説明

印刷装置

【課題】 濃度むらを低減したサーマル印刷装置を提供すること。
【解決手段】 発熱素子を並列に配列したサーマルヘッドを用いて、
画像データの階調値に応じて発熱素子の発熱を制御して、
アスペクト比1:1の多階調の画像を記録用紙に形成する印刷装置であって、
画像データや各種演算結果を保持する記憶手段と、
記憶手段上に保持された画像データの方向を90度回転させる画像回転手段と、
前記画像データと印刷装置の入出力特性から出力の変化を求める出力変化演算手段と、
前記出力変化演算手段の演算結果から画像データの回転を行うか判定する印刷方向判定手段とを有し、
前記印刷方向判定手段の結果に応じて画像データの回転を行うか否かを決定し、
決定した方向を前記画像データの印刷方向として、
前記画像回転手段により前記画像データを回転させて印刷することを特徴とする構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルヘッドを用いる印刷装置に関し、特に配線抵抗による濃度むら低減を備えた印刷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、入力側としてのデジタルカメラやデジタルビデオカメラ、またはスキャナなどの画像を扱う入力機器の進歩に伴い、プリント手段としてサーマルヘッドを用いる印刷装置、いわゆるサーマルプリンタ装置が注目されている。
【0003】
サーマルプリンタ装置には、サーマルヘッドで感熱記録紙を加熱して直接発色させる感熱記録方式と、記録紙に重ねたインクリボンをサーマルヘッドにより加熱して、インクを記録紙に転写して記録を行う熱転写記録方式とがある。
【0004】
また、熱転写記録方式としては、ヘッドの熱でインクを溶かして転写させる熱溶融転写方式と、インクを気化させて転写させる昇華型転写方式とに大別される。
サーマルヘッドは、セラミック製の基板上に多数の発熱素子(抵抗体)がライン上に形成されており、これら素子に通電する電力により発熱量を制御することが可能である。
【0005】
昇華型転写方式は、発熱量を制御してインクに加える熱量を調節することで、転写するインクの量を調整することが可能である。
【0006】
昇華型熱転写方式のカラープリントでは、例えばシアン、マゼンタ、イエローのインクを1色ずつ転写し、計3回転写する事で、加色混合により多階調の画像を表現する。
【0007】
サーマルヘッドは、サーマルプリンタ内の基板からケーブルを介して電気的に接続され、基板上の電源回路から、基板上の配線パターンとケーブルを介して電力が供給されている。
【0008】
なお、サーマルヘッドの長手方向を主走査方向、主走査方向とほぼ直行する印刷時における記録用紙の搬送方向を副走査方向と以下で称する。
【0009】
ところで、サーマルプリンタでは、記録を行うときに、例えば電源からサーマルヘッドまでの電源ケーブル等が持つ配線抵抗や前記サーマルヘッド内の配線が持つ配線抵抗によって、サーマルヘッドに流れる電流量に応じて電圧低下が発生する。例えば、本来、画像中の印画部分の濃度が同じとなるべき画像において、印画に使用する発熱素子の数が異なる領域がある場合、使用する発熱素子の数が少ない領域では印刷濃度が上昇してしまう。
【0010】
図10は従来の印刷装置における本発明に関する印刷物の濃度むらを示した例である。図10の網掛け部分は階調値としては等しく、理想的には全て同一濃度となるべきである。図10のα領域ではサーマルヘッドの発熱素子の同時に通電する個数が多く、大きな電流がサーマルヘッドに流れ、電圧低下が大きくなり、所望する濃度より濃度が低くなる。
【0011】
図10のβ領域ではα領域に比べて流れる電流が小さく、電圧低下が比較的小さいため、所望の濃度に近くなる。
【0012】
従って、α領域とβ領域を見比べると濃度差が分かり、濃度むらとして認識される。
【0013】
例えば、特許文献1では印刷に用いる画像データをオフセット角まで回転し、記録媒体もオフセット角まで回転させる事で負荷の急激な変化を低減して濃度むらを低減する方法が開示されている。
【0014】
例えば、特許文献2では、画像データ中の副走査方向のnライン目と(n+1)ライン目の階調値から、副走査方向の濃度差が著しい主走査方向と平行な長い直線部を検出する。検出した直線が主走査方向と並行にならないように画像の加工を行って濃度むらを低減する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2009−137086号公報
