説明

原子発振器および原子発振器の製造方法

【課題】 優れた特性を発揮することのできる原子発振器および原子発振器の製造方法を提供すること。
【解決手段】原子発振器1は、ガス状の金属原子を封入したガスセル3が収納された第1パッケージ21と、ガスセル3中の金属原子を励起する励起光LLを出射する光出射部6が収納された第2パッケージ22と、少なくとも1つの光学部品8が設けられた第3パッケージ23とを有している。また、第2パッケージ22の一方側に第3パッケージ23が固定され、第3パッケージ23の第2パッケージ22と反対側に第1パッケージ21が固定されている。光出射部6から出射した励起光LLが、光学部品8を通過したのちガスセル3内に入射するよう構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子発振器および原子発振器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属の原子のエネルギー遷移に基づいて発振する原子発振器が知られている(例えば、特許文献1)。
特許文献1に記載の原子発振器は、励起光を出射する光源と、励起光に光学的処理を施す光学レンズおよび偏光板を備える光学部品と、ガス状のアルカリ金属原子が封入されたガスセルと、ガスセルを通過した励起光を検出する光検出部とを有している。
【0003】
このような原子発振器にて、その性能を向上させるためには、光源、光学部品、ガスセルおよび光検出部の互いの位置関係が重要であり、これらを高い位置精度で配置することが必要である。しかしながら、特許文献1の原子発振器では、光源、光学部品、ガスセルおよび光検出部が1つのパッケージ内に収納されているため、パッケージ内に収納された後は、互いの位置関係を外部から調節することが困難である。すなわち、特許文献1に記載の原子発振器は、光源(垂直共振器面発光レーザー:VCSEL)、光学部品(レンズ、波長板等)、ガスセル、光検出部がパッケージ内に縦積みされた構成になっている。また、ガスセルや光源(VCSEL)の温度を一定に保つ必要があるため、パッケージの内部は外部温度の影響を受けないように外部から熱的に遮断された構造になっている。ガスセルに入射されるレーザーのプロファイル(ビーム径の大きさ、入射角度、入射位置、偏光方向)は原子発振器の安定度特性に大きく影響を与える。よって、これら全ての部品がパッケージに収容された状態でレーザーのプロファイルを再調整することが必要である。しかしながら、特許文献1の原子発振器は、パッケージ内部を外部から熱的に遮断した構造のため、レンズ等の光学部品をパッケージの外部に露出させることが困難であり、レンズ、波長板等の光学部品の位置を外部から微調整することができない。
【0004】
そこで、このようなパッケージ構造において、レーザーのプロファイルを微調整するためには、ガスセルをパッケージ内部から一旦取り出し、レンズ等の光学部品の位置を再調整する作業が必要になる。しかしながら、レンズ等の光学部品の位置を再調整した後に再びガスセルを収納するとガスセルの位置も微妙にずれてしまうので、レーザーのプロファイルが所望の特性が得られるまで調整作業を繰り返す必要がある。
このように、特許文献1記載の原子発振器は、所望の性能を得るためには、非効率で煩雑な調整作業を繰り返す必要があり、量産性を高めることが極めて困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許6320472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、優れた特性を発揮することのできる、量産性の高い原子発振器および、かかる原子発振器の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
本発明の原子発振器は、ガスセルが収納された第1パッケージと、
前記ガスセル中の金属原子を励起する励起光を出射する光出射部が収納された第2パッケージと、
前記ガスセルに対する前記励起光の入射方向、入射位置、偏光方向、または入射強度を所望の特性に調整するための光学部品が設けられた第3パッケージとを有し、
