説明

厚膜抵抗体ペースト及び厚膜抵抗体

【課題】 Pbフリーで、温度特性(TCR)に優れた厚膜抵抗体を実現する。
【解決手段】 ガラス組成物中に導電性材料が分散されてなる厚膜抵抗体である。厚膜抵抗体構造中に、ガラス組成物とは異なる分布でTa、Nbから選択される1種または2種が含まれている。Ta、Nbから選択される1種または2種の少なくとも一部は、ガラス組成物中のZrOと反応または混合した状態で存在してもよい。このような厚膜抵抗体を形成するには、ガラス組成物とは別に、添加物としてTa、Nbから選択される1種または2種を含む厚膜抵抗体ペーストを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物や導電性材料を含む厚膜抵抗体ペースト及び厚膜抵抗体に関するものであり、特に、TaやNbを添加物として含む新規な厚膜抵抗体ペースト及び厚膜抵抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁体であるガラス組成物や導電性材料を含む厚膜抵抗体ペーストを基板上に塗布し焼成することによって形成される厚膜抵抗体においては、通常、導電性材料として酸化ルテニウム(RuO)や鉛ルテニウム複合酸化物(PbRu)等が用いられ、ガラス組成物としてPbO系ガラスが用いられている。ガラス組成物は、導電性材料及び基板との結着剤としての機能を果たし、導電性材料とガラス組成物の比率によって抵抗値調整が可能である。
【0003】
近年、環境問題が盛んに議論されてきており、例えばはんだ材料等においては、鉛を除外することが求められている。厚膜抵抗体も例外ではなく、したがって、環境に配慮した場合、PbO系ガラスは勿論のこと、導電性材料であるPbRuの使用も避けなければならない。このような状況から、使用するガラス組成物や導電性材料等から鉛を排除した鉛フリーの厚膜抵抗体ペーストについての研究がなされている(例えば、特許文献1〜特許文献5等を参照)。
【特許文献1】特開平8−253342号公報
【特許文献2】特開平10−224004号公報
【特許文献3】特開2001−196201号公報
【特許文献4】特開平11−251105号公報
【特許文献5】特許第3019136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述の特許文献1〜特許文献5記載の発明では、例えば温度特性(TCR)に優れた厚膜抵抗体を提供するという観点からは、その効果は不十分と言わざるを得ない。前記各特許文献記載の発明は、これらの特性の改善を目的とするものではなく、前記効果の不足は当然とも言える。
【0005】
厚膜抵抗体の鉛フリー化における課題の一つとして、抵抗値が温度によって大きく変動し、温度特性の低下が顕著になることが挙げられる。厚膜抵抗体に含まれる導電性材料はTCRをプラス(+)側にシフトさせる方向に作用し、その結果、厚膜抵抗体全体で見たときにTCR値が大きくなり、温度特性の低下が問題になる。
【0006】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、形成される厚膜抵抗体の温度特性(TCR)を改善し得る厚膜抵抗体ペーストを提供することを目的とし、さらには、温度特性に優れた厚膜抵抗体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前述の目的を達成するために、長期に亘り鋭意研究を重ねてきた。その結果、厚膜抵抗体中にガラス組成とは別にTaやNbが存在することで、特異的にTCRが改善されるとの知見を得るに至った。
【0008】
本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。すなわち、本発明の厚膜抵抗体ペーストは、少なくともガラス組成物及び導電性材料を含み、これらが有機ビヒクルと混合されてなる厚膜抵抗体ペーストであって、添加物としてTa、Nbから選択される1種または2種を含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の厚膜抵抗体は、ガラス組成物中に導電性材料が分散されてなる厚膜抵抗体であって、前記ガラス組成物とは異なる分布でTa、Nbから選択される1種または2種が含まれていることを特徴とする。
【0010】
