説明

印刷装置および印刷装置の調整方法

【課題】プリンターや測色機の経時的変化に対して必要な調整処理を最適なタイミングで自動的に行なう。
【解決手段】印刷媒体を所定の搬送方向に搬送する搬送部と、画像を表現した印刷データに基づいて、上記搬送される印刷媒体に対して画像の印刷を実行可能な印刷部と、上記印刷媒体内の上記搬送方向に沿った領域を測色する測色部と、上記測色によって取得された上記領域の測色値の変化を解析する解析部と、上記解析の結果に応じて、上記印刷部および又は測色部に関する所定の調整処理を行なう調整処理部とを備える印刷装置とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置および印刷装置の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンターや測色機においては使用を継続するに従い、その印刷特性や測色特性が理想的な状態から徐々に変化する(経時的に変化する)。そのため、プリンターや測色機のユーザーは、適切なタイミングでそれらの印刷特性や測色特性を調整(補正やメンテナンス)し、理想的な状態に戻す必要がある。ここでいう調整とは、例えば、プリンターによる印刷濃度を理想的な濃度に補正するためのプリンターのキャリブレーションや、測色機によって測色対象の色彩値が正確に得られるように測色機に対して行なうキャリブレーションや、その他、上記印刷特性や測色特性に影響を及ぼす各不具合を補正するための種々の行為を意味する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これまでは、プリンターや測色機の調整の内容や実施時期は、多くの場合、ユーザーの判断によって決められていた。そのため、プリンターや測色機に対して行なわれる調整は、必ずしも最適なタイミングで行なわれていたとは言えず、また、プリンターや測色機においてそのとき真に必要とされている調整とは異なる調整が実行されてしまうこともあった。
【0004】
本発明は上記課題にかんがみてなされたもので、プリンターや測色機の経時的変化に対して必要な調整処理を最適なタイミングで自動的に行なうことが可能な印刷装置および印刷装置の調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の印刷装置は、印刷媒体を所定の搬送方向に搬送する搬送部と、画像を表現した印刷データに基づいて、上記搬送される印刷媒体に対して画像の印刷を実行可能な印刷部と、上記印刷媒体内の上記搬送方向に沿った領域を測色する測色部と、上記測色によって取得された上記領域の測色値の変化を解析する解析部と、上記解析の結果に応じて、上記印刷部および又は測色部に関する所定の調整処理を行なう調整処理部とを備える構成としてある。本発明によれば、印刷媒体内の領域であって搬送方向に沿った領域の測色値の変化を解析するので、印刷部の印刷特性や測色部の測色特性についての経時的変化を正確に把握することができる。そのため、調整処理部は、印刷部および又は測色部に関する所定の調整処理を、必要なタイミングかつ必要な内容にて行なうことができる。
【0006】
上記印刷部は、上記搬送方向に沿って複数のパッチを印刷媒体に印刷し、上記測色部は、当該印刷された複数のパッチを測色し、上記解析部は、パッチの測色値の変化を解析するとしてもよい。当該構成によれば、印刷媒体において搬送方向に沿って印刷された各パッチの測色値の変化を解析することにより、印刷部の印刷特性や測色部の測色特性についての経時的変化を正確に把握し、最適な調整を行うことができる。
【0007】
上記印刷部は、上記搬送方向に沿う複数のパッチで形成されるパッチ列を、列単位で色を変えて複数印刷し、上記測色部は、当該複数のパッチ列を測色し、上記解析部は、パッチ列毎に測色値の変化を解析し、上記調整処理部は、パッチ列毎の解析結果に基づいて各パッチ例が対応する色に対する調整処理を実行するとしてもよい。当該構成によれば、印刷部による色毎の印刷特性や測色部による色毎の測色特性についての経時的変化を正確に把握し、最適な調整を行うことができる。
【0008】
上記印刷部は、色が異なる複数のパッチをそれぞれ上記搬送方向に沿って所定の周期で配置することによって、上記搬送方向に沿うパッチ列を印刷し、上記測色部は、パッチ列を測色し、上記解析部は、パッチ列を構成するパッチの色毎に測色値の変化を解析し、上記調整処理部は、色毎の解析結果に基づいて各色に対する調整処理を実行するとしてもよい。当該構成によれば、上記パッチの印刷に要する印刷媒体上のスペースを節約しつつ、印刷部による色毎の印刷特性や測色部による色毎の測色特性についての経時的変化を正確に把握し、最適な調整を行うことができる。
【0009】
上記印刷部は、当該印刷部が備える印刷ヘッドに対する調整処理の際に同時に処理対象となる複数のインクの混合によるパッチを印刷し、上記調整処理部は、当該インクの混合によるパッチの測色値に対する解析結果に応じて、上記印刷ヘッドに対する調整処理を実行するとしてもよい。当該構成によれば、印刷ヘッドに対する調整処理の際に同時に処理対象となる複数のインクのうち少なくとも一つのインクについての印刷濃度の経時的変化を把握できるため、印刷ヘッドに対する調整処理の実行・不実行の判断を容易に行なうことができる。
【0010】
上記測色部は、上記印刷媒体内の上記搬送方向に沿った領域であって画像が印刷されていない紙地領域を測色し、上記解析部は、紙地領域の測色値の変化を解析するとしてもよい。当該構成によれば、印刷媒体において搬送方向に沿う紙地領域の測色値の変化を解析することにより、測色部の測色特性についての経時的変化を正確に把握し、最適な調整を行うことができる。
【0011】
上記測色部は、上記印刷媒体内の上記搬送方向に沿った領域であって、上記搬送方向に略直交する向き(主走査方向)において離れた複数の領域をそれぞれ測色し、上記解析部は、領域毎の測色値の変化を領域間で比較し、上記調整処理部は、当該比較の結果に基づいて上記所定の調整処理を行なうとしてもよい。当該構成によれば、印刷部の印刷特性や測色部の測色特性についての経時的変化の把握と同時に、主走査方向における位置の違いに応じた印刷特性や測色特性のばらつきを把握することができ、その結果、最適な調整を行うことができる。
【0012】
なお、上記調整処理部は、上記印刷部が備える印刷ヘッドに対するクリーニングと、印刷ヘッドからのインク吐出量を調整するための印刷部に対するキャリブレーションと、上記測色部による測色結果を補正するための測色部に対するキャリブレーションとのうち少なくとも一つを実行する。