前記光出射部から出射した前記励起光が、前記光学部品を通過したのち前記ガスセル内に入射するように、前記第3パッケージが前記第1パッケージと前記第2パッケージとの間に挟まれた構成を備えていることを特徴とする。
これにより、第1パッケージ、第2パッケージおよび第3パッケージの位置関係を調節することにより、ガスセル、光出射部および光学部品の位置関係を所望のものとすることができるため、簡単に、優れた特性を有する原子発振器が得られる。
【0008】
[適用例2]
本発明の原子発振器では、前記第1パッケージには、前記ガスセル内を通過した前記励起光を検出する光検出部が収納されていることが好ましい。
これにより、予め、ガスセルと光検出部の位置関係を固定することができるため、原子発振器の製造の容易化を図ることができる。
【0009】
[適用例3]
本発明の原子発振器では、前記第3パッケージには、前記前記光学部品として光学レンズ、前記励起光の量を減少させる光学フィルター、偏光板、または波長板が配置されていることが好ましい。
これにより、励起光を原子発振器に適したものとすることができる。
【0010】
[適用例4]
本発明の原子発振器では、前記第3パッケージには、前記励起光が通過する貫通孔が形成されており、前記貫通孔の内壁に沿った段差を有し、前記貫通孔内に前記光学部品が収容され、前記段差によって前記光学部品が保持されることが好ましい。
これにより、第3パッケージの小型化を図ることができる。
【0011】
[適用例5]
本発明の原子発振器では、前記第1パッケージには、前記ガスセルを加熱する加熱手段が収納されており、
前記第2パッケージには、前記光出射部を加熱・冷却する加熱・冷却手段が収納されていることが好ましい。
これにより、原子発振器の特性が安定かつ向上する。
[適用例6]
本発明の原子発振器では、前記第3パッケージは、断熱性を有し、前記第1パッケージから前記第2パッケージへの熱の移動を抑止したことが好ましい。
これにより、第3パッケージの構成が簡単となる。
【0012】
[適用例7]
本発明の原子発振器の製造方法は、ガスセルが収納された第1パッケージと、
前記ガスセル中の金属原子を励起する励起光を出射する光出射部が収納された第2パッケージと、
前記ガスセルに対する前記励起光の入射方向、入射位置、偏光方向、または入射強度を所望の特性に調整するための光学部品が設けられた第3パッケージと、
前記光出射部から出射した前記励起光が、前記光学部品を通過したのち前記ガスセル内に入射するように、前記第3パッケージが前記第1パッケージと前記第2パッケージとの間に挟まれた構成と、を備えた原子発振器の製造方法であって、
前記ガスセルに対する前記励起光の入射方向、入射位置、偏光方向、または入射強度が所望の特性を得るように、前記第1パッケージ、前記第2パッケージおよび前記第3パッケージの互いの相対的位置を位置決めする工程と、
前記第3パッケージを前記第1のパッケージおよび前記第2のパッケージに接合する工程を備えることを特徴とする。
これにより、第1パッケージ、第2パッケージおよび第3パッケージの位置関係を調節することにより、ガスセル、光出射部および光学部品の位置関係を所望のものとすることができるため、簡単に、優れた特性を有する原子発振器を製造することができる。
【0013】
[適用例8]
本発明の原子発振器の製造方法では、前記第2パッケージに前記第3パッケージを載置し、前記第3パッケージを通して出射される前記励起光の出射方向、出射位置、偏光方向、または出射強度が所望の特性を得るように、前記第2パッケージに対する前記第3パッケージの位置決めを行う工程と、
前記第2パッケージと前記第3パッケージとを接合する工程と、
前記第2パッケージと前記第3パッケージとの接合体に前記第1パッケージを載置し、前記ガスセルに対する前記励起光の入射方向、入射位置、偏光方向、または入射強度が所望の特性を得るように、前記接合体に対する前記第1パッケージの位置決めを行う工程と、
前記接合体と前記第1パッケージとを接合する工程を備えることが好ましい。
これにより、優れた特性を有する原子発振器を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の好適な実施形態に係る原子発振器の概略構成を示す断面図である。
