説明

印刷物検査装置

【課題】大判印刷物の磁気検査を高速に行うこと。
【解決手段】走行機構のローラ間に複数の磁気ヘッドを取付軸方向に配列したヘッドユニットを用いることとしたうえで、走行機構のローラが大判印刷物に接した状態でヘッドユニットを走行機構の走行方向へ移動させる制御を行うとともに、走行機構のローラが大判印刷物に接しない状態でヘッドユニットを大判印刷物と平行な面上で所定の方向へ移動させる制御を行い、磁気ヘッドが取得した信号値に基づいて大判印刷物の磁気検査を行うように印刷物検査装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基本単位の印刷原画が余白部を挟んで規則的に並べられて印刷された大判印刷物の検査を行う印刷物検査装置に関し、特に、大判印刷物の磁気検査を高速に行うことができる印刷物検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基本単位の印刷原画が余白部を挟んで規則的に並べられて印刷された印刷物(以下、「大判印刷物」と記載する)の検査を行う印刷物検査装置が知られている。たとえば、特許文献1には、インクが未乾燥の大判印刷物から、インクが有する磁気特性を検出する印刷物検査装置が開示されている。
【0003】
特許文献1の印刷物検査装置では、未乾燥の大判印刷物に磁気ヘッドが接触することを防止するために、ヘッドユニットの大判印刷物側の面に設けられた磁気ヘッドと大判印刷物との距離を微少距離に保ったまま大判印刷物の走査を行っている。
【0004】
また、特許文献1の印刷物検査装置では、磁気ヘッドの検知面から大判印刷物へ向けてエアーを吹き付けることで、大判印刷物の波打ちやしわを矯正し、未乾燥の大判印刷物に磁気ヘッドが接触することを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4228038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の印刷物検査装置には、大判印刷物全体の検査に要する時間がかさむという問題があった。
【0007】
具体的には、特許文献1の印刷物検査装置では、ヘッドユニットに内蔵される磁気ヘッドが1つであったため、大判印刷物全体を検査するためには、1つの磁気ヘッドで大判印刷物全体を走査する必要があった。このため、ヘッドユニットの総走査距離が長くなり、検査時間がかさむ結果となっていた。
【0008】
また、磁気ヘッドの検知面から大判印刷物へ向けてエアーを吹き付ける手法をとった場合には、エアー吹き付けに伴う温度変化に起因する磁気ヘッドの計測誤差が問題となる。このため、従来は、エアー噴出による磁気ヘッドの温度変化が熱平衡状態となるまで待ってヘッドユニットによる走査を開始しており、大判印刷物全体の検査に要する時間がかさんでしまっていた。
【0009】
これらのことから、大判印刷物の磁気検査を高速に行うことができる印刷物検査装置をいかにして実現するかが大きな課題となっている。なお、かかる課題は、大判印刷物に限らず、未乾燥の印刷物全般を全面検査する場合においても同様に発生する課題である。
【0010】
本発明は、上述した従来技術による問題点を解消するためになされたものであり、大判印刷物の磁気検査を高速に行うことができる印刷物検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、基本単位の印刷原画が余白部を挟んで規則的に並べられて印刷された大判印刷物の検査を行う印刷物検査装置であって、前記大判印刷物に対してエアーを吹き付ける機構を有する磁気ヘッドと、取付軸まわりに転動する複数のローラが前記印刷原画を挟む前記余白部上をそれぞれ走行する間隔で設けられた走行機構と、前記走行機構を有しており該走行機構の前記ローラ間に複数の前記磁気ヘッドを前記取付軸方向に配列したヘッドユニットと、前記走行機構の前記ローラが前記大判印刷物に接した状態で前記ヘッドユニットを該走行機構の走行方向へ移動させる制御を行うとともに、前記走行機構の前記ローラが前記大判印刷物に接しない状態で前記ヘッドユニットを前記大判印刷物と平行な面上で所定の方向へ移動させる制御を行う移動制御手段と、前記磁気ヘッドが取得した信号値に基づいて前記大判印刷物の磁気検査を行う磁気検査手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記の発明において、前記磁気ヘッドは、前記大判印刷物側の面における外周領域に磁気に対する不感領域を有しており、前記ヘッドユニットは、前記走行方向からみて前記不感領域がないように複数の前記磁気ヘッドを千鳥配置したことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記の発明において、前記ヘッドユニットは、複数の前記磁気ヘッド間の相対距離を保持したまま前記磁気ヘッドを前記取付軸方向と平行に移動させる磁気ヘッド移動機構をさらに有しており、前記移動制御手段は、前記磁気ヘッド移動機構による前記磁気ヘッドの移動を制御することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記の発明において、前記磁気検査手段は、前記磁気ヘッドごとの前記信号値を記憶部へ記憶させる指示を行う記憶指示手段と、前記大判印刷物からの磁気検出がない部分に対応する磁気なし信号値を前記記憶部に記憶された前記磁気ヘッドごとの前記信号値からそれぞれ抽出する抽出手段と、前記抽出手段によって抽出された前記磁気なし信号値の変動履歴をあらわす近似曲線を前記磁気ヘッドごとに算出する算出手段と、前記算出手段によって前記磁気ヘッドごとに算出された前記近似曲線に基づいて前記記憶部に記憶された前記磁気ヘッドごとの前記信号値をそれぞれ補正する補正手段とをさらに備えたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、上記の発明において、複数の前記磁気ヘッドは、単一の発振器によって生成された同相の信号によって励磁されることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、上記の発明において、前記ヘッドユニットを複数個配したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、大判印刷物に対してエアーを吹き付ける機構を有する磁気ヘッドと、取付軸まわりに転動する複数のローラが印刷原画を挟む余白部上をそれぞれ走行する間隔で設けられた走行機構と、走行機構のローラ間に複数の磁気ヘッドを取付軸方向に配列したヘッドユニットとを備え、走行機構のローラが大判印刷物に接した状態でヘッドユニットを走行機構の走行方向へ移動させる制御を行うとともに、走行機構のローラが大判印刷物に接しない状態でヘッドユニットを大判印刷物と平行な面上で所定の方向へ移動させる制御を行い、磁気ヘッドが取得した信号値に基づいて大判印刷物の磁気検査を行うこととしたので、ヘッドユニットによる1回の走査で検知することができる領域の面積を大きくすることによって、大判印刷物全体の検査に要する時間を短縮することができるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明によれば、磁気ヘッドは、大判印刷物側の面における外周領域に磁気に対する不感領域を有しており、ヘッドユニットは、走行方向からみて不感領域がないように複数の前記磁気ヘッドを千鳥配置したので、不感領域による走査漏れ領域をなくすことができるという効果を奏する。また、磁気ヘッドを任意領域に対応して移動可能に配置することとすれば、計測の必要がない領域を避けつつ走査することができるという効果を奏する。
【0019】
また、本発明によれば、ヘッドユニットは、複数の磁気ヘッド間の相対距離を保持したまま磁気ヘッドを取付軸方向と平行に移動させる磁気ヘッド移動機構をさらに有しており、磁気ヘッド移動機構による磁気ヘッドの移動を制御することとしたので、ヘッドユニットを走行方向と直交する向きに移動させることなく、大判印刷物を検査することができるという効果を奏する。
【0020】
また、本発明によれば、磁気ヘッドごとの信号値を記憶部へ記憶させる指示を行い、大判印刷物からの磁気検出がない部分に対応する磁気なし信号値を記憶部に記憶された磁気ヘッドごとの信号値からそれぞれ抽出し、抽出された磁気なし信号値の変動履歴をあらわす近似曲線を磁気ヘッドごとに算出し、磁気ヘッドごとに算出された近似曲線に基づいて記憶部に記憶された磁気ヘッドごとの信号値をそれぞれ補正することとしたので、走査開始から走査終了までの区間で磁気ヘッドごとに異なる温度変化がある場合であっても、温度変化の影響を排除した信号値を磁気ヘッドごとに得ることができるという効果を奏する。
【0021】
また、本発明によれば、複数の磁気ヘッドは、単一の発振器によって生成された同相の信号によって励磁されることとしたので、所定の磁気ヘッドが生成した磁束の影響が他の磁気ヘッドへ及ぶことを防止することによって、磁気ヘッドを隣接して配置することができるという効果を奏する。
【0022】
また、本発明によれば、ヘッドユニットを複数個配することとしたので、1回の走査で検知することができる領域の面積を大きくすることによって、大判印刷物全体の検査に要する時間を短縮することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明に係る印刷物検査手法の概要を示す図である。
【図2】図2は、本実施例に係る印刷物検査装置の外観図である。
【図3】図3は、本実施例に係る印刷物検査装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、磁気ヘッドおよび磁気ヘッドに関連する回路を示す図である。
【図5】図5は、磁気ヘッドを固定式としたヘッドユニットの構成を示す図である。
【図6】図6は、磁気ヘッドを可動式としたヘッドユニットの構成を示す図である。
【図7】図7は、磁気ヘッドによって取得された信号値の補正手順を示す図である。
【図8】図8は、印刷物検査装置が実行する処理手順を示すフローチャートである。
【図9】図9は、大判印刷物の一例を示す図である。
【図10】図10は、複数のヘッドユニットを備える印刷部検査装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る印刷物検査手法の好適な実施例を詳細に説明する。なお、以下では、本発明に係る印刷物検査手法を適用した印刷物検査装置が、大判印刷物を検査対象とする場合について説明するが、検査対象は大判印刷物に限らず、未乾燥の印刷物全般とすることができる。
【0025】
また、以下では、本発明に係る印刷物検査手法の概要について図1および図9を用いて説明した後に、本発明に係る印刷物検査手法を適用した印刷物検査装置についての実施例について図2〜図8を用いて説明することとする。
【0026】
まず、本発明に係る印刷物検査手法の概要について説明する。図1は、本発明に係る印刷物検査手法の概要を示す図である。なお、同図には、本発明に係る印刷物検査手法を適用した印刷物検査装置10の一部のみを示している。また、同図の(A)には、印刷物検査装置10の俯瞰図を、同図の(B)には、ヘッドユニット11を大判印刷物100側からみた図を、同図の(C)には、ヘッドユニット11をY軸の正方向からみた図を、それぞれ示している。
【0027】
図1の(A)および(B)に示したように、本発明に係る印刷物検査手法は、複数の磁気ヘッド11aを有するヘッドユニット11を用いて大判印刷物100の磁気検査を行う点に一つの特徴がある。また、ヘッドユニット11には、ヘッドユニット11の走行方向200と垂直となる方向、すなわち、図1の(A)におけるY軸と平行となる方向を取付軸として転動する一組のローラ11bが設けられている。
【0028】
そして、磁気検査を行う場合には、ローラ11bが大判印刷物の余白部(インクがない部分)上を走行することで、磁気ヘッド11aの下面と大判印刷物100との微少間隔(たとえば、150μm)を保持する。
【0029】