本発明の厚膜抵抗体において特徴的なのは、厚膜抵抗体中にTaやNbが存在することである。これらの成分は、例えばガラス組成として加えられた例はあるが、添加物として加えられた例はない。本発明者らの実験によれば、前記TaやNbがガラス組成物に溶け込んだ形ではなく、ガラス組成物とは別に厚膜抵抗体中に存在することで温度特性が改善され、TCR値が小さなものとなることがわかった。前記TaやNbが厚膜抵抗体中に存在することにより温度特性(TCR)が改善される理由について、その詳細は不明であるが、前記の通り、本発明者らの実験により確かめられた事実である。
【0011】
前記のように、厚膜抵抗体中にTaやNbを存在させるためには、例えば、ガラス組成物の成分として予めガラス組成物中に加えるのではなく、ガラス組成物とは別に、添加物として厚膜抵抗体ペーストに加える。これにより、厚膜抵抗体中には、ガラス組成物とは異なる分布で前記TaやNbが存在することになる。また、例えばガラス組成物がZrを含む場合には、前記TaやNbの一部がZrと反応した形で存在することも確認している。
【発明の効果】
【0012】
本発明の厚膜抵抗体ペーストによれば、TCRが小さく温度特性に優れた高信頼性を有する厚膜抵抗体を形成することが可能である。また、本発明の厚膜抵抗体によれば、TCRが小さく温度特性に優れた高信頼性を有する厚膜抵抗体を実現することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を適用した厚膜抵抗体ペースト及び厚膜抵抗体について、詳細に説明する。
【0014】
本発明の厚膜抵抗体は、通常の厚膜抵抗体と同様、厚膜抵抗体ペーストを焼成(焼き付け)することにより形成されるものである。使用する厚膜抵抗体ペーストは、絶縁材料であるガラス組成物、導電性材料、及び添加物(Ta、Nbから選択される1種または2種)を含み、これらが有機ビヒクルと混合されてなるものである。
【0015】
なお、本発明の厚膜抵抗体ペーストにおいては、環境保全上、鉛を実質的に含まない鉛フリーの厚膜抵抗体ペーストを用いることを前提としており、したがって、使用するガラス組成物や導電性材料は、鉛を実質的に含まないことが前提になる。ここで、「鉛を実質的に含まない」とは、不純物レベルを越える鉛を含まないことを意味し、不純物レベルの量(例えば、ガラス組成物中の含有量が0.05質量%以下程度)であれば含有されていてもよい趣旨である。鉛は、不可避不純物として極微量程度に含有されることがある。
【0016】
厚膜抵抗体ペーストにおいて、導電性材料は、絶縁体であるガラス組成物中に分散されることで、厚膜抵抗体に導電性を付与する役割を持つ。導電性材料は、特に限定されないが、環境保全上、やはり鉛を実質的に含まない導電性材料を用いることが好ましい。鉛を実質的に含まない導電性材料としては、具体的には、ルテニウム酸化物や、Ag−Pd合金、Ag−Pt合金、TaN、WC、LaB、MoSiO、TaSiO、及び金属(Ag、Au、Pt、Pd、Cu、Ni、W、Mo等)が挙げられる。ルテニウム酸化物としては、酸化ルテニウム(RuO、RuO等)の他、ルテニウム系パイロクロア(BiRu、TlRu等)やルテニウム複合酸化物(SrRuO、BaRuO、CaRuO、LaRuO等)なども含まれる。中でも、RuO、CaRuO、SrRuO、BaRuO、BiRu等が好ましい。なお、これらの導電性材料は、それぞれ単独で使用しても良いし、2種類以上組み合わせても良い。
【0017】
ガラス組成物は、厚膜抵抗体とされたとき、厚膜抵抗体構造中で導電性材料及び添加物を基板と結着させる役割を持つ。ガラス組成物も、実質的に鉛を含まないものであれば任意のものを用いることができるが、例えばCaO系ガラスやSrO系ガラス、ZnO系ガラス等が好適である。
【0018】
具体的には、CaO系ガラスとしては、例えばCa−B−Si−Zr(Al)−Oガラスを挙げることができる。このCa−B−Si−Zr(Al)−Ta(Nb)−Oガラスは、CaO、SrO、BaOのいずれかを主たる修飾酸化物成分とし、BやSiOを網目形成酸化物成分とするとともに、第2の修飾酸化物成分としてZrOやAlを含有するものである。
【0019】
前記Ca−B−Si−Zr(Al)−Oガラスの組成としては、例えば、
CaO,SrO,BaO,MgOから選択される1種若しくは2種以上:15〜50モル%
,SiOから選択される1種若しくは2種:35〜80モル%
ZrO,Alから選択される1種若しくは2種:0〜11モル%
である。
【0020】
