説明

卵巣癌の早期診断方法

プロテアーゼヘプシンは、卵巣癌およびその他の悪性腫瘍で特異的に過剰発現される。多数のヘプシンペプチドがヘプシンに対する免疫反応を誘導することができ、従って、卵巣癌およびその他の悪性腫瘍に対する免疫療法の監視および開発においてこれらペプチドの潜在能力を実証する。卵巣癌細胞、前立腺癌細胞および腎癌細胞に対するマーカーとして有用なヘプシンタンパク質変異体も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
概して、本発明は分子生物学および医薬の分野に関する。より詳細には、本発明は癌の研究および診断の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
悪性細胞が増殖、拡散または転移するためには、局所の宿主組織に浸潤し、原発性腫瘍から解離または流出し、血流中に進入しさらにその中で生存し、標的組織の表面に侵入することにより移植し、さらに新規のコロニー増殖(血管新生の誘導因子および成長因子の導入を含む)を誘導する環境を確立する能力を有していなければならない。この過程の間に、基底膜および結合組織などの天然組織バリアが崩壊されなければならない。これらのバリアは、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、プロテオグリカンおよび細胞外マトリックス糖タンパク質を含む。原発性腫瘍を包囲する天然バリアおよび転移性浸潤部位での天然バリアの両方の天然バリアの崩壊は、細胞外プロテアーゼのマトリックスの作用により生じると考えられている。
【0003】
プロテアーゼは、以下の4種類のファミリー:セリンプロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼおよびシステインプロテアーゼに分類される。多くのプロテアーゼが、ヒト疾患の進行に関与することが認められており、これらの酵素が新規治療薬としての阻害剤開発の標的となっている。一部の特定プロテアーゼが、様々な群の癌において誘導および過剰発現されており、それ自体が早期診断マーカーの潜在的候補であり、可能性のある治療的介入のための標的である。いくつかの例を表1に示す。
【0004】
個体のプロテアーゼのダウンレギュレーションまたは阻害、および浸潤能または悪性度の低下を支持する多くの証拠が存在する。Clarkらによる研究では、ヒトの肺小細胞癌のin vitro増殖の阻害が、一般的なセリンプロテアーゼ阻害剤を用いて明らかにされた。より最近になって、Torres-Rosedo らは(1993)、セリンプロテアーゼヘプシン遺伝子に対して特異的なアンチセンス阻害剤を用いて肝癌細胞の増殖の阻害を明らかにした。黒色腫細胞の転移能力もメタロプロテアーゼの合成阻害剤(batimastat)を用いてマウスモデルにおいて低下することが示されている。Powellら(1993)は、非転移性前立腺癌の細胞株における細胞外プロテアーゼの発現により悪性進行が促進されることを確認する証拠を発表した。具体的には、転移促進が、PUMP-1メタロプロテアーゼ遺伝子の導入後および発現後に示された。相対的に非転移性である細胞型に対する細胞表面のプロテアーゼの発現によりそのような細胞の浸潤能が増大するとの概念を支持する多くのデータも存在する。
【0005】
これまでのところ、卵巣癌は婦人科の悪性過形成を有する女性における第1番目の死亡原因であり続けている。このような癌と診断された女性の約75%は、初回診断時にすでに同疾患の進行病期(IIIおよびIV)に至っている。過去20年の間、これら患者に対する診断及び5年生存率のいずれも大幅には改善されていない。これは、同疾患が既に進行病期の状態で初めて検出される率が高いことが実質的な原因である。従って、早期診断を改善する新規マーカーを開発し、それによって初回診断時に進行病期で検出される確率を低下させることが未だ課題であり続ける。1つの組織から離れて別の組織の表面に再度取り付く能力によって、この疾患に関連する罹患率および死亡率がもたらされる。このため、細胞外プロテアーゼは、悪性の卵巣過形成のマーカーとしての優れた候補であると考えられる。
【0006】
従って、先行技術は、特に卵巣癌に対する、早期診断の指標として有用な腫瘍マーカーを欠く。本発明は、当技術分野においてこの長年のニーズと要望を満たす。
【表1】

【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、80%の卵巣癌およびその他の腫瘍の表面に特異的に関連することが本明細書中で明らかにされているヘプシンプロテアーゼの存在を示す組織中のヘプシンmRNAをスクリーニングすることにより、例えば卵巣癌などの癌の検出を可能とする。プロテアーゼは、腫瘍の増殖および転移に不可欠な要素と考えられていることから、その存在有無を示すマーカーは癌の診断に有用である。さらに本発明は、治療(すなわち、ヘプシンの阻害またはヘプシン発現の阻害による)、標的療法およびワクチン接種などに対して有用である。
【0008】
本発明の一態様において、卵巣癌細胞、前立腺癌細胞または腎臓癌細胞に対するマーカーとして有用であるヘプシンタンパク質の変異体またはその断片を提供する。
【0009】
別の一実施形態では、本発明は、個体にヘプシンに対するワクチン接種を行う方法を提供するか、またはヘプシンタンパク質またはその断片をコードする発現ベクターを個体に接種することによりヘプシンに対する免疫活性化細胞を作成する方法を提供する。
【0010】
本発明はまた、個体におけるヘプシンを標的とする免疫治療法であって、個体から採取した末梢血からin vitroで樹状細胞を作成し、これらの樹状細胞にヘプシンタンパク質またはその断片を負荷し(loading)、次にこれらの樹状細胞を単回投与または複数回投与でその個体に戻す手順を含む。ヘプシン負荷(hepsin-loaded)樹状細胞またはヘプシン発現樹状細胞は、in vitroのヘプシン特異的T細胞反応の刺激にも用いることができ、続いて該個体が自己由来のヘプシン特異的T細胞を投与される養子免疫療法が実施される。
【0011】
ヘプシンまたはヘプシンペプチドを用いた個体へのワクチン接種の効果を監視する方法も提供される。該方法は、該ヘプシンまたはヘプシンペプチドに応答する免疫反応を測定することを含み、該ヘプシンまたはヘプシンペプチドへの免疫反応の誘導が、該個体が前記ヘプシンまたはヘプシンペプチドでワクチン接種されたことを示唆することを特徴とする。
【0012】
本発明の別の実施形態では、アンチセンスヘプシンmRNAをコードするベクターまたはヘプシンタンパク質と結合する抗体を細胞中に導入することにより細胞中のヘプシンの発現を阻害する方法が提供される。
【0013】
さらに別の実施形態では、化合物を個体に投与する工程を含み、化合物は標的部分および治療的部分を有し、該標的部分がヘプシンに対して特異的であることを特徴とする個体への標的治療の方法が提供される。
【0014】
さらに別の実施形態において、配列番号188に相補的である配列を有するヘプシンタンパク質の免疫性断片またはオリゴヌクレオチドを含む組成物が提供される。また、有効量のオリゴヌクレオチドによって、新生物症状(neoplastic state)の治療をこのような治療を必要とする個体に対して行う方法が実施されている。
【0015】
一般的に、前記方法で述べられたヘプシンまたはヘプシンの断片は、配列番号195のアミノ酸配列を有する変異体などのヘプシン変異体と野生型ヘプシンとの両方を対象とする。
【0016】
本発明のその他および更なる態様、特徴および利点は、以下に記載の本発明の現在における好ましい実施形態の説明から明らかになる。これらの実施形態は開示目的で記載されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、卵巣癌細胞のマーカーとしてヘプシンプロテアーゼまたはヘプシン変異体を特定した。他のプロテアーゼと多様に組み合わせて、ヘプシンの発現は個々の腫瘍型の特性を示す。そのような情報は診断検査(アッセイまたは免疫組織化学)および予後評価(表現パターンにより特定される)の基礎となる。
【0018】
腫瘍増殖、浸潤および転移の長期的な治療は、既存の化学療法剤では成功していない。化学療法を複数サイクル実施後、大部分の腫瘍は薬剤に対して耐性となる。本発明は、新規薬剤の設計のために、抗体、プロテアーゼ阻害剤またはプロテアーゼに対するアンチセンス手段のいずれかを用いた新規な治療的介入の標的として、ヘプシンおよびヘプシンタンパク質変異体を特定する。
【0019】
一般的に、以下の様々な実施形態で言及しているヘプシンの用語は、野生型ヘプシンおよびヘプシン変異体の両方を指す。ヘプシン変異体の1例は配列番号195のアミノ酸配列を有する。
【0020】
一実施形態において本発明は、個体にヘプシンに対するワクチン接種を行う方法に関するものであり、(i)ヘプシンタンパク質またはそのペプチドをコードする発現ベクターまたは(ii)ペプチドを負荷された樹状細胞を、個体に接種する工程を含む。ヘプシンまたはそのペプチドの発現は、個体で免疫反応を誘導し、それによって個体にヘプシンに対するワクチン接種を行う。個体が、例えば卵巣癌、肺癌、前立腺癌および結腸癌などの癌を患っているか、またはそれら癌に罹患する危険性がある場合には、一般的にこの方法が適応可能である。好ましいヘプシンペプチドの配列は、配列番号28、29、30、31、88、89、108、109、128、129、148、149、150、151、152、153、154、189、190および191である。他の実施形態では、該ヘプシンタンパク質またはそのペプチドは、配列番号195のアミノ酸配列を有するヘプシン変異体に由来する。
【0021】
本発明はまた、ヘプシンタンパク質またはその断片に免疫細胞を暴露する工程を含む、ヘプシンに対する免疫活性細胞を作成する方法も提供する。通常、ヘプシンタンパク質またはその断片への暴露により免疫細胞が活性化し、それによってヘプシンに対する免疫活性細胞を産生する。一般的に、免疫活性細胞は、B細胞、T細胞および/または樹状細胞である。好ましくは、ヘプシン断片は9残断片から20残基断片であり、より好ましくは配列番号28、29、30、31、88、89、108、109、128、129、148、149、150、151、152、153、154、189、190または191である。別の一実施形態では、該ヘプシンタンパク質または断片は配列番号195のアミノ酸配列を有するヘプシン変異体に由来する。多くの場合、樹状細胞は暴露に先立ち個体から単離され、さらに暴露に続いて個体に再導入される。典型的には個体は、例えば卵巣癌、肺癌、前立腺癌および結腸癌などの癌に罹患しているか、またはそれら癌に罹患する危険性がある。
【0022】
本発明は、個体においてヘプシンを標的とする免疫治療法も提供する。一実施形態では、該方法は、個体から採取された抹消血からin vitro樹状細胞を作成し、リポフェクションまたはその他の手段によりヘプシンタンパク質またはその断片をこれらの樹状細胞に負荷し、続いてこれらの樹状細胞を単回投与または複数回投与により同個体に戻すことを含む。ヘプシンは、組換えDNAベクターによる形質導入後に、これらの樹状細胞において発現されてもよい。または、ヘプシン負荷樹状細胞またはヘプシン発現樹状細胞を用いてin vitroでヘプシン特異的T細胞反応を誘導し、続いて該個体に自己のヘプシン特異的T細胞が投与される養子免疫療法を実施することが可能である。典型的には、個体は、例えば卵巣癌、肺癌、前立腺癌および結腸癌などの癌に罹患しているか、またはそれら癌に罹患する危険性がある。一般的に完全長または断片のヘプシンタンパク質は単離された樹状細胞中に発現される。好ましくは、断片は9残基断片から20残基断片であり、配列番号28、29、30、31、88、89、108、109、128、129、148、149、150、151、152、153、154、189、190または191であることがさらに好ましい。または、ヘプシンタンパク質またはその断片は、配列番号195のアミノ酸配列を有するヘプシン変異体に由来するものであってもよい。
【0023】
配列番号28、29、30、31、88、89、108、109、128、129、148、149、150、151、152、153、154、189、190または191に示されるようなヘプシンまたはヘプシンペプチドを用いて、個体にワクチン接種することの効果を監視する方法も提供されている。該方法は、ワクチン接種された個体から得たT細胞またはCD8T細胞を単離する工程、および該ヘプシンまたはヘプシンペプチドに特異的な免疫反応を測定する工程を含む。免疫反応が、正常な個体から得た細胞により示された免疫反応に比べて高められた場合に、該個体が該ヘプシンまたはヘプシンペプチドによってワクチン接種されたことが示唆される。一般的に、ヘプシン特異的T細胞の増殖量が増加する、ヘプシン特異的T細胞の頻度が増加する、またはヘプシン特異的サイトカイン分泌T細胞の頻度が増加する場合には、個体はヘプシンに対してワクチン接種されている。テトラマー分析およびエリスポットアッセイなどの当業界で周知の標準的アッセイを用いて、ヘプシン特異的T細胞の頻度およびヘプシン特異的サイトカイン分泌T細胞の頻度をそれぞれ測定することができる。
