説明

印刷版、印刷装置、及びソフトウェアプログラム

【課題】印刷版のパターン領域が転写されることで被転写体表面に形成された転写領域が、パターン領域よりも伸び広がった台形状に形成されることを防止する技術を提供する。
【解決手段】平行な複数の直線状パターンを印刷するにあたって、設計上のパターンと一致するパターン領域PT1を印刷版17に掲載して、ダミー印刷を行う。ダミー印刷の結果から、転写の際の印刷版17の印圧によって扇状に拡大してしまったパターンの変形の割合を印刷開始位置と印刷終了位置とで算出する。そして、当該扇状に拡大したパターンを補正するように、変形の割合に基づいて逆方向の扇状に縮小修正されたパターン領域PT2を備える修正印刷版18を用いて実際の印刷処理が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被転写体に所定のパターンを転写する技術に関するもので、特に、版胴の外周面に装着された印刷版から塗布液を有機ELディスプレイ用基板やカラーフィルタ用基板などの各種基板(以下、基板と称する)を被転写体として、比較的変形しやすい材質の印刷版を用いて印刷を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、開発が進められている有機ELの発光材料としては、ポリマー状の分子を用いた高分子材料と、それ以外の分子を用いた低分子材料とがある。いずれの発光材料も下地膜上の制約などからフォトリソグラフィー法を用いたパターン形成が困難である。このため、低分子材料については、金属マスクにより必要な領域に低分子材料を真空蒸着させる方法がパターンの形成に用いられるが、蒸着温度によっては金属マスクが膨張してしまい、特に基板が大サイズ化するほど、成膜ムラが生じる傾向がある。このため、高分子材料を用いた各種印刷法によるパターン形成が試みられている。
【0003】
このような各種印刷法のうち、凸版による印刷法では、パターンが形成された印刷版の凸部にインクとして発光材料が塗布される。そして、印刷版が被転写体(通常は透明なガラス基板)表面に所定の印圧で押し当てられることにより、当該パターンは被転写体表面に転写されて、パターンが形成される。
【0004】
特許文献1には、印刷版が基板に接触し始める位置と基板から離れる位置とにダミーパターンが設けられ、実際の印刷パターンがダミーパターン間に設けられた印刷版の構造が記載されている。ダミーパターンが、印刷版の印圧の変化が大きくなる位置に設けられているため、印刷パターンには均等な印圧が印加されて転写が行われる。
【0005】
また、特許文献2には、印刷版が画像形成領域と画像形成領域の外縁部に位置するダミー領域とを備えていることが記載されている。印刷時において印圧の変化が大きいダミー領域については、基板上の領域のうち、有機発光層の形成に用いられない領域に押し当てられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平04−240819号公報
【特許文献2】特開2006−278206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
印刷版の凸部(パターン)は、被転写体に損傷を与えることがなく、かつ耐薬性に富み、膨潤しにくいポリエステル系の樹脂又はゴムなどが用いられる。従って、印刷版は、印圧によって変形しやすく、印刷版のパターンは伸び広がった状態で印刷が行われる。このため、パターン領域が被転写体上に転写された転写領域は、印刷版が被転写体に接触し始める印刷開始位置から、印刷版が被転写体から離れる印刷終了位置に向かって線形な台形状になっており、パターン領域の範囲よりも外側に広がっている。このように、転写領域の形状がパターン領域の形状と相違することは、特許文献1又は特許文献2の技術を用いても抑えることはできない。
【0008】