また、ヘッドユニット11は、Z軸用駆動モータ1cによって方向5c(同図のZ軸の正方向および負方向)に移動可能なZ軸用可動部2c経由で、X軸用可動部3aに接続されている。
【0030】
また、X軸用可動部3aは、X軸用ガイド2a上を、X軸用駆動モータ1aによって方向5a(同図のX軸の正方向および負方向)へ移動制御される。また、X軸用ガイド2aは、Y軸用可動部3bに接続されており、Y軸用可動部3bは、Y軸用ガイド2b上を、Y軸用駆動モータ1bによって方向5b(同図のY軸の正方向および負方向)へ移動制御される。
【0031】
すなわち、ヘッドユニット11は、同図に示したX軸、Y軸およびZ軸にそれぞれ沿って移動自在に設けられている。たとえば、同図に示した走行方向200で、大判印刷物100を走査する場合には、Y座標を固定したうえで、X座標の走査開始位置でローラ11bが大判印刷物100に接するまでヘッドユニット11を下降させる。そして、X座標のみを変化させることで走行方向200へヘッドユニット11を走行させる。
【0032】
つづいて、X座標の走査終了位置に達したならば、ヘッドユニット11を上昇させることで、ローラ11bを大判印刷物100から離す。そして、ヘッドユニット11のY座標を変更しつつX座標を走行開始位置まで戻し、ヘッドユニット11を下降させて次の走査を開始する。
【0033】
ここで、検査対象となる大判印刷物100について図9を用いて説明しておく。図9は、大判印刷物100の一例を示す図である。なお、同図には、X方向にA〜Dまでの4列、Y方向に1〜5までの5行の計20(4×5)個の印刷原画101が印刷された大判印刷物100を示している。また、大判印刷部100の外周部分および各印刷原画101間には、インクが印刷されていない余白部が、それぞれ設けられている。
【0034】
そして、上述したように、X方向の走査を行う場合には、たとえば、同図における第1行の左端でヘッドユニット11を下降させて第1行の走査を開始し、第1行の右端までの走査が終了したならば、ヘッドユニット11を上昇させる。なお、ヘッドユニット11内に磁気ヘッド11aのY方向の位置をずらす機構を設けることとすれば、磁気ヘッド11aをずらして走査する手順を繰り返すことで、第1行の走査を複数回にわたって行うことも可能である。そして、第1行のすべての走査が完了したならば、ヘッドユニット11を上昇させた状態で第2行の左端でヘッドユニット11を下降させ、第2行の走査を開始することになる。
【0035】
図1に戻り、図1の(B)以降について説明する。図1の(B)に示したように、ヘッドユニット11を大判印刷物100側からみると、複数の磁気ヘッド11aが走行方向200と直交する方向、すなわち、同図のY軸方向に配置されている。なお、磁気ヘッド11aの配置のバリエーションについては、後述することとする。また、磁気ヘッド11aをヘッドユニット11内で移動させることも可能であるが、この点についても後述することとする。
【0036】
なお、図1の(B)には、磁気ヘッド11aの大判印刷物100側の面に6個の穴が設けられている旨を示しているが、これらの穴は、大判印刷物100へ吹き付けるエアーの噴出口である。また、大判印刷物100へ吹き付けるエアーは、図示しないコンプレッサから供給される圧縮エアーである。
【0037】
具体的には、図1の(C)に示したように、かかる噴出口から方向300へ向けてエアーが吹き付けられることで、大判印刷物100の波打ちやしわが矯正される。これにより、磁気ヘッド11aと大判印刷物11aとの間隔を適正に保つことができる。なお、エアーは、チューブやパイプといった流路11c経由で噴出口へ導かれる。
【0038】
このように、本発明に係る印刷物検査手法では、走行方向と直交する向きに配列した複数の磁気ヘッド11aを、ヘッドユニット11に対して設け、かかるヘッドユニット11を用いて大判印刷物100を走査することとした。
【0039】
したがって、1回の走査で、シングルヘッドのヘッドユニットを用いる場合よりも広い範囲の磁気情報を得ることができる。このため、走査回数を減少させることが可能となり、大判印刷物100全体に要する検査時間を短縮することができる。
【0040】
なお、従来の磁気検査装置がシングルヘッドのヘッドユニットを採用していたのは、ヘッドユニット内に交流バイアス式の磁気ヘッドを複数設けると、隣接する磁気ヘッドから漏洩する磁束の影響で磁気ヘッドが取得する信号値に乱れが生じ、計測誤差が発生するためである。
【0041】
このため、本発明に係る印刷物検査手法では、磁気ヘッド11aの励磁手法を工夫することで、磁気ヘッド11aの隣接配置を可能としているが、この点の詳細については、後述することとする。
【0042】
また、従来の磁気検査装置では、エアー噴出による磁気ヘッド11aの温度変化が熱平衡するまで待ってヘッドユニット11aによる走査を開始していたため、待ち時間の累積で磁気検査の所要時間がかさんでいた。
【0043】
このため、本発明に係る印刷物検査手法では、磁気ヘッド11aによって取得された信号値に対して所定の補正処理を行うことで、上記した待ち時間を不要としているが、この点の詳細についても、後述することとする。
【0044】
以下では、図1および図9を用いて説明した本発明に係る印刷物検査手法を適用した印刷物検査装置についての実施例を説明する。
【実施例】
【0045】
まず、本実施例に係る印刷物検査装置10の外観について図2を用いて説明する。図2は、本実施例に係る印刷物検査装置10の外観図である。同図に示すように、印刷物検査装置10には、大判印刷物100を載置するための台盤21が設けられている。
【0046】
この台盤21は、上面が平坦となるように加工されたガラス等の非磁性体から構成されている。そして、台盤21の両脇には、大判印刷物の対向する辺を固定するクランプ機構22およびクランプ機構23が、それぞれ設けられている。
【0047】