【0024】
本発明の別の態様では、細胞中のヘプシンの発現を阻害する方法を提供し、その方法は、配列番号188に相補的な配列を含むベクターを細胞中に導入する工程を含み、ベクターの発現によって細胞中にヘプシンアンチセンスRNAが産生される。ヘプシンアンチセンスRNAは内因性mRNAにハイブリダイズすることによって、細胞中のヘプシンの発現を阻害する。
【0025】
ヘプシンの発現は抗体によっても阻害することができる。ヘプシンタンパク質またはその断片に特異的な抗体を細胞に導入し、ヘプシンに抗体が結合するとヘプシンタンパク質が阻害される。好ましくは、ヘプシン断片は9残基断片から20残基断片までであり、より好ましくは、断片は、配列番号28、29、30、31、88、89、108、109、128、129、148、149、150、151、152、153、154、189、190または191である。別の一実施形態では、該ヘプシンタンパク質またはその断片は配列番号195のアミノ酸配列を有するヘプシン変異体に由来する。
【0026】
本発明はまた、個体への標的治療の方法に関するものであり、その方法は、標的部分および治療的部分を含む化合物を個体に投与する工程を含み、治療的部分がヘプシンに特異的であることを特徴とする。好ましくは、標的部分は、ヘプシンに特異的な抗体、またはヘプシンと結合するリガンドまたはリガンド結合領域である。同様に治療的部分は好ましくは、放射性同位元素、毒素、化学療法剤、免疫刺激剤または細胞毒性剤である。一般的に個体は、卵巣癌、肺癌、前立腺癌、結腸癌またはその他ヘプシンが過剰発現される癌などの疾患に罹患している。
【0027】
本発明はさらに、適切なアジュバントおよび免疫原性完全長ヘプシンタンパク質またはその断片を含む免疫組成物に関するものである。好ましくは、断片は9残基断片から20残基断片であり、より好ましくは、配列番号28、29、30、31、88、89、108、109、128、129、148、149、150、151、152、153、154、189、190または191である。別の一実施形態では、該ヘプシンタンパク質または断片は配列番号195のアミノ酸配列を有するヘプシン変異体に由来する。
【0028】
本発明はまた、配列番号188またはその断片に相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドも提供する。本発明はさらに、上記オリゴヌクレオチドおよび生理的に許容可能な担体を含む組成物、ならびに、有効用量の上記オリゴヌクレオチドを個体に投与する工程を含む、そのような治療を必要とする個体に新生物症状の治療を行う方法を提供する。典型的には新生物症状は、卵巣癌、肺癌、結腸癌、前立腺癌またはその他ヘプシンが過剰発現される癌であってよい。
【0029】
本発明の範囲と精神から逸脱することなく、本明細書中に開示された発明に対して様々な置換および修飾がなされてもよいことは、当業者にとっては明白である。
【0030】
本発明によると、従来の分子生物学、微生物学および当業の技術分野の範囲内にあるDNA組み換え技術が採用可能である。このような技術は文献中に十分に説明されている。例えば、Maniatis,Fritsch&Sambrook分子クローニング:試験室マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual(1982));DNAクローニング:実践的取り組み(DNA Cloning.A Practical Approach(Volumes I and II,D.N.Glover,ed.1985));オリゴヌクレオチドの合成(Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait,ed.1984));核酸ハイブリダイゼイション(Nucleic Acid Hybridization(B.D.Hames&S.J.Higgins,ed.1985));転写と翻訳(Transcription and Translation(B.D.Hames&S.J.Higgins,ed.1984));動物の細胞培養(Animal Cell Culture(R.I.Freshney,ed.1986));固定化細胞および固定化酵素(Immobilized Cells And Enzymes(IRL Press,1986));B. Perbal,分子クローニングに対する実践ガイド(A Practical Guide To Molecular Cloning(1984))を参照のこと。
【0031】
本明細書中に使用されるように、用語「cDNA」は、遺伝子のmRNA転写産物のDNAのコピーを指すものとする。
【0032】
本発明は、ヘプシンタンパク質またはその断片をコードするDNA配列を含むベクターを包含し、そのベクターは、ホスト内で複製可能であり、さらに、機能的に連結した、a)複製起点;b)プロモーター;およびc)ヘプシンタンパク質をコードするDNA配列を含む。好ましくは、本発明のベクターは、配列番号188に示されるDNA配列の一部を含む。ベクターを使用して、ヘプシンタンパク質、ヘプシンタンパク質の断片またはアンチセンスヘプシンRNAをコードする核酸を増幅および/または発現させることができる。さらに、ベクターは、免疫活性組成物、ヘプシンタンパク質またはその断片を含む融合タンパク質をコードする核酸を発現することができる。これらのベクターは、個体においてヘプシンに対するワクチン接種を行う方法において有用であると思われる。
【0033】
発現ベクターは、複製可能な構築体であり、ポリペプチドをコードする核酸配列が、細胞においてポリペプチドの発現をもたらすことが可能な適切な制御配列に機能的に連結している。このような制御配列の必要性は、選択される細胞および選択される形質転換の方法により異なる。一般的に制御配列は、転写プロモーターおよび/または転写エンハンサー、適切なmRNAのリボソーム結合部位ならびに転写および翻訳の終了を制御する配列を含む。当業者に周知の方法が、適切な転写および翻訳の制御信号を有する発現ベクターを構築するために使用可能である。例えばSambrookら分子クローニング:試験室マニュアル(第2版)(Molecular Cloning:A Laboratory Manual(1989),(2nd Ed.,Cold Spring Harbor Press,N.Y.))を参照のこと。遺伝子およびその転写制御配列は、該転写制御配列が遺伝子の転写を効果的に制御する場合に「機能的に連結している」と定義される。本発明のベクターは、プラスミドベクターおよびウイルスベクターを含むが、それのみに限定されない。本発明の好ましいウイルスベクターは、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、SV40ウイルスまたはヘルペスウイルスに由来するベクターである。
【0034】
本明細書中で使用される用語「オリゴヌクレオチド」は、2つまたはそれ以上、好ましくは3つより多くの、リボヌクレオチドからなる分子と定義される。その正確なサイズは多くの要因に依存し、その要因自体は、オリゴヌクレオチドの究極的な機能および用途に依存する。本明細書中で用いられている用語「プライマー」は、自然に生じたか(精製された制限消化物など)または合成によって作られたかの別を問わず、適切な条件下、すなわちヌクレオチドおよび例えばDNAポリメラーゼなどの誘発剤の存在下ならびに適切な温度およびpH条件下に置かれた場合に、核酸に相補的な鎖の合成を開始することが可能であるオリゴヌクレオチドを指す。プライマーは、一本鎖または二本鎖のいずれであってもよく、誘発剤の存在下で所望の伸長産物の合成を開始するのに十分な長さでなければならない。プライマーの正確な長さは、温度、配列および/またはプライマーの相同性ならびに使用方法を含む多くの要因に依存する。例えば、診断用途において、オリゴヌクレオチドプライマーは、標的配列の複雑さに依存して、通常15−25またはそれ以上のヌクレオチドを含有するが、それ未満のヌクレオチドを含有する場合もある。
【0035】
本明細書中で用いられている「実質的に純粋なDNA」とは、環境中の分子の一部または全体の分離(部分的または全体的な精製)、または本発明のDNAに隣接する配列の変更によって、そのDNAが自然に生じる環境の一部ではないDNAを指す。従って、この用語は、例えば、ベクター、自己複製プラスミドまたはウイルス、あるいは原核生物または真核生物のゲノムDNAに、組み込まれた組換えDNA;あるいは、他の配列から独立した個別の分子(例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または制限エンドヌクレアーゼ消化により産生されたcDNAまたはゲノムまたはcDNA断片)として存在する組換えDNAを含む。その用語は、例えば融合タンパク質のような付加的ポリペプチド配列をコードするハイブリッド遺伝子の一部である組換えDNAも含む。さらに、配列番号188に示されたヌクレオチドの一部を含みかつヘプシンまたはその断片の選択的スプライシング変異体をコードする組換えDNAも含まれる。
【0036】
ヘプシン変異体は本明細書中に開示されている。従って、本発明は、配列番号195のアミノ酸配列またはその断片を含むヘプシン変異体をコードする単離DNAも対象にしている。ヘプシン変異体は、検体中の腫瘍細胞を検出する際に有用であり、その方法は配列番号195のアミノ酸配列またはその断片を含むヘプシンタンパク質変異体の発現を検出する工程を含み、検体中のヘプシン変異体の発現の存在は、検体が腫瘍細胞を含むことを示唆する。一般的に、ヘプシン変異体の発現の検出はDNAレベルまたはタンパク質レベルで実施可能である。代表的な腫瘍細胞として、卵巣癌細胞、前立腺癌細胞および腎癌細胞が挙げられる。
【0037】
本発明は、本明細書中に開示されているヘプシンまたはヘプシン変異体をコードするヌクレオチドの配列に対して、少なくとも約70%の配列同一性、好ましくは少なくとも75%(例えば少なくとも80%)、および最も好ましくは90%の配列同一性を有するDNA群を包含する。2つの配列間の同一性は、マッチングするまたは同一の位置の数の一次関数である。この2つの配列の両方における位置が、同一の単量サブユニットにより占められる場合、例えば、2つのDNA分子のそれぞれにおいてある位置がアデニンにより占められていれば、その位置でそれらは同一である。例えば、10ヌクレオチド長の配列において7つの位置が、第2の10ヌクレオチド長の配列の対応位置と同一であれば、2つの配列は70%の配列同一性を有する。比較する配列の長さは、一般的に50ヌクレオチド以上であり、好ましくは60ヌクレオチド以上、さらに好ましくは75ヌクレオチド以上、および最も好ましくは100ヌクレオチドである。配列の同一性は、典型的に配列解析ソフトウェア(例えば、ジェネティックコンピュータグループ社(Genetics Computer Group(GCC))のSequence Analysis Software Package(ウィスコンシン大学バイオテクノロジーセンター、1710、ユニバーシティアベニュー、マディソン(University of Wisconsin Biotechnology Center,1710 University Avenue,Madison),WI 53705)を用いて測定される。
【0038】
さらに本発明は、例えば選択的mRNAスプライシングまたは選択的タンパク質プロセシングの産物のように少なくとも部分的に配列番号188の一部によってコードされているか、あるいはヘプシン配列の一部が欠失した、ヘプシンまたはヘプシン変異タンパク質も含む。断片または完全なヘプシンポリペプチドは、例えば標識、リガンド、または抗原性を高める手段として作用する他のポリペプチドに共有結合させてもよい。
【0039】
実質的に純粋なヘプシンタンパク質は、例えば自然源からの抽出;ヘプシンポリペプチドをコードする組換え核酸の発現;タンパク質の化学的合成;によって得ることができる。純度は、例えば、ヘプシンに対して特異的な抗体を用いたイムノアフィニティークロマトグラフィーのようなカラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法またはHPLC分析などの、任意の適切な方法により測定することができる。タンパク質は、その天然状態でそれに付随する汚染物質の少なくとも一部から分離されている場合、自然に関連する成分を実質的に含まない。従って、化学合成されるか、またはタンパク質が自然発生する細胞とは異なる細胞系において製造されたタンパク質は、当然、その自然に関連する成分を実質的に含まないであろう。その結果、実質的に純粋なタンパク質は、真核生物タンパク質が天然では生じない、大腸菌、その他の原核生物または任意の他の生物において合成された真核生物タンパク質を含む。