【図2】図1に示す原子発振器に備えられたガスセル内のアルカリ金属のエネルギー状態を説明するための図である。
【図3】図1に示す原子発振器に備えられた光出射部および光検出部について、光出射部からの2つの光の周波数差と、光検出部の検出強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の原子発振器および原子発振器の製造方法を添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の好適な実施形態に係る原子発振器の概略構成を示す断面図、図2は、図1に示す原子発振器に備えられたガスセル内のアルカリ金属のエネルギー状態を説明するための図、図3は、図1に示す原子発振器に備えられた光出射部および光検出部について、光出射部からの2つの光の周波数差と、光検出部の検出強度との関係を示すグラフである。なお、以下では、説明の便宜上、図1中の上側を「上」、下側を「下」と言う。また、図1では、説明の便宜上、互いに直交する3つの軸として、X軸、Y軸およびZ軸を図示しており、X軸に平行な方向を「X軸方向」、Y軸に平行な方向を「Y軸方向」、Z軸に平行な方向(上下方向)を「Z軸方向」と言う。
【0016】
1.原子発振器の構成
まず、原子発振器1の構成について説明する。
なお、以下では、量子干渉効果を利用した原子発振器に本発明を適用した場合を一例として説明するが、本発明は、これに限定されるものでななく、二重共鳴効果を利用した原子発振器にも適用可能である。
図1に示す原子発振器1は、第1パッケージ21と、第2パッケージ22と、第3パッケージ23とを有している。これら各パッケージ21、22、23は、それぞれ、別体として形成された後、互いに位置合わせされた状態で接合されている。以下、各パッケージ21、22、23について詳細に説明する。
【0017】
(第1パッケージ)
図1に示すように、第1パッケージ21内には、ガスセル3と、光検出部(フォトディテクター)4と、ヒーター(加熱手段)5とが収納されている。
ガスセル3は、筒状の本体部31と、その本体部31の両端開口部を封鎖する窓部32、33とを有しており、その内部に、密閉されたキャビティが形成されている。このキャビティ内には、ガス状のルビジウム、セシウム、ナトリウム等のアルカリ金属原子が封入される。
【0018】
窓部32、33は、金属原子ガスを励起する後述する励起光LLの光路の入射面および出射面を構成する。そのため、各窓部32、33は、例えばガラスなどの光透過性を有する材料で構成されている。一方、本体部31は、光透過性を必要としないので、各種金属材料、各種樹脂材料などにより構成されていてもよく、また、窓部32、33と同じガラスなどの光透過性材料により構成されていてもよい。
【0019】
ヒーター5は、ガスセル3を加熱する機能を有している。このようなヒーター5は、窓部32の外側の面に設けられた第1ヒーター51と、窓部33の外側の面に設けられた第2ヒーター52とを有している。これらヒーター51、52は、それぞれ、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、In、SnO、Sb含有SnO、Al含有ZnO等の酸化物等の透明電極材料で構成された透明電極膜である。
【0020】
ヒーター51、52がそれぞれ透明電極材料で構成されていると、これらヒーター51、52をガスセル3の外表面の励起光LLの光路となる部分に設けることができる。そのため、ガスセル3の励起光LLの入射部および出射部をヒーター51、52により効率的に加熱することができる。その結果、ガスセル3の内壁面の励起光LLの光路となる部分にアルカリ金属原子が析出(結露)するのを防止することができ、原子発振器1の長寿命化を図ることができる。
【0021】
ヒーター51、52は、それぞれ、図示しない制御回路に接続されており、ガスセル3が所定温度となるように、その駆動が制御回路によって制御される。ガスセル3は、ヒーター51、52によって例えば約70度程度に加熱・保温される。
なお、第1パッケージ21内には、例えば、ガスセル3の窓部32、33の温度を検知する図示しない温度センサーが設けられていてもよい。これにより、前記温度センサーの検知結果に基づいて前記制御回路がヒーター51、52の駆動を制御することができるため、ガスセル3内の温調をより精度よく行うことができる。