上述した印刷装置は、単体の装置によって実現してもよいし、複数の装置(システム)によって実現してもよい。また本発明の技術的思想は、印刷装置以外にも、方法やコンピューター読取可能な記録媒体に記録されたプログラムなど、種々の態様にて実現可能である。例えば、印刷媒体を所定の搬送方向に搬送する搬送部と、画像を表現した印刷データに基づいて、上記搬送される印刷媒体に対して画像の印刷を実行可能な印刷部と、印刷媒体に対する測色を実行可能な測色部とを備えた印刷装置の調整方法であって、上記印刷媒体内の上記搬送方向に沿った領域を測色部によって測色する測色工程と、上記測色によって取得された上記領域の測色値の変化を解析する解析工程と、上記解析の結果に応じて、上記印刷部および又は測色部に関する所定の調整処理を行なう調整処理工程とを備える構成を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】システムの概略ブロック図である。
【図2】プリンターの外観側面図の一例である。
【図3】プリンター調整処理を示すフローチャートである。
【図4】カラーチャートの一例を示した図である。
【図5】カラーチャートの他の例を示した図である。
【図6】カラーチャートに含まれる経時変化観察用パターン領域の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
1.システムの概略構成
図1は、本実施形態にかかるシステム30を示している。システム30は、概略、コンピューター10およびコンピューター10による制御対象のプリンター20からなる。プリンター20は、本発明の印刷装置に該当する。だたしシステム30全体を一つの印刷装置と呼んでもよい。コンピューター10では、演算処理の中枢をなすCPU11がシステムバス10aを介してコンピューター10全体を制御する。バス10aには、ROM12、RAM13、各種インターフェース(I/F)17a〜17cが接続され、ハードディスクドライブ(HDDRV)15を介してハードディスク(HD)14が接続されている。HD14にはオペレーティングシステム(OS)やアプリケーションプログラム(APL)14aやプリンタードライバー(PD)14b等が記憶されており、これらはCPU11によって適宜RAM13に転送され実行される。
【0015】
コンピューター10は、APL14aやPD14bに従った処理の一種として、後述のプリンター調整処理(の一部)を実行する。I/F17aには所定の画像データに基づいて当該データに対応する画像を表示するディスプレー18aが接続され、I/F17bにはキーボード18bやマウス18cが接続され、プリンターI/F17cには例えばシリアルI/Fケーブルを介してプリンター20が接続されている。
【0016】
プリンター20は、印刷用紙への印刷機能だけでなく、印刷物を測色する測色機能をも備える測色部付きプリンターである。プリンター20では、通信I/F24、プリンターコントロールIC25、測色コントロールIC26等がバス32を介して接続されている。プリンターコントロールIC25は、CPU21、ROM22、RAM23を備え、測色コントロールIC26は、I/F26e、CPU26f、ROM26g、RAM26hを備える。通信I/F24はプリンターI/F17cと接続され、コンピューター10とプリンター20は、プリンターI/F17cおよび通信I/F24を介して双方向通信を実現する。通信I/F24はコンピューター10から送信されるインク種類別のラスターデータを受信可能である。
【0017】
プリンターコントロールIC25においては、CPU21が、ROM22に記憶された所定のソフトウェア(プリンターコントローラー)に従った処理を実行する。プリンターコントロールIC25は、主に印刷処理のための各種制御を実行するICであり、印刷ヘッド25a、ヘッド駆動部25b、キャリッジ機構25c、紙送り機構25dの各部と接続して各部を制御する。印刷ヘッド25aは、複数のインク種類(例えば、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)、ライトシアン(Lc)、ライトマゼンダ(Lm)等)に夫々対応する複数のインクカートリッジと、各インク種類に対応して設けられた複数のノズル列とからなり、インクカートリッジが充填したインクをノズル列からインク滴として吐出することで印刷用紙に画像を形成する。プリンターコントロールIC25は、ヘッド駆動部25bに対して、上記ラスターデータに対応する印加電圧データを出力する。ヘッド駆動部25bは印加電圧データから印刷ヘッド25aの各ノズル列に内蔵された圧電素子への印加電圧パターン(駆動波形)を生成して出力し、印刷ヘッド25aにインク種類毎のインク滴(ドット)を吐出させる。
【0018】
キャリッジ機構25cは、プリンターコントロールIC25に制御されてプリンター20が備える図示しないガイドレールに沿って不図示のキャリッジを往復動させる駆動装置である。キャリッジには印刷ヘッド25aが搭載され、印刷ヘッド25aがガイドレールに沿って往復動(走査)する。紙送り機構25dは、プリンターコントロールIC25によって制御されることにより、不図示の紙送りローラーによって印刷用紙をキャリッジの往復動方向(主走査方向)と略直交する向き(搬送方向)に所定の速度で搬送する。よって、プリンターコントロールIC25および紙送り機構25dは搬送部に該当する。本実施形態では、搬送方向を紙送り方向とも呼ぶ。紙送り機構25dは、必要に応じて印刷用紙をバックフィードによって搬送することも可能である。なお、プリンター20としては、サーマル式や昇華型など他の仕組みで印刷画像を形成するものや、ラインヘッド方式のプリンターを採用してもよい。
【0019】
測色コントロールIC26においては、CPU26fが、ROM26gに記憶された所定のソフトウェア(測色コントローラー)に従った処理を実行する。測色コントロールIC26は、主に測色処理のための各種制御を実行するICであり、測色部26a、測色部移動機構26b、押さえ板駆動機構26c、乾燥機26dの各部と接続して各部を制御する。測色部26aは、測色対象に色検出部を向けることにより、国際照明委員会(CIE)で規定されたL***表色系(以下、「*」は省略)に基づく複数の色成分L,a,bからなる色彩値を測色値として取得可能であり、測色部26aが取得した測色値はコンピューター10に出力される。Lab色空間はデバイスに依存しない均等色空間である。むろん、測色する色空間は、CIE規定のL***色空間、CIE規定のXYZ色空間、RGB色空間等であってもよい。
【0020】
