説明

印刷用データの生成装置、印刷装置およびその方法

【課題】ドットの形成位置にずれが生じると、想定した画質を実現することが困難となる。
【解決手段】画像を形成する各画素の階調値に基づいて、ドット形成の有無を表すドットデータを生成する際、印刷条件が異なる複数の画素グループに属する各ドットを共通領域で重ねて印刷するものとし、共通領域において形成されるドットの分布に、空間周波数領域において、所定の空間周波数以下の低周波領域より高周波側にピークを持つノイズ特性を持たせる。印刷時に用紙サイズを判断し、用紙サイズが大きい場合には、複数の画素グループのうちの2つの画素グループにそれぞれ属する第1,第2の画素にドットが形成される確率k1,k2が、
k1<0.5、k2<0.5
である所定の階調範囲において、第1,第2の画素が共通領域において隣接画素である場合、隣接画素の双方にドットが形成される確率Kが、k1・k2に近づくように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用データの生成装置、印刷装置およびその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、1種類あるいは数種類程度のドットを印刷媒体に記録することで、多階調の画像を再現する技術が、プリンターなどの印刷装置で用いられている。近年では、こうした多階調化の技術はめざましい発展を遂げており、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロ(Y)、ブラック(K)などの数種類の色相のインクの大小2種類程度のドットを組み合わせ、その分布を制御することによって、いわゆる写真画質の画像を形成することも可能となっている。それ自体の階調値の少ないもの、例えばドットを形成する・しない(ドットのオン・オフ)で、多階調の画像を高画質で再現しようとすると、ドットの分布を如何に適切にコントロールするかが問題となる。こうしたドットの分布を、空間周波数の領域で分析する技術の進展により、現在では、空間周波数の領域において、所定の周波数以下の成分をできるだけ少なくしたノイズ特性を、ドットの分布に持たせることにより、画質を高められることが知られている。
【0003】
こうしたノイズ特性の代表的なものが、ブルーノイズ特性である。ブルーノイズとは、例えば一定階調値の画像を再現するためにドットを一様に形成した画像の空間周波数が、所定周波数以下にほとんど成分を有しない特性を意味している。人間の目は、一定以下の低周波数成分には敏感でも、高周波成分については視認性は高くない。このため、こうしたブルーノイズ特性を有する画像は、滑らかで高画質なものに感じられるのである。こうしたブルーノイズ特性を有する画像の形成技術を開示したものとして、下記特許技術文献1等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,341,228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ブルーノイズ特性を有する画像の画質が最も高くなるのは、画像処理により得られたドットの形成位置に、正しくドットが形成される場合に限られる。現実の印刷装置では、ドットの形成位置に関しては、種々の要因により、本来の形成位置にドットを形成できないことがあり得る。例えば、ドット形成を、ノズルからのインク滴の吐出により行なうインクジェットプリンターでは、ノズル毎の個体差によりインク滴の弾着位置は異なっている。また、ドット形成を行なう印刷ヘッドを、印刷媒体、例えば印刷用紙に対して相対的に移動させながらドットを形成するプリンターでは、印刷ヘッドの位置決め誤差により、ドットの形成位置に誤差を生じることが知られている。代表的な誤差としては、印刷ヘッドの往動時と復動時でそれぞれドットを形成する双方向印刷時の誤差がある。また同様の誤差の一つとしては、複数回の主走査により一つのラスタを形成するマルチパス印字方式により生じる誤差も知られている。
【0006】
この他、印刷媒体の撓み、例えば印刷用紙がインクを吸収して撓むこと(いわゆるコックリング)により、インク滴の弾着位置、即ちドットの形成位置がずれる現象も知られている。もとよりこうしたドット形成位置のずれは、インク滴を用いる印刷装置だけではなく、熱転写方式の印刷装置や熱昇華型、あるいは用紙の幅方向に印刷ヘッドを配列したいわゆるラインプリンターなど、他の方式の印刷装置でも、同じ領域でのドットの形成を複数の画素グループに分けて行なう場合には、生じ得る課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決することを目的としてなされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
印刷用のデータを生成するデータ生成装置であって、
所定階調以下の階調範囲で、粒状性を優先したドット配置に対応した特性を有する第1のディザマスクと、隣接画素にドットが形成される確率を前記第1のディザマスクより高めた第2のディザマスクとを記憶した記憶部と、
印刷媒体における印刷領域の大きさが第1の所定値以上の場合には、前記第1のディザマスクに代えて前記第2のディザマスクを用い、画像データから印刷用のデータを生成するハーフトーン処理部と
を備えたデータ生成装置。
【0009】
この適用例1のデータ生成装置に拠れば、印刷媒体における印刷領域の大きさにより、所定階調以下の階調範囲で粒状性を優先したドット配置に対応した特性を有する第1のディザマスクに代えて、隣接画素にドットが形成される確率をこの第1のディザマスクより高めた第2のディザマスクを用い、画像データから印刷用のデータを生成する。したがって、印刷媒体における印刷領域が大きい場合には、ドットの形成位置にずれが生じて、隣接画素にドットが形成される割合が大きく変動することがないドットデータを生成することができる。
【0010】
[適用例2]
適用例1記載のデータ生成装置であって、
前記ハーフトーン処理部は、前記印刷領域が、前記所定値または該所定値より小さい第2の所定値未満の場合には、前記第1のディザマスクを用いて、前記画像データから前記印刷用のデータを生成する
データ生成装置。
この適用例によれば、印刷領域が第2の所定値未満の場合には、第1のディザマスクを用いて処理を行なうので、粒状性を優先した処理が可能となる。なお、第2の所定値が前記所定値より小さい場合には、その間では他のハーフトーン処理を行なうものとしても良い。他のハーフトーン処理としては、第1のディザマスクと第2のディザマスクとの中間的な性質を持つディザマスクを用いたハーフトーン処理などが考えられる。
【0011】
[適用例3]
前記印刷領域の大きさを取得する印刷領域取得部を有する適用例1または2記載のデータ生成装置。
この適用例に拠れば、印刷領域の大きさを取得することができ、いちいち印刷領域の大きさを指示してやる必要がない。印刷領域の大きさは、オペレーティングシステムやプリンタドライバーなどが管理する変数(メンバー)などから取得することができる。もとより、専用の変数を設けて、アプリケーションやプリンタドライバーが個別に管理するものとしても良い。更に、印刷装置の操作パネルに直接印刷領域の大きさを指定するボタンを設け、このボタンの設定から取得するものとしても良い。
【0012】
[適用例4]
前記印刷領域取得部は、前記印刷領域の大きさを、印刷媒体のサイズ、印刷領域の幅、または印刷媒体における余白幅のうちの少なくとも一つから取得する適用例3記載のデータ生成装置。
この適用例によれば、容易に印刷領域の大きさを取得することができる。
【0013】
[適用例5]
前記印刷領域取得部は、前記印刷領域の大きさを、オペレーティングシステムまたはプリンタドライバーが管理するメンバーから取得する適用例3記載のデータ生成装置。
この適用例によれば、印刷媒体のサイズ、印刷領域の幅、または印刷媒体における余白幅などを、オペレーティングシステムやプリンタドライバーなどが管理するメンバーを参照することにより、容易に取得することができる。
【0014】
[適用例6]
前記第1のディザマスクは、ブルーノイズ特性またはグリーンノイズ特性を有するマスクである適用例1ないし適用例5のいずれか記載のデータ生成装置。
この適用例によれば、特に低階調領域におけるドットの分散性を十分に高めることができる。
【0015】
[適用例7]
適用例1ないし適用例6のいずれか記載のデータ生成装置であって、
前記印刷用のデータは、画素毎のドットの形成の有無を表わすドットデータであり、前記ドットの形成を、印刷条件が異なる複数の画素グループに分けて行ない、該複数の画素グループによるドットの形成の少なくとも一部を共通領域で行なうことで、印刷を行なう際に用いるドットデータであり、
前記第1のディザマスクは、複数の画素グループの各々について、所定階調以下のドットの配置が、ブルーノイズ特性またはグリーンノイズ特性を有するマスクであるデータ生成装置。
【0016】
この適用例によれば、複数の画素グループにおいて形成されるドットの分布が、それぞれブルーノイズ特性またはグリーンノイズ特性を有するので、これらの画素グループによるドットの形成が共に行なわれる共通領域において、各画素グループに形成されるドットの位置にずれが生じても、画質の劣化を抑制できるドットデータを出力することができる。
【0017】
[適用例8]
印刷媒体に印刷を行なう印刷装置であって、
所定階調以下の階調範囲で、粒状性を優先したドット配置に対応した特性を有する第1のディザマスクと、隣接画素にドットが形成される確率を前記第1のディザマスクより高めた第2のディザマスクとを記憶した記憶部と、
印刷媒体における印刷領域の大きさが第1の所定値以上の場合には、前記第1のディザマスクに代えて前記第2のディザマスクを用い、画像データから印刷用のデータを生成するハーフトーン処理部と、
前記印刷用のデータを用いて、前記印刷媒体上にドットを形成することで、印刷を行なう印刷部と
を備えた印刷装置。
【0018】
この適用例の印刷装置によれば、印刷媒体における印刷領域の大きさにより、所定階調以下の階調範囲で粒状性を優先したドット配置に対応した特性を有する第1のディザマスクに代えて、隣接画素にドットが形成される確率をこの第1のディザマスクより高めた第2のディザマスクを用い、画像データから印刷用のデータを生成する。したがって、印刷媒体における印刷領域が大きい場合には、ドットの形成位置にずれが生じて、隣接画素にドットが形成される割合が大きく変動することがなく、印刷領域が所定以上の画像の印刷品質を向上させることができる。
【0019】
上記の各適用例は、以下の方法としても実現可能である。
[適用例9]
