるため、以下のような問題が生じている。即ち、黒鉛材は熱伝導率が高い材料であるため、ルツボ内の熱は、受け皿からルツボ回転軸に伝導され、炉外に逃げてしまう。換言すれば、金属を溶解するために加えた熱量が黒鉛材料を伝導して逃げるため、熱ロスが発生している。これにより、ルツボ内の温度が低下するため、この熱ロスをカバーするためには、ロス分だけ余分に加熱する必要があり、電力を余分に消費することになるという問題がある。また、他の問題は、ルツボ底部からの熱逃げ量が大きいと、石英ルツボ底部の溶融物(シリコンやゲルマニウム等)の温度が低下してしまい、ルツボ上部の溶融物の温度との差により溶融物の対流が起こってしまう。この対流は、単結晶引上げ装置には大敵となり、安定して引き上げを行うことができなくなる。
【0004】
そこで、かかる課題を解決するため、ルツボ回転軸に軸方向の熱伝導を抑制する低熱伝導部材を介在配置することが提案されている(以下の特許文献1参照)。また、特許文献1は、当該低熱伝導部材を炭素繊維強化炭素複合材で形成すること、ルツボ回転軸を全て炭素繊維強化炭素複合材で形成すること等を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−81592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の従来例では、ルツボからの熱がルツボ回転軸を介して下部に伝達することを抑制できる。しかし、低熱伝導部材は高価であり、且つ熱伝導の抑制が十分でなく、低価格で且つ熱伝導の抑制の効果がより大きい構成が求められている。
【0007】
また、上記特許文献1に記載の従来例の他の問題は、従来品のルツボ回転軸をそのまま使用することはできず、ルツボ回転軸に低熱伝導部材介在用の溝や穴等を加工する必要がある。そのため、製造コストのアップを招く。また、ルツボ回転軸を全て炭素繊維強化炭素複合材で形成する場合には、従来品のルツボ回転軸に比べて製造コストが大幅にアップし、非実用的である。
【0008】
そこで、従来から、ルツボ回転軸から炉外への熱逃げをより抑制することができると共に、コストを安価に抑えた熱逃げ防止構造を備えた単結晶引上げ装置が所望されていた。
【0009】
本発明は、上記の実情を鑑みて考え出されたものである。その目的は、ルツボ回転軸から炉外への熱逃げをより抑制することができ、しかも、ルツボ、受け皿、ルツボ回転軸等の単結晶引上げ装置の構成部材をそのまま使用することができ、製造コストを安価に抑えることのできる単結晶引上げ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため本発明は、ルツボと、該ルツボを下部で固定保持するための受け皿と、該受け皿を下部で支持し受け皿及びルツボを回転させながら昇降させるルツボ回転軸とを備えた単結晶引き上げ装置であって、前記ルツボと前記受け皿との間、及び、前記受け皿と前記ルツボ回転軸との間の少なくとも一方に、空隙部が形成されていることを要旨とする。
【0011】
ここで、本発明に係る単結晶引き上げ装置は、シリコン融液を収納する石英ルツボと該石英ルツボを保持する黒鉛ルツボとを備えたシリコン単結晶引き上げ装置の他に、ゲルマニウム融液等を直接黒鉛ルツボに収納する単結晶引き上げ装置も含む。
【0012】
上記構成によれば、ルツボと受け皿との間、及び、受け皿とルツボ回転軸との間の少なくとも一方に、空隙部が形成されていることにより、熱逃げを抑制することができる。具体的に説明すると、ヒータからルツボに伝達される熱量の一部は、受け皿、ルツボ回転軸を経て炉外に逃げていく。このとき、(1)ルツボと受け皿との間に空隙部が形成されている場合は、ルツボから受け皿への熱逃げが抑制され、(2)受け皿とルツボ回転軸との間に空隙部が形成されている場合は、受け皿からルツボ回転軸への熱逃げが抑制され、(3)ルツボと受け皿との間に空隙部が形成されていると共に、受け皿とルツボ回転軸との間にも空隙部が形成されている場合は、ルツボから受け皿への熱逃げが抑制され、更に、受け皿からルツボ回転軸への熱逃げが抑制される。