有機ビヒクルとしては、この種の厚膜抵抗体ペーストに用いられるものがいずれも使用可能であり、例えば、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、メタクリル樹脂、ブチルメタクリレート等のバインダ樹脂と、ターピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、トルエン、各種アルコール、キシレン等の溶剤とを混合して用いることができる。このとき、各種の分散剤や活性剤、可塑剤等を用途等に応じて適宜併用することも可能である。さらに、必要に応じて、遷移金属群元素の酸化物、典型金属群元素の酸化物等の各種酸化物をTCR調整剤、またはその他の目的で添加してもよい。
【0021】
また、本発明の厚膜抵抗体ペーストにおいては、前記ガラス組成物や導電性材料の他、添加物としてTa、Nbから選択される1種または2種を含むことが必要である。これらTa、Nbから選択される1種または2種を、ガラス組成としてではなく、添加物として含むことで、形成される厚膜抵抗体中にこれらを存在させることが可能になる。
【0022】
前記厚膜抵抗体ペーストにおける前記添加物(Ta、Nbから選択される1種または2種)の含有量は、有機ビヒクルを除いた組成に対して10質量%以下(ただし、0は含まず。)とすることが好ましい。前記添加物の添加量が多すぎると、ガラス組成物や導電性材料の組成に加わる制約が大きくなり、所望の抵抗値等を実現することが難しくなる可能性がある。ただし、前記添加物の添加量が少なすぎると、焼成して厚膜抵抗体とした時に厚膜抵抗体中にTa、Nbが残存しなくなるおそれがあるので、この点を考慮して添加量を設定することが好ましい。
【0023】
本発明の厚膜抵抗体ペーストには、前記ガラス組成物、導電性材料、前記添加物(Ta、Nbから選択される1種または2種)の他、抵抗値及び温度特性の調整等を目的として、他の添加物が含まれていてもよい。係る添加物としては、Tiを含む化合物や金属酸化物等を挙げることができ、適宜選択して使用すればよい。
【0024】
特に、導電性材料としてRuO、CaRuO、SrRuO、BaRuO、BiRuから選択される1種若しくは2種以上を用いた場合に、Tiを含む化合物としてアルカリ土類金属のチタン酸化合物を添加物として使用することにより、TCRが大幅に改善される。
【0025】
前記アルカリ土類金属のチタン酸化合物としては、BaTiO、SrTiO、CaTiO、MgTiO、CoTiO,NiTiO等を挙げることができる。これらチタン酸化合物は、抵抗値に応じて選択することが好ましく、また、その場合、組成もそれぞれ最適化することが好ましい。
【0026】
金属酸化物としては、特に、CuOやCuO等を使用することで、STOLをより一層改善することが可能である。なお、CuOやCuOの添加量は、有機ビヒクルを除いた組成に対して10質量%以下とすることが好ましいが、抵抗値に応じて最適範囲が異なり、例えば1kΩ/□〜10MΩ/□の厚膜抵抗体を作製するための厚膜抵抗体ペースト用抵抗体組成物においては、0〜5質量%とすることが好ましく、0.1kΩ/□〜500kΩ/□の厚膜抵抗体を作製するための厚膜抵抗体ペースト用抵抗体組成物においては、0〜6質量%とすることが好ましい。
【0027】
前述のガラス組成物、導電性材料、及び添加物は、前記有機ビヒクルと混合することで厚膜抵抗体ペーストとして調製されるが、この時、ガラス組成物、導電性材料、及び添加物を合計した質量を100とした場合に、ガラス組成物の割合が10〜55質量%、導電性材料の割合が35〜80質量%、添加物全体の割合が0.1〜35質量%であることが好ましい。
【0028】
ガラス組成物の割合が55質量%を越えたり、導電性材料の割合が35質量%未満であると、所定の抵抗値が得られなくなるおそれがあるばかりでなく、温度特性(TCR)がマイナス側にシフトし過ぎて、却って温度特性を低下させる原因となる。逆に、ガラス組成物の割合が10質量%未満になったり、導電性材料の割合が80質量%を越えると、抵抗値変動や経時変化が大きくなる等、信頼性を損なうおそれがある。
【0029】
また、前記有機ビヒクルの配合比率であるが、ガラス組成物、導電性材料、及び添加物を合計した合計質量(W1)と、有機ビヒクルの質量(W2)の比率(W2/W1)が、0.25〜4(W2:W1=1:0.25〜1:4)であることが好ましい。より好ましくは、前記比率(W2/W1)が0.5〜2である。前記比率を外れると、厚膜抵抗体を例えば基板上に形成するのに適した粘度の厚膜抵抗体ペーストを得ることができなくなるおそれがある。