印刷用のデータを生成する印刷用データの生成方法であって、
所定階調以下の階調範囲で、粒状性を優先したドット配置に対応した特性を有する第1のディザマスクと、隣接画素にドットが形成される確率を前記第1のディザマスクより高めた第2のディザマスクとを記憶し、
印刷媒体における印刷領域の大きさが第1の所定値以上の場合には、前記第1のディザマスクに代えて前記第2のディザマスクを用い、画像データから印刷用のデータを生成する
印刷用データの生成方法。
[適用例10]
印刷媒体に印刷を行なう印刷方法であって、
所定階調以下の階調範囲で、粒状性を優先したドット配置に対応した特性を有する第1のディザマスクと、隣接画素にドットが形成される確率を前記第1のディザマスクより高めた第2のディザマスクとを記憶媒体に記憶し、
印刷媒体における印刷領域の大きさが第1の所定値以上の場合には、前記第1のディザマスクに代えて前記第2のディザマスクを用い、画像データから印刷用のデータを生成し、
前記印刷用のデータを用いて、前記印刷媒体上にドットを形成することで、印刷を行なう
印刷方法。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例であるプリンター20の概略構成図である。
【図2】実施例における印刷ヘッド90のノズル列を例示する説明図である。
【図3】往動時に形成されるドットと復動時に形成されるドットとの組合わせのバリエーションを示す説明図である。
【図4】実施例における印刷処理を示すフローチャートである。
【図5】往動時および復動時に形成されるドットとその組合わせを示す説明図である。
【図6】往動時と復動時のドット形成位置にずれが生じた場合を例示する説明図である。
【図7】分散型ディザマスクを用いた場合のドットの配置例とペアドットとを示す説明図である。
【図8】着目画素OJに対する隣接画素NR,NDを示す説明図である。
【図9】ドット発生率kとペアドットの発生率Kとの関係を示すグラフである。
【図10】往動時と復動時のドット形成位置にずれが生じた場合の被覆率変動を例示するグラフである。
【図11】画素を単位としたドット形成位置のずれ量とペアドット発生率のkからの偏差との関係を示すグラフである。
【図12】ペア画素制御マスクの生成方法を示すフローチャートである。
【図13】階調値Sとペアドット目標値Mとの関係を示す説明図である。
【図14】感度特性VTF(Visual Transfer Function)の一例を示す説明図である。
【図15】他の印字方法における着目画素と隣接画素との関係を示す説明図である。
【図16】往動時のドットの分布と復動時のドットの分布および合成時のドットの分布を例示する説明図である。
【図17】第2実施例におけるディザマスクの生成処理を示すフローチャートである。
【図18】着目画素の選択処理における格納要素の配置について説明する説明図である。
【図19】第1のディザマスク評価処理を示すフローチャートである。
【図20】ブルーノイズ特性およびグリーンノイズ特性の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
A.第1実施例:
本発明の第1実施例について説明する。
A−1.装置構成:
図1は、本発明の第1実施例としてのプリンター20の概略構成図である。プリンター20は、双方向印刷を行うシリアル式インクジェットプリンターであり、図示するように、プリンター20は、紙送りモーター74によって印刷用紙Pを搬送する機構と、キャリッジモーター70によってキャリッジ80をプラテン75の軸方向に往復動させる機構と、キャリッジ80に搭載された印刷ヘッド90を駆動してインクの吐出およびドット形成を行う機構と、これらの紙送りモーター74,キャリッジモーター70,印刷ヘッド90および操作パネル99との信号のやり取りを司る制御ユニット30とから構成されている。
【0022】
キャリッジ80をプラテン75の軸方向に往復動させる機構は、プラテン75の軸と平行に架設され、キャリッジ80を摺動可能に保持する摺動軸73と、キャリッジモーター70との間に無端の駆動ベルト71を張設するプーリ72等から構成されている。
【0023】
キャリッジ80には、カラーインクとして、シアンインク(C)、マゼンタインク(M)、イエロインク(Y)、ブラックインク(K)、ライトシアンインク(Lc)、ライトマゼンタインク(Lm)をそれぞれ収容したカラーインク用のインクカートリッジ82〜87が搭載される。キャリッジ80の下部の印刷ヘッド90には、上述の各色のカラーインクに対応するノズル列が形成されている。キャリッジ80にこれらのインクカートリッジ82〜87を上方から装着すると、各カートリッジから印刷ヘッド90へのインクの供給が可能となる。
【0024】
印刷ヘッド90には、図2に示したように、各インク色に対応して、インク滴を吐出する複数のノズルを副走査方向に配列したノズル列が設けられている。ノズル列におけるノズルの配列ピッチRは、ドットの形成ピッチ(ラスタ間隔r)の整数倍とされており、印刷時には、主走査毎に、印刷ヘッド90に対して用紙を副走査方向に相対的に移動しつつ主走査を複数回繰り返すことで、各ラスタを完成する、いわゆるインターレースによる印刷を行なう。また、一つのラスタを複数回の主走査により完成する、いわゆるオーバーラップ印刷も実施することができる。このため、インターレースとオーバーラップとを組み合わせることにより、各ラスタあるいは各カラムを、印刷ヘッド90の往動時あるいは復動時のいずれかで形成されるドットに統一した、いわゆるカラム交互のドット配置(図3(A))あるいはラスタ交互のドット配置(図3(B))で印刷することができる。あるいは、往動時に形成されるドット、復動時に形成されるドットを、各ラスタおよび各カラムにおいて、交互に配置する、いわゆるたすき掛けのドット配置(図3(C))で印刷することも可能である。第1実施例では、図3(C)に示したたすき掛けのドット配置により印刷するものとした。こうしたインターレースやオーバーラップを用いて所望のドット配置を実現する方法は、周知のものなので、詳しい説明は省略する。
【0025】
上記の印刷ヘッド90やキャリッジモーター70、紙送りモーター74などを制御して印刷を実行する制御ユニット30は、CPU40や、ROM51、RAM52、EEPROM60がバスで相互に接続されて構成されている。制御ユニット30は、ROM51やEEPROM60に記憶されたプログラムをRAM52に展開し、実行することにより、プリンター20の動作全般を制御するほか、請求項におけるドットデータ生成部42、印刷部43としても機能する。これらの機能部の詳細については後述する。
【0026】
EEPROM60には、2つのディザマスクが記憶されている。本実施例で用いる第1,第2のディザマスク61,62は、64×64の大きさを有しており、0から256までの閾値が、4096個の格納要素に格納されている。各閾値は、後述するハーフトーン処理おいて用いられる。第1,第2のディザマスク61,62は、各閾値の配置が、基本的にはドットの分散性を重視した特性を持つように決定されている。本実施例で用いた第1,第2のディザマスク61,62の特性については、後で詳しく説明するが、第1のディザマスク61は、いわゆるブルーノイズマスクであり、第2のディザマスク62は特に双方向印刷における画質の劣化を抑制して高画質を実現するディザマスクとして構成されている。
【0027】
本実施例では、印刷は、プリンター20単独で行なわれる。制御ユニット30には、メモリカードスロット98が接続されており、メモリカードスロット98に挿入したメモリカードMCから画像データORGを読み込んで入力する。本実施例においては、メモリカードMCから入力する画像データORGは、レッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)の3色の色成分からなるデータである。プリンター20は、このメモリカードMC内の画像ORGを用いて印刷を行なう。もとより、外部のコンピュータにUSBなどやLANを用いて接続し、コンピュータ側でハーフトーン処理などを行ない、その結果を受け取ってプリンター20で印刷するといった構成を取ることも差し支えない。
【0028】
以上のようなハードウェア構成を有するプリンター20は、キャリッジモーター70を駆動することによって、印刷ヘッド90を印刷用紙Pに対して主走査方向に往復動させ、また、紙送りモーター74を駆動することによって、印刷用紙Pを副走査方向に移動させる。制御ユニット30は、キャリッジ80が往復動する動き(主走査)や、印刷媒体の紙送りの動き(副走査)に合わせて、印刷データに基づいて適切なタイミングでノズルを駆動することにより、印刷用紙P上の適切な位置に適切な色のインクドットを形成する。こうすることによって、プリンター20は、印刷用紙P上にメモリカードMCから入力したカラー画像を印刷することが可能となっている。
【0029】
A−2.印刷処理:
プリンター20における印刷処理について説明する。図4は、プリンター20における印刷処理の流れを示すフローチャートである。ここでの印刷処理は、ユーザーが操作パネル99等を用いて、メモリカードMCに記憶された所定の画像の印刷指示操作を行うことで開始される。印刷処理を開始すると、CPU40は、まず、メモリカードスロット98を介してメモリカードMCから印刷対象であるRGB形式の画像データORGを読み込んで入力する(ステップS110)。
【0030】
画像データORGを入力すると、次に、印刷する用紙の設定を受け付ける処理を行なう(ステップS115)。用紙の設定は、操作パネル99を用いて使用者が用紙サイズを設定する処理である。もとより、デフォルトで所定の用紙サイズ(例えばA4)が設定されており、使用者が特に指定を行なわなければ、デフォルトの用紙サイズが用いられる。用紙サイズの設定は、変数PageSizeに保存され、後の処理で参照される。用紙サイズの設定を行なった後、CPU40は、EEPROM60に記憶されたルックアップテーブル(図示せず)を参照して、画像データORGについて、RGB形式をCMYKLcLm形式に色変換する処理を行なう(ステップS120)。
【0031】
