説明

印刷制御方法

【課題】キャリブレーションにおける測色ミスを高精度かつ高速に検知し、測色ミスを防止する。
【解決手段】基準状態にある印刷装置20によって印刷された基準チャートに設けられた検査対象カラーパッチを基準状態にある測色装置30を用いて特定分光反射率(シアンの色材にかかるカラーパッチついては400nm〜600nmの何れかの波長とされ、マゼンタの色材にかかるカラーパッチついては430nm〜560nmを除く何れかの波長とされ、イエローの色材にかかるカラーパッチついては380nm〜470nmを除く何れかの波長とされ、ブラックの色材にかかるカラーパッチついては380nm〜470nmを除く何れかの波長)を取得し、インク量階調において隣接する他のカラーパッチの特定分光反射率との色差に基づいて、検査対象カラーパッチの印刷または測色にかかる異常を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印刷制御方法に関し、特にカラーパッチを設けられたチャートを印刷部に印刷させ、当該カラーパッチの測色結果に基づいて当該カラーパッチの印刷または測色にかかる異常を検知する印刷制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷装置から出力する印刷物のカラーマッチングを行うには、当該印刷装置にてカラーパッチを印刷し、印刷したカラーパッチの測色値を測色機を用いて取得する。その際、色材の吐出口の経年変動や不具合、印刷物表面に付着したゴミ、測色機の設定ミス、測色機の不具合、等に起因して、カラーパッチから取得された測色値が不適切な場合がある。
このような問題に対処する方法として、例えば目視検査が行われているが、使用者の主観が基準となるため判断結果が異なるし、印字ムラ等は目視では判断が困難な場合がある。
また、他の方法として、出力するカラーチャートの各カラーパッチに、予め標準的な測色値と許容誤差とを設定し、カラーパッチから取得された測色値が、標準的な測色値から許容誤差の範囲内に内場合に、ユーザーに通知する技術がある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−124458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1の手法では、測色値としてXYZ値(CIE)やL(CIE)等が用いられている。しかしながら、これらの測色値ではキャリブレーションの精度に限界があった。また、高精度なキャリブレーションのために分光反射率分布を用いるとキャリブレーション速度が低下する。
【0005】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたもので、キャリブレーションにおける測色ミスを高精度かつ高速に検知し、測色ミスを防止することが可能な印刷制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様の1つは、カラーパッチを設けられたチャートを印刷部に印刷させ、当該カラーパッチの測色結果に基づいて当該カラーパッチの印刷または測色にかかる異常を検知する印刷制御方法であって、基準状態にある前記印刷部によって印刷された第1のチャートに設けられたカラーパッチを基準状態にある測色部を用いて所定波長の分光反射率を取得し、当該カラーパッチとインク量階調において当該カラーパッチに隣接する前記第1のチャートに設けられた他のカラーパッチについて基準状態にある前記測色部を用いて取得された所定波長における分光反射率との色差に基づいて、前記カラーパッチの印刷または測色にかかる異常を検知する構成とされ、前記所定波長は、シアンの色材にかかるカラーパッチついては400nm〜600nmの何れかの波長とされ、マゼンタの色材にかかるカラーパッチついては430nm〜560nmを除く何れかの波長とされ、イエローの色材にかかるカラーパッチついては380nm〜470nmを除く何れかの波長とされ、ブラックの色材にかかるカラーパッチついては380nm〜470nmを除く何れかの波長とされている。
【0007】
前記所定波長においては、前記各色材の色材量の変化に対する分光反射率の変化度合が前記所定波長以外の波長での変化度合に比べて小さい。そのため、前記印刷または測色にかかる異常の検知対象となるカラーパッチの前記所定波長における分光反射率と、インク量階調において当該検知対象カラーパッチと隣接する前記第1のチャートに設けられた他のカラーパッチを前記基準状態にある前記測色部を用いて取得した所定波長における分光反射率と、の色差に対する、印刷または測色にかかる異常による分光反射率の変動量の影響が大きい。例えば、前記印刷または測色にかかる異常が有ると、前記印刷または測色にかかる異常が無い場合のこれらの分光反射率の色差が、正負いずれかに大きく変動する。従って、前記印刷または測色にかかる異常が有ると、インク量階調において当該検知対象カラーパッチと隣接する他のカラーパッチを前記基準状態にある前記測色部を用いて取得した所定波長における分光反射率との大小関係が、前記印刷または測色にかかる異常が無い場合と逆転したりする。したがって、パッチの測色ミスを高精度に検知し、測色ミスを防止ことが可能となる。また、分光反射率分布の全体を利用せずに所定波長を利用するため、異常を高速に検知できる。
【0008】
本発明の選択的な態様の1つは、複数のカラーパッチのそれぞれについて前記異常の検知を行い、前記異常を検知されたカラーパッチのみを設けた第3のチャートを前記印刷部に印刷させ、当該第3のチャートに設けられたカラーパッチについて前記測色部を用いて前記所定波長における分光反射率を取得し、当該カラーパッチとインク量階調において当該カラーパッチに隣接する前記第1のチャートに設けられた他のカラーパッチについて基準状態にある前記測色部を用いて取得された所定波長における分光反射率との色差に基づいて、前記カラーパッチの印刷または測色にかかる異常を検知する構成とされる。
【0009】
当該構成においては、異常を検知されたカラーパッチについては再印刷・再測色するようにしてある。従って、一時的な要因で異常が検知されたカラーパッチについては再印刷・再測色によって正常な分光反射率が取得される。一方、一時的でない要因で異常が検知されたカラーパッチについては再印刷・再測色を行っても再び異常が検知される。よって、異常の発生要因を限定することができる。また、一時的な異常であれば、カラーパッチの正常な測色結果を得ることができる。
【0010】
本発明の選択的な態様の1つは、複数のカラーパッチのそれぞれについて前記異常の検知を行い、前記異常を検知されたカラーパッチのみを、前記異常を検知されたときと異なる印刷位置に設けた第3のチャートを前記印刷部に印刷させ、当該第3のチャートに設けられたカラーパッチについて前記測色部を用いて前記所定波長における分光反射率を取得し、当該カラーパッチとインク量階調において当該カラーパッチに隣接する前記第1のチャートまたは前記第3のチャートに設けられた他のカラーパッチについて基準状態にある前記測色部を用いて取得された所定波長における分光反射率との色差に基づいて前記カラーパッチの印刷または測色にかかる異常を検知する構成とされる。