【特許文献2】特開平11−348336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された従来技術では、画像データのオフセット角分の回転による補間処理を伴い、本来の画像データと印刷に使用する画像データが異なるため、画像の荒れや不自然さ、エッジのなまり等が生じる事がある。また、記録媒体の回転を伴うため、記録媒体の主走査方向の幅より搬送経路やサーマルヘッドが大型化するため、コストの上昇、本体の大きさが問題となる。
【0017】
更に、オフセット角に回転する事で負荷の急変動が起こる場合には対応しきれない。
【0018】
また、特許文献2に開示された従来技術においても、画像データ中の濃度差の著しい直線部分を主走査方向と並行にならないように画像を加工するため、本来の画像データと異なる画像データを印刷する事になり、画像データが不自然となる場合が挙げられる。
【0019】
そこで、本発明の目的は、印刷物の縦横比が1:1となる印刷を行う場合に、画像データに対して補間処理などによる画像データの大きな変更を加える事なく、印刷物の濃度むらを低減可能な印刷装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、本発明は、発熱素子を並列に配列したサーマルヘッドを用いて、
画像データの階調値に応じて発熱素子の発熱を制御して、
アスペクト比1:1の多階調の画像を記録用紙に形成する印刷装置であって、
画像データや各種演算結果を保持する記憶手段と、
記憶手段上に保持された画像データの方向を90度回転させる画像回転手段と、
前記画像データと印刷装置の入出力特性から出力の変化を求める出力変化演算手段と、
前記出力変化演算手段の演算結果から画像データの回転を行うか判定する印刷方向判定手段とを有し、
前記印刷方向判定手段の結果に応じて画像データの回転を行うか否かを決定し、
決定した方向を前記画像データの印刷方向として、
前記画像回転手段により前記画像データを回転させて印刷することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、アスペクト比が1:1の印刷物を印刷する際に、画像データに対して微小な回転などの処理をしないため、画像が不自然となる変更を加えることなく、コストや本体の大きさの増加なく、濃度むらを低減可能な印刷装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施例における印刷装置の印画部と搬送部の概要を示した図である。
【図2】第1の実施例における印刷装置のシステムブロック図である。
【図3】第1の実施例における印刷装置のインクリボンの概要図である。
【図4】第1の実施例におけるサーマルヘッドの概要を示した図である。
【図5】第1の実施例における画像データの一例を示した図である。
【図6】第1の実施例におけるサーマルヘッドに流れる電流の変化を表した図である。
【図7】第1の実施例における画像データ回転の処理を含む印刷装置の動作を示すフローチャートである。
【図8】第2の実施例における画像データ回転の処理を含む印刷装置の動作を示すフローチャートである。
【図9】第2の実施例における画像データのヒストグラムの一例を示した図である。
【図10】従来の印刷装置における本発明が解決し得る濃度むらの一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【0024】
以下の実施例において、サーマルヘッドの長手方向を主走査方向と称し、主走査方向にほぼ直交する記録用紙の搬送方向を副走査方向と称する。
【実施例1】
【0025】
以下、図1〜7を参照して、本発明の第1の実施例による、印刷装置における濃度むら低減の方法について説明する。
【0026】
図1は、本実施形態に関わる印刷装置の記録部と搬送部を示す概略図である。
【0027】
図1に示すように、搬送部15は、グリップローラ151とピンチローラ152が対向するように設けられており、記録用紙を挟持可能となっている。
【0028】
記録用紙155は用紙ホルダ153に長尺の記録用紙がロール状に巻かれており、記録用紙の先端は用紙ホルダ153を順方向に回転させて搬送部15まで送られ、グリップローラ151とピンチローラ152に挟持される。
【0029】