すなわち、作業者が大判印刷物100を台盤21上に載置する際には、位置決めピン24で大判印刷物100の前後方向の位置および上方からみた回転角を調整しつつ、クランプ機構22およびクランプ機構23で大判印刷物100の外周部分に設けられた余白部を引っ張りながら固定する。これにより、大判印刷物100が台盤21の上面に沿った規定位置に載置される。
【0048】
また、台盤21の上方には、図1で説明したヘッドユニット11が設けられている。なお、表示・操作部25は、ディスプレイなどの表示部と、ダイヤルやボタンといった操作部とを備えており、印刷物検査装置10に対する指示を入力したり、印刷物検査装置10による検査結果を表示したりする。
【0049】
次に、印刷物検査装置10の内部構成について図3を用いて説明する。図3は、本実施例に係る印刷物検査装置10の構成を示すブロック図である。なお、同図では、ヘッドユニット11が2つの磁気ヘッド11aを備える場合について例示しているが、磁気ヘッド11aの個数を3つ以上としても構わない。また、同図では、図1に示した可動機構等の記載を省略している。
【0050】
同図に示すように、印刷物検査装置10は、ヘッドユニット11と、制御部12と、記憶部13と、エアーコンプレッサ14とを備えている。また、ヘッドユニット11は、少なくとも2つの磁気ヘッド11aをさらに備えており、制御部12は、移動制御部12aと、磁気情報記憶指示部12bと、近似曲線算出部12cと、補正処理部12dと、磁気検査部12eとをさらに備えている。そして、記憶部13は、磁気情報13aを記憶する。なお、エアーコンプレッサ14から送り出された圧縮エアーは、図1の(C)に示したチューブやパイプといった流路11c経由で、各磁気ヘッド11aへ導かれる(同図の破線矢印参照)。
【0051】
ヘッドユニット11は、複数の磁気ヘッド11aを保持するユニットであり、制御部12の移動制御部12aからの指示に基づき、検査対象である大判印刷物100に対する相対位置を図1に示したX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向について変化させる。また、同じく移動制御部12aからの指示に基づき、磁気ヘッド11aからのエアー噴出の開始および停止を行う。なお、このヘッドユニット11の詳細な構成については、図5および図6を用いて後述することとする。
【0052】
磁気ヘッド11aは、交流バイアス式の磁気検知ヘッドであり、検知面、すなわち、大判印刷物100側に設けられた検知ヘッドと、この検知ヘッドに隣接しつつ大判印刷物100から隔てられたキャンセルヘッドとから構成される。また、この磁気ヘッド11aの検知面には、エアー噴出口が設けられている。
【0053】
ここで、磁気ヘッド11aの構成およびヘッドユニット11の構成について図4〜図6を用いて説明しておく。図4は、磁気ヘッド11aおよび磁気ヘッド11aに関連する回路を示す図である。なお、同図の(A)には、磁気ヘッド11aの下面図を、同図の(B)には、磁気ヘッド11aの側面図を、同図の(C)には、磁気ヘッド11aの回路図を、それぞれ示している。
【0054】
図4の(A)に示すように、磁気ヘッド11aの下面には、エアーの噴出口41が設けられている。また、かかる下面の中央部には、磁気検知が可能な検知領域42が存在する。すなわち、検知領域42以外の領域は、磁気に対する不感領域である。
【0055】
ここで、磁気ヘッド11aのY軸方向の幅43は、たとえば、16mmであり、検知領域42のY軸方向の幅42は、たとえば、10mmである。なお、本実施例では、検知面の外周部分に不感領域を有する磁気ヘッド11aを用いる場合について主に説明するが、不感領域を極小とした磁気ヘッド11aを用いることとしてもよい。
【0056】
図4の(B)に示すように、磁気ヘッド11aの内部には、対極コア45が設けられている。また、磁気ヘッド11aの下面に設けられた噴出口41からは、大判印刷物100へ向けて方向300へエアーが吹き付けられる。
【0057】
図4の(C)に示すように、複数の磁気ヘッド11a(同図の1CH、2CHおよび3CHに1つずつ配置)は、単一の発振器501によって生成された同相の交流信号に基づいて励磁される。このように、同相の信号によって各磁気ヘッド11aを励磁することで、隣接する磁気ヘッド11aからの漏洩磁束による磁気ヘッド11a間の干渉を防止することができる。したがって、磁気ヘッド11aを隣接して設けた場合であっても、高精度な磁気検出が可能となる。
【0058】
また、同図に示すように、対極コア45上には、キャンセルヘッド45aおよび検知ヘッド45bが構成されている。具体的には、対極コア45の上方ブロック45aaにおける励磁駆動回路502側の極にはキャンセルヘッド用1次コイル45abが、増幅回路503側の極にはキャンセルヘッド用2次コイル45acがそれぞれ巻回されてキャンセルヘッド45aが構成されている。
【0059】
また、対極コア45の下方ブロック45baにおける励磁駆動回路502側の極には検知ヘッド用1次コイル45bbが、増幅回路504側の極には検知ヘッド用2次コイル45bcがそれぞれ巻回されて検知ヘッド45bが構成されている。なお、上方ブロック45aaおよび下方ブロック45baにそれぞれ巻回されたキャンセルヘッド用1次コイル45abと検知ヘッド用1次コイル45bbとは直列に接続され、キャンセルヘッド用2次コイル45acと検知ヘッド用2次コイル45bcとは並列に接続されている。
【0060】
そして、発振器501によって生成された交流の基準信号は励磁駆動回路502へ入力され、励磁駆動回路502は、かかる基準信号に対して所定の励磁信号を付加したうえで、キャンセルヘッド用1次コイル45abおよび検知ヘッド用1次コイル45bbへ通電する。これにより交番磁界が生成される。そして、キャンセルヘッド用2次コイル45acおよび検知ヘッド用2次コイル45bcでは、磁性体の接近などによる交番磁界の変化を検出する。
【0061】
ここで、検知ヘッド用2次コイル45bcは、大判印刷物100に印刷された磁性インクによる交番磁界の変化を検出するが、キャンセルヘッド用2次コイル45acは、大判印刷物100から隔てられているため交番磁界の変化を検出しない。