【0011】
当該構成においても、異常を検知されたカラーパッチについては再印刷・再測色するようにしてある。従って、一時的な要因で異常が検知されたカラーパッチについては再印刷・再測色によって正常な分光反射率が取得される。また、当該異常を検知されたカラーパッチの印刷位置と測色位置とを、先に印刷・測色したときの印刷位置・測色位置と異なる位置としているため、位置的な要因で異常を検知されていた場合にも、当該異常が解消されて正常な分光反射率が取得される。一方、一時的でなく位置的でもない要因で異常を検知されていた場合は、異常が検知されたカラーパッチについては再印刷・再測色を行っても再び異常が検知される。よって、異常の発生要因を限定することができる。また、一時的な要因や位置的な要因による異常であれば、カラーパッチの正常な測色結果を得ることができる。
【0012】
本発明の選択的な態様の1つは、前記異常を検知されたカラーパッチと異なる色材量で印刷された複数の他のカラーパッチにかかる測色結果を用いた補間演算により算出した値で、前記異常を検知されたカラーパッチの測色結果として補完し、前記異常を検知されたカラーパッチの色材量と当該測色結果とを対応付けて所定の記憶媒体に記憶する構成とされる。
【0013】
当該構成においては、前記異常を検知されたカラーパッチの測色結果を、当該カラーパッチと異なる色材量で印刷された他の複数のカラーパッチにかかる測色結果を利用して補間演算を行い、当該演算の結果を前記異常を検知されたカラーパッチの測色結果として補完するため、前記異常の発生したカラーパッチが小数であれば、再印刷や再測色を行うこと無く、前記異常を検知されたカラーパッチの色材量と当該測色結果とを対応付けたデータを作成することができる。よって、パッチの測色ミスを高精度に検知して測色ミスを防止しつつ、測色結果の出力も高速化できる。
【0014】
本発明の選択的な態様の1つは、1枚の印刷媒体に印刷された複数のカラーパッチのそれぞれについて前記異常の検知を行い、前記複数のカラーパッチの少なくとも1つについて前記色差の誤差が所定値を超え且つ前記複数のカラーパッチの前記色差の誤差の平均が前記所定値を超えないときは、外的要因による測色の異常をユーザーに通知する構成とされる。
【0015】
当該構成によれば、異常が外的要因により発生していることがユーザーに通知されるため、ユーザーにとって異常の要因解消が容易となる。前記誤差は、当該カラーパッチとインク量階調において当該カラーパッチに隣接する前記第1のチャートに設けられた他のカラーパッチについて基準状態にある前記測色部を用いて取得された所定波長における分光反射率との色差に基づいて算出され、例えば、当該カラーパッチに隣接する前記第1のチャートに設けられた他の2つのカラーパッチについて基準状態にある前記測色部を用いて取得された所定波長における分光反射率を線形補間したときに、異常の検査対象となるカラーパッチのインク量階調に想到する分光反射率との差分を、前記色差の誤差とすることができる。なお、外的要因とは、印刷部、測色部、当該印刷部や測色部を制御する機器、測色結果に基づいて異常の有無を判断する機器、等に起因する異常ではなく、例えば、印刷媒体上にゴミが付着したり、カラーパッチに傷等の損傷があったりする等といった測色や異常検知にかかるシステム構成の外部要因を意味する。
【0016】
本発明の選択的な態様の1つは、1枚の印刷媒体に印刷された複数のカラーパッチのそれぞれについて前記異常の検知を行い、前記複数のカラーパッチの少なくとも1つについて前記色差の誤差が所定値を超え且つ前記複数のカラーパッチの前記色差の誤差の平均が前記所定値を超えるときは、内的要因による測色の異常をユーザーに通知する構成とされる。
【0017】
当該構成によれば、異常が内部要因により発生していることがユーザーに通知されるため、ユーザーにとって異常の要因解消が容易となる。なお、内部要因とは、印刷部、測色部、当該印刷部や測色部を制御する機器、測色結果に基づいて異常の有無を判断する機器、等に起因する異常であり、例えば、前記印刷部が前記印刷媒体に付着させる色材量の異常、前記印刷部の経年劣化、前記測色部の測色感度の異常、前記測色部の経年劣化、等といった測色や異常検知にかかるシステム構成の内部要因を意味する。
【0018】
本発明の選択的な態様の1つは、前記カラーパッチの前記色差の誤差を履歴し、当該履歴において前記誤差が増加傾向にあるときは、前記印刷部と前記測色部の少なくとも一方の校正時期をユーザーに通知する構成とされる。
【0019】
当該構成においては、カラーパッチにおける色差の誤差を複数回にわたって履歴しておき、当該誤差が増加傾向にあるか否かを判断し、増加傾向に有る場合は、前記印刷部や前記測色部といったシステム構成が経年劣化している可能性をユーザーに通知する。従って、ユーザーは、前記印刷部や前記測色部の校正を行ったり修理を行ったりする目安を把握することができる。
【0020】
本発明の選択的な態様の1つは、前記カラーパッチの前記色差の誤差を履歴し、前記異常を検知されたカラーパッチにおける前記誤差の変動が、前記履歴における前記誤差の変動傾向と異なる変動傾向を示したときは、外的要因による測色の異常をユーザーに通知する構成とされる。
【0021】
当該構成おいては、カラーパッチにおける色差の誤差を複数回にわたって履歴しておき、当該履歴において正の誤差が大勢を占めているにも関わらず前記カラーパッチにおける色差に負の誤差が生じている場合や、当該履歴において不の誤差が大勢を占めているにも関わらず前記カラーパッチにおける色差に正の誤差が生じている場合には、当該誤差の原因となる異常は外的要因であるとユーザーに通知する。すなわち、システム構成が使用により徐々に増加する異常の傾向を履歴により把握し、このような異常の傾向と対照することにより、一時的に外的要因によって発生する異常を特定可能としてある。よって、外的要因による異常を、より正確にユーザーに通知できるようになる。
【0022】
本発明の選択的な態様の1つは、前記カラーパッチの前記色差の誤差を履歴し、当該履歴において特定の色材のカラーパッチにかかる誤差の変動傾向が他の色材のカラーパッチにかかる誤差の変動傾向と異なるときは、前記印刷部によって前記印刷媒体に付着させる前記特定の色材の付着量の異常をユーザーに通知する構成とされる。
【0023】