【0040】
実質的に完全長のタンパク質に加えて、発明は、ヘプシンまたはヘプシン変異体タンパク質の断片(例えば、抗原断片)も含む。本明細書中で用いられているように、ポリペプチドに適用されている「断片」の用語は、通常10残基以上、より典型的には20残基以上、および好ましくは30残基以上(例えば50)の長さであるが、完全長の完全配列よりは短い。ヘプシンタンパク質の断片は、当業者に公知の方法、例えば天然のまたは組換えのヘプシンタンパク質の酵素消化、ヘプシンの特定断片をコードする発現ベクターを用いる組換えDNA技術、または化学合成により、作成可能である。候補断片のヘプシンの特性を示す能力(例えばヘプシンに特異的な抗体への結合)は、当業界で公知の方法により評価可能である。
【0041】
純粋なヘプシンまたはヘプシンの抗原断片を用いて、当業者に公知の標準的プロトコールを採用することにより、新規抗体の作成または既存の抗体(例えば診断用アッセイにおける陽性対照など)の試験が可能である。本発明は、例えばウサギにおいて免疫原としてヘプシンまたはヘプシンの断片を用いて作成されるポリクローナル抗血清を含む。当業者に公知のモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体作成の標準的プロトコールを用いる。組換えヘプシンのcDNAクローンを同定しさらに他のcDNAクローンからそれらを区別する能力について、この手順により作成されたモノクローナル抗体をスクリーニングすることができる。
【0042】
本発明は、完全な抗ヘプシンモノクローナル抗体のみではなく、例えばFab(抗原結合断片)または(Fab)断片などの免疫活性抗体断片;組換え一本鎖Fv分子;または、例えば、マウス由来のような1つの抗体の結合特異性部分を含む抗体と、ヒト由来のような別の抗体の残りの部分を含む抗体との、キメラ分子;を包含する。
【0043】
一実施形態では、抗体またはその断片は、毒素、あるいは、当業界で周知の放射性標識、非放射性同位体標識、蛍光標識、化学発光標識、常磁性標識、酵素標識、または比色標識などの検出可能な標識に、結合させてもよい。適切な毒素の例には、ジフテリア毒素、Psueudomonas(シュードモナス)外毒素A、リシンおよびコレラ毒素がある。適切な酵素標識の例には、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼなどがある。適切な放射性同位元素標識の例には、H、125I、131I、32P、35S、14Cなどを含む。
【0044】
In vivo診断の目的において、常磁性同位体もこの発明の方法に基づき用いることができる。磁気共鳴画像法に有用な元素は多数にのぼる。In vivo磁器共鳴画像法に関する検討に対しては、例えばSchaeferら(1989,JACC14:472−480);Shreve ら(1986,Magn.Reson.Med.3:336−340);Wolf,G.L.(1984,Physiol.Chem.Phys.Med.NMR16:93−95);Wesbeyら(1984,Physiol.Chem.Phys.Med.NMR16:145−155);Rungeら(1984,Invest.Radiol.19:408−415)を参照のこと。適切な蛍光標識の例には、フルオレセイン標識、イソチオシアレート標識、ローダミン標識、フィコエリトリン標識、フィコシアニン標識、アロフィコシアニン標識、オプサルデヒド標識、フルオレスカミン標識などがある。化学発光標識の例には、ルミナール標識、イソルミナール標識、芳香族アクリジニウム・エステル標識、イミダゾール標識、アクリジニウム塩標識、シュウ酸塩標識、ルシフェリン標識、ルシフェラーゼ標識、エクオリン標識がある。
【0045】
当業者であれば、本発明に従って採用可能なその他の適切な標識については知っているであろう。抗体またはその断片に対するこれらの標識の結合は、当業者に一般に公知でありおよび使用できる標準的な技法を用いて達成可能である。その典型的な手法は、Kennedyら(1976,Clin.Chien.Acta 70,1−31);およびSchursら(1977,Clin.Chim.Acta 81,1−40)に記述されている。後者によって記述された結合技法はグルタールアルデヒド法、過ヨウ素法、ジマレイミド法、m−マレイミドベンジル−N−ヒドロキシ−スクシンイミドエステル法である。これらの方法のすべては参照により本明細書中に組み入れられる。
【0046】
以下の例は、本発明の様々な実施形態を例示する目的で示されたものであり、いずれの態様においても、本発明を限定することは意図されていない。本明細書中に本来備わっているそれらの目的、結果および便益に加え、本発明が目的を実行し、記述された結果と便益を得るために良好に適用されることを、当業者は容易に理解するであろう。その範囲内での変更および特許請求の範囲に包含される他の用途が、当業者には想起されるであろう。
【実施例1】
【0047】
重複プライマーおよび特異的プライマーを用いたセリンプロテアーゼの増幅
ゲノムDNAを含まないと思われるcDNAの調製物のみを遺伝子発現分析に用いた。セリンプロテアーゼ、メタロプロテアーゼおよびシステインプロテアーゼに対して重複プライマーを調製した。プライマーは、セリンプロテアーゼ、すなわちヒスチジン...アスパラギン酸...およびセリンの触媒三つ組残基の周囲のアミノ酸の共通配列に対して合成した。センス(ヒスチジンおよびアスパラギン酸)重複プライマーおよびアンチセンス(アスパラギン酸およびセリン)重複プライマー両方の配列を表2に示す。
【0048】
数種のプロテアーゼ存在物を、漿液性嚢胞腺癌から得たcDNAのPCR増幅により同定し、サブクローン化した。従って、本明細書中に記載のプロテアーゼは、卵巣癌の最も一般的な形態であるこの種の癌の表面活性を反映する。出願人は粘液性腫瘍型および明細胞型に固有の類似の塩基対サイズのPCR増幅バンドも示している。卵巣癌の約20−25%は、粘液性、明細胞性または子宮内膜性のいずれかに分類される。
【0049】
PCR産物の同一性を確認するため、すべての適切なバンドをPromegaT−ベクタープラスミドに連結し、その連結生成物を用いて、選択培地上に増殖したJM109細胞(プロメガ社(Promega))を形質転換した。個々のコロニーを選択、培養後にプラスミドDNAをWIZARD MINIPREP(商標)DNA精製システム(プロメガ社(Promega))により単離した。配列挿入は、Prism Ready Reaction Dydeoxy Terminatorsサイクル配列キット(アプライドバイオシステム社(Applied Biosystems))を用いて実施した。残存する染料ターミネーターは、CENTRISEP SPIN(商標)カラム(プリンストンセパレーション社(Prinston Separation))を用いて、完全シークエンシング反応から除外し、検体をApplied Biosystems Model 373A DNAシークエンシングシステムに装填した。セリンプロテアーゼプライマーに対するサブクローニングおよび配列決定の結果を表3に要約する。
【表2】

【表3】

【0050】
腫瘍のcDNA由来のPCR産物の配列決定により、これらの遺伝子の潜在的候補を確認する。3つの新規遺伝子はすべて、セリンプロテアーゼファミリーに属する遺伝子に一致する触媒三つ組残基の配列内に保存残基を有する。
【0051】
出願人は、センスヒスチジンおよびアンチセンスアスパラギン酸、ならびにセンスヒスチジンおよびアンチセンスセリンを用いて、正常なcDNAおよび癌のcDNAから増幅したPCR産物を比較した。それらプライマー対に対して約200bpと500bpの期待されたPCR産物が認められた(アスパラギン酸はヒスチジンから約50−70アミノ酸分下流に、セリンはヒスチジンからカルボキシ末端方向に約100−150アミノ酸の位置に認められた)。
【0052】
図1は、アガロースゲルの染色により示された、正常なcDNAと癌のcDNA由来のPCR産物の比較を表す。レーン2では、2つの明瞭なバンドがプライマリー対のセンス−His/アンチセンス−ASP(AS1)において現れ、レーン4のセンス−His/アンチセンス−Ser(AS2)プライマリー対の癌のレーンでは、約500bpの複数のバンドが認められる。
【実施例2】
【0053】
ノーザンブロット分析
ノーザンブロット法によりこれら候補遺伝子の発現を検査することにより重要な情報が得られる。正常な成体の多組織ブロット法の分析により、プロテアーゼを発現可能な正常組織を同定する機会が提供される。最終的には、治療的介入のためにプロテアーゼを阻害する戦略を開発するには、正常組織中の候補遺伝子の発現を理解することが不可欠である。
【0054】
重大な情報がノーザンブロット法による胎児組織の分析により期待されている。癌において過剰発現される遺伝子の多くは、器官形成中に高発現される。指摘したように、肝癌細胞からクローン化され、卵巣癌中に過剰発現されるヘプシン遺伝子は、胎児肝に過度に発現される。ヘプシン遺伝子の発現は、胎児腎中にも検出されることから、腎癌での発現に対する候補となり得る。
【0055】
胎児組織に加え、正常な成体の多組織における遺伝子の発現を試験するノーザンブロット用パネルが市販されている(クロンテック社(CLONTECH))。そのような評価手段は、腫瘍組織対正常組織における個々の転写物の過剰発現を確認するために重要であるのみならず、転写物の大きさを確認し、さらに選択的スプライシングまたは他の転写物の改変が卵巣癌で生じ得るか否かを特定する機会も提供する。
【0056】
ノーザンブロット分析は以下のように実施した:10μgのmRNAを1%ホルムアルデヒドアガロースゲル上に添加し、電気泳動を実施し、さらにHyBond−N(商標)ナイロン膜(アマシャム社(Amersham))上にブロットした。32P−標識したcDNAプローブをPrime−a−Gene Labeling System(商標)(プロメガ社(Promega))を用いて作成した。特異的プライマーにより増幅されたPCR産物をプローブとして用いた。ブロットを30分間プレハイブリダイズさせ、その後、ExpressHyb(商標)のハイブリダイゼーション溶液(クロンテック社(CLONTECH))中において32P−標識したcDNAプローブを用いて68℃で60分間ハイブリダイズさせた。β−チューブリンプローブを用いて、相対的ゲル装填量を特定するための対照ハイブリダイゼーションを実施した。
【0057】
脾臓、胸腺、前立腺、精巣、卵巣、小腸、結腸、末梢血白血球、心臓、脳、胎盤、肺、肝臓、骨格筋、腎臓および膵臓を服務正常なヒト組織ならびに正常なヒト胎児組織(ヒト多組織ノーザンブロット(Human Multiple Tissue Northern Blot);クロンテック社(CLONTECH))を同一のハイブリダイゼーション手順を用いてすべて検査した。
【0058】
正常な卵巣および卵巣癌におけるPCR増幅を比較した実験により、腫瘍組織中のmRNAにおける過剰発現および/または変性が示唆された。TADG−14のノーザンブロット分析は、1.4kbのサイズの転写を確認し、データは卵巣癌における過剰発現を示している(図2)。陽性プラークをスクリーニングするためにPCRと特異的な250bpのPCR産物の両方を用いた単離および精製により、1.2kbのTADG−14のクローンが得られた。その他のプロテアーゼは、表2の適切なプライマーを用いて同一の方法により増幅した。
【実施例3】
【0059】
セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼおよびメタロプロテアーゼに対応するPCR産物
低悪性腫瘍または癌のいずれかにおける固有の発現に基づき、PCR増幅cDNA産物をクローン化し、配列決定し、ヌクレオチドおよびアミノ酸の配列に基づき同定した適切な遺伝子をGCGデータベースおよびESTデータベースに保存した。図3、4および5は、正常組織と癌組織を比較した、セリンプロテアーゼ(図3)、システインプロテアーゼ(図4)およびメタロプロテアーゼ(図5)に対する重複プライマーを用いたPCR産物の陳列を示す。癌組織対正常組織における差異発現に注目する。Sakanariら(1989)の方法に基づき正常組織、低悪性組織および顕性卵巣癌組織におけるmRNA発現を比較することにより、(セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼおよびメタロプロテアーゼの)内因性の酵素活性に関連する保存配列に対する重複cDNAプライマー(表2を参照のこと)を用いてそれらプロテアーゼを同定した。
【実施例4】
【0060】
セリンプロテアーゼ