【0022】
光検出部4は、ガスセル3の上側に設けられている。この光検出部4は、ガスセル3を透過した励起光LL(後述する共鳴光1、2)の強度を検出する機能を有している。光検出部4としては、特に限定されず、例えば、太陽電池やフォトダイオードなどを用いることができる。このように、光検出部4を第1パッケージ21に収納することにより、ガスセル3と光検出部4の位置決めを予め行うことができ、原子発振器1の製造の容易化を図ることができる。
【0023】
第1パッケージ21は、箱状の本体211と、本体211の開口を覆う蓋体212とで構成されている。蓋体212は、励起光LLの光路の入射面および出射面を構成する。そのため、蓋体212は、例えばガラスなどの光透過性を有する材料で構成されている。一方の本体211は、例えば、各種金属材料や各種樹脂材料などで構成されている。より具体的には、本体211は、例えばコバールで構成することができる。コバールは、熱膨張率がガラスと近いため、本体211をコバールで構成し、蓋体212をガラスで構成することにより、信頼性の高い第1パッケージ21を得ることができる。
【0024】
なお、第1パッケージ21は、その内部空間が気密的に封止されていてもよいし、気密的に封止されていなくてもよいが、気密的に封止されているのが好ましい。さらに、気密的に封止されている場合には、第1パッケージ21内を、減圧状態またはアルゴンガス等の希ガスを充填した状態とするのが好ましい。これにより、原子発振器1の信頼性が向上する。
【0025】
(第2パッケージ)
図1に示すように、第1パッケージ21の下側には、第3パッケージ23を挟んで、第2パッケージ22が設けられている。この第2パッケージ22には、例えば垂直共振器面発光レーザー(VCSEL)を備える光出射部6と、光出射部6を所定温度に温調するペルチェ素子(加熱・冷却手段)7とが収納されている。
【0026】
光出射部6は、ガスセル3中のアルカリ金属原子を励起する励起光LLを出射する機能を有している。より具体的には、光出射部6は、レーザー光のような干渉性を有するコヒーレント光(励起光LL)として、周波数の異なる2種の光(共鳴光1、2)を出射する。
ここで、ガスセル3中のアルカリ金属原子は、図2に示すように、3準位系のエネルギー準位を有しており、エネルギー準位の異なる2つの基底状態(基底状態1、2)と、励起状態との3つの状態をとり得る。ここで、基底状態1は、基底状態2よりも低いエネルギー状態である。
【0027】
共鳴光1の周波数ω1は、ガスセル3中のアルカリ金属原子を前述した基底状態1から励起状態に励起し得るものであり、共鳴光2の周波数ω2は、ガスセル3中のアルカリ金属原子を前述した基底状態2から励起状態に励起し得るものである。
ガスセル3中のアルカリ金属原子に対して周波数の異なる2種の共鳴光1、2を照射すると、共鳴光1の周波数ω1と共鳴光2の周波数ω2との差(ω1−ω2)に応じて、共鳴光1、2のアルカリ金属原子における光吸収率(光透過率)が変化する。そして、共鳴光1の周波数ω1と共鳴光2の周波数ω2との差(ω1−ω2)が基底状態1と基底状態2とのエネルギー差に相当する周波数に一致したとき、基底状態1、2から励起状態への励起がそれぞれ停止する。このとき、共鳴光1、2は、いずれも、アルカリ金属原子に吸収されずに透過する。このような現象をCPT現象または電磁誘起透明化現象(EIT:Electromagnetically Induced Transparency)と呼ぶ。
【0028】
例えば、共鳴光1の周波数ω1を固定したまま、共鳴光2の周波数ω2を変化させていくと、共鳴光1の周波数ω1と共鳴光2の周波数ω2との差(ω1−ω2)が基底状態1と基底状態2とのエネルギー差に相当する周波数ω0に一致したときに、光検出部4の検出強度は、図3に示すように、急峻に上昇する。このような急峻な信号をEIT信号として検出する。このEIT信号は、アルカリ金属の種類によって決まった固有値をもっている。したがって、このようなEIT信号を用いることにより、発振器を構成することができる。
【0029】