測色部移動機構26bは、測色コントロールIC26に制御されて、後述の押さえ板に沿って測色部26aを往復動させる駆動装置である。押さえ板駆動機構26cは、測色コントロールIC26の制御に基づいて、印刷用紙を押さえ板に押さえさせるための駆動装置である。乾燥機26dは、測色部26a近傍に配設され、測色コントロールIC26の制御に基づき温風を印刷用紙に対して送る処理を行い、印刷用紙の画像を強制的に乾燥させる。つまりプリンター20によれば、印刷用紙への画像の印刷、乾燥、測色といった一連の処理を一台で行うことが可能となる。
【0021】
図2は、プリンター20の外観の一例を、側面から示している。
プリンター20は、本体29の頭頂部付近に印刷用紙M(ロール紙M)を収容可能であり、この印刷用紙Mを本体29前方側に形成された斜面29aに略沿わせて図中の紙送り方向に搬送する。斜面29aの所定位置にはケーシング27が設置されている。ケーシング27内には印刷ヘッド25aが収容される。印刷ヘッド25aは不図示の上記ガイドレールに沿って、図2の表面に対して垂直な方向(上記主走査方向)に移動する。斜面29a上であってケーシング27よりも紙送り方向下流の所定位置には、測色乾燥ユニット28が設置されている。測色乾燥ユニット28は、内部に測色部26aおよび乾燥機26dを収容した部品であり、斜面29aの決まった位置においてケーシング27と平行となるように取り付けられる。
【0022】
測色乾燥ユニット28は、紙送り方向の上流側に測色部26aを収容し、測色部26aよりも紙送り方向の下流側に乾燥機26dを収容している。印刷用紙Mは搬送される際、ケーシング27、測色乾燥ユニット28のそれぞれ下方を通過する。測色部26aは色検出部26a1を斜面29a側へ向けており、待機状態においては、測色乾燥ユニット28内の初期位置(ホームポジション)で停止している。本実施形態では、紙送り方向先(下流側)を向いた際の測色乾燥ユニット28の左右のうち左端を測色部26aの初期位置とする。
【0023】
測色部26aは、測色部移動機構26bによって主走査方向に往復移動が可能である。測色部26aが移動する高さと斜面29aとの間には、図示しない押さえ板が設置されている。押さえ板は、斜面29aから所定距離だけ離間した位置において待機しており、所定のタイミングで押さえ板駆動機構26cによって駆動されることにより、測色乾燥ユニット28の下方に搬送された印刷用紙Mを上から押さえ付け動かないようにする。押さえ板には、主走査方向に沿って長穴が貫通して形成されており、測色部移動機構26bによって移動する測色部26aは、当該長穴を介して色検出部26a1を斜面29a上の印刷用紙Mに相対させることで、印刷用紙Mに印刷された画像を測色できる。なお、印刷用紙Mを搬送するプリンター20の面は図2のような斜面でなく、水平面であってもよい。
【0024】
2.プリンター調整処理の実施例
図3は、システム30が実行するプリンター調整処理をフローチャートにより示している。プリンター調整処理とは、概略的には、印刷用紙内の領域であって紙送り方向に沿った領域を測色部26aによって測色し、測色で取得した当該領域の測色値の変化を解析し、当該解析の結果に応じて、プリンター20が備える各部(印刷を担当する部および又は測色部)に関する所定の調整を行なう処理を言う。印刷用紙内の紙送り方向に沿った領域とは、何らかのインクによって印刷がなされた領域と、印刷がなされていない領域(紙地領域)との両方を含む概念である。
【0025】
プリンター調整処理は、通常の印刷測色処理と並行して行なわれる。通常の印刷測色処理とは、システム30において、ユーザーが所望する画像(例えば、複数のカラーパッチによって構成されるカラーチャート)をプリンター20で印刷するとともに、印刷された画像をプリンター20の測色部26aで測色し、その測色値を取得・記録する処理を言う。取得された測色値(例えば、カラーチャートを構成するパッチ個々の測色値)は、ユーザー所望の目的(例えば、カラープロファイルの作成やプリンター20のキャリブレーション等)に供される。
【0026】
本実施形態では、ユーザーが所望する画像として上記カラーチャートを印刷する場合を例に、プリンター調整処理について説明する。
ステップS(以下“ステップ”の表記を省略)100では、システム30は、カラーチャートを印刷する。
【0027】
図4は、印刷用紙に印刷されるカラーチャートCを例示している。カラーチャートCは、概略的には、メインパターン領域A1および経時変化観察用パターン領域A2を含む。メインパターン領域A1は、様々な色の複数のパッチP1を紙送り方向および主走査方向に分布させた領域であり、これは上記通常の印刷測色処理における本来の測色対象となるパッチの集まりである。一方、経時変化観察用パターン領域A2は、複数のパッチP2を紙送り方向に沿って連続させてなる領域(パッチ列)であり、各パッチP2の測色値の変化が本実施形態における解析対象となる。図4では、カラーチャートCは、主走査方向においてメインパターン領域A1および経時変化観察用パターン領域A2を挟む両側の位置に、スタートバーSBおよびエンドバーEBを配している。
【0028】
スタートバーSBおよびエンドバーEBは、いずれも紙送り方向を向いた直線であり、基本的に測色部26aは、スタートバーSBおよびエンドバーEBで挟まれた領域を測色する。スタートバーSBは、測色部26aのホームポジションに近い側に配置され、エンドバーEBは、ホームポジションから遠い側に配置される。さらに図4では、カラーチャートCは、スタートバーSBよりもホームポジションに近い位置にダミー印字領域A3を配している。ダミー印字領域A3は、印刷ヘッド25aが一回の主走査を開始する度に、スタートバーSBよりも手前の位置にインクを吐出する(捨て打ちする)ことにより形成されるパターンである。プリンター20は、このような捨て打ちを行なうことにより、各パスにおける印刷ヘッド25aからのインク吐出を安定させている。ダミー印字領域A3は、経時変化観察用パターン領域A2と同様に紙送り方向を向いている。
【0029】