当該構成においては、前記カラーパッチにおける色差の誤差を当該カラーパッチの印刷に利用される色材の種類毎に複数回にわたって履歴しておき、特定の色材で印刷されたカラーパッチにかかる色差の誤差の変動傾向が、他の色材で印刷されたカラーパッチにかかる色差の誤差の変動傾向と異なる場合は、前記特定の色材の前記印刷媒体に対する付着量に異常があるものと判断し、これをユーザーに通知する。よって、ユーザーは異常の要因を正確に把握可能となり、異常の解消までに要する時間を短縮することができる。
【0024】
前述した印刷制御方法は、他の方法の一環として実施されたり各工程に対応する手段を備えた印刷制御装置や該印刷制御方法で作成された各種データを備えた印刷制御装置や印刷装置や測色装置として実現されたりする等の各種の態様を含む。また、本発明は前記印刷制御装置や印刷装置や測色装置の少なくとも1つを備える印刷制御システム、前述した方法の構成に対応した機能をコンピューターに実現させる印刷制御プログラム、該印刷制御プログラムを記録したコンピューター読み取り可能な記録媒体、等としても実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】印刷制御装置を有する印刷システムの構成を例示する図である。
【図2】ホスト装置の構成を示すブロック図である。
【図3】基準データ作成の流れを示すフローチャートである。
【図4】基準チャートにおけるカラーパッチ配置の一例である。
【図5】シアンインクについて複数のインク量で印刷したカラーパッチの分光反射率分布を示すグラフである。
【図6】マゼンタインクについて複数のインク量で印刷したカラーパッチの分光反射率分布を示すグラフである。
【図7】イエローインクについて複数のインク量で印刷したカラーパッチの分光反射率分布を示すグラフである。
【図8】ブラックインクについて複数のインク量で印刷したカラーパッチの分光反射率分布を示すグラフである。
【図9】測色ミスによる分光反射率の変動を説明する図である。
【図10】再印刷を行う際のエラーパッチの配置場所を説明する図である。
【図11】カラーパッチ測色の流れを示すフローチャートである。
【図12】手動除去を行うUI画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、下記の順序に従って本発明の実施形態を説明する。
(1)本実施形態の構成:
(2)基準データの作成:
(3)測色ミスの検知:
(4)変形例:
【0027】
(1)本実施形態の構成:
《印刷システム》
図1は、印刷制御装置を有する印刷システムの構成を例示している。
図1(a)に示す印刷システムS1では、ホスト装置10に対して印刷装置20や測色装置30が接続されている。例えば、ホスト装置10はパーソナルコンピューター等のコンピューターにより構成され、印刷装置20はインクジェットプリンターにより構成され、測色装置30はカラー測色機により構成される。なお、印刷システムS1において、ホスト装置10は、基準パッチ印刷用インク量データ等の情報を保持する印刷制御装置を構成し、印刷装置20は印刷部を構成し、測色装置30は測色部を構成する。
【0028】
図1(b)に示す印刷システムS2では、印刷装置20と測色装置30が接続されている。例えば、印刷装置20はシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の各インクを搭載し、これらCMYKの各インクを利用した印刷が可能なインクジェットプリンターにより構成される。また、例えば、測色装置30はカラー測色機により構成される。なお、印刷システムS2において印刷装置20または測色装置30が基準パッチ印刷用インク量データ等の情報を保持しており、これらの情報を保持している装置が印刷制御装置を構成し、印刷装置20は印刷部を構成し、測色装置30は測色部を構成する。なお、以下では説明図1(a)の構成を例にとり説明する。
【0029】
《ホスト装置》
図2は、ホスト装置の構成を示すブロック図である。ホスト装置10の主要部は、実体的にはコンピューター100により構成される。具体的には、コンピューター100が備えるCPU101がハードディスク103等に記憶されたプログラム(基準データ作成プログラム、パッチ測色プログラム、等)を読み込み、プログラムをRAM102に展開しながらプログラムに従った演算を実行することにより、基準パッチデータベース作成モジュール110(基準パッチDB作成モジュール110)、測色ミス検知モジュール120の機能を実現する。ハードディスク103には、上述した基準パッチ印刷用インク量データを保持しており、後述する各基準データの作成中に作成される基準パッチデータベースDB1、色差履歴データベースDB2等の情報も記憶される。
【0030】
コンピューター100には図示しない表示装置(例えば、液晶ディスプレイ)が接続されており、各処理に必要なUI(ユーザーインターフェース)を表示装置に表示する。さらに、コンピューター100には図示しない入力装置(例えば、マウスやキーボード)が接続されており、各処理に必要な情報が入力装置を介して入力される。また、コンピューター100には印刷装置20(インクジェットプリンター等)と測色装置30が接続されている。
【0031】
基準パッチDB作成モジュール110は、基準チャート印刷部111と、測色データ取得部112と、測色ミス判断部113と、データベース作成部114と、を備えている。測色ミス検知モジュール120は、テストチャート印刷部121と、測色データ取得部122と、測色ミス判断部123と、履歴データベース作成部124と、通知部125と、を備えている。
【0032】
(2)基準データの作成:
図3は、基準データ作成の流れを示すフローチャートである。基準データ作成においては、今後のパッチ測色において測色ミスの発見に利用される基準パッチデータベースDB1を作成する。基準パッチデータベースDB1はインク量データと測色値の対応関係を規定したデータであり、以下、基準LUTと言うこともある。当該処理は、ユーザーから入力装置を介して基準LUTの作成を指示する入力を受付けた時に開始される。なお、当該基準データの作成時点において、印刷装置20と測色装置30は、校正された基準状態にあるものとする。
【0033】
処理が開始されると、基準チャート印刷部111は基準チャートBCの印刷データを作成し、印刷装置20に出力する(S10)。印刷装置20は当該印刷データに基づいて印刷を行い(S20)、印刷媒体の表面に基準チャートBCの画像を形成する。基準チャートBCは、後述する測色のため、測色装置30によって測色可能な領域に形成される。なお、基準データの作成においては、基準チャートBCが第1のチャートを構成する。
【0034】
《基準チャートの説明》