用紙ホルダとグリップローラを順方向に回転させる事で記録用紙155を印画部10へ順方向に搬送され、記録開始位置まで搬送して搬送を停止する。
【0030】
印画部10において、サーマルヘッド101がインクリボン154と記録用紙155をプラテンローラ102へ押圧した状態で印画を行う。印画はサーマルヘッド101から熱を加えてインクを転写しながらグリップローラ151と記録用紙ボビン153を逆方向に回転させ、記録用紙155の用紙ホルダ153側から用紙端部に1色ずつ印刷を行う。1色の印刷が完了すれば、グリップローラ151と用紙ホルダ153を順方向に回転させ、記録用紙155を記録開始位置に再び搬送し、次の色のインクにて同様に印刷を行う。
【0031】
イエロー、マゼンタ、シアン、オーバーコートの各インクの印刷完了後、グリップローラ151を反時計方向に回転させ、記録用紙155切断位置まで搬送し、可動カッター刃156と固定カッター刃157を用いて切断する事で印刷物を得る。
【0032】
図2は、印刷装置のシステムを表すブロック図である。
【0033】
記録媒体201には、ユーザが撮影した画像データなどが格納されている。記録媒体201は記録媒体読込部202に挿入され、表示部208に画像データを表示する時や印刷時などに画像データは記録媒体より読み込まれる。ROM203は画像処理を含む補正データを含む各種のデータを保持しており、RAM204は画像処理や印刷時等に一時的に画像データを保持する。CPU205は各種の補正処理や画像処理等の計算処理や各種モータドライバや表示制御部等の制御等を行う。記録信号制御部209はRAM204上に保持された画像データに基づいて、印刷部10のサーマルヘッド101の発熱素子を通電させる記録信号を作成する。記録信号制御部209から送られる記録信号に従い、発熱素子を通電し、加熱する事で印刷部10のサーマルヘッド101とプラテンローラ102に挟持された記録用紙155に印刷を行う。
【0034】
図3は、インクリボン301を示す概略図である。
【0035】
インクリボン301は、ベースフィルム301aの長手方向に、イエロー、マゼンタ、シアン、オーバーコートの染料が順番に繰り返し塗布された染料層301Y、301M、301C、301Lからなる。
【0036】
インクリボン301の各色の染料層は、それぞれアスペクト比m:nの定型サイズ(例えば、JIS規格用紙のA5サイズ、B5サイズ)に塗布されている。
【0037】
印刷時には、ロール状の記録用紙にイエロー301Yからオーバーコート301Lまでの染料を転写し、ロール状の記録用紙の長手方向端部から定型の長さ分の位置において切断する事で定型サイズの印刷物を得る。
【0038】
ここで、長辺と短辺の長さの比がm:n(但し、m>n)のアスペクト比m:nの定型サイズのインクリボン301を用いて、n:nのアスペクト比の記録を行う事も可能である。
【0039】
図3に示すように、m:nのアスペクト比のインクリボン301において、インクリボンの長辺を短辺と同じ長さとなるnの部分を使用して各染料をロール状の記録用紙301に転写する事でn:nのアスペクト比の画像を記録用紙上に形成できる。
【0040】
その後、ロール状の記録用紙の印刷した部分だけをカッター部で切断する事で、アスペクト比n:nの印刷物を得ることができる。
【0041】
ここで、アスペクト比がn:n、すなわちアスペクト比1:1の印刷を行う場合、印刷に使用する画像データを90度回転させても、ユーザが手にする印刷物は同じ物となる。
【0042】
図4(a)は、サーマルヘッドの接続を示した概略図である。
【0043】
図4(a)では、例えば基板45の電源回路451から基板の配線パターン452とコネクタ453とフラットケーブル403を介して、サーマルヘッド 101と電源回路451は接続され、サーマルヘッド101の発熱素子401へ電源回路451から電力が供給される。
【0044】
図4(b)は、図4(a)を電気回路に置き換えて表現した一例である。
【0045】
図4(b)では、基板の配線パターン452やフラットケーブル403などの主走査方向の位置に依存しない配線抵抗と、サーマルヘッド101内の配線パターンが持つ配線抵抗、発熱素子401を抵抗素子として図示している。
【0046】
同図において、例えば基板上の配線パターン452、フラットケーブル403の配線抵抗等のように、主走査方向の位置に依存しない抵抗をr1、サーマルヘッド101内の主走査方向の各位置における配線パターンの配線抵抗をr(1),r(2),…,r(N−2),r(N−1)と表す。