セリンプロテアーゼ群に関して、ヒスチジン領域のプライマーセンスであるS1を、アンチセンスプライマーであるAS2と併用して以下のプロテアーゼを同定した:
(a)ヘプシン:培養肝癌細胞の増殖に不可欠であり、かつ肝癌細胞で高発現される細胞表面プロテアーゼであることが分かっている肝癌細胞からクローンされたトリプシン様セリンプロテアーゼ(図3、レーン4);
(b)補体B因子(第IXヒト因子):凝固カスケードに関与し、かつ腫瘍細胞に関連したフィブリン分解産物の産生および蓄積に関連するプロテアーゼ(図3、レーン4)。補体B因子は第X凝固因子(クリスマス因子)のファミリーに属する。内因性経路の一部として、補体B因子は、Ca2+リン脂質および第VIIIa e5因子の存在下で第X凝固因子のタンパク質活性化を触媒する;および
(c)ヒト角質層由来の皮膚細胞の落屑に関与する角質層キモトリプシン分解酵素(SCCE)セリンプロテアーゼ(図3、レーン4)。SCCEは、表皮の角質細胞で発現され、角化層内の粘着性組織を分解するように機能するため、皮膚表面の継続した脱落が生じる。
【実施例5】
【0061】
システインプロテアーゼ
システインプロテアーゼ群では、システインプロテアーゼに対する重複センスプライマーおよび重複アンチセンスプライマーを用いて、正常な卵巣癌組織と比べた時の卵巣癌での過剰発現により1つの独特なPCR産物を同定した(図4、レーン3−5)。このPCR産物をクローニングし、さらに配列決定することにより、カテプシンLの配列を同定した。カテプシンLは、その発現および分泌が悪性転換、成長因子および腫瘍プロモーターにより誘導されるリソソームのシステインプロテアーゼである。多くのヒト腫瘍(卵巣腫瘍を含む)は、高レベルのカテプシンLを発現する。カテプシンLシステインプロテアーゼは、ストロメライシンファミリーに属し、強力なエラスターゼ活性とコラーゲナーゼ活性とを有する。公表されたデータは、卵巣の粘液性嚢胞腺癌に罹患した患者の血清中の濃度上昇を示唆する。これまで、他の卵巣腫瘍で発現されることは示されていない。
【実施例6】
【0062】
メタロプロテアーゼ
メタロプロテアーゼに対する重複センスプライマーおよび重複アンチセンスプライマーを用いて、正常な卵巣組織には存在しない1つの独特なPCR産物を腫瘍組織中に検出した(図5、レーン2−5)。この産物をサブクローニングおよび配列決定することにより、その産物が、適切な領域においていわゆるPUMP−1(MMP−7)遺伝子と完全な相同性を有することが示された。この亜鉛結合メタロプロテアーゼは、シグナル配列を有するプロ酵素として発現され、ゼラチンの消化およびコラーゲナーゼの消化において活性を有する。PUMP−1は、結腸直腸癌10例中9例において誘導され、正常な結腸組織と比べ過剰発現されることも認められており、この疾患の進行におけるこの基質の役割が示唆されている。
【実施例7】
【0063】
ヘプシンの発現
ヘプシンのmRNA発現を、定量的PCR法を用いて検出、測定した。定量的PCR法は、一般的にNoonanら(1990)の方法に従い実施された。以下のオリゴヌクレオチドプライマーを用いた:
ヘプシンの順方向5'−TGTCCCGATGGCGAGTGTTT−3'(配列番号8)および逆方向5'−CCTGTTGGCCATAGTACTGC−3'(配列番号9);β−チューブリンの順方向5'−TGCATTGACAACGAGGC−3'(配列番号18)および逆方向5'−CTGTCCTTGACATTGTTG−3'(配列番号19)。
【0064】
β−チューブリンは内部対照として用いた。増幅遺伝子の推定サイズは、ヘプシンでは282bpであり、β−チューブリンでは454bpであった。この研究に用いたプライマーの配列は、ヘプシンに対してはLeytusら(1988)が示したcDNA配列に基づき、またβ−チューブリンに対してはHallら(1983)が示したcDNA配列に基づき、設計した。
【0065】
PCR反応混合物は、従来技術で変換されたmRNA(50ng)に由来するcDNA、ヘプシン遺伝子およびβ−チューブリン遺伝子の両方に対するセンスおよびアンチセンスプライマー(5μmol)、200μmolのdNTPs、5μCiのα−32PdCTPおよび最終容量25μl中反応緩衝剤(プロメガ社(Promega))を含む0.25単位のTaq DNAポリメラーゼ、から構成される。標的配列は、β−チューブリン遺伝子と同時に増幅した。PCR30サイクルをサーマルサイクラー(パーキン−エルマーシータス社(Perkin−Elmer Cetus))中で実施した。PCRの各サイクルは、95℃で30秒間の変性、63℃で30秒間のアニーリング、72℃で30秒間の伸長を含む。PCR産物は、2%アガロースゲル上で分離し、各PCR産物の放射活性をPhosphorImager(商標)(モルキュラーダイナミクス社(Molecular Dynamics))を用いて特定した。平均値の比較にはStudent's-t検定を用いた。
【0066】
ヘプシンは、肝癌細胞からクローン化されたトリプシン様セリンプロテアーゼである。ヘプシンは、そのアミノ末端領域により形質膜に固着され、それによってその触媒領域を細胞外マトリックスに暴露する細胞外プロテアーゼ(分泌シグナル配列を含む酵素)である。ヘプシンは、乳癌細胞株および末梢神経細胞において発現されることも明らかにされている。ヘプシンは、以前は決して卵巣癌と関連付けられなかった。ヘプシン遺伝子に対する特異的プライマーを合成し、胎児組織および卵巣組織(正常組織および卵巣癌組織の両方)のノーザンブロットを用いてヘプシンの発現を調べた。
【0067】
図10Aは、ヘプシンが様々な病理組織型の卵巣癌で発現されるが、正常な卵巣では発現されないことを示している。図10Bは、ヘプシンが、予想通りに胎児肝および胎児腎で発現されるが、胎児脳および胎児肺では極めて低量かまったく発現されないことを示している。図10Cは、ヘプシンの過剰発現が正常な成体組織には認められないことを示している。バックグラウンドレベルを超える軽度の発現が成体の前立腺に認められる。両方のノーザンブロットにおいて同定されたmRNAは、ヘプシン転写物に対し適切なサイズであった。正常卵巣10例および卵巣腫瘍44例において、β−チューブリンおよびヘプシンに対する特定のプライマーを用いた定量的PCRアッセイによりヘプシンの発現を調べ、35サイクルに亘り直線的であることが認められた。発現は、内部対照である32P−β−チューブリンバンドに対する32P−ヘプシンバンドの割合として示した。
【0068】
正常(N)、粘液性(M)および漿液性(S)の低悪性(LMP)腫瘍、および癌(CA)においてヘプシンの発現を調べた。図11Aは、ヘプシンおよび内部対照であるβ−チューブリンの定量的PCRを示す。図11Bは、正常卵巣、LMP腫瘍および卵巣癌におけるヘプシン対β−チューブリンの発現の割合を示している。ヘプシンmRNAの発現量は、正常卵巣のレベルと比較してLMP腫瘍(p<0.005)および癌(p<0.0001)で有意に高値であることが示された。正常卵巣の全10例は、比較的低値のヘプシンmRNAの発現量を示した。
【0069】
ヘプシンmRNAは、一部の低悪性腫瘍を含む卵巣癌の大部分の病理組織型で高度に過剰発現される(図11Aおよび11B)。最も注目すべきこととして、ヘプシンは、試験に供した漿液性腫瘍、子宮内膜性腫瘍および明細胞癌において高発現される。ヘプシンは一部の粘液性腫瘍で高発現されるが、大部分の粘液性腫瘍では過剰発現されない。
【0070】
表4に示す卵巣癌の新鮮凍結組織の腫瘍組織バンクを評価に用いた。悪性腫瘍以外の医学的理由で切除された正常卵巣約100検体を手術により入手し、それは対照として利用可能であった。
【0071】
腫瘍バンクからの腫瘍約100検体を評価したが、それらには境界腫瘍または低悪性腫瘍および卵巣癌を含む大部分の卵巣癌の病理組織の亜型が包含されていた。このアプローチは、正常組織、低悪性腫瘍および卵巣癌の遺伝子の発現を比較するために、新鮮凍結組織(正常および悪性の両方)から調製されたmRNAを用いることを含む。polyAmRNAから調製されたcDNAは、β−チューブリンプライマーおよびp53プライマーの両方を用いて、公知のイントロン−エクソンスプライシング領域を包含するプライマーで調製したすべての調製物をチェックすることによって、ゲノムDNAを含まないと思われた。
【0072】
ヘプシン特異的プライマー(表2を参照のこと)を用いた定量的PCRにより、正常組織8検体、低悪性腫瘍11検体および癌14検体(粘液性タイプおよび漿液性タイプの両方)において、セリンプロテアーゼ ヘプシン遺伝子の発現を特定した(β−チューブリンのメッセージに対するプライマーを内部標準として用いた)(表5)。これらのデータにより、低悪性腫瘍および顕性癌の両方を含む卵巣癌における、ヘプシン表面のプロテアーゼ遺伝子の過剰発現が確認された。ヘプシンの発現は、低悪性腫瘍中において正常レベルを超えて上昇し、この群の高ステージの腫瘍(ステージIII)では低ステージの腫瘍(ステージI)に比べてヘプシンの発現量が多かった(表6)。顕性癌では、漿液性腫瘍が最も高いヘプシン発現レベルを示す一方、粘液性腫瘍は高ステージの低悪性腫瘍群に匹敵するヘプシン発現レベルを示す(図6および7)。
【表4】

【表5】

【表6】

【実施例8】
【0073】
SCCEおよびPUMP−1の発現
SCCE特異的プライマー(図8)およびPUMP−1特異的プライマー(図9)の両方を用いた試験から、卵巣癌でのこれらのプロテアーゼの過剰発現が示されている。
【実施例9】
【0074】
本明細書中で検出されたプロテアーゼの要約
本明細書中に記載した大部分のプロテアーゼは、500bpのPCR産物(図1、レーン4)から産出されたセンス−His/アンチセンス−Serプライマー対から同定した。一部の酵素は良く知られており、それぞれの簡潔な要約を以下に示す。
【0075】
角質層キモトリプシン酵素(SCCE)
同定されたPCR産物は、角質層キモトリプシン酵素のセンス−His/アンチセンス−Serの触媒領域である。この細胞外プロテアーゼは、クローン化および配列決定され、さらに、表皮中の角質細胞表面に発現されることが示された。角質層キモトリプシン酵素は、キモトリプシン様セリンプロテアーゼであり、その機能は皮膚の角質層中の細胞内結合組織の触媒能低下にあると示唆されている。この触媒能低下により皮膚表面からの継続的脱落(皮膚の落屑)が生じる。角質層キモトリプシン酵素の細胞下の局在位置は、正常な非手掌足底表皮の角質層および肥厚性足底角質層の結合部の顆粒層上部である。角質層キモトリプシン酵素は、角質層にのみ関連し、これまでいずれの癌組織中にも認められていない。
【0076】
PCR産物を用いてノーザンブロットを調べて、胎児組織中および卵巣癌中の角質層キモトリプシン酵素の発現を特定した(図12Aおよび12B)。注目すべきこととして、胎児のノーザンブロットでの角質層キモトリプシン酵素のメッセンジャーRNAは、ほぼ存在が検出されなかった(プローブまたはノーザンブロットの問題は、適切な対照を用いることにより除外した)。かすかなバンドが胎児腎に現れた。一方、角質層キモトリプシン酵素mRNAは卵巣癌のmRNAには多量に存在した(図12B)。2種類の適切なサイズの転写物が角質層キモトリプシン酵素に認められた。ヘプシン解析に用いられたcDNAの同一パネルを角質層キモトリプシン酵素の発現に対して用いた。
【0077】
ノーザンブロットの正常な卵巣のレーンには角質層キモトリプシン酵素の発現は検出されなかった。挿入マーカー(β−チューブリン)を含むすべての候補遺伝子の比較により、この観察結果が先入観によるものではないとの確認を得た。β−チューブリン内部対照用プライマーと共に角質層キモトリプシン酵素のプライマーを用いた定量的PCRにより、卵巣癌での角質層キモトリプシン酵素のmRNAの発現を確認したが、正常な卵巣組織での発現は確認できなかった(図13)。
【0078】
図13Aは、正常卵巣組織および卵巣癌から得た角質層キモトリプシン酵素のcDNAの定量的PCRを用いた比較を表している。図13Bは、卵巣組織10例および卵巣癌組織44例における、β−チューブリン内部対照標準に対する角質層キモトリプシン酵素の割合を表している。この場合も、角質層キモトリプシン酵素が卵巣癌で高度に過剰発現されることが認められた。一部の粘液性腫瘍が角質層キモトリプシン酵素を過剰発現するものの、その大部分はそれに該当しないことも認められた。
【0079】
プロテアーゼM
プロテアーゼMはHis−−serプライマー対のサブクローンにより同定された。このプロテアーゼは、最初にAnisowiczら(1996)によってクローン化され、癌で過剰発現されることが示された。予備試験の評価からこの酵素は卵巣癌で過剰発現されることが示されている(図14)。
【0080】
補因子Iおよび補体因子B