光出射部6は、ペルチェ素子7の上面に設けられている。ペルチェ素子7は、ペルチェ素子7に流れる電流の向きを制御することにより、その上面を発熱面または吸熱面として機能させることができる。そのため、ペルチェ素子7の上面に光出射部6を設けることにより、光出射部6をより精度よく温調することができる。このようなペルチェ素子7によって光出射部6を温調することによって、所望の特性の励起光LLを出射することができ、装置の信頼性が向上する。なお、光出射部6は、ペルチェ素子7によって例えば約30度程度に温調される。
【0030】
なお、第2パッケージ22内には、例えば、光出射部6の温度を検知する図示しない温度センサーが設けられていてもよい。これにより、前記温度センサーの検知結果に基づいてペルチェ素子7の駆動を制御することができるため、光出射部6の温調をより精度よく行うことができる。
第2パッケージ22は、例えば、箱状の本体221と、本体221の開口を覆う蓋体222とで構成されている。蓋体222は、励起光LLの光路の入射面および出射面を構成する。そのため、蓋体222は、例えばガラスなどの光透過性を有する材料で構成されている。一方の本体221は、例えば、各種金属材料や各種樹脂材料などで構成されている。すなわち、第2パッケージ22は、前述した第1パッケージ21と同様の構成となっている。
【0031】
なお、第2パッケージ22は、その内部空間が気密的に封止されていてもよいし、気密的に封止されていなくてもよいが、気密的に封止されているのが好ましい。さらに、気密的に封止されている場合には、第2パッケージ22内を、減圧状態またはアルゴンガス等の希ガスを充填した状態とするのが好ましい。これにより、原子発振器1の信頼性が向上する。
【0032】
(第3パッケージ)
図1に示すように、第3パッケージ23は、第1パッケージ21と第2パッケージ22との間に位置している。具体的には、第3パッケージ23は、その上面が第1パッケージ21と接合されており、下面が第2パッケージ22と接合されている。第3パッケージ23と第1パッケージ21および第2パッケージ22との接合方法は、特に限定されず、例えば、紫外線硬化型の接着剤等を用いて接合することができる。
【0033】
図1に示すように、第3パッケージ23には、複数の光学部品8が配置されている。本実施形態では、光学部品8として、コリメータレンズ81と、光学素子層82とが配置されている。
コリメータレンズ81は、励起光LLを平行光とするための光学レンズである。一方の光学素子層82は、励起光LLのうち不要な光成分を取り除いて必要な光成分のみを通過させる分光を行ったり、光の強度を調整したりする光学層である。本実施形態の光学素子層82は、減光フィルター(NDフィルター)821と、λ/4波長板822とを積層してなるものである。このような光学部品8を第3パッケージ23に配置することによって、励起光LLに所望の光学的処理を施すことができるため、原子発振器1の特性が向上する。
なお、第3パッケージ23に配置される光学部品8としては、これに限定されず、偏光板を備えるようにしても良い。また、光学素子層82を省略してもよいし、減光フィルター821またはλ/4波長板822を省略してもよい。また、コリメータレンズ81を省略してもよい。
【0034】
第3パッケージ23には励起光LLの通過する方向に貫通孔231が形成されており、貫通孔231は、その上側から、大径部231aと、大径部231aよりも径が小さい中径部231bと、中径部231bよりも径が小さい小径部231cとを有している。コリメータレンズ81は、中径部231bに設けられており、中径部231bの内壁と小径部231cの内壁との段差に当接することにより第3パッケージ23に対して位置決めされている。また、光学素子層82は、大径部231aに設けられており、中径部231bとの段差に当接することにより第3パッケージ23に対して位置決めされている。
このように、第3パッケージ23に貫通孔231を設け、その貫通孔231内に光学部品8を配置することにより、第3パッケージ23の小型化を図ることができる。
【0035】