従って、上記(1)〜(3)のいずれの場合であっても、ルツボ回転軸の下部方向への熱伝導が減少し、その結果、ルツボ回転軸から炉外に漏洩する熱量を減少することができる。このように、ルツボと受け皿との間、及び、受け皿とルツボ回転軸との間の少なくとも一方に、空隙部を形成することにより、ルツボ回転軸から炉外に漏洩する熱量を低減できるため、ルツボ内のシリコン等の金属原料融液に加わる熱量を維持し、ルツボ内の温度を金属原料の融点以上に保持することができる。換言すれば、空隙部の形成により、ルツボ回転軸下部から漏洩する熱量が低減するため、熱損失を考慮してヒータの発熱量を多量に必要とすることがなくなる。
【0013】
また、空隙部は低熱伝導部材よりも熱逃げ抑制効果が大きいため、従来例のようなルツボ回転軸に低熱伝導部材を介在配置する構成に比べて、本発明の方がより効果的に熱逃げを抑制することができる。
【0014】
尚、空隙部を形成するためには、例えば、ルツボと受け皿との接合面、受け皿とルツボ回転軸との接合面に、薄い部材を介在配置すればよく、このような構成であれば、ルツボ、受け皿、ルツボ回転軸等の単結晶引上げ装置の構成部材をそのまま使用することができ、製造コストを安価に抑えることが可能となる。
【0015】
また、本発明においては、前記ルツボと前記受け皿との間に形成される空隙部は、ルツボ底部の下側に位置している構成であるのが好ましい。
【0016】
上記構成であれば、ルツボ底部からの熱逃げ量を抑制することができるため、ルツボ底部の溶融物の温度の低下を防ぐことができ、ルツボ上部の溶融物の温度との差に起因した溶融物の対流の発生を抑制することができる。
【0017】
また、本発明においては、前記受け皿と前記ルツボ回転軸との間に形成される空隙部は、受け皿底部の下に位置している構成であるのが好ましい。
【0018】
上記構成であれば、ルツボ底部からの熱が受け皿に伝導され易くても、受け皿底部からルツボ回転軸への伝達が抑制されるので、実質的にはルツボ底部からの熱逃げ量を抑制することができることを意味する。従って、受け皿底部の下に空隙部を形成する場合であっても、ルツボ底部の溶融物の温度の低下を防ぐことができ、ルツボ上部の溶融物の温度との差に起因した溶融物の対流の発生を抑制することができることになる。
【0019】
また、本発明においては、前記ルツボと前記受け皿との接合面、及び、前記受け皿と前記ルツボ回転軸との接合面の少なくとも一方に、主面に対して垂直方向(厚み方向に相当)の熱伝導が低い低熱伝導性部材が介在している構成であるのが好ましい。
【0020】
上記構成であれば、ルツボと受け皿とが直接接触することはなく、また、受け皿とルツボ回転軸とが直接接触することはない。従って、逃げ熱は必ず低熱伝導性部材を通過することになるため、低熱伝導性部材により熱伝導が抑制される。従って、ルツボ回転軸への熱逃げを遅延させることができ、ルツボの熱量ロスを防止できる。
【0021】
更に、ルツボと受け皿との接合面や受け皿とルツボ回転軸との接合面に、低熱伝導性部材が介在する構成であるため、ルツボ、受け皿、ルツボ回転軸等の単結晶引上げ装置の構成部材をそのまま使用することができ、従来例のようにルツボ回転軸に低熱伝導部材介在用の溝や穴等を加工する必要がなく、製造コストを安価に抑えることができる。
【0022】
尚、低熱伝導性部材は、熱伝導を減少させることができる材質であれば、特に限定されるものではないが、上側に載るルツボ、受け皿等の重量により発生する圧縮応力に対しても十分な耐性を有する材質であるのが好ましい。ルツボ等の人造黒鉛と同等の強度があれば十分であり、圧縮強度が80MPa以上のものが好ましい。低熱伝導性部材の「低熱伝導」の範囲としては、室温の条件下で、熱伝導率が10W/m・K以下であり、好ましくは5W/m・K以下である。