【0062】
このため、キャンセルヘッド用2次コイル45acからの出力を増幅回路503で増幅した信号と、検知ヘッド用2次コイル45bcからの出力を増幅回路504で増幅した信号との差分を差動アンプ回路505へ入力することで、キャンセルヘッド45aの出力を基準とした磁気信号を取得することができる。
【0063】
また、キャンセルヘッド用2次コイル45acからの出力は、増幅回路503経由で励磁駆動回路502へフィードバックされる。これは、基準となるべきキャンセルヘッド用2次コイル45acの出力が、各チャンネル間の温度差や、エアーコンプレッサ14から供給される圧縮エアーの経時的な温度変動、磁気ヘッド11aの個体差といった影響によってチャンネルごとにばらつくことを防止するためである。
【0064】
すなわち、各チャンネル内においてキャンセルヘッド用2次コイル45acの出力を励磁駆動回路へフィードバックすることで、キャンセルヘッド45aの出力振幅を常時所定の一定値とすることができる。これにより、すべてのチャンネルにわたって、キャンセルヘッド45aの出力振幅を同一とすることができる。
【0065】
このように、各磁気ヘッド11aは、単一の発振器501によって生成された交流の基準信号に基づいて同位相で励磁されることとしたので、磁気ヘッド11aを隣接して配置した場合であっても、他の磁気ヘッド11aが発生する交番磁界の影響を排することができ、高精度な磁気検出を行うことが可能となる。
【0066】
また、磁気ヘッド11aごとにキャンセルヘッド45aの出力をフィードバックすることで、全てのチャンネルにわたってキャンセルヘッド45aの出力振幅を同一としたので、磁気ヘッド11a間の温度差や磁気ヘッド11aの個体差による検出値のばらつきを防止することができる。
【0067】
次に、ヘッドユニット11の構成について図5および図6を用いて説明する。図5は、磁気ヘッド11aを固定式としたヘッドユニット11の構成を示す図である。なお、同図の(A)には、不感領域が極小の磁気ヘッド11aを配列した場合について、同図の(B)には、不感領域がある磁気ヘッド11aを千鳥配置した場合について、同図の(C)には、ローラ11bの配置バリエーションについて、それぞれ示している。
【0068】
図5の(A)に示したように、不感領域が極小の磁気ヘッド11aを用いる場合には、ヘッドユニット11におけるY軸方向に各磁気ヘッド11aを隣接させて配置することとすればよい。このようにすることで、ヘッドユニット11が走行方向200へ移動させて大判印刷物100の走査を行う場合に、1回の走査でより広い範囲の磁気情報を得ることができる。
【0069】
ここで、走行方向200へ走行するように設けられた1組のローラ11bの間隔51は、大判印刷物100に印刷された印刷原画101間の余白部上を各ローラ11bが通過する幅に調整されている。また、各ローラ11bの幅52は、余白部の幅よりも小さくなるように調整されている。
【0070】
一方、図5の(B)に示したように、検知面の外周部分に不感領域を有する磁気ヘッド11a(図4の(A)参照)を有する磁気ヘッド11aを用いる場合には、走行方向200からみて、隣接する各磁気ヘッド11aおける検知領域42と検知領域42との間に不感領域がないように、各磁気ヘッド11aを取付軸方向(同図のY軸方向)ついて2列の千鳥配置とすればよい。これにより、各磁気ヘッド11aに不感領域がある場合であっても、連続した検知領域42をもつヘッドユニット11とすることができる。
【0071】
このようにすることで、検知面に不感領域を有する磁気ヘッド11aを用いる場合であっても、検知漏れ領域を生じることなく、1回の走査でより広い範囲の磁気情報を得ることができる。
【0072】
なお、図5の(A)および(B)では、1組のローラ11aを有するヘッドユニット11を示したが、複数組のローラ11aを有するヘッドユニット11を構成することとしてもよい。たとえば、図5の(C)に示したように、3組のローラ11aを配置することができる。このように、複数組のローラ11aを配置することとすれば、ヘッドユニット11が走行方向200へ移動する際のピッチング動作(Y軸まわりの回転動作)を防止することができる。
【0073】
また、図5に示したように、ヘッドユニット11内に複数の磁気ヘッド11aを固定する場合には、1回の走査で大判印刷物の1行(たとえば、図9の(1,A)、(1,B)、(1,C)および(1,D)参照)のY軸方向について計測すべき位置範囲を網羅する個数の磁気ヘッド11aを設けることとすればよい。
【0074】
ところで、図5では、ヘッドユニット11内に複数の磁気ヘッド11aを固定する場合について示したが、磁気ヘッド11aがY軸方向へ移動可能に設けられたヘッドユニット11を構成することとしてもよい。そこで、以下では、磁気ヘッド11aを可動式としたヘッドユニット11について図6を用いて説明する。
【0075】
図6は、磁気ヘッド11aを可動式としたヘッドユニット11を示す図である。なお、同図の(A)には、Y軸方向に所定間隔をおいて配置した2個の磁気ヘッド11aを移動させる場合について、同図の(B)には、千鳥配置した3個の磁気ヘッド11aを移動させる場合について、それぞれ示している。
【0076】
図6の(A)に示したように、2個の磁気ヘッド11aは、検知領域42間の距離が所定の幅51となるように、可動部52に固定されている。そして、可動部52は、図示しないモータによって駆動され、Y軸の負方向である方向53およびY軸の正方向である方向54へ移動制御される。
【0077】
なお、可動部52を駆動するモータは、図3に示した移動制御部12aからの指示に従って動作する。そして、ヘッドユニット11は、可動部52のY軸方向の位置を固定したまま走行方向200へ移動し、次の走査を行う場合には、ヘッドユニット11のY軸方向の位置を固定したまま、可動部52のみをY軸に沿ってずらすことになる。
【0078】