なお、コリメータレンズ81は、第3パッケージ23を第2パッケージ22に対して位置決めする前から、例えば接着剤等によって第3パッケージ23に固定されていてもよい。一方、光学素子層82は、第3パッケージ23を第2パッケージ22に対して位置決めする前は、大径部231a内でその周方向に回転可能となっており、位置決め後に接着剤等によって第3パッケージ23に固定されるのが好ましい。これにより、光出射部6から出射される直線偏光である励起光LLの向き(電場の振動方向)とλ/4波長板822の向きとを簡単に調節することができる。
【0036】
第3パッケージ23の構成材料は、特に限定されないが、熱伝導率の低い材料、好ましくは、熱伝導率が0.5(W・m−1・k−1)以下の材料を用いることが好ましい。これにより、第3パッケージ23に断熱性を付与することができ、第3パッケージ23によって第1パッケージ21と第2パッケージ22とを熱的に分離することができる。前述したように、第1パッケージ21は、ヒーター5によって例えば約70程度に加熱され、一方の第2パッケージ22は、ペルチェ素子7によって例えば約30度に加熱される。このように、温度の異なるパッケージ21、22間で熱の移動が生じると、各パッケージ21、22内の温度が不安定となり、ガスセル3および光出射部6の温度を所定温度に維持することができずに信頼性が低下するおそれもある。そのため、本実施形態のように、第1パッケージ21と第2パッケージ22の間に位置する第3パッケージ23を熱伝導率の低い材料で構成し、第3パッケージ23に断熱性を付与することにより、上述のような熱の移動を抑制することができ、信頼性の高い原子発振器1となる。
【0037】
第3パッケージ23を構成する熱伝導率の低い材料としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、アクリル系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて(例えば2層以上の積層体として)用いることができる。
【0038】
2.原子発振器の製造方法
次いで、原子発振器1の製造方法について簡単に説明する。
原子発振器の製造方法は、各パッケージ21、22、23を用意する第1工程と、第2パッケージ22に対して第3パッケージ23を位置決めして固定する第2工程と、第2工程で得られた第2、第3パッケージ22、23の集合体に対して第1パッケージ21を位置決めして固定する第3工程とを有している。以下では、第2工程および第3工程で行われる位置決め方法について説明する。
【0039】
[第2工程]
まず、第2パッケージ22上に第3パッケージ23を載置する。次いで、励起光出射部6から励起光LLを出射させた状態で、第3パッケージ23内の光学素子層82をZ軸周りに回転させ、励起光LLの振動方向に対するλ/4波長板822の向きを調節する。次いで、λ/4波長板822の向きを維持したまま、第3パッケージ23を第2パッケージ22に対してX軸方向およびY軸方向に移動させ、励起光LLの方向性(光軸位置)と平行性(コリメート特性)とが所望のものとなる位置関係を決定する。なお、これら工程は、例えば、励起光LLの光路を遮るようにスクリーン等の被照射物を配置し、前記被照射物に照射された励起光LLのスポットの明るさ、形状、径などを観察しながら行うことができる。または、検査・調整用のリファレンスとなるガスセルに入射させ、その吸収特性、光検出手段の検出信号(EIT信号)の特性を確認しながら最適な状態に設定することができる。
【0040】
励起光LLの方向性(光軸位置)と平行性(コリメート特性)とが所望のものとなる位置を決定したのち、第3パッケージ23を第2パッケージ22に対して固定する。第3パッケージ23と第2パッケージ22の固定は、例えば、紫外線硬化型の接着剤を用いて行うことができる。これにより、瞬間的に2つのパッケージ22、23を固定することができるため、パッケージ22、23の位置ずれを効果的に防止することができる。なお、パッケージ22、23を紫外線硬化型の接着剤で接着したのち、さらに、より強力な接着剤を用いて、パッケージ22、23を接着してもよい。これにより、パッケージ22、23の固定がより強固となる。
また、これと同時に、光学素子層82のZ軸まわりの回転を防止するために、光学素子層82を第3パッケージ23に対して固定する。この固定は、パッケージ22、23の固定と同様の方法で行うことができる。