【0023】
また、本発明においては、前記低熱伝導性部材は1次元の炭素繊維強化炭素複合材又は2次元の炭素繊維強化炭素複合材から成るのが好ましい。
【0024】
炭素繊維強化炭素複合材は主面に対して垂直方向への圧縮強度は、黒鉛材よりも高く、200MPa以上である場合もあり、炭素繊維強化炭素複合材の上側に載るルツボ、受け皿等の重量により発生する圧縮応力に対しても十分な耐性を有しているため、本発明に係る低熱伝導性部材の素材としては好都合である。従って、低熱伝導性部材の素材としては、1次元の炭素繊維強化炭素複合材、2次元の炭素繊維強化炭素複合材、3次元の炭素繊維強化炭素複合材のいずれを用いてもよいが、好ましくは1次元の炭素繊維強化炭素複合材又は2次元の炭素繊維強化炭素複合材である。その理由は以下の通りである。
【0025】
1次元の炭素繊維強化炭素複合材及び2次元の炭素繊維強化炭素複合材は共に主面に対して垂直方向(炭素繊維強化炭素複合材の厚み方向)への熱伝導率が低い性質を有していることから、ルツボからの熱逃げを効果的に防止できる。3次元の炭素繊維強化炭素複合材は、垂直方向の熱伝導率が高い性質を有しているため、断熱効果が1次元の炭素繊維強化炭素複合材や2次元の炭素繊維強化炭素複合材よりも悪く、また、極めて高価である。従って、低熱伝導性部材の断熱効果及び価格を考慮すれば、低熱伝導性部材の素材としては1次元の炭素繊維強化炭素複合材又は2次元の炭素繊維強化炭素複合材が好ましいことになる。
【0026】
また、本発明においては、前記炭素繊維強化炭素複合材は、略環状に形成されている構成であるのが好ましい。
炭素繊維強化炭素複合材の形状としては、円形状、環状等のいずれの形状であってもよいが、好ましくは環状である。なぜなら、炭素繊維強化炭素複合材が略環状に形成されていると、ルツボ底部下側や受け皿底部下側に空隙部を確実に形成することができるからである。加えて、ルツボを安定よく固定、支持することも可能となるからである。更に、円形形状に比べて、環状形状の方が接触面積が小さいため、熱逃げ防止効果をさらに高めることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ルツボと受け皿との間、及び、受け皿とルツボ回転軸との間の少なくとも一方に、空隙部を形成することにより、ルツボ回転軸から炉外に漏洩する熱量を低減できるため、ルツボ内のシリコン等の金属原料融液に加わる熱量を維持し、ルツボ内の温度を金属原料の融点以上に保持することができる。換言すれば、空隙部の形成により、ルツボ回転軸下部から漏洩する熱量が低減するため、熱損失を考慮してヒータの発熱量を多量に必要とすることがなくなる。
【0028】
また、空隙部は低熱伝導部材よりも熱逃げ抑制効果が大きいため、従来例のようなルツボ回転軸に低熱伝導部材を介在配置する構成に比べて、本発明の方がより効果的に熱逃げを抑制することができる。
【0029】
更に、空隙部を形成するためには、例えば、ルツボと受け皿との接合面、受け皿とルツボ回転軸との接合面に、薄い部材を介在配置すればよく、このような構成であれば、ルツボ、受け皿、ルツボ回転軸等の単結晶引上げ装置の構成部材をそのまま使用することができ、製造コストを安価に抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施の形態1に係るシリコン単結晶引き上げ装置の要部断面図。
【図2】実施の形態2に係るシリコン単結晶引き上げ装置の要部断面図。
【図3】ルツボ底部を説明するための図。
【図4】実施の形態3に係るシリコン単結晶引き上げ装置の要部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施の形態に基づいて詳述する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0032】