上述のように、転写領域が、パターン領域の範囲よりも幅方向の外側に伸び広がることによって、隣接する領域に混色が生じるおそれがある。特に、印刷版が大型の場合は顕著に起こりうる。そして、このような問題は、有機ELの発光材料を塗布する場合に限らず、凸版による印刷法を用いて、被転写体上に所定のパターンを形成する処理において一般に考慮すべき課題である。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、印刷版のパターン領域が転写されることで被転写体表面に形成された転写領域が、パターン領域よりも伸び広がった台形状に形成されることを防止する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、第1の発明は、版胴に装着されて、コンピュータ上で設計されたパターンにより構成されたパターン領域データの形状を被転写体に形成させる印刷版であって、前記印刷版が備えるパターン領域は、前記パターン領域データよりも縮小されており、前記パターン領域のうち、前記版胴の回転方向における先端側に存在して先に印刷転写される部分の縮小率は、後端側に存在して後に印刷転写される部分の縮小率よりも小さいことを特徴とする。
【0011】
第2の発明は、第1の発明に係る印刷版であって、前記パターン領域データは、前記版胴の軸心に直交する方向に配列された複数の直線状の平行パターンで構成されており、前記印刷版が備えるパターン領域では、隣り合う直線状のパターンの間隔は、前記先端側よりも前記後端側のほうが小さくなることを特徴とする。
【0012】
第3の発明は、第1又は第2の発明に係る印刷版であって、前記パターン領域データは矩形であって、前記パターン領域データと同一のパターン領域を有する前記印刷版によって前記被転写体に転写された転写領域のうち、前記先端側の幅をcとし、前記後端側の幅をdとするとともに、前記パターン領域の前記先端側の幅をgとし、前記後端側の幅をhとすると、h=g×(c/d)となっていることを特徴とする。
【0013】
第4の発明は、第1ないし第3の発明のいずれかに係る印刷版が版胴に装着されて、被転写体への印刷を行う印刷装置である。
【0014】
第5の発明は、コンピュータ上で設計された印刷用のパターンにより構成された第1のパターン領域データを修正することで、第2のパターン領域データを作成するソフトウェアプログラムであって、前記第1のパターン領域データを取得するデータ取得ステップと、前記第1のパターン領域データと同一のパターン領域を備える印刷版が被転写体に形成した転写領域と、前記第1のパターン領域データと、の形状の相違を表すパラメータを取得するパラメータ取得ステップと、前記パラメータに基づいて、前記転写領域と、前記第1のパターン領域データと、の形状が異なる割合を算出する算出ステップと、前記割合に基づいて、前記第1のパターン領域データの形状を修正して第2のパターン領域データを作成する作成ステップと、を有する処理をコンピュータに実行させ、前記パラメータ取得ステップは、前記パラメータとして、印刷領域のうち先に印刷転写される先端側の第1パラメータと、後に印刷転写される後端側の第2パラメータとを取得することを特徴とする。
【0015】
第6の発明は、第5の発明に係るソフトウェアプログラムであって、前記第1のパターン領域データは矩形であって、前記第1パラメータは、前記転写領域及び前記第1のパターン領域データにおける、前記印刷版と前記被転写体とが接触し始める先端側の幅であり、前記第2パラメータは、前記転写領域及び前記第1のパターン領域データにおける、前記印刷版と前記被転写体とが離間する直前である後端側の幅であることを特徴とする。
【0016】
第7の発明は、第6の発明に係るソフトウェアプログラムであって、前記作成ステップでは、前記転写領域における前記先端側の幅をcとし、前記転写領域における前記後端側の幅をdとするとともに、前記第2のパターン領域データの前記先端側の幅をgとし、前記第2のパターン領域データの前記後端側の幅をhとすると、h=g×(c/d)の関係によって、前記第2のパターン領域データを生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第1ないし第4の発明によれば、印刷版のパターン領域は、版胴の回転方向における先端側に存在して先に印刷転写される部分の縮小率が、後端側に存在して後に印刷転写される部分の縮小率よりも小さい。このため、パターン領域が印圧によって台形状に広がる力を受けたとしても、印刷後のパターン領域の形状(転写領域)が、後端側に向かって広がった台形状になることを防止できる。
【0018】
また、特に第2の発明によれば、パターン領域を構成する複数のパターンのうち、隣り合うパターンの間隔は先端側よりも後端側のほうが小さい。このため、パターン領域が印圧によって台形状に広がる力を受けたとしても、印刷後のパターンの間隔が後端側に向かって広がることを防止できる。