具体的にS100では、コンピューター10は、複数のパッチや直線等を図4に示したレイアウトにて配置した上記カラーチャートCを表現したカラー画像データ(各画素がプリンター20で用いられるインク種類毎の階調値で表現されたカラー画像データ)を生成する。ここでは、同じ濃度かつ同じ色(例えばK)の各パッチP2からなる経時変化観察用パターン領域A2を含むカラー画像データを生成する。次に、コンピューター10は、PD14bに従った処理として、カラー画像データを対象とし、ディザ法や誤差拡散法など公知の手法を用いたハーフトーン処理を実行し、画素毎かつインク種類毎にドットの吐出/非吐出を規定したハーフトーンデータを生成する。さらにコンピューター10は、PD14bに従った処理として、ハーフトーンデータに対して所定のラスターライズ処理を施してプリンター20が印刷する順番に並べ替え、インク種類毎のラスターデータを生成し、ラスターデータをプリンターI/F17cを介してプリンター20に順次出力する。この結果、プリンター20では、プリンターコントロールIC25による制御によって、印刷ヘッド25a、ヘッド駆動部25b、キャリッジ機構25cおよび紙送り機構25dが駆動制御され、ラスターデータに基づいてカラーチャートCを印刷用紙に印刷する。
【0030】
S110では、システム30は、S100で印刷したカラーチャートCを測色し、メインパターン領域A1を構成する各パッチP1の測色値と、経時変化観察用パターン領域A2を構成する各パッチP2の測色値とを取得する。具体的には、コンピューター10は、プリンター20に対して印刷用紙の搬送指示と、測色指示とを出力する。搬送指示を入力したプリンター20では、プリンターコントロールIC25が、紙送り機構25dを駆動制御することにより、カラーチャートCの所定位置(カラーチャートC内の主走査方向を向く各パッチ行のうち、用紙の先頭に最も近いパッチ行)が測色部26aによる測色範囲に入るように、カラーチャートCが印刷された印刷用紙を必要距離だけ搬送させる。測色部26aの測色範囲とは、上記押さえ板の長穴内の所定範囲である。この結果、カラーチャートC内の一つのパッチ行が、長穴を介して測色部26aの色検出部26a1と対面する。
【0031】
次に、上記測色指示を入力したプリンター20では、測色コントロールIC26が、押さえ板駆動機構26c、測色部移動機構26bおよび測色部26aをそれぞれ駆動制御する。すると、押さえ板駆動機構26cは、押さえ板を降下させて測色乾燥ユニット28下の印刷用紙を押さえさせる。測色部移動機構26bは、測色部26aをスタートバーSB側からエンドバーEB側へと主走査方向に移動させ、移動中の測色部26aは、所定の測色周期にて測色を繰り返すことにより、カラーチャートCの一つのパッチ行を構成するパッチ毎の測色値を順次取得する。最初のパッチ行の測色が終了したら、プリンター20では、パッチ一行分の用紙の搬送とパッチ一行分の測色とを、カラーチャートC内のパッチ行が終わるまで交互に繰り返す。この結果、測色コントロールIC26は、カラーチャートC内の各パッチの測色値を取得することができ、取得した各パッチの測色値を、通信I/F24を介してコンピューター10に送信する。よって、コンピューター10は、カラーチャートC内の各パッチの測色値を取得し、HD14等の所定の記録領域に記録することができる。
【0032】
S120では、コンピューター10は、S110の測色で得られた経時変化観察用パターン領域A2の各パッチP2の測色値の変化を解析する。S120における解析方法は様々であるが、コンピューター10は一例として、パッチP2の位置の変化(紙送り方向における位置の変化)に応じたパッチP2の輝度値Lの変化を検出する。輝度値Lの変化は、パッチP2の位置に応じた輝度値Lの分布(ヒストグラム)を生成することにより把握可能である。そしてコンピューター10はこのような検出に基づいて、例えば、輝度値Lが紙送りに伴って増加した、紙送りに伴って低下した、或いは、略一定である、といった判定を所定の基準の下で行なう。
【0033】
S130では、コンピューター10は、S120における解析結果に基づいて、調整処理を実行する必要があるか否かを判定する。コンピューター10は、調整処理が必要(Yes)と判定した場合にはS140に進み、不要(No)と判定した場合には当該フローチャートを終了する。解析結果と実行すべき調整処理との対応関係は様々である。例えば、パッチP2の輝度値Lが紙送りに伴って増加した、或いは、紙送りに伴って低下した、という解析結果が得られた場合には、コンピューター10は、解析結果に応じてプリンター20に対するキャリブレーションを実行すると判定する。上述したように各パッチP2は、同じ濃度かつ同じ色を表したデータに基づいて印刷されているため、本来であれば、紙送り方向における位置の違いに関わらず輝度値Lは略一定となる。しかし、上記のようにパッチP2の輝度値Lの増加或いは低下が検出された場合には、プリンター20によるインク吐出量がそれまでの理想的な量から経時的に低下或いは増加していると考えられる。そのため、かかるインク吐出量の理想からのずれを調整する処理を、プリンター20に対するキャリブレーションとして行なう。
【0034】
S140では、システム30は所定の調整処理を行なう。プリンター20に対するキャリブレーションの具体的手法は限られない。例えば、コンピューター10は、PD14bがカラー画像データの生成過程で参照する色変換LUT(カラー画像データの表色系を変換して、インク種類毎の階調値で表現されたカラー画像データにするためのルックアップテーブル)が規定するインク量(階調値)を、所定のγカーブ等で補正する。この場合、概略的には、パッチP2の輝度値Lが増加したと判定していれば、インク量を各階調範囲において増加させることにより、今後パッチP2のデータに基づいて印刷される印刷結果の輝度値Lが本来理想とされる輝度値まで低下するように補正する。一方、パッチP2の輝度値Lが低下したと判定していれば、インク量を各階調範囲において低下させることにより、今後パッチP2のデータに基づいて印刷される印刷結果の輝度値Lが本来理想とされる輝度値まで増加するように補正する。この結果、以降、所望のカラー画像データ(ラスターデータ)に基づいてプリンター20から吐出されるインク量は上記理想からのずれが無くなった(或いは、ずれが抑制された)ものとなる。
【0035】
プリンター20に対するキャリブレーションは、上記のようにコンピューター10がプリンター20に提供する前のカラー画像データやラスターデータに補正を施すことによって実現してもよいが、プリンター20において、ヘッド駆動部25bが印刷ヘッド25aの各ノズル列に与える駆動波形の電圧レベルを調整することによって実現してもよい。つまりコンピューター10は、上記解析結果に応じてプリンター20に対するキャリブレーションの実行を決定した場合、プリンター20に対し、駆動波形の電圧レベルをどの程度上昇させる或いは低下させるかを指示する。そしてプリンター20では、当該指示に基づいて、駆動波形を調整することにより、実際に印刷ヘッド25aから吐出するドット一滴あたりのインク量を変更する。
【0036】