【0047】
サーマルヘッド101内の主走査方向の各位置における発熱素子の抵抗値をR(1),R(2),…,R(N−1),R(N)とし、Nは発熱素子の総数である。
【0048】
サーマルヘッド101に流れ込む電流の総量Iは、主走査方向の位置xにおける発熱素子401に流れる電流をIR(x)とすると、次の式1より求められる。
【0049】
【数1】

【0050】
フラットケーブルや基板上の配線パターンにおける電圧の低下量は、主走査方向の位置に依存しない抵抗r1を用いて、rと表せる。
【0051】
一例として、図5(a)に示すアスペクト比1:1の画像データを印刷する場合におけるα領域とβ領域を印刷する場合の主走査方向の位置に依存しない抵抗による電圧の低下量を示す。
【0052】
例えば、図5(a)の画像データは、縦方向と横方向の画素数は等しくHとし、α領域とβ領域の網掛けの部分は同一の階調値Gとし、β領域の中抜きされた白色部分は階調値Wとする。
【0053】
α領域では、サーマルヘッド101のN個の発熱素子401を使用し、サーマルヘッド101へ5.0Aの電流が流れ、Bの部分ではN/5個の発熱素子を使用し、サーマルヘッド101へ1.0Aの電流が流れているとする。
【0054】
α領域では、サーマルヘッド101に5.0Aの電流が流れ込み、主走査方向の位置に依存しない抵抗を0.2Ωとすると、主走査方向の位置に依存しない抵抗において1.0Vの電圧低下が生じる。
【0055】
それに対して、β領域では、サーマルヘッド101に1.0Aの電流が流れ込み、主走査方向の位置に依存しない抵抗を0.2Ωとすると、主走査方向の位置に依存しない抵抗において0.2Vの電圧低下が生じる。
【0056】
サーマルヘッドに流れる電流が変化する事で、電圧の低下量が変化し、印刷物に濃度むらが表れる。
【0057】
図6は図5に示すアスペクト比1:1の画像データを印刷する場合に、サーマルヘッドに流れる電流の予測値の推移を示したものである。
【0058】
図6(a)においては、α領域とβ領域の境界では、サーマルヘッドに流れる電流が変化する事で、配線抵抗による電圧低下量が急激に変化する。
【0059】
この事で、発熱素子に加わるエネルギーが変化し、印刷物に濃度むらが生じる。
【0060】
ここで、アスペクト比1:1の印刷を行う場合に、図5(a)に示す画像データを90度回転させて印刷する場合を考える。
【0061】
図5(a)の画像データを90度回転させた場合の画像データを図5(b)に示す。
【0062】
図5(b)の印刷時におけるサーマルヘッドに流れる電流の変化の予測値を図6(b)に示す。
【0063】
図5(b)に示す画像データのγ領域では、サーマルヘッド101のN個の発熱素子を使用し、サーマルヘッド101へ5Aの電流が流れ、δ領域では4N/5個の発熱素子を使用し、サーマルヘッド101へ4Aの電流が流れているとする。
主走査方向の位置に依存しない抵抗を0.2Ωとするとγ領域では1.0Vの電圧低下が生じ、δ領域では0.8Vの電圧低下が生じる。
【0064】
図6(b)では、γ領域とδ領域の境界での電圧低下量の変化が、図6(a)のα領域とβ領域の境界での変化より小さくなるため、濃度むらが低減される。
【0065】
次に、図7に示すフローチャートを用いて、画像の選択から印刷実行までの処理における本発明の濃度むら低減の処理の一例を説明する。
【0066】
まず、印刷する画像データをユーザが選択する。(ステップS101)
画像選択後、ユーザが操作部を操作し、アスペクト比1:1の印刷を行う印刷指示をする。(ステップS102)
選択されたJPEG等の画像データをRAM上に読み込み(ステップS103)、RAM上に読み込んだ画像データのアスペクト比が1:1の画像かどうか判断する。(ステップS104)
アスペクト比が1:1でない場合には、RAM上に読み込まれた画像データに対して、リサイズ、トリミング等の画像処理を行い、アスペクト比1:1の画像データをRAM上に保持する。(ステップS105)
ここまででRAM上に保持されたアスペクト比1:1の画像データを以下ではA方向の画像データと称し、A方向の画像データを90度回転したものをB方向の画像データと称する。
【0067】