【0019】
また、特に第3の発明によれば、転写領域とパターン領域とにおける先端側の幅と後端側の幅とが特定の関係性を有しているため、当該関係性に基づいて、いずれかの値を容易に算出することができる。
【0020】
第5ないし第7の発明によれば、第1のパターン領域データと転写領域との形状が異なる割合を求めて、当該割合に基づいて第1のパターン領域データを修正することで第2のパターン領域データが作成される。印圧により変形した印刷版のパターン領域と第1のパターン領域データとが一致するようなパターン領域を、第2のパターン領域データから得ることができる。
【0021】
また、特に第6の発明によれば、第1のパターン領域データは矩形であるため、先端側の幅と後端側の幅とがわかれば、第1のパターン領域データと転写領域とがどの程度相違しているのか、容易に測定ができる。
【0022】
また、特に第7の発明によれば、転写領域とパターン領域とにおける先端側の幅と後端側の幅とが特定の関係性を有しているため、当該関係性に基づいて、いずれかの値を容易に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る印刷装置10の斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る印刷処理時の側面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る制御部90の構成を表したブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る実施の流れを示したフローチャートである。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る印刷版17の上面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る印刷版17の転写領域CT1の上面図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る修正印刷版18の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0025】
<1.実施形態>
図1に示される印刷装置10においては、版胴14の外周面に装着された印刷版17によって有機ELの発光材料(有機材料)が被転写体である基板(ガラス基板)Wに転写されて有機ELディスプレイの各表示素子(画素)のパターン形成が行われる。印刷装置10は、主たる構成として、基台20、スリットノズル11、塗布液供給ローラ12、版胴14、及びステージ22を備える。また、印刷装置10は、装置の各動作機構を制御して印刷処理を実行させるとともに、所定のプログラム80に則って、印刷版17に関するデータを設定することができる制御部90(図3)を備える。この実施形態では制御部90は印刷装置10の一部となっているが、印刷装置10は別体に構成されたコンピュータであってもよく、その場合には印刷データはオンラインまたはオフラインで当該コンピュータから印刷装置10に転送される。
【0026】
図1に示されるように、基台20上には、一対の直動ガイド32と、これらの直動ガイド32の間に配設されたリニアモータ31とが配設されている。これらの直動ガイド32及びリニアモータ31は、その長手方向が版胴14の回転軸と垂直な方向(Y方向)に沿うように配設されている。直動ガイド32及びリニアモータ31にはアライメントテーブル51が連結されており、アライメントテーブル51上にステージ22が配設されている。このため、アライメントテーブル51は、リニアモータ31の駆動を受けてステージ22とともに版胴14の回転軸と垂直な方向(Y方向)に沿って直線移動する。また、アライメントテーブル51にはステージ22の位置調整を行う位置調整機構(図示省略)が内蔵されている。位置調整機構が、ステージ22をアライメントテーブル51に対してX方向及びY方向にスライド移動させるとともに、回転移動させる。
【0027】
基台20の左右側面には支持側板24が固設されている。支持側板24には一対のガイド部材25が鉛直方向(Z方向)に沿って配設されている。昇降テーブル21は、これらの計4本のガイド部材25に案内されて昇降可能とされている。
【0028】