凝固経路に関連する数種のセリンプロテアーゼにもサブクローン化を実施した。これら酵素の発現に関する定量的PCRによる正常および卵巣癌の評価は、正常卵巣組織と比較した場合にこのmRNAが卵巣癌で明らかには過剰発現されていないことを示した。同一パネルの腫瘍を各候補プロテアーゼの評価に用いたことに留意すべきである。
【0081】
TADG−12
TADG−12は、センス−His/アンチセンス−Aspのプライマー対から同定した(図1、レーン1および2を参照のこと)。レーン2の両方のPCR産物をサブクローン化した後、200bpの産物が、GebBankに含まれていない独特なプロテアーゼ様配列を含んでいた。この200bpの産物は、セリンプロテアーゼのファミリーのHis−Asp領域に共通する保存アミノ酸の多くを含む。2つ目のより大きなPCR産物(300bp)は、TADG−12(His−Asp配列)と高い相同性を有することが示されたが、約1100bpの独特な配列も含んでいた。特異的プライマーの合成およびそれに続く3つの異なる腫瘍から得られたPCR産物の配列決定により、大きい方のPCR産物(卵巣癌の約50%に存在する)は、その配列の5末端付近(およびヒスチジン付近)に約100bpの挿入部分を含むことが示された。スプライシング部位の位置が適切でありかつその挿入部分がオープンリーディングフレームを含まないという事実から、その挿入部分は保持されたゲノムイントロンであると考えられる(図15を参照)。このことは、全卵巣癌の半数程度における、イントロンの保持を生じさせるスプライシング部位突然変異の可能性、またはTADG−12遺伝子での配列転座の可能性を示唆する。
【0082】
TADG−13およびTADG−14
特異的プライマーをTADG13−およびTADG−14に対して合成し、正常組織および卵巣癌組織での遺伝子発現を評価した。卵巣組織のノーザンブロット分析により、TADG−14遺伝子の転写物は約1.4kbであり、卵巣癌組織で発現されることが示されたが(図16A)、正常組織では著明な転写物は認められなかった。特異的プライマーを用いた定量的PCR試験において、正常卵巣での発現と比較して卵巣癌組織でTADG−14発現が増大することが認められた(図16B)。TADG−14に対する特異的PCR産物の存在が、HeLaライブラリー中および卵巣癌ライブラリー中の両方で確認された。TADG−14に対応する数種類の候補配列を、HeLaライブラリーからスクリーニングおよび単離した。
【0083】
配列の相同性から、明らかにこれらの遺伝子はセリンプロテアーゼのファミリーに適合する。しかし、TADG−13およびTADG−14は、本発明の特定プライマーにより正常細胞および腫瘍細胞で評価することが可能であり、さらに、これらの遺伝子の発現の有無が特定腫瘍タイプに対する診断または治療の選択に有用である、これまでに報告されていない遺伝子である。
【0084】
PUMP−1
金属結合領域および保存ヒスチジン領域に対する重複プライマーを用いる同様の方法において、マトリックスメタロ−プロテアーゼ7(MMP−7)と同一の差異発現されるPCR産物を同定し、本明細書中ではPUMP−1と称する。PUMP−1に特異的なプライマーを用いたPCRの実施により、ノーザンブロット分析用に250bpの産物を作成した。
【0085】
PUMP−1は、胎児肺組織および胎児腎組織で差異発現された。図17Aは、ヒト胎児組織でのPUMP−1の発現を示しているが、一方、胎児脳および胎児肝のいずれにおいても転写産物は検出できなかった。図17Bは、ノーザンブロット分析を用いて正常卵巣および癌の亜群におけるPUMP−1の発現を比較している。注目するべきこととして、PUMP−1は卵巣癌組織で発現され、この場合も、正常組織では転写産物の存在は検出されなかった。PUMP−1mRNAの正常組織での発現と卵巣癌での発現を比較する定量的PCRにより、この遺伝子が悪性度の低い漿液性腫瘍の大部分を含む漿液性癌で高発現され、この場合も粘液性腫瘍では発現レベルが低いことが示された(図18および18Bを参照)。一方、PUMP−1は、これまでに粘液性腫瘍において過剰発現が最も高頻度で認められるプロテアーゼである(表7参照のこと)。
【0086】
カテプシン−L
個々のシステイン残基およびヒスチジン残基を取り囲む保存領域に対する重複システインプロテアーゼプライマーを用いて、数種の漿液性癌においてカテプシン−Lプロテアーゼを同定した。正常組織および卵巣腫瘍組織におけるカテプシン−Lの発現についての最初の評価により、カテプシン−Lプロテアーゼの転写物が正常組織および腫瘍組織の両方に存在することが示された(図19)。一方、本発明のその他のプロテアーゼとの組み合わせでの存在の有無により、特定腫瘍タイプの同定および治療選択が可能となる。
【0087】
要約
セリンプロテアーゼ、メタロプロテアーゼおよびシステインプロテアーゼの保存領域に対する重複プライマーは、卵巣癌で過剰発現されるmRNAsの遺伝子セットをもたらした。明らかに過剰発現される遺伝子は、セリンプロテアーゼ、ヘプシン、角質層キモトリプシン酵素、プロテアーゼM TADDG12、TADG14およびメタロプロテアーゼPUMP−1を含む(図19および表7参照のこと)。図14に要約された正常組織および卵巣腫瘍組織のノーザンプロット分析により、ヘプシン、角質層キモトリプシン酵素、PUMP−1およびTADG−14の過剰発現が明らかになった。装填量を制御するためにβ−チューブリンプローブを含めた。
【0088】
大抵、これらのタンパク質はこれまで卵巣癌細胞の細胞外マトリックスに関連付けられなかった。本明細書中に開示された3つの新規候補セリンプロテアーゼを初めとして、転移性癌の増殖、シェディング、浸潤およびコロニー形成に寄与する可能性のあるプロテアーゼのパネルは、これまで記載されたことはなかった。悪性増殖または悪性程度のいずれかに関連する細胞外プロテアーゼパネルの確立は、診断マーカーまたは予後マーカーを同定する機会およびこれらプロテアーゼの抑制またはダウンレギュレーションによる治療的介入の機会を提供する。
【0089】
腫瘍に特異的なプロテアーゼの適切な領域をコードする即席の遺伝子特異的プライマーが手軽に入手可能であることから、ノーザン分析およびサザン分析を用いた特異的cDNAプローブの増幅が可能となり、組織中の癌の存在を検出するためのマーカーとしてのプローブの使用が可能となる。プローブにより、正常卵巣と比べて、初期ステージおよび進行期ステージの癌のみならず低悪性腫瘍における遺伝子発現のより広範な評価も可能となる。すべての癌の亜群から得た新鮮凍結組織のパネルの評価(表4)により、あるプロテアーゼが初期ステージの疾患または特定の癌の亜群に顕著に発現されるか否かの特定が可能となる。各遺伝子の発現が腫瘍の進行における特定ステージに限定されるか否かおよび/または転移性病変に関連するか否かも特定された。プロテアーゼの特定の組み合わせを検出することは、特定の腫瘍型の特性を同定することであり、診断と治療の選択に対して有用な情報をもたらす。特定腫瘍型は、各特定腫瘍の特有の発現パターンにより正確に診断され得る。
【表7】

【実施例10】
【0090】
ヘプシンペプチドのランキング
ワクチンまたは免疫刺激に関して、ヘプシンタンパク質の個別の9−11merペプチドを調べて、一般住民における上位8つのハプロタイプに対する各ペプチドの結合をランク付けした(Parkerら(1994))。この分析に用いたコンピュータプログラムは、米国国立衛生研究所のウェブサイトに掲載されている。表8は、特定HAL対立形質(HLA allele)に対する各ペプチドの結合の予想半減期に基づいたペプチドランキングを示す。より長い半減期は、ペプチドと特定HLA(ヒト白血球抗原)分子とのより強い会合を示唆する。HLA対立形質に強く結合するヘプシンペプチドは推定上の免疫原であり、ヘプシンに対して個体にワクチン接種するために用いられる。
【表8−1】

【表8−2】

【表8−3】

【表8−4】

【実施例11】
【0091】
ヒトCD8細胞傷害性T細胞に対する標的エピトープとしてのヘプシンペプチド
2つのコンピュータプログラムを用いて、HLAクラスI分子の結合モチーフを含む9−merのペプチドを同定した。Parkerらにより考案された計画(1994)に基づいた1つ目のプログラムは、米国立衛生研究所の情報技術センターのBioinformatics and Molecular Analysis Section(生物情報科学および分子分析部門,BIMAS)により開発され、SYFPEITHIとして公知の2番目のプログラムは、ドイツのTubingen大学(ドイツ)のRammenseeらにより考案された。
【0092】
HLA A2.1結合モチーフを含むペプチドを合成し、HLA A2.1結合能を直接試験した。この技術は、ペプチドトランスポーター欠損ペプチドであり、従ってペプチドを負荷しさらに表面発現のためにHLAクラスIフォールディングを安定化させることができないため内因性HLAクラスIの発現量が少ないT2細胞を用いる。HLA A2.1(A*0201)に結合可能な内因性ペプチドの添加は、フローサイトメトリーにより明らかにされたように(Nijimanら(1993))細胞表面で適切に折り畳まれたHLA A2.1分子数を増やすことができることが示されている。
【0093】
以下に記載のように正常な成体ドナーから特異的CD8CLT反応を誘導する能力について、HLA A2.1以外のHLAクラスI分子に対する結合モチーフを有するペプチドを直接試験した。
【0094】
単球由来のDCを、適切なHLAタイプを有する健常成体ドナーから採取された末梢血から作成した。接着性単球を標準的技術(Santinら(2000))に従い、GM−CSFおよびIL−4Aを添加したAIM−V培地(ギブコ−BRL社(Gibco−BRL))中で培養した。5−6日後、PGE、IL−1bおよびTNFaを加えてさらに48時間DCを成熟させた。
【0095】
成熟DCにペプチドを負荷し(2×10のDCに1mlの無血清AIM−V培地に37℃で2時間50mg/m1のペプチドを負荷)、AIM−V培地中または5%ヒトAB型血清を添加したAIM−V培地中で1×10/m1の末梢血単核細胞(PBMC)と一緒に培養する前に1回洗浄した。PBMC対DC比は20:1〜30:1の間とした。7日後、ペプチド負荷放射線照射自己DCまたはPBMCで、それぞれ10:1〜20:1または1:1〜1:10の間の反応物対刺激物の比率で反応性T細胞を再刺激した。この時点で培養物に組換えヒトIL−2(10−100U/ml)を加え、新鮮培地にIL−2を添加した培地を2−4日毎に50−75%取り替えて供給した。14−21日毎のペプチド再刺激によりT細胞株を樹立および維持した。2回目または3回目の抗原刺激後に、抗CD8連結磁気ビーズ(ダイナル社(Dynal,Inc.))を用いたポジティブセレクションにより反応性細胞であるCD8T細胞を精製した。
【0096】
ペプチド特異的細胞傷害性を標準的な5−6時間のマイクロウェル51Cr放出アッセイ(Nazarukら(1998))により試験した。自己EBV−形質転換リンパ芽球細胞株(LCL)にペプチド(50ng/ml、37℃で1時間)を負荷し、続いて51Crで標識した(200−300ml中に50mCi、37℃で1時間)。10:1から1.25:1の間のエフェクター:標的比率で、ペプチド負荷51Cr標識LCLをCD8T細胞と共に培養した。細胞傷害性は、培養物の上清中に放出された51Crの割合(%)として記録した。
【0097】
ヘプシンペプチド170−178
ヘプシンペプチド170−178(配列番号28)は、T2細胞におけるA2.1発現のアップレギュレーションにより示されるように(データは示されていない)、HLA A2.1結合ペプチドである。ヘプシン170−178に対して特異的なCD8CTLは、ペプチド負荷自己LCLを殺傷したが、対照であるペプチドを含まないLCLは殺傷しなかった(図20)。異種HLA A2.1を発現するペプチド負荷LCLは効率的に殺傷されたが、HLA A2.1を欠く標的は殺傷されなかった。ナチュラルキラー感受性K562細胞は溶解されなかった。ヘプシン170−178負荷LCLに対する細胞傷害性は、非多形HLAクラスI決定基に対して特異的なMAbでブロックされ、溶解(殺傷)はHLAクラスI拘束性であることが確認された。細胞傷害性は、HLA A2.1に対して特異的なMAbによってもブロックされた。
【0098】
ヘプシンペプチド172−180
ヘプシンペプチド172−180(配列番号148)は、HLA B27と結合することがコンピュータ解析により予測された。このことは直接には証明されていないが、細胞傷害性アッセイは、ヘプシン172−180に特異的なCD8CTLが、ペプチド負荷HLA B27発現自己および異種LCLを殺傷できるが、異種HLA B27を発現しないペプチド負荷LCLまたはペプチドを含まない対照LCLを認識できないことを示した。(図21)。ナチュラルキラー感受性K562細胞は溶解されなかった。ヘプシン172−180負荷LCLに対する細胞傷害性は、非多形HLAクラスI決定基に対して特異的なMAbによりブロックすることができ、溶解はHLAクラスI拘束性であることが確認された。