図4は、基準チャートにおけるカラーパッチ配置の一例である。同図において、基準チャートBCには、各色のインクについて、複数のカラーパッチが形成されている。カラーパッチC01〜C16はシアンインクにかかるカラーパッチであり、カラーパッチM01〜M16はマゼンタインクにかかるカラーパッチ、カラーパッチY01〜Y16はイエローインクにかかるカラーパッチであり、カラーパッチK01〜K16はブラックインクにかかるカラーパッチである。各カラーパッチは、図4に示すインク色を示す英字の後の数字が増加するに従って徐々に印刷媒体に付着するインク量が減少するようになっており、各色のカラーパッチを測色した分光反射率も、正常に印刷・測色されていれば、各色のカラーパッチのインク色を示す英字の後の数字が増加するに従って徐々に減少することになる。
【0035】
基準チャートBCが印刷されると、作業者は、基準チャートBCを印刷された印刷媒体を測色装置30にセットして測色装置30に測色を実行させる(S30)。測色装置30は、各カラーパッチを順次測色して各カラーパッチの分光反射率分布R(λ)を取得し、当該分光反射率分布R(λ)のデータをホスト装置10へ出力する。
測色データ取得部112は、ホスト装置10に入力された分光反射率分布R(λ)を取得する。測色ミス判断部113は、各カラーパッチの分光反射率分布R(λ)から、インク色に固有の特定波長域における分光反射率(以下、特定分光反射率と記載する。)を取得する(S40)。特定波長域は、以下に説明するように各インク色で異なる。
【0036】
《特定波長域の説明》
図5は、シアンインクについて複数のインク量で印刷したカラーパッチの分光反射率分布を示すグラフであり、図6は、マゼンタインクについて複数のインク量で印刷したカラーパッチの分光反射率分布を示すグラフであり、図7は、イエローインクについて複数のインク量で印刷したカラーパッチの分光反射率分布を示すグラフであり、図8は、ブラックインクについて複数のインク量で印刷したカラーパッチの分光反射率分布を示すグラフである。
【0037】
図5に示すようにシアンインクでは波長域A(C)の分光反射率の低下度合が波長域B(C)より小さく、図6に示すようにマゼンタインクにかかる波長域A(M)の分光反射率の低下度合は波長域B(M)より小さく、図7に示すようにイエローインクにかかる波長域A(Y)の分光反射率の低下度合は波長域B(Y)より小さく、図8に示すようにブラックインクにかかる波長域A(K)の分光反射率の低下度合は波長域B(Y)より小さい。すなわち、各色のカラーパッチの分光反射率分布は、インク量が増加するに従って全体的に徐々に低下するが、分光反射率の低下度合は各波長域で異なっている。
【0038】
具体的には、波長域A(C)の波長λは「400nm≦λ≦600nm」であり、波長域B(C)の波長λB(C)は「λ≦400nm,600nm≦λ」であり、波長域A(M)の波長λは「λ≦430nm,560nm≦λ」であり、波長域B(M)の波長λB(M)は「430nm≦λ≦560nm」であり、波長域A(Y)の波長λは「λ≦380nm,470nm≦λ」であり、波長域B(Y)の波長λは「380nm≦λ≦470nm」であり、波長域A(K)の波長λは「380nm≦λ≦730nm」である。本実施形態においては、波長域A(C),A(M),A(Y),A(K)が各インク色の第1の波長域を構成し、波長域B(C),B(M),B(Y)が各インク色の第2の波長域を構成する。
以下、波長域A(C),波長域A(M),波長域A(Y),波長域A(K)を指して波長域A、波長域B(C),波長域B(M),波長域B(Y),波長域B(K)を指して波長域B、と総称することがある。
【0039】
以上のようにして決定される波長域Aと波長域Bのいずれを特定波長域としてもよいが、各波長域で例えば以下のようなメリットがある。例えば、波長域Aを特定波長域とすると、インク量階調において隣接するカラーパッチ間の分光反射率の差が小さくなるため、測色ミスが発生したときに、インク量階調において隣接するカラーパッチの特定分光反射率との間に大小関係の逆転が発生しやすくなる。すなわち、後述するように、インク量階調において隣接するカラーパッチの特定分光反射率との間に大小関係の逆転を検出することにより、検査対象カラーパッチに測色ミスがあると判断する場合に好ましい。一方、波長域Bを特定波長域とすると、インク量階調において隣接するカラーパッチ間の分光反射率の差が大きくなるため、後述する線形補間の際に精度良く分光反射率を算出することができる。
【0040】
《測色ミスの検知》
次に、測色ミス判断部113は、各カラーパッチから取得した分光反射率分布に基づいて測色ミスを検査する(S50)。測色ミスの要因は、システムの外的要因による測色ミス(測定対象カラーパッチの損傷、測色対象カラーパッチへのゴミの付着、等)、システムの内的要因による測色ミス(印字ムラ、測色機の異常または劣化、等)、作業者の誤った測色方法、がある。測色ミスの検査は、インク量階調において隣接するカラーパッチの分光反射率と比較することにより行われる。
【0041】
図9は、測色ミスによる分光反射率の変動を説明する図である。同図には、いずれかのインク色のカラーパッチにかかる特定分光反射率R(λ)とインク量階調Iとの関係をプロットしてある。同図(a)に示すように、検査対象カラーパッチPの特定分光反射率を分光反射率R(λx0,R(λx1,R(λx2とし、インク量階調において検査対象カラーパッチPの低階調側に隣接するカラーパッチPx−1の特定分光反射率を分光反射率R(λx−1とし、インク量階調において検査対象カラーパッチPの高階調側に隣接するカラーパッチPx+1の特定分光反射率を分光反射率R(λx+1としてある。また、検査対象カラーパッチPxに測色ミスが無い場合の特定分光反射率を分光反射率R(λx0とし、検査対象カラーパッチPに測色ミスがある場合の特定分光反射率を分光反射率R(λx1,R(λx2としてある。
【0042】
図9(b)には検査対象カラーパッチPについて測色ミスが無い場合の特定分光反射率R(λ)とインク量階調Iとの関係をプロットしてある。同図に示すように、分光反射率R(λx−1から分光反射率R(λx0を差し引いた差分ΔR(λx−1,x0と分光反射率R(λx0から分光反射率R(λx+1を差し引いた差分ΔR(λx0,x+1とはほぼ等しく、差分ΔR(λx−1,x0と差分ΔR(λx0,x+1は一定範囲内に収まる。すなわち、これら差分の上限閾値をΔR(λ)thh(不図示)とし下限閾値をΔR(λ)thl(不図示)とすると、差分ΔR(λx−1,x0は、ΔR(λ)thl<ΔR(λx−1,x0<ΔR(λ)thhという関係を満たし、差分ΔR(λx0,x+1も、ΔR(λ)thl<ΔR(λx0,x+1<ΔR(λ)thhという関係を満たす。上限閾値をΔR(λ)thhと下限閾値をΔR(λ)thlは、例えば、R(λx−1とR(λx0の大小関係が入れ替わらないように決定される。また、R(λx0とR(λx+1の大小関係が入れ替わらないようにするのであれば、上限閾値ΔR(λ)thhはΔR(λx−1,x0の2倍とされ、下限閾値をΔR(λ)thlは0とされる。むろん、閾値の値は任意に設定可能であるが、以下では、上限閾値ΔR(λ)thhはΔR(λx−1,x0の2倍とされ、下限閾値をΔR(λ)thlは0とされる場合を例にとり説明する。