また、昇降テーブル21には、スリットノズル11、塗布液供給ローラ12、版胴14が搭載されている。これらの要素は、昇降モータ26の駆動によって昇降テーブル21とともに一体的に昇降する。
【0029】
版胴14は、円筒形状を有するローラであり、X方向に沿って延設された回転軸を中心に回転可能に配置されている。版胴14はモータ15によって回転軸を中心に回転される。版胴14は図2において時計回り及び反時計回りのいずれの方向にも回転可能であるが、印刷処理時にはモータ15によって時計回りに回転する。
【0030】
版胴14の外周面には、ポリエステル系樹脂製やゴム製の印刷版17が装着される。印刷版17は凸版であり、凸部であるパターンを構成する樹脂層と、樹脂層を支持するベース層とで構成されている。パターン領域は複数の直線状のパターン(ストライプパターン)で形成されている。このパターンは、設計上は、有機ELディスプレイのマトリクス状の画素配列の各列に対応して多数の平行帯からなるストライプパターンST(図5)であるが、実際の有機EL基板への印刷時に使用される印刷版のパターンは、図7に示すような扇状に広がるパターンSTとされる。この理由については後に詳述する。そして、印刷版17は、版胴14の回転軸心に対して直線状のパターンSTが直交する向きで、印刷版17の両端が図示しないクランプ機構によって版胴14の外周面上に固定される。
【0031】
版胴14と平行に(つまりX方向に沿って)塗布液供給ローラ12が配置されている。塗布液供給ローラ12の上方にはスリットノズル11が設けられている。スリットノズル11は、塗布液供給ローラ12の回転軸方向(X方向)に延びるスリットを有して塗布液供給ローラ12の表面に塗布液として有機ELの高分子材料を吐出する。スリットノズル11と塗布液供給ローラ12の表面とはわずかな距離だけ隔離している。また、版胴14上の印刷版17の表面と塗布液供給ローラ12の表面とは当接する様構成されている。
【0032】
印刷装置10においては、スリットノズル11から、回転する塗布液供給ローラ12の表面に塗布液が供給され、塗布液供給ローラ12の表面に塗布液の薄膜が形成される。そして、塗布液供給ローラ12及び版胴14の双方が回転することによって、塗布液供給ローラ12から版胴14に装着された印刷版17のパターン領域に塗布液が転写され、塗布液の転写領域が基板W上に形成される。ステージ22に載置した基板Wをアライメントテーブル51とともにY方向に沿って一定速度で直線移動させつつ、版胴14を回転させ、塗布液を載せた印刷版17が基板Wに当接することによって塗布液のパターンが印刷版17から基板Wに転写される。
【0033】
図3は、制御部90のハードウェア構成を示す図である。制御部90のハードウェアとしての構成は、一般的なコンピュータと同様である。即ち、制御部90は各種演算処理を行うCPU91、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるRОM92、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAM93及び制御用ソフトウェア、又はデータなどを記憶しておく磁気ディスク94をバスライン99に接続して構成されている。磁気ディスク94には後述するプログラム80が記憶されている。また、入力手段としてキーボード95及びマウス96がバスライン99に接続されている。また、バスライン99には、版胴14を回転させるモータ15、昇降テーブル21を昇降させる昇降モータ26、ステージ22を直動移動させるリニアモータ31、ステージ22の位置調整を行う位置調整機構(図示省略)が、電気的に接続されている。
【0034】
上記の構成以外にも印刷装置10は、版胴14及び塗布液供給ローラ12をそれぞれ洗浄する洗浄機構、ならびに、スリットノズル11と塗布液供給ローラ12との距離、塗布液供給ローラ12と印刷版17との距離および印刷版17と基板Wとの距離をそれぞれ調整する機構等を備えている。
【0035】
次に、上述の構成を有する印刷装置10における処理動作について説明する。図4は、印刷装置10における処理手順を示すフローチャートである。この実施形態では、この発明の特徴に応じて、印刷されるべき設計上のパターンを修正して印刷版の上に形成するパターンを生成するが、その修正量を決定するために、実際の印刷処理(製品としての有機EL基板の印刷処理)に先だってまず、ダミー印刷を行う。そこではまず、印刷装置10のオペレータが版胴14の外周面に印刷版17を装着する(ステップS1)。