Jpegの画像データを伸長し、イエロー、マゼンタ、シアンに色変換し、マゼンタ、シアンの2色の平均濃度を求め、2色の中で平均濃度が最も高い色を画像データの代表色とし、画像を90度回転させるか否かの予測、判定に使用する。(ステップS106)
一般的に、シアン、マゼンタ、イエローのうち、視覚への刺激が大きいマゼンタとシアンの2色を用いるのが好適なためである。
【0068】
ステップS106で求めた代表色を印刷する場合にサーマルヘッドに流れる電流の予測値を式1に示した計算により求める。(ステップS107)
この際に、A方向の画像データを印刷に使用する場合とB方向の画像データを印刷に使用する場合のサーマルヘッドに流れる電流を予測する。
【0069】
更に、ステップS107で求めたサーマルヘッドに流れる電流の予測値から、nライン目におけるサーマルヘッドに流れる電流の変化の予測値Q(n,r)を、式2を用いて求める。(ステップS108)
【0070】
【数2】

【0071】
式2中のImaxは全ドット通電時の電流にて正規化している。
【0072】
また、電流変化の予測値Q(n,r)のrは、電流変化の大きさの順位を示し、nライン目における1ライン分の電流変化の予測値を求める毎に、n−1ライン目までの電流変化の予測値と比較し順位の更新を行う。
【0073】
なお、サーマルヘッドに流れる電流の変化の予測値についても、A方向、B方向の両方について求める。
【0074】
画像データ1ライン中の階調値の分布とサーマルヘッドの記録時の発熱素子の通電方法から、同じタイミングに通電する発熱素子数が分かるためサーマルヘッドに流れる電流の予測が可能である。
【0075】
ステップS108において求めたA方向とB方向におけるサーマルヘッドの電流変化の予測値から、式3よりN点平均の電流変化度pを求める。(ステップS109)
【0076】
【数3】

【0077】
式3中のNは、印刷する画像データのライン数がHラインであったとき、0<N<Hの関係となる、電流変化度を求めるためのサンプル数であり、電流の変化Q(n)の値が大きいもの。
【0078】
サンプル数Nが多すぎると、N点平均の電流変化度が過剰に平均化されるため、電流変化の特徴を捉えるのに十分な数にサンプル数Nを指定する必要がある。
【0079】
例えば、サンプル数Nの値は一意的に画像データのライン数の1/10等の数値に決定しても良いし、A方向およびB方向の電流変化の予測値が所定の数値を超える回数をカウントし、カウントした回数の小さい値としても良い。
【0080】
A方向とB方向におけるN点平均電流変化度の計算が完了したか判定を行う。(ステップS110)
A方向のみ計算が完了している場合はステップS107からステップS109に戻り、B方向についても同様に求める。
【0081】
ステップS109において求めたN点平均の電流変化度から、A方向におけるN点平均の電流変化度pAとB方向におけるN点平均の電流変化度pBを比較する。(ステップS111)
pA>pBであれば、B方向を印刷時の画像データの方向として決定し、RAM上に保持された画像データに対して印刷時の方向がB方向となるようにRAM上の画像データに90度の回転処理を行う。(ステップS112)
また、RAM上の画像データに対して90度の回転処理をせずとも、印画時にヘッド制御回路に送信する画像データの信号を印刷時の方向がB方向となるように送信しても同様の結果となる。
【0082】
ステップS112が完了した場合、およびステップS111においてpA<pBであり、A方向を印刷時の画像データの方向とする場合、決定された印刷方向に従って印刷を実行する。(ステップS113)
ステップS112までの処理で、印刷方向を決定した画像データが完成しRAM上に保持されており、ヘッド制御回路へ1ラインずつ転送し、サーマルヘッドを駆動して印刷を行い、印画物を得る。
【0083】
以上の処理により、濃度むらを低減した印刷物を得る事が可能となる。
【実施例2】
【0084】
実施例2では、本発明の印刷装置における濃度むら低減方法の一例を、図8のフローチャートと図9の画像データの階調値のヒストグラムの例を用いて説明する。実施例2で説明する図8の構成は、実施例1で説明した図7とほぼ同じ構成となっている。図8において、図7と同等の処理は、ステップの符号の下二桁を同一としており、説明を割愛している。
【0085】
画像データを解析し、画像データの大きさがH×Hとすれば、1ライン中に含まれる階調値のヒストグラムを1ライン目からHライン目まで全てのラインで求める。(ステップS257)