【0043】
図9(c)には検査対象カラーパッチPについて測色ミスが有り、分光反射率R(λx1のように特定分光反射率が低下した場合の特定分光反射率R(λ)とインク量階調Iとの関係をプロットしてある。同図に示すように、分光反射率R(λx−1から分光反射率R(λx1を差し引いた差分ΔR(λx−1,x1は、ΔR(λ)thh<ΔR(λx−1x1という関係を満たし、分光反射率R(λx1から分光反射率R(λx+1を差し引いた差分ΔR(λx1,x+1は、ΔR(λx1x+1<ΔR(λ)thlという関係を満たす。すなわち、検査対象カラーパッチPの分光反射率R(λx1は、上限閾値と下限閾値の何れも満たしておらず、R(λx1とR(λx+1の大小関係が入れ替わっていることを示している。
【0044】
また、図9(d)には検査対象カラーパッチPについて測色ミスが有り、分光反射率R(λx2のように特定分光反射率が上昇した場合の特定分光反射率R(λ)とインク量階調Iとの関係をプロットしてある。同図に示すように、分光反射率R(λx−1から分光反射率R(λx2を差し引いた差分ΔR(λx−1,x2は、ΔR(λx−1,x2<ΔR(λ)thlという関係を満たし、分光反射率R(λx2から分光反射率R(λx+1を差し引いた差分ΔR(λx2,x+1は、ΔR(λ)thh<ΔR(λx2,x+1と言う関係を満たす。すなわち、検査対象カラーパッチPの分光反射率R(λx2は、上限閾値と下限閾値の何れも満たしておらず、R(λx2とR(λx−1の大小関係が入れ替わっていることを示している。
【0045】
以上のように、検査対象カラーパッチPについて測色ミスが発生するとインク量階調において隣接するカラーパッチ間の特定分光反射率の差分が上限閾値ΔR(λ)thhと下限閾値ΔR(λ)thlの少なくとも一方の範囲外となる。そこで、測色ミス判断部113は、検査対象カラーパッチPの特定分光反射率と当該検査対象カラーパッチPとインク量階調において隣接するカラーパッチの特定分光反射率との差分を算出し、当該差分が上限ΔR(λ)thhから下限ΔR(λ)thlの範囲内にある場合は検査対象カラーパッチPxに測色ミスが無いものと判断し、当該差分が上限ΔR(λ)thhから下限ΔR(λ)thlの範囲外にある場合は検査対象カラーパッチPxに測色ミスがあるものと判断することができる。
【0046】
むろん、インク量階調において隣接するカラーパッチの特定分光反射率との間に大小関係の逆転が有る場合に、色差を求めることなく検査対象カラーパッチに測色ミスがあるか否か判断することもできる。具体的には、検査対象カラーパッチPにかかる特定分光反射率が、カラーパッチPx−1の特定分光反射率R(λx−1よりも小さく、カラーパッチPx+1の特定分光反射率R(λx+1よりも大きい場合は、検査対象カラーパッチPxに測色ミスが無いものと判断し、カラーパッチPにかかる特定分光反射率が、Px−1の特定分光反射率R(λx−1よりも大きい場合、またはカラーパッチPx+1の特定分光反射率R(λx+1よりも小さい場合は、検査対象カラーパッチPに測色ミスが有るものと判断することができる。
【0047】
ステップS50においていずれかのカラーパッチに測色ミスが有ると判断されると測色ミス判断部113は、測色ミスの発見されたカラーパッチ(以下、エラーパッチとも言う)にかかる特定分光反射率のデータを削除する(S60)。そして、補間演算を行ってエラーパッチにかかる特定分光反射率を補完する。補間演算には公知の各種の演算手法を採用可能であるが、例えば、エラーパッチの発見されたインク色における他のカラーパッチから取得した特定分光反射率について、インク量階調と分光反射率とを軸とする空間において線形補間を行い、算出された直線においてエラーパッチのインク量階調に対応する分光反射率をエラーパッチの特定分光反射率として補完することができる
【0048】
むろん、上述したステップS60の代わりにエラーパッチについて基準チャート印刷部111に再印刷と再測色を行わせ(S60‘)、特定分光反射率のデータを取得しなおしてもよい(S20〜S40)。この場合は、図10に示すように、エラーパッチを測色ミスを発見されたときに印刷されていた位置とは異なる位置に印刷することが好ましい。すなわち、再印刷を行う際はエラーパッチを、先の印刷時にはカラーパッチが印刷されていなかった位置に配置して印刷する。その結果、測色位置も先の測色時とは異なる位置となる。このようにエラーパッチの印刷位置を測色ミスが発見されたときとは異なる位置に印刷することにより、印刷位置や測色位置に関連して発生する測色ミスの再発を防止できる。再印刷・再測色を行った場合は、再び測色ミスの有無を判断することになる(S40)。なお、再印刷・再測色においては、エラーパッチのみ印刷されるようにしてもよいし、その他のパッチも全て含めて印刷してもよい。このようにして、再印刷・再測色される際に、エラーパッチのみが印刷されるチャートが、基準データの作成において第2のチャートを構成し、エラーパッチを測色ミスを発見されたときに印刷されていた位置とは異なる位置に印刷するチャートが基準データの作成において第3のチャートを構成する。
【0049】
ステップS50において測色ミスがいずれのカラーパッチにも無いと判断されると、データベース作成部114が基準パッチデータベースDB1を作成する(S70)。基準パッチデータベースDB1は、カラーパッチを出力した印刷装置の印刷モード、印刷装置と測色装置30の機種固有データ(機種名、シリアルナンバー等)、各カラーパッチについてインク量データと特定分光反射率とを対応付けたデータ、で構成される。基準パッチデータベースDB1は、ホスト装置10の記憶媒体(ハードディスク103)に記憶される。
【0050】
(3)測色ミスの検知:
図11は、カラーパッチ測色の流れを示すフローチャートである。当該処理は、ユーザーから入力装置を介して基準パッチの印刷と測色を指示する入力を受付けた時に開始される。処理が開始されると、テストチャート印刷部121は、カラーパッチを設けられたテストチャートを印刷させる(S110)。テストチャートに設けられるカラーパッチのインク量データは、上述した基準チャートに含まれるインク量データに限らず、任意のインク量データを採用可能である。テストチャートが印刷されると、作業者は、テストチャートを測色装置30にセットし、測色装置30にて測色を行う(S120)。測色装置30は、テストチャートに設けられた各カラーパッチを測色した分光反射率分布を、順次ホスト装置10へ出力する。なお、測色ミスの検知においては、テストチャートが第1のチャートを構成する。
【0051】