また上記S130では、コンピューター10は、パッチP2の輝度値Lが紙送りに伴って増加したという解析結果が得られた場合には、印刷ヘッド25aのクリーニングを実行すると判定してもよい。パッチP2の輝度値Lが紙送りが進むに連れて上がったということは、同じデータに基づいて印刷用紙に対して吐出されるインクが徐々に減っていったと考えられ、この減少は、印刷ヘッド25aが備えるノズルにおいてインク詰まりが徐々に生じたことが原因と推測されるからである。S130でクリーニングの実行を決定した場合、コンピューター10は、S140において、プリンター20に対して印刷ヘッド25aのクリーニング(ノズルクリーニング)の実行を指示する。プリンター20は、コンピューター10からクリーニングの指示を受けたら、印刷ヘッド25aの各ノズルのクリーニングを行うことによりノズルの詰まり(乾燥した滞留インクによるノズルの詰まり)を解消する。
【0037】
なお、上記のように紙送り方向に沿った領域の測色値(色彩値)の変化を解析する場合、輝度値の変化を解析するだけでなく、色彩値を構成する他の成分や色彩値全体の変化を解析するとしてもよい。システム30あるいはプリンター20は、上記S100を実行する点で印刷部を備え、上記S110を実行する点で測色部を備え、上記S120を実行する点で解析部を備え、上記S130,140を実行する点で調整処理部を備えていると言える。
【0038】
3.変形例
図3に示したプリンター調整処理においては、以下に示す各変形例を、上記実施例に加えて或いは替えて採用することができる。また各変形例を適宜組み合わせて実行することも可能である。
【0039】
変形例1
上記S110では、システム30は、カラーチャートCを測色する際に、印刷媒体内の紙送り方向に沿った領域であって画像が印刷されていない紙地領域を測色するとしてもよい。図4には、鎖線で囲んだ紙地領域A4を例示している。なお、紙地領域A4を測色する場合は、カラーチャートCに経時変化観察用パターン領域A2を含んで印刷しても、経時変化観察用パターン領域A2を含まないで印刷しても、どちらでもよい。プリンター20は、測色部26aによってカラーチャートC内の一つのパッチ行を測色する度に、そのパッチ行の延長線上にある紙地領域A4内の箇所も測色する。かかる測色を繰り返すことにより、プリンター20は少なくともメインパターン領域A1を構成する各パッチP1の測色値とともに、紙地領域A4内の紙送り方向に沿った複数箇所の測色値を取得することができる。取得した各測色値は、通信I/F24を介してコンピューター10に送信される。
【0040】
上記S110で紙地領域A4を測色した場合、上記S120では、コンピューター10は、紙地領域A4内の紙送り方向に沿った位置毎の測色値の変化を解析する。この場合の解析方法も様々である。コンピューター10は、一例として、紙地領域A4内の紙送り方向に沿った位置毎の測色値(例えば、輝度値L)と、紙地の測色値として予め設定した基準値(例えば、プリンター20の購入直後の時期に測色部26aで紙地を測色したときに得られた値)とを順次比較していき、基準値との差異を、紙地領域A4内の位置毎に算出する。S130では、コンピューター10は、当該各差異の大きさに応じて、測色部26aに対する調整処理を実行する必要があるか否かを判定する。紙地領域A4は何も印刷されていない紙送り方向に沿った領域であるため、本来であれば、紙送り方向における位置の違いに関わらず測色値は一定であり、上記差異は0或いは0に極めて近い値で推移する。
【0041】
しかし、測色部26aを稼働し続けることにより測色部26a内の温度変化等が生じ、かかる変化に起因して、紙地領域A4を測色したときの測色値が、紙送り方向における位置に応じて変化することがある。つまり、上記差異が、ある位置で所定のしきい値を超えた場合には、測色部26aによる測色特性の変化が看過出来ないほど大きくなったと考えられる。そのため、コンピューター10は、紙地領域A4内の紙送り方向に沿ったある位置における上記差異が、上記しきい値を超えた時点で、測色部26aの測色特性を元の理想的な状態に戻すために測色部26aに対するキャリブレーションを行なうと判定する。
【0042】
測色部26aに対するキャリブレーションを行なうと判定した場合、上記S140においてコンピューター10は、測色部26aに対するキャリブレーションの実行をプリンター20に指示する。当該指示を受けたプリンター20では、測色コントロールIC26が測色部26aにキャリブレーションを実行させる。この場合、例えば測色部26aは、上記しきい値を超えた時点での上記差異に基づいて、測色結果に対する補正値を生成する。そして、以降、測色部26aは、測色によって取得した測色値を当該補正値によって補正した上で、測色コントロールIC26に出力するようにする。この結果、以降、所望の印刷画像についてのプリンター20から出力される測色値は、測色部26aの経時的変化の影響が排除あるいは抑制された値となる。なお、コンピューター10は、紙地領域A4内の紙送り方向に沿った位置毎の測色値の変化を解析する場合、各位置の測色値のばらつき(例えば、標準偏差)を算出し、当該ばらつきがあるしきい値を超えて大きい場合に、測色部26aに対するキャリブレーションを行なうと判定してもよい。
【0043】
変形例2
図5は、上記S100でシステム30が印刷するカラーチャートCであって、図4に示したカラーチャートCとは異なる例を示している。図5のカラーチャートCは、複数の経時変化観察用パターン領域A2,A2…を備える。それぞれの経時変化観察用パターン領域A2は、上述したように紙送り方向に沿って連続する複数のパッチP2からなるパッチ列(パッチ列A2,A2…)である。一つのパッチ列A2を構成するパッチP2はいずれも同じ濃度かつ同じ色を表したデータによって印刷され、各パッチ列A2,A2…は、印刷ヘッド25aが吐出する複数のインク種類のうち夫々異なる一種類のインクによって印刷される。上記S100では、コンピューター10は、図5のカラーチャートCを表現したカラー画像データを生成し、当該カラー画像データを対象として、ハーフトーン処理やラスターライズ処理等を行なってラスターデータを生成し、ラスターデータをプリンター20に順次出力する。結果、プリンター20では、プリンターコントロールIC25による制御によって、ラスターデータに基づいて図5に示すようなカラーチャートCが印刷される。
【0044】