【0099】
ヘプシンペプチド42−51
ヘプシンペプチド42−51(配列番号189)は、HLA A*0201と結合することがコンピュータ解析により予測された。ヘプシン42−51に特異的なCD8CTLによりペプチド負荷自己LCLが殺傷されたが、対照であるペプチドを含まないLCLは殺傷されなかった(図22)。異種HLA A*0201を発現するペプチド負荷LCLは効率的に殺傷されたが、HLA A*0201を欠く標的は殺傷されなかった。ナチュラルキラー感受性K562細胞は溶解されなかった。ヘプシン42−51が負荷されたLCLに対する細胞傷害性は、非多形HLAクラスI決定基に対して特異的なMAbによりブロックすることができ、溶解はHLAクラスI拘束性であることが確認された。細胞傷害性は、HLA A2.1に対して特異的であるMAbによってもブロックされた。
【0100】
ヘプシンペプチド284−293
ヘプシンペプチド284−293(配列番号190)は、HLA A*0201と結合することがコンピュータ解析により予測された。ヘプシン284−293に特異的なCD8CTLによりペプチド負荷自己LCLが殺傷されたが、対照であるペプチドを含まないLCLは殺傷されなかった(図23)。異種HLA A*0201を発現するペプチド負荷LCLは効率的に殺傷されたが、HLA A*0201を欠く標的は殺傷されなかった。ナチュラルキラー感受性K562細胞は溶解されなかった。ヘプシン284−293が負荷されたLCLに対する細胞傷害性は、非多形HLAクラスI決定基に対して特異的なMAbによりブロックすることができ、溶解はHLAクラスI拘束性であることが確認された。
【0101】
ヘプシンペプチド308−317
ヘプシンペプチド308−317(配列番号191)は、HLA A*0201と結合することがコンピュータ解析により予測された。ヘプシン308−317に特異的なCD8CTLによりペプチド負荷自己LCLが殺傷されたが、対照であるペプチドを含まないLCLは殺傷されなかった(図24)。異種HLA A*0201を発現するペプチド負荷LCLは効率的に殺傷されたが、HLA A*0201を欠く標的は殺傷されなかった。ナチュラルキラー感受性K562細胞は溶解されなかった。ヘプシン308−317が負荷されたLCLに対する細胞傷害性は、非多形HLAクラスI決定基に対して特異的なMAbによりブロックすることができ、溶解はHLAクラスI拘束性であることが確認された。
【実施例12】
【0102】
CD4T細胞およびCD8T細胞の増殖反応を誘導する組換え完全長ヘプシン
以下の実施例は、組換え完全長ヘプシンを負荷された樹状細胞は、ヘプシンに対するCD4T細胞およびCD8T細胞の増殖反応の両方を誘導できることを示す。
【0103】
ヘプシン由来のペプチドを負荷された樹状細胞(DC)が、健常成体においてHLA A2.1拘束性およびHLA B27拘束性のCD8CTL反応を効率的に刺激し得ることを示す上記に開示されている結果は、ヘプシンが卵巣癌の樹状細胞ベースの免疫療法の標的としての第一候補となり得ることを示唆する。さらに、免疫療法目的のための標的抗原としてのヘプシンの有用性は、卵巣癌に限定されないであろう。最近の一連の遺伝子発現のプロファイリング研究により、ヘプシンが前立腺癌の重要な腫瘍マーカーとして同定された。ヘプシンは、一貫して前立腺癌で高発現されたが、良性の前立腺肥大症では高発現されなかった(Luoら(2001));Mageeら(2001);Welshら(2001);Dhanasekaranら(2001)およびStameyら(2001))。これらの報告内容は、ヘプシンが前立腺癌の樹状細胞ベース免疫療法の標的としての第一候補にもなり得るとの提案を強く支持する。
【0104】
しかしながら、ペプチドの使用は、既定のHLAクラスIタイプに対する反応を限定し、それによって患者選択に制限が課せられる。完全長の組換え腫瘍抗原を負荷された樹状細胞を用いればこの問題は回避され、CD8T細胞反応およびヘルパーCD4T細胞反応の両方を誘導可能であるとの見込みをもたらし、後者は効果的な抗腫瘍免疫の誘導および維持において重要な役割を担うと考えられる。さらに、潜在的に重要な完全長の腫瘍抗原の使用による便益は、CD8T細胞反応が自然に処理されたエピトープに対して誘導され、そのことは、CD8T細胞が標的卵巣癌細胞により自然に処理および提示された内因的に合成された抗原を認識する可能性を著明に高める。
【0105】
ヘプシンcDNAをIPTG誘導性のpQE−30ベクター(キアゲン社(Qiagen))内でクローン化し、大腸菌で発現させた。アミノ末端での6x−ヒスチジンタグの付加は、Ni−NTA樹脂によるアフィニティー精製を促進する。樹状細胞は、上述したように末梢血単球前駆体に由来する。成熟樹状細胞は、HLAクラスIおよびクラスII分子、補助シグナル分子(例えば、CD86およびCD40)およびCD83(成熟樹状細胞で発現するが、未成熟単球由来樹状細胞では発現しない)を高発現するが、CD14(マクロファージおよび単球マーカー)を発現しない。
【0106】
ヘプシン特異的T細胞の増殖を誘導するため、DOTAPリポフェクションにより、精製した組換えヘプシンを成熟樹状細胞に負荷した。簡潔に言えば、500mlのAIM−V培地中(インビトロゲン社(Invitrogen),グランドアイランド(Grand Island),NY)において、25mgのヘプシンを15mgのDOTAP(ロシュアプアイドサイエンス社(Roche Applied Science),インディアナポリス(Indianapolis),IN)と混合した。この混合物を37℃で2時間まで1−2×10個の樹状細胞と共にインキュベートした。5%ヒトAB型血清を加えたAIM−V培地中、30:1の反応物−刺激物比で、健常成体ドナーから得た自己末梢血リンパ球と共にヘプシン負荷樹状細胞を共培養した。7−10日後、10:1の反応物−刺激物比で、ヘプシン負荷樹状細胞で反応性T細胞を再刺激した。T細胞培養物に組換えIL−2(10−100U/ml)を添加し、IL−2を加えた培地を2−4日毎に50−75%取り替えて供給した。その後14日毎にヘプシン負荷DCでの再刺激によりT細胞株を維持した。3回目の再刺激前に、必要に応じて抗CD4T細胞および抗CD8T細胞連結磁気ビーズを用いたポジティブセレクションにより、CD4T細胞およびCD8T細胞を精製した。得られた集団は、フローサイトメトリーによれば98%を超える純度であった。
【0107】
CD4T細胞およびCD8T細胞を、それぞれ4回目および5回目の継代後にマイクロウェルリンパ球増殖アッセイで試験した。DOTAPリポフェクション(5×10/ウェル)によりヘプシンを負荷した樹状細胞またはDOTAPのみ(5×1043/ウェル)で処理した対照樹状細胞と共に、T細胞(2×10/ウェル)を培養した。アッセイは72時間培養して行った。増殖反応は、各マイクロウェル培養物にH−チミジン(1mCi/ウェル)を最後の24時間添加して測定した。測定結果は、刺激指数(単独培養したT細胞によるH−チミジンの取込み量に対する樹状細胞を用いて培養したT細胞によるH−チミジンの取込み量の比率)として計算した3つのマイクロウェルの平均として示す。
【0108】
対照樹状細胞による刺激に反応した一部の環境増殖が認められたが、このアッセイは、ヘプシンを負荷した樹状細胞がCD4T細胞およびCD8T細胞の両方による有意な抗原特異的リンパ球増殖反応を誘導できることを明確に示す(図25)。これらの結果は、腫瘍標的抗原としてヘプシンを用いた樹状細胞ベース免疫療法の可能性を強調する。
【0109】
完全長のヘプシンを発現する組換えアデノウイルスに感染した自己樹状細胞の認識によって示されるように、ヘプシン特異的CD4T細胞は、内因的に合成されたヘプシン抗原を発現する標的細胞も認識する(図26)。ヘプシン特異的CD4T細胞は、ヘプシン腫瘍抗原を処理および提示する標的を認識すると、IFNgも発現する(図27)。IFNgは、エフェクターCD8細胞傷害性T細胞の反応を支援するTh1ヘルパーCD4T細胞の反応のための重要サイトカインであることから、IFNgの発現は重要である。IFNgは、抗腫瘍免疫において直接的な腫瘍特異的細胞傷害性反応よりも重要な役割も果たし得る。
【0110】
要約すれば、本発明は、特にヘプシンを標的とし、さらにヘプシンを発現する腫瘍の治療に適用される、免疫療法用途を提供する。標的疾患には卵巣癌および前立腺癌が含まれるが、ヘプシンの発現が証明され得る任意のその他の悪性腫瘍も含む。免疫療法用途は下記のものを含むがそれらに限定されるものではない:免疫療法はヘプシン負荷樹状細胞のワクチン接種の形態をとることが可能であり、その療法では、樹状細胞を患者から採取した抹消血からin vitroで作成し、リポフェクション法またはその他の方法によりヘプシンを負荷し、続いて、単回投与または複数回投与のいずれかにより自己細胞ワクチンとして患者に戻す。ヘプシンは、組換えDNAベクターを用いた形質導入後に樹状細胞で発現させることも可能であり、そのようなヘプシン形質導入樹状細胞は、次に細胞ワクチンとして用いることができる。
【0111】
単独でまたはその他の免疫学的活性成分との融合タンパク質としてのいずれでヘプシンを発現する組換えDNAベクターは、ヘプシンを発現する腫瘍の治療のためのDNAワクチンとして用いることが可能である。ヘプシンを負荷された樹状細胞またはヘプシンを発現する樹状細胞は、in vitroで抗原特異的T細胞反応を誘導するのに用いることができ、その後、患者に自己ヘプシン特異的T細胞が投与される養子免疫療法が実施される。
【0112】
ヘプシンに基づくモノクローナル抗体療法も明らかである。ヘプシンは、腫瘍細胞の表面において膜貫通タンパク質として発現される。ヘプシンに特異的なヒトモノクローナル抗体またはキメラヒト化モノクローナル抗体の構築は、ヘプシンを発現する悪性腫瘍の免疫療法のための魅力的な選択肢を提供する。
【実施例13】
【0113】
ヘプシンペプチド170−178に特異的なCD8CTLは、内因的に発現されたヘプシン腫瘍抗原を認識する
ペプチド特異的CD8CTLが、内因的に発現されたヘプシン腫瘍抗原を処理および提示する標的を認識できるか否かを特定するため、フローサイトメーター技術により発現量を直接監視する手段として、共にグリーン蛍光タンパク質(GFP)と結合したヘプシンおよびSCCEを発現する組換えアデノウイルスを構築した。ヘプシン170−178に特異的なCD8CTLは、完全長のヘプシン抗原(Ad−GFP/ヘプシン)を発現する組換えアデノウイルスに感染した自己標的を認識および殺傷したが、Ad−GFP/SCCEに感染した標的は認識しないことが認められた(図28)。これらの結果は、ヘプシン170−178ペプチドが、ヘプシン特異的CD8CTLのための自然に処理および提示されたCTLエピトープであることを示す。
【実施例14】
【0114】
ヘプシン変異体
セリンプロテアーゼファミリーのメンバーは、腫瘍によって高発現および分泌されるため、それらは診断および治療の潜在的標的となり得る。これらの酵素の多くが、腫瘍により優勢的に産生されるが、しばしば少数の正常な組織においてもある程度発現される。
【0115】
より特異的な腫瘍の診断および標的化の可能性をさらに高めるために、酵素ファミリーに属する可能性のある独特な配列を提供することが有用であろう。本実施例は、ヘプシン酵素の転写変異体を開示する。ヘプシン変異体は、腫瘍におけるヘプシンの認識に潜在的特異性をもたらすことができる独特なイントロン配列を含む。
【0116】
ヘプシン遺伝子の完全転写物を潜在的変異体に関して調べた時、エクソン12とエクソン13との間のイントロン配列を含む1つの変異体が検出された。卵巣癌および前立腺癌から得た組織および正常組織のPCR分析は、イントロン12の完全配列を含むヘプシン変異体の発現のためのより大きなサイズでかつ適切な長さのPCRバンドの発現を確認した。
【0117】
図29は、卵巣癌および前立腺癌におけるヘプシン変異体の発現を示す。より広範な前立腺癌群を調べることにより、調べた前立腺癌のすべてでこの変異体ヘプシンV12の存在が示された(図30)。これまでのところ、ヘプシンV12は4/6例の卵巣癌と10/10例の前立腺癌で発現が認められている。
【0118】
センスプライマーおよびアンチセンスプライマーをヘプシンのエクソン12および13に対して作成した(ヘプシンVセンス 5'−GCG GTG GTC CCT TTG TGT GT−3',配列番号192;ヘプシンVアンチセンス 5'−AAG AGC ATC CCG TCA TCA GG−3',配列番号193)。すべてのPCRは、50ngのmRNAから得られた卵巣癌cDNA、それぞれ5pmo1のセンスプライマーおよびアンチセンスプライマー、0.2nmo1のdNTPs、2.5nmolのMgC1および1x緩衝液中のTaqポリメラーゼ1Uから成る20u1の反応物中で実施した。この混合液に94℃で1.5分の変性を施し、続いて下記を含む35サイクルのPCRを実施した:94℃で30秒間の変性、各プライマーセットに対して適切な温度で30秒間のアニーリング、およびサイクル後の72℃で1分間の伸長、最終サイクルではさらに7分間の伸長を含む。