測色データ取得部122は、ホスト装置10に入力されたテストチャートに設けられた各カラーパッチについて測色した分光反射率分布のデータを取得する。すると、測色ミス判断部123は、上述した基準データ作成処理において作成された基準パッチデータベースDB1を参照して、テストチャートの各カラーパッチのインク量階調に対応する特定分光反射率(以下、基準特定分光反射率と呼ぶ。)を取得する(S130)。なお、基準パッチデータベースDB1に登録されていないインク量階調に対応する特定分光反射率については、算出したいインク量階調に隣接するインク量階調に対応する特定分光反射率を利用した補間演算により取得する。このようにして取得された基準特定分光反射率は、各カラーパッチに測色ミスの検知における基準値となる。
【0052】
基準特定分光反射率を取得すると、測色ミス判断部123は、ステップS120において測色装置30から取得した分光反射率分布に含まれる特定分光反射率(以下、実測特定分光反射率と呼ぶ。)と基準特定分光反射率とを比較する(S140)。具体的には、実測特定分光反射率と基準特定分光反射率との色差ΔC(不図示)を、テストチャートの各カラーパッチについて算出し、色差ΔCが予め定められた所定の閾値ΔCth(不図示)を超えるか否かの判断により、エラーパッチであるか否かの判断を行う(S150)。ここでエラーパッチが有ると判断されると、通知部125にユーザーへの測色ミスの通知を行わせる(S170〜S250)。この測色ミスの通知は、例えば、不図示の表示装置に所定のメッセージを表示することにより行われる。
【0053】
一方、ステップS140で算出された色差が予め設定していた色差の閾値を超えるカラーパッチが無い場合にはユーザーに対して通知を行わず(S150:No)、履歴データベース作成部124に色差ΔCを色差履歴データベースDB2に記録させ(S270)、測色ミス判断部123がテストチャートの測色結果をホスト装置10の画面に表示して(S280)、測色ミスの検知にかかる処理を終了する。なお、色差履歴データベースDB2には、これまでに実行されたカラーパッチ測色にかかる色差ΔCが記録されており、色差履歴データベースを参照することにより、これまでの色差ΔCの変化の傾向を把握することができる。
【0054】
測色ミスの通知を行うにあたり、通知部125は、まず、テストチャートでエラーパッチになったカラーパッチ数に基づいて、測色ミスの要因を判定する(S160)。具体的には、色差ΔCが上述した予め設定していた色差の閾値を超えているエラーパッチの数が、テストチャートの一部の場合は、システムの外的要因による測色ミス(測定対象カラーパッチの損傷、測色対象カラーパッチへのゴミの付着、等)を通知し(S170)、エラーパッチがテストチャートの広範囲に広がっている場合はシステムの内的要因による測色ミス(印字ムラ、測色機の異常または劣化、等)を通知する(S180)。当該通知を行うことにより、ユーザーは測色ミスの要因の把握を支援される。なお、後者の場合は、測色を行っている作業者が測色方法を間違えている可能性があるため、システムの内的要因による測色ミスの通知と併せて、作業者が誤った測色方法で測色を行っている可能性を通知してもよい。
【0055】
エラーパッチの数がテストチャートの一部か広範囲化の判断は、具体的には、例えば、テストチャートの各カラーパッチの平均色差が上述した予め設定していた色差の閾値を超えていない場合は、予め設定していた色差の閾値を超えているエラーパッチがテストチャートの一部に発生しているものと判断し、テストチャートの各カラーパッチの平均色差が上述した予め設定していた色差の閾値を超えている場合は、予め設定していた色差の閾値を超えているエラーパッチがテストチャートの広範囲に発生していると判断することができる。
【0056】
内的要因による測色ミスを通知すると(S180)、測色ミス判断部123は通知した測色ミスの種類を色差履歴データベースDB2に記録し(S190)、テストチャートの再印刷・再測色ならびにエラーパッチの有無の判断を行う(S110〜S150)。このとき印刷されるテストチャートは、上述した基準データで基準チャートの再印刷、再測色を行ったときと同様に、エラーパッチを測色ミスを発見されたときに印刷されていた位置とは異なる位置に印刷してもよい。むろん、エラーパッチのみ印刷されるようにしてもよいし、その他のパッチも全て含めて印刷してもよい。このようにして、再印刷・再測色される際に、エラーパッチのみが印刷されるチャートが、測色ミスの検知において第2のチャートを構成し、エラーパッチを測色ミスを発見されたときに印刷されていた位置とは異なる位置に印刷するチャートが、測色ミスの検知において第3のチャートを構成する。
【0057】
外的要因による測色ミスを通知した後は(S170)、測色ミス判断部123は、閾値以上のカラーパッチにかかるデータを自動除去もしくは手動除去を行うためのUI画面を表示する(S200)。図12は、手動除去を行うUI画面の一例を示す図である。同図に示すUI画面では、エラーパッチの位置、エラーパッチの印刷に利用されたインクの色やインク量階調、ならびに、測色値の基準値からのズレ(上述した色差)が表示されている。また、UI画面には、エラーパッチを除去して補完するか、エラーパッチの再印刷と再測色を行うかを選択可能となっており、ユーザーは、当該UI画面に表示された情報を考慮して、エラーパッチの除去を行うかのいずれかを選択する。
【0058】
自動除去を行う場合(S200:Yes)、もしくは手動除去のUI画面においてユーザーがエラーパッチの除去を選択した場合は(S200:Yes)、エラーパッチにかかる測色値が削除され、当該インク量階調において隣接するカラーパッチの測色により得られた測色値を利用して補間演算によって算出された測色値が、エラーパッチの測色値として補完される(S210)。むろん、インク量階調において隣接するカラーパッチの測色値に対して前記ステップS120で算出された色差からエラーパッチにかかる色差を補間演算により求めることにより当該エラーパッチに係る測色値を算出して補完してもよい。
一方、自動除去を行わない場合や(S200:No)、ユーザーがエラーパッチの再印刷と再測色を選択した場合は(S200:No)、上述した基準データの作成におけるステップS60’(図10参照)や内的要因による測色ミスを通知した場合(S180)と同様に、エラーパッチとなったカラーパッチを再印刷・再測色ならびにエラーパッチの有無の判断を行う(S100〜S150)。
【0059】
エラーパッチの補完が完了すると(S210)、色差の増加傾向に基づく通知にかかる処理が行われる(S220〜S250)。まず、測色ミス判断部123は、色差履歴データベースDB2を参照し、色差ΔCが増加傾向であるか否かを判断する(S220)。この傾向は、色差履歴データベースDB2を登録順に並べたデータに対し、回帰分析等の公知の各種予測分析を行うことにより判断することができる。色差が増加傾向にあると判断した場合は、通知部125に、印刷装置20や測色装置30の校正時期をユーザーに通知する(S230)。
【0060】