上記のようにパッチ列A2を異なる色で複数配置したカラーチャートCを印刷した場合、上記S110では、システム30は、各パッチ列A2を測色する。つまりプリンター20では、測色部26aによってカラーチャートC内の一つのパッチ行を測色する度に、そのパッチ行の延長線上にある複数のパッチP2もそれぞれ測色する。かかる測色を繰り返すことにより、プリンター20は、少なくともメインパターン領域A1を構成する各パッチP1の測色値とともに、複数のパッチ列A2をそれぞれ構成する各パッチP2の測色値を取得する。取得した各測色値は、通信I/F24を介してコンピューター10に送信される。
【0045】
上記S110で各パッチ列A2の測色値を得た場合、上記S120では、コンピューター10は、パッチ列A2毎にパッチP2の測色値の変化を解析する。この場合も、コンピューター10は、パッチ列A2毎に、紙送りに伴った輝度値Lの増加や低下の有無を検出したり、或いは、紙送りに伴った色彩値の変化の有無を検出したりする。上記S130では、コンピューター10は、S120における解析結果に基づいて、調整処理を実行する必要があるか否かを各パッチ列A2が対応するインク色毎に判定する。つまり、第一のインク色(例えばCインク)で印刷されたパッチ列A2と、第二のインク(例えばMインク)で印刷されたパッチ列A2がある場合において、第一のインクによるパッチ列A2の測色値について所定程度の変化を検出し、第二のインクによるパッチ列A2の測色値については所定程度の変化が検出されなかった場合には、第一のインクに対する調整処理を行なうと判定する。
【0046】
このような判定を行った場合、上記S140では、システム30は、第一のインクに対する調整処理を行なう。第一のインクに対する調整処理とは、例えば、第一のインクの印刷ヘッド25aからの吐出量のずれを補正するためのプリンター20に対するキャリブレーションであったり、第一のインクの吐出に用いられるノズルのクリーニング処理等が該当する。このように、経時変化観察用パターン領域としてのパッチ列A2を異なる色で複数配置したカラーチャートCを印刷測色することで、プリンター20が使用するインク色毎に必要な調整処理を判断することができ好適である。
ただしパッチ列A2を複数印刷すると、その分印刷用紙上のスペースを消費することになり、メインパターン領域A1の印刷スペースを狭くしてしまうという側面もある。そこで、下記のように一つのパッチ列に、複数のパッチ列と同等の役目を備えさせてカラーチャートCを印刷するとしてもよい。また、図4,5においては、パッチ列A2の経時変化を追う方向として、印刷媒体の搬送方向(紙送り方向)を実施例として記載したが、パッチ列A2を構成する複数のパッチP2をキャリッジ移動方向(主走査方向)に沿って配置しても良い。このように、パッチが主走査方向に沿って連続するパッチ列A2も印刷して測色することで、主走査方向の色変化を含めて紙面内全体の色ムラについても把握することができる。
【0047】
変形例3
図6は、上記S100でシステム30が印刷するカラーチャートCに含まれる、経時変化観察用パターン領域としてのパッチ列A2を例示している。図6に示したパッチ列A2は、色が異なる複数種類のパッチP2をそれぞれ紙送り方向に沿って所定の周期で配置してなるパッチ列である。周期的に配置される同じ種類のパッチP2は、同じ濃度かつ同じ色を表したデータによって印刷される。例えば図6に示すように、パッチ列A2は、印刷ヘッド25aが吐出するC,M,Y,Kそれぞれのインクによって印刷される単色のパッチP2が規則的に並んで構成される。上記S100では、コンピューター10は、図6のパッチ列A2を基本的に一つ含んだカラーチャートCを印刷する。
【0048】
図6に示したパッチ列A2を配置したカラーチャートCを印刷した場合、上記S110では、システム30は、パッチ列A2を構成する各パッチP2の測色値を取得する。上記S120では、コンピューター10は、パッチ列A2を構成するパッチP2の種類(色)毎に測色値の変化を解析する。例えば、CインクによるパッチP2が4パッチおきに配置されている場合には、かかる4パッチおきのシアンパッチの測色値に基づいて、シアンパッチについての紙送りに伴った測色値の変化(輝度値Lの増加や低下の有無、色彩値の変化の有無など)を検出する。S130以降の処理は、変形例2と同様である。このように、経時変化観察用パターン領域としてのパッチ列A2を、色が異なる複数のパッチをそれぞれ搬送方向に沿って所定の周期で配置して構成することにより、印刷用紙上における経時変化観察用パターン領域が占めるスペースを節約しつつ、プリンター20におけるインク色毎に必要な調整処理を行なうことができ好適である。
【0049】
変形例4
これまでは、経時変化観察用パターン領域A2を構成する一つ一つのパッチP2は、一種類のインクによって印刷される単色パッチであることを前提に説明した。しかし、複数種類のインクを混合して一つのパッチP2を印刷してもよい。ここで、プリンター20が備える印刷ヘッド25aは、各インクCMYKLcLm等にそれぞれ対応したノズル列を備える。また、印刷ヘッド25aは実際には、複数の印刷ヘッドを集合させた印刷ヘッドユニットとして構成される。印刷ヘッドユニットは、インク色毎に独立した複数の印刷ヘッドによって構成されたり、ある組み合わせのインクについて印刷ヘッドを共通化した構成(共通の印刷ヘッドにおける異なるノズル列から異なる色のインクを吐出する構成)を採用したりする。このような印刷ヘッド25a(印刷ヘッドユニット)についてノズルクリーニングを行なう場合、プリンター20は、インク毎のノズル列単位でクリーニングする構成を採る場合もあれば、複数のインクにかかる複数のノズル列(例えば、Cインクに対応するノズル列およびMインクに対応するノズル列)をまとめて一度にクリーニングする構成を採る場合もある。
【0050】
そこで当該変形例4では、プリンター20はノズルクリーニング時に複数のインクにかかる複数のノズル列をまとめて一度にクリーニングする構成であることを前提とし、上記S100では、ノズル列が一緒にクリーニングの対象となるインクの組み合わせ(上記の例で言えば、CインクおよびMインクの組み合わせ)によってパッチP2を印刷する。具体的には、図4に示したカラーチャートCにおける経時変化観察用パターン領域A2の各パッチP2を、CインクとMインクとの混合(混合率は一定)にて印刷する。そして、システム30は、上記S110において、当該インクの混合によるパッチP2を含めたカラーチャートCの測色を行い、上記S120ではパッチP2の測色値の変化を解析する。この場合、コンピューター10は、紙送りに伴ったパッチP2の輝度値Lの増加の有無を検出する。
【0051】