このヒストグラムは、1ライン中に含まれる階調値と、その階調値の画素の出現する個数を示すものである。
【0086】
一例として、図5(a)のα領域の1ラインとβ領域の1ライン中の階調値のヒストグラムを図9に示す。
【0087】
図9(a)は図5(a)のα領域の1ラインのヒストグラムを示し、1ライン中の階調値は階調値Gとほぼ同一の値となっている。
【0088】
図9(b)は図5(a)のβ領域の1ラインのヒストグラムを示し、1ライン中の階調値は階調値Gと未印画部分の階調値Wの2つの値となっている。
【0089】
ステップS257で求めた画像データの1ライン目からNライン目までのヒストグラムから、kライン目における1ライン中の階調値の主成分階調値を求め、主成分階調値の変化量T(k)を求める。(ステップS258)
kライン目の主成分階調値の変化量は、k−1ライン目の主成分階調値をG(k−1)、kライン目の主成分階調値G(k)とすると、次の式4を用いて求める。
【0090】
【数4】

【0091】
例えば、図5(a)のα領域内とβ領域内では、どの1ラインを取っても主成分階調値の変化量は0であるが、α領域とβ領域の境界部では主成分階調値がGからWに変化するため、主成分階調値の変化量T(k)=G−Wとなる。
【0092】
ステップS259では、ステップS109とほぼ同様の計算によってN点平均主成分変化度pを式5を用いて求める。(ステップS259)
【0093】
【数5】

【0094】
式5中のNは、印刷する画像データのライン数がHラインであったとき、0<N<Hの関係となる。例えば、Nの値は一意的に決定しても良いし、A方向およびB方向の電流変化の予測値が所定の数値を超える回数をカウントし、カウントした回数の小さい値としても良い。
【0095】
以上のことで、実施例1同様にRAM上には印刷方向を決定された画像データが保持されており、ヘッド制御回路へ1ラインずつ転送し、サーマルヘッドを駆動して印刷を行い、印画物を得る。
【0096】
以上の処理により、濃度むらを低減した印刷物を得る事が可能となる。
【実施例3】
【0097】
実施例3では、本発明の印刷装置における濃度むら低減方法の判定に用いられる代表色の決定方法の他の一例について説明する。
【0098】
図7のステップS106、または図8のステップS206において代表色を選択する場合において、画像データの輝度値を代表色として用いてもステップS107、またはステップS257以降において同様に処理可能である。
【0099】
Jpeg画像データを伸長してがYuvの形式として画像データをRAM上に保持する場合、その輝度値Yを代表色として使用する。RGB形式の画像データであれば、次の式6より輝度値Yを求める事ができる。
【0100】
【数6】

【0101】
他の処理は実施例1、または実施例2と同様に処理を行う事で、RAM上には印刷方向を決定された画像データが保持され、ヘッド制御回路へ1ラインずつ転送し、サーマルヘッドを駆動して印刷を行い、画像を記録用紙上に形成する。
【0102】
以上の処理により、濃度むらを低減した印刷物を得る事が可能となる。
【0103】
(その他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0104】
本発明は、印刷装置において画像データから印刷時の電流を予測し、濃度むらが発生しにくい方向を印刷方向とする事で濃度むらを低減するものである。
【0105】
本発明は上記の印刷装置に限定されず、配線抵抗による電力損失が問題となる印刷装置に適用可能である。
【0106】
本発明は実施例において、長尺の記録用紙を切断する事でアスペクト比1:1となる印刷物を作成する方法について説明したが、正方形状のカット紙を記録用紙とする場合においても同様に適用可能である事はいうまでもない。
【0107】
また、本発明の目的は、前述した実施形態の処理方法を実現するソフトウェアのプログラムコードを記録した記憶媒体を、システムあるいは装置に供給するよう構成することによっても達成されることはいうまでもない。
【0108】
この場合、そのシステムあるいは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読出し実行することにより、上記機能が実現されることとなる。なお、この場合、そのプログラムコードを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。