一方、色差ΔCが増加傾向に無いと判断した場合は、ホスト装置10は、特定のインク色のカラーパッチにかかる色差とその他のインク色のカラーパッチとで色差ΔCの変動傾向に相違が無いか判断する(S240)。変動傾向に相違がある場合は、特定のインク色のインクに吐出不良の可能性がある旨をユーザーに通知する(S250)。変動傾向に相違が無い場合やステップS230やS250の通知が完了した場合は、履歴データベース作成部124に、色差ΔC等の情報を色差履歴データベースDB2に記録させ(S270)、通知部125に、テストチャートの測色結果をホスト装置10の画面に表示させて(S280)、測色ミスの検知にかかる処理を終了する。
【0061】
以上説明したように、本実施形態にかかる測色ミスの検知によれば、基準状態にある印刷装置20によって印刷された基準チャートに設けられた検査対象カラーパッチを基準状態にある測色装置30を用いて特定分光反射率を取得し、インク量階調において隣接する他のカラーパッチの特定分光反射率との色差に基づいて、検査対象カラーパッチの印刷または測色にかかる異常を検知する。よって、基準データの作成時の測色ミスを高精度かつ高速に検知した通知するとともに基準データの作成精度を向上し、さらに、テストチャートの測色ミスを発見したときに測色ミスを通知することにより、測色ミスの要因調査を支援し、ひいては測色ミスの防止することができる。
【0062】
(4)変形例:
(4−1)変形例1:
上述した実施形態においては、印刷装置20と測色装置30とが別体の場合を例にとり説明を行ったが、印刷装置20と測色装置30とが一体であってもよく、印刷装置20の直後に測色装置30と配置する構成としてもよい。このような構成であれば、印刷装置20にて印刷媒体に対して印刷を実行中に、当該印刷媒体の印刷完了部分に対して、印刷装置20の印刷と同時並行して測色装置30が測色を実行するようにしてもよい。当該構成によれば、例えば、測色装置30の測色にかかる主走査が1パス終了する都度、エラーパッチの有無を所定の表示部に表示し、ユーザーが確認できるようにし、ユーザーがエラーパッチの再印刷・再測色を選択した場合は、印刷装置20にて印刷中のチャートのデータ(上述した基準チャートやテストチャート等)の末尾いずれか他のカラーパッチが印刷されない領域に、エラーパッチと判定されたパッチを挿入し、前記1枚の印刷媒体でエラーパッチの位置を変更した再印刷・再測色を完了させることも可能である。
【0063】
(4−2)変形例2:
上述した実施形態においては、基準データの作成や測色ミスの検知において分光反射率を利用して測色ミスの検知を行っているが、むろん、L等の測色値を用いることもできる。
【0064】
(4−3)変形例3:
上述した実施形態では、インクを吐出して印刷を行う印刷装置を例にとり説明を行ったが、本発明を適用可能な印刷装置は、微小量の液滴を噴射(吐出)する液体吐出ヘッド等を備える液体吐出装置等、インク以外の流体を吐出する装置でもよい。液滴は、液体吐出装置が吐出する粒状の液体、涙状の液体、糸状に尾を引く液体等を含む。液体は、液体吐出装置が吐出できる材料であればよく、例えば、液状体、ゾル、ゲル水、無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状体、等の液相の物質を含む。流体は、非気体の流体が好ましいものの、トナー等の粉粒体でもよい。また、液相の物質のみならず、液体は、顔料や金属粒子といった固形物からなる機能材料の粒子を溶媒に溶解、分散又は混合したもの等も含む。インクや液晶等は、液体の代表的な例である。前記インクは、一般的な水性インク及び油性インク、並びに、ジェルインク、ホットメルトインク、等の各種液体組成物を包含するものとする。液体吐出装置には、例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造等に用いられる電極材や色材といった材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を吐出する装置が含まれる。また、液体吐出装置には、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を吐出する装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を吐出する装置、捺染装置、マイクロディスペンサ、時計やカメラといった精密機械にピンポイントで潤滑油を吐出する装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)等を形成するために紫外線硬化樹脂といった透明樹脂液を基板上に吐出する装置、基板等をエッチングするために酸やアルカリといったエッチング液を吐出する装置、等が含まれる。
【0065】
(4−4)変形例4:
本発明は、図1(a)に示した印刷システムS1を構成する印刷装置20の製造段階において、当該印刷装置20を用いて上述した基準チャートの印刷や測色、エラーパッチの検出等を行うことにより、ホスト装置10の制御の下で基準パッチデータベースDB1を作成する場合も当然に含まれる。
また、図1(b)に示した印刷システムS1を構成する印刷装置20の製造段階において、当該印刷装置20を用いて上述した基準チャートの印刷や測色、エラーパッチの検出等を行うことにより、印刷装置20もしくは測色装置30の制御の下で基準パッチデータベースDB1を作成し、作成された基準パッチデータベースDB1を印刷装置20や測色装置30の記憶媒体に記憶することも、本発明の範囲内である。
むろん、図1(a)に示した印刷システムS1を構成する印刷装置20の製造段階において、当該印刷装置20を用いて上述した基準チャートの印刷や測色、エラーパッチの検出等を行うことにより、ホスト装置10の制御の下で基準パッチデータベースDB1を作成し、作成された基準パッチデータベースDB1を印刷装置20や測色装置30の記憶媒体に記憶することも、本発明の範囲内である。
また、基準パッチデータベースDB1を用いて上述した測色ミスの検知を行いつつ、印刷装置20のインクの吐出量等を調整するキャリブレーションも、当然に本発明の範囲内である。
【0066】
(4−5)変形例5:
なお、上述した実施形態では、主としてプログラムの実行主体をホスト装置10としたが、プログラムの実行主体は上述したものに限られず、ホスト装置10と印刷装置20と測色装置30との間で、適宜に、分担して実行することができる。すなわち、印刷装置20が実行主体となって上述した基準データの作成や測色ミスの検知を行ってもよいし、測色装置30が実行主体となって上述した基準データの作成や測色ミスの検知を行ってもよいし、ホスト装置10と印刷装置20と測色装置30との任意の組み合わせでそれぞれ一部のプログラムを実行しつつ上述した基準データの作成や測色ミスの検知を行ってもよい。
【0067】