【0041】
[第3工程]
まず、第2工程で得られた第2パッケージ22と第3パッケージ23との集合体(以下、単に「集合体」とも言う。)を用意し、その上に第1パッケージ21を載置する。次いで、光検出部4を駆動させつつ、励起光出射部6から共鳴光1、2(励起光LL)を出射する。さらに、共鳴光1の周波数ω1を固定したまま、共鳴光2の周波数ω2を変化させていき、光検出部4の検出強度が最も高くなる共鳴光2の周波数ω2を決定する。すなわち、光検出部4がEIT信号を検出できる状態とする。
【0042】
次いで、共鳴光1、2の周波数ω1、ω2を前述の周波数に固定した状態で、集合体に対して第1パッケージ21をX軸方向およびY軸方向に移動させ、光検出部4の検出強度が最も高くなる位置を決定する。この工程では、例えば、第1パッケージ21を集合体に対してX軸方向に移動させ、光検出部4の検出強度が最も高い座量をX軸座標とし、第1パッケージ21を集合体に対してY軸方向に移動させ、光検出部4の検出強度が最も高い座量をY軸座標とし、これら2つの座標に基づいて、集合体に対する第1パッケージ21の位置決めを行ってもよい。このような方法によれば、X軸方向への移動とY軸方向への移動をそれぞれ1回ずつ行うだけでよいので、集合体に対する第1パッケージ21の位置決めを簡単に行うことができる。
【0043】
なお、上記方法は、EIT信号の強度に基づいて集合体に対する第1パッケージ21の位置決めを行う方法であるが、これに限定されず、例えば、ガスセル3による励起光LLの吸収量に基づいて集合体に対する第1パッケージ21の位置決めを行ってもよい。この方法によれば、共鳴光1、2の周波数ω1、ω2を調整する必要がないため、より簡単に、集合体に対する第1パッケージ21の位置決めを行うことができる。すなわち、共鳴光1、2の周波数ω1、ω2の周波数差を特定の値(ω0)からずらしておき、EIT信号が検出されない状態(共鳴光1、2が共に吸収される状態)としておくのである。
【0044】
具体的には、まず、光検出部4を駆動させつつ、励起光出射部6から共鳴光1、2(励起光LL)を出射する。次いで、集合体に対して第1パッケージ21をX軸方向およびY軸方向に移動させ、光検出部4の検出強度が最も低くなる位置を決定する。この位置決めは、前述した方法と同様の方法で行うことができる。
上述の方法にて集合体に対して第1パッケージ21を位置決めしたのち、第1パッケージ21を集合体に対して固定する。第1パッケージ21と集合体の固定は、第2パッケージ22と第3パッケージ23の固定と同様の方法で行うことができる。
以上の固定にて、原子発振器1が得られる。
【0045】
このような原子発振器1によれば、励起光出射部6と、光学部品8と、ガスセル3および光検出部4との位置決めを簡単に行うことができるため、優れた発振特性を発揮することができる。特に本発明では、励起光を出射するための光出射部6およびペルチェ素子7(アクティブ部)をまとめて第2パッケージ22に収納し、励起光に光学的処理を施すための光学部品(光学系)をまとめて第3パッケージ23に収納し、励起光を検出するためのガスセル3および光検出部4(パッシブ部)をまとめて第1パッケージ21に収納しているため、すなわち、各パッケージ21、22、23が目的ごとに区別されている。そのため、より簡単に、励起光出射部6と、光学部品8と、ガスセル3および光検出部4との位置決めを簡単に行うことができる。
【0046】
また、原子発振器1によれば、その製造が簡単となり、かつ実装上のバラツキを十分に補正することができ歩留まりも向上する。
以上、本発明の原子発振器および原子発振器の製造方法を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、他の任意の構成物や、工程が付加されていてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1‥‥原子発振器 21‥‥第1パッケージ 211‥‥本体 212‥‥蓋体 22‥‥第2パッケージ 221‥‥本体 222‥‥蓋体 23‥‥第3パッケージ 231‥‥貫通孔 231a‥‥大径部 231b‥‥中径部 231c‥‥小径部 3‥‥ガスセル 31‥‥本体部 32、33‥‥窓部 4‥‥光検出部 5‥‥ヒーター 51‥‥第1ヒーター 52‥‥第2ヒーター 6‥‥光出射部 7‥‥ペルチェ素子 8‥‥光学部品 81‥‥コリメータレンズ 82‥‥光学素子層 821‥‥減光フィルター 822‥‥λ/4波長板 LL‥‥励起光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスセルが収納された第1パッケージと、