【0030】
本発明の厚膜抵抗体を形成するには、前述の各成分を含む厚膜抵抗体ペーストを例えば基板上にスクリーン印刷等の手法で印刷(塗布)し、850℃程度の温度で焼成すればよい。基板としては、Al基板やBaTiO基板の誘電体基板や、低温焼成セラミック基板、AlN基板等を用いることができる。基板形態としては、単層基板、複合基板、多層基板のいずれであってもよい。多層基板の場合、厚膜抵抗体は、表面に形成してもよいし、内部に形成してもよい。
【0031】
厚膜抵抗体の形成に際しては、通常、基板に電極となる導電パターンを形成するが、この導電パターンは、例えば、AgやPt、Pd等を含むAg系合金等の良導電性材料料を含む導電ペーストを印刷することにより形成することができる。また、形成した厚膜抵抗体の表面に、ガラス膜等の保護膜(オーバーグレーズ)を形成してもよい。
【0032】
本発明の厚膜抵抗体は、前記により形成されるものであるが、厚膜抵抗体構造中にTa、Nbから選択される1種または2種が存在することが大きな特徴である。これらは、例えばガラス組成物とは厚膜抵抗体中において分布が異なり、少なくとも一部がガラス組成物中に溶け込まずに残存した状態にある。
【0033】
厚膜抵抗体が前記Ta、Nbから選択される1種または2種を含有することにより、TCRが大幅に改善される。なお、Ta、Nbから選択される1種または2種の含有量としては、10質量%以下(0は含まず。)とすることが好ましい。TaやNbは、比較的少量であっても厚膜抵抗体中に残存していれば、TCR改善に大きな効果を発揮する。TaやNbの含有量が10質量%を越えると、却ってTCRが劣化するおそれがあり、抵抗値の制御も難しくなる。
【0034】
図1(a),(b)は、厚膜抵抗体の断面を示す透過型電子顕微鏡写真である。図1(a),(b)にも見られるように、ガラス組成物中に導電性材料の粒子(導電粒子)等が分散した状態にある。これを元素分析した結果が図2である。図2においては、明るい部分が各元素が多く分布している場所である。また、図2において、各元素の右に記されているL、Kの文字は、それぞれL線での分析結果、K線での分析結果であることを示している。
【0035】
図2を見ると、例えば導電粒子を構成するRuは、前記透過型電子顕微鏡写真で観察される粒子に対応して分布している。一方、Taは、CaやB、Siとは明らかに分布が異なり、ガラス組成物とは異なる分布で存在することがわかる。また、図2に示す例は、ZrOを含むガラス組成物を用いた例であるが、この場合には、Taの分布とZrの分布が一部重なっている。
【0036】
これらの事実から、前記TaやNbは、厚膜抵抗体中において、Taの形、あるいはNbの形で存在しても良いし、少なくとも一部がZr等との化合物、あるいは混合物の状態で存在しても良いものと考えられる。
【0037】
以上の特徴を有する本発明の厚膜抵抗体は、各種電子部品に適用可能である。この場合、適用可能な電子部品としては特に限定されないが、例えば単層または多層の回路基板、チップ抵抗器等の抵抗器、アイソレータ素子、C−R複合素子、モジュール素子の他、積層チップコンデンサ等のコンデンサやインダクタ等が挙げられ、コンデンサやインダクタ等の電極部分にも適用することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の具体的な実施例について、実験結果を基に説明する。
【0039】
<ガラス組成物の作製>
ガラス原料としては、CaCO、SrCO、BaCO、B、SiO、ZrO、Alを用いた。これらの中から所定の成分を選択して所定量秤量し、白金るつぼに投入して1350℃で1時間溶融させた。そして、溶融物を水中に投入することによって急冷し、ガラス化した。得られたガラス化物をボールミルにて湿式粉砕し、ガラス組成物(ガラス1〜ガラス5)を得た。作製したガラス1〜5の組成を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
<厚膜抵抗体の作製>
作製したガラス1〜5にTaを添加して混合物を作製した。ガラスとTaの比率ガラス:Taは、100〜85:0〜15(質量%)である。この混合物にさらに導電粒子(CaRuO)及び有機ビヒクルを加え、厚膜抵抗体ペーストを調製した。この厚膜抵抗体ペーストにおける前記混合物と導電粒子の比率混合物:導電粒子は、60:40(質量%)とした。