色変換処理を行うと、次に、用紙サイズについての判断を行なう(ステップS125)。用紙サイズの判断は、先に保存された変数PageSizeを参照することにより行なわれる。用紙サイズの判断の結果、CPU40は、用紙サイズがA4サイズ以下、例えば写真サイズ(キャビネ版、L判、2L判サイズなど)であれば、第1のハーフトーン処理(ステップS130)を行ない、用紙サイズがA4以上であれば、第2のハーフトーン処理(ステップS135)を行なう。第1,第2のハーフトーン処理のいずれでも、CPU40は、ドットデータ生成部42の処理として、画像データを各色のドットのON/OFFデータ(以下、ドットデータともいう)に変換するハーフトーン処理を行なうが、その処理内容は異なっている。本実施例では、第1,第2のハーフトーン処理は、ディザ法を用いて行う。すなわち、入力データと、第1のディザマスク61または第2のディザマスク62を構成する複数の閾値のうちの、入力データに対応する位置の格納要素に格納された閾値とを比較し、入力データが閾値よりも大きければ、ドットを形成する(ドットON)と判断し、入力データが閾値以下であればドットを形成しない(ドットOFF)と判断するものである。この処理で用いる第1,第2のディザマスク61,62は、主走査方向および副走査方向に並ぶ各々の入力データに対して、主走査方向および副走査方向に繰り返し適用される。本実施例における第1,第2のハーフトーン処理は、生成するドットデータが所定の特性を有するように制御される。この制御の内容は、第1,第2のディザマスク61,62のもつ性質に依存している。特に第2のディザマスク62の有する特性については、後述する。なお、第1,第2のハーフトーン処理は、ドットのON/OFFの2値化処理に限らず、大ドットおよび小ドットのON/OFFなど、多値化処理であってもよい。また、ハーフトーン処理に供する画像データは、解像度変換処理やスムージング処理などの画像処理が施されたものであってもよい。
【0032】
第1または第2のハーフトーン処理のいずれか一方を行うと、CPU40は、プリンター20のノズル配置や紙送り量などに合わせて、1回の主走査単位で印画するドットパターンデータに並び替えるオーバーラップおよびインターレース処理を行う(ステップS140)。オーバーラップおよびインターレース処理を行うと、CPU40は、印刷部43の処理として、印刷ヘッド90、キャリッジモーター70、モーター74等を駆動させて、印刷を実行する(ステップS150)。
【0033】
かかる印刷処理で形成されるドットの配置について説明する。上述の説明からも明らかなように、プリンター20は、印刷媒体の共通の印刷領域に、印刷媒体に対するインクの吐出位置を変えつつ、複数の異なるタイミング(すなわち、往動と復動)で印刷ヘッドからインクを吐出してドットを形成し、往動で形成されたドット(以下、往動ドットともいう)と、復動で形成されたドット(以下、復動ドットともいう)とが相互に組み合わされた印刷画像を出力する。第1実施例では、ドットの配置をたすき掛け配置(図3(C))としているので、印刷ヘッド90の往動時に形成されるドットは、図5(A)にハッチングを施して示したように千鳥配列の画素位置に形成され、印刷ヘッド90の復動時に形成されるドットは、図5(B)に網掛け施して示したように、往動時のドット位置とはカラム方向に1画素分ずれた千鳥配列の画素位置に形成される。往動時に形成されるドットに対応した画素の集合を第1の画素グループ、復動時に形成されるドットに対応した画素の集合を第2の画素グループと呼ぶ。図5(A)、(B)において、実際に形成されたドットを、それぞれ「●」印およびハッチングを施した「○」印で示した。ドットサイズは、通常、ドットの形成位置に多少のずれが生じても最大濃度で、印刷媒体表面を100%被覆できるよう、画素の対角線サイズよりも大きめに設定されている。印刷された画像は、図5(C)に示したように、第1,第2の画素グループのそれぞれで形成されたドットを合わせたものとなる。
【0034】
往動時と復動時とでは、ドットの形成の印刷条件は異なるので、実際に形成されるドットは、図5(C)とは異なる場合がある。例えば、復動時のドット形成位置に対して、往動時のドット形成位置が、ラスタ方向(主走査方向)に約1画素分ずれているとすると、図5(C)で示した例では、図6(A)に示したように、往動時に形成されるドットが、主走査方向にずれた結果、ドットの重なり合う面積が増加する。また図6(B)に示したように、この例ではずれ量が2に増えるとさらに重なり面積が増加する。図5(C)からも分かるように、位置ずれがなければドット同士の重なりは非常に少ない。これはブルーノイズ特性を有するディザマスクでは、できるだけドットを離して配置しようとするためである。これに対して実際の印刷において、ドット形成位置に位置ずれが生じると、図6(A),図6(B)に示したように、往動時にドットが形成される第1の画素グループに属するドットと、復動時にドットが形成される第2の画素グループに属するドットの重なり量が増える。ドット重なり量が増えると、ドットが印刷用紙Pを覆う割合である被覆率は変動する。また、ドットの形成位置にずれがなければ、隣接することのなかったドットが、ドットの形成位置がずれたことで、隣り合う位置に形成されることも起こりえる。この場合には、被覆率は変動しないが、ドット同士が近接するために、粒状感が変動することになる。
【0035】
A−3.ハーフトーン処理:
以上の点を踏まえて、第1実施例におけるハーフトーン処理の特徴について説明する。第1実施例では、設定された用紙のサイズに応じて、第1または第2のハーフトーン処理(ステップS130またはS135)を行なう。まず、図4のステップS130として示した第1のハーフトーン処理について説明する。第1のハーフトーン処理では、第1の画素グループに属する画素と第2の画素グループに属する画素の階調値を、EEPROM60に記憶した第1のディザマスク61と比較することにより、それぞれの画素位置にドットを形成するか形成しないかを決定している。決定されたドットのオン・オフを示すデータを、ドットデータと呼ぶ。ディザ法については、周知の技術なので詳しい説明は省略するが、第1のハーフトーン処理で用いられる第1のディザマスク61は、いわゆるブルーノイズマスクであり、画像データの階調値と第1のディザマスク61の対応する位置の閾値とを順次比較することにより、ドットのオン・オフを決定する。
【0036】
ブルーノイズマスクは、これにより生成されるドットの配置がブルーノイズ特性を持つように閾値を配置したディザマスクである。ブルーノイズ特性とは、形成されるドットの分布が、空間周波数領域において、所定の空間周波数以下の低周波領域よりも高周波側にピークを持つノイズ特性の一つであり、ドットの分散性に極めて優れた特性を有する。このブルーノイズマスクを用いた第1のハーフトーン処理により、ドットデータが生成される。この結果、用紙サイズがA4未満、例えば写真サイズ(L判)であれば、ドットの分散性を優先して、粒状性に優れた高画質の印刷を行なうためのドットデータが生成される。なお、第1のハーフトーン処理では、第1,第2の画素グループについて、特に区別することなく、ディザマスクの閾値との比較を行なっている。
【0037】
次に第2のハーフトーン処理について説明する。第2のハーフトーン処理(ステップS135)でも、ドットデータは、ディザマスクの閾値の比較より生成されるが、第2のハーフトーン処理では、第2のディザマスク62が用いられる。この第2のディザマスク62は、既に説明したように、分散性の高いものとして設定されているので、画像の濃度が低い領域では、ドットの配置はまばらになる。分散性の観点から、互いに上下または左右に隣接する2つの画素にドットが配置されることはほとんど生じない。この様子を図7(A)に示した。図7(A)では、8×8の領域を例示しており、画像の階調値が一様に26/255である場合を例示した。この場合、8×8の領域に、その約1割の画素、つまり6個程度の画素にドットが形成されることになる。
【0038】
これに対して、第1実施例における第2のハーフトーン処理(ステップS135)では、有意の確率で、隣接する画素にドットが配置されることが生じるよう、第2のディザマスク62の閾値が設定されている。隣接する画素に共に形成されたドットが形成された一例を、図7(B)に示した。第1実施例では、こうした隣接する画素に共にドットが形成されるという状態が、画像の階調値が低い領域(例えば階調値が1〜127/255の領域)でも、有意の確率で生じるように、第2のディザマスク62が作られている。
【0039】
ここで有意の確率とは、次のようにして設定された確率である。第1実施例で用いる第2のディザマスク62では、画像データの階調値が0〜127/255の範囲では、第1および第2の画素グループに属する各画素に、ドットが配置される場合の確率をk(0≦k≦1)とすると、ドットが形成された一つの画素のラスタ方向(主走査方向)右に隣接する画素またはカラム方向(副走査方向)下に隣接する画素のいずれかにドットが形成される確率Kが、それぞれ0.8×k程度とされている。
【0040】
着目した一つの画素に対して隣接する画素のうち、ドットが形成されるグループが異なるものを、以下「隣接画素」と呼ぶ。着目した画素に隣接する画素は、図3(C)のたすき掛けの配置では、上下左右方向に4つ存在する。ドットの形成位置の大きなズレが生じるのは、往動時に形成されるドットと復動時に形成されるドットの間である。したがって、単に隣接しているか否かだけではなく、隣接しかつ異なる画素グループに属している画素同士に限って、ドットの発生確率を調整する。第1実施例では、往動時に形成されるドットと復動時に形成されるドットは、図3(C)に示したように、互い違いになっているので、着目画素に対して隣接しかつ異なる画素グループ属している画素は、着目画素の上下、左右の4箇所に存在する。本実施例では、このうち、ラスタ方向(主走査方向)右、およびカラム方向(副走査方向)下に隣接する画素だけを、着目画素に対する「隣接画素」としている。これは、着目画素からみて点対称にある隣接画素は、どちらか一方だけを考慮して、ベアドット(隣接画素の両方に形成されたドット)を数えれば良いからである。画像を形成する全画素について、画像の左上から右下へと、着目画素を順次移動しながら、点対称にある隣接画素のいずれか一方だけを数えていけば、重複することなく、すべてのペアドットを数えることができる。
【0041】
図8(A)は、着目画素OJの位置を(0,0)とし、主走査右方向および副走査下方向をプラスとした場合、位置(1,0)が右側の隣接画素NR、位置(0,1)が下側の隣接画素NDとなることを示している。また、着目画素OJと、隣接画素NR,NDのいずれか一つとの関係を特定する場合には、これらをまとめて「ペア画素」と呼ぶ。第1実施例では、着目画素と共にペア画素を構成する隣接画素は、上記の通り、着目画素OJの右または下の画素NR,NDに限っているが、逆に着目画素のOJの左や上の画素などに限ってペアドットを数えても差し支えない。また、図8(A)では、ペア画素を、着目する画素に隣接する画素に限っているが、ペア画素として、発生確率を考慮する画素は、隣接する画素に限る必要はない。図8(B)、(C)に示したように、着目画素から隔たった位置の画素まで隣接画素として扱うこともでき、こうした場合の詳しい説明は、後述する。