(実施の形態1)
(金属単結晶引上げ装置の構成)
図1は本実施の形態に係るシリコン単結晶引き上げ装置の要部断面図である。図において、1は単結晶引き上げ装置、2はシリコン融液3を収容する石英ルツボ、4は石英ルツボ2を保持する黒鉛ルツボ、5は黒鉛ルツボ4を下部で固定保持するための黒鉛製受け皿、6は受け皿5を下部で支持し受け皿5及びルツボ2,4を回転させながら昇降させる黒鉛製ルツボ回転軸である。ルツボ回転軸6は回転/昇降駆動装置(図示せず)により回転自在に制御される。そして、ルツボ回転軸6は、シリコン単結晶の引上げ軸方向を回転軸として受け皿5、黒鉛ルツボ4及び石英ルツボ2を回転させ、また、上方移動させてシリコン融液3の融液面を一定の高さに維持するようになっている。また、黒鉛ルツボ4の外周にはヒータ7が配置されており、このヒータ7により黒鉛ルツボ4及び石英ルツボ2を介してシリコン融液3を加熱し、インゴット8を引き上げながらシリコン単結晶を作製する。
【0033】
ここで注目すべきは、受け皿5とルツボ回転軸6との接合面に、低熱伝導部材10が介在されていることである。即ち、受け皿5の底部下面と、ルツボ回転軸6の鍔部6a上面との間に低熱伝導部材10が介在されている。この低熱伝導部材10は略管状に形成されており、低熱伝導部材10の中央孔をルツボ回転軸6の凸部6bが挿通した状態で介在配置されている。これにより、受け皿5の底部下側に空隙部11が形成されている。
【0034】
低熱伝導部材10は2次元の炭素繊維強化炭素複合材から成る。炭素繊維強化炭素複合材としては、1次元の炭素繊維強化炭素複合材、2次元の炭素繊維強化炭素複合材、3次元の炭素繊維強化炭素複合材のいずれを用いてもよい。但し、好ましくは1次元の炭素繊維強化炭素複合材又は2次元の炭素繊維強化炭素複合材であり、より好ましくは、2次元の炭素繊維強化炭素複合材である。その理由は以下のとおりである。
【0035】
低熱伝導部材10の素材としては、充分な強度を有すること、熱伝導率が低いこと、低コストであること等を考慮する必要がある。
3次元の炭素繊維強化炭素複合材は垂直方向(本実施の形態においてはルツボ回転軸方向に相当)の熱伝導率が2次元の炭素繊維強化炭素複合材よりも高く、断熱効果が低い。加えて、価格が高い。従って、3次元の炭素繊維強化炭素複合材よりも2次元炭素繊維強化炭素複合材を用いるのが好ましい。一方、1次元の炭素繊維強化炭素複合材は、2次元の炭素繊維強化炭素複合材と同程度の断熱効果を有しており、価格についても2次元炭素繊維強化炭素複合材と同程度である。しかし、1次元の炭素繊維強化炭素複合材は環状に形成した場合に割れ易い。従って、低熱伝導部材10を円板形状のように場合には、低熱伝導部材10の素材としては1次元の炭素繊維強化炭素複合材を用いるようにしてもよいが、低熱伝導部材10を環状に形成する場合には2次元の炭素繊維強化炭素複合材を用いるのが好ましい。
【0036】
2次元の炭素繊維強化炭素複合材から成る低熱伝導部材10の厚みは、3〜10mmである。厚くする方が熱伝導がより低くなるため、断熱効果は向上するが、実用的な範囲を考慮すれば、3〜10mmの範囲内が好ましい。
【0037】
空隙部11の大きさは、2mm以上、好ましくは3mm以上、より好ましくは5mm以上である。但し、あまり大きくすると、ルツボの安定性が悪くなるので、50mm未満が好ましい。
【0038】
次いで、上記構成の単結晶引き上げ装置を使用した場合のシリコン単結晶の製造方法について説明する。
先ず、多結晶シリコンを石英ルツボ2内に充填した後、ヒータ7を発熱させ、黒鉛ルツボ4を介して石英ルツボ2を加熱することにより、石英ルツボ2内の多結晶シリコンをシリコンの融点以上に熱して融解する。次いで、シードチャックに取り付けられた種結晶を下降し、融解したシリコン融液3に浸漬させた後、シードチャックと黒鉛ルツボ4とを同方向又は逆方向に回転させつつ、シードチャックを引き上げて、シリコン結晶を成長させる。