【0042】
前記厚膜抵抗体ペーストをアルミナ基板上に850℃で10分間、30分間、あるいは60分間の条件で焼き付け、厚膜抵抗体を作製した。前記厚膜抵抗体の形成における条件を表2に示す。厚膜抵抗体の形成条件としては、Taの添加量、焼成時間の異なる15種類(条件A〜条件O)である。表2において、例えば、条件Hは、混合物におけるTaの添加量を5質量%とし、850℃で30分間焼成を行ったという意味である。
【0043】
【表2】

【0044】
実験1
本実験では、ガラス組成物として表1に示すガラス1を用い、条件A〜条件Oで厚膜抵抗体を作製した。そして、各厚膜抵抗体中のTa存在量を求め、さらに各厚膜抵抗体の抵抗値、TCRを測定した。結果を表3に示す。なお、表3におけるA1からO1の表記は、厚膜抵抗体の形成条件を示すものであり、例えばA1は、ガラス1を用いて条件Aで作製した厚膜抵抗体を表す(以下の表4〜表7においても同じ。)。
【0045】
なお、厚膜抵抗体中有のTa存在量は、TEM−EDSによりガラス中に拡散したTaの量を求め、これをTaに換算した後、換算値を添加したTa量から差し引くことにより求めた。また、抵抗値は、Agilent Technologies 社製の製品番号 34401Aにより測定し、試料数24個の平均値を求めた。TCRは、室温25℃を基準として、−55℃及び125℃へ温度を変えた時の抵抗値変化率を求めた。試料数10個の平均値である。−55℃、25℃、125℃の抵抗値をR-55、R25、R125(Ω/□)とおくと、TCR(ppm/℃)=[(R-55-R25)/R25/80]×1000000、あるいは、TCR(ppm/℃)=[(R125-R25)/R25/100]×1000000である。数値の大きい方をTCR値とした。
【0046】
【表3】

【0047】
表3から明らかな通り、Taが厚膜抵抗体中に存在することで、TCRが改善されている。ただし、厚膜抵抗体中のTa存在量が10質量%を越えると、TCRの改善効果の低下が見られる。
【0048】
実験2
本実験では、ガラス組成物としてガラス2を用い、条件A,B,C,G,H,Iで厚膜抵抗体を作製した。これら厚膜抵抗体について、各厚膜抵抗体中のTa存在量を求め、さらに各厚膜抵抗体の抵抗値、TCRを測定した。結果を表4に示す。この場合にもTaが厚膜抵抗体中に存在することで、TCRが改善されている。
【0049】
【表4】

【0050】
実験3
本実験では、ガラス組成物としてガラス3を用い、条件A,B,C,G,H,Iで厚膜抵抗体を作製した。これら厚膜抵抗体について、各厚膜抵抗体中のTa存在量を求め、さらに各厚膜抵抗体の抵抗値、TCRを測定した。結果を表5に示す。本実験においても、Taが厚膜抵抗体中に存在することで、TCRが改善されている。
【0051】
【表5】

【0052】
実験
本実験では、ガラス組成物としてガラス4を用い、条件A,B,C,G,H,Iで厚膜抵抗体を作製した。これら厚膜抵抗体について、各厚膜抵抗体中のTa存在量を求め、さらに各厚膜抵抗体の抵抗値、TCRを測定した。結果を表6に示す。本実験においても、Taが厚膜抵抗体中に存在することで、TCRが改善されている。
【0053】
【表6】

【0054】
実験
本実験では、ガラス組成物としてガラス5を用い、条件A,B,C,G,H,Iで厚膜抵抗体を作製した。これら厚膜抵抗体について、各厚膜抵抗体中のTa存在量を求め、さらに各厚膜抵抗体の抵抗値、TCRを測定した。結果を表7に示す。本実験においても、Taが厚膜抵抗体中に存在することで、TCRが改善されている。
【0055】
【表7】

【0056】
実験6
厚膜抵抗体ペーストの作製に際して、添加物として、Taの他、BaTiO、SrTiO、CuOから選択して用い、厚膜抵抗体を作製した。焼き付け条件は、850℃、30分間とした。これら各厚膜抵抗体における厚膜抵抗体ペーストの組成、Ta存在量、抵抗値、及びTCRを表8に示す。前記添加物を添加することにより、TCRがより一層改善されることがわかる。
【0057】
【表8】

【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】厚膜抵抗体の断面の透過型電子顕微鏡写真であり、(a)は倍率4万倍の電子顕微鏡写真、(b)は倍率8万倍の電子顕微鏡写真である。