【0042】
ペア画素にドットが形成される確率について説明する。ここで階調値は、ドットがオンになる(形成される)確率に対応するものとして扱う。仮に、ハーフトーン処理される画像ORGが、階調値26/255の一様な画像であったとすると、ドットの配置は10画素に1つ程度になる(k=0.1)。これに対して、ペア画素にドットが形成される確率Kが、第1実施例のディザマスクでは、K=0.8×k≒0.008程度とされているのである。従来の分散性の高いディザマスクでは、低濃度領域では、ドットの分散性を優先しており、隣接する画素であるペア画素に共にドットが形成され確率は、限りなく0に近付けられている。実際、ブルーノイズマスクとして知られている特性を有するディザマスクでは、階調値26/255で、ペア画素に共にドットが形成される例は見つからなかった。
【0043】
これに対して第1実施例では、階調値が0〜127/255、つまりドットの形成確率kが0〜0.5程度の範囲で、ペア画素にドットが共に形成される確率Kは、0.8×k程度である。つまり、例えば、階調値が52/255(k≒0.2)であれば、ペア画素に共にドットが形成される確率Kが、0.032、つまり100組のペア画素当たり3組程度の割合でドットが形成されていることになる。
【0044】
ペア画素にドットが形成される割合を模式的に示したのが図9である。図9において、横軸は、画素にドットが形成される確率で、画像の階調値に対応している。また、図9の縦軸は、ペア画素に共にドットが形成される割合を示している。図9において、実線JD1は、本実施例のディザマスクを用いてハーフトーン処理を行なった場合を示しており、一点鎖線BN1は、第1のハーフトーン処理のように、ブルーノイズマスクを用いてハーフトーン処理を行なった場合を示している。また、破線WN1は、ホワイトノイズマスクを用いてハーフトーン処理を行なった場合を示している。ここでホワイトノイズマスクとは、マスクサイズを十分に大きくした上で、ディザマスクの各閾値を乱数により設定することで、閾値を毎回乱数によって発生させるランダムディザ法と同等の結果が得られるようにしたディザマスクを指すものとする。ブルーノイズマスクは低周波成分を含まないブルーノイズ特性を示すにの対し、ホワイトノイズマスクは、低周波成分から高周波成分までをまんべんなく含むホワイトノイズ特性を示す。
【0045】
図示するように、ブルーノイズマスクを用いた場合には、画像の階調値が低い領域(階調値0〜51、ドットの発生確率k=0〜0.2)では、ペア画素に共にドットが形成される確率はほぼ0である。これに対して、ホワイトノイズマスクを用いた場合には、ドットの形成位置はランダムなので、ドットの形成の確率kに対して、ペア画素にドットが形成される確率は、kにほぼ一致している。これらの特性に対して、本実施例で採用したディザマスクでは、分散型のディザマスクでありながら、ペア画素に共にドットが形成される確率Kは、実線JD1として示したように、階調値の範囲0〜127(ドットの発生確率k=0〜0.5)で、ほぼ0.8×kとされている。即ち、本実施例で用いたディザマスクは、形成されるドットの分布については、ブルーノイズマスクに近い分散性を示しながら、ペア画素に共にドットが形成される確率Kについては、ホワイトノイズマスクに近いと特性を示すものとなっている。こうしたペア画素におけるドット形成の割合を高めた分散型のディザマスクの作り方については、後で改めて説明する。
【0046】
A−4.実施例の効果:
上記構成を備えた第1実施例のプリンター20では、画像データORGを受け取って、制御ユニット30により図4に示した処理を行なうことで、印刷用紙Pに画像を印刷する。このとき、印刷用紙PがA4サイズ未満、例えば写真サイズ(L判など)の場合には、ブルーノイズ特性を有する第1のディザマスク61を用いたハーフトーン処理が行なわれてドットデータが生成され、他方、印刷用紙PのサイズがA4サイズ以上の場合には、ペア画素にドットが形成される確率を高めた第2のディザマスク62を用いたハーフトーン処理が行なわれてドットデータが生成され、いずれも最終的にはドットの分布に変換される。この結果、用紙サイズが小さい場合には、特にドットの分布がまばらな低階調領域における粒状性に優れた画像を形成することができる。また、用紙サイズが大きい場合には、第2のディザマスク62を用いるから、双方向印刷によるドット形成位置のずれがあっても、階調範囲0〜127におけるペアドットの形成の割合に変動が少なく、濃度むらが生じにくく、写真サイズの画像よりは離れて見ることが多いA4サイズの画像の見た目の品質を高くすることができる。この点について、補足する。
【0047】
これは、第2のハーフトーン処理により処理された画像では、印刷ヘッド90の往動時に形成されるドットが属する第1の画素グループの画素と、復動時に形成されるドットが属する第2の画素グループの画素との間で隣接関係にある画素、即ちペア画素にドットが形成される確率が、ブルーノイズマスクより高く設定されており、往動時と復動時でドットの形成位置にずれを生じても、画質の低下、特に濃度むらが生じにくいという特徴を有することによっている。この点を図10に拠って説明する。
【0048】
図10は、ドットの形成の割合が96/255である階調値の画像データORGを処理した場合の被覆率変動のシュミレーション結果を示すグラフである。図において、横軸は、往動時と復動時のドット形成位置のずれ量を、画素を単位として示し、縦軸は、被覆率変動率を示している。図10のグラフにおいて、実線JE1は、第1実施例の第2のディザマスク62を用いた場合を、破線BB1は、ドット同士が極力離散的に発生するよう作成された典型的なブルーノイズマスクを用いた場合を、それぞれ示している。ここで被覆率とは、形成されたドットが用紙Pを覆っている割合を意味し、被覆率の変動とは、本来ドットの形成位置にずれがない場合にドットが印刷用紙Pを覆う割合を基準として、ドットの形成位置にずれが生じたために、ドットの重なりが生じて用紙を覆う割合が変化する、その程度を意味している。
【0049】
図10では、プリンターでの実際の印刷の状況に近づけるため、ドットサイズは画素サイズよりやや大き目に設定してある。このため、ドット同士が重ならなくても、ドット同士が隣接して接触した状態になるとドットの重なりが発生し、被覆率は低下する。典型的なブルーノイズマスクではドット間隔を極力離して分散配置しようとするため、ずれがない状態でドット同士の接触、すなわち被覆率低下要因は最小となっている。したがって、実際のプリンター20で、例えば往復動印刷時におけるドットの形成位置にずれが発生すると、ドットの形成位置は最適配置からくずれ、ドット同士の接触や重なりが増え、一般に被覆率が低下する。同じ階調値のデータを印刷している場合に、被覆率が変動すると、画像の濃淡ムラとなり、画質が低下する。こうした被覆率変動による画質のムラは、特にサイズの大きい印刷用紙に印刷された場合に目に付きやすい。なぜなら、サイズの大きい印刷物は、写真サイズの印刷物より離れて見るのが普通であり、離れて見た場合には、低周波の印字ムラに気づき易くなるからである。
【0050】
図10に示したように、本実施例の第2のディザマスク62を用いた場合には、往動時と復動時でドット形成位置にずれを生じても、通常の分散型ディザマスクを用いた場合より、被覆率の変動が生じ難いことが分かる。なお、図10では、往動時印刷位置に対する復動時印刷位置のずれ量Δdが画素を単位として偶数の時(Δd=2、4・・・)よりも奇数の時(Δd=1、3・・)の被覆率低下率が大きくなる、ずれ量2を周期とする変動がみられる。ずれ量2周期の変動が発生するのは、図3(C)に示したたすき掛けの配置による印刷では、水平ずれ量が奇数の時には往動時に形成されるドットと復動時に形成されるドットの位置が完全に重なるからである。このため、他の要因によるドット形成位置のずれを考慮せず、すべてのドットの形成位置が往復動で同じようにずれると仮定して行なったシミュレーションでは、水平ずれ量が奇数のとき、図10に示したように、被覆率低下が顕在化することになるのである。実際のプリンター20では、往復動印刷におけるドット形成位置のずれに、画素単位の小さな位置ずれが重畳されるため、図10に示した被覆率の変動は、平坦化される。本実施例の第2のディザマスク62を用いた場合の被覆率変動は、図10の実線JF1はより更に平坦なものになり、ほとんど問題とならなくなる。これに対して、分散型ディザマスクを用いた場合の変動は、図10の破線BB1より多少平坦化されるものの十分には解消しきれず、被覆率の変動は残ることになる。
【0051】
したがって、本実施例のプリンター20では、第2のディザマスク62を用いてドットデータを生成すると、従来の分散型ディザマスクを用いたものより、往復動時のドット形成位置のずれに対して画質の低下を抑制でき、現実には高い印字品質を実現することができる。また、階調値の低い画像を印刷している際にドットの形成位置にずれが生じた場合でも、ペアドットの形成の数が大きく変動することがない。これはもともと低階調領域におけるペアドットの形成の割合を、ランダムなドット配置を採った場合に生じる割合kに近づけているからである。図9を用いて説明したように、ブルーノイズマスクのように、低階調領域において、ペア画素に共にドットが形成される確率Kを小さいかほぼ0にしていると、低階調領域ではドットの分散性に優れている版面、往動時と復動時とのドット形成位置、あるいは副走査後のドット形成位置に大きなズレが生じると、本来ペアドットになるはずのなかったドット同士が隣接または重なり合うことになり、被覆率の変動が生じ、画像に濃度むらが発生する。本実施例の第2のディザマスク62を用いた第2のハーフトーン処理では、もともとペア画素に共にドットが形成される確率を高くしてあるので、ドットの形成位置がずれても、ペア画素に共にドットが形成される確率はあまり大きくは変動しない。このため、往動と復動でのドットの形成位置にずれが生じても、そのために濃度むらが感じられると言うことがない。
【0052】
ペアドットの形成の割合をkに近づけることにしたのは、次の新たな知見に拠っている。即ち、ブルーノイズマスクなどによってドット間隔を極力離して分散配置しておいても、特定の画素グループのドットの形成位置がずれ、そのずれ量が十分に大きくなると、特定方向のドットが互いに隣接してペアドットとなる確率はkに収束するとの知見が得られた。実際のブルーノイズマスクを調査したところ、図11に示したように、ずれ量が4から5画素以上になると、ぺアドットの発生率はほぼ一定値kに収束することが判明した。これは、ずれ量が大きいと、もともとは離れた距離にある2画素が隣接することになるためである。2画素の距離が十分に離れていると、両画素におけるドット形成の有無の相関が低下するため、両画素に同時にドットが形成される確率は、単純に両者の階調値(ドット形成の確率k)を掛け合わせた値kとなる。したがって、ずれがない状態でのペアドット発生率をあらかじめkに近づけておけば、どのようなずれが発生した時にもペアドット発生率はあまり変化せず、被覆率変動を抑制できる。