【0039】
ここで、黒鉛ルツボ4はヒータ7により加熱されているが、黒鉛ルツボ4の熱量は、黒鉛ルツボ4→受け皿5→ルツボ回転軸6に伝達され、ルツボ回転軸6の下部から炉外へと熱が逃げていくことになる。しかしながら、受け皿5底部下側には空隙部11が形成されていることにより、受け皿5底部からルツボ回転軸6への熱逃げが抑制させる。そのため、受け皿5からルツボ回転軸6への熱逃げは、主として低熱伝導部材10を介することになる。ここで、低熱伝導部材10は2次元の炭素繊維強化炭素複合材から成り、黒鉛材の熱伝導率に比べて低いため、受け皿5からルツボ回転軸6への熱の伝達が抑制される。これにより、ルツボ回転軸6への熱逃げを遅延させることができ、ルツボの熱量ロスを防止できる。更に、黒鉛ルツボ4底部の熱の逃げが困難なことから、ルツボ4,2底部の温度の均一性が良好となるので、ルツボ上側との温度差に起因したシリコン融液の対流を抑制することが可能となる。
【0040】
(実施の形態2)
図3は実施の形態2に係るシリコン単結晶引き上げ装置の要部断面図である。本実施の形態2は、黒鉛ルツボ4底部下側に空隙部11Aが形成されており且つ黒鉛ルツボ4と受け皿5との接合面に低熱伝導部材10Aが介在されていることを特徴とする。上記実施の形態1が受け皿5とルツボ回転軸6との間の断熱構造を特徴としたのに対して、本実施の形態2は黒鉛ルツボ4と受け皿5との間の断熱構造を特徴としたものである。以下、本実施の形態2の具体的な構造について説明する。本実施の形態では、黒鉛ルツボと受け皿5との接合面に、略管状の低熱伝導部材10Aが介在されていることである。即ち、黒鉛ルツボ4底部外側寄りの面と、受け皿5上面との間に、低熱伝導部材10Aが介在されている。この低熱伝導部材10Aの中央孔は受け皿5の凹部5aに略対応した大きさであり、黒鉛ルツボ4底部が該中央孔に嵌り込んで、凹部5aの底面に臨む状態で配置されている。これにより、黒鉛ルツボ4の底部下側に空隙部11Aが形成されている。
【0041】
ここで、黒鉛ルツボ4の底部とは、本願明細書においては以下の意味に用いるものとする。即ち、図3に示すように、黒鉛ルツボ4の最底部からルツボ上端までの長さをL1とすると、黒鉛ルツボ4の最底部から外周側における底部からの鉛直方向の長さが1/3Lとなる領域Mを意味する。
【0042】
本実施の形態では、黒鉛ルツボ4と受け皿5とは直接接触する部位がない構成であるため、黒鉛ルツボ4の熱が、受け皿5に伝熱され難くなり、ルツボ回転軸6への熱逃げを遅延させることができ、黒鉛ルツボ4の熱量ロスを防止できる。更に、黒鉛ルツボ4底部の熱の逃げが困難なことから、ルツボ4,2の底部の温度の均一性が良好となるので、ルツボ上側との温度差に起因したシリコン融液の対流を抑制することが可能となる。
【0043】
(実施の形態3)
図4は実施の形態3に係るシリコン単結晶引き上げ装置の要部断面図である。本実施の形態3は、受け皿5とルツボ回転軸6との間の断熱構造と、黒鉛ルツボ4と受け皿5との間の断熱構造の両者を備えたことを特徴とする。換言すれば、本実施の形態3は、上記実施の形態1と上記実施の形態2とを組み合わせた構造を有するものである。
【0044】
以下、本実施の形態3の具体的な構造について説明すると、黒鉛ルツボ4と受け皿5との接合面に、略管状の低熱伝導部材10Aが介在されており、これにより、黒鉛ルツボ4の底部下側に空隙部11Aが形成されている。また、受け皿5とルツボ回転軸6の接合面に、略管状の低熱伝導部材10が介在されており、これにより、受け皿5の底部下側に空隙部11が形成されている。このような構造により、受け皿5とルツボ回転軸6との間の断熱効果、及び、黒鉛ルツボ4と受け皿5との間の断熱効果が達成されるため、よりルツボの熱量ロスを防止できる。
【0045】
(その他の事項)