【0036】
印刷版17は、例えば、CADなどによってコンピュータ上で作成されたデータ(以下、設計データと称する)を、レーザ光などによって直接版上に出力することで作製される。従って、このダミー印刷処理段階では、設計データ上のパターン領域PTであるパターン領域データ(第1のパターン領域データ)が、印刷版17のパターン領域PT1と一致する。なお、パターン領域PTとは、複数の直線状のパターンSTによって構成される領域である。
【0037】
図5に示されるように、パターン領域PTを構成する直線状のパターンSTは長手方向が印刷方向に一致するように、所定の間隔(以下、パターン間隔と称する)をもって複数配列されている。ここで、「印刷方向」とは、図5に示すように印刷時に基板Wが移動する方向をいう。印刷版17のパターン領域PT1においては、印刷方向に直交する方向(以下、幅方向と称する)の両端に設けられたパターンSTの中心間の幅の長さをaとする。中心間の幅は、印刷方向の先端側から後端側まで一定である。なお、中心とはパターンSTの外縁を形成する4辺のうち、短手方向の辺の中心である。また、パターン領域PT1におけるパターン間隔とは、幅方向に相隣接するパターンSTの中心間の幅をいい、印刷方向の先端側から後端側までいずれの位置においてもpで一定である。なお、以下において、基板Wとパターン領域PTとが当接し始める印刷開始位置での上記中心間の幅を開始幅、基板Wとパターン領域PTとが離間する直前である印刷終了位置での上記中心間の幅を終了幅と称する。版胴14の回転方向における先端側が印刷開始位置であり、後端側が印刷終了位置である。このようなパターン領域PT1を有する印刷版17を用いて、ダミー印刷が行われる。
【0038】
オペレータは、実際の印刷処理で用いられる基板Wと同程度のサイズを有する調整用基板CWを印刷装置10に載置する(ステップS2)。そして、実際の印刷処理時と同等の設定条件下でダミー印刷が行われる(ステップS3)。具体的には、調整用基板CWを移動させつつ、塗布液が塗布液供給ローラ12から供給されて、版胴14に装着された印刷版17に供給される。版胴14の回転に伴って、印刷版17が所定の印圧で押し当てられることによって、印刷版17のパターン領域PT1が、下方を移動する調整用基板CWの表面に転写される。このようにして、パターン領域PT1が、調整用基板CWの表面に転写領域CT1として形成される。なお、ステップS1とステップS2とは逆になっても構わない。
【0039】
図6には、転写領域CT1を構成する転写パターンATが示されている。印刷版17の直線状のパターンSTは、樹脂などの柔らかい素材で形成されているため、印圧がかかることによって、パターン領域PT1は幅方向に広がり、変形した状態で、調整用基板CWに押し当てられる。このため、転写領域CT1は、パターン領域PT1よりも幅方向の外側に伸び出て、かつ印刷開始位置から印刷終了位置に向けて線形に広がった台形状(扇状)となる。従って、転写領域CT1における開始幅及び終了幅は、印刷版17におけるパターン領域PT1よりも大きくなり、転写領域CT1とパターン領域PT1との形状は一致しない。
【0040】
ダミー印刷が終了すると、オペレータは、転写領域CT1における開始幅及び終了幅の長さを測定する(ステップS4)。転写領域CT1における開始幅をc、終了幅をdとする。転写領域CT1は台形状に広がっているため、転写領域CT1において、開始幅は終了幅よりも小さい(c<d)。
【0041】
オペレータは、測定された開始幅の長さc及び終了幅の長さdを、所定のプログラム80が記憶された制御部90に、キーボード95又はマウス96などを用いて入力する。プログラム80は、事前に印刷版17の設計データを取得している(ステップS5)。そして、オペレータによって入力された転写領域CT1の開始幅の長さc及び終了幅の長さdと、第1のパターン領域データの中心間の幅、つまり印刷版17のパターン領域PT1における中心間の幅の長さaと、に基づいて、パターン領域PT1から転写領域CT1へと伸び広がった変形の割合を、印刷開始位置と印刷終了位置とにおいてプログラム80が演算する(ステップS6)。具体的に、上述の場合は、開始幅の長さはaからcに変化しているため、印刷開始位置における変形の割合Lsは、Ls=(c/a)で表される。また、終了幅の長さは、aからdに変化しているため、印刷終了位置における変形の割合Leは、Le=(d/a)で表される。このように、転写領域CT1の開始幅の長さc及び終了幅の長さdが実際に測定されることによって、印圧によりパターン領域PT1がどの程度変形したのか、その変形の割合Ls,Leが算出される。なお、ステップS5は、ステップS6が行われるまでであれば、どのタイミングで実行されても構わない。