上記S130では、上記S120おける解析結果に基づいて、上記パッチP2の印刷に用いたインクの組み合わせ(CインクおよびMインク)に対応するノズル列のクリーニング(一度にまとめてのクリーニング)を実行するか否かを判定する。つまり、上記S120において、上記インクの混合によるパッチP2の輝度値Lについて紙送りに伴った増加が検出されていれば、Cインクに対応するノズルとMインクに対応するノズルとの少なくとも一方において吐出不良(ノズル詰まり)が生じたと考えられるため、コンピューター10は、上記インクの組み合わせに対応するノズル列のクリーニングを実行すると判定する。この判定後、上記S140では、コンピューター10は、プリンター20に対して上記インクの組み合わせに対応するノズル列のクリーニング実行を指示する。プリンター20は、コンピューター10から当該指示を受けたら、印刷ヘッド25aの各ノズル列のうち、上記インクの組み合わせに対応するノズル列のクリーニングを一度にまとめて実行する。
【0052】
このような構成によれば、ノズルクリーニングの要否を経時変化観察用パターン領域A2の経時的変化に基づいて判断する場合に、プリンター20の構成上ノズルクリーニングがまとめて実行される複数のインクについては、インク個々の経時変化観察用パターン領域A2を印刷する必要がない。そのため、印刷用紙上における経時変化観察用パターン領域A2が占めるスペースを節約でき好適である。なお、プリンター20において、ノズル列が一緒にクリーニングの対象となるインクの組み合わせが複数組ある場合には、それぞれのインクの組み合わせによるパッチP2によって経時変化観察用パターン領域A2を複数印刷したり(図5に示したカラーチャートCのレイアウト採用)、それぞれのインクの組み合わせによるパッチP2を所定周期で紙送り方向に沿って配置した経時変化観察用パターン領域A2を印刷したり(図6に示したパッチ列のレイアウト採用)してもよい。
【0053】
変形例5
システム30では、印刷特性や測色特性の経時的変化を検出するための上記領域(経時変化観察用パターン領域A2や紙地領域A4)を、主走査方向において離れた複数の位置に配置し、それぞれの領域を測色するとしてもよい。
図4のカラーチャートCを例に説明すると、同一の経時変化観察用パターン領域A2を、スタートバーSBとメインパターン領域A1との間だけでなく、例えば、エンドバーEBとメインパターン領域A1との間にも配置して印刷する。その結果、システム30は、カラーチャートCを測色することで、左右の経時変化観察用パターン領域A2の各パッチP2の測色値を得ることができる。この場合、コンピューター10は、上記S120において、経時変化観察用パターン領域A2毎に測色値の変化を解析し、互いに比較する。コンピューター10は、かかる比較に基づいて、印刷用紙内の主走査方向における位置に応じた印刷濃度の違い等を検出できるため、検出した内容に応じた所定の調整処理を行なう。一例として、コンピューター10は、印刷用紙内の主走査方向における位置に応じた印刷濃度の違いを検出した場合には、主走査方向における位置に応じてプリンター20のインク吐出量を補正するキャリブレーションを行ったり、かかる印刷濃度の違いに影響を及ぼし得るガイドレールのゆがみやプラテンギャップ等を検査すべきことをユーザーに通知・警告(メンテナンス要求)したりする。
【0054】
あるいは、システム30では、図4のカラーチャートCに示した紙地領域A4を測色する場合、例えば、エンドバーEBとメインパターン領域A1との間に存在する紙地領域についても測色するとしてもよい。印刷用紙内における左右の紙地領域を測色した場合、コンピューター10は、上記S120において、紙地領域毎に測色値の変化を解析し、互いに比較する。コンピューター10は、かかる比較に基づいて、印刷用紙内の主走査方向における位置に応じた測色特性の違いを検出できるため、検出した内容に応じた所定の調整処理を行なう。一例として、コンピューター10は、主走査方向における位置に応じた測色部26aの測色特性のばらつきを補正するキャリブレーションを行ったり、かかる測色特性のばらつきの一因となり得る測色部移動機構26bの不具合等を検査すべきことをユーザーに通知・警告(メンテナンス要求)したりする。
【0055】
その他の変形例
システム30では、紙送り方向に沿って連続する印刷領域を測色して測色値の変化を解析する場合、ダミー印字領域A3を測色するとしてもよい。ダミー印字領域A3も紙送り方向に沿って連続する領域の一種であり、またダミー印字領域A3は、ユーザー所望の画像についての印刷測色処理を行なうに際して併せて印刷されるものだからである。ダミー印字領域A3を測色する構成においては、基本的に経時変化観察用パターン領域A2を印刷しない。ただし、ダミー印字領域A3を経時変化観察用パターン領域A2の代用とするには、測色部26aによってスタートバーSBとエンドバーEBに挟まれた領域外をも測色可能な構成であることを前提とする。
【0056】
システム30は、上記S140の調整処理を経て上記フローチャートを終えた場合、直前のフローチャートで印刷した画像を再度印刷し測色してもよい。システム30は、再度の印刷測色の結果に基づいて、再度、測色値の経時的変化を解析し、解析結果に基づいて印刷特性や測色特性が正常化されたことを確認したり、さらなる他の調整処理を行なうことができる。
【0057】
上記S120で解析の対象とする測色値は、直近のS110で測色された印刷用紙における紙送り方向に沿った領域の測色値だけに限られない。システム30では、過去の印刷測色処理において取得した、経時変化観察用パターン領域A2や紙地領域A3についての測色値をHD14等の記録領域に蓄積しておく。そして、新たな印刷測色処理に伴って新たな経時変化観察用パターン領域A2や紙地領域A3の測色値を取得したら、当該新たに得た測色値と、上記蓄積した測色値とを含めて、経時変化観察用パターン領域A2の測色値の経時的変化や、紙地領域A3の測色値の経時的変化を解析する。かかる構成とすれば、プリンター20の繰り返しの使用によってトータルの印刷枚数が増加していく過程で経時的に生じるプリンター20における印刷特性や測色部26aの測色特性の変化を、逃すことなく検出できる。
【0058】