たとえば、図6の(A−1)に示したように、所定の印刷原画101に対する1回目の走査においては、2個のヘッドユニット11aによって同図の斜線に示した領域の磁気情報が取得される。そして、ヘッドユニット11のY軸方向の位置を固定したまま、可動部52のみをY軸の正方向に任意量だけずらして2回目の走査を行うと、図6の(A−2)に斜線で示した領域の磁気情報が取得される。
【0079】
このように、磁気ヘッド11aに不感領域がある場合であっても、ヘッドユニット11のY軸方向の位置を変更することなく、大判印刷部100の各行に印刷された印刷原画101全体にわたる磁気情報を取得することができる。なお、図6の(A)では、2個の磁気ヘッド11aを用いる場合を例示したが、磁気ヘッド11aの個数を3個以上とすることとしてもよい。
【0080】
なお、図6の(B)に示したように、ヘッドユニット11の可動部52aに千鳥配置した3個の磁気ヘッド11aを設け、図6の(A)に示した場合と同様に、可動部52aを方向53あるいは方向54へ移動させることも可能である。また、図6の(B)では、3個の磁気ヘッド11aを用いる場合を例示したが、磁気ヘッド11aの個数は、2個以上の任意の個数とすることができる。
【0081】
図3の説明に戻り、制御部12について説明する。制御部12は、ヘッドユニット11の移動制御およびエアー噴出制御や、磁気ヘッド11aから取得した磁気データの補正処理、補正処理後の磁気データを用いた磁気検査処理といった処理を行う処理部である。
【0082】
移動制御部12aは、図1に示した各モータ(1a、1bおよび1c)に対して指示することで、ヘッドユニット11の移動制御を行う処理部である。また、この移動制御部12aは、図6に示したヘッドユニット11内の可動部(52または52a)の移動制御を併せて行う。なお、移動制御部12aは、エアーコンプレッサ14による圧縮エアーを供給された各磁気ヘッド11aから大判印刷物100へ向けて噴射されるエアーの噴出開始指示あるいは噴出停止指示を併せて行う。
【0083】
磁気情報記憶指示部12bは、各磁気ヘッド11aが取得した磁気データを磁気情報13aとして記憶部13へ記憶させる指示を行う処理部である。なお、記憶部13へ記憶された磁気情報13aは、近似曲線算出部12cによって用いられることになる。
【0084】
近似曲線算出部12cは、記憶部13に記憶された磁気情報13aを読み出し、時系列の信号値の変動をあらわす変動曲線の磁気なし部分に相当するベース曲線を算出する処理を行う処理部である。具体的には、走査区間(走査開始位置から走査終了位置までの区間)において磁気ヘッド11aの温度が不変であれば、磁気なし部分に相当する信号値は一定となるはずである。この場合、かかるベース曲線は、時間軸と平行な直線となる。
【0085】
しかし、磁気ヘッド11aの検知面から大判印刷物へ向けてエアーを吹き付ける手法をとった場合には、通常、各々の磁気ヘッド11aの温度と噴出されるエアーの温度とに差が生じており、エアー噴出による磁気ヘッド11aの温度変化が熱平衡状態となるまでに所定の時間を要する。さらに、エアーコンプレッサ14の温度上昇などによって、エアーコンプレッサ14から供給される圧縮エアーの温度も経時変動する場合もある。したがって、上記したベース曲線の形状は、直線とはならない。そして、かかるベース曲線を得ることができれば、変動曲線からベース曲線を差し引く補正を行うことで温度変化の影響を排除した信号値を得ることができる。
【0086】
このため、近似曲線算出部12cは、かかるベース曲線を多次元関数による近似曲線として算出することとした。そして、補正処理部12dは、近似曲線算出部12cによって算出された近似曲線を磁気情報13aの変動曲線から差し引くことで、温度変化の影響を排除した補正信号値を取得する。
【0087】
つづいて、磁気検査部12eは、補正処理部12dから受け取った補正信号値を、あらかじめ用意された基準信号値と比較するなどして磁気検査を行うことになる。なお、記憶部13は、ハードディスクドライブや不揮発性メモリといった記憶デバイスで構成される記憶部であり、磁気情報13aは、磁気ヘッド11aの識別子、走査時のX座標およびY座標といった情報および磁気ヘッド11aが取得した信号値を含んだ情報である。
【0088】
次に、上記した近似曲線算出部12cおよび補正処理部12dによって行われる処理の概要について図7を用いて説明する。図7は、磁気ヘッド11aによって取得された信号値の補正手順を示す図である。なお、同図では、図9に示した大判印刷物100の1行目における各印刷原画101の走査によって得られた信号値の変動グラフを例示している。また、同図では、説明を解りやすくするために、磁気インク模様に対応して複雑に変動する変動グラフを簡略化して示している。
【0089】
図7の(A)に示したように、磁気ヘッド11aによって取得された信号値は、走査距離に応じて変動する。ここで、各印刷原画101の1箇所で磁気を検出したとすると、4つの印刷原画101のそれぞれで磁気信号としてのピーク値72が得られる。そして、各ピーク値72は、印刷なし部分に相当するベース曲線71に足し合わせられた状態で検出される。
【0090】
なお、同図に示す点73は、ベース曲線71の傾きが0となる点、すなわち、熱平衡状態となった点をあらわしており、従来は、かかる熱平衡状態となるまで待ってヘッドユニット11による走査が行われていた。しかし、熱平衡状態を待ち合わせると、大判印刷物100全体の磁気検査に要する時間がかさんでしまう。特に、ヘッドユニット11内に複数の磁気ヘッド11aを設けた場合には、各磁気ヘッド11aの待ち時間もそれぞれ異なってくる。このため、最も長い待ち時間の磁気ヘッド11aに合わせて待ち時間を決定する必要があり、磁気検査の所要時間が長大化しやすい。
【0091】
そこで、本実施例に係る印刷物検査装置10では、熱平衡状態を待ち合わせることなく走査を行い、複数の磁気ヘッド11aによってそれぞれ取得された信号値を磁気ヘッド11aごとに補正することで、各々の磁気ヘッド11aから熱変動による影響を除去することとした。
【0092】