【0042】
続いて、算出された変形の割合Ls,Leに基づいて、プログラム80が印刷版17の設計データを修正して、実際の印刷処理時に用いられるパターン領域PT2を有する修正印刷版18の設計データを作成する(ステップS7)。図7は、修正印刷版18が示されている。算出された変形の割合に基づいて、第2のパターン領域データの開始幅の長さgは、
g=a×(1/Ls)=a×(a/c)
で表される。また、第2のパターン領域データの終了幅の長さhは、
h=a×(1/Le)=a×(a/d)
で表される。転写領域CT1における開始幅の長さcと終了幅の長さdとは、共に第1のパターン領域データにおける中心間の幅の長さであるaよりも大きいため、第2のパターン領域データは、第1のパターン領域データと比較して縮小されている。このとき、印刷開始位置(版胴の回転方向における先端側に存在して先に印刷転写される部分)における縮小率Rsは、Rs=((a−g)/a)=(1−(a/c))で表され、印刷終了位置(版胴の回転方向における後端側に存在して後に印刷転写される部分)における縮小率Reは、Re=((a−h)/a)=(1−(a/d))で表される。dはcよりも大きいため、第2のパターン領域データにおける印刷開始位置の縮小率Rsは、印刷終了位置における縮小率Reよりも小さい。つまり、第2のパターン領域データは、印刷版17が転写された転写領域CT1とは逆向きの台形状である。
【0043】
そして、印刷領域内の任意の位置の印刷方向の座標値をYとしたとき、各位置Yにおける縮小率R(Y)は、当該位置と印刷開始位置との第1間隔と、当該位置と印刷終了位置との第2間隔との比に応じて比例的に大きくなっており、
R(Y)=[Re×(Y−Ys)+Rs×(Ye−Y)]/(Ye−Ys)
の補間演算により算出される。ただし、印刷領域(第2パターン領域データ)における印刷開始位置の座標値をYs、印刷終了位置での座標値をYeとし、Ye>Y>Ysという大小関係で座標が定義される。
【0044】
このように、印刷版17が有するパターン領域PT1が矩形である場合、印刷版17が転写された調整用基板CW上の転写領域CT1における開始幅の長さc及び終了幅の長さdと、第2のパターン領域データにおける開始幅の長さg及び終了幅の長さhと、の関係は、
h=g×(c/d)
で表すことが可能である。転写領域CT1における開始幅及び終了幅と、第2のパターン領域データにおける開始幅及び終了幅とが特定の関係性を有しているため、当該関係性に基づいて、第1のパターン領域データに関係なく、いずれかの値を容易に算出することができる。
【0045】
また、パターン領域PT1の印刷開始位置における変形の割合Lsが(c/a)であり、印刷終了位置における変形の割合Leが(d/a)であるため、第2のパターン領域データの印刷開始位置のパターン間隔をlとすると、
l=p×(1/Ls)=p×(a/c)
で表すことが可能である。また、第2のパターン領域データの印刷終了位置におけるパターン間隔をmとすると、
m=p×(1/Le)=p×(a/d)
で表すことが可能である。従って、印刷開始位置におけるパターン間隔lよりも印刷終了位置におけるパターン間隔mのほうが小さくなる。印刷領域内の任意の位置についても、既述した比例演算(補間演算)と同様の式によって算出することができる。
【0046】
このような変形の割合に基づいて印刷開始位置から印刷終了位置に至る各位置について作成された修正データにより作製された修正印刷版18が、実際の有機EL基板の印刷処理時において使用される。修正印刷版18が備えるパターン領域PT2は、第2のパターン領域データの形状に一致し、パターン領域PT2は、第1のパターン領域データよりも縮小されている。即ち、この修正印刷版18上のパターンは、図6の扇状変形を補正すべく、図6の扇状パターンとは逆方向に開いて全体的に縮小された扇状パターンとなる。
【0047】