(1)上記実施の形態1〜3では、シリコン融液を収納する石英ルツボと該石英ルツボを保持する黒鉛ルツボとを備えたシリコン単結晶引き上げ装置について説明したが、石英ルツボがなく、ゲルマニウム融液等を直接黒鉛ルツボに収納する単結晶引き上げ装置にも本発明は適用することができる。
【0046】
(2)上記実施の形態1〜3では、環状の低熱伝導部材は一体形成されたものであったが、複数の部材の組み合わせにより環状となる構成のものであってもよい。また、周方向に間隔をあけた複数の部材により構成するようにしてもよい。但し、上記実施の形態1〜3のような一体形成された環状の低熱伝導部材の方が、好ましい。なぜなら、部材が1つでよく、取り扱いが容易となるからである。
【0047】
(3)低熱伝導部材は環状に形成されたけれども、円板形状であってもよい。但し、環状形状の場合の方が好ましい。環状形状であれば、黒鉛ルツボ底部の下側や受け皿底部の下側に確実に空隙部を形成することができ、且つ、ルツボを安定よく固定、支持することが可能だからである。
【0048】
(4)2次元の炭素繊維強化炭素複合材から成る低熱伝導部材に代えて、膨張黒鉛シート又は断熱材を用いることも考えられる。しかし、膨張黒鉛シート又は断熱材は強度が不足するため、適切でない。
【0049】
(5)受け皿自体を炭素繊維強化炭素複合材で形成すれば、本発明と同様の断熱効果が得られると思われるが、受け皿とするほどの厚い2次元の炭素繊維強化炭素複合材はない。また、市販の2次元の炭素繊維強化炭素複合材を積層させて製造するとすれば、非常に高価になってしまい、価格面から非現実的である。さらに、仮に製造可能としてとも、黒鉛ルツボとの組み合わせでは、熱伝導率の違いが大きく、干渉して割れ易いという問題がある。このような問題は、ルツボ回転軸を炭素繊維強化炭素複合材で形成する場合にも当てはまる。一方、本発明ではこのような問題はない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、シリコン等の単結晶引上げ装置に適用される。
【符号の説明】
【0051】
1:単結晶引き上げ装置
2:石英ルツボ
3:シリコン融液
4:黒鉛ルツボ
5:受け皿
6:ルツボ回転軸
10,10A:低熱伝導部材
11,11A:空隙部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルツボと、該ルツボを下部で固定保持するための受け皿と、該受け皿を下部で支持し受け皿及びルツボを回転させながら昇降させるルツボ回転軸とを備えた単結晶引き上げ装置であって、
前記ルツボと前記受け皿との間、及び、前記受け皿と前記ルツボ回転軸との間の少なくとも一方に、空隙部が形成されていることを特徴とする単結晶引き上げ装置。
【請求項2】
前記ルツボと前記受け皿との間に形成される空隙部は、ルツボ底部の下に位置している請求項1記載の単結晶引き上げ装置。
【請求項3】
前記受け皿と前記ルツボ回転軸との間に形成される空隙部は、受け皿底部の下に位置している請求項1記載の単結晶引き上げ装置。
【請求項4】
前記ルツボと前記受け皿との接合面、及び、前記受け皿と前記ルツボ回転軸との接合面の少なくとも一方に、主面に対して垂直方向の熱伝導が低い低熱伝導性部材が介在している請求項1記載の単結晶引き上げ装置。
【請求項5】
前記低熱伝導性部材は1次元の炭素繊維強化炭素複合材又は2次元の炭素繊維強化炭素複合材から成る請求項4記載の単結晶引き上げ装置。
【請求項6】
前記炭素繊維強化炭素複合材は、略環状に形成されている請求項5記載の単結晶引き上げ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−111648(P2012−111648A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260242(P2010−260242)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】