具体的には、図7の(B)に示したように、信号値の変動グラフを、閾値Lと、閾値Lよりも大きい閾値Hとで区切り、閾値L以上、かつ、閾値H以下の信号値(以下、「抽出信号値」と記載する)のみを抽出する。そして、図7の(C)に示したように、抽出信号値の変動を近似する近似曲線74を算出する。
【0093】
ここで、近似曲線74は、たとえば、回帰分析によって算出することができ、2次曲線〜7次曲線として算出される。なお、精度の面からみて2次曲線とすれば足りる。また、算出された近似曲線74は、図7の(A)に示したベース曲線71に相当する。
【0094】
なお、閾値Lおよび閾値Hは、ベース曲線71の変動幅の平均などを実験等から求めておき、かかる変動幅を含むようにあらかじめ設定される。また、抽出信号値に基づいて近似曲線74を算出する場合に、いったん算出された近似曲線74に対する抽出信号値の分布状況を分析し、閾値Lおよび閾値Hで挟まれた磁気なし領域の両端に分布する磁気信号値を除いたうえで、近似曲線74近傍に分布する抽出信号値のみを用いて、再度、近似曲線74を算出することとしてもよい。この場合、たとえば、近似曲線74について±1σや±0.5σといった範囲の抽出信号値を用いることができる。ここで、σは、標準偏差をあらわす。
【0095】
そして、図7の(C)に示したように、近似曲線算出部12cによって近似曲線74が算出されたならば、補正処理部12dは、図7の(A)に示した変動グラフから近似曲線74の値を差し引く処理を行う。これにより、温度変動の影響が排除された信号値を得ることができる(図7の(D)参照)。
【0096】
次に、図3に示した印刷物検査装置10が実行する処理手順について図8を用いて説明する。図8は、印刷物検査装置が実行する処理手順を示すフローチャートである。なお、同図には、図9に示した大判印刷物100の第n行(図9の場合、nは1〜5)における印刷原画101群((n,A)、(n,B)、(n,C)および(n,D))を走査する場合の処理手順を示している。また、同図では、エアー噴出の開始および終了に関する処理手順については省略している。
【0097】
図8に示したように、移動制御部12aは、大判印刷物100の第n行にヘッドユニット11を位置付ける(ステップS101)。また、移動制御部12aは、各磁気ヘッド11aをヘッドユニット11内の初期値へ位置付ける(ステップS102)。
【0098】
つづいて、印刷物検査装置10は、ヘッドユニット11をX方向(たとえば、図1に示したX軸の正方向)へ移動させつつ、磁気ヘッド11aによって取得された信号値を記憶部13へ記憶する(ステップS103)。
【0099】
そして、最終列(図9の場合、(n,D))の走査が完了したか否かを判定し(ステップS104)、最終列の走査が完了した場合には(ステップS104,Yes)、近似曲線算出部12cは、信号値の変動グラフにおけるベースライン(図7の(A)に示したベース曲線71参照)の近似曲線を算出する(ステップS105)。なお、ステップS104の判定条件を満たさなかった場合には(ステップS104,No)、ステップS103以降の処理を繰り返す。
【0100】
つづいて、補正処理部12dは、ステップS105で算出された近似曲線で信号値を補正し(ステップS106)、磁気検査部12eは、補正後の信号値で磁気検査を実行する(ステップS107)。そして、磁気ヘッド11aがヘッドユニット11内の終了位置にあるか否かを判定し(ステップS108)、終了位置にある場合には(ステップS108,Yes)、処理を終了する。
【0101】
一方、磁気ヘッド11aがヘッドユニット11内の終了位置にない場合には(ステップS108,No)、磁気ヘッド11aをヘッドユニット11内の次位置へ位置付けたうえで(ステップS109)、ステップS103以降の処理を繰り返す。
【0102】
なお、実運用面では、最終列(n,D)走査の完了後、ヘッドユニット11は、ただちに次の走査の走査開始位置へ移動制御されるが、かかるヘッドユニット11の移動と、先に走査によって取得された信号値の処理とは、並列的に実行される。
【0103】
ところで、これまでは、1つのヘッドユニット11を備える印刷物検査装置10について説明してきたが、複数のヘッドユニット11を備える印刷物検査装置10を構成することとしてもよい。そこで、以下では、複数のヘッドユニット11を備える印刷物検査装置10について説明することとする。
【0104】
図10は、複数のヘッドユニット11を備える印刷物検査装置10を示す図である。なお、同図では、図1に示した構成要素と同一の構成要素には、同一の符号を付している。そして、以下では、図1に示した印刷物検査装置10との差異点について主に説明することとする。
【0105】
図10に示した印刷物検査装置10は、X軸用可動部3aに複数のヘッドユニット11(同図では、11Aおよび11B)が設けられている点で、図1とは異なる。具体的には、図10に示したように、X軸用可動部3aには、Y軸方向に、ヘッドユニット11Aとヘッドユニット11Bとが、所定の間隔をあけて配置されている。このように、複数のヘッドユニット11を設けることで、少ない走査回数でより大きな領域の走査を行うことができ、磁気検査を高速に行うことが可能となる。
【0106】
そして、図10に示したように、ヘッドユニット11Aおよびヘッドユニット11Bは、それぞれが独立してZ軸方向へ移動制御される。すなわち、ヘッドユニット11Aは、図1に示したZ軸用駆動モータ1cによって方向5c(同図のZ軸の正方向および負方向)に移動可能なZ軸用可動部2c経由で、X軸用可動部3aに接続されている。
【0107】
また、ヘッドユニット11Bは、図1に示したZ軸用駆動モータ1cによって方向5d(同図のZ軸の正方向および負方向)に移動可能なZ軸用可動部2c経由で、X軸用可動部3aに接続されている。そして、X軸用可動部3aは、X軸用ガイド2a上を、X軸用駆動モータ1aによって方向5a(同図のX軸の正方向および負方向)へ移動制御されるとともに、Y軸用可動部3bの移動と連動してY軸用ガイド3aa上を方向5b(同図のY軸の正方向および負方向)へ移動制御される。
【0108】