前記ガスセル中の金属原子を励起する励起光を出射する光出射部が収納された第2パッケージと、
前記ガスセルに対する前記励起光の入射方向、入射位置、偏光方向、または入射強度を所望の特性に調整するための光学部品が設けられた第3パッケージとを有し、
前記光出射部から出射した前記励起光が、前記光学部品を通過したのち前記ガスセル内に入射するように、前記第3パッケージが前記第1パッケージと前記第2パッケージとの間に挟まれた構成を備えていることを特徴とする原子発振器。
【請求項2】
前記第1パッケージには、前記ガスセル内を通過した前記励起光を検出する光検出部が収納されている請求項1に記載の原子発振器。
【請求項3】
前記第3パッケージには、前記前記光学部品として光学レンズ、前記励起光の量を減少させる光学フィルター、偏光板、または波長板が配置されている請求項1または2に記載の原子発振器。
【請求項4】
前記第3パッケージには、前記励起光が通過する貫通孔が形成されており、前記貫通孔の内壁に沿った段差を有し、前記貫通孔内に前記光学部品が収容され、前記段差によって前記光学部品が保持される請求項1ないし3のいずれかに記載の原子発振器。
【請求項5】
前記第1パッケージには、前記ガスセルを加熱する加熱手段が収納されており、
前記第2パッケージには、前記光出射部を加熱・冷却する加熱・冷却手段が収納されている請求項1ないし4のいずれかに記載の原子発振器。
【請求項6】
前記第3パッケージは、断熱性を有し、前記第1パッケージから前記第2パッケージへの熱の移動を抑止した請求項5に記載の原子発振器。
【請求項7】
ガスセルが収納された第1パッケージと、
前記ガスセル中の金属原子を励起する励起光を出射する光出射部が収納された第2パッケージと、
前記ガスセルに対する前記励起光の入射方向、入射位置、偏光方向、または入射強度を所望の特性に調整するための光学部品が設けられた第3パッケージと、
前記光出射部から出射した前記励起光が、前記光学部品を通過したのち前記ガスセル内に入射するように、前記第3パッケージが前記第1パッケージと前記第2パッケージとの間に挟まれた構成と、を備えた原子発振器の製造方法であって、
前記ガスセルに対する前記励起光の入射方向、入射位置、偏光方向、または入射強度が所望の特性を得るように、前記第1パッケージ、前記第2パッケージおよび前記第3パッケージの互いの相対的位置を位置決めする工程と、
前記第3パッケージを前記第1のパッケージおよび前記第2のパッケージに接合する工程を備えることを特徴とする原子発振器の製造方法。
【請求項8】
前記第2パッケージに前記第3パッケージを載置し、前記第3パッケージを通して出射される前記励起光の出射方向、出射位置、偏光方向、または出射強度が所望の特性を得るように、前記第2パッケージに対する前記第3パッケージの位置決めを行う工程と、
前記第2パッケージと前記第3パッケージとを接合する工程と、
前記第2パッケージと前記第3パッケージとの接合体に前記第1パッケージを載置し、前記ガスセルに対する前記励起光の入射方向、入射位置、偏光方向、または入射強度が所望の特性を得るように、前記接合体に対する前記第1パッケージの位置決めを行う工程と、
前記接合体と前記第1パッケージとを接合する工程を備える請求項7に記載の原子発振器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−191523(P2012−191523A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54700(P2011−54700)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】