【0119】
イントロン12の配列が含まれると、追加されたイントロン配列の中央当たりに停止コドンが存在するため、転写サイズの伸長(図31)、および修飾アミノ酸配列をもたらした(図32)。ヘプシンのイントロン12の発現に関するESTデータの分析は、腎の明細胞癌およびジャーカット細胞株にイントロン12の存在を示唆する。ヘプシンのイントロン12に由来する切断アミノ酸配列の存在は、この変異体を発現する腫瘍のより特異的な診断および標的化の可能性を提供する。対象となる腫瘍は、卵巣癌、前立腺癌および腎癌を含むが、これらに限定されない。
【0120】
ヘプシン変異体の免疫原性は以下のように評価することができる。ヘプシン変異体は、単一ペプチド(例えばアミノ酸16個のペプチド)として合成することができ、さらにこれらペプチドを用いて樹状細胞(DC)をパルスすることができる。あるいは、12番目のエクソンからの変異配列およびフランキング配列を組み込んだペプチドを合成することができる。後者のアプローチの理論的根拠は、エクソン−イントロン接合が新規な免疫原性エピトープをコードし得ることである。次に、各ペプチドによりパルスされた自己刺激細胞(LCLまたはDC)に対する増殖アッセイでCD4ヘルパーT細胞の反応を評価することができる。CD8CTL反応は、完全長のヘプシンを発現する組換えアデノウイルスに感染した自己マクロファージ標的、および変異抗原を発現する自己腫瘍細胞またはHLA適合腫瘍細胞に対して試験することができる。
【0121】
下記の参考文献を本明細書中で引用した:
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本明細書に記載されたすべての特許または文献は、本発明が属する技術分野の当業者のレベルを示す。さらに、これらの特許および文献は、各文献が具体的かつ個別に参照により組み込まれることが指示されたのと同様に、参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】図1は、正常なcDNAおよび癌のcDNAに由来するPCR産物のアガロースゲルの比較を示す。
【図2】図2は、ヘプシン、SCCE、PUMP−1、TADG−14およびβ−チューブリンのプローブを用いた卵巣癌のノーザンブロット分析を示す。
【図3】図3は、セリンプロテアーゼ重複プライマー群を用いた増幅を示す:正常なcDNA(レーン1)および腫瘍のcDNA(レーン2)を用いた、アスパラギン酸アンチセンス(AS1)とヒスチジンセンス(S1)プライマーでの増殖;ならびに正常なcDNA(レーン3)および腫瘍のcDNA(レーン4)を用いた、セリンアンチセンス(AS2)とヒスチジンセンス(S1)プライマーでの増殖。
【図4】図4は、システインプロテアーゼ重複プライマーを用いた増幅を示す。正常細胞(レーン1)、低悪性細胞(レーン2)、漿液性細胞(レーン3)、粘液癌(レーン4)および明細胞癌(レーン5)。
【図5】図5は、メタロプロテアーゼ重複プライマーを用いた増幅を示す。正常細胞(レーン1)、低悪性細胞(レーン2)、漿液性細胞(レーン3)、粘液癌(レーン4)および明細胞癌(レーン5)。
【図6】図6は、セリンプロテアーゼであるヘプシンに対する特異的プライマーによる増幅を示す。正常細胞(レーン1−3)、低悪性腫瘍(レーン4−8)および卵巣癌(レーン9−12)での発現。
【図7】図7は、正常細胞、低悪性腫瘍および卵巣癌におけるヘプシンの発現量を示す。Sは漿液性、Mは粘液性、LMPは低悪性腫瘍を示す。
【図8】図8は、正常細胞、低悪性腫瘍および卵巣癌におけるセリンプロテアーゼ角質層キモトリプシン酵素(SCCE)の発現を示す。
【図9】図9は、正常細胞(レーン1−2)および卵巣癌組織(レーン3−10)におけるメタロプロテアーゼPUMP−1(MMP−7)の遺伝子発現を示す。
【図10】図10Aは、正常卵巣および卵巣癌におけるヘプシン発現のノーザンブロット分析を示す。レーン1は正常卵巣(症例10);レーン2は漿液性癌(症例35);レーン3は粘液癌(症例48);レーン4は子宮内膜性癌(症例51)およびレーン5は明細胞癌(症例54)である。症例35、51および54では、ヘプシン1.8kbの転写産物の10倍を超える増加が認められた。図10Bは、正常なヒト胎児におけるヘプシンのノーザンブロット分析を示す。図10Cは、成体組織におけるヘプシンのノーザンブロット分析を示す。ヘプシン転写産物の有意な過剰発現が、胎児肝および胎児腎の両方に認められる。注目すべきことに、ヘプシンの過剰発現は成体組織中には認められない。バックグラウンド値を超える軽度の発現が成体の前立腺中に認められる。
【図11】図11Aは、正常組織(N)、粘液性(M)および漿液性(S)の低悪性(LMP)腫瘍、および癌(CA)におけるヘプシン発現を示す。β−チューブリンが内部対照として用いられた。図11Bは、正常卵巣、LMP腫瘍および卵巣癌におけるヘプシン:β−チューブリンの割合を示す。ヘプシンのmRNA発現量は、正常卵巣と比べて、LMP腫瘍(p<0.005)および癌(p<0.0001)において有意に増加した。正常卵巣10症例すべてが相対的に低レベルのヘプシンmRNA発現を示す。
【図12】図12Aは、胎児組織におけるSCCE遺伝子のmRNA発現のノーザンブロット分析を示す。図12Bは、卵巣組織におけるSCCE遺伝子のmRNA発現のノーザンブロット分析を示す。
【図13】図13Aは、正常な卵巣および卵巣癌から得たSCCEのcDNAの定量的PCRの比較を示す。図13Bは、正常組織10例および卵巣癌組織44例におけるβ−チューブリンに対するSCCEの割合を比較した棒グラフを示す。
【図14】図14は、正常組織および卵巣癌でのプロテアーゼMのmRNAの発現の定量的PCRによる比較を示す。
【図15】図15は、His5’の末端付近の挿入部分を含むTADG−12触媒ドメインを示す。
【図16】図16Aは、正常組織および卵巣癌におけるTADG−14の発現を比較したノーザンブロット分析を示す。図16Bは、正常組織および癌のcDNAにおける、TADG−14に対する特異的プライマーを用いた予備的な定量的PCR増幅を示す。
【図17】図17Aは、ヒト胎児組織におけるPUMP−1遺伝子のノーザンブロット分析を示す。図17Bは、正常な卵巣および卵巣癌におけるPUMP−1遺伝子のノーザンブロット分析を示す。
【図18】図18Aは、β−チューブリン内部対照による定量的PCRを用いた正常組織および癌組織におけるPUMP−1の発現の比較を示す。図18Bは、正常組織10例および卵巣癌44例におけるβ−チューブリン内部対照と比較したPUMP−1のmRNA発現比を示す。
【図19】図19は、ヘプシン、SCCE、プロテアーゼM、PUMP−1遺伝子およびカテプシンL遺伝子のPCR増幅産物の比較を示す。
【図20】図20は、5時間の51Cr放出アッセイにおけるヘプシン170−178ペプチドのCD8CTL認識を示す。標的はヘプシン170−178(閉環)が負荷されたLCLおよび対照LCL(開環)であった。
【図21】図21は、5時間の51Cr放出アッセイにおけるヘプシン172−180ペプチドのCD8CTL認識を示す。標的はヘプシン170−180(閉環)が負荷されたLCLおよび対照LCL(開環)であった。
【図22】図22は、5時間の51Cr放出アッセイにおけるヘプシン42−51ペプチドのCD8CTL認識を示す。標的はヘプシン42−51(四角形)が負荷されたLCL、対照LCL(三角形)およびK562細胞(ダイヤモンド形)であった。
【図23】図23は、5時間の51Cr放出アッセイにおけるヘプシン284−293ペプチドのCD8CTL認識を示す。標的はヘプシン284−293(閉環)が負荷されたLCL、対照LCL(開環)であった。
【図24】図24は、5時間の51Cr放出アッセイにおけるヘプシン308−317ペプチドのCD8CTL認識を示す。標的細胞はヘプシン308−317が負荷されたまたは負荷されていないLCLであった。
【図25】図25は、完全長のヘプシンタンパク質により誘導されたCD4T細胞およびCD8T細胞の増殖反応を示す。色の付いたヒストグラムはヘプシンが負荷された樹状細胞により誘導されたT細胞に対する刺激指数を表し、空のヒストグラムは対照樹状細胞により誘導されたT細胞に対する刺激指数を表す。
【図26】図26は、組換えアデノウイルス発現ヘプシンに感染したDOTAP/ヘプシン負荷樹状細胞(DC)認識DCによる刺激を通じて誘導されたドナー1名から得たヘプシン特異的CD4T細胞系を示す。増殖アッセイの結果は刺激指数として表す。標的は、ヘプシンを発現する組換えアデノウイルスに感染し、かつグリーン蛍光タンパク質で標識した樹状細胞(黒棒)またはグリーン蛍光タンパク質で標識したのみの樹状細胞(白棒)である。
【図27】図27は、完全長の組換えヘプシンに特異的なドナー1のCD4T細胞によるIFNgの産生に対するELISPOTアッセイを示す。CD4T細胞は、DOTAPのみにより処理(左側のパネル)された対照LCLまたはDOTAP/ヘプシンを用いてパルスされたLCL(右側のパネル)により一晩刺激を加えた。
【図28】図28は、内生的に処理および提示されたヘプシン腫瘍抗原のペプチド特異的CD8CTL認識を示す。ヘプシンペプチド170−178でパルスした樹状細胞を用いた刺激によってCTLを誘導した。Ad−GFP/ヘプシン(三角形)に感染させた自己由来のマクロファージ、Ad−GFP−SCCE(ダイヤモンド形)に感染させたマクロファージ、ヘプシン170−178ペプチドでパルスしたマクロファージ(四角形)、または対照の未処理マクロファージ(黒丸形)に対して、標準的な5時間の51Cr−放出アッセイで細胞傷害性を試験した。
【図29】図29は、卵巣癌および前立腺癌におけるヘプシンの発現およびヘプシンタンパク質変異体の発現を示す。
【図30】図30は、前立腺癌におけるヘプシンタンパク質変異体のPCR分析を示す。
【図31】図31は、ヘプシンおよびヘプシンイントロン12変異体の転写産物およびオープンリーディングフレームの図解を示す。
【図32】図32は、ヘプシンとヘプシンタンパク質変異体のアミノ酸配列の比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体にヘプシンに対するワクチンを接種する方法であって、
ヘプシンタンパク質またはその断片を個体に接種する工程を含み、
前記ヘプシンまたはその断片が前記個体において免疫反応を誘導することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ヘプシンタンパク質またはその断片が、ペプチド負荷(peptide-loaded )樹状細胞に存在するかまたは発現ベクターから発現されたものであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記個体が癌に罹患しているか、癌に罹患している疑いがあるか、または癌に罹患する危険性があり、その癌が卵巣癌、肺癌、前立腺癌および結腸癌より成る群から選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記ヘプシン断片の長さが、約9残基長から約20残基長であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記ヘプシン断片が、配列番号28、29、30、31、88、89、108、109、128、129、148、149、150、151、152、153、154、189、190および191より成る群から選択される配列からなることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記ヘプシンタンパク質またはその断片が、配列番号195のアミノ酸配列を有するヘプシン変異体に由来することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
ヘプシンに対する免疫活性化細胞を作成する方法であって、
免疫細胞をヘプシンタンパク質またはその断片に暴露する工程を含み、
前記ヘプシンタンパク質またはその断片への前記暴露が前記免疫細胞を活性化し、それによってヘプシンに対する免疫活性化細胞が産生されることを特徴とする方法。
【請求項8】
前記免疫細胞が、B細胞、T細胞および樹状細胞より成る群から選択されることを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記ヘプシンタンパク質またはその断片が、配列番号195のアミノ酸配列を有するヘプシン変異体に由来することを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項10】