【0053】
上記第1実施例では、ペア画素に共にドットが形成される確率Kを、
K=0.8×k
としている。この式で、kに乗じている係数は、ペアドットの発生確率を調整するものであり、係数が0.8であれば、ベアドットの発生率が80%に抑制されると言うことを意味している。もとより、係数は、例えば0.6〜1.4程度の範囲であれば、適宜設定することができる。係数を0.8〜1.2の範囲とすれば、ドット形成位置のずれに対するペアドットの発生確率の変動を好適に抑制することができ、係数を値1.0に近づけるほど、ベアドットの発生確率の変動の抑制という観点からは望ましいものとなる。また、低階調度の領域でのドットの分散性を優先する場合などであれば、係数を値0.8以下、例えば0.6〜0.8の程度に調整することもできる。
【0054】
B.ディザマスクの生成方法:
上述した第1実施例で用いたディザマスクは、以下の手法により生成した。図12は、第1実施例で用いたディザマスクの生成方法の一例を示すフローチャートである。この実施例では、ブルーノイズマスクを用意し、このブルーノイズマスクから、ペア画素に共にドットが形成される確率をKに近づけたディザマスクを生成する。生成されるディザマスクを、以下「ペア画素制御マスク」と呼ぶ。また、作成中のディザマスクは、「作業用マスク」と呼ぶものとする。
【0055】
ペア画素制御マスクを生成する場合には、まずブルーノイズマスクを用意する(ステップS200)。この例では、64×64の大きさのブルーノイズマスクを用いた。この例のブルーノイズマスクでは、64×64の大きさを有するマトリックスに、0〜254までの255個の閾値が格納されている。次に、現在の作業用マスクについて、全階調範囲に亘る階調値毎のペアドット数をカウントする処理を行なう(ステップS210)。この処理は、詳しくは、右隣接ペアドット数RPD[1,2,・・・127]と、下隣接ペアドット数UPD[1,2,・・・127]とを、個別にカウントする処理である。以下の説明において、(S)のように丸括弧を用いた場合は、その階調値Sにおける値を示し、[a,・・x]のように[]を用いた場合は、階調範囲a〜xまでの配列を表わすものとする。また、階調範囲a〜xまでの配列は、[a:x]として表わすものとする。
【0056】
作業用マスクについては、すべての閾値は分かっているから、階調値1〜127/255の範囲について、各階調値におけるドットの形成位置を調べることができる。このため、各階調値S毎の右隣接ペアドット数RPD(S)と下隣接ペアドット数UPD(S)とをカウントすることは容易である。ここでペアドットの数のカウントを、階調値1〜127/255に限っているのは、第1実施例で用いたペア画素制御マスク、つまり1〜127/255の階調範囲でペアドットの発生確率を所定の特性にしたマスクを生成するためである。階調値Sが大きくなると、ブルーノイズマスクにおいてもペアドット数はここで実現しようとしている発生確率に近づくので、全範囲について隣接ペアドット数をカウントする代わりに、階調値1〜127/255の範囲で、ペアドットの発生確率を調整すればよいことは、図9を用いて既に説明した通りである。もとより、以下に説明する手法は、全階調範囲について、ペアドット数をカウントし、その発生確率を調整する場合にも適用可能である。
【0057】
ステップS210で所定の階調範囲(ここでは1〜127/255)における右隣接ペアドット数RPD[1:127]と下隣接ペアドット数UPD[1:127]とをカウントした後、各階調値S毎のペアドット数が、目標範囲M(S)に入っているか否かについて判断する(ステップS220)。ここで目標範囲M(S)は、次のようにして設定した範囲である。仮に、ディザマスクがホワイトノイズ特性を備えているとすれば、ドットはランダムに発生されることになり、一つの画素にドットが形成される確率がkである場合、右または下の隣接画素にもドットが形成される確率(これをペアドットの発生確率という)は、それぞれk となる。画像の階調値が値1の時には、
k=0.00392156(=1/255)
であり、ペアドットの発生確率は、
=0.0000154
となる。したがって、ランダムにドットが形成されると仮定した場合に64×64の画素においてペア画素が存在すると予測される値(以下、予測値という)Hは、
H=k×4096=0.126≒0
である。この計算を、予め、階調値1〜127/255の範囲で繰り返し、ペアドットの理論上の予測値H[1:127]を求め、これに係数0.8をかけたものを、各階調値Sにおけるペアドットの目標値m[1:127]として求めておく。なお、本実施例では、目標値m(S)に±20%の幅を持たせ、これを目標範囲M(S)と呼ぶものとする。
【0058】
階調値Sを1〜32とした場合のペアドットの予測値H[1:32]、目標値m[1:32]を図13に示した。図示するように、階調値S=10で、予測値H(10)=6、目標値m(10)=5、階調値S=20で、予測値H(20)=25、目標値m(20)=20、といった値になることが分かる。
【0059】
ステップS220では、こうして求めておいた理論的なペアドットの目標範囲M[1:127]と右隣接ペアドット数RPD[1:127]および下隣接ペアドット数UPD[1:127]とを比較する。比較の結果、両ペアドット数RPD[1:127],URD[1:127]が共に、目標範囲M[1:127]に入っていると判断できない場合には、次に作業用マスクにおける閾値のうち、適当な数の閾値(例えば2つの閾値)をランダムに入れ替える処理を行なう(ステップS230)。ランダムに入れ替えているので、同じ画素グループに対応する閾値同士を入れ替えることもあれば、異なる画素グループ間で入れ替えることもあり得る。
【0060】
作業用マスクにおける閾値を入れ替えると、各階調値におけるペアドットの数は変化するので、閾値を入れ替えたことによるペアドット数の修正を行なう(ステップS240)。ペアドットの数は、入れ替えを行なった閾値に対応した階調値の範囲内でしか変わらないので、1〜127/255の階調範囲で改めてカウントするのではなく、例えば閾値pと閾値q(p<q)とを入れ替えたとすれば、右隣接ペアドット数RPD[p:q]と下隣接ペアドット数UPD[p:q]のみ数え直せば良い。なお、入れ替える閾値はランダムに選択するものとしたが、階調値1〜127/255の範囲でペアドットの発生特性を調整しようとしているので、入れ替える閾値の少なくとも一方は、この範囲に入っている閾値にすることが望ましい。
【0061】
こうして数え直したペアドットの数を調べて、次に、ペアドット特性が改善されたか否かを判断する(ステップS250)。ここでペアドット特性が改善したか否かは、次のように判断される。
(A)閾値を入れ替えたことにより、右および下隣接ペアドット数RPD[p:q],UPD[p:q]が、kに近づいていれば、改善したと判断する。
(B)閾値を入れ替えたことにより、右および下隣接ペアドット数UPD[p:q],[p:q]のいずれか一方がk2 に近づき他方が変化していないとき、改善と判断する。
(C)階調範囲[p:q]の一部で改善、一部で悪化している場合は、この階調範囲の各階調値において生じるペアドットの数とその階調値での予測値との差の総和が小さくなっていれば改善と判断する。
【0062】
上記判断を行なって、ペアドット特性が改善していないと判断された場合には、ステップS230に戻り、閾値をランダムに入れ替える処理から再度実行する。閾値の入れ替えは、2つの閾値を入れ替えるのであれば、その組合わせは、階調の全範囲であれば、
4096通り
存在することになる。階調値1ないし127/255の範囲に限っても、
2048通り
存在することになる。したがって、閾値の入れ替えの組合わせは相当数に上り、すべての場合を尽くすには相当の時間を要するものの、順次行なえば、ペアドット特性を改善する入れ替えが見い出される(ステップS250、「YES」)。
【0063】
そこで、ペアドット特性が改善されたと判断した場合には、次に粒状性特性が問題ないか否かを判断する(ステップS260)。ここで、粒状性特性が問題ないとは、以下に示す粒状性指数が目標としている範囲に入っているか、あるいは目標範囲に入っていないが閾値の入れ替え前より改善した場合を意味している。粒状性指数は、公知の技術であるため(例えば、特開2007−15359号公報)、詳しい説明は省略するが、画像をフーリエ変換してパワースペクトルFSを求め、得られたパワースペクトルFSを、人間が有する視覚の空間周波数に対する感度特性VTF(Visual Transfer Function)に相当する重みを付けて、各空間周波数で積分して求められる指標である。図14に、VTFの一例を示す。こうしたVTFを与える実験式には、種々の式が提案されているが、次式(1)に代表的な実験式を示す。変数Lは観察距離を表しており、変数uは空間周波数を表している。粒状性指数は、かかるVTFに基づいて、次式(2)に示す計算式によって算出することができる。係数τは、得られた値を人間の感覚と合わせるための係数である。なお、算出方法からも明らかなように、粒状性指数は、人間がドットを目立つと感じるか否かを示す指標であるとも言える。かかる粒状性指数は、その値が小さいほど印刷画質においてドットが視認されにくく、その点において優れているといえる。
【0064】
【数1】

【0065】
【数2】

【0066】
当初用意したブルーノイズマスクは、粒状性指数が最も小さな値となるように構成されているが、ステップS230でランダムに閾値を入れ替えていくと、作業用マスクの粒状性は、ブルーノイズマスクより低下する。そこで、人間の視覚特性から見て許容できる範囲で粒状性指数の目標範囲を設けておき、この範囲からみて問題がないか否かを判断するのである。もとより、粒状性指数は階調値毎に定まる値なので、各階調値毎に上限値を用意し、各階調値における粒状性指数がこの上限値以下になっていれば、粒状性特性は目標範囲に入っていると判断すれば良い。
【0067】
粒状性特性に問題があれば、つまり目標範囲に入っておらず、且つ閾値の入れ替え前と比較して改善もされていない場合には(ステップS260、「NO」)、ステップS230に戻り、閾値の入れ替えから、上記処理を繰り返す。ステップS230ないしS260の処理を繰り返した結果、ペアドット特性が改善され且つ粒状性特性も問題ないと判断された場合には(ステップS250、S260:共に「YES」)、一旦ステップS230〜S260のループを抜けて、ステップS220に戻り、ペアドットの発生特性が目標範囲か否かの判断を行なう。