また上記では、S110において、印刷されたカラーチャートC内の経時変化観察用パターン領域A2や紙地領域A3を一通り測色した上で、次のS120にて測色結果の解析をするとした。しかし、システム30は、測色部26aの一度の主走査方向への移動によってカラーチャートC内の一つのパッチ行を測色する度に、その測色で得たパッチP2や紙地領域A3内の位置毎の測色値を、それまでに取得した経時変化観察用パターン領域A2や紙地領域A3の測色値と比較して測色値の変化を解析し、解析結果に応じて必要な調整処理に移行してもよい。この意味で、プリンター20では、図2に示した構成ではなく、測色部26aを印刷ヘッド25aに隣接する位置(ただし、印刷ヘッド25aよりも紙送り方向下流側)に配設してもよい。つまり、印刷用紙が印刷ヘッド25a下から一回の紙送り分排紙される度に、当該排紙された印刷用紙の部分を、測色部26aによって測色し、その測色で得たパッチP2や紙地領域A3内の測色値を、それまでの経時変化観察用パターン領域A2や紙地領域A3の測色値と比較して、測色値の変化を解析してもよい。
【0059】
4.まとめ
このように本実施形態によれば、印刷用紙上の領域であって紙送り方向に沿った領域を紙送りに伴って測色し、その測色値の変化を解析することにより、プリンター20における印刷特性の変化や測色特性の変化を検出し、この解析結果に応じてプリンター20に対するキャリブレーションや、ノズルクリーニングや、測色部26aに対するキャリブレーションや、ユーザーへのメンテナンス要求などの必要な調整処理を行なうとした。そのためプリンター20において生じる印刷や測色の経時的変化を確実に把握し、適切なタイミングで必要な調整をプリンター20に対して自動的に行なうことが可能となった。なお上記では、プリンター調整処理を、コンピューター10とプリンター20からなるシステム30によって実現する場合を例に説明したが、当該処理はプリンター20単独で行なうとしてもよい。プリンター20単独で行なう場合には、コンピューター10がプリンター調整処理の中で担っていた各処理を、例えば、プリンター20のプリンターコントロールIC25が主体となって行なう。
【符号の説明】
【0060】
10…コンピューター、14…HD、14a…APL、14b…プリンタードライバー、20…プリンター、25…プリンターコントロールIC、25a…印刷ヘッド、25b…ヘッド駆動部、25c…キャリッジ機構、25d…紙送り機構、26…測色コントロールIC、26a…測色部、26b…測色部移動機構、26c…押さえ板駆動機構、26d…乾燥機、26a1…色検出部、28…測色乾燥ユニット、30…プリンター調整システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体を所定の搬送方向に搬送する搬送部と、
画像を表現した印刷データに基づいて、上記搬送される印刷媒体に対して画像の印刷を実行可能な印刷部と、
上記印刷媒体内の上記搬送方向に沿った領域を測色する測色部と、
上記測色によって取得された上記領域の測色値の変化を解析する解析部と、
上記解析の結果に応じて、上記印刷部および又は測色部に関する所定の調整処理を行なう調整処理部とを備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
上記印刷部は、上記搬送方向に沿って複数のパッチを印刷媒体に印刷し、上記測色部は、当該印刷された複数のパッチを測色し、上記解析部は、パッチの測色値の変化を解析することを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
上記印刷部は、上記搬送方向に沿う複数のパッチで形成されるパッチ列を、列単位で色を変えて複数印刷し、上記測色部は、当該複数のパッチ列を測色し、上記解析部は、パッチ列毎に測色値の変化を解析し、上記調整処理部は、パッチ列毎の解析結果に基づいて各パッチ例が対応する色に対する調整処理を実行することを特徴とする請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
上記印刷部は、色が異なる複数のパッチをそれぞれ上記搬送方向に沿って所定の周期で配置することによって、上記搬送方向に沿うパッチ列を印刷し、上記測色部は、パッチ列を測色し、上記解析部は、パッチ列を構成するパッチの色毎に測色値の変化を解析し、上記調整処理部は、色毎の解析結果に基づいて各色に対する調整処理を実行することを特徴とする請求項2に記載の印刷装置。
【請求項5】
上記印刷部は、当該印刷部が備える印刷ヘッドに対する調整処理の際に同時に処理対象となる複数のインクの混合によるパッチを印刷し、上記調整処理部は、当該インクの混合によるパッチの測色値に対する解析結果に応じて、上記印刷ヘッドに対する調整処理を実行することを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項6】
上記測色部は、上記印刷媒体内の上記搬送方向に沿った領域であって画像が印刷されていない紙地領域を測色し、上記解析部は、紙地領域の測色値の変化を解析することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項7】
上記測色部は、上記印刷媒体内の上記搬送方向に沿った領域であって、上記搬送方向に略直交する向きにおいて離れた複数の領域をそれぞれ測色し、上記解析部は、領域毎の測色値の変化を領域間で比較し、上記調整処理部は、当該比較の結果に基づいて上記所定の調整処理を行なうことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項8】
上記調整処理部は、上記印刷部が備える印刷ヘッドに対するクリーニングと、印刷ヘッドからのインク吐出量を調整するための印刷部に対するキャリブレーションと、上記測色部による測色結果を補正するための測色部に対するキャリブレーションとのうち少なくとも一つを実行することを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項9】
印刷媒体を所定の搬送方向に搬送する搬送部と、画像を表現した印刷データに基づいて、上記搬送される印刷媒体に対して画像の印刷を実行可能な印刷部と、印刷媒体に対する測色を実行可能な測色部とを備えた印刷装置の調整方法であって、
上記印刷媒体内の上記搬送方向に沿った領域を測色部によって測色する測色工程と、
上記測色によって取得された上記領域の測色値の変化を解析する解析工程と、
上記解析の結果に応じて、上記印刷部および又は測色部に関する所定の調整処理を行なう調整処理工程とを備えることを特徴とする調整方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−201819(P2010−201819A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50907(P2009−50907)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】