前記ヘプシン断片の長さが、約9残基長から約20残基長であることを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項11】
前記断片が、配列番号28、29、30、31、88、89、108、109、128、129、148、149、150、151、152、153、154、189、190および191より成る群から選択される配列からなることを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項12】
前記樹状細胞が前記暴露に先がけて個体から単離され、活性化樹状細胞が前記暴露の後に前記個体に再導入されることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項13】
前記個体が、癌に罹患しているか、癌に罹患している疑いがあるか、または癌に罹患する危険性があり、その癌が卵巣癌、肺癌、前立腺癌および結腸癌より成る群から選択されることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
個体中のヘプシンを標的とする免疫治療法であって、
a)前記個体から樹状細胞を単離し;
b)前記樹状細胞においてヘプシンタンパク質またはその断片を発現させ;さらに
c)前記樹状細胞を前記個体に移入する;工程を含み、
前記樹状細胞が前記個体においてヘプシン特異的免疫反応を活性化し、それによって前記個体においてヘプシンを標的とする免疫治療がなされることを特徴とする方法。
【請求項15】
前記個体が、癌に罹患しているか、癌に罹患している疑いがあるか、または癌に罹患する危険性があり、その癌が卵巣癌、肺癌、前立腺癌および結腸癌より成る群から選択されることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記樹状細胞におけるヘプシンの発現が、トランスフェクション、形質導入、およびヘプシンタンパク質またはその断片の前記樹状細胞への負荷より成る群から選択される手段によって得られることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項17】
前記ヘプシンタンパク質またはその断片が、配列番号195のアミノ酸配列を有するヘプシン変異体に由来することを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項18】
前記ヘプシン断片の長さが、約9残基長から約20残基長であることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項19】
前記ヘプシン断片が、配列番号28、29、30、31、88、89、108、109、128、129、148、149、150、151、152、153、154、189、190および191より成る群から選択される配列から成ることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項20】
個体中のヘプシンを標的とする免疫治療法であって、
a)前記個体から樹状細胞を単離し;
b)前記樹状細胞においてヘプシンタンパク質またはその断片を発現させ;
c)前記個体から単離されたT細胞を含む免疫細胞を前記樹状細胞に暴露し、それによって該免疫細胞からヘプシン特異的T細胞を作成し;さらに
d)前記免疫細胞を前記個体に移入して戻し、その際に該免疫細胞が個体においてヘプシン特異的免疫反応を活性化し、それによって該個体においてヘプシンを標的とする免疫治療がなされることを特徴とする方法。
【請求項21】
前記個体が、癌に罹患しているか、癌に罹患している疑いがあるか、または癌に罹患する危険性があり、その癌が卵巣癌、肺癌、前立腺癌および結腸癌より成る群から選択されることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記樹状細胞におけるヘプシンの発現が、トランスフェクション、形質導入、およびヘプシンタンパク質またはその断片の前記樹状細胞への負荷より成る群から選択される手段によって得られることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項23】
前記ヘプシンタンパク質またはその断片が、配列番号195のアミノ酸配列を有するヘプシン変異体に由来することを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項24】
前記ヘプシン断片の長さが、約9残基長から約20残基長であることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項25】
前記ヘプシン断片が、配列番号28、29、30、31、88、89、108、109、128、129、148、149、150、151、152、153、154、189、190および191より成る群から選択される配列からなることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項26】
ヘプシンまたはヘプシンペプチドでの個体へのワクチン接種の効果を監視する方法であって、
ヘプシンまたはヘプシンペプチドを前記個体に接種し;
前記個体からT細胞を単離し;さらに
前記ヘプシンまたはヘプシンペプチドにより誘導された免疫反応を測定する;工程を含み、
正常な個体からの細胞により示された免疫反応と比較して免疫反応レベルが高められた場合に、前記個体がヘプシンまたはヘプシンペプチドでワクチン接種されたことが示唆されることを特徴とする方法。
【請求項27】
前記免疫反応が、前記ヘプシンまたはヘプシンペプチドにより誘導されたT細胞増殖、前記ヘプシンまたはヘプシンペプチドに特異的なサイトカイン分泌T細胞の頻発、および前記ヘプシンまたはヘプシンペプチドに特異的なT細胞受容体を発現するT細胞の頻発より成る群から選択されることを特徴とする請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記ヘプシンまたはヘプシンペプチドが、配列番号195のアミノ酸配列を有するヘプシン変異体に由来することを特徴とする請求項26記載の方法。
【請求項29】
前記ヘプシンペプチドが、配列番号28、29、30、31、88、89、108、109、128、129、148、149、150、151、152、153、154、189、190および191より成る群から選択される配列からなることを特徴とする請求項26記載の方法。
【請求項30】
細胞における内因性ヘプシンの発現を阻害する方法であって、
前記細胞に、配列番号188の配列に相補的な配列を含むベクターを導入する工程を含み、
前記細胞における前記ベクターの発現が、内因性ヘプシンのmRNAにハイブリダイズするヘプシンアンチセンスmRNAを産生し、それによって前記細胞における内因性ヘプシンの発現が阻害されることを特徴とする方法。
【請求項31】
細胞におけるヘプシンタンパク質を阻害する方法であって、
ヘプシンタンパク質またはその断片に特異的な抗体を前記細胞に導入する工程を含み、
前記ヘプシンタンパク質またはその断片への前記抗体の結合が、前記細胞におけるヘプシンタンパク質を阻害することを特徴とする方法。
【請求項32】
前記ヘプシンタンパク質の断片が、配列番号28、29、30、31、88、89、108、109、128、129、148、149、150、151、152、153、154、189、190および191より成る群から選択される配列からなることを特徴とする請求項31記載の方法。
【請求項33】
前記ヘプシンタンパク質またはその断片が、配列番号195のアミノ酸配列を有するヘプシン変異体に由来することを特徴とする請求項31記載の方法。
【請求項34】
治療的部分とヘプシンまたはヘプシン変異体に特異的な標的部分とを有する化合物を、個体に投与する工程を含むことを特徴とする、個体への標的治療方法。
【請求項35】
前記ヘプシン変異体が、配列番号195のアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項34記載の方法。
【請求項36】
前記標的部分が、ヘプシンに特異的な抗体、およびヘプシンと結合するリガンドまたはリガンド結合領域より成る群から選択されることを特徴とする請求項34記載の方法。
【請求項37】
前記治療的部分が、放射性同位元素、毒素、化学療法剤、免疫刺激剤および細胞毒性剤より成る群から選択されることを特徴とする請求項34記載の方法。
【請求項38】
前記個体が、卵巣癌、肺癌、前立腺癌および結腸癌より成る群から選択される癌に罹患していることを特徴とする請求項34記載の方法。
【請求項39】
(i)適切なアジュバント、ならびに(ii)完全長のヘプシンタンパク質、ヘプシンタンパク質の断片、ヘプシンタンパク質変異体およびヘプシンタンパク質変異体の断片より成る群から選択されるタンパク質を含む免疫組成物。
【請求項40】
前記ヘプシン変異体またはその断片が、配列番号195のアミノ酸配列を有するヘプシン変異体に由来することを特徴とする請求項39の免疫組成物。
【請求項41】
前記ヘプシンタンパク質の断片の長さが、約9残基長から約20残基長であることを特徴とする請求項39の免疫組成物。
【請求項42】
前記ヘプシンタンパク質の断片が、配列番号28、29、30、31、88、89、108、109、128、129、148、149、150、151、152、153、154、189、190および191より成る群から選択される配列から成ることを特徴とする請求項39の免疫組成物。
【請求項43】
配列番号188の配列に相補的な配列を有するオリゴヌクレオチド。
【請求項44】
請求項43のオリゴヌクレオチドと、生理学的に許容可能なキャリアとを含む組成物。
【請求項45】
有効量の請求項43記載のオリゴヌクレオチドを個体に投与する工程を含むことを特徴とする、治療を必要とする個体において新生物症状の治療を行う方法。
【請求項46】
前記新生物症状が、卵巣癌、肺癌、前立腺癌および結腸癌より成る群から選択されることを特徴とする請求項45記載の方法。
【請求項47】
ヘプシン活性を阻害する化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)ヘプシンタンパク質を含む検体を化合物に接触させ;さらに
(b)ヘプシンプロテアーゼ活性を測定する;工程を含み、
前記化合物の非存在下におけるヘプシンプロテアーゼ活性と比較して、前記化合物の存在下における前記ヘプシンプロテアーゼ活性が相対的に低下した場合に、前記化合物がヘプシン活性を阻害することが示唆されることを特徴とする方法。
【請求項48】
配列番号195のアミノ酸配列またはその断片を含むヘプシン変異体をコードする単離DNA。
【請求項49】
配列番号195のアミノ酸配列またはその断片を含む、単離および精製ヘプシンタンパク質変異体。
【請求項50】
個体における腫瘍細胞を検出する方法であって、
前記個体から生物学的検体を得て;さらに
ヘプシンタンパク質またはヘプシンタンパク質変異体の発現を検出する;工程を含み、
前記検体中におけるヘプシンタンパク質または変異体の発現が、前記個体における腫瘍細胞の存在を示唆することを特徴とする方法。
【請求項51】
前記ヘプシン変異体が、配列番号195のアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項50記載の方法。
【請求項52】
前記発現の検出が、DNAレベルまたはタンパク質レベルで行われることを特徴とする請求項50記載の方法。
【請求項53】
前記腫瘍細胞が、卵巣癌細胞、前立腺癌細胞および腎臓癌細胞より成る群から選択されることを特徴とする請求項50記載の方法。
【請求項54】
前記生物学的検体が、血液、尿、間質液、腹水、腫瘍組織生検試料および循環腫瘍細胞より成る群から選択されることを特徴とする請求項50記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公表番号】特表2007−503817(P2007−503817A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524945(P2006−524945)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/028234
【国際公開番号】WO2005/021582
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(506070051)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニヴァーシティー オブ アーカンソー (2)
【氏名又は名称原語表記】THE BOARD OF TRUSTEES OF THE UNIVERSITY OF ARKANSAS
【Fターム(参考)】