【0068】
ペアドットの発生特性が目標範囲に入っていると判断できなければ(ステップS220、「NO」)、上述したステップS230以下の処理を繰り返す。図12に示した処理では、ステップS220ないしS260は、条件が満たされるまで、閾値の入れ替えを行ないながら繰り返し実行される。そこで、このステップS230からS260までの処理が実行される回数(以下、ループ回数という)が小さいうちは、ステップS260における粒状性指数の上限値を大きくしておき、ループ回数が増加するにしたがって、上限値を最終的な目標値に近づけていく、といった処理を行なっても良い。このように上限値をループ回数に応じて変化させることで、粒状性指数が局所的なミニマム値に陥ることを防止することができる。
【0069】
こうして何度かステップS230ないしS260のループ処理が実行され、やがて粒状性特性に問題がなく、かつ右隣接ペアドット数RPD[1:127]および下隣接ペアドット数UPD[1:127]が目標範囲M[1:127]に入ると判断できれば(ステップS220、「YES」)、ペア画素制御マスクが完成したとして、その時点の作業用マスクをペア画素制御マスクとして保存し(ステップS270)、「END」に抜けて、ペア画素制御マスクの生成ルーチン(図12)を終了する。なお、上記の説明では、ペアドットの発生特性が目標範囲に入っているか否かは、ドットの発生があり得る階調値の全範囲のうち1〜127/255の範囲で行なったが、ペア画素制御マスクがペアドットの発生確率を制御しようとしている階調範囲で行なうものとすれば良い。例えば、もっと低濃度の範囲(ドットの発生確率k=0〜0.25、0.2〜0.5などに対応した階調範囲)に限って行なうものとしても良い。
【0070】
以上説明した手法により、ブルーノイズマスクを基本として、ペア画素制御マスクを得ることができる。このディザマスクが、第1実施例において、ドットの形成の判断に用いられたディザマスクである。このペア画素制御マスクは、ブルーノイズマスクを基本としているので、画像の階調値が低い範囲で形成されるドットの分布を、空間周波数として解析すると、人間の視覚感度が高い低周波領域にほとんど成分を持っていない。このため、高い画質を実現可能なディザマスクを提供することができる。しかも、上記のペア画素制御マスクでは、隣接画素に共にドットが形成されるペアドットの発生確率が、その階調値でのドットの形成確率kにおいて、k×0.8程度になるようにされている。このため、往動と復動でのドットの形成位置にずれが生じても、被覆率の変動が小さく、ドットの形成位置のずれに起因する画像の濃度むらの発生を抑制可能なディザマスクを提供することができる。
【0071】
本実施例では、ブルーノイズマスクを出発点としてペア画素制御マスクを生成したが、他の任意の特性を有するディザマスクから生成することも可能である。上述したようにブルーノイズマスクやあるいはグリーンノイズマスクなど、分散性に優れ、もともとの分散性が収束させたい特性に近いものから生成した方が、生成に要する時間を短くすることができる。また、一からディザマスクを生成する際に、次のルールを適用して、ペア画素制御マスクを生成することも可能である。
(1)閾値を、小さい側または大きい側のいずれか一方から順次マトリックスに配置する。
(2)既に、ある位置に配置された閾値に対して、次の閾値を配置する際、粒状性指数などの評価値を用いて、次の閾値の配置位置とその場合の評価値とを対応付ける。その上で、評価の高い順次に、次の閾値の配置位置の候補を特定する。
(3)上記の候補を評価の高い側から順に取り出し、その場合のペアドットの数をカウントする。ペアドットの数が必要数(例えば図12に示した数)となる候補を見つけたら、その位置に次の閾値を配置する。
(4)上記の(1)〜(3)を、閾値が尽きるまで繰り返す。
こうしたルールを用いて、一から閾値の配置を決定し、ペア画素制御マスクを生成するものとしても良い。
【0072】
C1.第1実施例の変形例1:
以上説明した第1実施例の変形例について説明する。第1実施例では、往動と復動では、ドットの形成位置が、主走査、副走査両方向について互い違いになるものとし、ペア画素を構成する隣接画素の位置は、図8(A)に示すように、主走査方向右側、副走査方向下側の2画素としたが、隣接画素をこの2つに限らず、更に、副走査方向下側にラスタにおける左右の隣接画素を含めるものとしても良い。着目画素OJの位置を(0,0)としたとき、隣接画素として、(1,0)、(0,1)の位置の画素のみならず、(−2,1)、(2,1)の位置の画素も隣接画素とみなし、ペアドットを計4組カウントするのである。これを図8(B)に示した。もとより、更にこの範囲を広げて、図8(C)の8画素まで拡大することも考えられる。ペア画素の範囲を広ければ、一般にドットの形成位置のずれ方が変化しても、これに対する濃度むらの発生を抑制することができる。なお、隣接画素の範囲は、印刷におけるドットの形成位置のずれが生じやすい方向については広く取ることが望ましい。図8(B)に示したように、主走査方向に広く隣接画素を設定すれば、主走査方向のズレに起因する濃度の抑制に効果的である。
【0073】
また、往動時に形成されるドットの復動時に形成されるドットを、図3(A)に示したように、カラム交互や、図3(B)に示したラスタ交互とすることもできる。これらの場合にも、隣接画素の範囲は様々な設定が可能である。カラム交互の場合には、図15(A)ないし(C)に示したように、着目画素OJに対して、1個、3個、8個の画素を隣接画素として設定することができる。あるいはラスタ交互の場合には、図15(D)ないし(F)に示したように、着目画素OJに対して、1個、4個、8個の画素を隣接画素として設定することができる。これらの場合にも、図12に示した手法を適用して、ブルーノイズマスクを基礎に、ベアドットの発生確率Kを、
K=0.8×k
としたペア画素制御マスクを生成することができる。
【0074】
また上記の実施例・変形例では、説明を簡明にするために、画像の階調値の解像度を8ビット、閾値の範囲を0〜255としているが、ディザマスクに配置される閾値を0〜4095とし、画像の階調値を表わすピット数を増やして、例えば10ビットにすれば、最小の階調値1に対して、配置されるドットの数を減らすことができ、階調値が1増加する度に増加するドットの数を減らすことができる。したがって、ベアドットの発生確率の制御を一層きめ細かく行なうことができる。もとより、ディザマスクを128×128や、256×512など更に大きくすれば、10ビットで表現された階調値が、値1である場合に形成されるドットの数は、前者で4個、後者で32個程度となる。これら、ディザマスクの大きさや、階調値を表わすビット数、ディザマスクに配置される閾値の種類などは、実行するハーフトーン処理の目的(画質優先か処理速度優先か、あるいは大判印刷用か否かなど)や処理時間などを考慮して決定すればよい。
【0075】
第1実施例では、ベアドットの制御を階調値0〜127/255の範囲、換言すれば、ドットの発生確率kが、0<k<0.5の範囲を想定してペア画素制御マスクを用意したが、この範囲については、上限値を更に低階調値の側に限定してもよい。例えば、0<k<0.2などの範囲に限ってペアドットの制御を行なうものとしても良い。一般に、画素サイズに対する実際のドットのサイズが大きくなるほど、ずれによるドットの重なりが生じやすくなるから、濃度変動が問題になる階調領域が低濃度側に移動する。したがって、調整する範囲を画素サイズに対する実際のドットのサイズに応じて変更することも現実的である。また下限値をさらに高階調値側に限定してもよい。一般に、階調値0近辺の低階調領域では、もともとドットの形成位置が遠く隔たっており、ドットの形成位置にずれが生じても濃度むらの問題はそれほど顕在化しない。このため、0.1<k<0.4や0.2<k<0.5などの範囲に限って、ペア画素制御マスクを生成してもよい。また、往動時に形成されるドットの割合と復動時に形成されるドットの割合を最初から異ならせておき、それぞれについて、異なるドットの形成確率k1,k2を設定してペアドットの制御行なうことも差し支えない。
【0076】
C2.第1実施例の変形例2:
第1実施例では、印刷は図1に示したプリンター20により、画像データの入力から印刷までを行なったが、プリンター20をコンピュータPCに接続し、コンピュータPC側で、図4に示したステップS110ないしS140の処理を行なうものとしても良い。この場合、用紙サイズの判定(ステップS125)は、プリンタドライバーが管理しているメンバーの値をチェックすることにより行なうことができる。
【0077】
ウィンドウズ(商標)などの汎用のOSでは、コンピュータPCとプリンターとの間での印刷をスムースに行なうために、印刷に必要な情報を「メンバー」と呼ばれるパラメータの集まりとして管理している。例えばウィンドウズ(商標)におけるメンバーの一部には、
dmOrientation(用紙方向))
dmPaperSize(用紙サイズ)
dmPaperLength(用紙長さ)
dmPaperWidth(用紙幅)
dmPosition(用紙位置)
dmScale(スケーリング)
dmCopies(印刷枚数)
dmDefaultSource(デフォルト用紙トレイ)
dmPrintQuality(印刷解像度)
dmColor(カラープリンタにおいてカラー印刷かモノクロ印刷か)
dmDuplex(両面印刷の可否)
などのメンバーが含まれている。これらのメンバーは、「印刷設定」などの処理を通して設定されるので、プリンタドライバーなどは、これらのメンバーを参照することにより、いつでも用紙サイズの設定値などを知ることができる。
【0078】
そこで、コンピュータPC側で図4に示した印刷処理の第1,第2のハーフトーン処理を行なう場合には、ステップS125における判断に際して、このメンバーのうちの例えば、「dmPaperSize(用紙サイズ)」を呼び出し、この値から用紙サイズを判断して、第1または第2のハーフトーン処理のいずれかを実行する要にすればよい。なお、人が印刷物を見る場合の距離感は、用紙サイズによることが多いものの、実際に印刷された画像の領域の大きさによっても異なることが考えられる。そこで、ステップS125の判断において、単に用紙サイズのみに拠らず、次の要素を考慮するものとして良い。なお、これらの要素は単独でも良いし、他の要素と組み合わせて判断に用いても良い。
(イ)用紙サイズ