また、X軸用可動部3aのY方向への移動をガイドするY軸用ガイド3aaは、一組のスライドレール6aの凹部内をスライドすることで、スライドレール6a上を方向5a(同図のX軸の正方向および負方向)へ移動する。なお、図10では、一組のスライドレール6aでY軸用ガイド3aaを保持する両持機構を示したが、片方のスライドレール6aを省略した片持機構としてもよい。
【0109】
このように、図10に示した印刷物検査装置10では、ヘッドユニット11を複数個並列に設け、Z軸方向にそれぞれ独立して移動制御する。したがって、X軸用可動部3aをY軸方向へ移動させた結果、大判印刷物100からはみ出したヘッドユニット11については大判印刷物100へ下降させることなく、他のヘッドユニット11による走査を継続することができる。
【0110】
なお、図10では、2個のヘッドユニット11を設ける場合について説明したが、3個以上のヘッドユニット11を設けることとしてもよい。たとえば、大判印刷物100の一行ごとにヘッドユニット11を設けることとすれば、1回の走査で、大判印刷物100の全行を一度に検査することができる。
【0111】
上述してきたように、本実施例では、走行機構のローラ間に複数の磁気ヘッドを取付軸方向に配列したヘッドユニットを用いることとしたうえで、走行機構のローラが大判印刷物に接した状態でヘッドユニットを走行機構の走行方向へ移動させる制御を行うとともに、走行機構のローラが大判印刷物に接しない状態でヘッドユニットを大判印刷物と平行な面上で所定の方向へ移動させる制御を行い、磁気ヘッドが取得した信号値に基づいて大判印刷物の磁気検査を行うように印刷物検査装置を構成した。したがって、ヘッドユニットによる1回の走査で検知することができる領域の面積を大きくすることによって、大判印刷物全体の検査に要する時間を短縮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
以上のように、本発明に係る印刷物検査装置は、大判印刷物の磁気検査に有用であり、特に、磁気検査の所要時間を短縮したい場合に適している。
【符号の説明】
【0113】
10 印刷物検査装置
11 ヘッドユニット
11a 磁気ヘッド
11b ローラ
11c 流路
12 制御部
12a 移動制御部
12b 磁気情報記憶指示部
12c 近似曲線算出部
12d 補正処理部
12e 磁気検査部
13 記憶部
13a 磁気情報
14 エアーコンプレッサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本単位の印刷原画が余白部を挟んで規則的に並べられて印刷された大判印刷物の検査を行う印刷物検査装置であって、
前記大判印刷物の磁気を検知する検知領域と前記大判印刷物に対してエアーを吹き付ける機構とを有する磁気ヘッドと、
前記大判印刷物上を走行する際の走行方向と垂直となる方向に取付軸が設けられ、前記取付軸まわりに転動する複数のローラが前記印刷原画を挟む前記余白部上をそれぞれ走行する間隔で設けられた走行機構と、
前記走行機構における複数のローラ間に、前記取付軸方向と平行となる方向に隣接して複数の前記磁気ヘッドを配列したヘッドユニットと、
前記ヘッドユニットを、前記大判印刷物の検査面に近接する上下方向、前記印刷原画の縦方向および横方向へそれぞれ移動させる制御を行う移動制御手段と、
前記磁気ヘッドにおける前記検知領域が取得した信号値に基づいて前記大判印刷物の磁気検査を行う磁気検査手段と
を備えたことを特徴とする印刷物検査装置。
【請求項2】
前記磁気ヘッドは、
前記検知領域の外周に磁気に対する不感領域を有しており、
前記ヘッドユニットは、
所定の前記磁気ヘッドにおける前記不感領域と、当該磁気ヘッドに隣接する他の前記磁気ヘッドにおける前記検知領域とが前記走行方向に対して重なるように複数の前記磁気ヘッドを千鳥配置したことを特徴とする請求項1に記載の印刷物検査装置。
【請求項3】
前記ヘッドユニットは、
複数の前記磁気ヘッド間の相対距離を保持したまま前記磁気ヘッドを前記取付軸方向と平行に移動させる磁気ヘッド移動機構をさらに有しており、
前記移動制御手段は、
前記磁気ヘッド移動機構による前記磁気ヘッドの移動を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の印刷物検査装置。
【請求項4】
前記磁気検査手段は、
前記磁気ヘッドごとの前記信号値を記憶部へ記憶させる指示を行う記憶指示手段と、
前記大判印刷物からの磁気検出がない部分に対応する磁気なし信号値を前記記憶部に記憶された前記磁気ヘッドごとの前記信号値からそれぞれ抽出する抽出手段と、
前記抽出手段によって抽出された前記磁気なし信号値の変動履歴をあらわす近似曲線を前記磁気ヘッドごとに算出する算出手段と、
前記算出手段によって前記磁気ヘッドごとに算出された前記近似曲線に基づいて前記記憶部に記憶された前記磁気ヘッドごとの前記信号値をそれぞれ補正する補正手段と
をさらに備えたことを特徴とする請求項1、2または3に記載の印刷物検査装置。
【請求項5】
複数の前記磁気ヘッドは、
単一の発振器によって生成された同相の信号によって励磁されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の印刷物検査装置。
【請求項6】
前記ヘッドユニットを複数個配したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の印刷物検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−75439(P2011−75439A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228118(P2009−228118)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000001432)グローリー株式会社 (1,344)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】