オペレータは、版胴14の回転方向を印刷開始位置が向くようにして、修正印刷版18を版胴14に取り付けてから、上述の印刷処理を行う(ステップS8)。修正印刷版18は、ダミー印刷の際と同じ印圧を受けながら、基板W上に当接して、修正印刷版18のパターン領域PT2に付着した塗布液を基板W上に転写する。
【0048】
印圧はダミー印刷時と変わらないため、修正印刷版18のパターン領域PT2の開始幅及び終了幅の長さが、印圧によって変化する割合は、ダミー印刷によって算出された割合と同一である。即ち、修正印刷版18のパターン領域PT2は、印圧をうけることによって、開始幅の長さは(c/a)倍に、終了幅の長さは、(d/a)倍に伸び広がった状態で基板W上に当接する。このため、基板W上に形成された転写領域CT2の開始幅の長さはaとなり、終了幅の長さもaとなる。そして、印刷版17の転写領域CT1は開始幅から終了幅に向かって線形に広がって変形していたため、開始幅から終了幅に向かって線形に縮小された修正印刷版18の転写領域CT2は、中心間の幅がいずれの位置においてもaの一様な矩形となる。また、パターン間隔についても上述の割合で線形に広がるため、転写領域CT2のパターン間隔は、いずれの位置においても一定のpとなる。
【0049】
このような転写領域CT2の形状、つまり中心間の幅がaでパターン間隔がpであるという形状は、ダミー印刷時に使用された印刷版17のパターン領域PT1の形状、つまり第1のパターン領域データの形状と一致している。即ち、転写領域CT2は基板W上に第1のパターン領域データの形状で形成されており、パターン領域PT1よりも伸び広がった台形状に形成されることはない。
【0050】
次処理予定の基板W1が存在する場合は、基板W1が印刷装置10に搬入されて、順次印刷処理が行われる。パターン領域PT1が変化した場合、又は印圧が変化した場合を除いて、算出された変形の割合は一定であるため、修正印刷版18を用いて印刷処理が行われ続ける。
【0051】
以上のように、本実施の形態では、中心間の幅が一定のパターン領域PT1を有する印刷版17でダミー印刷を行い、パターン領域PT1が転写された転写領域CT1における開始幅と終了幅との長さを測定することによって、パターン領域PT1が印圧によって、どの程度伸び広がったか、その変形の割合を求めることができる。変形の割合が算出できれば、印圧により変形した後のパターン領域PT1の形状が、第1のパターン領域データの形状になるように、第1のパターン領域データが変形の割合に基づいて修正される。この結果、第2のパターン領域データが作成される。このような第2のパターン領域データに基づいて作製された修正印刷版18で実際の印刷処理が行われることにより、印圧による変形後のパターン領域PT2、即ち転写領域CT2の形状は、第1のパターン領域データの形状となる。つまり、修正印刷版18の形状は印圧により線形に変形するため、少なくとも開始幅と終了幅との変形の割合が求められ、当該変形の割合の分だけパターン領域PT2が縮小されていれば、変形後のパターン領域PT2の形状は、印刷版17のパターン領域PT1、つまり第1のパターン領域データの形状に一致させることができる。即ち、転写領域CT2がパターン領域PT1よりも伸び広がった台形状に形成されることを防止できる。従って、隣り合う印刷領域で混色が発生することを防止できる。
【0052】
<2.変形例>
なお、本発明は、上記実施形態に限られるものではない。上記実施形態では、開始幅の及び終了幅の長さをパラメータとして変形の割合を算出していたが、このような形態には限られない。例えば、パターン間隔をパラメータとして変形の割合が算出されても構わない。
【0053】
また、上記実施の形態では、ダミー印刷に用いられる印刷版17のパターン領域PTは中心間の幅がいずれの位置においても一定であり、パターン領域PT全体では矩形であったが、このような形態には限られない。パターン領域PT全体の形状が矩形ではなく楕円形や円形であっても本願発明は適用可能である。印刷版の材質と印圧とが同じであれば、ひとつの版のダミー印刷で得た補正データ(先端と後端とのそれぞれにおける変形の割合)を他の印刷パターンデータの修正に使用することも可能である。
【符号の説明】
【0054】
10 印刷装置
11 スリットノズル
12 塗布液供給ローラ
14 版胴
15 モータ
17 印刷版
18 修正印刷版
20 基台
22 ステージ