(ロ)用紙の方向(ポートレートかランドスケープか)
(ハ)用紙に対する余白(マージン)
(ニ)印刷解像度(幅方向解像度、長さ方向解像度)
(ホ)画像が印刷される領域の縦横
(ヘ)印刷される画像の縦横比(アスペクト)
(ト)用紙の種類(普通紙、ファイン専用紙、フォト専用紙、OHPシートなど)
【0079】
これらの要素単独または組み合わせることにより、一般に印刷領域が小さい場合に第1のディザマスク61を用い、印刷領域が大きい場合に第2のディザマスク62を用いる。また、解像度が粗い場合に、第1のディザマスク61を用い、解像度が高い場合に第2のディザマスク62を用いるものとしても良い。一般に解像度が高い場合ほど印刷に時間がかかり、インクを用いた印刷中に、インクが印刷媒体(例えば用紙)に吸収されて印刷媒体が伸び、コックリングが生じてインク滴の弾着位置にずれが生じやすいからである。
【0080】
D.第2実施例:
D−1.ディザマスク:
次に、本発明の第2実施例について説明する。第2実施例としてのプリンター20のハードウェアは、第1実施例と同一である(図1参照)。また、プリンター20における印刷制御処理(図4)は、第1のハーフトーン処理で用いる第1のディザマスク61が相違する点を除いて同一である。第2実施例でも、第1,第2のハーフトーン処理は、いわゆるディザ法によって行なう。
【0081】
第2実施例における第1のディザマスク161の特徴は、第1実施例の第1のディザマスク61と比べて、以下の通りであり。
(1)両者の共通点:
・共に、ディザマスクの大きさは、64×64である。
・共に、分散性を優先したブルーノイズマスクである。
(2)両者の相違点:
・第1実施例における64×64の第1のディザマスク61の閾値は、単純なブルーノイズマスクとして用意されていたのに対して、第2実施例におけるディザマスクは、印刷ヘッド90の往動時に形成されるドットが属する第1の画素グループおよび印刷ヘッド90の復動時に形成されるドットが属する第2の画素グループについて、それぞれドットの分散性を考慮して作られている。
【0082】
上記相違点について説明する。プリンター20による画像の形成は、印刷ヘッド90の往動時に形成されるドットと復動時に形成されるドットとによっている。したがって、ある階調値で得られた画像におけるドットの分布は、印刷ヘッド90の往動と復動で形成されたドットの両方の分布となる。このため従来は、この状態でのドットの分散性を高くすることを目標として、ディザマスクの閾値を決定されていた。これに対して、第2実施例で用いるディザマスクは、印刷ヘッド90の往動時に形成されるドットが属する第1の画素グループと、印刷ヘッド90の復動時に形成されるドットが属する第2の画素グループとの各々について、分散性が考慮されている。即ち、第2実施例で用いたディザマスクは、図16に例示したように、ある画像が形成される際に、往動時に形成されるドット(図16(A))それ自体の分散性と、復動時に形成されるドット(図16(B))それ自体の分散性とが、考慮されているのである。なお、このようなディザマスクの生成方法については後述するが、作り方の如何に拠らず、上記の性質を有するディザマスクを用いればよいことは勿論である。
【0083】
かかる性質を有するディザマスクを用いた第2実施例のプリンター20では、印刷ヘッド90の往動と復動とで形成されるドット位置にずれが生じても、画質の低下を十分に抑制することができる。これは、印刷ヘッド90の往動時に形成されるドットが属する第1の画素グループと、印刷ヘッド90の復動時に形成されるドットが属する第2の画素グループとの各々について、分散性が考慮されたディザマスクを用いているからである。このため、往動時と復動時とでドットの形成位置にずれが生じたとしても、それぞれの画素グループに属するドットの分散性が保障されているために、両グループのドットが共通領域で重ね合わされた場合のドットの分散性の低下は僅かなものに留まる。2つの画素グループに属するドットを組み合わせた場合の粒状性は、各画素グループに属するドット単独の粒状性と強い相関を示すからである。
【0084】
D−2.ディザマスクの生成方法:
上記性質を有する第1のディザマスク161の生成方法の手順を図17に示した。第1のディザマスク161の生成においては、図示するように、まず、第1のディザマスク161のサイズに応じた閾値を用意する(ステップS310)。第2実施例においては、第1のディザマスク161は、64×64の大きさを有しているが、以下では8×8、つまり64個の格納要素を有するものに簡略化して説明する。ステップS310では、格納要素と同数の0〜63の閾値を用意するものとした。
【0085】
閾値を用意すると、次に、着目閾値選択処理を行う(ステップS320)。着目閾値選択処理とは、用意した0〜63の閾値のうちの、未だ格納要素に格納されていない閾値のうちから1つの閾値を着目閾値として選択する処理である。本実施例においては、用意した閾値のうちの小さい閾値から順に、着目閾値を選択することとした。図18に示すように、ディザマスクを構成する格納要素に、後述する工程によって値0〜3の閾値が既に格納要素に格納されている場合には、次にステップS320において選択される着目閾値は値4である。
【0086】
着目閾値を選択すると、次に、第1のディザマスク評価処理を行う(ステップS400)。第1のディザマスク評価処理とは、用意した閾値が未だ格納されていない格納要素(以下、空白格納要素ともいう)の1つに対して着目閾値を格納したとした場合に、閾値が既に格納された格納要素(以下、決定格納要素ともいう)の配置が表すドットの形成パターンについての、ドットの分散の程度を示す評価値E1を、空白格納要素の各々について算出する処理である。この評価値E1の算出方法については後述するが、本実施例では、評価値E1は、その値が小さいほどドットの分散性が良好となり、印刷画像の粒状性の観点から優れているといえる。
【0087】
次に、この評価値E1を用いて、格納要素を決定する処理を行ない(ステップS330)、更に全格納要素について、これを決定する処理が完了したかを判断する(ステップS340)。すべての格納要素についての処理が終わっていなければ、上述したステップS320に戻って、上記の処理を繰り返す。上述した第1のディザマスク評価処理を行なって、全格納要素への閾値の格納が完了すれば(ステップS340、「YES」)、第1のディザマスク161の評価は終わったとして、ディザマスクの生成処理を終了する。
【0088】
D−3.第1のディザマスク評価処理:
上述したディザマスク生成処理における第1のディザマスク評価処理について、図19を用いて説明する。第1のディザマスク評価処理では、図19に示すように、まず、グループ化処理を行う(ステップS410)。グループ化処理とは、ディザマスクを構成する複数の格納要素を、当該複数の格納要素に格納された閾値がハーフトーン処理で適用されるドット形成位置でのドットの形成を往動と復動のうちのいずれで行なうかに着目して、複数のグループに区分する処理である。つまり、印刷ヘッドの往動時に形成されるドットと復動時に形成されるドットの配置の態様(第2実施例では、図3(A)に示したカラム交互モードとした)に基づいて、格納要素のグループを設定する処理である。なお、設定するグループは、印刷媒体の共通の印刷領域に、印刷媒体に対するインクの吐出位置を変えつつ、複数の異なるタイミングで印刷ヘッドからインクを吐出してドットを形成する場合の、当該異なるタイミングに基づいて設定すればよい。複数の異なるタイミングとしては、往動と復動に代えて、あるいは、加えて、共通の印刷領域にN回(Nは3以上の整数)の主走査でドットを形成する場合の、主走査の順番(何回目の主走査であるか)としてもよい。
【0089】
こうして、グループ化処理を行うと、決定格納要素のドットをONにする(ステップS420)。図18では、値0〜3の閾値が格納された決定格納要素のドットがONにされた様子をシングルハッチングで示している。決定格納要素のドットをONにすると、次に、候補格納要素選択処理を行う(ステップS430)。候補格納要素選択処理とは、着目閾値を格納すべき格納要素の候補である候補格納要素を選択する処理である。空白格納要素の各々には、着目閾値を格納することが可能であるから、ここでは、空白格納要素のうちの1つを、候補格納要素として選択する。候補格納要素選択処理を行うと、次に、候補格納要素のドットをONにする(ステップS440)。図18では、空白格納要素の1つを候補格納要素として選択し、当該候補格納要素のドットをONにした様子を、クロスハッチングで示している。
【0090】
候補格納要素のドットをONにすると、次に、グループ選択処理を行なう(ステップS450)。グループ選択処理とは、上記ステップS410で設定したp個(pは2以上の整数、ここではp=2)のグループG1〜Gpのうちから、1つのグループGq(qは1以上p以下の整数)を選択する処理である。
【0091】
グループGqを選択すると、次に、グループGqに属する格納要素に対応するドット形成パターンに基づいて、ドットの分散の程度を示す評価値E1q、つまり、ドットがどの程度満遍なく分散された状態で形成されるかを示す評価値を算出する(ステップS460)。ドットを満遍なく分散された状態で形成するためには、図20に示すブルーノイズ特性やグリーンノイズ特性を有するディザマスクを生成すればよいことが知られている。本実施例においては、このような特性のディザマスクを生成するために、ドットの分散性の程度を示す評価値として、第1実施例で説明した粒状性指数を用いた。
【0092】
評価値E1qを算出すると、全てのグループG1〜Gp(ここではG1〜G2)について評価値E1qを算出するまで、上記ステップS450,S460の工程を繰り返す(ステップS470)。こうして、全てのグループG1〜G2について評価値E1qを算出すると(ステップS470:YES)、算出した評価値E11〜E12に基づいて、次式(3)により、評価値E1を算出する(ステップS480)。式(3)においてd〜eは重み付け係数である。これらの重み付け係数は、良好な印刷画質が得られるように、一定値として、実験的に定められる。つまり、評価値E1とは、ディザマスクの決定格納要素の全体が表すドット形成パターンと、往動に対応する決定格納要素が表すそれぞれのドット形成パターンと、復動に対応する決定格納要素が表すそれぞれのドット形成パターンとについて、ドットの分散の程度を所定の重み付けで総合評価した評価値である。
E1=d×E11+e×E12・・・(3)
【0093】
評価値E1を算出すると、全ての候補格納要素(空白格納要素)について評価値E1を算出するまで、上記ステップS430〜S480の工程を繰り返す(ステップS490)。こうして、全ての候補格納要素について評価値E1を算出すると(ステップS490:YES)、第1のディザマスク評価処理は終了となる。