なお、本発明は上述した実施形態や変形例に限られず、上述した実施形態および変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術並びに上述した実施形態および変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も含まれる。
【符号の説明】
【0068】
10…ホスト装置、20…印刷装置、30…測色装置、100…コンピューター、101…CPU、102…RAM、103…ハードディスク、110…基準パッチデータベース作成モジュール、111…基準チャート印刷部、112…測色データ取得部、113…測色ミス判断部、114…データベース作成部、120…測色ミス検知モジュール、121…テストチャート印刷部、122…測色データ取得部、123…測色ミス判断部、124…履歴データベース作成部、125…通知部、BC…基準チャート、DB1…基準パッチデータベース、DB2…色差履歴データベース、I…インク量階調、C01〜C16…カラーパッチ、M01〜M16…カラーパッチ、Y01〜Y16…カラーパッチ、K01〜K16…カラーパッチ、Px…検査対象カラーパッチ、Px+1…カラーパッチ、Px−1…カラーパッチ、S1…印刷システム、S2…印刷システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラーパッチを設けられたチャートを印刷部に印刷させ、測色部による当該カラーパッチの測色結果に基づいて当該カラーパッチの印刷または測色にかかる異常を検知する印刷制御方法であって、
前記印刷部によって印刷された第1のチャートに設けられたカラーパッチの所定波長の分光反射率を前記測色部を用いて取得し、
当該カラーパッチの前記所定波長の分光反射率と、インク量階調において当該カラーパッチに隣接する前記第1のチャートに設けられた他のカラーパッチについて前記測色部を用いて取得された所定波長における分光反射率と、の色差に基づいて前記カラーパッチの印刷または測色にかかる異常を検知し、
前記所定波長は、シアンの色材にかかるカラーパッチついては400nm〜600nmの何れかの波長とされ、マゼンタの色材にかかるカラーパッチついては430nm〜560nmを除く何れかの波長とされ、イエローの色材にかかるカラーパッチついては380nm〜470nmを除く何れかの波長とされ、ブラックの色材にかかるカラーパッチついては380nm〜470nmを除く何れかの波長とされることを特徴とする印刷制御方法。
【請求項2】
前記第1のチャートに設けられた複数のカラーパッチについて前記異常の検知を行い、
前記異常を検知されたカラーパッチのみを設けた第2のチャートを前記印刷部に印刷させ、
当該第2のチャートに設けられたカラーパッチについて前記測色部を用いて前記所定波長における分光反射率を取得し、
当該第2のチャートに設けられたカラーパッチの前記所定波長の分光反射率と、インク量階調において当該第2のチャートに設けられたカラーパッチに隣接する前記第1のチャートに設けられた他のカラーパッチについて前記測色部を用いて取得された所定波長における分光反射率と、の色差に基づいて、前記第2のチャートに設けられたカラーパッチの印刷または測色にかかる異常を検知することを特徴とする請求項1に記載の印刷制御方法。
【請求項3】
前記第1のチャートに設けられた複数のカラーパッチについて前記異常の検知を行い、
前記異常を検知されたカラーパッチのみを、前記異常を検知されたときと異なる印刷位置に設けた第3のチャートを前記印刷部に印刷させ、
当該第3のチャートに設けられたカラーパッチについて前記測色部を用いて前記所定波長における分光反射率を取得し、
当該第3のチャートに設けられたカラーパッチの前記所定波長の分光反射率と、インク量階調において当該第3のチャートに設けられたカラーパッチに隣接する前記第1のチャートまたは前記第3のチャートに設けられた他のカラーパッチについて前記測色部を用いて取得された所定波長における分光反射率と、の色差に基づいて、前記第3のチャートに設けられた前記カラーパッチの印刷または測色にかかる異常を検知することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の印刷制御方法。
【請求項4】
前記異常を検知されたカラーパッチと異なる色材量で印刷された複数の他のカラーパッチにかかる測色結果を用いた補間演算により前記異常を検知されたカラーパッチの測色結果を補完し、前記異常を検知されたカラーパッチの色材量と補完された当該測色結果とを対応付けて所定の記憶媒体に記憶することを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の印刷制御方法。
【請求項5】
1枚の印刷媒体に印刷された複数のカラーパッチのそれぞれについて前記異常の検知を行い、
前記複数のカラーパッチの少なくとも1つについて前記色差の誤差が所定値を超え且つ前記複数のカラーパッチの前記色差の誤差の平均が前記所定値を超えないときは、外的要因による測色の異常をユーザーに通知することを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の印刷制御方法。
【請求項6】
1枚の印刷媒体に印刷された複数のカラーパッチのそれぞれについて前記異常の検知を行い、
前記複数のカラーパッチの少なくとも1つについて前記色差の誤差が所定値を超え且つ前記複数のカラーパッチの前記色差の誤差の平均が前記所定値を超えるときは、内的要因による測色の異常をユーザーに通知する請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の印刷制御方法。
【請求項7】
前記カラーパッチの前記色差を履歴し、当該履歴において前記色差が徐々に増加しているときは、前記印刷部と前記測色部の少なくとも一方の校正時期をユーザーに通知する請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の印刷制御方法。
【請求項8】
前記カラーパッチの前記色差を履歴し、当該履歴において特定の色材のカラーパッチにかかる色差の変動傾向が他の色材のカラーパッチにかかる色差の変動傾向と異なるときは、前記印刷部によって前記印刷媒体に付着させる前記特定の色材の付着量の異常をユーザーに通知する請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の印刷制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−213053(P2012−213053A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77891(P2011−77891)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】