【0109】
プログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フロッピ(登録商標)ディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMなどを用いることができる。
【0110】
また、コンピュータが読出したプログラムコードを実行することにより、前述した実施形態の機能が実現される場合に限られない。例えば、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼働しているOS(オペレーティングシステム)などが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれることは言うまでもない。
【0111】
さらに、記憶媒体から読出されたプログラムコードが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書込まれた後、前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれる。つまり、プログラムコードがメモリに書込まれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPUなどが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって実現される場合も含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱素子を並列に配列したサーマルヘッドを用いて、
画像データの階調値に応じて発熱素子の発熱を制御して、
アスペクト比1:1の多階調の画像を記録用紙に形成する印刷装置であって、
画像データや各種演算結果を保持する記憶手段と、
記憶手段上に保持された画像データの方向を90度回転させる画像回転手段と、
前記画像データと印刷装置の入出力特性から出力の変化を求める出力変化演算手段と、
前記出力変化演算手段の演算結果から画像データの回転を行うか判定する印刷方向判定手段とを有し、
前記印刷方向判定手段の結果に応じて画像データの回転を行うか否かを決定し、
決定した方向を前記画像データの印刷方向として、
前記画像回転手段により前記画像データを回転させて印刷することを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置において、
前記出力変化演算手段の演算に使用する画像データは、画像データの持つ色情報の中で画像データ内の平均の光学濃度が最も濃い色のいずれかを代表色の画像データに決定し、
前記代表色の画像データを前記出力変化演算手段における演算に使用する画像データとすることを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
請求項2に記載の印刷装置において、
前記代表色をCMY表色系で表現された画像データから決定する場合、
前記画像データ中のシアンとマゼンタの2色のうち平均の光学濃度が高濃度な色を前記代表色の画像データとして決定することを特徴とする印刷装置。
【請求項4】
請求項2に記載の印刷装置において、
前記代表色をYuv表色系で表現された画像データから決定する場合、
前記画像データ中の輝度値Yの色情報を前記代表色の画像データとして決定することを特徴とする印刷装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の印刷装置において、
前記出力変化演算手段は、前記サーマルヘッドに流れる電流値の予測値から求めることを特徴とする印刷装置。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の印刷装置において、
前記出力変化演算手段は、前記画像データの各1ライン内の階調値ヒストグラムから求めることを特徴とする印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−104854(P2011−104854A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261780(P2009−261780)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】