【0094】
かかる評価値E1を用いれば、往動時に形成されるドット、復動時に形成されるドットのいずれに対しても、ドットが分散して配置されるドット形成パターンを有する第1のディザマスクDM1を生成することができる。なお、上記の評価では、第1の画素グループの粒状性、第2の画素グループの粒状性を対象としたが、更に第1,第2の画素グループの両方を併せたドットの粒状性も評価の対象としても差し支えない。
【0095】
かかる第1のディザマスク161を用いてハーフトーン処理を行えば、往動ドットと復動ドットとの間で位置ずれが生じても、往動ドット及び復動ドットの分散性は確保されたままであるから、画像全体のドットの分散性が確保され、印刷画質の粒状性の悪化を抑制することができる。
【0096】
以上本発明のいくつかの実施例について説明したが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で、種々なる態様で実現できることはもちろんである。例えば、モノクロ印刷を行なうプリンターや、印刷ヘッドが用紙幅方向に亘って設けられたラインプリンターにおいて実施することも差し支えない。また、図4、図22に示した処理を、プリンター側ではなく、画像処理を行なうコンピュータ側(あるいはネットワーク上におかれたサーバ側)で実施することも差し支えない。またこれらの処理をハードウェア(例えば、プリンターとの間に設けられたRIP)によって実現しても良い。
【0097】
また、上記実施例では、第1,第2の画素グループとして、双方向印字を行なう場合の往動時に形成されるドットが属する画素の集まりと、復動時に形成されるドットが属する画素の集まりとに限って説明したが、こうした画素グループは、印刷条件が異なるものであれば、様々な形態で設定することができる。例えば、複数回の主走査によりラスタを構成するいわゆるマルチパス印刷の各パスに拠って形成されるドットをそれぞれ別の画素グループに分け、各画素グループ間の隣接画素を設定して、ペアドットの発生率を制御することができる。あるいは、インクを吐出するノズル列ごとに、各ノズル列により形成されるドットが属する画素によりグルーブ分けすることも可能である。
【0098】
この他、往動時と復動時で形成されるドットの割合を異ならせた上で、ベアドットの形成確率を制御する構成や、ノイズからインク滴の大きさの異なるインク滴を吐出してドットを形成する構成などにも適用することができる。こうした大中小のドットを打ち分ける場合、あるいは濃淡複数種類のドットを打ち分ける場合には、ドット径の小さなもの(最も淡インクの側のもの)から1種類、あるいはドット径の小さなもの(最も淡インクの側のもの)から複数種類のドットについて、ベアドットの発生確率を制御することが好ましい。つまり、複数種類のドットのうち、大径のドット(濃ドット)は、高階調領域で形成されるので、これらのドットについてはペアドットの確率が制御されていなくても差し支えない。また、上記実施例では、2つのディザマスクを切り換えて適用するものとしたが、3つ以上のディザマスクを用意し、印刷領域の大きさによって、あるいは他の要因によって、上述した2つのディザマスク以外のディザマスクに切り換えるものとしても良い。
【0099】
また、第1,第2実施例における第1のハーフトーン処理は、ディザマスクを用いたのと同等の処理ができれば、他の手法によっても良い。例えば、誤差拡散法によって上述した第1のディザマスクを用いたディザ法によるハーフトーン処理を実現するものとしても良い。誤差拡散法による処理では、ドット配置は、ブルーノイズ特性に近づくので、印刷用紙のサイズが所定値より小さいときあるいは印刷領域が所定値より小さいときに誤差拡散によるハーフトーン処理を行ない、印刷用紙のサイズがそれより大きいときあるいは印刷領域が大きいときに、ペアドットの発生確率をkに近づけたディザマスクを用いてハーフトーン処理すれば、第1,第2実施例と同様の効果を奏することができる。なお、第2のハーフトーン処理も誤差拡散法により実現することも可能である。この場合には、着目した画素において発生する濃度誤差を拡散するバッファとは別に、隣接画素にドットを形成している数をカウントするカウンタを設け、ペア画素の予測値に対する過不足分を演算して、これを用いて、周辺画素における階調値を補正するものとすればよい。
【0100】
以上本発明の実施例として印刷装置、印刷方法、ディザマスクの生成方法について説明した。第1,第2実施例の印刷装置等は、用紙サイズがA4以上の場合に、特定の特性が与えられたディザマスクを用いることにより、ペアドットの数を制御している。したがって、必ずしもディザマスクの特性を解析しなくても、本願発明を実施しているかを判断することができる。即ち、図9に示したように、分散性の高いディザマスクを用いている場合、ベアドットの発生率Kは、画像の階調値が低い領域(例えば0〜50/255、ドット発生率0〜0.2)では、ほぼ0となり、kに対して大きく隔たっている。したがって、用紙サイズなどが大きい場合に、小さい場合とは異なるハーフトーン処理を採用しており、かつ式(1)(2)で示した粒状性指数により、画像の分散性が所定値以上であり、かつベアドットの形成確率Kが、ドットの発生率kに対して、例えば0.2・k≦K≦ 0.8・kとなっていれば、本願発明を実施しているは判定することができる。また、誤差拡散法を用いている場合には、そのノイズ特性はブルーノイズ特性とみなすことができるから、同様に、ペアドットの発生率を、画像の所定の階調範囲において計測することにより、容易に、上記判定を行なうことができる。
【符号の説明】
【0101】
20…プリンター
30…制御ユニット
40…CPU
42…ハーフトーン処理部
43…印刷部
51…ROM
52…RAM
60…EEPROM
61…第1のディザマスク
62…第2のディザマスク
70…キャリッジモーター
71…駆動ベルト
72…プーリ
73…摺動軸
74…紙送りモーター
75…プラテン
80…キャリッジ
82〜87…インクカートリッジ
90…印刷ヘッド
98…メモリカードスロット
99…操作パネル
161…第1のディザマスク
P…印刷用紙
MC…メモリカード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷用のデータを生成するデータ生成装置であって、
所定階調以下の階調範囲で、粒状性を優先したドット配置に対応した特性を有する第1のディザマスクと、隣接画素にドットが形成される確率を前記第1のディザマスクより高めた第2のディザマスクとを記憶した記憶部と、
印刷媒体における印刷領域の大きさが第1の所定値以上の場合には、前記第1のディザマスクに代えて前記第2のディザマスクを用い、画像データから印刷用のデータを生成するハーフトーン処理部と
を備えたデータ生成装置。
【請求項2】
請求項1記載のデータ生成装置であって、
前記ハーフトーン処理部は、前記印刷領域が、前記所定値または該所定値より小さい第2の所定値未満の場合には、前記第1のディザマスクを用いて、前記画像データから前記印刷用のデータを生成する
データ生成装置。
【請求項3】
前記印刷領域の大きさを取得する印刷領域取得部を有する請求項1または請求項2記載のデータ生成装置。
【請求項4】
前記印刷領域取得部は、前記印刷領域の大きさを、印刷媒体のサイズ、印刷領域の幅、または印刷媒体における余白幅のうちの少なくとも一つから取得する請求項3記載のデータ生成装置。
【請求項5】
前記印刷領域取得部は、前記印刷領域の大きさを、オペレーティングシステムまたはプリンタドライバーのメンバーから取得する請求項3記載のデータ生成装置。
【請求項6】
前記第1のディザマスクは、ブルーノイズ特性またはグリーンノイズ特性を有するマスクである請求項1ないし請求項5のいずれか記載のデータ生成装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか記載のデータ生成装置であって、
前記印刷用のデータは、画素毎のドットの形成の有無を表わすドットデータであり、前記ドットの形成を、印刷条件が異なる複数の画素グループに分けて行ない、該複数の画素グループによるドットの形成の少なくとも一部を共通領域で行なうことで、印刷を行なう際に用いるドットデータであり、
前記第1のディザマスクは、複数の画素グループの各々について、所定階調以下のドットの配置が、ブルーノイズ特性またはグリーンノイズ特性を有するマスクであるデータ生成装置。
【請求項8】
印刷媒体に印刷を行なう印刷装置であって、
所定階調以下の階調範囲で、粒状性を優先したドット配置に対応した特性を有する第1のディザマスクと、隣接画素にドットが形成される確率を前記第1のディザマスクより高めた第2のディザマスクとを記憶した記憶部と、
印刷媒体における印刷領域の大きさが第1の所定値以上の場合には、前記第1のディザマスクに代えて前記第2のディザマスクを用い、画像データから印刷用のデータを生成するハーフトーン処理部と、
前記印刷用のデータを用いて、前記印刷媒体上にドットを形成することで、印刷を行なう印刷部と
を備えた印刷装置。
【請求項9】
印刷用のデータを生成する印刷用データの生成方法であって、
所定階調以下の階調範囲で、粒状性を優先したドット配置に対応した特性を有する第1のディザマスクと、隣接画素にドットが形成される確率を前記第1のディザマスクより高めた第2のディザマスクとを記憶し、
印刷媒体における印刷領域の大きさが第1の所定値以上の場合には、前記第1のディザマスクに代えて前記第2のディザマスクを用い、画像データから印刷用のデータを生成する
印刷用データの生成方法。
【請求項10】
印刷媒体に印刷を行なう印刷方法であって、
所定階調以下の階調範囲で、粒状性を優先したドット配置に対応した特性を有する第1のディザマスクと、隣接画素にドットが形成される確率を前記第1のディザマスクより高めた第2のディザマスクとを記憶媒体に記憶し、
印刷媒体における印刷領域の大きさが第1の所定値以上の場合には、前記第1のディザマスクに代えて前記第2のディザマスクを用い、画像データから印刷用のデータを生成し、
前記印刷用のデータを用いて、前記印刷媒体上にドットを形成することで、印刷を行なう
印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−222711(P2012−222711A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88785(P2011−88785)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】