【図2】Ag、B、Ba、Ca、Cu、O、Ru、Si、Ta、Ti、Zrについての元素分布を示すTEM−EDS写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともガラス組成物及び導電性材料を含み、これらが有機ビヒクルと混合されてなる厚膜抵抗体ペーストであって、
添加物としてTa、Nbから選択される1種または2種を含むことを特徴とする厚膜抵抗体ペースト。
【請求項2】
前記Ta、Nbから選択される1種または2種の添加量が、有機ビヒクルを除いた組成に対して10質量%以下(0は含まず。)であることを特徴とする請求項1記載の厚膜抵抗体ペースト。
【請求項3】
前記導電性材料がRu酸化物、Ru複合酸化物から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項1または2記載の厚膜抵抗体ペースト。
【請求項4】
前記ガラス組成物の組成が、
CaO,SrO,BaO,MgOから選択される1種若しくは2種以上:15〜50モル%
,SiOから選択される1種若しくは2種:35〜80モル%
ZrO,Alから選択される1種若しくは2種:0〜11モル%
であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の厚膜抵抗体ペースト。
【請求項5】
添加物として、CuO、CuOから選択される1種または2種を、有機ビヒクルを除いた組成に対して10質量%以下の割合で含有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の厚膜抵抗体ペースト。
【請求項6】
添加物として、Tiを含む化合物を、有機ビヒクルを除いた組成に対して20質量%以下の割合で含有することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の厚膜抵抗体ペースト。
【請求項7】
前記Tiを含む化合物が、BaTiO、SrTiO、CaTiO、CoTiO、NiTiO、MgTiOから選択される1種若しくは2種以上であることを特徴とする請求項6記載の厚膜抵抗体ペースト。
【請求項8】
ガラス組成物中に導電性材料が分散されてなる厚膜抵抗体であって、前記ガラス組成物とは異なる分布でTa、Nbから選択される1種または2種が含まれていることを特徴とする厚膜抵抗体。
【請求項9】
前記Ta、Nbから選択される1種または2種の含有量が10質量%以下(0は含まず。)であることを特徴とする請求項8記載の厚膜抵抗体。
【請求項10】
前記導電性材料がRu酸化物、Ru複合酸化物から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項8または9記載の厚膜抵抗体。
【請求項11】
前記ガラス組成物の組成が、
CaO,SrO,BaO,MgOから選択される1種若しくは2種以上:15〜50モル%
,SiOから選択される1種若しくは2種:35〜80モル%
ZrO,Alから選択される1種若しくは2種:0〜11モル%
であることを特徴とする請求項8から10のいずれか1項記載の厚膜抵抗体。
【請求項12】
前記Ta、Nbから選択される1種または2種の少なくとも一部は、前記ガラス組成物中のZrOと反応または混合した状態で存在することを請求項11記載の厚膜抵抗体。
【請求項13】
添加物として、CuO、CuOから選択される1種または2種を10質量%以下の割合で含有することを特徴とする請求項8から12のいずれか1項記載の厚膜抵抗体。
【請求項14】
添加物として、Tiを含む化合物を20質量%以下の割合で含有することを特徴とする請求項8から13のいずれか1項記載の厚膜抵抗体。
【請求項15】
前記Tiを含む化合物が、BaTiO、SrTiO、CaTiO、CoTiO、NiTiO、MgTiOから選択される1種若しくは2種以上であることを特徴とする請求項14記載の厚膜抵抗体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−229164(P2006−229164A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−44638(P2005−44638)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】