24 支持側板
25 ガイド部材
26 昇降モータ
80 プログラム
90 制御部
AT 転写パターン
ST パターン
CT1,CT2 転写領域
PT1,PT2 パターン領域
W 基板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
版胴に装着されて、コンピュータ上で設計されたパターンにより構成されたパターン領域データの形状を被転写体に形成させる印刷版であって、
前記印刷版が備えるパターン領域は、前記パターン領域データよりも縮小されており、
前記パターン領域のうち、前記版胴の回転方向における先端側に存在して先に印刷転写される部分の縮小率は、後端側に存在して後に印刷転写される部分の縮小率よりも小さいことを特徴とする印刷版。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷版であって、
前記パターン領域データは、前記版胴の軸心に直交する方向に配列された複数の直線状の平行パターンで構成されており、
前記印刷版が備えるパターン領域では、隣り合う直線状のパターンの間隔は、前記先端側よりも前記後端側のほうが小さくなることを特徴とする印刷版。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の印刷版であって、
前記パターン領域データは矩形であって、
前記パターン領域データと同一のパターン領域を有する前記印刷版によって前記被転写体に転写された転写領域のうち、前記先端側の幅をcとし、前記後端側の幅をdとするとともに、
前記パターン領域の前記先端側の幅をgとし、前記後端側の幅をhとすると、
h=g×(c/d)
となっていることを特徴とする印刷版。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の印刷版が版胴に装着されて、被転写体への印刷を行うことを特徴とする印刷装置。
【請求項5】
コンピュータ上で設計された印刷用のパターンにより構成された第1のパターン領域データを修正することで、第2のパターン領域データを作成するソフトウェアプログラムであって、
前記第1のパターン領域データを取得するデータ取得ステップと、
前記第1のパターン領域データと同一のパターン領域を備える印刷版が被転写体に形成した転写領域と前記第1のパターン領域データとの形状の相違を表すパラメータを取得するパラメータ取得ステップと、
前記パラメータに基づいて、前記転写領域と前記第1のパターン領域データとの形状が異なる割合を算出する算出ステップと、
前記割合に基づいて、前記第1のパターン領域データの形状を修正して第2のパターン領域データを作成する作成ステップと、
を有する処理をコンピュータに実行させ、
前記パラメータ取得ステップは、前記パラメータとして、印刷領域のうち先に印刷転写される先端側の第1パラメータと、後に印刷転写される後端側の第2パラメータとを取得することを特徴とするソフトウェアプログラム。
【請求項6】
請求項5に記載のソフトウェアプログラムであって、
前記第1のパターン領域データは矩形であって、
前記第1パラメータは、前記転写領域及び前記第1のパターン領域データにおける、前記印刷版と前記被転写体とが接触し始める先端側の幅であり、
前記第2パラメータは、前記転写領域及び前記第1のパターン領域データにおける、前記印刷版と前記被転写体とが離間する直前である後端側の幅であることを特徴とするソフトウェアプログラム。
【請求項7】
請求項6に記載のソフトウェアプログラムであって、
前記作成ステップでは、
前記転写領域における前記先端側の幅をcとし、前記転写領域における前記後端側の幅をdとするとともに、
前記第2のパターン領域データの前記先端側の幅をgとし、前記第2のパターン領域データの前記後端側の幅をhとすると、
h=g×(c/d)
の関係によって、前記第2のパターン領域データを生成することを特徴とするソフトウェアプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−74281(P2012−74281A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218667(P2010−218667)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】